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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23G
管理番号 1374927
異議申立番号 異議2020-700121  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-27 
確定日 2021-04-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6568307号発明「ワーリング工具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6568307号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 特許第6568307号の請求項1-11に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6568307号の請求項1-11に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)8月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年(平成27年)9月10日、ドイツ連邦共和国)に国際出願され、令和元年8月9日にその特許権の設定登録がされ、令和元年8月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和2年2月27日に特許異議申立人橋本清により特許異議の申立てがされ、当審は、令和2年6月4日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和2年8月28日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、意見書を提出しなかった。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア-カ(訂正事項1-6)のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)は、全体的な幾何学的形状、及び刃先(42a、42b)の形状によって、前記第2の種類の切削プレート(14b)とは異なる、」とあるのを
「前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)は全体的な幾何学的形状及び寸法が同じであり、前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)は、刃先(42a、42b)の形状及び寸法によって、前記第2の種類の切削プレー ト(14b)とは異なり、刃先(42a、42b)の形状及び寸法が異なることにより、第1の種類の2つの切削プレー ト(14a)と第2の種類の切削プレー ト(14b)は、全体的な幾何学的形状及び寸法が異なる、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2-11も同様に訂正する。)

イ 訂正事項2
願書に添付した明細書の【0009】に
「切削プレートは、少なくとも2種類の異なる切削プレートを含み、第1の種類の少なくとも1つの切削プレートと、第2の種類の1つの切削プレートとが、切削プレートホルダ上で互いに隣接して配置される3つの切削プレートからなる各グループに設けられ、第1の種類の切削プレートは、全体的な幾何学的形状、少なくとも1つの刃先の寸法、および/または少なくとも1つの刃先の形状によって、第2の種類の切削プレートとは異なる、ワーリング工具によって達成される。」とあるのを
「切削プレートは、少なくとも2種類の異なる切削プレートを含み、前記切削プレートホルダ上で互いに隣接して配置される3つの切削プレートの各グループは、第1の種類の2つの切削プレートと、第2の種類の1つの切削プレートとを含み、第1の種類の2つの切削プレートの一方は、切削プレートホルダ上にて、第1の種類の2つの切削プレートの他方と、第2の種類の切削プレートとの間に配置され、
前記第1の種類の2つの切削プレートは全体的な幾何学的形状及び寸法が同じであり、前記第1の種類の2つの切削プレートは、刃先の形状及び寸法によって、前記第2の種類の切削プレートとは異なり、刃先の形状及び寸法が異なることにより、第1の種類の2つの切削プレートと第2の種類の切削プレートは、全体的な幾何学的形状及び寸法が異なる、ワーリング工具によって達成される。」に訂正する。

ウ 訂正事項3
願書に添付した明細書の【0010】に
「本発明によるワーリング工具の特に特徴的な特徴は、その全体的な幾何学的形状(寸法および/または形状)ならびに/または刃先の寸法および/もしくは形状のいずれかが異なる少なくとも2種類の異なる切削プレートを使用することである。」とあるのを
「本発明によるワーリング工具の特に特徴的な特徴は、その刃先の形状及び寸法が異なり、それにより全体的な幾何学的形状及び寸法が異なる少なくとも2種類の異なる切削プレートを使用することである。」に訂正する。

エ 訂正事項4
願書に添付した明細書の【0012】に
「刃先の異なる全体的な幾何学的形状または刃先の異なる形状によって、それぞれワークピースの加工における第1の種類の切削プレートは、第2の種類の切削プレートとは別の機能を担う。」とあるのを
「刃先の異なる形状及び寸法によって、それぞれワークピースの加工における第1の種類の切削プレートは、第2の種類の切削プレートとは別の機能を担う。」に訂正する。

オ 訂正事項5
願書に添付した明細書の【0017】に
「この実施形態による第3の種類の切削プレートは、第1の種類の切削プレートおよび第2の種類の切削プレートと、ここでもその全体的な幾何学的形状、少なくとも1つの刃先の寸法、および/または切削プレートの少なくとも1つの刃先の形状が異なる。」とあるのを
「この実施形態による第3の種類の切削プレートは、第1の種類の切削プレートおよび第2の種類の切削プレートと、ここでも切削プレートの少なくとも1つの刃先の形状及び寸法が異なり、それにより切削プレートの全体的な幾何学的形状及び寸法が異なる。」に訂正する。

カ 訂正事項6
願書に添付した明細書の【0038】に
「本発明によれば、異なる2種類の切削プレート14a、14bは、それらの全体的な幾何学的形状(寸法および/または形状)ならびにその刃先の寸法および/または形状によって互いに異なる。」とあるのを
「本発明によれば、異なる2種類の切削プレート14a、14bは、その刃先の形状及び寸法によって互いに異なり、それにより異なる2種類の切削プレート14a、14bは全体的な幾何学的形状及び寸法が互いに異なる。」に訂正する。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1-11〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1-11〕に係る訂正に伴って請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的の可否
訂正事項1は、第1の種類の2つの切削プレートは、全体的な幾何学的形状及び寸法が同じであることを特定することで、第1の種類の2つの切削プレートが同じであることを明瞭にし、また、第1の種類の2つの切削プレートは、刃先の形状及び寸法によって、第2の種類の切削プレートとは異なり、刃先の形状及び寸法が異なることにより、第1の種類の2つの切削プレートと第2の種類の切削プレートは、全体的な幾何学的形状及び寸法が異なることを特定することで、第1の種類の2つの切削プレートと第2の種類の切削プレートが違うことの内容を明瞭にするものであり、特許法第120条の5第2項のただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無
第1の種類の2つの切削プレートが同じであることは、願書に添付した明細書の【0019】の「第1の種類の切削プレートの2つの切削体は、好ましくは同一である。」との記載や、図1及び図2において、形状及び寸法が同じである2つの切削プレート14aが図示されていることにより示されている。
また、第1の種類の切削プレートと第2の種類の切削プレートが違うことは、【0039】の「第1の種類の切削プレート14aの本体38aは、第2の種類の切削プレート14bの本体38bとまったく異ならず、または、(切削体に向かう移行部において)わずかだけ異なる。2つの切削プレートタイプ14a、14bの間の実質的な差異は、切削体40a、40bの異なる実施形態にある。」との記載、及び図6,7の「第1の種類の切削プレート14aが第2の種類の切削プレート14bとは刃先42a,42bの形状及び寸法が異なる」ことの図示内容に示されているから、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。
したがって、訂正事項1は特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、上記(ア)のとおり、第1の種類の2つの切削プレートが同じであることを明瞭にし、第1の種類の2つの切削プレートと第2の種類の切削プレートが違うことの内容を明瞭にするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、あるいは変更するものでないことは、明らかである。
したがって、訂正事項1は特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合するものである。

