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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H04N
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  H04N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H04N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H04N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H04N
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H04N
管理番号 1374863
異議申立番号 異議2020-700222  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-01 
確定日 2021-03-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6582801号発明「画像読取装置及び画像形成装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6582801号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 特許第6582801号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6582801号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許は、平成27年9月24日に出願されたものであって、令和1年9月13日付けでその特許権の設定登録(特許公報発行日 令和1年10月2日)がされた。
これに対して、令和2年4月1日に特許異議申立人東京総合コンサルティング株式会社より請求項1、2に対して特許異議の申立てがされたものであり、その後の手続の経緯は以下のとおりである。

令和 2年 6月26日 取消理由通知
令和 2年 8月28日 意見書提出及び訂正請求(特許権者)
令和 2年11月11日 意見書提出(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1 訂正請求の趣旨
令和2年8月28日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)により、特許権者が請求する訂正の趣旨は、特許第6582801号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求めるものである。

2 訂正事項
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
また、下線は訂正箇所である。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に介在され、」
と記載されているのを、
「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され、」
に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落0006に
「この発明は、第2の回路基板のグランド層と伝送線路のグランド線との間に介在され、伝送線路のグランド線に励起される高周波信号を低減する高周波低減素子を備えない場合に比較して、高周波信号に起因したグランドノイズを低減することを目的とする。」
と記載されているのを、
「この発明は、第2の回路基板のグランド層と伝送線路のグランド線との間に接続され、伝送線路のグランド線に励起される高周波信号を低減する高周波低減素子を備えない場合に比較して、高周波信号に起因したグランドノイズを低減することを目的とする。」
に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の段落0008に
「請求項1に記載された発明は、画像を読み取る画像読取素子を実装した基板であって、接地されていない画像読取基板と、前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路を介して接続され、接地されたグランド層を有する制御基板と、前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に介在され、前記伝送線路のグランド線に励起される高周波信号を低減する高周波低減素子と、を具備する画像読取装置である。」
と記載されているのを、
「請求項1に記載された発明は、画像を読み取る画像読取素子を実装した基板であって、接地されていない画像読取基板と、前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路を介して接続され、接地されたグランド層を有する制御基板と、前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され、前記伝送線路のグランド線に励起される高周波信号を低減する高周波低減素子と、を具備する画像読取装置である。」
に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の段落0011に
「請求項1に記載された発明によれば、制御基板のグランド層と伝送線路のグランド線との間に介在され、伝送線路のグランド線に励起される高周波信号を低減する高周波低減素子を備えない場合に比較して、高周波信号に起因したグランドノイズを低減することができる。」
と記載されているのを、
「請求項1に記載された発明によれば、制御基板のグランド層と伝送線路のグランド線との間に接続され、伝送線路のグランド線に励起される高周波信号を低減する高周波低減素子を備えない場合に比較して、高周波信号に起因したグランドノイズを低減することができる。」
に訂正する。

3 訂正の適否の判断
(1)一群の請求項について
訂正事項1?4に係る訂正前の請求項1、2について、請求項2は、請求項1を直接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1、2に対応する訂正後の請求項1、2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的
ア 訂正事項1
訂正前の請求項1の「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に介在され、」における「介在」に関して、発明を実施するための形態においては、「介在」という用語は使用されていないため、グランド層とグランド線とを電気的に導通可能に接続するという意味なのか、グランド層とグランド線とを電気的に導通可能に接続しないこと、磁気的に介在することまでも含むのかが不明確であるため、どのような技術的事項を意味するのか不明であった。
そして、「介在」をその下位概念である「接続」に訂正することにより、構成を減縮するとともに、記載を明瞭にしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び同条同項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 訂正事項2?4
訂正事項2?4は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
ア 訂正事項1
訂正事項1は、明細書の段落0039、0044の、
「【0039】
そこで、この実施の形態では、図10に示されるように、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92のグランド線91a,92aに接続されたコネクタ93,94のケーシング97を、グランド端子98を介して制御基板83のグランド層96に直接接続するのではなく、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92のグランド線91a,92aに励起される高周波信号を低減する高周波低減素子の一例としての高周波低減コイル99を介して制御基板83のグランド層96に接続するように構成している。制御基板83のグランド層96は、図5に示されるように、グランド端子88を介して接地されている。」
「【0044】
ところで、この実施の形態では、図10(a)に示されるように、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92のグランド線91a,92b(図6参照)に接続されたコネクタ93,94のケーシング97が、グランド端子98及び高周波低減コイル99を介して制御基板83のグランド層96に接続されている。そのため、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92のグランド線91a,92bに励起された高周波ノイズ(EMI)は、図10(b)に示されるように、高周波低減コイル99によって減衰される。したがって、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92のグランド線91a,92bに励起された高周波ノイズ(EMI)が制御基板83のグランド層96等に流れ、制御回路(ASIC)82などの動作に不具合が生じることが抑制乃至回避される。」
の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2?4
訂正事項2?4は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項2?4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(4)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
ア 訂正事項1
訂正事項1は、上記(2)アに示したように、特許請求の範囲の減縮および明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり、発明のカテゴリーや発明の対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2?4
訂正事項2?4は、上記(2)イに示したように、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であり、発明のカテゴリーや発明の対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(5)独立特許要件について
訂正前の請求項1、2は、本件特許異議申立事件において特許異議の申立てがされている請求項であるから、訂正事項1?4については、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項に基づき、独立特許要件は課されない。

4 むすび
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号に掲げる事項を目的としており、かつ、同条第4項、及び第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。

したがって、訂正後の請求項1、2についての訂正を認める。

第3 本件訂正発明
令和2年8月28日の本件訂正請求により訂正された本件特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明(以下、項番にしたがい「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」といい、これらを総称して「本件訂正発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
なお、説明のために、本件訂正発明1については、A?Dの記号を当審において付与した。以下、「構成A」?「構成D」と称する。

(本件訂正発明)
【請求項1】(本件訂正発明1)
A 画像を読み取る画像読取素子を実装した基板であって、接地されていない画像読取基板と、
B 前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路を介して接続され、接地されたグランド層を有する制御基板と、
C 前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され、前記伝送線路のグランド線に励起される高周波信号を低減する高周波低減素子と、
D を具備する画像読取装置。

【請求項2】(本件訂正発明2)
請求項1に記載の画像読取装置と、
前記画像読取装置によって読み取られた画像を記録媒体に形成する画像形成手段と、
を備える画像形成装置。

第4 各甲号証、参考文献1について
異議申立人は、特許異議の申立てに際して、証拠として、甲第1号証?甲第10号証を提示し、令和2年11月11日の意見書とともに、参考文献1を提示している。
以下では、まず、取消理由通知で採用した甲第1号証?甲第4号証、甲第8号証に記載された発明又は技術について認定し、続いて、甲第5号証?甲第7号証、甲第9号証、甲第10号証、参考文献1に記載された技術について認定する。

1 甲第1号証(特開2007-28071号公報)
(1)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、「画像読取装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、説明のために、下線を当審において付与した。

【0008】
また、インバータ300では、インバータ回路301と、トランス302の一次側とを含む一次側GNDと、トランス302の二次側GNDとが接続され、且つ、画像読取装置1000のフレームGNDに接続されている。従って、ランプ201の片側の電極は画像読取装置1000のフレームGNDに接続されている。制御基板400においても、画像読取装置1000のフレームGNDに接続されている。また、CIS200では、回路基板のGNDがカードケーブル103と制御基板400とを介して画像読取装置1000のフレームGNDと接続されている。

【0020】
図1の画像読取装置100は、冷陰極管であるランプ201(交流電源光源)を搭載した後述する図3のCIS200と、後述する図4のインバータ300と、制御基板400(電力供給手段)とを備える。これらは、制御基板400からインバータ300へ電力を供給するためのケーブル102と、インバータ300からCIS200のランプ201へ電力を供給するための高圧ケーブル101と、制御基板400からCIS200へ電力と駆動信号を供給すると共にCIS200から制御基板400へ画像信号を伝送するためのカードケーブル103とによって夫々接続されている。

【0025】
図3のCIS200は、絶縁体の枠体205と、この枠体205に収容された一対のランプ201と、各ランプに互いに対向して接合された電極206,207と、枠体205の底部に設けられた回路基板204と、回路基板204の上にライン状に配列されたイメージセンサ202(光電変換素子)と、一対のランプ201の間において枠体205に設けられ、原稿から反射された光をイメージセンサ202に導くためのセルフォックレンズアレイ203とを備える。イメージセンサ202は、ランプ201によって照射された光に対応する原稿から反射された光をセルフォックレンズアレイ203を介して受光すると共にこの受光した光を光電変換する。

【0027】
図4は、図1における画像読取装置100の主要部の構成を概略的に示す図であり、画像読取装置100のアース(GND)の接続状態を示す。

【0031】
図5は、図4の画像読取装置100の主要部の変形例の構成を概略的に示す図であり、画像読取装置100のアース(GND)の接続状態を示す。
【0032】
図5において、画像読取装置100は、インバータ310(駆動手段)と、制御基板410(電力供給手段)と、抵抗素子411(電流低減手段)とを備える。

【0034】
本発明の第1の実施の形態の変形例によれば、抵抗素子411が、制御基板410上で、制御基板410のGNDとインバータ310の二次側GNDへのインターフェースとの間に配置されるので、該GNDループの形成を抑制する。このため、ランプ201を駆動してもインバータ310の発振周波数の高周波の電流が該GNDループに流れることを抑制することができる。もって、回路基板204のGNDの電位を安定させることができ、その結果、インバータ310の発振周波数に同期した縞模様が読取画像に発生するのを防止することができる。また、該GNDループの形成を抑制することができるので、イメージセンサ202の駆動クロックとCIS200から出力された画像信号とに同期した周波数による高周波の電流が該GNDループに流れない。その結果、該GNDループによる電界強度が大きくならず、放射ノイズレベルの悪化を防ぐことができる。

【図5】


(2)甲第1号証に記載された発明
上記甲第1号証の記載事項及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮して甲第1号証に記載された発明を認定する。

ア 甲第1号証の段落0027、0031の記載から、図5の構成は、図1における画像読取装置の主要部(図4)の変形例の構成である。
したがって、図1の説明である段落0020の記載は、図5の実施例においても同様であるといえる。

イ 図5からケーブル103は、制御基板410のGNDに接続されていることがみてとれるから、段落0008に記載された従来のCISにおけるGNDに関する記載は、図5の実施例においても同様であるといえる。

ウ 甲第1号証において、図5に示される実施例を引用発明として認定すると、上記(1)の記載、上記ア、イより、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

なお、説明のために1a?1eの記号を当審において付与した。以下、「構成1a」?「構成1e」という。

(甲1発明)
1a CIS200は、絶縁体の枠体205と、枠体205の底部に設けられた回路基板204と、回路基板204の上にライン状に配列されたイメージセンサ202とを備え、
1b 制御基板410からCIS200へ電力と駆動信号を供給すると共にCIS200から制御基板410へ画像信号を伝送するためのカードケーブル103によって、制御基板410とCIS200は接続され、
1c CIS200では、回路基板のGNDがカードケーブル103と制御基板410とを介して画像読取装置1000のフレームGNDと接続され、
1d 抵抗素子411が、制御基板410上で、制御基板410のGNDとインバータ310の二次側GNDへのインターフェースとの間に配置されるので、ランプ201を駆動してもインバータ310の発振周波数の高周波の電流がGNDループに流れることを抑制することができる
1e 画像読取装置。

2 甲第2号証(特開2013-131673号公報)
(1)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、「電子機器およびプリンター」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、説明のために、下線を当審において付与した。

【0002】
プリンターにおける印字ヘッド及びスキャナーにおける画像読み取りヘッドは、それぞれのヘッドが移動しながら印字及び画像読み込みを行う。こういった電子機器には、それぞれのヘッドを動作・制御する回路が基板(ドーターボード)上に実装され、該ドーターボードにはそれぞれの電子機器のメイン基板(メインボード)とハーネス等で接続され、該ハーネス(リボンケーブル、フレキシブルフラットケーブル<FFC>といった配線部材)のフレキシビリティーにより前記ヘッドの可動領域が確保されると共にボード間の電気的接続を可能にしている。
しかしながら、こういったハーネスの使用にはコモンモードノイズ放射の増大という課題がある。ここでコモンモードノイズについて説明する。一般的に、電力又は電気信号は、一対の導電ラインにより伝送線路を形成して伝送され、電子機器ではその一対の導電ラインの一方を筺体のグランド(GND)と同レベルの電位に設定している。この時、一対の伝送路の導電ライン間ではそれぞれ相反する方向に(反平行に)電流が流れるため、それぞれの導電ラインにより形成される磁界で相殺されることから、伝送線路の外界への磁界は形成されない。従って、外界に放射ノイズの影響を与えることはない。(この伝送形式はノーマルモードと呼ばれる。)
【0003】
一方、一対の導電ラインに対して同一方向(同位相)で流れる電流が存在し、この電流は空間の浮遊容量等によりノイズ源に戻ると解釈されている。(この伝送形式はコモンモードと呼ばれる。)。このようなコモンモードにおけるノイズ(コモンモードノイズ)は、空間等の容量を介してノイズ源に戻るレベルであれば、その電流量は極めて小さいため一般的なEMC(Electro Magnetic Compatibility)の問題とはならない。ところが、共振等により空間との結合が起きた場合、空間にノイズのエネルギーが流出していくため、ノイズ電流は増大する。この結果、規制されたノイズ放射レベル以下に抑制できないことでEMCの問題が生じる。
例えば、メインボードとドーターボード間を配線部材で接続した場合、各ボードにおけるコネクター部の配線パターンや、使用されている配線部材の伝送インピーダンスと信号のインピーダンスの不整合などにより、信号ラインとGNDラインとでコモンモードが形成される。また、配線部材では、信号ラインとGNDラインに加えて、電源ラインにコモンモードノイズがGND-電源間のバイパスコンデンサーを介して流れ込み、信号ライン、電源ラインおよびGNDラインを含め配線部材を構成する多くのラインに同位相のノイズが重畳される場合がある。
【0004】
更に、配線部材の長さが重畳したノイズの実効波長に対して、1/4波長、または1/2波長に近づいた場合、配線部材の長さ方向でノイズ(高周波)電流の共振が起こり、空間と結合してノイズが外界に放出される。この時、ノイズ源からは次々と放射する高周波電流が配線部材の各ラインに同位相で供給されてくるため、機器のノイズ規制の規制値を超過したレベルのノイズを放射することになる。
このようなコモンモードノイズの対策では、電源ライン又は信号ラインとGNDラインに同位相のノイズが重畳されているため、回路部品である抵抗、コイルおよびコンデンサーの挿入といった対策で効果を得るのは難しく、下記特許文献1及び特許文献2に示すように、配線部材を筺体グランドに押し付けたり、下記特許文献3に示すように、配線部材にコモンモードチョークやフェライトコアを挿入し、コモンモードノイズの伝送を阻止したり、空間への放射を抑制させたりした。

