ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08G 審判 全部申し立て 特39条先願 C08G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08G 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08G |
---|---|
管理番号 | 1374869 |
異議申立番号 | 異議2020-700436 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-06-23 |
確定日 | 2021-03-19 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6626590号発明「難燃性ウレタン樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6626590号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6626590号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯及び証拠方法 1 手続の経緯 特許第6626590号(請求項の数5。以下、「本件特許」という。)は、平成26年1月20日(優先権主張:平成25年1月20日、平成25年9月27日(JP)日本国)を国際出願日とする特許出願(特願2014-557418号)の一部を、平成28年11月24日に新たな出願とした特許出願(特願2016-228416号)の一部を、さらに平成30年2月9日に新たな出願とした特許出願(特願2018-021501号)の一部を、さらに平成31年1月23日に新たな出願とした特許出願(特願2019-009059号)に係るものであって、令和元年12月6日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和元年12月25日である。)。 その後、令和2年6月23日に、本件特許の請求項1?5に係る特許に対して、特許異議申立人である笠原基広(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年 6月23日 特許異議申立書 同年10月15日付け 取消理由通知書 同年12月15日 意見書・訂正請求書(特許権者) 令和3年 1月21日 意見書(申立人) 2 証拠方法 申立人が異議申立書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:特許第6481058号公報 甲第2号証:異議2019-700724における令和2年3月30日付けの異議の決定の写し 甲第3号証:中国特許出願公開第102585148号明細書 甲第4号証:建材試験情報,Vol.52,2016年6月,pp.16?17,36 甲第5号証:硬質ポリウレタンフォームの火災及び防災に関するQ&A集 第2版,日本ウレタン工業協会 火災問題対策委員会,2011年5月,pp.1?4,26?28,34?38 甲第6号証:ポリウレタン創製への道-材料から応用まで-,株式会社シーエムシー出版,2010年9月23日,pp.140?143 甲第7号証:特願2016-228416号における平成29年11月8日付けの拒絶査定の写し 甲第8号証:特願2016-228416号における平成30年2月9日に提出された手続補正書の写し 甲第9号証:特願2014-557418号における平成29年5月16日に提出された意見書の写し (以下、「甲第1号証」?「甲第9号証」を、それぞれ「甲1」?「甲9」という。) 第2 訂正の適否についての判断 特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和2年12月15日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?5について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。また、本件願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤及び難燃剤を含み、」とあるのを、「前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤及び難燃剤を含み、」に訂正する。(請求項1を直接ないし間接的に引用する請求項3?5についても同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に、「前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤及び難燃剤を含み、」とあるのを、「前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤及び難燃剤を含み、」に訂正する。(請求項2を直接ないし間接的に引用する請求項3?5についても同様に訂正する。) なお、本件訂正前の請求項3?5は、訂正前の請求項1,2を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?5は、一群の請求項であり、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?5〕に対して請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1,2は、本件訂正前の請求項1,2に記載された発明特定事項である「ポリオール組成物」について、「整泡剤」も必須成分として含むようにするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1,2は、本件訂正前の請求項1,2に記載された「ポリオール組成物」を、本件明細書の段落【0022】,【0054】における整泡剤を含むものに特定するものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 3 独立特許要件 本件特許異議の申立てがされている請求項1?5(全請求項)については、独立特許要件の検討を要しない。 