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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1374978
異議申立番号 異議2020-700982  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-17 
確定日 2021-06-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6709586号発明「カーボンブラック分散液およびその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6709586号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6709586号の請求項1?9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成26年8月26日の出願であって、令和2年5月27日にその特許権の設定登録がなされ、同年6月17日に特許掲載公報が発行され、その後、同年12月17日付けで特許異議申立人水野智之(以下、「申立人」という。)より請求項1?9(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、令和3年3月1日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年4月28日付けで特許権者より意見書が提出されたものである。

2 本件発明
(1)本件発明1?9
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
カーボンブラックと、バインダーと、酸性化合物と、分散剤と、Niおよび/またはMnを含むリチウムとの複合酸化物である正極活物質と、N-メチル-2-ピロリドンとを含むカーボンブラック分散液であって、バインダーが少なくともフッ素原子を有する高分子化合物を含み、分散剤が、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を重合体鎖中に50?95mol%含有するポリビニルアルコールであり、カーボンブラック100質量部に対する分散剤が0.2質量部以上、20質量部以下含有してなり、さらに、正極活物質100質量部に対する、前記分散剤と酸性化合物の合計量が、0.05質量部以上、2.5質量部以下であることを特徴とする、電池用カーボンブラック分散液であり、酸性化合物が、分子量が60以上200以下の、有機酸または1,3-ジケトンである電池用カーボンブラック分散液。
一般式(A)
【化A】


【請求項2】
正極活物質100質量部に対する前記フッ素原子を有する高分子化合物が、0.5質量部以上、20質量部未満含有してなることを特徴とする、請求項1記載の電池用カーボンブラック分散液。
【請求項3】
正極活物質100質量部に対する分散剤が、0.04質量部以上、2質量部未満含有してなることを特徴とする、請求項1または2記載の電池用カーボンブラック分散液。
【請求項4】
正極活物質100質量部に対する酸性化合物が、0.01質量部以上、1質量部未満含有してなることを特徴とする、請求項1?3いずれか記載の電池用カーボンブラック分散液。
【請求項5】
上記酸性化合物が、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基およびチオール基からなる群より選ばれた1種以上の酸性官能基を有する有機酸または1,3-ジケトンであることを特徴とする、請求項1?4いずれか記載のカーボンブラック分散液。
【請求項6】
酸性化合物が、分子中に酸性官能基を1または2個有することを特徴とする、請求項1?5いずれか記載のカーボンブラック分散液。
【請求項7】
正極活物質100質量部に対する、前記分散剤と酸性化合物の合計量が、0.15質量部以上であることを特徴とする、請求項1?6いずれか記載の電池用カーボンブラック分散液。
【請求項8】
請求項1?7いずれか記載の電池用カーボンブラック分散液を塗布してなる電池電極合材層。
【請求項9】
集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極が、請求項8記載の電池電極合材層を具備してなるリチウムイオン二次電池。」

3 令和3年3月1日付けで通知された取消理由の概要
令和3年3月1日付けで通知された取消理由の概要は、概ね以下のとおりである。

(1)本件の発明の詳細な説明には、その実施例に、正極活物質としてLiMn_(0.3)Co_(0.2)Ni_(0.5)O_(2)を用いたもののみが記載されており、それ以外の組成の正極活物質を用いた場合に、本件発明の課題を解決し得ることが記載されているとはいえず、本件発明1?9は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許は、その特許請求の範囲の請求項1?9の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

4 上記3以外の異議申立理由
申立人は、上記3以外の異議申立理由として、次の証拠を挙げた上で、下記(1)及び(2)の異議申立理由を主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:特許第5454725号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:特開2009-123463号公報(以下、「甲2」という。)
甲第3号証:特開平10-79244号公報(以下、「甲3」という。)
甲第4号証:特開2014-120381号公報(以下、「甲4」という。)

(1)本件特許の請求項1?9に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲1?甲4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)本件の発明の詳細な説明の実施例には、参考例(実施例1-2)の電池用カーボンブラック分散液よりも発明の効果が大きく劣っているもの、すなわち、本件発明の課題を解決し得ないものが多数含まれており、本件発明1?9は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許は、その特許請求の範囲の請求項1?9の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

5 当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号について
(1)-1 上記3の理由
ア 本件発明の解決しようとする課題は、願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の記載によれば、「従来公知の高分子型分散剤を単独で用いて得たカーボンブラック分散液と比較して、分散液の貯蔵安定性に優れた、N-メチル-2-ピロリドンを溶剤とする電池用カーボンブラック分散液を提供すること」及び「長期貯蔵後の分散液を用いても塗膜にした際の基材に対する密着性に優れ、均質で良好な塗膜物性が得られる、電池電極合材液および電池電極合材層を提供すること」(【0013】)であると認められる。

イ そして、本件明細書の実施例の記載において、正極活物質としてLiMn_(0.3)Co_(0.2)Ni_(0.5)O_(2)を用いた実施例1-1?1-27のカーボンブラック分散液が、経時後粘性(すなわち、貯蔵安定性)について良好であり(表1参照。)、また、正極活物質としてLiMn_(0.3)Co_(0.2)Ni_(0.5)O_(2)を用いた実施例2-1?2-23の正極合材層が、塗膜外観及び密着性について良好であり(表3参照。)、上記アの課題を解決することが示されている。

ウ 一方、異議申立人が提出した甲3には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。以下、同じ。
「【0003】上記リチウム- 遷移金属複合酸化物としてLiCoO_(2 )を用いたリチウムイオン二次電池が実用化されているが、より高い放電容量および原料の低価格、安定供給といった観点からLiNiO_(2 )が注目を浴びている。しかしながら、正極活物質としてLiNiO_(2 )を使用し正極を作製する場合、その結着剤および導電材との混合物であるペーストのゲル化が問題となっていた。ペーストのゲル化とは粘度が増加することによりその流動性や均一性が失われた状態を指し、ゲル化が極度に進行した場合は集電体への塗工が不可能となる。たとえ軽度のゲル化であっても、それは作成した電極シートの抵抗値等に大きく関与し、その放電容量、電流密度依存性あるいは低温特性といった電池特性を低下させることになるため、ペーストのゲル化を防止することが、電極作成上解決すべき重大な課題となっていた。」

エ 上記ウによれば、正極活物質としてLiNiO_(2 )を使用し正極を作製する場合、ペーストがゲル化し、粘度が増加することによりその流動性や均一性が失われ、ゲル化が極度に進行した場合は集電体への塗工が不可能となるとのことであり、一方で、LiCoO_(2 )を用いたリチウムイオン二次電池が実用化されているとのことであるから、正極活物質としてLiNiO_(2 )を使用した場合には、ペーストのゲル化が起こるが、LiCoO_(2 )を使用した場合には、ペーストのゲル化はほとんど問題とならない程度のものと考えられる。すなわち、使用する正極活物質の材料により、ペーストのゲル化が起こったり、ほとんど問題とならなかったりすることとなる。

オ そうすると、上記イより、正極活物質としてLiMn_(0.3)Co_(0.2)Ni_(0.5)O_(2)を用いた場合については、貯蔵安定性及び密着性に係る上記課題を解決し得るといえるものの、上記エより、使用する正極活物質の材料により、ペーストのゲル化が起こったり、ほとんど問題とならなかったりするから、正極活物質としてLiMn_(0.3)Co_(0.2)Ni_(0.5)O_(2)以外のものを用いた場合、ペーストのゲル化が起こることも否定できず、上記アの「従来公知の高分子型分散剤を単独で用いて得たカーボンブラック分散液と比較して、分散液の貯蔵安定性に優れた、N-メチル-2-ピロリドンを溶剤とする電池用カーボンブラック分散液を提供すること」及び「長期貯蔵後の分散液を用いても塗膜にした際の基材に対する密着性に優れ、均質で良好な塗膜物性が得られる、電池電極合材液および電池電極合材層を提供すること」という課題を解決するかが不明であるといわざるをえない。

カ そこで、本件明細書には、本件発明が上記アの課題を解決し得る機序が明記されていないものの、本件発明が上記アの課題を解決し得るものであるかについて検討するにあたり、本件明細書を参照すると、次の記載がある。
「【0007】
・・・(略)・・・ポリビニルアルコールやポリビニルアセタールを分散剤として用いて電池用カーボンブラック分散液を作製した場合、塗工が困難な粘性になる場合があること、高分子量のバインダーを用いた場合、および/または、比表面積が大きく、塩基性が強い、Al、NiやMn等を含有する電極活物質を用いた場合、時間の経過に伴って分散液の粘度が大幅に増大して塗工が困難になる場合があること、該分散液を用いて得た塗膜の、基材に対する密着性が充分ではなく、塗膜の生産工程や塗膜の均質さに懸念が出る場合があることを、発明者は見出した。」
「【0014】
本発明者らは、カーボンブラック、分散剤、添加剤、バインダー、電極活物質の物理的、化学的性質に着目し、それらの量的関係についてまで詳細に検討した結果、分散剤としてポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマールからなる群より選ばれた1種以上のポリマーを、添加剤として酸性化合物をそれぞれ用いることで、電極活物質含有下でも貯蔵安定性が良好で、塗工性に優れ、塗膜にした際の基材に対する密着性も良好なカーボンラブック分散液を製造できることを見出し、本発明の完成に至った。」
「【0050】
<酸性化合物>
・・・(略)・・・酸性化合物とは、使用する電極活物質に対して相対的に酸として振る舞う化合物を表す。」

キ 上記カによれば、「塩基性が強い、Al、NiやMn等を含有する電極活物質を用いた場合、時間の経過に伴って分散液の粘度が大幅に増大して塗工が困難になる場合があること」(【0007】)、「添加剤として酸性化合物」を「用いることで、電極活物質含有下でも貯蔵安定性が良好で、塗工性に優れ、塗膜にした際の基材に対する密着性も良好なカーボンラブック分散液を製造できること」(【0014】)、「酸性化合物とは、使用する電極活物質に対して相対的に酸として振る舞う化合物を表す」(【0050】)とされている。

ク 上記キからすると、塩基性が強い、Al、NiやMn等を含有する電極活物質を用いた場合、時間の経過に伴って分散液の粘度が大幅に増大して塗工が困難になる場合があるところ、塩基性が強い、Al、NiやMn等を含有する電極活物質を含むカーボンラブック分散液に、酸性化合物を添加することで、塩基性が強い、Al、NiやMn等を含有する電極活物質と酸性化合物とにより中和され、時間の経過に伴う分散液の粘度の増大が抑制でき、上記アの課題を解決し得ると解される。

ケ そして、請求項1に係る発明は、正極活物質について、「Niおよび/またはMnを含むリチウムとの複合酸化物である」と特定されている。

コ そうすると、上記ク及びケからすると、請求項1に係る発明は、電極活物質がLiMn_(0.3)Co_(0.2)Ni_(0.5)O_(2)である場合のみならず、塩基性が強い、NiやMnを含有する電極活物質についても、酸性化合物により中和され、時間の経過に伴う分散液の粘度の増大が抑制できるので、上記アの課題を解決し得るといえる。