【0029】
次に、フラットケーブル30と筺体15との接触あるいは接近を回避することで、コモンモードノイズの高周波電流がフラットケーブル30に流れ込む現象を回避できることについて説明する。
先ず、ヘッド40が可動部となるため、ヘッド40に実装される回路基板の接地はヘッド40から筺体15へ直接行なうことができず、フラットケーブル30のグランドラインを経由してメインボード20のグランド電極21(図3)を介して筺体15のグランド電位をとることになる。従って、ヘッド40は、メインボード20から見ると先端が開放状態の導電ライン31(図3)のようになっており、これが状況によってはホイップアンテナのように振舞って放射ノイズを放射すると共に、ヘッド40が移動しているときは、該ホイップアンテナが水平方向に波打ち運動している状況になる。
しかしながら、先端が開放された導電ライン31では、先端部のインピーダンスが極めて高くなるため、その長さがコモンモードノイズの実効波長の1/4程度となる場合を除くと、該導電ラインへの高周波電流の流れ込みが阻止され、即ち放射ノイズのレベルは大きくならない。



(2)甲第2号証に記載された発明
上記甲第2号証の記載事項及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮して甲第2号証に記載された発明を認定する。

ア 段落0002?0004に記載された背景技術においては、ヘッドが移動するものであるから、段落0029に記載された「ヘッド40が可動部となるため、ヘッド40に実装される回路基板の接地はヘッド40から筺体15へ直接行なうことができず、フラットケーブル30のグランドラインを経由してメインボード20のグランド電極21(図3)を介して筺体15のグランド電位をとることになる。」という構成は、背景技術においても同様であるといえる。

イ 甲第2号証において、段落0002?0004の背景技術に記載される事項を引用発明として認定すると、上記(1)の記載、上記アより、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

なお、説明のために2a?2eの記号を当審において付与した。以下、「構成2a」?「構成2e」という。

(甲2発明)
2a スキャナーにおける画像読み取りヘッドは、それぞれのヘッドが移動しながら画像読み込みを行うものであり、それぞれのヘッドを動作・制御する回路が基板(ドーターボード)上に実装され、該ドーターボードにはそれぞれの電子機器のメイン基板(メインボード)とハーネス等で接続され、
2b ヘッドが可動部となるため、ヘッドに実装される回路基板の接地はヘッドから筺体へ直接行なうことができず、フラットケーブルのグランドラインを経由してメインボードのグランド電極を介して筺体のグランド電位をとり、
2c メインボードとドーターボード間を配線部材で接続した場合、信号ラインとGNDラインとでコモンモードが形成され、信号ライン、電源ラインおよびGNDラインを含め配線部材を構成する多くのラインに同位相のノイズが重畳され、
2d コモンモードノイズの対策では、電源ライン又は信号ラインとGNDラインに同位相のノイズが重畳されているため、回路部品である抵抗、コイルおよびコンデンサーの挿入といった対策で効果を得るのは難しく、配線部材にコモンモードチョークやフェライトコアを挿入し、コモンモードノイズの伝送を阻止したり、空間への放射を抑制させたりする
2e 画像読み込みを行う電子機器。

3 甲第3号証(特開2004-48653号公報)
(1)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、「画像読み取り装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、説明のために、下線を当審において付与した。

【0011】
[第1実施形態]
図1(a),(b)は、本発明の第1実施形態に係る画像読み取り装置の構成を示す模式図であり、同図(a)は、その上面図、同図(b)は、副走査方向の側面図である。なお、後述する実施形態(例えば図8など)と共通の要素には同一の符号を付し、その説明を後段に譲る。
【0012】
本実施形態においては、同図に示すように、画像処理基板10Aと外部I/F基板9が分かれておらず、外部I/Fコネクタ22も含めて同一基板上に全ての回路が搭載されている。そして、原稿読み取り部3の副走査方向の略中央に配置された画像処理部側コネクタ11に接続される画像信号伝送フラット型ケーブル4の一端が、該画像処理基板10Aを覆うシールドケース2の上面に設けられた開口部を通ってコネクタ11に接続され、さらにケーブル4の他端が、該開口部の極近傍、つまり該原稿読み取り部3の副走査方向の略中央に配置固定された平型フェライトコア17を通して原稿読み取り部3側のコネクタ12に接続されている。

【0014】
さらに、コネクタ11を画像処理基板10Aの端部側、本実施形態においては、端部に設けることによって、外部インタフェース(例えば、後述するI/F基板9)とリンクすることを容易にすることができる。

【0018】
一方、画像処理部10は、画像処理基板10aを覆う形でシールドケース2が取り付けられており、原稿読み取り部3との間の画像信号伝送用フラット型ケーブル4に接続される画像処理部10側のコネクタ11の極近傍に存在するケーブル出口が、原稿読み取り部3の副走査方向動作範囲の略中央に位置している。画像処理基板10aは、その一部がCIS基板3aの副走査方向の動作範囲の略中央に掛かるように配置され、該画像処理基板10aのCIS基板3a動作範囲の略中央に掛かる部分にコネクタ11が実装されている。ケーブル4は一端を該コネクタ11に接続され、もう一端をCIS基板3a上のコネクタ12に接続されている。よって、ケーブル4は、CIS基板3aの副走査方向動作範囲の略1/2の長さになる。

【0020】
上記構成の画像読み取り装置によれば、図示しないホストコントローラからI/F基板9にコントロール信号として画像読み取り開始の指令が来ると、画像処理基板10aからCIS基板3aへCIS駆動CLK信号やLED点灯のためのコントロール信号等が送られる。これにより、CIS基板3aは読み取り作業を開始し、読み取ったデータを画像処理基板10aに送る。画像処理基板10aは、受け取った画像データに相応の処理を施してI/F基板9を介して、ホストコントローラへ画像情報を送る、という流れになっている。

【0022】
このCIS基板3aは、カバーガラス33、LEDからなる照明光源34、セルフォックレンズ等からなる等倍結像レンズ35、及びカラーラインセンサ32が基板31上に実装されており、それらがモールド36に取り付けられることによって一体のCISモジュールを形成している。

【0036】
上述したように、原稿読み取り部3のCIS基板3a上には、主走査方向の全てのエリアを網羅すべく複数のCCDセンサチップが搭載されており(図5の32-1?32-16参照)、該CCDセンサを動作させ画像情報の受け渡しを行うために、該CIS基板3a上及び信号伝送ケーブル4には非常に大きな高周波電流が流されることになる。特に最近ではカラー化や高精細化により、信号線の本数は増え、ますますノイズも増大する傾向にある。この様な大きなノイズ源である原稿読み取り部3が、副走査方向に摺動するために安定した金属筐体接続も困難な状態で動作することから考えても、ノイズの放射効率を可能な限り低減する構造にすることは重要なことである。以下、このような観点から本実施形態の画像読み取り装置における各部材の位置関係について詳細を説明する。

【0045】
このようにフェライトコア17を設けたので、フェライトコア17による放射ノイズ抑制効果と合わせて、エッジサドル効果が期待でき、さらにケーブル4の固定により、画像処理基板10a上のコネクタ11に加わるストレスを緩和することができる。





(2)甲第3号証に記載された発明
上記甲第3号証の記載事項及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮して甲第3号証に記載された発明を認定する。

ア 段落0011の[第1の実施形態]には、「なお、後述する実施形態(例えば図8など)と共通の要素には同一の符号を付し、その説明を後段に譲る。」と記載されていることから、第1の実施形態における構成は、段落0016?段落0045及び図2?図9に記載される第2実施形態、第3実施形態においても共通のものである。

イ 図3より、画像処理部側コネクタ11と原稿読み取り部3側のコネクタ12に接続される画像信号伝送フラット型ケーブル4は、DATA1?nとGNDを含むことがみてとれる。

ウ 甲第3号証において、段落0016?0042に記載される第1の実施形態及び第3の実施形態と共通する構成を有する第2の実施形態に記載される事項を引用発明として認定すると、上記(1)の記載、上記ア、イより、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
なお、説明のために3a?3gの記号を当審において付与した。以下、「構成3a」?「構成3g」という。

(甲3発明)
3a CIS基板3aは、カバーガラス33、LEDからなる照明光源34、セルフォックレンズ等からなる等倍結像レンズ35、及びカラーラインセンサ32が基板31上に実装されており、それらがモールド36に取り付けられることによって一体のCISモジュールを形成し、
3b 画像信号伝送フラット型ケーブル4の一端が、画像処理基板10Aを覆うシールドケース2の上面に設けられた開口部を通って、画像処理基板10Aの端部に設けられたコネクタ11に接続され、さらにケーブル4の他端が、該開口部の極近傍、つまり該原稿読み取り部3の副走査方向の略中央に配置固定された平型フェライトコア17を通して、CIS基板3a上のコネクタ12に接続され、
3c 画像処理部側コネクタ11(画像処理基板10Aの端部に設けられたコネクタ11)と原稿読み取り部3側のコネクタ12(CIS基板3a上のコネクタ12)に接続される画像信号伝送フラット型ケーブル4は、DATA1?nとGNDを含み、
3d 原稿読み取り部3のCIS基板3a上には、主走査方向の全てのエリアを網羅すべく複数のCCDセンサチップが搭載されており、該CCDセンサを動作させ画像情報の受け渡しを行うために、該CIS基板3a上及び信号伝送ケーブル4には非常に大きな高周波電流が流されることになり、特に最近ではカラー化や高精細化により、信号線の本数は増え、ますますノイズも増大する傾向にあり、この様な大きなノイズ源である原稿読み取り部3が、副走査方向に摺動するために安定した金属筐体接続も困難な状態で動作することから考えても、ノイズの放射効率を可能な限り低減する構造にすることは重要なことであり、
3e 画像処理基板10aからCIS基板3aへCIS駆動CLK信号やLED点灯のためのコントロール信号等が送られ、
3f フェライトコア17を設けたので、フェライトコア17による放射ノイズ抑制効果がある
3g 画像読み取り装置。

4 甲第4号証(特開2004-192122号公報)
(1)甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、「電子機器」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、説明のために、下線を当審において付与した。

【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る電子機器について詳細に説明する。なお、本実施の形態においては、折り畳み式の電子機器を挙げて説明する。
〔第1の実施の形態〕
図1に示すように、電子機器10は、電子部品が取り付けられた基板11を内部に備える第1の筐体としての本体部1と、この本体部1から出力された情報を表示する液晶表示画面を備えた第2の筐体としての表示部2と、本体部1と表示部2とを連結する連結部材としてのヒンジ部3等を備えている。

【0022】
また、本体部1の基板11におけるGND12とコネクタ13とが接続され、表示部2の基板21におけるGND22の一端部221とコネクタ23とが接続されている。そして、フレキシブル基板4の一端部が基板11のコネクタ13に差し込まれ、他端部は基板21のコネクタ23に差し込まれている。従って、本体部1の基板11におけるGND12と、表示部2の基板21におけるGND22の一端部221とが、フレキシブル基板4を介して接続されている。フレキシブル基板4は、第1のヒンジ部31内に設けられた空洞部(図示省略)を通って配置されている。
【0023】
また、表示部2の基板21におけるGND22の他端部222と、本体部1の基板11におけるGND12とが第2のGND結線部材としてのアース線5によって接続されている。アース線5の一端部は基板11のGND12のアース点12aに結線され、他端部は基板21のGND22の他端部に設けられたアース点22aに結線されている。このアース線5は、第2のヒンジ部32内に設けられた空洞部(図示省略)を通るように配置されるとともに、基板21から所定距離以上離れた経路を通ってGND12のアース点12aとGND22の他端部222のアース点22aとを接続している。
なお、基板21におけるGND22は、基板11のGND12と同電位を保つ為に、アース線5を介してGND12にアースされる。

【0034】
〔第2の実施の形態〕
次に、本発明の第2の実施の形態における電子機器20について、図13?図18を用いて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
電子機器20は、第1の実施の形態における電子機器10のアース線5に、回路のインピーダンスを変化させて高周波整合を行う整合手段としてのビーズ6を設けたものである。ビーズ6は、高周波数帯域におけるインピーダンスを高めるものであり、高周波ノイズに対して高いノイズ除去性能を発揮する。そのため、ビーズ6をアース線5に設けることにより、低周波数帯域に比べて大きな高周波成分のノイズを除去することができる。なお、ビーズ6の選択にあたっては、電子機器20の構造や大きさに合わせて最適なものを適宜選ぶ必要がある。



(2)甲第4号証に記載された技術
甲第4号証において、段落0034の〔第2の実施の形態〕には、「なお、第1の実施の形態と同様の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。」と記載されていることから、第1の実施の形態における構成は、第2の実施の形態においても共通のものである。

