ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B |
---|---|
管理番号 | 1374875 |
異議申立番号 | 異議2020-700093 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-02-20 |
確定日 | 2021-03-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6562147号発明「絶縁膜、絶縁導体、金属ベース基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6562147号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-4]について訂正することを認める。 特許第6562147号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6562147号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成30年12月28日(優先権主張 平成30年2月5日)の特許出願であって、令和1年8月2日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許に対し、令和2年2月20日に特許異議申立人 古川興輝(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年5月22日付けで取消理由が通知され、同年7月31日に特許権者 三菱マテリアル株式会社(以下、「特許権者」という。)より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年8月21日付けで特許法第120条の5第5項に基づく通知を行ったところ、同年9月25日に特許異議申立人より意見書の提出がされ、同年11月20日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和3年1月13日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求による訂正を「本件訂正」という。)がなされたものである。 なお、令和2年7月31日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の許否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)。なお、本件訂正は、一群の請求項[1?4]に対して請求されたものである。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「にあることを特徴とする」とあるのを「にあり、相対耐電圧と相対熱伝導度とを乗じた値である相対性能値が9.5から12.4であることを特徴とする」に訂正する。 (請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2?4も同様に訂正する。) (2) 訂正事項2 明細書の段落【0061】に 「<絶縁膜付き銅基板の評価> 本発明例1?19および比較例1?8で作製した絶縁膜について、下記の項目を評価した。その結果を表1に示す。」と記載されているのを 「<絶縁膜付き銅基板の評価> 本発明例1?19および比較例1?8で作製した絶縁膜について、下記の項目を評価した。その結果を表1に示す。なお、本発明例1から4、7から16、19は本件特許請求の範囲外である。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1に係る請求項1の訂正について 請求項1に係る訂正は、絶縁膜に関し、「相対耐電圧と相対熱伝導度とを乗じた値である相対性能値が9.5から12.4」であることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、絶縁膜の「相対性能値」を上記のとおり特定することは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。 請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?4についても同様である。 (2) 訂正事項2に係る段落【0061】の訂正について 段落【0061】の訂正は、請求項1の訂正に伴い、請求項1の特定事項を満たさなくなった例を、「本件特許請求の範囲外である」と明示するものである。 そうすると、段落【0061】の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?4]について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、訂正後の請求項[1?4]について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明4」という。また、総称して「本件発明」という。)は、令和3年1月13日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ポリイミド、またはポリアミドイミド、もしくはこれらの混合物からなる樹脂と、平均粒子径が0.3μm以上1.5μm以下の範囲内にあるαアルミナ単結晶粒子と、を含み、前記αアルミナ単結晶粒子の含有量が8体積%以上80体積%以下の範囲内にあり、相対耐電圧と相対熱伝導度とを乗じた値である相対性能値が9.5から12.4であることを特徴とする絶縁膜。 【請求項2】 前記αアルミナ単結晶粒子の含有量が20体積%以上70体積%以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の絶縁膜。 【請求項3】 導体と、前記導体の表面に備えられた絶縁膜とを有する絶縁導体であって、 前記絶縁膜が、請求項1または2に記載の絶縁膜からなることを特徴とする絶縁導体。 【請求項4】 金属基板と、絶縁膜と、金属箔とがこの順で積層された金属ベース基板であって、 前記絶縁膜が、請求項1または2に記載の絶縁膜からなることを特徴とする金属ベース基板。」 第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について 特許異議申立人が、請求項1ないし4に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨及び提出した証拠方法は、次のとおりである。 申立理由1-1(新規性欠如) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由1-2(新規性欠如) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由1-3(新規性欠如) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由1-4(新規性欠如) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由2-1(進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由2-2(進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由2-3(進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由2-4(進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立理由3(実施可能要件) 本件特許の訂正前の請求項1ないし4に係る発明は、明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由3の具体的理由はおおむね次のとおりである。 「本件発明1では、絶縁膜が、ポリイミド、またはポリアミドイミド、もしくはこれらの混合物からなる樹脂を含むことが必須要件の一つである。ここで、本件発明1で規定されたポリイミドが、一般に、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを特定の条件で反応することにより合成されることは周知である。 しかし、本件明細書において樹脂としてポリイミドを使用した実施例(段落[0051]、本発明例1?11)を参照すると、ジアミンについては「4,4’-ジアミノジフェニルエーテル」と具体的に記載されている一方、テトラカルボン酸二無水物については、多岐に亘る数多くのものが存在するにも拘わらず、単に「テトラカルボン酸2無水物」と記載されているだけで、その具体的化合物は一切不明である。樹脂について記載した段落[0019]を参照しても、ポリイミドの具体的な組成について、全く言及されていない。 さらに、本件明細書において樹脂として混合物を使用した実施例(段落[0055]、本発明例12?19)を参照すると、「溶剤可溶型のポリイミドとポリアミドイミドを重量比1:1で混合し」と記載されているだけであり、やはり、ポリイミドの具体的内容は一切不明である。 参考までに、甲1発明、甲2発明及び甲3発明のいずれにおいても、各実施例では、全て、使用したテトラカルボン酸二無水物とジアミンについて、具体的化合物が記載されている。 してみると、本件明細書は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。」 「甲第4号証は、参考例2として、住友化学工業(株)製破砕アルミナ「AA-05」を開示し(段落[0030]、表3)、この破砕アルミナ「AA-05」を使用した場合、成形不能とされている(表8)。これは、甲4の段落[0009]によれば、αアルミナ粉末の平均球形度が0.93未満であることから、流動性に劣り、多量に配合する場合、成形し難いとされている。 一方、本件明細書の段落[0022]には、前述の通り、「αアルミナ単結晶粒子12としては、例えば、住友化学株式会社から販売されているアドバンストアルミナ(AA)シリーズのAA-03、AA-04、AA-05、AA-07、AA-1.5などを用いることができる。」と記載され、この「AA-05」が、甲4の参考例2として使用された破砕アルミナと同一物と解される。そして、本件発明では、αアルミナ単結晶粒子の含有量は「8?80体積%の範囲」であるから、多量に配合する場合、甲4と同様な成形不良を起こすことが想定される。しかし、本件明細書において、このような事態をどのように解消するのか不明である。 してみると、この点においても、本件明細書は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。」 ・甲第1号証:特開2013-30727号公報 ・甲第2号証:特開2012-213899号公報 ・甲第3号証:特開2012-213900号公報 ・甲第4号証:WO2008/053536号 ・甲第5号証:住友化学「製品データブック」(抜粋)高純度アルミナ(2 015年12月) https://www.sumitomo-chem.co.jp/ products/files/docs/a06008.pdf ・甲第6号証:特開2003-71982号公報 (なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載にしたがった。) 第5 令和2年11月20日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要 当審が令和2年11月20日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 取消理由1-1(新規性欠如) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 取消理由2-1(進歩性欠如) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第6 当審の判断 1 取消理由(決定の予告)について (1) 甲第1号証の記載事項等 ア 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、次の事項が記載されている。