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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01J
管理番号 1374921
異議申立番号 異議2020-700103  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-21 
確定日 2021-04-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6562861号発明「ハニカム構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6562861号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6562861号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第6562861号は、平成28年3月25日に出願された特願2016-62742号の特許請求の範囲に記載された請求項1?3に係る発明について、令和元年8月2日に特許権の設定登録がされ、同年8月21日に特許掲載公報の発行がされたものであり、その後、その全請求項に係る特許に対して、令和2年2月21日付けで特許異議申立人伊野口誠(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、同年5月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月21日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年9月10日付けで申立人より意見書の提出がされ、同年11月10日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年12月18日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)がされ、令和3年2月5日付けで申立人より意見書の提出がされたものである。

第2 本件訂正の適否について

1.本件訂正の内容(訂正事項)
本件訂正の内容は、次のとおり、一群の請求項を構成する請求項1?3を訂正の単位として訂正することを求めるものである(訂正箇所に下線を付した)。
なお、令和2年7月21日付けの訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された
「一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の複数の隔壁と、一の前記隔壁と他の前記隔壁とが交わる交点部とを有するハニカム構造部と、
前記ハニカム構造部の前記隔壁の表面及び細孔の内表面の少なくとも一方に配設された触媒層と、を備え、
前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁の気孔率が、20?70%であり、
前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁における細孔の平均細孔径が、1?60μmであり、
複数の前記隔壁は、少なくとも一方の端部が切り欠かれた凹状部を有する切欠き隔壁を含み、
前記隔壁中の前記切欠き隔壁の割合は、1?100%であり、
前記触媒層が配設されない状態において、前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記端面において隣り合う前記交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの10?200%の深さを有し、かつ、隣り合う前記交点部の間の距離を基準幅としたとき、前記基準幅の33?100%の幅を有する部分であるハニカム構造体。」を
「一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の複数の隔壁と、一の前記隔壁と他の前記隔壁とが交わる交点部とを有するハニカム構造部(但し、前記セルからなる前記流路が目封止されているものを除く)と、
前記ハニカム構造部の前記隔壁の表面及び細孔の内表面の少なくとも一方に配設された触媒層と、を備え、
前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁の気孔率が、20?70%であり、
前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁における細孔の平均細孔径が、1?60μmであり、
複数の前記隔壁は、少なくとも一方の端部が切り欠かれた凹状部を有する切欠き隔壁を含み、
前記隔壁中の前記切欠き隔壁の割合は、1?100%であり、
前記触媒層が配設されない状態において、前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記端面において隣り合う前記交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの10?200%の深さを有し、かつ、隣り合う前記交点部の間の距離を基準幅としたとき、前記基準幅の33?100%の幅を有する部分であり、
前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記流体が前記ハニカム構造部に流入する側の端部である流入側の端部に設けられるハニカム構造体。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0008】に記載された
「[1] 一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の複数の隔壁と、一の前記隔壁と他の前記隔壁とが交わる交点部とを有するハニカム構造部と、前記ハニカム構造部の前記隔壁の表面及び細孔の内表面の少なくとも一方に配設された触媒層と、を備え、前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁の気孔率が、20?70%であり、前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁における細孔の平均細孔径が、1?60μmであり、複数の前記隔壁は、少なくとも一方の端部が切り欠かれた凹状部を有する切欠き隔壁を含み、前記隔壁中の前記切欠き隔壁の割合は、1?100%であり、前記触媒層が配設されない状態において、前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記端面において隣り合う前記交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの10?200%の深さを有し、かつ、隣り合う前記交点部の間の距離を基準幅としたとき、前記基準幅の33?100%の幅を有する部分であるハニカム構造体。」を
「[1] 一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の複数の隔壁と、一の前記隔壁と他の前記隔壁とが交わる交点部とを有するハニカム構造部(但し、前記セルからなる前記流路が目封止されているものを除く)と、前記ハニカム構造部の前記隔壁の表面及び細孔の内表面の少なくとも一方に配設された触媒層と、を備え、前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁の気孔率が、20?70%であり、前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁における細孔の平均細孔径が、1?60μmであり、複数の前記隔壁は、少なくとも一方の端部が切り欠かれた凹状部を有する切欠き隔壁を含み、前記隔壁中の前記切欠き隔壁の割合は、1?100%であり、前記触媒層が配設されない状態において、前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記端面において隣り合う前記交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの10?200%の深さを有し、かつ、隣り合う前記交点部の間の距離を基準幅としたとき、前記基準幅の33?100%の幅を有する部分であり、前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記流体が前記ハニカム構造部に流入する側の端部である流入側の端部に設けられるハニカム構造体。」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「ハニカム構造体」について、
ハニカム構造部が、「セルからなる流路が目封止されているものを除く」ものであることを特定し、その概念を減縮する目的のものであり、
また、切欠き隔壁の凹状部が、「流体がハニカム構造部に流入する側の端部である流入側の端部に設けられる」ものであることを特定し、その概念を減縮する目的のものである。
そして、図面の【図3】に、セルからなる流路が目封止されていないハニカム構造部が記載され、更には、流体である排ガスGの流れ方向が白抜き矢印で示され、凹状部30が、ハニカム構造部100の、流体である排ガスGが流入する側の端部に形成されている状態が示されていること、
明細書の段落【0017】の「複数の隔壁1は、少なくとも一方の端部が切り欠かれた凹状部30を有する切欠き隔壁20を含むものである」との記載及び同じく【0025】の「ハニカム構造体に流入する排ガスが凹状部によりセル内で拡散する」との記載並びに図面の【図2】が「本発明のハニカム構造体の一実施形態の流入端面の一部を拡大して模式的に示す平面図である」(明細書の段落【0012】)こと等に基づくものである。
よって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1に伴い、明細書の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないことは訂正事項1と同様であるから、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3.小括
上記1.及び2.のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。

第3 本件発明について

上記第2のとおり、本件訂正の請求は認容し得るものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正後の、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。また、これらの発明に対応する特許を「本件特許1」などという。)。
「【請求項1】
一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の複数の隔壁と、一の前記隔壁と他の前記隔壁とが交わる交点部とを有するハニカム構造部(但し、前記セルからなる前記流路が目封止されているものを除く)と、
前記ハニカム構造部の前記隔壁の表面及び細孔の内表面の少なくとも一方に配設された触媒層と、を備え、
前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁の気孔率が、20?70%であり、
前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁における細孔の平均細孔径が、1?60μmであり、
複数の前記隔壁は、少なくとも一方の端部が切り欠かれた凹状部を有する切欠き隔壁を含み、
前記隔壁中の前記切欠き隔壁の割合は、1?100%であり、
前記触媒層が配設されない状態において、前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記端面において隣り合う前記交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの10?200%の深さを有し、かつ、隣り合う前記交点部の間の距離を基準幅としたとき、前記基準幅の33?100%の幅を有する部分であり、
前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記流体が前記ハニカム構造部に流入する側の端部である流入側の端部に設けられるハニカム構造体。
【請求項2】
前記隔壁中の前記切欠き隔壁の割合は、1?60%である請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記端面において隣り合う前記交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの50?150%の深さを有する請求項1または2に記載のハニカム構造体。」

