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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G06Q
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06Q
審判 全部申し立て 特174条1項  G06Q
管理番号 1374933
異議申立番号 異議2020-700164  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-10 
確定日 2021-05-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6573205号発明「一のユーザによるアプリケーションプログラムの利用に関する予測データを計算する情報処理装置、情報処理方法、プログラム及びマーケティング情報処理装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6573205号の請求項1ないし12に係る特許を取り消す。 
理由 1 手続の経緯
特許第6573205号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成30年9月10日に出願され、令和1年8月23日にその特許権の設定登録がされ、令和1年9月11日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和2年 3月10日 : 特許異議申立人佐藤義光による請求項1?12に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年 5月29日付け: 取消理由通知書
令和2年 8月31日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年10月28日付け: 訂正拒絶理由通知書(これに対する特許権者からの意見は指定期間内に提出されなかった。)
令和2年12月23日付け: 取消理由通知書(決定の予告)(これに対する特許権者からの意見は指定期間内に提出されなかった。)


2 訂正の適否
(1)訂正の内容
令和2年8月31日に差し出された訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第6573205号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?12について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のものを含む。

ア 請求項1に係る訂正
本件訂正請求による請求項1?7からなる一群の請求項に係る訂正のうち、請求項1に係る訂正の内容は以下のとおりである(下線は、訂正箇所である。以下、同様)。

訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「一のユーザによるアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得するログデータ取得部と、
一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と、
前記機械学習処理部によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータを解析することにより、前記一のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する予測処理部と、
前記予測処理部が生成した前記予測データを出力する出力部と、
を備える情報処理装置。」
とあるのを、
「 個別ユーザ毎にアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得するログデータ取得部と、
個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出カペアとして、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と、
前記機械学習処理部によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータの内の特定のユーザのログデータを解析することにより、前記特定のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する予測処理部と、
前記予測処理部が生成した前記予測データを出力する出力部と、
を備え、
前記アプリケーションプログラムがゲームであり、
前記予測結果が、前記特定のユーザのゲーム継続率、又は、ゲーム離脱率である情報処理装置。」
に訂正する。

上記請求項1に係る訂正は、次の訂正事項(以下、「訂正事項1-1」という。)を含んでいる。
[訂正事項1-1]
訂正前の「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と、」を、「 個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出カペアとして、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と、」とする訂正。

イ 請求項8に係る訂正
本件訂正請求による請求項8?11からなる一群の請求項に係る訂正のうち、請求項8に係る訂正の内容は以下のとおりである。

訂正前の特許請求の範囲の請求項8に、
「 コンピュータが行う情報処理方法であって、
一のユーザによるアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得する第1工程と、
一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる第2工程と、
前記第2工程によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータを解析することにより、
前記一のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用前記アプリケーションプログラムに関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する第3工程と、
前記第3工程で計算された前記予測データを出力する第4工程と、
を備える情報処理方法。」
とあるのを、
「 コンピュータが行う情報処理方法であって、
個別ユーザ毎にアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得する第1工程と、
個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる第2工程と、
前記第2工程によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータの内の特定のユーザのログデータを解析することにより、前記特定のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用前記アプリケーションプログラムに関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する第3工程と、
前記第3工程で計算された前記予測データを出力する第4工程と、
を備え、
前記アプリケーションプログラムがゲームであり、
前記予測結果が前記特定のユーザのゲーム継続率、又は、ゲーム離脱率である情報処理方法。」
に訂正する。

上記請求項8に係る訂正事項は、次の訂正事項(以下、「訂正事項8-1」という。)を含んでいる。

[訂正事項8-1]
訂正前の「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる第2工程と、」を、「 個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる第2工程と、」とする訂正。

ウ 請求項12に係る訂正
本件訂正請求による請求項12に係る訂正の内容は以下のとおりである。

訂正前の特許請求の範囲の請求項12に、
「 コンピュータに、
一のユーザによるアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得する第1処理と、
一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる第2処理と、
前記第2処理によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータを解析することにより、前記一のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用前記アプリケーションプログラムに関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する第3処理と、
前記第3処理で計算された前記予測データを出力する第4処理と、
を実行させることを特徴とするプログラム。」
とあるのを、
「 コンピュータに、
個別ユーザ毎にアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得する第1処理と、
個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる第2処理と、
前記第2処理によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータの内の特定のユーザのログデータを解析することにより、前記特定のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用前記アプリケーションプログラムに関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する第3処理と、
前記第3処理で計算された前記予測データを出力する第4処理と、
を実行させ、
前記アプリケーションプログラムがゲームであり、
前記予測結果が前記特定のユーザのゲーム継続率、又は、ゲーム離脱率であることを特徴とするプログラム。」
に訂正する。

上記請求項12に係る訂正事項は、次の訂正事項(以下、「訂正事項12-1」という。)を含んでいる。
[訂正事項12-1]
訂正前の「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる第2工程と、」を、「 個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる第2処理と、」とする訂正。

(2)訂正の適否の検討
ア 特許権者の説明
本件訂正請求書において、特許権者は、訂正事項1-1、訂正事項8-1及び訂正事項12-1の訂正の目的について、次のとおり説明している。

(ア)訂正事項1-1
a 訂正の目的について
「個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去の前記ログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と、」は、訂正前の請求項1の「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と、」の記載に対し、機械学習の際に読み込まれるデータの構成を明瞭にし、発明を明確にするものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定される、明瞭でない記載の釈明を目的とする。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正でないことについて
ログデータの構成及び機械学習の際に読み込まれるデータの構成を明瞭にし、予測処理部の対象となるログデータ及びユーザを明瞭にし、かつ、「アプリケーションプログラム」及び「予測結果」のそれぞれを限定するものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。このため、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
「個別ユーザ毎の前記ログデータ内の過去のログデータを、入出カペアとして、」という構成は、明細書の段落0033の「機械学習処理部22は、予測処理部12で実行される学習モデルを、機械学習を用いて生成する。その際、ログデータ記憶部21に保管された膨大なログデータは、入出力ペアの教師データとなる。」に開示されている。

d 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件においては、訂正前の請求項1?12について特許異議申し立てがされているので、訂正前の請求項1、2、5?7に係る訂正事項に関して、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(イ)訂正事項8-1
a 訂正の目的について
「個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去の前記ログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる第2工程と、」は、訂正前の請求項8の「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる第2工程」の記載に対し、機械学習の際に読み込まれるデータの構成を明瞭にし、発明を明確にするものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定される、明瞭でない記載の釈明を目的とする。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正でないことについて
ログデータの構成及び機械学習の際に読み込まれるデータの構成を明瞭にし、予第3工程の対象となるログデータ及びユーザを明瞭にし、かつ、「アプリケーションプログラム」及び「予測結果」のそれぞれを限定するものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。このため、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
「個別ユーザ毎の前記ログデータ内の過去のログデータを、入出カペアとして、」という構成は、明細書の段落0033の「機械学習処理部22は、予測処理部12で実行される学習モデルを、機械学習を用いて生成する。その際、ログデータ記憶部21に保管された膨大なログデータは、入出力ペアの教師データとなる。」に開示されている。

d 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件においては、訂正前の請求項1?12について特許異議申し立てがされているので、訂正前の請求項8及び9に係る訂正事項に関して、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(ウ)訂正事項12-1
a 訂正の目的について
「個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去の前記ログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる第2処理と、」は、訂正前の請求項12の「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる第2処理」の記載に対し、機械学習の際に読み込まれるデータの構成を明瞭にし、発明を明確にするものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定される、明瞭でない記載の釈明を目的とする。

b 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正でないことについて
ログデータの構成及び機械学習の際に読み込まれるデータの構成を明瞭にし、第3処理の対象となるログデータ及びユーザを明瞭にし、かつ、「アプリケーションプログラム」及び「予測結果」のそれぞれを限定するものであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。このため、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
「個別ユーザ毎の前記ログデータ内の過去のログデータを、入出カペアとして、」という構成は、明細書の段落0033の「機械学習処理部22は、予測処理部12で実行される学習モデルを、機械学習を用いて生成する。その際、ログデータ記憶部21に保管された膨大なログデータは、入出力ペアの教師データとなる。」に開示されている。

d 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件においては、訂正前の請求項1?12について特許異議申し立てがされているので、訂正前の請求項12に係る訂正事項に関して、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

イ 当審の判断
(ア)訂正事項1-1
訂正事項1-1に係る訂正前の「所定の期間ごとに分割することなく」は、「分割」なる用語は「単数または複数のものをさらに細かく細分化すること。」(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)と解するのが一般的であることに鑑みると、ログデータの読み込みは、細かく細分化されずに行われること、又は、所定ではない(例えば、不定長の)期間ごとに細かく細分化されて行われることを特定していると解するのが妥当であるから、ログデータの読み込みを特定する事項である。
一方、本件明細書の「ログデータ記憶部21に保管された膨大なログデータは、入出力ペアの教師データとなる。」(段落【0033】)」或いは「教師データとして、何を入出力ペアとして機械学習させるかは、何を予測するかで変わり得る。・・・この教師データを入出力ペアとして機械学習処理部22に大量に読み込ませることによって、学習モデルを構築することができる。」(段落【0038】)などの記載を参酌すると、訂正後の「入出カペアとして」は、読み込んだログデータの機械学習が読み込んだログデータを教師データとする機械学習であることを特定する事項であって、ログデータの読み込みを特定する事項ではない。
このため、訂正事項1-1は、ログデータの読み込みに係る発明特定事項である「所定の期間ごとに分割することなく」を削除することを含んでいる、或いは、ログデータの読み込みに係る発明特定事項である「所定の期間ごとに分割することなく」に代えて、読み込んだログデータの機械学習が読み込んだログデータを教師データとする機械学習であることに係る発明特定事項である「入出カペアとして」としていると解され、前者のように解するならば、発明特定事項が削除されていることから、実質上特許請求の範囲を拡張するものであり、後者のように解するならば、特定する構成要件を異ならせることから、実質上特許請求の範囲を変更するものである。
したがって、訂正事項1-1を含む請求項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものとはいえない。
よって、訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、及び、特許出願の際に独立して特許を受けることができることを検討するまでもなく、請求項1?7からなる一群の請求項に係る訂正は認められない。

(イ)訂正事項8-1
訂正事項8-1は、「所定の期間ごとに分割することなく」の削除、又は、「所定の期間ごとに分割することなく」を「入出力ペアとして」とする訂正を含んでいることから、訂正事項1-1と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張する、又は、実質上特許請求の範囲を変更するものである。
したがって、訂正事項8-1を含む請求項8に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものとはいえない。
よって、訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、及び、特許出願の際に独立して特許を受けることができることを検討するまでもなく、請求項8?11からなる一群の請求項に係る訂正は認められない。

(ウ)訂正事項12-1
訂正事項12-1は、「所定の期間ごとに分割することなく」の削除、又は、「所定の期間ごとに分割することなく」を「入出力ペアとして」とする訂正を含んでいることから、訂正事項1-1と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張する、又は、実質上特許請求の範囲を変更するものである。
したがって、訂正事項12-1を含む請求項12に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものとはいえない。
よって、訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、及び、特許出願の際に独立して特許を受けることができることを検討するまでもなく、請求項12に係る訂正は認められない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求の、請求項1?7からなる一群の請求項に係る訂正、請求項8?11からなる一群の請求項に係る訂正、及び、請求項12に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合しない。
よって、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?7〕、〔8?11〕、12については、訂正を認めることはできない。