(下線については、当審において付与した。以下同様。) 「【0001】 本発明は、熱伝導特性に優れる絶縁層を有し、放熱基板や回路基板、並びに熱伝導性樹脂付銅箔等に好適に使用される熱伝導性基板及び熱伝導性ポリイミドフィルムに関するものである。」 「【0019】 [熱伝導性基板] 本発明の一実施の形態の熱伝導基板は、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散されたフィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有する。絶縁層は、フィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有していればよい。絶縁層の片面又は両面には金属層を有する。フィラー含有ポリイミド樹脂層は、下記特定のポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが含有されている。フィラー含有ポリイミド樹脂層を構成するポリイミド樹脂は、アミノ化合物とのC=N結合による架橋構造を有している。この架橋構造の架橋形成率(硬化の度合い)が制御されたフィラー含有ポリイミド樹脂層による絶縁層を、金属層の片面に有するものは、樹脂層が接着性を有するものとすることが可能であり、例えば樹脂付銅箔として、すなわち熱伝導性樹脂付銅箔として他の基材と接着して用いることができる。 【0020】 [絶縁層] 絶縁層は、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散されたフィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有していればよく、フィラー含有ポリイミド樹脂層以外に、これに積層された他のポリイミド樹脂層を備えていてもよい。この場合、フィラー含有ポリイミド樹脂層を構成するポリイミド樹脂と、絶縁層中の他のポリイミド樹脂層を構成するポリイミド樹脂とは、同種のポリイミド樹脂でもよいし、異種のポリイミド樹脂でもよい。フィラー含有ポリイミド樹脂層以外の他のポリイミド樹脂層として異種のポリイミド樹脂を使用する場合のポリイミド樹脂の種類は特に問われるものではない。ただし、熱伝導性基板の放熱特性を高める観点から、絶縁層の全体がフィラー含有ポリイミド樹脂層により形成されていることが好ましい。この場合、フィラー含有ポリイミド樹脂層は単層に限らず、複数層が積層されたものでもよい。 【0021】 [熱伝導フィラー] フィラー含有ポリイミド樹脂層中の熱伝導性フィラーの含有割合は、5?80wt%の範囲内であることが必要であり、10?60wt%の範囲内が好ましい。熱伝導性フィラーの含有割合が5wt%に満たないと、回路基板等の電子部品とした際の放熱特性が十分でなく、80wt%を超えると耐折性や耐屈曲性の低下が顕著となり、また、ポリイミド樹脂層の強度も低下する。 【0022】 熱伝導性フィラーとしては、高熱伝導性のフィラーが好ましく、具体的には、例えばアルミニウム、銅、ニッケル、シリカ、ダイヤモンド、アルミナ、マグネシア、ベリリア、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。これらの中でも、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素及びマグネシアから選ばれる少なくとも1種類のフィラーが好ましい。ポリイミド樹脂層は絶縁層として作用するので、その観点からはポリイミド樹脂層に配合されるフィラーは絶縁性であるものが適する。フィラー形状は、特に制限されるものではなく、例えば板状(燐片状を含む)、球状、針状、棒状のいずれでも良い。また、熱伝導性フィラーの含有量を高め、熱伝導性などの特性とのバランスを考慮し、異なる形状(例えば、板状と球状、板状と針状など)のフィラーを併用することもできる。 【0023】 熱伝導性フィラーのサイズは、ポリイミド樹脂層の厚み方向にフィラーを均一に分散させて熱伝導性を向上させる観点から、例えば、平均粒子径が0.5?10μmの範囲内にあることが好ましく、0.8?5μmの範囲内にあることがより好ましい。熱伝導性フィラーの平均粒子径が0.5μmに満たないと、個々のフィラー内部での熱伝導が小さくなり、結果としてポリイミド樹脂層の熱伝導率が向上しないばかりでなく、粒子同士が凝集を起こしやすくなり、均一に分散させることが困難となる恐れがある。一方、10μmを超えると、ポリイミド樹脂層への充填率が低下し、かつフィラー界面においてポリイミド樹脂層が脆くなる傾向にある。」 「【0085】 本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、金属箔(金属板)、セラミック基板、Si基板等に対して実用的接着強度を有しており、かつ熱伝導性に優れている。この熱伝導性ポリイミドフィルムは、接着層を介在させなくても、金属箔(金属板)、セラミック基板、Si基板等と張り合わせることができる。つまり、熱伝導性ポリイミドフィルムは、その片面又は両面に、接着層を必要とせずに金属箔(金属板)、セラミック基板などの接着対象基材と直接張り合わせることが可能な性質を有している。したがって、本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、例えば放熱基板や回路基板等の用途で金属層、セラミック層などの基材に積層して使用するために適したフィルムである。」 「【0101】 [実施例1] 合成例1で得られたポリイミド溶液aを63.88g秤量し、2.56gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA-1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを38.4g秤量し、N-12を1.096g添加して、N-12が溶けるまで攪拌した。このN-12のNMP溶液を上記のアルミナを含有するポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で30分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で60分かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は10wt%である。続いて、この熱伝導性基板のポリイミド絶縁層の上に厚さ18μmの圧延銅箔を置き、温度160℃、圧力2MPa、時間2時間の条件でプレスし、両面に金属層を有する熱伝導性基板を得た。 ・・・ 【0103】 [実施例2] 合成例1で得られたポリイミド溶液aを47.99g秤量し、17.28gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA-1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを28.81g秤量し、N-12を0.82g添加して、N-12が溶けるまで攪拌した。このN-12のNMP溶液を上記のアルミナを含有するポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまでに遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で30分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で60分かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は50wt%である。続いて、この熱伝導性基板のポリイミド絶縁層の上に厚さ18μmの圧延銅箔を置き、温度160℃、圧力2MPa、時間2時間の条件でプレスし、両面に金属層を有する熱伝導性基板を得た。続いて、実施例1と同じように評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。」 「【0107】 [実施例5] 合成例2で得られたポリイミド溶液bを400g秤量し、147.0gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA-1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを97.3g秤量し、N-12を4.2g添加して、N-12が溶けるまで攪拌した。このN-12のNMP溶液を上記のアルミナが入ったポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で30分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で2時間かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は50wt%である。続いて、この熱伝導性基板のポリイミド絶縁層の上に厚さ18μmの圧延銅箔を置き、温度160℃、圧力2MPa、時間2時間の条件でプレスし、両面に金属層を有する熱伝導性基板を得た。続いて、実施例1と同じように評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。」 「【0114】 [比較例5] 実施例1のアルミナを添加しないことを除いては、実施例1と同様に操作して、比較例5の両面金属積層体を得た。続いて、実施例1と同じように評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。」 「【0119】 [実施例6] 合成例1で得られたポリイミド溶液aを63.89g秤量し、86.56gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA-1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを35.06g秤量し、N-12を1.096g添加して、N-12が溶けるまで攪拌した。このN-12のNMP溶液を上記のアルミナを含有するポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で15分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で60分かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は79wt%である。 ・・・ 【0121】 [実施例7] 合成例1で得られたポリイミド溶液aを63.89g秤量し、53.69gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA-1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを35.06g秤量し、N-12を1.096g添加して、N-12が溶けるまで攪拌した。このN-12のNMP溶液を上記のアルミナを含有するポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で15分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で10分かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は70wt%である。続いて、実施例6と同じように評価を行った。その結果を表3に示した。また、この片面に金属層を有する熱伝導性基板のポリイミド樹脂層に熱圧着させた圧延銅箔について、金属/樹脂間の1mm180°ピール強度(圧着面接着強度)を測定したところ、0.6[kN/m]以上であった。 【0122】 [実施例8] 実施例7において、120℃で5分、160℃で10分かけて加熱したことの替わりに、120℃で5分、160℃で60分かけて加熱した以外は実施例7と同様にして、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。