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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C21C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C21C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C21C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C21C
管理番号 1374868
異議申立番号 異議2020-700020  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-16 
確定日 2021-03-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6544638号発明「Ti含有マルエージング鋼の製造方法及びそのプリフォームの製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6544638号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項4について訂正することを認める。 特許第6544638号の請求項4に係る特許を取り消す。 特許第6544638号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6544638号(請求項の数4。以下,「本件特許」という。)は,平成27年8月28日を出願日とする特許出願(特願2015-169021号)に係るものであって,令和1年6月28日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和1年7月17日である。)。
その後,令和2年1月16日に,本件特許の請求項1?4に係る特許に対して,特許異議申立人である影山秀一(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

令和2年 1月16日 特許異議申立書
4月15日付け 取消理由通知書
6月18日 意見書,訂正請求書
7月 6日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
8月 3日 意見書(申立人)
9月14日付け 取消理由通知書(決定の予告)

なお,上記取消理由通知書(決定の予告)に対して,特許権者は応答しなかった。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和2年6月18日提出の訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項4について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項4に「真空溶解炉において溶鋼中にCを添加して」と記載されているのを,「リークアップレートを調整した真空溶解炉の内部を真空引きしつつ溶鋼中にCを添加して」に訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項4に対して,「リークアップレートを調整した」との記載を追加するとともに,訂正前の請求項4における「真空溶解炉において」との記載を,「真空溶解炉の内部を真空引きしつつ」とするものである。
この訂正は,訂正前の請求項4における「真空溶解炉」について,「リークアップレートを調整した」ものに限定するとともに,同「溶鋼中にCを添加」することについて,「真空溶解炉において」行うとしていたものを,「真空溶解炉の内部を真空引きしつつ」行うものに限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面には,「リークアップレートを調整した真空溶解炉の内部を真空引きしつつ溶鋼中にCを添加して」(請求項1)との記載があるから,この訂正は,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)独立特許要件について
本件においては,訂正前の全ての請求項1?4について特許異議の申立てがされているので,特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。

3 まとめ
上記2のとおり,訂正事項1に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?4に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
消耗電極による真空再溶解法によって少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法であって,
リークアップレートを調整した真空溶解炉の内部を真空引きしつつ溶鋼中にCを添加して酸素を真空炭素脱酸し,生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し,N_(2)を排出し析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させた一次鋼塊から前記消耗電極を形成し,前記真空溶解炉よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得ることを特徴とするTi含有マルエージング鋼の製造方法。
【請求項2】
Mg及び/又はZrを添加して前記酸化物及び/又は窒化物を与えることを特徴とする請求項1記載のTi含有マルエージング鋼の製造方法。
【請求項3】
前記真空溶解炉のるつぼは出鋼後に減圧雰囲気及び/又は窒素ガスを除く不活性ガス雰囲気で温度を降下させることを特徴とする請求項1又は2に記載のTi含有マルエージング鋼の製造方法。
【請求項4】
少なくともTiを含むマルエージング鋼用プリフォームの製造方法であって,
リークアップレートを調整した真空溶解炉の内部を真空引きしつつ溶鋼中にCを添加して酸素を真空炭素脱酸し,生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し,N_(2)を排出し凝固させることを特徴とするTi含有マルエージング鋼用プリフォームの製造方法。

第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件特許の請求項1?4に係る特許は,下記(1)?(6)のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は,下記(7)の甲第1号証?甲第4号証(以下,単に「甲1」等という。)である。
(1)申立理由1(実施可能要件)
本件訂正前の請求項1?4に係る発明については,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?4に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(2)申立理由2(明確性要件)
本件訂正前の請求項1?4に係る発明については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?4に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件訂正前の請求項1?4に係る発明については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?4に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(4)申立理由4-1(進歩性)
本件訂正前の請求項1,2及び4に係る発明は,甲1に記載された発明並びに甲3及び4に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1,2及び4に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(5)申立理由4-2(進歩性)
本件訂正前の請求項1,2及び4に係る発明は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1,2及び4に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(なお,申立書13頁には,「本件特許の請求項1?4に係る発明は,甲第2号証の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである」と記載されているが,申立書1,5及び14頁の記載からみて,上記の「請求項1?4に係る発明」は,「請求項1,2及び4に係る発明」の誤記と解される。)
(6)申立理由5(新規性)
本件訂正前の請求項4に係る発明は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項4に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(7)証拠方法
・甲1 特開昭54-31017号公報
・甲2 特開2015-61932号公報
・甲3 国際公開第2005/035798号
・甲4 特開2006-200026号公報

2 意見書(申立人)とともに提出された証拠方法
・参考資料1 特開2004-18947号公報

3 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)令和2年4月15日付けの取消理由通知書
ア 取消理由1(新規性)
上記1の申立理由5(新規性)と同旨
(2)令和2年9月14日付けの取消理由通知書(決定の予告)
ア 取消理由1’(新規性)
上記1の申立理由5(新規性)(ただし,本件訂正後の本件発明4に対するもの。)と同旨
イ 取消理由2(進歩性)
本件発明4は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項4に係る特許は,同法113条2号に該当し,取り消すべきものである。