よって、第1の実施の形態と共通する構成を有する第2の実施の形態に記載される事項を引用発明として認定すると、上記(1)の記載より、甲第4号証には、以下の技術(以下、「甲4技術」という。)が記載されている。

(甲4技術)
本体部1の基板11におけるGND12とコネクタ13とが接続され、表示部2の基板21におけるGND22の一端部221とコネクタ23とが接続され、フレキシブル基板4の一端部が基板11のコネクタ13に差し込まれ、他端部は基板21のコネクタ23に差し込まれ、
表示部2の基板21におけるGND22の他端部222と、本体部1の基板11におけるGND12とが第2のGND結線部材としてのアース線5によって接続され、アース線5の一端部は基板11のGND12のアース点12aに結線され、他端部は基板21のGND22の他端部に設けられたアース点22aに結線されて、基板21におけるGND22は、基板11のGND12と同電位を保つ為に、アース線5を介してGND12にアースされるものであり、
電子機器20は、アース線5に、回路のインピーダンスを変化させて高周波整合を行う整合手段としてのビーズ6を設けたものであり、ビーズ6は、高周波数帯域におけるインピーダンスを高めるものであり、高周波ノイズに対して高いノイズ除去性能を発揮するため、ビーズ6をアース線5に設けることにより、低周波数帯域に比べて大きな高周波成分のノイズを除去することができる技術。

5 甲第8号証(「エミフィルによるノイズ対策アプリケーション編」 株式会社村田製作所 2013年9月5日)
(1)甲第8号証に記載された事項
甲第8号証には、ノイズ対策に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、説明のために、下線を当審において付与した。

a 「ノートパソコンは、部品の実装スペースが限られているので、できるだけシールドを強化し、放射ノイズを抑制したうえで、部品によるノイズ対策に取り組むことが重要です。
シールドについては、樹脂ケースに導電めっきを施し、基板の上下には金属板を設け強化します。また、ケーブル接続部では、基板GNDと金属板を接続してGND強化を行なったうえで、ノイズ対策部品を取り付けます。
LCD部への信号は、主にLVDSで伝送されていますが、ここからも強くノイズが放射するので、コモンモードチョークコイルDLPシリーズを取り付けます。」(8頁左欄1?10行)

b

(8頁)

c 「USBは差動伝送方式をとっているため、USBの信号そのものが発生するノイズより、それ以外の回路で発生したコモンモードノイズがケーブルから放射して問題となる傾向が強いようです。

USBのノイズ対策内容
(中略)
LS/FSでは、信号ラインにはチップフェライトビーズBLM18BB121SN1またはコモンモードチョークコイルDLP11SN900HL2を、電源とGNDラインにはチップフェライトビーズBLM□□PGシリーズを取り付けてノイズを抑制します。
(中略)
HSのような高速転送モードでは、フェライトビーズを使用すると波形が崩れ、問題が発生するので、コモンモードチョークコイルDLW21SN900SQ2を使用しノイズを抑制します。

HSにおける伝送波形とノイズ対策効果の例
ここでは、HSのノイズ対策例を紹介します。
HSについては、信号波形品質をアイパターンで確認します。コモンモードチョークコイルDLW21SN900SQ2を使用しても、アイパターンにはほとんど影響が見られません。放射ノイズについても最大で5dB程度低減できます。」(11頁右欄3行?13頁左欄6行)

d

(12頁)

e 「内蔵型CD-ROMの場合、(中略)ヘッドホンケーブルからの放射雑音が問題となるケースがあります。
ヘッドホンケーブルへ伝導するノイズ源としては、CD-ROM内部とパソコン内部が挙げられます。
対策としては、まずヘッドホンケーブル接続部でノイズを抑制する対策が必要です。」(14頁左欄1行?15頁左欄4行)

f 「ヘッドホン接続部にEMI除去フィルタ
(中略)
次に、ヘッドホンの信号ラインにチップエミフィル^(R)(当審注:Rは○の中にR)NFM21Cシリーズを取り付けます。さらにチップフェライトビーズBLMシリーズを取り付けるとより大きなノイズ抑制効果を得ることができます。」(16頁左欄1?9行)

g

(16頁)

(2)甲第8号証に記載された技術
上記甲第8号証の記載事項及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮して甲第8号証に記載された技術を認定する。

ア 上記bの中央部の「吹き出し」の内部の「LVDSケーブル接続部にEMI除去フィルタ コモンモードチョークコイルDLP31S/D」、右上の「吹き出し」の内部の「ケーブル接続部にEMI除去フィルタ チップフェライトビーズBLMシリーズ(以下略)」の記載から、LVDSケーブル接続部にコモンモードチョークコイル、ケーブル接続部にチップフェライトビーズを取り付けることによりEMIを除去する構成が見てとれる。

イ 上記dから、信号ラインに取り付けられたチップフェライトビーズ、コモンモードチョークコイル、電源とGNDラインに取り付けられたチップフェライトビーズは、USBコネクタに取り付けられていることが見てとれる。
また、GNDラインに取り付けられたチップフェライトビーズは、接地されていることが見てとれる。

ウ 上記(1)の記載、上記ア、イより、甲第8号証には、以下の3つの技術(以下、上記(1)c、dの記載に基づく技術を「甲8技術」、上記(1)a、bの記載に基づく技術を「甲8技術2」、上記(1)e?gの記載に基づく技術を「甲8技術3」という。)が記載されている。
なお、甲8技術は、取消理由で周知技術として採用した技術であり、甲8技術2、甲8技術3は、取消理由で採用しなかった異議申立理由に摘記されている技術である。

(甲8技術)
回路で発生したコモンモードノイズがケーブルから放射して問題となるため、USBのノイズ対策に関する技術であり、USBコネクタの信号ラインにはチップフェライトビーズまたはコモンモードチョークコイルを、電源とGNDラインにはチップフェライトビーズを取り付けてノイズを抑制するものであり、
GNDラインに取り付けられたチップフェライトビーズは、接地されており、
HSのような高速転送モードでは、フェライトビーズを使用すると波形が崩れ、問題が発生するので、コモンモードチョークコイルを使用しノイズを抑制し、
コモンモードチョークコイルを使用すると、放射ノイズについて最大で5dB程度低減できる技術。

(甲8技術2)
ノートパソコンは、部品によるノイズ対策に取り組むことが重要であり、
ケーブル接続部では、チップフェライトビーズを取り付け、
LVDSから強くノイズが放射するので、LVDSケーブル接続部にコモンモードチョークコイルを取り付けることにより、
ノイズを抑制する技術。

(甲8技術3)
内蔵型CD-ROMの場合、ヘッドホンケーブルからの放射雑音が問題となるケースがあり、
ヘッドホンケーブルへ伝導するノイズ源としては、CD-ROM内部とパソコン内部が挙げられ、
対策としては、まずヘッドホンケーブル接続部でノイズを抑制する対策が必要であり、
チップフェライトビーズを取り付けるとより大きなノイズ抑制効果を得ることができる技術。

6 甲第5号証(特開2005-302810号公報)
(1)甲第5号証に記載された事項
甲第5号証には、「ノイズ対策部品」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、説明のために、下線を当審において付与した。

【0024】
図1は、この発明の第1実施例に係るノイズ対策部品を示す概略図である。図1に示すように、この実施例のノイズ対策部品1は、USB(Universal Serial Bus)規格の伝送路に接続して、ノイズ除去を行うための1チップの部品であり、1のコモンモードチョークコイル部2と2本のライン部3-1,3-2と磁性体部4と8つの外部端子10a,10b?13a,13bとを具備している。
【0025】
コモンモードチョークコイル部2は、USB規格伝送路の差動伝送線路の部分に接続するため部分である。具体的には、差動伝送線路は、後述するようにデータ信号D+,D-をそれぞれ伝送させるための1対のラインであり、コモンモードチョークコイル部2は、これらの1対のラインにそれぞれ接続するための1対のスパイラル状の第1及び第2のコイル5,6である。 一方、ライン部3-1,3-2は、USB規格伝送路の1対の電源・グランドラインにそれぞれ接続するための1対の直状ラインであり、これら1対の直状ライン3-1,3-2は、コモンモードチョークコイル部2を構成する第1及び第2のコイル5,6を挟むように並行に配されている。磁性体部4は、フェライト等の磁性体を含有する材料で形成されており、上記第1及び第2のコイル5,6及び1対の直状ライン3-1,3-2を内部に包容している。外部端子10a,10b?13a,13bは、この磁性体部4の外側に取り付けられている。具体的には、外部端子10a,10bが第1のコイル5の両端に接続され、外部端子11a,11bが第2のコイル6の両端に接続されている。そして、外部端子12a,12bが直状ライン3-1の両端に接続され、外部端子13a,13bが直状ライン3-2の両端に接続されている。

【0036】
図8は、この実施例のノイズ対策部品1と従来のノイズ対策部品の実装面積を比較するための部分拡大平面図である。図8(a)に示すように、この実施例に係る1チップのノイズ対策部品1をUSBコネクタ110(210)の後段に実装する場合には、回路基板120(220)に形成する4本のライン121?124(221?224)の幅を外部端子10a(10b)?13a(13b)の幅に設定することができ、ノイズ対策部品1はこのライン121?124(221?224)上にリフロー半田などによって実装することができる。これにより、ノイズ対策部品1の幅及び長さが、例えば1.0mm及び2.0mmの場合には、ノイズ対策部品1の実装領域S1の幅W及び長さLを1.5mm及び2.1mm程度に設定すれば良く、この結果、ノイズ対策部品1を実装する際には、3.15mm2程度の実装面積を回路基板120(220)上に確保すれば足りる。 これに対して、図8(b)に示す従来例にように、データ信号用のノイズ対策部品であるコモンモードチョークコイル部400と電源用のノイズ対策部品である2つのフェライトビーズ410,410をUSBコネクタ110(210)の後段に実装する場合には、実装上、部品間の距離をある程度とらなければならないので、4本のライン121?124(221?224)の幅を図8(a)に示すように絞ることができない。このため、コモンモードチョークコイル部400とフェライトビーズ410,410の幅はノイズ対策部品1の幅と同一であり、且つコモンモードチョークコイル部400とフェライトビーズ410,410の長さが、例えば1.2mm,0.5mmの場合には、これらの部品を実装するための実装領域S2の幅W及び長さLを1.5mm及び3.0mm程度に設定しなければならない。この結果、これらの部品を実装する際には、4.5mm2という大きな実装面積を回路基板120(220)上に確保しなければならず、回路基板120(220)の小型化は不可能であり、このように別体の部品を複数実装する方法では、小型の電子機器に対応することができない。しかし、この実施例のノイズ対策部品1では、従来の約半分の実装面積で済み、この結果、小型の回路基板120(220)を有した小型の電子機器にも対応することができる。また、この実施例のノイズ対策部品1は、上記の如き積層構造をとっているので、部品自体を小型化することができ、この面からも実装面積の狭小化が図られている。





(2)甲第5号証に記載された技術
上記(1)の記載より、甲第5号証には、以下の技術(以下、「甲5技術」という。)が記載されている。

(甲5技術)
従来例では、データ信号用のノイズ対策部品であるコモンモードチョークコイル部400と電源用のノイズ対策部品である2つのフェライトビーズ410,410をUSBコネクタ110(210)の後段に実装する構成であったのを、部品自体を小型化するために、
本技術のノイズ対策部品1は、USB(Universal Serial Bus)規格の伝送路に接続して、ノイズ除去を行うための1チップの部品であり、
1のコモンモードチョークコイル部2と2本のライン部3-1,3-2を具備し、
コモンモードチョークコイル部2は、データ信号D+,D-をそれぞれ伝送させるための1対のラインにそれぞれ接続するための1対のスパイラル状の第1及び第2のコイル5,6であり、
ライン部3-1,3-2は、USB規格伝送路の1対の電源・グランドラインにそれぞれ接続するための1対の直状ラインである技術。

7 甲第6号証(特開2009-10115号公報)
(1)甲第6号証に記載された事項
甲第6号証には、「コモンモードチョークコイルアレイ」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、説明のために、下線を当審において付与した。

【0004】
ところで、近年USB(Universal Serial Bus)のケーブルから放射されるノイズを低減するために、コモンモードチョークコイルが使用されている。この場合、USBのデータラインにコモンモードチョークコイルを挿入することによって、データラインのコモンモードノイズを抑制する。しかし、実際にはデータライン以外の線路(電源ラインおよびグランドライン)にもノイズが伝搬すると共に、このノイズが外部に放射されることがある。このような電源ライン等のノイズの対策として、電源ライン、グランドラインにフェライトビーズ等のインダクタンス素子をそれぞれ接続する方法が考えられるが、この方法ではインダクタンス素子がディファレンシャルインピーダンス(ノーマルモードのインピーダンス)を有するから、このインピーダンスによってUSB接続機器の動作が不安定にある可能性がある。
【0005】
一方、USBのノイズを抑制するために、従来技術のようなコモンモードチョークコイルアレイを使用する構成も考えられる。この場合、例えば電源ラインおよびグランドラインに対して第2のコモンモードチョークコイルを接続すると共に、一対のデータラインに対して第1のコモンモードチョークコイルを接続する。しかし、従来技術では、一般的に複数のコモンモードチョークコイルは、電気的な特性が同じものが実装されている。これに対し、USBのデータラインと電源ライン等では求められる電気的な特性が異なるから、従来技術によるコモンモードチョークコイルアレイは適用し難いという問題がある。

【0048】
本実施の形態によるコモンモードチョークコイルアレイ1は上述の如き構成を有するもので、例えば図8に示すように、第1のコモンモードチョークコイル3をUSBコネクタの電源ラインVBUSとグランドラインGNDに接続すると共に、第2のコモンモードチョークコイル17を一対のデータラインD+,D-に接続する。このとき、第1のコモンモードチョークコイル3は、第1コイル6,7に互いに同じ方向の信号が伝搬するコモンモードに対して、インピーダンスが高くなる。これに対し、第1コイル6,7に互いに逆方向の信号が伝搬するノーマルモードに対して、インピーダンスが低くなる。これにより、第1のコモンモードチョークコイル3は、電源信号を伝送するのに対し、各ラインVBUS,GNDを伝搬するコモンモードのノイズを除去する。