続いて、実施例6と同じように評価を行った。その結果を表3に示した。また、この片面に金属層を有する熱伝導性基板のポリイミド樹脂層に熱圧着させた圧延銅箔について、金属/樹脂間の1mm180°ピール強度(圧着面接着強度)を測定したところ、0.6[kN/m]以上であった。」 「【0127】 [実施例13] 実施例7で作製した片面に金属層を有する熱伝導性基板のポリイミド絶縁層の上に厚さ18μmの圧延銅箔を置き、温度160℃、圧力2MPa、時間2時間の条件でプレスし、両面に金属層を有する熱伝導性基板を得た。得られた熱伝導性基板を所定パターンに加工して、接着強度、半田耐熱性及びカールの測定を行った。その結果を表4に示した。」 「【0115】 【表1】 」 「【0128】 【表3】 」 イ 甲第1号証に記載された発明 アの記載、特に、実施例6、8の記載から、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認める。 「ポリイミドからなる樹脂と、アルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA-1.5)とを含み、前記アルミナの含有量が70wt%?79wt%の範囲内である熱伝導性基板に設けられた絶縁層。」(以下、「甲1発明」という。) (2) 対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「アルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA-1.5)」は、平均粒径が1.5μmのアルミナであって、また、本件明細書の段落【0022】の記載からすれば、αアルミナ単結晶粒子であると認められるから、本件発明1の「平均粒子径が0.3μm以上1.5μm以下の範囲内にあるαアルミナ単結晶粒子」に相当する。 また、甲1発明の絶縁層におけるアルミナの含有量について「70wt%?79wt%」は、αアルミナの比重を4、ポリイミドの比重を1.4として換算すると、「45.0体積%以上56.8体積%以下」に換算され、本件発明1の「αアルミナ単結晶粒子の含有量が8体積%以上80体積%以下の範囲内」との特定事項を満たす。 そうすると、両者は、 「ポリイミドからなる樹脂と、平均粒子径が0.3μm以上、1.5μm以下の範囲内にあるαアルミナ単結晶粒子と、を含み、前記αアルミナ単結晶粒子の含有量が8体積%以上80体積%以下の範囲内である絶縁膜。」 で一致し、次の点で一応相違する。 <相違点1> 絶縁膜に関し、本件発明1は「相対耐電圧と相対熱伝導度とを乗じた値である相対性能値が9.5から12.4である」と特定されるが、甲1発明にはそのような特定がない点。 上記相違点1について検討する。 「相対性能値」は、本件明細書の段落【0066】によると、「相対耐電圧と相対熱伝導とを乗じた値を、相対性能値として算出した」ものであり、「相対耐電圧」、「相対熱伝導」はそれぞれ、本件明細書の段落【0063】、【0065】に記載されているように、樹脂単独の絶縁膜の耐電圧、熱伝導度を1としたときの相対的指標である。 そこで、甲第1号証の各実施例の「相対性能値」の算出を試みる。 甲第1号証の表1における比較例5が樹脂単独(フィラーを含まないもの)であるから、この比較例5の耐電圧、熱伝導度を1とすると、実施例6の「相対耐電圧」、「相対熱伝導」、「相対性能値」はそれぞれ、次のとおり算出される。(なお、算出にあたって、単位の記載は省略する。) 相対耐電圧:2.6/3.5 ≒0.74 相対熱伝導:0.7/0.08=8.75 相対耐電圧0.74×相対熱伝導8.75≒相対性能値6.48 同様に、実施例8では、「相対性能値」は7.13と算出され、いずれも、「相対性能値」は9.5よりも小さいものである。 してみると、相違点1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1に記載された発明(甲1発明)ではない。 また、甲第1号証並びに提出された証拠には、絶縁膜の熱伝導性と耐電圧性の両者が高くなるとの観点から、上記「相対性能値」という指標に着目する点については何ら記載も示唆もされておらず、かつ、そのような指標が当該技術分野において周知のものであったともいえない。 そして、本件発明1は、「相対性能値」を「9.5から12.4」とすることにより、絶縁膜の熱伝導性と耐電圧が共に優れたものを提供するとの格別の効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 2 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由に記載した申立ての理由について 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1-2(甲2号証を根拠とする新規性)、申立理由1-3(甲第3号証を根拠とする新規性)、申立理由1-4(甲第4号証を根拠とする新規性)、申立理由2-2(甲第2号証を主引用例とする進歩性)、申立理由2-3(甲第3号証を主引用例とする進歩性)、申立理由2-4(甲第4号証を主引用例とする進歩性)、申立理由3(実施可能要件)である。 そこで、検討する。 (1) 申立理由1-2(甲第2号証を根拠とする新規性)、申立理由2-2(甲第2号証を主引用例とする進歩性)について ア 甲第2号証の記載事項等 (ア) 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 金属層と、該金属層に積層された絶縁層と、を備えた熱伝導性ポリイミド-金属基板であって、 前記絶縁層は、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーを40?70vol%の範囲内で含有するフィラー高密度含有ポリイミド樹脂層を有し、 前記ポリイミド樹脂が、ジアミン成分として、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを全ジアミン成分に対して50mol%以上用いて合成され、かつ、そのガラス転移点が250℃以上である熱可塑性ポリイミド樹脂であり、 前記フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層における熱伝導性フィラーの80vol%以上が、平均粒径が5μm以下の球状フィラーであることを特徴とする熱伝導性ポリイミド-金属基板。 【請求項2】 前記球状フィラーが、酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類である請求項1に記載の熱伝導性ポリイミド-金属基板。」 「【0001】 本発明は、熱伝導特性に優れる絶縁層を有し、放熱基板や回路基板に好適に使用される熱伝導性ポリイミド-金属基板に関するものである。」 「【0031】 <熱伝導性フィラー> ポリイミド樹脂層中の熱伝導性フィラーの含有割合は、40?70vol%の範囲内であることが必要であり、50?70vol%の範囲内が好ましい。熱伝導性フィラーの含有割合が40vol%に満たないと、回路基板等の電子部品とした際の放熱特性が十分でなく、70vol%を超えるとポリイミド樹脂(ポリアミド酸)中に熱伝導性フィラーを含有させた場合、ワニスが高粘度化し金属張積層体の作製が困難となる。 【0032】 さらに、本発明で使用する熱伝導性フィラーの80vol%以上は、平均粒子径が5μm以下の球状フィラーであることが必要である。ここで、球状とは、形状が球形又は球形に近いもので、平均長径と平均短径との比が1又は1に近いもの(好ましくは0.8以上)を意味する。球状フィラーとしては、例えば酸化アルミニウム、窒化アルミニウムのいずれか一方又は両方を含むことが好ましく、特に、高い熱伝導性を担保し、反りを効果的に抑制できることから、熱伝導性フィラーのすべてを窒化アルミニウムとすることがより好ましい。 【0033】 熱伝導性フィラーの大部分に球状フィラーを用いることによって、ポリイミド樹脂層への高密度充填と均一な分散が可能になり、熱伝導率を向上させることができる。また、本発明において、熱伝導性フィラーの80vol%以上が、平均粒子径が5μm以下の球状フィラーであることを必須とする理由は、以下のとおりである。すなわち、本発明では、絶縁層の40vol%以上の高密度に熱伝導性フィラーを充填するために、平均粒子径が5μmを超えるフィラーや、非球状フィラーの含有率が合計で20vol%を超えると、外観不良を起こしやすくなったり、フィラーと樹脂との界面にボイドが発生しやすくなって耐電圧性が低下したりしやすくなる。 【0034】 本発明では、発明の効果を損なわない範囲で、上記平均粒子径が5μm以下の球状フィラーとともに、それ以外の熱伝導性フィラーを併用することができる。上記以外の熱伝導性フィラーとしては、例えばアルミニウム、銅、ニッケル、シリカ、ダイヤモンド、マグネシア、ベリリア、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。これらの中でも、シリカ、窒化ホウ素、窒化ケイ素から選ばれる熱伝導性フィラーが好ましい。ポリイミド樹脂層は絶縁層として作用するので、その観点からはポリイミド樹脂層に配合されるフィラーは絶縁性であるものが適する。 【0035】 熱伝導性フィラー(球状フィラー及び球状以外のフィラー)の粒子サイズは、ポリイミド樹脂層の厚み方向にフィラーを均一に分散させて熱伝導性を向上させる観点から、平均粒子径が5μm以下であることが好ましく、0.5?3μmの範囲内にあることがより好ましい。熱伝導性フィラーの平均粒子径が5μmより大きいと、ポリイミド樹脂層の表面にフィラーが突出し外観上に問題が生じる場合がある。特に絶縁層の厚みが40μm以下である場合には、熱伝導性フィラーの平均粒子径を大きくしすぎないことが重要であり、平均粒子径を5μm以下とすることによって、外観上の不具合を回避できる。 【0036】 <絶縁層の構造> 絶縁層は、上記フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層を有していれば、単層に限らず複数層とすることもできる。例えば、金属層とフィラー高密度含有ポリイミド樹脂層との間に、フィラーを含有しない絶縁層を設けることもできる。ただし、フィラーを含有しない絶縁層の厚みによっては、金属張積層体の熱伝導率が低下するので、放熱の効率を維持するために、金属層と接する絶縁層にはフィラーが含有されていることが好ましい。この場合には、金属層との接着性を担保するため、フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層よりもフィラー含有率を低くすることが好ましい。 【0037】 なお、本発明による熱伝導性ポリイミド-金属基板の積層構成の代表例を示すと下記のA)?D)の積層構造が例示できる。 A)金属層1/フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層 B)金属層1/フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層/金属層2 C)金属層1/フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層/ポリイミド樹脂層/金属層2 D)金属層1/フィラー低含有ポリイミド樹脂層/フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層/ポリイミド樹脂/金属層2」 「【0069】 実施例1 固形分濃度15wt%のポリアミド酸溶液(P1)200重量部と、球状フィラーとして窒化アルミニウム[(株)トクヤマ製、商品名:AlN(Hグレード)、球状、平均粒径1.1μm]73重量部とを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、続いてDMAcを40重量部添加し、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸の溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、130?300℃の温度範囲で、段階的に20分かけて昇温加熱して、厚さ12μmの電解銅箔(Ra=0.11μm)上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、金属張積層体を作製した。