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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正  C09J
管理番号 1374884
異議申立番号 異議2020-700065  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-05 
確定日 2021-04-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6556055号発明「粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6556055号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6556055号の請求項1、5ないし6、8ないし10に係る特許を維持する。 特許第6556055号の請求項2?4、7に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許に係る特許出願は、平成26年9月9日(優先権主張 平成25年10月15日(以下「本件優先日」という。)を国際出願日とする出願であって、平成30年11月20日付で拒絶理由が通知され、平成31年1月22日に意見書の提出とともに手続補正がされ、令和元年7月19日にその特許権の設定登録がされ、同年8月7日に特許掲載公報が発行されたところ、令和2年2月5日に、本件特許の請求項1?10の発明(以下「本件発明1」?「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」という。)に係る特許に対して、特許異議申立人 森川 真帆(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
2 令和2年6月30日付で当審から取消理由が通知され、同年9月2日に意見書の提出とともに訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正の内容を「本件訂正」という。)がされ、同月9日付で当審は申立人に対して、期間を指定して意見書の提出を求めたが、期間内に応答がされなかった。

第2 本件訂正について
1 訂正事項
本件訂正は、以下の訂正事項からなるものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「基材と、該基材の少なくとも一方の表面に設けられた粘着剤層と、を備える粘着シートであって、前記粘着シートのバイオマス度は20%以上であり」とあるのを、「基材と、該基材の少なくとも一方の表面に設けられた粘着剤層と、を備える粘着シートであって、前記粘着シートのバイオマス度は20%以上であり、前記粘着剤層は、アクリル系ポリマーをベースポリマーとして含むアクリル系接着剤であり」と訂正する。(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項5?6、8?10も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記基材におけるポリ乳酸の含有割合は20重量%未満である」とあるのを、「前記基材におけるバイオマス度は25%以上であり、前記基材におけるポリ乳酸の含有割合は20重量%未満であ
り、前記基材は、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを含むポリオレフィンフィルムであり、前記ポリオレフィンフィルムにおける前記高密度ポリエチレンと前記低密度ポリエチレンとの合計量は50重量%以上であり」に訂正する。(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項5?6、8?10も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記基材におけるバイオマス高密度ポリエチレンの含有割合は60重量%以下であり、」とあるのを、「前記基材における前記高密度ポリエチレンの含有割合は60重量%以下であり、前記基材がバイオマス高密度ポリエチレンを含む場合、前記基材に含まれる前記高密度ポリエチレンの総量に占める前記バイオマス高密度ポリエチレンの割合は100重量%以下であり、」に訂正する。(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項5?6、8?10も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「前記粘着シートは、6mm/hour以下の定荷重剥離速度を示す、粘着シート。」とあるのを、「前記粘着シートは、4mm/hour以下の定荷重剥離速度を示す、ここで定荷重剥離速度は以下の方法で測定される、前記粘着シート。
[定荷重剥離速度]
粘着シートを幅18mm、長さ150mmのサイズにカットして測定サンプルを作製する。23℃、50%RHの環境下にて、上記測定サンプルの粘着面を露出させ、該粘着面をステンレス鋼(SUS304BA)板の表面に500gのローラを1往復させて圧着した。これを同環境下に30分間放置した後、クランプを用いて、測定サンプルが貼り付けられた面が下側となるように上記ステンレス鋼板を水平に設置する。次いで、剥離角度が90度となるように、上記測定サンプルの長手方向の一端に30gの錘にて荷重をかけて、40℃の雰囲気下にて1時間後の剥離距離を測定し、これを定荷重剥離速度(mm/hour)とする。」と訂正する。(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項5?6、8?10も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか一項に記載の粘着シート。」とあるのを、「請求項1に記載の粘着シート。」と訂正する。(請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6、8?10も同様に訂正する。)
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか一項に記載の粘着シート。」とあるのを、「請求項1または5記載の粘着シート。」と訂正する。(請求項6を直接又は間接的に引用する請求項8?10も同様に訂正する。)
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項8に「請求項7に記載の粘着シート。」とあるのを、「請求項1、5または6に記載の粘着シート。」と訂正する。(請求項8を直接又は間接的に引用する請求項9、10も同様に訂正する。)
