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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B05C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B05C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B05C
管理番号 1374923
異議申立番号 異議2020-700312  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-30 
確定日 2021-04-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6647815号発明「印刷装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6647815号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6647815号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6647815号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は,平成27年8月5日に出願され,令和2年1月17日にその特許権の設定登録がされ(請求項の数5),同年2月14日に特許掲載公報が発行された。
その後,その特許に対し,令和2年4月28日に特許異議申立人 増田 玲(以下,「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ,当審は同年10月30日付けで取消理由を通知し,特許権者は,取消理由通知の指定期間内である令和3年1月8日に意見書の提出及び訂正の請求(以下,「本件訂正請求」という。)を行い,同年1月15日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ,同年2月19日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は,以下の(1)ないし(3)のとおりであって,一群の請求項〔1-5〕に対して請求されたものである。なお,下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,
「回転可能に設けられ,缶体を支持する複数の缶体支持部材と,
前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う画像形成手段と,
前記複数の缶体支持部材の各々を経由するように循環移動を行い,当該複数の缶体支持部材の各々に回転駆動力を伝達する伝達部材と,
を備え,
前記複数の缶体支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され,
前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を移動中心として循環移動を行い,
前記配置中心と前記移動中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられている印刷装置。」
と記載されているのを,
「回転可能に設けられ缶体を支持する複数の缶体支持部材であって,回転する回転部材に取り付けられ,当該回転部材の回転に伴い移動する複数の缶体支持部材と,
インクジェット方式を用い,前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う複数の画像形成手段と,
前記複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材と,を備え,
前記複数の缶体支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され,前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い,前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられ,
前記回転部材が回転して前記缶体支持部材が一の前記画像形成手段から他の前記画像形成手段へ移動する際,前記伝達部材が,当該回転部材の回転方向とは反対方向へ回転する印刷装置。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2,3及び5も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に,
「前記缶体支持部材側には,前記伝達部材からの駆動力を受ける受け部材が設けられ,」
と記載されているのを,
「前記伝達部材からの駆動力であって前記缶体支持部材へ伝達される駆動力を受ける受け部材が設けられ,」
に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に,
「前記缶体支持部材側には,前記伝達部材からの駆動力を受ける受け部材が設けられ,
前記受け部材の方が,前記伝達部材よりも摩耗しやすくなっていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の印刷装置。」
と記載されているのを,
「回転可能に設けられ,缶体を支持する複数の缶体支持部材と,
前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う画像形成手段と,
前記複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材と,
を備え,
前記伝達部材からの駆動力であって前記缶体支持部材へ伝達される駆動力を受ける受け部材と,
を備え,
前記複数の缶体支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され,
前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い,
前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられ,
前記受け部材の方が,前記伝達部材よりも摩耗しやすい印刷装置。」
に訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。

2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,訂正前の請求項1の「缶体の支持部材」なる事項について,「回転する回転部材に取り付けられ,当該回転部材の回転に伴い移動する」ことを限定するものであり,訂正前の請求項1の「画像形成手段」なる事項について,「インクジェット方式を用い」ること及び「複数」であることを限定するものであり,「伝達部材」なる事項について「前記回転部材が回転して前記缶体支持部材が一の前記画像形成手段から他の前記画像形成手段へ移動する際,前記伝達部材が,当該回転部材の回転方向とは反対方向へ回転する」ことを限定するものであるから,訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,訂正事項1は,訂正前の請求項1の「伝達部材」なる事項について,「前記複数の回転支持部材の複数を経由するように循環移動を行い,当該複数の缶体支持部材の各々に回転駆動力を伝達する伝達部材」及び「前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を移動中心として循環移動を行い,前記配置中心と前記移動中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられている」なる事項について,「前記複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材」及び「前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い,前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられ」とし,訂正前の「経由」及び「循環移動」なる文言による明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項1は,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,実質上特許請求の範囲の拡張し,又は変更するものではない。
さらに,請求項1を引用する請求項2,3及び5に関する訂正事項1も同様である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,訂正前の請求項3に「前記缶体支持部材側には,前記伝達部材からの駆動力を受ける受け部材が設けられ,」なる記載を,「前記伝達部材からの駆動力であって前記缶体支持部材へ伝達される駆動力を受ける受け部材が設けられ,」とすることで,訂正前の「缶体支持部材側」の「側」なる文言による明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項2は,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,実質上特許請求の範囲の拡張し,又は変更するものではない。
さらに,請求項3を引用する請求項5に関する訂正事項2も同様である。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は,訂正前の請求項4の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する形式であったものを,独立した形式へ改めるための訂正であって,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
また,訂正事項3は,訂正前の請求項4が引用していた請求項1の「前記複数の回転支持部材の複数を経由するように循環移動を行い,当該複数の缶体支持部材の各々に回転駆動力を伝達する伝達部材」及び「前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を移動中心として循環移動を行い,前記配置中心と前記移動中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられている」なる事項について,「前記複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材」及び「前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い,前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられ」とし,訂正前の「経由」及び「循環移動」なる文言による明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項3は,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,実質上特許請求の範囲の拡張し,又は変更するものではない。
さらに,請求項4を引用する請求項5に関する訂正事項3も同様である。

3 小括
以上のとおりであるから,一群の請求項〔1-5〕を訂正する訂正事項1ないし3は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号,第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって,本件訂正請求は適法なものであり,本件特許の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
また,訂正後の請求項5は,請求項1及び請求項4を共に引用するから,訂正後の請求項4について,別の訂正単位とする求めは採用しない。

第3 本件発明
上記第2のとおりであるから,本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下,順に「本件発明1」のようにいう。)は,令和3年1月8日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
回転可能に設けられ缶体を支持する複数の缶体支持部材であって,回転する回転部材に取り付けられ,当該回転部材の回転に伴い移動する複数の缶体支持部材と,
インクジェット方式を用い,前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う複数の画像形成手段と,
前記複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材と,
を備え,
前記複数の缶体支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され,
前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い,
前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられ
前記回転部材が回転して前記缶体支持部材が一の前記画像形成手段から他の前記画像形成手段へ移動する際,前記伝達部材が,当該回転部材の回転方向とは反対方向へ回転する印刷装置。
【請求項2】
前記伝達部材は,放射状に配置された前記複数の缶体支持部材よりも前記配置中心側に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記伝達部材からの駆動力であって前記缶体支持部材へ伝達される駆動力を受ける受け部材が設けられ,
前記受け部材は,はすば状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷装置。
【請求項4】
回転可能に設けられ,缶体を支持する複数の缶体支持部材と,
前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う画像形成手段と,
前記複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材と,
前記伝達部材からの駆動力であって前記缶体支持部材へ伝達される駆動力を受ける受け部材と,
を備え,
前記複数の缶体支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され,
前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い,
前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられ,
前記受け部材の方が,前記伝達部材よりも摩耗しやすい印刷装置。
【請求項5】
前記画像形成手段は,複数設けられ,
複数の前記画像形成手段の各々を経由させて前記缶体支持部材を移動させる移動手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の印刷装置。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和2年4月28日に特許異議申立人が下記3の証拠方法とともに提出した特許異議申立書(以下,「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(進歩性について)
本件発明1ないし5は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証,甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明に基いて,その出願日前に当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,本件特許の請求項1ないし5に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(明確性について)
(1)本件特許の請求項1に記載された「伝達部材」が「前記複数の缶体支持部材の各々を経由するように循環移動を行」う点について,「経由」するとはどのような技術的事項を意味するのかが明確ではなく,請求項1の記載を引用する請求項2ないし5の記載もまた明確ではないから,請求項1ないし5に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(2)本件特許の請求項3に記載された「前記缶体支持部材側には,前記伝達部材からの駆動力を受ける受け部材が設けられ」る点について,「受け部材」の位置が不明確であるから,請求項3に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(3)本件特許の請求項4に記載された「受け部材の方が,前記伝達部材よりも摩耗しやすくなっている」点について,摩耗の程度は,各部材の材料や,ギア比などの部材の構造等によって変わるものであり,請求項4において「摩耗しやすくなっている」とはどのような状態であるかが明確ではないから,請求項4に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