サ よって、請求項1及びそれを引用する請求項2?9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(1)-2 上記4の(2)の理由
ア 上記4の(2)の理由は、本件の発明の詳細な説明の実施例には、参考例(実施例1-2)の電池用カーボンブラック分散液よりも発明の効果が大きく劣っているもの、すなわち、本件発明の課題を解決し得ないものが多数(例えば、塗膜にした際の密着性が実施例2-2よりも劣る実施例2-3、2-4、2-15、2-16、2-17等。下記ウの表3参照。)含まれているから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないというものである。

イ 本件発明の解決しようとする課題は、上記(1)-1のアのとおりである。

ウ 一方、本件明細書には、次の記載がある。
「【0108】
<電池用カーボンブラック分散液の調製>
[実施例1-1]
ガラス瓶に、NMPを54部、PVA1を0.25部、および安息香酸0.09部をそれぞれ仕込み、充分に混合溶解した。次いで、カーボンブラック5部、PVDF2.5部を仕込み、ホモジナイザーで30分間分散した。その後、MCN92.5部を仕込み、ディスパーにより充分混合、分散することで、電池用カーボンブラック分散液を得た。得られた分散液は、粘性および粘度が良好で、かつ、貯蔵安定性試験後も良好な状態を保っていた。
【0109】
[実施例1-2?実施例1-29]
表1に示す組成に従い、実施例1-1と同様の方法で電池用カーボンブラック分散液を作製した。得られた分散液は、粘性および粘度が良好で、かつ、貯蔵安定性試験後も良好な状態を保っていた。
実施例1-2、実施例1-20、実施例1-21、実施例1-28、実施例1-29は参考例である。
【0110】
[比較例1-1?比較例1-4]
表2に示す組成に従い、実施例1-1と同様の方法で電池用カーボンブラック分散液を作製した。得られた分散液は、作製直後は塗工可能な粘度であるもののチキソ性が低く、また、貯蔵安定性試験後は粘度が大きくなりすぎ、塗工困難な状態になっていた。
PVAを分散剤として単独で使用した場合や、酸性化合物の代わりにノニオン性界面活性剤や増粘剤を入れた場合についても、分散液の粘性や貯蔵安定性を改善することはできないことが明らかとなった。
【0111】
[比較例1-5?比較例1-6]
表2に示す組成に従い、実施例1-1と同様の方法で電池用カーボンブラック分散液を作製した。得られた分散液は、チキソ性は充分高いが塗工困難なほど粘度が高く、さらに、貯蔵安定性試験後は、粒子が一部凝集して分散液が2層に分離していた。
活物質100質量部に対する分散剤および酸性化合物の量が3質量部以上、かつ酸性化合物の量が3質量部以上の場合、良好な分散液が得られないことが明らかとなった。
【0112】
[比較例1-7?比較例1-8]
表2に示す組成に従い、実施例1-1と同様の方法で電池用カーボンブラック分散液を作製した。得られた分散液は、塗工可能な粘性および粘度で、かつ、貯蔵安定性試験後も塗工可能な粘性を保っていたものの、後述する電極合材層のサイクル試験の結果が著しく不良だった。
【0113】
【表1】


【0114】
【表2】


【0115】
<電池電極合材層の作製>
上記の各実施例、比較例で得られた正極活物質または負極活物質を含む、貯蔵安定性試験後の電池用カーボンブラック分散液を電池電極合材液として、アルミ箔上にドクターブレードを用いて塗工した後、減圧下120℃で30分間乾燥し、乾燥後膜厚100μmの塗膜(電池電極合材層)を作製した。
得られた電池電極合材層の評価は、密着性(剥離強度試験)と塗膜外観により行った。塗膜外観は、目視で、○:問題なし(良好)、△:斑模様あり(可)、×:粗粒の筋引きあり(極めて不良)、とした。
なお、剥離強度の測定には卓上型引張試験機(東洋精機製作所製、ストログラフE3)を用い、180度剥離試験法により評価した。具体的には、100mm×20mmサイズの両面テープ(No.5000NS、ニトムズ(株)製)をアクリル板上に貼り付け、作製した電池電極合材層を両面テープのもう一方の面に密着させ、一定速度(50mm/分)で上方に引っ張り、剥離試験を行った。剥離強度試験の結果は、◎:問題なし(特に良好、剥離強度1N/cm以上)、○:問題なし(良好、剥離強度500mN/cm以上)、△:〇の場合よりは剥離強度が低いが問題なし(可、剥離強度300mN/cm以上)、△△:△の場合よりも剥離強度が低いが使用可能(可、剥離強度100mN/cm以上)、×:強度が弱く、剥がれやすい(極めて不良、剥離強度50mN/cm未満)、とした。
【0116】
[実施例2-1?実施例2-23、比較例2-1?比較例2-8]
正極合材液として、実施例1-1?実施例1-23、および比較例2-1?比較例2-8で得た電池電極合材液を使用して、正極合材層(電池電極合材層)を作製した。評価結果を表3に示した。
実施例2-20、実施例2-21は参考例である。
【0117】
【表3】


【0118】
表3より、実施例2-1?実施例2-23の電池電極合材層は、比較例2-1?比較例2-6の電池電極合材層と比較して塗膜外観が良好であり、さらに、塗膜の密着性が優れていることが明らかとなった。比較例2-1?比較例2-6では、使用した電極合材液の粘度が高すぎるために塗工が困難であり、そのため塗膜外観や密着性について良好な結果を得ることはできなかった。
【0119】
<リチウムイオン二次電池正極評価用セルの組み立て>
[実施例3-1?実施例3-19、比較例3-1?比較例3-4]
先に調製した電池電極合材液(実施例1-1?実施例1-17、実施例1-22?実施例1-23、および比較例1-5?比較例1-8の正極合材液)を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥した後、ローラープレス機にて圧延処理し、厚さ100μmの正極合材層を作製した。これを直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製#2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPF_(6)を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0120】
<リチウムイオン二次電池正極特性評価>
作製した正極評価用セルを30℃で、充放電装置(北斗電工社製SM-8)を使用して、充電レート1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で、放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計50サイクル行い、充放電を行った。アルゴンガス置換したグローブボックス内で評価後のセルを分解し、電極塗膜の外観(50サイクル後の塗膜外観)を目視にて確認した。塗膜外観の評価基準は、集電体からの剥がれが認められず外観に全く変化が無い場合を○(極めて良好)、剥がれてはいないが外観に変化が認められる場合を△(良好)、部分的に合材が集電体より剥がれが認められる場合を×(不良)とした。
また、容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の百分率であり、数値が100%に近いものほど良好であることを示す。容量維持率が95%以上の場合を◎(極めて良好)、容量維持率が90%以上95%未満の場合を〇(良好)、容量維持率が80%以上90%未満の場合を△(可)とし、集電体からの塗膜の剥離やショート等により正常な充放電曲線が得られず、容量が求められなかった場合は数値無し(-)とした。評価結果を表4に示した。
【0121】
【表4】


【0122】
表4より、本発明の電極を使用した実施例3-1?実施例3-19は、比較例3-1?比較例3-4と比較して、50サイクル後の塗膜外観や容量維持率についても、良好な結果であった。一方、比較例3-1?比較例3-2は、良好な塗膜を得ることが出来なかったため、正極特性を評価することが出来なかった。比較例3-3?比較例3-4は、塗膜を得ることはできたが、サイクル試験の途中でPVAcまたはPVAが電解液へと溶解または大きく膨潤したため、正極特性を評価することが出来なかった。
活物質100質量部に対する分散剤の量が3質量部以上の場合や、フッ素含有高分子化合物をPVAやPVAcですべて代替した場合、良好な電池電極合材層が得られないことが明らかとなった。」

エ 確かに、上記ウの表3によれば、密着性についての評価結果について、本件発明8の範囲外である、実施例1-2の電池電極合材液を用いた実施例2-2の電池電極合材層は「○」となっているのに対し、本件発明8の範囲内である、実施例2-4、2-15、2-16の電池電極合材層は「△」、また、同様に本件発明8の範囲内である、実施例2-3、2-17の電池電極合材層は「△△」となっており、実施例2-2の電池電極合材層よりも評価が劣っている。

オ また、上記ウの表4によれば、容量維持率についての評価結果について、本件発明9の範囲外である、実施例1-2の電池電極合材液を用いた実施例3-2の電池は「○」となっているのに対し、本件発明9の範囲内である、実施例3-3、3-7、3-11、3-12、3-17の電池は「△」となっており、実施例3-2の電池よりも評価が劣っている。

カ しかしながら、本件明細書には、上記ウの表3の密着性に評価について、「◎:問題なし(特に良好、剥離強度1N/cm以上)、○:問題なし(良好、剥離強度500mN/cm以上)、△:〇の場合よりは剥離強度が低いが問題なし(可、剥離強度300mN/cm以上)、△△:△の場合よりも剥離強度が低いが使用可能(可、剥離強度100mN/cm以上)、×:強度が弱く、剥がれやすい(極めて不良、剥離強度50mN/cm未満)」(【0115】)と記載されており、上記ウの表4の容量維持率について、「容量維持率が95%以上の場合を◎(極めて良好)、容量維持率が90%以上95%未満の場合を〇(良好)、容量維持率が80%以上90%未満の場合を△(可)とし、集電体からの塗膜の剥離やショート等により正常な充放電曲線が得られず、容量が求められなかった場合は数値無し(-)とした」(【0120】)と記載されている。

キ すなわち、本件発明は、上記ウの表3の密着性に評価について、「△△:△の場合よりも剥離強度が低いが使用可能(可、剥離強度100mN/cm以上)」は、「使用可能」及び「可」とされているから、「△△」までを許容範囲としており、また、上記イの表4の容量維持率に評価について、「容量維持率が80%以上90%未満の場合を△(可)」は、「可」とされているから、「△」までを許容範囲としていると解される。

ク そうすると、たとえ、実施例2-3、2-4、2-15、2-16、2-17の電池電極合材層が、本件発明8の範囲外である、実施例2-2の電池電極合材層よりも評価が劣っていたとしても、上記キの検討からすると、本件発明の課題を解決していることとなるし、また、実施例3-3、3-7、3-11、3-12、3-17の電池が、本件発明9の範囲外である、実施例3-2の電池よりも評価が劣っていたとしても、上記キの検討からすると、本件発明の課題を解決していることとなる。

ケ また、上記ウの表1の初期粘性及び経時後粘性からすると、本件発明1?7の範囲内である、実施例1-1、1-3?1-27のカーボンブラック分散液は、実施例1-2のカーボンブラック分散液よりも評価が劣っているわけではないから、本件発明の課題を解決していることとなる。

