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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1374960
異議申立番号 異議2020-700482  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-13 
確定日 2021-06-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6635403号発明「樹脂付銅箔、銅張積層板、プリント配線板及び多層配線板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6635403号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6635403号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年12月28日(優先権主張 平成27年12月28日 平成26年12月26日)の出願であって、令和元年12月27日に特許権の設定登録がされ、令和2年1月22日に特許掲載公報が発行された。その特許について令和2年7月13日に特許異議申立人合同会社SAS(以下「申立人」という。)により本件特許異議の申立てがされ、令和2年9月29日付けで取消理由が通知され、特許権者より令和2年11月26日に意見書が提出され、令和3年2月2日付けで申立人に対して審尋を行い、令和3年4月2日に申立人より意見書が提出されたものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1?6」という。)は、本件特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸無水物(a1)及びダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン(a2)を反応成分とするポリイミド樹脂(A)並びに熱硬化性樹脂(B)を含む樹脂組成物からなる層と銅箔とを構成要素とし、
前記樹脂組成物の硬化物の10GHzにおける誘電率が3.0以下であり、かつ誘電正接が0.011以下である高周波プリント配線板用樹脂付銅箔。
【請求項2】
(a2)成分が更に脂環式ジアミン及び/又はジアミノポリシロキサンを含む、請求項1の高周波プリント配線板用樹脂付銅箔。
【請求項3】
(B)成分が、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ビスマレイミド樹脂及びシアネートエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2の高周波プリント配線板用樹脂付銅箔。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかの高周波プリント配線板用樹脂付銅箔を一要素とする銅張積層板。
【請求項5】
請求項4の銅張積層板の少なくとも一の銅箔に回路パターンを形成してなるプリント配線板。
【請求項6】
請求項5のプリント配線板を一要素とする多層配線板。」


第3 令和2年9月29日付けで通知した取消理由の概要
令和2年9月29日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

(進歩性)下記の請求項1?6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第2号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


<引用文献等>(令和3年4月2日の意見書に添付して提出された甲第8?12号証も含む。)
甲第1号証:特開2004-358961号公報
甲第2号証:特開2013-199645号公報
甲第3号証:特開2013-32501号公報
甲第4号証:特開2012-221968号公報
甲第5号証:特開2005-33107号公報
甲第6号証:特開2014-141603号公報
甲第7号証:再公表2012/121164号公報


第4 令和2年9月29日付けで通知した取消理由についての当審の判断
1 甲第2号証を主引用発明とした本件発明1の進歩性について
(1) 甲第2号証記載の事項
甲第2号証には、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸類(a1)およびダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン類(a2)を反応させてなるポリイミド樹脂(A)、熱硬化性樹脂(B)、難燃剤(C)、ならびに有機溶剤(D)を含むポリイミド系接着剤組成物。」
イ 「【請求項13】
請求項1?12のいずれかのポリイミド系接着剤組成物をシート基材に塗布し、乾燥させることによって得られる接着シート。
【請求項14】
請求項13の接着シートの接着面に更にシート基材を熱圧着させることにより得られる積層体。
【請求項15】
請求項14の積層体を更に加熱することによって得られる積層体。
【請求項16】
請求項15の積層体を用いてなるフレキシブルプリント基板。」
ウ 「【背景技術】
【0001】
電化製品や電子機器に用いるプリント回路基板(ビルドアップ基板)の作製に用いる接着剤としては従来、耐熱性や柔軟性、回路基板への密着性等に優れる芳香族系のポリイミド樹脂が賞用されてきた。また、芳香族系ポリイミド樹脂は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と組み合わせることにより、半導体素子等の電子部品を搬送するための仮固定手段であるキャリアテープないしシートの接着剤としても汎用されており、電化製品や電子機器を製造するうえで欠かせない材料となっている。」
エ 「【0059】
本発明のフレキシブルプリント基板は、前記積層体を用いたものであり、当該積層体の無機基材面に更に前記接着シートの接着面を貼りあわせることにより得られる。当該フレキシブルプリント基板としては、有機基材としてポリイミドフィルムを、無機基材として金属箔(特に銅箔)を用いたものが好ましい。そして、かかるフレキシブルプリント基板の金属表面をソフトエッチング処理して回路を形成し、そのうえに更に前記接着シートを貼りあわせて熱プレスすることにより、フレキシブルプリント配線基板が得られる。」
オ 「【0089】
<フレキシブルプリント配線板の作製>
実施例1に係る接着剤組成物を、ポミランN25に乾燥後の厚みが30μmとなるようギャップコーターにて塗布し、180℃で3分間乾燥させることによって、接着シートを得た。次いで、該接着シートの接着剤面に前記電解銅箔(F2-WS)の処理面を重ね合わせ、180℃のラミネートロールで圧着した後、200℃,2時間処理することによってフレキシブル銅張積層板を得た。この銅張積層板の銅表面をソフトエッチング処理し、銅回路を形成し、その上にさらに前記方法で得た積層体(1)(実施例1に係る本発明の接着剤組成物の使用)を重ねあわせ、圧力10MPa、180℃及び1分間の条件で加熱プレスした後、更に200℃で1時間加熱することにより、フレキシブルプリント配線板を作製することができた。また、他の実施例の接着剤組成物についても同様にしてフレキシブルプリント配線板を作製できたことを確認した。」

