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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  B28B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B28B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B28B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B28B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B28B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B28B
管理番号 1374896
異議申立番号 異議2019-700740  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-17 
確定日 2021-04-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6491603号発明「コンクリート瓦およびその成形材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6491603号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。 特許第6491603号の請求項1?14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6491603号の請求項1?14に係る特許についての出願(特願2015-546638号)は、2014年(平成26年)11月4日(優先権主張 平成25年11月6日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成31年3月8日にその特許権の設定登録がされ、平成31年3月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1?14に係る特許について、特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続が行われた。

令和 1年 9月17日 :特許異議申立人 帝人株式会社(以下、「特
許異議申立人」という。)による請求項1? 14に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 1年12月 5日付け:取消理由通知
令和 2年 2月 7日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
令和 2年 4月 7日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 2年 6月30日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 2年 8月24日 :特許権者との面接
令和 2年 9月 2日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
令和 2年10月20日 :特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年9月2日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである(下線部は、訂正箇所を示す)。
なお、本件訂正請求により、令和2年2月7日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「瓦本体部を備えるコンクリート瓦であって、
前記瓦本体部は、非型成形により硬化された上面と、型成形により硬化された下面と、側面部とを備え、前記側面部の少なくとも一辺に切断端面を有しており、
前記瓦本体部では、その厚み方向全体にわたって、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維およびアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも一種で構成される耐アルカリ性繊維が実質的に繊維含有粒状体として存在していない状態で分散しており、
30mm×150mmの切出片の曲げ強度が6N/mm^(2)以上であるコンクリート瓦。」
と記載されているのを、
「瓦本体部を備えるコンクリート瓦であって、
前記瓦本体部は、非型成形により硬化された上面と、型成形により硬化された下面と、側面部とを備え、前記側面部の少なくとも一辺に切断端面を有しており、
前記瓦本体部では、セメント、細骨材、および耐アルカリ性繊維を含み、当該耐アルカリ性繊維は、その厚み方向全体にわたって分散しており、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態であり、
前記耐アルカリ性繊維は、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維およびアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも一種で構成され、
30mm×150mmの切出片の曲げ強度が6N/mm^(2)以上であるコンクリート瓦。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「請求項1に記載のコンクリート瓦において、瓦本体部の表面部分が、繊維含有粒状体に由来する凸部を実質的に有していないコンクリート瓦。」
と記載されているのを、
「請求項1に記載のコンクリート瓦において、瓦本体部の表面部分が、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体に由来する凸部を有していないコンクリート瓦。」
に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項11に
「請求項8から10のいずれか一項に記載のコンクリート瓦成形材料において、さらに機能性骨材を含んでいるコンクリート瓦成形材料。」
と記載されているのを、
「請求項8から10のいずれか一項に記載のコンクリート瓦成形材料において、さらに機能性骨材として層状ケイ酸塩を含んでいるコンクリート瓦成形材料。」
に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項14に
「請求項13に記載された製造方法において、成形材料の供給工程が、成形材料の準備工程を含み、前記準備工程が、
セメント、骨材、および水を含む混合物に対して、耐アルカリ性繊維が実質的に繊維含有粒状体として存在していない状態で分散される分散工程を少なくとも備えるコンクリート瓦の製造方法。」
と記載されているのを、
「請求項13に記載された製造方法において、成形材料の供給工程が、成形材料の準備工程を含み、前記準備工程が、
セメント、骨材、および水を含む混合物に対して、(i)耐アルカリ性繊維の定量供給、(ii)解された状態の耐アルカリ性繊維の投入、および(iii)耐アルカリ性繊維維を混合する際に撹拌性能の高いミキサー、またはニーダーを用いることから選択される少なくとも一種の分散工程を少なくとも備えるコンクリート瓦の製造方法。」
に訂正する。