第4 取消理由について

1.令和2年11月10日付けの取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和2年7月21日付け訂正請求に係る訂正特許請求の範囲に記載された発明に含まれたもののうち、流路が目封止されたセルを一部に含むハニカム構造部を備えたものについては、少なくとも、凹幅、凹深さの関わる数値条件については、実験的なサポートが無く、複数のすべてのセルが完全には目封止されていないものであると解される実施例1?59、比較例1?11の結果から、同様に課題を解決できる条件を類推することは当業者であってもできないというべきであるから、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものとは認められない、というものである。

(2)当審の判断
本件発明1は、ハニカム構造部が、「セルからなる流路が目封止されているものを除く」ものであることが本件訂正により特定されたから、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合しないとはいえない。
よって、取消理由は理由がない。

2.令和2年5月19日付けの取消理由通知書で通知した取消理由について
(1)取消理由の概要
ア.明確性違反
訂正前の特許請求の範囲の記載において、(ア)「ハニカム構造部」についての「一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセル」との特定が、「流路が目封止されたセルを一部に含むハニカム構造部を備えたもの」を包含するのか否かが明確でなく、(イ)「凹状部の深さ」及び「凹状部の幅」について明細書【0024】に「合計40個の切欠き隔壁について測定したときの平均値とする」と記載されているところ、この40個についてどのように選択すべきかが明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない記載不備がある。

イ.新規性欠如
訂正前の請求項1、3に係る発明は、甲第1号証(特開2010-104957号公報。以下、「甲1」ということがある。)に記載された発明である。

ウ.進歩性欠如
訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

(2)当審の判断
ア.明確性違反について
上記(ア)の点については、本件発明では、訂正により「ハニカム構造部(但し、前記セルからなる前記流路が目封止されているものを除く)」と特定されたので、「一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセル」との特定だけであれば、「流路が目封止されたセルを一部に含むハニカム構造部を備えたもの」を包含するとも解されるものの、「前記セルからなる前記流路が目封止されているものを除く」ことが明確となったので、理由はない。
上記(イ)の点については、任意に選択される40個は「切欠き隔壁」であって、切欠きのない隔壁はここに含まれないことが明らかであるから、概念上は明確といえるものであるが、切欠きがあるといえるかどうかが微妙な僅かに欠けた隔壁が存在しうるので、以下さらに検討する。
この切欠き隔壁の技術的な意味に注目すると、本件発明では、明細書【0015】等の記載から見て、ハニカム構造体は、所定の割合で切欠き隔壁が存在するため、この切欠き隔壁の凹状部によって排ガスが流れる際に空気が拡散し、排ガスと触媒との接触時間及び接触面積が増加することで、NOxの浄化性能の向上を図るものであるといえる。そうすると、「切欠き隔壁」として任意に選択されるべきものは、少なくともその凹状部によって排ガスが流れる際の空気を拡散させる機能を有したものであるといえるから、例えば、加工等により意図せずに生じてしまう微小な欠けであって空気の拡散にほとんど影響を及ぼさない程度のものを有するに過ぎない隔壁は、これらには含まれないと解するのが妥当である。
してみれば、どのようなものが40個の「切欠き隔壁」として任意に選択されるべきかは自明であるといえ、明確性違反の理由はない。

イ.新規性欠如について
(ア)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載の発明
甲第1号証には、以下の(a)?(f)の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】
流入側の端面から流出側の端面まで貫通する流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備え、
前記隔壁は、気孔率が50?80%であり、且つ平均細孔径が13?70μmであり、
前記複数のセルの中の一部のセルは、流入側の端部の開口部が開口され且つ流出側の端部の開口部にその前記開口部の一部を塞ぐように開口面積縮小部材が配設された第1のセルであり、残部のセルは、両端部の開口部が開口された第2のセルであり、
前記第1のセルと前記第2のセルとが交互に配置され、
前記第1のセルと前記第2のセルとが交互に並ぶセルの列の中の少なくとも一列の流出側端部において、前記セルの列を縦断するように前記隔壁及び前記開口面積縮小部材にスリットが形成され、前記スリットの、セルの延びる方向における深さが、前記開口面積縮小部材の、セルの延びる方向における深さより深いハニカム構造体。」

