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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C04B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C04B 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C04B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C04B 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C04B |
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管理番号 | 1374888 |
異議申立番号 | 異議2020-700372 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-06-02 |
確定日 | 2021-04-02 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6615262号発明「ジルコニア仮焼体及びジルコニア焼結体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6615262号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、〔5?8〕について訂正することを認める。 特許第6615262号の請求項1、5に係る特許を維持する。 特許第6615262号の請求項2?4、6?8に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6615262号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成25年 5月10日に特許出願された特願2013-100618号の一部を、平成29年 8月 3日に新たな特許出願とした特願2017-150418号の一部を、さらに新たな特許出願としたものであって、令和 1年11月15日にその特許権の設定登録がされ、同年12月 4日に特許掲載公報が発行された。 その後、その請求項1?8に係る特許について、令和 2年 6月 2日に特許異議申立人中丸剛(以下、「申立人1」という。)により、及び、同年 6月 3日に特許異議申立人末吉直子(以下、「申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされたものであり、その後の手続の経緯は以下のとおりである。 令和 2年 8月25日付け 取消理由通知 同年10月30日付け 訂正の請求、意見書の提出 同年11月26日付け 手続補正書(方式)の提出 令和 3年 1月 5日付け 申立人2による意見書の提出 同年 2月16日付け 応対記録の作成(特許権者との連絡につい て) なお、訂正の請求後、申立人1による意見書の提出はなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和 2年10月30日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、同年11月26日付け 手続補正書(方式)により補正された同年10月30日付け訂正請求書からみて、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付の訂正特許請求の範囲のとおり訂正するものであって、以下の訂正事項1?8からなるものである(下線部は、訂正箇所を示す)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、 前記複数のジルコニア粉末を積層させてジルコニア組成物を形成し、 前記ジルコニア組成物を焼成して製造された状態のジルコニア仮焼体であって、 前記ジルコニア組成物を800℃?1200℃で焼成して製造されたジルコニア仮焼体を幅50mm×高さ10mm×奥行き5mmの寸法の直方体形状に成形したものを試験片とし、前記試験片において、幅50mm×奥行き5mmとなる面を底面としたとき、前記ジルコニア粉末の積層によって形成される境界面が前記底面と平行になっており、 前記試験片を1500℃で2時間焼成し、 2つの前記底面のうち、凹面に変形した底面を下にして載置したとき、 (凹面に変形した前記底面と接地面との最大間隔)/(前記幅方向における接地部分間の距離)×100が0.15以下であり、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化アルミニウムを0質量%?0.3質量%含有することを特徴とするジルコニア仮焼体。」 と記載されているのを、 「ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、顔料の添加率を調整することで組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、 前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成し、 前記積層体を800?1200℃で焼成して製造された状態のジルコニア仮焼体であって、 前記ジルコニア仮焼体を幅50mm×高さ10mm×奥行き5mmの寸法の直方体形状に成形したものを試験片とし、前記試験片において、幅50mm×奥行き5mmとなる面を底面としたとき、前記ジルコニア粉末の積層によって形成される境界面が前記底面と平行になっており、 前記試験片を1500℃で2時間焼成し、 2つの前記底面のうち、凹面に変形した底面を下にして載置したとき、 (凹面に変形した前記底面と接地面との最大間隔)/(前記幅方向における接地部分間の距離)×100が0.15以下であり、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化アルミニウムを0質量%?0.3質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化チタンを0質量%?0.6質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化ケイ素を0.1質量%以下含有し、 前記顔料として酸化クロム、酸化エルビウム、酸化鉄、及び酸化プラセオジムのうち少なくとも1つを含有し、 前記安定化剤としてイットリアを含有し、 歯科加工用であることを特徴とするジルコニア仮焼体。」 に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正をする。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正をする。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する訂正をする。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に、 「ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、 前記複数のジルコニア粉末を積層させてジルコニア組成物を形成し、 前記ジルコニア組成物を用いて製造された状態のジルコニア焼結体であって、 前記ジルコニア組成物を800℃?1200℃で焼成して製造されたジルコニア仮焼体を幅50mm×高さ10mm×奥行き5mmの寸法の直方体形状に成形したものを試験片とし、前記試験片において、幅50mm×奥行き5mmとなる面を底面としたとき、前記ジルコニア粉末の積層によって形成される境界面が前記底面と平行になっており、 前記試験片を1500℃で2時間焼成し、 2つの前記底面のうち、凹面に変形した底面を下にして載置したとき、 (凹面に変形した前記底面と接地面との最大間隔)/(前記幅方向における接地部分間の距離)×100が0.15以下であり、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化アルミニウムを0質量%?0.3質量%含有することを特徴とするジルコニア焼結体。」 