コ よって、本件発明1?9は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(2)特許法第29条第2項について(上記4の(1)の理由)
(2)-1 甲1の記載
「【請求項1】
カーボンブラックと、分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂と、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンとを含んでなるカーボンブラック分散液であって、ポリビニルアルコール樹脂のけん化度が、60?85mol%であり、カーボンブラックのBET比表面積をXm^(2)/g、カーボンブラック1gに対するポリビニルアルコール樹脂の添加量をaXgとした場合に、aが0.00017≦a≦0.00256の範囲であり、カーボンブラック100重量部に対するポリビニルアルコール樹脂が2重量部以上、8重量部以下であることを特徴とするカーボンブラック分散液。
【請求項2】
請求項1記載のカーボンブラック分散液に、さらに、正極活物質または負極活物質を含有してなる電池用カーボンブラック分散液。
【請求項3】
請求項1記載のカーボンブラック分散液または請求項2記載の電池用カーボンブラック分散液を塗布してなる電池電極合材層。
【請求項4】
集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、請求項3記載の電池電極合材層を具備してなるリチウムイオン二次電池。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性、貯蔵安定性に優れたカーボンブラック分散液に関する。また、該分散液を使用した電池電極合材層およびリチウムイオン二次電池に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の状況を鑑み、本発明では、従来公知の樹脂型分散剤と比較して、得られるカーボンブラック分散液を顕著に低粘度化すること、すなわち、達成できるカーボンブラック濃度が顕著に高く、カーボンブラックの分散性と分散液の貯蔵安定性に優れた、N-メチル-2-ピロリドンを溶剤とするカーボンブラック分散液を提供することが課題である。また、均質で良好な塗膜物性と、表面抵抗の低い電池電極合材層を提供することが課題である。」
「【0030】
けん化度が60mol%より小さいものは、NMPに対する溶解性は非常に良好だが、カーボンブラックに対する吸着性が乏しいために分散には有効ではないと考えられ、また、けん化度が85mol%より大きいものは、NMPに対してほとんど溶解、膨潤しないことから、たとえカーボンブラックに吸着されたとしても、NMP側に高分子鎖を伸ばすことが出来ず、そのために効果的に立体反発出来ないものと推察される。これに対して、けん化度が60?85mol%のものは、NMPに対する溶解、または膨潤性と、カーボンブラックに対する吸着性や吸着後の立体反発効果の兼合いが良好であることから、分散剤として特に有効に機能するものと考えられる。」
「【0043】
<活物質>
本発明の分散液を電池電極合材層に用いる場合は、さらに、正極活物質または負極活物質を含有させることができる。
【0044】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。
例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V_(2)O_(5)、V_(6)O_(13)、TiO_(2)等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS_(2)、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。」
「【0047】
本発明では、上記課題に支障を及ぼさない範囲で、塗膜物性等の調整等の目的で、従来公知の分散剤や樹脂、添加剤等を併用しても良い。
そのような分散剤としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂やポリビニルピロリドン樹脂、従来公知の色素誘導体、低分子量の界面活性剤等が挙げられる。また樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、スチレンブタジエンゴムなどの各種ゴム、リグニン、ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、セルロース系樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルエーテル、キチン類、キトサン類、デンプン等が挙げられる。また添加剤としては、リン化合物、硫黄化合物、有機酸、アミン化合物やアミド化合物、有機エステル、各種シラン系やチタン系、アルミニウム系のカップリング剤等が挙げられる。これらの従来公知の分散剤や樹脂、添加剤等は、単独または2種類以上併用して用いることが出来る。」
「【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本実施例中、部は重量部を、%は重量%を、それぞれ表す。
実施例及び比較例で使用したカーボンブラック(「CB」と略記することがある)、ポリビニルアルコール樹脂(「PVA」と略記することがある)、バインダー、電極活物質等を以下に示す。また、各表には、各原料の組成のみを記載しているが、特に記載の無い残りの成分は、全てN-メチル-2-ピロリドン(NMP)である。
【0051】
<カーボンブラック>
・#30(三菱化学社製):ファーネスブラック、平均一次粒子径30nm、比表面積74m^(2)/g、以下#30と略記する。
・#5(三菱化学社製):ファーネスブラック、平均一次粒子径76nm、比表面積29m^(2)/g、以下#5と略記する。
・デンカブラックHS-100(電気化学工業社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m^(2)/g、以下HS-100と略記する。
・デンカブラック粒状品(電気化学工業社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径35nm、比表面積69m^(2)/g、以下粒状品と略記する。」
「【0053】
<ポリビニルアルコール樹脂>
・クラレポバール L-8(クラレ社製):ポリビニルアルコール樹脂、けん化度71mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度5.5mPa・s、以下L-8と略記する。
・クラレポバール L-10(クラレ社製):ポリビニルアルコール樹脂、けん化度72mol%、平均重合度1000以下、以下L-10と略記する。
・クラレポバール C-506(クラレ社製):カチオン変性ポリビニルアルコール樹脂、けん化度76mol%、平均重合度600、4%水溶液粘度5.1mPa・s、以下C-506と略記する。
・クラレポバール KL-506(クラレ社製):アニオン変性ポリビニルアルコール樹脂、けん化度77mol%、平均重合度600、4%水溶液粘度5.6mPa・s、以下KL-506と略記する。
・ゴーセノール KL-05(日本合成化学工業社製):ポリビニルアルコール樹脂、けん化度82mol%、以下、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度4.4mPa・s、KL-05と略記する。
・クラレポバール PVA-205(クラレ社製):ポリビニルアルコール樹脂、けん化度88mol%、以下、平均重合度500、4%水溶液粘度5.0mPa・s、PVA-205と略記する。
・ゴーセファイマー LL-02(日本合成化学工業社製):ポリビニルアルコール樹脂、けん化度50mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度7.7mPa・s、以下、LL-02と略記する。
・合成品1:ポリビニルアルコール樹脂、けん化度60mol%、平均重合度約500、4%水溶液粘度5.2mPa・s。
・合成品2:ポリビニルアルコール樹脂、けん化度85mol%、平均重合度約500、4%水溶液粘度5.7mPa・s。
・合成品3:ポリビニルアルコール樹脂、けん化度72mol%、平均重合度約100、4%水溶液粘度2.0mPa・s。
・合成品4:ポリビニルアルコール樹脂、けん化度70mol%、平均重合度約1500、4%水溶液粘度19.8mPa・s。

尚、上記合成品1、合成品2、合成品3、合成品4は、業界公知の方法により、ポリ酢酸ビニルを水酸化ナトリウムでけん化することで得たものである。
【0054】
<バインダー>
・KFポリマーW1100(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、以下、PVDFと略記する。
・KFポリマーW7300(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、以下、#7300と略記する。
【0055】
<活物質>
・HLC-22(本荘ケミカル社製):正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))、平均粒径6.6μm、比表面積0.62m^(2)/g、以下、LCOと略記する。
・MCMB6-28(大阪ガスケミカル社製):負極活物質メソフェーズカーボン(MFC)、平均粒径5?7μm、比表面積4m^(2)/g、以下、MFCと略記する。」
「【0063】
<バインダーを含むカーボンブラック分散液の調製>
[実施例2-1?実施例2-4、実施例2-9、実施例2-10、実施例2-12、実施例2-17、実施例2-18]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと各種ポリビニルアルコール樹脂と各種バインダーを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種カーボンブラックを加え、ホモジナイザーで1時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。いずれも粗大粒子がなく、かつ低粘度であり、貯蔵安定性も良好であった。」
「【0068】<正極活物質または負極活物質を含むカーボンブラック分散液の調製>[実施例3-1?実施例3-3、実施例3-9、実施例3-10、実施例3-12] 表3に示す組成に従い、実施例2-1?実施例2-3および実施例2-9、実施例2-10、実施例2-12で得たバインダーを含有するカーボンブラック分散液に対し、正極活物質であるLCOを仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各混合液を得た。用いたカーボンブラック分散液が低粘度であるために、LCOを多量に添加することができ、また、得られた混合液も低粘度な状態であった。」
「【0083】
【表2】


【0084】
【表3】




(2)-2 甲1に記載された発明
ア 上記(2)-1の【0063】より、実施例2-1のカーボンブラック分散液は、ガラス瓶にNMPとポリビニルアルコール樹脂とバインダーを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、カーボンブラックを加え、1時間分散して得たものである。

イ また、上記(2)-1の【0055】、【0068】より、実施例3-1の混合液は、実施例2-1のカーボンブラック分散液に対し、正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を仕込んだものである。

ウ 上記ア、イより、実施例3-1の混合液は、ガラス瓶にNMPとポリビニルアルコール樹脂とバインダーを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、カーボンブラックを加え、1時間分散して実施例2-1のカーボンブラック分散液を得、その後、実施例2-1のカーボンブラック分散液に対し、正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を仕込んだものである。

エ 一方、上記(2)-1の【0051】、【0053】、【0054】、表2より、実施例2-1のカーボンブラック分散液は、カーボンブラックであるデンカブラック粒状品(電気化学工業社製:アセチレンブラック)を12重量%、バインダーであるKFポリマーW1100(クレハ社製:ポリフッ化ビニリデン(PVDF))を6重量%、けん化度60mol%のポリビニルアルコール樹脂を0.6重量%、CB100重量部に対するポリビニルアルコール樹脂の量が5.0重量部含むものである。

オ また、上記(2)-1の【0055】、【0068】、表3より、実施例3-1の活物質を含むカーボンブラック分散液は、実施例2-1のカーボンブラック分散液に正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を仕込んだものであって、カーボンブラックを2.67重量%、正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を62.7重量%含むものである。

カ ここで、上記エより、実施例2-1のカーボンブラック分散液は、カーボンブラックであるデンカブラック粒状品(電気化学工業社製:アセチレンブラック)を12重量%含むのに対し、上記オより、実施例3-1の活物質を含むカーボンブラック分散液は、カーボンブラックの含有量を2.67重量%含むから、実施例2-1のカーボンブラック分散液の固体成分は、実施例3-1の活物質を含むカーボンブラック分散液において、分散液全体の2.67÷12=0.2225倍となっている。

キ そうすると、上記エ?カより、実施例3-1の混合液において、バインダーであるKFポリマーW1100(クレハ社製:ポリフッ化ビニリデン(PVDF))は、6重量%×0.2225=1.335重量%、けん化度60mol%のポリビニルアルコール樹脂は、0.6重量%×0.2225=0.1335重量%含むこととなる。

ク 上記ア?キ及び上記(2)-1の【0001】によれば、実施例3-1の混合液に注目すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ガラス瓶にNMPとけん化度60mol%のポリビニルアルコール樹脂とバインダーであるKFポリマーW1100(クレハ社製:ポリフッ化ビニリデン(PVDF))を仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、カーボンブラックであるデンカブラック粒状品(電気化学工業社製:アセチレンブラック)を加え、分散してカーボンブラック分散液を得て、
該カーボンブラック分散液に対し、正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を仕込み、充分に混合して得た混合液であって、
正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を62.7重量%、
けん化度60mol%のポリビニルアルコール樹脂0.1335重量%、
バインダーであるKFポリマーW1100(クレハ社製:ポリフッ化ビニリデン(PVDF))1.335重量%、
カーボンブラックであるデンカブラック粒状品(電気化学工業社製:アセチレンブラック)2.67重量%含む、リチウムイオン二次電池用混合液。」