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1?9のいずれか一項に記載の粘着シート。」とあるのを、「請求項1、5、6、8または9に記載の粘着シート。」と訂正する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?10は、いずれも直接または間接的に請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1?10は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であって、本件訂正は一群の請求項に対して行われたものである。
3 訂正の目的要件、実質上の拡張・変更の有無、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1により、訂正前の請求項1において粘着剤の種類に特定がなかった「粘着剤層」について、アクリル系ポリマーをベースポリマーとして含むアクリル系樹脂と特定するものである。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 前記アのように、訂正事項1は、訂正前の請求項1における「粘着剤層」をより狭い範囲に特定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 本件特許明細書の段落【0012】には、「好ましい一態様では、前記粘着剤層は、アクリル系ポリマーをベースポリマーとして含むアクリル系粘着剤層である。」と記載されている。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(2)訂正事項2
ア 訂正事項2により、訂正前の請求項1において特定のなかった「基材」について、(ア)バイオマス度が25%以上であること、(イ)高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを含むポリオレフィンフィルムであること、(ウ)基材における高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの合計量が50重量%以上であることが特定されている。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 前記アのように、訂正事項2は、訂正前の請求項1における「基材」をより狭い範囲に特定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 本件特許明細書において、(ア)段落【0007】には、「好ましい一態様では、前記基材のバイオマス度は25%以上である。」と記載され、(イ)段落【0009】には、「好ましい一態様では、前記基材は、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを含むポリオレフィンフィルムである。」と記載され、(ウ)段落【0041】には、「上記ポリオレフィンフィルム基材におけるHDPEとLDPEとの合計量は特に限定されないが、50重量%以上・・・であることが好ましい。」と記載されている。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(3)訂正事項3
ア 訂正事項3により、訂正前の請求項1において、(ア)その重量%の上限に特定のなかった「高密度ポリエチレン」の含有量が「60重量%以下」と特定され、(イ)特定のなかった「高密度ポリエチレンの総量に占めるバイオマス高密度ポリエチレンの比率」を「100重量%以下」と特定するものであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 前記アのように、訂正事項3は、訂正前の請求項1における(ア)「高密度ポリエチレンの上限値」をより狭い範囲に特定し、(イ)「高密度ポリエチレンの総量に占めるバイオマス高密度ポリエチレンの比率」を新たに特定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 本件特許明細書において、(ア)段落【0037】には、「基材におけるHDPEの含有割合の上限は、段差への追従性等を考慮して、通常は80重量%以下(例えば70重量%以下、典型的には60重量%以下)であり得る。」と記載されており、(イ)段落【0035】には、「バイオマスHDPEは、基材に含まれるHDPEの一部であってもよく、基材に含まれるHDPEの全部であってもよい。」と記載されている。したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(4)訂正事項4
ア 訂正事項4により、訂正前の請求項1において、(ア)定荷重剥離速度を「6mm/hour以下」であったものを「4mm/hour以下」とし、(イ)測定条件に特定のなかった定荷重剥離速度の測定条件が特定されたものであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 前記アのように、訂正事項4は、訂正前の請求項1における(ア)「定荷重剥離速度の上限値」をより狭い範囲に特定し、(イ)「定荷重剥離速度の測定条件」を新たに特定したものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しない。したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 本件特許明細書において、(ア)段落【0129】の【表1】及び段落【0130】の【表2】を参照すると、例3、例4、例10及び例12における定荷重剥離速度が4mm/hourであり、例11、例13における定荷重剥離速度が、それぞれ2及び3mm/hourであることが読み取れ、(イ)段落【0124】には、「[定荷重剥離速度]
各例に係る粘着シートを幅18mm、長さ150mmのサイズにカットして測定サンプルを作製した。23℃、50%RHの環境下にて、上記測定サンプルの粘着面を露出させ、該粘着面をステンレス鋼(SUS304BA)板の表面に500gのローラを1往復させて圧着した。これを同環境下に30分間放置した後、クランプを用いて、図6に示すように測定サンプル50が貼り付けられた面が下側となるようにステンレス鋼板56を水平に設置した。次いで、剥離角度が90度となるように、測定サンプル50の長手方向の一端52に30gの錘58にて荷重をかけて、40℃の雰囲気下にて1時間後の剥離距離L_(P)を測定し、これを定荷重剥離速度(mm/hour)とした。結果を表1および2に示す。なお、図6中、破線部分は試験開始時の状態を示し、実線部分は試験開始から1時間後の状態を示している。」と記載されている。したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(5)訂正事項5?7、10
