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審決分類 |
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更 H04M 審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) H04M 審判 全部無効 特174条1項 H04M 審判 全部無効 特126 条1 項 H04M |
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管理番号 | 1375265 |
審判番号 | 無効2019-800021 |
総通号数 | 260 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-08-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2019-03-08 |
確定日 | 2021-04-01 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第6280283号発明「移動通信端末機の活性化時に,特定動作が行われるようにするための方法,システム及び移動通信端末機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第6280283号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6280283号(以下、「本件特許」という。)は、2012年(平成24年)10月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年10月19日 大韓民国)を国際出願日とする特願2014-536982号の一部を平成29年9月22日に新たな特許出願とした特願2017-182391号の一部を平成29年10月26日に新たな特許出願としたものであって、平成29年12月28日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)がなされ、平成30年1月26日に請求項1?14に係る発明について特許権の設定登録がなされた。 そして、本件無効審判に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。 平成31年 3月 8日 審判請求書 平成31年 4月19日到達 上申書(請求人) 令和 元年 8月 6日 答弁書・訂正請求書 令和 元年10月 7日 審判事件弁駁書・上申書(請求人) 令和 元年11月 8日付け 審理事項通知書 令和 2年 1月16日 口頭審理陳述要領書(請求人) 令和 2年 1月16日 口頭審理陳述要領書(1)(2)(被請求人) 令和 2年 1月22日付け 審理事項通知書 令和 2年 1月30日 第1回口頭審理 令和 2年 2月13日 上申書(被請求人) 令和 2年 6月16日付け 審決の予告 令和 2年 9月18日 答弁書・訂正請求書 令和 2年11月25日差出 審判事件弁駁書 令和 2年12月15日付け 審尋(請求人宛) 令和 3年 1月 4日 回答書(請求人) 第2 請求人の主張の概要 請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?14に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲1号証?甲15号証を提出し、以下の理由により令和2年9月18日付け訂正請求書(以下、単に「訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)は不適法であると主張するとともに、以下の無効理由の存在を主張する。 なお、請求人は、令和3年1月4日の回答書にて、無効理由2(進歩性欠如)についての主張を撤回した。 1 本件訂正が不適法であるとの主張 請求人は、概略、以下の(1)及び(2)を理由として、本件訂正は不適法であり認められるべきものではないと主張する(令和2年11月25日差出の審判事件弁駁書(以下、単に「弁駁書」という。)3?5頁)。 なお、請求人は、訂正事項3?5について、その訂正を認めている(弁駁書5頁)。 (1)訂正事項1及び6は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明又は請求項引用関係の解消のいずれにも該当しないから、特許法134条の2第1項ただし書各号のいずれにも該当しない。 (2)訂正事項1及び6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるから、特許法134条の2第9項で準用する同法126条6項に違反する。 2 無効理由の存在の主張 請求人は、本件訂正のうち訂正事項1及び6が認められないことを前提に、訂正前の本件発明1ないし9、13及び14は、本件の審決の予告のとおり、無効理由が認められると解するべきである、と主張する(弁駁書5頁)。 そして、前記無効理由に関する主張は、概略、以下のとおりである(審判請求書、令和元年10月7日審判事件弁駁書3?12頁)。 