(b)「【発明の効果】
【0015】
本発明のハニカム構造体及びハニカム触媒体は、特定の気孔率及び平均細孔径の多孔質の隔壁を有するハニカム構造体において、第1のセルの流出側の端面におけるセルの開口部の面積が開口面積縮小部材によって小さくなっているため(セルの開口部が、開口面積縮小部材に形成されたスリットとして開口されているため)、第1のセルに流入した流体の一部を、第1のセルを区画形成する隔壁を透過させて隣接する第2のセルの内部に積極的に流出させることができ、排気ガスに含まれる有害物質を効率的に浄化することができる。
【0016】
また、本発明のハニカム構造体及びハニカム触媒体は、隔壁の気孔率及び平均細孔径が特定の範囲であり、且つ上記第1のセルにおいては、流出側の開口部の面積が縮小されてはいるものの、縮小された開口部(スリット)及び隔壁に形成されたスリットから流体の一部を流出させることができる(即ち、完全には開口部が封止されていない)ため、上述したように排気ガスの浄化効率を向上させたとしても、圧力損失の増加を有効に抑制、又は圧力損失を低減することができる。【0017】即ち、本発明のハニカム構造体及びハニカム触媒体は、排気ガスの浄化効率を向上と、圧力損失の増加の抑制という、従来の技術では両立困難であった問題を同時に解決することができる。また、浄化効率の向上により、担持触媒量を低減することが可能になる。」
(c)「【0019】
[1]ハニカム構造体:
図1?図3に示すように、本実施形態のハニカム構造体100は、流入側の端面2から流出側の端面3まで貫通する流体の流路となる複数のセル4を区画形成する多孔質の隔壁1を備え、隔壁1は、気孔率が50?80%であり、且つ平均細孔径が13?70μmであり、複数のセル4の中の一部のセル4は、流入側の端部の開口部が開口され且つ流出側の端部の開口部にその開口部の一部を塞ぐように開口面積縮小部材6が配設された第1のセル4aであり、残部のセル4は、両端部の開口部が開口された第2のセル4bであり、第1のセル4aと第2のセル4bとが交互に配置され、第1のセル4aと第2のセル4bとが交互に並ぶ「セルの列5」の中の少なくとも一列の流出側端部において、セルの列5を縦断するように隔壁1及び開口面積縮小部材6にスリット7が形成され、スリット7の、セル4の延びる方向における深さ(スリット深さ)D1が、開口面積縮小部材6の、セル4の延びる方向における深さ(開口面積縮小部材深さ)D2より深いものである。第1のセル4aに配設される開口面積縮小部材6は、スリット7により、セル4の延びる方向に貫通した形状となっている。セルの列5は、第1のセル4aと第2のセル4bとが交互に並んで形成された一列に延びるセルの列である。ここで、図1は、本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図であり、図2は、本発明のハニカム構造体の一の実施形態の一部を模式的
に示す、流出側端面側からみた平面図であり、図3は、図2のA-A’断面を示す模式図である。
【0020】
本実施形態のハニカム構造体100は、各種エンジン等から排出される排気ガスを浄化するためのハニカム触媒体の触媒担体として好適に用いることができる。より具体的には、例えば、上記隔壁の細孔の内表面、及び隔壁表面に触媒を担持してハニカム触媒体を製造し、得られたハニカム触媒体を排気ガスの排気系内部に配置し、その流入側の端面から各セルに流体(排気ガス)を流入させ、流入した排気ガスを、隔壁を透過させることによって、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO_(X))等の有害物質を触媒により浄化するものである。」
(d)「【0032】
本実施形態のハニカム構造体のセル密度は、16?93セル/cm^(2)(100?600cpsi)であることが好ましく、42?62セル/cm^(2)(300?400cpsi)であることが更に好ましい。セル密度が16セル/cm^(2)未満であると、排気ガスとの接触効率が低下し、浄化効率が低下することがあり、セル密度が93セル/cm^(2)超であると、圧力損失が増大することがある。なお、「cpsi」は「cells per square inch」の略であり、1平方インチ当りのセル数を表す単位である。」
(e)「【0040】
開口面積縮小部材6は、流出側開口部における端面(流出側端面)から、セルの流路方向(セルの延びる方向)における反対側の端面までの長さ、即ち、開口面積縮小部材深さD2が、0.3?10mmであることが好ましく、0.5?5mmであることが更に好ましい。開口面積縮小部材深さD2が、0.3mm未満であると、目封止部の機械的強度が低下し、また、目封止部と隔壁との接合力が十分に得られず、排気ガスの圧力や外部から振動等によって目封止部が破損し易くなることがある。開口面積縮小部材深さD2が、10mmを越えると、排気ガスが透過するための隔壁の有効な面積が減少してしまい、十分な浄化効率が得られないことがある。全ての開口面積縮小部材の開口面積縮小部材深さD2が同じであることが好ましいが、異なっていてもよい。
【0041】
スリット深さD1と、開口面積縮小部材深さD2との差は、最小値が1mm、最大値が30mm又はハニカム構造体のセルの延びる方向の全長の1/2のいずれか短い方の長さの範囲であることが好ましく、最小値が5mm、最大値が15mm又はハニカム構造体のセルの延びる方向の全長の1/4のいずれか短い方の長さの範囲であることが更に好ましく、最小値が8mm、最大値が10mm又はハニカム構造体のセルの延びる方向の全長の1/5のいずれか短い方の長さの範囲であることが更に好ましい。スリット深さD1と、開口面積縮小部材深さD2との差が、30mm又はハニカム構造体のセルの延びる方向の全長の1/2のいずれか短い方の長さより大きいと、スリットを通過する排ガスの量が多くなり、隔壁を透過する排ガスの量が少なくなるため、十分な浄化効率が得られないことがある。
【0042】
開口面積縮小部材6を構成する材料としては、ハニカム構造体の隔壁の材料として挙げたものを好適に使用することができ、隔壁の材料と同じであることが更に好ましい。
【0043】
本実施形態のハニカム構造体は、図1?図3に示すように、第1のセル4aと第2のセル4bとが交互に並ぶセルの列5の流出側端部において、セルの列5を縦断するように隔壁1及び開口面積縮小部材6にスリット7が形成されている。スリット7が形成されるセルの列5は、外周壁11を含むセル間に亘るセルの列5であることが好ましい。この場合、セルの列5の両端に位置するセル4,4は、ハニカム構造体100の最外周に位置するセル4になり、外周壁11にもスリット7が形成されることになる。スリット7は、ハニカム構造体100のセルの列5の全てに形成されることが好ましいが、セルの列5の数の25%以上に形成されていることが好ましく、50%以上に形成されていることが更に好ましい。スリット7の幅は、セル4の幅の30?90%であることが好ましく、40?80%であることが更に好ましい。セル4の幅は、セルの延びる方向に直交する断面において、流路の一辺の長さである(隔壁の厚さは含まれない)。30%より狭いと、排ガス通過時の圧力損失が大きくなることがあり、90%より広いと、浄化効率が低下することがある。全てのスリットの幅が同じであることが好ましいが、部位により異なっていてもよい。例えば、排ガス流量の大きい中央部ではスリット幅を狭くし、排ガス流量の少ない外周部ではスリット幅を広くするのも、好適な実施態様の1つである。スリット7は、セル4の中央を切断するように
形成されることが好ましい。スリット7が形成されたセルの列5が、図2に示すように、流出側の端面3において互いに平行に並ぶ複数のセルの列5a、及び平行に並ぶ複数のセルの列5aと交差する、他の互いに平行に並ぶ複数のセルの列5bであることが好ましい。セル4のセルの延びる方向に直交する断面の形状が四角形の場合、セルの列5aとセルの列5bとは直交する。
【0044】
スリット7の、セルの延びる方向における深さD1の下限値が、1mmであり、上限値が30mm又はハニカム構造体のセルの延びる方向の全長の1/2のいずれか短い方の長さであることが好ましい。1mmより短いと、圧力損失が低減され難くなることがある。30mm又はハニカム構造体のセルの延びる方向の全長の1/2のいずれか短い方の長さより長いと、排ガスの浄化効率が低減することがある。全てのスリットのスリット深さD1が同じであることが好ましいが、異なっていてもよい。スリットの幅、深さは、ノギスにより測定し、最も狭い部分の値を幅、深さとする。」

(f)「【図1】

【図2】

【図3】



前記(a)によれば、甲1には、流入側の端面から流出側の端面まで貫通する流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備え、隔壁は、気孔率が50?80%であり、且つ平均細孔径が13?70μmであるハニカム構造体に関する発明が記載されており、同じく(c)の【0019】及び(f)の【図2】によれば、隔壁1は、図面上で複数のセルを区画形成するように縦と横に延び、交互に並ぶセル4aとセル4bそれぞれ2つずつに囲まれた交点部を有し、セルの縦及び横の列を縦断及び横断するようにセルの延びる方向に深さD1のスリット7が形成されており、同じく(c)の【0020】によれば、ハニカム構造体は、各種エンジン等から排出される排気ガスを浄化するためのハニカム触媒体の触媒担体として好適に用いることができ、例えば、隔壁の細孔の内表面、及び隔壁表面に触媒を担持することが記載されており、同じく(d)によれば、セル密度について、42?62セル/cm^(2)であることが更に好ましいと記載されており、同じく(e)の【0043】によれば、「スリット7の幅は、セル4の幅の30?90%であることが好ましく、40?80%であることが更に好ましい」と記載されている。
そうすると、甲1には、以下のハニカム構造体の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「流入側の端面から流出側の端面まで貫通する流体の流路となる複数のセル4を区画形成する多孔質の隔壁1を備え、前記複数のセル4の中の一部のセル4aは、流入側の端部の開口部が開口され且つ流出側の端部の開口部にその前記開口部の一部を塞ぐように開口面積縮小部材6が配設された第1のセルであり、残部のセル4bは、両端部の開口部が開口された第2のセルであり、
前記第1のセルと前記第2のセルとが交互に配置され、隔壁1は、端面において、複数のセルを区画形成するように縦と横に延び、交互に並ぶセル4aとセル4bそれぞれ2つずつに囲まれた交点部を有し、
前記第1のセルと前記第2のセルとが交互に並ぶセルの列5の中の少なくとも一列の流出側端部において、前記セルの列5を縦断するように前記隔壁1及び前記開口面積縮小部材6に深さD1のスリット7が形成され、前記スリット7の、セルの延びる方向における深さD1が、前記開口面積縮小部材の、セルの延びる方向における深さD2より深く形成されており、
隔壁1は、気孔率が50?80%であり、且つ平均細孔径が13?70μmであり、セル4のセル密度は、好ましくは42?62セル/cm^(2)であり、スリット7の幅は、セル4の幅の30?90%であることが好ましく、40?80%であることが更に好ましく、
各種エンジン等から排出される排気ガスを浄化するためのハニカム触媒体の触媒担体として好適に用いることができ、例えば、隔壁の細孔の内表面、及び隔壁表面に触媒を担持するハニカム構造体。」