3 証拠方法
甲第1号証:特開2015-083480号公報
甲第2号証:米国特許第6302961号明細書
甲第3号証:米国特許第4543883号明細書
甲第4号証:欧州特許出願公開第0082693号明細書
甲第5号証:特開平6-74941号公報
甲第6号証:特開2004-332914号公報
なお,証拠の表記は,特許異議申立書の記載に従った。以下,それぞれ「甲1」ないし「甲6」という。

第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要
当審が令和2年10月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。なお,取消理由2(1)及び(2)は,申立理由(1)及び(2)と同旨であり,取消理由3は申立理由1の一部の理由を含むものである。

1 取消理由1(明確性について)
(1)本件特許の本件訂正請求前の請求項1に記載された「経由」なる用語において,請求項1の記載はその意味するところが明確ではなく,請求項1の記載を引用する請求項2ないし5の記載もまた明確ではないから,請求項1ないし5に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(2)本件特許の本件訂正請求前の請求項3及び4に記載される,「缶体支持部材側」なる記載において,請求項3及び4の記載はその意味するところが明確ではなく,請求項3及び4の記載を引用する請求項5の記載もまた明確ではないから,請求項3ないし5に係る特許は,特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

2 取消理由2(新規性について)
本件特許の本件訂正請求前の請求項1,2及び5に係る発明は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であるから,請求項1,2及び5に係る特許は,特許法第29条第1項第3号に該当するものについてされたものであり,同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 取消理由3(進歩性について)
本件特許の本件訂正請求前の請求項1ないし3及び5に係る発明は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明に基いて,その出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1ないし3及び5に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

第6 当審の判断
1 取消理由について
(1)取消理由1(1)について
本件訂正請求による訂正により,請求項1の伝達部材が「複数の缶体支持部材の各々を経由するように循環移動を行」う「経由」なる表現は削除され,訂正後の「前記複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材」及び「前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い」なる事項により,伝達部材の動き方は明確に特定されている。
同様に請求項1の記載を引用する請求項2,3及び5の記載も明確である。
したがって,取消理由1(1)は理由がない。

(2)取消理由1(2)について
本件訂正請求による訂正によって請求項3の「缶体支持部材側」なる明確でないとされた用語が削除され,「前記伝達部材からの駆動力であって前記缶体支持部材へ伝達される駆動力を受ける受け部材が設けられ,
前記受け部材は,はすば状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷装置。」と訂正されることによって,不明瞭であった受け部材に係る構成が明確に特定された。
同様に請求項3の記載を引用する請求項5の記載も明確である。
したがって,取消理由1(2)は理由がない。