ここで、訂正事項1?4に係る訂正前の請求項1?14は、請求項2?14が、直接又は間接的に請求項1を引用する関係にあるから、一群の請求項である。
したがって、訂正事項1?4の特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1?14を訂正の単位として請求されたものである。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1のうち「当該耐アルカリ性繊維は、その厚み方向全体にわたって分散しており、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態であり、」との訂正は、本件明細書の段落【0025】の「耐アルカリ性繊維が実質的に繊維含有粒状体として存在していない状態とは、瓦をランダムな箇所で切断した際に、その切断面において、円相当径3mm以上(好ましくは5mm以上、特に10mm以上)を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態を意味している。」との記載、及び段落【0084】の「瓦をランダムな箇所で切断した際に、その切断面において、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体が存在するか否かを目視により確認する。」との記載から、訂正前の「実質的に繊維含有粒状体として存在していない状態」とは、円相当径10mm以上を有する繊維粒状体が観察できない状態であることを意味するから、これに基づいて訂正前の「耐アルカリ性繊維が実質的に繊維含有粒状体として存在していない状態で分散しており」との記載を明確にしようとするものである。
したがって、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項1のうち「前記瓦本体部では、セメント、細骨材、および耐アルカリ性繊維を含み、」との訂正は、「瓦本体部」の材料を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項1のうち「当該耐アルカリ性繊維は、その厚み方向全体にわたって分散しており、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態であり、」との訂正は、上記アに記載したように、本件明細書の段落【0025】及び段落【0084】の記載から導き出すことができる事項である。
また、訂正事項1のうち「前記瓦本体部では、セメント、細骨材、および耐アルカリ性繊維を含み、」との訂正は、本件明細書の段落【0015】の「本発明の第2の構成は、前記コンクリート瓦を製造するための成形材料である。前記成形材料は、セメント、細骨材、耐アルカリ性繊維、および水を少なくとも含んでおり、 ・・・」との記載から導き出すことができる事項である。
以上のことから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1のうち「当該耐アルカリ性繊維は、その厚み方向全体にわたって分散しており、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態であり、」との訂正は、上記アに記載のとおり、繊維含有粒状体を具体化する訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1のうち「前記瓦本体部では、セメント、細骨材、および耐アルカリ性繊維を含み、」との訂正は、「瓦本体部」の発明特定事項を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上のことから、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2の「瓦本体部の表面部分が、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体に由来する凸部を有していないコンクリート瓦」との訂正は、本件明細書の段落【0031】の「繊維含有粒状体に由来する凸部は、当該凸部を含む面で瓦を切断する際に、円相当径3mm以上(好ましくは5mm以上、特に10mm以上)を有する繊維含有粒状体が凸部内に存在するか否かにより確認することができる。」との記載、及び段落【0083】の「瓦本体部の上面部分において、繊維含有粒状体に由来する凸部の有無を目視により確認する。また、凸部が存在する場合、凸部を含む面で瓦を切断し、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体が凸部内に存在する場合、繊維含有粒状体由来の凸部であると判断する。」との記載から、訂正前の「瓦本体部の表面部分が、繊維含有粒状体に由来する凸部を実質的に有していない」とは、「円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体に由来する凸部を有していない」ことを意味するから、これに基いて訂正前の「瓦本体部の表面部分が、繊維含有粒状体に由来する凸部を実質的に有していない」との記載を明確にするものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項2は、上記アに記載したように、本件明細書の段落【0031】及び段落【0083】の記載から導き出すことができる事項である。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項2は、訂正前の「繊維含有粒状体に由来する凸部を実質的に有していない」との記載を明確にするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3の「さらに機能性骨材として層状ケイ酸塩を含んでいる」との訂正は、瓦形成材料が含んでいる機能性骨材を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項3の「さらに機能性骨材として層状ケイ酸塩を含んでいる」との訂正は、本件明細書の段落【0062】の「ここで、機能性骨材とは、有色の骨材、硬質の骨材、弾性を有する骨材、特定の形状を有する骨材などが挙げられ、例えば、層状ケイ酸塩(例えば、マイカ、タルク、カオリン)、アルミナ、シリカなどであってもよい。」との記載から導き出すことができる事項である。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3の「さらに機能性骨材として層状ケイ酸塩を含んでいる」との訂正は、「機能性骨材」の発明特定事項を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4の「前記準備工程が、セメント、骨材、および水を含む混合物に対して、(i)耐アルカリ性繊維の定量供給、(ii)解された状態の耐アルカリ性繊維の投入、および(iii)耐アルカリ性繊維維を混合する際に撹拌性能の高いミキサー、またはニーダーを用いることから選択される少なくとも一種の分散工程を少なくとも備える」との訂正は、訂正前の「前記準備工程が、セメント、骨材、および水を含む混合物に対して、耐アルカリ性繊維が実質的に繊維含有粒状体として存在していない状態で分散される分散工程を少なくとも備える」との記載を明確にしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項4の「前記準備工程が、セメント、骨材、および水を含む混合物に対して、(i)耐アルカリ性繊維の定量供給、(ii)解された状態の耐アルカリ性繊維の投入、および(iii)耐アルカリ性繊維維を混合する際に撹拌性能の高いミキサー、またはニーダーを用いることから選択される少なくとも一種の分散工程を少なくとも備える」との訂正は、本件明細書の段落【0074】の「分散工程では、繊維の分散性を向上するため、例えば、(i)耐アルカリ性繊維を定量供給してもよく、(ii)解された状態の耐アルカリ性繊維を投入してもよく、(iii)耐アルカリ性繊維維を混合する際に撹拌性能の高いミキサー、ニーダーを用いてもよい。これらの(i)から(iii)は、単独でまたは二種以上組み合わせて行ってもよい。」との記載から導き出すことができる事項である。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項4の「前記準備工程が、セメント、骨材、および水を含む混合物に対して、(i)耐アルカリ性繊維の定量供給、(ii)解された状態の耐アルカリ性繊維の投入、および(iii)耐アルカリ性繊維維を混合する際に撹拌性能の高いミキサー、またはニーダーを用いることから選択される少なくとも一種の分散工程を少なくとも備える」との訂正は、分散工程を具体化する訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(5)独立特許要件について
本件特許の請求項1?14の全ての請求項について特許異議の申立てがされたものであるから、訂正後の請求項1?14に係る発明について、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件についての規定は適用されない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?14に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明14」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
瓦本体部を備えるコンクリート瓦であって、
前記瓦本体部は、非型成形により硬化された上面と、型成形により硬化された下面と、側面部とを備え、前記側面部の少なくとも一辺に切断端面を有しており、
前記瓦本体部では、セメント、細骨材、および耐アルカリ性繊維を含み、当該耐アルカリ性繊維は、その厚み方向全体にわたって分散しており、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態であり、
前記耐アルカリ性繊維は、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維およびアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも一種で構成され、
30mm×150mmの切出片の曲げ強度が6N/mm^(2)以上であるコンクリート瓦。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート瓦において、瓦本体部の表面部分が、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体に由来する凸部を有していないコンクリート瓦。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコンクリート瓦において、瓦本体部の比重が1.5?2.2であるコンクリート瓦。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のコンクリート瓦において、耐アルカリ性繊維の平均繊維径が1?200μmであるとともに、アスペクト比が50?1000であるコンクリート瓦。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のコンクリート瓦において、耐アルカリ性繊維が、ポリビニルアルコール系繊維であるコンクリート瓦。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のコンクリート瓦において、EN491:2011に準じて行われる瓦曲げ試験でEN490規格に合格するコンクリート瓦。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のコンクリート瓦において、JIS A 1408を参考にして行われる落球試験によって、実質的に分断破壊されないコンクリート瓦。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載されたコンクリート瓦を製造するための成形材料であって、セメント、細骨材、耐アルカリ性繊維、および水を少なくとも含んでおり、水セメント比(W/C)が20?50質量%であり、前記耐アルカリ性繊維は、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維およびアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも一種で構成されるとともに、耐アルカリ性繊維の固形分に占める割合が、0.1?2質量%であり、耐アルカリ性繊維が、成形材料中に実質的に繊維含有粒状体として存在していない、コンクリート瓦成形材料。
【請求項9】
請求項8に記載のコンクリート瓦成形材料において、耐アルカリ性繊維のアスペクト比が50?1000であるコンクリート瓦成形材料。
【請求項10】
請求項8または9のいずれか一項に記載のコンクリート瓦成形材料において、耐アルカリ性繊維の平均繊維径が1?200μmであるコンクリート瓦成形材料。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか一項に記載のコンクリート瓦成形材料において、さらに機能性骨材として層状ケイ酸塩を含んでいるコンクリート瓦成形材料。
【請求項12】
請求項1から7のいずれか一項に記載されたコンクリート瓦を製造するための、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維およびアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも一種で構成される耐アルカリ性繊維の使用。
【請求項13】
コンクリート瓦をローラ/スリッパ方式で製造する方法であって、
請求項8から11のいずれか一項に記載された成形材料を、ローラ/スリッパ式押出装置のホッパへ供給する供給工程と、
前記供給された成形材料を、ホッパの下方から、複数の隣接したパレットに対して充填する充填工程と、
前記充填された成形材料を、ローラおよびスリッパにより圧縮し、前記隣接したパレット上に連続した帯状体を形成する圧縮工程と、
前記帯状体を切断刃で切断し、個別のパレット上に、個別の生状態の瓦を形成する切断工程と、
を少なくとも備えるコンクリート瓦の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載された製造方法において、成形材料の供給工程が、成形材料の準備工程を含み、前記準備工程が、
セメント、骨材、および水を含む混合物に対して、(i)耐アルカリ性繊維の定量供給、(ii)解された状態の耐アルカリ性繊維の投入、および(iii)耐アルカリ性繊維を混合する際に撹拌性能の高いミキサー、またはニーダーを用いることから選択される少なくとも一種の分散工程を少なくとも備えるコンクリート瓦の製造方法。」