3 取消理由の概要
(1)取消理由1(新規事項)
平成31年4月23日付けでした手続補正は願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないため、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第17条の2第3項を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(サポート要件)
本件の請求項1?12に係る発明は願書に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないため、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(明確性要件)
本件の請求項1?12に係る発明は不明確であるため、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(4)取消理由4(進歩性)
本件の請求項1?12に係る発明は、本件特許出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるため、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。


4 本件発明
(1)本件発明について
特許第6573205号の請求項1?12の特許(以下、「本件特許」という。)に係る発明は、以下のとおりである(以下、「本件発明1」、「本件発明2」・・・「本件発明12」といい、総じて「本件発明」という。下線部は、平成31年4月23日付け手続補正書によって補正された箇所を示す。また、分説及び構成要件番号は特許異議申立人が特許異議申立書で用いたものであって、各構成要件をそれぞれ「構成要件1A」、「構成要件1B」・・・という。)。

【請求項1】
1A 一のユーザによるアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得するログデータ取得部と、
1B 一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と、
1C 前記機械学習処理部によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータを解析することにより、前記一のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する予測処理部と、
1D 前記予測処理部が生成した前記予測データを出力する出力部と、
1E を備える情報処理装置。

【請求項2】
2A 前記機械学習が、ニューラルネットワークを利用したディープラーニングであること
2B を特徴とする請求項1記載の情報処理装置。

【請求項3】
3A 前記アプリケーションプログラムがゲームである
3B 請求項1又は2記載の情報処理装置。

【請求項4】
4A 前記予測結果が、前記一のユーザの課金率、ゲーム継続率、ゲーム離脱率であること
4B を特徴とする請求項3記載の情報処理装置。

【請求項5】
5A 前記出力部から出力された前記予測データを記憶する記憶部と、
5B 前記記憶部に記憶された前記予測データを用いて前記一のユーザに対する広告を選択するマーケティング処理部と、
5C を備えることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の情報処理装置。

【請求項6】
6A 前記出力部から出力された複数の前記一のユーザに関する前記予測データを記憶する記憶部と、
6B 前記記憶部に記憶された複数の前記予測データを用いて対象となる広告を出すべき前記一のユーザを、閾値を設定することにより選定するマーケティング処理部と、
6C を備えることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の情報処理装置。

【請求項7】
7A 請求項1?6のいずれか一項に記載の情報処理装置によって生成された前記予測データを取得する予測データ取得部と、
7B 前記予測データを用いて前記一のユーザに対する広告を選択するマーケティング処理部と、
7C を備えるマーケティング情報処理装置。

【請求項8】
8A コンピュータが行う情報処理方法であって、
8B 一のユーザによるアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得する第1工程と、
8C 一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる第2工程と、
8D 前記第2工程によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータを解析することにより、前記一のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する第3工程と、
8E 前記第3工程で計算された前記予測データを出力する第4工程と、
8F を備える情報処理方法。

【請求項9】
9A 前記機械学習が、ニューラルネットワークを利用したディープラーニングであること
9B を特徴とする請求項8記載の情報処理方法。

【請求項10】
10A 前記アプリケーションプログラムがゲームである
10B 請求項8又は9記載の情報処理方法。

【請求項11】
11A 前記予測結果が、前記一のユーザの課金率、ゲーム継続率、ゲーム離脱率であること
11B を特徴とする請求項10記載の情報処理方法。

【請求項12】
12A コンピュータに、
12B 一のユーザによるアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得する第1処理と、
12C 一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる第2処理と、
12D 前記第2処理によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータを解析することにより、前記一のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する第3処理と、
12E 前記第3処理で計算された前記予測データを出力する第4処理と、
12F を実行させることを特徴とするプログラム。

(2)当初明細書等及び本件明細書等の記載について
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)、及び、本件の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一のユーザによるアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータに基づいて、当該一のユーザのアプリケーションプログラムにおける将来的な行動に関する予測データを計算する情報処理装置、情報処理方法、プログラム及び当該一のユーザに対して最適な広告を選択するマーケティング情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(略)
【0003】
これまでに、過去のアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータに基づいて、ひとかたまりの複数ユーザ単位で将来の行動予測することは知られていた。例えば、20代男性のユーザの課金率がいくらかなどの予測である。
【0004】
しかしながら、このような複数ユーザ単位での将来行動予測は、確率の精度が高いものではなかった。そして、精度の低い確率に基づいた広告は、効率が悪いという点でも問題があった。
【0005】
なお、ある特定のユーザに着目して将来の行動予測をすることは、従来においても不可能ではなかったが、ログデータが膨大になると分析の作業負担が大きくなり、現実的ではなかった。
【0006】
特許文献1は、店舗における商品需要を適切に予測することができる需要予測システム等に関するものである。予測部103は、人の通行経路、通行量、来店数を予測し、それによって変動する商品需要を適切に予測する。
しかしながら、特許文献1記載の発明は、商品の需要予測という本発明とは別の分野であり、かつ、予測に当たっては、予測部103は、対象事象と種別および属性等が一致又は類似する過去の事象の実績情報を参考としており、この点で、ひとかたまりの単位で将来予測するものであった。
【0007】
特許文献2は、消費者が購入しようとしている個々の商品についての需要を高精度で容易に予測することが可能な需要予測システム等に関するものである。
しかしながら、特許文献2記載の発明は、商品の需要予測という本発明とは別の分野であり、かつ、機械学習を用いたものでもなかった。」

イ 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の通り、従来は、アプリケーションプログラムにおいて、一のユーザのアプリケーションプログラムにおける将来的な行動を予測することは知られていなかった。
【0010】
また、アプリケーションプログラムを運営する会社は、多くのユーザがアプリケーションプログラム内において行った行動に関してログデータを保有しているが、このログデータは膨大かつ関連性の薄いデータも含むため、ログデータ保有会社がログデータを分析して将来予測につなげることは容易ではなかった。
【0011】
本発明は、膨大なログデータを利用して機械学習により学習モデルを生成し、その学習モデルを特定のユーザに適用することで、(複数ユーザ単位ではなく)特定の一のユーザが、アプリケーションプログラム内において将来どのような行動をとるかを高精度で予測することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、予測された確率に基づいて、当該特定の一のユーザに対して適切な広告を選択する情報処理装置を提供する。」

ウ 「【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アプリケーションプログラム内において、特定のユーザが、将来どのような行動をとるかを高精度で予測する情報処理装置等を提供することができる。また、本発明によれば、予測データに基づいて、当該特定の一のユーザに対して適切な広告を選択する情報処理装置を提供することができる。」

エ 「【0021】
ログデータ取得部11は、アプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得し、予測処理部12に送信する。取得したログデータは、ログデータ記憶部21に送信しても良い。
【0022】
ログデータは、通常は、アプリケーションプログラムを運営する会社がデータベースとして保有している。アプリケーションプログラム運営会社が本発明の情報処理装置等を利用する場合には、自社のデータベースからログデータを読み出すことによってログデータ取得部11がログデータを取得することができる。
【0023】
別の態様として、アプリケーションプログラム運営会社は、第三者であるデータ分析会社にログデータを渡して予測を依頼することもある。この場合は、データ分析会社が本発明の情報処理装置等を利用することになる。データ分析会社は、アプリケーションプログラム運営会社から、例えばネットワークを介して、ログデータをログデータ取得部11において取得することができる。
【0024】
アプリケーションプログラムの利用履歴としては、一般的には、例えば、ユーザID、アプリケーションプログラムの利用開始日・利用終了日、利用頻度、ログイン日時・時間、アプリケーションプログラムの利用に際してどのような行動を起こしたか、アプリケーションプログラムを通じて商品等を購入した場合は購入額等の詳細に関するログデータなどが挙げられる。
【0025】
アプリケーションプログラムが電子商取引を扱うECサイトの場合は、特に、ページの閲覧回数・時間、検索実行回数、検索キーワード、メルマガ開封、画像の閲覧回数、カートへの追加回数、カート追加までのページ遷移数、クーポン獲得数・失効数、お勧め商品タップ数・購入数、特集ページ閲覧数・購入数、決済手段登録数、決済手段登録までの遷移数、同一商品購入数、初購入商品、購入済み商品閲覧数などがログデータとして挙げられる。
【0026】
アプリケーションプログラムがソーシャルネットワーキングサービス(いわゆるSNS)の場合は、送受信メッセージ数、送受信スタンプの種類(ポジティブなスタンプかネガティブなスタンプか)、受信メッセージの開封までの時間、一日当たりの送受信数、一日当たりの初送受信ユーザ数、もっともやり取りしてるユーザとの送受信数・期間、他人・自分の投稿へのリアクション数・コメント数、投稿数、リンク・広告のクリック数・戻るまでの経過時間などがログデータとして挙げられる。
【0027】
アプリケーションプログラムがゲームの場合は、特に、ゲーム内での課金状況(課金日時、課金対象(アイテム・キャラクター等の購入、ゲーム内通貨の購入など)、課金額、課金の頻度など)、ゲームの利用状況(ゲームをダウンロードした日、ダウンロードしてからの経過日数、ログイン日時、ログイン時間、ゲームを最後に利用してからの経過日数など)、ゲーム内でのキャラクターの強化状況(キャラクターを強化した日時、回数、キャラクターの種類など)、ゲーム内でのアイテムの使用状況(所持するアイテムの種類、所持するアイテムの個数、アイテムの使用日時、アイテムの使用個数など)、ゲームの進行状況(ゲーム中で課される課題のクリア状況、課題への挑戦回数)、ゲーム内のユーザのステータス(プレイヤのレベル)などに関するログデータが挙げられる。
【0028】
予測処理部12は、ログデータ取得部11から受信したログデータから一のユーザのログデータを抽出して、学習モデル記憶部23に保管されている学習モデル(アルゴリズム)を実行することにより、当該一のユーザのアプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である予測データを計算する。
【0029】
予測データとしては、例えば、当該一のユーザが、今後一定期間アプリケーションプログラムを利用し続ける確率(一定期間継続率)、今後一定期間内にアプリケーションプログラムの利用を終了する確率(一定期間内離脱率)、今後一定期間アプリケーションプログラムにおいて商品等を購入する確率(一定期間内課金率)などである。
【0030】
アプリケーションプログラムがゲームの場合は、予測データとしては、特に、当該一のユーザが、今後一定期間内に課金する確率(課金率)、今後継続的にプレイする確率(ゲーム継続率)、今後ゲームのプレイをやめてしまう確率(ゲーム離脱率)が重要である。
【0031】
出力部13は、予測処理部12で生成された予測データを出力する。出力は、電子データとして出力してもよいし、プリントアウトすることによって出力してもよく、その方法を問わない。
【0032】
ログデータ記憶部21は、ログデータ取得部11で取得したアプリケーションプログラムの利用履歴を示す膨大なログデータを保管する。このログデータは、学習モデルを生成するための教師データ(訓練データ)として用いられる。このログデータは、予測処理の対象となるログデータとして予測処理部12に送信することもできる。
【0033】
機械学習処理部22は、予測処理部12で実行される学習モデルを、機械学習を用いて生成する。その際、ログデータ記憶部21に保管された膨大なログデータは、入出力ペアの教師データとなる。」