(2)-3 甲2の記載
「【請求項1】
リチウム複合酸化物を含む正極活物質、導電材及び結着剤を含有する正極合剤層と集電体を備えるリチウムイオン二次電池用正極であって、
上記正極合剤層が、硫黄(S)及び/又はリン(P)を含む化合物と、主結着剤となる第1高分子と、この第1高分子と異なる第2高分子を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。」
「【請求項12】
正極と、負極と、電解質を備えるリチウムイオン二次電池において、
上記正極が、リチウム複合酸化物を含む正極活物質、導電材及び結着剤を含有する正極合剤層と集電体を備え、
上記正極合剤層が、硫黄(S)及び/又はリン(P)を含む化合物と、主結着剤となる第1高分子と、この第1高分子と異なる第2高分子を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
上記電解質は、環状炭酸エステル又は鎖状炭酸エステルの水素の一部若しくは全部がフッ素化された化合物を含むことを特徴とする請求項12に記載のリチウムイオン二次電池。」
「【0003】
上述の非水電解質二次電池は、主として、ノート型のパーソナルコンピュータや携帯電話などのモバイル機器に用いられており、機器から発せられる熱や移動中の車内の熱など、比較的高温下に長時間曝されることが多い。このような環境下に充電状態の非水電解質二次電池が曝されると、正極と電解液との反応によりガスが発生してしまうことがあった。
このようにガスが発生すると、例えば非水電解質二次電池がラミネートフィルムから成る外装部材に収容されている場合には、外装部材が膨れて厚みが増加してしまい、電子機器の電池収納部の規格に合わなくなるといった問題が生じることがあった。また、正極と電解液との反応により電池の内部抵抗が増加してしまい、充分な容量を取り出せなくなってしまうという問題も生じる。」
「【0009】
本発明は、上述のような知見に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高温保存特性に優れるとともに、正極合剤層の均一性、耐久性及び生産性に優れたリチウムイオン二次電池用正極、その製造方法及び当該正極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することにある。」
「【0017】
(1)第1の実施形態
(1-1)正極活物質
本発明において、正極活物質は、リチウム複合酸化物を含むものであるが、このリチウム複合酸化物が硫黄(S)及び/又はリン(P)を含むものが好ましく、特に硫黄(S)及び/又はリン(P)の濃度が内部よりも表面近傍で高くなっているリチウム複合酸化物が望ましい。
また、この正極活物質は、典型的には、中心部となるリチウム複合酸化物粒子の表面の少なくとも一部に、硫黄(S)及び/又はリン(P)を、当該粒子の内部よりも高い濃度で含む表面層が設けられているものであり、本実施形態において、正極活物質はかかる構成のものである。
このリチウム複合酸化物は、例えば、リチウムとコバルトとを含むリチウムコバルト複合酸化物である。このリチウムコバルト複合酸化物の平均組成は、例えば、下記の(1)式で表される。
【0018】
Li_(x)Co_(1-y)M_(y)O_(b-a)X_(a)…(1)
式中のMはホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、タングステン(W)、インジウム(In)、スズ(Sn)、鉛(Pb)アンチモン(Sb)及びセリウム(Ce)から成る群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Xはハロゲン元素を示す。x、y、a及びbはそれぞれ0.2<x≦1.2、0≦y≦0.1、1.8≦b≦2.2、0≦a≦1.0の範囲内の値である。
【0019】
上記の表面層は、反応抑制層として機能するものであり、上述のように、硫黄(S)及びリン(P)の少なくとも1種を含有しており、この表面層における硫黄(S)及び/又はリン(P)の含有量は、リチウム複合酸化物粒子の内部よりも高くなっている。
これらの材料は、例えば化合物として表面層に含まれている。より具体的には、硫黄(S)は、例えばLi_(2)SO_(4)として表面層に含まれ、リン(P)は、例えばLi_(3)PO_(4)又はLiCoPO_(4)として表面層に含まれる。
【0020】
硫黄(S)及びリン(P)の少なくとも1種の含有量は、正極活物質のコバルト(Co)に対する割合で、0.02at%以上5at%未満の範囲内とすることが好ましい。0.02at%以上にすると、優れた保存特性を得ることができ、5at%未満にすると、内部抵抗増大や容量低下を抑制できるからである。
【0021】
この正極活物質は、例えば、硫黄含有化合物及びリン含有化合物の少なくとも1種を含む水溶液中に、リチウム複合酸化物粒子を投入し混練した後、乾燥することにより得られる。乾燥方法としては、例えば、熱風式固定棚乾燥機やスプレードライなどを用いることができる。また、得られた乾燥物を熱処理して表面生成物を安定化させてもよい。
硫黄含有化合物としては、1種又は2種以上の硫黄含有化合物を使用することができる。硫黄含有化合物としては、例えば、硫酸、亜硫酸、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム及び有機硫酸塩などが挙げられる。リン含有化合物としては、1種又は2種以上のリン含有化合物を使用することができる。リン含有化合物としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム及び有機リン酸塩などが挙げられる。なお、本発明においては、ホスホン酸、メタンスルホン酸、スルホン安息香酸又はスルホン安息香酸無水物及びこれらの混合物を特に好適に使用することができる。」
「【0024】
(1-2)第1高分子
第1高分子は、正極活物質、導電材及び結着剤を含む正極合剤層において、結着剤のうちでも、合剤層の形成に必要とされる結着力に対して影響力が大きい主たる結着剤(主結着剤)として機能する。
具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンマレイン酸変性体又はポリテトラフルオロエチレン、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0025】
(1-3)第2高分子
第2高分子は、正極合剤層を形成するのに用いられる正極合剤スラリーの流動性を確保する機能を果たす。よって、この第2高分子を用いれば、分散媒の使用量を過度に増大することなく、正極合剤スラリーの流動性が確保されるので、正極合剤スラリーを集電体に容易に塗布することが可能となる。
また、本実施形態では、上述のように、リン(P)及び/又は硫黄(S)を含む薄い被膜(表面層)が、リチウム複合酸化物粒子の表面の全部又は一部に設けられる。この被膜は、電解質に対する活性が低いので高温保存状態での正極と電解液との反応を抑制でき、ガス発生や内部抵抗の上昇を抑制するものと推測されるが、この被膜形成が原因で正極合剤スラリーのアルカリ性の度合いが低下し、導電材であるカーボンの表面電化が低下して凝集が起こるのを、この第2高分子がカーボン表面に吸着して、かかる凝集を抑制するものと考えられる。
【0026】
上記第2高分子の具体例としては、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドン、及びこれらの混合物を挙げることができる。
第2高分子の添加量は、全固形分に対して0.01?3%とすることが好ましい。0.01%未満では、正極合剤スラリーの性状改善効果が十分に得られないことがあり、3%を超えると、得られる正極の剛性が増加しすぎて巻回時に割れを発生することがある。
なお、全固形分とは、正極合剤層中の固形分全てを意味しており、例えば、正極活物質と導電材と結着剤と必要な場合の添加剤との合計分が相当する。」
「【0043】
(1-5)二次電池の製造方法
次に、第1の実施形態の二次電池の製造方法の一例について説明する。
まず、例えば、正極集電体13Aに正極合剤層13Bを形成し正極13を作製する。正極合剤層13Bは、例えば、正極活物質の粉末と導電材と結着剤(第1高分子)と第2高分子を混合して正極合剤を調製した後、この正極合剤をN-メチル-2-ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとし、この正極合剤スラリーを正極集電体13Aに塗布し乾燥させ、圧縮成型することにより形成する。
なお、上記の硫黄及び/又はリンを被覆した正極活物質を用いる代わりにリチウム複合酸化物を用い、これを含むスラリーに、上記のホスホン酸やメタンスルホン酸などを添加したものを正極合剤スラリーとして用いてもよい。
一方、例えば、正極13と同様にして、負極集電体14Aに負極合剤層14Bを形成し負極14を作製する。次に、正極集電体13Aに正極リード11を取り付けると共に、負極集電体14Aに負極リード12を取り付ける。」
「【0082】
(実施例6)
正極は以下のようにして作製した。中心粒径12μm、比表面積0.20m^(2)/gのLiCoO_(2)95.9重量部、結着剤である第1高分子としてポリフッ化ビニリデン3重量部、第2高分子としてポリビニルアルコール0.05重量部、導電材であるケッチェンブラック1重量部、H_(3)PO_(3)0.05重量部を分散媒であるN-メチルピロリドン中で混練したものを、正極合剤スラリーとした。このスラリーを厚み30μmのアルミニウムから成る正極集電体に塗布して乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型して正極合剤層を形成することにより正極を作製した。
この正極について、TOF-SIMSにより分析した結果、実施例7と同じ二次イオンフラグメントのピークが観察された。
次に、上述のようにして作製した正極を用いる以外は、上述の実施例1とすべて同様にして二次電池を作製した。」

(2)-4 甲2に記載された発明
ア 上記(2)-3の【0082】によれば、実施例6の混合液に注目すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「二次電池用の混合液であって、LiCoO_(2)95.9重量部、結着剤である第1高分子としてポリフッ化ビニリデン3重量部、第2高分子としてポリビニルアルコール0.05重量部、導電材であるケッチェンブラック1重量部、H_(3)PO_(3)0.05重量部を分散媒であるN-メチルピロリドン中に混ぜた混合液。」