(2)甲2発明
上記【0059】及び【0089】に着目して、請求項16に係る発明を整理すると、甲第2号証には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「芳香族テトラカルボン酸類(a1)およびダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン類(a2)を反応させてなるポリイミド樹脂(A)、熱硬化性樹脂(B)、難燃剤(C)、ならびに有機溶剤(D)を含むポリイミド系接着剤組成物を、シート基材に塗布し、乾燥させた接着シートの接着面に更に銅箔を熱圧着させることにより得られた積層体を更に加熱することによって得られる、フレキシブルプリント基板に用いる積層体。」

(3)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
ア 甲2発明の「芳香族テトラカルボン酸類(a1)」は、その機能構造から、本件発明1の「芳香族テトラカルボン酸無水物(a1)」に相当し、同様に「ダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン類(a2)」は「ダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン(a2)」に、「熱硬化性樹脂(B)」は「熱硬化性樹脂(B)」に、「銅箔」は「銅箔」にそれぞれ相当する。
イ 甲2発明の「芳香族テトラカルボン酸類(a1)およびダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン類(a2)を反応させてなるポリイミド樹脂(A)」は、本件発明1の「芳香族テトラカルボン酸無水物(a1)及びダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン(a2)を反応成分とするポリイミド樹脂(A)」に相当する。
ウ 甲2発明の「ポリイミド樹脂(A)、熱硬化性樹脂(B)、難燃剤(C)、ならびに有機溶剤(D)を含むポリイミド系接着剤組成物」は、甲2発明の「ポリイミド樹脂(A)並びに熱硬化性樹脂(B)を含む樹脂組成物」に相当する。
エ 甲2発明の「ポリイミド系接着剤組成物を、シート基材に塗布し、乾燥させた接着シートの接着面に更に銅箔を熱圧着させることにより得られた積層体を更に加熱することによって得られる、」「積層体」は、ポリイミド系接着剤組成物の層と銅箔とを構成要素としているから、本件発明1の「樹脂組成物からなる層と銅箔とを構成要素とし」たものに相当する。
オ 甲2発明の「フレキシブルプリント基板に用いる積層体」と、本件発明1の「高周波プリント配線板用樹脂付銅箔」とは、プリント配線板用樹脂付銅箔の限りで一致する。

本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「芳香族テトラカルボン酸無水物(a1)及びダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン(a2)を反応成分とするポリイミド樹脂(A)並びに熱硬化性樹脂(B)を含む樹脂組成物からなる層と銅箔とを構成要素としたプリント配線板用樹脂付銅箔。」

<相違点1>
本件発明1は、「高周波プリント配線板用」であって、「前記樹脂組成物の硬化物の10GHzにおける誘電率が3.0以下であり、かつ誘電正接が0.011以下である」のに対して、甲2発明は、フレキシブルプリント基板に用いるが、ポリイミド系接着剤組成物の誘電率及び誘電正接が不明である点。