4 まとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1,2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?5に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項1?5に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明5」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)。 「【請求項1】 ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォームを得るために用いられるポリオール組成物であって、 前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤及び難燃剤を含み、前記難燃剤が、赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とするポリオール組成物。 【請求項2】 ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であり、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォームを得るために用いられるポリオール組成物であって、 前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤及び難燃剤を含み、前記難燃剤が、赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とするポリオール組成物。 【請求項3】 請求項1又は2に記載のポリオール組成物を含む第1液と、ポリイソシアネート化合物を含む第2液と、を含むことを特徴とする2液型のポリウレタン樹脂組成物。 【請求項4】 請求項3に記載のポリウレタン樹脂組成物から生成されてなることを特徴とするポリウレタンフォーム。 【請求項5】 請求項1又は2に記載のポリオール組成物と、ポリイソシアネート化合物と、を用いてポリウレタンフォームを製造することを特徴とするポリウレタンフォームの製造方法。」 第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要 1 取消理由通知の概要 当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)取消理由1 本件特許は、本件訂正前の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 記 整泡剤を含まない場合を包含する本件訂正前の本件発明1?5は、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1?5の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。 (2)取消理由2 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 記 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の本件発明1?5のうち、整泡剤を含まない場合について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 2 特許異議申立理由の概要 申立人が特許異議申立書で申立てた取消理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)申立理由1a 本件訂正前の請求項1,3?5に係る発明については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、取り消すべきものである。 (2)申立理由1b 本件訂正前の請求項1,3?5に係る発明については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、取り消すべきものである。 (3)申立理由1c 本件訂正前の請求項1,3?5に係る発明については、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、取り消すべきものである。 (4)申立理由2 本件訂正前の本件発明1?5は、同日出願された甲第1号証に係る出願(特願2018-021501号)の請求項1,2,6に係る発明と同一の発明と認められ、かつ、上記の出願に係る特許は特許されており協議をすることができないから、本件発明1?5は、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (5)申立理由3 本件訂正前の請求項1,3?5に係る発明は、甲3に記載された発明及び甲4?6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 当審は、当審が通知した取消理由1,2及び申立人が申し立てた申立理由1a?3によっては、いずれも、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1 取消理由1について ア 判断 取消理由1は、上記「第4 1」で述べたとおり、整泡剤を含まない場合を包含する本件訂正前の本件発明1?5は、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1?5の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである、というものである。 