【0050】
然るに、本実施の形態では、第1コイル6,7と第2コイル20,21とは互いに異なる電気的な特性を有している。このとき、電源ラインVBUSおよびグランドラインGNDには、主にIC内部回路のスイッチングによるコモンモードノイズが伝搬する。これに対し、一対の第1コイル6,7を電源ラインVBUSおよびグランドラインGNDに接続した場合には、第1コイル6,7のインピーダンスを適宜設定することによって、第1のコモンモードチョークコイル3を用いてスイッチングによるコモンモードノイズを抑制することができる。一方、一対の第2コイル20,21を一対のデータラインD+,D-に接続した場合には、第2コイル20,21のインピーダンスを適宜設定することによって、第2のコモンモードチョークコイル17を用いてデータラインD+,D-のコモンモードノイズを抑制することができる。



(2)甲第6号証に記載された技術
上記(1)の記載より、甲第6号証には、以下の技術(以下、「甲6技術」という。)が記載されている。

(甲6技術)
USB(Universal Serial Bus)のケーブルから放射されるノイズを低減するための技術として、
(ア)USBのデータラインにコモンモードチョークコイルを挿入することによって、データラインのコモンモードノイズを抑制し、電源ライン等のノイズの対策として、電源ライン、グランドラインにフェライトビーズ等のインダクタンス素子をそれぞれ接続する技術、
(イ)電源ラインおよびグランドラインに対して第2のコモンモードチョークコイルを接続すると共に、一対のデータラインに対して第1のコモンモードチョークコイルを接続する技術、及び、
(ウ)第1のコモンモードチョークコイル3をUSBコネクタの電源ラインVBUSとグランドラインGNDに接続すると共に、第2のコモンモードチョークコイル17を一対のデータラインD+,D-に接続することにより、第1のコモンモードチョークコイル3は、第1コイル6,7に互いに同じ方向の信号が伝搬するコモンモードに対して、インピーダンスが高くなり、第1コイル6,7に互いに逆方向の信号が伝搬するノーマルモードに対して、インピーダンスが低くなることにより、第1のコモンモードチョークコイル3は、電源信号を伝送するのに対し、各ラインVBUS,GNDを伝搬するコモンモードのノイズを除去し、
第1のコモンモードチョークコイル3を用いてスイッチングによるコモンモードノイズを抑制する技術。

8 甲第7号証(「トランジスタ技術 SPECIAL No.82」 CQ出版株式会社 2003年4月1日)
(1)甲第7号証に記載された事項
甲第7号証には、高周波発振回路のノイズ対策に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、説明のために、下線を当審において付与した。

DVDプレーヤのピックアップ駆動ユニットを例に,高周波で発振するモジュールとその周辺から発生するノイズの対策事例を紹介します.(68頁1?2行)

●モジュールのVccラインにビーズとパスコンを追加する
発振回路のできるだけ近いところに対策部品を取り付けて,フレキシブル・ケーブルに高周波電流が流れ込まないように食い止めます.
図10に示すように,高周波重畳モジュールの電源Vcc,レーザのモニタ電流が流れるPD,レーザ・ダイオードの駆動用直流電流が流れるLDの各ラインにチップ・ビーズとチップ・コンデンサを追加しました.これらの部品によるデカップリング(decoupling)効果によって,高周波電流はグラウンドにバイパスされます.この高周波電流は,フレキシブル・ケーブルに漏れる可能性があるため,モジュールのGND端子の根元にもチップ・ビーズL2を挿入します.(73頁10?18行)

(2)甲第7号証に記載された技術
上記(1)の記載より、甲第7号証には、以下の技術(以下、「甲7技術」という。)が記載されている。

(甲7技術)
DVDプレーヤのピックアップ駆動ユニットにおける、高周波で発振するモジュールとその周辺から発生するノイズの対策として、
発振回路のできるだけ近いところに対策部品を取り付けて,フレキシブル・ケーブルに高周波電流が流れ込まないように食い止めるために、
高周波重畳モジュールの電源Vcc、レーザのモニタ電流が流れるPD、レーザ・ダイオードの駆動用直流電流が流れるLDの各ラインにチップ・ビーズとチップ・コンデンサを追加し、これらの部品によるデカップリング(decoupling)効果によって、高周波電流はグラウンドにバイパスされ、
高周波電流は、フレキシブル・ケーブルに漏れる可能性があるため、モジュールのGND端子の根元にもチップ・ビーズL2を挿入する技術。

9 甲第9号証(特開2009-129979号公報)
(1)甲第9号証に記載された事項
甲第9号証には、「プリント基板」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、説明のために、下線を当審において付与した。

【0092】
実施例1に従うレーザ基板は、レーザドライバICの高速ドライブ回路をノイズ源として発生する輻射ノイズをフェライトビーズを用いて抑制することを特徴とする。図1はレーザドライバICからの輻射ノイズを抑制するレーザ基板におけるレーザドライバICとの接続を示す図である。尚、図1において、既に図4及び図6において説明した内容と同じ構成要素や信号には同じ参照番号や参照記号を付し、その説明は省略する。
【0093】
図1に示すように、レーザドライバIC2のLDGND端子とDVSS端子は、レーザ基板1のGNDパターン8に直接接続されず、フェライトビーズFB2を介してGNDパターン8に接続される。一方、レーザドライバIC2のVSSO端子は、GNDパターン8にそのまま接続される。つまり、レーザドライバIC2のLDGND端子及びDVSS端子は、VSSO端子からフェライトビーズFB2を介して高周波帯域で分離され、一方のVSSO端子はGNDパターン8に直接接続される。
【0094】
また、レーザ13に接続されるレーザ用電源VccldとDVCC端子には、電源電圧Vcc7からフェライトビーズFB1を介して電源電圧が供給されるように接続されている。つまり、レーザ用電源Vccld及びDVCC端子は、VCCO端子に対しフェライトビーズFB1を介して高周波帯域で分離され、一方のVCCO端子は電源電圧Vcc7に直接接続される。
【0095】
次にフェライトビーズFB2及びFB1が高周波ノイズの伝播を抑制することについて説明する。

【0099】
しかしながら、本実施例によれば、LD駆動部41から電源配線パターンに発生したノイズ電流i11bは、フェライトビーズFB1の高周波インピーダンスにより、電源端子VCCO及び電源電圧Vccへの伝播が抑制される。一方、LD駆動部41からGND配線パターンに発生したノイズ電流i12bは、フェライトビーズFB2の高周波インピーダンスにより、GND端子VSSO及びGNDパターン8への伝播が抑制される。従って、LD駆動部41のスイッチング動作により発生した高周波ノイズは、レーザ基板1のI/O回路部15やコネクタ11へ伝播することが抑制される。

(2)甲第9号証に記載された技術
上記(1)の記載より、甲第9号証には、以下の技術(以下、「甲9技術」という。)が記載されている。

(甲9技術)
レーザドライバICの高速ドライブ回路をノイズ源として発生する輻射ノイズをフェライトビーズを用いて抑制することを特徴とし、
レーザドライバIC2のLDGND端子とDVSS端子は、レーザ基板1のGNDパターン8に直接接続されず、フェライトビーズFB2を介してGNDパターン8に接続され、レーザドライバIC2のLDGND端子及びDVSS端子は、VSSO端子からフェライトビーズFB2を介して高周波帯域で分離され、
レーザ13に接続されるレーザ用電源VccldとDVCC端子には、電源電圧Vcc7からフェライトビーズFB1を介して電源電圧が供給されるように接続され、レーザ用電源Vccld及びDVCC端子は、VCCO端子に対しフェライトビーズFB1を介して高周波帯域で分離され、
フェライトビーズFB2及びFB1が高周波ノイズの伝播を抑制し、
LD駆動部41から電源配線パターンに発生したノイズ電流i11bは、フェライトビーズFB1の高周波インピーダンスにより、電源端子VCCO及び電源電圧Vccへの伝播が抑制され、LD駆動部41からGND配線パターンに発生したノイズ電流i12bは、フェライトビーズFB2の高周波インピーダンスにより、GND端子VSSO及びGNDパターン8への伝播が抑制され、
LD駆動部41のスイッチング動作により発生した高周波ノイズは、レーザ基板1のI/O回路部15やコネクタ11へ伝播することが抑制される技術。

10 甲第10号証(特開2006-310463号公報)
(1)甲第10号証に記載された事項
甲第10号証には、「プリント基板」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、説明のために、下線を当審において付与した。

【0005】
しかしながら、このようなASICは一般に発振器を備えており、この発振器がノイズ源となってクロックノイズ等のノイズが発生する。このためGNDパターンにもノイズの影響が現れて、GNDレベル全体が不安定になるという問題点が発生してしまう。特にクロックノイズレベルの大きいCMOS構造のASICを用いた場合は大きな問題となる。

【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、電子回路の電子部品のGND端子を接続する第一のGNDパターンと、該電子回路の電源の負極を接続する第二のGNDパターンが独立して設けられ、該第一のGNDパターンと該第二のGNDパターンがインダクタンスを介して接続されることを特徴としている。

【0021】
ここで、第一のGNDパターン2と第二のGNDパターン3は、インダクタンスLを介して電気的に接続されている。インダクタンスLは、電流の交流成分を遮断する特性を有している。このため第一のGNDパターンと第二のGNDパターンは、直流成分の視点では同一のGNDレベルとなり、交流成分の視点からは独立したGNDパターンとなる。このようにノイズの交流成分を電源側のGNDレベルから遮断することで、電子回路で発生したノイズの電源側のGNDレベルへの影響を抑制することが可能となる。

(2)甲第10号証に記載された技術
上記(1)の記載より、甲第10号証には、以下の技術(以下、「甲10技術」という。)が記載されている。

(甲10技術)
発振器を備えているASICは、発振器がノイズ源となってクロックノイズ等のノイズが発生し、GNDパターンにもノイズの影響が現れて、GNDレベル全体が不安定になるという問題点が発生することから、
電子回路の電子部品のGND端子を接続する第一のGNDパターンと、該電子回路の電源の負極を接続する第二のGNDパターンが独立して設けられ、該第一のGNDパターンと該第二のGNDパターンがインダクタンスを介して接続されることを特徴とし、
第一のGNDパターン2と第二のGNDパターン3は、インダクタンスLを介して電気的に接続され、インダクタンスLは、電流の交流成分を遮断する特性を有しているため、第一のGNDパターンと第二のGNDパターンは、直流成分の視点では同一のGNDレベルとなり、交流成分の視点からは独立したGNDパターンとなり、ノイズの交流成分を電源側のGNDレベルから遮断することで、電子回路で発生したノイズの電源側のGNDレベルへの影響を抑制することを可能とする技術。

11 参考文献1(特開2013-154506号公報)
(1)参考文献1に記載された事項
参考文献1には、「信号伝送路、露光装置、および画像形成装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、説明のために、下線を当審において付与した。

【0029】
図2は、図1に示す画像形成装置に備えられているLPHおよびコントローラの概略的な構成を表した図である。また、図3は、図2に示すFFCの概略的な構成を表した図である。また、図4は、図2,図3に示すコントローラのコネクタとこれに接続されたFFCの配線を表した図である。尚、図3には、グランド線と、一部の電源線および一部の点灯信号線とが示されており、制御信号線およびメモリ制御信号線の図示は省略されている。

【0040】
図6は、コントローラの回路基板を示す概略構成図である。尚、図6では、回路基板を側方から見た状態が示されている。また、図7は、図6に示すC部の拡大図である。
【0041】
コントローラ4(図1?図3参照)は、4層の回路基板400を有している。4層の回路基板400のうちの最上層には、信号線が配線された信号層410が形成されている。そして、その信号層410に、コネクタ4aおよびASIC40が備えられている。また、その信号層410の直近の下層には、グランド線が配線されたグランド層420が絶縁層440を挟んで形成されている。また、そのグランド層420の直近の下層には、電源線が配線された電源層430が絶縁層440を挟んで形成されている。信号層410には、さらにコンデンサ450が備えられており、FFC41の電源線411が、そのコンデンサ450を介在させて回路基板400のグランド層420に接続されている。これにより、FFC41の電源線411を電源層430に接続する場合よりも、電流ループが小さく、EMIが抑制される。



(2)参考文献1に記載された技術
上記(1)の記載より、参考文献1には、以下の技術(以下、「参考文献1技術」という。)が記載されている。

(参考文献1技術)
画像形成装置に備えられているコントローラであって、
コントローラ4は、4層の回路基板400を有し、
4層の回路基板400のうちの最上層には、信号線が配線された信号層410が形成され、
信号層410の直近の下層には、グランド線が配線されたグランド層420が絶縁層440を挟んで形成されている技術

第5 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の要旨
特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明に対して、当審が令和2年6月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1) 取消理由1
請求項1、2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)取消理由2
請求項1、2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証及び甲第8号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)取消理由3
請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第4号証及び甲第8号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(4)取消理由4
請求項1、2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、甲第4号証及び甲第8号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(5)取消理由5
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(6)取消理由6
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(7)引用した証拠
甲第1号証:特開2007-28071号公報
甲第2号証:特開2013-131673号公報
甲第3号証:特開2004-48653号公報
甲第4号証:特開2004-192122号公報
甲第8号証:「エミフィルによるノイズ対策アプリケーション編」 株式会社村田製作所 2013年9月5日 p.12

2 取消理由についての当審の判断
(1)上記1(1)の取消理由1について
本件訂正発明1と甲3発明とを対比、判断する。
ア 対比
(ア)構成Aについて
構成3aより、甲3発明のCIS基板3aは、基板31上にカラーラインセンサ32を実装していることから、構成Aの「画像を読み取る画像読取素子を実装した基板」である「画像読取基板」に相当する。

