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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01C
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01C
管理番号 1374922
異議申立番号 異議2019-700978  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-03 
確定日 2021-04-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6528293号発明「ダイナミック座標管理装置、ダイナミック座標管理方法、プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6528293号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-7]、8、9、10について訂正することを認める。 特許第6528293号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6528293号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成30年5月23日に出願され、令和元年5月24日にその特許権の設定登録がされ、同年6月12日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがあり、その経緯は、次のとおりである。

令和元年12月 3日 :特許異議申立人による請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立て
令和元年12月25日付け:通知書
令和2年 1月27日 :特許異議申立書の手続補正(申立人)
令和2年 4月15日付け:取消理由通知書
令和2年 6月11日 :意見書、訂正請求書の提出(被申立人)
令和2年 8月12日 :意見書の提出(申立人)
令和2年10月28日付け:取消理由通知書
令和3年 2月 1日 :意見書、訂正請求書の提出(被申立人)

2 訂正の適否
(1)訂正の内容
令和3年2月1日付け訂正請求は、特許第6528293号の明細書、及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし10について訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の通りである。なお、下線は訂正箇所を示し、令和2年6月11日付け訂正請求は、その後、本件訂正がなされたことにより、みなし取り下げとなった(特許法第120条の5第7項)。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 特定した再計算対象となる管理対象の座標を少なくとも示す変位情報を取得する変位情報取得部と、
前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、
を備え、
前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、
前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する
ダイナミック座標管理装置。」とあるのを、
「 特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部と、
前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、
を備え、
前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、
前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する
ダイナミック座標管理装置。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2?請求項7も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に
「 前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標の周囲の座標基準点を複数特定し、それら複数の座標基準点と前記管理対象の座標と四次元統合網平均計算とに基づいて、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新する
請求項1から請求項4の何れか一項に記載のダイナミック座標管理装置。」とあるのを、
「 前記変位情報更新部は、四次元統合網平均計算により、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新する
請求項1から請求項4の何れか一項に記載のダイナミック座標管理装置。」に訂正する。
請求項5の記載を引用する請求項6?請求項7も同様に訂正する。

ウ 訂正事項3
明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】に
「 本発明の第1の態様によれば、ダイナミック座標管理装置は、特定した再計算対象となる管理対象の座標を少なくとも示す変位情報を取得する変位情報取得部と、前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、を備え、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力することを特徴とする。」とあるのを、
「 本発明の第1の態様によれば、ダイナミック座標管理装置は、特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部と、前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、を備え、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力することを特徴とする。」に訂正する。

エ 訂正事項4
明細書の発明の詳細な説明の段落【0011】に
「 上述のダイナミック座標管理装置において、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標の周囲の座標基準点を複数特定し、それら複数の座標基準点と前記管理対象の座標と四次元統合網平均計算とに基づいて、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新してよい。
上述のダイナミック座標管理装置において、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標からの距離が所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が3以上の所定数か否かを判定し、前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数以上である場合には、それら座標基準点のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定し、前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数未満である場合には、前記所定距離を延伸し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数か否かの判定を繰り返し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数となった場合には、それら座標基準点の数のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定してよい。」とあるのを、
「 上述のダイナミック座標管理装置において、前記変位情報更新部は、四次元統合網平均計算により、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新してよい。
上述のダイナミック座標管理装置において、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標からの距離が所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が3以上の所定数か否かを判定し、前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数以上である場合には、それら座標基準点のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定し、前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数未満である場合には、前記所定距離を延伸し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数か否かの判定を繰り返し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数となった場合には、それら座標基準点の数のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定してよい。」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に
「 特定した再計算対象となる管理対象の座標を少なくとも示す変位情報を取得する変位情報取得部と、
前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、
を備え、
前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標の周囲の座標基準点を複数特定し、それら複数の座標基準点と前記管理対象の座標と四次元統合網平均計算とに基づいて、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新し、
前記変位情報更新部は、
前記管理対象の座標からの距離が所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が3以上の所定数か否かを判定し、
前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数以上である場合には、それら座標基準点のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定し、
前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数未満である場合には、前記所定距離を延伸し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数か否かを判定し、
前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数となった場合に前記延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点を特定する
ダイナミック座標管理装置。」とあるのを
「 特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部と、
前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、
を備え、
前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づく四次元統合網平均計算により、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新し、
前記変位情報更新部は、
前記管理対象の座標からの距離が所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が3以上の所定数か否かを判定し、
前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数以上である場合には、それら座標基準点のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定し、
前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数未満である場合には、前記所定距離を延伸し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数か否かを判定し、
前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数となった場合に前記延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点を特定する
ダイナミック座標管理装置。」と訂正する。

カ 訂正事項6
明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】に
「 上述のダイナミック座標管理装置において、前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新した前記管理対象情報を自立走行装置に出力してよい。
また本発明の第2の態様によれば、ダイナミック座標管理装置は、特定した再計算対象となる管理対象の座標を少なくとも示す変位情報を取得する変位情報取得部と、前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、を備え、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標の周囲の座標基準点を複数特定し、それら複数の座標基準点と前記管理対象の座標と四次元統合網平均計算とに基づいて、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新し、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標からの距離が所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が3以上の所定数か否かを判定し、前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数以上である場合には、それら座標基準点のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定し、前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数未満である場合には、前記所定距離を延伸し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数か否かを判定し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数となった場合に前記延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点を特定することを特徴とする。」とあるのを、
「 上述のダイナミック座標管理装置において、前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新した前記管理対象情報を自立走行装置に出力してよい。
また本発明の第2の態様によれば、ダイナミック座標管理装置は、特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部と、前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、を備え、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づく四次元統合網平均計算により、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新し、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標からの距離が所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が3以上の所定数か否かを判定し、前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数以上である場合には、それら座標基準点のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定し、前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数未満である場合には、前記所定距離を延伸し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数か否かを判定し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数となった場合に前記延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点を特定することを特徴とする。」に訂正する。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に
「 特定した再計算対象となる管理対象の座標を少なくとも示す変位情報を取得し、
前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する
ダイナミック座標管理方法。」とあるのを
「 特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得し、
前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する
ダイナミック座標管理方法。」と訂正する。

ク 訂正事項8
明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】に
「 本発明の第3の態様によれば、ダイナミック座標管理方法は、特定した再計算対象となる管理対象の座標を少なくとも示す変位情報を取得し、前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力することを特徴とする。」とあるのを、
「 本発明の第3の態様によれば、ダイナミック座標管理方法は、特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得し、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力することを特徴とする。」に訂正する。

ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に
「 ダイナミック座標管理装置のコンピュータのCPUに、
特定した再計算対象となる管理対象の座標を少なくとも示す変位情報を記憶部から取得する変位情報取得手段として機能させ、
前記管理対象の座標と、取得した今日の日時情報とに基づいて今日の最新の座標を演算し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを演算し、前記記憶部に記録されている前記管理対象の座標と移動方向ベクトルとを前記今日の最新の座標と当該座標の移動方向ベクトルとに更新する変位情報更新手段として機能させ、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を、出力装置を用いて所定の装置へ出力する出力手段として機能させる
プログラム。」とあるのを
「 ダイナミック座標管理装置のコンピュータのCPUに、
特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されている記憶部から取得する変位情報取得手段として機能させ、
前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時とに基づいて今日の最新の座標を演算し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを演算し、前記記憶部に記録されている前記管理対象の座標と移動方向ベクトルとを前記今日の最新の座標と当該座標の移動方向ベクトルとに更新する変位情報更新手段として機能させ、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を、出力装置を用いて所定の装置へ出力する出力手段として機能させる
プログラム。」と訂正する。

コ 訂正事項10
明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】に
「 本発明の第4の態様によれば、プログラムは、ダイナミック座標管理装置のコンピュータのCPUに、特定した再計算対象となる管理対象の座標を少なくとも示す変位情報を記憶部から取得する変位情報取得手段として機能させ、前記管理対象の座標と、取得した今日の日時情報とに基づいて今日の最新の座標を演算し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを演算し、前記記憶部に記録されている前記管理対象の座標と移動方向ベクトルとを前記今日の最新の座標と当該座標の移動方向ベクトルとに更新する変位情報更新手段として機能させ、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を、出力装置を用いて所定の装置へ出力する出力手段として機能させることを特徴とする。」とあるのを、
「 本発明の第4の態様によれば、プログラムは、ダイナミック座標管理装置のコンピュータのCPUに、特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されている記憶部から取得する変位情報取得手段として機能させ、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時とに基づいて今日の最新の座標を演算し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを演算し、前記記憶部に記録されている前記管理対象の座標と移動方向ベクトルとを前記今日の最新の座標と当該座標の移動方向ベクトルとに更新する変位情報更新手段として機能させ、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を、出力装置を用いて所定の装置へ出力する出力手段として機能させることを特徴とする。」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的について
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、変位情報取得部が取得する変位情報について、本件訂正前には、「特定した再計算対象となる管理対象の座標を少なくとも示す変位情報を取得する」とされていたものを、本件訂正後には、「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する」とするものであり、これは、取得する変位情報が「特定した再計算対象となる管理対象の座標」だけでなく、この「座標が算出された日時」も含むことを特定し、さらに、本件訂正前には、何から取得するか特定されていなかったものを、本件訂正後には、「管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する」点で特許請求の範囲を減縮するものである。
また、訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、変位情報更新部が「管理対象の座標を」「今日の最新の座標に更新」することについて、本件訂正前には、「取得した今日の日時情報に基づいて」更新するとされていたものを、本件訂正後には、「前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて」更新すると特定するものであり、これは、「取得した今日の日時情報」だけでなく、「管理対象の座標と座標が算出された日時と」、「管理対象の座標に基づいて」特定した「3以上の座標基準点との座標および移動速度」に基づいて管理対象の座標を更新する点で減縮しているから、特許請求の範囲を減縮するものである。
以上のことから、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無について
願書に添付した明細書の段落【0028】には、「データベース2は単位エリアごとに区切られた地図データを記憶する。地図データには、地図ID、各道路の座標や、道路上に設けられた通行境界線を示す座標などの管理対象座標情報が保持されている。当該座標は緯度、経度、標高、地殻変動に基づく単位時間当たりの過去の移動距離などの情報が含まれている。なお地図データと管理対象座標情報とは別々にデータベース2に記録されていてもよい」と記載され、段落【0029】に「変位情報取得部113はこの地図データに含まれる通行境界線の全ての座標を取得する(ステップS103)。変位情報取得部113はこの通行境界線の座標を再計算対象点として変位情報更新部14に出力する。」と記載されている。
さらに、段落【0056】には、「また変位情報更新部14は、所定道路の通行境界線の座標を示す再計算対象点について過去に算出された座標と当該座標における移動速度とをデータベース2から取得する(ステップS702)」ことが記載され、段落【0057】には、「そして変位情報更新部14は再計算対象点の座標を、特定電子基準点の座標が算出された日(本処理を行っている日)と同一の日の座標へと補正する(ステップS703)。この処理は上述の電子基準点における電子基準点化成値の補正と同様の処理である。そして変位情報更新部14は、それら同一日に統一して作成(化成)された再計算対象点における座標とその移動速度と、当該同一日の座標として算出された複数の特定電子基準点の座標およびその座標における移動速度とを用いて、四次元統合網平均計算式により、再計算対象点ごとの同一時点における推定値(座標と移動速度)を算出する(ステップS704)」ことが記載されている。
そして、上記段落【0057】における「電子基準点における電子基準点化成値の補正と同様の処理」とは、「電子基準点算出部12は、各電子基準点の座標と、その近傍(周辺)の3つ以上のIGS点の座標及びその単位期間あたりの移動速度とを用いて、基線解析によって各電子基準点の座標を化成し、電子基準点化成値を算出する」(段落【0039】)処理のことであり、これは、「日本全国のまたは定められた電子基準点についての電子基準点化成値(座標)をそれぞれ所定の期間毎(例えば一年や一ヶ月毎)に予め算出してお」(段落【0039】)き、「電子基準点算出部12は各電子基準点について算出した電子基準点化成値(座標)とその算出日時とを対応付けてデータベース2へ書き込んでお」(段落【0039】)いたものを取得して用いた処理であると解されるから、これと同様の処理として、願書に添付した明細書には、データベース2から、特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を取得することが実質的に記載されている。
したがって、願書に添付した明細書には、「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する」ことが記載されているといえる。
また、願書に添付した明細書の段落【0030】には、「変位情報更新部14は一つ目の再計算対象点を取得する(ステップS104)。変位情報更新部14は再計算対象点の周りの複数の電子基準点を特定する(ステップS105)。…例えば変位情報更新部14は再計算対象点の周りの電子基準点のうち、再計算対象点に直線距離が近い3つ以上の電子基準点を特定電子基準点と特定する」と記載され、さらに、段落【0031】には、「そして変位情報更新部14は再計算対象点を基準として特定した特定電子基準点の今日の最新の座標を取得し、その座標を用いて再計算対象点の最新の座標(緯度,経度)と移動速度とを算出する(ステップS107)」と記載されている。これらのことから、願書に添付した明細書には、「前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて」更新することが記載されているといえる。
以上のことから、訂正事項1に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記(ア)に示すように、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(エ)訂正事項1についてのまとめ
上記(ア)ないし(ウ)に示すように、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2
訂正事項2は、請求項1を直接及び間接的に引用する請求項5の記載を訂正するものであり、訂正事項1により、請求項1に係る発明の「変位情報更新部」は、「前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新すること」が特定されたため、請求項5に係る発明の変位情報更新部において、上記特定と重複する記載を削除するとともに「四次元統合網平均計算に基づいて」を「四次元統合網平均計算により」と訂正するものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ 訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とし、訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、上記ア(イ)に示す理由と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当しない。また、訂正事項3は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項4
訂正事項4は、訂正事項2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とし、訂正事項2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、上記イに示す理由と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当しない。また、訂正事項4は、上記訂正事項2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

オ 訂正事項5
(ア)訂正の目的について
訂正事項5に係る請求項8についての訂正は、変位情報取得部が取得する変位情報について、本件訂正前には、「特定した再計算対象となる管理対象の座標を少なくとも示す変位情報を取得する」とされていたものを、本件訂正後には、「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する」とするものであり、これは、取得する変位情報が「特定した再計算対象となる管理対象の座標」だけでなく、この「座標が算出された日時」も含むことを特定し、さらに、本件訂正前には、何から取得するか特定されていなかったものを、本件訂正後には、「管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する」点で特許請求の範囲を減縮するものである。
また、訂正事項5に係る請求項8についての訂正は、変位情報更新部が「管理対象の座標を」「最新の座標へ更新」することについて、本件訂正前には、「前記管理対象の座標に基づいて当該座標の周囲の座標基準点を複数特定し、それら複数の座標基準点と前記管理対象の座標と四次元統合網平均計算とに基づいて」更新するとされていたものを、本件訂正後には、「前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づく四次元統合網平均計算により」更新すると特定するものである。これは、座標基準点を特定することに関し、本件訂正前には、単に「管理対象の座標に基づいて」、「複数」特定するとされていたものを、本件訂正後には、管理対象の「座標から距離が近い」、座標基準点を「3以上」特定するとし、さらに、管理対象の座標の更新について、本件訂正前には、「複数の座標基準点と前記管理対象の座標と四次元統合網平均計算とに基づいて」更新するとされていたものを「3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づく四次元統合網平均計算により」更新すると特定するものであり、特許請求の範囲を減縮するものである。
以上のことから、訂正事項5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無について
願書に添付した明細書の段落【0028】には、「データベース2は単位エリアごとに区切られた地図データを記憶する。地図データには、地図ID、各道路の座標や、道路上に設けられた通行境界線を示す座標などの管理対象座標情報が保持されている。当該座標は緯度、経度、標高、地殻変動に基づく単位時間当たりの過去の移動距離などの情報が含まれている。なお地図データと管理対象座標情報とは別々にデータベース2に記録されていてもよい」と記載され、さらに段落【0029】に「変位情報取得部113はこの地図データに含まれる通行境界線の全ての座標を取得する(ステップS103)。変位情報取得部113はこの通行境界線の座標を再計算対象点として変位情報更新部14に出力する。」と記載されている。
さらに、段落【0056】には、「また変位情報更新部14は、所定道路の通行境界線の座標を示す再計算対象点について過去に算出された座標と当該座標における移動速度とをデータベース2から取得する(ステップS702)」ことが記載され、段落【0057】には、「そして変位情報更新部14は再計算対象点の座標を、特定電子基準点の座標が算出された日(本処理を行っている日)と同一の日の座標へと補正する(ステップS703)。この処理は上述の電子基準点における電子基準点化成値の補正と同様の処理である。そして変位情報更新部14は、それら同一日に統一して作成(化成)された再計算対象点における座標とその移動速度と、当該同一日の座標として算出された複数の特定電子基準点の座標およびその座標における移動速度とを用いて、四次元統合網平均計算式により、再計算対象点ごとの同一時点における推定値(座標と移動速度)を算出する(ステップS704)」ことが記載されている。
そして、上記段落【0057】における「電子基準点における電子基準点化成値の補正と同様の処理」とは、「電子基準点算出部12は、各電子基準点の座標と、その近傍(周辺)の3つ以上のIGS点の座標及びその単位期間あたりの移動速度とを用いて、基線解析によって各電子基準点の座標を化成し、電子基準点化成値を算出する」(段落【0039】)処理のことであり、これは、「日本全国のまたは定められた電子基準点についての電子基準点化成値(座標)をそれぞれ所定の期間毎(例えば一年や一ヶ月毎)に予め算出してお」(段落【0039】)き、「電子基準点算出部12は各電子基準点について算出した電子基準点化成値(座標)とその算出日時とを対応付けてデータベース2へ書き込んでお」(段落【0039】)いたものを取得して用いた処理であると解されるから、これと同様の処理として、願書に添付した明細書には、データベース2から、特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を取得することが実質的に記載されている。
また、願書に添付した明細書の段落【0030】には、「変位情報更新部14は一つ目の再計算対象点を取得する(ステップS104)。変位情報更新部14は再計算対象点の周りの複数の電子基準点を特定する(ステップS105)。…例えば変位情報更新部14は再計算対象点の周りの電子基準点のうち、再計算対象点に直線距離が近い3つ以上の電子基準点を特定電子基準点と特定する」と記載され、さらに、段落【0031】には、「そして変位情報更新部14は再計算対象点を基準として特定した特定電子基準点の今日の最新の座標を取得し、その座標を用いて再計算対象点の最新の座標(緯度,経度)と移動速度とを算出する(ステップS107)」と記載され、この算出の手法として、段落【0057】に「変位情報更新部14は、それら同一日に統一して作成(化成)された再計算対象点における座標とその移動速度と、当該同一日の座標として算出された複数の特定電子基準点の座標およびその座標における移動速度とを用いて、四次元統合網平均計算式により、再計算対象点ごとの同一時点における推定値(座標と移動速度)を算出する」と記載されている。これらのことから、願書に添付した明細書には、「前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づく四次元統合網平均計算により」管理対象の座標を更新することが記載されているといえる。
以上のことから、訂正事項5に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記(ア)に示すように、訂正事項5に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(エ)訂正事項5についてのまとめ
上記(ア)ないし(ウ)に示すように、訂正事項5に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

カ 訂正事項6
訂正事項6は、訂正事項5に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とし、訂正事項5に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、上記オ(イ)に示す理由と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当しない。また、訂正事項6は、上記訂正事項5に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

