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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A47J
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  A47J
審判 全部申し立て 2項進歩性  A47J
管理番号 1374945
異議申立番号 異議2020-700635  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-25 
確定日 2021-06-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6653984号発明「パン焼き方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6653984号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6653984号の請求項1に係る特許についての出願は、平成31年1月29日に出願され、令和2年1月31日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月26日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年8月25日に特許異議申立人玉田尚志(以下、「異議申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、当審は令和2年11月13日に取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、令和3年1月15日に意見書及び乙第1ないし10号証を提出した。
当審は、令和3年2月12日に異議申立人に対して審尋を行い、異議申立人は、令和3年3月18日に回答書及び甲第27及び28号証を提出した。さらに、当審は、令和3年3月31日に特許権者に審尋を行い、特許権者は、令和3年4月19日に回答書及び乙第11及び12号証を提出した。

第2 本件発明
請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「水分を充分に吸収できる素焼きの陶磁器製で、一部が開放された空洞の小型筐体形状とした加湿具を、パンと共にパン焼き用のトースター内に配置して、パンを加湿焼成することを特徴とするパン焼き方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
異議申立人は、次の特許異議申立理由1ないし4を主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第26号証(以下「甲1」ないし「甲26」という。)を提出している。
1 特許異議申立理由について
(1)特許異議申立理由1(特許法第29条第1項第1号)
本件発明は、甲1ないし8、甲10ないし14、甲16および甲18に示されるとおり、その出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明であるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項第1号の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)特許異議申立理由2(特許法第29条第1項第2号)
本件発明は、甲1ないし8、甲10ないし14、甲16および甲18に示されるとおり、その出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項第2号の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)特許異議申立理由3(特許法第29条第1項第3号)
本件発明は、甲1、甲6、甲8および甲10に示されるとおり、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)特許異議申立理由4(特許法第29条第2項)
本件発明は、甲1(必要に応じて甲18を組み合わせて)、甲2ないし5、甲6(必要に応じて甲18を組み合わせて)、甲8(必要に応じて甲18を組み合わせて)、甲10(必要に応じて甲18を組み合わせて)、および甲19ないし21に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法について
甲1:株式会社ホームメイドクッキング(以下、「ホームメイドクッキング」という)のプレスリリースウェブページ、令和2年8月24日(出力日)(https://www.homemade.co.jp/newsrelease.htm)
甲2:株式会社ラクーンコマースの卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」と題するウェブサイト、令和2年7月28日(出力日)(https://www.superdelivery.com/p/r/pd_p/6595840/)
甲3:株式会社徳間書店による商品情報サイト &GP(以下、「&GP」という)のウェブページ、令和2年7月21日(出力日)
(https://www.goodspress.jp/news/206722/2/)
甲4:株式会社宝島社による商品情報サイト MonoMax Web(以下、「MonoMax Web」という)のプレスリリースウェブページ、令和2年7月21日(出力日)、(https://monomax.jp/archives/48362/)
甲5:アマゾンジャパン合同会社(以下、「Amazon」という)のウェブページ マーナ(MARNA)パン型 トーストスチーマーK712:ホーム&キッチン、令和2年7月28日(出力日)