イ 訂正事項2-6について
(ア)訂正の目的の可否
訂正事項2-6は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、それぞれ、願書に添付した明細書の【0009】、【0010】、【0012】、【0017】、【0038】の内容を訂正するものであって、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無
上記アの(イ)で説示したとおり、訂正事項1に係る訂正は、明細書の【0019】、【0039】、及び図1-2,6-7記載の事項の範囲内においてしたものであり、訂正事項2-6は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、訂正事項1と同様に、訂正事項2-6に係る訂正は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。したがって、訂正事項2-6は特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2-6は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであり、いずれの訂正事項も、実質上特許請求の範囲を拡張し、あるいは変更するものでないことは、明らかである。
したがって、訂正事項2-6は特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合するものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正事項1-6は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1-11に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」-「本件発明11」という。)のうち、本件発明1は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「3つまたは3の倍数個の切削プレート(14a、14b)であって、前記切削プレート(14a、14b)の各々は少なくとも1つの刃先(42a、42b)を含む、切削プレート(14a、14b)と、
複数の切削プレート受け(26)を有する切削プレートホルダ(12)であって、前記切削プレート受け(26)の各々は、前記切削プレート(14a、14b)の1つを受け入れるように構成され、前記切削プレート受け(26)は、前記切削プレートホルダ(12)にわたって周方向(20)に分布するように配置される、切削プレートホルダ(12)と、
前記切削プレートホルダ(12)の前記切削プレート受け(26)に前記切削プレート(14a、14b)を解放可能に締結するための複数の締結要素(16) と
を有する、ワークピースを加工するためのワーリング工具(10)であって、
前記切削プレート(14a、14b)は、2種類の異なる切削プレート(14a、14b)を含み、
前記切削プレートホルダ(12) 上で互いに隣接して配置される3つの切削プレート(14a、14b)の各グループは、第1の種類の2つの切削プレート(14a)と、第2の種類の1つの切削プレート(14b)とを含み、
第1の種類の2つの切削プレート(14a)の一方は、切削プレートホルダ(12)上にて、第1の種類の2つの切削プレート(14a)の他方と、第2の種類の切削プレート(14b)との間に配置され、
前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)は全体的な幾何学的形状及び寸法が同じであり、前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)は、刃先(42a、42b)の形状及び寸法によって、前記第2の種類の切削プレート(14b)とは異なり、刃先(42a、42b)の形状及び寸法が異なることにより、第1の種類の2つの切削プレート(14a)と第2の種類の切削プレート(14b)は、全体的な幾何学的形状及び寸法が異なる、ワーリング工具(10)。」
そして、本件発明2-11は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明である。

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
当審が、令和2年6月4日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
訂正前の請求項1-11に係る特許は、その特許請求の範囲の「前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)は、全体的な幾何学的形状、及び刃先(42a、42b)の形状によって、前記第2の種類の切削プレート(14b)とは異なる」という記載が、以下のア及びイの点で不明であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
ア 上記発明特定事項の「全体的な幾何学的形状」,及び「刃先の形状」に関し,「形状」という用語に「寸法」の意味が含まれるか否か不明瞭であって,発明が明確に特定できない。

イ 上記発明特定事項において,第1の種類の2つの切削プレートが第2の種類の切削プレートとは異なる原因として,「全体的な幾何学的形状,及び刃先の形状」の一方が異なることが条件となるのか,双方が条件となるのかが不明である。

(2)取消理由に対する当審の判断
ア 上記(1)アの取消理由について
特許権者は、請求項1記載の当該発明特定事項に関する説示に対して、令和2年8月28日提出の意見書において、「形状」には「寸法」の意味が含まれ、取消理由で示した「ケース1」(切削プレート即ち切削体が相似の場合)、及び「ケース3」(切削プレート即ち切削体の厚みだけが異なる場合)の切削体(及び刃先)の寸法が互いに異なる2つの切削プレートは、互いに異なる形状である旨の説明をした。(「ケース1」及び「ケース3」については、下図も参照のこと。)

さらに、本件訂正請求により、本件発明1は「第1の種類の2つの切削プレート(14a)と第2の種類の切削プレート(14b)は、全体的な幾何学的形状及び寸法が異なる」と特定することで、「寸法が異なる」ことが明確となった。
したがって、特許権者の意見書の説明により、「形状」には「寸法」の意味が含まれ、第1の種類の切削プレートと第2の種類の切削プレートは、全体的な幾何学的形状及び寸法において異なることが明確になったものと認められる。

イ 上記(1)イの取消理由について
特許権者は、請求項1記載の当該発明特定事項に関する説示に対して、上記訂正事項1で、該当箇所を、「前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)は、刃先(42a、42b)の形状及び寸法によって、前記第2の種類の切削プレート(14b)とは異なり、刃先(42a、42b)の形状及び寸法が異なることにより、第1の種類の2つの切削プレー ト(14a)と第2の種類の切削プレート(14b)は、全体的な幾何学的形状及び寸法が異なる」と訂正し、それにより、第1の種類の切削プレートと第2の種類の切削プレートとは、「刃先(42a、42b)の形状及び寸法」が異なることを要件とし、「刃先(42a、42b)の形状及び寸法」が異なることをもって「全体的な幾何学的形状及び寸法」が異なると判断することを説明した。
また、取消理由で示した「ケース2」(切削プレートの一部に面取りがある場合)のような「刃先の形状」は同じであるが「全体的な幾何学的形状」が異なる2つの切削プレートは、別種類の切削プレートであることを説明した。(「ケース2」については、下図も参照のこと。)

したがって、令和2年8月27日提出の訂正請求書による訂正で、上記取消理由における説示に対し、第1の種類の切削プレートと第2の種類の切削プレートとは、「刃先(42a、42b)の形状及び寸法」が異なり、それにより「全体的な幾何学的形状及び寸法」が異なると判断することが明確となった。