本件補正のうち、「前記追加操作に基づいて、広告収益の一部の使用を前記使用者が選択することを可能にする」(請求項1、13)との部分が、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)、特許請求の範囲又は図面(以下、これらを総称して「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内ではなく、本件特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、特許法123条1項1号の規定により無効とされるべきものである。 3 請求人が提出した証拠方法 請求人が提出した証拠方法は以下のとおりであり、これらの証拠の成立につき当事者間に争いはない。 甲1号証:手続補正書(本件特許出願に対する平成29年12月28日のもの) 甲2号証:広告用語辞典の「広告収入」の項目を印刷した書面 甲3号証:CRITEO株式会社の「Criteoパブリッシャーマーケットプレイス」と題するウェブページ(https://www.criteo.com/jp/for-publishers/products/criteo-publisher-marketplace/)を印刷した書面 甲4号証:ユナイテッド株式会社の「SSP「adstir(アドステア)」、DSP「Logicad」とネイティブアド領域でのRTB接続を開始」と題するウェブページ(http://united.jp/news/release/20180323_adstir.html)を印刷した書面 甲5号証:グーグル株式会社の「Adsenseガイドブック」と題するウェブページ(http://services.google.com/fh/files/helpcenter/insiders-guide-to-adsense-ja-ver2.pdf)を印刷した書面 甲6号証:韓国特許公報(第10-2010-0057461号) 甲7号証:米国公開特許(US2008/0168099A1号) 甲8号証:韓国特許公報(第10-0882012号) 甲9号証:韓国特許公報(第2000-0049901号) 甲10号証:雑誌MacPeopleの「iPhone4パーフェクトガイド」と題する記事 甲11号証:拒絶理由通知書(特願2014-147884号に対するもの) 甲12号証の1:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が提供するTポイントサービスに関するウェブサイト(http://tsite.jp/r/guide/web/index2.html)を印刷した書面 甲12号証の2:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の2011年10月11日付ニュースリリースが掲載されたウェブサイト(https:// www.ccc.co.jp/news/2011/20111011_003156.html)を印刷した書面 甲13号証:決定書正本(東京地裁平成30年(ヨ)第22011号) 甲14号証:広辞苑第7版(抜粋) 甲15号証:Weblio辞書の「積み立てる」の項目を印刷した書面(引用元:三省堂大辞林第3版) 第3 被請求人の主張の概要 被請求人は、請求のとおり訂正を認める、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として乙1号証?乙20号証を提出し、以下の理由により本件訂正は適法であると主張するとともに、無効理由の不存在を主張する。 1 本件訂正が適法であるとの主張 被請求人は、概略、以下の(1)及び(2)を理由として、請求のとおり訂正を認めるべきであると主張する(答弁の趣旨、訂正請求書)。 (1)訂正事項1及び6に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮(特許法134条の2第1項ただし書1号)及び明瞭でない記載の釈明(同3号)を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく(特許法134条の2第9項で準用する同法126条6項)、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり(特許法法134条の2第9項で準用する同法126条5項)、全ての請求項について無効審判の請求がされているので独立特許要件は課されない(特許法134条の2第9項で読み替えて準用する同法126条7項)から、訂正要件に適合する(訂正請求書3?5及び8?10頁)。 (2)訂正事項2?5及び7に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮(特許法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく(特許法134条の2第9項で準用する同法126条6項)、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり(特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項)、全ての請求項について無効審判の請求がされているので独立特許要件は課されない(特許法134条の2第9項で読み替えて準用する同法126条7項)から、訂正要件に適合する(訂正請求書5?8及び10頁) 2 無効理由の不存在の主張 被請求人は、概略、以下を理由として、無効理由は存在しないと主張する。 