(4)判断
ア <相違点1>について
甲第2号証には、電化製品や電子機器のプリント回路基板に用いることが記載されており(【0001】)、プリント基板において、近年高周波帯域での優れた誘電特性を有する電子材料とそれを用いたプリント基板の開発が求められており(甲第6号証の【0002】)、甲第1号証(【0033】)には、10GHzにおける誘電率が2.8以下とすること、甲第4号証には、10GHzにおける誘電率が3.2以下(【0018】)、具体的には、3.0や2.9(【0141】の【表1】)とし、誘電正接を0.0010以下とすること(【0018】)が記載されているとしても、組成物の構成が異なる場合、その誘電率及び誘電正接が異なることが技術常識であるから、甲2発明の「芳香族テトラカルボン酸類(a1)およびダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン類(a2)を反応させてなるポリイミド樹脂(A)、熱硬化性樹脂(B)、難燃剤(C)、ならびに有機溶剤(D)を含むポリイミド系接着剤組成物」において、「10GHzにおける誘電率が3.0以下であり、かつ誘電正接が0.011以下」とすることが、容易にできたことを示す証拠はない。

イ 申立人の主張
申立人は、令和3年4月2日の意見書において、甲4及び8?12号証を挙げて、甲2発明において、「10GHzにおける誘電率が3.0以下であり、かつ誘電正接が0.011以下」とすることが、容易にできた旨主張する。
しかし、甲第4、11及び12号証は、「芳香族テトラカルボン酸類(a1)およびダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン類(a2)を反応させてなるポリイミド樹脂(A)、熱硬化性樹脂(B)、難燃剤(C)、ならびに有機溶剤(D)を含むポリイミド系接着剤組成物」ではない。
また、甲第8号証の【表4】(【0170】)の実施例1?6は、10GHzにおける誘電率が3.0以下であるが、誘電正接が0.011以下ではない。
甲第9号証には、同一のポリイミド樹脂に様々な種類や量の熱硬化性樹脂や添加剤を用いることで10GHzにおける誘電率や誘電正接が変化することが記載されている([0161]、[表1]、[0162]、[表2])が、「芳香族テトラカルボン酸類(a1)およびダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン類(a2)を反応させてなるポリイミド樹脂(A)、熱硬化性樹脂(B)、難燃剤(C)、ならびに有機溶剤(D)を含むポリイミド系接着剤組成物」において、「10GHzにおける誘電率が3.0以下であり、かつ誘電正接が0.011以下」とするための方法は、示唆する記載もない。
甲第10号証には、異なる水分量条件下でポリイミド樹脂の誘電率等が大きく変化することが記載されているが、本件発明1の誘電率や誘電正接は、本件特許明細書の【0070】?【0071】の測定方法によることは明らかであるから、甲2発明の「芳香族テトラカルボン酸類(a1)およびダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン類(a2)を反応させてなるポリイミド樹脂(A)、熱硬化性樹脂(B)、難燃剤(C)、ならびに有機溶剤(D)を含むポリイミド系接着剤組成物」において、水分量を調整することで「10GHzにおける誘電率が3.0以下であり、かつ誘電正接が0.011以下」とすることができたとまではいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

<意見書に添付された甲各号証>
甲第8号証:特開2006-348086号公報
甲第9号証:国際公開第2005/080466号
甲第10号証:福永香 他1名、”プリント配線板用絶縁材料の高周波誘電特性にあたえる水分の影響”、第21回エレクトロニクス実装学会講演大会、2008年1月11日、
甲第11号証:特開2005-42091号公報
甲第12号証:特開平4-306233号公報

ウ 本件発明1の奏する効果について
そして、本件発明1は、「10GHzにおける誘電率が3.0以下であり、かつ誘電正接が0.011以下」とすることで、高周波の電気信号の伝送損失が小さいプリント配線基板を得ることができるという格別な効果を奏するものである。