ウ 以上より、訂正後の請求項1-11に係る発明は明確であり、当審が通知した取消理由により、請求項1-11に係る特許を取り消すことはできない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許法第29条第2項に係る特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、訂正前の請求項1-11は、甲第1号証記載の発明(以下、「引用発明」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1-11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取り消されるべきものである旨の特許異議申立理由を主張するので、以下検討する。
甲第1号証:NTK CUTTING TOOLS GENERAL CATALOG, 米国,2014年9月30日,K145-K146ページ
K145ページについては、ページ下部の「NTK’s Unique Attachment System」(NTK独自の取り付けシステム)の欄の内容を参照。
K146ページについては、ページ中上部の「NTK Experiences and Solutions Example」(NTKの実績と解決事例)の欄右側の「For tiny thread」(狭ピッチ化)の部分を参照。
なお、甲第1号証のK145ページの左下の図に参照符号を付したもの(異議申立書の第14ページ掲載の【K145】図)を付記する。

甲第1号証に記載された事項を整理すると、以下の引用発明が記載されているといえる
「9個のインサート14であって、前記インサート14の各々は少なくとも一つの刃先42を含む、インサート14と、
複数のインサート収容部26を有するインサートホルダ12であって、前記インサート収容部26の各々は、前記インサート14の1つを受け入れるように構成され、前記インサート収容部26は、前記インサートホルダ12にわたって周方向に分布するように配置される、インサートホルダ12と、
前記インサートホルダ12の前記インサート収容部26に前記インサート14を解放可能に締結するための複数の取付ねじ16と
を有する、ワークピースを加工するためのワーリング工具10であって、
前記インサート14は、3種類の異なるインサート14を含み、
前記インサートホルダ12上で互いに隣接して配置される3つのインサート14の各グループは、第1の種類の1つのインサート14と、第2の種類の1つのインサート14と、第3の種類の1つのインサート14を含む、
ワーリング工具。」

本件発明1と引用発明を対比すると、
引用発明の「インサート14」は本件発明1の「切削プレート」に、同様に「インサート収容部26」は「切削プレート受け」に、「インサートホルダ12」は「切削プレートホルダ」に、「取付ねじ16」は「締結要素」に、それぞれ相当する。
また、引用発明において「インサート14」が「9個」あることは、本件発明1において「切削プレート」が「3つまたは3の倍数個」あることに相当する。
また、引用発明の「3種類の異なるインサート14」と、本件発明1の「2種類の異なる切削プレート」は、「少なくとも2種類の異なる切削プレート」という点で一致する。
したがって、本件発明1と引用発明は、以下の点で一致し、相違する。

ア 一致点
「3つまたは3の倍数個の切削プレートであって、前記切削プレートの各々は少なくとも1つの刃先を含む、切削プレートと、
複数の切削プレート受けを有する切削プレートホルダであって、前記切削プレート受けの各々は、前記切削プレートの1つを受け入れるように構成され、前記切削プレート受けは、前記切削プレートホルダにわたって周方向に分布するように配置される、切削プレートホルダと、
前記切削プレートホルダの前記切削プレート受けに前記切削プレートを解放可能に締結するための複数の締結要素と
を有する、ワークピースを加工するためのワーリング工具であって、
前記切削プレートは、少なくとも2種類の異なる切削プレートを含み、
前記切削プレートホルダ上で互いに隣接して配置される3つの切削プレートの各グループは、第1の種類の切削プレートと、第2の種類の1つの切削プレートとを含む、ワーリング工具。」

イ 相違点
そして、本件発明1が、「切削プレートの各グループは、第1の種類の2つの切削プレートと、第2の種類の1つの切削プレートとを含み、第1の種類の2つの切削プレートの一方は、切削プレートホルダ上にて、第1の種類の2つの切削プレートの他方と、第2の種類の切削プレートとの間に配置され、第1の種類の2つの切削プレートは全体的な幾何学的形状及び寸法が同じであり、前記第1の種類の2つの切削プレートは、刃先の形状及び寸法によって、前記第2の種類の切削プレートとは異なり、刃先の形状及び寸法が異なることにより、第1の種類の2つの切削プレートと第2の種類の切削プレートは、全体的な幾何学的形状及び寸法が異なる」ものであるのに対して、引用発明は、「インサート14の各グループは、第1の種類の1つのインサート14と、第2の種類の1つのインサート14と、第3の種類の1つのインサート14を含む」ものである点で相違する。