(2)-5 甲3の記載
「【請求項1】少なくとも電極活物質、結着剤を含み、かつ、有機酸および/または無機酸の中和塩を含むことを特徴とする電極。」
「【請求項9】請求項1?8のいずれかに記載の電極を用いた非水電解液系二次電池。
【請求項10】該非水電解液が、アルカリ金属塩である電解質を含むことを特徴とする請求項9記載の非水電解液系二次電池。
【請求項11】該アルカリ金属塩がリチウム塩であることを特徴とする請求項10記載の非水電解液系二次電池。」
「【0003】上記リチウム- 遷移金属複合酸化物としてLiCoO_(2 )を用いたリチウムイオン二次電池が実用化されているが、より高い放電容量および原料の低価格、安定供給といった観点からLiNiO_(2 )が注目を浴びている。しかしながら、正極活物質としてLiNiO_(2 )を使用し正極を作製する場合、その結着剤および導電材との混合物であるペーストのゲル化が問題となっていた。ペーストのゲル化とは粘度が増加することによりその流動性や均一性が失われた状態を指し、ゲル化が極度に進行した場合は集電体への塗工が不可能となる。たとえ軽度のゲル化であっても、それは作成した電極シートの抵抗値等に大きく関与し、その放電容量、電流密度依存性あるいは低温特性といった電池特性を低下させることになるため、ペーストのゲル化を防止することが、電極作成上解決すべき重大な課題となっていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる知見に基づきなされたものであって、その目的とするところは、ゲル化を起こしやすい活物質を用いた場合においても、良好な電極ペースト及びその製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を有するものである。
【0006】「(1) 少なくとも電極活物質、結着剤を含み、かつ、有機酸および/または無機酸の中和塩を含むことを特徴とする電極。
【0007】(2) 上記(1) 記載の電極を用いた非水電解液系二次電池。」
【0008】
【発明の実施の形態】例えば、活物質としてLiNiO_(2 )を用い、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用いた場合、このペーストはゲル化しやすい。さらに、LiNiO_(2 )を水に懸濁させた場合、それがかなり塩基性を示すことも確認しており、この事実がペーストのゲル化、すなわちポリフッ化ビニリデンの変成させると推測している。すなわちポリフッ化ビニリデンのようなフッ素系結着剤において、フッ素基に隣接するプロトンの酸性度はフッ素基の電子吸引性によりかなり高くなっており、そのため塩基性条件で容易にこのプロトンの脱離が進行する。プロトンの脱離した後の炭素上には陰イオンが生じることになり、これがフッ素基の脱離を促し、結果として結着剤分子の主鎖中に二重結合が生じることになる。このような主鎖の反応が塩基性の強い活物質表面で進行し、ポリマーのマクロ的性質である結着性や溶解性を変成させ、結果としてペーストのゲル化に至るものと推測している。
【0009】本発明者らはLiNiO_(2 )に限らず、水溶液もしくは水に懸濁させた状態でpH12以上の塩基性を発現する物質とフッ素系の結着剤を組み合わせてペーストを作成した場合、総じて上記のようなペーストのゲル化が起こることを確認している。
【0010】そこで、比較的塩基性の高い電極活物質と、塩基性条件下で容易に変成する結着剤を組み合わせた場合においても、良好なペーストを得る方法を鋭意研究した結果、本発明者らは、活物質、結着剤および導電材を溶媒中で混合する際、無機酸や、有機酸を添加することによって上記の課題を解決できることを見出した。本発明においては、有機酸としては、特に限定されることなく用いられるが、中でも、強力な電子吸引性の官能基を有する比較的酸性度の高い有機酸は、中和によって生成した塩が電極活物質の性能を低下させない点で好ましい。具体的には、ホスホン酸、スルホン酸、カルボン酸等の中で、pH3以下の強酸が酸性度が高いという点で好ましく、トリフロロメタンスルホン酸、トリフロロメタンホスホン酸およびトリフロロ酢酸から選ばれる少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0011】無機酸としても、限定されることなく用いられるが、有機酸と同様の理由から、比較的酸性度の高い無機酸は、中和によって生成した塩が電極活物質の性能を低下させないて点で好ましい。具体的には、リン酸、硫酸、ホウ酸などのpH3以下の強酸が酸性度が高いという点で好ましい。」
「【0016】本発明に使用される正極活物質としては、人造あるいは天然の黒鉛粉末、フッ化カーボン、金属酸化物などの無機化合物、有機高分子化合物など、正極活物質として一般に用いられているものなどが好適に用いられる。この場合、金属酸化物などの無機化合物を正極として用いる場合は、カチオンのドープと脱ドープを利用して充放電反応が生じる。有機高分子化合物の際には、アニオンのドープと脱ドープにより充放電反応が生じる。このように、物質により様々な充放電反応様式を採るものであり、これらは必要とされる電池の正極特性に応じて適宜選択されるものである。具体的には、アルカリ金属を含む遷移金属酸化物や遷移金属カルコゲンなどの無機化合物、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの共役系高分子、ジスルフィド結合を有する架橋高分子、塩化チオニルなど、通常の二次電池において用いられる正極活物質を挙げることができる。これらの中で、リチウム塩を含む非水電解液を用いた二次電池の場合には、コバルト、マンガン、ニッケル、モリブデン、バナジウム、クロム、鉄、銅、チタンなどの遷移金属酸化物や遷移金属カルコゲンが好ましく用いられる。特に、Li_(x )CoO_(2 )(0<x≦1.0)、Li_(x )NiO_(2 )(0<x≦1.0)、またはこれらの金属元素の一部をアルカリ土類金属元素および/または遷移金属元素で置換したリチウム複合酸化物や、Li_(x )MnO_(2 )(0<x≦1.0)、Li_(x )Mn_(2 )O_(4 )(0<x≦1.3)などが好ましく用いられる。前述のように、本発明はLiNiO_(2 )系正極活物質に特に有効である。
【0017】本発明に用いられる正極には、負極同様に集電効果を高めるためにアルミニウム、ニッケル、ステンレス、チタンなどの金属を集電体として用いることが可能である。また、負極同様に導電剤として、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックを添加する。さらに、導電性向上を目的として炭素粉末、金属粉末などの導電性粉末を添加しても良い。」
「【0024】
【実施例】本発明の具体的実施態様を以下に実施例をもって述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】実施例1
電極活物質としてのLiNiO_(2 )に対して0.05モル%に相当するリン酸をN-メチルピロリドンに溶解させ、そこにLiNiO_(2 )、導電材としてのアセチレンブラック(“デンカブラック”、電気化学(株)製)および結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF:呉羽化学(株)製KFポリマー#1100)を重量比91:3:6の比率で加え、乾燥空気中でホモミキサーにより十分に撹拌混合することにより正極用ペーストを得た。
【0026】このペーストを厚さ20μmのアルミ箔上に塗布し、乾燥器内90℃で乾燥後、裏面にも塗布、乾燥して両面に電極を形成した後、プレスして厚さ200μm、極材塗布部の幅10mm,長さ20mmの電極を作製した。
【0027】次に、このようにして作製した電極の放電容量の評価を行った。電解液は1MLiBF_(4 )を含むプロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート(各々体積比で1:1)で、対極および参照極には金属リチウム箔を用い、3極式セルで評価した。活物質当たりの電流密度は30mA/gの定電流で、4.2V(vs.Li^(+ )/Li) まで充電した。充電後に、充電と同じ電流密度で3.0V(vs.Li^(+ )/Li) まで放電した。電極の容量は活物質1gあたりの容量に換算した。
【0028】実施例2
添加する酸としてリン酸の代わりに硫酸を用いたこと以外は実施例1と同様にして電極を作成し、同様に評価した。
【0029】実施例3
添加する酸としてリン酸の代わりにトリフロロメタンホスホン酸を用い、LiNiO_(2 )に対して0.1 モル%添加したこと以外は実施例1と同様にして電極を作成し、同様に評価した。
【0030】実施例4
添加する酸としてリン酸の代わりにトリフロロメタンスルホン酸を用い、LiNiO_(2 )に対して0.1 モル%添加したこと以外は実施例1と同様にして電極を作成し、同様に評価した。
【0031】実施例5
添加する酸としてリン酸の代わりにトリフロロ酢酸を用い、LiNiO_(2 )に対して0.1 モル%添加したこと以外は実施例1と同様にして電極を作成し、同様に評価した。
【0032】実施例6
添加する酸としてリン酸の代わりにホウ酸を用いたこと以外は実施例1と同様にして電極を作成し、同様に評価した。
【0033】実施例7
添加する酸としてリン酸の代わりに酢酸を用いたこと以外は実施例1と同様にして電極を作成し、同様に評価した。
【0034】比較例1
酸を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行ったが、ペースト混練開始から約10分でゲル化し、集電体への塗工は不可能であった。
【0035】以上の実施例および比較例の評価結果を表1にまとめた。
【0036】実施例1?7と比較例1の比較から酸を添加した正極ペーストは良好な塗工性を有しており、中でもトリフロロメタンホスホン酸あるいはトリフロロメタンスルホン酸を添加した電極がより良好な性能を有していることがわかる。
【0037】実施例8
実施例3と同様にしてLiNiO_(2 )正極ペーストを、厚さ16μmのアルミ箔上の片面に、電極部の幅8cm、長さ60cm、単位面積当たりの正極活物質重量が200g/m^(2 )になるように塗布し、100℃で15分乾燥後、もう一方の面にも塗布し、100℃で30分乾燥し、さらに180℃で15分乾燥してLiNiO_(2 )使用シート状電極を作製した。このシート状電極を、線圧約100kg/cmでローラープレスしてアルミ集電体に圧着した後、幅54mmに長さ465mmにスリットし、総厚み190μmの正極を得た。」

(2)-6 甲3に記載された技術事項
ア 上記(2)-5の【0029】に記載された「トリフロロメタンホスホン酸」は分子式がCF_(3)PO(OH)_(2)であるから分子量が約150であり、上記(2)-5の【0030】に記載された「トリフロロメタンスルホン酸」は分子式がCF_(3)SO_(2)OHであるから分子量が約150であり、上記(2)-5の【0031】に記載された「トリフロロ酢酸」は分子式がCF_(3)COOHであるから分子量が約113であり、上記(2)-5の【0033】に記載された「酢酸」は分子式がCH_(3)COOHであるから分子量が約60である。

イ 上記ア及び上記(2)-5の【0008】、【0010】、【0029】?【0031】、【0033】によれば、甲3には次の技術事項が記載されていると認められる。
「比較的塩基性の高いLiNiO_(2)と、塩基性条件下で容易に変成するポリフッ化ビニリデンを組み合わせた場合、ペーストがゲル化しやすいところ、活物質、結着剤および導電材を溶媒中で混合する際、分子量が約150であるトリフロロメタンホスホン酸、分子量が約150であるトリフロロメタンスルホン酸、分子量が約113であるトリフロロ酢酸、または、分子量が約60である酢酸を添加することにより、ペーストのゲル化を防止することができる事項。」