オ 「【0038】
教師データとして、何を入出力ペアとして機械学習させるかは、何を予測するかで変わり得る。例えば、予測データとして、アプリケーションプログラムをインストール後に3日間利用し続けてきた一のユーザが、今後7日間利用し続ける確率(7日間継続率)を算出したい場合は、教師データの入力データとして、アプリケーションプログラムをインストール後に3日間利用し続けてきたユーザの利用履歴を示すログデータを抽出したデータを使用し、ペアとする出力データとして、7日間継続したかどうかを使用することになる。この教師データを入出力ペアとして機械学習処理部22に大量に読み込ませることによって、学習モデルを構築することができる。
【0039】
予測メニューとしては、上記の他、例えば、以下のものが挙げられる。
・アプリケーションプログラムをインストールした一のユーザが、今後14日間利用し続ける確率(14日間継続率)
・アプリケーションプログラムを一定期間使用せず、その後久しぶりに利用を開始した一のユーザが、今後7日間利用し続ける確率(復帰後7日間継続率)
・アプリケーションプログラムを現に利用している一のユーザが、翌週以降に全く利用しなくなる確率(離脱率)
・アプリケーションプログラムを現に課金している一のユーザが、翌月以降に全く課金しなくなる確率(課金離脱率)
・アプリケーションプログラムをインストールした一のユーザが、30日以内に課金する確率(課金率)
・アプリケーションプログラムを一定期間使用せず、その後久しぶりに利用を開始した一のユーザが、30日以内に課金する確率(復帰後課金率)
【0040】
学習モデル記憶部23は、機械学習処理部22で生成された学習モデルを保管する。そして、予測処理部12の求めに応じて、予測データの算出に必要な学習モデルを予測処理部12に提供する。」

カ 「【0044】
アプリケーションプログラムがゲームの場合、予測データは、例えば、当該一のユーザが今後一定期間内に課金する確率(課金率)や、当該一のユーザが次に購入するアイテムがAである確率(アイテム毎の購入率)となる。」

キ 「【0050】
図4は、機械学習処理部22が実行する学習処理の一例を示すフローチャートである。
【0051】
ステップS20において、機械学習処理部22は、ログデータ、すなわち入出力ペアの教師データを取得する。
【0052】
取得したデータが機械学習の教師データに適していない状態であれば、不要なデータを削除したり、データを整理したりするなど、機械学習のための前処理をする必要がある。この前処理は、表計算ソフトのマクロ機能を用いるなどして自動的に処理することができる。教師データは膨大であるので、このような自動処理は作業の効率化に不可欠である。
【0053】
ステップS30において、機械学習処理部22は、取得した教師データを使用して、学習モデルを最適化(パラメータ調整又はチューニングともいう)する。具体的には、機械学習処理部22は、学習モデル記憶部23から学習モデルを読み出して、入出力ペアである教師データを入力することにより、学習モデルを再構築する。例えば、本発明において、ニューラルネットワークを利用したディープラーニングを使用する場合には、ニューラルネットワークを構成するノード間のパラメータが調整される。
【0054】
ステップS40において、機械学習処理部22は、未学習のログデータ(教師データ)があるか否かを判定する。未学習のログデータ(教師データ)がある場合(ステップS40でYES)、ステップS20の処理に移行する。これにより、学習モデルの学習が繰り返し行われることになり、予測データ算出の精度が向上する。一方、未学習のログデータ(教師データ)がない場合(ステップS40でNO)、ステップS50の処理に移行する。
【0055】
ステップS50において、機械学習処理部22は、学習が十分に行われたか否かを判定する。例えば、判定テストとして、機械学習処理部22は、教師データ(入力データと出力データのペア)をいくつか適当にピックアップして、入力データに対して学習モデルを実行することで、正しく出力データを予測できたかどうかを確認することが可能となる。この正答率が、あらかじめ設定した閾値以上である場合に十分な学習が行われたと判断する。学習が十分であると判断された場合(ステップS50でYES)、ステップS60の処理に移行する。一方、学習が十分でないと判断された場合(ステップS50でNO)、ステップS20以降の処理を繰り返す。
【0056】
ステップS60において、機械学習処理部22は、学習結果に基づいて、学習モデル記憶部23に保管されている学習モデルを更新する。」

ク 「【0057】
図5は、予測処理部12が実行する予測処理の一例を示すフローチャートである。
【0058】
ステップS102において、予測処理部12は、ログデータ取得部11から、一のユーザのログデータを取得する。
【0059】
ステップS103において、予測処理部12は、一のユーザのログデータを入力して、学習モデルを実行する。
【0060】
ステップS104において、予測処理部12は、学習モデルを実行した結果としての予測データを出力する。」


ケ 図4として、以下の図面が記載されている。


コ 図5として、以下の図面が記載されている。


5 当審の判断
(1)取消理由1について
ア 特許法第17条の2第3項は、明細書、特許請求の範囲又は図面について補正するときは、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならない旨規定している。上記にいう「当初明細書等に記載した事項」とは、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「当初明細書等に記載した事項」の範囲内においてするものということができると解するのが相当である(知的財産高等裁判所、平成18年(行ケ)第10563号、平成20年5月30日特別部判決参照)。
このため、平成31年4月23日付け手続補正書による補正、特に、請求項1に構成要件1B(「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と、」)を追加する補正、及び、請求項8及び12に構成要件8C及び構成要件12Cを追加する補正が、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、当該補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるかを検討する。

イ 当初明細書等には、構成要件1B、構成要件8C及び構成要件12Cの関連する記載として、以下の事項が記載されている。

(ア)機械学習処理部22における機械学習の入出力ペアの教師データには、ログデータ記憶部21に保管されたログデータを用い、ログデータ記憶部21に保管されたログデータはログデータ取得部11で取得したアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータであり、ユーザID、アプリケーションプログラムの利用開始日・利用終了日、利用頻度、ログイン日時・時間、アプリケーションプログラムの利用に際してどのような行動を起こしたか、アプリケーションプログラムを通じて商品等を購入した場合は購入額等の詳細に関するものなどが挙げられ、アプリケーションプログラムが電子商取引を扱うECサイトの場合は、ページの閲覧回数・時間、検索実行回数、検索キーワード、メルマガ開封、画像の閲覧回数、カートへの追加回数、カート追加までのページ遷移数、クーポン獲得数・失効数、お勧め商品タップ数・購入数、特集ページ閲覧数・購入数、決済手段登録数、決済手段登録までの遷移数、同一商品購入数、初購入商品、購入済み商品閲覧数などが挙げられ、アプリケーションプログラムがソーシャルネットワーキングサービス(いわゆるSNS)の場合は、送受信メッセージ数、送受信スタンプの種類(ポジティブなスタンプかネガティブなスタンプか)、受信メッセージの開封までの時間、一日当たりの送受信数、一日当たりの初送受信ユーザ数、もっともやり取りしてるユーザとの送受信数・期間、他人・自分の投稿へのリアクション数・コメント数、投稿数、リンク・広告のクリック数・戻るまでの経過時間などが挙げられ、アプリケーションプログラムがゲームの場合は、特に、ゲーム内での課金状況(課金日時、課金対象(アイテム・キャラクター等の購入、ゲーム内通貨の購入など)、課金額、課金の頻度など)、ゲームの利用状況(ゲームをダウンロードした日、ダウンロードしてからの経過日数、ログイン日時、ログイン時間、ゲームを最後に利用してからの経過日数など)、ゲーム内でのキャラクターの強化状況(キャラクターを強化した日時、回数、キャラクターの種類など)、ゲーム内でのアイテムの使用状況(所持するアイテムの種類、所持するアイテムの個数、アイテムの使用日時、アイテムの使用個数など)、ゲームの進行状況(ゲーム中で課される課題のクリア状況、課題への挑戦回数)、ゲーム内のユーザのステータス(プレイヤのレベル)などが挙げられること(上記4(2)エ)。

(イ)教師データとして、何を入出力ペアとして機械学習させるかは、何を予測するかで変わり得、例えば、予測データとして、アプリケーションプログラムをインストール後に3日間利用し続けてきた一のユーザが、今後7日間利用し続ける確率(7日間継続率)を算出したい場合は、教師データの入力データとして、アプリケーションプログラムをインストール後に3日間利用し続けてきたユーザの利用履歴を示すログデータを抽出したデータを使用し、ペアとする出力データとして、7日間継続したかどうかを使用することになること(上記4(2)オ)。

(ウ)機械学習処理部22は、ログデータ、すなわち入出力ペアの教師データを取得し、取得した教師データを使用して、学習モデルを最適化(パラメータ調整又はチューニングともいう)する。具体的には、機械学習処理部22は、学習モデル記憶部23から学習モデルを読み出して、入出力ペアである教師データを入力することにより、学習モデルを再構築する。例えば、ニューラルネットワークを利用したディープラーニングを使用する場合には、ニューラルネットワークを構成するノード間のパラメータが調整される。なお、取得したデータが機械学習の教師データに適していない状態であれば、不要なデータを削除したり、データを整理したりするなど、機械学習のための前処理をする必要があること(上記4(2)キ)。

ウ 構成要件1Bの「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる機械学習処理部」なる事項において、「分割」なる用語は「単数または複数のものをさらに細かく細分化すること。」(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)と解するのが一般的であることに鑑みると、機械学習処理部による「一のユーザの過去の前記ログデータ」の読み込みは、細かく細分化されずに行われること、又は、所定ではない(例えば、不定長の)期間ごとに細かく細分化されて行われることを特定していると解するのが妥当である。

エ しかしながら、当初明細書等には、「機械学習処理部」が「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込」むことは明記されていないとともに、上記イ(ア)?(ウ)を参酌しても、「機械学習処理部」がどのように読み込むか、或いは、「機械学習処理部」がログデータを細かく細分化せずに読み込むこと、又は、所定ではない(例えば、不定長の)期間ごとに細かく細分化して読み込むことが記載されているとは認められない。
そして、機械学習処理部における読み込みが「所定の期間ごとに分割することなく」行われるという事項(細かく細分化されずに行われること、又は、所定ではない(例えば、不定長の)期間ごとに細かく細分化されて行われること)は、本件特許出願当時に技術常識又は自明な事項であったとは認められない。
また、平成31年4月23日付け意見書には、「段落0051や図4から明らかなように、当該機械学習処理部によって機械学習される対象たるログデータは、「所定の期間ごとに分割」されていません。」と記載されているものの、上記摘記事項キ及びケを参酌しても、機械学習処理部によって機械学習される対象たるログデータは、「所定の期間ごとに分割」されているともいないとも記載されておらず、該記載がないことをもって「所定の期間ごとに分割」されていないことを示すとも認められない。
このため、請求項1に構成要件1Bを追加する補正は、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項ではなく、当該補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。

オ また、構成要件8C及び構成要件12Cは構成要件1Bと同様な技術事項を有する構成要件であるから、請求項8及び12に構成要件8C及び構成要件12Cを追加する補正は、請求項1に構成要件1Bを追加する補正と同様な理由により、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項ではなく、当該補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
さらに、請求項2?7は請求項1に従属し、請求項9?11は請求項8に従属していることから、本件発明2?7、9?11は、請求項1及び8に係る補正によって導かれる技術的事項との関係において、結果として、新たな技術的事項を導入されるものである。