キ 訂正事項7
訂正事項7に係る請求項9についての訂正は、訂正事項1に係る請求項1についての訂正と同様の訂正事項であり、訂正事項1についての訂正が、上記アに示すように、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するのと同様に、訂正事項7についての訂正も、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ク 訂正事項8
訂正事項8は、訂正事項7に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とし、訂正事項7に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、上記キに示す理由と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当しない。また、訂正事項8は、上記訂正事項7に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項8に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ケ 訂正事項9
訂正事項9に係る請求項10についての訂正は、訂正事項1に係る請求項1についての訂正と同様の訂正事項であり、訂正事項1についての訂正が、上記アに示すように、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するのと同様に、訂正事項9についての訂正も、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

コ 訂正事項10
訂正事項10は、訂正事項9に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とし、訂正事項9に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、上記ケに示す理由と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当しない。また、訂正事項10は、上記訂正事項9に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項10に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2ないし7は請求項1の記載を直接または間接に引用する関係にあり、請求項1ないし7は、一群の請求項である。そして、上記訂正事項1ないし4に係る本件訂正は、一群の請求項である請求項1ないし7に対して明細書、特許請求の範囲の訂正を請求するものであって、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、上記訂正事項5ないし10に係る本件訂正前の請求項8ないし10は、いずれも他の請求項の記載を引用する請求項でなく、また、当該請求項の記載を他の請求項が引用するものでもないから、請求項ごとに訂正することができるものである。
そして、本件訂正は、本件訂正後の請求項1ないし10について訂正をすることを求めるものであり、一群の請求項ごとに請求されたものである。

(4)小括
上記のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-7]、8、9、10について訂正することを認める。

3 本件発明について
上記のように本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1ないし10に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件発明1」といい、他の請求項についても同様に「本件発明2」等という。)は、次のとおりである。

【請求項1】
特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部と、
前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、
を備え、
前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、
前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する
ダイナミック座標管理装置。

【請求項2】
前記変位情報は道路上の通行境界線を示す前記管理対象の座標を少なくとも示し、
前記変位情報更新部は、前記通行境界線を示す前記管理対象の座標を取得した日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する
ことを特徴とする請求項1に記載のダイナミック座標管理装置。

【請求項3】
前記変位情報は物体を特定する物体座標を示す前記管理対象の座標が少なくとも含まれ、
前記変位情報更新部は、前記物体座標を示す前記管理対象の座標を取得した日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のダイナミック座標管理装置。

【請求項4】
前記物体は構造物、地形の少なくとも一方を示す請求項3に記載のダイナミック座標管理装置。

【請求項5】
前記変位情報更新部は、四次元統合網平均計算により、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新する
請求項1から請求項4の何れか一項に記載のダイナミック座標管理装置。

【請求項6】
前記変位情報更新部は、
前記管理対象の座標からの距離が所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が3以上の所定数か否かを判定し、
前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数以上である場合には、それら座標基準点のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定し、
前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数未満である場合には、前記所定距離を延伸し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数か否かを判定し、
前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数となった場合に前記延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点を特定する
請求項5に記載のダイナミック座標管理装置。

【請求項7】
前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新した前記管理対象の座標を自立走行装置に出力する
を備える請求項1から請求項6の何れか一項に記載のダイナミック座標管理装置。

【請求項8】
特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部と、
前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、
を備え、
前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づく四次元統合網平均計算により、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新し、
前記変位情報更新部は、
前記管理対象の座標からの距離が所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が3以上の所定数か否かを判定し、
前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数以上である場合には、それら座標基準点のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定し、
前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数未満である場合には、前記所定距離を延伸し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数か否かを判定し、
前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数となった場合に前記延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点を特定する
ダイナミック座標管理装置。

【請求項9】
特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得し、
前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する
ダイナミック座標管理方法。

【請求項10】
ダイナミック座標管理装置のコンピュータのCPUに、
特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されている記憶部から取得する変位情報取得手段として機能させ、
前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時とに基づいて今日の最新の座標を演算し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを演算し、前記記憶部に記録されている前記管理対象の座標と移動方向ベクトルとを前記今日の最新の座標と当該座標の移動方向ベクトルとに更新する変位情報更新手段として機能させ、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を、出力装置を用いて所定の装置へ出力する出力手段として機能させる
プログラム。

4 取消理由の概要
(1)令和2年4月15日付け取消理由通知の概要
当審が令和2年4月15日付け取消理由通知により特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
ア 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

イ 本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 請求項1ないし4及び7、9、10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲6-1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4及び7、9、10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲6-1:小特集 電子基準点1,200点の全国整備について、国土地理院時報 第103集 平成16年2月29日発行 国土交通省国土地理院発行

(2)令和2年10月28日付け取消理由通知の概要
当審が令和2年10月28日付け取消理由通知により特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
ア 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

イ 本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

5 甲6-1の記載及び甲6-1に記載された発明について
(1)甲6-1の記載事項
令和2年4月15日付け取消理由通知において引用した甲6-1には、図面と共に、以下のアないしクに示す事項が記載されている。

ア 「2.3 観測データ提供
2.3.1 電子基準点リアルタイムデータ提供の現状と未来
国土地理院では,平成4年度から電子基準点の設置に着手した。その翌年に南関東・東海地区に110点設置したのを皮切りに,その後も設置を続け,平成14年度に現在の1,200点設置が完了した。
電子基準点観測データであるRINEXデータが,平成11年8月よりインターネットにより提供され,研究,測量などの用途で広く一般に利用されている。この項では,電子基準点において即時(リアルタイム)に取得される観測データ(以下「リアルタイムデータ」という。)が公開されるに至った経緯,リアルタイムデータを利用して行われている仮想基準点方式によるリアルタイム測位について述べる。

2.3.2 電子基準点リアルタイムデータ提供の経緯
電子基準点のデータを利用して,リアルタイムで高精度な測位実験はこれまでも行われており,平成9年度に民間において「RTK-GPS実験推進協議会」が組織され,電子基準点とDMCA無線を利用したリアルタイム測位の共同実験が開始された。さらに国土地理院でも平成12年?13年度にわたり,全国4地域22点の電子基準点において,DMCA無線を利用し電子基準点RTK補正用データの提供サービスが図られた。」(32ページ左欄下から8行ないし同ページ右欄18行)

イ 「2.3.4 仮想基準点方式によるリアルタイム測位
電子基準点リアルタイムデータを利用する方法として,仮想基準点方式がある(図-28)。
仮想基準点方式とは,位置を測定したい場所に設置されたGPS受信機(以下,「移動局」という。)のデータから,その周囲の電子基準点で受信したデータを用いて,必要とする場所に架空の観測データを生成し,その移動局の近傍にあたかも実際の電子基準点の同じ機能をもつ電子基準点を設置し,移動局と相対的測位を行い移動局の測位を行う技術をいう。仮想基準点方式には以下の3つの方法がある。」(33ページ右欄1行ないし同欄11行)

ウ 「(1)仮想基準点単独生成法
この方法は,3つの工程から構成される。まず,移動局の概略位置を単独測位またはDGPSによる観測結果により,求める。次に,周辺の電子基準点の観測データをベースに移動局の近くに仮想の基準点を設置し,その位置情報とそこで得られるであろう観測データを生成・伝送する。最後にこのデータを用いてRTK測位を行う。
この方法の特徴として,移動局と仮想基準点データを生成・伝送する制御センターが必要であり,移動局と制御センター間の双方向通信方式が必要である。移動局側では大きい計算は不要のため,移動局を簡略化できる一方,ユーザー数が極端に増加した場合には制御センターの負担が増大することが予想される。」(33ページ右欄下から15行ないし同欄末行)

エ 「2.3.5 リアルタイムデータの活用と今後の計画
電子基準点のリアルタイムデータ活用は大きく二つに分けることができる。1つは言うまでもなく電子基準点本来の目的である地殻変動観測である。2つ目は測量目的やGIS構築,カーナビ等での民間活用である。
国土地理院では,電子基準点を使って全国の地殻変動を24時間連続して連続・監視を行っている。観測データは,電子基準点データのリアルタイム化によって,通常1日1回の解析・監視からリアルタイムでの解析計算による監視が可能となり,今後さらに地殻変動監視への貢献が予想される。
一方でリアルタイムデータ提供により,電子基準点を利用して数cmの精度でリアルタイムに位置情報を提供するサービスが民間でも可能となったことから各種測量はもとより,位置情報を必要とするあらゆる業務等に利用できることになる。
国土地理院では,全国にある電子基準点1,200点のうち,今年度中に1,189点においてリアルタイムデータが提供されるようになるが,平成15年度中に電子基準点24点の増設を行う予定である。これらはすべて電子基準点リアルタイムデータ提供が図られることになっている。
平成4年,南関東・東海地域の地殻変動検出を目的として設置が開始された電子基準点(当時はGPS連続観測点)は,この10年の間に全国に1,200点展開され,観測データも一般に公開された。観測データの利用目的は,当初,研究が主であったが,電子基準点が測量法でいうところの測量標となり観測データが基本測量・公共測量において使用可能となってからは,測量という営利事業に利用される手前,運用の停止・データの配信遅延などへの,利用者のデータに対する目も厳しいものになってきている。先に述べた,リアルタイムデータを利用した位置情報サービスも開始されている。
これは,電子基準点を含めたGEONET自体が測量,位置情報インフラとしての地位を確立したと言えると同時に,今後もユーザーに対して,電気・水道と同様,定常的な運用が可能な体制をひいていくことが必要不可欠であると考える。」(34ページ左欄25行ないし同ページ右欄16行)

オ 甲6-1には、図-28として、次に示す図が記載されている(33ページ右欄)。



カ 上記ウにおいて、単独測位またはDGPSによる観測結果により求められた移動局の概略位置は、上記イより、移動局が設置された位置を測定したい場所である。これらのことより、甲6-1には、位置を測定したい場所のDGPSによる観測結果を取得する第1手段が記載されているといえる。

キ 上記ウより、甲6-1には、「周辺の電子基準点の観測データをベースに移動局の近くに仮想の基準点を設置し,その位置情報とそこで得られるであろう観測データを生成・伝送する。最後にこのデータを用いてRTK測位を行う」ことが記載されている。この記載における「このデータ」とは、「仮想の基準点」「の位置情報とそこで得られるであろう観測データ」であり、「周辺の電子基準点の観測データをベースに」生成・伝送されるものと解され、また、この仮想の基準点は、位置を測定したい場所にある移動局の近くに設置されている。以上のことから甲6-1には、位置を測定したい場所の近くに設置された仮想の基準点の位置情報とそこで得られるであろう観測データを周辺の電子基準点の観測データをベースに生成する第2手段が記載されているといえる。また、「周辺の電子基準点の観測データをベースに移動局の近くに仮想の基準点を設置」するものであるから、位置を測定したい場所の座標に基づいて周辺の電子基準点を複数特定しているといえ、さらに甲6-1には、「このデータを用いてRTK測位を行う」ものであるから、仮想の基準点で得られるであろう観測データを用いてRTK測位を行うことが記載されている。そして、RTK測位を行うことにより何が得られるのか甲6-1には、明記されていないが、甲6-1には、「最後にこのデータを用いてRTK測位を行う」(上記ウ)仮想基準点単独生成法は、正確な位置情報を得ることを目的としてなされていることを考慮すれば、RTK測位を行うことにより、位置を測定したい場所の正確な位置情報を得ていると解される。したがって、甲6-1には、仮想の基準点で得られるであろう観測データを用いてRTK測位を行い、位置を測定したい場所の正確な位置情報を得る第3手段が記載されているといえる。

ク 上記キにより得られた位置を測定したい場所の正確な位置情報は、出力されることにより、利用されるものと解されるから、甲6-1に記載された仮想基準点単独生成法を実施する装置は、位置を測定したい場所の正確な位置情報を出力する出力手段を備えていると解される。

(2)甲6-1に記載された発明
上記(1)より、甲6-1には、次の発明(以下、「甲6-1発明」という。)が記載されている。
[甲6-1発明]
「位置を測定したい場所のDGPSによる観測結果を取得する第1手段と、
位置を測定したい場所の近くに設置された仮想の基準点の位置情報とそこで得られるであろう観測データを周辺の電子基準点の観測データをベースに生成する第2手段と、仮想の基準点で得られるであろう観測データを用いてRTK測位を行い、位置を測定したい場所の正確な位置情報を得る第3手段と、
位置を測定したい場所の正確な位置情報を出力する出力手段と、
を備え、
前記第2手段は、位置を測定したい場所の座標に基づいて周辺の電子基準点を複数特定し、前記第3手段は、位置を測定したい場所の位置情報を、RTK測位して得られた正確な位置情報に更新し、
前記出力手段は、更新された後の位置を測定したい場所の正確な位置情報を出力する
仮想基準点単独生成法を実施する装置。」

また、同様に上記(1)より、甲6-1には、次の発明(以下「甲6-1’発明」という。)が記載されている。

[甲6-1’発明]
「位置を測定したい場所のDGPSによる観測結果を取得し、
位置を測定したい場所の座標に基づいて当該座標の周辺の電子基準点を複数特定し、位置を測定したい場所の位置情報を、当該座標の近くに設置された仮想の基準点の位置情報とそこで得られるであろう観測データを周辺の電子基準点の観測データをベースに生成し、仮想の基準点で得られるであろう観測データを用いてRTK測位して得られた正確な位置情報に更新し、
更新された後の位置を測定したい場所の正確な位置情報を出力する
仮想基準点単独生成法。」

さらに、甲6-1に記載された仮想基準点単独生成法は、コンピュータのCPUに実行させることが想定されているといえることから、甲6-1には、実質的に次のプログラム発明(以下、「甲6-1”」が記載されているといえる。

[甲6-1”]
「仮想基準点単独生成法を実施する装置のコンピュータのCPUに、
位置を測定したい場所のDGPSによる観測結果を取得する第1手段として機能させ、
位置を測定したい場所の座標に基づいて当該座標の周辺の電子基準点を複数特定し、前記位置を測定したい場所の座標を、当該座標の近くに設置された仮想の基準点の位置情報とそこで得られるであろう観測データを周辺の電子基準点の観測データをベースに生成し、仮想の基準点で得られるであろう観測データを用いてRTK測位を行い、位置を測定したい場所の正確な位置情報を得る第2手段及び第3手段として機能させ、
前記得られた位置を測定したい場所の正確な位置情報を出力する出力手段として機能させる
プログラム。」

6 当審の判断
(1)令和2年4月15日付け取消理由通知により通知した特許法第29条第2項の規定に基づく理由(上記4(1)ウ)について
ア 本件発明1と甲6-1発明との一致点及び相違点について
本件発明1と甲6-1発明とを対比する。
甲6-1発明の「位置を測定したい場所のDGPSによる観測結果」は、位置を測定したい場所の座標が観測された結果であるから、甲6-1発明の「位置を測定したい場所のDGPSによる観測結果を取得する第1手段」は、本件発明1の「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」と「特定した再計算対象となる管理対象の座標を示す情報を取得する座標情報取得部」である点で共通する。
甲6-1発明の「位置を測定したい場所の近くに設置された仮想の基準点の位置情報とそこで得られるであろう観測データを周辺の電子基準点の観測データをベースに生成する第2手段と、仮想の基準点で得られるであろう観測データを用いてRTK測位を行い、位置を測定したい場所の正確な位置情報を得る第3手段」は、位置を測定したい場所の正確な位置を測定した時点での位置情報に更新するものであり、この測定した時点とは、甲6-1発明が電子基準点のリアルタイムデータを利用している(上記5(1)ア及びイ参照。)ことから、「今日」であると解され、そうすると、甲6-1発明の電子基準点の観測データは、今日の日時情報に基づくものであるといえる。したがって、甲6-1発明の「位置を測定したい場所の近くに設置された仮想の基準点の位置情報とそこで得られるであろう観測データを周辺の電子基準点の観測データをベースに生成する第2手段と、仮想の基準点で得られるであろう観測データを用いてRTK測位を行い、位置を測定したい場所の正確な位置情報を得る第3手段」は、本件発明1の「前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」に相当する。
甲6-1発明の「位置を測定したい場所の正確な位置情報を出力する出力手段」は、所定の装置へ出力するものと解されるから、本件発明1の「前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部」に相当する。
甲6-1発明の「位置を測定したい場所の座標に基づいて周辺の電子基準点を複数特定」における「周辺の電子基準点」とは、位置を測定したい場所から距離が近い電子基準点であると解されるから、甲6-1発明の「前記第2手段は、位置を測定したい場所の座標に基づいて周辺の電子基準点を複数特定し、前記第3手段は、位置を測定したい場所の位置情報を、RTK測位して得られた正確な位置情報に更新」することは、本件発明1の「前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出」することと、「前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を複数特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と、それら複数の座標基準点の座標と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新」する点で共通する。
甲6-1発明の「前記出力手段は、更新された後の位置を測定したい場所の正確な位置情報を出力する」は、本件発明1の「前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する」と「前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を所定の装置へ出力する」点で共通する。
甲6-1発明の「仮想基準点単独生成法を実施する装置」は、本件発明1の「ダイナミック座標管理装置」に相当する。

イ 上記アより、本件発明1と甲6-1発明とは、次の[一致点]で一致し、[相違点1]及び[相違点2]で相違する。

[一致点]
特定した再計算対象となる管理対象の座標を示す情報を取得する座標情報取得部と、
前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、
を備え、
前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を複数特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と、それら複数の座標基準点の座標と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、
前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を所定の装置へ出力する
ダイナミック座標管理装置。

[相違点1]
本件発明1は、変位情報取得部が、「管理対象の座標と座標が算出された日時を」「データベースから取得」し、変位情報更新部は、「管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し」、「前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて」、管理対象の座標を今日の最新の座標に更新するのに対し、甲6-1発明は、第1手段は、「DGPSによる観測結果を取得」した日時を示す情報を取得するものではなく、第2手段は、電子基準点を複数特定するものの「3つ以上」特定するか否かは不明であり、さらに、第3手段は「位置を測定したい場所の位置情報を、RTK測位して得られた正確な位置情報に更新」するものの、この更新は、「前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づ」くものではない点。

[相違点2]
本件発明1は、変位情報更新部が「今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出」し、出力部が、管理対象の今日の最新の座標だけでなく、「当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報」を出力するのに対し、甲6-1発明は、このような移動方向ベクトルを算出し、出力するものではない点。

ウ 相違点について
上記[相違点]について検討する。
(ア)[相違点1]について
相違点1を判断するにあたり、まず、本件発明1の技術思想についてみると、本件発明1は、「データベースから取得」した「特定した再計算対象となる管理対象の座標」を「今日の最新の座標に更新」するために、「管理対象の座標と座標が算出された日時」と「3以上の座標基準点との座標および移動速度」とを用いて更新するものである。これは、管理対象の座標の時系列的な移動履歴と、管理対象の座標に近い座標基準点の移動速度等を用いて、管理対象の座標を最新の座標に更新するものであり、管理対象の座標の時系列的な移動と、その周囲の時系列的な移動は、互いに相関しているという技術思想に基づくものであるといえる。
これに対し、甲6-1発明は、DGPSで観測した位置を測定したい場所の位置情報を周囲の電子基準点の観測データを利用して、RTK測位するものであり、これは、電子基準点の正確な座標とこの座標におけるGPSの観測データが測定できることを利用し、位置を測定したい場所の正確な座標を求めるものであるものの、位置を測定したい場所の座標を更新するにあたり、周囲の電子基準点の時系列的な移動を利用するものではなく、また、甲6-1には、周囲の電子基準点の時系列的な移動を利用することに関して記載も示唆もない。
そうすると、本件発明1と甲6-1発明は、位置を測定したい場所の正確な座標を求めるという点では共通するものの、その正確な座標を求めるために用いる技術思想が異なり、甲6-1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることの動機付けはなく、当業者が容易になし得た事項とはいえない。