訂正事項5?7、10は、いずれも、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上拡張・変更するものでなく、新規事項を追加するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び同第6項に適合する。
(6)訂正事項8、9、11、12
訂正事項8、9、11、12は、いずれも、引用する請求項から前記(5)において削除された請求項を除くための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上拡張・変更するものでなく、新規事項を追加するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び同第6項に適合する。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2で検討したように本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?10に係る発明(以下、請求項の番号にしたがって「本件発明1」などという。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
基材と、該基材の少なくとも一方の表面に設けられた粘着剤層と、を備える粘着シートであって、
前記粘着シートのバイオマス度は20%以上であり、
前記粘着剤層は、アクリル系ポリマーをベースポリマーとして含むアクリル系粘着剤層であり、
前記基材のバイオマス度は25%以上であり、
前記基材におけるポリ乳酸の含有割合は20重量%未満であり、
前記基材は、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを含むポリオレフェンフィルムであり、
前記ポリオレフィンフィルムにおける前記高密度ポリエチレンと前記低密度ポリエチレンとの合計量は50重量%以上であり、
前記基材における前記高密度ポリエチレンの含有割合は60重量%以下であり、
前記基材がバイオマス高密度ポリエチレンを含む場合、前記基材に含まれる前記高密度ポリエチレンの総量に占める前記バイオマス高密度ポリエチレンの割合は100重量%以下であり、
前記粘着シートは、4mm/hour以下の定荷重剥離速度を示す、ここで前記定荷重剥離速度は以下の方法で測定される、粘着シート。
[定荷重剥離速度]
粘着シートを幅18mm、長さ150mmのサイズにカットして測定サンプルを作製する。23℃、50%RHの環境下にて、上記測定サンプルの粘着面を露出させ、該粘着面をステンレス鋼(SUS304BA)板の表面に500gのローラを1往復させて圧着する。これを同環境下に30分間放置した後、クランプを用いて、測定サンプルが貼り付けられた面が下側となるように上記ステンレス鋼板を水平に設置する。次いで、剥離角度が90度となるように、上記測定サンプルの長手方向の一端に30gの錘58にて荷重をかけて、40℃の雰囲気下にて1時間後の剥離距離を測定し、これを定荷重剥離速度(mm/hour)とする。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記粘着シートは長尺シートであり、
前記基材の少なくとも一方の表面には、連続的にまたは断続的に直線状に伸びる凹部が形成されており、
前記凹部は、前記粘着シートの長手方向と交差する方向に沿って配置されている、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記粘着シートは、15N/25mm以下の180度剥離強度を示す、請求項1または5に記載の粘着シート。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記粘着剤層は、前記アクリル系ポリマーと架橋剤とを含む粘着剤組成物から形成されてなる、請求項1、5または6に記載の粘着シート。
【請求項9】
前記アクリル系ポリマーは、主モノマーとしてのブチルアクリレートと、前記架橋剤と反応し得る官能基含有モノマーと、を含むモノマー原料を重合することにより得られたものである、請求項8に記載の粘着シート。
【請求項10】
前記粘着剤層は植物由来の粘着付与剤を含有する、請求項1、5、6、8または9に記載の粘着シート。」

第4 取消理由について
1 取消理由の概要
当審が、令和2年6月30日付けで通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
(1)(新規事項)
平成31年1月22日付け手続補正書でした補正は、請求項1に「前記基材におけるバイオマス高密度ポリエチレンの含有割合が60重量%以下」という特定事項を追加するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本件発明1?10に係る特許は特許法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである。
(2)(進歩性)
本件発明1?10は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件発明1?10に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

以下、申立人が提示した甲第1号証を甲1などという。
甲1:特開2013-129811号公報
甲2:特開2012-251006号公報
甲3:特開2013-60528号公報
甲4:特開2013-155225号公報
甲5:特開2011-88961号公報
甲6:特開2006-70091号公報
甲7:特開2010-37463号公報
甲8:特開2009-280688号公報
2 前記1(1)の取消理由(新規事項)についての判断
(1)前記第2、1(3)において摘記したように、本件訂正の訂正事項3によって、平成31年1月22日付け手続補正書により追加された「前記基材におけるバイオマス高密度ポリエチレンの含有割合が60重量%以下」という特定事項は、「前記基材における前記高密度ポリエチレンの含有割合が60重量%以下であり、前記基材がバイオマス高密度ポリエチレンを含む場合、前記基材に含まれる前記高密度ポリエチレンの総量に占める前記バイオマス高密度ポリエチレンの割合は100重量%以下であり」と訂正された。
(2)ここで、「前記高密度ポリエチレン」とは、本件請求項1の記載から、「前記基材は、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを含む割合は100重量%以下」という特定事項における「高密度ポリエチレン」を指しており、バイオマス高密度ポリエチレンに限られないことになる。