本件訂正前の請求項1及び13の「前記追加操作に基づいて、広告収益の一部の使用を前記使用者が選択することを可能にする」との事項は、審決の予告において新規事項の追加に該当すると指摘されたが、本件訂正により「前記追加操作に基づいて、寄付金積立に対する希望可否を選択するインターフェースが提供され、前記使用者が前記寄付金積立を要請すると広告収益の一部が寄付金として使用される、ことを可能にする」との事項に訂正され、本件訂正後の前記事項は、本件の当初明細書等の記載から自明な事項であるから、新規事項の追加に該当せず、特許法17条の2第3項の規定に違反しない(令和2年9月18日答弁書4?8頁)。 3 被請求人が提出した証拠方法 被請求人が提出した証拠方法は以下のとおりであり、これらの証拠の成立につき当事者間に争いはない。 乙1号証:広辞苑第六版(抜粋) 乙2号証:特開2004-78342号公報 乙3号証:特開2006-209792号公報 乙4号証:特開2006-221662号公報 乙5号証:特開2009-140199号公報 乙6号証:読売新聞(2003年9月12日) 乙7号証:産経新聞(2010年4月20日) 乙8号証:再公表特許WO2004/066179号公報 乙9号証:米国公開特許(US2008/0168099A1号)の全訳 乙10号証の1:意見書(作成者:電気通信大学大学院情報理工学研究科准教授 清 雄一) 乙10号証の2:上記意見書の添付資料1及び参考資料訳文 乙11号証:特許庁の審査基準第VI部第2章「新規事項を追加する補正」を印刷した書面 乙12号証:学校法人学習院のウェブサイト「ご寄付者への顕彰他」を印刷した書面 乙13号証:学校法人玉川学園のウェブサイト「ご返礼制度」を印刷した書面 乙14号証:学校法人夙川学院のウェブサイト「寄付金のご案内」を印刷した書面 乙15号証:学校法人新島学園のウェブサイト「寄付金について」を印刷した書面 乙16号証:市立池田病院のウェブサイト「寄付のお願い」を印刷した書面 乙17号証:市立ひらかた病院のウェブサイト「市立ひらかた病院へのご寄附について」を印刷した書面 乙18号証:新聞記事(2008年6月2日日本経済新聞朝刊)を印刷した書面 乙19号証:新聞記事(2008年9月4日毎日新聞地方版)を印刷した書面 乙20号証:新聞記事(2011年8月18日毎日新聞地方版)を印刷した書面 第4 本件訂正の適否 1 本件訂正の請求の趣旨及び本件訂正の内容 本件訂正の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?14について訂正することを求める、というものであって、その内容は次のとおりである。なお、下線は訂正請求書及び訂正特許請求の範囲のとおりである。 (1)訂正事項1 請求項1に「前記追加操作に基づいて、広告収益の一部の使用を前記使用者が選択することを可能にする」と記載されているのを、 「前記追加操作に基づいて、寄付金積立に対する希望可否を選択するインターフェースが提供され、前記使用者が前記寄付金積立を要請すると広告収益の一部が寄付金として使用される、ことを可能にする」 に訂正する。 (2)訂正事項2 請求項2に「前記広告収益の一部の使用に係わる表示」と記載されているのを、 「前記広告収益の一部の前記寄付金としての使用に係わる表示」 に訂正する。 (3)訂正事項3?5 請求項10、11及び12を削除する。 (4)訂正事項6 請求項13に「前記追加操作に基づいて、広告収益の一部の使用を前記使用者が選択することを可能にする」と記載されているのを、 「前記追加操作に基づいて、寄付金積立に対する希望可否を選択するインターフェースが提供され、前記使用者が前記寄付金積立を要請すると広告収益の一部が寄付金として使用される、ことを可能にする」 に訂正する。 (5)訂正事項7 請求項14に「前記広告収益の一部の使用に係わる表示」と記載されているのを、 「前記広告収益の一部の前記寄付金としての使用に係わる表示」 に訂正する。 2 本件訂正の適否についての当審の判断 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 (ア)本件訂正前の「広告収益の一部の使用を前記使用者が選択すること」という事項(以下、「訂正前事項」という。)は、「使用者が選択する」にあたり、使用者にどのような選択肢が示されているのかについては、何ら特定していない。よって、訂正前事項は、(a)「選択する」対象が「広告収益の一部の使用」であると「使用者」が認識した上で「選択する」ことも、(b)「選択する」対象が「広告収益の一部の使用」であると認識せずに「選択する」ことも含むものであると解される。 (イ)これに対し、本件訂正後の「寄付金積立に対する希望可否を選択するインターフェースが提供され、前記使用者が前記寄付金積立を要請すると広告収益の一部が寄付金として使用される、こと」という事項(以下、「訂正後事項」という。)は、以下のように解される。 a 訂正後事項において、「寄付金積立に対する希望可否を選択するインターフェースが提供され」ることにより、使用者に対して、寄付金積立を希望するという選択肢と、寄付金積立を希望しないという選択肢が提示されると解される。