(5)小括
したがって、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

2 甲第6号証を主引用発明とした本件発明1の進歩性について
(1)甲第6号証記載の事項
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電率、低誘電正接であり、さらには金属への接着性に優れた高耐熱性の接着剤組成物に関するものであり、この接着剤組成物をシート状に成型してなる接着シート、及び、絶縁フィルムの片面にこの接着剤組成物からなる接着シートを設けた接着シート付き絶縁フィルムを提供することを目的とするものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野の発展が目覚ましく、大量の情報を高速で処理する必要が生じ、電子機器、通信機器等に用いられるプリント配線板に使用される信号の周波数帯は、メガHz帯からギガHz帯に移行しつつある。しかしながら、電気信号は周波数が高くなるほど、電気信号の伝送損失が大きくなるという問題があり、このような問題に対応するため、高周波帯域での優れた誘電特性を有する電子材料とそれを用いたプリント配線板の開発が強く求められている。
【0003】
一般に電気信号の伝送損失は、配線周りの絶縁層の誘電特性等に起因する誘電体損失と、導体の形状、表皮抵抗、特性インピーダンス等に起因する導体損失からなるとされているが、高周波回路の場合は誘電体損失の影響が大きく、誘電体損失が材料の比誘電率の平方根と材料の誘電正接の積に比例して大きくなるため、比誘電率と誘電正接がいずれも小さい材料が求められている。そのため、プリント配線板の配線周りの接着剤およびコーティング剤には、従来から求められていた高度なフレキシブル性、接着性、高い電気絶縁性、熱安定性等に加え、低い誘電特性が求められているのが現状である。」
イ 「【0108】
また、複数のフレキシブルプリント配線の間に、本発明の接着剤組成物から剥離性基材を剥がしてなる硬化性接着剤層を挟み、加熱・加圧することによって、接着剤組成物を硬化させ、多層フレキシブルプリント配線板を得ることもできる。さらに、本発明の接着剤組成物を用いて、銅箔と耐熱性絶縁性フレキシブル基材とを積層することもできる。」
ウ 「【0122】
[イミド樹脂の合成例1]
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、導入管、温度計を備えた4口フラスコに、セバシン酸20.2部、無水ピロメリット酸21.8部、ダイマージアミン(クローダジャパン(株)製「プリアミン1074」)97.6部を仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、30分後に温度を120℃に昇温し、その後、30分毎に10℃ずつ昇温しながら脱水反応を続けた。温度が230℃になったら、そのままの温度で3時間反応を続け、約2kPaの真空下で1時間保持し、温度を低下し、トルエン75部、2-プロパノール75部で希釈して、カルボキシル基含有イミド樹脂を得た。重量平均分子量は3.5万、酸価は22KOHmg/gであった。
【0123】
(実施例1)
分子内に少なくとも1個以上の3級窒素原子を有するエポキシ化合物(A)として、jER604(三菱化学(株)製、多官能グリシジルアミン化合物)100部、カルボシキル基含有高分子化合物(B)として、アクリル樹脂の合成例1で得られた樹脂固形分1000部、熱硬化助剤としてケミタイトPZ(日本触媒(株)製、多官能アジリジン化合物)10部を混合し、接着剤組成物を得た。この接着剤組成物を剥離処理されたポリエステルフィルム上に、乾燥後の膜厚が30μmとなるように均一に塗工して乾燥させ、接着剤層を設けた。次に、剥離処理された別のポリエステルフィルムを接着剤層側にラミネートし、両面保護フィルム付きの接着シートを得た。
【0124】
(実施例2?30、比較例1?10)
実施例1の原料を表1に記載された原料に変更した以外は、実施例1と同様に行い接着シートを作成した。
【0125】
(実施例31)
分子内に少なくとも1個以上の3級窒素原子を有するエポキシ化合物(A)として、GAN(三菱ガス化学(株)製、二官能グリシジルアミン化合物)100部、カルボシキル基含有高分子化合物(B)として、エステル樹脂の合成例1で得られた樹脂固形分2000部、フィラー(C)として、KTL-500F((株)喜多村製、ポリテトラフルオロエチレン粉末)50部、熱硬化助剤としてEp1031s(三菱化学(株)製、多官能エポキシ化合物)50部を混合し、接着剤組成物を得た。この接着剤組成物を剥離処理されたポリエステルフィルム上に、乾燥後の膜厚が30μmとなるように均一に塗工して乾燥させ、接着剤層を設けた。次に、剥離処理された別のポリエステルフィルムを接着剤層側にラミネートし、両面保護フィルム付きの接着シートを得た。
【0126】
(実施例32?40、比較例11?15)
実施例31の原料を表1に記載された原料に変更した以外は、実施例31と同様に行い接着シートを作成した。
【0127】
【表1】