この絶縁層における窒化アルミニウムの含有量は50vol%である。 【0070】 得られた金属張積層体における絶縁層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去して絶縁フィルム(F1)を作製し、ガラス転移温度を評価した。また、熱伝導率の測定は、別に調製しておいた厚さ100nmのサンプルによって実施した。結果を表2に示す。更に、金属張積層体の特性評価結果を表3に示した。 【0071】 実施例2 球状フィラーとして酸化アルミニウム(住友化学(株)社製、商品名:AA-1.5、球状、平均粒径1.5μm)を使用した以外は実施例1と同様にして、金属張積層体及び絶縁フィルム(F2)を作製した。実施例1と同様にして、ガラス転移温度、熱伝導率及び金属張積層体の特性評価を行った。」 「【0078】 【表1】 」 (イ) 甲第2号証に記載された発明 (ア)の記載、特に、実施例2の記載から、甲第2号証には以下の発明が記載されていると認める。 「ポリイミドからなる樹脂と、酸化アルミニウム(住友化学(株)社製、商品名:AA-1.5、球状、平均粒径1.5μm)とを含み、前記アルミナの含有量が50vol%である熱伝導性ポリイミド-金属基板に設けられる絶縁層。」(以下、「甲2発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「酸化アルミニウム(住友化学(株)社製、商品名:AA-1.5、球状、平均粒径1.5μm)」は、平均粒径が1.5μmの酸化アルミニウム(アルミナ)であって、また、本件明細書の段落【0022】の記載からすれば、αアルミナ単結晶粒子であると認められるから、本件発明1の「平均粒子径が0.3μm以上1.5μm以下の範囲内にあるαアルミナ単結晶粒子」に相当する。 また、甲2発明の絶縁層におけるアルミナの含有量が「50vol%」であるから、本件発明1の「αアルミナ単結晶粒子の含有量が8体積%以上80体積%以下の範囲内」との特定事項を満たす。 すると、両者は、 「ポリイミドからなる樹脂と、平均粒子径が0.3μm以上、1.5μm以下の範囲内にあるαアルミナ単結晶粒子と、を含み、前記αアルミナ単結晶粒子の含有量が8体積%以上80体積%以下の範囲内である絶縁膜。」 で一致し、次の点で一応相違する。 <相違点2> 絶縁膜に関し、本件発明1は「相対耐電圧と相対熱伝導度とを乗じた値である相対性能値が9.5から12.4である」と特定されるが、甲2発明にはそのような特定がない点。 上記相違点2について検討する。 「相対性能値」は、上記1(2)アで説示のとおり、樹脂単独の絶縁膜の耐電圧、熱伝導度を1としたときの相対的指標であるが、甲第2号証には、算出根拠となる耐電圧についての記載がなくまた,甲2発明が,本件発明1の相対性能値となる蓋然性が高いともいえない。 してみると、相違点2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は甲2発明ではない。 また、甲第2号証には、絶縁膜の熱伝導性と耐電圧性の両者が高くなるように、「相対性能値」との指標に着目する点については何ら記載も示唆もされておらず、かつ、そのような指標が当該技術分野において周知のものであったともいえない。 そして、本件発明1は、「相対性能値」を「9.5から12.4」とすることにより、絶縁膜の熱伝導性と耐電圧が共に優れたものを提供するとの格別の効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ) 本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明ではないし、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2) 申立理由1-3(甲第3号証を根拠とする新規性)、申立理由2-3(甲第3号証を主引用例とする進歩性)について ア 甲第3号証の記載事項等 (ア) 甲第3号証の記載事項 甲第3号証には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 金属層と、該金属層に積層された絶縁層と、を備えた熱伝導性ポリイミド-金属基板であって、 前記絶縁層は、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーとして球状フィラー及び板状フィラーを含有するとともに全熱伝導性フィラーの含有量が45?70vol%の範囲内であるフィラー高密度含有ポリイミド樹脂層を有し、 前記フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層のポリイミド樹脂が、ジアミン成分として4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを全ジアミン成分に対して50mol%以上用いて合成され、かつ、そのガラス転移温度が250℃以上である熱可塑性ポリイミド樹脂であり、 前記フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層における全熱伝導性フィラーに対する板状フィラーの体積比率が25?75vol%の範囲内であることを特徴とする熱伝導性ポリイミド-金属基板。」 「【0001】 本発明は、熱伝導特性に優れる絶縁層を有し、放熱基板や回路基板に好適に使用される熱伝導性ポリイミド-金属基板に関するものである。」 「【0029】 <熱伝導性フィラー> フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層中の熱伝導性フィラーの含有割合は、45?70vol%の範囲内であることが必要であり、50?70vol%の範囲内が好ましい。熱伝導性フィラーの含有割合が45vol%に満たないと、回路基板等の電子部品とした際の放熱特性が十分でなく、70vol%を超えるとポリイミド樹脂(ポリアミド酸)中に熱伝導性フィラーを含有させた場合、ワニスが高粘度化し金属張積層体の作製が困難となる。また、熱伝導性フィラー中に占める板状フィラーの比率は、25?75vol%である必要がある。熱伝導性フィラー中に占める板状フィラーの比率が25vol%未満もしくは75vol%超であると金属張積層体の反り量が大きくなる。反りを効果的に抑制する観点から、熱伝導性フィラー中に占める板状フィラーの比率は、50?75vol%の範囲内が好ましい。 【0030】 さらに、本発明で使用する球状の熱伝導性フィラーの平均粒子径は5μm以下であることが好ましい。ここで、球状とは、形状が球形又は球形に近いもので、平均長径と平均短径との比が1又は1に近いもの(好ましくは0.8以上)を意味する。球状フィラーとしては、例えば酸化アルミニウム、窒化アルミニウムのいずれかを含むことが好ましく、特に、高い熱伝導性を担保し、反りを効果的に抑制できることから、球状の熱伝導性フィラーのすべてを窒化アルミニウムとすることがより好ましい。 【0031】 球状フィラーの平均粒子径が5μm以下であることが好ましい理由は、平均粒子径が5μmを超えると、外観不良を起こしやすくなったり、フィラーと樹脂との界面にボイドが発生しやすくなって耐電圧が低下したりしやすくなるためである。」 「【0033】 <絶縁層の構造> 絶縁層は、上記フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層を有していれば、単層に限らず複数層とすることもできる。例えば、金属層とフィラー高密度含有ポリイミド樹脂層との間に、フィラーを含有しない絶縁層を設けることもできる。ただし、フィラーを含有しない絶縁層の厚みによっては、金属張積層体の熱伝導率が低下するので、放熱の効率を維持するために、金属層と接する絶縁層にはフィラーが含有されていることが好ましく、またその厚みは薄く(3μm以下)することが好ましい。この場合には、金属層との接着性を担保するためフィラー高密度含有ポリイミド樹脂層よりもフィラー含有率を低くすることが好ましい。 【0034】 なお、本発明による熱伝導性ポリイミド-金属基板の積層構成の代表例を示すと下記のA)?D)の積層構造が例示できる。 A)金属層1/フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層 B)金属層1/フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層/金属層2 C)金属層1/フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層/ポリイミド樹脂層/金属層2 D)金属層1/フィラー低含有ポリイミド樹脂層/フィラー高密度含有ポリイミド樹脂層/ポリイミド樹脂/金属層2」 「【0055】 実施例1 固形分濃度15wt%のポリアミド酸溶液(P1)200重量部と、球状フィラーとして窒化アルミニウム[(株)トクヤマ製、商品名:AlN(Hグレード)、球状、平均粒径1.1μm]を18.2重量部と、窒化ホウ素[電気化学工業(株)製、商品名:SP-3’、板状、平均長径2.2μm]を37.9重量部とを均一になるまで遠心攪拌機で混合し、続いてDMAcを40重量部添加し、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸の溶液を硬化後の厚みが約40?50μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、130?300℃の温度範囲で、段階的に20分かけて昇温加熱して、厚さ12μmの電解銅箔(Ra=0.11μm)上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、金属張積層体を作製した。この絶縁層における窒化アルミニウムの含有量は12.5vol%、窒化ホウ素の含有量は37.5vol%であり、全熱伝導性フィラーに対する板状フィラーの体積比率が75vol%であった。得られた金属張積層体のCCL反り量を測定した。 ・・・ 【0059】 実施例4 固形分濃度15wt%のポリアミド酸溶液(P1)200重量部と、球状フィラーとして酸化アルミニウム[住友化学(株)製、商品名:AA-1.5、球状、平均粒径1.5μm]を44.5重量部と、窒化ホウ素[電気化学工業(株)製、商品名:SP-3’、板状、平均長径2.2μm]を25.3重量部使用したこと以外は実施例1と同様に行って絶縁層及び金属張積層体を形成した。この絶縁層における窒化アルミニウムの含有量は25.0vol%、窒化ホウ素の含有量は25.0vol%であり、全熱伝導性フィラーに対する板状フィラーの体積比率が50vol%であった。さらに、実施例1と同様にして、金属張積層体のCCL反り量、絶縁フィルムのガラス転移温度及び熱伝導率を測定した。」 「【0066】 【表1】 」 (イ) 甲第3号証に記載された発明 (ア)の記載、特に、実施例4の記載から、甲第3号証には以下の発明が記載されていると認める。 「ポリイミドからなる樹脂と、酸化アルミニウム[住友化学(株)製、商品名:AA-1.5、球状、平均粒径1.5μm]とを含み、前記アルミナの含有量が25vol%である熱伝導性ポリイミド-金属基板に設けられる絶縁層。」(以下、「甲3発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明の「酸化アルミニウム[住友化学(株)製、商品名:AA-1.5、球状、平均粒径1.5μm]」は、平均粒径が1.5μmの酸化アルミニウム(アルミナ)であって、また、本件明細書の段落【0022】の記載からすれば、αアルミナ単結晶粒子であると認められるから、本件発明1の「平均粒子径が0.3μm以上1.5μm以下の範囲内にあるαアルミナ単結晶粒子」に相当する。 また、甲2発明の絶縁層におけるアルミナの含有量が「25vol%」であるから、本件発明1の「αアルミナ単結晶粒子の含有量が8体積%以上80体積%以下の範囲内」との特定事項を満たす。 