2 取消理由及び特許異議申立理由の概要
(1)取消理由の概要
令和2年6月30日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由(下記ア(ア))、及び令和1年12月5日付け取消理由通知書で通知した取消理由(下記ア(イ)及びイ)の概要は、次のとおりである。

ア 取消理由1(明確性要件違反)
(ア)令和2年2月7日付けで訂正された訂正特許請求の範囲において、請求項1?18のコンクリート瓦の瓦本体部又はその成形材料中の「耐アルカリ性繊維」は「円相当径10mm未満の繊維含有粒状体を形成し」という特定事項、及び請求項2、3、5?14、16?18の「瓦本体部の表面部分が、繊維含有粒状体に由来する凸部を有していない」という特定事項では、コンクリート瓦及びその成形材料において、繊維含有粒状体がどのような状態で含まれていることを特定しているのか明確でないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(イ)設定登録時の請求項1?14のコンクリート瓦の瓦本体部又は成形材料中の「耐アルカリ性繊維が実質的に繊維含有粒状体として存在していない状態で分散しており」、及び「瓦本体部の表面部分が、繊維含有粒状体に由来する凸部を実質的に有していない」の特定事項は明確でないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

イ 取消理由2(甲6を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1?14に係る発明は、甲6に記載された発明及び甲1?4、6に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(甲6については、下記(3)参照)。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
ア 申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性欠如及び進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、2、4?14に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、設定登録時の請求項1?14に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2?甲4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである(甲1?4については、下記(3)参照)。

イ 申立理由2(サポート要件違反、実施可能要件違反)
(ア)申立理由2-1
設定登録時の請求項1?14は、請求項1の「C.実質的に繊維含有粒状体として存在していない状態で分散」及び「D.30mm×150mmの切出片の曲げ強度が6N/mm^(2)以上である」という、達成すべき結果による物の要件を含んでいる。
これに対して、発明の詳細な説明において、上記の物の要件を含んでいる請求項1?14に係る発明の実施例は、使用されている耐アルカリ性繊維の繊維径及びアスペクト比から計算すると、繊維長が「4?6mm」の例のみである。
また、当該実施例は、耐アルカリ性繊維について、ポリビニルアルコール繊維及びポリプロピレン繊維の例があるのみである。
そうすると、上記実施例以外の耐アルカリ性繊維が特定され、また耐アルカリ性繊維の繊維長や他の必要な要件が特定されていない請求項1?14に係る発明は、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲とはいえないから、各請求項に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、また、発明の詳細な説明は当業者が実施例をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。

(イ)申立理由2-2
設定登録時の請求項1?14に係る発明は、繊維含有粒状体を含有しないことが発明の特徴であると本件明細書に説明されているが、本件明細書に開示されている繊維含有粒状体の発生防止手段は、プラネタリーミキサーを用いて混練する程度であって、上記請求項の範囲まで拡張ないし一般化することができない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。

(3)引用文献(証拠方法)
甲1:特開平2-84303号公報
甲2:社団法人日本コンクリート工学協会編、「コンクリート便覧 第二版
」、1996年2月15日、p.466-467
甲3:小林一輔、「繊維補強コンクリート」、コンクリート工学誌、
Vol.13、No.8、Aug.1975、p.21?28
甲4:秋濱繁幸、「繊維補強コンクリート 新素材繊維を中心に」、
1992年3月10日、p.126-129
甲5:特開2017-7905号公報
甲6:特開昭61-91080号公報

3 各引用文献の記載事項
(1)甲1の記載事項
1a「本発明は、通常の押出方法による繊維強化コンクリート建築製品の製造に関し、・・・ 耐衝撃性の屋根製品を提供する方法に関する。
(従来の技術及びその課題)
このような通常の押出方法は、コンクリートかわらを製造するローラー及びスリッパー法(roller and slipper method)である。この方法は公知であり、まずローラーにより、次にスリッパーによりセメント、骨材及び水の混合物を移動するパレットの上に圧縮する工程を含む。それにより得られたタイル形成性材料のリボンは、必要な長さのセクシッンに切断され、ついで通常の手段により硬化される。」(2ページ右下欄3行?下から2行)

1b 「発明の第一の態様は、繊維の添加により改質された水硬セメントのコンクリート及びモルタルから、低い水感受性及び良好な耐久性を有しローラー及びスリッパー法により製造される減少された重量負荷の耐衝撃性の製品を提供するという目的をもつ。
本発明の第二の態様は、ポリマーラテックス及び繊維強化材の添加により改質された水硬セメントのコンクリート及びモルタルから、高い曲げ強さ、高い衝撃強さ、低い水感受性及び良好な耐久性を有しローラー及びスリッパー法により製造される非常に薄い製品を提供するという目的をもつ。」(4ページ左下欄2行?13行)

1c「(課題を解決するための手段)
従って、本発明の第一局面は、(i)骨材、(ii)水硬セメント、及び(iii)水を含むセメント質組成物であって、更に組成物の合計重量に対して0.25?4重量%の長さ2.0mm?20mmを有する強化繊維を更に含む組成物をローラー及びスリッパー法により成形して成形押出物を生成し、これを分割してセクションを形成し、ついでセクションを硬化して建築製品を得ることを特徴とする、15mm以下の断面厚さを有するコンクリート建築製品の製造方法を提供する。
所定の寸法範囲内で繊維を調節することにより、ローラー及びスリッパー押出の通常の技術により加工可能な材料を配合することが可能であり有利である。必須ではないが、加工性は例えば材料が流れるのに必要な剪断力を減少することにより配合物の加工性を増大する超可塑剤またはポリマーラテックスの混入により更に補助し得る。更に配合物中のセメントの一層高い比率を使用することにより、混合物中の繊維の容量を増ししかもなお加工性を保持することが可能である。
本発明の方法の別の利点は、天然スレートの代替品として使用される平らな屋根スレートの製造にある。これらのスレートは典型的には長さ600mm、幅300mmであり、ローラー及びスリッパー押出法を用いて幅300mmで押出しついで長さ600mmに切断することにより製造し得る。ローラー及びスリッパー法の利点は、繊維及びスレート粒子が押出方向に平行に配列され、これにより性質の異方性を導入することである。これは固定中の亀裂を防止するという特別の利点を与え、かつ屋根目板間の距離のように比較的長い距離が梁掛けされることを可能にする。」(4ページ左下欄14行?5ページ左上欄6行)