【0128】
jER604:三菱化学(株)製、多官能グリシジルアミン化合物
jER630:三菱化学(株)製、多官能グリシジルアミン化合物
TETRAD-C:三菱ガス化学(株)製、多官能グリシジルアミン化合物
GAN:日本化薬(株)製、2官能グリシジルアミン化合物
GOT:日本化薬(株)製、2官能グリシジルアミン化合物
KTL-500F:(株)喜多村製、ポリテトラフルオロエチレン粉末
SS50F:東ソーシリカ(株)製、疎水性シリカフィラー
OP935:クラリアントジャパン(株)製、ホスフィン酸アルミニウム化合物
Ep1031s:三菱化学(株)製、多官能芳香族エポキシ化合物
jER806:三菱化学(株)製、ビスフェノールF型エポキシ化合物
ケミタイトPZ:日本触媒(株)製、多官能アジリジン化合物
TD2131:DIC(株)製、フェノールノボラック樹脂
カルボジライトV07:日清紡(株)製、ポリカルボジイミド化合物
【0129】
<評価>
実施例および比較例で得られた接着シートについて、誘電特性、フレキシブル性、接着性、電気絶縁性、熱安定性の指標として半田浴耐性、半田後接着強度を以下の方法で評価した。評価結果を表2、表3に示す。
【0130】
(1)誘電率
実施例及び比較例で作成した両面保護フィルム付き接着シートの片側の保護フィルムを除去し、接着シート同士を真空ラミネートし、厚さ1mmの試験片を作製した後、160℃、1.0MPaの条件で1時間熱硬化させ、評価用試験片を作製した。この試験片について、(株)エー・イー・ティー製誘電率測定装置を用い、同軸共振器法により、測定温度23℃、測定周波数1GHzにおける誘電率および誘電正接を求めた。
◎・・・誘電率が2.8以下である
○・・・誘電率が2.8より大きく3.0以下である
△・・・誘電率が3.0より大きく3.2以下である
×・・・誘電率が3.2より大きい
【0131】
(2)誘電正接
◎・・・誘電正接が0.02以下である
○・・・誘電正接が0.02より大きく0.03以下である
△・・・誘電正接が0.03より大きく0.05以下である
×・・・誘電正接が0.05より大きい
【0132】
(3)フレキシブル性
接着剤組成物を、厚さが75μmのポリイミドフィルム[東レ・デュポン(株)製「カプトン300H」]上に、乾燥後の膜厚が30μmになるように均一に塗工して乾燥させ、さらに、この試験片を160℃で1時間熱硬化させ、評価用試験片を作成した。評価用試験片を180度に折り曲げ、同じ部分を逆側にも180度折り曲げた。その時の塗膜の状態を次の基準で判断した。
○・・・膜面にクラック(ひび割れ)が見られない
△・・・膜面にわずかにクラックが見られる
×・・・膜が割れ、膜面にはっきりとクラックが見られる
【0133】
(4)接着性
実施例及び比較例で作成した両面保護フィルム付き接着シートの片側の保護フィルムを除去した、65mm×65mmの大きさの接着シートを、厚さが75μmのポリイミドフィルム[東レ・デュポン(株)製「カプトン300H」]と厚さが45μmの銅張積層板との間に挟み、80℃でラミネートし、続いて160℃、1.0MPaの条件で5分間圧着処理を行った。さらに、この試験片を160℃1時間熱硬化させ、評価用試験片を作製した。この試験片を幅10mm、長さ65mmに切り出し、23℃相対湿度50%の雰囲気下で、引っ張り速度300mm/minでTピール剥離試験を行い、接着強度(N/cm)を測定した。この試験は、常温使用時における接着層の接着強度を評価するものであり、結果を次の基準で判断した。
◎・・・接着力が15(N/cm)以上である
○・・・接着力が10(N/cm)以上15(N/cm)未満である
△・・・接着力が5(N/cm)以上10(N/cm)未満である。
×・・・接着力が5(N/cm)未満である。」