また、構成3bより、甲3発明のCIS基板3aは、画像処理基板10Aと画像信号伝送フラット型ケーブル4で接続されているのみであり、構成3dより、甲3発明は、CCDセンサを動作させることにより、CIS基板3a上で発生した非常に大きな高周波電流が信号伝送ケーブル4に流れ、大きなノイズ源である原稿読み取り部3が、副走査方向に摺動するために安定した金属筐体接続も困難な状態で動作することから、甲3発明のCIS基板3aは、接地されていないことは明らかである。
したがって、甲3発明のCIS基板3aは、構成Aの「接地されていない画像読取基板」に相当する。

したがって、甲3発明は、構成Aを有している。

(イ)構成Bについて
構成3cより、甲3発明の画像信号伝送フラット型ケーブル4は、DATA1?nとGNDを含み、構成3dより、画像信号伝送フラット型ケーブル4には非常に大きな高周波電流が流れるものである。
よって、甲3発明の画像信号伝送フラット型ケーブル4は、高周波の画像信号が伝送されるDATA1?nとGNDを含むものであり、構成Bの「高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路」に相当する。
また、構成3eより、甲3発明の画像処理基板は、CIS基板3aへコントロール信号すなわち制御信号を送出する構成であるから、制御基板であるといえる。
そして、構成3bより、甲3発明の画像信号伝送フラット型ケーブル4は、CIS基板3aと画像処理基板10Aに接続されていることから、甲3発明と構成Bは、「前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路を介して接続され」る「制御基板」を具備する点で共通する。
しかし、甲3発明の「画像処理基板10A」は、本件訂正発明1の「制御基板」のように、「接地されたグランド層を有する」ことについて特定されていない点で相違する。

(ウ)構成Cについて
構成3b、3d、3fより、甲3発明の平型フェライトコアは、画像信号伝送フラット型ケーブル4に流れる高周波電流による放射ノイズを抑制するためのものであり、画像信号伝送フラット型ケーブル4は、GNDを含むことから、甲3発明の平型フェライトコアは、画像信号伝送フラット型ケーブル4のGNDに励起される放射ノイズによる影響を低減する素子といえる。
ここで、画像信号伝送フラット型ケーブル4のGNDに励起される放射ノイズは、高周波信号といえるので、甲3発明と構成Cは、「前記伝送線路のグランド線に励起される高周波信号による影響を低減する高周波低減素子」を具備する点で共通する。
しかし、甲3発明の画像信号伝送フラット型ケーブル4は、平型フェライトコア17を通して、CIS基板3aと画像処理基板10Aに接続されているものであり、甲3発明の「平型フェライトコア17」は、本件訂正発明1の「高周波低減素子」のように、前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続される構成でない点で相違する。

(エ)構成Dについて
構成3gより、甲3発明は画像読み取り装置であるから、甲3発明と構成Dは、一致する。

(オ)上記(ア)?(エ)より、本件訂正発明1と甲3発明は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
A 画像を読み取る画像読取素子を実装した基板であって、接地されていない画像読取基板と、
B’前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路を介して接続される制御基板と、
C’前記伝送線路のグランド線に励起される高周波信号による影響を低減する高周波低減素子と、
D を具備する画像読取装置。

(相違点1)
本件訂正発明1の「制御基板」は、「接地されたグランド層を有する」のに対し、甲3発明の「画像処理基板10A」は、そのように特定されていない点。

(相違点2)
本件訂正発明1の「高周波低減素子」は、「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続」されるのに対し、甲3発明の「フェライトコア17」は、そのように接続されるものでない点。

イ 判断
上記アのように、本件訂正発明1と甲3発明は、相違点を有するものであるから、本件訂正発明1は、甲第3号証に記載された発明でない。
また、本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用する発明であり、本件訂正発明2と甲3発明は、相違点を有するものであるから、本件訂正発明2は、甲第3号証に記載された発明でない。

(2)上記1(2)の取消理由2について
本件訂正発明1と甲3発明とを対比、判断する。
ア 対比
本件訂正発明1と甲3発明との対比については、上記(1)アのとおりである。

イ 判断
事案に鑑みて、上記相違点のうち、まず相違点2について検討する。

(ア)甲4技術及び甲8技術
甲4技術は、本体部と表示部とを、フレキシブル基板とアース線とで接続する構成において、フレキシブル基板とアース線を、表示部の基板におけるGNDに接続する際に、異なる端部で接続するようにし、更に、当該アース線にビーズを設けることにより、アース線の高周波成分のノイズを除去する技術であるから、フレキシブル基板とアース線は別体の構成であり、フレキシブル基板に対してのノイズ対策については何ら検討されていない構成であるといえる。

甲8技術は、回路で発生したノイズがケーブルから放射することを抑制するために、USBコネクタのGNDラインにチップフェライトビーズを取り付け、高速転送モードでは、信号ラインにコモンモードチョークコイルを使用し、放射ノイズを低減する技術であるから、当該チップフェライトビーズとコモンモードチョークコイルは、USBのコネクタにおいて、回路からのノイズをケーブルに伝搬させないようにする技術である。

(イ)甲3発明への甲4技術及び甲8技術の適用について
甲3発明は、フラットケーブル内のDATA1?nとGNDからの放射ノイズを抑制するという課題を解決するために、フラットケーブルの途中で、当該フラットケーブルをフェライトコアに通すという構成、すなわち、既にノイズが含まれているフラットケーブルのDATA1?n及びGNDからの放射ノイズを抑制するために、フラットケーブル全てをフェライトコアに通している構成である。

甲4技術は、アース線における高周波成分のノイズを除去する技術ではあるが、フレキシブル基板と当該アース線が別体の構成であり、フレキシブル基板に対してのノイズ対策については何ら検討されていない構成であるから、DATA1?nとGNDが含まれるフラットケーブルからの放射ノイズを抑制する甲3発明に組み合わせる動機付けがない。また、仮に、組み合わせたとしても、フラットケーブルを有する甲3発明に対して、更に、アース線を有する構成となり、「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され」る「高周波低減素子」を具備する本件訂正発明1を想到することはできない。

甲8技術から、コネクタにおいて、GNDラインにチップフェライトビーズを取り付けることにより、ノイズを抑制する技術が周知技術であると想定しても、甲8技術は、USBのコネクタにおいて、回路からのノイズをケーブルに伝搬させないようにする技術であり、すでに、フラットケーブルにCISで発生したノイズが含まれていることを前提とし、その放射ノイズを抑制させるための発明である甲3発明に組み合わせる動機付けがなく、更に、フラットケーブルの途中で、当該フラットケーブルをフェライトコアに通すことにより、放射ノイズを抑制するという課題が解決された甲3発明において、フェライトコアに通す構成を、コネクタにおいて、GNDラインにチップフェライトビーズを取り付ける構成に置き換えることの動機付けもない。

したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術や甲第8号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用する発明であるから、本件訂正発明2は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術や甲第8号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)上記1(3)の取消理由3について
本件訂正発明1と甲1発明とを対比、判断する。
ア 対比
(ア)構成Aについて
構成1aより、甲1発明のCIS200は、回路基板204上にイメージセンサ202を備えており、構成1cより、甲1発明のCIS200の回路基板204は、カードケーブル103等を介して画像読取装置のフレームGNDに接続されていることから、回路基板自体は直接接地されていないものといえる。
したがって、甲1発明は、構成Aを有している。

(イ)構成Bについて
構成1dより、甲1発明の制御基板410はGNDを有している。
構成1bより、甲1発明のカードケーブル103は、制御基板410と接続され、構成1cより、甲1発明のカードケーブル103は、画像信号を伝送することから信号が伝送される信号線を有しており、また、回路基板204のGNDと接続することからグランド線を有している。
そして、CIS200が出力する画像信号が高周波の信号であることは技術常識であるので、甲1発明と構成Bは、「前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路を介して接続され」る「制御基板」を具備する点で共通する。
しかし、甲1発明の「制御基板410」は、本件訂正発明1の「制御基板」のように、「接地されたグランド層を有する」ことについて特定されていない点で相違する。

(ウ)構成Cについて
甲1発明のカードケーブル103には、高周波信号を低減する構成が介在するものではなく、甲1発明は、構成Cを有するものではない。

(エ)構成Dについて
構成1eより、甲1発明は画像読取装置であるから、甲1発明と構成Dは、一致する。

(オ)上記(ア)?(エ)より、本件訂正発明1と甲1発明は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
A 画像を読み取る画像読取素子を実装した基板であって、接地されていない画像読取基板と、
B’ 前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路を介して接続される制御基板と、
D を具備する画像読取装置。

(相違点1)
本件訂正発明1の「制御基板」は、「接地されたグランド層を有する」のに対し、甲1発明の「制御基板410」は、そのように特定されていない点。

(相違点2)
本件訂正発明1は、「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され、前記伝送線路のグランド線に励起される高周波信号を低減する高周波低減素子」を具備するのに対し、甲1発明は、そのような素子を有するものでない点。

イ 判断
事案に鑑みて、上記相違点のうち、まず相違点2について検討する。

甲1発明は、インバータ310の発振周波数の高周波の電流がGNDループに流れることを抑制するために、制御基板410のGNDとインバータ310の二次側GNDへのインターフェースとの間に抵抗素子411を設けた構成であって、カードケーブル103のグランド線に励起される高周波信号を低減するための高周波低減素子を具備するものではない。

そうすると、甲4技術や甲8技術が周知技術であったとしても、そもそも、甲1発明は、カードケーブルに伝送される高周波信号を低減しようする動機付けがないものである。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術や甲第8号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用する発明であるから、本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術や甲第8号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)上記1(4)の取消理由4について
本件訂正発明1と甲2発明とを対比、判断する。
ア 対比
(ア)構成Aについて
構成2aより、画像読み取りヘッドを動作・制御する回路がドーターボード上に実装されており、当該ドーターボードには、読取素子も実装されていることは当然である。
また、構成2bより、ヘッドに実装される回路基板は接地されていないといえる。
したがって、甲2発明は、構成Aを有している。

(イ)構成Bについて
構成2aより、甲2発明のドーターボードとメインボードはハーネスで接続されている。ここで、構成2cの配線部材は、メインボードとドーターボード間を接続しているものであるから、構成2aのハーネスを指すものであり、構成2cより、配線部材は、信号ライン、電源ライン、GNDラインを含むものである。
そして、信号ラインは、構成2aの画像読み取りヘッドにて読み込まれた高周波の画像信号が伝送されるものといえる。
したがって、甲2発明のハーネスは、構成Bの「前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路」に相当する。
また、構成2bより、甲2発明のメインボードは、グランド電極を有していることから接地されているといえ、また、ハーネスと接続されていることから、構成Bの「制御基板」とは、「前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路を介して接続され、接地され」ている点で共通する。
したがって、甲2発明と構成Bは、「前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路を介して接続され、接地された制御基板」を具備する点で共通する。

しかし、甲2発明の「メインボード」は、本件訂正発明1の「制御基板」のように、「接地されたグランド層を有する」ことについて特定されていない点で相違する。

(ウ)構成Cについて
構成2dより、甲2発明は、ハーネスにコモンモードチョークやフェライトコアを挿入して、コモンモードノイズの伝送を阻止したり、空間への放射を抑制させたりするものである。
ここで、ハーネスにコモンモードチョークを挿入することは、コモンモードノイズの伝送を阻止するために行われることであり、ハーネスにフェライトコアを挿入することは、空間への放射を抑制するために行われることであり、いずれも、GNDラインを含めたハーネスに伝送されるコモンモードノイズの影響を低減するために行われるものといえる。

そうすると、甲2発明と構成Cは、「前記伝送線路のグランド線に励起される高周波信号による影響を低減する高周波低減素子」を具備する点で共通する。
しかし、甲2発明のハーネスにコモンモードチョークやフェライトコアを挿入する構成は、いずれもハーネスの途中に挿入されているものであるから、甲2発明の「コモンモードチョーク」又は「フェライトコア」は、本件訂正発明1の「高周波低減素子」のように、前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続される構成でない点で相違する。

(エ)構成Dについて
構成2eより、甲2発明は画像読み込みを行う電子機器であるから、甲2発明と構成Dは、一致する。

(オ)上記(ア)?(エ)より、本件訂正発明1と甲2発明は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
A 画像を読み取る画像読取素子を実装した基板であって、接地されていない画像読取基板と、
B’前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路を介して接続される制御基板と、
C’前記伝送線路のグランド線に励起される高周波信号による影響を低減する高周波低減素子と、
D を具備する画像読取装置。

(相違点1)
本件訂正発明1の「制御基板」は、「接地されたグランド層を有する」のに対し、甲2発明の「ドーターボード」は、そのように特定されていない点。

(相違点2)
本件訂正発明1の「高周波低減素子」は、「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続」されるのに対し、甲2発明の「コモンモードチョーク」又は「フェライトコア」は、そのように接続されるものでない点。

イ 判断
事案に鑑みて、上記相違点のうち、まず相違点2について検討する。

甲2発明は、既にノイズが含まれているハーネスからのコモンモードノイズの伝送を阻止する、又は、ノイズの空間への放射を抑制するために、ハーネスの途中にコモンモードチョークやフェライトコアを挿入する構成である。

それに対し、上記(2)イで上述したように、甲4技術は、フレキシブル基板とアース線が別体の構成であり、フレキシブル基板に対してのノイズ対策については何ら検討されていない構成であるといえる。

また、甲8技術のチップフェライトビーズとコモンモードチョークコイルは、USBのコネクタにおいて、回路からのノイズをケーブルに伝搬させないようにする技術である。

甲4技術は、アース線における高周波成分のノイズを除去する技術ではあるが、フレキシブル基板と当該アース線が別体の構成であり、フレキシブル基板に対してのノイズ対策については何ら検討されていない構成であるから、ハーネスにおけるコモンモードノイズの伝送を阻止したり、空間への放射を抑制させたりする甲2発明に組み合わせる動機付けがない。また、仮に、組み合わせたとしても、ハーネスを有する甲2発明に対して、更に、アース線を有する構成となり、「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され」る「高周波低減素子」を具備する本件訂正発明1を想到することはできない。

