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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C21C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C21C
管理番号 1374939
異議申立番号 異議2021-700177  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-18 
確定日 2021-05-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6743915号発明「溶鋼の脱硫処理方法及び脱硫剤」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6743915号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6743915号(請求項の数6。以下,「本件特許」という。)は,2018年(平成30年)1月10日(優先権主張:平成29年1月19日)を国際出願日とする特許出願(特願2018-563279号)に係るものであって,令和2年8月3日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和2年8月19日である。)。
その後,令和3年2月18日に,本件特許の請求項1?6に係る特許に対して,特許異議申立人である日本製鉄株式会社(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
溶鋼を収容する取鍋内に生石灰を含む脱硫剤を添加し,取鍋内で溶鋼を攪拌することによって,溶鋼中の硫黄濃度を低減する溶鋼の脱硫処理方法であって,
前記脱硫剤として,生石灰を含む脱硫剤を用い,前記生石灰は,細孔直径が0.5?10μmの範囲内にある細孔の容積の和が0.1mL/g以上であることを特徴とする溶鋼の脱硫処理方法。
【請求項2】
前記生石灰が,粒径が1?30mmの範囲内にある粒子を90%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の溶鋼の脱硫処理方法。
【請求項3】
生石灰を含む脱硫剤であって,前記生石灰は,細孔直径が0.5?10μmの範囲内にある細孔の容積の和が0.1mL/g以上であり,粒径が1?30mmの範囲内にある粒子を90%以上含む生石灰であることを特徴とする脱硫剤。
【請求項4】
下記数式(1)で示される撹拌動力密度の条件が満足されるように前記溶鋼を攪拌することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶鋼の脱硫処理方法。
【数1】

【請求項5】
前記溶鋼が転炉から出鋼されてから脱硫処理開始後10分以内に溶鋼に投入されるアルミニウムの量が下記数式(2)を満足することを特徴とする請求項1,2,4のうち,いずれか1項に記載の溶鋼の脱硫処理方法。
【数2】

【請求項6】
前記取鍋内における酸素濃度が15%以下となるように前記取鍋内にArガスを吹き込むことを特徴とする請求項1,2,4,5のうち,いずれか1項に記載の溶鋼の脱硫処理方法。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1?6に係る特許は,下記1及び2のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は,下記3の甲第1号証?甲第8号証(以下,単に「甲1」等という。)である。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1?6は,甲1に記載された発明及び甲2?7に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条2号に該当する。
2 申立理由2(明確性要件)
本件発明5及び6については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,本件特許の請求項5及び6に係る特許は,同法113条4号に該当する。
3 証拠方法
・甲1 「高反応性造粒生石灰の性状」,無機マテリアル,石膏石灰学会,1994年9月,Vol.1,No.252,p.12-19
・甲2 特開2004-346367号公報
・甲3 特開2008-144224号公報
・甲4 「叢書 鉄鋼技術の流れ 第1シリーズ 第2巻 取鍋精錬法 -多品種・高品質鋼 量産化への挑戦-」,地人書館,1997年1月25日,p.206-231
・甲5 「取鍋内溶鋼への合金弾打込み技術の開発」,鉄と鋼,1977年,第63年,第13号,p.2110-2125
・甲6 「焼成条件を変えたCaOによる溶銑の脱硫効率に関する検討」,鉄と鋼,昭和60年9月,第71年,第12号,p.127
・甲7 「固体生石灰による溶銑脱硫の反応機構におよぼす生石灰内細孔分布の影響」,鉄と鋼,1989年,第75年,第1号,p.58-65
・甲8 異議2018-700010の平成30年3月20日付けの取消理由通知書