(3)前記(1)における訂正事項3による訂正後の「前記基材における前記高密度ポリエチレンの含有割合が60重量%以下」という特定事項は、本件の願書に最初に添付された明細書の段落【0037】に「ここに開示される基材がHDPEを含む場合、・・・基材におけるHDPEの含有割合の上限は、段差への追従性等を考慮して、通常は80重量%以下(例えば70重量%以下、典型的には60重量%以下)であり得る。」との記載からみて、新規事項を含むものではない。また、基材がバイオマス高密度ポリエチレンを含む場合、基材に含まれる高密度ポリエチレンの総量に占めるバイオマス高密度ポリエチレンの割合は必然的に100重量%以下となる。
(4)そうすると、平成31年1月22日付け手続補正書でした補正による新規事項の追加は、本件訂正により解消されたということができるから、本件発明1、5、6、8?10に係る特許は、特許法第113条第1号に該当し、取り消すべきということはできない。
3 前記1(2)の取消理由(進歩性)についての判断
(1)甲1の記載事項及び甲1発明
ア 「【請求項1】
支持基材の少なくとも一方の面側にアクリル系粘着剤層を有する粘着テープであって、
前記支持基材が、低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンを含有し、且つ、少なくとも一方の面に幅方向に溝状の凹部を有し、
前記支持基材中の、低密度ポリエチレンの含有量及び高密度ポリエチレンの含有量の合計量が80重量%以上であり、
前記粘着テープの下記の定荷重剥離試験により求められる定荷重剥離速度が20mm/hr以下であり、
前記粘着テープの粘着力(対ステンレス板、引張速度300mm/min、剥離角度180°)が15N/25mm以下であることを特徴とする粘着テープ。
定荷重剥離試験:温度23℃の雰囲気下、ステンレス板の片面に、粘着テープ(幅25mm、長さ150mm)を、アクリル系粘着剤層表面がステンレス板と接するように、500gローラー、1往復の条件で貼付し、30分後、温度23℃の雰囲気下、粘着テープの長さ方向の末端に、アクリル板の表面と垂直方向に30gfの荷重をかけ、1時間経過後の粘着テープの剥離距離を測定し、1時間当たりの粘着テープの剥離距離を求めて、定荷重剥離速度(mm/hr)とする。」
イ 「【0016】
本発明の粘着テープは、支持基材の少なくとも一方の面側にアクリル系粘着剤層を有する。本発明の粘着テープは、支持基材の一方の面側にアクリル系粘着剤層を有する片面粘着テープであってもよいし、支持基材の両方の面側にアクリル系粘着剤層を有する両面粘着テープであってもよい。本発明の粘着テープは、ロール状に巻き取った巻回体の形態を有していてもよい。なお、粘着テープは、粘着シートを含む概念である。
・・・
【0018】
(支持基材)
本発明の粘着テープは、「低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンを含有し、低密度ポリエチレンの含有量及び高密度ポリエチレンの含有量の合計量が80重量%以上であり、且つ、少なくとも一方の面に幅方向に溝状の凹部を有する支持基材」を有する。上記支持基材は、テープ状やシート状の形状を有する。また、上記「幅方向」は、支持基材の幅方向であり、本発明の粘着テープの幅方向と同一の方向である。なお、本明細書では、「溝状の凹部」を単に「凹部」と称する場合がある。」
ウ 「【0040】
上記支持基材において、低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンとの割合[HDPE:LDPE](重量比)は、特に限定されないが、10:90?90:10が好ましく、より好ましくは20:80?50:50である。高密度ポリエチレンの割合が大きすぎると、機械的強度が高くなり段差などに対する反発力が大きくなって、浮きが発生しやすくなる場合があり、一方、低密度ポリエチレンの割合が大きすぎると、機械的強度が低くなって、手切れ性が低下する場合がある。」
エ 「【0108】
[実施例1]
(粘着テープ用基材)
低密度ポリエチレン(商品名「スミカセンG-401」、住友化学株式会社製)(LDPE)50重量部、高密度ポリエチレン(商品名「ハイゼックス2200J」、株式会社プライムポリマー製)(HDPE))50重量部及び白色顔料(商品名「HCM1030ホワイト」、大日精化工業株式会社製)8重量部を混合(ドライブレンド)して基材組成物を得た。
上記基材組成物を、押出し温度240℃でT型ダイスによる押出し成形により製膜し、製膜フィルムを得て、この押出し直後の製膜フィルムの片面にエンボスロールを接触させて、フィルムの幅方向(長さ方向と直行する方向)へ伸びる溝状の凹部を、連続的に形成した。なお、形成された凹部の底面の形状は、曲面状である。また、形成された凹部は、リブを有する。
なお、上記エンボスロールには、表1に示すような凹部の最大幅、凹部の深さ、凹部の個数、凹部のピッチ間隔が転写により形成できるように凹凸彫刻が施されている。凹部を形成した後、冷却して、巻き取り、片面に凹部を有するフィルムを得た。なお、該フィルムの凹部を有する面と反対側の面は平滑である。
次に、上記フィルムの平滑面に粘着剤層との投錨性を向上させるためにコロナ処理を行った。このようにして、粘着テープ用基材を得た。
【0109】
(粘着テープ及び粘着テープ巻回体)
温度計、攪拌機、窒素導入管などを備えた反応容器に、アクリル酸ブチル(BA)100重量部、アクリル酸(AA)3重量部、酢酸ビニル(VAc)5重量部、重合開始剤としての2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2重量部及び重合溶媒としてのトルエン100重量部投入して、窒素ガス気流下60℃で反応を行い、重量平均分子量が50万であるアクリル系重合体を含有する溶液を得た。
上記溶液に、粘着付与剤(商品名「スーパーエステルA-100」、荒川化学工業株式会社製)を上記アクリル系重合体(上記溶液の固形分)100重量部に対して5重量部となるように添加し、さらに、イソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン工業株式会社製)を上記アクリル系重合体100重量部に対して2重量部(固形分換算)となるように添加することにより、アクリル系粘着剤組成物を得た。
上記粘着テープ用基材のコロナ処理を施した平滑面に上記アクリル系粘着剤組成物をリバースロールコーターにより塗布し、100℃で2分間乾燥させて、厚みが30μmのアクリル系粘着剤層を有する粘着テープ(長さ20m)を得た。
そして、粘着テープを巻芯にロール状に巻き取り、粘着テープ巻回体を得た。」
オ 「【0110】
[実施例2?4]