甲8技術から、コネクタにおいて、GNDラインにチップフェライトビーズを取り付けることにより、ノイズを抑制する技術が周知技術であると想定しても、甲8技術は、USBのコネクタにおいて、回路からのノイズをケーブルに伝搬させないようにする技術であり、すでに、ハーネスにノイズが含まれていることを前提とし、ハーネスにおけるコモンモードノイズの伝送を阻止したり、空間への放射を抑制させたりするための発明である甲2発明に組み合わせる動機付けがなく、更に、ハーネスの途中にコモンモードチョークやフェライトコアを挿入することにより、既にノイズが含まれているハーネスからのコモンモードノイズの伝送を阻止する、又は、ノイズの空間への放射を抑制するという課題が解決された甲2発明において、ハーネスの途中にコモンモードチョークやフェライトコアを挿入する構成を、コネクタにおいて、GNDラインにチップフェライトビーズを取り付ける構成に置き換えることの動機付けもない。

したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術や甲第8号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用する発明であるから、本件訂正発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術や甲第8号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)上記1(5)の取消理由5について
令和2年6月26日付け取消理由通知において、「グランド層とグランド線との間」とは、どの場所を指すのか不明確であり、「介在」とは、どのような技術的事項を意味するのか不明である旨の取消理由を通知した。

本件訂正請求により、上記第2の2で記載したように、特許請求の範囲の請求項1に「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に介在され、」と記載されているのを、「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され、」に訂正された。

当該訂正により、制御基板のグランド層と伝送線路のグランド線との間に高周波低減素子が接続された構成に限定され、図10に示されたような制御基板上において、制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線とが高周波低減素子により接続された構成であることが明確になった。
したがって、上記1(5)の取消理由5は解消した。

(6)上記1(6)の取消理由6について
令和2年6月26日付け取消理由通知において、発明を実施するための形態においては、「介在」という用語は使用されておらず、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨の取消理由を通知した。
本件訂正請求により、上記第2の2で記載したように、特許請求の範囲の請求項1に「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に介在され、」と記載されているのを、「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され、」に訂正され、明細書の段落0039、0044に記載された構成となった。
したがって、上記1(6)の取消理由6は解消した。

第6 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由について
1 取消理由で採用しなかった異議申立理由の要旨
取消理由で採用しなかった異議申立理由の要旨は次のとおりである。

(1)請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。(特許法第29条第1項第3号)

(2)請求項1、2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明である。(特許法第29条第1項第3号)

(3)請求項1、2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証または甲第3号証に記載された発明のいずれかから、当業者が容易に想到できたものである。(特許法第29条第2項)
ここで、各甲号証について、異議申立書には以下のような主張がなされている。

(3-1)甲第1号証を主引例とする場合について
ア 異議申立書の21頁では、高周波低減素子は、甲第2号証ないし甲第6号証に記載された周知慣用技術であると主張している。
イ 異議申立書の21、22頁では、甲第1号証の段落0036、0039、0045、0046、図7、図9を提示し、図9に記載された抵抗素子713を制御基板800側に移動してもよいことは、当業者にとって自明であると主張している。

(3-2)甲第2号証を主引例とする場合について
ア 異議申立書の31頁では、高周波低減素子は、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第6号証に記載された周知慣用技術であると主張している。

(3-3)甲第3号証を主引例とする場合について
ア 異議申立書の34頁では、グランド層をフレームグランドに接地することは周知慣用技術にすぎないことを主張している。
イ 異議申立書の36?39頁では、高周波低減素子についての補足として、甲第4号証?甲第6号証を提示し、ノイズ対策として、グランド線やグランド層に対してノイズ低減素子を介在させるようにすることは、周知慣用技術にすぎないことを主張している。
ウ 異議申立書の42頁では、高周波低減素子は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第6号証に記載された周知慣用技術であると主張している。

(3-4)甲第1号証または甲第2号証および周知慣用技術の組み合わせについて
ア 異議申立書の43?48頁では、画像読取装置のノイズ対策として、甲第7号証ないし甲第10号証を提示し、ノイズ対策として、グランド線やグランド層に対してノイズ低減素子を介在させるようにすることや、高周波発振する部品または高周波信号で動作する部品を搭載した基板のグランド層に現れる高周波ノイズが、電源側あるいは制御部側の基板のグランドに対して影響することを抑制するために、インダクタンス成分を有するコイルやビーズを介して接続することは周知慣用技術にすぎないこと、当該コイルやビーズをどこに設けるかについては、ノイズ低減効果や配置スペースなどの都合に合わせて当業者が適宜設定する設計事項にすぎないことを主張している。
なお、甲第8号証については、取消理由で採用した甲第8号証の11?13頁の記載から認定した甲8技術以外に、8頁の記載から認定した甲8技術2、16頁の記載から認定した甲8技術3が記載されていることを主張している。

(4)請求項1、2は、特許法第36条第6項第1号または第2号に規定する要件を満たしていない。

(4-1)課題解決手段が反映されていない発明であることについて
異議申立書の50?52頁では、高周波低減素子を設けることで必要な周波数帯のすべてにおいてグランドノイズが低減しているとは言い切れない旨の主張をしている。

(4-2)図10(a)に説明される態様しか開示されていないことについて
異議申立書の53、54頁では、高周波低減素子について、図10(a)に説明される態様しか開示されていないことから、本件発明は、明細書及び図面に記載またはサポートされていないものを含み、どのような態様のコネクタかが不明確であり、どのように「介在」しているのかが判然としない旨の主張している。

(5)請求項1、2は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
発明の詳細な説明に記載された発明は、当該課題を解決できていないので、当業者は本件発明を実施することができない。

2 取消理由に採用しなかった異議申立理由についての当審の判断
(1)上記1(1)及び(2)について
上記第5の2(3)ア及び(4)アのように、本件訂正発明1と甲1発明又は甲2発明は、相違点を有するものであるから、本件訂正発明1は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明でない。
また、本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用する発明であり、本件訂正発明2と甲1発明又は甲2発明は、相違点を有するものであるから、本件訂正発明2は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明でない。

したがって、上記1(1)及び(2)の主張を認めることはできない。

(2)上記1(3)について
上記第5の2(1)?(4)では、本件訂正発明1が、甲1発明ないし甲3発明のいずれかと甲4技術と甲8技術から容易に想到できるかについての検討を行った。
しかし、異議申立人は、取消理由で採用した甲第1号証?甲第4号証、甲第8号証の11?13頁(甲8技術)以外に、異議申立書において、甲第5号証?甲第7号証、甲第8号証の8、16頁(甲8技術2、甲8技術3)、甲第9号証、甲第10号証を提示するとともに、上記1(3)(3-1)?(3-4)のような主張をしており、これらの主張は、以下のような5つの主張にまとめられる。(以下「主張1」?「主張5」という。)

(2-1)主張1
高周波低減素子は甲第1号証?甲第6号証に示されるように周知慣用技術である。(上記1(3)(3-1)ア、(3-2)ア、(3-3)ウ)

(2-2)主張2
甲第1号証の抵抗素子を制御基板に移動してもよいことは自明である。(上記1(3)(3-1)イ)

(2-3)主張3
グランド層をフレームグランドに接地することは周知慣用技術である。(上記1(3)(3-3)ア)

(2-4)主張4
甲第4号証?甲第10号証に示されるように、グランド線やグランド層にノイズ低減素子を介在させることは周知慣用技術である。(上記1(3)(3-3)イ、(3-4)ア)

(2-5)主張5
甲第7号証?甲第10号証に示されるように、高周波ノイズがグランドに対して影響することを抑制するために、コイルやビーズを介して接続することは周知慣用技術であり、コイルやビーズをどこに設けるかは設計事項に過ぎない。(上記1(3)(3-4)ア)

以下、各主張について検討する。

ア 主張1、4、5について
主張1、4、5は、高周波(ノイズ)を低減させるための構成について、周知慣用技術であることや設計事項であることを主張するものであるから、以下ではまとめて検討する。
まず、本件訂正発明1が、甲1発明ないし甲3発明のいずれかと、第5の2(1)?(4)では検討しなかった甲5技術?甲7技術、甲9技術、甲10技術から容易に想到できるかについての検討を行う。(下記(ア)?(ウ))
また、異議申立書の44頁における甲第8号証の摘記箇所として、11?13頁(甲8技術)以外に、8、16頁(甲8技術2、甲8技術3)を摘記しているので、それらについての検討を行う。(下記(エ))
最後に、主張1、4、5についての検討を行う。(下記(オ))

(ア)甲1発明ないし甲3発明への甲5技術の適用について
甲5技術は、従来例では、電源用のノイズ対策部品であるフェライトビーズをUSBコネクタの後段に実装する構成であったのを、部品自体を小型化するために、1チップにする構成である。
そうすると、甲1発明ないし甲3発明のいずれかの発明において、USBコネクタにおけるノイズ対策部品を1チップにする甲5技術を勘案しても、本件訂正発明1を想到することはできない。

(イ)甲1発明ないし甲3発明への甲6技術、甲7技術、甲9技術の適用について
a 甲6技術、甲7技術、甲9技術
甲6技術は、USBコネクタのグランドラインにフェライトビーズやコモンモードチョークコイルを接続する技術であるが、いずれもスイッチングによるコモンモードノイズを抑制し、コモンモードのノイズがUSBからケーブルに伝搬しないようにする技術である。

甲7技術は、高周波電流がフレキシブル・ケーブルに漏れないようにするために、高周波で発振するモジュールのGND端子の根元にチップ・ビーズを挿入する技術である。

甲9技術は、フェライトビーズが高周波ノイズの伝播を抑制し、LD駆動部41のスイッチング動作により発生した高周波ノイズは、レーザ基板1のI/O回路部15やコネクタ11へ伝播することが抑制される技術である。

すなわち、甲6技術、甲7技術、甲9技術は、いずれも、ケーブルにノイズが伝搬しないように、ビーズやコイルによってノイズを抑制する技術である。

b 甲3発明への甲6技術、甲7技術、甲9技術の適用について
甲6技術、甲7技術、甲9技術から、ビーズやコイルによってノイズを抑制する技術が周知技術であるとしても、甲6技術、甲7技術、甲9技術は、いずれも、ケーブルにノイズが伝搬しないように、ビーズやコイルによってノイズを抑制する技術であり、すでに、フラットケーブルにCISで発生したノイズが含まれていることを前提とし、その放射ノイズを抑制させるための発明である甲3発明に組み合わせる動機付けがなく、更に、フラットケーブルの途中で、当該フラットケーブルをフェライトコアに通すことにより、放射ノイズを抑制するという課題が解決された甲3発明において、フェライトコアに通す構成を、ビーズやコイルによってノイズを抑制する構成に置き換えることの動機付けもない。

c 甲1発明への甲6技術、甲7技術、甲9技術の適用について
甲6技術、甲7技術、甲9技術から、ビーズやコイルによってノイズを抑制する技術が周知技術であるとしても、そもそも、甲1発明は、カードケーブルに伝送される高周波信号を低減しようする動機付けがないものである。

d 甲2発明への甲6技術、甲7技術、甲9技術の適用について
甲6技術、甲7技術、甲9技術から、ビーズやコイルによってノイズを抑制する技術が周知技術であるとしても、甲6技術、甲7技術、甲9技術は、いずれも、ケーブルにノイズが伝搬しないように、ビーズやコイルによってノイズを抑制する技術であり、すでに、ハーネスにノイズが含まれていることを前提とし、ハーネスにおけるコモンモードノイズの伝送を阻止したり、空間への放射を抑制させたりするための発明である甲2発明に組み合わせる動機付けがなく、更に、ハーネスの途中にコモンモードチョークやフェライトコアを挿入することにより、既にノイズが含まれているハーネスからのコモンモードノイズの伝送を阻止する、又は、ノイズの空間への放射を抑制するという課題が解決された甲2発明において、ハーネスの途中にコモンモードチョークやフェライトコアを挿入する構成を、コネクタにおいて、ビーズやコイルによってノイズを抑制する構成に置き換えることの動機付けもない。

(ウ)甲1発明ないし甲3発明への甲10技術の適用について
甲10技術は、ケーブルのノイズを抑制するためのものではなく、甲1発明ないし甲3発明のいずれかの発明において、甲10技術を勘案しても、本件訂正発明1を想到することはできない。