と記載されているのを、 「ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、顔料の添加率を調整することで組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、 前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成し、 前記積層体を用いて1400?1600℃で焼結して製造された状態のジルコニア焼結体であって、 前記積層体を800℃?1200℃で焼成して製造されたジルコニア仮焼体を幅50mm×高さ10mm×奥行き5mmの寸法の直方体形状に成形したものを試験片とし、前記試験片において、幅50mm×奥行き5mmとなる面を底面としたとき、前記ジルコニア粉末の積層によって形成される境界面が前記底面と平行になっており、 前記試験片を1500℃で2時間焼成し、 2つの前記底面のうち、凹面に変形した底面を下にして載置したとき、 (凹面に変形した前記底面と接地面との最大間隔)/(前記幅方向における接地部分間の距離)×100が0.15以下であり、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化アルミニウムを0質量%?0.3質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化チタンを0質量%?0.6質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化ケイ素を0.1質量%以下含有し、 前記顔料として酸化クロム、酸化エルビウム、酸化鉄、及び酸化プラセオジムのうち少なくとも1つを含有し、 前記安定化剤としてイットリアを含有し、 歯科用であることを特徴とするジルコニア焼結体。」 に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6を削除する訂正をする。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7を削除する訂正をする。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8を削除する訂正をする。 (9)一群の請求項について 訂正事項1?4に係る請求項1?4について、訂正前の請求項4が請求項1?3を引用する関係にあるから、請求項1?4は一群の請求項である。 訂正事項5?8に係る請求項5?8について、訂正前の請求項8が請求項5?7を引用する関係にあるから、請求項5?8は一群の請求項である。 したがって、訂正事項1?4は、一群の請求項〔1?4〕に対して請求されたものであり、訂正事項5?8は、一群の請求項〔5?8〕に対して請求されたものである。 2 訂正の適否について (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について 訂正前の請求項1に係る発明は、「複数のジルコニア粉末」について、「組成が異なる」ことを特定している。 これに対して、訂正後の請求項1に係る発明は、「顔料の添加率を調整することで組成が異なる複数のジルコニア粉末」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明における複数のジルコニア粉末の組成の違いをより具体的に特定し、更に明確化かつ限定するものである。 また、訂正前の請求項1に係る発明は、「組成の異なる複数のジルコニア粉末」である「前記複数のジルコニア粉末を積層させ」たものが「ジルコニア組成物」であることを特定していたところ、上記「ジルコニア組成物」は、組成のことなる層を積層したものである以上、一定の組成を有することを意味する「組成物」には当たらず、記載が不明瞭なものとなっていた。 これに対して、訂正後の請求項1に係る発明は、「前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成し、前記積層体を」との記載により、「複数のジルコニア粉末を積層させ」たものは、組成物ではなく「積層体」であることを明確にし、該「積層体」は「上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した」ものであることをより具体的に特定し、更に明確化かつ限定するものである。 さらに、訂正前の請求項1に係る発明は、「ジルコニア仮焼体」について、「焼成して製造された状態のジルコニア仮焼体」と特定している。 これに対して、訂正後の請求項1に係る発明は、「800?1200℃で焼成して製造された状態のジルコニア仮焼体」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明の「ジルコニア仮焼体」が「800?1200℃で焼成して製造された状態」であることをより具体的に特定し、更に明確化かつ限定するものである。 また、訂正前の請求項1に係る発明は、「試験片」について「前記ジルコニア組成物を800℃?1200℃で焼成して製造されたジルコニア仮焼体を幅50mm×高さ10mm×奥行き5mmの寸法の直方体形状に成形したものを試験片と」するものである。 これに対して、訂正後の請求項1に係る発明は、「前記ジルコニア仮焼体を幅50mm×高さ10mm×奥行き5mmの寸法の直方体形状に成形したものを試験片と」するものであり、「試験片」は、「ジルコニア組成物」を焼成して製造されたジルコニア仮焼体を成形したものではなく、「前記ジルコニア仮焼体」すなわち「積層体を800?1200℃で焼成して製造された状態のジルコニア仮焼体」を成形したものであることを具体的に特定し、更に明確化かつ限定するものである。 そして、訂正後の請求項1に係る発明は、訂正前の「ジルコニア仮焼体」について、「前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化チタンを0質量%?0.6質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化ケイ素を0.1質量%以下含有し、 前記顔料として酸化クロム、酸化エルビウム、酸化鉄、及び酸化プラセオジムのうち少なくとも1つを含有し、 前記安定化剤としてイットリアを含有し、 歯科加工用である」ことを具体的に特定し、更に限定するものである。 以上のことから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定する特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無について (ア)当審の判断 訂正事項1は、本件明細書の段落【0050】、【0052】、【0053】、【0054】、【0063】、【0066】、【0109】、【0115】、【0117】の記載及び技術常識に基づいている。 訂正事項1のうち、「ジルコニア仮焼体」について「歯科加工用である」ことをさらに特定する点について補足するに、ジルコニア仮焼体が「歯科加工用」という語は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のいずれの箇所にも記載されていないため、訂正の意図及び根拠を特許権者代理人に電話で問い合わせたところ、令和 3年 2月9日に電話で以下の回答を得た(令和 3年 2月16日付け応対記録参照)。 「訂正の意図は、取消理由通知の理由1(明確性)(1)において、ジルコニア仮焼体がどのような特徴を有する物であることが特定されるのか不明であるとの指摘に対応するためのものである。また、訂正の根拠は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に明記されていない技術常識として、歯科用のジルコニア焼結体の技術分野において、メーカーから歯科加工技師の元にジルコニア仮焼体が納入され、歯科加工技師がCAD/CAM等により加工を行い、その後、加工後の仮焼体を焼結してジルコニア焼結体を得ることが一般的であることに基づくものである。この点は本件明細書の段落【0011】の『ジルコニア焼結体は高強度であるので、加工は容易ではな』いとの記載、及び、段落【0115】の『成形は仮焼体の段階で切削加工等により実施してもよ』く『成形は、CAD/CAMシステムで実施することができる。』との記載に反映されている。」 