(イ)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「隔壁1」と「交点部」とは本件発明1の「隔壁」と「交点部」とに相当し、甲1発明における「隔壁の細孔の内表面、及び隔壁表面」に「担持」された「触媒」は本件発明1の「配設された触媒層」に相当し、甲1発明における隔壁1の「スリット7」は、本件発明1の隔壁の「少なくとも一方の端部が切り欠かれた凹状部」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の複数の隔壁と、一の前記隔壁と他の前記隔壁とが交わる交点部とを有し、
前記隔壁の表面及び細孔の内表面の少なくとも一方に配設された触媒層を備え、
複数の前記隔壁は、少なくとも一方の端部が切り欠かれた凹状部を有する切欠き隔壁を含むハニカム構造体」
の点で一致し、
少なくとも、以下の点で相違する。

本件発明1は、触媒層が配設されない状態における隔壁の気孔率が、20?70%であるのに対し、甲1発明では、隔壁1は、気孔率が50?80%である点(以下、「相違点1」という。)、
本件発明1は、触媒層が配設されない状態における隔壁における細孔の平均細孔径が、1?60μmであるのに対し、甲1発明では、隔壁1は、平均細孔径が13?70μmである点(以下、「相違点2」という。)、
本件発明1は、隔壁中の切欠き隔壁の割合は、1?100%であるのに対し、甲1発明では、セルの列5を縦断するように隔壁1及び開口面積縮小部材6にスリット7が形成されている点(以下、「相違点3」という。)、
本件発明1は、触媒層が配設されない状態において、切欠き隔壁の凹状部は、端面において隣り合う交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの10?200%の深さを有するのに対し、甲1発明では、スリット7の、セルの延びる方向における深さD1が、開口面積縮小部材の、セルの延びる方向における深さD2より深く形成されていて、セル4のセル密度は、好ましくは42?62セル/cm^(2)である点(以下、「相違点4」という。)、
本件発明1は、触媒層が配設されない状態において、切欠き隔壁の凹状部は、端面において隣り合う交点部の間の距離を基準幅としたとき、前記基準幅の33?100%の幅を有するのに対し、甲1発明では、スリット7の幅は、セル4の幅の30?90%であることが好ましく、40?80%であることが更に好ましいとされている点(以下、「相違点5」という。)、
本件発明1の切欠き隔壁の凹状部は、「流体が」「ハニカム構造部に流入する側の端部である流入側の端部に設けられる」のに対し、甲1発明では、スリット7は、流出側端部において、セルの列5を縦断するように隔壁1及び開口面積縮小部材6に深さD1のものが形成される点(以下、「相違点6」という。)、
本件発明1の複数のセルは、「流路が目封止されているものを除く」と特定されているのに対し、甲1発明では、複数のセル4の中の一部のセル4aは、流入側の端部の開口部が開口され且つ流出側の端部の開口部にその前記開口部の一部を塞ぐように開口面積縮小部材6が配設されている点(以下、「相違点7」という。)。

事案に鑑み、相違点6についてまず検討すると、甲1には、流出側端部にスリット(凹状部)を形成することは開示されているものの、このスリットを排ガスなどの流体の流入側端部に形成することについては記載も示唆もない。
よって、この相違点6は実質的なものであり、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、相違点1?5、7について検討するまでもなく、新規性欠如の理由はない。
本件発明3についても同様である。

ウ.進歩性欠如について
本件発明1と甲1発明との対比については、上記イ.のとおりである。
上記相違点6についてさらに検討する。
上記イ.(ア)(b)のとおり、甲1の【0015】には、「第1のセルの流出側の端面におけるセルの開口部の面積が開口面積縮小部材によって小さくなっているため(セルの開口部が、開口面積縮小部材に形成されたスリットとして開口されているため)、第1のセルに流入した流体の一部を、第1のセルを区画形成する隔壁を透過させて隣接する第2のセルの内部に積極的に流出させることができ、排気ガスに含まれる有害物質を効率的に浄化することができる。」と記載されており、甲1発明は、スリットを形成することにより効率的な浄化の効果が発揮されるといえるが、流出側の端面における開口面積縮小部材にスリットを形成することが重要な構成となっているものである。
そうすると、甲1発明において、スリットを流入側の端部に形成することについては、全く動機付けが存在しないから、甲1発明において相違点6を解消することは当業者であっても容易なことではない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、相違点1?5、7について検討するまでもなく、進歩性欠如の理由はない。
本件発明2、3についても同様である。

第5 上記取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1.甲第2号証(特開2006-281039号公報)を主たる引用例とした新規性欠如及び進歩性欠如の申立理由について
(1)当審の判断
甲第2号証には、円盤状の砥石を用いて加工して得られるセラミックハニカム構造体について記載されており、加工により隔壁の端面に欠けが生じたものについて記載されているが、甲第2号証に記載された発明は【0006】の記載から見て、隔壁に欠けが生じ難くするものであって、本件発明1の切欠き隔壁についての特定に相当するもの、例えば、切欠き隔壁の割合が1?100%であること、切欠き隔壁の凹状部は、端面において隣り合う交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの10?200%の深さを有するものであること、切欠き隔壁の凹状部は、端面において隣り合う交点部の間の距離を基準幅としたとき、前記基準幅の33?100%の幅を有するものであること等については、記載も示唆もない。
よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではないし、当該発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
本件発明2、3についても同様である。
したがって、理由はない。

(2)申立人の主張について
申立人は、本件発明1で特定されている凹状部の深さや幅の数値限定は格別のものでないから進歩性がないと主張し、特に意見書において、凹率、凹深さ、凹幅に対する浄化率のグラフとして、本件明細書に記載された実施例(白丸)と比較例(黒丸)をプロットをしたものを示している。
ここで示されたグラフでは、大部分の白丸が浄化率60%程度以上であって黒丸よりも高い浄化率となっている中、たしかに、比較例4、8の黒丸は白丸と大きな差がないようにも見える。しかし、本件明細書を見てみると、比較例4は表3により凹深さ/セルピッチが213%のものであり、即ち、「切欠き隔壁の凹状部は、端面において隣り合う交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの10?200%の深さを有するものであること」における上限の200%を超え、そのことにより、浄化率は高くなるものの、本件明細書の【0020】に記載されているようにハニカム構造体の強度が低下する問題があり、表3においてアイソスタティック強度の評価がNGとなっていると理解されるものであるし、比較例8は表1により気孔率が71%のものであり、即ち、「隔壁の気孔率が、20?70%であり」における上限を超え、そのことにより、浄化率は高くなるものの、本件明細書【0026】に記載されているようにハニカム構造体の強度が低下する問題があり、表3においてアイソスタティック強度の評価がNGとなっていると理解されるものである。
そうすると、本件発明1で特定されている数値範囲の凹状部の深さや幅により、ハニカム構造体の強度を保ちつつ、浄化率を高くすることができているといえるから、数値限定による差が顕著でないということはなく、主張は採用できない。