そして、使用者に対して提示される選択肢は、あくまで「寄付金積立に対する希望可否」であって、「広告収益の一部の使用」ではない。すなわち、使用者は、「選択する」対象が「広告収益の一部の使用」であると認識することはない。 b 訂正後事項の「前記使用者が前記寄付金積立を要請する」ことは、前記aにおける寄付金積立を希望するという選択肢を選択することであると解される。 c 訂正後事項の「広告収益の一部が寄付金として使用される、こと」は、広告収益の一部が使用されることであって、前記使用の使途が寄付金であると解される。 (ウ)以下、前記(ア)及び(イ)の解釈に基づいて、訂正前事項と訂正後事項とを比較する。 a 前記(ア)並びに(イ)a及びbのとおり、訂正前事項では使用者にどのような選択肢が提示されるのかが特定されていなかったが、訂正後事項では使用者に提示される選択肢が「寄付金積立に対する希望可否」であると特定されている。すなわち、訂正前事項は前記(ア)における(a)及び(b)の双方を含んでいたが、訂正後事項は、「選択する」対象が「広告収益の一部の使用」であると使用者が認識しないから、前記(a)を含まず、前記(b)のみを含むように減縮された。加えて、訂正前事項では、選択に際してインターフェースが提供されることは特定されていなかったが、訂正後事項ではインターフェースが提供されることが特定されている。 したがって、使用者に提示される選択肢及びインターフェースの観点で、訂正後事項は訂正前事項よりも減縮されている。 b 前記(イ)bのとおり、訂正後事項の「前記使用者が前記寄付金積立を要請する」ことは、「使用者が寄付金積立を希望するという選択肢を選択する」ことと解されるから、「選択する」という使用者の行動の観点では、訂正後事項は、その選択肢が限定されている点で、訂正前事項よりも減縮されている。 c 前記(イ)cのとおりであるから、訂正後事項は、広告収益の一部の使用についてその使途が限定されているから、訂正前事項よりも減縮されている。 d 以上a?c以外の観点では訂正前事項と訂正後事項は同一である。よって、前記a?cの観点により、訂正後事項は、訂正前事項に比して減縮されている。よって、請求項1(及びこれと一群の請求項をなす請求項2?12)に対する訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としていると認められる。 (エ)これに対し、請求人は、訂正事項1に係る訂正は、本件補正により追加され、本件の審決の予告で新規事項と認定された発明特定事項(当審注:訂正前事項)を削除し、「寄付金積立に対する希望可否を選択するインターフェースが提供され、前記使用者が前記寄付金積立を要請すると広告収益の一部が寄付金として使用される、」という新たな発明特定事項(当審注:訂正後事項)を追加することで、発明特定事項を入れ替えるものだから、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明、又は、請求項引用関係の解消のいずれにも該当しない旨、主張する(弁駁書3?4頁)。 しかしながら、訂正前事項が新規事項を含んでいるか否かは訂正事項1に係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的としてるか否かとは無関係であって、前記(ウ)のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。 (オ)前記(ウ)及び(エ)によれば、請求項1?12に対する訂正事項1に係る訂正の目的は、特許法134条の2第1項ただし書1号に該当する。 イ 新規事項の追加の有無 (ア)本件の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審で付した。 「また,他の例として,該当広告をクリックすることで,広告提供会社の広告収益の所定金額が寄付金として使用されるようにする。図8は,ディスプレイ部110に表示された広告をクリックすることで,寄付につながる過程を示す図である。図8を参照すると,広告をクリックすることで,「寄付金積立」に対する希望可否を選択するようにするインターフェースが提供されることができ,使用者が「寄付金積立」を要請すると,広告収益金のうちの一部が寄付金として使用され,これと係わる表示(例えば,エンゼルブック(Angel Book)などのソーシャルネットワークページなどが表示されることができる。」(【0083】) (イ)前記(ア)の記載によれば、訂正事項1の「寄付金積立に対する希望可否を選択するインターフェースが提供され、前記使用者が前記寄付金積立を要請すると広告収益の一部が寄付金として使用される、ことを可能にする」点は、明らかに、本件明細書に記載されている。 (ウ)そして、前記(ア)の記載の「該当広告をクリックすること」、「ディスプレイ部110に表示された広告をクリックすること」及び「広告をクリックすること」は、訂正事項1における「前記追加操作」の具体例であると認められる。 これに関し、本件明細書の「ディスプレイ部110に広告が表示される際,使用者がさらに入力を行うことで,多様な動作を行うことができる。