1d「本発明は、実施例により説明される。
実施例1?3は本発明の第一局面を説明する。これらの三つの実施例に於いて、曲げ強さは次式を用いて三点曲げにより測定した。
S=3Wl/bd^(2)
(式中、S=曲げ強さ、W=破断荷重、l=支持体と中央負荷点との間のスパン、b=幅、d=厚さ)
衝撃強さは、100mm×10mm×10mmあるいはこれに出来るだけ近い試料に関してツゥィック・チャーピイ(Zwick Charpy)衝撃試験機により押出方向に対して横方向に、また幾つかの場合には押出方向に対して平行に測定した。70mmの試験スパンを0.5Jのハンマーについて使用した。
セメント質組成物はクレタングル(Cretangle)マルチフローミキサー中で乾燥成分を2分間混合し、続いて液体成分(水、消泡剤及び超可塑剤)を添加することにより調製した。組成物を更に3分間混合した。ついで繊維を添加し、組成物を更に3分間混合した。
ついで組成物を実験室規模のタイル機械でローラー及びスリッパー法による押出にかけて厚さ8mm?10mmの生製品を得た。
ついで、生製品を硬化室中で50℃、100%の相対湿度で24時間硬化した。
実施例1?3
配 合
デラボールS12スレート 360g
デビッド・ボール砂 240g
セメント OPC 360g
シリカヒューム(マイクロシリカ) 40g
顔料 10.5g
超可塑剤(コーミックス SP2) 16g
繊維強化材は、存在する場合にはクレニットポリプロピレン繊維により与えられた。実施例1は112gの水を使用し、実施例2は96gの水を使用し、実施例3は88gの水を使用した。結果は下記の表2に示される。」(9ページ左下欄下から4行?10ページ左上欄最下行)

1e 「 表 2

」(10ページ右上欄)

(2)甲2の記載事項
2a「最近では靱性を高めることを主たる目的としてポリプロピレンなどのようにマトリックスよりヤング率の低い繊維も使用されている.・・・
鋼繊維およびガラス繊維は,これらの繊維の中でもかなり昔から使用されている繊維で,繊維補強セメント・コンクリートに利用される繊維のなかで,今日最もポピュラーな繊維であるということができる.・・・
・・・ 炭素繊維,ポリプロピレン繊維等は,その使用がまだ限定されているが,それぞれの特徴を活かし・・・後者は・・・安価な耐食性繊維材料として利用されつつある.」(466ページ左欄5行?28行)

2b「短繊維を用いた繊維補強セメント・コンクリートの製造方法は,次の2つに大別することができる.
(1)プレミックス法
繊維をミキサ内に他のコンクリート材料と一緒に投入し,ミキサで練り混ぜて繊維補強セメント・コンクリートを製造する方法で,わが国で製造されるSFRCのほとんどはこの方法である.」(466ページ左欄下から11行?下から4行)

2c「プレミックス法で繊維補強セメント・コンクリートを製造すると難しいのは,繊維をミキサ内に一括投入すると,繊維同士がからまってファイバーボールが生じたり,繊維を均等にコンクリート中に分散させることができなかったりすることである.この対策として,マトリックスであるコンクリートの配合を通常のモルタル・コンクリートに比べ富配合とし(表-4.3参照),ミキサへの投入にあたっては,分散機を使用する方法などが採用されている.」(466ページ右欄下から14行?下から6行)

(3)甲3の記載事項
3a「コンクリート(またはモルタル)の引張強度,曲げ強度,ひびわれ荷重,靭性または耐衝撃性などの改善を図るために,短い繊維状材料を均等に分散せしめたコンクリート(モルタル)が繊維補強コンクリートである。繊維状材料としては,・・・ガラス繊維や合成繊維を切断したものを用いる場合もある。」(21ページ左欄2行?8行)

3b「繊維補強コンクリートの練りまぜにおいて最も重要な条件は,繊維をコンクリート中に均等に分散せしめ,練りまぜ中に分離やボール状の塊をつくらないようにすることである。ボール状の塊は繊維補強コンクリートの練りまぜ中にしばしば生ずるもので(写真-3)鋼繊維の場合を例にとれば繊維のみでも容易に形成されるが,一般には繊維とセメントペースト,繊維と砂粒,繊維とモルタルなどから形成され,一たんこれが生ずるとこれを再び分散せしめることはまず不可能である。
また,ボール状の塊を生じた繊維補強コンクリートはその補強効果が著しく失われる。」(26ページ右欄6行?16行)

3c「ガラス繊維や合成繊維を混入するコンクリートの練りまぜには,比較的高速で撹拌する強制撹拌式のミキサーが適する。」(26ページ右欄下から8行?下から6行)

(4)甲4の記載事項
4a「表6.1に示す3タイプのビニロン繊維を使用したVFRCの曲げ強度と繊維混入率の関係を図6.6?6.8に示す。・・・なお、曲げ応力度?たわみ曲線の一例を図6.9に示す。」(127ページ下から5行?最下行)

4b 図6.8、図6.9(129ページ)及び上記4aによると、ビニロン繊維補強コンクリートの40mm×40mm×160mmのサンプルの曲げ強度が100?200kgf/cm^(2)程度であることが記載されていると認められる。

(5)甲6の記載事項
6a「1.セメント/骨材/水混合物をローラ/スリッパ方法によつて成形し、それにより得られた成形押出物を分割して部分を形成し、これらの部分を硬化する方法において、上記混合物中の骨材は軽量骨材よりなり、上記混合物は約2:98ないし約25:75の範囲内のシリカヒューム(乾燥重量として計算)対セメントの重量比の非チキソトロピーシリカヒュームおよびこのシリカヒューム用の分散剤をさらに含有し、上記混合物中の水対セメント質材料の重量比は約0.45:1?約1:1の範囲内であり、上記混合物を成形し、押出物を分割し、部分を硬化して軽量コンクリート屋根瓦を形成することを特徴とするコンクリート屋根瓦の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)

6b「14.ローラ/スリッパ方法によつて製造されたものであつて、非チキソトロピーシリカヒュームと石灰との反応生成物を含有し、そして約1.2?約1.6g/c.c.の密度を有し、上記反応生成物が曲げ強さに寄与することを特徴とする軽量コンクリート屋根瓦。
・・・・・
16.約1.3?約1.5g/c.c.の密度を有することを特徴とする特許請求の範囲第14項または第15項のいずれかの項に記載の屋根瓦。」(特許請求の範囲第14?16項)

6c「本発明は周知のローラ/スリツパ方法によるコンクリート屋根瓦の製造に関し、より詳細には、例えば、木製屋根板および屋根ぶき板、アスフアルト屋根板、アスベストセメント屋根ぶき材、スレート等の代替物として有用な種類の軽量コンクリート屋根瓦を作るこのような製造方法に関する。通常、セメント、砂および水の混合物よりなる瓦形成材料を移動パレツトでまずローラによつて、次いでスリツパによつて圧縮するいわゆるローラ/スリツパ方法によつてコンクリート屋根瓦を製造することは周知である。次いで、そのようにして得られた瓦形成材料のリボン(これは普通押出物と呼ばれる)を所要長さの部分に切断し、例えば、高湿度の条件下、高温で硬化して完成屋根瓦を製造する。・・・・・
本質的に平らな構造および渦巻き形構造の屋根瓦はローラ/スリツパ方法によつて日常的に製造され、代表的には、2.1?2.2 g/c.c.の密度を有する。」(2ページ右下欄2行?3ページ左上欄3行)