(3)取消理由2及び3について
ア 甲3に記載された事項
甲3には,「APPARATUS FOR PRINTING FRUSTOCONICAL ARTICLES」について,おおむね次の事項が記載されている。なお,甲3の日本語出願ファミリーに相当する特開昭55-4000号公報を部分的に翻訳として用い,摘記箇所と共に対応する翻訳を記載する(下線は当審で付加した。以下同様。)。
「1. Apparatus for applying at least two color images to cylindrical or frustoconical articles, said apparatus including a sub-frame and a main frame; a turret mounted on said main frame for rotation about a main axis extending substantially vertical; a plurality of mandrels for supporting articles to which images are to be applied; said mandrels being mounted to said turret in angularly spaced relationship and each of said mandrels being mounted for rotation on an individual mandrel axis extending radially with respect to said main axis; indexing means operable to turn the turret intermittently so as to index each of said mandrels in succession at a plurality of printing stations angularly spaced around the main axis; each of said printing stations mounted on said sub-frame and including a printing roll mounted for rotation about a radially extending rotational axis, inking means for applying ink to said printing roll, an auxiliary frame on which said inking means, said printing roll and means defining said rotational axis are mounted; means defining a substantially horizontal pivot axis about which said auxiliary frame is pivotable relative to said sub-frame to align the outer surface of the printing roll for adjustment thereof to image transferring relation with respect to the outer surfaces of articles mounted on said mandrels; drive means for synchronizing rotation of said mandrels and said printing rolls with each other and with operation of said indexing means; means for bringing about relative substantially vertical adjusting movement between said main frame and said sub-frame to simultaneously adjust gap widths between the outer surfaces of said printing rolls and said mandrels; after said vertical adjusting movement said main frame and said sub-frame remaining stationary as said turret rotates as well as during rotation of said mandrels and said printing rolls; said mandrel axes extending in a common horizontal plane which is fixed in the same vertical position while said turret is turning intermittently as well as while said mandrels are indexed at said printing stations.」(1.円筒形または切頭形の物品に少なくとも2つの色像を形成する装置において,前記装置は主枠と副枠とを含み;タレツトは実質的に垂直に延在する主軸の周りを回転するように前記主枠に取り付けられ;色像が形成される物品を支持する複数個の心棒を有し;前記心棒は角度をなして間隔をおいて前記タレツトに取り付けられると共に,前記主軸にたいし半径方向に延在する各個心棒軸を中心に回転するように取り付けられており;タレツトを間欠的に回動して前記心棒各々を順次,主軸を中心に角度をなして間隔をおいた複数個の印刷ステーションに割出すように作動する割出し手段とを有し;前記印刷ステーションの各々は前記副枠に取りつけられ,半径方向に延在する回転軸を中心に回転するよう取り付けられたプリントロール,インキを前記プリントロールに塗布するインキ塗布手段,及び前記インキ塗布手段と前記プリントロールと前記回転軸を形成する手段,とを取り付けた補助枠を含んでおり;実質的に水平なピボット軸を形成する手段を含み,このピボット軸を中心に前記補助枠が前記枠手段にたいし回動してプリントロールの外面を整列させ,これを,前記心棒に取り付けられた物品の外面にたいし像を転写するように調整し;前記心棒と前記プリントロールの互いの回転と前記割出し手段の作動とを同期させる駆動手段とを有し;前記主枠と前記副枠とを実質的に垂直に相対移動させて前記プリントロールの外面と前記心棒との間隔幅を同時に調節する手段を含み;前記垂直方向の調整移動をした後,前記主枠と前記副枠は静止したまま,前記タレツトは前記マンドレルおよびプリントロールの回転時に回転し;前記マンドレルは,前記軸を前記タレツトを間欠的に回転している間に前記マンドレルは前記印刷ステーションに割り出される同一の垂直位置に固定されている共通の水平面内に延在する;装置。)(第6欄第36行ないし第7欄第6行)
「Turret 40 (FIG. 1) is secured to main shaft 22 near its upper end by so-called ring fedder locking devices 41, 42 so that turret 40 is rotationally fixed to shaft 22. Rotationally mounted on turret 40 are sixteen mandrels 45 disposed outboard of turret 40 with equal angular spaces between adjacent mandrels 45. Since each mandrel 45 is mounted to turret 40 and is driven in the same manner, only the mounting and drive for one mandrel 45 will be described.
More particularly, bolt 44 removably secures mandrel 45 to the outboard end of stub shaft 43 which extends radially with respect to main shaft 22 and is disposed in a fixed horizontal plane. Shaft 43 is rotationally mounted in axially spaced bearings 47, 48 mounted in block 46. Coupling 49 provides a driving connection between the inboard end of shaft 43 and the outboard end of rotationally supported stub shaft 51 whose inboard end mounts beveled pinion gear 52. All of the beveled pinions 52 are in mesh with beveled ring gear 50 which is fixedly secured to sleeve 55. The latter is concentrically mounted to main shaft 22 and is rotationally supported thereon by bearings 53, 54 so as to be in a fixed vertical position.」(タレツト40(第1図)は,軸22に回軸可能に固定されるように,所謂リングフエツダー固定装置41,42によって主軸22の上端近くに固定される。16本の心棒45がそれら間に等角間隔をおいてタレツト40の外部に配設されるようにタレツト40に回転可能に取り付けられる。各心棒は同じようにタレツト40に取り付けられて駆動されるので,1本の心棒45にたいする取り付けと駆動についてのみ説明する。
さらに詳しく言えば,主軸22にたいし半径方向に延在しかつ一定の水平面に配設される短軸43の外端部にたいし心棒45はボルト44により着脱可能に固定される。軸43は,ブロツク46に取り付けた軸方向に隔設した軸受47,48内に回転可能に取り付けられる。継手49により,軸43の内端部と,内端部に小かさ歯車52を取り付けた回転可能な短軸51の外端部との間に駆動接続を形成する。これら小かさ歯車52は,スリーブ55に固着されているかさ輪歯車50と咬み合う。このスリーブは主軸22に同心状に取り付けられると共に,一定の垂直位置になるように,軸受53,54によつて主軸に回転可能に支持される。)(第2欄第60行ないし第3欄第14行)
「During operation of decorating apparatus 20, turret 40 moves through sixteen angular steps for each revolution of main shaft 22 so that each mandrel 45 moves through sixteen steps for each revolution of shaft 22, stopping for a substantial period of time between steps; however, during the dwell periods for main shaft 22, the mandrels 45 continue to rotate about their respective rotational axes provided by stub shafts 43 in that ring gear 50 is in continuous motion rotating the sixteen pinions 52 about their rotational axes. At the angular position F (FIG. 10), the mandrel 45 stoped thereat will be loaded with a container having an open end and typically constructed of plastic or metal. In a manner similar to that described in the aforesaid U.S. Pat. No. 3,645,201, suction is applied through passages (not shown) in mandrel 45 to hold a container thereon until the unloading position U is reached. At the first dwell B following the in-feed position F, if the container has been damaged or improperly loaded on mandrel 45 a pressurized air will be applied through mandrel 45 to shed this damaged or improperly loaded container. At the next position P-1, a properly loaded container will have a first color image applied thereto and this image will be dried at the first drying position D-1. Thereafter, this particular mandrel will move alternately to and stop print at printing stations P-2 through P-6 and drying stations D-2 through D-6. Unloading station U follows the last drying station D-6. At the unloading station the vacuum holding forces are discontinued and a blow-off force is applied to remove the decorated container from mandrel 45. At station L located between the unloading station U and the in-feed station F, if the presence of a container is detected the entire apparatus 20 will cease operation and an alarm will sound indicating that a problem condition exists.」(装飾装置20の作動中,タレツト40は主軸22の各回転毎に16の角工程だけ移動するので,各心棒45は軸22の各回転毎16工程だけ移動し,工程間で相当期間停止するが,主軸22の休止期間中,これら心棒45は短軸43の夫々回転軸を中心に回転し続けるように輪歯車50は連続回転してその回転軸を中心に16の小歯車52を回転させる。角位置F(第10図)において,そこに停止している心棒45に,開口端部を有し典型的にはプラスチックまたは金属で形成される容器が載荷される。前記米国特許第3,645,201号に記載されたと同様な仕方で,心棒45の(図示せざる)通路を介して吸引力が加えられて,容器を取り外し位置に達するまで心棒上に保持する。送り込み装置Fに続く第1休止B時に,もし容器が損傷されまたは心棒45に不適当に載荷されている場合には,圧力空気を心棒45に加えてこのような損傷上うけまたは不適当に載荷された容器を落とす。次の位置P-1において,正しく載荷された容器に第1の色像が付与されて,この像は第1乾燥位置D-1で乾燥される。その後,この心棒は交互に,印刷ステーションP-2?P-6及び乾燥ステーションD-2?D-6へ移動しそこで停止し印刷される。取り外しステーションUの次は最終の乾燥ステーションD-6となる。取り外しステーションで,真空保持力は絶たれて,吹き出し力が加えられて装飾ずみ容器を心棒45から除去する。取り外しステーションUと送り込みステーションFとの間のステーションLにおいて,容器の存在が検出された場合,装飾20全体の作動は停止し,問題があることを示す警報を発する。)(第5欄第34ないし第68行)


」(図1)


」(図10)

イ 甲3発明
甲3の上記記載からみて,甲3には,色像を形成する装置について,次の発明(以下,「甲3発明」という。)が記載されていると認める。
「主軸を中心に回転するタレツトに取り付けられる複数個の心棒と,
前記心棒により載荷されている金属で形成される容器に色像を形成する複数個の印刷ステーションと,
前記複数個の心棒の各々を回転駆動する輪歯車と,
を備え,
前記複数個の心棒は,主軸を配置中心として放射状に配置され,
前記輪歯車は,主軸を中心に回転移動を行う,
色像を形成する装置であり,
前記輪歯車は,前記心棒よりも前記配置中心側に設置されており,前記心棒には,前記輪歯車によって回転駆動される小歯車が接続され,
前記印刷ステーションは複数設けられ,心棒はタレツトの回転により複数の印刷ステーションを経由させられる,
色像を形成する装置。」