第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1には,溶銑脱硫用の生石灰について記載されているから(12頁左欄2行?右欄8行),溶銑を脱硫するために生石灰を脱硫剤として用いることについても記載されているといえる。
また,甲1の図4には,様々な生石灰についての細孔径分布の測定結果が示されているところ(15頁右欄14行?16頁右欄1行),細孔の容積を示す縦軸の目盛は,「Pore volume /m^(3)kg^(-1)」と記載されている。
しかし,生石灰の嵩比重を1.2g/cm^(3)とすると,生石灰1kgの体積は0.0008m^(3)となり,このような生石灰の中に100m^(3)の容積の細孔を含むことはあり得ないから,上記「Pore volume /m^(3)kg^(-1)」が誤記であることは,明らかである。
そして,論文報告者が甲1と一部重複する甲6の図1には,甲1の図4と同様の図として,CaOの細孔径分布の測定結果が示されており,両者の比較から,前者の「0.10」cm^(3)/gは,後者の「100」m^(3)kg^(-1)に対応すると考えられる。
そこで,前者の「0.10」cm^(3)/gを,後者の単位であるm^(3)kg^(-1)に換算すると,「0.10」×(1cm)^(3)×(1g)^(-1)=「0.10」×(10^(-2)m)^(3)×(10^(-3)kg)^(-1)=10^(-4)m^(3)kg^(-1)となることから,後者の単位は,正しくは,m^(3)kg^(-1)に10^(-6)を乗じたもの,すなわち,甲1の図4の縦軸の目盛は,正しくは,「Pore volume /10^(-6)m^(3)kg^(-1)」であると認められる。
そうすると,甲1の図4の縦軸の「100」10^(-6)m^(3)kg^(-1)は,「0.1」cm^(3)g^(-1)(=「0.1」mL/g)であるから,図4(a)に示される所定の細孔径分布を有する生石灰については,横軸に示される細孔径が「0.5?10」×10^(6)m(=「0.5?10」μm)の範囲内にある細孔の容積の和は,明らかに0.1mL/gを超えるものと認められる。
以上の認定を踏まえ,甲1の記載(12頁左欄2行?右欄8行,「2 実験」の欄,15頁右欄14行?16頁右欄1行,図4(a),図5)によれば,特に,図4(a)に示される所定の細孔径分布を有する生石灰に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「溶銑の脱硫方法であって,
脱硫剤として,生石灰を含む溶銑脱硫用の脱硫剤を用い,生石灰は,細孔径が0.5?10μmの範囲内にある細孔の容積の和が0.1mL/gを超える溶銑の脱硫方法。」(以下,「甲1発明1」という。)

「生石灰を含む溶銑脱硫用の脱硫剤であって,生石灰は,細孔径が0.5?10μmの範囲内にある細孔の容積の和が0.1mL/gを超える生石灰である脱硫剤。」(以下,「甲1発明2」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると,両者は,
「硫黄濃度を低減する脱硫処理方法であって,
前記脱硫剤として,生石灰を含む脱硫剤を用い,前記生石灰は,細孔直径が0.5?10μmの範囲内にある細孔の容積の和が0.1mL/g以上である脱硫処理方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,脱硫が「溶鋼」を対象とするものであって,「溶鋼を収容する取鍋内に生石灰を含む脱硫剤を添加し,取鍋内で溶鋼を攪拌することによって,溶鋼中の」硫黄濃度を低減するのに対して,甲1発明1では,脱硫が「溶銑」を対象とするものであり,「溶鋼を収容する取鍋内に生石灰を含む脱硫剤を添加し,取鍋内で溶鋼を攪拌することによって,溶鋼中の」硫黄濃度を低減するものではない点。

イ 相違点1の検討
甲1には,溶銑脱硫用の生石灰について,1μm以上の細孔を有することが重要であること,高反応性の溶銑予備処理用生石灰としては,多孔質で1?2μm以上の細孔を多く含むことが必要であることが記載され(12頁左欄2行?右欄8行),また,そのような生石灰として,図4(a)に示される所定の細孔径分布を有する生石灰が記載されている(甲1発明1において認定したとおりである。)。
しかしながら,甲1には,上記の図4(a)に示される所定の細孔径分布を有する生石灰を,そのまま「溶鋼」を対象とする脱硫にも用いることができることは記載されておらず,また,そのようなことが技術常識であるともいえない。
また,甲1には,「溶鋼」を対象とする脱硫に用いられる生石灰として,どのような細孔径分布を有する生石灰を用いればよいかについても,記載されていない。
さらに,「溶鋼」を対象とする脱硫について記載されている甲2?4のほか,甲5?7にも,「溶鋼」を対象とする脱硫に用いられる生石灰として,どのような細孔径分布を有する生石灰を用いればよいかについては,記載されていない。
そうすると,甲1発明1において,「溶銑」を脱硫することに代えて,「溶鋼」を脱硫することとし,「溶鋼を収容する取鍋内に生石灰を含む脱硫剤を添加し,取鍋内で溶鋼を攪拌することによって,溶鋼中の」硫黄濃度を低減するものとすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 小括
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲2?7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2及び4?6について
本件発明2及び4?6は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明及び甲2?7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2及び4?6についても同様に,甲1に記載された発明及び甲2?7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明2とを対比すると,両者は,
「生石灰を含む脱硫剤であって,前記生石灰は,細孔直径が0.5?10μmの範囲内にある細孔の容積の和が0.1mL/g以上である生石灰である脱硫剤。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点2
本件発明3では,生石灰が,「粒径が1?30mmの範囲内にある粒子を90%以上含む」ものであるのに対して,甲1発明2では,生石灰の粒径が不明である点。