6d「かくして、上記種類の在来のコンクリート屋根瓦より重量が軽く、しかも適切な強さおよび耐久性を有し、それにより木製屋根板および屋根ぶき材、アスフアルト屋根板、アスベストセメント屋根ぶき材、スレート等の代替物として使用するのに適しているコンクリート屋根瓦が必要とされている。
・・・ しかしながら、一般に、軽量コンクリートを得るためにこのような軽量骨材を使用すると、曲げ強さが減少し、その結果、曲げ強さの適切なコンクリート屋根瓦を得るために、在来のコンクリート屋根瓦の厚さに比べてこのような軽量コンクリートで作られた瓦の厚さを、価値のある重量の利点が達成されない程度まで増すことが必要である。
本発明の目的は在来のコンクリート屋根瓦より重量が実質的に軽く、しかも同等の曲げ強さを有するコンクリート屋根瓦を製造する方法を提供することである。」(3ページ右上欄6行?左下欄14行)

6e「本発明のなお一層の目的はシリカヒユームを含有し、曲げ強さの良好な軽量コンクリート屋根瓦の製造用のローラ/スリツパ方法に使用するのに有利な特性を有するセメント/軽量骨材/水混合物を提供することである。
本発明はローラ/スリツパ方法によるコンクリート屋根瓦の製造に使用するのに有利な特性を有するこのような混合物を提供するために非チキソトロピーシリカヒユームをセメント/軽量骨材/水混合物中に配合することができ、それにより、曲げ強さの良好な非常に申し分のない軽量コンクリート屋根瓦を製造することができるというめざましい発見に基づいている。」(4頁右下欄3行?15行)

6f「分散剤および非チキソトロピーシリカヒユームは、例えば、シリカヒユームおよび水を約1:1の重量比で含有するために水性スラリーの形態で組合わされる。シリカヒユーム/分散剤混合物をときどき可塑化シリカヒユームと称し、本発明に使用するのに適したこのような一製品はエルケン・ケミカルズ社からEMSACF110として市販されているものである。」(6頁右上欄7行?14行)

6g「本発明により好ましく使用される膨張粘土は砂品位の材料であり、すなわち、約4.75mm未満の粒径を有し、有利には押出しによるコンクリート屋根瓦の製造のために在来の混合物中に使用される砂の粒径分布に近い粒径分布を有する。これらの要件を満たす膨張粘土骨材を押出し/切断方法によつて製造することができる。約3.35mm未満の粒径を有する細かい砂品位の材料が特に好ましく、好適な粒径分布を有するこのような1種の材料はLightaeigh Processing Co.(Glendale、カルフオルニア州、U.S.A.)からRIDGELITE No.3 FINE SANDとして市販されているものである。」(7頁左上欄4行?15行)

6h「実施例 1
含水RIDGELITE No.3 FINESAND(水含有量約18重量%)909kg、ポルトランドセメント335kg、EMSAC F110 82.7kgおよび合成べんがら顔料13kgをロータリ・パンミキサーで十分な水と混合して水約18重量%を含有する押出可能な混合物を得た。この混合物を使用して周知のローラ/スリツパ方法によつて金属パレツト上にコンクリート屋根瓦を押出し、この際、押出器(すなわち、ボツクス)の調節部を調整して約10.5mmの瓦厚を与えた。押出しについては、申し分のない平滑な表面、良好に形成されたかみ合部および底面に充填されかつ形成された先端部および耐候部を備えた品質良好な渦巻きフランス瓦が形成されることがわかつた。この混合物から、寸法422mm×333mm×約10.5mmの瓦ほぼ420個を製造した。これらの瓦を硬化キヤビネツトに移送し、このキヤビネツトで50℃および95?100%の相対湿度で10時間硬化した。硬化後、瓦を金属パレツトから取り出し、積重ねた状態で大気中に7日間放置した。次いで、試料瓦を無秩序に選択し、評量し、そして英国規格No.473550に明記された方法で曲げ強さについて試験した。
1個あたりの平均重量-2.72kg
平均曲げ強さ -2070N」(6頁左下欄1行?右下欄6行)

4 当審の判断
(1)取消理由についての判断
ア 取消理由1(明確性要件違反)について
本件訂正請求による訂正により、本件発明1において、瓦本体部の「耐アルカリ性繊維」は「円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態」であることが特定されたから、瓦本体部に繊維含有粒状体がどのような状態で含まれているのかを当業者であれば理解することができ、本件発明8に係る瓦成形材料は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同様に繊維含有粒状体がどのような状態で含まれているのか当業者であれば理解することができる。
また、本件発明2において「瓦本体部の表面部分が、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体に由来する凸部を有していない」と特定されたから、繊維含有粒状体が瓦本体部の表面部分の凸部についてどのような状態で含まれているのかを当業者であれば理解することができる。
そして、本件発明2は、本件発明1に従属し、また、本件発明3?7、9?14も本件発明1又は本件発明2に従属する関係にあるから、同様に「繊維含有粒状体」の状態について理解することができる。
したがって、本件発明1?14は、明確であるといえる。
よって、取消理由1は、理由がない。

イ 取消理由2(甲6を主たる証拠とした進歩性欠如)について
(ア)甲6に記載された発明
記載事項6a、6f?6hによると、甲6には、セメント、骨材、シリカヒューム及び水を含む混合物から、ローラ/スリッパ法によって製造した、英国規格No.473550による平均曲げ強さ2070Nのコンクリート屋根瓦が記載されているといえる。
また、記載事項6cによると、甲6には、形成材料を移動パレットでまずローラによって、次いでスリッパによって圧縮するローラ/スリッパ方法を使用し、得られた瓦形成材料のリボンを所要長さの部分に切断することが記載されている。
そうすると、甲6には、
「コンクリート屋根瓦であって、
セメント、骨材、シリカヒューム及び水を含む瓦形成材料を移動パレットでまずローラによって、次いでスリッパによって圧縮するローラ/スリッパ方法を使用し、得られた瓦形成材料のリボンを所要長さの部分に切断することを含む工程により製造された、英国規格No.473550による平均曲げ強さが2070Nであるコンクリート屋根瓦。」
の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。