ウ 本件発明1ないし3及び5と甲3発明との対比,判断
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明の「色像を形成する装置」は,本件発明1の「印刷装置」に相当する。
甲3発明の「複数個の心棒」が取り付け,これらを回転させる「タレツト」は,本件発明1の「回転する回転部材」に相当する。
甲3発明の「金属で形成される容器」は,本件発明1の「缶体」に相当し,これを載荷し,回転するタレツトに取り付けられる甲3発明の「複数個の心棒」は,本件発明1の「回転可能に設けられ缶体を支持する複数の缶体支持部材であって,回転する回転部材に取り付けられ,当該回転部材の回転に伴い移動する複数の缶体支持部材」に相当する。
甲3発明の「色像を形成する複数の印刷ステーション」は,本件発明1の「複数の画像形成手段」に相当する。
甲3発明の「複数個の心棒の各々を回転駆動する」,「主軸を中心に回転移動を行う」「輪歯車」は,本件発明1の「複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材」であって,「円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転移動を行」うものに相当する。
甲3発明の「複数個の心棒」が「主軸を中心に放射状に配置され」ている事項は,本件発明1の「複数の缶体支持部材」が「予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され」ている事項に相当する。
甲3発明は「心棒」の配置中心と「輪歯車」の回転の中心を同じ主軸とするから,甲3発明は,本件発明1の「前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられ」なる事項を満たす。

したがって,本件発明1と甲3発明は,以下の点で一致する。
「回転可能に設けられ缶体を支持する複数の缶体支持部材であって,回転する回転部材に取り付けられ,当該回転部材の回転に伴い移動する複数の回転支持部材と,
前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う画像形成手段と,
前記複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材と,
を備え,
前記複数の回転支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され,
前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い,
前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられている印刷装置。」

そして,本件発明1と甲3発明は,以下の相違点1で相違する。

相違点1:本件発明1は,画像形成手段に「インクジェット方式」を用いることを特定した上で,回転部材が回転して缶体支持部材が位置の画像形成手段から他の画像形成手段へ移動する際の伝達部材の回転方向を「回転部材の回転方向とは反対方向へ回転する」と特定するのに対し,甲3発明はこのように特定しない点。

上記相違点1について検討する。
回転部材が回転して缶体支持部材が位置の画像形成手段から他の画像形成手段へ移動する際の伝達部材の回転方向について,「回転部材の回転方向とは反対方向へ回転する」とすることは甲1ないし6のいずれにも記載された事項ではないし,出願時の技術常識でもない。
そして,本件特許明細書の【0050】ないし【0052】には,インクジェットによって缶体に印刷されたインクは,回転部材の回転方向とは反対方向へ回転する伝達部材が缶体の回転数をより増加させることで,より速やかに乾きやすく,速やかに硬化することが記載されており,このような効果は,甲1及び2並びに甲4ないし6のいずれにも記載されていない。

よって,甲1及び2並びに甲4ないし6に記載された事項及び出願時の技術常識を参酌しても,甲3発明に相違点1に係る事項を採用することは,当業者といえども容易に想到し得たことではない。

したがって,本件発明1は,甲3発明,すなわち,甲3に記載された発明ではなく,また該発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2について
本件発明2は,請求項1の記載を引用するものであり,本件発明1の特定事項を全て含むものである。
そして,本件発明1は,甲3発明ではなく,また該発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明1の特定事項を全て含む本件発明2もまた,甲3発明,すなわち,甲3に記載された発明ではなく,また該発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明3について
本件発明3は,請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり,本件発明1の特定事項を全て含むものである。
そして,本件発明1は,甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明1の特定事項を全て含む本件発明3もまた,甲3発明,すなわち,甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明5について
本件発明5は,請求項1の記載を直接又は間接的に引用し,本件発明1の特定事項を全て含むものである。
そして,本件発明1は,甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明1の特定事項を全て含む本件発明5もまた,甲3発明,すなわち,甲3に記載された発明ではなく,また該発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 特許異議申立人の主張について
令和3年2月19日提出の意見書で特許異議申立人は,上記相違点1に関し,甲1の【0030】及び【0033】の記載を引用し,甲3発明に甲1に記載の事項を適用することにより,「輪歯車」を所定の方向に回転させ,「心棒」の回転数を調整することは当業者であれば容易に想到し得た旨を主張する。
しかしながら,甲1の上記箇所には,缶体受け取り箇所で受け取られた缶体を画像形成手段に相当する第1白色用ヘッドに移動させるまでに支持筒の回転数を上昇させることは記載されているが,缶体支持部材が一の画像形成手段から他の画像形成手段に移動する際に回転数を上昇させることを記載しているものではなく,甲3発明に甲1に記載の事項を適用したとしても,当業者が本件発明1を容易に想到し得たものであるとは解されない。
よって,特許異議申立人の主張は失当であって採用できない。

(4)小括
したがって,取消理由通知で通知した取消理由1ないし3については,いずれも理由がない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
当審が採用しなかった申立理由は,申立理由1のうち,甲1又は甲2を主引例とする本件発明1ないし5の進歩性及び甲3を主引例とする本件発明4及び本件発明4を引用する本件発明5の進歩性ならびに申立理由2(3)である。
以下,検討する。

(1)申立理由1について
ア 甲3を主引例とする場合について
(ア)甲3に記載された事項及び甲3発明
甲3には,上記第5(3)ア及びイのとおりの事項及び甲3発明が記載されている。

(イ)対比,判断
a 本件発明4について
本件発明4と甲3発明を対比する。
甲3発明の「色像を形成する装置」は,本件発明4の「印刷装置」に相当する。
甲3発明の「金属で形成される容器」は,本件発明4の「缶体」に相当し,これを載荷し,回転するタレツトに取り付けられる甲3発明の「複数個の心棒」は,本件発明4の「回転可能に設けられ,缶体を支持する複数の缶体支持部材」に相当する。
甲3発明の「印刷ステーション」は,本件発明4の「画像形成手段」に相当する。
甲3発明の「複数個の心棒の各々を回転駆動する」,「主軸を中心に回転移動を行う」「輪歯車」は,本件発明4の「複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材」であって,「円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転移動を行」うものに相当する。
甲3発明の心棒に接続され「輪歯車によって回転駆動される小歯車」は,甲4発明の「前記伝達部材からの駆動力であって前記缶体支持部材へ伝達される駆動力を受ける受け部材」に相当する。
甲3発明の「複数個の心棒」が「主軸を中心に放射状に配置され」ている事項は,本件発明4の「複数の缶体支持部材」が「予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され」ている事項に相当する。
甲3発明は「心棒」の配置中心と「輪歯車」の回転の中心を同じ主軸とするから,甲3発明は,本件発明4の「前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられ」なる事項を満たす。