第5 当審の判断
以下に述べるように,本件発明4は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるか,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,同法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項4に係る特許は,同法113条2号に該当し,取り消すべきものである。
また,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由1(新規性),取消理由1’(新規性),取消理由2(進歩性),申立理由5(新規性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(特許請求の範囲,3頁左上欄10行?右上欄20行,4頁右上欄5?11行,5頁右下欄13行?6頁右上欄12行の,実施例2)によれば,特に実施例2に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「塩基性電弧炉にマルエージング鋼スクラップと少量の焼石灰及びホタル石を加えて溶解し,溶鋼温度を1600℃まで昇温させた後スラグを除去し,次いでアルミニウムを加え,その直後に少量の焼石灰,ホタル石及びアルミニウムを加えてCaO-Al_(2)O_(3)-CaF_(2)系の塩基性脱硫滓を鋼浴中で形成させ,脱硫滓が完全に溶解した後Ni-Ca(6%)を添加し,約10分経過後スラグを除去し,次いで少量の石灰石とホタル石を添加し酸素ガスを鋼浴中に吹込んで,アルミニウム及びチタンの酸化除去及び酸素の溶解を行ない,酸素濃淡電池による溶鋼中の溶解酸素量測定値が0.031%になったときに酸素ガスの吹込みを停止してスラグを除去し,鋳型に装入し,
酸化処理後に採取した試料の分析結果は,炭素:0.018%,珪素0.01%以下,マンガン:0.03%,リン:0.004%,硫黄:0.002%,ニッケル:20.6%,コバルト:11.1%,モリブデン:4.3%,チタニウム:0.01%,アルミニウム:0.002%,酸素:0.032%,窒素:0.0060%であり,
上記で得た溶製原料に所定量の電解鉄,電解ニッケル,金属コバルト,金属モリブデン及び少量の黒鉛を配合し,真空高周波誘導溶解で30分間処理し,炭素:0.003%,珪素:0.01%以下,マンガン:0,01%以下,リン:0.004%,硫黄:0.002%,酸素:0.0007%,窒素:0.0013%の不純物含量の極めて少ない鋼塊を得る,
マルエージング鋼の鋼塊の製造方法。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)本件発明4について
ア 対比
本件発明4と甲1発明とを対比する。
甲1発明において,「マルエージング鋼スクラップ」に対して所定の処理を施すことにより得られた「溶製原料」に,「少量の黒鉛を配合し,真空高周波誘導溶解で30分間処理し」,所定の「鋼塊を得る」ことは,本件発明4において,「真空溶解炉」において「溶鋼中にCを添加して」,「凝固させる」ことに相当する。
甲1発明における溶製原料(酸化処理後に採取した試料)は,少なくともチタニウムを含むものであるが,当該溶製原料から得られたマルエージング鋼の鋼塊にも,少なくともチタニウムが含まれることは明らかであるから,甲1発明における,少なくとも「チタニウム」を含む「マルエージング鋼の鋼塊の製造方法」は,本件発明4における「少なくともTiを含むマルエージング鋼用プリフォームの製造方法」に相当する。
以上によれば,本件発明4と甲1発明とは,
「少なくともTiを含むマルエージング鋼用プリフォームの製造方法であって,
真空溶解炉において溶鋼中にCを添加して,凝固させるTi含有マルエージング鋼用プリフォームの製造方法。」
の点で一致し,以下の点で一応相違する。
・相違点1
本件発明4では,真空溶解炉において溶鋼中にCを添加することにより,「酸素を真空炭素脱酸し,生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し,N_(2)を排出」するのに対して,甲1発明では,「溶製原料」に,「少量の黒鉛を配合し,真空高周波誘導溶解で30分間処理」するものの,「酸素を真空炭素脱酸し,生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し,N_(2)を排出」するものであるかどうか不明である点。
・相違点2
本件発明4では,真空溶解炉が「リークアップレートを調整した」ものであり,「真空溶解炉の内部を真空引きしつつ」溶鋼中にCを添加するのに対して,甲1発明では,真空高周波誘導溶解に用いる炉が「リークアップレートを調整した」ものであるかどうか不明であり,真空高周波誘導溶解に用いる炉の「内部を真空引きしつつ」溶製原料に少量の黒鉛を配合するかどうか不明である点。

イ 相違点1の検討
(ア)甲1には,以下の記載がある(下線は,当審において付与した。)。
「このような目的を達成し得た本発明方法の構成とは,マルエージング鋼スクラップを電弧炉又は誘導溶解炉で溶解し,これに酸素ガスを吹込んでスクラップ中のチタンとアルミニウムを酸化除去すると共に,溶鋼中の溶解酸素量を0.02?0.1%(重量:以下同様)とし,これを真空溶解処理して溶鋼中の炭素を酸素と反応させて一酸化炭素として除去すると共に溶解窒素を除去し,鋼中の炭素を0.01%以下,窒素を0.002%以下に減ずるところに要旨があり,この処理によってスクラップ中の非金属不純物を可及的に減じて物理的諸特性を確保し,且つスクラップ中のチタン及びアルミニウムを予備処理で除去することにより,真空溶解処理後の成分調整を簡素化し得るようにしたものである。」(3頁左上欄17行?右上欄11行)
「以上の様にして酸化処理された溶鋼は次いで真空溶解炉に移され,真空溶解処理される。この工程ではスクラップ中に混入している炭素が溶解酸素と反応して一酸化炭素となって除去され,そのガス泡と共に溶解窒素も除去されて炭素含量0.01%以下,窒素含量0.002%以下の極低炭素・窒素鋼が簡単に得られる。」(4頁右上欄5?11行)

(イ)甲1発明は,「溶製原料」に,「少量の黒鉛を配合し,真空高周波誘導溶解で30分間処理」するものであるが,上記(ア)の記載によれば,溶製原料に配合した黒鉛(炭素)は,真空高周波誘導溶解処理において,溶鋼中の酸素と反応して一酸化炭素となって除去され,そのガス泡とともに窒素も除去されるものと解される。
すなわち,甲1発明においては,溶鋼中の「酸素」は,「真空炭素脱酸」され,「生成するCO」によって,「N_(2)」は「随伴排出」されると認められる。
そして,甲1発明では,真空高周波誘導溶解を行っているから,溶鋼は,「誘導」現象により少なからず「攪拌」されるものと解され,その結果,COによるN_(2)の随伴排出は,「促進」されて「N_(2)を排出」すると認められる。
以上によれば,相違点1は実質的な相違点ではない。

ウ 相違点2の検討
以下の(ア),(イ)のいずれの理由によっても,相違点2は,実質的な相違点ではないか,仮にそうでないとしても,当業者が容易に想到することである。以下,詳述する。