ウ 判断
本件発明1の切削プレートのグループは、第2の種類の1つの切削プレートにより、荒削りやねじプロファイルの予備切削を行い、第1の種類の2つの切削プレートにより、【0015】記載のとおり、ねじプロファイルを生成するものである。そして、第1の種類の2つの切削プレートは、全体的な幾何学形状が同じであり、ワークピースを機械加工する際に同じ場所(同じねじ溝)を切削することから、第1の種類の一方の切削プレートが先行してねじプロファイルを生成し、同じねじ溝に沿って後行する第1の種類の他方の切削プレートは、比較的小さい程度の応力を受けるものである。
これに対して、引用発明のK146ページの「For tiny thread」(狭ピッチ化)の部分に掲載のワーリングシステムのインサート14のグループは、Double-lead(2条ねじ)の切削に用いられるものであり、図示された3つのカッターのうち、右側のインサート14(K146図中では14b)により、2条ねじの隣接する2つのねじ溝の予備切削を同時に行い、中央のインサート14(K146図中では14a)は、2条ねじの隣接する2つのねじ溝の一方のねじプロファイルを生成し、左側のインサート14(K146図中では14a)は、2条ねじの隣接する2つのねじ溝の他方のねじプロファイルを生成するものと推認される。
以上の点を考慮すると、引用発明において、2条ねじのプロファイルを生成する中央のインサート14と左側のインサート14を、本件発明1のように、全体的な幾何学形状が同じものとなるように構成を変更すれば、本件発明1と同様に、2つのインサート14で同じねじ溝を切削することになるから、2条ねじのプロファイルを生成することができないことになり、当業者がそのような変更をする動機があるとはいえない。
したがって、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件発明2-11も、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、同様である。
よって、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由により、請求項1-11に係る特許を取り消すことはできない。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1-11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ワーリング工具
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークピースを加工するためのワーリング(whirling、振れ回り)工具に関する。本発明は、特に、交換可能な切削プレートを有するワーリング工具に関する。このワーリング工具は、特にねじワーリングに適している。
【背景技術】
【0002】
ワーリングとは、工具および動力学の観点から、特殊な形態のねじフライスを表す金属切削製造方法である。ワーリングは、特にねじ山の製造に役立つが、一般に、回転対称部品、例えば、ウォーム、ねじ、またはロータを製造するためにも使用することができる。
【0003】
この金属切削製造方法の高性能により、ワーリングは、特に、チタンまたは貴金属などの頑丈な材料からワークピースを加工するのに適している。このため、今日のすべての骨ねじの大部分は、例えばねじワーリングによって製造されている。
【0004】
ワーリング工具とワークピースの両方が回転することが、ワーリングの特徴である。切削速度を決定するワーリング工具が、ゆっくりと回転するワークピースの周りを高い回転速度で偏心的に位置決めされた方法で周回する。ワークピースの長手方向軸に沿ったワークピースの送り速度は、製造されるべき所望のねじピッチに従って設定される。さらに、ワーリング工具は、所望のねじピッチに応じて、上記ワーリング工具のx軸周りに旋回される。ワークピースに関連するワーリング工具の半径方向の送り込みは、ねじ山の深さを確立する。
【0005】
ワーリング工具に対するワークピースの偏心的な位置決めにより、比較的短い切屑が形成される。これは、加工されたワークピースの表面品質に有利な効果を有する。
【0006】
外側ワーリングと内側ワーリングとの間には根本的な違いがある。外側ワーリングは一般に雄ねじを生成するのに役立ち、内側ワーリングは一般に雌ねじを生成するのに役立つ。外側ワーリングの場合の刃先は内側に向けられ、ワーリング工具はワークピースの周りを回転する。従って、外側ワーリングは、いくつかの例では、内歯を有するフライス刃先によるフライス加工としても参照される。対照的に、内側ワーリングの場合の刃先は外側に向けられている。本明細書では、ワーリング工具は、ワークピースの孔の中で回転する。工具の偏心ワーリング運動、ならびに外部および内側ワーリングの場合のワークピースの同時運動(回転方向および長手方向の両方)の基本原理は、それ以外は同じである。
【0007】
ワーリング工具の場合に決定され得る根本的な問題は、使用されるカッタまたは刃先の摩耗がそれぞれ相対的に激しいことである。これによって多くの場合、寿命が比較的短くなる。交換可能な切削プレートを有するワーリング工具の場合には、切削プレートを頻繁に交換しなければならない。その結果、最終的に生産コストが上昇する。
【0008】
それゆえ、本発明は、使用される刃先の摩耗を低減して寿命を延ばすことができる、ワークピースを加工するためのワーリング工具を提供するという目的に基づく。
【発明の概要】
【0009】
この目的は、
3つまたは3の倍数個の切削プレートであって、各切削プレートは少なくとも1つの刃先を含む、切削プレートと、
複数の切削プレート受けを有する切削プレートホルダであって、各切削プレート受けは、切削プレートの1つを受け入れるように構成され、切削プレート受けは、切削プレートホルダにわたって周方向に分布するように配置される、切削プレートホルダと、
切削プレートホルダの切削プレート受けに切削プレートを解放可能に締結するための複数の締結要素と
を有するワーリング工具であって、
切削プレートは、少なくとも2種類の異なる切削プレートを含み、前記切削プレートホルダ上で互いに隣接して配置される3つの切削プレートの各グループは、第1の種類の2つの切削プレートと、第2の種類の1つの切削プレートとを含み、
第1の種類の2つの切削プレートの一方は、切削プレートホルダ上にて、第1の種類の2つの切削プレートの他方と、第2の種類の切削プレートとの間に配置され、
前記第1の種類の2つの切削プレートは全体的な幾何学的形状及び寸法が同じであり、前記第1の種類の2つの切削プレートは、刃先の形状及び寸法によって、前記第2の種類の切削プレートとは異なり、刃先の形状及び寸法が異なることにより、第1の種類の2つの切削プレートと第2の種類の切削プレートは、全体的な幾何学的形状及び寸法が異なる、ワーリング工具によって達成される。
【0010】
本発明によるワーリング工具は、3つの切削プレートまたは3の倍数個の切削プレートを備えることを特徴とする。工具は、特に好ましくは、正確に6個、正確に9個、または正確に12個の切削プレートを備える。これらの切削プレートは、切削プレートホルダ上で交換可能に取り付けられている。切削プレートは、切削プレートホルダ上で周方向に分布するように配置され、互いに離間されることが好ましい。本発明によるワーリング工具の特に特徴的な特徴は、その刃先の形状及び寸法が異なり、それにより全体的な幾何学的形状及び寸法が異なる少なくとも2種類の異なる切削プレートを使用することである。特に、本発明によれば、切削プレートホルダ上に互いに隣接して配置された3つの切削プレートからなる各グループに対して、第1の種類の少なくとも1つの切削プレートおよび第2の種類の1つの切削プレートが使用される。