したがって,本件発明4と甲3発明は,以下の点で一致する。
「回転可能に設けられ,缶体を支持する複数の缶体支持部材と,
前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う画像形成手段と,
前記複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材と,
前記伝達部材からの駆動力であって前記缶体支持部材へ伝達される駆動力を受ける受け部材と,
を備え,
前記複数の缶体支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され,
前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い,
前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられた
印刷装置。」

そして,本件発明4と甲3発明は,以下の相違点2で相違する。
相違点2:「受け部材」について,本件発明4は「伝達部材よりも摩耗しやすい」と特定するのに対し,甲3発明はこのように特定しない点。

上記相違点2について検討する。
相違点2に係る事項は,特許異議申立人の提示したいずれの文献にも記載されておらず,出願時の技術常識でもない。
そして,本件特許明細書の【0052】には,受け部材を伝達ギアよりも摩耗しやすくすることによって,大型の伝達ギアの着脱を行う必要を生じさせず,メンテナンスを行いやすくする効果が記載されており,この点についても甲1及び2並びに甲4ないし6のいずれにも記載されていない。

よって,甲1及び2並びに甲4ないし6に記載された事項及び出願時の技術常識を参酌しても,甲3発明に相違点2に係る事項を採用することは,当業者といえども容易に想到し得たことではない。

したがって,本件発明4は,甲3発明,すなわち,甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 本件発明5について
本件発明5のうち,請求項4の記載を引用するものは,本件発明4の特定事項を全て含むものである。
そして,本件発明4は,甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明4の特定事項を全て含む本件発明5もまた,甲3発明,すなわち,甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)小括
したがって,申立理由1のうち,甲3を主引例として本件特許の請求項4及び5に係る特許を取り消すべきとする申立理由は理由がない。

イ 甲1を主引例とする場合について
(ア)甲1に記載された事項
甲1には,「缶体の製造方法,印刷装置,および,飲料用缶」について,おおむね次の事項が記載されている。
「【請求項5】
筒状に形成され金属材料により形成され飲料缶に用いられる缶体への印刷を行う印刷装置であって,
複数のインク吐出口を有しインクを吐出するか否かの制御を当該インク吐出口毎に行うことが可能なインクジェットヘッドを用い,前記缶体の外周面に対し,当該外周面に現れている金属の地を覆う層を形成する層形成手段と,
前記層形成手段による層の形成後,前記缶体の外周面に対し画像を形成する画像形成手段と,を備える印刷装置。」
「【0017】
また,印刷装置200には,円柱状に形成され不図示のモータにより駆動され図中矢印に示す方向に回転する回転部材210が設けられている。
また,印刷装置200には,回転部材210の外周面から突出するように設けられるとともに回転部材210の回転方向において互いにずらされた状態で配置され,缶体受け取り箇所1Cにて缶体10を受け取り,そして,この缶体10を保持する複数の保持機構230が設けられている。付言すると,印刷装置200には,回転部材210を中心として放射状に配置され,上流側から搬送されてきた缶体10を保持する保持機構230が複数設けられている。」
「【0021】
また,第2白色用ヘッド252の下流側には,イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),黒(K)のトナー像を形成する4つのカラー用インクジェットヘッド(以下,「カラー用ヘッド」と称する)242Y,242M,242C,242Kが設けられている。ここで,画像形成手段として機能するこの4つのカラー用ヘッド242Y,242M,242C,242Kは,紫外線硬化型のインクを用いて缶体10への画像形成を行う。
なお,本実施形態では,イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),黒(K)の順で,インクジェットヘッドが設けられているが,この順は一例であり,他の順でインクジェットヘッドを並べてもよい。」
「【0025】
次に,保持機構230について説明すると,保持機構230の各々には,回転部材210の外周面から突出し且つ略水平に配置され回転部材210に固定された固定部材231が設けられている。さらに,円筒状に形成され,且つ,缶体10に挿入され,缶体10を支持する支持筒(マンドレル)232が設けられている。なお,支持筒232には,支持筒232の軸方向に沿った貫通孔232Aが形成されており,本実施形態では,この貫通孔232A内を負圧にし,あるいは,加圧することで,支持筒232に対する缶体10の着脱が行われる。
【0026】
さらに,本実施形態では,固定部材231の内部に,モータなどを有し支持筒232を周方向に回転させる回転機構(不図示)が設けられている。また,本実施形態では,支持筒232の状態(位相,基準位置からの回転角度)を把握する把握機構(不図示)が設けられている。この把握機構は,例えば,ロータリエンコーダにより構成される。ここで,本実施形態では,把握機構からの把握結果に基づき,第2白色用ヘッド252,カラー用ヘッド242Y,242M,242C,242Kにおけるインクの吐出開始タイミングが制御される。これにより,缶体10に形成される画像にずれが生じることが抑制される。
【0027】
印刷装置200の動作を説明する。
印刷装置200は,まず,缶体受け取り箇所1Cにて,上流側から搬送されてきた缶体10を受け取る。具体的には,不図示の缶体搬送機構によって,缶体受け取り箇所1Cまで缶体10が搬送されてくるとともに,缶体受け取り箇所1Cには,支持筒232が待機している。そして,支持筒232による缶体10の吸引が行わる。具体的には,支持筒232に形成された貫通孔232A内が負圧とされ,缶体10の吸引が行われる。これにより,缶体10内に支持筒232が入り込み,支持筒232による缶体10の保持が開始される。
【0028】
なお,本実施形態における缶体10は,円筒状に形成されている。また,缶体10は,金属材料によって形成されている。具体的には,アルミニウムやアルミニウム合金によって形成されている。また,缶体10は,ドローアンドアイアニング(DI)成形により形成されており,胴部と底部とが一体となっている。また,缶体10は,長手方向(軸方向)における一方の端部に底部が形成され,この一方の端部が塞がれた状態となっている。一方で,他方の端部は,塞がれておらず開放された状態となっている。支持筒232による缶体10の支持は,この開放された側から缶体10の内部に支持筒232が入り込むことで行われる。
【0029】
支持筒232による缶体10の支持が行われた後,回転部材210の回転が行われる。これにより,缶体10は,図1において,反時計回り方向に向かって移動する。付言すると,回転部材210の回転が行われることで支持筒232の移動が行われ,この支持筒232の移動に伴い,缶体10が図中反時計回り方向に向かって移動する。
【0030】
また,本実施形態では,支持筒232による缶体10の支持が行われると,支持筒232の周方向への回転が開始され,缶体10の周方向への回転が開始される(缶体10の自転)。なお,本実施形態では,缶体受け取り箇所1Cと第1白色用ヘッド251との間に位置する領域にて,支持筒232の加速(回転数の上昇)が行われ,第1白色用ヘッド251に達するまでに,支持筒232の回転数が予め定められた回転数となる。
【0033】
なお,下流側に位置するインクジェットヘッドへ缶体10を順次移動させていくにあたり,支持筒232の回転を一旦停止させてもよいし,支持筒232の回転数を低下させるようにしてもよい。また,支持筒232を回転させたまま(支持筒232の回転数を維持したまま),缶体10を移動させるようにしてもよい。」
「【図1】