2.甲第3号証(特開2005-262097号公報)、甲第4号証(特開2003-33664号公報)を主たる引用例とした進歩性欠如の申立理由について
甲第3、4号証には、それぞれセラミックハニカムフィルタの発明、排ガス浄化用ハニカム構造体の発明が記載されているものの、いずれにも、本件発明1の切欠き隔壁についての特定に相当する凹状部の深さや幅について記載も示唆もなく、上記1.で検討したと同様である。
よって、理由はない。

3.実施可能要件違反について
申立理由は、要すれば、本件明細書には、実施例、比較例として、凹状部の数値や評価結果の異なるハニカム構造体が複数示されているが、何の条件を調節すれば実施できるのかが理解できないというものである。
そこで、本件明細書の記載をみてみるに、【0055】には、「得られたハニカム焼成体の端面を、♯400の砥石で研磨して、一部の隔壁の端部に凹状部を形成して切欠き隔壁を有する切欠きハニカム焼成体を得た。砥石で研磨する際には、隔壁の壁面に対して90°の方向に沿って砥石を動かした。」と記載されている。
そうすると、隔壁への切欠きの形成は、砥石での研磨により行えることが理解できるし、その動かし方や研磨の程度によって、得られる凹状部が異なってくることは自明といえる。
してみれば、何の条件を調節すれば実施できるのかが理解できないということにはならないから、理由はない。