(https://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%8A-Marna-W3-6xD9-7xH4-6cm-%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%BC-K712/dp/B07N2MGR56/ref=asc_df_B07N2MGR56/?tag=jpgo-22&linkCode=df0&hvadid=332131450692&hvpos=&hvnetw=g&hvrand=6564915097364071793&hvpone=&hvptwo=&hvqmt=&hvdev=c&hvdvcmdl=&hvlocint=&hvlocphy=1009483&hvtargid=pla-637885486971&psc=1&th=1&psc=1)
甲6:商品情報サイト「さすがだね!」のウェブページ、令和2年8月24日(出力日)(http://nikkatan.seesaa.net/article/463813160.html)
甲7:「風のさざめき@sazameki」によるツイッター投稿、令和2年7月21日(出力日)(https://twitter.com/sazameki/status/1086260096831647744)
甲8:「フィンクス(ケンタ)@finks09」によるツイッター投稿、令和2年8月19日(出力日)(https://twitter.com/finks09/status/1087592672036978690)
甲9:「oruru@hot_chocolat1」によるツイッター投稿、令和2年7月27日(出力日)(https://twitter.com/hot_chocolat1/status/1087015864744894464)
甲10:「hiro_tns/HIRO。」によるinstagram投稿、令和2年8月24日(出力日)(https://www.instagram.com/p/Bs5RArTl-IN/?utm_source=ig_embed)
甲11:「aloha_norigame/Noriko Tamura」によるinstagram投稿、令和2年7月27日(出力日)(https://www.instagram.com/p/BszphdphfIP/?utm_source=ig_embed)
甲12:楽天株式会社(以下、「楽天」という)に関する情報紹介サイト「どこに売ってる楽天お買い物マラソンってイイかも!」のウェブページ、令和2年8月24日(出力日)(https://warashibe76.com/rakuten-item/toast-steamer)
甲13:「あいあい@(株)IRGP兵庫支社タコ@NIR0223」によるツイッター投稿、令和2年7月22日(出力日)(https://twitter.com/NIR0223/status/1089729026585841664)
甲14:「hi_nd_i/軽率にきもの着てでかけたい。」によるinstagram投稿、令和2年7月22日(出力日)
(https://www.instagram.com/p/BtD7MUJghZQ/?utm_source=ig_embed)
甲15:「oruru@hot_chocolat1」によるツイッター投稿、令和2年7月27日(出力日)(https://twitter.com/hot_chocolat1/status/1088997435370684417)
甲16:「ken_tototo/ken_tototo」によるinstagram投稿、令和2年7月22日(出力日)(https://www.instagram.com/p/BtC7zRjg4bI/?utm_source=ig_embed)
甲17:「渋谷ロフト@LOFT_SHIBUYA」によるツイッター投稿、令和2年7月21日(出力日)(https://twitter.com/LOFT_SHIBUYA/status/1090109797024772097)
甲18:株式会社マーナによるYouTube上での商品紹介ウェブページ、【マーナ】トーストスチーマー、令和2年8月24日(出力日)
(https://www.youtube.com/watch?time_continue=3&v=sqcSkXGKDvE&feature=emb_logo)
甲19:特開昭48-45374号公報
甲20:特開2006-326042号公報
甲21:特開2009-56199号公報
甲22:特許権者による新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書(30条第2項 2019年1月22日共同通信ニュースで発表)
甲23:特許権者による新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書(マーナ自社ホームページおよびプレスリリース)<https://marna-inc.co.jp/news/20190115-4>
甲24:特許権者による新規性喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書((30条2項 2019年1月19日にhttps://www.j-cast.com/trend/2019/01/19348317.htmlにて発表)
甲25:特許権者による新規性喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書(30条2項 2019年1月15日にhttps://www.nikkei.com/article/DGXLRSP499944_V10C19A10000000/にて発表)
甲26:特許権者による新規性喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書((30条2項 2019年1月25日にhttps://sumaiweb.jp/articles/139589にて発表)