カ よって、平成31年4月23日付けでした手続補正は願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないため、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第17条の2第3項を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2について
ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲ものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
そのため、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか否か、また、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か検討する。

イ 構成要件1B、構成要件8C及び構成要件12Cについて
(ア)上記(1)ウで示した理由により、「機械学習処理部」に係る「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで」との事項について、機械学習処理部による「一のユーザの過去の前記ログデータ」の読み込みが、細かく細分化されずに行われること、又は、所定ではない(例えば、不定長の)期間ごとに細かく細分化されて行われることを特定していると解するのが妥当である。

(イ)本件明細書等の発明の詳細な説明には、構成要件1B、構成要件8C及び構成要件12Cの関連する記載として、当初明細書等と同様に、上記(1)イに示した事項が記載されている。

(ウ)上記(イ)によると、本件明細書等の発明の詳細な説明には、「機械学習処理部」が「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込」むこと(細かく細分化されずに行われること、又は、所定ではない(例えば、不定長の)期間ごとに細かく細分化されて行われること)は記載されていないとともに、「機械学習処理部」がログデータをどのように読み込むかについても記載されているとは認められない。
そして、機械学習処理部における読み込みが「所定の期間ごとに分割することなく」行われるという事項(細かく細分化されずに行われること、又は、所定ではない(例えば、不定長の)期間ごとに細かく細分化されて行われること)が本件特許出願当時に技術常識又は自明な事項であったとは認められない。
このため、構成要件1B、構成要件8C及び構成要件12Cは、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
また、請求項2?7は請求項1に従属し、請求項9?11は請求項8に従属していることから、請求項1又は請求項8と同様な不備を内在する。

(エ)よって、本件の請求項1?12に係る発明は本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

ウ 「一のユーザ」及び「ログデータ」について
(ア)本件発明1では、構成要件1Aにおいて、「ログデータ取得部」は「
一のユーザによるアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得する」ことが特定され、構成要件1Bにおいて、「機械学習処理部」は「一のユーザの過去の前記ログデータを」「読み込んで機械学習させる」ことが特定され、構成要件1Cにおいて、「予測処理部」は「前記ログデータを解析すること」及び「前記一のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果」「を計算する」ことが特定されている。
そして、構成要件1Bの「前記ログデータ」は構成要件1Aの「ログデータ」を示すから、構成要件1Aの「一のユーザ」と構成要件1Bの「一のユーザ」とは同一ユーザであるとともに、構成要件1Cの「前記一のユーザ」は構成要件1Aの「一のユーザ」又は構成要件1Bの「一のユーザ」であるから、構成要件1Aの「一のユーザ」と構成要件1Bの「一のユーザ」と構成要件1Cの「前記ユーザ」はすべて同一ユーザであると解される。
してみると、構成要件1Bにおいて「機械学習予測部」が読み込む「ログデータ」と構成要件1Cの「予測処理部」が解析する「前記ログデータ」はいずれも「一のユーザ」すなわち同一ユーザの「ログデータ」であると解される。

(イ)本件明細書等の詳細な説明には、「発明が解決しようとする課題」として、
「膨大なログデータを利用して機械学習により学習モデルを生成し、その学習モデルを特定のユーザに適用することで、(複数ユーザ単位ではなく)特定の一のユーザが、アプリケーションプログラム内において将来どのような行動をとるかを高精度で予測すること」及び「予測された確率に基づいて、当該特定の一のユーザに対して適切な広告を選択する情報処理装置を提供する」こと(上記4(2)イ)
が記載されている。

(ウ)しかしながら、上記(ア)のとおり、本件発明1は「機械学習予測部」が読み込む「ログデータ」と「予測処理部」が解析する「前記ログデータ」はいずれも「一のユーザ」すなわち同一ユーザの「ログデータ」である、すなわち、将来の行動を予測するユーザ本人の過去のログデータを利用して機械学習により学習モデルを生成しているにすぎず、膨大なログデータを利用して機械学習により学習モデルを生成しているわけではないことから、出願時の技術常識に照らして、アプリケーションプログラム内において将来どのような行動をとるかを高精度に予測できるとは認められない。
してみると、本件発明1が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものではないとともに、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲ものであるとは認められない。
また、本件発明8は本件発明1を方法発明としてものであり、本件発明12は本件発明1をプログラムのカテゴリーの発明としたものであって、実質、同様な技術事項を含む発明であるから、同様な理由により、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものではないとともに、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲ものであるとは認められない。
また、請求項2?7は請求項1に従属し、請求項9?11は請求項8に従属していることから、請求項1又は請求項8と同様な不備を内在する

(エ)よって、本件の請求項1?12に係る発明は本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

エ 小括
以上のとおり、本件の請求項1?12に係る発明は本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものではないため、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3について
ア 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そのため、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否か検討する。

イ 請求項1に係る発明の「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる機械学習処理部」とは、上記「取消理由1(新規事項)」のウで示した理由により、「機械学習処理部」に係る「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで」との事項について、機械学習処理部による「一のユーザの過去の前記ログデータ」の読み込みが、細かく細分化されずに行われる、又は、所定ではない(例えば、不定長の)期間ごとに細かく細分化されて行われることを特定していると解するのが妥当である。

ウ また、被請求人は、平成31年4月23日付け意見書において、
「(5-3)相違点2
また、本願第1発明と引例1とは、本願第1発明が「一のユーザの過去のログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる機械学習処理部」を有するのに対して、引例1が1つの事象発生に対して複数の分割情報を対応付けて学習処理を行う点で相違します。
(中略)
(5-4)本願第1発明が引例1等から容易想到ではないこと
本意見書と同時に提出しました手続補正書によって、上記の通り、相違点2が新たに生じております。すなわち、引例1に引例2、3の技術を組み合わせても本願第1発明の構成とはならない(相違点2が埋まらない)ことが明確になりました。
本願第1発明は、引例1のように「1つの事象発生に対して複数の分割情報を対応付けて学習処理を行う」ことをしておりません。本願第1発明は、機械学習処理部が、「一のユーザの過去のログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる」点に特徴があります。
この点、仮に過去のログデータを所定の期間ごとに分割しない処理が一般的であったとしても、所定の期間ごとに分割することは、引例1の発明の効果を奏するまさに技術ポイント(「この場合、複数の分割情報の1つ1つに対して事象の発生有無を対応付けて学習処理を行うことも考えられるが、コンバージョンのタイミングとユーザがコンバージョンに至ることの意思決定を行ったタイミングとが異なっていた場合、ユーザの行動を予測するための学習情報を適切に導出できない。」(明細書段落0022)であり、引例1に触れた当業者において発明のポイントである当該処理をしないことは容易には想到しえないといえます。すなわち、引例1において当該処理をしないことは、阻害要因が存在することに加えて、内容中の示唆もなく、このような状況において当業者が退歩的発明を採用することは容易とはいえません。
さらに、引例1の請求項1は、「コンピュータネットワーク上における所定の対象に関する同一の要素が分割された複数の分割情報と、前記対象において所定の事象が発生するか否かを示す発生有無とが対応付けられた対応情報を取得する」という構成を含んでいます。すなわち、当業者は、引例1において、1つの事象発生に対して複数の分割情報を対応付けて学習処理を行うことは必須であると理解し、その結果、引例1から、この構成を除くことを考えません。この点からも、引例1に基づく限り、相違点2は埋まりません。」
と主張している。

エ 上記ウに摘記した被請求人の主張に鑑みると、「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる機械学習処理部」との事項は本件の請求項1に係る発明の特徴であると認められる。
しかし、上記(1)及び(2)で検討したとおり、該事項は機械学習処理部による「一のユーザの過去の前記ログデータ」の読み込みが、細かく細分化されずに行われる、又は、所定ではない(例えば、不定長の)期間ごとに細かく細分化されて行われることという複数の解釈可能であるとともに、当初明細書等或いは本件明細書等の発明の詳細な説明にも記載されておらず、当該明細書等を参照することもできない。
このように、該事項が複数の解釈が可能で、かつ、明細書等を参照することができないようであれば、発明の特徴が不明確となって、第三者の利益が不当に害されるものと認められる。
また、請求項8及び12にも同様な内容を示す記載があることから請求項1に係る発明と同様な不備があるとともに、請求項2?7に係る発明は請求項1を引用し、請求項9?11に係る発明は請求項8を引用していることから、請求項1に係る発明と同様な不備を内在する。

オ よって、本件の請求項1?12に係る発明は第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるため、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(4)取消理由4について
ア 本件発明
上記(2)及び(3)で検討したように、本件発明は本件明細書等の発明の詳細な説明に記載された発明ではないとともに、本件発明の構成要件が不明確な発明である。
このため、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載に基づいて認定した以下の各構成要件を前提として、本件発明の進歩性の検討を行う。
なお、以下で認定しない構成要件については、請求項の記載のとおりとする。

(ア)「構成要件1A」(「一のユーザによるアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得するログデータ取得部と」)、「構成要件8B」及び「構成要件12B」について
上記4(2)アの摘記事項から、従来技術における取得するログデータは「複数ユーザ単位」であること、及び、上記4(2)オの摘記事項から、本件発明の一実施の形態における教師データ、すなわち、取得するログデータは、「アプリケーションプログラムをインストール後に3日間利用し続けてきた一のユーザが、今後7日間利用し続ける確率(7日間継続率)を算出したい場合は、教師データの入力データとして、アプリケーションプログラムをインストール後に3日間利用し続けてきたユーザの利用履歴を示すログデータ」であることを総合すると、「一のユーザによる」は「個別ユーザ毎に」を意味し、構成要件1Aは「個別ユーザ毎にアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得するログデータ取得部と」(以下、「構成要件1A’」という。)と解するのが妥当である。
また、「構成要件8B」及び「構成要件12B」も同様に解するのが妥当である(以下、「構成要件8B’」及び「構成要件12B’」という。)。

(イ)「構成要件1B」(「一のユーザの過去の前記ログデータを、所定の期間ごとに分割することなく、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と」)、「構成要件8C」及び「構成要件12C」について
「一のユーザの」は、上記(ア)と同様な理由により、「個別ユーザ毎の」と意味すると解される。
また、本件発明の一実施の形態における教師データ、すなわち、取得するログデータは、「アプリケーションプログラムをインストール後に3日間利用し続けてきた一のユーザが、今後7日間利用し続ける確率(7日間継続率)を算出したい場合は、教師データの入力データとして、アプリケーションプログラムをインストール後に3日間利用し続けてきたユーザの利用履歴を示すログデータ」であること(上記4(2)オの摘記事項)、「機械学習処理部22は、ログデータ、すなわち入出力ペアの教師データを取得する」こと(上記4(2)キの摘記事項)、及び、「予測処理部12は、ログデータ取得部11から、一のユーザのログデータを取得する」こと(上記4(2)クの摘記事項)を総合すると、「所定の期間ごとに分割することなく」は、入力であるログデータが出力である予測データとペアとなる(例えば、「アプリケーションプログラムをインストール後に3日間利用し続けてきた一のユーザが、今後7日間利用し続ける確率(7日間継続率)を算出したい場合」は、「アプリケーションプログラムをインストール後に3日間利用し続けてきた」ユーザのログデータがペアとなる)ようにして、すなわち、「入出力ペアとして」を意味すると解される。
さらに、上記摘記事項によれば、機械学習処理部が機械学習させるために読み込むログデータは教師データであることから、ログデータ取得部が取得するログデータの内の過去のログデータであると解される。
してみると、「構成要件1B」は「個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と」(以下、「構成要件1B’」という。)と解するのが妥当である。
また、「構成要件8C」及び「構成要件12C」も同様に解するのが妥当である(以下、「構成要件8C’」及び「構成要件12C’」という。)。