第6 むすび
以上のとおり、請求項1?3に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ハニカム構造体
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関する。更に詳しくは、NO_(X)の浄化性能が向上されたハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、先進国におけるディーゼル車やトラックのNO_(X)規制として更に厳しいものが検討されている。ここで、NO_(X)処理としては、SCRが一般的に使用されており、実際には、ハニカム形状の基材にSCR触媒(具体的にはゼオライトなど)が担持されたハニカム構造体が知られている。
【0003】
このようなハニカム構造体としては、セルの断面形状を設定することにより、浄化性能を向上させるものなどが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-29938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、最近では、NO_(X)浄化率を上げるために、SCR触媒量を増加させたり、セル密度を高くしてガスと触媒の接触を上げたりするなどの観点から、高気孔率のハニカム構造体の開発が検討されている。
【0006】
このような検討がなされているが、特許文献1に記載のハニカム構造体などは、NO_(X)の浄化性能について更なる改良の余地があった。
【0007】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものである。本発明は、NO_(X)の浄化性能が向上されたハニカム構造体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の複数の隔壁と、一の前記隔壁と他の前記隔壁とが交わる交点部とを有するハニカム構造部(但し、前記セルからなる前記流路が目封止されているものを除く)と、前記ハニカム構造部の前記隔壁の少なくとも表面に配設された触媒層と、を備え、前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁の気孔率が、20?70%であり、前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁における細孔の平均細孔径が、1?60μmであり、複数の前記隔壁は、少なくとも一方の端部が切り欠かれた凹状部を有する切欠き隔壁を含み、前記隔壁中の前記切欠き隔壁の割合は、1?100%であり、前記触媒層が配設されない状態において、前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記端面において隣り合う前記交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの10?200%の深さを有し、かつ、隣り合う前記交点部の間の距離を基準幅としたとき、前記基準幅の33?100%の幅を有する部分であり、前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記流体が前記ハニカム構造部に流入する側の端部である流入側の端部に設けられるハニカム構造体。
【0009】
[2] 前記隔壁中の前記切欠き隔壁の割合は、1?100%である前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0010】
[3] 前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記端面において隣り合う前記交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの50?150の深さを有する前記[1]または[2]に記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0011】
本発明のハニカム構造体は、NO_(X)の浄化性能が向上されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のハニカム構造体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明のハニカム構造体の一実施形態の流入端面の一部を拡大して模式的に示す平面図である。
【図3】本発明のハニカム構造体の一実施形態のセルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明のハニカム構造体の一実施形態のセルの延びる方向に平行な断面の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0014】
(1)ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体の一実施形態は、図1?図4に示すハニカム構造体100である。ハニカム構造体100は、一方の端面である流入端面11から他方の端面である流出端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を区画形成する多孔質の複数の隔壁1と、一の隔壁1と他の隔壁1とが交わる交点部3とを有するハニカム構造部10を備えている。また、ハニカム構造体100は、ハニカム構造部10の隔壁1の表面に配設された触媒層8を備えている。ハニカム構造体100は、隔壁1の気孔率が、20?70%であり、隔壁1における細孔の平均細孔径が、1?60μmである。ハニカム構造体100は、複数の隔壁1が、少なくとも一方の端部が切り欠かれた凹状部30を有する切欠き隔壁20を含み、隔壁1中の切欠き隔壁20の割合が、1?100%である。そして、ハニカム構造体100の端面において隣り合う交点部3の中心O間の距離を基準長さLとし、隣り合う交点部3の間の距離を基準幅Wとする。このとき、切欠き隔壁20の凹状部30は、上記基準長さLの10?200%の深さDを有し、かつ、上記基準幅Wの33?100%の幅を有している部分である。なお、図4に示す凹状部30は、基準幅Wの100%の幅を有している。また、隔壁1の気孔率、細孔の平均細孔径、凹状部30の深さD、及び幅は、触媒層が配設されていない状態における値である。
【0015】
このようなハニカム構造体100は、所定の割合で切欠き隔壁20が存在するため、この切欠き隔壁20の凹状部30によって排ガスGが流れる際に空気が拡散することになる。そのため、ハニカム構造体100は、排ガスGと触媒(触媒層)との接触機会が多くなり(即ち、排ガスGと触媒との接触時間及び接触面積が増加し)、NO_(X)の浄化性能が向上されるものである。
【0016】
図1は、本発明のハニカム構造体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明のハニカム構造体の一実施形態の流入端面の一部である領域Pを拡大して模式的に示す平面図である。図2は、ハニカム構造体の端面について、この端面に対して斜め方向から見た拡大図である。図3は、本発明のハニカム構造体の一実施形態のセルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。図4は、本発明のハニカム構造体の一実施形態のセルの延びる方向に平行な断面の一部を拡大して模式的に示す断面図である。図4は、セルの延びる方向に平行な断面のうち、交点部3の中心Oを通過するものである。
【0017】
(1-1)ハニカム構造部:
ハニカム構造部10は、上述の通り、多孔質の複数の隔壁1と、一の隔壁1と他の隔壁1とが交わる交点部3とを有している。そして、複数の隔壁1は、少なくとも一方の端部が切り欠かれた凹状部30を有する切欠き隔壁20を含むものである。このような切欠き隔壁20が含まれることにより、ハニカム構造部10において排ガスGが流れる際に空気が拡散することになる。
【0018】
ここで、「凹状部」は、上記条件を満たすものを言う。つまり、上記条件を満たさない切欠きは凹状部には該当しないことになる。そして、上記条件を満たす切欠きを形成することにより、NO_(X)の浄化性能が向上することになる。
【0019】
凹状部30は、その深さDが、基準長さLの50?150%であることが好ましい。別言すれば、切欠き隔壁20の凹状部30は、端面において隣り合う交点部3の中心O間の距離を基準長さLとしたとき、この基準長さLの50?150%の深さを満たすものとすることが好ましい。
【0020】
凹状部30の深さDについて上記範囲とすることにより、ハニカム構造体に流入する排ガスが凹状部によりセル内で拡散するため、排ガスと触媒の接触性が良化し、NO_(X)の浄化性能が向上する。凹状部30の深さDが、上記基準長さLの10%未満であると、ハニカム構造体に流入する排ガスがセル内を拡散せずに通過するため、NO_(X)の浄化性能が十分に得られない。凹状部30の深さDが、上記基準長さLの200%超であると、ハニカム構造体の強度が低下するため、缶体に収納する際にハニカム構造体が破損する場合がある。
【0021】
なお、「凹状部の深さ」は、ハニカム構造部の端面から最も遠い部分までの距離をいう。図4には、ハニカム構造部の端面を破線で示す。
【0022】
凹状部30は、その幅が、基準幅Wの33?100%であり、基準幅Wの50?80%であることが更に好ましい。「凹状部の幅」は、ハニカム構造部の端面から凹状部を見たとき、凹状部の開口の最も広い幅のことをいう。
【0023】
凹状部30の幅について上記範囲とすることにより、ハニカム構造体に流入する排ガスが凹状部によりセル内で拡散するため、排ガスと触媒の接触性が良化し、NO_(X)の浄化性能が向上する。凹状部30の幅が、上記基準幅Wの33%未満であると、ハニカム構造体に流入する排ガスがセル内を拡散せずに通過するため、NO_(X)の浄化性能が十分に得られない。凹状部30の幅が、上記基準幅Wの100%超であると、ハニカム構造体の強度が低下するため、缶体に収納する際にハニカム構造体が破損する場合がある。
【0024】
なお、「凹状部の深さ」及び「凹状部の幅」は、それぞれ、合計40個の切欠き隔壁について測定したときの平均値とする。具体的には、ハニカム構造体の端面において隔壁の延びる複数の方向を決定し、各方向に沿って存在する切欠き隔壁を任意に40個それぞれ選択する。例えば、セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状が四角形のセルが形成されたハニカム構造体の場合、ハニカム構造体の端面において隔壁の延びる方向は2方向(縦方向と横方向)ある。そのため、各方向(縦方向と横方向のそれぞれ)に沿って存在する切欠き隔壁を任意に40個それぞれ選択する。
【0025】
隔壁1中の切欠き隔壁20の割合は、1?60%であることが好ましく、20?50%であることが更に好ましい。隔壁1中の切欠き隔壁20の割合について上記範囲とすることにより、ハニカム構造体に流入する排ガスが凹状部によりセル内で拡散するため、排ガスと触媒の接触性が良化し、NO_(X)の浄化性能が向上する。なお、隔壁1中の切欠き隔壁20の割合が1%未満であると、ハニカム構造体に流入する排ガスがセル内を拡散せずに通過するため、NO_(X)の浄化性能が十分に得られない。