第3 取消理由の概要
当審において、本件発明に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次の通りである。
(1)本件発明は、以下の甲5、甲14、甲18に示されるとおり、本件特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、また、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲5、甲14、甲18に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本件特許は取り消されるべきものである。

(2)本件発明は、以下の証拠に示されるとおり、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲5、甲14、甲18に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件特許は取り消されるべきものである。

第4 甲各号証の記載
1 甲5、甲14,甲18の記載等
上記取消理由(1)及び(2)の証拠とされた甲5、甲14,甲18には、それぞれ以下の記載等がある。
(1)甲5の記載等
甲5は、Amazonが販売する「マーナ(MARNA)パン型 トーストスチーマーK712」に関するウェブページであって、以下の事項が記載されている。


(第1ページ)」



(第2ページ)」



(第3ページ)」



(第4ページ)」



(第5ページ)」



(第6ページ)」

上記第1ページの記載「ブランド:マーナ(Marna)」の記載から、「トーストスチーマーK712」は、特許権者である株式会社マーナが販売しているものと理解できる。
上記第1ページの記載「・“サイズ”:約4.6×3.6×9.7cm ・材質:陶磁器」から、「トーストスチーマーK712」は、材質が陶磁器であり、そのサイズは約4 .6×3.6×9.7cmであることが理解できる。
第3ページの「登録情報」の記載「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日:2019/1/24」から、「トーストスチーマーK712」は、平成31年1月24日にAmazonで取り扱いが開始されたという記載がある。
第3ページの「商品の説明」の記載「水に浸してからトースターに入れ、パンと一緒に焼くだけ。庫内にスチームが出て、パン内部の水分を保ちつつ、外はサクッ、中はふわっと美味しく焼き上げます。」から、「トーストスチーマーK712」は、水に浸してからトースターに入れ、パンと一緒に焼くものであり、パンの内部の水分を保ちつつ焼き上げるものであると理解できる。
また、第4ページの「カスタマーレビュー」の「カスタマーの画像」(右端の画像)には、トーストスチーマーK712の底部の画像が示されており、「トーストスチーマーK712」は、その筐体に開放された空洞があるものと理解できる。

上記記載を総合すると、甲5には、以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。
「陶磁器製で約4.6×3.6×9.7cmのサイズであって、その筐体に開放された空洞を有するトーストスチーマーを、水に浸してからトースターに入れ、パンと一緒に焼いて、パンの内部の水分を保ちつつ焼き上げる方法。」

(2)甲14の記載等
甲14は、「hi_nd_i/軽率にきもの着てでかけたい。」によるinstagram投稿であって、「トーストスチーマー」に関して、以下の事項が記載されている。


(第1ページ)」



(第2ページ)」



(第3ページ)」



(第4ページ)」

上記第1ページには「2019年1月25日」の記載がある。
上記第1ページの「ぱんです(素焼きの)」、「♯トーストスチーマー♯マーナ♯手前味噌ですけれど」との記載から、当該instagram投稿は、素焼き製のトーストスチーマーに関するものと理解できる。また、「トーストスチーマー」は、特許権者である株式会社マーナが販売したものと理解できる。
第1ページの「水につけたらめっちゃ水吸う!」との記載および第2ページの画像から、当該トーストスチーマーは水につけて用いるものであり、十分な吸水性を備えていると理解できる。
また、第3ページの画像から、当該トーストスチーマーは、底部に開放された空洞を有していると理解できる。
第4ページの画像中の「水に濡らしてトースターへ」「スチーム効果でおいしいトーストに」との記載から、当該トーストスチーマーはトースターに入れて用いるもので、トーストにスチーム効果を付与するものと理解できる。

上記記載を総合すると、甲14には、以下の発明(以下、「甲14発明」という。)が記載されている。
「十分な吸水性を備えた素焼き製で開放された空洞を有しているトーストスチーマーを、水に濡らしてトースターに入れ、トーストにスチーム効果を付与する方法。」

(3)甲18の記載等
甲18は、株式会社マーナによるYouTube上での商品紹介ウェブページであって、以下の事項が記載されている。


(第1ページ)」



(第2ページ)」



(第3ページ)」



(第4ページ)」



(第5ページ)」



(第6ページ)」

第1ページの「【マーナ】トーストスチーマー 13,898回視聴・2019/01/14」との記載がある。
第1ページの画像中の「Ceramic Toast Steamer」との記載から、当該トーストスチーマーはセラミック製であることが理解できる。
第1ないし4ページの「トーストスチーマーを水に浸して、パンと一緒にトースターの中に入れて焼くだけで、外はサク」との記載から、当該トーストスチーマーは水に浸して用いるもので、パンと一緒にトースターの中に入れて焼くものと理解できる。
第2ページの画像から、当該トーストスチーマーは底部に開放された空洞を有していることが理解できる。
第3ページの画像から、当該トーストスチーマーはトースターに入るサイズであることが理解できる。

上記記載を総合すると、甲18には、以下の発明(以下、「甲18発明」という。)が記載されている。
「セラミック製で開放された空洞を有するトースターに入るサイズのトーストスチーマーを水に浸して、パンと一緒にトースターの中に入れて焼く方法。」