【0011】
「切削プレートホルダ上で互いに隣接して配置された切削プレート」という用語は、ここでは、ワーリング工具の組み立てられた状態において周方向から見て直接的に連続する切削プレートを意味すると理解される。ここで「直接的に」とは、周方向に連続する切削プレートが相互に接触しなければならないことを意味するものではない。原則的には、互いに隣接して配置された切削プレートは、実際には互いに接触していてもよいが、上記切削プレートは互いに離間して配置されることが好ましい。換言すれば、「互いに隣接して配置された切削プレート」とは、ここでは、切削プレートホルダ上で互いに直接隣接するように配置された切削プレートを意味するものと理解される。3つまたは3の倍数個の切削プレートを備える本発明によるワーリング工具に関して、これは、各切削プレートがその2つの隣接する切削プレート(左右)と共に3つの切削プレートからなる1つのグループを形成し、そのうちの少なくとも1つの切削プレートが第1の種類の切削プレートであり、1つの切削プレートが第2の種類の切削プレートであることを意味する。
【0012】
異なる種類の切削プレートを使用することは、特にそれに対する全体的な磨耗に関して有利であることが判明している。刃先の異なる形状及び寸法によって、それぞれワークピースの加工における第1の種類の切削プレートは、第2の種類の切削プレートとは別の機能を担う。第2の種類の切削プレートは、それぞれ例えばその形状に起因して、予備切削または粗削りのためのものと想定することができ、一方、第1の種類の切削プレートは、輪郭付与刃先を有し、これは、最終的なねじプロファイルを生成する役割を担う。このようにして、第2の種類の切削プレートは、比較的重く応力が加えられ、比較的多量の材料が減じられ、一方、第1の種類の切削プレートは、それほど応力が加えられず、ワークピース上に表されるべき輪郭の詳細「のみ」を形成する。これは、実際に、第2の種類の切削プレートが第1の種類の切削プレートと比較してより速く摩耗する全体的な状況をもたらす。しかしながら、第1の種類の切削プレートの最終輪郭付与刃先は、受ける摩耗が少ないため、これは許容可能であり、なお有利である。そのような場合、第2の種類の切削プレートの少なくとも部分的に磨耗した刃先は、場合によっては(第1の種類の切削プレートの刃先も磨耗しない限り)、前者がワークピースの表面品質に影響を及ぼさないか、またはごくわずかしか影響しないため、なお検出されないままであり得る。
【0013】
従って、上記の目的は完全に達成される。
【0014】
一実施形態によれば、切削プレートホルダ上に互いに隣接して配置された3つの切削プレートからなる各グループは、第1の種類の2つの切削プレートおよび第2の種類の1つの切削プレートを含む。ここで、第1の種類の切削プレートと第2の種類の切削プレートとは、切削プレートホルダ上で必ずしも交互に配置されるのではなく、第1の種類の各切削プレートが、切削プレート上で、第1の種類の1つの他の切削プレートと第2の種類の1つの切削プレートとの間に配置されることが特に好ましい。従って、簡単化のために第1の種類の切削プレートを「A」と称し、第2の種類の切削プレートを「B」とすると、切削プレートホルダ上の以下の構成、すなわち、(周方向に連続的に見た場合)AABAAB...が得られる。
【0015】
第2の種類の切削プレートが、予備切削、材料低減、または荒削りのためにそれぞれ使用され、第1の種類の切削プレートが、ねじプロファイルを生成するために使用される上記の例に続いて、最後に言及した設計実施形態の場合、3つの切削プレートのうちの1つは、荒削りまたは材料低減の作業を担い、3つの切削プレートのうちの2つは、最終的なねじプロファイルの生成を担う。ワークピースを機械加工する際に、第2の種類の切削プレートおよび第1の種類の1つの他の切削プレートの後で、ワーリング工具の周方向において、従って回転方向においてワークピースに接する第1の種類の切削プレートは、それゆえ、比較的小さい程度の応力を受ける。
【0016】
代替的な実施形態によれば、切削プレートホルダ上に互いに隣接して配置された3つの切削プレートからなる各グループは、第1の種類の1つの切削プレートおよび第2の種類の1つの切削プレート、および第3の種類の1つの切削プレートを含む。
【0017】
この実施形態による第3の種類の切削プレートは、第1の種類の切削プレートおよび第2の種類の切削プレートと、ここでも切削プレートの少なくとも1つの刃先の形状及び寸法が異なり、それにより切削プレートの全体的な幾何学的形状及び寸法が異なる。この実施形態によれば、第1の種類の切削プレートは好ましくは、各事例において、ワークピース上の材料の第1の部分を減じ、第2の種類の切削プレートはさらに、ワークピース上の材料の第2の部分を減じ、第3の種類のプレートは、ワークピース上の輪郭の最終的な付与に関与する。ここで、第3の種類の切削プレートは、第1の実施形態で既に説明したのと同様の方法で、回転方向から見て、各事例において、第3の種類の切削プレートが受ける摩耗が比較的低くなるように、第1の種類の1つの切削プレートおよび第2の種類の1つの切削プレートに後続する。
【0018】
1つのさらなる実施形態によれば、各切削プレートは、1つの本体と、本体に一体的に接続され、本体から突出し、切削プレートの少なくとも1つの刃先が配置される少なくとも1つの切削体とを有し、第1の種類の切削プレートのそれぞれの少なくとも1つの切削体は、第2の種類の切削プレートのそれぞれの少なくとも1つの切削体よりも体積が大きい。
【0019】
第1の種類の切削プレートおよび第2の種類の切削プレートの両方は、好ましくは各々、本体の対向する端部に配置された2つの切削体を有する。第1の種類の切削プレートの2つの切削体は、好ましくは同一である。同様に、第2の種類の切削プレートの切削体は、好ましくは同一である。切削体は、言及されているように、互いの間でのみ異なる(第1の種類は第2の種類とは異なる)。これにより、第1の種類の切削プレートと第2の種類の切削プレートの両方を切削プレートホルダから解放することができ、上述したワーリング工具の機能モードを変更することなく、切削プレートホルダに対して180°回転して再取り付けすることができる。
【0020】
上述の原理は、一般的に、外側ワーリング工具の場合と内側ワーリング工具の場合の両方で使用することができるが、上記原理は、本出願人によるこれまでの試験において、特に、外側ワーリング工具の場合に有利であることが実証されている。従って、本発明によるワーリング工具の一実施形態による切削プレートホルダは、加工中のワークピースを誘導可能である中央貫通孔を有し、ワーリング工具の組み立てられた状態における切削プレートは、通路開口内に突出する。各切削プレート(種類にかかわらず)は、好ましくは、上記切削プレートの2つの切削体のうちの1つの切削体を通って通路開口内に突出する。
【0021】