(エ)甲1発明ないし甲3発明への甲8技術2、甲8技術3の適用について
a 甲8技術2、甲8技術3
甲8技術2は、ノートパソコンのノイズ対策として、ケーブル接続部にコモンモードチョークコイルやチップフェライトビーズを取り付けてノイズを抑制する技術であり、甲8技術3は、内蔵型CD-ROMのノイズ対策として、ヘッドホンケーブル接続部にチップフェライトビーズを取り付けてノイズを抑制する技術である。
しかし、甲8技術2、甲8技術3のいずれについても甲8技術と同様に、ノイズをケーブルに伝搬させないようにする技術である。

b 甲3発明への甲8技術2、甲8技術3の適用について
甲8技術2、甲8技術3から、コモンモードチョークコイルやチップフェライトビーズを取り付けることにより、ノイズを抑制する技術が周知技術であるとしても、甲8技術2、甲8技術3は、ノイズをケーブルに伝搬させないようにする技術であり、すでに、フラットケーブルにCISで発生したノイズが含まれていることを前提とし、その放射ノイズを抑制させるための発明である甲3発明に組み合わせる動機付けがなく、更に、フラットケーブルの途中で、当該フラットケーブルをフェライトコアに通すことにより、放射ノイズを抑制するという課題が解決された甲3発明において、フェライトコアに通す構成を、コネクタにおいて、コモンモードチョークコイルやチップフェライトビーズを取り付ける構成に置き換えることの動機付けもない。

c 甲1発明への甲8技術2、甲8技術3の適用について
甲8技術2、甲8技術3から、コモンモードチョークコイルやチップフェライトビーズを取り付けることにより、ノイズを抑制する技術が周知技術であるとしても、そもそも、甲1発明は、カードケーブルに伝送される高周波信号を低減しようする動機付けがないものである。

d 甲2発明への甲8技術2、甲8技術3の適用について
甲8技術2、甲8技術3から、コモンモードチョークコイルやチップフェライトビーズを取り付けることにより、ノイズを抑制する技術が周知技術であるとしても、甲8技術2、甲8技術3は、ノイズをケーブルに伝搬させないようにする技術であり、すでに、ハーネスにノイズが含まれていることを前提とし、ハーネスにおけるコモンモードノイズの伝送を阻止したり、空間への放射を抑制させたりするための発明である甲2発明に組み合わせる動機付けがなく、更に、ハーネスの途中にコモンモードチョークやフェライトコアを挿入することにより、既にノイズが含まれているハーネスからのコモンモードノイズの伝送を阻止する、又は、ノイズの空間への放射を抑制するという課題が解決された甲2発明において、ハーネスの途中にコモンモードチョークやフェライトコアを挿入する構成を、コネクタにおいて、コモンモードチョークコイルやチップフェライトビーズを取り付ける構成に置き換えることの動機付けもない。

(オ)主張1、4、5についての判断
以上のことから、主張1、4、5のように高周波低減素子が周知慣用技術であり、グランド線やグランド層にノイズ低減素子を介在させること、高周波ノイズがグランドに対して影響することを抑制するために、コイルやビーズを介して接続することが周知慣用技術であり、コイルやビーズをどこに設けるかは設計事項に過ぎないとしても、甲1発明?甲3発明に、他の甲号証を適用する動機付けがない以上、甲1発明?甲3発明及び他の甲号証から本件訂正発明1を想到することはできない。

イ 主張2について
上記第5の2(3)イで検討したように、甲1発明は、カードケーブルに伝送される高周波信号を低減しようする動機付けがないものであるから、抵抗素子を制御基板に移動してもよいことは自明であるとはいえず、上記主張2を認めることはできない。

ウ 主張3について
グランド層をフレームグランドに接地することは周知慣用技術であるとしても、甲1発明?甲3発明に、他の甲号証を適用する動機付けがない以上、甲1発明?甲3発明及び他の甲号証から本件訂正発明1を想到することはできない。

エ まとめ
したがって、上記1(3)の主張を勘案しても、甲1発明?甲3発明及び他の甲号証から本件訂正発明1を想到することはできない。
また、本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用する発明であるから、甲1発明?甲3発明及び他の甲号証から本件訂正発明2を想到することはできない。

(3)上記1(4)及び(5)について
ア 上記1(4)(4-1)について
確かに、異議申立人が主張するように、図11(a)と(b)を対比すると、高周波低減素子を設けない比較例の方がノイズの少ない部分も見受けられる。
しかし、大部分の領域では、高周波低減素子を設けた本発明の構成の方がノイズが少なくなっており、特異な箇所が存在するものの、本件訂正発明は、課題を解決する構成であると認められる。
よって、本件訂正発明は、課題解決手段が反映されている発明であり、発明の詳細な説明に記載された発明は、課題を解決できたものである。

イ 上記1(4)(4-2)について
訂正前の請求項1に係る発明の「高周波低減素子」は、訂正により、「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され」る「高周波低減素子」となった。
図10(a)に説明される態様は、本件訂正発明の具体例の1つであり、本件訂正発明1の「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され」る「高周波低減素子」は、当該具体例に対して拡張ないし一般化した事項といえ、また、「前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され」る「高周波低減素子」と訂正されたことにより、どのような態様のコネクタであるかが明確となった。
また、「介在」との記載は、「接続」となったので、「介在」しているのかが判然としない旨の主張は、理由がないものとなった。

ウ 上記1(5)について
上記アで検討したように、本件訂正発明は、課題を解決する構成であると認められるので、上記1(5)の主張を認めることはできない。

エ 小活
以上より、上記1(4)及び(5)の主張を認めることはできない。

(4)まとめ
上記(1)?(3)より、取消理由通知で採用しなかった特許異議申立人の主張は、採用することはできない。

第7 令和2年11月11日に提出された意見書における異議申立人の主張について
1 意見書の内容
異議申立人は意見書において、追加の主張として、プリント基板には、かならず、グランドパターンなどのグランド層が設けられることを主張し、その例として、参考文献1(特開2013-154506号公報)を提示している。

2 検討
参考文献1には、グランド層が設けられたプリント基板に関する技術が開示されているものの、高周波低減素子に関する技術についての開示はなく、甲1発明ないし甲3発明のいずれかの発明において、参考文献1技術を勘案して、甲1発明ないし甲3発明の画像読み取り用の回路基板にグランド層が設けられるとしても、本件訂正発明1に想到することはできない。
また、本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用する発明であるから、甲1発明ないし甲3発明のいずれかの発明において、参考文献1技術を勘案して、甲1発明ないし甲3発明の画像読み取り用の回路基板にグランド層が設けられるとしても、本件訂正発明2に想到することはできない。