例えば,使用者が表示された広告をクリックすると,該当広告と係わるウェブページへの移動などが行われる。」(【0082】)との記載に鑑みれば、本件明細書は「広告をクリックすること」以外の類似の操作(前記記載の「さらに入力を行うこと」)をも想定していることが伺える。 このことは、本件の請求項1に係る発明がスマートフォンのアプリケーションであり、スマートフォンのアプリケーションではクリック以外の多様な入力方法が慣用されていることとも整合する。 そうすると、訂正事項1の「前記追加操作に基づいて」は、「広告をクリックすること」及びそれと類似の操作に基づいていることを意味し、本件明細書に記載した事項の範囲内であると認められる。 (エ)以上(イ)及び(ウ)を総合すると、訂正事項1に係る事項は全て本件明細書に記載した事項の範囲内にあり、請求項1?12に対する訂正事項1に係る訂正は、特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無 前記アのとおり、訂正事項1に係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的としていると認められる以上、該訂正が特許請求の範囲の拡張又は変更をしているとは認められない。よって、請求項1?12に対する訂正事項1に係る訂正は、特許法134条の2第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。 エ 独立特許要件 本件では全ての請求項について無効審判の請求がされているので、独立特許要件は課されない(特許法134条の2第9項で読み替えて準用する同法126条7項)。 オ 訂正事項1に係る訂正の適否 以上、ア?エによれば、請求項1?12に対する訂正事項1に係る訂正は適法である。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2に係る訂正は、「前記広告収益の一部の使用に係わる表示」を「前記広告収益の一部の前記寄付金としての使用に係わる表示」に訂正することにより、「広告収益の一部」の使途を「寄付金」に減縮するものである。 よって、請求項2(及び請求項2を引用する請求項3?12)に対する訂正事項2に係る訂正の目的は、特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げるものである。 イ 新規事項の追加の有無 本件明細書の【0083】の記載(前記(1)イ(ア))には「広告収益金のうちの一部が寄付金として使用され,これと係わる表示(例えば,エンゼルブック(Angel Book)などのソーシャルネットワークページなどが表示されることができる。)」と記載されており、明らかに「広告収益金のうちの一部が寄付金として使用され」ることに「係わる表示」、すなわち、「広告収益の一部の前記寄付金としての使用に係わる表示」が記載されている。 したがって、請求項2?12に対する訂正事項2に係る訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内にあり、特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無 前記アのとおり、請求項2?12に対する訂正事項2は「使用」における使途を限定するものであって、特許法134条の2第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。 エ 独立特許要件 本件では全ての請求項について無効審判の請求がされているので、独立特許要件は課されない(特許法134条の2第9項で読み替えて準用する同法126条7項)。 オ 訂正事項2に係る訂正の適否 以上、ア?エによれば、請求項2?12に対する訂正事項2に係る訂正は適法である。 (3)訂正事項3?5について ア 訂正の目的 訂正事項3に係る訂正は請求項10を削除するものであり、訂正事項4に係る訂正は請求項11を削除するものであり、訂正事項5に係る訂正は請求項12を削除するものであるから、これらの訂正は、明らかに特許請求の範囲の減縮を目的としている。 よって、請求項10?12にそれぞれ対する訂正事項3?5に係る訂正の目的は、特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げるものである。 イ 新規事項の追加の有無 訂正事項3?5に係る訂正は、請求項を削除するものであるから、明らかに新規事項の追加はない。 よって、請求項10?12にそれぞれ対する訂正事項3?5に係る訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内にあり、特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無 訂正事項3?5に係る訂正は、請求項を削除するものであるから、明らかに特許請求の範囲の拡張をするものでも、変更をするものでもない。 よって、請求項10?12にそれぞれ対する訂正事項3?5に係る訂正は、特許法134条の2第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。 エ 独立特許要件 本件では全ての請求項について無効審判の請求がされているので、独立特許要件は課されない(特許法134条の2第9項で読み替えて準用する同法126条7項)。 