(ウ)「構成要件1C」(「前記機械学習処理部によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータを解析することにより、前記一のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する予測処理部と」)、「構成要件8D」及び「構成要件12D」について
本件発明の目的は(複数のユーザ単位ではなく)特定の一のユーザの将来の行動を高精度に予測することであること(上記4(2)イの摘記事項)、本件発明の効果は「アプリケーションプログラム内において、特定のユーザが、将来どのような行動をとるかを高精度で予測する情報処理装置等を提供」することであること(上記4(2)ウの摘記事項)、本件発明の一実施の形態における予測メニューの対象の「一のユーザ」は、「アプリケーションプログラムをインストールした一のユーザ」、「アプリケーションプログラムを一定期間使用せず、その後久しぶりに利用を開始した一のユーザ」、「アプリケーションプログラムを現に利用している一のユーザ」或いは「アプリケーションプログラムを現に課金している一のユーザ」であること(上記4(2)オの摘記事項)、及び、本件発明における予測処理部12が実行する予測処理の一例は、「一のユーザのログデータを入力して、学習モデルを実行」していること(上記4(2)クの摘記事項)を総合すると、「前記一のユーザ」は、「特定のユーザ」を意味すると解される。
また、上記摘記事項によれば、解析する「前記ログデータ」は予測対象である「特定のユーザ」のログデータであることと解される。
してみると、「構成要件1C」は「前記機械学習処理部によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータの内の特定のユーザのログデータを解析することにより、特定のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する予測処理部と」(以下、「構成要件1C’」という。)と解するのが妥当である。
また、「構成要件8D」及び「構成要件12D」も同様に解するのが妥当である(以下、「構成要件8D’」及び「構成要件12D’」という。)。

(エ)「構成要件4A」(「前記予測結果が、前記一のユーザの課金率、ゲーム継続率、ゲーム離脱率であること」)、及び「構成要件11A」について
上記(ウ)と同様な理由により、「前記一のユーザ」は「前記特定のユーザ」の意味するものと解される。
また、上記4(2)エの摘記事項である「アプリケーションプログラムがゲームの場合は、予測データとしては、特に、当該一のユーザが、今後一定期間内に課金する確率(課金率)、今後継続的にプレイする確率(ゲーム継続率)、今後ゲームのプレイをやめてしまう確率(ゲーム離脱率)が重要である。」との記載に鑑みると、予測データとしての課金率、ゲーム継続率及びゲーム離脱率のそれぞれは独立したデータであって、それらのデータの全てを予測データとすることを必須とするものであるとは認められない。
このため、「構成要件4A」は「前記予測結果が、前記特定のユーザの課金率、ゲーム継続率、又は、ゲーム離脱率であること」(以下、「構成要件4A’」という。)と解するのが妥当である。
また、「構成要件11A」も同様に解するのが妥当である(以下、「構成要件11A’」という。)。

(オ)「前記記憶部に記憶された前記予測データを用いて前記一のユーザに対する広告を選択するマーケティング処理部と」(5B)について
上記(ウ)と同様な理由により、「前記一のユーザ」は「前記特定のユーザ」の意味するものと解される。
このため、「構成要件5B」は「前記記憶部に記憶された前記予測データを用いて前記特定のユーザに対する広告を選択するマーケティング処理部と」(以下、「構成要件5B’」という。)と解するのが妥当である。

(カ)「前記出力部から出力された複数の前記一のユーザに関する前記予測データを記憶する記憶部と」(6A)及び「前記記憶部に記憶された複数の前記予測データを用いて対象となる広告を出すべき前記一のユーザを、閾値を設定することにより選定するマーケティング処理部と」(6B)について
上記(ウ)と同様な理由により、「前記一のユーザ」は「前記特定のユーザ」の意味するものと解される。
このため、「構成要件6A」は「前記出力部から出力された複数の前記特定のユーザに関する前記予測データを記憶する記憶部と」(以下、「構成要件6A’」という。)、及び、「構成要件6B」は「前記記憶部に記憶された複数の前記予測データを用いて対象となる広告を出すべき前記特定のユーザを、閾値を設定することにより選定するマーケティング処理部と」(以下、「構成要件6B’」という。)と解するのが妥当である。

(キ)「前記予測データを用いて前記一のユーザに対する広告を選択するマーケティング処理部と」(7B)について
上記(ウ)と同様な理由により、「前記一のユーザ」は「前記特定のユーザ」の意味するものと解される。
このため、「構成要件7B」は「記予測データを用いて前記特定のユーザに対する広告を選択するマーケティング処理部と」(以下、「構成要件7B’」という。)と解するのが妥当である。

(ク)進歩性を検討する本件発明について
本件発明の構成要件は上記(ア)?(キ)のとおりに認定されることから、本件における各発明は以下のとおりとなる(以下、「本件発明1’」、「本件発明2’」・・・という。)。

【本件発明1’】
1A’ 個別ユーザ毎にアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得するログデータ取得部と、
1B’ 個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と、
1C’ 前記機械学習処理部によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータの内の特定のユーザのログデータを解析することにより、特定のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する予測処理部と、
1D 前記予測処理部が生成した前記予測データを出力する出力部と、
1E を備える情報処理装置。

【本件発明2’】
2A 前記機械学習が、ニューラルネットワークを利用したディープラーニングであること
2B を特徴とする請求項1記載の情報処理装置。

【本件発明3’】
3A 前記アプリケーションプログラムがゲームである
3B 請求項1又は2記載の情報処理装置。

【本件発明4’】
4A’ 前記予測結果が、前記特定のユーザの課金率、ゲーム継続率、又は、ゲーム離脱率であること
4B を特徴とする請求項3記載の情報処理装置。

【本件発明5’】
5A 前記出力部から出力された前記予測データを記憶する記憶部と、
5B’ 前記記憶部に記憶された前記予測データを用いて前記特定のユーザに対する広告を選択するマーケティング処理部と、
5C を備えることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の情報処理装置。

【本件発明6’】
6A’ 前記出力部から出力された複数の前記特定のユーザに関する前記予測データを記憶する記憶部と、
6B’ 前記記憶部に記憶された複数の前記予測データを用いて対象となる広告を出すべき前記特定のユーザを、閾値を設定することにより選定するマーケティング処理部と、
6C を備えることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の情報処理装置。

【本件発明7’】
7A 請求項1?6のいずれか一項に記載の情報処理装置によって生成された前記予測データを取得する予測データ取得部と、
7B’ 前記予測データを用いて前記特定のユーザに対する広告を選択するマーケティング処理部と、
7C を備えるマーケティング情報処理装置。

【本件発明8’】
8A コンピュータが行う情報処理方法であって、
8B’ 個別ユーザ毎にアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得する第1工程と、
8C’ 個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる第2工程と、
8D’ 前記第2工程によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータの内の特定のユーザのログデータを解析することにより、前記特定のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する第3工程と、
8E 前記第3工程で計算された前記予測データを出力する第4工程と、
8F を備える情報処理方法。

【本件発明9’】
9A 前記機械学習が、ニューラルネットワークを利用したディープラーニングであること
9B を特徴とする請求項8記載の情報処理方法。

【本件発明10’】
10A 前記アプリケーションプログラムがゲームである
10B 請求項8又は9記載の情報処理方法。

【本件発明11’】
11A’ 前記予測結果が、前記特定のユーザの課金率、ゲーム継続率、又は、ゲーム離脱率であること
11B を特徴とする請求項10記載の情報処理方法。

【本件発明12’】
12A コンピュータに、
12B’ 個別ユーザ毎にアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得する第1処理と、
12C’ 個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる第2処理と、
12D’ 前記第2処理によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータの内の特定のユーザのログデータを解析することにより、前記特定のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する第3処理と、
12E 前記第3処理で計算された前記予測データを出力する第4処理と、
12F を実行させることを特徴とするプログラム。

イ 引用文献
(ア)甲第1号証(特開2017-176690号公報)
a 甲第1号証の記載事項
甲第1号証(以下、「甲1」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、下線は異議申立人が付与した。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲームの実行に当たりユーザ端末が通信接続する当該ゲームのサーバシステムに関する。」

「【0019】
第6の発明は、前記課金確率に応じて、前記対象プレーヤの前記ユーザ端末での広告表示の表示頻度を制御する広告表示制御手段(例えば、図1の制御基板1150、図3の広告表示8、図6のサーバ処理部200s、広告表示制御部212、図15のステップS56)、を更に備えた第1?第5の何れかの発明のサーバシステムである。
【0020】
第6の発明によれば、課金確率に応じて広告表示の標示頻度をプレーヤの課金確率に応じて制御することができる。」

「【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明を適用した実施形態として、プレーヤがアイテム購入等の課金行為ができるオンラインゲームを例に挙げて説明する。なお、課金行為の決済は、ゲーム内通貨、現実世界の通貨、仮想通貨の何れでも構わないが、以降では仮想通貨による決済として説明する。」

「【0049】
さて、サーバシステム1100は、プレーヤ2(2A、2B、…)がログインしてからログアウトするまでの行動を記録した行動履歴データ700を作成し保存する。
行動履歴データ700には、1)ログイン及びログアウトに関する主に日時や回数に関するログイン履歴データ710と、2)ログイン後にゲームプレイした場合のプレイ履歴データ730と、3)ログイン後のゲームプレイを伴わないゲーム外でのアイテム購入や、ゲームプレイ中のアイテム購入など課金行為毎に作成される課金履歴データ750と、が含まれる。
【0050】
そして、サーバシステム1100は、保存された行動履歴データ700等に基づいて、所定周期(例えば、1日1回)で「課金確率導出関数」を算出・設定更新する。なお、課金確率導出関数の算出には、最低限のデータ量が必要となるため、所与の学習サンプル条件を満たさない間は、課金確率導出関数は算出されない。
【0051】
学習サンプル条件とは、課金確率導出関数を統計的学習やニューラルネットを用いた機械学習、回帰分析などにより求めるために、統計的に有意なサンプル量が蓄積されたことを判断するための条件を言う。例えば、登録ユーザ数や、ゲームタイトルのリリースからの経過日数、保存されている総数、所定期間当たり(例えば、1日、1週間、1ヶ月など)に新たに保存された数、などを適宜設定する。本実施形態では、一例として、登録ユーザ数1000以上、経過日数90日以上、課金者100人以上、とするが、他の条件としてもよい。
【0052】
課金確率導出関数とは、当該プレーヤの行動履歴データ700に含まれる所与のパラメータ値を入力変数として、所与の日時条件におけるプレーヤ2が課金行為をする確率を導出するための関数である。ここで言う「日時条件」は、1日、午前・午後・深夜・早朝などの時間帯、15:00?17:00といった具体的な時間帯、平日・休日・正月などの特定の月日などを言う。本実施形態では、日時条件を「1日」とし、当日中に課金行為をする確率を導出することとする。
【0053】
サーバシステム1100は、あるプレーヤ2Bがログインすると、当該プレーヤの行動履歴データ700に基づいて、最新の課金確率導出関数から、「0」?「1.0(100%の意)」の範囲で当該プレーヤの課金確率Pを算出する。そして、課金確率Pに応じた広告・課金オファー・特典提供オファーの提示パターンである「オファーパターン」を選択して適用する。」