(ア)真空溶解炉は,一般に,炉内が所定の減圧状態(所定の真空度)となるように,真空ポンプにより炉内の気体を排出しながら,その炉内において金属等の原料を溶解するものであることは,技術常識であり,また,大気が炉内に侵入する「リーク」が生じることも,従来から知られていることである(例えば,参考資料1の【0013】を参照。)。
このような真空溶解炉は,上記のとおり,炉内を所定の減圧状態(所定の真空度)とするものである以上,その製造及び組み立ての時点又はメンテナンスの時点において既に,炉内に侵入する大気の量が所定量以下となるように調整されているのが通常である(真空ポンプにより炉内の気体を排出しても,多量の大気が炉内に侵入すれば,炉内を所定の減圧状態(所定の真空度)とすることができないことは,明らかである。)。
そうすると,甲1発明の真空高周波誘導溶解に用いる炉についても,その製造及び組み立ての時点又はメンテナンスの時点において既に,炉内に侵入する大気の量が所定量以下となるように調整されている,すなわち,「リークアップレート」はそれなりに「調整」されていると認められる。
また,真空溶解炉は,上記のとおり,真空ポンプにより炉内の気体を排出しながら,金属等の原料を溶解するものであるから,甲1発明においても,溶製原料に少量の黒鉛を配合する際に,真空ポンプにより炉内の気体を排出しながら行っている,すなわち,真空高周波誘導溶解に用いる炉の「内部を真空引きしつつ」溶製原料に少量の黒鉛を配合していると認められる。
よって,相違点2は実質的な相違点ではない。

(イ)甲1発明は,真空高周波誘導溶解により,不純物含量の極めて少ない鋼塊を得るマルエージング鋼の鋼塊の製造方法であるところ,不純物の除去を目的とする真空溶解において,炉内を所定の真空度に維持することは,通常のことである(例えば,甲3の13頁4?16行を参照。)。
また,この際,所望の真空度とするために,真空炉のリークチェックを行い,リーク量を所定値以下に抑えること,すなわち,リークアップレートを調整することも,通常行われることである(例えば,参考資料1の【0027】を参照。)。
以上によれば,甲1発明の真空高周波誘導溶解に用いる炉についても,「リークアップレート」は「調整」されていると認められる。
また,上記(ア)で述べたのと同様の理由により,甲1発明においても,真空高周波誘導溶解に用いる炉の「内部を真空引きしつつ」溶製原料に少量の黒鉛を配合していると認められる。
よって,相違点2は実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても,甲1発明において,真空高周波誘導溶解に用いる炉を「リークアップレートを調整した」ものとし,真空高周波誘導溶解に用いる炉の「内部を真空引きしつつ」溶鋼中にCを添加することは,当業者が容易に想到することである。

エ 小括
したがって,本件発明4は,甲1に記載された発明であるか,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)まとめ
以上のとおり,本件発明4は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるか,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,同法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項4に係る特許は,同法113条2号に該当し,取り消すべきものである。

2 申立理由4-1(進歩性)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明において,「マルエージング鋼スクラップ」に対して所定の処理を施すことにより得られた「溶製原料」に,「少量の黒鉛を配合し,真空高周波誘導溶解で30分間処理し」,所定の「鋼塊を得る」ことは,本件発明1において,「真空溶解炉」において「溶鋼中にCを添加して」,「一次鋼塊」を得ることに相当する。
甲1発明における溶製原料(酸化処理後に採取した試料)は,少なくともチタニウムを含むものであるが,当該溶製原料から得られたマルエージング鋼の鋼塊にも,少なくともチタニウムが含まれることは明らかであるから,甲1発明における,少なくとも「チタニウム」を含む「マルエージング鋼の鋼塊の製造方法」は,本件発明1における「少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法」に相当する。
以上によれば,本件発明1と甲1発明とは,
「少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法であって,
真空溶解炉において溶鋼中にCを添加して,一次鋼塊を得るTi含有マルエージング鋼の製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1’
本件発明1では,真空溶解炉において溶鋼中にCを添加することにより,「酸素を真空炭素脱酸し,生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し,N_(2)を排出」するのに対して,甲1発明では,「溶製原料」に,「少量の黒鉛を配合し,真空高周波誘導溶解で30分間処理」するものの,「酸素を真空炭素脱酸し,生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し,N_(2)を排出」するものであるかどうか不明である点。
・相違点2’
本件発明1では,真空溶解炉が「リークアップレートを調整した」ものであり,「真空溶解炉の内部を真空引きしつつ」溶鋼中にCを添加するのに対して,甲1発明では,真空高周波誘導溶解に用いる炉が「リークアップレートを調整した」ものであるかどうか不明であり,真空高周波誘導溶解に用いる炉の「内部を真空引きしつつ」溶製原料に少量の黒鉛を配合するかどうか不明である点。
・相違点3
本件発明1では,真空溶解炉において,「析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させ」て一次鋼塊を得るのに対して,甲1発明では,「溶製原料」に,「少量の黒鉛を配合し,真空高周波誘導溶解で30分間処理」するものの,「析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させ」て鋼塊を得るものであるかどうか不明である点。
・相違点4
本件発明1は,「消耗電極による真空再溶解法によって」マルエージング鋼を製造する方法であって,真空溶解炉において得られた「一次鋼塊から前記消耗電極を形成し,前記真空溶解炉よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得る」ものであるのに対して,甲1発明は,マルエージング鋼の鋼塊の製造方法ではあるものの,「消耗電極による真空再溶解法によって」製造する方法ではなく,鋼塊「から前記消耗電極を形成し,前記真空溶解炉よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得る」ものではない点。