(粘着テープ用基材)
表1に示すように材料を混合(ドライブレンド)して基材組成物を得たこと、及び、表1に示すような凹部の最大幅、凹部の深さ、凹部の個数、凹部のピッチ間隔が転写により形成できるように凹凸彫刻が施されているエンボスロールを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、片面に凹部を有するフィルムを得た。
次に、実施例1と同様にして、上記フィルムの平滑面にコロナ処理を行った。
このようにして、粘着テープ用基材を得た。
【0111】
(粘着テープ及び粘着テープ巻回体)
温度計、攪拌機、窒素導入管などを備えた反応容器に、モノマー成分(アクリル酸ブチル(BA)、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)、酢酸ビニル(VAc)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)、アクリル酸(AA))を表1に示す量投入し、実施例1と同様にして、重量平均分子量が50万であるアクリル系重合体を含有する溶液を得た。
上記アクリル系重合体を含有する溶液に、イソシアネート系架橋剤(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン工業株式会社製)及び粘着付与剤(商品名「スーパーエステルA-100」、荒川化学工業株式会社製)を、上記アクリル系重合体(上記溶液の固形分)100重量部に対して、表1の量となるように添加し、実施例1と同様にして、アクリル系粘着剤組成物を得た。上記粘着テープ用基材を用いて、実施例1と同様にして、粘着テープを得た。
そして、実施例1と同様にして、粘着テープを巻芯にロール状に巻き取り、粘着テープ巻回体を得た。」
カ 「【0114】
【表1】

【0115】
表1の「凹部の深さ(%)」は、支持基材の厚み(100%)に対する割合である。
【0116】
表1において、「HDPE」は「高密度ポリエチレン(商品名「ハイゼックス2200J」、株式会社プライムポリマー製)」であり、「LDPE」は「低密度ポリエチレン(商品名「スミカセンG-401」、住友化学株式会社製)」であり、「白色顔料」は「白色顔料(商品名「HCM1030ホワイト」、大日精化工業株式会社製)」である。
また、「BA」は「アクリル酸ブチル」であり、「2-EHA」は「アクリル酸2-エチルヘキシル」であり、「VAc」は「酢酸ビニル」であり、「HEA」は「2-ヒドロキシエチルアクリレート」であり、「AA」は「アクリル酸」である。」
キ 「【0117】
(評価)
実施例および比較例で得られた粘着テープについて、下記の定荷重剥離試験により定荷重剥離速度を求め、下記の粘着力の測定方法により粘着力を求めた。また、糊残り性を下記の糊残り性の評価試験により評価し、手切れ性を下記の手切れ性の評価試験により評価した。その結果は、表1に併記した。
【0118】
(定荷重剥離試験)(図4、5、6参照)
粘着テープ巻回体より粘着テープを巻き戻して、巻き戻した粘着テープを切断することにより、幅25mm、長さ150mmのシート状の測定用サンプル(測定用サンプル12)を得た。
次に、温度23℃の雰囲気下、上記測定用サンプルを、ステンレス板(ステンレス304BA板)(ステンレス板11)に、500gローラー、一往復の条件で圧着して貼付し、測定用サンプルが貼付されているステンレス板を得た。そして、この測定用サンプルが貼付されているステンレス板を、温度40℃の雰囲気下、30分間放置した。
30分後、クランプを用いて、測定用サンプルが貼付されているステンレス板を、測定用サンプルが貼付されている面が下側となるように水平に設置した。次いで、ステンレス板から、測定用サンプルを、長さ方向の一方の末端から長さ方向に5mm剥離させた。測定用サンプルにおける剥離させた部分側の一方の端部から、30gの錘(錘13)をひもで吊し、アクリル板表面に対して垂直方向(90°剥離方向)に、30g重の荷重をかけた。そして、試験を開始した。試験は、温度23℃の雰囲気下で行った。なお、錘は、測定用サンプルの幅方向の中央、長さ方向の末端から5mmの部分に穴をあけて通したひもの先に取り付けた。
なお、図4は、定荷重剥離試験における、ステンレス板、測定用サンプル、錘の位置関係を示し、また、図5は、定荷重剥離試験における、試験開始時の、アクリル板、測定用サンプル、錘の位置関係を示す。
試験開始から1時間後、試験を終了した。そして、試験中に測定用サンプルがステンレス板から剥離した距離(剥離距離16)を測定し、この剥離した距離より1時間当たりの剥離距離を求めて、定荷重剥離速度(mm/hr)とした。
なお、図6は、定荷重剥離試験における、試験終了時の、測定用サンプルの剥離状態、及び、剥離距離を示す。
【0119】
(粘着力(対ステンレス板、引張速度300mm/min、剥離角度180°))
粘着テープ巻回体より粘着テープを巻き戻して、巻き戻した粘着テープを切断することにより、幅25mm、長さ150)mmのシート状の測定用サンプルを得た。
次に、上記測定用サンプルを、ステンレス板(ステンレス304BA板)に、2kgローラー、一往復の条件で圧着して貼付した。貼付後、温度23℃で30分間放置した。30分後、引張試験機を用いて、JISZ0237に準拠して、180°剥離試験を行い、ステンレス板に対する粘着力(引き剥がし強度)(N/25mm)を測定した。測定は、温度23℃、相対湿度50%RHの雰囲気下、剥離角度180°、引張速度300mm/minの条件で行った。
【0120】
(糊残り性(糊残り抑止性)の評価試験)
粘着テープ巻回体より粘着テープを巻き戻して、巻き戻した粘着テープを切断することにより、幅50mm、長さ150mmのシート状の評価用サンプルを得た。
評価用サンプルを、フローリング材(表面コート、UV硬化タイプ、大建工業株式会社製)に、2kgローラー、一往復の条件で圧着して貼付し、評価用サンプルが貼付されたフローリング材を得た。
その後、得られた評価用サンプルが貼付されたフローリング材を、室内の日当たりのよい窓際に3月間放置した。3月後、手で測定用サンプルをフローリング材から剥がして、フローリング材表面を目視観察し下記評価基準で評価した。
糊残り性評価基準
糊残り抑止性が良好(○):糊残りが生じることなく、剥離後のフローリング材表面に変化がない場合
糊残り抑止性が不良(×):糊残りが生じてフローリング材表面が汚染されている場合」
ク 甲1発明の認定、本件発明1との相違点
(ア)前記ア?カに摘記した甲1の各記載、特に同エにおいて摘記した甲1の実施例1及び同カにおいて摘記した表1の実施例1のデータから、次の発明(以下「甲1発明」という。)が認定できる。
「支持基材と、支持基材の少なくとも一方の面側にアクリル系粘着剤層を有する粘着剤層と、を備える粘着シートであって、