(イ)[相違点2]について
本件の出願前において、座標が変位する地点について、移動方向を示すために特定地点の移動ベクトルを表示することは周知技術(例えば、甲6-1の38ページ右欄に示された図-31、甲6-1の43ページ及び44ページに示された図-40、41、42参照。)である。そして、このような特定地点の移動ベクトルを表示するために、甲6-1発明において、移動方向のベクトルを算出された「位置を測定したい場所の正確な位置情報」に基づいて算出し、出力することは当業者が容易になし得た事項である。

エ 本件発明1についての結論
以上のとおり、本件発明1は、甲6-1発明に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえないから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとは、いえない。

オ 本件発明2ないし10について
上記取消理由通知において、本件発明5,6,8は、特許法第29条第2項の規定に基づく、取消理由の対象とはなっていないが、併せて検討する。
(ア)本件発明2ないし7について
本件発明1ないし7は、本件の請求項1ないし7に係る発明であるところ、このうちの請求項2ないし7は、請求項1を引用する形式で記載された請求項であって、本件発明2ないし7は、本件発明1をさらに限定した発明である。そうすると、本件発明2ないし7と甲6-1発明との間には、本件発明1と甲6-1発明と同様に、上記[相違点1]がある。そして、この[相違点1]に係る本件発明1の発明特定事項を当業者が容易になし得たものであるとはいえないのは、上記ウに示す通りであるから、これと同様に、本件発明2ないし7も当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

(ウ)本件発明8について
本件発明8と甲6-1発明とを対比すると、上記(1)アと同様に対比でき、少なくとも以下の[相違点1’]で相違する。

[相違点1’]
本件発明8は、変位情報取得部が、「管理対象の座標と座標が算出された日時を」データベースから取得し、変位情報更新部は、「管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し」、「それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づく四次元統合網平均計算により」、管理対象の座標を今日の最新の座標に更新するのに対し、甲6-1発明は、第1手段は、「DGPSによる観測結果を取得」した日時を示す情報を取得するものではなく、第2手段は、電子基準点を複数特定するものの「3つ以上」特定するか否かは不明であり、さらに、第3手段は「位置を測定したい場所の位置情報を、RTK測位して得られた正確な位置情報に更新」するものの、この更新は、「3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づく四次元統合網平均計算によ」るものではない点。

上記[相違点1’]について検討する。
本件発明8は、「特定した再計算対象となる管理対象の座標」を「今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新」するために、「3以上の座標基準点の座標および移動速度」と「管理対象の座標と座標が算出された日時」とを用いて更新するものである。これは、管理対象の座標の時系列的な移動履歴と、管理対象の座標に近い座標基準点の移動速度等を用いて、管理対象の座標を最新の座標に更新するものであり、管理対象の座標の時系列的な移動と、その周囲の時系列的な移動は、互いに影響しているという技術思想に基づくものであると解される。
これに対し、甲6-1発明は、位置を測定したい場所の位置情報を周囲の電子基準点の観測データを利用して、RTK測位するものであり、これは、電子基準点の正確な座標とこの座標におけるGPSの観測データが測定できることを利用し、位置を測定したい場所の正確な座標を求めるものであるものの、位置を測定したい場所や周囲の電子基準点の時系列的な移動を利用するものではない。
したがって、本件発明8と甲6-1発明は、位置を測定したい場所の正確な座標を求めるという点では共通するものの、その正確な座標を求めるために用いる技術思想が異なり、甲6-1発明において、相違点1’に係る本件発明8の発明特定事項を得ることの動機付けはなく、当業者が容易になし得た事項とはいえない。
そうすると、本件発明8は、甲6-1発明に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえないから、請求項8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとは、いえない。

(エ)本件発明9について
甲6-1には、上記甲6-1’発明が記載されており、本件発明9と甲6-1’発明とを対比すると、本件発明1と甲6-1発明の対比と同様に行うことができ、その結果、少なくとも、本件発明9と甲6-1’発明とは、次の[相違点1”]の点で相違する。

[相違点1”]
本件発明9は、「管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新」するのに対し、甲6-1’発明は、「位置を測定したい場所の座標に基づいて当該座標の周辺の電子基準点を複数特定し、位置を測定したい場所の位置情報を、当該座標の近くに設置された仮想の基準点の位置情報とそこで得られるであろう観測データを周辺の電子基準点の観測データをベースに生成し、仮想の基準点で得られるであろう観測データを用いてRTK測位して得られた正確な位置情報に更新」する点。

次に[相違点1”]について検討する。
本件発明9は、「特定した再計算対象となる管理対象の座標」を「今日の最新の座標に更新」するために、「3以上の座標基準点との座標および移動速度」と「管理対象の座標と座標が算出された日時」とを用いて更新するものである。これは、管理対象の座標の時系列的な移動履歴と、管理対象の座標に近い座標基準点の移動速度等を用いて、管理対象の座標を最新の座標に更新するものであり、管理対象の座標の時系列的な移動と、その周囲の時系列的な移動は、互いに影響しているという技術思想に基づくものであると解される。
これに対し、甲6-1’発明は、位置を測定したい場所の位置情報を周囲の電子基準点の観測データを利用して、RTK測位するものであり、これは、電子基準点の正確な座標とこの座標におけるGPSの観測データが測定できることを利用し、位置を測定したい場所の正確な座標を求めるものであるものの、位置を測定したい場所や周囲の電子基準点の時系列的な移動を利用するものではない。
したがって、本件発明9と甲6-1’発明は、位置を測定したい場所の正確な座標を求めるという点では共通するものの、その正確な座標を求めるために用いる技術思想が異なり、甲6-1’発明において、相違点1”に係る本件発明9の発明特定事項を得ることの動機付けはなく、当業者が容易になし得た事項とはいえない。
そうすると、本件発明9は、甲6-1’発明に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえないから、請求項9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとは、いえない。

(オ)本件発明10について
甲6-1には、上記甲6-1”発明が記載されており、本件発明10と甲6-1”発明とを対比すると、本件発明1と甲6-1発明の対比と同様に行うことができ、その結果、少なくとも、本件発明10と甲6-1”発明とは、次の[相違点1”’]の点で相違する。

[相違点1”’]
本件発明10のプログラムは、「管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時とに基づいて今日の最新の座標を演算」するのに対し、甲6-1”発明は、「位置を測定したい場所の座標に基づいて当該座標の周辺の電子基準点を複数特定し、前記位置を測定したい場所の座標を、当該座標の近くに設置された仮想の基準点の位置情報とそこで得られるであろう観測データを周辺の電子基準点の観測データをベースに生成し、仮想の基準点で得られるであろう観測データを用いてRTK測位を行い、位置を測定したい場所の正確な位置情報に得る」点。

次に[相違点1”’]について検討する。
本件発明10は、「特定した再計算対象となる管理対象の座標」の「今日の最新の座標を演算」するために、「3以上の座標基準点との座標および移動速度」と「管理対象の座標と座標が算出された日時」とを用いて演算するものである。これは、管理対象の座標の時系列的な移動履歴と、管理対象の座標に近い座標基準点の移動速度等を用いて、管理対象の座標を最新の座標を演算するものであり、管理対象の座標の時系列的な移動と、その周囲の時系列的な移動は、互いに影響しているという技術思想に基づくものであると解される。
これに対し、甲6-1”発明は、位置を測定したい場所の位置情報を周囲の電子基準点の観測データを利用して、RTK測位するものであり、これは、電子基準点の正確な座標とこの座標におけるGPSの観測データが測定できることを利用し、位置を測定したい場所の正確な座標を求めるものであるものの、位置を測定したい場所や周囲の電子基準点の時系列的な移動を利用するものではない。
したがって、本件発明10と甲6-1”発明は、位置を測定したい場所の正確な座標を求めるという点では共通するものの、その正確な座標を求めるために用いる技術思想が異なり、甲6-1”発明において、相違点1”’に係る本件発明10の発明特定事項を得ることの動機付けはなく、当業者が容易になし得た事項とはいえない。
そうすると、本件発明10は、甲6-1”発明に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえないから、請求項10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとは、いえない。

(2)令和2年4月15日付け取消理由通知により通知した特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件に基づく取消理由及び令和2年10月28日付け取消理由通知により通知した特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に基づく取消理由について

当審が令和2年4月15日付け取消理由通知により通知した特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件に基づく取消理由と令和2年10月28日付け取消理由通知により通知した特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に基づく取消理由について、まとめて判断する。
本件の発明の詳細な説明には、「地上の任意の測位点は地球のプレート運動などにより地球の中心を原点とした直交座標系において年々その座標が移動する」(【0002】)ため、「高精度な測位点情報の検出が必要となって」(【0002】)おり、一方で、「自動航行を精度高く行う為には地殻変動に基づいて変動する任意の測位点の情報が不可欠である」(【0005】)ことから、このような「課題を解決することのできるダイナミック座標管理装置、ダイナミック座標管理方法、プログラムを提供することを目的とし」(【0006】)、そのために、発明の詳細な説明に記載されたダイナミック座標管理装置等は、「地図ID、各道路の座標や、道路上に設けられた通行境界線を示す座標などの管理対象座標情報が保持されている」(【0028】)地図データを変位情報取得部113は、取得し(【0029】)、「変位情報取得部113はこの通行境界線の座標を再計算対象点として変位情報更新部14に出力する」(【0029】)ことと、「変位情報更新部14は一つ目の再計算対象点を取得」し(【0030】)」、「変位情報更新部14は再計算対象点の周りの複数の電子基準点を特定」(【0030】)して、「変位情報更新部14は再計算対象点を基準として特定した特定電子基準点の今日の最新の座標を取得し、その座標を用いて再計算対象点の最新の座標(緯度,経度)と移動速度とを算出する」(【0031】)ための所定の処理を繰り返し、「変位情報更新部14は処理を修了すると出力部15に処理終了を出力」(【0033】)し、「出力部15は変位情報更新部14が処理を修了すると、再計算対象点…の座標が全て新たな座標に更新された更新後地図データを出力するかを判定」(【0034】)して、「所定の出力先の装置が指定されている場合には、出力部15は更新後地図データを出力する」(【0034】)ことが概ね記載されている。
これに対し、本件の請求項1には、変位情報取得部が「再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を」取得し、変位情報更新部が「管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定」すると共に管理対象の座標を「管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新」することが記載されている。さらに、本件の請求項1には、出力部が「更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する」ことも記載されており、これらは、発明の詳細な説明の段落【0028】ないし【0034】に記載されたものと対応している。
そして、本件の請求項1に記載されたダイナミック座標管理装置は、このような変位情報取得部と変位情報更新部、出力部を備えることにより、「地殻変動に基づいて変動する任意の測位点の情報」(【0005】)を得て出力することができ、これにより、発明の詳細な説明に記載された課題を解決しているといえる。
そうすると、本件の請求項1に記載されたダイナミック座標管理装置は、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、本件の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。
さらに、本件の請求項1を引用する形式で本件の請求項2ないし7は記載されているところ、本件の請求項2に記載された事項は、発明の詳細な説明の段落【0022】に、本件の請求項3及び4に記載された事項は、発明の詳細な説明の段落【0023】に、本件の請求項5に記載された事項は、発明の詳細な説明の段落【0044】に、本件の請求項6に記載された事項は、発明の詳細な説明の段落【0030】に、本件の請求項7に記載された事項は、発明の詳細な説明の段落【0025】にそれぞれ記載されており、本件の請求項2ないし7の記載も請求項1と同様に特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。
また、本件の請求項8に記載された発明も本件の請求項1に記載された発明と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された課題を解決しているといえ、発明の詳細な説明の段落【0028】ないし【0058】に記載されたものと対応しているから、発明の詳細な説明に記載されたものといえ、本件の請求項8の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえ、方法の発明である本件の請求項9に記載された発明及びプログラムの発明である本件の請求項10に記載された発明も、本件の請求項1に記載された発明と同様に、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、本件の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているといえる。
さらに、本件の請求項1ないし10に記載された発明が発明の詳細な説明に記載されたものであることは、上記の通りであるところ、発明の詳細な説明の段落【0028】ないし【0058】には、これらの発明を当業者が実施できる程度に記載されているから、本件の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているといえる。
また、当審が令和2年4月15日付け取消理由通知により特許権者に通知した取消理由のうち、特許法第36条第6項第2項に規定する要件に関するものは、請求項1に記載された「再計算対象となる管理対象」とは、何か明確でないというものである。この点について、令和3年2月1日付け訂正請求により訂正された請求項1の記載からは、「再計算対象となる管理対象」は、その「座標と座標が算出された日時」を示す座標情報が、データベースに保持されていることが明らかであって、また、他の請求項の記載についても同様であるから、請求項1ないし10に記載された「再計算対象となる管理対象」とは、何か明確でないとはいえない。
さらに、令和2年10月28日付け取消理由通知により特許権者に通知した取消理由のうち、特許法第36条第6項第2項に規定する要件に関するものは、本件の請求項1の記載において、「『座標基準点』がどのように特定される」のか不明であり、本件の請求項8の記載において、四次元統合網平均計算とは、何を入力として行い、何が結果として得られる計算か不明であり、また、請求項1の記載において、3以上の座標基準点と、取得した今日の日時情報とに基づいて、どのように今日の最新の座標に更新できるのか不明であるというものである。これに対し、令和3年2月1日付け訂正請求により訂正された請求項1の記載では、座標基準点については、管理対象の「座標から距離が近い座標基準点」であるとされ、また、請求項1においては、「前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて」最新の座標に更新することが明確となり、請求項8においては、「3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づく四次元統合網平均計算により」最新の座標へ更新することが明確となったから、これらの点において明確でないとはいえない。
また、他に本件の請求項1ないし10の記載において、明確でないとする理由は見当たらない。
以上のことから、本件の発明詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであり、本件の請求項1ないし10の記載は、特許法第36条第6項1号及び同項2号に規定する要件を満たすものでないとは、いえない。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和2年8月12日付けの意見書により、「特定した再計算対象となる管理対象の座標を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する構成は、・・・周知な技術事項で」あり(上記意見書3ページ22行ないし同ページ25行)、また、「前記管理対象の座標に基づいて当該座標の周囲の座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、それら3以上の座標基準点に基づいて当該座標の移動方法ベクトルを算出する手法は、・・・周知の技術事項に過ぎ」ず(上記意見書4ページ28行ないし同ページ32行)、本件の請求項1ないし10に係る発明は、特許庁第29条第2項の規定に違反してされたものと主張している。
しかし、周知な技術事項であることの証拠として挙げる甲4には、国土交通省令の基盤地図情報項目として、測量の基準点や公共施設の境界線(道路区域界)等が挙げられおり(8ページ 図2-2参照)、この基盤地図情報が広く流通しているものである(22ページ下から8行ないし下から5行「4.1 国土地理院が管理する基盤地図情報の提供」参照。)としても、基盤地図情報から得られた、これら測量の基準点や公共施設の境界線の座標を変換することは甲4には記載されておらず、また周知技術であるともいえないから、特許異議申立人の主張する周知な技術事項を甲6-1発明、甲6-1’発明、及び、甲6-1”発明に適用して、相違点1、相違点1’、及び、相違点1”に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは当業者が容易になしえたこととはいえない。
また、「前記管理対象の座標に基づいて当該座標の周囲の座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、それら3以上の座標基準点に基づいて当該座標の移動方法ベクトルを算出する手法」が仮に周知の技術事項であったとしても、上記相違点1、相違点1’、及び、相違点1”に係る本件発明の発明特定事項が当業者にとって容易になしえたものではないことは、上記の通りである。
以上のとおり、本件の請求項1ないし10に係る発明は、特許庁第29条第2項の規定に違反してされたものとする特許異議申立人の主張は採用することができない。

7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1ないし10に係る発明は、日本国内又は国外において公然知られた発明、日本国内又は国外において公然実施された発明又は、日本国内又は国外において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能になった発明、あるいは、日本国内又は国外において公然知られた発明、日本国内又は国外において公然実施された発明又は、日本国内又は国外において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能になった発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明することができた発明であるから、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると主張し、証拠として、甲第1号証ないし甲第9号証(枝番を含む。以下、単に「甲1」等という。)を提出している。
このうち、甲6-1を引用文献とする進歩性の判断は、上記5及び6に示すとおりであるから、甲6-1を引用文献とする新規性の判断、及び、その他の文献に基づく新規性進歩性の判断について、検討する。なお、申立ての理由及び証拠は、令和2年1月27日付けの手続補正で補正されている。
甲1:Proposal for a Dynamic National Geodetic Datum for New Zealand,1995年7月2日から14日に開催された国際測地学及び地球物理学連合総会において発表
甲2:The Development and Implementation of New Zealand Geodetic Datum 2000, 1999年7月18日から30日に開催された国際測地学及び地球物理学連合総会において発表
甲3:Introduction to GAMIT/GLOBK,2006年9月28日,Massachussetts Institute of Technology
甲4:基盤地図情報を利用した地理空間情報整備のための手引,平成22年8月,国土交通省国土地理院
甲5:平成15年(2003年)十勝沖地震に伴う基準点成果の改定,国土地理院時報 2005年 No.108
甲6-1:小特集 電子基準点1,200点の全国整備について,国土地理院時報 2004年 No.103
甲6-2:GPS連続観測システム(GEONET)の新しい解析戦略(第4版)によるルーチン解析システムの構築について,国土地理院時報 2009年 No.118
甲6-3:GPS連続観測システム(GEONET)の解析戦略(第4版)から見た地殻変動について,国土地理院時報 2009年 No.118
甲7-1:ダイナミックな測地基準点体系の実現に向けて,2003年5月,国土地理院技術協議会基準点体系分科会(III)
甲7-2:公共測量におけるセミ・ダイナミック補正マニュアル,平成25年6月,国土交通省国土地理院
甲7-3:日本地球惑星科学連行2009年大会 予稿集 2009年5月16日-21日
甲8:ヘルプ ArcGIS for Desktop 「クリギング(Kriging)」の項
甲9:ArcGIS 10.3: The Next Generation of GIS Is Here 3D Visualization & Analytics 2014年12月10日

(1)甲1の記載及び甲1に記載された発明と本件発明の新規性進歩性について
甲1には、次の事項が記載されている。(かっこ内の仮訳は当審で付与した。以下同様。)
「Initially at least, many users of the datum will reject the costs involved in making their systems fully four dimensional. These users can be catered for through the application of dynamic transformations. Users can maintain a fixed coordinate system in their databases. This will most likely be a snapshot of the dynamic datum at some specified epoch.

New spatial data entering the database may need to be transformed back to the epoch of database coordinates. Database outputs may need to be transformed to the epoch of date. The transformations will change with time. The extent to which users will need to update their transformations will depend on their accuracy requirements.

For 0.5 metre accuracy (assuming no major earthquakes), the transformations may only need to change every decade. For databases of limited spatial extent in areas well away from the plate boundary, a particular transformation may suffice for 2 or 3 decades. On the other hand, for a national cadastral database requiring centimetre accuracy, transformations may need to be updated several times a year.