(2)-7 甲4の記載
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の活物質と、前記第一の活物質と比べて水と反応しやすい第二の活物質と、有機系水分捕捉剤と、前記第一の活物質および前記第二の活物質を結着する有機バインダーと、を含む非水電解質電池用混合電極であって、
前記有機系水分捕捉剤が前記有機バインダー中に存在し、かつ、前記第一の活物質の比表面積が前記第二の活物質の比表面積より小さいことを特徴とする、非水電解質電池用混合電極。
【請求項2】
前記有機系水分捕捉剤は、分子量46?500の範囲の有機酸またはその塩であることを特徴とする、請求項1に記載の非水電解質電池用混合電極。
【請求項3】
前記第二の活物質が、リチウム・ニッケル複合酸化物である、請求項1または2に記載の非水電解質電池用混合電極。
【請求項4】
前記第一の活物質が、リチウム・マンガン複合酸化物である、請求項1乃至3の何れか1項に記載の非水電解質電池用混合電極。
【請求項5】
第一の活物質と、前記第一の活物質と比べて水と反応しやすく、かつ前記第一の活物質と比べて比表面積が大きい第二の活物質と、有機バインダーと、溶媒と、有機系水分捕捉剤とを少なくとも含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーを塗布する工程と、
を有する、非水電解質電池用混合電極の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒が、有機溶媒である、請求項5に記載の非水電解質電池用混合電極の製造方法。」
「【0007】
・・・(略)・・・例えば、ニッケル酸リチウムは、他の酸化物系リチウム等の活物質と比べて、大気中の水分が作用して水酸化リチウムなどの不純物を生成する反応を起こし、劣化が起きやすかった。そして、劣化によって生成される不純物が、電池のサイクル特性の悪化を引き起こしていた。
【0008】
これに対して、従来は、例えば、ニッケル酸リチウムなどの水への耐性が低い活物質と他の活物質を混合させた混合電極を使う系において、電極の保管性を向上するための水分対策として水分捕捉剤を使用することについては十分に検討されていなかった。」
「【0015】
本発明の一例における第一の特徴として、有機系水分捕捉剤は、有機系であるため、有機バインダー中での分散性、および有機バインダー硬化後の有機系水分捕捉剤の固定性に優れる。分散性に優れる理由としては例えば、有機バインダーは例えば有機樹脂材料であり有機溶媒に可溶なものが多く、水分捕捉剤としても有機系材料を選ぶことにより有機溶媒に可溶とすることで、電極製造時に両者の均一な有機溶媒溶液を調製できるなどから均一分散化に都合が良いということが挙げられる。固定性に優れる理由としては例えば、有機材料特有の立体障害性から、樹脂系の有機バインダー(以下、バインダー樹脂ともいう)内のポリマーマトリクス中で、有機系水分捕捉剤分子が動きにくくなることが挙げられる。この結果、電極を構成する活物質間の導電経路に影響を与えずに有機系水分捕捉剤をバインダー樹脂中に存在させることができる。
【0016】
本発明の一例における第二の特徴として、電極中に含む活物質AおよびBのうち、活物質Bは、活物質Aと比べて水と反応しやすくかつ活物質Aと比べて比表面積が大きいことである。このように活物質AおよびBを選択することにより、比表面積が小さい活物質Aよりも、比表面積が大きい活物質Bの方が、単位質量当たりに換算して、その周りのバインダー樹脂と接触する面積が大きくなる。言い換えると、電極の成膜時に、活物質の表面を覆うようにバインダー樹脂の膜が付着するため、比表面積がより大きい活物質Bには、単位質量当たりの活物質に対するバインダー樹脂の付着量がより多くなる。従って、バインダー樹脂中に均一に分散した有機系水分捕捉剤も結果的に、活物質Bの周囲に多く存在することとなる。」
「【0018】
以上のように、本発明の一例では、上記2つの特徴を組み合わせることで、有機系水分捕捉剤を、水と反応しやすい活物質Bの周囲に選択的に多めに分布させることができる。このように、少なくとも、活物質Aと、活物質Aよりも水と反応しやすい活物質Bを含む混合電極において、水と反応しやすい活物質Bの周囲に選択的に有機系水分捕捉剤を分布させることができる。このため、少ない添加量の有機系水分捕捉剤で有効に、水と反応しやすい活物質Bの水との反応を抑制することができる。この結果、電極保管中の活物質Bの劣化や不純物の生成を抑制し、さらにこの電極を正極および負極の少なくとも一方に用いた電池のサイクル特性を向上させることができる。」
「【0029】
[活物質A]
活物質Aは、活物質Bの比表面積よりも小さな比表面積を有する。活物質Aとしては、例えばリチウム・マンガン複合酸化物を挙げることができる。その他には例えば、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物のうちニッケルの少ないもの、好ましくはNi/Li比が0.5未満のものや、オリビン系リチウム複合酸化物、コバルト酸リチウム等が挙げられる。
【0030】
[活物質B]
活物質Bは、活物質Aと比べて水と反応しやすい物質である。ここで、水と反応しやすいかどうかの評価方法としては、例えば湿度の存在する大気中に一定期間保管し、活物質を構成する化合物の組成と異なる化合物の生成量を測定することが挙げられる。例えば、リチウム・遷移金属酸化物からなる活物質の場合は、コアとなる遷移金属元素を含む化合物であって、元々の組成の化合物でないものを定量することで、当初のリチウム・遷移金属酸化物を成す化合物の分解度合いを評価できる。
【0031】
活物質Bとしては、例えばリチウム・ニッケル複合酸化物を挙げることができる。リチウム・ニッケル複合酸化物は大気中の水蒸気と反応し、下記反応(2)により劣化する。そして、副反応物が、電池のサイクル特性に悪影響を及ぼす。
LiNiO_(2)+H_(2)O→NiOOH+LiOH (2)
その他の活物質Bの例としては、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物のうちニッケルの多いもの、特にNi/Liモル比が0.5以上のもの等が挙げられる。」
「【0033】
[有機系水分捕捉剤]
有機系水分捕捉剤は有機系の材料であるため、有機高分子であるバインダー樹脂と共通の溶解溶媒を使用できることなどからバインダー樹脂中の分散性、バインダー樹脂硬化後の有機系水分捕捉剤の固定性に優れる。このように有機系水分捕捉剤はバインダー樹脂中に均一に分散するため、前述したように、結果的に、比表面積が大きく水への耐性が低い活物質Bの周囲に、より多くの有機系水分捕捉剤を配置させることができる。従って、水分による活物質Bの劣化を効果的に防止することができる。
【0034】
有機系水分捕捉剤としては、分子量46?500の範囲のものを用いることが好ましい。このような有機系水分捕捉剤を用いることによって、バインダー樹脂中への更に良好な分散性、固定性を発現させることができる。なお、有機系水分捕捉剤の分子量が46未満であると、硬化後のバインダー樹脂中で有機系水分捕捉剤が移動する場合がある。また、有機系水分捕捉剤の分子量が500を超えると、有機系水分捕捉剤が混合電極製造時のスラリー溶液に溶解しにくくなったり、有機系水分捕捉剤の凝集力が強くなって分散性が悪くなる場合がある。
【0035】
好ましい有機系水分捕捉剤の例としては、有機酸、有機酸の塩、水和物を形成しうる有機材料が挙げられる。中でも好ましいのは、蓚酸、クエン酸、トルエンスルホン酸などの、水和物を形成しうる有機酸や、これらの塩などが挙げられる。」
「【実施例】
【0038】
(実施例1)
<負極の作製>
負極活物質として非晶質性炭素で被覆された球状天然黒鉛粉末(平均粒子径:20μm)と、フッ素樹脂系バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデンと、カーボンブラック系導電助剤とを、固形分質量比で96.5:3:0.5の割合でN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に添加し、攪拌させることで、これらの材料をNMP中に均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電体となる厚み15μmの銅箔上に塗布した。次いで、125℃にて10分間、スラリーを加熱し、NMPを蒸発させることにより負極活物質層を形成した。更に、負極活物質層をプレスすることによって、負極集電体の片面上に負極活物質層を塗布した負極を作製した。
【0039】
<正極の作製>
正極用の活物質A(第一の活物質)としてスピネル構造を有するLi_(1.1)Mn_(1.9)O_(4)粉末(BET比表面積0.25m^(2)/g)と、正極用の活物質B(第二の活物質)としてリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(Ni/Liモル比0.7、BET比表面積0.5m^(2)/g)と、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデンと、導電助剤としてカーボンブラック粉末とを、固形分質量比で69:23:4:4の割合で、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に添加した。さらに、この混合物に有機系水分捕捉剤として蓚酸無水和物(分子量126)を、上記混合物からNMPを除いた固形分100質量部に対して0.03質量部添加した上で攪拌させることで、これらの材料を均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、正極集電体となる厚み20μmのアルミニウム箔上に塗布した。次いで、125℃にて10分間、スラリーを加熱し、NMPを蒸発させることにより正極活物質層を形成した。更に、正極活物質層をプレスすることによって、正極集電体の片面上に正極活物質層を塗布した正極を作製した。
【0040】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記のように作製した負極と正極を、各々5cm(幅)×6.0cm(長さ)に切り出した。このうち、一辺5cm×1cmは端子を接続するための未塗布部であって、活物質層は5cm×5cmである。幅5cm、長さ3cm、厚み0.1mmのアルミニウム製の正極端子を正極における未塗布部に長さ1cmで超音波溶接した。同様に、正極端子と同サイズのニッケル製の負極端子を負極における未塗布部に長さ1cmで超音波溶接した。6cm×6cmのポリエチレン及びポリプロピレンからなるセパレータの両面に上記負極と正極とを活物質層がセパレータを隔てて重なるように配置して電極積層体を得た。2枚の7cm×10cmのアルミニウムラミネートフィルムの長辺の一方を除いて三辺を熱融着により幅5mmにて接着して袋状のラミネート外装体を作製した。ラミネート外装体の一方の短辺より1cmの距離となるように上記電極積層体を挿入した。下記非水電解液を0.203g注液して真空含浸させた後、減圧下にて開口部を熱融着により幅5mmで封止することによって、本例のラミネート型二次電池を得た。」

(2)-8 甲4に記載された技術事項
ア 上記(2)-7の【0007】、【0034】、【0038】によれば、甲4には次の技術事項が記載されていると認められる。
「ニッケル酸リチウムは、他の酸化物系リチウム等の活物質と比べて、大気中の水分が作用して水酸化リチウムなどの不純物を生成する反応を起こし、劣化が起きやすかったところ、活物質A(第一の活物質)としてスピネル構造を有するLi_(1.1)Mn_(1.9)O_(4)粉末と、正極用の活物質B(第二の活物質)としてリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(Ni/Liモル比0.7)と、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデンと、導電助剤としてカーボンブラック粉末とを、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に添加し、この混合物に有機系水分捕捉剤として蓚酸無水和物(分子量126)を添加した上で攪拌させることにより、水と反応しやすい活物質Bの周囲に選択的に有機系水分捕捉剤を分布させることができるため、水と反応しやすい活物質Bの水との反応を抑制することができる事項。」

(2)-9 甲1発明を主引例とした場合の対比・判断
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。

イ 甲1発明の「カーボンブラックであるデンカブラック粒状品(電気化学工業社製:アセチレンブラック)」「を加え」る事項は、本件発明1の「カーボンブラック」「を含む」事項に相当する。

ウ 甲1発明の「バインダーであるKFポリマーW1100(クレハ社製:ポリフッ化ビニリデン(PVDF))」「を仕込」む事項は、本件発明1の「バインダー」「を含」み、「バインダーが少なくともフッ素原子を有する高分子化合物を含」む事項に相当する。

エ 甲1発明の「けん化度60mol%のポリビニルアルコール樹脂」「を仕込」む事項は、本件発明1の「分散剤」「を含」み、「分散剤が、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を重合体鎖中に50?95mol%含有するポリビニルアルコールであ」る事項に含まれる。
「一般式(A)
【化A】



オ 甲1発明の「正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を仕込」む事項と、本件発明1の「Niおよび/またはMnを含むリチウムとの複合酸化物である正極活物質」「を含」む事項とは、遷移金属を含むリチウムとの複合酸化物である正極活物質を含む事項で共通する。

カ 甲1発明の「NMP」「を仕込」む事項は、本件発明1の「N-メチル-2-ピロリドン」「を含む」事項に相当する。

キ 甲1発明は、「けん化度60mol%のポリビニルアルコール樹脂0.1335重量%、」「カーボンブラックであるデンカブラック粒状品(電気化学工業社製:アセチレンブラック)2.67重量%含む」ものであるから、「カーボンブラック100質量部に対する分散剤」の量は、0.1335÷2.67×100=5重量部となる。
そうすると、甲1発明は、本件発明1の「カーボンブラック100質量部に対する分散剤が0.2質量部以上、20質量部以下含有してな」る事項を含むものである。