イ 相違点2の検討
甲1発明2に係る脱硫剤は,生石灰を含む溶銑脱硫用の脱硫剤である。
甲1には,溶銑脱硫用の脱硫剤に用いられる生石灰として,どのような粒径の生石灰を用いればよいかについては,記載されていない。
また,甲1には,市販石灰石を-100+145メッシュに粉砕・調粒し,水とともに約20mmφの粉体球とし,室温で24時間放置後,乾燥器(110℃)内で15時間乾燥し,造粒石灰石とし,密度及び気孔率を測定したこと(「2・1 造粒石灰の成形」の欄),造粒石灰石の中心部を厚さ約7mmに切り出し試料とし,加熱炉による焼成に供し,質量減少量を求め,焼成率を評価したこと(「2・2 石灰石の焼成」の欄),2?4mmに粉砕・調粒した生石灰を水に投入し,ブロムチモルブルーを指示薬としてただちに4N-HClで中和滴定する粗粒滴定法によって,生石灰の反応性を評価したこと(「2・3・3 生石灰の水和反応性」の欄)が記載されている。
しかしながら,上記の各サイズは,いずれも,各測定及び評価を行うために準備された試料のサイズにすぎず,溶銑脱硫用の脱硫剤に用いられる生石灰としての粒径を記載したものとはいえない。
また,甲2には,溶鋼の脱硫に用いられる生石灰として,15mm以下の粒度の構成比率が90質量%以上のものを使用することが記載されているものの(【0027】),甲2に記載されているのは溶鋼の脱硫に用いられる生石灰であり,甲1発明2に係る溶銑脱硫用の脱硫剤に用いられる生石灰とは異なるものである。
さらに,甲6及び7には,溶銑の脱硫に用いられるCaOとして,32?60メッシュ(246?495μm)に調粒したCaOを使用することが記載されているものの(甲6の「実験方法」の欄,甲7の「2・3 溶銑脱硫実験」の欄),「粒径が1?30mmの範囲内にある粒子を90%以上含む」ものとは異なる。
上記のほか,甲3?5にも,溶銑脱硫用の脱硫剤に用いられる生石灰として,どのような粒径の生石灰を用いればよいかについては,記載されていない。
以上のとおり,甲1?7の記載は,いずれも,甲1発明2に係る溶銑脱硫用の脱硫剤に用いられる生石灰を,「粒径が1?30mmの範囲内にある粒子を90%以上含む」ものとすることを動機付けるものではない。
そうすると,甲1発明2において,生石灰を,「粒径が1?30mmの範囲内にある粒子を90%以上含む」ものとすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 小括
したがって,本件発明3は,甲1に記載された発明及び甲2?7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり,本件発明1?6は,甲1に記載された発明及び甲2?7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(明確性要件)
申立人は,本件発明5において,数式(2)における上限及び下限では,単位として「質量%」と規定しているのに対し,取鍋脱硫処理開始10分以内に投入するAl量W_(Al)の単位は「kg/t」となっており,単位が一致していないため,数式(2)は不明確であるから,本件発明5及び6は不明確であると主張する。
しかしながら,本件発明5は,請求項5に記載されるとおり,「前記溶鋼が転炉から出鋼されてから脱硫処理開始後10分以内に溶鋼に投入されるアルミニウムの量」(W_(Al):取鍋脱硫処理開始10分以内に投入するAl量(kg/t))を特定するもの,すなわち,所定のタイミングで溶鋼に投入されるアルミニウムの量(kg/t)を特定するものであり,その具体的な量が,「数式(2)を満足する」というものである。
そして,その「数式(2)」は,「溶製対象鋼種のAl濃度規格上限値(質量%)」及び「転炉出鋼後の溶鋼中Al濃度(質量%)」という,所定のAl濃度(質量%)を変数とする不等式であり,その不等式の右辺及び左辺によりそれぞれ計算される上限値及び下限値の各数値(質量%)が,そのまま,所定のタイミングで溶鋼に投入されるアルミニウムの量の上限値及び下限値の各数値(kg/t)に読み替えられるものであることが明らかであり,その意味は明確である。
以上によれば,本件発明5は不明確であるとはいえない。また,本件発明5を引用する本件発明6についても同様であり,不明確であるとはいえない。
よって,申立人の主張は採用できない。
したがって,申立理由2(明確性要件)によっては,本件特許の請求項5及び6に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-05-17 
出願番号 特願2018-563279(P2018-563279)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C21C)
P 1 651・ 537- Y (C21C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河口 展明  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 井上 猛
磯部 香
登録日 2020-08-03 
登録番号 特許第6743915号(P6743915)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 溶鋼の脱硫処理方法及び脱硫剤  
代理人 國分 孝悦  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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