オ 訂正事項3?5に係る訂正の適否 以上、ア?エによれば、請求項10?12にそれぞれ対する訂正事項3?5に係る訂正は適法である。 (4)訂正事項6について 請求項13及び14に対する訂正事項6に係る訂正は、前記(1)と同様の理由により、適法である。 (5)訂正事項7について 請求項14に対する訂正事項7に係る訂正は、前記(2)と同様の理由により、適法である。 (6)まとめ 前記(1)?(5)のとおり、請求項1?14の全てに係る訂正は適法であるから、これを認める。 第5 本件発明 前記第4のとおり、請求項1?14の全てに係る本件訂正を認めるので、本件の請求項1?9、13及び14に係る発明(以下、これらを総称して「本件発明」という。)は、特許法134条の2第9項で準用する同法128条の規定により本件特許の特許権の設定の登録がされた時点における特許請求の範囲とみなされる本件訂正後の請求項1?9、13及び14に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 使用者による操作を受け付けるとともに所定の表示を行うタッチスクリーンディスプレイ部と、外部装置と通信可能な状態であるが前記タッチスクリーンディスプレイ部の表示がオフである非活性状態から前記タッチスクリーンディスプレイ部の表示をオンにしてロック画面が表示された活性状態に切り替えるための活性化ボタンとを含むスマートフォンに、 前記活性化ボタンに対する使用者の操作に基づいて前記非活性状態から前記活性状態に切り替えられ、前記ロック画面が表示されたときに、前記ロック画面に広告を表示し、 前記広告が前記ロック画面に表示されている間に前記タッチスクリーンディスプレイ部で受け付けられる前記使用者の追加操作に基づいて、前記広告に関連した追加情報を前記タッチスクリーンディスプレイ部に表示し、 前記追加操作に基づいて、寄付金積立に対する希望可否を選択するインターフェースが提供され、前記使用者が前記寄付金積立を要請すると広告収益の一部が寄付金として使用される、ことを可能にする 機能を実行させるためのアプリケーション。 【請求項2】 前記広告収益の一部の前記寄付金としての使用に係わる表示を前記タッチスクリーンディスプレイ部に表示する、請求項1に記載のアプリケーション。 【請求項3】 前記広告は、前記非活性状態から前記活性状態に切り替わる前か、切り替わった後に広 告提供サーバから提供された広告である、請求項1又は2に記載のアプリケーション。 【請求項4】 前記広告は、ランダムに、又は現在地情報、使用者情報及び現在の時間情報の少なくとも一つに基づいて選択された広告である、請求項1?3のいずれか一項に記載のアプリケーション。 【請求項5】 前記現在地情報は、前記非活性状態から前記活性状態への切り替えに応じて、又はリアルタイムに継続的に検出された情報である、請求項4に記載のアプリケーション。 【請求項6】 前記広告は、前記現在地情報に基づいて決定された周辺企業に関連する広告である、請求項4又は5に記載のアプリケーション。 【請求項7】 前記使用者情報は、性別、年齢、居住地域、職業、及び関心事項の少なくとも一つである、請求項4?6のいずれか一項に記載のアプリケーション。 【請求項8】 前記使用者情報は、前記使用者の入力により前記スマートフォンに含まれるメモリ部に記憶されるか、広告提供サーバに伝送される情報である、請求項4?7のいずれか一項に記載のアプリケーション。 【請求項9】 前記追加情報は、企業情報、商品に関連する情報、割引情報、及び位置情報の少なくとも一つを含む情報である、請求項1?8のいずれか一項に記載のアプリケーション。 【請求項10】(削除) 【請求項11】(削除) 【請求項12】(削除) 【請求項13】 使用者による操作を受け付けるとともに所定の表示を行うタッチスクリーンディスプレイ部と、 外部装置と通信可能な状態であるが前記タッチスクリーンディスプレイ部の表示がオフである非活性状態から前記タッチスクリーンディスプレイ部の表示をオンにしてロック画面が表示された活性状態に切り替えるための活性化ボタンと、 前記活性化ボタンに対する使用者の操作に基づいて前記非活性状態から前記活性状態に切り替えられ、前記ロック画面が表示されたときに、前記ロック画面に広告を表示し、前記広告が前記ロック画面に表示されている間に前記タッチスクリーンディスプレイ部で受け付けられる前記使用者の追加操作に基づいて、寄付金積立に対する希望可否を選択するインターフェースが提供され、前記使用者が前記寄付金積立を要請すると広告収益の一部が寄付金として使用される、ことを可能にする制御部と、 を含むスマートフォン。 【請求項14】 前記制御部は、前記広告収益の一部の前記寄付金としての使用に係わる表示を前記タッチスクリーンディスプレイ部に表示する、請求項13に記載のスマートフォン。」 第6 無効理由についての当審の判断 請求人は、請求項1及び13に係る本件補正が当初明細書等に記載した事項の範囲ではなく、本件特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、特許法123条1項1号の規定により無効とされるべきものである旨主張する(前記第2、2)ところ、前記第4のとおり、本件訂正は認められたので、本件訂正により本件補正の前記瑕疵がなくなったか否かを判断する。 