イ 相違点3及び4の検討
事案に鑑み,相違点3及び4についてまとめて検討する。
(ア)a 本件発明1は,消耗電極による真空再溶解法によって少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法に関するものである。
b 本件明細書には,背景技術について,マルエージング鋼においては,粗大な非金属介在物が疲労破壊の起点となり得るため,このような介在物を低減し得る消耗電極を用いた真空再溶解法が多く採用されているところ,特に,Tiを含有するマルエージング鋼では,角張った形状のTiN結晶粒が形成,成長されやすく,より疲労強度の低下に敏感であるため,真空再溶解法におけるTiNの微細化方法が検討されていること(【0003】),そのような真空再溶解法におけるTiNの微細化方法として,一次溶解において,溶鋼中にMgOやZr酸化物を分散形成させ,これらが生成核となって窒化物や炭窒化物が微細化されて析出した消耗電極を用いる方法が知られているが(【0004】?【0006】),このような方法により得られるTi含有マルエージング鋼中のTiNの粒径に,ばらつきがあること(【0011】)が記載されている。
c 本件発明1は,このような背景技術を踏まえ,TiNの粒径を小さくして高い疲労強度を達成し得るTi含有マルエージング鋼の製造方法を提供することを課題とするものである(【0003】,【0009】,【0010】)。
d 本件発明1は,このような課題を解決するために,「真空溶解炉」において得られた「一次鋼塊から前記消耗電極を形成し」,「真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得る」という,「消耗電極による真空再溶解法によって少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法」において,TiNの微細化方法として,「析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させた一次鋼塊」から形成した「消耗電極」を用いる方法を採用することを前提とするものであって,TiNの粒径のばらつきを抑えるために,溶鋼中のN量を減じるための手段として,「リークアップレートを調整した真空溶解炉の内部を真空引き」すること,「溶鋼中にCを添加して酸素を真空炭素脱酸し,生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し,N_(2)を排出」すること,真空アーク溶解炉を「前記真空溶解炉よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させ」ること,からなる各手段を採用することにより,溶鋼中のN量を減じるものである。
そして,それにより,一次溶解で得られる消耗電極に含まれるTiNの大きさを,その後の該消耗電極を用いた二次溶解において溶融させ得る程度に小さくすることが可能となり,二次溶解においてTiNを再析出させても,これを大きく成長させないことが可能となるため,マルエージング鋼中のTiNの粒径のばらつきを抑え,TiNの粒径を小さくして高い疲労強度を達成し得るという効果を奏するものである(【0011】?【0013】,【0015】,【0016】)。

(イ)a 一方,甲1発明は,マルエージング鋼の鋼塊の製造方法に関するものである。
b 甲1には,マルエージング鋼のスクラップをマルエージング鋼の溶製原料として再利用する従来の方法について,マルエージング鋼は,酸化物,窒化物等の非金属介在物によってその特性が著しく損なわれる(2頁左上欄15?20行)ことから,溶製原料を真空下で溶解処理することにより,溶鋼中の炭素と酸素を一酸化炭素に変換して系外に除去するとともに,このときに発生する一酸化炭素ガスの気泡によって溶解窒素を同時に除去すること(2頁左下欄10?17行),スクラップをマルエージング鋼の溶製原料として再利用しようとして,溶製原料中にマルエージング鋼スクラップを配合すると,原料中の酸素がスクラップ中に含まれるチタン及びアルミニウム(何れも酸素との親和力が大)と反応して酸化物を生成するため,真空溶解処理をしても一酸化炭素ガスが十分に発生せず,溶解窒素も除去できなくなること(2頁左下欄6?10行,左下欄17行?右下欄3行)が記載されている。
c 甲1に係る発明(請求項1)は,このような事情に着目し,鋼塊切捨部のように炭素や窒素が濃縮状態で混入しているおそれのあるマルエージング鋼スクラップでも支障なく再利用でき,しかも切削油等の付層したスクラップでもそのまま便用でき且つ成分調整も容易に実施し得るような技術を確立することを課題とするものである(3頁左上欄10?16行)。
d 甲1に係る発明は,このような課題を解決するために,マルエージング鋼スクラップの再利用法において,マルエージング鋼スクラップを電弧炉又は誘導溶解炉で溶解し,酸素ガスを吹込んでスクラップ中のチタンとアルミニウムを酸化除去するとともに,溶鋼中の溶解酸素量を所定量とし,これを真空誘導溶解炉で真空溶解して,溶鋼中の炭素を酸素と反応させて一酸化炭素として除去するとともに溶解窒素を除去し,鋼中の炭素及び窒素を所定量以下に減ずる,とするものであり,それにより,スクラップ中の非金属不純物を可及的に減じて物理的諸特性を確保し,また,スクラップ中のチタンとアルミニウムを予備処理で除去することにより,真空溶解処理後の成分調整を簡素化し得るという効果を奏するものである(請求項1,3頁左上欄17行?右上欄11行)。
甲1発明は,上記の甲1に係る発明の具体例である実施例2に基づいて認定したものであり,マルエージング鋼スクラップに対して所定の処理を施すことにより得られた鋼浴中に酸素ガスを吹込んで,アルミニウム及びチタンの酸化除去及び酸素の溶解を行ない,また,得られた溶製原料に少量の黒鉛を配合し,真空高周波誘導溶解で30分間処理し,炭素,窒素等の不純物含量の極めて少ない鋼塊を得るというものである。

(ウ)a 上記(ア),(イ)のとおり,本件発明1と甲1発明とは,いずれも,少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法において,真空溶解炉において溶鋼中にCを添加して,生成するCOによりN_(2)を排出することにより,溶鋼中のN量を減じる点において共通するものである。
しかしながら,本件発明1が,TiNの粒径を小さくして高い疲労強度を達成し得るTi含有マルエージング鋼の製造方法を提供することを課題とするのに対して,甲1発明は,各種のマルエージング鋼スクラップを再利用でき且つ成分調整も容易に実施し得るような技術を確立することを課題とするものであり,両者は,その解決しようとする課題が異なるものである。
また,本件発明1は,上記(ア)のとおり,「真空溶解炉」において得られた「一次鋼塊から前記消耗電極を形成し」,「真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得る」という,「消耗電極による真空再溶解法によって少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法」において,TiNの微細化方法として,「析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させた一次鋼塊」から形成した「消耗電極」を用いる方法を採用することを前提とするものであって,TiNの粒径のばらつきを抑えるために,溶鋼中のN量を減じるものである。
これに対して,甲1発明は,マルエージング鋼スクラップを再利用するマルエージング鋼の鋼塊の製造方法において,マルエージング鋼の物理的諸特性を確保するために,(当該特性を損なう原因となる非金属介在物を構成する)窒素を減ずるものにすぎず,両者は,同じくN量を減じるといっても,その技術的意義が異なるものである。
b 甲1には,マルエージング鋼は,酸化物,窒化物等の非金属介在物によってその特性が著しく損なわれること(2頁左上欄15?20行),甲1に係る発明の処理によって,スクラップ中の非金属不純物を可及的に減じて物理的諸特性を確保できること(3頁左上欄17行?右上欄11行)が記載されている。
しかしながら,甲1には,Ti含有マルエージング鋼において,TiNの粒径を小さくして高い疲労強度を達成することについては,何ら記載されておらず,また,「真空溶解炉」において得られた「一次鋼塊から前記消耗電極を形成し」,「真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得る」という,「消耗電極による真空再溶解法によって少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法」において,TiNの微細化方法として,「析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させた一次鋼塊」から形成した「消耗電極」を用いる方法を採用することについても,何ら記載されていない。
c 以上によれば,甲1発明において,溶製原料に少量の黒鉛を配合し,真空高周波誘導溶解で30分間処理し,所定の鋼塊を得る際に,「析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させ」ること,また,得られた鋼塊「から前記消耗電極を形成し,前記真空溶解炉よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得る」という,「消耗電極による真空再溶解法によって」マルエージング鋼を製造することは,いずれも,甲1の記載から動機付けられるとはいえない。