すると、両者は、 「ポリイミドからなる樹脂と、平均粒子径が0.3μm以上、1.5μm以下の範囲内にあるαアルミナ単結晶粒子と、を含み、前記αアルミナ単結晶粒子の含有量が8体積%以上80体積%以下の範囲内である絶縁膜。」 で一致し、次の点で一応相違する。 <相違点3> 絶縁膜に関し、本件発明1は「相対耐電圧と相対熱伝導度とを乗じた値である相対性能値が9.5から12.4である」と特定されるが、甲3発明にはそのような特定がない点。 上記相違点3について検討する。 「相対性能値」は、上記1(2)アで説示のとおり、樹脂単独の絶縁膜の耐電圧、熱伝導度を1としたときの相対的指標であるが、甲第3号証には、算出根拠となる耐電圧についての記載がない。 してみると、相違点3は、実質的な相違点であるから、本件発明1は甲3発明ではない。 また、甲第3号証には、絶縁膜の熱伝導性と耐電圧性の両者が高くなるように、「相対性能値」との指標に着目する点については何ら記載も示唆もされておらず、かつ、そのような指標が当該技術分野において周知のものであったともいえない。 そして、本件発明1は、「相対性能値」を「9.5から12.4」とすることにより、絶縁膜の熱伝導性と耐電圧が共に優れたものを提供するとの格別の効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ) 本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、甲3発明ではないし、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3) 申立理由1-4(甲第4号証を根拠とする新規性)、申立理由2-4(甲第4号証を主引用例とする進歩性)について ア 甲第4号証の記載事項等 (ア) 甲第4号証の記載事項 甲第4号証には、次の事項が記載されている。 「【請求項9】 樹脂又はゴムに、平均球形度が0.93以上でかつ結晶形態のα率が95%以上である球状のαアルミナ粉末を配合したことを特徴とする熱伝導性組成物。」 「【請求項12】 前記球状のαアルミナ粉末が、50?95質量%の量で配合されている請求項9に記載の熱伝導性組成物。」 「【0013】 球状のαアルミナ粉末の粒子径は、その用途や使用方法に応じて、変動する。例えば、放熱部材用に使用する場合には、粒子径は、放熱部材の厚みまでの大きさであり、例えば、0.1mm厚の場合、0.01?50μmであり、IC封止材のエポキシ樹脂組成物用であるときは、0.01?100μmが好ましい。」 「【0020】 本発明の球状のαアルミナ粉末は、樹脂等に配合され、各種の用途に使用される組成物が形成される。 ゴムとしては、例えば、シリコーンゴムや、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体等が好適に挙げられる。また、樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂や、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変成樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が好適に挙げられる。 本発明のアルミナ粉末は、好ましくは、例えば、樹脂等に対して、50?95質量%、特に70?93質量%で配合されることが好適である。」 「【実施例】 【0028】 以下、本発明について、更に、実施例や比較例等により、詳細に説明するが、これらの実施例や比較例などは、本発明の範囲を何ら限定するものではない。 実施例1?5、比較例1?6、参考例1?2 図1に示す竪型装置を使用し、球状のαアルミナ粉末を製造した。」 「【0030】 熱処理条件を表2に示す。バグフィルターから回収されたアルミナ粉末の特性を表3に示す。なお、参考例1として昭和電工(株)製破砕アルミナ「AS-50」(平均粒子径10μm)、参考例2として住友化学工業(株)製破砕アルミナ「AA-05」(平均粒子径0.6μm)の特性を表3に併記する。」 「【0033】 【表3】 」 「【0035】 次に、実施例1?4及び比較例1?4のアルミナ粉末を用い、以下のようにして樹脂組成物を調合し評価を行った。 【0036】 エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、離型剤及びシランカップリング剤を表4に示す割合で混ぜ、充填率65質量%にしてアルミナ粉末を混合し、同方向噛み合い二軸押出混練機(スクリュー径D=25mm、ニーディングディスク長10Dmm、パドル回転数150回転/分、吐出量4.5kg/時間、ヒーター温度105?110℃)を用いて加熱混練した。吐出物を冷却プレス機で冷却した後、粉砕して組成物を得、以下の示す方法にて熱伝導率、スパイラルフロー及び金型摩耗量を測定した。それらの結果を表5に示す。 【0037】 (1)熱伝導率 直径28mm、厚さ3mmのくぼみの設けられた金型に組成物を流し込み、脱気後、150℃×20分で成型して得られた成形体について、熱伝導率測定装置(アグネ社製商品名「ARC-TC-1型」)を用い、室温において温度傾斜法により、熱伝導率を測定した。 【0038】 (2)スパイラルフロー スパイラルフロー金型を用い、EMMI-66(Epoxy Molding Material Institute;Society of Plastic Industry)に準拠して行った。金型温度は175℃、成型圧力7.4MPa、保圧時間90秒とした。 【0039】 (3)金型摩耗量 厚み6mm、孔径3mmのアルミニウム製ディスクの孔に175℃に加熱された組成物を加圧式押出機で150cm^(3)通過させた際のディスクの質量減少量を摩耗量とした。 【0040】 【表4】 【0041】 【表5】 【0042】 更に、実施例4、比較例5、参考例1のアルミナ粉末(いずれも平均粒子径が10又は11μm)、又は実施例5、比較例6、参考例2のアルミナ粉末(いずれも平均粒子径が0.6μm)を用い、以下のようにして放熱部材用の樹脂組成物を調合して評価を行った。 【0043】 2成分付加反応型液状シリコーンゴム(GE東芝シリコーン社製「YE5822 A液」、「YE5822 B液」)と、アルミナ粉末と、遅延剤とを表6に示す割合で混合し、以下に従う物性を測定した。実施例4、比較例5、参考例1の結果を表7に、実施例5、比較例6、参考例2の結果を表8に示す。 【0044】 (4)放熱部材の熱伝導率 シリコーンゴムA液に、遅延剤、アルミナ粉末及びシリコーンゴムB液の順に投入と攪拌を繰り返し行った後、脱泡処理した。得られた液状試料を、直径28mm、厚さ3mmのくぼみの設けられた金型に流し込み、脱気後、150℃×20分で成型し、室温における熱伝導率を温度傾斜法で測定した。熱伝導率測定装置としてアグネ社製商品名「ARC-TC-1型」)を用いた。」 「【0047】 【表6】 」 「【0049】 【表8】 」 (イ) 甲第4号証に記載された発明 (ア)の記載、特に、実施例5の記載から、甲第4号証には以下の発明が記載されていると認める。 「2成分付加反応型液状シリコーンゴムと、平均粒子径が0.6μmのαアルミナ粉末と、を含み、前記αアルミナ粉末の配合割合が73.0質量%である放熱部材用の樹脂組成物。」(以下、「甲4発明」という。) イ 対比・判断 (ア) 本件発明1について 本件発明1と甲4発明とを対比する。 甲4発明の「平均粒子径が0.6μmのαアルミナ粒子」は単結晶であるか不明であるから、本件発明1の「平均粒子径が0.3μm以上1.5μm以下の範囲内にあるαアルミナ粒子」との限りにおいて相当する。 また、甲4発明の「2成分付加反応型液状シリコーンゴム」は、本件発明1の「ポリイミド、またはポリアミドイミド、もしくはこれらの混合物からなる樹脂」との特定事項のうち「樹脂」であるとの限りにおいて相当する。 甲4発明のαアルミナ粒子はその配合割合が73.0質量%であるから、本件発明1のαアルミナ単結晶粒子のうち、αアルミナ粒子であるとの限りにおいて、その含有量が「8体積%以上80体積%以下の範囲内」との特定事項を満たす。 さらに、甲4発明の「放熱部材用の樹脂組成物」は、結局のところ、本件発明1の「絶縁膜」とは、「樹脂組成物からなるもの」との限りにおいて相当する すると、両者は、 「樹脂と、平均粒子径が0.3μm以上、1.5μm以下の範囲内にあるαアルミナ粒子と、を含み、前記αアルミナ粒子の含有量が8体積%以上80体積%以下の範囲内である樹脂組成物からなるもの。」 で一致し、次の点で一応相違する。 <相違点4> 樹脂に関して、本件発明1は「ポリイミド、またはポリアミドイミド、もしくはこれらの混合物からなる樹脂」であるのに対して、甲4発明は「2成分付加反応型液状シリコーンゴム」である点。 <相違点5> αアルミナ粒子に関して、本件発明1は「αアルミナ単結晶粒子」であるのに対して、甲4発明にはそのような特定がない点。 <相違点6> 本件発明1は「相対耐電圧と相対熱伝導度とを乗じた値である相対性能値が9.5から12.4である」と特定されるが、甲4発明にはそのような特定がない点。 <相違点7> 本件発明1は「絶縁膜」であるのに対して、甲4発明は「放熱部材用の樹脂組成物」である点。 事案に鑑み、まず相違点6について検討する。 「相対性能値」は、上記1(2)アで説示のとおり、樹脂単独の絶縁膜の耐電圧、熱伝導度を1としたときの相対的指標であるが、甲第4号証には、算出根拠となる耐電圧についての記載がない。 してみると、相違点6は、実質的な相違点であるから、本件発明1は甲4発明ではない。 また、甲第4号証には、絶縁膜の熱伝導性と耐電圧性の両者が高くなるように、「相対性能値」との指標に着目する点については何ら記載も示唆もされておらず、かつ、そのような指標が当該技術分野において周知のものであったともいえない。 そして、本件発明1は、「相対性能値」を「9.5から12.4」とすることにより、絶縁膜の熱伝導性と耐電圧が共に優れたものを提供するとの格別の効果を奏するものである。 したがって、相違点4、5及び7については検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (イ) 本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、甲4発明ではないし、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4) 申立理由3(実施可能要件)について ア 実施可能要件の判断規範 本件発明1ないし4は、上記第3のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすと言うことができる。 イ 申立理由3の具体的理由について (ア) 「テトラカルボン酸2無水物」について 特許異議申立人は、本件特許の明細書の実施例において、「テトラカルボン酸2無水物」について具体的な化合物が明示されていないことから、本件特許の明細書には、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確且つ十分に記載されていない旨主張する。 確かに、「テトラカルボン酸2無水物」の具体的な化合物は明らかではないが、ポリイミドが、テトラカルボン酸2無水物とジアミンとを特定の条件で反応することにより合成されることは、特許異議申立人も自認(特許異議申立書第12頁「4)ア」)するように技術常識であり、「テトラカルボン酸2無水物」として具体的にどのような化合物を選択するかは、当業者が必要に応じて適宜選択しうる程度のことにすぎない。 そして、本件発明は、「テトラカルボン酸2無水物」を特定するものではなく、「ポリイミド、またはポリアミドイミド、もしくはこれらの混合物からなる樹脂」であればこと足りるのであるから、「テトラカルボン酸2無水物」の具体的化合物が明示されていないことをもって、本件発明が実施できないとまでいうことはできない。 (イ) 「AA-05」を用いた場合の成形性について 特許異議申立人は、甲第4号証を引用しつつ、「AA-05」を用いた場合、本件発明においても、甲第4号証と同様に成形不良を起こすことが想定される旨主張する。 