【0026】
隔壁1の気孔率は、20?70%であることが必要であり、30?65%が好ましく、45?60%が特に好ましい。このような範囲とすることにより、ハニカム構造体に流入する排ガスが凹状部によりセル内で拡散するため、排ガスと触媒の接触性が良化し、NO_(X)の浄化性能が向上する。隔壁の気孔率が、20%未満であると、ハニカム構造体に触媒を担持させる際に、隔壁の細孔内に触媒が浸入し難く、ハニカム構造体の隔壁の表面にのみ触媒が担持する傾向がある。そのため、ハニカム構造体内における触媒と排ガスの接触が悪化し、NO_(X)の浄化性能が十分に得られない。70%超であると、ハニカム構造体の強度が低下するため、缶体に収納する際にハニカム構造体が破損する場合がある。気孔率は、水銀ポロシメータによって測定した値である。なお、隔壁1の気孔率は、触媒層が配設されない状態(即ち、触媒を担持させる前の状態)における隔壁1の気孔率を意味する。
【0027】
隔壁1における細孔の平均細孔径は、1?60μmであることが必要であり、5?55μmが好ましく、15?30μmが特に好ましい。このような範囲とすることにより、ハニカム構造体に流入する排ガスが凹状部によりセル内で拡散するため、排ガスと触媒の接触性が良化し、NO_(X)の浄化性能が向上する。平均細孔径が、1μm未満であると、ハニカム構造体に触媒を担持させる際に、隔壁の細孔内に触媒が浸入し難く、ハニカム構造体の隔壁の表面にのみ触媒が担持する傾向がある。60μm超であると、ハニカム構造体の強度が低下するため、缶体に収納する際にハニカム構造体が破損する場合がある。平均細孔径は、水銀ポロシメータ測定した値である。なお、隔壁1における細孔の平均細孔径は、触媒層が配設されない状態(即ち、触媒を担持させる前の状態)における隔壁1における細孔の平均細孔径を意味する。
【0028】
隔壁1の厚さは、60?300μmであることが好ましく、90?140μmであることが特に好ましい。隔壁1の厚さが上記下限値未満であると、ハニカム構造体100の強度が低くなることがある。上記上限値超であると、圧力損失が高くなることがある。
【0029】
ハニカム構造部10のセル密度については、特に制限はない。ハニカム構造部10のセル密度は、31?140個/cm^(2)であることが好ましく、62?93個/cm^(2)であることが特に好ましい。セル密度が下限値未満であると、排ガスを流通させたときに、短時間で圧力損失が大きくなったり、ハニカム構造体100の強度が低くなったりすることがある。セル密度が上限値超であると、圧力損失が大きくなることがある。
【0030】
ハニカム構造部10のセル形状(セルが延びる方向に直交する断面におけるセル形状)としては、特に制限はない。セル形状としては、三角形、四角形、六角形、八角形、円形、あるいはこれらの組合せを挙げることができる。四角形のなかでは、正方形または長方形が好ましい。
【0031】
ハニカム構造部10は、コージェライト、炭化珪素、ムライト、アルミニウムチタネート及びアルミナからなる群より選択される少なくとも一種を主成分とすることができる。また、ハニカム構造部10は、コージェライト、炭化珪素、ムライト、アルミニウムチタネート及びアルミナからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。ここで、本明細書において「主成分」は、全体の中の50質量%を超える成分を意味する。
【0032】
ハニカム構造部10の形状は、特に限定されない。ハニカム構造部10の形状としては、円柱状、端面が楕円形の柱状、端面が「正方形、長方形、三角形、五角形、六角形、八角形等」の多角形の柱状、等が好ましい。図1に示すハニカム構造体100においては、ハニカム構造部10の形状は円柱状である。
【0033】
ハニカム構造部10には、外周コート層が形成されていてもよい。外周コート層の厚さは、500?3000μmであることが好ましく、1000?1500μmであることが更に好ましい。上記外周コート層の厚さが下限値未満であると、ハニカム構造体の強度が低下するため、缶体に収納する際にハニカム構造体が破損する場合がある。上限値超であると、外周コート層の体積が増加するため、耐熱衝撃性が低下し、ハニカム構造体に温度差が生じた際に破損するおそれがある。
【0034】
(1-2)触媒層:
触媒層は、少なくとも隔壁の表面に配設された層である。つまり、触媒層は、隔壁の表面の他に細孔の内表面に配設されてもよい。そして、この触媒層は、SCR触媒などの触媒から構成される層である。この触媒層によって、排ガス中のNO_(X)を良好に浄化することができる。
【0035】
触媒層の厚さは、特に制限はなく、従来公知の触媒層の厚さを適宜採用することができる。
【0036】
(2)ハニカム構造体の製造方法:
本発明のハニカム構造体は、以下の方法で製造することができる。即ち、本発明のハニカム構造体は、ハニカム焼成体作製工程と、端面研磨工程と、触媒担持工程と、を有する方法により製造できる。ハニカム焼成体作製工程は、ハニカム焼成体を作製する工程である。端面研磨工程は、ハニカム焼成体作製工程で作製したハニカム焼成体の端面を砥石や金網で研磨して切欠きハニカム焼成体を得る工程である。触媒担持工程は、切欠きハニカム焼成体の隔壁の表面に触媒を担持させて、ハニカム構造体を得る工程である。なお、「ハニカム焼成体」は、一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の複数の隔壁と、一の隔壁と他の隔壁とが交わる交点部とを有するものである。
【0037】
以下、本発明のハニカム構造体の製造方法について、工程毎に説明する。
【0038】
(2-1)ハニカム焼成体作製工程:
ハニカム焼成体作製工程は、セラミック原料が焼成されて形成された多孔質の隔壁を備えたハニカム焼成体を作製する工程である。ハニカム焼成体を作製する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。このハニカム焼成体作製工程は、具体的には、成形工程と、焼成工程とを有する。
【0039】
(2-1-1)成形工程:
まず、成形工程において、セラミック原料を含有するセラミック成形原料を成形して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム成形体を形成する。
【0040】
セラミック成形原料に含有されるセラミック原料としては、コージェライト化原料、コージェライト、炭化珪素、珪素-炭化珪素系複合材料、ムライト、チタン酸アルミニウム、からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。なお、コージェライト化原料とは、シリカが42?56質量%、アルミナが30?45質量%、マグネシアが12?16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミック原料である。そして、コージェライト化原料は、焼成されてコージェライトになるものである。
【0041】
また、セラミック成形原料は、上記セラミック原料に、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、造孔材、界面活性剤等を混合して調製することができる。各原料の組成比は、特に限定されず、作製しようとするハニカム構造体の構造、材質等に合わせた組成比とすることが好ましい。
【0042】
セラミック成形原料を成形する際には、まず、セラミック成形原料を混練して坏土とし、得られた坏土をハニカム形状に成形する。セラミック成形原料を混練して坏土を形成する方法としては、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては、例えば、押出成形、射出成形等の公知の成形方法を用いることができる。具体的には、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0043】
ハニカム成形体の形状としては、円柱状、楕円状、端面が「正方形、長方形、三角形、五角形、六角形、八角形等」の多角柱状等を挙げることができる。
【0044】
また、上記成形後に、得られたハニカム成形体を乾燥してもよい。乾燥方法は、特に限定されるものではない。例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。これらのなかでも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥または熱風乾燥を単独でまたは組合せて行うことが好ましい。
【0045】
(2-1-2)焼成工程:
次に、ハニカム成形体を焼成してハニカム焼成体を作製する。ハニカム成形体の焼成(本焼成)は、仮焼したハニカム成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するために行われる。焼成条件(温度、時間、雰囲気等)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成温度は、1410?1440℃が好ましい。また、焼成時間は、最高温度でのキープ時間として、4?8時間が好ましい。仮焼、本焼成を行う装置としては、電気炉、ガス炉等を用いることができる。
【0046】
(2-2)端面研磨工程:
端面研磨工程は、ハニカム焼成体の端面を砥石や金網で研磨して切欠きハニカム焼成体を得る工程である。砥石としては、例えば、#120?#1000の砥石などを採用することができる。砥石による研磨の方法は、隔壁の端部に凹状部が形成されるような方法を適宜採用することができる。例えば、砥石の研磨部を、特にハニカム構造体の隔壁と接触させるようにハニカム構造体の端面を強く研磨することで隔壁の端部に凹状部を形成することができる。このとき、砥石を移動させる方向としては、特に制限はないが、隔壁の厚さ方向(隔壁の壁面に対して90°の方向)に沿う方向とすることが好ましい。具体的には、セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状が四角形のセルが形成されたハニカム構造体の場合、対向する隔壁の一方から他方に向かうように、一方向または往復させながら砥石を移動させることが好ましい。四角形のセルが形成されたハニカム構造体は、向かい合う隔壁が2対存在するため、それぞれにおいて、対向する隔壁の一方から他方に向かうように砥石を移動させることが好ましい。
【0047】
(2-3)触媒担持工程:
本工程は、切欠きハニカム焼成体の隔壁の表面に触媒を担持してハニカム構造体を得る工程である。触媒を切欠きハニカム焼成体に担持させる方法は、従来公知の方法を適宜採用することができる。
【0048】
担持させる触媒としては、SCR触媒などが挙げられる。
【0049】
(2-4)その他の工程:
端面研磨工程を行って得られた切欠きハニカム焼成体の外周に、外周コート材を塗布して外周コート層を形成してもよい。外周コート層を形成することにより、ハニカム構造体に外力が加わった際にハニカム構造体が欠けてしまうことを防止できる。
【0050】