(エ)a 甲3には,溶鋼中に混濁する酸化物の組成をMgO主体とするに十分な量のMgを有する溶湯に調整するMg酸化物形成工程を一次溶解とし,その後,凝固させ,該Mg酸化物形成工程である一次溶解時よりも雰囲気の真空度を減圧として再溶解し,溶湯中のMg酸化物をMgと酸素に解離させ,Mg含有量をMg酸化物形成工程の50%以下とする解離工程を経る,鋼塊の製造方法(請求の範囲の請求項1,2)について記載されている。
b また,甲3には,マルエージング鋼について,マルエージング鋼は,大型の非金属介在物が存在すると,これを起点とした疲労破壌を生じるため,特に高サイクル疲労破壌を生じさせないためには,非金属介在物を微細に分散させる必要があること(1頁27行?2頁2行),Tiを含有するマルエージング鋼は,鋼塊中にTiNが存在するが,TiNは形状が矩形で応力集中が生じやすいことから,酸化物よりも高サイクル疲労破壌に対する感受性が高いため,素材中のTiNは,概ね10μm以下とする必要があること(9頁4?8行)が記載されている。
c さらに,甲3には,上記aの鋼塊の製造方法について,解離工程としてVAR(真空アーク再溶解)等の再溶解を適用する場合は,成分中にTi等の窒化物形成元素を含むマルエージング鋼等の鋼塊に対し,窒化物の粗大化防止効果を得ることができること(6頁20?27行),上記aの鋼塊の製造方法では,Mg合金を添加後,凝固までの間に,窒化物の晶出又は析出が生じるが,一次溶解の鋼塊中の窒化物は,MgOを析出核として周囲にTiNが取り巻いた窒化物-MgO複合体の形態となり,再溶解時にMgO主体の酸化物がMgと酸素に解離するため,窒化物-MgO複合体は,MgO部分が消失することにより細かく分解し,窒化物を溶鋼中に完全に溶融させることができ,それにより,粗大な窒化物が存在しない鋼塊を得ることができること(6頁28行?7頁10行)が記載されている。
d そして,甲3には,上記aの鋼塊の製造方法の具体例である実施例1として,真空度13.3kPaのVIM(真空誘導溶解)において,溶鋼中にMgの添加を行い,その後,凝固させ,表1に示されるTi,Mg等の成分を有するマルエージング鋼からなる消耗電極を製造し,当該消耗電極を真空度1.3PaのVAR(真空アーク再溶解)を用いて再溶解し,鋼塊を製造したこと(13頁1?16行)が記載されている。
ここで,上記実施例1における鋼塊の製造方法は,上記a,cで指摘した甲3の記載を踏まえると,本件発明1における,「真空溶解炉」において,「析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させた一次鋼塊から前記消耗電極を形成し,前記真空溶解炉よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得る」という,「消耗電極による真空再溶解法によって少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法」に相当するといえる。
e 以上a?dのとおり,甲3には,Tiを含有するマルエージング鋼において,高サイクル疲労破壌を生じさせないために,形状が矩形で応力集中が生じやすいTiNを微細に分散させる必要があること,また,そのための鋼塊の製造方法として,相違点3及び4に係る本件発明1の構成を備えたものが記載されているといえる。
しかしながら,上記(ウ)のとおり,甲1には,Ti含有マルエージング鋼において,TiNの粒径を小さくして高い疲労強度を達成することについては,何ら記載されていないから,甲1発明は,TiNの粒径を小さくして高い疲労強度を達成することを意図するものとはいえず,このような甲1発明において,甲3に記載される上記事項を適用する動機付けがあるとはいえない。

(オ)a 甲4には,スクラップ材料を用いたマルエージング鋼の製造方法であって,一部または全部をスクラップ材料としたマルエージング鋼の溶解原料を,酸化雰囲気中にて孤光式電気炉で溶解して溶鋼とし,該溶鋼を真空誘導加熱炉に受け,真空誘導加熱炉にて真空精錬を行い,且つ前記真空精錬の途中,真空精錬前,真空精錬後の何れかにおいて成分調整を行い,窒素が所定量以下のマルエージング鋼塊とし,得られたマルエージング鋼塊を電極としてさらに真空アーク再溶解する,マルエージング鋼の製造方法(請求項1,2,4)について記載されている。
b また,甲4には,マルエージング鋼について,マルエージング鋼を自動車の無段変速機用部品に用いる場合,マルエージング鋼中の介在物が問題とされるため,介在物を微細とする工夫がなされていること(【0002】)が記載されている。
そして,甲4には,上記のマルエージング鋼の製造方法の具体例である実施例として,溶解原料の全部をマルエージング鋼の場内スクラップ材料とし,大気中にて孤光式電気炉で溶解して溶鋼とし,その溶鋼を真空誘導加熱炉に受け,真空誘導加熱炉にて真空精錬を行って低窒素化した後に,Al,Ti添加を含む成分調整を行い,鋳造して鋼塊Aを作製し,上記の鋼塊Aを用いて電極に加工し,真空アーク再溶解を行ったこと(【0013】,【0017】)が記載されている。
c ここで,上記実施例におけるマルエージング鋼の製造方法は,本件発明1における,「真空溶解炉」において得られた「一次鋼塊から前記消耗電極を形成し」,「真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得る」という,「消耗電極による真空再溶解法によって少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法」に相当するといえる。
しかしながら,甲4には,「真空アーク溶解炉」を「前記真空溶解炉よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた」ものとすることについては記載されておらず,また,「真空溶解炉」において,「析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させ」ることについては,何ら記載されていない。
d そうすると,甲1発明において,溶製原料に少量の黒鉛を配合し,真空高周波誘導溶解で30分間処理し,所定の鋼塊を得る際に,「析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させ」ること,また,得られた鋼塊「から前記消耗電極を形成し,前記真空溶解炉よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得る」という,「消耗電極による真空再溶解法によって」マルエージング鋼を製造することは,いずれも,甲4の記載から動機付けられるとはいえない。