In order to generate the transformations with centimetre accuracy at the density of the cadastral fabric, a dynamic national geodetic control network will need to be maintained.」(6ページ26行ないし7ページ2行)
(仮訳:最初に、少なくとも、測量基準点の多くのユーザは、彼らのシステムを完全に4次元にすることに伴うコストを拒否する。これらのユーザは、動的変換を適用することによって対処することができる。ユーザは、データベース内に固定座標系を維持することができる。これは、ある特定の時点における動的な基準点のスナップショットである可能性が最も高い。

データベースに入る新しい空間データは、データベース座標の時点に変換して戻す必要があり得る。データベース出力は、日付の時点に変換される必要があり得る。変換は時間と共に変化する。ユーザが彼らの変換を更新する必要がある程度は、彼らの精度要件に依存する。

0.5メートルの精度(大きな地震がないと仮定して)では、変換は10年ごとに変化する必要があるだけである。プレート境界から十分に離れた領域における限定された空間範囲のデータベースに対して、一度の変換は、20または30年間に対して十分である。一方、センチメートル単位の精度を必要とする全国的な地図データベースの場合、変換は1年に数回更新する必要がある。

土地台帳の建物の密度において、センチメートル単位の精度の変換を生成するために、動的な国家測地制御ネットワークを維持する必要がある。)

上記記載における「fully four dimensional」とは、これらの記載が土地の測位に関するものであることを考慮すると、3次元の空間上の位置で表される基準点の位置が時間と共に移動するため、時間軸を加えた4次元で基準点の位置が表されることを意味しているといえる。そうすると、上記記載における「New spatial data entering the database may need to be transformed back to the epoch of database coordinates. Database outputs may need to be transformed to the epoch of date.」とは、このような測量で用いる基準点を4次元上の位置で表すことに代えて、ある特定時点での基準点の位置が、この時点とは異なる時点での同じ基準点の位置から変換することにより、得られることを意味している。また、この変換に際しては、変換の前後での時間情報を用いていることは、明らかである。
これらのことから、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

[甲1発明]
ある特定の時点での基準点の座標を、別の時点での基準点の座標に変換する座標変換部を備え、
前記座標変換部は、前記特定の時点と前記別の時点での時間情報に基づいて、前記基準点の座標を変換する
座標変換装置。

そして、本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ある特定の時点での基準点の座標を、別の時点での基準点の座標に変換する座標変換部」は、本件発明1の「前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」と「特定の座標を、ある時点での時間情報に基づいて当該時点での座標に更新する座標情報更新部」である点で共通し、また、甲1発明の「前記座標変換部は、前記特定の時点と前記別の時点での時間情報に基づいて、前記基準点の座標を変換する」は本件発明1の「前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し」と「特定の座標をある時点での時間情報に基づいて当該時点での座標に更新する」点で共通する。また、甲1発明の「座標変換装置」は、本件発明1の「ダイナミック座標管理装置」と「座標管理装置」である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の[一致点]で一致し、[相違点1-1]、ないし[相違点1-3]の点で相違する。

[一致点]
特定の座標を、ある時点での時間情報に基づいて当該時点での座標に更新する座標情報更新部を備え、
特定の座標をある時点での時間情報に基づいて当該時点での座標に更新する
座標管理装置

[相違点1-1]
本件発明1は、「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」を備えているのに対し、甲1発明は、基準点の座標をどのように取得するか不明であり、したがって、本件発明1の変位情報取得部に相当する発明特定事項を備えているか否か不明である点。

[相違点1-2]
座標変換更新部に関し、本件発明1は、「前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」を備え、「変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出」するのに対し、甲1発明は、「ある特定の時点での基準点の座標を、別の時点での基準点の座標に変換する座標変換部を」備え、「前記特定の時点と前記別の時点での時間情報に基づいて、前記基準点の座標を変換する」ものの、どのような情報に基づいて変換を行っているか不明である点。

[相違点1-3]
本件発明1は、「前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部」を備え、「前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する」のに対し、甲1発明は、基準点の座標を変換した結果をどのように扱うか不明である点。

上記相違点について検討する。
[相違点1-1]について
甲1発明は、基準点の座標を変換するものであり、この基準点の座標は何らかの手段により座標変換部に入力する必要があるものの、どのような手段で入力するかは、様々な手段が想定される。そして、甲1には、このような基準点の座標をデータベースから取得することは記載も示唆もされておらず、甲1発明から、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは当業者にとって容易であるとはいえない。


[相違点1-2]について
甲1発明は、ある時点での基準点となる座標を特定の時点での座標に変換するものであり、この変換を行うにあたって用いる値(例えば、他の基準点の座標値や速度、日時情報等)は不明である。そして、甲1発明のように特定の基準点の座標を変換する場合には、さまざまな手法が考えられ、その場合に用いる値も手法に応じて変わることは当業者にとって自明である。そして、甲1には、特定の基準点の座標を変換する場合に、「前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報」に基づいて行うことは記載も示唆もされておらず、また、そのような値を用いる具体的な手法についても記載されていない。
そして、甲1には、何ら記載も示唆もないことから、甲1発明において、「管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新」することは、当業者が容易になしえたこととはいえない。

以上のことから、[相違点1-3]について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明とはいえず、また甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
さらに、本件発明2ないし7は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明とはいえず、また甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたものではない。
さらに、本件発明8ないし10も、本件発明1と同様に「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得」すること及び「前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づ」いて「管理対象の座標を最新の座標へ更新」することが特定されており、これらの事項を甲1発明において得ることが容易ではないのは、上記[相違点1-1]及び[相違点1-2]の判断に示したとおりであるから、本件発明8ないし10も本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明とはいえず、また甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたものではない。

(2)甲2の記載及び甲2に記載された発明と本件発明の新規性進歩性について
甲2には、次の事項が記載されている。

「4.3.2 Velocity Model for New Zealand
A contract was let to Dr John Beavan at the Institute of Geological and Nuclear Sciences(GNS) to compute a velocity model of New Zealand from the 1992 through 1998 first Order network data. The LINZ supplied data was supplemented by additional GNS fault monitoring data. A summary of the results and processing methodology taken from the contract report (Beavan, 1998) are presented in this section.

The GPS data was processed in the Bernese software. Repeated GPS observations from more than 300 sites throughout New Zealand have been combined using sophisticated mathematical techniques to produce velocity and strain maps of the whole country. These techniques employ bi-cubic spline interpolation on a curved surface.

The GNS velocity model only contains horizontal components with zero for the vertical component. This is primarily due to there being insufficient data currently available to reliably model the vertical component.

As part of the contracts with Beavan and Morgan they were required to compare their solutions for the coordinates and velocities at the first order stations. As reported in Beavan(1998) the results at epoch 1996.5 from using different processing software and methodologies had maximum coordinate differences of 3.3, 8.2 and 26 mm (NEU) and maximum velocity differences of 1.5, 3.3 and 13.2 mm/yr (NEU).」(9ページ21行ないし末行)
(4.3.2 ニュージーランドの速度モデル
GNS(Institute of Geological and Nuclear Sciences)のDr John Beavanと契約を締結し、1992?1999年次ネットワークデータからニュージーランドの速度モデルを計算した。LINZによって供給されたデータは、追加のGNS誤差監視データによって補足された。契約報告書(Beavan,1998)から得られた結果および処理方法の概要をこのセクションに示す。

GPSデータをBerneseソフトウェアで処理した。ニュージーランドを通じて300を超えるサイトからの繰り返し行われたGPS測量値が、高度な数学的技法により組み合わされて、国土全体の速度および歪みマップが生成されている。これらの技術は、曲面上の双三次スプライン補間を用いる。

GNS速度モデルは、水平成分のみを含み、垂直成分はゼロである。これは主に、垂直成分を確実にモデル化するために現在利用可能なデータが不十分なためである。

BeavanおよびMorganとの契約の一部として、彼らは、一次局での座標および速度について彼らの解を比較する必要があった。Beavan(1998)に報告されているように、異なる処理ソフトウェアおよび方法を使用した1996.5時点における結果は、3.3、8.2および26mm(NEU)の最大座標差、ならびに1.5、3.3および13.2mm/年(NEU)の最大速度差を有していた。)

上記記載における「ニュージーランドを通じて300を超えるサイト」とは、GPSを用いた位置座標測量を行う地点をいうと解される。また、上記記載において「国土全体の速度および歪みマップが生成されている」における国土とは、ニュージーランドの国土と解されるとともに、このようなマップを生成することから、生成する装置が記載されているに等しいといえる。
したがって、これらの記載から、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

[甲2発明]
「複数の地点においてGPSを用いた位置座標の測量値を取得する手段と、
前記測量値から、ニュージーランドの国土の速度及び歪みマップを生成する手段と、
を備え、
前記ニュージーランドの国土の速度及び歪みマップを生成する手段は、GPSを用いた位置座標の測量値を双三次スプライン補間を用いて数学的に組み合わして、ニュージーランドの国土の速度及び歪みマップを生成する装置。」

本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「複数の地点においてGPSを用いた位置座標の測量値を取得する手段」と本件発明1の「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」は、対象となる位置の座標を取得する座標情報取得部である点で共通する。
甲2発明の「前記測量値から、ニュージーランドの国土の速度及び歪みマップを生成する手段」と本件発明1の「前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」は、対象となる位置の座標から当該位置に関する情報を算出する位置情報算出部である点で共通する。
甲2発明の「前記ニュージーランドの国土の速度及び歪みマップを生成する手段は、GPSを用いた位置座標の測量値を双三次スプライン補間を用いて数学的に組み合わして、ニュージーランドの国土の速度及び歪みマップを生成する」ことは、本件発明1の「前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出」することと、位置情報算出部は、対象となる位置の座標を用いた数学的処理を行う点で共通する。
そうすると本件発明1と甲2発明とは、次の[一致点]で一致し、[相違点2-1]ないし[相違点2-3]の点で相違する。

[一致点]
対象となる位置の座標を取得する座標情報取得部と、
対象となる位置の座標から当該位置に関する情報を算出する位置情報算出部と、
を備え、
位置情報算出部は、対象となる位置の座標を用いた数学的処理を行う
装置。

[相違点2-1]
本件発明1は、「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」を備えているのに対し、甲2発明は、「複数の地点においてGPSを用いた位置座標の測量値を取得する手段」を備えている点。

[相違点2-2]
位置情報算出部に関し、本件発明1は、「管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」であって、「管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出」するのに対し、甲2発明は、「測量値から、ニュージーランドの国土の速度及び歪みマップを生成する手段」であって、「ニュージーランドの国土の速度及び歪みマップを生成する手段は、GPSを用いた位置座標の測量値を双三次スプライン補間を用いて数学的に組み合わして、ニュージーランドの国土の速度及び歪みマップを生成する」点。

[相違点2-3]
本件発明1は、「日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部」を備え、「日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する」のに対し、甲2発明は、出力部を備えるか否か不明な点。

上記[相違点2-1]及び[相違点2-2]について検討する。
甲2発明は、管理対象の座標を取得するものではなく、ニュージーランドの国土全体の速度及び歪みマップを生成するものであり、ニュージーランドの国土全体の速度及び歪みマップを生成するにあたって、複数の地点においてGPSを用いた位置座標の測量値を用いるものである。
また、甲2には、特定の基準点の座標を変換する場合に、本件発明1のように「前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報」に基づいて行うことは記載も示唆もされておらず、また、そのような値を用いる具体的な手法についても記載されていない。
そして、甲2には、何ら記載も示唆もないことから、甲2発明において、「管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新」することは、当業者が容易になしえたこととはいえない。
そうすると、甲2発明において、[相違点2-1]及び[相違点2-2]に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者にとって容易とはいえない。
以上のことから、[相違点2-3]について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明とはいえず、また甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
さらに、本件発明2ないし7は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明とはいえず、また甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたものではない。
さらに、本件発明8ないし10も、本件発明1と同様に「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得」すること及び「前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づ」いて「管理対象の座標を最新の座標へ更新」することが特定されており、これらの事項を甲2発明において得ることが容易ではないのは、上記[相違点2-1]及び[相違点2-2]の判断に示したとおりであるから、本件発明8ないし10も本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明とはいえず、また甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたものではない。

(3)甲3の記載及び甲3に記載された発明と本件発明の新規性進歩性について
甲3には、次の事項が記載されている。
1.3 Parameter estimation
GAMIT (program solve) incorporates a weighted least squares algorithm to estimate the relative positions of a set of stations, orbital and Earth-rotation parameters, zenith delays, and phase ambiguities by fitting to doubly differenced phase observations. Since the functional (mathematical) model relating the observations and parameters is non-linear, GAMIT produces two solutions, the first to obtain coordinates within a few decimeters, and the second to obtain the final estimates (See the discussion in Section 2.2 of the GAMIT Reference Manual.)(8ページ5行ないし同ページ12行)
(仮訳:GAMIT(解法のプログラム)は、重み付き最小二乗アルゴリズムを組み込んで、二重差分位相観測値に当てはめることによって、1組の局の相対位置、軌道および地球回転パラメータ、天頂遅延、ならびに位相の不確実性を推定する。観察およびパラメータに関連する機能的(数学的)モデルは非線形であるので、GAMITは2つの解を生成し、第1の解は数デシメートル以内の座標を得て、第2の解は最終推定値を取得する(GAMIT参照マニュアルのセクション2.2の考察を参照)。)

In current practice, the GAMIT solution is not usually used directly to obtain the final estimates of station positions from a survey. Rather, we use GAMIT to produce estimates and an associated covariance matrix ("quasi-observations") of station positions and (optionally) orbital and Earth-rotation parameters which are then input to GLOBK or other similar programs to combine the data with those from other networks and times to estimate positions and velocities [Feigl et al., 1993; Dong et al., 1998]. GLOBK uses a Kalman filter (equivalent to sequential least squares if there are no stochastic parameters in the solution) which operates on covariance matrices rather than normal equations and hence requires that you specify a non-infinite a priori constraint for each parameter estimated (see, e.g., Herring et al. [1990]). In order not to bias the combination, GAMIT generates the solution used by GLOBK with loose constraints on the parameters. Since phase ambiguities must be resolved (if possible) in the phase processing, however, GAMIT also generates several intermediate solutions with user-defined constraints before loosening the constraints for its final solution. These steps are described in detail in Section 3.4 of the GAMIT Reference Manual.(8ページ13行ないし同ページ27行)
(仮訳:現在の慣行では、GAMIT解決策は、通常、測量からステーション位置の最終推定値を得るために直接使用されない。むしろ、本発明者らは、GAMITを使用して、局位置の推定値および関連する分散行列(準観測値)、ならびに(任意選択で)GLOBKおよび地球回転パラメータを生成し、次いで、これらを軌道または他の同様のプログラムに入力して、他のネットワークおよび時間からのデータと組み合わせて、位置および速度を推定する[Feigl et al.,1993;Dong et al.,1998]。GLOBKは、正規方程式ではなく分散行列に作用するカルマンフィルタ(解に確率的パラメータがない場合には逐次最小二乗法と等価)を使用し、したがって、推定される各パラメータに対して非無限の事前制約を指定する必要がある(例えば、Herring et al.[1990])。組み合わせを偏らせないために、GAMITは、パラメータに対する緩い制約を用いて、GLOBKによって使用される解を生成する。しかし、位相処理では位相の不確実性を(可能であれば)解決しなければならないので、GAMITは、その最終解の制約を緩める前に、ユーザ定義の制約を有するいくつかの中間解も生成する。これらのステップは、GAMIT参照マニュアルのセクション3.4に詳細に記載されている。

上記記載における「二重差分位相観測値」とは、「一組の局」がGPS衛星から受信した信号の位相に関するものと解される。そうすると、上記記載におけるGAMITは、局が受信した信号の位相値を取得する手段と、位相値から、局の「数デシメートル以内の座標」と「最終推定値」に変換する手段を備えているといえる。また、GAMITは、得られた最終推定値を出力するための出力手段を備えているといえる。

以上ことから、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

[甲3発明]
局の受信した信号の位相を取得する取得手段と、
当該信号の位相に基づいて、局の数デシメートル以内の座標と最終推定値に変換する変換手段と、
変換された後の数デシメートル以内の座標と最終推定値を出力する出力手段と、
を備え、
前記変換手段は、前記信号の位相に基づいて局の数デシメートル以内の座標と最終推定値に変換し、
前記出力部は、局の数デシメートル以内の座標と最終推定値を出力する
GAMIT。

本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「局の受信した信号の位相を取得する取得手段」は、位置に関する情報を取得するものであるから、本件発明1の「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」と、位置に関する情報を取得する手段である点で共通する。
甲3発明の「当該信号の位相に基づいて、局の数デシメートル以内の座標と最終推定値に変換する変換手段」は、本件発明1の「前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」は、位置の高精度の位置座標を算出する手段である点で共通する。
甲3発明の「変換された後の数デシメートル以内の座標と最終推定値を出力する出力手段」は、本件発明1の「前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部」と、算出された位置座標を出力する手段である点で共通する。
甲3発明の「GAMIT」は、本件発明1の「ダイナミック座標管理装置」と座標算出装置である点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、次の[一致点]で一致し、[相違点3-1]ないし[相違点3-3]の点で相違する。

[一致点]
位置に関する情報を取得する手段と、
位置の高精度の位置座標を算出する手段と、
算出された位置座標を出力する出力手段と、
を備えた、
座標算出装置。

[相違点3-1]
本件発明1は、「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」を備えているのに対し、甲3発明は、「局の受信した信号の位相を取得する取得手段」を備えている点。

[相違点3-2]
本件発明1は、「管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」を備え、「変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出」するのに対し、甲3発明は、「信号の位相に基づいて、局の数デシメートル以内の座標と最終推定値に変換する変換手段」を備え、「変換手段は、前記信号の位相に基づいて局の数デシメートル以内の座標と最終推定値に変換」する点。

[相違点3-3]
本件発明1は、「日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部」を備え、「出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する」点。

上記[相違点3-1]及び[相違点3-2]について検討する。
甲3発明は、管理対象の座標を取得するものではなく、局の高精度な位置座標を得るものであり、局の高精度な位置座標を得るにあたって、GPSを用いた位置座標の測量値を用いるものである。
また、甲3には、特定の基準点の座標を変換する場合に、「前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報」に基づいて行うことは記載も示唆もされておらず、また、そのような値を用いる具体的な手法についても記載されていない。
そして、甲3には、何ら記載も示唆もないことから、甲3発明において、「管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新」することは、当業者が容易になしえたこととはいえない。
そうすると、甲3発明において、[相違点3-1]及び[相違点3-2]に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者にとって容易とはいえない。
以上のことから、[相違点3-3]について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明とはいえず、また甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
さらに、本件発明2ないし7は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲3に記載された発明とはいえず、また甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたものではない。
さらに、本件発明8ないし10も、本件発明1と同様に「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得」すること及び「前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づ」いて「管理対象の座標を最新の座標へ更新」することが特定されており、これらの事項を甲3発明において得ることが容易ではないのは、上記[相違点3-1]及び[相違点3-2]の判断に示したとおりであるから、本件発明8ないし10も本件発明1と同様の理由により、甲3に記載された発明とはいえず、また甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたものではない。

(4)甲4の記載及び甲4に記載された発明と本件発明の新規性進歩性について
甲4には、次の事項が記載されている。

「第2節地理空間情報活用推進基本法の考え方
基本法には、基盤地図情報の整備や更新について定められているほか、基盤地図情報の整備に関して、国及び地方公共団体の責務、あるいはその実施を期待する事項が定められています。本節では、基盤地図情報の定義について概説するとともに、国及び地方公共団体に期待されている役割について整理します。