さらなる実施形態では、通路開口は、ワーリング工具の長手方向軸に対して対称になるように設計され、ワーリング工具の組み立てられた状態における第1の種類の切削プレートのそれぞれの少なくとも1つの刃先は、さらに通路開口内に突出し、第2の種類の切削プレートのそれぞれの少なくとも1つの刃先よりも、長手方向軸からの間隔が小さい。
【0022】
これによって、第1の種類の切削プレートがワークピース上の輪郭の詳細を生成し、第2の種類の切削プレートがねじプロファイルの予備切削のために使用されるという、既に説明された状況がもたらされる。従って、第1の種類の切削プレートの少なくとも1つの刃先は、第2の種類の切削プレートのそれぞれの少なくとも1つの刃先よりも多面の輪郭を有することが好ましい。「より多面の輪郭」とは、ここでは、相対的に多数の異なる曲率または湾曲を有する刃先の輪郭であると理解される。代替的に、第1の種類の切削プレートのそれぞれの少なくとも1つの刃先は好ましくはより湾曲しており、第2の種類の切削プレートのそれぞれの少なくとも1つの刃先は、好ましくはより直線的または角があるとも言える。
【0023】
さらなる実施形態によれば、長手方向軸に沿った平面図で見たときの切削プレートホルダは実質的に環状体である。従って、切削プレートホルダは、工具駆動スピンドルに結合することができる実質的に円筒形の主ホルダに挿入することができる。
【0024】
さらなる実施形態では、その前端において、ワーリング工具の組み立てられた状態においてさらに通路開口内に突出する第1の種類の切削プレートのそれぞれの少なくとも1つの切削体は、第2の種類の切削プレートのそれぞれの少なくとも1つの切削体よりも小さい高さを有し、その高さは、ワーリング工具の長手方向軸に平行に測定される。これによって付加的に、第1の種類の切削プレートに加わる応力が低減し、これによって、第1の種類の切削プレートの摩耗が低減される。
【0025】
本発明によるワーリング工具のさらなる実施形態によれば、各切削プレート受けは、ワーリング工具の長手方向軸に対して横断方向に、好ましくは直交するように延在する平面状支持面と、支持面上に直交するように延在する、2つの相互に離間した支持面とを有し、上記接触面の法線ベクトルは鋭角を囲む。そのために、安定したプレート着座が、切削プレートホルダ内に配置された各切削プレートについてもたらされる。
【0026】
ワーリング工具のさらに好ましい実施形態によれば、締結要素は、切削プレートホルダ内に設けられたそれぞれのねじ山に係合する締め付けねじを有し、ねじ山の中心軸はすべて、ワーリング工具の中心長手方向軸から等距離になるように離間されている。ねじ山の中心は言わば、共通の円上にある。
【0027】
上述の特徴および以下に説明する特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、それぞれの場合に記載された組み合わせだけでなく、他の組み合わせにおいてまたは個別に使用することができることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明によるワーリング工具の例示的な実施形態が、以下の図面に示されており、以下の説明においてより詳細に説明される。
【図1】 本発明によるワーリング工具の例示的な実施形態の斜視図である。
【図2】 図1に示す本発明によるワーリング工具の例示的な実施形態の上からの平面図である。
【図3】 図1に示す本発明によるワーリング工具の例示的な実施形態の詳細図である。
【図4】 図1に示される例示的な実施形態による、本発明によるワーリング工具の切削プレートホルダの斜視図である。
【図5】 図4に示す切削プレートホルダの上からの平面図である。
【図6】 本発明によるワーリング工具に使用される第1の種類の切削プレートの例示的な実施形態を示す図である。
【図7】 本発明によるワーリング工具に使用される第2の種類の切削プレートの例示的な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1?図3は、本発明によるワーリング工具の例示的な実施形態を、斜視図、上から見た平面図および詳細図で示している。その中の本発明によるワーリング工具は、その全体が参照符号10で示されている。
【0030】
ワーリング工具10は、複数の切削プレート14a、14bが締結要素16を用いて解放可能に締結される切削プレートホルダ12を含む。切削プレート14a、14bは、好ましくは硬質金属製のリバーシブルの切削プレートである。締結要素16は、好ましくは、切削プレートホルダ12内に設けられたそれぞれのねじ山18に係合する締め付けねじとして実装される(図4および図5参照)。原則として、あらゆる種類の工具係合が考慮され得るが、締め付けねじ16には、好ましくは、トルクス工具係合または六角形ソケット工具係合が設けられる。切削プレートホルダ12は、好ましくは鋼製である。上記切削プレートホルダ12は、(単一の一体部品から)一体的に、または複数の部品において(複数の相互結合された部品から)構成することができる。
【0031】
ここに示す本実施形態によるワーリング工具10は、全部で9つの切削プレート14a、14bを有し、これら切削プレート14a、14bは、切削プレートホルダ12上に周方向20において配置されている。本発明によるワーリング工具10の代替的な例示的実施形態では、本発明の範囲から逸脱することなく、たとえば、3つ、6つ、または12個の切削プレート14a、14bを9つの切削プレート14a、14bの代わりに設けることもできる。しかしながら、原理的には、本発明による切削プレート14a、14bの数は、3または3の倍数に制限される。
【0032】
図示の例示的な実施形態における本発明によるワーリング工具10は、外側ワーリング工具として具体化される。この種の外側ワーリング工具は、特に雄ねじを製造するのに役立つ。
【0033】
ワーリング工具10は、通常、周方向20において比較的高い回転速度で駆動される。工具刃先の切削面が設定されるように、またはねじピッチが設定されるように、回転中の切削プレートホルダ12は、ワークピースに対して上記切削プレートホルダ12のx軸を中心として所望の角度だけ傾斜している。ワークピース(図示せず)は同様に、その長手方向軸を中心に回転するが、回転速度はワーリング工具10よりも実質的に低い。加工中、ワークピースは、切削プレートホルダ12の中心にくるように設けられた通路開口22を通じて、その長手方向に沿って押し込まれる。しかし、この送り動作中のワークピースは、ワーリング工具10の通路開口22内で、中心ではなく、偏心してまたは中心外に位置決めされる。ワーリングに一般的な動力学は、それを考慮に入れてもたらされる。ワークピースに対するワーリング工具10の偏心および傾斜配置によって、例えば、回しフライス削りとは対照的に、すべての切削プレート14a、14bが同時にワークピースに係合するのではなく、切削プレート14a、14bのうちの一部または1つのみが、任意の瞬間にワークピースに係合することが、本発明においては特に一般的である。従って、切削プレート14a、14bは、時間的に連続的にワークピースに接触する。
【0034】
このような外側ワーリング工具に典型的な様式において、切削プレートホルダ12は、上述の理由により、加工中にワークピースを誘導可能である中心貫通孔22を有する。この通路開口22は、好ましくは、ワーリング工具10の長手方向軸24に対して対称である。本例示的実施形態における通路開口22は、円筒状に設計されている。ただし、これは必須ではない。原理的には他の形状も考えられる。しかし、切削プレートホルダ12は、図示された例示的な実施形態からも導かれ得るように、必ずしも長手方向軸24に対して対称である必要はない。