「【0070】
課金確率推定部206は、多数のプレーヤのログイン、ゲームプレイおよび課金行為を少なくとも含む当該ゲームに係る行動の履歴を収集して、所与の対象プレーヤが課金行為を行う可能性、すなわち本実施形態における「課金確率」を推定する。具体的には所与の周期(本実施形態では、1日毎)で、課金確率導出関数を求めてサーバ記憶部500sに記憶する。
【0071】
課金確率変移記憶制御部208は、課金確率推定部206により対象プレーヤについて推定された課金確率の変移(課金確率の時間経過のことで、推移ともいえる)を記憶する制御を行う。」

「【0075】
広告表示制御部212は、課金確率に応じて、対象プレーヤのユーザ端末1500での広告表示の表示頻度を制御する。具体的には、課金確率が高いことを示す所定の高確率条件を満たす場合には、広告表示を表示させない、或いは、表示頻度を所定の低頻度とする。対して、課金確率が低いことを示す所定の低確率条件を満たす場合には広告表示に限定して表示させるように制御する。その中間では、課金確率に応じて課金確率が高まるにつれて表示頻度を下げるように変更する。」

「【0088】
そして、本実施形態におけるサーバ記憶部500sは、サーバシステムプログラム501と、サーバプログラム503と、配信用ゲームクライアントプログラム505と、ゲーム初期設定データ510と、イベント定義データ520と、広告ライブラリ530と、課金オファーライブラリ532と、特典提供オファーライブラリ534と、オファーパターン定義データ540と、を予め記憶する。
【0089】
また、ユーザ登録やゲーム進行など各種状況に応じて生成・管理されるデータとして、本実施形態のゲームの提供が開始された日を示すタイトルリリース日590と、ユーザ管理データ600と、プレイデータ800と、課金確率導出関数810と、現在日時812と、を記憶する。その他、タイマや、カウンタ、各種フラグなどの情報を適宜記憶できる。」

「【0105】
図6に戻って、ユーザ管理データ600は、登録ユーザすなわちプレーヤ毎に用意され、ユーザ固有の識別情報(プレーヤアカウント;ユーザID)と紐付けられる各種データを格納する。
本実施形態では、図9に示すように、一つのユーザ管理データ600には、プレーヤアカウント601と、アカウント登録日時602と、仮想口座残高606と、フレンドリスト608と、ゲームセーブデータ610と、行動履歴データ700と、課金確率変移履歴780と、が含まれる。勿論、これら以外のデータも適宜含めることができる。」

「【0114】
課金確率導出関数810は、所定周期で全ての行動履歴データ700を学習サンプルとした統計的学習により更新される。」

「【0136】
もし、学習サンプル条件が満たされていれば(ステップS2のYES)、サーバシステム1100は、既に記憶されている行動履歴データ700を学習サンプルとして統計的学習を実行して(ステップS6)、課金確率導出関数810を設定する(ステップS8)。すなわち、過去の様々なプレーヤのログイン履歴データ710やプレイ履歴データ730、アカウント登録日時からの経過時間702が、どのようなデータであれば課金行動を取るのか、課金行動を取る可能性、すなわち課金確率を導出する関数(課金確率導出関数810)を、統計的学習手法に基づいて求める。課金確率導出関数810の変数は、ログイン履歴データ710、プレイ履歴データ730、及び経過時間702となる。あるプレーヤについての課金確率を求める場合には、当該プレーヤのログイン履歴データ710やプレイ履歴データ730等を課金確率導出関数810に代入することで、当該プレーヤの課金確率が求まる。課金確率導出関数810を求めるための統計的学習手法自体は公知の技術を採用することができる。」

「【0146】
そして、サーバシステム1100は、プレーヤのユーザ管理データ600の行動履歴データ700に含まれる所定パラメータ値の一部又は全部を正規化する等して、単位を課金確率導出関数810の変数に適合させる変換をした後に課金確率導出関数810に入力して、当該プレーヤの当日の課金確率803を算出し(ステップS32)、算出した課金確率803を当該プレーヤの課金確率変移履歴780(図9参照)に追加登録して更新する(ステップS34)。」

図6には、以下の図面が記載されている。


図13には、以下の図面が記載されている。


b 甲1発明
上記aの記載事項から、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

(1a)プレーヤによるアイテム購入等の課金行為ができるオンラインゲームの、プレーヤ(2A、2B、・・・)がログインしてからログアウトするまでの行動を記録した行動履歴データを作成し保存する手段と(【0032】、【0049】)、
(1b)全ての行動履歴データを学習サンプルとした統計的学習や機械学習をさせる手段と(【0050】、【0051】、【0114】、【0136】、【図13】)、
(1c)統計的学習やニューラルネットワークを用いた機械学習などにより求める課金確率導出関数は、プレーヤの行動履歴データに含まれる所与のパラメータ値を入力変数として、所与の日時条件におけるプレーヤが課金行為をする確率を導出するための関数であり、最新の課金確率導出関数から、1日、午前・午後・深夜・早朝などの時間帯におけるプレーヤの課金確率を算出する課金確率推定部と(【0051】?【0053】、【0070】)、
(1d)算出した課金確率をサーバ記憶部における当該プレーヤの課金確率変移履歴に追加登録して更新する課金確率変移記憶制御部と(【0071】、【0088】、【0089】、【0146】、【図6】)、
(1e)前記課金確率変移記憶制御部から出力された対象プレーヤの課金確率を記憶するサーバ記憶部と(【0071】、【0088】、【0089】、【0105】、【0146】、【図6】、【図9】)、
(1f)前記課金確率に応じて、対象プレーヤの前記ユーザ端末で広告表示の表示頻度を制御する広告表示制御部であって、課金確率が高いことを示す所定の高確率条件を満たす場合には、広告表示を表示させない広告表示制御部と(【0019】、【0020】、【0075】)、
(1g)を備えるサーバシステム(【0010】)。

(イ)甲第3号証(特開2018-45316号公報)
a 甲第3号証の記載事項
甲第3号証(以下、「甲3」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、販売促進情報提供システム及び販売促進情報提供プログラムに関する。」

「【0024】
学習処理装置14は、企画サーバ13から提供される企画データベース131のデータと、パラメータサーバ12から提供される各パラメータデータベース121?125のデータとを学習データとして、販売促進企画の評価に用いるパラメータを得るための学習を行う。学習のアルゴリズムは、ニューラルネットワークを多層化したディープラーニング(深層学習)の技術を利用する。すなわち学習処理装置14は、ディープラーニングによる機械学習を行うことで、各学習データが持つ特徴量を抽出する。」

「【0062】
特に、機械学習のアルゴリズムとしてディープラーニングの技術を利用している。したがって、これまで認識できなかった抽象的な学習データの特徴量からも販売促進企画の評価に用いるパラメータを得、そのパラメータを基に効率的に販売促進企画を立案できるようになる。」

「【0065】
また前記実施形態では、学習処理装置14において実行される学習のアルゴリズムとしてディープラーニングの技術を利用した。しかし、ディープラーニング以外の機械学習の技術を利用して販売促進企画の評価に用いるパラメータを得るための学習を行ってもよい。例えば、重回帰分析、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク等の既知の機械学習の技術を利用して学習データから販売促進企画の評価に用いるパラメータを得てもよい。」

b 甲3記載事項
上記aの記載事項から、甲3には、
「機械学習のアルゴリズムとしてディープラーニングの技術を利用すること」(【0024】、【0062】、【0065】)
が記載されている(以下、「甲3記載事項」という。)。

(ウ)甲第4号証(特開2018-124673号公報)
a 甲第4号証の記載事項
甲第4号証(以下、「甲4」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム、情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。」

「【0092】
学習部337は、行動履歴データと実績情報とを参照し、多数のユーザのウェブサイト上の行動履歴と、各ユーザの実際の行動(行動実績)との対応関係を示すデータを教示データとした機械学習を行う。具体的には、行動履歴が示す行動の各々について、行動履歴から演算される行動推定用パラメータの値と実績に対応する値とを示すデータを教示データとする。これにより、とレシピの閲覧に関連した行動履歴と、そのレシピに基づく調理行動を行うか否かとの関係が機械学習される。機械学習には、例えばニューラルネットワーク(ディープラーニング)、サポートベクターマシン等の任意のアルゴリズムを用いてよい。以下では、一例として、機械学習により、確率モデルを生成する場合について説明する。この場合、学習部337は、機械学習により確率モデルを生成する。学習部337は、確率モデルを示す行動推定データを、行動推定データ記憶部329へ出力する。」

b 甲4記載事項
上記aの記載事項から、甲4には、
「機械学習には、ディープラーニングを用いてよいこと」(【0092】)
が記載されている(以下、「甲4記載事項」という。)。

ウ 本件発明の検討
(ア)本件発明1’について
a 本件発明1’と甲1発明との対比
(a)構成要件1A’について
甲1発明は、構成要件1aとして、「プレーヤによるアイテム購入等の課金行為ができるオンラインゲームの、プレーヤ(2A、2B、・・・)がログインしてからログアウトするまでの行動を記録した行動履歴データを作成し保存する手段と」を備えている。
ここで、「オンラインゲーム」はユーザ端末においてアプリケーションプログラムを用いて実行・表示されることが、常套的に行われている事項である。
また、構成要件1aの「プレーヤ(2A、2B、・・・)がログインしてからログアウトするまでの行動を記録した行動履歴データ」は、個別ユーザ毎の利用履歴を示すログデータであるといえる。
したがって、上記構成要件1aは、本件発明1’の「個別ユーザ毎にアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得するログデータ取得部と」に相当する。

(b)構成要件1B’について
甲1発明は、構成要件1bとして、「全ての行動履歴データを学習サンプルとした統計的学習や機械学習をさせる手段と」を備えている。
ここで、「行動履歴データ」は個別ユーザ毎の利用履歴を示すログデータである。
また、正解データとペアとなる十分な数のデータを学習サンプル(すなわち、教師データ)として読み込んだ上で機械学習することは機械学習の技術分野では技術常識であるから、甲1発明において、「全ての行動履歴データ」を、入出力ペアとして、読み込んで統計的学習や機械学習をさせているといえる。
したがって、上記構成要件1bは、本件発明1’の「個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と」に相当する。