1.地理空間情報活用推進基本法と基盤地図情報
基本法は、「現在及び将来の国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会を実現する上で地理空間情報を高度に活用することを推進することが極めて重要である」ことを念頭に、地理空間情報の活用の推進に関して基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、地理空間情報の活用の推進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、地理空間情報の活用の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的としています(基本法第1条)。
また、基本法では「地理空間情報」及び「基盤地図情報」について定義するとともに、基盤地図情報については、その満たすべき基準は国土交通省令で定めること(基盤地図情報の係る項目及び満たすべき基準に関する省令(平成19年国土交通省令第78号。以下「省令」という。))及び基盤地図情報の整備に係る技術上の基準(以下「告示」という。)を定めることを規定しています。

2.基盤地図情報について
2.1 地理空間情報とは
基本法第2条第1項で、地理空間情報について定義しています。
● 地理空間情報は、空間上の特定の地点又は区域の位置(時間を含む)を示す情報であって位置に関連付けられた情報(主題属性の情報)。

2.2 基盤地図情報とは
基本法第2条第3項で、基盤地図情報について以下のように定義しています。
● 基盤地図情報は、地理空間情報のうち、電子地図上における地理空間情報の位置を定めるための基準となる情報である。
● 基盤地図情報の項目は省令で定める。
● 基盤地図情報は電磁的方式により記録されたものをいう。

2.3 基盤地図情報の項目
基盤地図情報の項目は省令で定めています。省令(第1条)に定められている基盤地図情報の項目は、測量の基準点、海岸線、公共施設の境界線(道路区域界)、公共施設の境界線(河川区域界)、行政区画の境界線及び代表点、道路縁、河川堤防の表法肩の法線、軌道の中心線、標高点、水涯線、建築物の外周線、市町村の町若しくは字の境界線及び代表点、街区の境界線及び代表点の13項目です。

2.4 基盤地図情報の項目とその精度
省令第2条では基盤地図情報について次のように定めています。
基盤地図情報の位置精度は、平面位置の誤差が、都市計画区域は2.5m以内(縮尺1/2,500相当以上)、都市計画区域外は25m以内(縮尺1/25,000相当以上)、高さの誤差については、都市計画区域は1.0m以内(縮尺1/2,500相当以上)、都市計画区域外は5.0m以内(縮尺1/25,000相当以上)と定められています。」(7ページ22行ないし9ページ4行。なお、文中の図は省略した。(以下同様。))

「3.1 基盤地図情報項目に該当する地理空間情報を整備・更新する場合
基盤地図情報項目に該当する地理空間情報を整備・更新する場合、整備された地理空間情報は基盤地図情報の原典データとして利用されることから、整備・更新時には以下の点に留意する必要があります。
(1)既成の基盤地図情報がない場合
○1(「○1」は、○の中に1があることを示す。以下同様。) 周辺の基盤地図情報の確認・入手
国土地理院が公開している「基盤地図情報の閲覧・ダウンロードサービス」等を利用して、当該測量地域の周辺(接合部)に基盤地図情報があるか確認します。
http://www.gsi.go.jp/kiban/etsuran.html
接合をとらなければならない基盤地図情報がある場合は、基盤地図情報をダウンロードします。
○2 地理空間情報作成
公共測量「作業規程の準則」、又は整備主体者が定めた方法により地理空間情報を作成します。隣接地域に既存の基盤地図情報が存在する場合、接合処理を行います。しかし、既存の基盤地図情報が新たに整備する地理空間情報と比較して、地図情報レベル又は鮮度が明らかに劣る場合はこの限りではありません。
○3 品質評価
製品仕様書に基づき品質評価を実施し、基盤地図情報項目の位置精度を検証し、品質評価結果をメタデータに記載します。

(2)基盤地図情報がある場合
○1 位置精度の確認
整備・更新しようとする地理空間情報と基盤地図情報の縮尺レベルを比較し、どちらの位置精度が高いか確認します。地理空間情報の位置精度が基盤地図情報よりも地図情報レベルで明らかに高い場合は○4に進みます。ただし、基盤地図情報によっては位置精度が混在した、例えば道路縁は縮尺レベル500、その他の項目は縮尺レベル2500で整備したハイブリッド仕様の場合もありますので、必要に応じて国土地理院に問い合わせてください。
基盤地図情報問い合わせメールアドレス:fgd-q@gsi.go.jp
○2 地理空間情報の作成
国土地理院が公開している「基盤地図情報ダウンロードサービス」を利用し、当該地域の基盤地図情報を入手し、基盤地図情報を位置の基準として必要な地理空間情報を作成します。
基盤地図情報項目が経年変化により現況と食い違いが出ている場合は、その箇所についてのみ作成(修正)します。その上で基盤地図情報項目以外の地理空間情報を作成します。
○3 接合編集
隣接地域に基盤地図情報が存在する場合、基盤地図情報項目については!に留意しながら接合編集を行います。しかし、既存の基盤地図情報が新たに整備する地理空間情報と比較して、地図情報レベル又は鮮度が明らかに劣る場合は、この限りではありません。

○4 品質評価
製品仕様書に基づき品質評価を実施し、基盤地図情報項目の位置精度を検証し、品質評価結果をメタデータに記載します。

3.2 地理空間情報に基盤地図情報を背景図として利用する場合
地理空間情報に基盤地図情報を背景図として利用する場合、基盤地図情報と地理空間情報の位置的整合性を担保した上で共用及び流通させることが望まれます。
整備する地理空間情報の範囲内に基盤地図情報が存在する場合、以下の点に留意してください。
○1 基盤地図情報を入手
国土地理院が公開している「基盤地図情報ダウンロードサービス」を利用し、当該地域の基盤地図情報をダウンロードします。
○2「測量成果の複製・使用」申請手続
国土地理院の測量成果(紙地図、数値地図、空中写真、基盤地図情報等)を利用して、新たな成果品を作成する場合は「測量成果の複製・使用」申請を行います。
http://www.gsi.go.jp/LAW/2930-index.html

○3 基盤地図情報を背景に整備・更新
基盤地図情報を背景にして地理空間情報の整備・更新を行います。

3.3 公共測量成果の提出
測量計画機関は公共測量成果を得たときは、測量法に基づき遅滞なくその写しを国土地理院の長に提出します。その際には、地理空間情報の所在、内容、品質、利用条件等を記載したメタデータも合わせて提出します。
国土地理院では、メタデータの仕様や解説、作成を支援するツールを公開していますのでご利用ください。
http://psgsv.gsi.go.jp/koukyou/public/seihinsiyou/seihinsiyou_meta.html」(20ページ10行ないし21ページ末行。なお、文字の枠囲い等は、省略した。以下同様。)

「第2節 基盤地図情報の利活用効果
1.地理空間情報の品質向上
基盤地図情報を位置の基準として地理空間情報を整備・更新することにより、地理空間情報の位置精度と鮮度が向上します。
●基盤地図情報を位置の基準として管理図面等を整備・更新することにより、図面間の相対的な位置精度が向上するとともに、図面間の調整等の作業が不要となります。
●地物(施設)を管理している機関・部署が、国土地理院に更新された基盤地図情報項目を提供することにより、基盤地図情報の正確性(完全性)と鮮度が向上します。
正確性と鮮度が高い基盤地図情報を用いて地理空間情報を整備することにより、地理空間情報の品質が向上します。

◆ 効果が得られる業務の例
1.1 道路占用物の位置精度の向上
道路内に敷設されている地下埋設物は、水道、下水道、電気、ガスなどがありますが。いずれも重要なインフラです。これらには個々に管理者が存在し、管理図面も個別に整備しています。各管理者が個々に整備するということは、それぞれの図面が持つ精度が異なり、各図面を重ねたときにズレがでるなど、情報共有等を阻む要因となっています。
また、給水戸番図(水道台帳図)や下水道台帳図などの管理図面は、初期整備時には道路台帳(平面図)等を用いて縮尺に見合った位置精度を保持していても、主に以下に示す誤差の累積により部分的に精度基準を満たさない箇所も存在しています。

年月の経過による管理対象以外の地物(施設)の鮮度低下
デジタルで整備していない場合は年月の経過による図面の伸縮
既成図を数値化(デジタルで整備)する際の入力誤差
任意座標で作成された工事竣工図と管理図面の接合編集時における誤差

このため、各管理図面を重ね合わせたとき、本来なら重ならないはずの水道管と下水道管が重なったり、道路の現況と図面に食い違いが生じるなどの現象が出ている場合があります。図面間のズレを除き地下埋設物の状況を把握するためには、図面間の調整が必要となり時間と費用が掛かってしまいます。道路の現況を図面に反映させるには新たに独自に測量するか、最新の道路台帳(平面図)等と調整するかしなければなりません。
基盤地図情報の道路縁等を位置の基準として管路などの施設情報を整備すれば、管理図面間の相対精度が向上し、管理図面を重ね合わせたときにズレが生じなくなり、地下埋設物の状況を的確に把握できるようになります。コスト的には、基盤地図情報と整合させるための初期調整が必要なだけで、その後の基盤地図情報項目の整備コストは掛かりません。
国土地理院が基盤地図情報を整備・更新する際には、国土地理院で精度検証を実施しているため、位置精度が確保されています。基盤地図情報を位置の基準として地理空間情報を整備することは、管理図面の絶対精度の向上にも繋がります。

1.2 開発建築規制図の位置精度の向上
開発建築規制に係る図面は、都市計画基本図、建築協定区域図、土地利用基本計画図、土砂災害危険区域図などがあります。これらは、法令等にて要求される縮尺がそれぞれ異なるため、様々な背景図が利用されており、主題情報が重ならないなど、情報共有等に支障をきたしています。
基盤地図情報を位置の基準として開発建築規制図面を整備することにより、各図面間の相対精度が向上します。基盤地図情報を利用することにより各図面の比較が容易になります。

1.3 地理空間情報の鮮度の向上
地方公共団体は、道路台帳(平面図)、家屋現況図、都市計画基本図などを定期的に更新しています。特に、道路縁や建築物は道路台帳(平面図)、家屋現状図により毎年更新され、都市計画基本図よりも高い精度で整備されています。
例えば、水道・下水道部門は、鮮度の高い地形図が求められ、工事箇所に経年変化等がある場合は、工事竣工図等を参考に整備を行い、最新の状況を維持しています。
このように地方公共団体は、道路縁、建築物などそれぞれの行政目的に合わせて毎年整備していますが、基盤地図情報を利活用することで重複を排除して効率化を図ることができます。
主たる管理者が管理している品質(位置精度や鮮度)の高い地理空間情報を集約した基盤地図情報は、正確性(完全性)と鮮度が高いものになります。
例えば、毎年更新している道路台帳(平面図)(地図情報レベル500)を用いて基盤地図情報を更新すると、道路縁も道路台帳(平面図)と同様の品質(位置精度、鮮度)となります。次に、この基盤地図情報を位置の基準として地理空間情報を整備・更新すると、地理空間情報の道路縁は、道路台帳(平面図)と同様の品質(位置精度、鮮度)に向上します。地理空間情報は、より高精度なものへと部分的、段階的にスパイラルアップしていきます。
給水戸番図(水道台帳図)、下水道台帳図なども基盤地図情報を位置の基準とすることにより、地理空間情報の品質(鮮度)が向上するとともに、道路縁や建築物などの更新作業を減らすことができます。

1.4 災害時における現況把握
災害時においては、人的及び物的な被害状況、災害規模などの情報を敏速に正確に把握する必要があります。鮮度の高い基盤地図情報は災害時の状況把握に有効で、被災前の状況を正確に把握することができます。各部署が管理する地図データを基盤地図情報を位置の基準として重ね合わせられるよう常日頃から整備しておくとさらに効果的です。被災前の状況を正確に把握することにより、敏速な災害復興対応が可能となります。」(37ページ1行ないし40ページ6行)

上記記載からみて、甲4には、基盤地図情報の項目である公共施設の境界線(道路区域界)を含む基盤地図情報と整備・更新しようとする地理空間情報とを比較し、基盤地図情報の項目が経年変化により現況と食い違いが出ている場合は、その箇所についてのみ修正することが記載されているといえる。そして、基盤地図情報の項目として道路区域界であることを考慮すると、基盤地図情報の項目が経年変化により現況と食い違いが出ていることがわかるためには、この特定の道路区域界を選択し、対応する地理空間情報と比較する必要があるといえる。また、修正された基盤地図情報は、当然、保存されるものといえる。したがって、甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

[甲4発明]
基盤地図情報の道路区域界を選択する手段と、
選択された道路区域界と対応する地理空間情報とを比較し、現況と食い違いが出ている場合には、基盤地図情報のその箇所についてのみ修正する修正手段と、
修正された基盤地図情報を保存する保存手段とを
備えた
基盤地図情報システム。

本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「基盤地図情報の道路区域界を選択する手段」の道路区域界は、座標情報を含むものと解されるから、本件発明1の「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」と、管理対象の座標を座標が保持されているデータベースから取得する取得部である点で共通する。
甲4発明の「選択された道路区域界と対応する地理空間情報とを比較し、現況と食い違いが出ている場合には、基盤地図情報のその箇所についてのみ修正する修正手段」の地理空間情報には、座標が含まれると解されるから、本件発明1の「前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」と、管理対象の座標を現状の座標に更新する座標修正部である点で共通する。
甲4発明の「修正された基盤地図情報を保存する保存手段」は、本件発明1の「前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部」と、更新された後の管理対象の座標を出力する出力部である点で共通する。
甲4発明の「基盤地図情報システム」は、本件発明1の「ダイナミック座標管理装置」と座標管理装置である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲4発明とは、次の[一致点]で一致し、[相違点4-1]ないし「相違点4-3]で相違する。

[一致点]
管理対象の座標を座標が保持されているデータベースから取得する取得部と、
管理対象の座標を現状の座標に更新する座標修正部と、
更新された後の管理対象の座標を出力する出力部と、
を備えた
座標管理装置。

[相違点4-1]
取得部が本件発明1では、「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」であるのに対し、甲4発明は、「基盤地図情報の道路区域界を選択する手段」である点。

[相違点4-2]
座標修正部が、本件発明1では、「前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」であって、「前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出」するのに対し、甲4発明は、「選択された道路区域界と対応する地理空間情報とを比較し、現況と食い違いが出ている場合には、基盤地図情報のその箇所についてのみ修正する修正手段」である点。

[相違点4-3]
出力部が、本件発明1では、「日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部」であって、「日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する」のに対し、甲4発明では、「修正された基盤地図情報を保存する保存手段」である点。

上記[相違点4-1]及び[相違点4-2]について検討する。
甲4には、特定の基準点の座標を変換する場合に、本件発明1のように「前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報」に基づいて行うことは記載も示唆もされておらず、また、そのような値を用いる具体的な手法についても記載されていない。
そして、甲4には、何ら記載も示唆もないことから、甲4発明において、「管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新」することは、当業者が容易になしえたこととはいえない。
そうすると、甲4発明において、[相違点4-1]及び[相違点4-2]に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者にとって容易とはいえない。
以上のことから、[相違点4-3]について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明とはいえず、また甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
さらに、本件発明2ないし7は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲4に記載された発明とはいえず、また甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたものではない。
さらに、本件発明8ないし10も、本件発明1と同様に「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得」すること及び「前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づ」いて「管理対象の座標を最新の座標へ更新」することが特定されており、これらの事項を甲4発明において得ることが容易ではないのは、上記[相違点4-1]及び[相違点4-2]の判断に示したとおりであるから、本件発明8ないし10も本件発明1と同様の理由により、甲4に記載された発明とはいえず、また甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたものではない。

(5)甲5の記載及び甲5に記載された発明と本件発明の新規性進歩性について
甲5には、次の事項が記載されている。

「4.地震等に伴う座標補正ソフトウェアの開発
4.1 概要
平成15年(2003年)十勝沖地震のように広域に地殻変動が生じた場合、より効率的な基準点成果を改訂する手法が必要である。このため、電子基準点及び高度地域基準点の変動量から、改測作業を実施しなかった三角点の変動量を補間計算して、地震後の測量成果を算出する座標補正ソフトウェア「PatchJGD」を新たに開発した。
座標補正ソフトウェア「PatchJGD」は、座標補正プログラムと座標補正パラメータファイル、並びに関連する文書より構成されている。
座標補正ソフトウェア「PatchJGD」の適用については、地震により生じる近くの歪みが規模やメカニズムにより様々な様相を示すことから、個々の地震について検討する必要がある。

4.2 座標補正プログラム
座標補正プログラムは、座標補正パラメータファイルを読み込み、利用者から入力された任意の座標値に応じて必要なパラメータを使用してバイリニア補間(格子点4点の変動量による補間法)を行い、変動後の座標値に近似的に補正する(図-6)。ただし、入力する座標値は、世界測地系「日本測地系2000(ITRF94系):GRS80楕円体」に準拠していることが前提である。

4.3 座標補正パラメータファイル
座標補正パラメータファイルには、適用できる地震名や対象エリア等を説明した注釈文と地域毎の座標補正パラメータ(以下、「座標補正パラメータ」という。)が記載されている(表-1)。
座標補正パラメータは、JIS X0410(地域メッシュコード)により設定された格子点(点間隔は、緯度方向30秒・経度方向45秒)における座標補正量である(図-7)。
電子基準点・高度地域基準点の変動量(緯度差と経度差、単位は秒)を基に、クリギング法(格子点以外の点の既知の値から、格子点の未知の値を推定するアルゴリズムの一つ)によりグリッド化処理を行い、格子点における緯度方向の補正量dBと経度方向の補正量dLを計算した。

4.3.1 座標補正パラメータの作成方法
座標補正パラメータを以下のとおり作成した。
1)座標補正パラメータの作成範囲は利用者の利便性を考慮し、市町村単位で設定した。
2)地域メッシュデータを地球地図で使用している行政界データにより作成した。また、成果改訂範囲の地域メッシュデータは、陸地部分のメッシュ及び海岸線上から海側に2km程度のバッファを含めたメッシュの格子点(4点)から構成した。
3)電子基準点及び高度地域基準点の変動量の大きさと方向を検討し、周囲の観測点と傾向が異なり地殻変動による変動でないと判断される点を削除し、新旧座標値ファイルを作成した。
4)新旧座標値ファイルを使用し、Transform Ver3.4によるクリキング処理等を行い、メッシュコード単位での補正量を算出した。
5)算出した補正量から、各種マスクをかけて陸地部分のデータを抜き出した。
6)算出した補正量に、改定範囲地域のメッシュに該当するパラメータを抜き取り、最終的な座標補正パラメータを作成した。

4.3.2 座標補正パラメータの作成
日高・十勝・釧路地方において座標補正パラメータを2回作成した。初回版の座標補正パラメータを電子基準点、高度地域基準点及び3時間観測した検証点の変動量により作成した。
初回版の座標補正パラメータの精度評価を踏まえ、除外する高度地域基準点の変動量と追加する検証点の変動量を再検討し、最終版の座標補正パラメータを作成した。また、成果改訂地位(市町村)の見直しを行い、変動量の小さい苫小牧市、勇払郡早来町及び追分町を成果改定地域から除外した。

(1)初回版の座標補正パラメータの作成
初回版の座標補正パラメータは、電子基準点72点、高度地域基準点196点、3時間観測を実施した検証点7点、計275点の変動量を検討の結果、変動量の大きさと方向が周囲の観測点と傾向が異なる高度地域基準点6点と検証点1点の変動量を削除し、電子基準点72点、高度地域基準点190点、検証点6点、計268点の変動量を使用して作成した。