(イ) 本件発明1について
本件発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明の「コンクリート屋根瓦」は、本件発明1の「コンクリート瓦」に相当し、甲6発明の「コンクリート屋根瓦」は、当然に本件発明1で特定する「瓦本体部」を備えているといえる。
また、甲6発明の「セメント」、「骨材」は、本件発明1の「セメント」、「細骨材」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲6発明とは、
「瓦本体部を備えるコンクリート瓦であって、
前記瓦本体部では、セメント、細骨材を含む、コンクリート瓦。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:本件発明1は、「瓦本体部は、非型成形により硬化された上面と、型成形により硬化された下面と、側面部とを備え、前記側面部の少なくとも一辺に切断端面を有して」いることが特定されているのに対し、甲6発明は、コンクリート屋根瓦の形状は規定されず、瓦形成材料を移動パレットでまずローラによって、次いでスリッパによって圧縮するローラ/スリッパ方法を使用し、得られた瓦形成材料のリボンを所要長さの部分に切断することを含む工程により得られたものであることが規定されている点。

相違点2:本件発明1は、瓦本体部に「耐アルカリ性繊維」を含み、「当該耐アルカリ性繊維は、その厚み方向全体にわたって分散しており、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態であり、前記耐アルカリ性繊維は、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維およびアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも一種で構成され」ることが特定されているのに対して、甲6発明は、シリカヒュームを含み、上記耐アルカリ性繊維を含むものではない点。

相違点3:本件発明1は、「30mm×150mmの切出片の曲げ強度が6N/mm^(2)以上である」ことが特定されているのに対して、甲6発明は、英国規格No.473550による平均曲げ強さが、2070Nである点。

事案に鑑み、まず、上記相違点2について検討する。
甲6には、コンクリート屋根瓦に耐アルカリ性繊維を含ませることは、記載も示唆もされていない。そして、甲6発明は、記載事項6d、6eなどによると、軽量であって従来と同等の曲げ強さのコンクリート屋根瓦を製造することを目的とするものであって、その解決手段として、非チキソトロピーシリカヒュームを含む混合物を使用することを特徴とするものである。

一方、甲1には、記載事項1a?1gによると、ポリプロピレン繊維等の耐アルカリ性繊維を含むローラ及びスリッパ法によるコンクリート瓦が記載されている。
また、甲2?甲4の記載事項によると、ポリプロピレン繊維(甲2、甲3)やビニロン繊維(甲4)などの合成繊維を添加して繊維補強コンクリートとすることは周知技術であるといえる。
しかし、甲1は、甲6発明と同様なローラスリッパ法によるコンクリート瓦について記載されているが、コンクリート瓦にポリプロピレン繊維を含む理由は、瓦の耐衝撃性を向上させるためのものであって、表2(記載事項1e)などの実施例をみると、繊維を含むコンクリート瓦は、耐衝撃強さが向上しているが、曲げ強さはむしろ低下する傾向にあることがわかる。
また、甲2?甲4は、一般的なコンクリートにおいて、ポリプロピレン繊維などの合成繊維を添加することが周知であることを示しているにすぎない。
そうすると、曲げ強度の向上を目的として非チキソトロピーシリカヒュームを含む混合物を使用する甲6発明のコンクリート屋根瓦において、ポリプロピレン繊維などの耐アルカリ性繊維を含有させるという動機付けが存在しているとはいえない。
したがって、甲6発明において、上記の動機付けがないのであるから、そもそも、耐アルカリ性繊維を含有させることが容易想到な事項であるといえないし、仮に耐アルカリ性繊維を含有させることが容易想到な事項であるとしても、耐アルカリ性繊維を含有させる積極的な動機付けがないから、瓦本体部における耐アルカリ性繊維の分散状態を特定の状態に調整することは、容易想到な事項であるとはいえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6に記載された発明及び甲1?4、6に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)本件発明2?14について
本件発明2?7は、本件発明1をさらに減縮するコンクリート瓦に係る発明、本件発明8?11は、コンクリート瓦形成材料に係る発明、本件発明12は、耐アルカリ性繊維の使用に係る発明、本件発明13、14は、コンクリート瓦の製造方法に係る発明であるが、本件発明2?14は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2?14は、甲6発明及び甲1?4に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、取消理由2は、理由がない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
ア 申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性欠如及び進歩性欠如)について

(ア)甲1に記載された発明
記載事項1a?1cなどによると、骨材、水硬セメント、水を含み、さらに強化繊維を含むセメント質組成物を、ローラー及びスリッパー法により生成することで得られたコンクリート瓦が記載され、記載事項1dなどによると、具体的には、実施例1では、クレニットポリプロピレン繊維を含む横曲げ強さが13.2±0.7MPaであるコンクリート瓦を製造していると認められる。
そうすると、甲1には、
「コンクリート瓦であって、
水硬セメント、骨材、及びクレニットポリプロピレン繊維を含むセメント質組成物を、ローラー及びスリッパー法により生成して成形押出物を生成し切断する工程により製造されたコンクリート瓦であって、
クレニットポリプロピレン繊維を含み、
横曲げ強さが13.2±0.7MPaであるコンクリート瓦」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(イ)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「コンクリート瓦」は、当然に本件発明1で特定する「瓦本体部」を備えているといえる。
また、甲1発明のクレニットポリプロピレン繊維は、ポリプロピレン繊維であり、本件発明1の耐アルカリ性繊維に相当するといえる。
さらに、甲1発明の「水硬セメント」、「骨材」は、本件発明1の「セメント」、「細骨材」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「瓦本体部を備えるコンクリート瓦であって、
前記瓦本体部では、セメント、細骨材、および耐アルカリ性繊維を含む、コンクリート瓦。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1′:本件発明1は、「瓦本体部は、非型成形により硬化された上面と、型成形により硬化された下面と、側面部とを備え、前記側面部の少なくとも一辺に切断端面を有して」いることが特定されているのに対し、甲1発明は、セメント質組成物を、ローラー及びスリッパー法により生成して成形押出物を生成し切断する工程により製造されたコンクリート瓦であることが規定されている点。

相違点2′:本件発明1は、瓦本体部では、「耐アルカリ繊維は、その厚み方向全体にわたって分散しており、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態」であることが特定されているのに対して、甲1発明は、コンクリート瓦に含まれるクレニットポリプロピレン繊維の状態がどのようなものであるのか明らかでない点。

相違点3′:本件発明1は、「30mm×150mmの切出片の曲げ強度が6N/mm^(2)以上である」ことが特定されているのに対して、甲1発明は、横曲げ強さが13.2±0.7MPaである点。