ク 甲1発明の「リチウムイオン二次電池用混合液」は、本件発明1の「電池用カーボンブラック分散液」に相当する。

ケ 上記ア?クより、本件発明1と甲1発明とは、
「カーボンブラックと、バインダーと、分散剤と、遷移金属を含むリチウムとの複合酸化物である正極活物質と、N-メチル-2-ピロリドンとを含むカーボンブラック分散液であって、バインダーが少なくともフッ素原子を有する高分子化合物を含み、分散剤が、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を重合体鎖中に50?95mol%含有するポリビニルアルコールであり、カーボンブラック100質量部に対する分散剤が0.2質量部以上、20質量部以下含有してなる、電池用カーボンブラック分散液。
一般式(A)
【化A】

」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点1)
「遷移金属を含むリチウムとの複合酸化物である正極活物質」が、本件発明1は、「Niおよび/またはMnを含むリチウムとの複合酸化物である正極活物質」であるのに対し、甲1発明は、「コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))」である点。

(相違点2)
本件発明1は、「酸性化合物」「を含」み、「正極活物質100質量部に対する、前記分散剤と酸性化合物の合計量が、0.05質量部以上、2.5質量部以下であ」り、「酸性化合物が、分子量が60以上200以下の、有機酸または1,3-ジケトンである」のに対し、甲1発明は、酸性化合物を含むか否かが不明であり、「正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))を62.7重量%、けん化度60mol%のポリビニルアルコール樹脂0.1335重量%」「含む」点。

コ 以下、上記相違点について検討するに、まず上記相違点1について検討する。

サ 甲1には、次のとおり記載されている(上記(2)-1参照。)。
「【0044】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。
例えば、・・・(略)・・・層状構造のニッケル酸リチウム、・・・(略)・・・マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末・・・(略)・・・等が挙げられる。」

シ そうすると、甲1発明において、「正極活物質」である「コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))」に代えて、甲1に記載された、ニッケル酸リチウムやマンガン酸リチウムを採用して、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

ス 次に、相違点2について検討する。

セ 甲3には、次の技術事項(上記(2)-6のイ参照:以下、「甲3技術事項」という。)が記載されている。
「比較的塩基性の高いLiNiO_(2)と、塩基性条件下で容易に変成するポリフッ化ビニリデンを組み合わせた場合、ペーストがゲル化しやすいところ、活物質、結着剤および導電材を溶媒中で混合する際、分子量が約150であるトリフロロメタンホスホン酸、分子量が約150であるトリフロロメタンスルホン酸、分子量が約113であるトリフロロ酢酸、または、分子量が約60である酢酸を添加することにより、ペーストのゲル化を防止することができる事項。」

ソ ここで、甲3技術事項の「分子量が約150であるトリフロロメタンホスホン酸、分子量が約150であるトリフロロメタンスルホン酸、分子量が約113であるトリフロロ酢酸、または、分子量が約60である酢酸」は、いずれも、本件発明1の「分子量が60以上200以下の、有機酸」に該当するものである。

タ しかしながら、甲3技術事項は、正極活物質として、LiNiO_(2)を採用することにより生じる問題を解決し得る技術である。

チ 一方、甲1発明は、「正極活物質」として、「コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))」を用いたものである。

ツ そうすると、「コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))」を用いた甲1発明において、LiNiO_(2)を採用することにより生じる問題を解決する、甲3技術事項を採用する動機がない。

テ また、上記サ、シで検討したとおり、甲1発明において、「正極活物質」である「コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))」に代えて、甲1に記載された、ニッケル酸リチウムを採用して、上記相違点1の係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

ト しかしながら、甲1発明において、「正極活物質」である「コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))」に代えて、甲1に記載されたニッケル酸リチウムを採用し、当該採用により新たに生じることとなる、ペーストがゲル化しやすいという問題を解決するために、さらに、甲3技術事項を採用することまで、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ナ よって、甲1発明において、甲3技術事項を適用して、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ニ また、甲4には、次の技術事項(上記(2)-8のア参照:以下、「甲4技術事項」という。)が記載されている。
「ニッケル酸リチウムは、他の酸化物系リチウム等の活物質と比べて、大気中の水分が作用して水酸化リチウムなどの不純物を生成する反応を起こし、劣化が起きやすかったところ、活物質A(第一の活物質)としてスピネル構造を有するLi_(1.1)Mn_(1.9)O_(4)粉末と、正極用の活物質B(第二の活物質)としてリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(Ni/Liモル比0.7)と、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデンと、導電助剤としてカーボンブラック粉末とを、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に添加し、この混合物に有機系水分捕捉剤として蓚酸無水和物(分子量126)を添加した上で攪拌させることにより、水と反応しやすい活物質Bの周囲に選択的に有機系水分捕捉剤を分布させることができるため、水と反応しやすい活物質Bの水との反応を抑制することができる事項。」

ヌ ここで、甲4技術事項の「蓚酸無水和物(分子量126)」は、本件発明1の「分子量が60以上200以下の、有機酸」に該当するものである。

ネ しかしながら、甲4技術事項は、正極活物質として、ニッケル酸リチウムを採用することにより生じる問題を解決しうる技術である。

ノ 一方、甲1発明は、「正極活物質」として、「コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))」を用いたものである。

ハ そうすると、「コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))」を用いた甲1発明において、LiNiO_(2)を採用することにより生じる問題を解決する、甲4技術事項を採用する動機がない。

ヒ また、上記サ、シで検討したとおり、甲1発明において、「正極活物質」である「コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))」に代えて、甲1に記載された、ニッケル酸リチウムを採用して、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

フ しかしながら、甲1発明において、「正極活物質」である「コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))」に代えて、甲1に記載されたニッケル酸リチウムを採用し、当該採用により新たに生じることとなる、大気中の水分が作用して不純物を生成する反応を起こし、劣化が起きやすいという問題を解決するために、さらに、甲4技術事項を採用することまで、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ヘ したがって、甲1発明において、甲4技術事項を適用して、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ホ よって、甲1発明において、甲3と甲4のいずれに記載された事項を参照したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

マ また、請求項2?9は、直接または間接的に請求項1を引用するものであり、本件発明2?9は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、甲1発明に対して、少なくとも、上記相違点2で相違するものである。

ミ そして、これまで検討したとおり、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、上記相違点2に係る本件発明2?9の発明特定事項を得ることも、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ム よって、本件発明1?9は、甲1発明、及び、甲3技術事項または甲4技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)-10 甲2発明を主引例とした場合の対比・判断
ア 本件発明1と甲2発明とを対比する。

イ 甲2発明の「導電材であるケッチェンブラック」、「H_(3)PO_(3)」を「分散媒であるN-メチルピロリドン中に混ぜた」事項は、本件発明1の「カーボンブラックと」、「酸性化合物と」、「N-メチル-2-ピロリドンとを含む」事項に相当する。

ウ 甲2発明の「結着剤である第1高分子としてポリフッ化ビニリデン」を「混ぜた」事項は、本件発明1の「バインダー」「を含」み、「バインダーが少なくともフッ素原子を有する高分子化合物を含」む事項に相当する。
また、甲2発明は、「LiCoO_(2)95.9重量部」、「第2高分子としてポリビニルアルコール0.05重量部」、「H_(3)PO_(3)0.05重量部」を「混ぜた」ものであり、LiCoO_(2)100重量部に対し、第2高分子としてポリビニルアルコール及びH_(3)PO_(3)の合計量が(0.05+0.05)×100÷95.9=約0.10重量部であるから、本件発明1の「正極活物質100質量部に対する、前記分散剤と酸性化合物の合計量が、0.05質量部以上、2.5質量部以下である」事項を含むものである。

エ 甲2発明の「第2高分子としてポリビニルアルコール」を「混ぜた」事項と、本件発明1の「分散剤」「を含」み、「分散剤が、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を重合体鎖中に50?95mol%含有するポリビニルアルコールであ」る事項とは、分散剤を含み、分散剤が、ポリビニルアルコールである事項で共通する。
「一般式(A)
【化A】



オ 甲2発明の「LiCoO_(2)」「を混ぜた」事項と、本件発明1の「Niおよび/またはMnを含むリチウムとの複合酸化物である正極活物質」「を含む」事項とは、遷移金属を含むリチウムとの複合酸化物である正極活物質を含む事項で共通する。

カ 甲2発明の「二次電池用の混合液」は、「ケッチェンブラック」を含む「分散媒であるN-メチルピロリドン中に混ぜた混合液」であるから、本件発明1の「電池用カーボンブラック分散液」に相当する。
また、甲2発明は、「第2高分子としてポリビニルアルコール0.05重量部、導電材であるケッチェンブラック1重量部」を「混ぜた」ものであるから、ケッチェンブラック100重量部に対し、ポリビニルアルコール5重量部を混ぜたものである。
そうすると、甲2発明は、本件発明1の「カーボンブラック100質量部に対する分散剤が0.2質量部以上、20質量部以下含有してな」る事項を含むものである。

キ 上記ア?カより、本件発明1と甲2発明とは、
「カーボンブラックと、バインダーと、酸性化合物と、分散剤と、遷移金属を含むリチウムとの複合酸化物である正極活物質と、N-メチル-2-ピロリドンとを含むカーボンブラック分散液であって、バインダーが少なくともフッ素原子を有する高分子化合物を含み、分散剤が、ポリビニルアルコールであり、カーボンブラック100質量部に対する分散剤が0.2質量部以上、20質量部以下含有してなり、さらに、正極活物質100質量部に対する、前記分散剤と酸性化合物の合計量が、0.05質量部以上、2.5質量部以下である、電池用カーボンブラック分散液」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点3)
「遷移金属を含むリチウムとの複合酸化物である正極活物質」が、本件発明1は、「Niおよび/またはMnを含むリチウムとの複合酸化物である正極活物質」であるのに対し、甲2発明は、「LiCoO_(2)」である点。

(相違点4)
「酸性化合物」が、本件発明1は、「分子量が60以上200以下の、有機酸または1,3-ジケトンである」のに対し、甲2発明は、分子量が約82のH_(3)PO_(3)である点。

(相違点5)
「分散剤」である「ポリビニルアルコール」について、「重合体鎖中」に「下記一般式(A)で表される繰り返し単位」を、本件発明1は、「50?95mol%含有する」のに対し、甲2発明は、「下記一般式(A)で表される繰り返し単位」をどの程度含有するのかが不明である点。
「一般式(A)
【化A】