(2)最終版の座標補正パラメータの作成
最終版の座標補正パラメータは、電子基準点80点、高度地域基準点182点、及び検証点17点、計279点の変動量を使用して作成した。
初回版の座標補正パラメータの精度評価を踏まえ、以下の変更を加えた。
1)固定点に使用した電子基準点8点を追加した。
2)初回版の座標補正パラメータによる補正量と検証作業による変動量の整合性が良好であることから、1時間観測を実施した検証点11点の変動量を追加した。
3)項と地域基準点の変動量の大きさと方向を再検討の結果、さらに高度基準点6点の変動量を削除した。
4)電子基準点に近接している高度地域基準点2点の変動量を削除した。
最終的に座標補正パラメータ作成に使用した電子基準点、高度基準点及び検証点の変動量を図-8に示す。
白抜きで表示されている変動量は、座標補正パラメータ作成から削除した以下の変動量である。
1)大きさと方向が周囲の観測点の傾向と異なる高度地域基準点及び検証点の変動量
2)電子基準点に近接(概ね2km)している高度地域基準点及び検証点の変動量
3)高度度地域基準点に近接(概ね4km)している検証点の変動量」(3ページ右欄下から10行ないし5ページ右欄14行)

以上の記載から甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
[甲5発明]
利用者から入力される任意の座標を取得する座標入力手段と、
前記任意の座標を変動後の座標に更新する座標補正手段と、
更新した座標を出力する出力手段と、
を備え、
前記座標補正手段は、利用者から入力された変動前の座標に基づいて、地域メッシュコードにより設定された格子点を特定し、電子基準点、高度基準点及び検証点の変動量から作成された地域メッシュコードにより設定された該格子点における座標補正量に基づいて、変動後の座標に更新し、
出力手段は、座標補正量に基づいて更新された後の座標を出力する
座標補正装置。

本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「利用者から入力される任意の座標を取得する座標入力手段」は、本件発明1の「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」と、再計算対象となる管理対象の座標を取得する座標取得部である点で共通する。
甲5発明の「前記任意の座標を変動後の座標に更新する座標補正手段」は、本件発明1の「前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」と管理対象の座標を更新する変位更新部である点で共通する。
甲5発明の「更新した座標を出力する出力手段」は、本件発明1の「前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部」と、更新された後の管理対象の座標を出力する出力手段である点で共通する。また、甲5発明の「出力手段は、座標補正量に基づいて更新された後の座標を出力する」ことは、本件発明1の「前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する」ことと、出力手段は、更新された後の前記管理対象の座標を出力する点で共通する。
甲5発明の「座標補正装置」は、本件発明1の「ダイナミック座標管理装置」と座標更新装置である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲5発明とは、次の[一致点]で一致し、[相違点5-1]ないし「相違点5-3]の点で相違する。
[一致点]
再計算対象となる管理対象の座標を取得する座標取得部と、
管理対象の座標を更新する変位更新部と、
更新された後の管理対象の座標を出力する出力手段と
を備え、
前記出力手段は、更新された後の前記管理対象の座標を出力する
座標更新装置。

[相違点5-1]
座標取得部が、本件発明1では、「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」であるのに対し、甲5発明は、「利用者から入力される任意の座標を取得する座標入力手段」である点。

[相違点5-2]
座標更新部が、本件発明1では、「管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」であって、「管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出」するのに対し、甲5発明では、「任意の座標を変動後の座標に更新する座標補正手段」であって、「利用者から入力された変動前の座標に基づいて、地域メッシュコードにより設定された格子点を特定し、電子基準点、高度基準点及び検証点の変動量から作成された地域メッシュコードにより設定された該格子点における座標補正量に基づいて、変動後の座標に更新」する点。

[相違点5-3]
出力手段が、本件発明1では、「日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力」する出力部であり、「日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する」のに対し、甲5発明は、「更新された後の管理対象の座標を出力する出力手段」である点。

上記[相違点5-1]及び[相違点5-2]について検討する。
甲5には、特定の基準点の座標を変換する場合に、周囲の格子点を特定することは、記載されているものの、「前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報」に基づいて行うことは記載も示唆もされておらず、また、そのような値を用いる具体的な手法についても記載されていない。
そして、甲5には、何ら記載も示唆もないことから、甲5発明において、「管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新」することは、当業者が容易になしえたこととはいえない。
そうすると、甲5発明において、[相違点5-1]及び[相違点5-2]に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者にとって容易とはいえない。
以上のことから、[相違点5-3]について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5に記載された発明とはいえず、また甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
さらに、本件発明2ないし7は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲5に記載された発明とはいえず、また甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたものではない。
さらに、本件発明8ないし10も、本件発明1と同様に「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得」すること及び「前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づ」いて「管理対象の座標を最新の座標へ更新」することが特定されており、これらの事項を甲5発明において得ることが容易ではないのは、上記[相違点5-1]及び[相違点5-2]の判断に示したとおりであるから、本件発明8ないし10も本件発明1と同様の理由により、甲5に記載された発明とはいえず、また甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたものではない。

(6)甲6-1に基づく新規性の判断及び甲6-2及び甲6-3の記載について
本件発明1ないし10が、上記6(1)イのとおり、甲6-1発明とは、[相違点1]及び[相違点2]において相違するから、甲6-1に記載されたものでない。したがって、本件発明1ないし10は、甲6-1発明ではないから、請求項1ないし10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件特許異議申立人は、甲6-1と共に、甲6-2及び甲6-3を提出しているが、これらについては、本件特許異議申立人が「国土地理院が整備しているGNSS連続観測網「GEONET」の関連資料であり、GEONETのシステム構成や解析手法等が記載されている」(令和2年1月27日 手続補正書14ページ29行ないし同ページ30行)と述べているとおり、甲6-1に記載されたものと同じ内容のものを示す証拠、あるいは、甲6-1の内容を補足する証拠と解される。
そして、本件発明1ないし10が、甲6-1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものでもないことは、上記6(1)に記載されたとおりである。また、本件発明1と甲6-1発明との相違点である[相違点1]に係る本件発明1の発明特定事項が、甲6-2又は甲6-3に記載されているともいえない。この点は、[相違点1’]、[相違点1”]、[相違点1”’]についても同様である。
そうすると、甲6-1に加えて、甲6-2及び甲6-3をあわせてみても、本件発明1ないし10に係る発明は、これらの文献に記載された事項に基づいて、当業者が容易になしえたものとはいえない。

(7)甲7-1ないし甲7-3について
ア 甲7-1の記載及び甲7-1に記載された発明と本件発明の新規性進歩性について
甲7-1には、次の事項が記載されている。
「ニュージーランドのセミ・ダイナミック測地系
ニュージーランド土地情報局(LINZ:Land Information New Zealand)では、オンライン土地情報データベースの提供を開始した。基準点(約8万点)については、測量成果、履歴、観測データ、点の記等の各種情報が格納されており、LINZ内の利用者は、簡単なマウス操作で網平均計算も実行できる。同国は、地殻変動が激しいため、速度場モデルを内部に組み込んだ測地基準計(セミ・ダイナミック測地系)を採用している(付録4)。」(12ページ下から4行ないし13ページ3行)

「○2 セミ・ダイナミック測地系の導入
座標値は引き続き測地成果2000(元期1997.0年)で与える。利用者が新たな測量を行った場合、得られた基線ベクトルに元期からの地殻変動量を補正し、元期において得られたであろう基線ベクトルに化成する。遠い基準点を用いて測量する際に、地殻変動による測地網の歪みの影響を軽減できる。この方式は、日本と同様に地殻変動が著しいニュージーランドで最近採用された方法である(付録4)。
前述したとおり、我が国の地殻変動は複雑なので、点間距離20?25kmの電子基準点のデータだけでは十分な精度を持つ地殻変動モデルが得られない。そこで、骨格的な三角点(点間距離10km程度)における改測から求めた変動量も加味し、任意の場所における地殻変動量を与えるモデルを作る。元期に十分近ければ、一定速度を仮定した速度場モデルで十分である。
時刻tに測量した点A、B間の基線ベクトルは、速度場モデルから補間計算した点A、Bの平均速度V_(A)、V_(B)を用いて、次の計算により、元期t_(0)における値に化成できる。

元期における基線ベクトル=観測した基線ベクトル-(V_(B)-V_(A))(t-t_(0))

このようにして元期に化成された基線ベクトルと測地成果2000を用いて網平均計算を行えば、新点の座標値を測地成果2000に整合した形で求めることができる。実際には、元期への化成計算も網平均ソフトウェアに組み込んでしまえばよいだろう。ただし、速度場モデルのバージョン管理に留意が必要である。なお、地震や火山活動に伴う非定常的な地殻変動は、単純なモデルで補正はできないので、この場合はソフトウェア的な化成ではなく、改測により座標値を改定することになる。
セミ・ダイナミック測地系の実装にあたっては、利用者に混乱を生じさせないよう技術的、行政的に十分な検討を行うことが必要である。計算手順が今までよりも複雑になるので、情報通信技術を活用した利用者への支援サービスも検討すべきだろう。また、公共測量作業規定の改定も必要である。ただし、セミ・ダイナミック補正は、電子基準点を含む格子点を利用した高精度な測量が主たる対象であり、基準点の近傍で行われる一般の測量では補正量は0になるであろう。測量法や同施行令の改正は、測量成果を現在と同様に静的なものとして扱うので、不要である。
定常地殻変動への対応について、次のようなシナリオが考えられる。まず、地殻変動モデルの作成・評価を行うとともに、セミ・ダイナミック測地系導入に向けた行政的な準備を進める。測地成果2000の誤差がある程度蓄積した段階で、利用者の目には直接見えない形で、速度モデルに基づく測量結果の元期への化成を行う計算手法を利用者に提供する。さらに時間が経過し、絶対位置の誤差が一定の範囲を超えたときには、測地成果の全面改定を行う。」(23ページ27行ないし24ページ25行)

「4.数学モデル
まず、元期t_(0)における点A、B間の基線ベクトルの観測値O及び既知点Aの座標値から、新点Bの座標値を求める網平均計算を考える。各点の座標ベクトルをA、Bと書けば、観測方程式は、
O=B-A
である。
次に、元期t_(0)から十分近い観測日tにおける網平均計算を考える。各点の速度は平均速度V_(A)、V_(B)でモデル化できるので、観測方程式は
O={B+V_(B)(t-t_(0))}-{A+V_(A)(t-t_(0))}
となる。移項すると、
O-(V_(B)-V_(A))(t-t_(0))=B-A
となる。すなわち、観測した基線ベクトルを2点の速度モデルの差で化成すれば、元期において観測されたであろう基線ベクトルが得られる。
既知点Aでは、過去の測量データから平均速度を求めることができるが、新点Bは任意の場所となるので、周辺の基地点における速度からBにおける速度を補間計算することが必要となる。」(45ページ6行ないし同ページ21行)

上記記載におけるセミ・ダイナミック測地系は、観測日tにおける点A、B間の基線ベクトル(B-A)と点Aの平均速度ベクトルV_(A)、点Bの平均速度ベクトルV_(B)、観測日t、元期t_(0)から、元期t_(0)における点A、B間の基線ベクトルの観測値Oを求め、元期t_(0)における点Bの座標値を求めるものといえる。
また、求められた元期t_(0)における点Bの座標値は、利用者が利用するために出力されているといえ、そのために元期t_(0)における点Bの座標値を示す新点Bの座標情報を出力する出力手段を備えているといえる。

そうすると、甲7-1には、次の発明(以下「甲7-1発明」という。)が記載されているといえる。
[甲7-1発明]
特定した新点Bの座標値と座標値が観測された観測日tを取得する測量手段と、
前記新点Bの座標値を、元期t_(0)に基づいて元期t_(0)における座標値に変換する変換手段と、
前記元期t_(0)に基づいて変換された後の前記新点Bの元期t_(0)の座標値を示す元期t_(0)における新点Bの座標情報を出力する出力手段と、
を備え、
前記変換手段は、前記新点Bの座標値を、前記新点Bの座標値と座標値が観測された観測日tと、新点Bとは異なる点Aの観測日tにおける座標値及び平均速度ベクトルV_(A)と、元期t_(0)に基づいて、元期t_(0)における座標値に変換し、
前記出力手段は、前記元期t_(0)に基づいて変換された後の新点Bの元期t_(0)における座標を出力する
セミ・ダイナミック測地系。

本件発明1と甲7-1発明とを対比する。
甲7-1発明における「特定した新点Bの座標値と座標値が観測された観測日tを取得する測量手段」は、本件発明1の「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」と、特定した再計算対象となる対象の座標と座標が得られた時を示す情報を取得する座標取得手段である点で共通する。
甲7-1発明における「前記新点Bの座標値を、元期t_(0)に基づいて元期t_(0)における座標値に変換する変換手段」は、本件発明1の「前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」と、再計算対象となる対象の座標を、取得した日時情報に基づいて取得した日時の座標に変換する変換部である点で共通する。
甲7-1発明における「前記元期t_(0)に基づいて変換された後の前記新点Bの元期t_(0)の座標値を示す元期t_(0)における新点Bの座標情報を出力する出力手段」は、本件発明1の「前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部」と、取得した日時情報に基づいて変換された後の再計算対象となる対象の取得した日時の座標情報を出力する出力手段である点で共通する。
甲7-1発明における「前記変換手段は、前記新点Bの座標値を、前記新点Bの座標値と座標値が観測された観測日tと、新点Bとは異なる点Aの観測日tにおける座標値及び平均速度ベクトルV_(A)と、元期t_(0)に基づいて、元期t_(0)における座標値に変換し」は、本件発明1の「前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し」と、変換部は、再計算対象となる座標を、前記再計算対象となる座標と座標が得られた日時と、再計算対象とは異なる地点の座標及び移動速度と、取得した日時情報に基づいて、取得した日時情報における座標に変換する点で共通する。
甲7-1発明における「前記出力手段は、前記元期t_(0)に基づいて変換された後の新点Bの元期t_(0)における座標を出力する」ことは、本件発明1の「前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する」ことと、出力手段は、取得した日時情報に基づいて変換された後の再計算対象の取得した日時の座標を出力する点で共通する。
甲7-1発明の「セミ・ダイナミック測地系」は、本件発明1の「ダイナミック座標管理装置」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲7-1発明とは、次の[一致点]で一致し、[相違点7-1]ないし[相違点7-3]の点で相違する。
[一致点]
特定した再計算対象となる対象の座標と座標が得られた時を示す情報を取得する座標取得手段と、
再計算対象となる対象の座標を、取得した日時情報に基づいて取得した日時の座標に変換する変換部と、
取得した日時情報に基づいて変換された後の再計算対象となる対象の取得した日時の座標情報を出力する出力手段と、
を備え、
変換部は、再計算対象となる座標を、前記再計算対象となる座標と座標が得られた日時と、再計算対象とは異なる地点の座標及び移動速度と、取得した日時情報に基づいて、取得した日時情報における座標に変換し、
出力手段は、取得した日時情報に基づいて変換された後の再計算対象の取得した日時の座標を出力する
ダイナミック座標管理装置。

[相違点7-1]
座標取得手段に関し、本件発明1は、「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」であるのに対し、甲7-1発明は、「特定した新点Bの座標値と座標値が観測された観測日tを取得する測量手段」である点。

[相違点7-2]
変換部に関し、本件発明1は、「前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」であって、「変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出」するのに対し、甲7-1発明は、「新点Bの座標値を、元期t_(0)に基づいて元期t_(0)における座標値に変換する変換手段」であって、「変換手段は、前記新点Bの座標値を、前記新点Bの座標値と座標値が観測された観測日tと、新点Bとは異なる点Aの観測日tにおける座標値及び平均速度ベクトルV_(A)と、元期t_(0)に基づいて、元期t_(0)における座標値に変換」する点。

[相違点7-3]
出力手段に関し、本件発明1は、「日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部」であって、「出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する」のに対し、甲7-1発明は、「元期t_(0)に基づいて変換された後の前記新点Bの元期t_(0)の座標値を示す元期t_(0)における新点Bの座標情報を出力する出力手段」であって、「出力手段は、前記元期t_(0)に基づいて変換された後の新点Bの元期t_(0)における座標を出力する」点。

上記[相違点7-1]及び[相違点7-2]について検討する。
甲7-1には、「前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報」に基づいて行うことは記載も示唆もされておらず、また、そのような値を用いる具体的な手法についても記載されていない。また、[相違点7-1]、[相違点7-2]に係る本件発明1の発明特定事項は、甲7-2及び甲7-3にも記載されていない。
そして、甲7-1には、何ら記載も示唆もないことから、甲7-1発明において、「管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新」することは、当業者が容易になしえたこととはいえない。
そうすると、甲7-1発明において、[相違点7-1]及び[相違点7-2]に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者にとって容易とはいえない。
以上のことから、[相違点7-3]について検討するまでもなく、本件発明1は、甲7-1に記載された発明とはいえず、また甲7-1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
さらに、本件発明2ないし7は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲7-1に記載された発明とはいえず、また甲7-1に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたものではない。
さらに、本件発明8ないし10も、本件発明1と同様に「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得」すること及び「前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づ」いて「管理対象の座標を最新の座標へ更新」することが特定されており、これらの事項を甲7-1発明において得ることが容易ではないのは、上記[相違点7-1]及び[相違点7-2]の判断に示したとおりであるから、本件発明8ないし10も本件発明1と同様の理由により、甲7-1に記載された発明とはいえず、また甲7-1に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたものではない。

イ 甲7-2及び甲7-3について
甲7-2は、「公共測量におけるセミ・ダイナミック補正マニュアル」であり、甲7-3は、「日本地球惑星科学連合2009年 予稿集」であり、「D107-012」の番号が付されたページには、「セミ・ダイナミック補正の導入に向けた取り組みについて」と題する記載がある。これらは、甲7-1に記載されたセミ・ダイナミック測地系の内容を補足するものと解されるが、これらにも、上記[相違点7-1]及び[相違点7-2]に係る本件発明1の発明特定事項は記載されていない。そうすると、甲7-2及び甲7-3を参照しても、本件発明1ないし10は、甲7-1に記載された発明とはいえず、また甲7-1ないし甲7-3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(8)甲8の記載について
甲8は、「クリギング(Kriging)」と題するヘルプであって、以下の記載がある。

「サマリ
クリギングによりポイントからラスターサーフェスを内挿します。

[クリギング(Kriging)]の詳細
使用法
・クリギングは、プロセッサに負荷がかかるプロセスです。実行速度は、入力データセット内のポイント数と検索ウィンドウのサイズによって決まります。」(1ページ11行ないし同ページ15行)

構文と題する表のパラメータ「search_radius(オプション)」の説明として、以下の記載がある(一部、文頭の空白を省略した。)。

「どの入力ポイントを使用して出力ラスターの各セル値を内挿するかを定義します。

検索近傍を指定する方法としては次の2つがあります。VariableおよびFixed

Variableの場合、可変検索範囲を使用して、指定された数の入力サンプルポイントを見つけて内挿します。Fixedの場合、指定された固定距離内にあるすべての入力ポイントが使用されます。デフォルトはVariableです。