【0035】
各切削プレート14a、14bは、切削プレートホルダ12にそのために設けられた切削プレート受け26の中に個々に配置される。これらの切削プレート受け26の各々は、平面状支持面28と、2つの互いに離間した接触面30,32とを有する(図4および図5参照)。図4および図5から分かるように、個々の切削プレート受け26の支持面28は、互いへと移行することが好ましい。従って、上記支持面28は、互いに同一平面上に、好ましくはワーリング工具10の長手方向軸24に直交するように位置合わせされる。しかし、2つの接触面30、32は、好ましくは、長手方向軸24と平行であり、従って、支持面28に直交するように整列されている。示されている例示的な実施形態における各切削プレート受け26の2つの接触面30,32は、互いに鋭角に整列している。これにより、切削プレート受け26内の切削プレート14a、14bの安定した着座が可能になる。
【0036】
ワーリング工具10が組み立てられた状態の切削プレート14、14bは、切削プレートホルダ12の通路開口22内に突出する(特に図2参照)。単一のタイプの切削プレートだけでなく、少なくとも2つの異なるタイプの切削プレート14a、14bが本発明に従って使用されるため、上記切削プレート14a、14bは異なって、切削プレートホルダ12の通路開口22内に大きく突出する。切削プレート14a、14b、または切削プレート14a、14bの刃先の異なる軌道34,36が、それぞれそこから生じる。本発明によるワーリング工具10のこの特徴的な特徴の理由、またはそれから得られる利点について、それぞれ以下にさらにより詳細に説明する。
【0037】
本例示的実施形態では、それぞれ第1の種類または第1のタイプの1つの切削プレート14aまたはそれぞれ第1のタイプの切削プレート(詳細は図6参照)および第2の種類または第2のタイプの1つの切削プレート14b(詳細は図7参照)の異なる2種類の切削プレートが使用されている。
【0038】
本発明によれば、異なる2種類の切削プレート14a、14bは、その刃先の形状及び寸法によって互いに異なり、それにより異なる2種類の切削プレート14a、14bは全体的な幾何学的形状及び寸法が互いに異なる。従って、上記切削プレート14a、14bは、その機能の点でも異なる。第1の種類の切削プレート14aは、特に輪郭を付与するために、または製造されるべきねじプロファイルを仕上げるために使用される。対照的に、第2の種類の切削プレート14bは、それぞれ主に荒削り(材料を減じる)または製造されるねじプロファイルの予備切削に使用される。
【0039】
両方の切削プレートタイプ14a、14bは、それぞれ本体38aまたは38bと、それぞれ本体38aまたは38bから突出し、本体38aまたは38bと一体的に接続されているそれぞれ2つの切削体40aまたは40bとを有する。第1の種類の切削プレート14aの本体38aは、第2の種類の切削プレート14bの本体38bとまったく異ならず、または、(切削体に向かう移行部において)わずかだけ異なる。2つの切削プレートタイプ14a、14bの間の実質的な差異は、切削体40a、40bの異なる実施形態にある。
【0040】
第1の種類の切削プレート14aの切削体40aは、第2の種類の切削プレート14bの切削体40bよりも大きくなるように設計されているか、または第2の種類の切削プレート14bの切削体40bよりも大きな体積を有するように設計されていることが好ましい。第1の種類の切削プレート14aの切削体40aは主に、第2の種類の切削プレート14bの切削体40bよりも深くなるように設計されている。「より深い」という用語は、ここでは、第1の種類の切削プレート14aの切削体40aの前端部が、第2の種類の切削プレート14bの切削体40bの前端部よりも、本体38aから大きな間隔を有するものとして理解されるべきである。従って、ワーリング工具10の組み立て状態における第1の種類の切削プレート14aの刃先42aは、第2の種類の切削プレート14bよりもさらに切削プレートホルダ12の通路開口22内に突出している(図2)。従って、切削プレート14aの刃先42aの軌道34は、切削プレート14bの軌道36よりも小さく、すなわち、より小さい直径を有する。代わりに、第2の種類の切削プレート14bの切削体40bは、特に切削体40bの前端部の領域において、第1の種類の切削プレート14aの切削体40aよりも高くなるように設計されている。切削プレート14a、14b、またはそれぞれそれらの切削体40a、40bの高さは、取り付けられた状態で長手方向軸24と平行に測定される上記切削プレートまたは切削体の寸法であると理解される。
【0041】
切削プレート14a、14bは、必ずしも交互に切削プレートホルダ12上に配置されるのではなく、3つの切削プレートからなる(仮想)グループに配置されることが好ましく、ここで、3つの切削プレートからなる各グループは、第1の種類の2つの切削プレート14aと、第2の種類の1つの切削プレート14bとを含む。言い換えれば、第1の種類の各切削プレート14aは、第1の種類の1つの他の切削プレート14aと第2の種類の1つの切削プレート14bとの間で切削プレートホルダ12上に配置される。これにより、第2の種類の切削プレート14bは、ねじ切りセグメントを予備的に切削し、ワーリング工具10の回転方向20に直接後続する第1の種類の2つの切削プレート14aは、ねじ切りセグメントの切削を完了し、ねじプロファイルを仕上げる。特に、回転方向20において各切削プレート14bに1つおきに後続する切削プレート14aは、それを考慮しすると最小限に応力を受ける。従って、上記切削プレート14aの摩耗は、切削プレート14bの摩耗よりも小さい。しかし、上記切削プレート14aが形成されるねじ山の実際の輪郭を付与するため、切削プレート14b、および、回転方向20において切削プレート14bに直接後続する切削プレート14aが摩耗する場合にも、比較的肯定的な加工結果を依然として達成することができる。従って、切削プレート14b、および、回転方向20において切削プレート14bに直接後続する切削プレート14aの摩耗は、容易に受け入れることができ、これによって、生成されるべきねじ山の表面品質が知覚可能に損なわれることはない。従って、すべての切削プレート14a、14bの全体的な寿命の延長を実現することができる。
【0042】
最後に、上記のような複数の異なる種類の切削プレートの原理は、内側ワーリング工具の場合にも本発明による方法で使用することができることに留意されたい。各事例において2つの切削体40a、40bを有する切削プレート14a、14b(いわゆる二重カッタ)の代わりに、1つのみの切削体を有する切削プレート(いわゆるシングルカッタ)または3つ以上の切削体を有する切削プレート(例えば、三重カッタまたは四重カッタ)も、原則として本発明の範囲から逸脱することなく使用することができる。原則として、3つの異なる種類の切削プレートを使用することもできる。個々の刃先42a、42bの幾何学的実施形態は、同様に、図に示された形状に限定されない。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つまたは3の倍数個の切削プレート(14a、14b)であって、前記切削プレート(14a、14b)の各々は少なくとも1つの刃先(42a、42b)を含む、切削プレート(14a、14b)と、