上記回答を踏まえて合議体で判断した結果、訂正事項1のうち「ジルコニア仮焼体」について「歯科加工用である」ことをさらに特定する点は、歯科用のジルコニア焼結体の技術分野において、一般的にジルコニア仮焼体が、焼結して歯科用のジルコニア焼結体とする前に加工されるとの技術常識、及び、本件明細書の段落【0011】及び【0115】の記載に基くものであって、ジルコニア仮焼体が、焼結して歯科用のジルコニア焼結体とする前に加工を行う用途に用いられるものであることを特定することを意味すると解釈するのが妥当であり、新規事項の追加には当たらないものであると認められる。 (イ)申立人2の主張について 申立人2は、令和 3年 1月 5日付けで意見書を提出して、下記の通り主張している。 a 「歯科加工用」について(第2頁) 訂正事項1により、訂正前の請求項1に係る発明における「ジルコニア仮焼体」を「歯科加工用」に限定する点について、特許権者は、「訂正事項1は、明細書の段落【0050】、【0052】、【0053】、【0054】、【0063】、【0066】、【0109】、【0115】、及び、【0117】の記載に基づいて導き出される構成である。」等と主張するが、これらの段落の記載から、「ジルコニア仮焼体」が「歯科加工用」であることを導き出すことはできない。 b 「上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成し」との点について(第2?3頁) 訂正事項1により、訂正前の請求項1に係る発明における「前記複数のジルコニア粉末を積層させてジルコニア組成物を形成し」を「前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成し」に変更する点について、本件明細書の段落【0109】及び【0112】には、次層の粉末を充填する前にプレス処理を施さないこと、及び各層を充填する度に振動を与えることにより、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成することが記載されているが、他の方法で形成される混合層についての言及はない。 本件発明1における積層体における混合層は、形成方法により、混合の程度が異なることが技術常識であるところ、本件明細書等に記載されているのは次層の粉末を充填する前にプレス処理を施さないこと、及び各層を充填する度に振動を与えることにより形成される混合層のみであるから、これらの方法が規定されない「混合層」を、本件明細書等の記載から導き出すことはできない。 (ウ)申立人2の主張についての判断 a 「歯科加工用」について 上記第2 2(1)イに記載のとおり、訂正事項1により「ジルコニア仮焼体」について「歯科加工用である」ことをさらに特定する点は、技術常識及び本件明細書の段落【0011】及び【0115】の記載に基づくものであり、新規事項を導入するものであるとはいえない。 b 「上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成し」との点について 本件明細書の段落【0063】には「上下層の混合層」が記載されているとともに、段落【0109】及び【0112】にはその具体的な形成方法が示されているから、訂正事項1における「上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成し」との点は、本件明細書の記載に基づくものであり、新規事項を導入するものであるとはいえない。 (エ) 小括 してみれば、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1による訂正前の「ジルコニア組成物」は、上記アに記載したとおり「組成物」でないのは明らかであり、これを明確化して「積層体」とすることは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2?4 訂正事項2?4は、それぞれ訂正前の請求項2?4を削除するものである。 したがって、訂正事項2?4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであって特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (3)訂正事項5 (1)当審の判断 ア 訂正の目的について 訂正前の請求項5に係る発明は、「ジルコニア焼結体」について、「前記ジルコニア組成物を用いて製造された状態のジルコニア焼結体」と特定している。 これに対して、訂正後の請求項5に係る発明は、「前記積層体を用いて1400?1800℃で焼結して製造された状態のジルコニア焼結体」との記載により、訂正後の請求項5に係る発明の「ジルコニア焼結体」が「前記積層体を用いて1400?1800℃で焼結して製造された状態」であることをより具体的に特定し、更に明確化かつ限定するものである。 また、訂正事項5は、上記の点以外についても、上記(1)に示した訂正事項1と同様に、訂正前の発明特定事項をより具体的に特定し、更に明確化かつ限定するものである。 以上のことから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定する特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無について 「ジルコニア焼結体」が「前記積層体を用いて1400?1800℃で焼結して製造された状態」であることは、本件明細書の段落【0115】に基づいている。 上記の点以外についても上記(1)イに示した訂正事項1と同様である。また、令和 3年 1月 5日付け意見書における申立人2の訂正事項5についての主張(第3頁)は、上記(1)イ(ウ)に示した訂正事項1に対する主張と同様のものであり、上記(1)イ(エ)に記載したのと同様に採用できない。 よって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項5は、上記(1)ウに示した訂正事項1と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (4)訂正事項6?8 訂正事項6?8は、それぞれ訂正前の請求項6?8を削除するものである。 したがって、訂正事項6?8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであって特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 3 独立特許要件について 本件特許の請求項1?8の全ての請求項に係る特許について特許異議の申立てがされたので、訂正後の請求項1?8に係る発明について、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の独立特許要件についての規定は適用されない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕〔5?8〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 訂正後の請求項1、5に係る発明(それぞれ「本件発明1」、「本件発明5」といい、あわせて「本件発明」ということがある。)は、次の事項により特定されるものである(下線部は訂正箇所である。)。 「【請求項1】 ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、顔料の添加率を調整することで組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、 前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成し、 前記積層体を800?1200℃で焼成して製造された状態のジルコニア仮焼体であって、 前記ジルコニア仮焼体を幅50mm×高さ10mm×奥行き5mmの寸法の直方体形状に成形したものを試験片とし、前記試験片において、幅50mm×奥行き5mmとなる面を底面としたとき、前記ジルコニア粉末の積層によって形成される境界面が前記底面と平行になっており、 前記試験片を1500℃で2時間焼成し、 2つの前記底面のうち、凹面に変形した底面を下にして載置したとき、 (凹面に変形した前記底面と接地面との最大間隔)/(前記幅方向における接地部分間の距離)×100が0.15以下であり、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化アルミニウムを0質量%?0.3質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化チタンを0質量%?0.6質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化ケイ素を0.1質量%以下含有し、 前記顔料として酸化クロム、酸化エルビウム、酸化鉄、及び酸化プラセオジムのうち少なくとも1つを含有し、 前記安定化剤としてイットリアを含有し、 歯科加工用であることを特徴とするジルコニア仮焼体。 