第5 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)甲18発明を主引例とする取消理由について
ア 甲18発明との対比
本件発明と甲18発明とを対比する。
甲18発明の「セラミック製で開放された空洞を有するトースターに入るサイズのトーストスチーマー」は、水に浸して使用するものであるから、当該トーストスチーマーは吸水性を備えており、甲18発明の「セラミック製」が「素焼きの陶器製」に相当することは明らかである。
よって甲18発明のトーストスチーマーは、本件発明の「水分を充分に吸収できる素焼きの陶磁器製で、一部が開放された空洞の小型筐体形状とした加湿具」の構成を満たす。
甲18発明の「パンと一緒にトースターの中に入れて焼く方法」はトーストするパンを焼く方法であり、また、一緒に入れたトーストスチーマーにより、加湿がされることは明らかであるから、本件発明の「パンと共にパン焼き用のトースター内に配置して、パンを加湿焼成することを特徴とするパン焼き方法」の構成を満たす。
よって、本件発明と甲18発明は、
「水分を充分に吸収できる素焼きの陶磁器製で、一部が開放された空洞の小型筐体形状とした加湿具を、パンと共にパン焼き用のトースター内に配置して、パンを加湿焼成することを特徴とするパン焼き方法。」
である点で一致し、相違点はない。

イ 甲18発明が、特許法第30条第2項の規定の適用を受けることができるものか否かについて
本件発明と同一である甲18発明について、特許権者は意見書の「ウ 証拠甲18号証」において、特許・実用新案審査基準第3部第2章第5節4.2の審査基準(以下、単に「審査基準」という。)を参照して、甲18発明は、当該基準に記載された(i)?(iii)のすべてを満たすものであり、甲23の証明書に基づいて特許法第30条第2項の適用を受けることができる旨主張している。
そこで、甲18発明が審査基準の(i)?(iii)を満たすか否か検討する。
(ア)「(i)証明する書面」に基づいて第2項の規定の適用が認められた発明(以下単に「第2項の規定の適用が認められた発明」という。)と同一であるか、又は同一とみなすことができること。」について
特許権者の甲18発明は(i)の基準を満たすという主張に対して、異議申立人は令和3年3月18日提出の回答書(以下、単に「回答書1」という。)において以下のように主張している。
「ここで、甲第18号証の動画では、トーストスチーマーにおいて「一部が開放された空洞の(小型筐体形状)」構造であることが確認できるが、甲第23号証では、その発明特定事項の記載がない。
よって、甲第23号証に記載された「第2項の規定の適用が認められた発明」と、甲第18号証の動画により「公開された発明」とは、同一ではない。」(回答書1第4ページ第10-15行)

上記異議申立人の主張について検討すると、確かに甲23の第2項の規定の適用が認められた発明(以下、単に「甲23発明」という)は「一部が開放された空洞」を開示しているとまではいえないものの、甲18発明および甲23のいずれの開示行為も特許権者である株式会社マーナにより販売された「トーストスチーマー」という同一の商品に関するものであることは明らかであるから、両者は同一の構成を有するものと解するのが自然であり、(i)でいうところの、同一とみなすことができるものである。

(イ)「(ii) 「第2項の規定の適用が認められた発明」の公開行為と密接に関連する公開行為によって公開された発明であること、又は権利者若しくは権利者が公開を依頼した者のいずれでもない者によって公開された発明であること。」について
令和2年7月に甲23に記載されたアドレスのウエブサイトがリニューアルされて、現在は「Webページが見つかりません」(乙6)と表示されるが、それまでは甲23に記載されたアドレスから甲18発明の動画に移動することができたので、(ii)の基準を満たすという特許権者の主張に対して、異議申立人は回答書1において以下のように主張している。
「しかし、乙第6号証の『Webページが見つかりません』からでは、『令和2年7月に、・・・当該動画を見ることができる特許権者の下記のウェブサイトのページに移動することができました。現在は「Webページが見つかりません」と表示されます(乙6)』と主張している。
しかし、乙第6号証の『Webページが見つかりません』からでは、『令和2年7月に、・・・当該動画を見ることができる特許権者の下記のウェブサイトのページに移動することができました。』までを客観的に把握することは到底できない。
また、乙第6号証のURLからでは、トーストスチーマーのオンラインショップのページであることまでを客観的に把握することはできない。」(回答書1第5ページ第15-24行)

上記異議申立人の主張について検討すると、確かに令和2年7月に特許権者のウェブサイトから動画へのリンクがされていたという特許権者の主張を客観的に把握することはできないものの、上記(ア)でも述べたとおり、甲18発明および甲23発明いずれの開示行為も特許権者である株式会社マーナにより販売された「トーストスチーマー」という同一の商品に関するものであり、甲23発明が「トーストスチーマー」の販売開始を周知するためのプレスリリースである一方で、甲18発明が「トーストスチーマー」の利用方法を示すものであることからみて、甲18発明は販売促進のために公開されたものと認められるから、甲18発明の公開行為は甲23発明の公開行為と密接に関連するものである。