(イ)甲1発明
甲1の上記記載からみて,甲1には,印刷装置について,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「筒状に形成され金属材料により形成され飲料缶に用いられる缶体への印刷を行う印刷装置であって,
回転部材の回転が行われることで移動する,缶体を支持する複数の支持筒が回転部材に取り付けられており,
複数のインク吐出口を有しインクを吐出するか否かの制御を当該インク吐出口毎に行うことが可能なインクジェットヘッドを用い,前記缶体の外周面に対し,当該外周面に現れている金属の地を覆う層を形成する層形成手段と,
を備え,
前記複数の支持筒は,回転部材の中心を中心として放射状に配置され,
前記層形成手段による層の形成後,前記缶体の外周面に対し画像を形成する画像形成手段として機能する複数のインクジェットヘッドと,
を備える印刷装置。」

(ウ)対比・判断
a 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「回転部材の回転が行われることで移動する,缶体を支持する複数の支持筒」は,本件発明1の「回転可能に設けられ缶体を支持する複数の缶体支持部材であって,回転する回転部材に取り付けられ,当該回転部材の回転に伴い移動する複数の缶体支持部材」に相当する。
甲1発明の「前記缶体の外周面に対し画像を形成する画像形成手段として機能する複数のインクジェットヘッド」は,本件発明1の「インクジェット方式を用い,前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う複数の画像形成手段」に相当する。
甲1発明の「前記複数の支持筒は,回転部材の中心を中心として放射状に配置され」なる事項は,本件発明1の「前記複数の缶体支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置された」なる事項に相当する。

したがって,本件発明1と甲1発明は以下の点で一致する。
「回転可能に設けられ缶体を支持する複数の缶体支持部材であって,回転する回転部材に取り付けられ,当該回転部材の回転に伴い移動する複数の缶体支持部材と,
インクジェット方式を用い,前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う複数の画像形成手段と,
を備え,
前記複数の缶体支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置された
印刷装置。」

本件発明1と甲1発明は,以下の相違点3で相違する。
相違点3:缶体支持部材を回転させるために,本件発明1は「複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材」を備え,「伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い」,「前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられ」,「前記回転部材が回転して前記缶体支持部材が一の前記画像形成手段から他の前記画像形成手段へ移動する際,前記伝達部材が,当該回転部材の回転方向とは反対方向へ回転する」ことが全て特定されているのに対し,甲1発明はこのように特定されていない点。

上記相違点3について検討する。
甲1には,缶体の印刷装置において,缶体支持部材に相当する支持筒はそれぞれ個別に設けられたモータなどによって回転させられるものであり(【0026】),本件発明1に係る「伝達部材」は不必要である。そして,缶体の回転を本件発明1の伝達部材によって行う動機付けがなく,相違点3に係る構成を本件発明1において採用することは,当業者といえども容易に想到し得たものではない。
よって,本件発明1は,甲1発明,すなわち,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 本件発明2及び3について
本件発明2及び3はいずれも,請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり,本件発明1の特定事項を全て含むものである。
そして,上記(ア)のとおり,本件発明1は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明1の特定事項を全て含む本件発明2及び3もまた,甲1発明,すなわち,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 本件発明4について
本件発明4と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「回転部材の回転が行われることで移動する,缶体を支持する複数の支持筒」は,本件発明4の「回転可能に設けられ,缶体を支持する複数の缶体支持部材」に相当する。
甲1発明の「前記缶体の外周面に対し画像を形成する画像形成手段として機能する複数のインクジェットヘッド」は,本件発明4の「前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う画像形成手段」に相当する。
甲1発明の「前記複数の支持筒は,回転部材の中心を中心として放射状に配置され」なる事項は,本件発明4の「前記複数の缶体支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置された」なる事項に相当する。

したがって,本件発明4と甲1発明は以下の点で一致する。
「回転可能に設けられ缶体を支持する複数の缶体支持部材と,
前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う画像形成手段と,
を備え,
前記複数の缶体支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置された,
印刷装置。」

本件発明4と甲1発明は,以下の相違点4及び5で相違する。
相違点4:缶体支持部材を回転させるために,本件発明1は「複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材」を備え,「伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い」,「前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられ」,「ることが全て特定されているのに対し,甲1発明はこのように特定されていない点。
相違点5:「受け部材」について,本件発明4は「伝達部材よりも摩耗しやすい」と特定するのに対し,甲1発明はこのように特定しない点。

上記相違点について検討する。
相違点4について
上記aで述べたように,少なくとも甲1には,缶体支持部材に相当する支持筒の回転を本件発明4の伝達部材によって行う動機付けがなく,相違点4に係る構成を本件発明4において採用することは,当業者といえども容易に想到し得たものではない。
相違点5について
相違点5に係る事項は,特許異議申立人の提示したいずれの文献にも記載されておらず,出願時の技術常識でもない。
そして,本件特許明細書の【0052】には,受け部材を伝達ギアよりも摩耗しやすくすることによって,大型の伝達ギアの着脱を行う必要を生じさせず,メンテナンスを行いやすくする効果が記載されており,この点についても甲2ないし6のいずれにも記載されていない。
よって,甲2ないし6に記載された事項及び出願時の技術常識を参酌しても,甲1発明に相違点5に係る事項を採用することは,当業者といえども容易に想到し得たことではない。

よって,本件発明4は,甲1発明,すなわち,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

d 本件発明5について
本件発明5は,請求項1の記載を直接又は間接的に引用する,あるいは請求項4の記載を引用するものであり,本件発明1又は本件発明4の特定事項を全て含むものである。
そして,上記a及びcのとおり,本件発明1及び本件発明4は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明1又は本件発明4の特定事項を全て含む本件発明5もまた,甲1発明,すなわち,甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)小括
したがって,申立理由1のうち,甲1を主引例として本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきとする申立理由は理由がない。