【請求項5】 ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、顔料の添加率を調整することで組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、 前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成し、 前記積層体を用いて1400?1600℃で焼結して製造された状態のジルコニア焼結体であって、 前記積層体を800℃?1200℃で焼成して製造されたジルコニア仮焼体を幅50mm×高さ10mm×奥行き5mmの寸法の直方体形状に成形したものを試験片とし、前記試験片において、幅50mm×奥行き5mmとなる面を底面としたとき、前記ジルコニア粉末の積層によって形成される境界面が前記底面と平行になっており、 前記試験片を1500℃で2時間焼成し、 2つの前記底面のうち、凹面に変形した底面を下にして載置したとき、 (凹面に変形した前記底面と接地面との最大間隔)/(前記幅方向における接地部分間の距離)×100が0.15以下であり、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化アルミニウムを0質量%?0.3質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化チタンを0質量%?0.6質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化ケイ素を0.1質量%以下含有し、 前記顔料として酸化クロム、酸化エルビウム、酸化鉄、及び酸化プラセオジムのうち少なくとも1つを含有し、 前記安定化剤としてイットリアを含有し、 歯科用であることを特徴とするジルコニア焼結体。」 第4 取消理由について 1 令和 2年 8月25日付け取消理由通知に記載された取消理由について 訂正前の請求項1?8(ここでは、当該請求項1?8に係る発明を、「本件特許発明1」?「本件特許発明8」という。)に対して、令和 2年 8月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 理由1(明確性)本件特許の請求項1?8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由2(委任省令要件)本件特許は、特許請求の範囲の請求項2?4、6?8に係る発明についての発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由3(サポート要件)本件特許の請求項1?8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (1)理由1 特許法第36条第6項第2号(明確性)について ア 仮焼体及び焼結体の物としての特徴について (ア)請求項1に係る「ジルコニア仮焼体」は「ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、前記複数のジルコニア粉末を積層させてジルコニア組成物を形成し、前記ジルコニア組成物を焼成して製造された状態のジルコニア仮焼体」と記載されているところ、原料の具体的組成や原料粒子径、焼成時間や焼成温度等の焼成条件が特定されていないから、当該記載により、本件特許発明1のジルコニア仮焼体がどのような状態にあることが特定されるのか不明である。 さらに、請求項1の「前記ジルコニア組成物を…0.15以下であり」(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下同様。)という、試験片の試験結果の記載中の試験片は、800℃?1200℃で焼成して製造する際の焼成時間が特定されていないから、当該記載により、本件特許発明1のジルコニア仮焼体がどのような特徴を有する物であることが特定されるのか不明である。 してみれば、本件特許発明1は明確でない。 (イ)本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に明確でない。 (ウ)本件特許発明3は、本件特許発明1と同様に明確でない。 (エ)請求項5?7には「ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、前記複数のジルコニア粉末を積層させてジルコニア組成物を形成し、前記ジルコニア組成物を用いて製造された状態のジルコニア焼結体」と記載されているところ、原料の具体的組成や原料粒子径、焼結体製造時の焼成時間や焼成温度等の焼成条件が特定されていない。また、請求項5?7には、それぞれ請求項1?3と同様に、試験片の試験結果が記載されているところ、試験片製造時の焼成時間が特定されていない。そうすると、上記(ア)?(ウ)と同様、これらの記載により、本件特許発明5?7のジルコニア焼結体がどのような特徴を有する物であることが特定されるのか不明である。 (オ)本件特許発明1?3、5?7を引用する本件特許発明4、8についても、上記(ア)?(エ)と同様に明確でない。 イ 積層体が「組成物」とされている点について 請求項1には「組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、前記複数のジルコニア粉末を積層させてジルコニア組成物を形成し」と記載されている。 しかしながら、上記「ジルコニア組成物」は、組成の異なる層を積層したものである以上、一定の組成を有することを意味する「組成物」には当たらない。 したがって、本件特許発明1は明確でない。 また、請求項2、3、5?7にも、「組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、前記複数のジルコニア粉末を積層させてジルコニア組成物を形成し」と記載されているから、本件特許発明2、3、5?7も同様に明確でない。 そして、本件特許発明1?3、5?7を引用する本件特許発明4、8についても同様に明確でない。 (2)理由2 特許法第36条第4項第1号(委任省令要件) ア 曲げ強度と課題の関係について 本件特許発明2、3、6、7、及び、これらを引用する本件特許発明4及び8について、本件明細書の発明の詳細な説明は、当該発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものであるとはいえない。 (3)理由3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について ア 曲げ強度が特定された発明による課題の解決について 本件特許発明2、3、6、7、及び、これらを引用する本件特許発明4及び8について、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。 イ 原料及び「混合層」の特定について (ア)発明の詳細な説明に記載されているジルコニア仮焼体及びジルコニア焼結体を得るための工程は、まず、ジルコニアと安定化剤を含む単一の粉末に対して、顔料の添加率を調整することで組成の異なる粉末を準備する。次に、これらの顔料の添加率が異なる複数の粉末を積層する際に、下層の粉末を充填し、上層の粉末を充填した後、振動を与えることで、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成する。全層を積層したら、プレス成形して成形物を作成し、これを焼成することで、仮焼体又は焼結体を得るというものである(【0063】、【0102】?【0117】、【実施例】)。 (イ)そして、上記(ア)の工程により得られた実施例4の仮焼体は、本件発明1で特定する「変形量」の値を充足するものであるのに対して、実施例4と同じ組成の粉末を用いるものであるが、上記振動を与えることなく積層体を成形した比較例は、上記「変形量」の値を充足しないことが記載されている(【0137】?【0141】)。 (ウ)そうすると、上記(ア)の工程により得られた積層構造の仮焼体は、上記本件発明の課題を解決できると認識できるといえるが、発明の詳細な説明の記載からは、技術常識に照らしても、上記(ア)に沿った工程の他には本件発明の課題を解決できる手段を認識することができない。 (エ)しかしながら、本件発明1は、粉末について単に「ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成」と特定されているから、上記のように「顔料の添加率を調整することで組成の異なる粉末を準備」したものとはいえず、また、「前記複数のジルコニア粉末を積層させてジルコニア組成物を形成し」としか特定されていないから、その際上記のように「上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成」したものであることも特定されていない。 (オ)したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができない。 (カ)同様に、粉末について単に「ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤としてイットリアを含有し、組成が異なる複数のジルコニア粉末」と特定され、「前記複数のジルコニア粉末を積層させてジルコニア組成物を形成し」としか特定されていない本件特許発明2、3、5?7、及び、本件特許発明1?3、5?7を引用する本件特許発明4、8についても、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができない。 2 取消理由についての判断 本件訂正請求により訂正された請求項1、5に係る発明(本件特許発明1及び5)の特許についての判断を以下に示す。 なお、本件訂正により請求項2?4、6?8は削除された。 (1)理由1 特許法第36条第6項第2号(明確性)について ア 仮焼体及び焼結体の物としての特徴について 本件訂正請求により、請求項1における「ジルコニア仮焼体」は、「ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、顔料の添加率を調整することで組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体」を焼成したものとなり、その焼成温度が「800?1200℃」に特定されたものとなり、組成が「前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化アルミニウムを0質量%?0.3質量%含有し、前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化チタンを0質量%?0.6質量%含有し、前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化ケイ素を0.1質量%以下含有し、前記顔料として酸化クロム、酸化エルビウム、酸化鉄、及び酸化プラセオジムのうち少なくとも1つを含有し、前記安定化剤としてイットリアを含有」するものに特定されるとともに、「歯科加工用である」と特定されたものとなった。 そうすると、本件発明1は、上記積層体の構造を備え、特定の組成及び変形量を有し、歯科加工用である物の発明であることが理解できるから、本件発明1は物としての特徴について不明確であるとはいえない。 同様に、本件訂正請求により、請求項5における「ジルコニア焼結体」は、「ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、顔料の添加率を調整することで組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体」を焼結したものとなり、その焼結温度が「1400?1600℃」に特定されたものとなり、組成が請求項1同様に特定されたものとなり、「歯科用である」と特定されたものとなった。 そうすると、本件発明5は、上記積層体の構造を備え、特定の組成及び変形量を有し、歯科用である物の発明であることが理解できるから、本件発明5は物としての特徴について不明確であるとはいえない。 そうすると、当該取消理由に理由はない。 イ 積層体が「組成物」とされている点について 本件訂正請求により、請求項1及び5における「複数のジルコニア粉末を積層」させて形成したものは、「ジルコニア組成物」ではなく「上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体」となったから、本件発明1及び5はこの点で不明確であるとはいえない。 そうすると、取消理由に理由はない。 (2)理由2 特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)について 当該取消理由は削除された訂正前の請求項2?4、6?8についてのものであり、訂正前の請求項1、5についてのものではない以上、訂正後の請求項1、5について当該取消理由は存在せず、当該取消理由に理由はない。 (3)理由3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について ア 曲げ強度が特定された発明による課題の解決について 当該取消理由は削除された訂正前の請求項2?4、6?8に係る発明を対象としたものであり、訂正前の請求項1、5を対象としたものではない以上、本件発明1、5について当該取消理由は存在せず、当該取消理由に理由はない。 イ 原料及び「混合層」の特定について (ア)本件訂正請求により、訂正前の請求項1の「組成が異なる複数のジルコニア粉末」は、訂正後に「顔料の添加率を調整することで組成が異なる複数のジルコニア粉末」となり、訂正前の請求項1において「前記複数のジルコニア粉末を積層させてジルコニア組成物を形成」することは、訂正後に「前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成」させることとなった。 (イ)そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、顔料の添加率を調整することによりジルコニア粉末を作製する工程(【0102】?【0107】)、及び積層体の各層の境界に混合層を形成する工程(【0063】、【0109】?【0112】、【実施例】)が具体的に説明されており、当業者であれば、これらの工程を採用し、上下層の境界に上下層の各粉末が適度に混合した混合層を有する積層体を形成し、これを焼成して製造したジルコニア仮焼体は焼成時にジルコニア焼結体の変形量が小さくなることが理解でき、本件発明1に係るジルコニア仮焼体によって、寸法精度の高いジルコニア焼結体が得られることを認識できる。 (ウ)これにより、本件発明1は、発明の詳細な説明及び技術常識に基づいて、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなった。 (エ)請求項5についても、本件訂正請求により、訂正前の請求項5の「組成が異なる複数のジルコニア粉末」は、訂正後に「顔料の添加率を調整することで組成が異なる複数のジルコニア粉末」となり、訂正米の請求項5において「前記複数のジルコニア粉末を積層させてジルコニア組成物を形成」することは、訂正後に「前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成」させることとなったから、上記(イ)と同様、本件発明5に係るジルコニア焼結体は、ジルコニア仮焼体を焼結したときの寸法精度が高いものであることを認識できる。 (オ)これにより、本件発明5は、発明の詳細な説明及び技術常識に基づいて、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなった。 (カ)そうすると、取消理由に理由はない。 第5 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について 1 採用しなかった特許異議申立理由 取消理由に採用しなかった申立人1及び2による特許異議申立書(以下、それぞれ「申立書1」、「申立書2」という。)に記載された特許異議申立の理由(以下、「申立理由」という。)は、次の(1)?(2)のとおりである。 (1)申立人1による申立理由及び証拠方法 ア 申立理由1-1(特許法第36条第4項第1号) (ア)実施可能要件 訂正前の請求項1に係る発明は、形状、構造、組成が予測できないものであり、ジルコニア仮焼体の焼成試験による変形量の特定事項は、標準的なものでなく、また、慣用されているものでもないから、本願の発明の詳細な説明に記載された「組成の異なる粉末の積層時に組成物に振動を与える」ことで、「組成の異なる粉末同士を部分的に混合する」こと以外の手段により、訂正前の請求項1に係る仮焼体を作ることはできない。そうすると、発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項1に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。訂正前の請求項2?8に係る発明についても、同様に、本願の発明の詳細な説明に記載された「組成の異なる粉末の積層時に組成物に振動を与える」ことで、「組成の異なる粉末同士を部分的に混合する」こと以外の手段により、訂正前の請求項2?4に係る仮焼体又は訂正前の請求項5?8に係る焼結体を作ることはできないから、発明の詳細な説明は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。(申立書1 第34?54頁)。 (イ)委任省令要件 発明の詳細な説明には、人工歯等のジルコニア焼結体を適用する製品における具体的な寸法精度の評価について何ら記載がない等、「組成の異なるジルコニア粉末を積層してジルコニア仮焼体を製造した場合であっても、寸法精度の高いジルコニア焼結体を得る」という課題が解決されたかについて何ら記載されていないから、発明の詳細な説明には、訂正前の請求項1?8に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとはいえない(申立書1 第54?62頁)。 イ 申立理由1-3(特許法第36条第6項第1号) 発明の詳細な説明において、振動を与えることなく積層体を形成した比較例について、複数の粉末を積層する際に、下層の粉末を充填し、上層の粉末を充填した場合に、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を全く形成することなく積層体を形成することは技術的に不可能である以上、当該比較例の積層体は、「上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体」である。そうすると、実施例に沿った工程の他には訂正前の請求項1?8に係る発明の課題を解決できる手段を認識することができず、訂正前の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない(申立書1 第81?98頁)。 ウ 申立理由1-4(特許法第29条第1項第3号)及び申立理由1-5(特許法第29条第2項) 訂正前の請求項1?8に係る発明は、甲1-1に記載された発明であり、また、訂正前の請求項1?8に係る発明は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2?甲1-5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(申立書1 第98?138頁)。 (証拠方法) 甲1-1:中国特許出願公開第102285795号明細書(及び 抄訳) 甲1-2:特開平6-39820号公報 甲1-3:特開2004-284840号公報 甲1-4:特開2003-260596号公報 甲1-5:特開2003-73708号公報 (2)申立人2による申立理由及び証拠方法 ア 申立理由2-1(特許法第36条第6項第1号) 本件明細書の発明の詳細な説明には、「組成物及び仮焼体は、(主として単斜晶系)ジルコニア結晶粒子と、安定化剤と、酸化チタンと、を含有する。」(段落【0048】)と記載され、「酸化チタンを含有させると粒成長を促すことができる。」(段落【0072】)と記載されている上、実施例は、「チタニア0.2質量%」(段落【0120】)を含有する粉末を用いて、粒成長が促進されたもののみであり、当業者は、酸化チタンが仮焼体及び焼結体の構造に影響し、さらに、課題の解決に寄与しているものと理解する。そうすると、酸化チタンを含有することを必須としないジルコニア仮焼体及び焼結体である訂正前の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識により当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものではない。よって、訂正前の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない(申立書2 第16?17頁)。 イ 申立理由2-2(特許法第29条第1項第3号)及び申立理由2-3(特許法第29条第2項) 訂正前の請求項1?8に係る発明は、甲2-1に記載された発明であり、また、訂正前の請求項1?8に係る発明は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2?甲2-3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(申立書2 第18?26頁)。 (証拠方法) 甲2-1:中国特許出願公開第102285795号明細書(及び 抄訳) 甲2-2:特開平1-197421号公報 甲2-3:林,”粉粒体のタッピングによる流動と偏析”,材料,昭和45年6月,第19巻,第201号,第574-578頁 2 採用しなかった申立理由についての判断 (1)申立人1の申立理由について ア 申立理由1-1(特許法第36条第4項第1号) (ア) 実施可能要件 上記第4 2(3)イで記載したように、本件発明1に係るジルコニア仮焼体及び本件発明5に係るジルコニア焼結体は、「顔料の添加率を調整することで組成が異なる複数のジルコニア粉末」が用いられていること、及び「前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体」が形成されて製造されたものであることが特定されている。 そして、発明の詳細な説明には、積層体の上下層の境界において混合層を形成するためにジルコニア粉末を積層する際に振動を与えるという具体的手段を採用すること(本件明細書 段落【0102】?【0112】)及びその実施例(本件明細書 特に 段落【0118】?【0141】)により、本件発明1及び5で特定する所定の変形量の仮焼体及び焼結体が得られたことが具体的に記載されているから、本件発明1及び5を当業者が実施をすることができないとはいえない。 (イ) 委任省令要件 本件明細書の発明の詳細な説明には、仮焼体を焼結すると変形しやすくなるところ、本件発明1において、仮焼体の焼成試験による変形量の上限を特定した理由について説明されており(段落【0062】、【0063】)、「寸法精度の高いジルコニア焼結体を得ることができる」との課題及びその解決手段を理解することができるから、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないとはいえない。 イ 申立理由1-3(特許法第36条第6項第1号) 振動を与えることなく積層体を形成した比較例は、振動を与えていない以上、上下層の境界において、上層と下層の粉末が偶発的に互いに混入することはあったとしても、その混入量は、振動を与えて混合した場合に比べると極めて微量であり、本件発明1及び5において特定される「上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層」に相当する層は形成されないと理解できる。そうすると、当該比較例の積層体は、「上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体」であるとはいえない。よって、当該比較例の記載に基づいて、実施例に沿った工程の他には本件発明の課題を解決できる手段を認識することができないとはいえない。 ウ 申立理由1-4(特許法第29条第1項第3号)及び申立理由1-5(特許法第29条第2項) 甲1-1(段落[0023]、[0025]?[0027]及び図2)の抄訳を参照すると、甲1-1には、次の発明が記載されていると認められる。 「ジルコニア及びY_(2)O_(3)を含有した白色ジルコニア粉体及び黄色ジルコニア粉体を用いて、これらの割合を変えて混合した複数の着色ジルコニア混合粉体を作製し、前記複数の着色ジルコニア混合粉体を積層して複色ジルコニアセラミックス生地を成形し、前記複色ジルコニアセラミックス生地を950℃で仮焼結した複色ジルコニアセラミックス多孔質半製品。」