これらのパラメーターの構文は次のとおりです。

・Variable, number_of_point, maximun_distance
・number_of_points-内挿実行時に使用する最近接入力サンプルポイントの数を指定する整数値、デフォルトは12です。
・maximum_distance-最近接入力サンプルポイントの検索範囲を制限する距離をマップ単位で指定します。デフォルト値は範囲の対角線の長さです。

・Fixed,distance,minimum_number_of_points
・distance-距離を半径として指定します。その距離内にある入力サンプルポイントが内挿実行時に使用されます。半径の値はマップの単位で表します。デフォルトの半径は、出力ラスターのセルサイズの5倍です。
・minimum_number_of_points-内挿に使用する最小ポイント数を定義する整数値。デフォルト値は0です。

指定した距離内に必要な数のポイントがない場合は、指定した最小数のポイントが見つかるまで検索距離が大きくなります。

検索範囲を大きくする必要がある場合、検索範囲は、その範囲内でminimum_number_of_pointsのポイントが見つかるまで、あるいはその範囲が出力ラスターの下限(南)と上限(北)のどちらかまたは両方を超えるまで大きくなります。上記の条件を満たさない位置にはNo Dataが割り当てられます。」(2ページの表のsearch_radius(オプション)の項目の説明の記載)

甲8のこれらの記載から、クリギング(Kriging)は、minimum_number_of_pointsで指定した距離内に必要な数のポイントがない場合は、指定した最小数のポイントが見つかるまで検索距離を大きくし、必要な数のポイントを見つけて内挿することができるものといえる。
しかしながら、甲8の記載から、「ポイント」がどのようなものであるのか不明であり、また「出力ラスターの各セル値を内挿する」とは、どのような処理が行われているのか不明である。
また、仮に甲8の記載における「ポイント」が本件発明1の座標基準点に相当するとしても、甲8には、「クリギング(Kriging)」の使い方が記載されているにとどまり、本件発明1に特定される「特定した再計算対象となる管理対象の座標」を「今日の最新の座標に更新」すること等は記載されていない。すなわち、甲8に記載されたクリギング(Kriging)は、「ポイント」を用いた特定の処理を行うものであると解されるものの、甲8の記載からは、どのような結果を得ることを目的とし、どのような処理を行うのか不明である。したがって、甲8に記載されたクリギング(Kriging)からは、本件発明1と対比できる発明が認定できるものではない。
さらに、仮に甲8に記載されたクリギング(Kriging)が、「Kringing法による空間補間計算(周囲の観測値を用いた平均計算)機能があり、任意の点(管理座標)の周囲に存在するデータ点(基準点)を自動サーチし、指定した範囲内のデータ点を用いて補間計算を行うものである」(特許異議申立書17ページ8行ないし同ページ11行)としても、甲8には、本件発明1ないし10に係る「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」を備えることや、「管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」を備え、「変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出」することは記載されていない。

(9)甲9について
本件特許異議申立人は、「甲9号証によって2014年12月10日にリリースされたことが立証された甲8号証の地理情報分析ソフト「ArcGIS」・・・」(令和2年1月27日 補正書 17ページ1行ないし同ページ2行)と主張しており、甲9は、ArcGISが2014年12月10日にリリースされたことを立証するものと解される。しかしながら、本件発明1ないし10が甲8に記載されたものでなく、また甲8に記載されたものから容易になしえたものではないことは、上記(8)に記載したとおりであるから、甲9により、甲8の「クリギング(Kriging)」が甲9に記載されたArcGISに含まれ、本件特許出願の前にリリースされていたとしても、この点についての結論を左右するものではない。

(10)甲1ないし甲9に記載された発明に基づく進歩性の判断について
上記(1)ないし(9)に示したように、甲1ないし甲9には、いずれの文献にもダイナミック座標管理装置が「特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部」と「管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部」を備え、「変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出」することは、記載されていない。
そうすると、甲1ないし甲9に記載された発明を組み合わせても、このような変位情報取得部と変位情報更新部を備えたダイナミック座標管理装置は得られないから、本件発明1ないし10は、甲1ないし甲9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ダイナミック座標管理装置、ダイナミック座標管理方法、プログラム
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミック座標管理装置、ダイナミック座標管理方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
地上の任意の測位点は地球のプレート運動などにより地球の中心を原点とした直交座標系において年々その座標が移動する。このため、高精度な測位点情報の検出が必要となっている。ところで日本の国土地理院は日本全国のある位置に電子基準点を定めその電子基準点の座標を管理している。そしてこの電子基準点は他の任意の測位点などの位置の算出のための基準となっている。また電子基準点ではなく複数のGPS(Global Positioning System)衛星から受信した信号を用いてその任意の測位点の座標を計測する技術が特許文献1に開示されている。
【0003】
また測位点における未来および過去の位置情報を正確に、また容易に推定することのできる技術が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-69754号公報
【特許文献2】特許第5058594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年、自動運転技術等の自動航行に関する技術の開発が盛んである。このような自動航行を精度高く行う為には地殻変動に基づいて変動する任意の測位点の情報が不可欠である。
【0006】
そこでこの発明は、上述の課題を解決することのできるダイナミック座標管理装置、ダイナミック座標管理方法、プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、ダイナミック座標管理装置は、特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部と、前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、を備え、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力することを特徴とする。
【0008】
上述のダイナミック座標管理装置において、前記変位情報は道路上の通行境界線を示す前記管理対象の座標を少なくとも示し、前記変位情報更新部は、前記通行境界線を示す前記管理対象の座標を取得した日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新してよい。
【0009】
上述のダイナミック座標管理装置において、前記変位情報は物体を特定する物体座標を示す前記管理対象の座標が少なくとも含まれ、前記変位情報更新部は、前記物体座標を示す前記管理対象の座標を取得した日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新してよい。
【0010】
上述のダイナミック座標管理装置において、前記物体は構造物、地形の少なくとも一方を示してよい。
【0011】
上述のダイナミック座標管理装置において、前記変位情報更新部は、四次元統合網平均計算により、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新してよい。
上述のダイナミック座標管理装置において、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標からの距離が所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が3以上の所定数か否かを判定し、前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数以上である場合には、それら座標基準点のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定し、前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数未満である場合には、前記所定距離を延伸し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数か否かの判定を繰り返し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数となった場合には、それら座標基準点の数のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定してよい。
【0012】
上述のダイナミック座標管理装置において、前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新した前記管理対象情報を自立走行装置に出力してよい。
また本発明の第2の態様によれば、ダイナミック座標管理装置は、特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部と、前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、を備え、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づく四次元統合網平均計算により、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新し、前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標からの距離が所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が3以上の所定数か否かを判定し、前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数以上である場合には、それら座標基準点のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定し、前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数未満である場合には、前記所定距離を延伸し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数か否かを判定し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数となった場合に前記延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点を特定することを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の態様によれば、ダイナミック座標管理方法は、特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得し、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力することを特徴とする。
【0014】
本発明の第4の態様によれば、プログラムは、ダイナミック座標管理装置のコンピュータのCPUに、特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されている記憶部から取得する変位情報取得手段として機能させ、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標演算し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを演算し、前記記憶部に記録されている前記管理対象の座標と移動方向ベクトルとを前記今日の最新の座標と当該座標の移動方向ベクトルとに更新する変位情報更新手段として機能させ、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を、出力装置を用いて所定の装置へ出力する出力手段として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地殻変動に基づいて変動する地図上の変位点等の任意の測位点の所定の日時における座標を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態によるダイナミック座標管理システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態によるダイナミック座標管理装置のハードウェア構成を示す図である。
【図3】本実施形態によるダイナミック座標管理装置の機能ブロック図である。
【図4】本実施形態によるダイナミック座標管理装置の処理フローを示す第一の図である。
【図5】本実施形態による特定電子基準点の補正処理の処理フローを示す図である。
【図6】本実施形態による電子基準点の推定処理の概要を示す図である。
【図7】本実施形態による再計算対象点の最新の緯度経度の算出処理フローを示す図である。
【図8】本実施形態によるダイナミック座標管理装置の処理フローを示す第二の図である。
【図9】本実施形態による再計算対象点の算出処理の概要を示す図である。
【図10】本実施形態によるダイナミック座標管理装置の最小構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態によるダイナミック座標管理システムを図面を参照して説明する。
図1は同実施形態によるダイナミック座標管理システムの構成を示すブロック図である。
この図で示すようにダイナミック座標管理システム100は、少なくともダイナミック座標管理装置1、衛星測位信号受信アンテナ10、衛星測位信号受信装置20を備える。
【0018】
ダイナミック座標管理システム100において衛星測位信号受信アンテナ10は、例えば日本全国の1300点の多数の電子基準点として定められた地点に分散して固定設置されている。衛星測位信号受信アンテナ10はGPS衛星から受信した衛星測位信号を衛星測位信号受信装置20へ送信する。衛星測位信号受信装置20は衛星測位信号を、通信ネットワークを介して受信する。また衛星測位信号受信装置20はダイナミック座標管理装置1と通信接続されている。ダイナミック座標管理装置1は衛星測位信号受信装置20から、各衛星測位信号受信アンテナ10がGPS衛星から受信した衛星測位信号(GPSが発信する信号)を受信し、各衛星測位信号受信アンテナ10の固定設置された位置を算出してよい。または各衛星測位信号受信アンテナ10の固定設置された位置は衛星測位信号受信装置20が算出してもよい。
【0019】
図2はダイナミック座標管理装置のハードウェア構成を示す図である。
ダイナミック座標管理装置1のコンピュータは、図2で示すようにCPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、HDD(Hard Disk Drive)104、インタフェース105、通信モジュール106等のハードウェアを備える。
【0020】
図3はダイナミック座標管理装置の機能ブロック図である。
ダイナミック座標管理装置1のCPU101はダイナミック座標管理プログラムを実行する。これによりダイナミック座標管理装置1には、制御部11、電子基準点算出部12、変位情報取得部13、変位情報更新部14、出力部15が備わる。
【0021】
制御部11はダイナミック座標管理装置1を制御する。
電子基準点算出部12は所定の時間間隔で各電子基準点の所定の日時の座標を算出する。
変位情報取得部13は地図データにおける管理対象座標情報を少なくとも含む変位情報を取得する。
変位情報更新部14は変位情報に含まれる管理対象座標情報を取得した日時情報に対応する測位点の座標に更新する。
【0022】
なお変位情報には、道路上の通行境界線を示す通行境界線情報を示す管理対象座標情報が少なくとも含まれてよい。地殻変動によって地表の点は日々移動する。これに伴い道路上の通行境界線も地殻変動によって移動する。従って通行境界線の各点は地殻変動によって位置が変位する変位情報の一態様である。変位情報更新部14は、変位情報に含まれる通行境界線情報を、取得した日時情報に基づいて更新する。
【0023】
または変位情報には、地図データにおける物体を特定する物体座標情報を示す管理対象座標情報が少なくとも含まれてもよい。地表に構築される建築物等の物体も地殻変動によって移動する。従って地表の物体自体の任意の点も地殻変動によって位置が変位する変位情報の一態様である。変位情報更新部14は、変位情報に含まれる物体座標情報を、取得した日時情報に基づいて更新するようにしてもよい。物体は地図データにおける構造物、地形等を示す。
【0024】
変位情報は管理対象座標情報の所定の時刻からの移動速度または移動距離の少なくとも一方が含まれてよい。変位情報更新部14は、日時情報に基づいて更新した管理対象座標情報の所定の時刻からの移動速度または移動距離を更新してもよい。
【0025】
出力部15は日時情報に基づいて更新した変位情報を自立走行装置に出力する。自立走行装置とは例えば自動運転車両等であってよい。出力部15はその他の装置に通信ネットワークを介して更新した変位情報を出力してもよい。
【0026】
衛星測位信号受信装置20は所定の時刻や所定の時間間隔で衛星測位信号受信アンテナ10から衛星測位信号(GPSが発信する信号)を受信する。ダイナミック座標管理装置1は所定のタイミングで衛星測位信号を取得する。ダイナミック座標管理装置1は衛星測位信号受信アンテナ10が設置されている座標(緯度、経度、標高)を算出する。なお衛星測位信号受信装置20が各衛星測位信号受信アンテナ10の座標(緯度、経度、標高)を算出してもよい。この場合、ダイナミック座標管理装置1は衛星測位信号受信装置20の算出した各衛星測位信号受信アンテナ10の座標(緯度、経度、標高)を、当該衛星測位信号受信装置20から取得する。
【0027】
そしてダイナミック座標管理装置1は、例えば地図データにおける道路上の通行境界線を示す通行境界線の座標を取得し、その座標を、ユーザが指定したことにより入力した日時情報に基づいて更新する。
【0028】
データベース2は単位エリアごとに区切られた地図データを記憶する。地図データには、地図ID、各道路の座標や、道路上に設けられた通行境界線を示す座標などの管理対象座標情報が保持されている。当該座標は緯度、経度、標高、地殻変動に基づく単位時間当たりの過去の移動距離などの情報が含まれている。なお地図データと管理対象座標情報とは別々にデータベース2に記録されていてもよい。またはデータベース2は道路単位で道路上に設けられた通行境界線を示す座標などの管理対象座標情報が保持されていてもよい。
【0029】
図4はダイナミック座標管理装置の処理フローを示す第一の図である。
以下ダイナミック座標管理装置1の処理について説明する。
ダイナミック座標管理装置1の変位情報取得部113は、単位エリアごとに区切られた地図データのうち、一つ目の地図データのIDを特定する(ステップS101)。当該地図データIDの特定はプログラムに規定された順序に特定してもよいし、ユーザからの入力に基づいて特定してもよい。変位情報取得部113は地図データIDに紐づいてデータベース2に記録されている地図データを取得する(ステップS102)。変位情報取得部113はこの地図データに含まれる通行境界線の全ての座標を取得する(ステップS103)。変位情報取得部113はこの通行境界線の座標を再計算対象点として変位情報更新部14に出力する。
【0030】
変位情報更新部14は一つ目の再計算対象点を取得する(ステップS104)。変位情報更新部14は再計算対象点の周りの複数の電子基準点を特定する(ステップS105)。これを特定電子基準点(座標基準点)と呼ぶこととする。例えば変位情報更新部14は再計算対象点の周りの電子基準点のうち、再計算対象点に直線距離が近い3つ以上の電子基準点を特定電子基準点と特定する。または変位情報更新部14は再計算対象点を中心とした数10Km,数100kmの半径の円に含まれる電子基準点を全て特定し、それら電子基準点が2つ未満であれば、さらに再計算対象点を中心とする半径を拡大した円に含まれる電子基準点を全て特定するようにしてもよい。変位情報更新部14は再計算対象点に直線距離が近い5つ、6つ等の数の電子基準点を特定電子基準点と特定してもよい。
【0031】
変位情報更新部14は再計算対象点を基準として特定した特定電子基準点の最新の座標(緯度、経度、標高)の出力を電子基準点算出部12に要求する。当該要求には今日の日時が含まれてよい。なお所定の任意の日時の再計算対象点の最新の座標を算出したい場合にはこの日時情報を任意の日時に変更すればよい。電子基準点算出部12は衛星測位信号受信装置20から取得した要求に基づいて再計算対象点を基準として特定された電子基準点の今日の座標を算出する(ステップS106)。当該座標はステップS101より前に予め算出されていてもよい。予め各電子基準点の今日の座標が算出されている場合には、この時点で電子基準点算出部12は特定電子基準点の座標をデータベース等から読み込むようにすればよい。そして変位情報更新部14は再計算対象点を基準として特定した特定電子基準点の今日の最新の座標を取得し、その座標を用いて再計算対象点の最新の座標(緯度,経度)と移動速度とを算出する(ステップS107)。
【0032】
変位情報更新部14は当該再計算対象点について地図データから取得した座標と、新たに算出した座標との差に基づいて、当該再計算対象点の移動方向ベクトルを算出する(ステップS108)。変位情報更新部14はそれら新たに算出した座標、移動速度、移動方向ベクトルを、再計算対象点の新たな座標情報として地図データを更新する(ステップS109)。変位情報更新部14は未処理の再計算対象点があるかを判定する(ステップS110)。変位情報更新部14は未処理の再計算対象点がある場合には、ステップS104からの処理を繰り返す。
【0033】
変位情報更新部14は再計算対象点である地図データ中の全ての通行境界線の座標を算出すると、未処理の地図データIDがあるかを判定する(ステップS111)。変位情報更新部14は未処理の地図データIDがある場合にはステップS101からの処理を繰り返す。変位情報更新部14は処理を修了すると出力部15に処理終了を出力する。
【0034】
出力部15は変位情報更新部14が処理を修了すると、再計算対象点である通行境界線の座標が全て新たな座標に更新された更新後地図データを出力するかを判定する(ステップS112)。所定の出力先の装置が指定されている場合には、出力部15は更新後地図データを出力する(ステップS113)。所定の出力先の装置は、例えば自動運転車に備わる自動運転装置(自立航行装置)や、自動運転装置が地図データを読み込むためにアクセスする地図データ管理装置などであってよい。自動運転装置は新たな更新後地図データを用いて自動運転処理を行う。例えば更新後地図データには最新の通行境界線の座標が含まれている。ある道路の走行の自動運転制御を行っている自動運転装置は、左右の通行境界線を基準とする走行範囲を逸脱しないように自動運転制御を行う。
【0035】
例えば地震が発生した後には道路や通行境界線の位置がずれる場合がある。従って、ダイナミック座標管理装置1は、上述の処理により算出された精度の高い通行境界線の座標を基準とした自動運転制御が行われるための更新後地図データを生成して、所定の装置へ出力することができる。
【0036】
なお通行境界線の座標が道路ごとにデータベース2に記録されている場合には、変位情報取得部113は道路IDを特定し、その道路IDに紐づいてデータベース2に記録されている通行境界線の全ての座標を取得するようにしてもよい。この場合、変位情報更新部14は、道路IDに基づいて取得した全ての座標である各再計算対象点について今日の座標が算出できたかをステップS110において判定する。またこの場合、変位情報更新部14はステップS111において未処理の道路IDがあるかを判定する。そして出力部15は変位情報更新部14が処理を修了すると、再計算対象点である通行境界線の座標が全て新たな座標に更新された更新後道路データを出力するかをステップS112において判定する。所定の出力先の装置が指定されている場合には、出力部15はステップS113において更新後の道路データを出力する。所定の出力先は当該道路を走行する自動運転車両等であってもよい。
【0037】
再計算対象点を基準として特定した電子基準点の最新の座標に基づいて再計算対象点の最新の緯度,経度を算出する上述の処理の詳細を以下説明する。
【0038】
まず電子基準点算出部12が、予め国土地理院で管理している電子基準点に近い複数のIGS点の座標及びその単位期間あたりの移動速度を読み込む。IGS点の座標及びその単位期間あたりの移動速度はIGS点のデータを蓄積しているサーバなどにアクセスして取得する。IGS点は全世界で300点以上定められた点であり、日本においては筑波や臼田に定められており、また韓国、中国、ロシアにも一つまたは複数点が定められている。また電子基準点算出部12は、電子基準点の座標の情報を当該電子基準点の座標情報を記憶している衛星測位信号受信装置20にアクセスして読み込む。電子基準点の座標は国土地理院によって1997年1月1日に定められた座標値である(通常、『測地成果2000』と呼ばれている)。
【0039】
電子基準点算出部12は、各電子基準点の座標と、その近傍(周辺)の3つ以上のIGS点の座標及びその単位期間あたりの移動速度とを用いて、基線解析によって各電子基準点の座標を化成し、電子基準点化成値を算出する。ここで、基線解析は例えば『土屋淳、外1名、「やさしいGPS測量」、社団法人日本測量協会、1991年10月5日,p.238-305』に記載されているような公知の技術を利用すればよい。なお電子基準点算出部12は、電子基準点1300点のうち選点した電子基準点についてその電子基準点化成値(座標)を算出してもよい。そして電子基準点算出部12は、日本全国のまたは定められた電子基準点についての電子基準点化成値(座標)をそれぞれ所定の期間毎(例えば一年や一ヶ月毎)に予め算出しておく。なお電子基準点化成値の算出は地震などによる急激な変動のあった期間を除くようにしてもよい。電子基準点化成値(座標)の算出日時はそれぞれの電子基準点において異なっていてもよい。電子基準点算出部12は各電子基準点について算出した電子基準点化成値(座標)とその算出日時とを対応付けてデータベース2へ書き込んでおく。
【0040】
また電子基準点算出部12は、過去に算出された電子基準点化成値(座標)と新たに算出された電子基準点化成値(座標)との差を算出し、当該座標の差と、電子基準点化成値(座標)を算出した期間間隔とを用いて、ある期間単位における移動速度、つまりある期間単位にどのくらい座標が移動するのかの割合を算出する。例えば電子基準点化成値(座標)の算出期間が1ヵ月毎であり、期間単位が1年の線形的な移動速度を算出する場合で、地震などの大きな変動がなければ、1ヵ月毎に算出された電子基準点化成値(座標)のうちの、連続する2ヶ月間の間に算出された2つの電子基準点化成値(座標)の差を12倍することにより、1年間における移動速度が計算できる。または電子基準点算出部12は、カルマンフィルターなどの予測フィルターを用いて各電子基準点の移動速度を算出してもよい。
【0041】
そして電子基準点算出部12はデータベース2に書き込まれている各電子基準点についての電子基準点化成値(座標)とその算出日時に対応付けて、移動速度をさらに書き込む。そして電子基準点算出部12は電子基準点化成値(座標)を算出したすべての電子基準点についての移動速度を算出し、データベース2へ書き込む。つまり、以上の電子基準点算出部12の処理によれば、データベース2には各電子基準点について同一または異なる日時で算出された電子基準点化成値(座標)と移動速度とその算出日時が対応付けられて記録されることとなる。そして、上述の電子基準点算出部12の処理によってデータベース2に処理結果が記録されていき、その後、変位情報更新部14からの要求によりステップS106において電子基準点算出部12は以下のように特定電子基準点の座標や移動速度を補正する。
【0042】
図5は特定電子基準点の補正処理の処理フローを示す図である。
特定電子基準点の座標や移動速度の補正値の算出の具体例は、まず電子基準点算出部12が変位情報更新部14からの特定電子基準点の座標の出力要求に基づいて、再計算対象点である通行境界線の座標を基準としてステップS105において特定された複数の特定電子基準点の識別情報を取得する(ステップS201)。例えばデータベース2に電子基準点の識別情報と座標とが紐づいて記録されていれば、再計算対象点の座標の近傍の特定電子基準点の座標に基づいてその識別情報を取得することができる。電子基準点算出部12は、複数の特定電子基準点の識別情報に基づいて、それら特定電子基準点について同一または異なる日時に算出された電子基準点化成値(座標)と、当該特定電子基準点の移動速度をデータベース2から読み取る(ステップS202)。
【0043】
そして電子基準点算出部12は、それぞれ同一または異なる日時で算出された各特定電子基準点についての電子基準点化成値(座標)を、それら電子基準点化成値に対応する各移動速度を用いて、本処理を行っている日の座標値に補正する(ステップS203)。例えば、ある特定電子基準点の電子基準点化成値とその座標(X,Y,Z)における単位期間(1年とする)あたりの移動速度(Vx,Vy,Vz)が1月1日に算出され、再化成処理の日がその年の4月1日であれば、1月1日から4月1日までは90日あるので、特定電子基準点の電子基準点化成値における座標の補正値Hは、H=(X,Y,Z)+(Vx,Vy,Vz)×(90/365)で算出することができる。この処理により電子基準点算出部12は本処理を行っている日における各特定電子基準点の座標となるよう電子基準点化成値を補正する。
【0044】
電子基準点化成値の補正が終了すると次に電子基準点算出部12は、各特定電子基準点における補正後の電子基準点化成値とその移動速度を用いて、四次元統合網平均計算式により、特定電子基準点ごとの同一時点(例えば本処理を行っている今日の日時)における座標とその座標における移動速度との推定値を算出する(ステップS204)。四次元統合網平均とは、三次元の座標と速度の四次元の情報を用いて行う統合網平均計の計算手法である。ここで四次元統合網平均計算式は式(1)により表される式である。
【0045】
【数1】