しかし、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の段落【0021】には、αアルミナ単結晶粒子の粒子径について、凝集性の観点、絶縁膜の機械的強度の観点から検討されており、平均粒子径が0.3ないし1.5μmのαアルミナ単結晶粒子を用いた実施例も記載されている。 してみると、甲第4号証において、「AA-05」を用いた場合に成形不良を生じるとの記載があるとしても、そのことからただちに、「AA-05」を用いた場合、本件発明が実施できないということにはならない。 3 令和2年9月25日に提出された特許異議申立人の意見書について 特許異議申立人は、本件訂正により訂正された請求項1ないし4に対して、サポート要件、実施可能要件に基づく新たな取消事由を主張する。 しかし、訂正後の請求項1ないし4は、訂正前の請求項1ないし4を減縮するものであるところ、減縮を目的とする訂正の前後において、訂正前の特許請求の範囲に係る発明にサポート要件違反あるいは実施可能要件違反の取消事由が存在しなかったにもかかわらず、訂正後に同違反が発生することは通常考えられない(換言すれば,訂正後に同違反が存在するのであれば,訂正前においても同様の違反が存在したはずであるし、進歩性欠如の取消事由のように、訂正前において主張できなかったような特段の事情はみあたらない。)。 してみれば、特許異議申立人が新たに主張する取消事由は、本件訂正により新たに生じたものであるとはいえず、特許異議申立書の要旨を変更するものであって採用することができない。 なお、進んで職権で当該主張を検討してみたが、本件特許を取り消すべき理由とは判断できなかったことも、念のため付言する。 第7 結語 上記第5及び第6のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立の理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 絶縁膜、絶縁導体、金属ベース基板 【技術分野】 【0001】 本発明は、絶縁膜と、この絶縁膜を用いた絶縁導体および金属ベース基板に関するものである。 【背景技術】 【0002】 絶縁膜は、例えば、コイルやモータに利用される絶縁導体の絶縁膜、半導体チップやLED素子などの電子部品や回路基板の表面を保護する保護膜、金属ベース基板の絶縁膜として用いられている。 絶縁膜としては、樹脂と無機フィラーとを含む樹脂組成物から形成された膜が使用されている。樹脂としては、ポリイミドやポリアミドイミドのような耐熱性、化学的耐性、機械的強度が高い樹脂が利用されている。 【0003】 近年の電子部品の作動電圧の高電圧化や高集積化に伴って、電子部品の発熱量は増加する傾向にあり、熱抵抗が低く、放熱性が高い絶縁膜が求められている。絶縁膜の熱抵抗を低減させる方法として、熱伝導性が高い無機フィラーを添加する方法がある。しかしながら、粒子径が大きな無機フィラーを添加すると、耐電圧(絶縁破壊電圧)が低下するという問題がある(非特許文献1)。 【0004】 ここで、絶縁膜の耐電圧VRは、絶縁膜の膜厚をh、膜厚当たりの耐電圧をVFとすると、下記の式(1)で表される。 VR=VF×h ・・・(1) 一方、絶縁膜の熱抵抗Rは、絶縁膜の膜厚をh、絶縁膜の熱伝導度をλとすると下記の式(2)で表される。 R∝h/λ ・・・(2) 式(1)と式(2)から、絶縁膜の熱抵抗Rは、下記の式(3)で表すことができる。 R∝VR/(λ×VF)・・・(3) 上記の式(3)から、絶縁膜の熱抵抗Rは、絶縁膜の膜厚当たりの耐電圧VF×熱伝導度λの逆数に比例することがわかる。従って、絶縁膜の熱抵抗Rを低減させるためには、絶縁膜の膜厚当たりの耐電圧VF×熱伝導度λの値(以下、「性能値」ともいう)を大きくすることが重要となる。 【0005】 特許文献1、2には、絶縁膜の耐電圧を向上させるために、無機フィラーとしてナノ粒子を用いることが記載されている。 特許文献1には、無機フィラーとして、平均最大径が500nm以下のナノ粒子を用いた絶縁膜が開示されている。この特許文献1の実施例には、ナノ粒子を2.5質量%、5質量%添加した絶縁膜が記載されている。 特許文献2では、ポリアミドイミド樹脂と、平均一次粒子径が200nm以下である絶縁性微粒子とを含む絶縁膜が開示されている。この特許文献2の実施例には、絶縁性微粒子を5質量%添加した絶縁膜が記載されている。しかしながら、一般的に、絶縁膜にナノ粒子を添加しても、熱伝導度はあまり向上しないとされている。 【0006】 特許文献3、4には、熱伝導度をより向上させるために、無機フィラーとしてナノ粒子とマイクロ粒子の両者を併用した絶縁膜が記載されている。 特許文献3には、無機フィラーとして、マイクロ粒子サイズの第1の無機フィラーと、所定の材料からなるナノ粒子サイズの第2の無機フィラーとを含有する電気絶縁材料用の樹脂組成物が開示されている。 特許文献4には、無機フィラーとして、マイクロ粒子サイズの熱伝導性無機球状マイクロフィラーと、板状、棒状、繊維状、或いは鱗片状形状のマイクロフィラーと、ナノ粒子サイズの熱伝導性無機ナノフィラーとを充填した樹脂組成物が開示されている。 しかしながら、上記の非特許文献1に記載されているように、マイクロ粒子を添加した絶縁膜は耐電圧が低下するという問題がある。 【先行技術文献】 【非特許文献】 【0007】 【非特許文献1】Journal of International Council on Electrical Engineering Vol.2,No.1,pp.90?98,2012 【特許文献】 【0008】 【特許文献1】 米国特許出願公開第2007/0116976号明細書 【特許文献2】 特開2013-60575号公報 【特許文献3】 特開2009-13227号公報 【特許文献4】 特開2013-159748号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、熱伝導度と耐電圧性の両者が高く、さらに耐熱性、化学的耐性、機械特性に優れた絶縁膜、この絶縁膜を用いた絶縁導体および金属ベース基板を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 前述の課題を解決するために、本発明の一態様である絶縁膜は、ポリイミド、またはポリアミドイミド、もしくはこれらの混合物からなる樹脂と、平均粒子径が0.3μm以上1.5μm以下の範囲内にあるαアルミナ単結晶粒子と、を含み、前記αアルミナ単結晶粒子の含有量が8体積%以上80体積%以下の範囲内にあることを特徴としている。 【0011】 この構成の絶縁膜によれば、樹脂がポリイミド、またはポリアミドイミド、もしくはこれらの混合物からなるので、耐熱性、化学的耐性、及び機械特性が向上する。 また、平均粒子径が0.3μm以上1.5μm以下の範囲内にある微細なαアルミナ単結晶粒子を、8体積%以上60体積%以下の範囲内で含有するので、ポリイミドやポリアミドイミドなどの樹脂が有する優れた耐熱性、化学的耐性、及び機械特性を損なうことなく、耐電圧と熱伝導度の両者を向上させることが可能となる。 【0012】 ここで、本発明の絶縁膜においては、前記αアルミナ単結晶粒子の含有量が20体積%以上70体積%以下の範囲内にあることが好ましい。さらに好ましくは30体積%以上60体積%以下の範囲内である。 この場合は、耐電圧と熱伝導度の両者をより確実に向上させることができる。 【0013】 また、本発明の絶縁導体は、導体と、前記導体の表面に備えられた絶縁膜とを有する絶縁導体であって、前記絶縁膜が、上述の絶縁膜からなることを特徴としている。 この構成の絶縁導体によれば、上述の耐電圧と熱伝導度の両者が向上した絶縁膜が、導体の表面に備えられているので、絶縁導体として優れた耐電性と耐熱性とを発揮する。 【0014】 また、本発明の金属ベース基板は、金属基板と、絶縁膜と、金属箔とがこの順で積層された金属ベース基板であって、前記絶縁膜が、上述の絶縁膜からなることを特徴としている。 この構成の金属ベース基板によれば、上述の耐電圧と熱伝導度の両者が向上した絶縁膜が、金属基板と金属箔との間に配置されているので、金属ベース基板として優れた耐電性と耐熱性とを発揮する。 【発明の効果】 【0015】 本発明例によれば、熱伝導度と耐電圧性の両者が高く、さらに耐熱性、化学的耐性、機械特性に優れた絶縁膜、この絶縁膜を用いた絶縁導体および金属ベース基板を提供することが可能となる。 【図面の簡単な説明】 【0016】 【図1】本発明の一実施形態である絶縁膜の概略断面図である。 【図2】本発明の一実施形態である絶縁導体の概略断面図である。 【図3】本発明の一実施形態である金属ベース基板の概略断面図である。 【発明を実施するための形態】 【0017】 以下に、本発明の一実施形態である絶縁膜、絶縁導体、金属ベース基板について、添付した図面を参照して説明する。 【0018】 (絶縁膜) 図1は、本発明の一実施形態である絶縁膜の概略断面図である。 図1に示すように、本実施形態である絶縁膜10は、樹脂11と、αアルミナ単結晶粒子12とを含む。 【0019】 樹脂11は、絶縁膜10の基材となる。樹脂11は、ポリイミド、またはポリアミドイミド、もしくはこれらの混合物からなる。これらの樹脂は、イミド結合を持つので、優れた耐熱性と化学的安定と機械特性を有する。 【0020】 αアルミナ単結晶粒子12は、絶縁膜10の耐電圧と熱伝導度を効率的に向上させる作用がある。αアルミナ単結晶粒子12は、αアルミナ(αAl2O3)の結晶構造を有する単結晶粒子である。 αアルミナ粒子が単結晶粒子であることは、例えば、次のようにして確認することができる。 まずX線回折法により、αアルミナ粒子のピークの半値幅を取得する。取得したピークの半値幅をScherrerの式により結晶子径(r)に変換する。これとは別に、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いてαアルミナ粒子100個の粒径を測定し、その平均を平均粒径(D)として算出する。算出したαアルミナ粒子の平均粒径(D)に対する結晶子径(r)の比(r/D)を算出し、この比(r/D)が0.8以上の場合は単結晶とした。 【0021】 αアルミナ単結晶粒子12は、平均粒子径が0.3μm以上1.5μm以下の範囲内とされている。平均粒子径が0.3μm未満であると凝集粒子を形成しやすくなり、αアルミナ単結晶粒子12を樹脂11中に均一に分散させることが困難となるおそれがある。また、αアルミナ単結晶粒子12が凝集粒子を形成すると、絶縁膜10の機械的強度が低下し、絶縁膜10が脆くなる。一方、平均粒子径が1.5μmを超えると、絶縁膜10の耐電圧が低下するおそれがある。αアルミナ単結晶粒子12の平均粒子径は、好ましくは0.3μm以上0.7μnm以下の範囲内である。 αアルミナ単結晶粒子12の平均粒子径は、αアルミナ単結晶粒子12の分散液を用いて、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定した体積累積平均径(Dv50)の値である。平均粒子径測定用のαアルミナ単結晶粒子12の分散液は、例えば、αアルミナ単結晶粒子12を分散剤とともにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒中に投入し、超音波分散によってαアルミナ単結晶粒子12を分散させることによって調製できる。 【0022】 αアルミナ単結晶粒子12としては、例えば、住友化学株式会社から販売されているアドバンストアルミナ(AA)シリーズのAA-03、AA-04、AA-05、AA-07、AA-1.5などを用いることができる。 【0023】 絶縁膜10のαアルミナ単結晶粒子12の含有量は、8体積%以上80体積%以下の範囲内とされている。含有量が8体積%未満であると、絶縁膜10の熱伝導度を向上させるのが困難となるおそれがある。一方、含有量が80体積%を超えると、絶縁膜10の機械的強度が低下し、絶縁膜10が脆くなる。また、樹脂11とαアルミナ単結晶粒子12とを混合しにくくなり、αアルミナ単結晶粒子12を樹脂11中に均一に分散させることが困難となるおそれがある。