(カ)そして,本件発明1は,上記(ア)のとおり,マルエージング鋼中のTiNの粒径のばらつきを抑え,TiNの粒径を小さくして高い疲労強度を達成し得るという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。

(キ)そうすると,甲1発明において,溶製原料に少量の黒鉛を配合し,真空高周波誘導溶解で30分間処理し,所定の鋼塊を得る際に,「析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させ」ること,また,得られた鋼塊「から前記消耗電極を形成し,前記真空溶解炉よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得る」という,「消耗電極による真空再溶解法によって」マルエージング鋼を製造することは,当業者が容易に想到することができたということはできない。

ウ 小括
したがって,相違点1’及び2’について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明並びに甲3及び4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2は,本件発明1を引用するものであるが,上記(1)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明並びに甲3及び4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2についても同様に,甲1に記載された発明並びに甲3及び4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり,本件発明1及び2は,甲1に記載された発明並びに甲3及び4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由4-1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由4-2(進歩性)
(1)甲2に記載された発明
甲2の記載(請求項1,【0011】,【0014】,【0015】,【0017】,【0030】,表1)によれば,特に,請求項1,【0030】,表1の実施例1に着目すると,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。

「質量%で,C:0.004%,Ni:18.7%,Mo:5.0%,Co:9.4%,Al:0.13%,Ti:0.46%,N:0.0005%,O:0.0005%,Zr:0.005%,残部Fe及び不可避的不純物の化学組成の鋼150kgを高周波真空誘導炉にて溶解し,鋳造して鋼塊を得,これを2次溶解用の電極とし,この電極のトップ側20mm及びボトム側20mmを切断して除去し,また表層を2.5mm皮削りして除去し,このようにして整備した電極を用い,真空アーク再溶解を行って電極を溶解し,続いて鋳造を行って2次溶解後のインゴットを得る,疲労特性に優れたマルエージング鋼の製造方法。」(以下,「甲2発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「高周波真空誘導炉」,「鋼塊」,「2次溶解用の電極」,「真空アーク再溶解」を行う炉,「2次溶解後のインゴット」は,それぞれ,本件発明1における「真空溶解炉」,「一次鋼塊」,「消耗電極」,「真空アーク溶解炉」,「二次鋼塊」に相当する。
甲2発明において,所定の「化学組成の鋼150kgを高周波真空誘導炉にて溶解し,鋳造して鋼塊を得,これを2次溶解用の電極とし」,所定の方法により「整備した電極を用い,真空アーク再溶解を行って電極を溶解し,続いて鋳造を行って2次溶解後のインゴットを得る」ことによってマルエージング鋼を製造することは,本件発明1において,「真空溶解炉」において得られた「一次鋼塊から前記消耗電極を形成し」,「真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得る」,という「消耗電極による真空再溶解法によって」マルエージング鋼を製造することに相当する。
甲2発明における「疲労特性に優れたマルエージング鋼の製造方法」は,製造するマルエージング鋼が「Ti:0.46%」を含有するものであるから,本件発明1における「少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法」に相当する。
以上によれば,本件発明1と甲2発明とは,
「消耗電極による真空再溶解法によって少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法であって,
真空溶解炉において得られた一次鋼塊から前記消耗電極を形成し,真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得る,Ti含有マルエージング鋼の製造方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点5
本件発明1では,真空溶解炉において,「溶鋼中にCを添加して酸素を真空炭素脱酸し,生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し,N_(2)を排出」するのに対して,甲2発明では,マルエージング鋼は「C:0.004%」を含有するものの,高周波真空誘導炉において,「溶鋼中にCを添加して酸素を真空炭素脱酸し,生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し,N_(2)を排出」するものではない点。
・相違点6
本件発明1では,真空溶解炉が「リークアップレートを調整した」ものであって,「真空溶解炉の内部を真空引き」するものであるのに対して,甲2発明では,高周波真空誘導炉が「リークアップレートを調整した」ものであるかどうか不明であり,高周波真空誘導炉の「内部を真空引き」するものであるかどうか不明である点。
・相違点7
本件発明1では,真空溶解炉において,「析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させ」て一次鋼塊を得るのに対して,甲2発明では,所定の「化学組成の鋼150kgを高周波真空誘導炉にて溶解し,鋳造して鋼塊を得」るものの,「析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させ」て鋼塊を得るものであるかどうか不明である点。
・相違点8
本件発明1では,真空アーク溶解炉が,「前記真空溶解炉よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた」ものであるのに対して,甲2発明では,真空アーク再溶解を行う炉が,高周波真空誘導炉「よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた」ものであるかどうか不明である点。

イ 相違点5の検討
甲2発明におけるマルエージング鋼は,「C:0.004%」を含有するものの,高周波真空誘導炉において,「溶鋼中にCを添加して酸素を真空炭素脱酸し,生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し,N_(2)を排出」するものではない
甲2には,高周波真空誘導炉において,「溶鋼中にCを添加して酸素を真空炭素脱酸し,生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し,N_(2)を排出」することについては,記載も示唆もない。
そうすると,甲2発明において,高周波真空誘導炉において,「溶鋼中にCを添加して酸素を真空炭素脱酸し,生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し,N_(2)を排出」することは,当業者が容易に想到することができたということはできない。

ウ 相違点8の検討
甲2発明における真空アーク再溶解を行う炉が,高周波真空誘導炉「よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた」ものであるかどうかは,不明である。
甲2には,真空アーク再溶解を行う炉が,高周波真空誘導炉「よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた」ものとすることについては,記載も示唆もない。
そうすると,甲2発明において,真空アーク再溶解を行う炉を,高周波真空誘導炉「よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた」ものとすることは,当業者が容易に想到することができたということはできない。