事案に鑑み、まず、上記相違点2′について検討する。
甲1発明における繊維の分散状態について検討すると、甲1発明を認定した実施例1は、記載事項1dによると、セメント組成物調製の際に「セメント質組成物はクレタングル(Cretangle)マルチフローミキサー中で乾燥成分を2分間混合し、続いて液体成分(水、消泡剤及び超可塑剤)を添加することにより調製した。組成物を更に3分間混合した。ついで繊維を添加し、組成物を更に3分間混合した。」と記載されているから、繊維を添加してからセメント材料を混合する結果、得られたコンクリート瓦は、繊維が厚み方向に分散している蓋然性は高いといえる。
しかし、当該記載からは、甲1発明に係るコンクリート瓦における繊維自体がどのような形態で分散しているのかまでは明らかではなく、甲1発明に係る、ポリプロピレン繊維を含有するコンクリート瓦の瓦本体部において「円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態」であるとはいえない。
これについて、特許異議申立人は、甲1発明と本件特許発明1(訂正前の請求項1に係る発明)とは同様の条件で攪拌しているから、甲1発明の繊維の状態も本件特許発明1と一致する旨主張しているが、本件明細書では、繊維凝集体を積極的に解すなどの工程を採用することが説明されているものであり(本件明細書段落【0073】?【0078】)、甲1には、このような工程があるとはいえないから、特許異議申立人の当該主張は採用できない。
したがって、上記相違点2′は、実質的な相違点である。

次に、甲1発明に対して、相違点2′に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討する。
本件発明1の「繊維含有粒状体」については、本件明細書において「繊維含有粒状体とは、繊維を含有するとともに、周りの成形材料と完全には一体化せず、周囲の成形材料との間に少なくとも一部の空隙を有する硬化物であって、例えば、繊維塊や繊維凝集体などを核としてセメントと骨材などの混練物が一体となって形成した繊維含有塊(fiber‐containing lump)で形成される。」(段落【0031】)、「繊維凝集体が成形材料中に存在する場合、繊維凝集体の周囲を、水を含んだセメント及び骨材が覆って、繊維凝集体の内部まで水やセメントが入らなくなることがある。このような場合、繊維凝集体を中心とした繊維含有粒状体が、成形材料中だけでなく、コンクリート瓦自体にも形成されてしまう。」(段落【0057】)、及び「なお、繊維含有粒状体は、繊維凝集体に由来するためか、周りの成形材料と一体化せず、周囲の成形材料との間に空隙を有する硬化物として存在しているため、目視による確認が可能である。」(段落【0084】)と説明されている。
また、「繊維凝集体」については、「繊維凝集体(繊維ベール、繊維ベールの粗解繊物、ショートカットファイバー束など) ・・・ 繊維凝集体(所定の長さに切断されたショートカットファイバーの塊など)を乾式下で解すことにより繊維同士を引き離し、繊維凝集体を解してもよい。」(段落【0077】)と記載されている。
これに対して、甲2、3の記載をみてみると、記載事項2a、2bによると、甲2には、鋼繊維やガラス繊維に加え、ポリプロピレン繊維が繊維補強セメント・コンクリートに使用され、プレミックス法で繊維補強セメント・コンクリートを製造する際にファイバーボールが生じたり、繊維を均等にコンクリート中に分散させることができなかったりすることがあるため、ミキサへの投入にあたって分散機を使用することが記載されている。
また、記載事項3a?3cによると、甲3には、コンクリートの引張強度、曲げ強度等の改善を図るために、鋼繊維や合成繊維が用いられること、繊維補強コンクリートの練混ぜ中にボール状の塊をつくらないようにすること、ボール状の塊は、繊維補強コンクリートの練り混ぜ中にしばしば生ずるもので、繊維とセメントペースト、繊維と砂粒、繊維とモルタルなどから形成されること、ガラス繊維や合成繊維を混入するコンクリートの練混ぜには、強制撹拌式のミキサーが適することなどが記載されている。
本件明細書の上記の「繊維含有粒状体」などに関する記載を参照すると、甲2に記載の「ファイバーボール」及び甲3に記載の「ボール状の塊」は、コンクリート製品中に存在した場合には、本件発明1の「繊維含有粒状体」に相当するといえる。そして、甲2、3において、上記「ファイバーボール」及び「ボール状の塊」は生成しない方がよいとされていると認められる。
しかし、甲2、甲3は、一般的なコンクリートについて、本件発明1でいう「繊維含有粒状体」を生成しない方が望ましいことが記載されているにすぎず、特に、コンクリート瓦における耐アルカリ性繊維の繊維含有粒状体の大きさの上限をどのような範囲に設定するかについての示唆はない。
また、甲5は、特許異議申立人が、甲2に記載の「ファイバーボール」及び甲3に記載の「ボール状の塊」が「繊維塊」であることを説明するために提示した本件特許の出願後に公開された文献である。当該文献は、ポリビニルアルコール繊維を添加したモルタルコンクリートについて記載されたものであり、甲2、3と同じくファイバーボールの発生をしないようにすることが記載され、約3cm以上のファイバーボールが0個であればモルタルコンクリートの欠陥の発生が抑えられるとするものである(実施例 参照)。しかしながら、甲5の記載を参酌したとしても、甲2の「ファイバーボール」や甲3の「ボール状の塊」から生ずるといえる「繊維含有粒状体」が本件発明1のような形態を想定しているとはいえない。
そうすると、甲2及び甲3の記載事項から、本件発明1で特定した瓦本体部に存在する繊維含有粒状体の大きさの上限について導出できるとはいえない。
また、甲4は、繊維補強コンクリートに関する文献であり、ビニロン繊維の混入率とセメント・コンクリートの曲げ強度との関係について記載されているが、コンクリートに含まれる繊維について、繊維凝集体や繊維含有粒状体について何ら記載も示唆もされていないから、甲4に記載された技術事項を参酌しても、上記相違点2′に係る本件発明1の特定事項は、容易想到な事項といえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明、及び甲1?4に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)本件発明2?14について
上記(1)イ(ウ)と同様であって、本件発明2?14は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2?14は、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲1?4に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、申立理由1は、理由がない。

イ 申立理由2(サポート要件違反、実施可能要件違反)について
(ア)申立理由2-1について
本件発明の課題は、本件明細書段落【0009】によると「強度と軽量性との双方に優れるコンクリート瓦を提供する」ことを含むものである。
そして、本件発明に係るコンクリート瓦は、瓦本体部は、内部に耐アルカリ性繊維を、実質的に繊維含有粒状体として存在していない状態、すなわち、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態である場合に、軽量であるにもかかわらず、曲げ強度に優れるものであることが説明されている(段落【0025】、【0026】)。
上記記載によると、本件発明1の「耐アルカリ性繊維は、その厚み方向全体にわたって分散しており、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態」とすることにより、本件発明の課題を解決することができると認識することができるといえる。
そして、本件明細書には、耐アルカリ性繊維は、混練性に優れ、成形体としての瓦全体に繊維を混入できる観点から選択すること(段落【0052】)、さらに、繊維含有粒状体の形成を抑制させる観点から、アスペクト比や繊維径を選択すること(段落【0053】、【0055】)が記載されていることから、実施例に具体的に記載された繊維以外にも、適切な耐アルカリ性繊維を選択可能であることは当業者であれば理解することができる。
また、本件明細書の段落【0072】?【0079】によると、コンクリート瓦の成形材料の準備工程において、耐アルカリ性繊維が実質的に繊維含有粒状体として存在しない状態で分散させるための繊維の分散工程について記載され、実施例においては、セメント系混合物に対し、対向して配設された回転ギアの間を通過させて解した繊維を投入して、さらに混練してコンクリート瓦成形材料を得た後、コンクリート瓦を得ることが具体的に記載されているから(段落【0091】)、これに倣って適切な耐アルカリ繊維を選択して本件発明に係るコンクリート瓦を製造することが可能であることは、当業者であれば理解することができる。
よって、申立理由2-1は、理由がない。