外周コート材としては、無機繊維、コロイダルシリカ、粘土、SiC粒子等の無機原料に、有機バインダ、発泡樹脂、分散剤等の添加材を加えたものに水を加えて混練したものなどを挙げることができる。外周コート材を塗布する方法は、「切削されたハニカム焼成体」をろくろ上で回転させながらゴムへらなどでコーティングする方法等を挙げることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を、実施例により更に具体的に説明する。本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
まず、セラミック原料を含有する成形原料を用いて、ハニカム成形体を成形するための坏土を調製した。セラミック原料として、コージェライト化原料を用いた。コージェライト化原料に、分散媒、有機バインダ、分散剤、造孔材を添加して、成形用の坏土を調製した。分散媒の添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、50質量部とした。有機バインダの添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、5量部とした。造孔材の添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、5質量部とした。得られたセラミック成形原料を、ニーダーを用いて混練して、坏土を得た。
【0053】
次に、得られた坏土を、真空押出成形機を用いて押出成形し、ハニカム成形体を得た。
【0054】
次に、得られたハニカム成形体を高周波誘電にて加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥した。その後、1400℃で8時間焼成して、円柱状のハニカム焼成体を得た。
【0055】
次に、得られたハニカム焼成体の端面を、♯400の砥石で研磨して、一部の隔壁の端部に凹状部を形成して切欠き隔壁を有する切欠きハニカム焼成体を得た。砥石で研磨する際には、隔壁の壁面に対して90°の方向に沿って砥石を動かした。
【0056】
次に、得られた切欠きハニカム焼成体の隔壁の表面に触媒を担持させて、ハニカム構造体を作製した。触媒種は、銅ゼオライトであり、触媒量は120g/Lであった。
【0057】
得られたハニカム構造体は、セルの延びる方向に直交する断面の直径が330.2mmの円形であった。また、ハニカム構造体は、セルの延びる方向における長さが152.4mmであった。また、ハニカム構造体は、セル密度が62個/cm^(2)であり、隔壁の厚さが110μmであった。ハニカム構造体の各測定値を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
また、切欠き隔壁の凹状部(図4参照)は、幅が0.40mmであり、深さDが0.20mmであった。なお、凹状部の幅及び深さは、ハニカム構造体の端面において任意の切欠き隔壁を十字方向に任意に40個選択し、その平均値を算出した値とした。
【0060】
得られたハニカム構造体について、以下に示す方法で、「浄化率」、及び「アイソスタティック強度」の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
[浄化率]
まず、ハニカム構造体に、NO_(X)を含む試験用ガスを流した。その後、このハニカム構造体から排出されたガスのNO_(X)量をガス分析計で分析した。
【0062】
ハニカム構造体に流入させる試験用ガスの温度を200℃とした。なお、ハニカム構造体および試験用ガスは、ヒーターにより温度調整した。ヒーターは、赤外線イメージ炉を用いた。試験用ガスは、窒素に、二酸化炭素5体積%、酸素14体積%、一酸化窒素350ppm(体積基準)、アンモニア350ppm(体積基準)および水10体積%を混合させたガスを用いた。この試験用ガスに関しては、水と、その他のガスを混合した混合ガスとを別々に準備しておき、試験を行う時に配管中でこれらを混合させて用いた。ガス分析計は、「HORIBA社製、MEXA9100EGR」を用いた。また、試験用ガスがハニカム構造体に流入するときの空間速度は、100,000(時間^(-1))とした。
【0063】
「NO_(X)浄化率」は、試験用ガスのNO_(X)量から、ハニカム構造体から排出されたガスのNO_(X)量を差し引いた値を、試験用ガスのNO_(X)量で除算し、100倍した値である。浄化性能の評価は、基準ハニカム触媒体のNO_(X)浄化率に対して、NO_(X)浄化率が20%以上高まった場合を「A」とした。NO_(X)浄化率が10%以上20%未満高まった場合を「B」とした。NO_(X)浄化率が5%以上10%未満高まった場合を「C」とした。NO_(X)浄化率が0%以上5%未満高まった場合あるいはNO_(X)浄化率が低下した場合を「D」とした。浄化性能の評価については、A?Cの場合を合格とし、Dの場合を不合格とした。なお、「基準ハニカム触媒体のNO_(X)浄化率に対して、NO_(X)浄化率が20%以上高まった場合」とは、算出されたNO_(X)浄化率から、基準ハニカム触媒体のNO_(X)浄化率を差し引いた値が20%以上であることを意味する。即ち、算出されたNO_(X)浄化率が61%であり、基準ハニカム触媒体のNO_(X)浄化率が50%である場合、61%から50%を差し引いた値である11%が高まった値となる。そして、この場合の評価は「B」となる。
【0064】
[アイソスタティック強度]
アイソスタティック強度の測定は、社団法人自動車技術会発行の自動車規格(JASO規格)のM505-87で規定されているアイソスタティック破壊強度試験に基づいて行った。アイソスタティック破壊強度試験は、ゴムの筒状容器に、ハニカム構造体を入れてアルミ製板で蓋をし、水中で等方加圧圧縮を行う試験である。
【0065】
即ち、アイソスタティック破壊強度試験は、缶体に、ハニカム構造体が外周面把持される場合の圧縮負荷加重を模擬した試験である。このアイソスタティック破壊強度試験によって測定されるアイソスタティック強度は、ハニカム触媒体が破壊したときの加圧圧力値(MPa)で示される。
【0066】
アイソスタティック強度が、1.0MPa以上の場合を「OK」(合格)、1.0MPa未満の場合を「NG」(不合格)とした。
【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
表3,表4において、「凹幅」は、端面において切欠き隔壁に形成された凹状部の延びる方向の長さ(図4中、符号「W」で示す方向の凹状部の長さ)を示す。「セルピッチ」は、端面において隣り合う交点部の中心間の距離(基準長さ)L(図4参照)を示す。「凹深さ」は、凹状部の深さ(即ち、凹状部が形成された側の端面から最も遠い位置までの距離)D(図4参照)を示す。「凹率」は、全隔壁中の切欠き隔壁の割合(%)を示す。
【0071】
(実施例2?59、比較例1?11)
表1,表2に示すように条件を変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を得た。得られたハニカム構造体について、「浄化率」、及び「アイソスタティック強度」の各評価を行った。結果を表3,表4に示す。
【0072】
表3,表4から、実施例1?59のハニカム構造体は、比較例1?11のハニカム構造体に比べて、NO_(X)の浄化性能が向上されている。また、浄化性能向上のため、ハニカム構造体の少なくとも一方の端面に、本発明に規定された範囲の切欠きが存在したとしても、ハニカム構造体のアイソスタティック強度が実用上の下限値である1.0MPaを維持されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のハニカム構造体は、自動車等の排ガスを浄化するフィルタとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1:隔壁、2:セル、3:交点部、10:ハニカム構造部、11:流入端面、12:流出端面、8:触媒層、20:切欠き隔壁、30:凹状部、100:ハニカム構造体、D:深さ、L:基準長さ、O:中心、P:領域、W:基準幅。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端面である流入端面から他方の端面である流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の複数の隔壁と、一の前記隔壁と他の前記隔壁とが交わる交点部とを有するハニカム構造部(但し、前記セルからなる前記流路が目封止されているものを除く)と、
前記ハニカム構造部の前記隔壁の表面及び細孔の内表面の少なくとも一方に配設された触媒層と、を備え、
前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁の気孔率が、20?70%であり、
前記触媒層が配設されない状態における前記隔壁における細孔の平均細孔径が、1?60μmであり、
複数の前記隔壁は、少なくとも一方の端部が切り欠かれた凹状部を有する切欠き隔壁を含み、
前記隔壁中の前記切欠き隔壁の割合は、1?100%であり、
前記触媒層が配設されない状態において、前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記端面において隣り合う前記交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの10?200%の深さを有し、かつ、隣り合う前記交点部の間の距離を基準幅としたとき、前記基準幅の33?100%の幅を有する部分であり、
前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記流体が前記ハニカム構造部に流入する側の端部である流入側の端部に設けられるハニカム構造体。
【請求項2】
前記隔壁中の前記切欠き隔壁の割合は、1?60%である請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記切欠き隔壁の前記凹状部は、前記端面において隣り合う前記交点部の中心間の距離を基準長さとしたとき、前記基準長さの50?150%の深さを有する請求項1または2に記載のハニカム構造体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-30 
出願番号 特願2016-62742(P2016-62742)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B01J)
P 1 651・ 121- YAA (B01J)
P 1 651・ 536- YAA (B01J)
P 1 651・ 537- YAA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 慶明  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 菊地 則義
金 公彦
登録日 2019-08-02 
登録番号 特許第6562861号(P6562861)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 ハニカム構造体  
代理人 渡邉 一平  
代理人 小池 成  
代理人 渡邉 一平  
代理人 小池 成  

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