ウ 甲2を主引例とする場合について
(ア)甲2に記載された事項
甲2には,「APPARATUS FOR APPLYING A LIQUID COATING TO ELECTRICAL COMPONENTS」について,おおむね次の事項が記載されている。摘記箇所と共に対応する翻訳を記載する
「As further shown in FIG. 1, the table 18 is supported on a frame 22 for rotation in a generally clockwise direction, viewing FIG. 1, wherein each of the support housings 20 may be rotatably indexed to successive positions for heating of the workpieces 14 by adjacent induction heater units 24, respectively.」(図1をさらに参照すると,テーブル18は,図1を参照して,一般的に時計回り方向に回転するためのフレーム22に支持されており,ここで,支持ハウジング20の各々は,隣接する誘導加熱ユニット24によってワークピース14を加熱するための連続した位置にそれぞれ回転可能に割り出されていてもよい。)(第3欄第60ないし65行)
「Referring further to FIG. 1, each of the workpiece support housings 20 is adapted to support a workpiece gripper assembly 28, respective ones of which are identified, by way of example, in FIG. 1. The gripper assemblies 28 are adapted to releasably grip the alternator stator workpieces 14 and to rotate the workpieces at a predetermined rate as they are moved seriatim to the stations at which they are heated by the heater units 24 and have a liquid coating applied thereto at the applicator assembly 26. The apparatus 12 is arranged to have a station or position 30 indicated by the radial line at which a workpiece 14 may be removed from and mounted on a gripper assembly 28 as the support housings 20 are moved into position in alignment with the station 30. Accordingly, workpieces 14 are rotatably indexed also from the station for applicator assembly 26 through ten indexed positions between the assembly 26 and the station 30 during which the workpieces are rotated at a predetermined rate by the gripper assemblies 28 to allow uniform distribution and curing of the coating which has been applied at the work station.」(図1をさらに参照すると,ワークピースサポートハウジング20の各々は,ワークピースグリッパアセンブリ28を支持するように適合されている。グリッパアセンブリ28は,オルタネータステータワークピース14を解放可能に把持し,それらがヒータユニット24によって加熱され,アプリケータアセンブリ26でそれに適用された液体コーティングを有するステーションへと順次移動されるように,ワークピースを所定の速度で回転させるように適合されている。サポートハウジング20は,ステーション30と位置合わせされた位置に移動する場合に,装置12は,ワークピース14から取外され,かつ,グリッパアセンブリ28に取り付けることができる半径方向線によって示されたステーションまたは位置30から構成されている。従って,ワークピース14は,ワークピースがグリッパアセンブリ28によって所定の速度で回転させて,ワークステーションに適用されたコーティングの分布及び硬化が均一となるようにして,アセンブリ26とステーション30との間で割出し位置を通ってアプリケータ組立体26のためのステーションからも回転させられて位置決めされる。)(第4欄第9ないし17行)
「As shown in FIG. 1, a coating drip tray 33 is preferably provided for the apparatus 12 to catch any liquid coating which may drip off the workpieces 14 as they are indexed from the station for applicator assembly 26 to station 30.」(図1に示すように,装置12には,アプリケータアセンブリ26のためのステーションからステーション30にインデックスされるときにワークピース14からコーティングをキャッチするためのコーティングドリップトレイ33が好ましく提供される。)(第4欄第28ないし32行)
「Referring primarily to FIG. 2, each of the workpiece support housings 20 for supporting the gripper assemblies 28 is operably connected with an articulated rotatable drive shaft assembly 40, representative ones of which are identified in FIG. 2. Each of the drive shaft assemblies 40 is drivenly connected to a rotatable ring gear 42 supported on the apparatus frame 22 and drivenly connected to a variable speed electric motor 44, see FIG. 3, by way of a suitable drive shaft 46. Drive shaft 46 extends through a suitable passage 25b coaxial with axis 25. The bevel type ring gear 42 is drivingly connected to respective bevel gears 48 connected to each drive shaft assembly 40, as shown also in FIG. 3.」主に図2を参照すると,グリッパアセンブリ28を支持するためのワークピースサポートハウジング20の各々は,図2に特定される代表的なものである多関節回転可能な駆動シャフトアセンブリ40と操作可能に連結されている。駆動軸組立体40の各々は,装置フレーム22に支持された回転可能なリングギヤ42に従動的に連結され,適当な駆動軸46を介して可変速電動機44(図3参照)に従動的に連結されている。駆動軸46は,軸25と同軸の適当な通路25bを通って延びている。ベベル型リングギヤ42は,図3にも示すように,各駆動軸組立体40に連結されたそれぞれのベベルギヤ48に駆動的に連結されている。)(第4欄第39ないし51行)


」(図1)


」(図2)

(イ)甲2発明
甲2の上記記載からみて,甲2には,ワークピースを液体コーティングする装置について,次の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
「ワークピースを液体コーティングする装置であって,
ワークピースを回転させるように把持する複数のグリッパアセンブリであって,回転可能なテーブルに取り付けられたサポートハウジングに取り付けられ,当該テーブルの回転に伴い移動する複数のグリッパアセンブリと,
グリッパアセンブリに支持されているワークピースを液体コーティングする装置と,
前記複数のグリッパアセンブリを支持するためのワークサポートハウジングの各々は,グリッパアセンブリを回転するために駆動シャフトアセンブリに連結され,駆動シャフトアセンブリの各々は,回転可能なリングギヤに連結されており,
複数のグリッパアセンブリは,回転可能なテーブルを中心として放射状に配置され,
前記リングギヤは,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い,
前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数のグリッパアセンブリおよび前記リングギヤが設けられる,
ワークピースを液体コーティングする装置。」

(ウ)対比・判断
a 本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ワークピースを回転させるように把持する複数のグリッパアセンブリ」は,本件発明1の「回転可能に設けられ缶体を支持する複数の缶体支持部材」に対し,「回転可能に設けられ」た「支持部材」という限りにおいて相当する。
甲2発明の「回転可能なテーブル」は,本件発明1の「回転する回転部材」に相当し,甲2発明の「複数のグリッパアセンブリ」は「回転可能なテーブル」に取り付けられた「ワークサポートハウジング」に取り付けられているから,本件発明1の「支持部材の各々の回転に用いられる回転部材の回転に伴い移動する複数の」「支持部材」に相当する。
甲2発明の「駆動シャフトアセンブリに連結され」,「円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行う」「リングギヤ」は,本件発明1の「円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行う」「支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材」に相当する。
甲2発明の「複数のグリッパアセンブリは,回転可能なテーブルを中心として放射状に配置され」は,本件発明1の「複数の」「支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され」を満たすといえる。
甲2発明で「前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数のグリッパアセンブリおよび前記リングギヤが設けられる」事項は,本件発明の本件発明1の「前記複数の」「支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置された」事項に相当する。

したがって,本件発明1と甲2発明は以下の点で一致する。
「回転可能に設けられた支持部材であって,回転する回転部材に取り付けられ,当該回転部材の回転に伴い移動する複数の支持部材と,
前記複数の支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材と,
を備え,
前記複数の支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され,
前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い,
前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の支持部材および前記伝達部材が設けられた,
装置。」

本件発明1と甲2発明は,以下の相違点6及び7で相違する。
相違点6:本件発明1が「缶体を支持する複数の缶体支持部材」と「インクジェット方式を用い」,「缶体への画像形成を行う複数の画像形成手段」とを備えた印刷装置であるのに対し,甲3発明はワークピースを液体コーティングする装置である点。
相違点7:伝達部材の動き方について,本件発明1は「前記回転部材が回転して前記缶体支持部材が一の前記画像形成手段から他の前記画像形成手段へ移動する際,前記伝達部材が,当該回転部材の回転方向とは反対方向へ回転する」ことが全て特定されているのに対し,甲2発明はこのように特定されていない点。