(イ)申立理由2-2について
繊維含有粒状体の発生防止手段は、単にプラネタリーミキサーを用いるというものではなく、上記(ア)に記載したように、実施例では、繊維を解してからセメント系混合物に投入することが記載され、また、分散手段を二種以上組みあわせて行ってよいことも記載されている(段落【0074】)。
したがって、繊維含有粒状体の発生防止手段の開示内容を理由として、本件発明1?14の範囲まで拡張ないし一般化することができないとはいえない。
よって、申立理由2-2は、理由がない。

(3)特許異議申立人の意見について
ア 令和2年10月20日付けの意見書について
特許異議申立人は、令和2年10月20日付けの意見書において、本件発明1?14は、令和1年12月5日付け取消理由通知書に記載の取消理由2(特許法第29条第2項)によって取り消されるべきと主張しているが、上記「4(1)イ」のとおりであるから、当該主張は採用できない。
また、特許異議申立人は、これまでの訂正請求の経緯などからすると、本件発明1の「円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体」は「切断面において観察できない状態」は確認できず「円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体」がどのようなものであるのか不明である旨主張している。
しかし、本件発明1の「円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態」の特定事項については、本件明細書の段落【0031】、【0084】に説明されているから、当該記載から当業者であれば理解できる。
したがって、当該主張も採用できない。

イ 令和2年4月7日付けの意見書について
特許異議申立人は、令和2年4月7日付けの意見書において、令和2年2月7日付けの訂正請求は、不適法な訂正であることを主張しているが、当該訂正請求は取り下げられたものとみなされるから、当該主張は採用できない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1?14に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
瓦本体部を備えるコンクリート瓦であって、
前記瓦本体部は、非型成形により硬化された上面と、型成形により硬化された下面と、側面部とを備え、前記側面部の少なくとも一辺に切断端面を有しており、
前記瓦本体部では、セメント、細骨材、および耐アルカリ性繊維を含み、当該耐アルカリ性繊維は、その厚み方向全体にわたって分散しており、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体がその切断面において観察できない状態であり、
前記耐アルカリ性繊維は、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維およびアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも一種で構成され、
30mm×150mmの切出片の曲げ強度が6N/mm^(2)以上であるコンクリート瓦。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート瓦において、瓦本体部の表面部分が、円相当径10mm以上を有する繊維含有粒状体に由来する凸部を有していないコンクリート瓦。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコンクリート瓦において、瓦本体部の比重が1.5?2.2であるコンクリート瓦。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のコンクリート瓦において、耐アルカリ性繊維の平均繊維径が1?200μmであるとともに、アスペクト比が50?1000であるコンクリート瓦。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のコンクリート瓦において、耐アルカリ性繊維が、ポリビニルアルコール系繊維であるコンクリート瓦。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のコンクリート瓦において、EN491:2011に準じて行われる瓦曲げ試験でEN490規格に合格するコンクリート瓦。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のコンクリート瓦において、JIS A 1408を参考にして行われる落球試験によって、実質的に分断破壊されないコンクリート瓦。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載されたコンクリート瓦を製造するための成形材料であって、セメント、細骨材、耐アルカリ性繊維、および水を少なくとも含んでおり、水セメント比(W/C)が20?50質量%であり、前記耐アルカリ性繊維は、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維およびアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも一種で構成されるとともに、耐アルカリ性繊維の固形分に占める割合が、0.1?2質量%であり、耐アルカリ性繊維が、成形材料中に実質的に繊維含有粒状体として存在していない、コンクリート瓦成形材料。
【請求項9】
請求項8に記載のコンクリート瓦成形材料において、耐アルカリ性繊維のアスペクト比が50?1000であるコンクリート瓦成形材料。
【請求項10】
請求項8または9のいずれか一項に記載のコンクリート瓦成形材料において、耐アルカリ性繊維の平均繊維径が1?200μmであるコンクリート瓦成形材料。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか一項に記載のコンクリート瓦成形材料において、さらに機能性骨材として層状ケイ酸塩を含んでいるコンクリート瓦成形材料。
【請求項12】
請求項1から7のいずれか一項に記載されたコンクリート瓦を製造するための、ポリビニルアルコール系繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維およびアラミド繊維からなる群から選択される少なくとも一種で構成される耐アルカリ性繊維の使用。
【請求項13】
コンクリート瓦をローラ/スリッパ方式で製造する方法であって、
請求項8から11のいずれか一項に記載された成形材料を、ローラ/スリッパ式押出装置のホッパへ供給する供給工程と、
前記供給された成形材料を、ホッパの下方から、複数の隣接したパレットに対して充填する充填工程と、
前記充填された成形材料を、ローラおよびスリッパにより圧縮し、前記隣接したパレット上に連続した帯状体を形成する圧縮工程と、
前記帯状体を切断刃で切断し、個別のパレット上に、個別の生状態の瓦を形成する切断工程と、
を少なくとも備えるコンクリート瓦の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載された製造方法において、成形材料の供給工程が、成形材料の準備工程を含み、前記準備工程が、
セメント、骨材、および水を含む混合物に対して、(i)耐アルカリ性繊維の定量供給、(ii)解された状態の耐アルカリ性繊維の投入、および(iii)耐アルカリ性繊維を混合する際に撹拌性能の高いミキサー、またはニーダーを用いることから選択される少なくとも一種の分散工程を少なくとも備えるコンクリート瓦の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-30 
出願番号 特願2015-546638(P2015-546638)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B28B)
P 1 651・ 113- YAA (B28B)
P 1 651・ 536- YAA (B28B)
P 1 651・ 537- YAA (B28B)
P 1 651・ 851- YAA (B28B)
P 1 651・ 853- YAA (B28B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 手島 理  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 宮澤 尚之
後藤 政博
登録日 2019-03-08 
登録番号 特許第6491603号(P6491603)
権利者 株式会社クラレ
発明の名称 コンクリート瓦およびその成形材料  
代理人 堤 健郎  
代理人 中尾 真二  
代理人 小林 由佳  
代理人 小林 由佳  
代理人 中尾 真二  
代理人 杉本 修司  
代理人 杉本 修司  
代理人 野田 雅士  
代理人 為山 太郎  
代理人 野田 雅士  
代理人 堤 健郎  
代理人 中田 健一  
代理人 中田 健一  

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