前記支持基材は、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンと白色顔料とを50:50:8重量部含むものであり、
前記粘着層は、アクリル酸ブチル、アクリル酸、酢酸ビニルからなる共重合体と粘着付与剤とを含有する粘着剤組成物から形成されており、
前記粘着シートは、少なくとも一方の面に幅方向に溝状の凹部を有し、甲1の段落【0118】に記載の条件で測定した場合5mm/hrの定荷重剥離速度を示し、8N/25mmの粘着力(対ステンレス板、引張速度300mm/min、剥離角度180°)を示す、剥離シート。」
(イ)相違点
本件発明1と甲1発明とを対比すると少なくとも次の点で相違する。
・相違点1
定荷重剥離速度に関して、本件発明1においては、「4mm/hour以下の定荷重剥離速度を示す、ここで前記定荷重剥離速度は以下の方法で測定される、粘着シート。 [定荷重剥離速度]・・(省略)・・」であるのに対し、甲1発明においては、「甲1の段落【0118】に記載の条件で測定した場合5mm/hrの定荷重剥離速度を示」す点。
(2)甲1を主引用例とした進歩性の判断
ア 定荷重剥離速度の試験条件について
ここで、本件請求項1に規定された定荷重剥離速度の試験条件(以下「本件試験条件」という。)と、甲1の段落【0118】に記載の試験条件(以下「甲1試験条件」という。)とを対比すると、1時間錘により荷重をかける際の雰囲気温度が、本件試験条件においては40℃であるのに対し、甲1試験条件においては23℃である点で最も相違するといえる。
イ 温度が高い方が粘着力が低下することを考慮すると、甲1発明に係る粘着シートについて、本件試験条件で測定した場合には、甲1発明における5mm/hrよりも多くはがれるため、5mm/hrを超える定荷重剥離となることが推認できる。
ウ そして、甲1?8のいずれにも、本件試験条件で測定した場合に、「4mm/hour以下の定荷重剥離速度を示す」粘着シートについては記載も示唆もされていない。
エ そうすると、本件発明1は、甲1発明及び甲1?8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるということはできない。
オ 本件発明5、6、8?10は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに特定事項を有するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲1?8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるということはできない。
(3)甲8の記載事項及び甲8発明
ア 「【請求項1】
基材上に、植物由来のジカルボン酸と植物由来のジオールとをジカルボン酸に含まれるカルボキシル基1.00モルに対しジオールに含まれる水酸基が1.01?1.40モルとなる割合で縮合重合させて得られるポリエステル樹脂と、このポリエステル樹脂100重量部あたり10?50重量部となる量の粘着付与剤とを含有し、架橋剤により架橋処理された粘着剤層を有し、この粘着剤層はゲル分率が40?90%の範囲にあることを特徴とするポリエステル系マスキングシート。
【請求項2】
植物由来のジカルボン酸がダイマー酸であり、植物由来のジオールがダイマージオールである請求項1に記載のポリエステル系マスキングシート。
【請求項3】
粘着付与剤が植物由来の材料を主成分としたものである請求項1または2に記載のポリエステル系マスキングシート。
・・・」
イ 「【0003】
上記従来のマスキングシートは、石油由来材料のため、石油桔渇のおそれがあり、また使用後の廃棄処理に二酸化炭素を排出していた。つまり、石油桔渇や産廃時の二酸化炭素排出の点より地球環境への配慮はなされていなかった。
昨今、化石資源の枯渇や地球の温暖化対策として環境への配慮が求められ、再生可能な材料である植物由来材料の使用が推奨され始めている。
【0004】
本発明は、このような事情に照らし、粘着剤層の有効成分として、化石資源(石油資源を含む)を用いず、化石資源の枯渇や二酸化炭素排出の問題のない、地球環境にやさしい植物由来材料を用いたバイオマスマスキングシートを提供すること、また、被着体および自背面に対する粘着力を維持しつつも、高速で巻き戻す際の負担を軽減することを可能とし、さらに高温で使用した場合も糊残りや汚染なく剥離することが可能である、高性能のバイオマスマスキングシートを提供することを課題とする。」
ウ 「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題に対し、鋭意検討した結果、基材上に化石資源の枯渇に影響されない植物由来材料を原料成分としたポリエステル樹脂を有効成分としこれに粘着付与剤を含ませ架橋剤により架橋処理してゲル分率を適正範囲に設定した粘着剤層を設けることにより、被着体および自背面に対する粘着力を維持しつつも、高速でテープを巻き戻す際の負担を軽減でき、また高温で使用した場合も糊残りや汚染なく剥離でき、剥離した廃棄物は上記植物由来材料により二酸化炭素排出の問題のない、地球環境にやさしい高性能のバイオマスマスキングシートとなることを知り、本発明を完成した。」
エ 「【0012】
粘着付与剤には、従来公知のものを広く使用することができるが、植物由来の材料を主成分としたものが望ましい。このような粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂やテルペン系樹脂などが挙げられる。ロジン系樹脂には、ロジン、重合ロジン、水添ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル、ロジンフェノール樹脂などがある。また、テルペン系樹脂には、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂などがある。
【0013】
粘着付与剤の量は、ポリエステル樹脂100重量部に対し、10?50重量部が好ましく、特に好ましくは15?45重量部であるのがよい。粘着付与剤の量が50重量部より多いと、粘着力が高くなりすぎ高温保持後の再剥離に際し糊残りや汚染の問題があり、また再剥離が難しくなる。また、粘着付与剤の量が10重量部より少ないと、自背面に対する粘着力が低くなり、ロール状にした際に剥がれが起きるなどの不具合を生じやすい。」
オ 「【0028】
本発明のポリエステル系マスキングシートは、23℃におけるSUS板に対する粘着力が1.5?8.0N/20mmの範囲にあり、特に好ましくは2.0?7.0N/20mmの範囲にある。上記の粘着力が1.5N/20mmの未満では、被着体に対する粘着力が十分でなく使用中に剥離するおそれがある。また、上記の粘着力が8.0N/20mmを超えると、粘着力が強すぎ剥離する際に糊残りや基材が破れるおそれがある。