ク 以下、上記相違点について検討するに、まず上記相違点3について検討する。

ケ 甲2には、次のとおり記載されている(上記(2)-3参照。)。
「【0017】
(1)第1の実施形態
(1-1)正極活物質
本発明において、正極活物質は、リチウム複合酸化物を含むものである・・・(略)・・・このリチウム複合酸化物は、例えば、リチウムとコバルトとを含むリチウムコバルト複合酸化物である。このリチウムコバルト複合酸化物の平均組成は、例えば、下記の(1)式で表される。
【0018】
Li_(x)Co_(1-y)M_(y)O_(b-a)X_(a)…(1)
式中のMは・・・(略)・・・マンガン(Mn)・・・(略)・・・ニッケル(Ni)・・・(略)・・・から成る群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Xはハロゲン元素を示す。x、y、a及びbはそれぞれ0.2<x≦1.2、0≦y≦0.1、1.8≦b≦2.2、0≦a≦1.0の範囲内の値である。」

コ そうすると、甲2発明において、「正極活物質」である「コバルト酸リチウム(LiCoO_(2))」に代えて、甲2に記載された、「Li_(x)Co_(1-y)M_(y)O_(b-a)X_(a)…(1) 式中のMはマンガン(Mn)、ニッケル(Ni)から成る群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Xはハロゲン元素を示す。x、y、a及びbはそれぞれ0.2<x≦1.2、0≦y≦0.1、1.8≦b≦2.2、0≦a≦1.0の範囲内の値である」活物質を採用して、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

サ 次に、相違点4について検討する。

シ 甲3には、次の技術事項(上記(2)-6のイ参照:以下、「甲3技術事項」という。)が記載されている。
「比較的塩基性の高いLiNiO_(2)と、塩基性条件下で容易に変成するポリフッ化ビニリデンを組み合わせた場合、ペーストがゲル化しやすいところ、活物質、結着剤および導電材を溶媒中で混合する際、分子量が約150であるトリフロロメタンホスホン酸、分子量が約150であるトリフロロメタンスルホン酸、分子量が約113であるトリフロロ酢酸、または、分子量が約60である酢酸を添加することにより、ペーストのゲル化を防止することができる事項。」

ス ここで、甲3技術事項の「分子量が約150であるトリフロロメタンホスホン酸、分子量が約150であるトリフロロメタンスルホン酸、分子量が約113であるトリフロロ酢酸、または、分子量が約60である酢酸」は、いずれも、本件発明1の「分子量が60以上200以下の、有機酸」に該当するものである。

セ しかしながら、甲3技術事項は、正極活物質として、LiNiO_(2)を採用することにより生じる問題を解決し得る技術である。

ソ 一方、甲2発明は、「正極活物質」として、「LiCoO_(2)」を用いたものである。

タ そうすると、「LiCoO_(2)」を用いた甲2発明において、LiNiO_(2)を採用することにより生じる問題を解決する、甲3技術事項を採用する動機がない。

チ また、上記ケ、コで検討したとおり、甲2発明において、「正極活物質」である「LiCoO_(2)」に代えて、甲2に記載された「Li_(x)Co_(1-y)M_(y)O_(b-a)X_(a)…(1) 式中のMはニッケル(Ni)を示し、Xはハロゲン元素を示す。x、y、a及びbはそれぞれ0.2<x≦1.2、0≦y≦0.1、1.8≦b≦2.2、0≦a≦1.0の範囲内の値である」活物質を採用して、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

ツ しかしながら、甲2発明において、「正極活物質」である「LiCoO_(2)」に代えて、甲2に記載された「Li_(x)Co_(1-y)M_(y)O_(b-a)X_(a)…(1) 式中のMはニッケル(Ni)を示し、Xはハロゲン元素を示す。x、y、a及びbはそれぞれ0.2<x≦1.2、0≦y≦0.1、1.8≦b≦2.2、0≦a≦1.0の範囲内の値である」活物質を採用し、当該採用により新たに生じることとなる、ペーストがゲル化しやすいという問題を解決するために、さらに、甲3技術事項を採用することまで、当業者が容易になし得たこととはいえない。

テ よって、甲2発明において、甲3技術事項を適用して、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ト また、甲4には、次の技術事項(上記(2)-8のア参照:以下、「甲4技術事項」という。)が記載されている。
「ニッケル酸リチウムは、他の酸化物系リチウム等の活物質と比べて、大気中の水分が作用して水酸化リチウムなどの不純物を生成する反応を起こし、劣化が起きやすかったところ、活物質A(第一の活物質)としてスピネル構造を有するLi_(1.1)Mn_(1.9)O_(4)粉末と、正極用の活物質B(第二の活物質)としてリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(Ni/Liモル比0.7)と、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデンと、導電助剤としてカーボンブラック粉末とを、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に添加し、この混合物に有機系水分捕捉剤として蓚酸無水和物(分子量126)を添加した上で攪拌させることにより、水と反応しやすい活物質Bの周囲に選択的に有機系水分捕捉剤を分布させることができるため、水と反応しやすい活物質Bの水との反応を抑制することができる事項。」

ナ ここで、甲4技術事項の「蓚酸無水和物(分子量126)」は、本件発明1の「分子量が60以上200以下の、有機酸」に該当するものである。

ニ しかしながら、甲4技術事項は、正極活物質として、ニッケル酸リチウムを採用することにより生じる問題を解決しうる技術である。

ヌ 一方、甲2発明は、「正極活物質」として、「LiCoO_(2)」を用いたものである。

ネ そうすると、「LiCoO_(2)」を用いた甲2発明において、LiNiO_(2)を採用することにより生じる問題を解決する、甲4技術事項を採用する動機がない。

ノ また、上記ケ、コで検討したとおり、甲2発明において、「正極活物質」である「LiCoO_(2)」に代えて、甲2に記載された「Li_(x)Co_(1-y)M_(y)O_(b-a)X_(a)…(1) 式中のMはニッケル(Ni)を示し、Xはハロゲン元素を示す。x、y、a及びbはそれぞれ0.2<x≦1.2、0≦y≦0.1、1.8≦b≦2.2、0≦a≦1.0の範囲内の値である」活物質を採用して、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。

ハ しかしながら、甲2発明において、「正極活物質」である「LiCoO_(2)」に代えて、甲2に記載された「Li_(x)Co_(1-y)M_(y)O_(b-a)X_(a)…(1) 式中のMはニッケル(Ni)を示し、Xはハロゲン元素を示す。x、y、a及びbはそれぞれ0.2<x≦1.2、0≦y≦0.1、1.8≦b≦2.2、0≦a≦1.0の範囲内の値である」活物質を採用し、当該採用により新たに生じることとなる、大気中の水分が作用して不純物を生成する反応を起こし、劣化が起きやすいという問題を解決するために、さらに、甲4技術事項を採用することまで、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ヒ よって、甲2発明において、甲4技術事項を適用して、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

フ また、甲2には、次の記載がある。
「【0021】
この正極活物質は、例えば、硫黄含有化合物及びリン含有化合物の少なくとも1種を含む水溶液中に、リチウム複合酸化物粒子を投入し混練した後、乾燥することにより得られる。乾燥方法としては、例えば、熱風式固定棚乾燥機やスプレードライなどを用いることができる。また、得られた乾燥物を熱処理して表面生成物を安定化させてもよい。
硫黄含有化合物としては、1種又は2種以上の硫黄含有化合物を使用することができる。硫黄含有化合物としては、例えば、硫酸、亜硫酸、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム及び有機硫酸塩などが挙げられる。リン含有化合物としては、1種又は2種以上のリン含有化合物を使用することができる。リン含有化合物としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム及び有機リン酸塩などが挙げられる。なお、本発明においては、ホスホン酸、メタンスルホン酸、スルホン安息香酸又はスルホン安息香酸無水物及びこれらの混合物を特に好適に使用することができる。」
「【0043】
(1-5)二次電池の製造方法
次に、第1の実施形態の二次電池の製造方法の一例について説明する。
・・・(略)・・・
なお、上記の硫黄及び/又はリンを被覆した正極活物質を用いる代わりにリチウム複合酸化物を用い、これを含むスラリーに、上記のホスホン酸やメタンスルホン酸などを添加したものを正極合剤スラリーとして用いてもよい。」

ヘ 上記フの記載からすると、正極活物質に混合する硫黄含有化合物、リン含有化合物として、甲2発明の「H_(3)PO_(3)」に加えて、「メタンスルホン酸」(分子量:約96)を好適に使用し得る事項が記載されている。

ホ そこで、甲2発明において、甲2に記載された上記ヘの事項を採用して、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることについて、当業者が容易になし得たことか否かを、念のため、以下、検討する。

マ 上記ヘの検討により、甲2発明において、「H_(3)PO_(3)」に代えて、「メタンスルホン酸」(分子量:約96)を採用する動機があるといえる。

ミ ここで、甲2の【0021】の記載によれば、甲2発明の「H_(3)PO_(3)」は、「硫黄含有化合物及びリン含有化合物の少なくとも1種」(【0021】)として使用されているものであって、甲2の【0019】の記載によれば、甲2の「硫黄含有化合物及びリン含有化合物の少なくとも1種」は、「反応抑制層として機能する」「表面層」となるものであり、さらに、甲2の【0025】によれば、「被膜(表面層)」は、「電解質に対する活性が低いので高温保存状態での正極と電解液との反応を抑制でき、ガス発生や内部抵抗の上昇を抑制する」ものである。すなわち、甲2発明の「H_(3)PO_(3)」は、正極に表面層を形成して、正極と電解液との反応を抑制するためのものである。

ム これに対して、本件発明1は、「塩基性が強い、Al、NiやMn等を含有する電極活物質を用いた場合、時間の経過に伴って分散液の粘度が大幅に増大して塗工が困難になる場合があ」(本件明細書【0007】)ったところ、「添加剤として酸性化合物」を「用いることで、電極活物質含有下でも貯蔵安定性が良好で、塗工性に優れ、塗膜にした際の基材に対する密着性も良好なカーボンラブック分散液を製造できる」(本件明細書【0014】)という効果を奏するものである。

メ そうすると、仮に、甲2発明において、「H_(3)PO_(3)」に代えて、「メタンスルホン酸」(分子量:約96)を採用することができたとしても、上記ムの効果まで予測することはできない。

モ したがって、甲2発明において、甲2に記載された技術事項を適用して、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ヤ よって、甲2発明において、甲2、甲3、甲4のいずれに記載された事項を参照したとしても、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ユ また、請求項2?9は、直接または間接的に請求項1を引用するものであり、本件発明2?9は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、甲2発明に対して、少なくとも、上記相違点4で相違するものである。

ヨ そして、これまで検討したとおり、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、上記相違点4に係る本件発明2?9の発明特定事項を得ることも、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ラ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1?9は、甲2発明、及び、甲3技術事項、甲4技術事項、または、甲2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?9に係る特許は、令和3年3月1日付けで通知された取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-06-14 
出願番号 特願2014-171483(P2014-171483)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近藤 政克磯部 香  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
井上 猛
登録日 2020-05-27 
登録番号 特許第6709586号(P6709586)
権利者 トーヨーカラー株式会社 東洋インキSCホールディングス株式会社
発明の名称 カーボンブラック分散液およびその利用  
代理人 三好 秀和  
代理人 三好 秀和  
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