(c)構成要件1C’について
甲1発明は、構成要件1cとして、「統計的学習やニューラルネットワークを用いた機械学習などにより求める課金確率導出関数は、プレーヤの行動履歴データに含まれる所与のパラメータ値を入力変数として、所与の日時条件におけるプレーヤが課金行為をする確率を導出するための確率であり、最新の課金確率導出関数から、1日、午前・午後・深夜・早朝などの時間帯におけるプレーヤの課金確率を算出する課金確率推定部と」を備えている。
ここで、「課金確率導出関数」は「機械学習処理部によって生成される学習モデル」であり、「プレーヤが課金行為をする確率」は「特定のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果」であるとともに、「課金確率導出関数から、1日、午前・午後・深夜・早朝などの時間帯におけるプレーヤの課金確率を算出する」ということは、「一定期間内の予測データを計算する」ことである。
したがって、甲1発明では「一定期間」が示す期間が「7日間以上」ではないものの、この点を除き、上記構成要件1cは、本件発明1’の「前記機械学習処理部によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータの内の特定のユーザのログデータを解析することにより、特定のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である7日間以上の一定期間内の予測データを計算する予測処理部と」に相当する。

(d)構成要件1Dについて
甲1発明は、構成要件1dとして、「算出した課金確率をサーバ記憶部における当該プレーヤの課金確率変移履歴に追加登録して更新する課金確率変移記憶制御部と」を備えている。
ここで、「サーバ機億部における当該プレーヤの課金確率変移履歴に追加登録して更新する」することは「予測データを出力する」ことに他ならない。
したがって、上記構成要件1dは、本件発明1’の「前記予測処理部が生成した前記予測データを出力する出力部と」に相当する。

(e)構成要件1Eについて
甲1発明は、構成要件1gとして、「を備えるサーバシステム」を備えている。
そして、「サーバシステム」は「情報処理装置」に他ならない。
したがって、上記構成要件1gは、本件発明1’の「を備える情報処理装置」に相当する。

b 一致点及び相違点
(a)一致点
個別ユーザ毎にアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得するログデータ取得部と、
個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる機械学習処理部と、
前記機械学習処理部によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータの内の特定のユーザのログデータを解析することにより、特定のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である一定期間内の予測データを計算する予測処理部と、
前記予測処理部が生成した前記予測データを出力する出力部と、
を備える情報処理装置。

(b)相違点
本件発明1’における、予測処理部が計算する「一定期間内の予測データ」の「一定期間」が「7日間以上」であるのに対して、甲1発明は「1日、午前・午後・深夜・早朝など」であって、「7日間以上」ではない点(以下、「相違点1」という。)。

c 相違点1について
予測処理部により計算する「予測データ」を如何なるデータとするかは、該情報処理装置を使用するユーザが必要に応じて適宜選択し得る事項であるから、甲1発明において、予測処理部が計算する「一定期間内の予測データ」の「一定期間」を「1日、午前・午後・深夜・早朝など」を「7日以上」とすることは、当業者が容易になし得る事項である。
そして、該「一定期間」を「7日以上」としたことにより、格別な作用・効果を奏するとは認められない。

d 小括
以上のとおり、本件発明1’は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(イ)本件発明2’について
a 本件発明2’と甲1発明との対比
甲1発明は、構成要件1cとして、「統計的学習やニューラルネットワークを用いた機械学習などにより求める課金確率導出関数は、プレーヤの行動履歴データに含まれる所与のパラメータ値を入力変数として、所与の日時条件におけるプレーヤが課金行為をする確率を導出するための確率であり、最新の課金確率導出関数から、1日、午前・午後・深夜・早朝などの時間帯におけるプレーヤの課金確率を算出する課金確率推定部と」を備えており、甲1発明の機械学習はニューラルネットワークを利用したものである。
してみると、甲1発明では機械学習が「ディープラーニング」であるとの特定がないものの、この点を除き、上記構成要件1cは、「前記機械学習が、ニューラルネットワークを利用したこと」を含んでいる。

b 一致点及び相違点、並びに、相違点の検討
(a)一致点
本件発明2’と甲1発明とを対比すると、上記(ア)b(a)で検討した一致点に加え、
「前記機械学習がニューラルネットワークを利用したこと」
で一致する。

(b)相違点
上記(ア)b(b)で検討した相違点1に加え、以下の点で相違する。
本件発明2’における機械学習は「ニューラルネットワークを利用したディープラーニングである」のに対して、甲1発明の機械学習はニューラルネットワークを利用したものであるものの、「ディープランニング」であることは明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

c 相違点の検討
(a)相違点1について
相違点1については、上記(ア)cで検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。

(b)相違点2について
甲3には、「機械学習のアルゴリズムとしてディープラーニングの技術を利用すること」(甲3記載事項)が記載され、また、甲4には、「機械学習には、ディープラーニングを用いてよいこと」(甲4記載事項)が記載されており、これらの記載事項からみて、機械学習として「ディープラーニング」を利用することは周知な事項であると認められる。
したがって、甲1発明における機械学習を周知な機械学習であるディープラーニングとすることは、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。

d 小括
以上のとおり、本件発明2’は、甲1発明並びに甲3記載事項及び甲4記載事項からなる周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(ウ)本件発明3’について
a 本件発明3’と甲1発明との対比
甲1発明は、構成要件1aとして、「プレーヤによるアイテム購入等の課金行為ができるオンラインゲームの、プレーヤ(2A、2B、・・・)がログインしてからログアウトするまでの行動を記録した行動履歴データを作成し保存する手段と」を備えている。
ここで、「オンラインゲーム」はユーザ端末においてアプリケーションプログラムを利用して行うことが、常套的に行われている事項であることから、甲1発明の「アプリケーションプログラム」はゲームであるといえる。
してみると、上記構成要件1aは、「前記アプリケーションプログラムがゲームである」ことを含んでいる。

b 一致点及び相違点、並びに、相違点の検討
(a)一致点及び相違点
本件発明3’は本件発明2’を引用する発明を包含するため、本件発明3’と甲1発明とを対比すると、上記(イ)b(a)で検討した一致点に加え、
「前記アプリケーションプログラムがゲームである」
の点で一致し、上記(ア)b(b)で検討した相違点1及び上記(イ)b(b)で検討した相違点2で相違する。

(b)相違点の検討
相違点1については、上記(ア)cで検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。
また、相違点2については、上記(イ)c(b)で検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。
したがって、本件発明3’は、甲1発明並びに甲3記載事項及び甲4記載事項からなる周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(エ)本件発明4’について
a 本件発明4’と甲1発明との対比
甲1発明は、構成要件1cとして、「統計的学習やニューラルネットワークを用いた機械学習などにより求める課金確率導出関数は、プレーヤの行動履歴データに含まれる所与のパラメータ値を入力変数として、所与の日時条件におけるプレーヤが課金行為をする確率を導出するための確率であり、最新の課金確率導出関数から、1日、午前・午後・深夜・早朝などの時間帯におけるプレーヤの課金確率を算出する課金確率推定部と」を備えている。
してみると、上記構成要件1cは、「前記予測結果が、前記特定のユーザの課金率」「であること」を含んでいる。

b 一致点及び相違点、並びに、相違点の検討
(a)一致点及び相違点
本件発明4’と甲1発明とを対比すると、上記(ウ)b(a)で検討した一致点に加え、
「前記予測結果が、前記特定のユーザの課金率、ゲーム継続率、又は、ゲーム離脱率であること」
の点で一致し、上記(ア)b(b)で検討した相違点1及び上記(イ)b(b)で検討した相違点2で相違する。

(b)相違点の検討
相違点1については、上記(ア)cで検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。
また、相違点2については、上記(イ)c(b)で検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。
したがって、本件発明4’は、甲1発明並びに甲3記載事項及び甲4記載事項からなる周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(オ)本件発明5’について
a 本件発明5’と甲1発明との対比
(a)構成要件5Aについて
甲1発明は、構成要件1eとして、「前記課金確率変移記憶制御部から出力された対象プレーヤの課金確率を記憶するサーバ記憶部と」を備えており、該構成要件1eは本件発明5’の「前記出力部から出力された前記予測データを記憶する記憶部」に相当する。

(b)構成要件5B’について
甲1発明は、構成要件1fとして、「前記課金確率に応じて、対象プレーヤの前記ユーザ端末で広告表示の表示頻度を制御する広告表示制御部であって、課金確率が高いことを示す所定の高確率条件を満たす場合には、広告表示を表示させない広告表示制御部と」を備えている。
そして、本件明細書の段落【0043】の「マーケティング処理部15は、記憶部14から予測データを取得して、当該一のユーザに最適だと思われる広告を選択する、又は当該一のユーザに対しては広告しないということを選択する。」との記載に鑑みると、構成要件5B’の「マーケティング処理部」の「広告を選択」する処理は「広告しないということを選択する」処理を含んでいる。
してみると、甲1発明の「広告表示制御部」は「広告表示を表示させない」という処理を実行し得るから、甲1発明の構成要件1fは、本件発明5’の「前記記憶部に記憶された前記予測データを用いて前記特定のユーザに対する広告を選択するマーケティング処理部と」に相当する。

b 一致点及び相違点、並びに、相違点の検討
(a)一致点及び相違点
本件発明5’は本件発明4’を引用する発明を包含するため、本件発明5’と甲1発明とを対比すると、上記(エ)で検討した一致点に加え、
「前記出力部から出力された前記予測データを記憶する記憶部と」、
「前記記憶部に記憶された前記予測データを用いて前記特定のユーザに対する広告を選択するマーケティング処理部と、」
を備える点で一致し、上記(ア)及び(イ)で検討した相違点1及び相違点2で相違する。

(b)相違点の検討
相違点1及び2については、上記(ア)及び(イ)で検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。
したがって、本件発明5’は、甲1発明並びに甲3記載事項及び甲4記載事項からなる周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(カ)本件発明6’について
a 本件発明6’と甲1発明との対比
(a)構成要件6A’について
甲1発明は、構成要件1eとして、「前記課金確率変移記憶制御部から出力された対象プレーヤの課金確率を記憶するサーバ記憶部と」を備えている。
ここで、技術常識に鑑みると、サーバ記憶部に記憶される課金確率が単数の対象プレーヤのもののみでなく、複数の対象プレーヤの課金確率であることは明らかである。
してみると、該構成要件1eは本件発明6’の「前記出力部から出力された複数の前記特定のユーザに関する前記予測データを記憶する記憶部と」を含んでいる。

(b)構成要件6B’について
甲1発明は、構成要件1fとして、「前記課金確率に応じて、対象プレーヤの前記ユーザ端末で広告表示の表示頻度を制御する広告表示制御部であって、課金確率が高いことを示す所定の高確率条件を満たす場合には、広告表示を表示させない広告表示制御部と」を備えている。
そして、該構成要件における「所定の高確率条件」は「閾値」に相当し、同「課金確率が高いことを示す所定の高確率条件を満たす場合には、広告表示を表示させない」は、「対象となる広告を出すべき前記特定のユーザを、閾値を設定することにより選定する」ことに他ならない。
してみると、該構成要件1fは本件発明6’の「記記憶部に記憶された複数の前記予測データを用いて対象となる広告を出すべき前記特定のユーザを、閾値を設定することにより選定するマーケティング処理部と」を含んでいる。

b 一致点及び相違点、並びに、相違点の検討
(a)一致点及び相違点
本件発明6’は本件発明5’を引用する発明を包含するため、本件発明6’と甲1発明とを対比すると、上記(オ)で検討した一致点に加え、
「前記出力部から出力された複数の前記特定のユーザに関する前記予測データを記憶する記憶部と」
「前記記憶部に記憶された複数の前記予測データを用いて対象となる広告を出すべき前記特定のユーザを、閾値を設定することにより選定するマーケティング処理部と」を備える点で一致し、上記(ア)及び(イ)で検討した相違点1及び相違点2で相違する。