及び「上記複色ジルコニアセラミックス多孔質半製品を1450℃で焼結した焼結体。」 本件発明1と上記甲1-1に記載された複色ジルコニアセラミックス多孔質半製品の発明とを対比すると、本件発明1は、「上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体」を焼成して製造された状態のものである点(相違点1)、及び、仮焼体の焼成試験による変形量が特定されている点(相違点2)で、上記甲1-1に記載された複色ジルコニアセラミックス多孔質半製品の発明と少なくとも相違している。 そして、甲1-1からは、当該相違点1及び2に係る事項は導出できないから、相違点1及び2は実質的な相違点である。 また、本件発明5と上記甲1-1に記載された焼結体の発明とを対比すると、本件発明5は、「上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体」を用いて焼結して製造された状態のジルコニア焼結体である点(相違点3)、仮焼体の焼成試験による変形量が特定されている点(相違点4)で、上記甲1-1に記載された焼結体の発明と少なくとも相違している。 そして、甲1-1からは、当該相違点3及び4に係る事項は導出できないから、相違点3及び4は実質的な相違点である。 また、甲1-2、甲1-4及び甲1-5には、振動により粉体の層の境界部に混合層を形成した成形体が開示されているが、甲1-2は、焼成した多層セラミックスを、甲1-4は、粉末冶金による成形体を、それぞれ強固に結合するためのものであり、また、甲1-5は、均一性の向上した焼結体等を得るためものである。 本件発明1について検討すると、甲1-2、甲1-4及び甲1-5の混合層を、強固な結合や均一性の向上ではなく、セラミックブロックの色調を調整することを目的とする甲1-1に記載された半製品の発明に適用する動機付けはなく、上記相違点1に係る本件発明1の特定事項を導出することはできない。 さらに、甲1-3には、セラミックスラリーの境界を混合して、成形される多孔質セラミックスの境界層を消滅させた均一な多孔質セラミックが記載されているにすぎず、同様に上記相違点1に係る本件発明1の特定事項を導出することはできない。 次に、本件発明5について検討すると、上記の本件発明1の仮焼体の検討と同じく、甲1-1に記載された発明及び甲1-2?甲1-5に記載された事項から、相違点3に係る本件発明5の特定事項を導出することはできない。 したがって、本件発明1、5は、甲1-1に記載の発明及び甲1-2?甲1-5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)申立人2の申立理由について ア 申立理由2-1(特許法第36条第6項第1号) 上記第4 2(3)イで記載したように、上下層の境界に上下層の各粉末が適度に混合した混合層を有する積層体を形成し、これを焼成して製造したジルコニア仮焼体は焼成時にジルコニア焼結体の変形量が小さくなることが理解でき、本件発明1に係るジルコニア仮焼体によって、寸法精度の高いジルコニア焼結体が得られるとともに、本件発明5に係るジルコニア焼結体は、ジルコニア仮焼体を焼結したときの寸法精度が高いものであることを認識できる。 そうすると、酸化チタンを含有するかしないかにかかわらず、本件発明1及び5は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、本件発明1及び5は、発明の詳細な説明に記載されたものでないということはできない。 イ 申立理由2-2(特許法第29条第1項第3号)及び申立理由2-3(特許法第29条第2項) 上記(1)ウに記載したとおり、甲1-1と同一の証拠である甲2-1には、「ジルコニア及びY_(2)O_(3)を含有した白色ジルコニア粉体及び黄色ジルコニア粉体を用いて、これらの割合を変えて混合した複数の着色ジルコニア混合粉体を作製し、前記複数の着色ジルコニア混合粉体を積層して複色ジルコニアセラミックス生地を成形し、前記複色ジルコニアセラミックス生地を950℃で仮焼結した複色ジルコニアセラミックス多孔質半製品。」及び「上記複色ジルコニアセラミックス多孔質半製品を1450℃で焼結した焼結体。」という発明が記載されていると認められる。 また、本件発明1は、上記(1)ウに記載した相違点1及び2において、上記甲2-1に記載された複色ジルコニアセラミックス多孔質半製品の発明と少なくとも相違しているとともに、本件発明5は、上記(1)ウに記載した相違点3及び4において、上記甲1-1に記載された焼結体の発明と少なくとも相違しており、これらの相違点1?4は実質的な相違点である。 甲1-2と同じ証拠である甲2-2に記載の、振動により粉体の層の境界部に混合層を形成した成形体は、焼成した多層セラミックスを強固に結合するためのものであり、甲2-3は、粉粒体をタップすると全体として粒子が流動することを認めたことを示すものである。 本件発明1について、甲2-2及び甲2-3の混合層を、強固な結合や粒子の流動ではなく、セラミックブロックの色調を調整することを目的とする甲2-1に記載された発明に適用する動機付けはなく、上記相違点1に係る本件発明1の特定事項を導出することはできない。 次に、本件発明5について検討すると、上記の本件発明1の仮焼体の検討と同じく、甲2-1に記載された発明及び甲2-2?甲2-3に記載された事項から、相違点3に係る本件発明5の特定事項を導出することはできない。 したがって、本件発明1、5は、甲2-1に記載の発明及び甲2-2?甲2-3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 申立人の意見について 1 申立人の主張 申立人2は、令和 3年 1月 5日付けで意見書を提出して、下記(1)?(2)の通り主張している。 (1)明確性(第3?9頁) a 本件発明1について、「歯科加工用」は用途を限定するが、ジルコニア仮焼体のどのような属性に基づくものが「歯科加工用」に相当するかは当業者にとって不明であるし、「歯科加工用」は状態を特定するものではなく、仮にそうであっても歯科加工用であるジルコニア仮焼体と歯科加工用以外のジルコニア仮焼体の状態の相違を理解できない。 b 本件発明1が、特許権者が主張するように「その発明特定事項に記載された条件を満たす(目的の特性を有する焼結体を得るための)あらゆる歯科加工用ジルコニア仮焼体を対象とするもの」であることは、「原料組成、原料粒子径、焼成温度以外の焼成条件」を問わない理由とはならない。 c 本件発明1の「前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化ケイ素を0.1質量%以下含有し」との表現では、0質量%である場合を含まないところ、「任意に酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素を含みます。」との特許権者による意見書の主張と本件発明1とに齟齬がある。 d 本件発明1は、原料粒子径及び焼成温度が依然として特定されていないところ、特に原料粒子径はセラミック仮焼体を焼結する際の収縮率に影響し、本件発明1の課題である寸法精度にも影響を与えるから、どのような状態を有する物であるのか依然として不明である。 e 以上から、本件発明1は、依然として、ジルコニア仮焼体がどのような状態にあり、かつ、どのような特徴を有する物であるかを特定することはできない。 f 本件発明5についても、ジルコニア焼結体のどのような属性に基づくものが「歯科用」に相当するかは当業者によって不明であるし、「歯科用」は状態を特定するものではなく、仮にそうであっても歯科用であるジルコニア仮焼体と歯科用以外のジルコニア仮焼体の状態の相違を理解できない。加えて上記b?dと同様の理由から、本件発明5は、ジルコニア焼結体がどのような状態にあり、かつ、どのような特徴を有する物であるかを特定することはできない。 (2)サポート要件(第9頁) 発明の詳細な説明に記載されているジルコニア仮焼体及びジルコニア焼結体は、全て、顔料の添加率が異なる複数の粉末を積層する際に、顔料の添加率が段階的に高く又は低くなるように積層した積層体を焼成する工程を経て、得られている(本件特許明細書の【表1】?【表6】、【表14】?【表25】)。 