【0029】
また、本発明のポリエステル系マスキングシートは、23℃での粘着剤層と自背面との粘着力、つまり自背面粘着力が1.5N/20mm以上であり,特に好ましくは2.0N/20mm以上である。上記の自背面粘着力が1.5N/20mm未満であると、重ね貼り特性が悪くなり、剥がれたりずれ落ちたりなどの不具合が生じやすい。
【0030】
さらに、本発明のポリエステル系マスキングシートは、23℃における自背面高速剥離粘着力、いわゆる巻き戻し力が1.0?8.0N/20mmの範囲にあり、特に好ましくは2.0?7.0N/20mmの範囲にある。上記の巻き戻し力が1.0N/20mm未満では、巻き戻し力が小さすぎて所定長さ以上に巻き戻ったり、何かの拍子で自重でテープが巻き戻る現象が生じやすい。また、上記の巻き戻し力が8.0N/20mmを超えると、巻き戻し力が大きすぎて作業性が悪く、また巻き戻し時にテープが切れるなどの不具合が生じやすい。
【0031】
本発明のポリエステル系マスキングシートは、自背面定荷重剥離試験(後述)において落下せず、そのずれ距離が60mm以下という性能を備えている。本試験で落下すると巻き戻し力が軽すぎ、作業性に劣るという不具合がある。また、本発明のポリエステル系マスキングシートは、高温(例えば130℃)で保持した場合でも、糊残りや汚染なく再剥離できるという性能を備えている。
【0032】
本発明のポリエステル系マスキングシートは、上記の諸性能を有していることにより、自動車の塗装時のマスキング時に使用されるマスキング用テープ、養生用テープ、保護フィルムテープなどとして有用であり、その他、マスキングシートとして知られる各種の用途に有利に利用することができる。これらの用途目的で使用したのち、被着体から剥離したマスキングシートは、粘着剤層が植物由来材料からなるため、これを廃棄処理した場合二酸化炭素を排出してもカーボンニュートラルを実現でき、地球環境に悪影響を及ぼすことはない。」
カ 「【0034】
<ポリエステル樹脂Aの製造>
三つ口セパラブルフラスコに撹拌機、温度計、真空ポンプを付し、これにダイマー酸(商品名「プリポール1009」Mw567 ユニケマ社製)110.7g、ダイマージオール(商品名「プリポール2033」Mw537ユニケマ社製)100g、触媒としてチタンテトライソプロポキシド(キシダ化学社製)0.532gを仕込み、減圧雰囲気で撹拌しながら200℃まで昇温し、この温度を保持した。約3時間反応を続けてポリエステル樹脂Aを得た。重量平均分子量Mwは3万であった。なお、上記のダイマー酸とダイマージオールとの使用量は、ダイマー酸に含まれるカルボキシル基1.00モルに対して、ダイマージオールに含まれる水酸基が0.95モルとなる割合であった。
・・・
【0036】
<ポリエステル樹脂Cの製造>
ダイマー酸の使用量を100.9gに変更し、ダイマージオールの使用量は100gのままとした以外は、ポリエステル樹脂Aの場合と同様にして、ポリエステル樹脂Cを得た。重量平均分子量Mwは5.5万であった。なお、上記のダイマー酸とダイマージオールとの使用量は、ダイマー酸に含まれるカルボキシル基1.00モルに対して、ダイマージオールに含まれる水酸基が1.05モルとなる割合であった。
・・・」
キ 「【0039】
実施例1
ポリエステル樹脂C100部に、架橋剤としてヘキサメテレンジイソシアネート(商品名「TPA-100」、旭化成ケミカルズ社製)2部、粘着付与剤〔商品名「リカタックPCJ」、(株)理化ファインテク徳島製〕20部を配合し、粘着剤を調製した。これを、坪量30g/m^(2)の紙基材(日本紙パピリア社製「AC-30G」)に乾燥後の厚さが40μmとなるように塗布し、100℃で3分乾燥した。乾燥後、剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)シートの剥離処理面を貼り合わせ、エージングを50℃で5日間実施し、架橋処理した粘着剤層を有するポリエステル系マスキングシートを作製した。
【0040】
実施例2
架橋剤の配合量をポリエステル樹脂C100部に対し4部とした以外は、実施例1と同様にして粘着剤を調製し、ポリエステル系マスキングシートを作製した。
・・・」
ク 「【0052】
以上の実施例1?7および比較例1?6の各ポリエステル系マスキングシートに関し、粘着剤層のゲル分率、SUS板粘着力、自背面粘着力、自背面高速剥離試験、自背面定荷重剥離試験および高温剥離試験を、下記の方法により測定し、これらの結果を、下記の表1?表4にまとめて示した。なお、各表には、使用した粘着剤の組成(ポリエステル樹脂の種類および原料成分の水酸基/カルボキシル基比、ポリエステル樹脂、粘着付与剤および架橋剤の使用部数)を併記した。
・・・
【0054】
<SUS板粘着力>
ポリエステル系マスキングシート(幅20mmにカット)の粘着剤層面をSUS304板に2kgローラー1往復にて貼着させ、引張圧縮試験機(ミネベア社製「TG-1kN」)にて、180°ピール接着力(粘着力)(N/20mm)(剥離速度:300mm/分、温度:23±2℃、湿度:65±5%RH)を測定した。
・・・
【0057】
<自背面定荷重剥離試験>
ポリエステル系マスキングシートの粘着剤層面をSUS304板に貼り合わせ固定し、その基材面(自背面)に同じくポリエステル系マスキングシート(幅20mm、長さ300mmにカット)の粘着剤層面を500gローラー1往復にて貼着させ、30分置いたのち、40℃の条件下で30gの重りを直角にぶら下げ、1時間後、初期より剥離が進んだ距離を測定した。初期の接着部分の長さは200mmである。
・・・
【0059】
【表1】


ケ 甲8発明の認定、本件発明1との相違点
(ア)前記第ア?キに摘記したところを総合すると、次の発明(以下「甲8発明」という。)が認定できる。
「坪量30g/m^(2)の紙基材と、該紙基材上に設けられた、植物由来のジカルボン酸と植物由来のジオールとを縮合重合させて得られるポリエステル樹脂100部と、植物由来の材料を主成分とする粘着付与剤20部とを含有し、架橋剤4部により架橋処理された粘着剤層を有するマスキングシートであって、
前記マスキングシートの自背面定荷重剥離試験結果が1mm/hourであり、23℃におけるSUS板に対する粘着力が2.0?7.0N/20mmの範囲にある、マスキングシート。」
(イ)本件発明1と甲8発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。
・相違点8-1
基材に関して、本件発明1においては、「高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを含むポリオレフェンフィルム」であって、「前記ポリオレフィンフィルムにおける前記高密度ポリエチレンと前記低密度ポリエチレンとの合計量は50重量%以上」と特定されるものであるのに対して、甲8発明においては、「紙基材」である点。