そして、本件発明1?5は、第3で述べたとおり、本件訂正により、整泡剤を必須成分とするものに訂正され、整泡剤を含まない場合を包含しなくなった。 イ まとめ 以上のとおりであるから、取消理由1によっては本件特許を取り消すことはできない。 2 取消理由2について ア 判断 取消理由2は、上記「第4 1」で述べたとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の本件発明1?5のうち、整泡剤を含まない場合について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない、というものである。 そして、本件発明1?5は、第3で述べたとおり、本件訂正により、整泡剤を必須成分とするものに訂正され、整泡剤を含まない場合を包含しなくなった。 イ まとめ 以上のとおりであるから、取消理由2によっては本件特許を取り消すことはできない。 3 取消理由通知において採用しなかった申立人がした申立理由について (1)申立理由1aについて ア 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。そこで、この点について、以下に検討する。 イ 本件明細書の記載(【0003】?【0021】)によれば、自己消化性を有するアルミノケイ酸塩類を含むポリウレタンフォームは、アルミノケイ酸塩類の含量の割合を大きくすると急速に流動性が損なわれるため、取り扱いが難しく(【0003】)、また、ポリウレタンフォームが火災等の熱の影響を受けた場合に形状が変化しやすく、ポリウレタンフォームが設置されていた場所と変形後のポリウレタンフォームとの間に隙間が生じ、この隙間を通じて煙等が拡散する問題があったため(【0015】)、本件発明1,3?5の課題は、取り扱いが容易であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体を形成することのできる難燃性ウレタン樹脂組成物を提供すること、そのためのポリオール組成物を提供することであると解される。 そして、本件明細書には、実施例1?76(表1?8)及び比較例1?21(表9,10)が記載されているところ、実施例1?76は、「ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤および難燃剤」を含み、難燃剤として、必須成分である「赤リン」以外に、「リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つ」を含有する難燃性ウレタン樹脂組成物であって、「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を、ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに,10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」を満たす難燃性ウレタン樹脂組成物に関するものである。 これらの実施例及び比較例においては、総発熱量、20分経過時の膨張、変形(ヒビ割れ)及び収縮が測定され、表1?10には、その結果が示されているが、その結果によれば、本件発明1の具体例である実施例1?76において、上記10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であり、20分経過時の膨張、変形(ヒビ割れ)、収縮がいずれも「○」であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体を形成できることが示されているといえ、20分経過時に一定の形状を保っていれば、10分経過時でも一定の形状を保っているといえる。 また、本件明細書の記載(【0003】)によれば、アルミノケイ酸塩類を多量に使用しなければ、流動性が確保できるため、取り扱いやすくなると解されるところ、実施例1?76は、アルミノケイ酸塩類を含むものではないから、取り扱いやすいものであることは、明らかといえる。 そうすると、当業者であれば、上記実施例以外の場合であっても、「ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤および難燃剤」を含み、難燃剤として、必須成分である「赤リン」以外に、「リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つ」を含有する難燃性ウレタン樹脂組成物であって、「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を、ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」を満たす難燃性ウレタン樹脂組成物であれば、上記実施例と同様に、取り扱いが容易であり、難燃性に優れ、加熱されたときに一定の形状を保つ発泡体を形成できることが理解できるといえる。 ウ したがって、本件明細書の記載を総合すれば、「ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤および難燃剤」を含み、難燃剤として、必須成分である「赤リン」以外に、「リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つ」を含有する難燃性ウレタン樹脂組成物に用いるポリオール組成物であって、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォームを得るために用い」ることを特定する、本件発明1,3?5は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1,3?5の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。 