エ 小括
したがって,相違点6及び7について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2について
本件発明2は,本件発明1を引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2についても同様に,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1及び2は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由4-2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由3(サポート要件)
(1)申立人は,本件発明1?3の課題は,「TiNの粒径を小さくして高い疲労強度を達成し得るTi含有マルエージング鋼の製造方法を提供すること」(本件明細書【0010】)といえるが,このうち,「高い疲労強度を達成」することについては,実施例等でその効果が得られることが全く実証されていないばかりか,本件明細書中に高い疲労強度が得られることについて具体的な記述が何ら示されていないから,本件発明1?3が,「高い疲労強度を達成」するという課題が解決できるのか,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によって裏付けられていないため,本件発明1?3は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないと主張する。
しかしながら,本件明細書には,背景技術について,マルエージング鋼においては,粗大な非金属介在物が疲労破壊の起点となり得るため,このような介在物を低減し得る消耗電極を用いた真空再溶解法が多く採用されているところ,特に,Tiを含有するマルエージング鋼では,角張った形状のTiN結晶粒が形成,成長されやすく,より疲労強度の低下に敏感であるため,真空再溶解法におけるTiNの微細化方法が検討されていること(【0003】),また,そのような真空再溶解法におけるTiNの微細化方法として,一次溶解において,溶鋼中にMgOやZr酸化物を分散形成させ,これらが生成核となって窒化物や炭窒化物が微細化されて析出した消耗電極を用いる方法が知られていること(【0004】?【0006】)が記載されている。
そうすると,本件明細書の上記記載及び本件特許の出願時の技術常識(本件明細書に記載される特許文献1,2,非特許文献1等を参照)を考慮すれば,当業者であれば,Ti含有マルエージング鋼において,TiNを微細化すれば,高い疲労強度を達成できること(すなわち,本件発明1?3の課題が解決できること)が理解できるといえる。
そして,本件明細書には,実施例及び比較例として,本件発明1に係るTi含有マルエージング鋼の製造方法によって製造したTi含有マルエージング鋼において,TiNの粒径を測定したことが記載されているが(【0037】?【0040】,図2,図4),これら実施例及び比較例のいずれについても,TiNの粒径が一定程度は小さくなっていることが示されている。
そうすると,当業者であれば,本件発明1に係るTi含有マルエージング鋼の製造方法によって製造したTi含有マルエージング鋼においては,TiNの粒径の程度に応じた程度には,高い疲労強度を達成できること(すなわち,本件発明1?3の課題が解決できること)が理解できる。
以上によれば,本件明細書において高い疲労強度を達成することについて実証されていないとしても,そうであるからといって,本件発明1?3がサポート要件に適合するものではないなどということはできない。
よって,申立人の主張は採用できない。

(2)申立人は,本件明細書の【0038】の記載によれば,図2で示された組成及び図4で示された溶解条件以外は,実施例と比較例のマルエージング鋼は,共通の条件で製造されたものであるから,比較例1,2の製造方法は,本件発明1の製造方法と一致することになるため,本件発明1?3は,課題を解決できない実施態様を含むものであると主張する。
また,申立人は,一次溶解におけるリークアップレートと到達真空度,二次溶解におけるリークアップレートと到達真空度が何ら限定されていない本件発明1?3は,サポート要件に適合するものではないと主張する。
確かに,比較例1,2は,「実施例」ではなく,「比較例」として本件明細書に記載されている。そして,本件明細書の【0039】には,「比較例1及び2においては,二次溶解のLURが目標値より高く,その結果,TiNの粒径が目標値である7.0μmを越えてしまった。」との記載があり,この記載によれば,TiNの粒径が目標値である7.0μmを越えている点で,比較例1,2は,「比較例」とされたものと解される。
しかしながら,本件発明1?3の課題は,「TiNの粒径を小さくして高い疲労強度を達成し得るTi含有マルエージング鋼の製造方法を提供すること」(本件明細書【0010】)であり,TiNの粒径を目標値である7.0μm以下とすること自体は,本件発明1?3の課題であるとはいえない(7.0μm以下という目標値は,具体例である実施例及び比較例において,一つの目安として設定されたものと解される。)。
そして,上記(1)で述べたとおり,本件明細書には,本件発明1に係るTi含有マルエージング鋼の製造方法によって製造したTi含有マルエージング鋼においては,実施例及び比較例のいずれについても,TiNの粒径が一定程度は小さくなっていることが示されていることから,当業者であれば,上記のTi含有マルエージング鋼においては,TiNの粒径の程度に応じた程度には,高い疲労強度を達成できること(すなわち,本件発明1?3の課題が解決できること)が理解できる。
また,このことは,本件発明1?3において,一次溶解におけるリークアップレートと到達真空度,二次溶解におけるリークアップレートと到達真空度について,その具体的な条件が限定されていないとしても,変わるものではない。
以上によれば,本件発明1?3が課題を解決できない実施態様を含むものとはいないから,申立人の主張はいずれも採用できない。
なお,本件明細書の実施例及び比較例については,一次溶解におけるリークアップレートと到達真空度,二次溶解におけるリークアップレートと到達真空度の各条件に着目して,本件発明1?3におけるより好ましい条件を検討したものと解される。そして,比較例1,2は,二次溶解におけるリークアップレートが高いほど,TiNの粒径が大きくなることを示すものであるが,このような比較例1,2が本件明細書に記載されていること自体は,本件発明1?3のサポート要件の適合性についての判断を左右するものではない。

(3)したがって,申立理由3(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

5 申立理由1(実施可能要件)
(1)申立人は,上記4(1)の主張と同様に,本件発明1?3の課題は,「TiNの粒径を小さくして高い疲労強度を達成し得るTi含有マルエージング鋼の製造方法を提供すること」(本件明細書【0010】)といえるが,このうち,「高い疲労強度を達成」することについては,実施例等でその効果が得られることが全く実証されていないばかりか,本件明細書中に高い疲労強度が得られることについて具体的な記述が何ら示されていないから,本件発明1?3が,上記課題が解決できるものであるのか不明であるため,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明1?3について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないと主張する。
しかしながら,上記4(1)で述べたとおり,当業者であれば,本件発明1に係るTi含有マルエージング鋼の製造方法によって製造したTi含有マルエージング鋼においては,TiNの粒径の程度に応じた程度には,高い疲労強度を達成できること(すなわち,本件発明1?3の課題が解決できること)が理解できる。
よって,申立人の主張は採用できない。