(2)甲6発明
甲第6号証の実施例10又は実施例16について、【0108】の銅箔と耐熱性絶縁性フレキシブル基材とを積層したものに着目すると、甲第6号証には、以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されている。
「JER604を100部、又はTETRAD?C50部とGAN50部と、
セバシン酸20.2部、無水ピロメリット酸21.8部、ダイマージアミン(クローダジャパン(株)製「プリアミン1074」)97.6部を仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、脱水反応を続け、約2kPaの真空下で1時間保持し、温度を低下し、トルエン75部、2-プロパノール75部で希釈して、カルボキシル基含有イミド樹脂を600部と、
ケミタイト10部、又はEp1031s10部とを混合した接着剤組成物からなる両面保護フィルム付きの接着シートを用いて、銅箔と耐熱性絶縁性フレキシブル基材とを積層したもの。」

(3)対比
本件発明1と甲6発明とを対比する。
ア 甲6発明の「無水ピロメリット酸」は、その機能構造から、本件発明1の「芳香族テトラカルボン酸無水物(a1)」に相当し、同様に「ダイマージアミン(クローダジャパン(株)製「プリアミン1074」)」は「ダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン(a2)」に、「JER604」又は「TETRAD?C50部とGAN50部」は「熱硬化性樹脂(B)」に、「銅箔」は「銅箔」にそれぞれ相当する。
イ 甲6発明の「JER604を100部、又はTETRAD?C50部とGAN50部と、セバシン酸20.2部、無水ピロメリット酸21.8部、ダイマージアミン(クローダジャパン(株)製「プリアミン1074」)97.6部を仕込み、発熱の温度が一定になるまで撹拌した。温度が安定したら110℃まで昇温し、水の流出を確認してから、脱水反応を続け、約2kPaの真空下で1時間保持し、温度を低下し、トルエン75部、2-プロパノール75部で希釈して、カルボキシル基含有イミド樹脂を600部と、ケミタイト10部、又はEp1031s10部とを混合した接着剤組成物からなる両面保護フィルム付きの接着シート」は、本件発明1の「芳香族テトラカルボン酸無水物(a1)及びダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン(a2)を反応成分とするポリイミド樹脂(A)並びに熱硬化性樹脂(B)を含む樹脂組成物からなる層」に相当する。
ウ 甲6発明の「両面保護フィルム付きの接着シートを用いて、銅箔と耐熱性絶縁性フレキシブル基材とを積層したもの」は、接着シートと銅箔とを構成要素としているから、本件発明1の「樹脂組成物からなる層と銅箔とを構成要素とし」たものに相当する。
オ 甲6発明の「両面保護フィルム付きの接着シートを用いて、銅箔と耐熱性絶縁性フレキシブル基材とを積層したもの」は、【0002】等を参照すると、本件発明1の「高周波プリント配線板用樹脂付銅箔」に相当する。

本件発明1と甲6発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「芳香族テトラカルボン酸無水物(a1)及びダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン(a2)を反応成分とするポリイミド樹脂(A)並びに熱硬化性樹脂(B)を含む樹脂組成物からなる層と銅箔とを構成要素とした高周波プリント配線板用樹脂付銅箔。」
<相違点2>
本件発明1は、「前記樹脂組成物の硬化物の10GHzにおける誘電率が3.0以下であり、かつ誘電正接が0.011以下である」のに対して、甲6発明は、10GHzにおける接着シートの誘電率及び誘電正接が不明である点。