エ 以上のとおりであるから、本件発明1,3?5については、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。 オ 申立人は、本件発明1には、10分経過時に「加熱されたときに一定の形状を保つ」ポリウレタンフォームと、そうでないものの両方が含まれており、後者については発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張する。 しかしながら、上記イ及びウで述べたとおり、本件発明1の具体例である実施例1?76は、膨張、変形(ヒビ割れ)及び収縮がいずれも「○」であり、加熱されたときに一定の形状を保つことが理解できるといえる。 なお、申立人は、本件発明1は、加熱されたときに一定の形状を保つものと、そうではないものの両方が含まれている可能性を主張するだけで、具体的に加熱されたときに一定の形状を保てないものが含まれることを客観的な証拠により示していない。 よって、申立人の主張は採用することができない。 (2)申立理由1bについて 申立人は、本件特許発明1では、ポリオール組成物がいかなる構成・性質を有するときに、10分経過時に「加熱されたときに一定の形状を保つ」という発明の効果を奏するポリウレタンフォームが得られるのか特定を要するところ、それが特定されていないから、特許を受けようとする発明が明確ではない旨主張する。 しかしながら、本件発明1における「ポリウレタンフォーム」の「総発熱量」及びポリオール組成物の構成成分に関する記載自体に不明確な点はなく、申立人が指摘するポリオール組成物の構成・性質が本件発明1に特定されていないことで、本件発明1及びこれを直接又は間接的に引用する本件発明3?5が明確でないとはいえず、本件発明1,3?5は明確である。 よって、申立人の主張は採用することができない。 (3)申立理由1cについて ア 物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである(実施可能要件を満たす)というためには、発明の詳細な説明には、当業者がその物を製造することができ、かつ、その物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要がある。 イ 本件明細書には、ポリイソシアネート化合物の種類(【0033】?【0035】)、ポリオール化合物の種類(【0036】?【0044】)、三量化触媒の種類と添加量(【0049】?【0051】)、発泡剤の種類と添加量(【0052】,【0053】)、整泡剤の種類と添加量(【0054】)、難燃剤の種類と添加量(【0056】?【0086】)、難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を、ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときの、所定時間経過時の総発熱量の測定(【0100】,【0107】)、イソシアネートインデックス(【0045】)の各事項について、具体的な説明がなされている。 また、本件明細書には、難燃性ウレタン樹脂組成物の製造方法(【0031】,【0094】?【0096】,【0102】,【0106】)、難燃性ウレタン樹脂組成物から形成される発泡体の製造方法(【0098】,【0106】)、難燃性ウレタン樹脂組成物の応用例(【0099】)について、具体的な説明がなされている。 そして、本件明細書には、実施例1?76(表1?8)として、「ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤および難燃剤」を含み、難燃剤として、必須成分である「赤リン」以外に、「リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つ」を含有する難燃性ウレタン樹脂組成物であって、「前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を、ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下」を満たす難燃性ウレタン樹脂組成物に用いるポリオール組成物を製造し、さらに、当該難燃性ウレタン樹脂組成物から発泡体を製造したことが記載されている。 また、実施例以外のポリオール組成物、難燃性ウレタン樹脂組成物及び発泡体についても、当業者であれば、各種の原料を入手し、上記の製造方法により製造することができ、得られたポリオール組成物、難燃性ウレタン樹脂組成物及び発泡体を上記の応用例に使用することができる。 以上によれば、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、本件発明1,3?5に係るポリウレタンフォームを得るために用いられるポリオール組成物を製造し、使用することができるといえる。 ウ 以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1,3?5について、実施可能要件を満たすものである。 エ 申立人は、実施例1ないし76のポリウレタンフォームは、10分経過時において、試験用サンプルの形状が「加熱されたときに一定の形状を保つ」ケースと、そうでないものとの両方が含まれているが、これらは区別できないから、いわゆる当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。 しかしながら、本件発明1の具体例である実施例1?76は、膨張、変形(ヒビ割れ)及び収縮がいずれも「○」であり、加熱されたときに一定の形状を保てるものを製造できることが理解できるといえる。 なお、申立人は、本件発明1は、加熱されたときに一定の形状を保つものと、そうではないものの両方が含まれている可能性を主張するだけで、具体的に加熱されたときに一定の形状を保てないものが含まれることを客観的な証拠により示していない。 よって、申立人の主張は採用することができない。 (4)申立理由2について ア 特願2018-021501号(特許第6481058号公報)の請求項1,2,6に係る発明 特願2018-021501号(特許第6481058号公報)の請求項1,2,6に係る発明(以下、「同日出願発明1」,「同日出願発明2」,「同日出願発明6」という。)は、令和2年1月20日に訂正請求がなされ、令和2年3月30日付けの異議の決定により訂正が認められており、その特許請求の範囲の請求項1,2,6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 難燃性ウレタン樹脂組成物であって、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤および難燃剤を含み、 前記難燃剤が、赤リンを必須成分とし、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有し、 前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を,ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であることを特徴とする、難燃性ウレタン樹脂組成物。 【請求項2】 前記難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡体を、ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であり、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の難燃性ウレタン樹脂組成物。 ・・・ 【請求項6】 請求項1,2,4,5のいずれかに記載の難燃性ウレタン樹脂組成物から形成されてなることを特徴とする発泡体。」 イ 本件発明1について 本件発明1と同日出願発明1とを対比すると、以下の相違点1を含むものである。 <相違点1> 本件発明1は「ポリオール組成物」であるのに対して、同日出願発明1は「難燃性ウレタン樹脂組成物」である点 (ア)判断 上記相違点1について検討する。 同日出願発明1における「難燃性ウレタン樹脂組成物」は、上記アのとおり、その成分としてポリオール化合物だけでなく、ポリイソシアネート化合物も含むものと認められる。一方、本件発明1における「ポリオール組成物」は、「ポリウレタンフォームを得るために用いられる」ものであるため、ポリイソシアネート化合物と反応させることを前提にするものではあるものの、ポリオール組成物中にポリイソシアネート化合物を含むものではない。このことは、本件明細書における実施例1?76(表1?8)に、ポリオール組成物とポリイソシアネート化合物とが、区別して記載されていることからも理解できる。 そうすると、本件発明1における「ポリオール組成物」と同日出願発明1における「難燃性ウレタン樹脂組成物」は、その発明を異にするものである。 したがって、本件発明1が同日出願発明1と同一の発明であるということはできない。 (イ)申立人の主張 申立人は、請求項1の末尾に「ポリオール組成物」と記載されていたとしても、ポリイソシアネート化合物を含む発明が記載されている旨主張する。 しかしながら、上記(ア)で述べたとおり、ポリオール組成物はポリイソシアネート化合物が含まれるものではなく、「ポリオール組成物」と、ポリオール組成物及びポリイソシアネート化合物を含む「ウレタン樹脂組成物」は物の発明として異なるものである。 よって、申立人の主張は採用することができない。 ウ 本件発明2について 本件発明2と同日出願発明2とを対比すると、上記イと同様に、以下の相違点1を含むものである。 <相違点1> 本件発明2は「ポリオール組成物」であるのに対して、同日出願発明2は「難燃性ウレタン樹脂組成物」である点 上記相違点1についての検討は、上記イで述べたとおりである。 したがって、本件発明2が同日出願発明2と同一の発明であるということはできない。 エ 本件発明3について 本件発明3と同日出願発明1,2とを対比すると、以下の相違点2を含むものである。 <相違点2> 本件発明3は「2液型のポリウレタン組成物」であるのに対して、同日出願発明1,2は、そのような特定がない点 上記相違点2について検討する。 同日出願発明1,2における「ウレタン樹脂組成物」という記載は、ウレタン樹脂組成物一般を意味する包括的な概念と認められる。一方、本件発明3は、2液型と特定されるポリウレタン組成物に係るものである点で相違し、両者は、その発明を異にするものである。 したがって、本件発明3が同日出願発明1,2と同一の発明であるということはできない。 オ 本件発明4,5について 本件発明4,5は、本件発明1?3を直接又は間接的に引用するものであるが、本件発明4,5と同日出願発明1,2,6とを対比すると、上記イ?エで述べたものと同様の相違点1,2が存在するものであるから、本件発明4,5についても、同日出願発明1,2,6と同一の発明であるということはできない。 カ まとめ 以上のとおり、申立理由2によっては、本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 (5)申立理由3について ア 甲3に記載された発明 甲3の訳文として、申立人が提出した抄訳を用いる。以下、記載箇所の特定は、訳文に基づいて行う。 甲3の記載(請求の範囲,[0008],[0046],[0053]?[0077],実施例1?7)によれば、特に実施例1,4,6([0046],[0053]?[0075])に着目すると、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。 