(ウ)「(iii) 「第2項の規定の適用が認められた発明」の公開以降に公開された発明であること。」について
上記「1(18)甲18の記載等」で述べたとおり、甲18には、その第1ページに「【マーナ】トーストスチーマー 13,898回視聴・2019/01/14」との記載がある。
この記載について、特許権者は意見書において、乙第8ないし10号証(以下、「乙8」ないし「乙10」という。)を証拠として、以下の主張をしている。
「たしかに、証拠甲第18号証では、YouTubeの公開日が『平成31年1月14日』と標記されております。これは、公開時刻の設定の問題で、日本時間では1月15日に公開しているものの太平洋標準時での日にちが表示されているものと思われます(社内公開で限定公開された日が表示された可能性もある)。
YouTubeヘルプによれば、「YouTubeで動画を公開したときに動画再生ページに表示される日付は、太平洋標準時(PST)に基づいています。」とされています(乙8)。
Googleでの検索の仕方によっては、同じ動画であるのに公開日が1月15日と表示されます(乙9)。
もちろん、特許権者のYouTubeの管理画面では、YouTubeの公開日は同年1月15日です(乙10)。
以上より、当該YouTubeの動画は、(iii)「第2項の規定の適用が認められた発明」の公開以降に公開された発明であるといえます。」(意見書第5ページ第26-39行)
一方、異議申立人は、特許権者の上記主張に対し、回答書1において以下の主張をしている。
「ここで、条件(iii)の『第2項の規定の適用が認められた発明」の公開以降に公開された発明であること。』における『公開以降』とは、時分までを含めた『公開以降』であるといえる。
甲第18号証の動画の公開日が平成31年1月15日であるとしても、特許権者により提出されたいずれの証拠においても、甲第18号証の動画の公開時刻が、甲第23号証のホームページの公開時刻よりも後であることは、記載されていない。
特許権者が自己申告により「もっとも、実際には、当該動画は、甲第23号証の公開と同日の平成31年1月15日に、かつその公開により時間的には後に公開しています。」と主張しているのみであり、甲第18号証の動画の公開時刻が、甲第23号証のホームページの公開時刻よりも後であることは、客観的に把握することはできない。」(回答書1第6ページ第20-24行)
特許権者は、異議申立人の上記主張に対し、令和3年4月19日提出の回答書(以下、単に「回答書2」という。)において、以下の主張をしている。
「すでに述べているとおり、特許権者は、甲第18号証の動画を甲第23号証よりも後に公開しています。乙第11号証、乙第12号証で示されているとおり、甲18号証の動画の公開日時は2019年1月15日午前10時30分、甲第23号証の公開日時は同日午前10時です。」(回答書2第1ページ第24-27行)

上記特許権者の主張および異議申立人の主張を検討する。
特許権者の、甲18発明が公開されたのは平成31年1月15日である、との主張は、乙8ないし乙10からみて妥当なものであるといえ、この点については回答書1の主張内容からみて、異議申立人も認めるところであると推認できる。
そして、条件(iii)の「公開以降」は、回答書2の上記主張及び乙11及び乙12から、「第2項の規定の適用が認められた発明」と同日(時分を含む)以降に公開されたものであると解されるから、甲18発明は、甲23発明の公開以降に公開されたものである。
よって、上記(ア)ないし(ウ)より、甲18発明については、甲23の証明書に基づいて特許法第30条第2項の規定の適用を受けることができるものである。

ウ まとめ
上記アの本件発明と甲18発明の対比において両者に相違点はないものの、上記イで述べたように甲18発明は、特許法第30条第2項の規定の適用により、特許法第29条第1項各号に至らなかった発明であるので、本件発明は、甲18発明ではなく、また、甲18発明に基づいて当業者が容易になし得たものでもない。