絶縁膜10の耐電圧と熱伝導度の両者をより確実に向上させる観点から、αアルミナ単結晶粒子12の含有量の下限は20体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることが特に好ましい。また、αアルミナ単結晶粒子12の含有量の上限は、70体積%以下であることが好ましく、60体積%以下であることが特に好ましい。 【0024】 絶縁膜10のαアルミナ単結晶粒子12の含有量は、例えば、次のようにして求めることができる。 絶縁膜10を、大気中、400℃で12時間加熱して、樹脂11を熱分解除去し、残分のαアルミナ単結晶粒子12を回収する。回収したαアルミナ単結晶粒子12の重量を測定して、加熱前の絶縁膜10の重量とから、αアルミナ単結晶粒子12の含有量(重量ベース)(重量%)を算出する。重量ベースの含有量を、樹脂の密度、αアルミナの密度を用いて体積ベースの含有量(体積%)に変換する。 【0025】 具体的には、加熱して回収したαアルミナ粒子の重量をWa(g)、加熱前の絶縁膜の重量をWf(g)、αアルミナの密度をDa(g/cm^(3))、樹脂の密度をDr(g/cm^(3))として、αアルミナ単結晶粒子の含有量(重量%)を下記の式より算出する。 αアルミナ単結晶粒子の含有量(重量%)=Wa/Wf×100 =Wa/{Wa+(Wf-Wa)}×100 【0026】 次に、αアルミナ単結晶粒子の含有量(体積%)を下記の式より算出する。 αアルミナ単結晶粒子の含有量(体積%) =(Wa/Da)/{(Wa/Da)+(Wf-Wa)/Dr}×100 【0027】 絶縁膜10の膜厚は、用途によっても異なるが、通常は、1μm以上200μm以下の範囲内、好ましくは10μm以上50μm以下の範囲内である。 【0028】 本実施形態の絶縁膜10は、例えば、エナメル線のエナメル膜のように、コイルやモータに利用される絶縁導体の絶縁膜として用いることができる。また、電子部品や回路基板の表面を保護する保護膜として用いることができる。さらに、金属ベース基板などにおいて、金属箔(回路パターン)と基板の間に配置する絶縁膜として用いることができる。また、単独のシートまたはフィルムとして、例えば、フレキシブルプリント基板などの回路基板用の絶縁材として用いることができる。 【0029】 電着法は、ポリイミドあるいはポリアミドイミドと溶媒と水と貧溶媒と塩基を含む電着液を、導電性基板の表面に電着させて電着膜を形成し、次いで電着膜を乾燥させて、得られた乾燥膜を加熱し硬化させる方法である。 【0030】 本実施態の絶縁膜は、例えば、塗布法もしくは電着法によって形成することができる。塗布法は、ポリイミドあるいはポリアミドイミドもしくはこれらの前駆体またはこれらの混合物からなる樹脂材料が溶解した溶液と、その溶液に分散されているαアルミナ単結晶粒子とを含むαアルミナ単結晶粒子分散樹脂溶液を調製し、次いでこのαアルミナ単結晶粒子を基板に塗布して塗布膜を形成し、次いで塗布膜を乾燥させて、得られた乾燥膜を加熱し硬化させる方法である。αアルミナ単結晶粒子分散樹脂溶液を、金属基板の表面に塗布する方法としては、スピンコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ディップコート法などを用いることができる。 【0031】 以上のような構成とされた本実施形態である絶縁膜10によれば、樹脂11がポリイミド、またはポリアミドイミド、もしくはこれらの混合物からなるので、耐熱性、化学的耐性、及び機械特性が向上する。また、平均粒子径が0.3μm以上1.5μm以下の範囲内にある微細なαアルミナ単結晶粒子12を、8体積%以上80体積%以下の範囲内で含有するので、ポリイミドやポリアミドイミドなどの樹脂が有する優れた耐熱性、化学的耐性、及び機械特性を損なうことなく、耐電圧と熱伝導度の両者を向上させることが可能となる。 【0032】 また、本実施形態の絶縁膜10によれば、αアルミナ単結晶粒子12の含有量を20体積%以上70体積%以下の範囲内、さらに好ましくは30体積%以上60体積%以下の範囲内とすることによって、耐電圧と熱伝導度の両者をより確実に向上させることができる。 【0033】 (絶縁導体) 次に、本発明の一実施形態である絶縁導体について説明する。なお、上述の絶縁膜と同一の構成のものについては、同一の符号を付して記載し、詳細な説明を省略する。 【0034】 図2は、本発明の一実施形態である絶縁導体の概略断面図である。 図2に示すように、本実施形態である絶縁導体20は、導体21と、導体21の表面に備えられた上述の絶縁膜10とを有する。 【0035】 導体21は、高い導電性を有する金属からなる。導体21としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金を用いることができる。なお、図2では、導体21は断面が円形状であるが、導体21の断面形状は特に制限はなく、例えば、楕円形、四角形であってもよい。 【0036】 絶縁膜10は、導体21を外部と絶縁するための部材である。 【0037】 本実施形態の絶縁導体20は、例えば、導体の表面に塗布法もしくは電着法によって絶縁膜を形成することによって製造することができる。 【0038】 以上のような構成とされた本実施形態である絶縁導体20は、絶縁膜として耐電圧と熱伝導度の両者が向上した上述の絶縁膜10が、導体21の表面に備えられているので、絶縁導体として優れた耐電性と耐熱性とを発揮する。 【0039】 (金属ベース基板) 次に、本発明の一実施形態である金属ベース基板について説明する。なお、上述の絶縁膜と同一の構成のものについては、同一の符号を付して記載し、詳細な説明を省略する。 【0040】 図3は、本発明の一実施形態である金属ベース基板の概略断面図である。 図3に示すように、本実施形態である金属ベース基板30は、金属基板31と、上述の絶縁膜10と、密着膜32と、金属箔33とがこの順で積層された積層体である。 【0041】 金属基板31は、金属ベース基板30のベースとなる部材である。金属基板31としては、銅板、アルミニウム板およびこれらの積層板を用いることができる。 【0042】 絶縁膜10は、金属基板31と金属箔33とを絶縁するための部材である。 【0043】 密着膜32は、絶縁膜10と金属箔33との密着性を向上させるために設けられている部材である。 【0044】 密着膜32は、樹脂からなることが好ましい。樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂などを用いることができる。シリコーン樹脂は、各種有機基を導入した変性シリコーン樹脂を含む。変性シリコーン樹脂の例としては、ポリイミド変性シリコーン樹脂、ポリエステル変性シリコーン樹脂、ウレタン変性シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂、オレフィン変性シリコーン樹脂、エーテル変性シリコーン樹脂、アルコール変性シリコーン樹脂、フッ素変性シリコーン樹脂、アミノ変性シリコーン樹脂、メルカプト変性シリコーン樹脂、カルボキシ変性シリコーン樹脂を挙げることができる。エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組合せて使用してもよい。 【0045】 密着膜32は、熱伝導性を向上させるために、無機物粒子を分散させてもよい。無機物粒子としては、セラミック粒子を用いることができる。セラミック粒子の例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子、酸化チタン粒子、アルミナドープシリカ粒子、アルミナ水和物粒子、窒化アルミニウム粒子が挙げられる。 【0046】 金属箔33は、回路パターン状に形成される。その回路パターン状に形成された金属箔33の上に、電子部品がはんだを介して接合される。金属箔33の材料としては、銅、アルミニウム、金などを用いることができる。 【0047】 本実施形態の金属ベース基板30は、例えば、金属基板31の上に、絶縁膜10と密着膜32とをこの順で積層し、次いで密着膜32の上に金属箔33を貼り付ける方法によって製造することができる。絶縁膜10は、塗布法もしくは電着法によって形成することができる。密着膜32は、例えば、密着膜形成用の樹脂と溶剤と必要に応じて添加される無機物粒子とを含む密着膜形成用塗布液を、絶縁膜10の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで塗布膜を加熱し、乾燥させることによって形成することができる。金属箔33は、密着膜32の上に金属箔33を重ね合わせ、次いで、金属箔33を加圧しながら加熱することによって貼り合わせることができる。 【0048】 以上のような構成とされた本実施形態である金属ベース基板30によれば、絶縁膜として耐電圧と熱伝導度の両者が向上した上述の絶縁膜10が、金属基板31と金属箔33との間に配置されているので、金属ベース基板として優れた耐電性と耐熱性とを発揮する。 【実施例】 【0049】 次に、本発明の作用効果を実施例により説明する。 【0050】 [本発明例1?19、比較例1?8] 表1に示す作製方法を用いて、無機物粒子と樹脂とを含む絶縁膜を作製した。各本発明例および比較例で作製した絶縁膜の具体的な作製方法は、次のとおりである。 【0051】 <本発明例1?11、比較例1?7> (ポリアミック酸溶液の調製) 容量300mLのセパラブルフラスコに、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、およびNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を仕込んだ。NMP量は、得られるポリアミック酸の濃度が40質量%になるように調整した。常温で撹拌して、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを完全に溶解させた後、内温が30℃を超えないよう、所定量のテトラカルボン酸2無水物を少量ずつ添加した。その後、窒素雰囲気下で16時間の撹拌を続け、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)溶液を調製した。 【0052】 (セラミック粒子分散ポリアミック酸溶液の調製) 下記の表1に示すセラミック粒子を用意した。用意したセラミック粒子を、NMP10gに対して1.0g投入し、30分間超音波処理して、セラミック粒子分散液を調製した。 【0053】 次いで、調製したポリアミック酸溶液と調製したセラミック粒子分散液とNMPを、最終的に溶液中のポリアミック酸の含有量が5質量%で、樹脂成分とセラミック粒子の合計量に対するセラミック粒子の含有量が下記の表1に示す体積%となるように混合した。続いて得られた混合物を、スギノマシン社製スターバーストを用い、圧力50MPaの高圧噴射処理を10回繰り返すことにより分散処理を行って、セラミック粒子分散ポリアミック酸溶液を調製した。 【0054】 (塗布法よる絶縁膜の作製) 調製したセラミック粒子分散ポリアミック酸溶液を、厚み0.3mmで30mm×20mmの銅基板の表面に、加熱後の膜厚が20μmとなるように塗布して塗布膜を形成した。次いで塗布膜を形成した銅基板をホットプレート上に配置して、3℃/分の昇温速度で室温から60℃まで昇温し、60℃で100分間加熱した後、さらに1℃/分の昇温速度で120℃まで昇温し、120℃で100分間加熱して、乾燥して乾燥膜とした。その後、乾燥膜を250℃で1分間、次いで400℃で1分間加熱して、絶縁膜付き銅基板を作製した。 【0055】 <本発明例12> 溶媒可溶型のポリイミドとポリアミドイミドを重量比1:1で混合し、得られた混合物をNMPに溶解させて、ポリイミドとポリアミドイミドの混合物溶液を調製した。この混合物溶液とセラミック粒子分散液とNMPとを、最終的に溶液中のポリイミドとポリアミドイミドの合計含有量が5質量%で、セラミック粒子の含有量が下記の表1に示す量となるように混合して、セラミック粒子分散樹脂溶液を調製したこと以外は、本発明例1と同様にして、塗布法を用いて絶縁膜付き銅基板を作製した。 