「ポリオール3(無水フタル酸、テレフタル酸とDEGの重縮合で得られる、水酸基価が260mgKOH/gで平均官能価が2のポリオール)5重量%、 ポリオール5(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、テレフタル酸とDEGの重縮合で得られる、水酸基価が250mgKOH/gで平均官能価が3のポリオール)15重量%、 ポリオール6(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートを開始剤として、エピクロロヒドリンと開環重合させて得られる、水酸基価が286mgKOH/gで平均官能価が3のポリオール)10重量%、 ポリオール7(エチレンジアミンを開始剤としてポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドと重合させて得られる、重量平均分子量が300で、平均官能価が4のポリオール)7重量%、 活性水素原子を含む低分子量ポリオール(グリセリン)1重量%、 反応性難燃剤(FR-130(広東万華栄威ポリウレタン有限公司製造、テトラブロモビスフェノールAとエチレンオキシド/プロピレンオキシドとの反応生成物を主体とする反応性難燃剤、水酸基価が130mgKOH/g)5重量%、 固体難燃剤1(RM4-7081(道康寧公司製造、シリコーン難燃剤)5重量% 固体難燃剤2(HP1250(上海洽普化工有限公司、赤リン)5重量%、 液体有機難燃剤(トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート60wt%とトリエチルホスフェート40wt%の混合物)30重量%、 水(蒸留水)1.5重量%、 触媒(15wt%のPC5、25wt%のPC8、25wt%のPC46、35wt%のTMR-2、の混合物(PC5、PC8、PC46、TMR-2はいずれも、ガス製品・化学公司が製造するアミン及び第4級アンモニウム塩型触媒))4重量%、 フォーム安定剤(B8525(高斯米特公司製造、ポリシロキサン化合物)1.5重量%、 発泡剤(HCFC-141b(浙江三美公司製造、ジクロロフルオロエタン)10重量%、 を含む、複合材料混合物。」(以下、「甲3発明1」という。) 「ポリオール2(無水フタル酸とDEGの重縮合で得られる、水酸基価が200mgKOH/gで平均官能価が2のポリオール)25重量%、 ポリオール4(ジメチルテレフタレート、DEG、アジピン酸を原料として、エステル交換反応や重縮合などの反応により得られる、水酸基価が250mgKOH/gで平均官能価が2のポリオール)10重量%、 ポリオール7(エチレンジアミンを開始剤としてポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドと重合させて得られる、重量平均分子量が300で、平均官能価が4のポリオール)3重量%、 反応性難燃剤(FR-130(広東万華栄威ポリウレタン有限公司製造、テトラブロモビスフェノールAとエチレンオキシド/プロピレンオキシドとの反応生成物を主体とする反応性難燃剤、水酸基価が130mgKOH/g)8重量%、 固体難燃剤1(RM4-7081(道康寧公司製造、シリコーン難燃剤)5重量% 固体難燃剤2(HP1250(上海洽普化工有限公司、赤リン)10重量%、 液体有機難燃剤(トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート60wt%とトリエチルホスフェート40wt%の混合物)13重量%、 水(蒸留水)2重量%、 触媒(15wt%のPC5、25wt%のPC8、25wt%のPC46、35wt%のTMR-2、の混合物(PC5、PC8、PC46、TMR-2はいずれも、ガス製品・化学公司が製造するアミン及び第4級アンモニウム塩型触媒))3重量%、 フォーム安定剤(B8525(高斯米特公司製造、ポリシロキサン化合物)3重量%、 発泡剤(HCFC-141b(浙江三美公司製造、ジクロロフルオロエタン)18重量%、 を含む、複合材料混合物。」(以下、「甲3発明2」という。) 「ポリオール5(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、テレフタル酸とDEGの重縮合で得られる、水酸基価が250mgKOH/gで 平均官能価が3のポリオール)38重量%、 ポリオール6(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートを開始剤として、エピクロロヒドリンと開環重合させて得られる、水酸基価が286mgKOH/gで平均官能価が3のポリオール)14重量%、 ポリオール7(エチレンジアミンを開始剤としてポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドと重合させて得られる,重量平均分子量が300で、平均官能価が4のポリオール)2重量%、 反応性難燃剤(FR-130(広東万華栄威ポリウレタン有限公司製造、テトラブロモビスフェノールAとエチレンオキシド/プロピレンオキシドとの反応生成物を主体とする反応性難燃剤、水酸基価が130mgKOH/g)6重量%、 固体難燃剤2(HP1250(上海洽普化工有限公司、赤リン)3重量%、 液体有機難燃剤(トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート60wt%とトリエチルホスフェート40wt%の混合物)18重量%、 水(蒸留水)0.3重量%、 触媒(15wt%のPC5、25wt%のPC8、25wt%のPC46、35wt%のTMR-2、の混合物(PC5、PC8、PC46、TMR-2はいずれも、ガス製品・化学公司が製造するアミン及び第4級アンモニウム塩型触媒))1.5重量%、 フォーム安定剤(B8525(高斯米特公司製造、ポリシロキサン化合物)2重量%、 発泡剤(HCFC-141b(浙江三美公司製造、ジクロロフルオロエタン)15.2重量%、 を含む、複合材料混合物。」(以下、「甲3発明3」という。) イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲3発明1?3とをまとめて対比する。 甲3発明1?3における「ポリオール2」?「ポリオール7」は、いずれも、本件発明1における「ポリオール化合物」に相当する。 