【0046】
この式(1)においてベクトルVは残差、ベクトルXは未知の測位点の座標、ベクトルSは未知の測位点の座標の変化率(移動速度)、Lは観測値(既知の測位点の座標とIGS点とを結ぶ基線の長さと、そのベクトル)、Aは計画行列(デザインマトリックス)、Gは係数行列である。なお測位点は特定電子基準点である。そして式(1)を最小二乗コロケーションで解くと、
【0047】
【数2】

【0048】
【数3】

【0049】
となり、X,S,Vの推定値X^,S^,V^(^は推定値を表す)は、
【0050】
【数4】

【0051】
【数5】

【0052】
【数6】

【0053】
により算出することができる。以上の処理によれば、電子基準点算出部12が同一日に統一して作成(化成)された複数の特定電子基準点の座標を用いて、さらに四次元統合網平均によってその値を推定するので、精度の高い現在の特定電子基準点の座標と移動速度を算出することができる。
【0054】
図6は電子基準点の推定処理の概要を示す図である。
この図ではIGS点4つ(IGS点1?4)、特定電子基準点4つ(電子基準点A?D)を用いて、当該4つの特定電子基準点の今日の座標を推定処理してその緯度と移動速度を求めている様子を示している。このような四次元統合網平均により、同日における精度の高い座標および移動速度の算出を行うことができる。
【0055】
図7は再計算対象点の最新の緯度経度の算出処理フローを示す図である。
次に、上述の処理によって推定された特定電子基準点の情報を用いて再計算対象点である通行境界線上の各座標の推定を行うステップS107の処理の詳細について以下説明する。
【0056】
まず変位情報更新部14は、再計算対象点を基準とした複数の特定電子基準点の今日の最新の座標と移動速度とを電子基準点算出部12から取得する(ステップS701)。また変位情報更新部14は、所定道路の通行境界線の座標を示す再計算対象点について過去に算出された座標と当該座標における移動速度とをデータベース2から取得する(ステップS702)。変位情報更新部14は、再計算対象点についての座標や移動速度が過去に算出されていない場合には、地図データに含まれる再計算対象点についての座標や移動速度を取得してもよい。
【0057】
そして変位情報更新部14は再計算対象点の座標を、特定電子基準点の座標が算出された日(本処理を行っている日)と同一の日の座標へと補正する(ステップS703)。この処理は上述の電子基準点における電子基準点化成値の補正と同様の処理である。そして変位情報更新部14は、それら同一日に統一して作成(化成)された再計算対象点における座標とその移動速度と、当該同一日の座標として算出された複数の特定電子基準点の座標およびその座標における移動速度とを用いて、四次元統合網平均計算式により、再計算対象点ごとの同一時点における推定値(座標と移動速度)を算出する(ステップS704)。この四次元統合網平均の計算についても上述した特定電子基準点における推定処理と同様である。なおこの計算においてベクトルVは残差、ベクトルXは未知の測位点の座標、ベクトルSは未知の測位点の座標の変化率(移動速度)、Lは観測値(既知の測位点の座標と電子基準点とを結ぶ基線の長さと、そのベクトル)、Aは計画行列(デザインマトリックス)、Gは係数行列であり、測位点は再計算対象点となる。以上の処理によれステップS107における変位情報更新部14の再計算対象点の最新の座標(緯度,経度)と移動速度との算出が終了する。
【0058】
変位情報更新部14による上述の処理によれば、最新の座標や移動速度を精度よく算出することができる。なお上述の処理においては今日の座標や移動速度を算出しているが、ダイナミック座標管理装置1は、同様の処理により所望の過去または未来の日時における座標とその単位期間当たりの移動速度を算出するようにしてもよい。この場合、所定の任意の日時の特定電子基準点の座標や移動速度の化成値と、再計算対象点について過去に算出された座標や移動速度を用いて算出した当該任意の日時の化成値とを用いて、四次元統合もう平均計算により、再計算対象点についての任意の日時の座標や移動速度を算出すればよい。
【0059】
図8はダイナミック座標管理装置の処理フローを示す第二の図である。
ダイナミック座標管理装置1は通行境界線の座標を再計算対象点として最新の座標を算出する代わりに、地図上の所定の建造物などの構造物の座標や地形を示す座標を再計算対象点としてその最新の座標を算出するようにしてもよい。以下その場合の処理ついて説明する。
【0060】
ダイナミック座標管理装置1の変位情報取得部113は、単位エリアごとに区切られた地図データのうち、一つ目の地図データのIDを特定する(ステップS801)。当該地図データIDの特定はプログラムに規定された順序に特定してもよいし、ユーザからの入力に基づいて特定してもよい。変位情報取得部113は地図データIDに紐づいてデータベース2に記録されている地図データを取得する(ステップS802)。変位情報取得部113はこの地図データに含まれる所定の構造物や地形を示す座標を取得する(ステップS803)。変位情報取得部113はこの構造物や地形の座標を再計算対象点として変位情報更新部14に出力する。
【0061】
変位情報更新部14は一つ目の再計算対象点を取得する(ステップS804)。変位情報更新部14は再計算対象点の周りの複数の電子基準点を特定する(ステップS805)。例えば変位情報更新部14は再計算対象点の周りの電子基準点のうち、再計算対象点に直線距離が近い3つ以上の電子基準点を特定する。または変位情報更新部14は再計算対象点を中心とした数10Km,数100kmの半径の円に含まれる電子基準点を全て特定し、それら電子基準点が2つ未満であれば、さらに再計算対象点を中心とする半径を拡大した円に含まれる電子基準点を全て特定するようにしてもよい。変位情報更新部14は再計算対象点に直線距離が近い5つ、6つ等の数の電子基準点を特定してもよい。
【0062】
変位情報更新部14は再計算対象点を基準として特定した電子基準点の最新の座標(緯度、経度、標高)の出力を電子基準点算出部12に要求する。当該要求には今日の日時が含まれてよい。なお所定の任意の日時の再計算対象点の最新の座標を算出したい場合にはこの日時情報を任意の日時に変更すればよい。電子基準点算出部12は衛星測位信号受信装置20から取得した情報に基づいて特定された電子基準点の今日の座標を算出する(ステップS806)。変位情報更新部14は再計算対象点を基準として特定した電子基準点の今日の最新の座標を取得し、その座標を用いて再計算対象点の最新の座標(緯度,経度)と移動速度とを算出する(ステップS807)。
【0063】
変位情報更新部14は当該再計算対象点について地図データから取得した座標と、新たに算出した座標との差に基づいて、当該再計算対象点の移動方向ベクトルを算出する(ステップS808)。変位情報更新部14はそれら新たに算出した座標、移動速度、移動方向ベクトルを、再計算対象点の新たな座標情報として地図データを更新する(ステップS809)。変位情報更新部14は未処理の再計算対象点があるかを判定する(ステップS810)。変位情報更新部14は未処理の再計算対象点がある場合には、ステップS804からの処理を繰り返す。
【0064】
変位情報更新部14は再計算対象点である地図データ中の全ての構造物の最新の座標を算出すると、未処理の地図データIDがあるかを判定する(ステップS811)。変位情報更新部14は未処理の地図データIDがある場合にはステップS801からの処理を繰り返す。変位情報更新部14は処理を修了すると出力部15に処理終了を出力する。
【0065】
出力部15は変位情報更新部14が処理を修了すると、再計算対象点である構造物の座標が全て新たな座標に更新された更新後地図データを出力するかを判定する(ステップS812)。所定の出力先の装置が指定されている場合には、出力部15は更新後地図データを出力する(ステップS813)。所定の出力先の装置は例えば自動航行を行うドローン等の無人航空機であってよい。
【0066】
以上の処理によれば地殻変動に応じて座標が変化した最新の3次元画像の地図データを生成して出力することができる。
【0067】
なおダイナミック座標管理装置1は、ステップS101?ステップS113における通行境界線の座標を再計算対象点として算出する処理と、ステップS801?ステップS813における構造物や地形の座標を再計算対象として算出する処理とを平行して行ってもよい。そしてダイナミック座標管理装置1は再計算対象点である通行境界線の座標と、構造物や地表の座標とを、それぞれ新たな座標とへ更新した更新後地図データを出力先の装置へ出力してよい。出力先の装置は所定の地図データ蓄積サーバ、自動運転車両、ドローン、航空機などであってよい。
【0068】
更新後地図データの出力先の装置が航空機である場合には、ダイナミック座標管理装置1は、通行境界線の座標代わりに、滑走路中心線、接地点標識、滑走路末端標識、停止位置標識、滑走帯標識などの座標を再計算対象点として同様の処理により更新する処理を行うようにしてよい。また再計算対象点は空中に設けられた空中点の座標であっても良い。そしてこれらの再計算対象点の更新後の座標を用いて、航空機などの飛行体の離発着制御や航空路を航行する管制誘導制御などが行われるようにしてもよい。上述のダイナミック座標管理装置1による四次元統合網平均を行った更新後の再計算対象点の座標を用いることにより、水平方向30cm、高さ方向50cm程度の誤差未満などの1/100秒の精度による制御を行うことができる。
【0069】
また上述の処理では更新後地図データを所定の装置に出力しているが、更新した再計算対象点の座標の更新後のデータのみを所定の装置に出力するようにしてもよい。
【0070】
図9は再計算対象点の算出処理の概要を示す図である。
この図では特定電子基準点8つ(電子基準点A?H)、再計算対象点Xの1つと、を用いて、当該再計算対象点Xの座標と移動速度とを算出する様子を示している。このように、それぞれの特定電子基準点の過去に算出された座標を推定処理により同一日に統一して作成(化成)する処理と、図5で示す四次元統合網平均により、再計算対象点Xの精度の高い座標および移動速度の算出を行うことができる。
【0071】
図10はダイナミック座標管理装置の最小構成を示す図である。
ダイナミック座標管理装置1は少なくとも変位情報取得部と、変位情報更新部を備えればよい。
変位情報取得部13は、管理対象座標情報を少なくとも含む変位情報を取得する。
変位情報更新部14は、変位情報に含まれる管理対象座標情報を、取得した日時情報に基づいて更新する。
【0072】
上述のダイナミック座標管理装置1は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0073】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0074】
1・・・ダイナミック座標管理装置
2・・・データベース
10・・・衛星測位信号受信アンテナ
11・・・制御部
12・・・電子基準点算出部
13・・・変位情報取得部
14・・・変位情報更新部
15・・・出力部
20・・・衛星測位信号受信装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部と、
前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、
を備え、
前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、
前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する
ダイナミック座標管理装置。
【請求項2】
前記変位情報は道路上の通行境界線を示す前記管理対象の座標を少なくとも示し、
前記変位情報更新部は、前記通行境界線を示す前記管理対象の座標を取得した日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する
ことを特徴とする請求項1に記載のダイナミック座標管理装置。
【請求項3】
前記変位情報は物体を特定する物体座標を示す前記管理対象の座標が少なくとも含まれ、
前記変位情報更新部は、前記物体座標を示す前記管理対象の座標を取得した日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のダイナミック座標管理装置。
【請求項4】
前記物体は構造物、地形の少なくとも一方を示す請求項3に記載のダイナミック座標管理装置。
【請求項5】
前記変位情報更新部は、四次元統合網平均計算により、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新する
請求項1から請求項4の何れか一項に記載のダイナミック座標管理装置。
【請求項6】
前記変位情報更新部は、
前記管理対象の座標からの距離が所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が3以上の所定数か否かを判定し、
前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数以上である場合には、それら座標基準点のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定し、
前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数未満である場合には、前記所定距離を延伸し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数か否かを判定し、
前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数となった場合に前記延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点を特定する
請求項5に記載のダイナミック座標管理装置。
【請求項7】
前記出力部は、前記日時情報に基づいて更新した前記管理対象の座標を自立走行装置に出力する
を備える請求項1から請求項6の何れか一項に記載のダイナミック座標管理装置。
【請求項8】
特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得する変位情報取得部と、
前記管理対象の座標を、取得した今日の日時情報に基づいて今日の最新の座標に更新する変位情報更新部と、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標を示す変位情報を所定の装置へ出力する出力部と、
を備え、
前記変位情報更新部は、前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、それら3以上の座標基準点の座標および移動速度と前記管理対象の座標と座標が算出された日時と取得した今日の日時情報の日時に基づく四次元統合網平均計算により、前記管理対象の座標を前記取得した今日の日時情報の前記管理対象の最新の座標へ更新し、
前記変位情報更新部は、
前記管理対象の座標からの距離が所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が3以上の所定数か否かを判定し、
前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数以上である場合には、それら座標基準点のうち少なくとも前記所定数の数の座標基準点を特定し、
前記管理対象の座標からの距離が前記所定距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数未満である場合には、前記所定距離を延伸し、前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数か否かを判定し、
前記管理対象の座標からの距離が当該延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点の数が前記所定数となった場合に前記延伸後の距離以内に含まれる前記座標基準点を特定する
ダイナミック座標管理装置。
【請求項9】
特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されているデータベースから取得し、
前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時に基づいて今日の最新の座標に更新し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを算出し、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を所定の装置へ出力する
ダイナミック座標管理方法。
【請求項10】
ダイナミック座標管理装置のコンピュータのCPUに、
特定した再計算対象となる管理対象の座標と座標が算出された日時を少なくとも示す変位情報を管理対象の座標情報が保持されている記憶部から取得する変位情報取得手段として機能させ、
前記管理対象の座標に基づいて当該座標から距離が近い座標基準点を3以上特定し、前記管理対象の座標を、前記管理対象の座標と座標が算出された日時と、それら3以上の座標基準点との座標および移動速度と、取得した今日の日時情報の日時とに基づいて今日の最新の座標を演算し、前記管理対象の座標と前記今日の最新の座標とに基づいて当該座標の移動方向ベクトルを演算し、前記記憶部に記録されている前記管理対象の座標と移動方向ベクトルとを前記今日の最新の座標と当該座標の移動方向ベクトルとに更新する変位情報更新手段として機能させ、
前記日時情報に基づいて更新された後の前記管理対象の今日の最新の座標と当該座標の前記移動方向ベクトルとを示す変位情報を、出力装置を用いて所定の装置へ出力する出力手段として機能させる
プログラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-31 
出願番号 特願2018-99182(P2018-99182)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (G01C)
P 1 651・ 121- YAA (G01C)
P 1 651・ 537- YAA (G01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤村 泰智平野 貴也  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 山本 健晴
長馬 望
登録日 2019-05-24 
登録番号 特許第6528293号(P6528293)
権利者 株式会社日豊
発明の名称 ダイナミック座標管理装置、ダイナミック座標管理方法、プログラム  
代理人 伊藤 英輔  
代理人 涌井 謙一  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 山本 典弘  
代理人 古都 智  
代理人 鈴木 一永  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 工藤 貴宏  
代理人 伊藤 英輔  
代理人 古都 智  
代理人 三井 直人  

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