【0056】 <比較例8> 加熱硬化型で1液性の溶剤可溶型エポキシ樹脂を用意した。この溶剤可溶型エポキシ樹脂と、セラミック分散溶液と、NMPとを、最終的に溶液中のエポキシ樹脂の含有量が8質量%で、セラミック粒子の含有量が下記の表1に示す量となるように混合して、セラミック粒子分散樹脂溶液を調製したこと以外は、本発明例1と同様にして、塗布法を用いて絶縁膜付き銅基板を作製した。なお、セラミック粒子分散樹脂溶液の塗布膜は、3℃/分の昇温速度で室温から60℃まで昇温し、60℃で100分間加熱した後、さらに1℃/分の昇温速度で120℃まで昇温し、120℃で100分間加熱して、乾燥、硬化させ、絶縁膜とした。 【0057】 <本発明例13?19> (セラミック粒子分散樹脂溶液の調製) 下記の表1に示すセラミック粒子を用意した。用意したセラミック粒子1.0gを、NMPを62.5g、1M2P(1-メトキシ-2-プロパノール)を10g、AE(アミノエーテル)を0.22gの割合で含む混合溶媒に投入し、30分間超音波処理して、セラミック粒子分散液を調製した。 【0058】 次いで、ポリアミドイミド溶液3.3gに調製したセラミック粒子分散液を、樹脂成分とセラミック粒子の合計量に対するセラミック粒子の含有量が下記の表1に示す体積%となるように加えて、セラミック粒子分散ポリアミドイミド溶液を調製した。 【0059】 (セラミック粒子分散ポリアミドイミド電着液の調製) 調製したセラミック粒子分散ポリアミドイミド溶液を、5000rpmの回転速度で撹拌しながら、そのセラミック粒子分散ポリアミドイミド溶液に水を21g滴下して、セラミック粒子分散ポリアミドイミド電着液を調製した。 【0060】 (電着法による絶縁膜の作製) 調製した電着液に、厚み0.3mmで30mm×20mmの銅基板と、ステンレス電極とを浸漬し、銅基板を正極、ステンレス電極を負極として、100Vの直流電圧を印加して、銅基板の表面に電着膜を形成した。なお、銅基板の裏面は保護テープを貼り付けて、電着膜が形成されないように保護した。電着膜の膜厚は、加熱によって生成する絶縁膜の膜厚が20μmとなる厚みとした。次いで、電着膜を形成した銅基板を、大気雰囲気下、250℃で3分間加熱して、電着膜を乾燥させて、絶縁膜付き銅基板を作製した。 【0061】 <絶縁膜付き銅基板の評価> 本発明例1?19および比較例1?8で作製した絶縁膜について、下記の項目を評価した。その結果を表1に示す。なお、本発明例1から4、7から16、19は本件特許請求の範囲外である。 【0062】 (耐電圧) 耐電圧は、株式会社計測技術研究所の多機能安全試験器7440を用いて測定した。絶縁膜付銅基板の絶縁膜の表面に電極(φ6mm)を配置した。絶縁膜付銅基板の銅基板と絶縁膜の表面に配置した電極をそれぞれ電源に接続し、6000Vまで30秒で昇圧した。銅基板と電極との間に流れる電流値が5000μAになった時点の電圧を絶縁膜の耐電圧とした。 【0063】 (相対耐電圧) セラミック粒子を分散させなかったこと以外は、本発明例1?19および比較例1?8と同様にして樹脂単独の絶縁膜を作成し、その耐電圧を上記の方法で測定した。この樹脂単独の絶縁膜の耐電圧を1としたときの本発明例1?19および比較例1?8の絶縁膜の耐電圧を相対耐電圧として算出した。 【0064】 (絶縁膜の熱伝導度) 熱伝導度(絶縁膜の厚さ方向の熱伝導度)は、NETZSCH-GeratebauGmbH製のLFA477 Nanoflashを用いて、レーザーフラッシュ法により測定した。熱伝導度は、界面熱抵抗を考慮しない2層モデルを用いて算出した。なお、銅基板の厚みは既述したように0.3mm、銅基板の熱拡散率は117.2mm2/秒とした。絶縁膜の熱伝導度の計算には、αアルミナ粒子の密度3.89g/cm3、αアルミナ粒子の比熱0.78J/gK、シリカ粒子の密度2.2g/cm3、シリカ粒子の比熱0.76J/gK、窒化ホウ素の密度2.1g/cm3、窒化ホウ素の比熱0.8J/gK、ポリアミドイミド樹脂の密度1.41g/cm3、ポリアミドイミド樹脂の比熱1.09J/gK、ポリイミドの密度1.4g/cm3、ポリイミドの比熱1.13J/gK、エポキシの密度1.2g/cm3、エポキシの比熱1.05J/gKを用いた。 【0065】 (相対熱伝導度) セラミック粒子を分散させなかったこと以外は、本発明例1?19および比較例1?8と同様にして樹脂単独の絶縁膜を作成し、その熱伝導度を上記の方法で測定した。この樹脂単独の絶縁膜の熱伝導度を1としたときの本発明例1?19および比較例1?8の絶縁膜の熱伝導度を相対熱伝導度として算出した。 【0066】 (相対性能値) 相対耐電圧と相対熱伝導とを乗じた値を、相対性能値として算出した。この値が大きいほど熱抵抗が小さいことを示す。 【0067】 【表1】 【0068】 αアルミナの多結晶粒子を用いた比較例1の絶縁膜は、熱伝導度が低くなった。αアルミナ単結晶粒子の添加量が本発明の範囲よりも少ない比較例2の絶縁膜は、熱伝導度が低くなった。αアルミナ単結晶粒子の添加量が本発明の範囲よりも多い比較例3の絶縁膜は、耐電圧が低くなった。αアルミナ単結晶粒子の平均粒子径が本発明の範囲よりも大きい比較例4、5の絶縁膜は、耐電圧が低くなった。αアルミナ単結晶粒子の代わりにシリカのナノ粒子を用いた比較例6の絶縁膜は、耐電圧と熱伝導度の両者が低くなった。αアルミナ単結晶粒子の代わりに窒化ホウ素のナノ粒子を用いた比較例7の絶縁膜は、耐電圧が低くなった。さらに、樹脂としてエポキシを用いた比較例8の絶縁膜は、耐電圧が低くなり、その結果、相対性能値が3以下と低くなった。 【0069】 これに対して、樹脂として、ポリイミド、またはポリアミドイミド、もしくはこれらの混合物を用い、セラミック粒子として平均粒子径が0.3μm以上1.5μm以下の範囲内にあるαアルミナ単結晶粒子を用い、このαアルミナ単結晶粒子の含有量が8体積%以上80体積%以下の範囲内にある本発明例1?19の絶縁膜は、耐電圧と熱伝導度とがバランスよく向上し、高い相対性能値を示すことが確認された。特に、αアルミナ単結晶粒子の含有量が20体積%以上70体積%以下の範囲内にある本発明例3?6、8?12、15?18の絶縁膜は、耐電圧と熱伝導度とがさらにバランスよく向上し、5.0以上の高い相対性能値を示すことが確認された。 【0070】 <本発明例20> 本発明例4で調製したセラミック粒子分散ポリアミック酸溶液を、離形フィルム(ユニチカ社製、ユニピール)上に、乾燥後の膜厚が20μmとなるように塗布して塗布膜を形成した。次いで塗布膜を形成した離形フィルムを、ホットプレート上に配置して、室温から3℃/分の昇温速度で60℃まで昇温し、60℃で100分間加熱した後、さらに1℃/分で120℃まで昇温し、120℃で100分間加熱して、乾燥して乾燥膜とした。その後、離形フィルムからはがし、自立性フィルムとした後、ステンレス製型枠にクリップで数箇所固定した後、乾燥膜を250℃で1分間、400℃で1分間加熱して、自立性絶縁膜を作製した。 【0071】 作製した自立性絶縁膜について、耐電圧、相対耐電圧、熱伝導度、相対熱伝導度を測定し、性能値を算出した。その結果、耐電圧は4.5kV、相対耐電圧は1.1、熱伝導度は1.4w/mK、相対熱伝導度は7、性能値は7.5であった。 【0072】 なお、耐電圧は、自立性絶縁膜の両面に電極(φ6mm)を対向するように配置したこと以外は、上述の方法と同様にして測定した。熱伝導度は、1層モデルを用いて算出したこと以外は、上述の方法と同様にして測定した。 【0073】 <本発明例21> 本発明例に係る絶縁導体は、導線に絶縁膜を被覆して作製することができる。 本発明例16で調製した電着液に、φ3mmの銅線と、ステンレス電極とを浸漬し、銅線を正極、ステンレス電極を負極として、100Vの直流電圧を印加して、銅線の表面に電着膜を形成した。電着膜の膜厚は、加熱によって生成する絶縁膜の膜厚が20μmとなる厚みとした。次いで、電着膜を形成した銅線を、大気雰囲気下、250℃で3分間加熱して、電着膜を乾燥させて、絶縁膜付き銅線(絶縁銅線)を作製した。 【0074】 <本発明例22> 本発明例に係る金属ベース基板は、金属基板と絶縁膜と金属箔を積層して作製することができる。 本発明例4で調製したセラミック粒子分散ポリアミック酸溶液を、厚み1mmで20mm×20mmの銅基板の表面に、加熱後の膜厚が20μmとなるように塗布して塗布膜を形成した。次いで塗布膜を形成した銅基板をホットプレート上に配置して、3℃/分の昇温速度で室温から60℃まで昇温し、60℃で100分間加熱した後、さらに1℃/分の昇温速度で120℃まで昇温し、120℃で100分間加熱して、乾燥して乾燥膜とした。その後、乾燥膜を250℃で1分間、次いで400℃で1分間加熱して、絶縁膜付き銅基板を作製した。得られた絶縁膜付き銅基板の絶縁膜について、熱伝導度と耐電圧をそれぞれ測定したところ、熱伝導度は1.4w/mkで、耐電圧は4.1kVであった。 【0075】 得られた絶縁膜付き銅基板の裏面に保護テープを貼り付けた後、濃度25質量%のポリアミドイミド溶液に浸漬して、絶縁膜の上にポリアミドイミド溶液の塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を、250℃で30分間加熱して、絶縁膜の上に密着膜を形成した。 次に、密着膜の上に、厚み18μmで幅1cmの銅箔(CF-T4X-SV-18:福田金属箔粉工業(株)製)を重ね合わせ、次いで、カーボン治具を用いて5MPaの圧力を付与しながら、真空中にて215℃の温度で20分間加熱して、密着膜と銅箔とを貼り合わせた。以上のようにして、銅基板と絶縁膜と密着膜と銅箔とがこの順で積層された金属ベース基板を作製した。 【符号の説明】 【0076】 10 絶縁膜 11 樹脂 12 αアルミナ単結晶粒子 20 絶縁導体 21 導体 30 金属ベース基板 31 金属基板 32 密着膜 33 金属箔 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ポリイミド、またはポリアミドイミド、もしくはこれらの混合物からなる樹脂と、平均粒子径が0.3μm以上1.5μm以下の範囲内にあるαアルミナ単結晶粒子と、を含み、前記αアルミナ単結晶粒子の含有量が8体積%以上80体積%以下の範囲内にあり、相対耐電圧と相対熱伝導度とを乗じた値である相対性能値が9.5から12.4であることを特徴とする絶縁膜。 【請求項2】 前記αアルミナ単結晶粒子の含有量が20体積%以上70体積%以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の絶縁膜。 【請求項3】 導体と、前記導体の表面に備えられた絶縁膜とを有する絶縁導体であって、 前記絶縁膜が、請求項1または2に記載の絶縁膜からなることを特徴とする絶縁導体。 【請求項4】 金属基板と、絶縁膜と、金属箔とがこの順で積層された金属ベース基板であって、 前記絶縁膜が、請求項1または2に記載の絶縁膜からなることを特徴とする金属ベース基板。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-03-19 |
出願番号 | 特願2018-246997(P2018-246997) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(H01B)
P 1 651・ 121- YAA (H01B) P 1 651・ 536- YAA (H01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 田澤 俊樹 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
植前 充司 神田 和輝 |
登録日 | 2019-08-02 |
登録番号 | 特許第6562147号(P6562147) |
権利者 | 三菱マテリアル株式会社 |
発明の名称 | 絶縁膜、絶縁導体、金属ベース基板 |
代理人 | 大浪 一徳 |
代理人 | 大浪 一徳 |
代理人 | 細川 文広 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 細川 文広 |
代理人 | 寺本 光生 |
代理人 | 寺本 光生 |