(2)甲5発明を主引例とする取消理由について
ア 甲5発明との対比
本件発明と、甲5発明を対比する。
甲5発明のトーストスチーマーは、陶磁器製であり、かつ水に浸して水分を吸わせることから、素焼きであることは明らかである。また、筐体に開放された空洞を有しており、
約4.6×3.6×9.7cmと小型である。よって、本件発明の「水分を十分に吸収できる素焼きの陶磁器製で、一部が開放された空洞の小型筐体形状とした加湿具」に相当する。
また、甲5発明は、トーストスチーマーをトースターに入れて、パンと一緒に焼くものであり、パンの内部の水分を保ちつつ焼き上げるから、本件発明の「パンと共にパン焼き用のトースター内に配置して、パンを加湿焼成するパン焼き方法」の構成を満たす。
よって、本件発明と甲5発明は、
「水分を充分に吸収できる素焼きの陶磁器製で、一部が開放された空洞の小型筐体形状とした加湿具を、パンと共にパン焼き用のトースター内に配置して、パンを加湿焼成することを特徴とするパン焼き方法。」
である点で一致し、相違点はない。

イ 甲5発明の公開日について
上記「1(5)甲5の記載等」で述べたとおり、甲5には、その第3ページの「登録情報」に、「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日:2019/1/24」とある。
この点について、特許権者は令和3年1月15日提出の意見書(以下、単に「意見書」という。)において、乙第1号証および乙第3号証(以下、それぞれ「乙1」、「乙3」という。)を証拠として、以下の主張をしている。
「そこで、『Amazon.co.jpでの取り扱い開始日』とはいかなる日なのかということが問題となりますが、これは、アマゾンに商品を『登録』した日のことです。」(意見書第2ページ第25-27行)
「そして、商品の『登録』と当該登録情報の『公開』は連動してなされるものではなく、商品の『登録』と『公開』は別途の手続きです(乙1、9頁「商品情報解禁日」の欄)。」(意見書第2ページ第32-34行)
「したがいまして、甲第5号証(第3頁)の「商品の説明」の記載「水に浸してからトースターに入れ、パンと一緒に焼くだけ。庫内にスチームが出て、パン内部の水分を保ちつつ、外はサクッ、中はふわっと美味しく焼き上げます。」は、商品の登録日ではなく、公開日にAmazonのサイト上で公開されたものです。
特許権者のamazon管理画面によれば、トーストスチーマーK712の「商品公開日」は平成31年2月22日とされています(乙3)。」(意見書第3ページ第3-9行)

特許権者の上記主張について検討する。
上記「1(12)甲12の記載等」で述べたとおり、甲12には、その第5ページの「【トーストスチーマー販売店】amazon買える?」の記載の下に掲載された画像及びリンクにある「マーナ トーストスチーマー K-712 新品価格 ¥3,980から(2019/1/28 21:30現在)」との記載がある。このことから、「マーナ トーストスチーマー K-712」は、2019年1月28日にはAmazonで販売されていたことが理解できる。一方、2019年1月28日より前に販売がされた事実は、甲12からも確認出来ない。
よって、特許権者の上記主張のうち、『Amazon.co.jpでの取り扱い開始日』が甲5の公開日とはいえない、すなわち2019年(平成31年)1月25日が公開日とはいえないことは認められるものの、甲5の公開日が平成31年2月22日であるとの主張は、甲12の上記記載からみて採用できず、甲12の上記記載のとおり甲5の公開日は、本件発明の出願日前である2019年(平成31年)1月28日といえる。

ウ 甲5発明が、特許法第30条第2項の規定の適用を受けることができるものか否かについて
上記「1(5)甲5の記載等」で述べたとおり、甲5には、その第1ページに「ブランド:マーナ(Marna)」の記載があり、甲5発明の公開行為は特許権者である株式会社マーナの「トーストスチーマー」の販売に起因するものと認められることから、甲5発明は、(i)特許権者が新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書として提出し、特許法第30条第2項の適用が認められた、甲第23号証に記載された発明(以下、「甲23発明」という。)と同一とみなすことができ、(ii)特許権者の株式会社マーナの甲23発明の公開行為と密接に関連する公開行為(Amazonでの販売)によって公開されたものであり、(iii)甲23発明の公開日である平成31年1月15日以降である平成31年1月28日に公開されたものである、と認められる。
よって、甲5発明については、甲23の証明書に基づいて特許法第30条第2項の規定の適用を受けることができるものである。