(4)判断
ア <相違点2>について
甲第6号証(【0002】、【0003】)には、メガHz帯からギガHz帯に移行しつつあり、配線周りの絶縁層として、誘電率と誘電正接のいずれもが小さい材料が求められていることが記載されている。
しかし、組成物の構成が異なる場合、その誘電率及び誘電正接が異なることが技術常識であるから、甲6発明の「接着剤組成物からなる両面保護フィルム付きの接着シート」において、「10GHzにおける誘電率が3.0以下であり、かつ誘電正接が0.011以下」とすることが、容易にできたことを示す証拠はない。

イ 本件発明1の奏する効果について
そして、本件発明1は、「10GHzにおける誘電率が3.0以下であり、かつ誘電正接が0.011以下」とすることで、高周波の電気信号の伝送損失が小さいプリント配線基板が得られるという格別な効果を奏するものである。

(5)小括
したがって、本件発明1は、甲6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

3 本件発明2?6の進歩性について 本件発明2?6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記1及び2と同じ理由で、本件発明2?6は、甲2発明又は甲6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明2?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。


第5 令和2年9月29日付けで通知した取消理由以外の異議申立の理由についての当審の判断
1 甲第1号証を主引用例とした本件発明1の進歩性について
(1)甲1発明
甲第1号証の実施例2(【0016】、【0052】、【0053】、【0056】、【0057】等)には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物11.2g(0.05モル)と溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン40.0gを仕込んで溶解させ、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン10.5g(0.05モル)を45.0gのジメチルアセトアミドに溶解した溶液を滴下、撹拌し、次に共沸脱水溶剤としてキシレン30.0gを添加して反応させ、ディーンスタークでキシレンを還流させて、共沸してくる生成水を分離し、1時間かけて190℃に昇温しながらキシレンを留去し30.0gを回収した後、内温が60℃になるまで空冷して反応液を取り出したポリイミド溶液を、
厚さ18μmの電解銅箔上に塗布して得た片面フレキシブル銅張り積層体であって、
ポリイミド溶液のシートが、10GHzにおける誘電率が2.80であり、かつ誘電正接が0.017である高周波用のプリント配線基板に用いる片面フレキシブル銅張り積層体。」

(2)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点3>
本件特許発明1は、「芳香族テトラカルボン酸無水物(a1)及びダイマージアミンを30モル%以上含むジアミン(a2)を反応成分とするポリイミド樹脂(A)並びに熱硬化性樹脂(B)を含む樹脂組成物」であるのに対して、甲1発明は、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物11.2g(0.05モル)と溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン40.0gを仕込んで溶解させ、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン10.5g(0.05モル)を45.0gのジメチルアセトアミドに溶解した溶液を滴下、撹拌し、次に共沸脱水溶剤としてキシレン30.0gを添加して反応させ、ディーンスタークでキシレンを還流させて、共沸してくる生成水を分離し、1時間かけて190℃に昇温しながらキシレンを留去し30.0gを回収した後、内温が60℃になるまで空冷して反応液を取り出したポリイミド溶液である点。
<相違点4>
10GHzにおける誘電率が3.0以下である範囲の誘電正接について、本件特許発明1は、「0.011以下である」のに対して、甲1発明は、0.011以下である点。

(3)判断
ア <相違点3>及び<相違点4>について
組成物の構成が異なる場合、その誘電率及び誘電正接が異なることが技術常識であるから、甲1発明の「ポリイミド溶液」において、「10GHzにおける誘電率が3.0以下であり、かつ誘電正接が0.011以下」とすることが、容易にできたことを示す証拠はない。

イ 本件発明1の奏する効果について
そして、本件発明1は、「10GHzにおける誘電率が3.0以下であり、かつ誘電正接が0.011以下」とすることで、高周波の電気信号の伝送損失が小さいプリント配線基板を得られるという格別な効果を奏するものである。

(4)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

2 甲第1号証を主引用例とした本件発明2?6の進歩性について
本件発明2?6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記1と同じ理由で、本件発明2?6は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、取消理由及び異議申立の理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-05-31 
出願番号 特願2015-255911(P2015-255911)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 佐々木 正章
藤井 眞吾
登録日 2019-12-27 
登録番号 特許第6635403号(P6635403)
権利者 荒川化学工業株式会社
発明の名称 樹脂付銅箔、銅張積層板、プリント配線板及び多層配線板  

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