複数の切削プレート受け(26)を有する切削プレートホルダ(12)であって、前記切削プレート受け(26)の各々は、前記切削プレート(14a、14b)の1つを受け入れるように構成され、前記切削プレート受け(26)は、前記切削プレートホルダ(12)にわたって周方向(20)に分布するように配置される、切削プレートホルダ(12)と、
前記切削プレートホルダ(12)の前記切削プレート受け(26)に前記切削プレート(14a、14b)を解放可能に締結するための複数の締結要素(16)と
を有する、ワークピースを加工するためのワーリング工具(10)であって、
前記切削プレート(14a、14b)は、2種類の異なる切削プレート(14a、14b)を含み、
前記切削プレートホルダ(12)上で互いに隣接して配置される3つの切削プレート(14a、14b)の各グループは、第1の種類の2つの切削プレート(14a)と、第2の種類の1つの切削プレート(14b)とを含み、
第1の種類の2つの切削プレート(14a)の一方は、切削プレートホルダ(12)上にて、第1の種類の2つの切削プレート(14a)の他方と、第2の種類の切削プレート(14b)との間に配置され、
前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)は全体的な幾何学的形状及び寸法が同じであり、前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)は、刃先(42a、42b)の形状及び寸法によって、前記第2の種類の切削プレート(14b)とは異なり、刃先(42a、42b)の形状及び寸法が異なることにより、第1の種類の2つの切削プレート(14a)と第2の種類の切削プレート(14b)は、全体的な幾何学的形状及び寸法が異なる、ワーリング工具(10)。
【請求項2】
前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)の各々は、第1の本体(38a)と該第1の本体(38a)に一体的に接続された第1の切削体(40a)を備え、第1の切削体(40a)は第1の本体(38a)から突出し、第1の種類の2つの切削プレート(14a)の各々の刃先(42a)は、第1の種類の2つの切削プレート(14a)の各々の第1の切削体(40a)上に配置され、
第2の種類の切削プレート(14b)は、第2の本体(38b)と該第2の本体(38b)に一体的に接続された第2の切削体(40b)を備え、第2の切削体(40b)は第2の本体(38b)から突出し、第2の種類の切削プレート(14b)の刃先(42b)は、第2の切削体(40b)上に配置され、第1の切削体(40a)は、第2の切削体(40b)よりも体積が大きい、請求項1に記載のワーリング工具。
【請求項3】
前記切削プレートホルダ(12)は、加工中に前記ワークピースを誘導可能な中心貫通孔(22)を有し、前記切削プレート(14a、14b)は、前記ワーリング工具の組み立て状態において、第1の種類の2つの切削プレート(14a)及び第2の種類の切削プレート(14b)は前記貫通孔(22)内に突出する、請求項1又は2に記載のワーリング工具。
【請求項4】
前記貫通孔(22)は、前記ワーリング工具(10)の長手方向軸(24)に対して対称であり、前記ワーリング工具(10)の前記組み立て状態における前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)の各々の刃先(42a)は、前記貫通孔(22)内にさらに突出し、前記第2の種類の切削プレート(14b)の刃先(42b)よりも前記長手方向軸(24)からの距離が短い、請求項3に記載のワーリング工具。
【請求項5】
前記長手方向軸(24)に沿った平面図で見たときに前記切削プレートホルダ(12)が環状体である、請求項4に記載のワーリング工具。
【請求項6】
前端において、前記ワーリング工具(10)の前記組み立て状態において前記貫通孔(22)内に突出する前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)の各々の第1の切削体(40a)は、前記第2の種類の切削プレート(14b)の第2の切削体(40b)よりも小さい高さを有し、前記高さは、前記長手方向軸(24)に平行に測定される、請求項3?5のいずれか一項に記載のワーリング工具。
【請求項7】
前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)の各々の刃先(42a)は、前記第2の種類の切削プレート(14b)の刃先(42b)よりも多面の輪郭を有する、請求項1?6のいずれか一項に記載のワーリング工具。
【請求項8】
前記第1の種類の2つの切削プレート(14a)の各々の刃先(42a)は湾曲しており、前記第2の種類の切削プレート(14b)の刃先(42b)は直線的または角がある、請求項1?7のいずれか一項に記載のワーリング工具。
【請求項9】
前記切削プレート受け(26)の各々は、前記ワーリング工具(10)の前記長手方向軸(24)に対して横方向に延在する平面状支持面(28)と、前記支持面(28)に直交して延在する、相互に離間した2つの接触面(30,32)とを有し、前記接触面(30,32)が鋭角を囲む、請求項1?8のいずれか一項に記載のワーリング工具。
【請求項10】
前記締結要素(16)は、前記切削プレートホルダ(12)内に設けられたそれぞれのねじ山(18)に係合する締め付けねじを含み、前記ねじ山(18)の中心軸はすべて、前記ワーリング工具(10)の前記中心長手方向軸(24)から等距離になるように離間されている、請求項1?9のいずれか一項に記載のワーリング工具。
【請求項11】
前記切削プレート(14a、14b)は、正確に6つ,9つまたは12個の切削プレートである、請求項1?10のいずれかに記載のワーリング工具。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-30 
出願番号 特願2018-512905(P2018-512905)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B23G)
P 1 651・ 121- YAA (B23G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 津田 健嗣  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 河端 賢
田々井 正吾
登録日 2019-08-09 
登録番号 特許第6568307号(P6568307)
権利者 ハルトメタル-ウェルクゾーグファブリック ポール ホーン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
発明の名称 ワーリング工具  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  
代理人 特許業務法人有古特許事務所  

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