そして、発明の詳細な説明には「組成の異なるジルコニア粉末を積層させて作成した組成物及び仮焼体は焼結すると変形しやすくなる」ことが記載されている(段落【0063】)ことから、積層して隣接する層間の組成差の違いにより、その変形量が相違しないとはいえず、少なくとも顔料の添加率が段階的に高く又は低くなるように積層された積層体の変形と等しくなるとみなせる蓋然性も根拠もない。 そうすると、上記の工程の他には本件発明の課題を解決できる手段を認識することはできない。 2 当審の判断 下記(1)?(2)に記載のとおりであるから、申立人2の意見書における主張は採用できない。 (1)明確性 上記第4 2(1)アに記載のとおり、本件発明1は、積層体の構造を備え、特定の組成及び変形量を有し、歯科加工用である物の発明であることが理解できる。「歯科加工用である」との特定は、歯科加工に用いられるという意味であり、具体的にどのような状態であるかは、技術常識を参酌すれば当業者にとって明確である。また、本件発明1は、積層体の構造を備え、特定の組成及び変形量を有し、歯科加工用である物の発明として明確に把握されるものである以上、原料粒子径、焼成温度以外の焼成条件まで定めなければ不明確であるとはいえない。そして、本件発明1の「前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化ケイ素を0.1質量%以下含有し」との発明特定事項は、本件明細書段落0053の「酸化ケイ素(SiO_(2):シリカ)を実質的に含有しないと好ましい。」との記載を参酌すると、0質量%を含むと理解でき、当該事項により本件発明1が不明確になるとはいえない。 本件発明5についても「歯科用である」との特定に起因して本件発明5が不明確であるとはいえないし、その他の点も上記同様であり、申立人2の主張する点により本件発明5が不明確であるとはいえない。 (2)サポート要件 上記第4 2(3)イに記載のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、顔料の添加率を調整することによりジルコニア粉末を作製する工程、及び積層体の各層の境界に混合層を形成する工程が具体的に説明されており、当業者であれば、これらの工程を採用し、上下層の境界に上下層の各粉末が適度に混合した混合層を有する積層体を形成し、これを焼成して製造したジルコニア仮焼体は焼成時にジルコニア焼結体の変形量が小さくなることが理解でき、本件発明1に係るジルコニア仮焼体によって、寸法精度の高いジルコニア焼結体が得られることを認識できるとともに、本件発明5に係るジルコニア焼結体は、ジルコニア仮焼体を焼結したときの寸法精度の高いものであることを認識できる。 そうすると、課題を解決するために、顔料の添加率が異なる複数の粉末を積層する際に、顔料の添加率が段階的に高く又は低くなるように積層した積層体としなければならないと当業者が認識するとはいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、通知した取消理由並びに特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1、5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件の請求項1、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件の請求項2?4、6?8に係る特許は、訂正により削除されたため、同請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる特許が存在しないから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、顔料の添加率を調整することで組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、 前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成し、 前記積層体を800℃?1200℃で焼成して製造された状態のジルコニア仮焼体であって、 前記ジルコニア仮焼体を幅50mm×高さ10mm×奥行き5mmの寸法の直方体形状に成形したものを試験片とし、前記試験片において、幅50mm×奥行き5mmとなる面を底面としたとき、前記ジルコニア粉末の積層によって形成される境界面が前記底面と平行になっており、 前記試験片を1500℃で2時間焼成し、 2つの前記底面のうち、凹面に変形した底面を下にして載置したとき、 (凹面に変形した前記底面と接地面との最大間隔)/(前記幅方向における接地部分間の距離)×100が0.15以下であり、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化アルミニウムを0質量%?0.3質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化チタンを0質量%?0.6質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化ケイ素を0.1質量%以下含有し、 前記顔料として酸化クロム、酸化エルビウム、酸化鉄、及び酸化プラセオジムのうち少なくとも1つを含有し、 前記安定化剤としてイットリアを含有し、 歯科加工用であることを特徴とするジルコニア仮焼体。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 ジルコニア及びジルコニアの相転移を抑制する安定化剤を含有し、顔料の添加率を調整することで組成が異なる複数のジルコニア粉末を形成し、 前記複数のジルコニア粉末を積層させ、上下層の境界において各粉末が部分的に混合した混合層を形成した積層体を形成し、 前記積層体を用いて1400℃?1600℃で焼結して製造された状態のジルコニア焼結体であって、 前記積層体を800℃?1200℃で焼成して製造されたジルコニア仮焼体を幅50mm×高さ10mm×奥行き5mmの寸法の直方体形状に成形したものを試験片とし、前記試験片において、幅50mm×奥行き5mmとなる面を底面としたとき、前記ジルコニア粉末の積層によって形成される境界面が前記底面と平行になっており、 前記試験片を1500℃で2時間焼成し、 2つの前記底面のうち、凹面に変形した底面を下にして載置したとき、 (凹面に変形した前記底面と接地面との最大間隔)/(前記幅方向における接地部分間の距離)×100が0.15以下であり、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化アルミニウムを0質量%?0.3質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化チタンを0質量%?0.6質量%含有し、 前記ジルコニア及び前記安定化剤の合計質量に対して酸化ケイ素を0.1質量%以下含有し、 前記顔料として酸化クロム、酸化エルビウム、酸化鉄、及び酸化プラセオジムのうち少なくとも1つを含有し、 前記安定化剤としてイットリアを含有し、 歯科用であることを特徴とするジルコニア焼結体。 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 (削除) 【請求項8】 (削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-03-18 |
出願番号 | 特願2018-99812(P2018-99812) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C04B)
P 1 651・ 851- YAA (C04B) P 1 651・ 536- YAA (C04B) P 1 651・ 113- YAA (C04B) P 1 651・ 853- YAA (C04B) P 1 651・ 537- YAA (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 末松 佳記 |
特許庁審判長 |
菊地 則義 |
特許庁審判官 |
後藤 政博 岡田 隆介 |
登録日 | 2019-11-15 |
登録番号 | 特許第6615262号(P6615262) |
権利者 | クラレノリタケデンタル株式会社 |
発明の名称 | ジルコニア仮焼体及びジルコニア焼結体 |
代理人 | 加藤 朝道 |
代理人 | 加藤 朝道 |