・相違点8-2
定荷重剥離速度に関して、本件発明1においては、「4mm/hour以下の定荷重剥離速度を示す、ここで前記定荷重剥離速度は以下の方法で測定される、粘着シート。 [定荷重剥離速度]・・(省略)・・」であるのに対し、甲8発明においては、「定荷重剥離試験結果が1mm/hourであ」る点。
(4)甲8発明を主引用例とした進歩性の判断
ア 前記(2)における検討と同様に、本件発明1の定荷重剥離速度とすることについては、甲8発明には記載も示唆もされていない。また、甲1?8のいずれにもこの点は記載も示唆もされていない。
イ そうすると、本件発明1は、甲8発明及び甲1?8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるということはできない。
ウ 本件発明5、6、8?10は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに特定事項を有するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲1?8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるということはできない。
(5)進歩性についての小括
以上から、本件発明1、5、6、8?10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないということはできず、本件発明1、5、6、8?10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。

第5 取消理由に採用しなかった特許異議の申立て理由について
サポート要件について
1 申立人は、特許異議申立書40頁において、本件発明の課題である「要求特性を保ちつつ温室効果ガス排出量を低減しうる粘着シートを提供」することを実現するためには、高密度ポリエチレンが基材シートとして用いられることが必要である旨を主張している。
2 本件訂正後の本件発明1、5、6、8?10については、基材に高密度ポリエチレンが含有されることが必須となっている。
3 したがって、前記1の申立人の主張は理由がない。

第6 むすび
1 本件訂正は適法であるから、認める。
2 本件発明1、5?6、8?10に係る特許についての特許異議の申立ては成り立たない。また、他に本件発明1、5?6、8?10に係る特許を取り消すべき理由は発見できない。
さらに、本件発明2?4、7に係る特許についての特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の少なくとも一方の表面に設けられた粘着剤層と、を備える粘着シートであって、
前記粘着シートのバイオマス度は20%以上であり、
前記粘着剤層は、アクリル系ポリマーをベースポリマーとして含むアクリル系粘着剤層であり、
前記基材のバイオマス度は25%以上であり、
前記基材におけるポリ乳酸の含有割合は20重量%未満であり、
前記基材は、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを含むポリオレフィンフィルムであり、
前記ポリオレフィンフィルムにおける前記高密度ポリエチレンと前記低密度ポリエチレンとの合計量は50重量%以上であり、
前記基材における前記高密度ポリエチレンの含有割合は60重量%以下であり、
前記基材がバイオマス高密度ポリエチレンを含む場合、前記基材に含まれる前記高密度ポリエチレンの総量に占める前記バイオマス高密度ポリエチレンの割合は100重量%以下であり、
前記粘着シートは、4mm/hour以下の定荷重剥離速度を示す、ここで前記定荷重剥離速度は以下の方法で測定される、粘着シート。
[定荷重剥離速度]
粘着シートを幅18mm、長さ150mmのサイズにカットして測定サンプルを作製する。23℃、50%RHの環境下にて、上記測定サンプルの粘着面を露出させ、該粘着面をステンレス鋼(SUS304BA)板の表面に500gのローラを1往復させて圧着する。これを同環境下に30分間放置した後、クランプを用いて、上記測定サンプルが貼り付けられた面が下側となるように上記ステンレス鋼板を水平に設置する。次いで、剥離角度が90度となるように、上記測定サンプルの長手方向の一端に30gの錘にて荷重をかけて、40℃の雰囲気下にて1時間後の剥離距離を測定し、これを定荷重剥離速度(mm/hour)とする。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記粘着シートは長尺シートであり、
前記基材の少なくとも一方の表面には、連続的にまたは断続的に直線状に伸びる凹部が形成されており、
前記凹部は、前記粘着シートの長手方向と交差する方向に沿って配置されている、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記粘着シートは、15N/25mm以下の180度剥離強度を示す、請求項1または5に記載の粘着シート。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記粘着剤層は、前記アクリル系ポリマーと架橋剤とを含む粘着剤組成物から形成されてなる、請求項1、5または6に記載の粘着シート。
【請求項9】
前記アクリル系ポリマーは、主モノマーとしてのブチルアクリレートと、前記架橋剤と反応し得る官能基含有モノマーと、を含むモノマー原料を重合することにより得られたものである、請求項8に記載の粘着シート。
【請求項10】
前記粘着剤層は植物由来の粘着付与剤を含有する、請求項1、5、6、8または9に記載の粘着シート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-24 
出願番号 特願2015-542541(P2015-542541)
審決分類 P 1 651・ 561- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山本 悦司澤村 茂実  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 門前 浩一
瀬下 浩一
登録日 2019-07-19 
登録番号 特許第6556055号(P6556055)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 粘着シート  
代理人 大井 道子  
代理人 大井 道子  
代理人 谷 征史  
代理人 谷 征史  

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