上記相違点6について検討する。
甲2発明はモーターのステーターやローターなどの「ワークピースに液体コーティングを施す装置」に関するものであって,かつ,単なる被覆形成であって画像形成するものではないから,これを本件発明1の缶体にインクジェット方式で画像形成する印刷装置とすることは当業者にとって容易に想到し得たものではない。

したがって,本件発明1は,相違点7について検討するまでもなく,甲2発明,すなわち,甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 本件発明2及び3について
本件発明2及び3はいずれも,請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであり,本件発明1の特定事項を全て含むものである。
そして,上記(ア)のとおり,本件発明1は,甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明1の特定事項を全て含む本件発明2及び3もまた,甲2発明,すなわち,甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 本件発明4について
本件発明4と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ワークピースを回転させるように把持する複数のグリッパアセンブリ」は,本件発明4の「回転可能に設けられ缶体を支持する複数の缶体支持部材」に対し,「回転可能に設けられ」た「複数の支持部材」という限りにおいて相当する。
甲2発明の「駆動シャフトアセンブリに連結され」,「円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行う」「リングギヤ」は,本件発明4の「円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行う」「支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材」に相当する。
甲2発明の「複数のグリッパアセンブリは,回転可能なテーブルを中心として放射状に配置され」は,本件発明4の「複数の」「支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され」を満たすといえる。
甲2発明で「前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数のグリッパアセンブリおよび前記リングギヤが設けられる」事項は,本件発明の本件発明4の「前記複数の」「支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置された」事項に相当する。

したがって,本件発明4と甲2発明は以下の点で一致する。
「回転可能に設けられた複数の支持部材と,
前記複数の支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材と,
を備え,
前記複数の支持部材は,予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され,
前記伝達部材は,円環状に形成され,径方向における中心を回転中心として回転を行い,
前記配置中心と前記回転中心とが一致するように,前記複数の支持部材および前記伝達部材が設けられた,
装置。」

本件発明4と甲2発明は,以下の相違点8及び9で相違する。
相違点8:本件発明1が「缶体を支持する複数の缶体支持部材」と「インクジェット方式を用い」,「缶体への画像形成を行う複数の画像形成手段」とを備えた印刷装置であるのに対し,甲2発明はワークピースを液体コーティングする装置である点。
相違点9:本件発明4は「伝達部材からの駆動力であって前記缶体支持部材へ伝達される駆動力を受ける受け部材」を備え,これを「伝達部材よりも摩耗しやすい」と特定するのに対し,甲2発明はこのように特定しない点。

上記相違点について検討する。
相違点8について
甲2発明は,上記(イ)で検討したとおり「ワークピースに液体コーティングを施す装置」に関するものであって,これを本件発明4の缶体にインクジェット方式で画像形成する印刷装置とすることは当業者にとって容易に想到し得たものではない。
相違点9について
相違点9に係る事項は,特許異議申立人の提示したいずれの文献にも記載されておらず,出願時の技術常識でもない。
そして,本件特許明細書の【0052】には,受け部材を伝達ギアよりも摩耗しやすくすることによって,大型の伝達ギアの着脱を行う必要を生じさせず,メンテナンスを行いやすくする効果が記載されており,この点についても甲1及び甲3ないし6のいずれにも記載されていない。
よって,甲1及び甲3ないし6に記載された事項及び出願時の技術常識を参酌しても,甲2発明に相違点9に係る事項を採用することは,当業者といえども容易に想到し得たことではない。

したがって,本件発明4は,甲2発明,すなわち,甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

d 本件発明5について
本件発明5は,請求項1の記載を直接又は間接的に引用する,あるいは請求項4の記載を引用するものであり,本件発明1又は本件発明4の特定事項を全て含むものである。
そして,上記(ア)及び(ウ)のとおり,本件発明1及び本件発明4は,甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明1又は本件発明4の特定事項を全て含む本件発明5もまた,甲2発明,すなわち,甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)小括
したがって,申立理由1のうち,甲2を主引例として本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきとする申立理由は理由がない。

(2)申立理由2(3)(特許法第36条第6項第2号)について
特許異議申立人は,本件特許請求項4に記載された「受け部材の方が,前記伝達部材よりも摩耗しやすくなっている」なる事項が明確ではないとしているが,本件発明4の印刷装置において,「受け部材」及び「伝達部材」のどちら側が摩耗しやすくなっているかを検査し判断することは可能であるから,明確である。
したがって,申立理由2(3)には理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に設けられ缶体を支持する複数の缶体支持部材であって、回転する回転部材に取り付けられ、当該回転部材の回転に伴い移動する複数の缶体支持部材と、
インクジェット方式を用い、前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う複数の画像形成手段と、
前記複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材と、
を備え、
前記複数の缶体支持部材は、予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され、
前記伝達部材は、円環状に形成され、径方向における中心を回転中心として回転を行い、
前記配置中心と前記回転中心とが一致するように、前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられ、
前記回転部材が回転して前記缶体支持部材が一の前記画像形成手段から他の前記画像形成手段へ移動する際、前記伝達部材が、当該回転部材の回転方向とは反対方向へ回転する印刷装置。
【請求項2】
前記伝達部材は、放射状に配置された前記複数の缶体支持部材よりも前記配置中心側に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記伝達部材からの駆動力であって前記缶体支持部材へ伝達される駆動力を受ける受け部材が設けられ、
前記受け部材は、はすば状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷装置。
【請求項4】
回転可能に設けられ、缶体を支持する複数の缶体支持部材と、
前記缶体支持部材により支持されている缶体への画像形成を行う画像形成手段と、
前記複数の缶体支持部材の各々の回転に用いられる回転駆動力を伝達する伝達部材と、
前記伝達部材からの駆動力であって前記缶体支持部材へ伝達される駆動力を受ける受け部材と、
を備え、
前記複数の缶体支持部材は、予め定められた配置中心を中心として放射状に配置され、
前記伝達部材は、円環状に形成され、径方向における中心を回転中心として回転を行い、
前記配置中心と前記回転中心とが一致するように、前記複数の缶体支持部材および前記伝達部材が設けられ、
前記受け部材の方が、前記伝達部材よりも摩耗しやすい印刷装置。
【請求項5】
前記画像形成手段は、複数設けられ、
複数の前記画像形成手段の各々を経由させて前記缶体支持部材を移動させる移動手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の印刷装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-26 
出願番号 特願2015-155076(P2015-155076)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B05C)
P 1 651・ 113- YAA (B05C)
P 1 651・ 537- YAA (B05C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 清水 晋治  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 神田 和輝
大畑 通隆
登録日 2020-01-17 
登録番号 特許第6647815号(P6647815)
権利者 昭和アルミニウム缶株式会社
発明の名称 印刷装置  
代理人 水戸 洋介  
代理人 古部 次郎  
代理人 水戸 洋介  
代理人 尾形 文雄  
代理人 尾形 文雄  
代理人 古部 次郎  

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