以上より、異議申立人の意見書における主張は、採用することができない。

第8 むすび
以上のとおり、請求項1、2に係る発明については、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】
画像読取装置及び画像形成装置
【技術分野】
【0001】
この発明は、画像読取装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノイズ抑制装置に関する技術としては、例えば、特許文献1及び2に開示されたものが既に提案されている。
【0003】
特許文献1は、アースラインチョークを実装しても高周波数帯域でのEMIノイズ抑制特性が劣化しないノイズフィルタ回路を提供するため、ACライン側のグランドに接地されたアースラインにアースラインチョークを挿入すると共に、ノイズ削減を行う素子として、チョークコイルやアースラインに一端が接続されるコンデンサを有する装置において、アースラインチョークを、比透磁率が数千のコア材に数回巻線したインダクタンス数十?数百μHの第1インダクタと、比透磁率が数百のコア材に数回巻線したインダクタンス数μHの第2インダクタの二段構成としたものである。
【0004】
特許文献2は、差動伝送線路において同相成分を遮断したい周波数で反共振を発生させずに同相成分を遮断できるノイズフィルタを提供するため、一対の伝送線路における送信回路の近傍に一端が接続され、他端同士が短絡して接続され、一対の伝送線路を伝送する同相成分に対しては磁束が打ち消し合い、一対の伝送線路を伝送する逆相成分に対しては磁束が強め合う電磁結合状態の一対のコイルと、一対のコイルとグラウンドとの間に直列接続されたインダクタ及びキャパシタを有する直列回路と、を備え、一対のコイルの同相成分に対する実効インダクタンスとインダクタのインダクタンスとの合成インダクタンスの値と、キャパシタの容量の値とが、一対のコイル及び直列回路による前記同相成分による共振周波数を目標周波数にする値に設定されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開平06-236822号公報
【特許文献2】 特開2012-70279
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、第2の回路基板のグランド層と伝送線路のグランド線との間に接続され、伝送線路のグランド線に励起される高周波信号を低減する高周波低減素子を備えない場合に比較して、高周波信号に起因したグランドノイズを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明は、画像を読み取る画像読取素子を実装した基板であって、接地されていない画像読取基板と、
前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路を介して接続され、接地されたグランド層を有する制御基板と、
前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され、前記伝送線路のグランド線に励起される高周波信号を低減する高周波低減素子と、
を具備する画像読取装置である。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の画像読取装置と、
前記画像読取装置によって読み取られた画像を記録媒体に形成する画像形成手段と、
を備える画像形成装置である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載された発明によれば、制御基板のグランド層と伝送線路のグランド線との間に接続され、伝送線路のグランド線に励起される高周波信号を低減する高周波低減素子を備えない場合に比較して、高周波信号に起因したグランドノイズを低減することができる。
【0012】
請求項2に記載された発明によれば、請求項1に記載の画像読取装置を備えない場合に比較して、グランドノイズの影響が画像に現れるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係るノイズ低減装置及び画像読取装置を適用した画像形成装置を示す全体構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る画像読取装置を示す構成図である。
【図3】画像読取ユニットを示す構成図である。
【図4】画像読取ユニットを示す断面構成図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係るノイズ低減装置を適用した画像読取装置を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係るノイズ低減装置を適用した画像読取装置の要部を示すブロック図である。
【図7】従来の画像読取装置の要部を示す模式図である。
【図8】従来の画像読取装置の要部を示す模式図である。
【図9】従来の画像読取装置の要部を示す構成図である。
【図10】この発明の実施の形態1に係るノイズ低減装置を適用した画像読取装置の要部を示す構成図である。
【図11】同図(a)(b)は実験例及び比較例の結果をそれぞれ示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
[実施の形態1]
図1はこの発明の実施の形態1に係るノイズ低減装置及び画像読取装置を適用した画像形成装置の全体の概要を示す構成図である。
【0016】
<画像形成装置の全体の構成>
実施の形態1に係る画像形成装置1は、図1に示されるように、例えばカラー複写機として構成されたものである。画像形成装置1は、原稿の画像を読み取る画像読取装置3と、画像読取装置3で読み取られた画像データや外部から入力される画像データに基づいて記録媒体に画像を形成する画像形成手段の一例としての画像形成部2とを備えている。画像読取装置3は、画像形成部2を収容した装置本体1aの上方に支持部4により支持された状態で配置されている。画像読取装置3と装置本体1aとの間には、画像が形成された記録媒体を排出するための空間が形成されている。
【0017】
画像形成部2は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の4色のトナー像をそれぞれ専用に形成する4つの作像装置10Y,10M,10C,10Kと、各作像装置10Y,10M,10C,10Kで形成されるトナー像をそれぞれ保持して最終的に記録媒体の一例としての記録用紙5に二次転写する二次転写位置まで搬送する中間転写装置20と、中間転写装置20の二次転写位置に供給すべき所要の記録用紙5を収容して搬送する給紙装置50と、中間転写装置20で二次転写された記録用紙5上のトナー像を定着させる定着装置40等を備えている。
【0018】
<画像読取装置の構成>
図2はこの実施の形態1に係る画像読取装置の構成を示す概略構成図である。
【0019】
画像読取装置3は、大別して、上端面に原稿読取面が形成された筐体31と、筐体31に対して開閉自在に取り付けられた原稿押さえカバー32と、原稿押さえカバー32の一端部(図示例では左側端部)に設けられた自動原稿搬送装置(DADF:Duplex Automatic Document Feeder)33とを備えている。
【0020】
画像読取装置3は、ユーザの操作に応じて、自動原稿搬送装置33によって原稿6を一枚ずつ自動的に搬送しながら原稿6の表面及び裏面の画像を読み取る第1の読取モードと、後述する原稿台69の上に置かれる原稿6の表面の画像を読み取る第2の読取モードとに切り替え可能に構成されている。
【0021】
自動原稿搬送装置33は、読取面(第1面)を上にした状態で複数枚の原稿6を積載して収容可能な原稿収容部60と、原稿収容部60から原稿6を送り出すナジャーローラ61と、ナジャーローラ61によって送り出された原稿6を1枚ずつ捌いて供給するフィードローラ62と、フィードローラ62に押圧されて原稿6を1枚ずつ捌くリタードパッド62aと、原稿6を第1の読取位置へ搬送する第1の搬送ローラ63と、第1の搬送ローラ63により搬送される原稿6を第1の読取位置へ搬送する第2の搬送ローラ64と、第2の搬送ローラ64の下流側に配置され、第1の読取位置を通過した原稿6を搬送する第3の搬送ローラ65と、第3の搬送ローラ65により搬送される原稿6を排出収容部66へ排出する排出ローラ67から構成される原稿搬送機構(搬送手段)を有している。これらのナジャーローラ61、フィードローラ62、第1乃至第3の搬送ローラ63?65及び排出ローラ67は、原稿6の読み取り時に図示しない駆動手段によって駆動される。第1の搬送ローラ63は、原稿6の読取位置への搬送時期を調整するレジストローラである。
【0022】
第1の搬送ローラ63は、下方に配置された駆動ローラとしての搬送ローラ63bが停止している間に、原稿6の搬送方向に沿った上流側に位置するフィードローラ62により搬送される原稿6の先端が当該搬送ローラ63bと従動ローラとしての搬送ローラ63aとの圧接部に突き当てられる。そして、第1の搬送ローラ63は、原稿6の先端領域を撓ませることで、原稿6の先端を第1の搬送ローラ63の軸方向と一致させた後に原稿6の搬送を開始することによりスキュー補正を行う。
【0023】
また、自動原稿搬送装置33は、原稿6を第1の読取位置に案内するとともに第1の読取位置から排出方向に案内する横向きの略U字形状に形成された搬送経路68を備えている。
【0024】
画像読取装置3の筐体31は、上端面の一部が開口した直方体状の箱体として形成されている。筐体31は、原稿押さえカバー32に対向する上壁312と、上壁312に対向する底壁313と、底壁313を挟んで副走査方向(図2の左右方向)に対向する側壁314及び側壁315と、筐体31の前面に位置する前壁311(図1参照)と、前壁311に対して主走査方向(図2の紙面に直交する方向)に沿って対向する後壁316とを有している。
【0025】
筐体31の上壁312には、第2の読取モード時に読み取られる原稿6の第2の読取位置に対応する部位に平面矩形状の大きな開口部317が形成されている。開口部317には、原稿6を支持する透明な原稿台69(プラテンガラス)が配置されている。また、原稿台69の自動原稿搬送装置33側には、第1の読取モード時に原稿6の表面(第1面)の画像を読み取るための透明な読取窓70が設けられている。読取窓70と原稿台69との間には、第1の読取モード時に読取位置を通過した原稿6を第3の搬送ローラ65へと案内する上端面が傾斜した案内部材71が設けられている。
【0026】
画像読取装置3は、筐体31の内部に、原稿6の表面の画像を読み取る第1の画像読取手段の一例としての第1の画像読取ユニット72を備えている。第1の画像読取ユニット72は、主走査方向(図面に直交する方向)に沿って配置されている。また、第1の画像読取ユニット72は、副走査方向に沿って図示しない駆動プーリや駆動ワイヤ等を介して駆動モータMにより移動可能に構成されたキャリッジからなる移動体73に取り付けられている。移動体73は、図示しないレールによって案内され、副走査方向に沿って図2中に矢印で示す領域において移動可能に構成されている。移動体73は、第1の読取モード時、図示された位置に停止される。また、移動体73は、第2の読取モード時、副走査方向に沿って移動しながら原稿台69上に載せられた原稿6の読取対象領域を照明しつつ、原稿6の画像を読み取る。
【0027】
また、画像読取装置3は、自動原稿搬送装置33の内部に、原稿6の裏面(第2面)の画像を読み取る第2の画像読取手段の一例としての第2の画像読取ユニット74を備えている。第2の画像読取ユニット74は、搬送経路68において第3の搬送ローラ65の上流側に配置されている。なお、第2の画像読取ユニット74は、原稿6の裏面の画像を読取可能な位置であれば、第1の読取位置に停止した第1の画像読取ユニット72と対向する位置などに配置しても良い。
【0028】
第1及び第2の画像読取ユニット72,74としては、例えば、密着型のイメージセンサであるCIS(Contact Image Sensor)が用いられる。第1及び第2の画像読取ユニット72,74は、図3に示されるように、例えば、合成樹脂等によってA4サイズ(210×297mm)の原稿6の短手方向又は長手方向に対応した長さを有する断面矩形の細長い長方体状に形成されている。第1及び第2の画像読取ユニット72,74は、その筐体75の上端面に原稿6を照明しつつ画像を読み取る読取用の開口部76を有している。尚、第1及び第2の画像読取ユニット72,74は、同様に構成されている。
【0029】
更に説明すると、第1及び第2の画像読取ユニット72,74は、図4に示されるように、原稿6を照明するLED(Light Emitting Diode)からなる照明手段の一例としての光源77と、光源77から出射された光を原稿6へ向けて拡散することにより原稿6を一様に照明するディフューザ78と、原稿6の画像を画像読取素子79に結像する結像レンズとしてのセルフォック(登録商標)レンズ80と、原稿6の画像を読み取るCCD(Charge-Coupled Device)等からなる画像読取素子79とを備えている。画像読取素子79は、第1の回路基板の一例としての画像読取基板81に実装されている。尚、画像読取素子79としては、CCDに限定されるものではなく、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等を用いても良い。
【0030】
第1の読取モード時には、図2に示されるように、移動体73を筐体31の左側の端部に設定された第1の読取位置に停止させた状態で、自動原稿搬送装置33によって原稿6を自動的に搬送する。第1の画像読取ユニット72は、図4に示されるように、読取窓70の上部を通過する原稿6を光源77により照明しつつ、原稿6からの反射光像をセルフォック(登録商標)レンズ80を介して画像読取素子79に結像し、画像読取素子79により原稿6の表面の画像を読み取る。画像読取素子79は、読み取った原稿6の表面の画像データ(信号)を出力する。また、第2の画像読取ユニット74は、図2に示されるように、案内部材71の上部を搬送経路68に沿って通過する原稿6の裏面(第2面)を光源77により照明しつつ、原稿6からの反射光像をセルフォック(登録商標)レンズ80を介して画像読取素子79に結像し、画像読取素子79により原稿6の裏面の画像を読み取る。画像読取素子79は、読み取った原稿6の裏面の画像データ(信号)を出力する。
【0031】
一方、第2の読取モード時には、図2に示されるように、移動体73を駆動モータMによって駆動し、移動体73が副走査方向に沿って移動する間に、原稿6を第1の画像読取ユニット72の光源77により照明する。第1の画像読取ユニット72は、図4に示されるように、原稿6からの反射光像をセルフォック(登録商標)レンズ80を介して画像読取素子79に結像し、画像読取素子79により原稿6の表面の画像を読み取って画像読取素子79から画像データを出力する。
【0032】
<画像読取装置の要部の構成>
この実施の形態1に係る画像読取装置3を備えた画像形成装置1は、図5に示されるように、第1の画像読取ユニット72の画像読取素子79_(1)が実装された第1の回路基板の一例としての第1の画像読取基板81_(1)と、第2の画像読取ユニット74の画像読取素子79_(2)が実装された同じく第1の回路基板の一例としての第2の画像読取基板81_(2)と、制御回路(ASIC:application specific integrated circuit)82が実装された第2の回路基板の一例としての制御基板83と、画像読取装置3で読み取られた原稿6の画像や外部から入力される画像データに基づいて画像を出力する画像出力部84と、制御基板83及び画像出力部84に所要の直流電圧等の電力を供給する電源回路85と、ユーザが画像形成動作を入力するユーザインターフェイス86を備えている。電源回路85には、商用電源87から交流100V等の電圧が供給される。また、制御基板83は、グランド端子88を介してアースに接続されている。
【0033】
第1の画像読取基板81_(1)に実装された画像読取素子79_(1)は、高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路の一例としての第1のフレキシブルフラットケーブル91(FFC:Flexible Flat Cable)を介して制御基板83と接続されている。同様に、第2の画像読取基板81_(2)に実装された画像読取素子79_(2)は、高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路の一例としての第2のフレキシブルフラットケーブル92(FFC)を介して制御基板83と接続されている。制御基板83には、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92が接続される第1及び第2のコネクタ93,94を有している。
【0034】
図6は画像形成装置及び画像読取装置における各回路の接続状態を示すブロック図である。
【0035】
第1の画像読取基板81_(1)に実装された画像読取素子79_(1)は、第1のフレキシブルフラットケーブル91を介して制御基板83の制御回路(ASIC)82と接続されている。制御回路(ASIC)82から画像読取素子79_(1)へは、例えば、100MHz?1GHzの高周波クロック信号からなる同期信号と、制御信号及び電源とが出力される。これに対して、画像読取素子79_(1)から制御回路(ASIC)82へは、画像信号が出力される。また、第1のフレキシブルフラットケーブル91は、シールド等からなるグランド線91aを有している。同様に、第2の画像読取基板81_(2)に実装された画像読取素子79_(2)は、第2のフレキシブルフラットケーブル92を介して制御基板83の制御回路(ASIC)82と接続されている。制御回路(ASIC)82から画像読取素子79_(2)へは、例えば、100MHz?1GHzの高周波クロック信号からなる同期信号と、制御信号及び電源とが出力される。これに対して、画像読取素子79_(2)から制御回路(ASIC)82へは、画像信号が出力される。また、第2のフレキシブルフラットケーブル92は、シールド等からなるグランド線92aを有している。
【0036】
また、制御回路(ASIC)82から画像出力部84へは、制御信号と駆動電圧と画像データ信号が出力される。さらに、制御回路(ASIC)82から電源回路86へは、制御信号が出力され、電源回路86から制御回路(ASIC)82へ所要の電圧が出力される。
【0037】
ところで、従来の画像読取装置3においては、図7に示されるように、画像読取素子79が画像読取装置3の筐体31の内部に接地された金属製のシールド部材100により覆われた状態で配置されている。そのため、画像読取素子79を駆動するIC101等から発生する高周波ノイズ(EMI:Electro Magnetic Interference)は、金属製のシールド部材100を介してグランドへ流れるので問題となり難い。
【0038】
これに対して、本実施の形態の場合には、図8に示されるように、画像読取素子79が実装された画像読取基板81が第1及び第2の画像読取ユニット72,74に実装されており、第1及び第2の画像読取ユニット72,74は、金属製のシールド部材を備えていない。そのため、画像読取素子79を駆動するIC等から発生する高周波ノイズ(EMI)は、そのままでは金属製のシールド部材を介してグランドへ流れることができず、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92のグランド線91a,92aに重畳することとなる。その結果、高周波ノイズ(EMI)は、図9に示されるように、コネクタ93,94のグランド端子95を介して制御基板83のグランド層96に拡散し、同期信号の周期を有する電流ノイズとして発生する。
【0039】
そこで、この実施の形態では、図10に示されるように、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92のグランド線91a,92aに接続されたコネクタ93,94のケーシング97を、グランド端子98を介して制御基板83のグランド層96に直接接続するのではなく、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92のグランド線91a,92aに励起される高周波信号を低減する高周波低減素子の一例としての高周波低減コイル99を介して制御基板83のグランド層96に接続するように構成している。制御基板83のグランド層96は、図5に示されるように、グランド端子88を介して接地されている。
【0040】
ここで、高周波低減コイル99のインピーダンスZは、ノイズの周波数をf(Hz)、高周波低減コイル99のインダクタンスL(H)とすると、|Z|=2πfLで与えられる。高周波ノイズの周波数が100MHz?1GHz程度である場合には、高周波低減コイル99のインダクタンスLは、例えば、0.1?1μH程度に設定される。
【0041】
<画像読取装置の要部の作用>
この実施の形態1に係る画像読取装置3では、制御基板83に第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92を介して接続された画像読取基板81,81_(2)からの高周波信号に起因したグランドノイズが次のようにして低減される。
【0042】
画像読取装置3では、図6に示されるように、画像読取基板81,81_(2)に実装された画像読取素子79_(1),79_(2)によって原稿6の画像を読み取る際に、制御基板83の制御回路(ASIC)82から第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92を介して画像読取基板81,81_(2)の画像読取素子79_(1),79_(2)に100MHz?1GHz程度の同期信号(クロック信号)及び制御信号が電源と共に出力され、画像読取基板81_(1),81_(2)の画像読取素子79_(1),79_(2)から画像信号が送信される。
【0043】
このとき、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92のグランド線91a,92bには、図10(b)に示されるように、同期信号(クロック信号)によって当該同期信号(クロック信号)と周波数が等しい100MHz?1GHz程度の高周波ノイズ(EMI)が励起される。
【0044】
ところで、この実施の形態では、図10(a)に示されるように、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92のグランド線91a,92b(図6参照)に接続されたコネクタ93,94のケーシング97が、グランド端子98及び高周波低減コイル99を介して制御基板83のグランド層96に接続されている。そのため、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92のグランド線91a,92bに励起された高周波ノイズ(EMI)は、図10(b)に示されるように、高周波低減コイル99によって減衰される。したがって、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92のグランド線91a,92bに励起された高周波ノイズ(EMI)が制御基板83のグランド層96等に流れ、制御回路(ASIC)82などの動作に不具合が生じることが抑制乃至回避される。
【0045】
実験例
次に、本発明者は、本発明に係る上記実施形態1の効果を確認するため、図5及び図10(a)に示されるような画像読取装置3を試作し、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92から放射される高周波ノイズ(EMI)の電界強度を測定する実験を行った。
【0046】
図11(a)は上記実験例の結果における高周波ノイズ(EMI)の電界強度を示すグラフである。
【0047】
この図11(a)から明らかなように、200?700MHz帯の高周波ノイズ(EMI)が大幅に低減されることが判る。
【0048】
比較例
次に、本発明者は、比較例として図5及び図9に示されるような従来の画像読取装置3を試作し、第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル91,92から放射される高周波ノイズ(EMI)の電界強度を測定する実験を行った。
【0049】
図11(b)は上記比較例の結果における高周波ノイズ(EMI)の電界強度を示すグラフである。
【0050】
この図11(b)から明らかなように、高周波低減コイル99を設けなかった場合には、200?700MHz帯の高周波ノイズ(EMI)の強度が大きく、制御回路(ASIC)82などに動作の不具合が生じる虞れを有していることが判った。
【0051】
なお、前記実施の形態では、高周波低減素子として高周波低減コイルを用いた場合について説明したが、高周波低減素子としてはこれに限定されるものではなく、C?R回路やチェナーダイオード等を用いても良い。
【符号の説明】
【0052】
1...画像形成装置
1a...画像形成装置本体
3...画像読取装置
31...画像読取装置筐体
79_(1),79_(2)...画像読取素子
81_(1),81_(2)...画像読取基板
82...制御基板
83...制御回路
91,92...第1及び第2のフレキシブルフラットケーブル
93,94...コネクタ
99...高周波低減コイル
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を読み取る画像読取素子を実装した基板であって、接地されていない画像読取基板と、
前記画像読取基板に高周波信号が伝送される信号線及びグランド線を含む伝送線路を介して接続され、接地されたグランド層を有する制御基板と、
前記制御基板のグランド層と前記伝送線路のグランド線との間に接続され、前記伝送線路のグランド線に励起される高周波信号を低減する高周波低減素子と、
を具備する画像読取装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像読取装置と、
前記画像読取装置によって読み取られた画像を記録媒体に形成する画像形成手段と、
を備える画像形成装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-05 
出願番号 特願2015-187208(P2015-187208)
審決分類 P 1 651・ 853- YAA (H04N)
P 1 651・ 536- YAA (H04N)
P 1 651・ 851- YAA (H04N)
P 1 651・ 537- YAA (H04N)
P 1 651・ 121- YAA (H04N)
P 1 651・ 113- YAA (H04N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 花田 尚樹  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 小池 正彦
渡辺 努
登録日 2019-09-13 
登録番号 特許第6582801号(P6582801)
権利者 富士ゼロックス株式会社
発明の名称 画像読取装置及び画像形成装置  
代理人 小泉 雅裕  
代理人 中村 智廣  
代理人 青谷 一雄  
代理人 小泉 雅裕  
代理人 亀井 岳行  
代理人 中村 智廣  
代理人 青谷 一雄  
代理人 亀井 岳行  

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