エ まとめ
上記アの本件発明と甲5発明の対比において両者に相違点はないものの、上記ウで述べたように甲5発明は、特許法第30条第2項の規定の適用により、特許法第29条第1項各号に至らなかった発明であるので、本件発明は、甲5発明ではなく、また、甲5発明に基づいて当業者が容易になし得たものでもない。

(3)甲14発明を主引例とする取消理由について
ア 甲14発明との対比
本件発明と甲14発明とを対比する。
甲14発明の「十分な吸水性を備えた素焼き製で開放された空洞を有しているトーストスチーマー」は、本件発明の「水分を充分に吸収できる素焼きの陶磁器製で、一部が開放された空洞の小型筐体形状とした加湿具」に相当する。
甲14発明は、トーストスチーマーをトースターに入れ、トーストにスチーム効果を付与しているから、トーストスチーマーをトーストするパンと一緒にトースター内に配置し、パンを焼き上げることは明らかであり、本件発明の「パンと共にパン焼き用のトースター内に配置して、パンを加湿焼成するパン焼き方法。」の構成を満たす。
よって、本件発明と甲14発明は、
「水分を充分に吸収できる素焼きの陶磁器製で、一部が開放された空洞の小型筐体形状とした加湿具を、パンと共にパン焼き用のトースター内に配置して、パンを加湿焼成することを特徴とするパン焼き方法。」
である点で一致し、相違点はない。

イ 甲14発明の公開日について
上記「1(14)甲14の記載等」で述べたとおり、甲14には、その第1ページの「2019年1月25日」の記載がある。
この記載について、特許権者は意見書において、乙第5号証(以下、「乙5」という。)を証拠として、以下の主張をしている。
「もっとも、instagramのユーザーは、アカウントを、自由に公開または非公開に設定することができます(乙5)。ユーザーが投稿した画像について、投稿した時点では非公開(又は限定して公開)としていたが、後になって公開の設定にするということはよくあることです。
特許権者は、今となっては、本件特許出願前において、instagramへ投稿された画像等(甲第14号証)がインターネット上で閲覧できる状態であったかどうかを確認できませんが、少なくとも、甲第14号証により、これらの画像等が、本件特許出願前にインターネット上で公開されていたことが認められるとまでは言えないと思われます。」(意見書第3ページ第28-36行)

一方、異議申立人は、特許権者の上記主張に対し、回答書1において、以下の主張をしている。
「甲第12号証の第4ページにおいて、甲第14号証の「hi_nd_i/軽率にきもの着てでかけたい。」によるinstagram投稿が取り上げられている。甲第12号証には、甲第14号証の内容を引用したうえ、『トーストスチーマーの効果が分かったところで、いよいよトーストスチーマーがどこに売られて、どこの販売店で買えるのかをシェアしたいと思います。』、『【トーストスチーマー販売店】楽天に売ってる? 大手ネット通販の楽天市場で『トーストスチーマー』を探してみましたところ売り切れ表示が続出していますが、現在も購入可能な販売店もあります※2019年1月28日現在』と記載されている。」(回答書1第2ページ第7-14行)
「甲第12号証には、第1ページにおいて、記事公開日『2019年1月28日』と最終更新日『2019年11月18日』が記載されている。この記事公開日と、上記の頁構成や各内容中の掲載日等を考慮すれば、第8ページの『まとめ』までは、少なくとも、平成31年(2019年)1月28日における公開記事であることは明らかである。
そうすれば、甲第12号証の第4ページに於いて掲載された、甲第14号証の「hi_nd_i/軽率にきもの着てでかけたい。」によるInstagram投稿は、甲第14号証の記載日時(2019年1月25日)のとおり、甲12号証の記事の作成時(2019年1月28日)までの時点において、インターネット上で公開されていたものと認められる。」(回答書1第2ページ第20行?第3ページ第5行)