(b)相違点の検討
相違点1及び2については、上記(ア)及び(イ)で検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。
したがって、本件発明6’は、甲1発明並びに甲3記載事項及び甲4記載事項からなる周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(キ)本件発明7’について
a 本件発明7’と甲1発明との対比
甲1発明は、構成要件1fとして、「前記課金確率に応じて、対象プレーヤの前記ユーザ端末で広告表示の表示頻度を制御する広告表示制御部であって、課金確率が高いことを示す所定の高確率条件を満たす場合には、広告表示を表示させない広告表示制御部と」を備えている。
該構成要件の「課金確率」は「予測データ」に相当し、該構成要件で「前記課金確率に応じて」「広告表示の表示頻度を制御する」ためには、「前記課金確率」が所得されているといえるから、甲1発明は「情報処理装置によって生成された前記予測データを取得する予測データ取得部」を含んでいるといえる。
また、該構成要件の「課金確率が高いことを示す所定の高確率条件を満たす場合には、広告表示を表示させない」ことは「前記予測データを用いて前記特定のユーザに対する広告を選択する」ことに他ならないことから、甲1発明は「前記予測データを用いて前記特定のユーザに対する広告を選択するマーケティング処理部と」を含んでいる。
さらに、甲1発明は該「マーケティング処理部」を含んだ情報処理装置であることから、「マーケティング情報処理装置」に他ならない。

b 一致点及び相違点、並びに、相違点の検討
(a)一致点及び相違点
本件発明7’は本件発明6’を引用する発明を包含するため、本件発明7’と甲1発明とを対比すると、上記(カ)で検討した一致点に加え、
「情報処理装置によって生成された前記予測データを取得する予測データ取得部と」、
「前記予測データを用いて前記特定のユーザに対する広告を選択するマーケティング処理部と」、
「を備えるマーケティング情報処理装置」
である点で一致し、上記(ア)及び(イ)で検討した相違点1及び相違点2で相違する。

(b)相違点の検討
相違点1及び2については、上記(ア)及び(イ)で検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。
したがって、本件発明7’は、甲1発明並びに甲3記載事項及び甲4記載事項からなる周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(ク)本件発明8’について
a 本件発明8’と甲1発明との対比
本件発明8’は、「情報処理装置」という物の発明である本件発明1’に対して「情報処理方法」という方法の発明に発明のカテゴリーを変更したものであって、構成要件8B’は構成要件1A’に、構成要件8C’は構成要件1B’に、構成要件8D’は構成要件1C’に、構成要件8Eは構成要件1Dに、構成要件8A及び構成要件8Fは構成要件1Eに、それぞれ対応する。
このため、構成要件8B’は甲1発明の構成要件1aに対応し、構成要件8C’は同構成要件1bに対応し、構成要件8D’は、「一定期間」が示す期間が「7日間以上」であるという特定がない点を除き、同構成要件1cに対応し、構成要件8Eは同構成要件1dに対応し、構成要件8A及び構成要件8Fは同構成要件1eに対応する。

b 一致点及び相違点
(a)一致点
コンピュータが行う情報処理方法であって、
個別ユーザ毎にアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得する第1工程と、
個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる第2工程と、
前記第2工程によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータの内の特定のユーザのログデータを解析することにより、前記特定のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である一定期間内の予測データを計算する第3工程と、
前記第3工程で計算された前記予測データを出力する第4工程と、
を備える情報処理方法。

(b)相違点
本件発明8’における、第3工程で計算する「一定期間内の予測データ」の「一定期間」が「7日間以上」であるのに対して、甲1発明は「1日、午前・午後・深夜・早朝など」であって、「7日間以上」ではない点(以下、「相違点1’」という。)。

c 相違点1’について
上記(ア)cでの検討と同様な理由により、甲1発明において、予測処理部が計算する「一定期間内の予測データ」の「一定期間」を「1日、午前・午後・深夜・早朝など」を「7日以上」とすることは、当業者が容易になし得る事項である。
そして、該「一定期間」を「7日以上」としたことにより、格別な作用・効果を奏するとは認められない。

d 小括
以上のとおり、本件発明8’は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(ケ)本件発明9’について
a 本件発明9’と甲1発明との対比
本件発明9’は、「情報処理装置」という物の発明である本件発明2’に対して「情報処理方法」という方法の発明に発明のカテゴリーを変更したものであって、構成要件9Aは構成要件2Aに対応する。
このため、構成要件9Aでは機械学習は「ディープランニングである」ことが明らかでない点を除き、構成要件9Aは甲1発明の構成要件1cに対応する。

b 一致点及び相違点、並びに、相違点の検討
(a)一致点
本件発明9’と甲1発明とを対比すると、上記(ア)b(a)で検討した一致点に加え、
「前記機械学習がニューラルネットワークを利用したこと」
で一致する。

(b)相違点
本件発明9’における機械学習は「ニューラルネットワークを利用したディープラーニングである」のに対して、甲1発明の機械学習はニューラルネットワークを利用したものであるものの、「ディープランニング」であることは明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

c 相違点の検討
(a)相違点1について
相違点1については、上記(ア)cで検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。

(b)相違点2について
相違点2については、上記(イ)c(b)で検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。

d 小括
以上のとおり、本件発明9’は、甲1発明並びに甲3記載事項及び甲4記載事項からなる周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(コ)本件発明10’について
a 本件発明10’と甲1発明との対比
本件発明10’は、「情報処理装置」という物の発明である本件発明3’に対して「情報処理方法」という方法の発明に発明のカテゴリーを変更したものであって、構成要件10Aは構成要件3Aに対応する。
このため、構成要件10Aは甲1発明の構成要件1aに対応する。

b 一致点及び相違点、並びに、相違点の検討
(a)一致点及び相違点
本件発明10’は本件発明9’を引用する発明を包含するため、本件発明10’と甲1発明とを対比すると、上記(ケ)b(a)で検討した一致点に加え、
「前記アプリケーションプログラムがゲームである」
点で一致し、上記(ク)b(b)で検討した相違点1’及び上記(ケ)b(b)で検討した相違点2で相違する。

(b)相違点の検討
相違点1’については、上記(ア)cで検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。
また、相違点2については、上記(イ)c(b)で検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。
したがって、本件発明10’は、甲1発明並びに甲3記載事項及び甲4記載事項からなる周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(サ)本件発明11’について
a 本件発明11’と甲1発明との対比
本件発明11’は、「情報処理装置」という物の発明である本件発明4’に対して「情報処理方法」という方法の発明に発明のカテゴリーを変更したものであって、構成要件11A’は構成要件4A’に対応する。
このため、構成要件11A’は「前記予測結果が、前記特定のユーザの課金率」「であること」を含み、甲1発明の構成要件1cに対応する。

b 一致点及び相違点、並びに、相違点の検討
(a)一致点及び相違点
本件発明11’と甲1発明とを対比すると、上記(コ)b(a)で検討した一致点に加え、
「前記予測結果が、前記特定のユーザの課金率、ゲーム継続率、又は、ゲーム離脱率であること」
の点で一致し、上記(ク)b(b)で検討した相違点1’及び上記(ケ)b(b)で検討した相違点2で相違する。

(b)相違点の検討
相違点1’については、上記(ア)cで検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。
また、相違点2については、上記(イ)c(b)で検討した理由により、当業者が容易になし得る事項であり、この点により、格別な作用・効果を奏するとは認められない。
したがって、本件発明11’は、甲1発明並びに甲3記載事項及び甲4記載事項からなる周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(シ)本件発明12’について
a 本件発明12’と甲1発明との対比
本件発明12’は、「情報処理方法」という方法の発明である本件発明8’に対して「プログラム」の発明に発明のカテゴリーを変更したものであって、構成要件12Aは構成要件8Aに、構成要件12B’は構成要件8B’に、構成要件12C’は構成要件8C’に、構成要件12D’は構成要件8D’に、構成要件12Eは構成要件8Eに、構成要件12Fは構成要件8Fに、それぞれ対応する。
このため、構成要件12B’は甲1発明の構成要件1aに対応し、構成要件12C’は同構成要件1bに対応し、構成要件12D’は、「一定期間」が示す期間が「7日間以上」であるという特定がない点を除き、同構成要件1cに対応し、構成要件12Eは同構成要件1dに対応し、構成要件12A及び構成要件12Fは同構成要件1eに対応する。

b 一致点及び相違点
(a)一致点
コンピュータに、
個別ユーザ毎にアプリケーションプログラムの利用履歴を示すログデータを取得する第1処理と、
個別ユーザ毎の前記ログデータの内の過去のログデータを、入出力ペアとして、読み込んで機械学習させる第2処理と、
前記第2処理によって生成された学習モデルを用いて前記ログデータの内の特定のユーザのログデータを解析することにより、前記特定のユーザによる前記アプリケーションプログラムの利用に関する予測結果である一定期間内の予測データを計算する第3処理と、
前記第3処理で計算された前記予測データを出力する第4処理と、
を実行させることを特徴とするプログラム。

(b)相違点
本件発明12’における、第3処理で計算する「一定期間内の予測データ」の「一定期間」が「7日間以上」であるのに対して、甲1発明は「1日、午前・午後・深夜・早朝など」であって、「7日間以上」ではない点(以下、「相違点1’’」という。)。

c 相違点1’’について
上記(ア)cでの検討と同様な理由により、甲1発明において、予測処理部が計算する「一定期間内の予測データ」の「一定期間」を「1日、午前・午後・深夜・早朝など」を「7日以上」とすることは、当業者が容易になし得る事項である。
そして、該「一定期間」を「7日以上」としたことにより、格別な作用・効果を奏するとは認められない。

d 小括
以上のとおり、本件発明12’は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

エ まとめ
以上のとおり、本件発明1?12は甲1発明並びに甲3記載事項及び甲4記載事項からなる周知事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
よって、本件の請求項1?12に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。


6 むすび
以上のとおり、平成31年4月23日付けでした手続補正は願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないため、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第17条の2第3項を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
本件の請求項1?12に係る発明は願書に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないため、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
本件の請求項1?12に係る発明は不明確であるため、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
本件の請求項1?12に係る発明は、本件特許出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるため、本件の請求項1?12に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

したがって、本件の請求項1?12に係る発明の特許は、特許法第113条第1項、同条第2号、及び、同条第4項に該当し、取り消されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-04-01 
出願番号 特願2018-168962(P2018-168962)
審決分類 P 1 651・ 55- ZB (G06Q)
P 1 651・ 537- ZB (G06Q)
P 1 651・ 121- ZB (G06Q)
最終処分 取消  
前審関与審査官 青柳 光代  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 佐藤 聡史
松田 直也
登録日 2019-08-23 
登録番号 特許第6573205号(P6573205)
権利者 澪標アナリティクス株式会社
発明の名称 一のユーザによるアプリケーションプログラムの利用に関する予測データを計算する情報処理装置、情報処理方法、プログラム及びマーケティング情報処理装置  
代理人 野中 啓孝  

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