甲3発明1?3における「触媒」は、「アミン及び第4級アンモニウム塩型触媒」であるが、このうち、「第4級アンモニウム塩型触媒」は、本件明細書の記載(【0049】,【0050】)及び、4級アンモニウム塩が三量化触媒であることが本件優先日時点の技術常識であることからみて、本件発明1における「三量化触媒」に相当する。 甲3発明1?3における「水」,「発泡剤」は、本件明細書の記載(【0052】)及び技術常識からみて、いずれも、本件発明1における「発泡剤」に相当する。 甲3発明1?3における「フォーム安定剤」は、甲3の記載([0048])からみて、本件発明1における「整泡剤」に相当する。 甲3発明1?3における「固体難燃剤2」は、「赤リン」を含むものであるから、本件発明1における「赤リン」である「難燃剤」に相当する。 甲3発明1?3における「液体有機難燃剤」は、「トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート60wt%とトリエチルホスフェート40wt%の混合物」であるから、本件発明1における「赤リン以外」の「難燃剤」である「リン酸エステル」に相当する。 以上の対比及びポリイソシアネートと反応させることを踏まえると、甲3発明1?3における「複合材料混合物」は、本件発明1における「ポリオール組成物」に相当するといえる。 以上によれば、本件発明1と甲3発明1?3とは、 「ポリウレタンフォームを得るために用いられるポリオール組成物であって、 ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤及び難燃剤を含み、前記難燃剤が、赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有する、ポリオール組成物。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3> 本件発明1では、ポリオール組成物について、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォーム」を得るために用いられるのに対して、甲3発明1?3では、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォーム」を得るために用いられるのか不明である点 (イ)相違点3の検討 甲3発明1?3は、固体難燃剤2(赤リン)及び液体有機難燃剤を含むものであるから、一定程度は難燃性に優れていると解されるものの、甲3発明1?3に係る複合材料混合物を用いて調製したポリイソシアヌレートフォームが、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m ^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォーム」かどうかは、不明というほかなく、また、そのように認めるに足りる証拠もない。 また、甲4(第16頁右欄「2.方法」),甲5(第28頁「表1」)には、建築防火材料用難燃性試験基準に関し、準不燃材料では、コーンカロリメーター試験(ISO 5660-1 at 50KW/m^(2))で、「≦8MJ/m2 and ≦200kw/m2」(加熱時間10分)であること、不燃材料では、同試験で、「≦8MJ/m2 and ≦200kw/m2」(加熱時間20分)であることが記載されている。 そして、甲6(第142頁第5行?第6行)には、建築基準法の法改正にともない、防火材料性能試験(難燃・準不燃・不燃材料)も国際的標準化(ISO-5660:コーンカロリーメーター)されたことが記載されている。 しかしながら、上記で述べたとおり、甲3発明1?3に係る複合材料混合物を用いて調製したポリイソシアヌレートフォームが、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォーム」かどうかは、不明であり、また、そもそも、そのような総発熱量が達成できるかどうかも不明である。 そうすると、甲3発明1?3において、複合材料混合物を用いて調製したポリイソシアヌレートフォームが、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォーム」と特定することが、当業者が容易に想到することができたということはできない。 したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲4?6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 申立人の主張 申立人は、「中国特許出願公開の明細書(甲3)7頁の表には「600s内総熱量放出量(MJ)」という項目があり、実施例1ないし実施例7には、それぞれ、「5」ないし「9」という値が記載されている。この測定は中国国家標準「GB/T 20284-2006」にしたがって行うこととされており、この試験方法の詳細は不明であるが、建築材料の測定方法であると解される。その結果、600sすなわち10分経過後の総発熱量が5MJ/m^(2)から9MJ/m^(2)であることが記載されている。 この数字は、本件特許発明1の総発熱量(7.8MJ/m^(2))と近いものである。 したがって、中国特許出願公開の明細書に当業者が接した場合、中国特許出願公開の明細書に記載された構成に基づいて、本件特許発明1の総発熱量へと容易に想到しうるものである。」旨主張する。 しかしながら、「GB/T 20284-2006」の試験方法の詳細が不明である以上、甲3発明1?3に係る複合材料混合物を用いて調製したポリイソシアヌレートフォームが、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m ^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォーム」かどうかも、不明というほかない。 また、申立人は、「建築材料の発明においてISO-5660により難燃性を評価することは、ポリオール組成物やポリウレタンフォームの技術分野において一般的に知られた技術、すなわち周知の技術である。 ・・・ すなわち、中国特許出願公開の明細書に係る発明に、ISO-5660に準拠し放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱する発熱量試験を組み合わせることは、日本で事業を行う当業者にとって容易である。」旨主張する。 しかしながら、上記イで述べたとおり、甲3発明1?3に係る複合材料混合物を用いて調製したポリイソシアヌレートフォームが、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォーム」かどうかは、不明であり、また、そもそも、そのような総発熱量が達成できるかどうかも不明である。 そうすると、建築材料の発明においてISO-5660により難燃性を評価することが一般的に知られた技術だからといって、甲3発明1?3において、複合材料混合物を用いて調製したポリイソシアヌレートフォームが、「ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォーム」と特定することが、当業者が容易に想到することができたということはできない。 さらに、申立人は、「出願人が、あえてISO-5660を選択した上でパラメータ特許を出願している以上、ISO-5660と中国におけるGB/T 8624-2006とが相違するというならば、出願人において証明する責任を負うべきである。 しかしながら、本件特許の審査過程において、出願人はこれを十分に証明したとはいえない。 よって、進歩性は否定されるべきである。」旨主張する。 しかしながら、進歩性の否定において、その立証責任は申立人側が負うべきものであり、申立人が異議申立書に添付した証拠方法からは、GB/T 8624-2006の詳細がわかるものではない。 以上のとおり、申立人の主張は採用することができない。 エ 本件発明3?5について 本件発明3?5は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記イで述べたとおり、甲3に記載された発明及び甲4?6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3?5についても同様に、甲3に記載された発明及び甲4?6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 オ まとめ 以上のとおり、申立理由3によっては、本件特許の請求項1,3?5に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由1,2及び申立人が申し立てた申立理由1a?3によっては、請求項1?5に係る本件特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?5に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォームを得るために用いられるポリオール組成物であって、 前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤及び難燃剤を含み、前記難燃剤が、赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とするポリオール組成物。 【請求項2】 ISO-5660の試験方法により準拠して、放射熱強度50kW/m^(2)にて加熱したときに、10分経過時の総発熱量が7.8MJ/m^(2)以下であり、20分経過時の総発熱量が12.7MJ/m^(2)以下であるポリウレタンフォームを得るために用いられるポリオール組成物であって、 前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物、三量化触媒、発泡剤、整泡剤及び難燃剤を含み、前記難燃剤が、赤リンを含有し、前記赤リン以外にリン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤および金属水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とするポリオール組成物。 【請求項3】 請求項1又は2に記載のポリオール組成物を含む第1液と、ポリイソシアネート化合物を含む第2液と、を含むことを特徴とする2液型のポリウレタン樹脂組成物。 【請求項4】 請求項3に記載のポリウレタン樹脂組成物から生成されてなることを特徴とするポリウレタンフォーム。 【請求項5】 請求項1又は2に記載のポリオール組成物と、ポリイソシアネート化合物と、を用いてポリウレタンフォームを製造することを特徴とするポリウレタンフォームの製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-03-11 |
出願番号 | 特願2019-9059(P2019-9059) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C08G)
P 1 651・ 121- YAA (C08G) P 1 651・ 536- YAA (C08G) P 1 651・ 4- YAA (C08G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 三原 健治 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
安田 周史 杉江 渉 |
登録日 | 2019-12-06 |
登録番号 | 特許第6626590号(P6626590) |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | 難燃性ウレタン樹脂組成物 |
代理人 | 虎山 滋郎 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 虎山 滋郎 |