上記回答書1の主張を検討すると、確かに甲12において甲14のinstagram投稿を引用していること、2019年1月28日に甲12の記事が公開されていることが認められる。一方で、甲12の「最終更新日:2019年11月18日」の記載から、甲12のウェブページは2019年1月28日に公開されて以降、2019年11月18日までの間に少なくとも1回更新がされていることがわかる。そうすると、甲14のinstagram投稿の引用が、本件発明の出願日以降になされた可能性は否定できない。
異議申立人は、「この記事公開日と、上記のページ構成や各内容中の掲載日等を考慮すれば、第8ページの『まとめ』までは、少なくとも、平成31年(2019年)1月28日における公開記事であることは明らかである。」と主張しているが、ウェブページは挿入等の編集が容易であること、いずれの箇所が更新されたかが不明であること、甲12の第4ページにある「トーストスチーマーの効果がわかったところで、」の記載が、必ずしも甲14のinstagram投稿の引用の存在のみを特定するものとはいえないことからみて、甲14のinstagram投稿の引用が、本件発明の出願日前になされたと認めるには至らない。
よって、甲12の記載をもって、甲14が2019年1月28日に公開されていたとまではいえないし、本件発明の出願日前に公開されていたともいえない。

ウ 甲14発明が、特許法第30条第2項の規定の適用を受けることができるものか否かについて
仮に甲14が本件発明の出願日前である2019年(平成31年)1月25日もしくは28日に公開されていたとして、さらに、特許法第30条第2項の規定の適用を受けることができるものか否かについて以下検討する。
上記「1(14)甲14の記載等」で述べたとおり、甲14には、その第1ページの「♯トーストスチーマー♯マーナ♯手前味噌ですけれど」との記載があり、甲14発明の公開行為は特許権者である株式会社マーナの「トーストスチーマー」の販売に起因し、「トーストスチーマー」を購入した第三者が行ったものと認められることから、甲14発明は、(i)特許権者が新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書として提出し、特許法第30条第2項の適用が認められた、甲23発明と同一とみなすことができ、(ii)特許権者の株式会社マーナもしくは株式会社マーナが公開を依頼した者のいずれでもない第三者によって公開されたものであり、(iii)甲23発明の公開日である平成31年1月15日以降の平成31年1月25日もしくは28日に公開されたものである、と認められる。
よって、甲14発明については、甲23の証明書に基づいて特許法第30条第2項の規定の適用を受けることができるものである。

エ まとめ
上記アの本件発明と甲14発明の対比において両者に相違点はないものの、上記ウで述べたように甲14発明は、特許法第30条第2項の規定の適用により、特許法第29条第1項各号に至らなかった発明であるので、本件発明は、甲14発明ではなく、また、甲14発明に基づいて当業者が容易になし得たものでもない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
異議申立人は、特許異議申立書において、甲第1ないし4号証、甲第6ないし13号証、甲第15ないし17号証、および甲第19ないし21号証を証拠として、「本件特許発明は、公然知られた発明、公然実施された発明、もしくは、引用文献等に記載された発明であり、又は、これら発明(必要に応じて甲18を組み合わせて)から当業者が容易に発明することができたものである」としている。
そこで、本件発明と、甲第1ないし4号証、甲第6ないし13号証、甲第15ないし17号証、および甲第19ないし21号証に記載された発明(以下、まとめて「甲1等発明」という。)を対比すると、少なくとも以下の相違点で相違している。
≪相違点≫
本件発明は、「一部が開放された空洞」を有しているのに対し、甲1等発明には一部が開放された空洞があるか不明な点。

上記相違点について検討すると、甲1等発明は、「一部が開放された空洞」を設けることを示唆する記載はなく、当業者にとって「一部が開放された空洞」を設けることが自明であるともいえない。また、甲1等発明のいずれかを組合せたとしても当業者が「一部が開放された空洞」の構成を導き出せるものでもない。なお、甲18は、上記1(1)で検討したように、「一部が開放された空洞」を有する発明であるが、特許法第29条第1項各号に至らなかった発明である。
よって、本件発明と、甲1等発明は同一であるとはいえず、また、上記相違点にかかる本件発明の構成は、甲1等発明に基いて当業者が容易に想到し得たものともいえない。
したがって、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由および特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明に係る特許は、取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-05-21 
出願番号 特願2019-12688(P2019-12688)
審決分類 P 1 651・ 112- Y (A47J)
P 1 651・ 113- Y (A47J)
P 1 651・ 121- Y (A47J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩瀬 昌治  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 平城 俊雅
林 茂樹
登録日 2020-01-31 
登録番号 特許第6653984号(P6653984)
権利者 株式会社マーナ
発明の名称 パン焼き方法  
代理人 渡邉 宏毅  
代理人 沼野 友香  
代理人 鳥飼 重和  

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