(2)申立人は,本件発明2では,Mgを添加して酸化物及び/又は窒化物を与える点を発明特定事項としているが,本件明細書には,Mgを添加した具体例については何ら開示されていないから,Mgを添加することによって,TiNの粒径をどの程度まで小さくできるのか,また,これによって,本件発明2及び3の課題が解決されるのかは,不明であるため,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明2及び3について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないと主張する。
しかしながら,本件明細書には,上記4(1)で指摘したとおり,消耗電極を用いた真空再溶解法におけるTiNの微細化方法として,一次溶解において,溶鋼中にMgOやZr酸化物を分散形成させ,これらが生成核となって窒化物や炭窒化物が微細化されて析出した消耗電極を用いる方法が知られていることが記載されている。
そうすると,本件明細書の上記記載及び本件特許の出願時の技術常識(本件明細書に記載される特許文献1,非特許文献1等を参照)を考慮すれば,当業者であれば,Mgを添加することによって,TiNの粒径をどの程度まで小さくできるのかについて理解できるといえる。そして,TiNを微細化すれば,高い疲労強度を達成できること(すなわち,本件発明2及び3の課題が解決できること)は,上記4(1)で述べたとおりである。
よって,申立人の主張は採用できない。

(3)したがって,申立理由1(実施可能要件)によっては,本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

6 申立理由2(明確性要件)
(1)請求項1?3の記載に不明確なところはなく,その記載の意味は明確であるから,本件発明1?3は明確である。

(2)申立人は,上記4(1)の主張に関連して,仮に,TiNの粒径が小さいことで高い疲労強度が達成されるのであれば,本件発明1?3の課題を解決する上で,TiNの粒径は,発明特定事項として明確に記載されるべきところ,請求項1?3の記載では,得られるTi含有マルエージング鋼におけるTiNの粒径が明確でないと主張する。
しかしながら,請求項1?3において,TiNの粒径が記載されていないとしても,本件発明1?3が明確であることは,上記(1)のとおりである。
また,請求項1?3において,TiNの粒径が記載されていないとしても,上記4(1)で述べたとおり,当業者であれば,本件発明1に係るTi含有マルエージング鋼の製造方法によって製造したTi含有マルエージング鋼においては,TiNの粒径の程度に応じた程度には,高い疲労強度を達成できること(すなわち,本件発明1?3の課題が解決できること)が理解できる。
よって,申立人の主張は採用できない。

(3)申立人は,本件明細書の【0040】の記載によれば,一次溶解のリークアップレートと到達真空度,二次溶解のより低いリークアップレートとより高い到達真空度は,いずれも,本件発明1?3の課題を解決する上では,必須の製造条件といえるが,一次溶解の到達真空度の製造条件,二次溶解のより低いリークアップレートの製造条件については,請求項1?3に発明特定事項として明確に記載されているとはいえないと主張する。
しかしながら,請求項1?3において,一次溶解の到達真空度の製造条件,二次溶解のより低いリークアップレートの製造条件について記載されていないとしても,本件発明1?3が明確であることは,上記(1)のとおりである。
また,請求項1?3において,一次溶解の到達真空度の製造条件,二次溶解のより低いリークアップレートの製造条件について記載されていないとしても,上記4(1)で述べたとおり,当業者であれば,本件発明1に係るTi含有マルエージング鋼の製造方法によって製造したTi含有マルエージング鋼においては,TiNの粒径の程度に応じた程度には,高い疲労強度を達成できること(すなわち,本件発明1?3の課題が解決できること)が理解できる。
よって,申立人の主張は採用できない。

(4)したがって,申立理由2(明確性要件)によっては,本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり,本件発明4は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるか,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,同法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項4に係る特許は,同法113条2号に該当し,取り消すべきものである。
また,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗電極による真空再溶解法によって少なくともTiを含むマルエージング鋼を製造する方法であって、
リークアップレートを調整した真空溶解炉の内部を真空引きしつつ溶鋼中にCを添加して酸素を真空炭素脱酸し、生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し、N_(2)を排出し析出核として前記溶鋼中に酸化物及び/又は窒化物を析出させ凝固時に前記析出核を包囲してTiNを析出させた一次鋼塊から前記消耗電極を形成し、前記真空溶解炉よりも高い真空度に維持してN_(2)を排出させた真空アーク溶解炉内において前記消耗電極に通電し二次鋼塊を得ることを特徴とするTi含有マルエージング鋼の製造方法。
【請求項2】
Mg及び/又はZrを添加して前記酸化物及び/又は窒化物を与えることを特徴とする請求項1記載のTi含有マルエージング鋼の製造方法。
【請求項3】
前記真空溶解炉のるつぼは出鋼後に減圧雰囲気及び/又は窒素ガスを除く不活性ガス雰囲気で温度を降下させることを特徴とする請求項1又は2に記載のTi含有マルエージング鋼の製造方法。
【請求項4】
少なくともTiを含むマルエージング鋼用プリフォームの製造方法であって、
リークアップレートを調整した真空溶解炉の内部を真空引きしつつ溶鋼中にCを添加して酸素を真空炭素脱酸し、生成するCOによるN_(2)の随伴排出を誘導攪拌によって促進し、N_(2)を排出し凝固させることを特徴とするTi含有マルエージング鋼用プリフォームの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-01-18 
出願番号 特願2015-169021(P2015-169021)
審決分類 P 1 651・ 121- ZDA (C21C)
P 1 651・ 537- ZDA (C21C)
P 1 651・ 536- ZDA (C21C)
P 1 651・ 113- ZDA (C21C)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 印出 亮太國方 康伸  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 井上 猛
平塚 政宏
登録日 2019-06-28 
登録番号 特許第6544638号(P6544638)
権利者 大同特殊鋼株式会社
発明の名称 Ti含有マルエージング鋼の製造方法及びそのプリフォームの製造方法  
代理人 特許業務法人むつきパートナーズ  
代理人 特許業務法人むつきパートナーズ  
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