本件明細書は、出願当初から補正及び訂正をされていないから、当初明細書の記載事項は本件明細書と同じである。よって、前記第4、2(1)イ、第4、2(2)イ、第4、2(4)及び第4、2(5)と同様の理由により、本件発明はいずれも当初明細書に記載した事項の範囲内にある。 そうすると、本件訂正により本件補正の瑕疵(特許法17条の2第3項違反)はなくなったから、本件特許は特許法123条1項1号の規定により無効とされるべきものではない。 また、本件の請求項10?12に係る発明は、本件訂正により削除されたから、請求項10?12についての請求は却下する。 第7 むすび 前記第4のとおり、本件の請求項1?14に対する本件訂正を認める。 前記第6のとおり、本件の請求項1?9、13及び14に係る発明についての特許は、特許法123条1項1号の規定により無効とされるべきものではない。 請求項10?12についての本件審判の請求を却下する。 審判に関する費用については、特許法169条2項において準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 使用者による操作を受け付けるとともに所定の表示を行うタッチスクリーンディスプレイ部と、外部装置と通信可能な状態であるが前記タッチスクリーンディスプレイ部の表示がオフである非活性状態から前記タッチスクリーンディスプレイ部の表示をオンにしてロック画面が表示された活性状態に切り替えるための活性化ボタンとを含むスマートフォンに、 前記活性化ボタンに対する使用者の操作に基づいて前記非活性状態から前記活性状態に切り替えられ、前記ロック画面が表示されたときに、前記ロック画面に広告を表示し、 前記広告が前記ロック画面に表示されている間に前記タッチスクリーンディスプレイ部で受け付けられる前記使用者の追加操作に基づいて、前記広告に関連した追加情報を前記タッチスクリーンディスプレイ部に表示し、 前記追加操作に基づいて、寄付金積立に対する希望可否を選択するインターフェースが提供され、前記使用者が前記寄付金積立を要請すると広告収益の一部が寄付金として使用される、ことを可能にする 機能を実行させるためのアプリケーション。 【請求項2】 前記広告収益の一部の前記寄付金としての使用に係わる表示を前記タッチスクリーンディスプレイ部に表示する、請求項1に記載のアプリケーション。 【請求項3】 前記広告は、前記非活性状態から前記活性状態に切り替わる前か、切り替わった後に広告提供サーバから提供された広告である、請求項1又は2に記載のアプリケーション。 【請求項4】 前記広告は、ランダムに、又は現在地情報、使用者情報及び現在の時間情報の少なくとも一つに基づいて選択された広告である、請求項1?3のいずれか一項に記載のアプリケーション。 【請求項5】 前記現在地情報は、前記非活性状態から前記活性状態への切り替えに応じて、又はリアルタイムに継続的に検出された情報である、請求項4に記載のアプリケーション。 【請求項6】 前記広告は、前記現在地情報に基づいて決定された周辺企業に関連する広告である、請求項4又は5に記載のアプリケーション。 【請求項7】 前記使用者情報は、性別、年齢、居住地域、職業、及び関心事項の少なくとも一つである、請求項4?6のいずれか一項に記載のアプリケーション。 【請求項8】 前記使用者情報は、前記使用者の入力により前記スマートフォンに含まれるメモリ部に記憶されるか、広告提供サーバに伝送される情報である、請求項4?7のいずれか一項に記載のアプリケーション。 【請求項9】 前記追加情報は、企業情報、商品に関連する情報、割引情報、及び位置情報の少なくとも一つを含む情報である、請求項1?8のいずれか一項に記載のアプリケーション。 【請求項10】 (削除) 【請求項11】 (削除) 【請求項12】 (削除) 【請求項13】 使用者による操作を受け付けるとともに所定の表示を行うタッチスクリーンディスプレイ部と、 外部装置と通信可能な状態であるが前記タッチスクリーンディスプレイ部の表示がオフである非活性状態から前記タッチスクリーンディスプレイ部の表示をオンにしてロック画面が表示された活性状態に切り替えるための活性化ボタンと、 前記活性化ボタンに対する使用者の操作に基づいて前記非活性状態から前記活性状態に切り替えられ、前記ロック画面が表示されたときに、前記ロック画面に広告を表示し、前記広告が前記ロック画面に表示されている間に前記タッチスクリーンディスプレイ部で受け付けられる前記使用者の追加操作に基づいて、前記広告に関連した追加情報を前記タッチスクリーンディスプレイ部に表示し、前記追加操作に基づいて、寄付金積立に対する希望可否を選択するインターフェースが提供され、前記使用者が前記寄付金積立を要請すると広告収益の一部が寄付金として使用される、ことを可能にする制御部と、 を含むスマートフォン。 【請求項14】 前記制御部は、前記広告収益の一部の前記寄付金としての使用に係わる表示を前記タッチスクリーンディスプレイ部に表示する、請求項13に記載のスマートフォン。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2021-01-28 |
結審通知日 | 2021-02-02 |
審決日 | 2021-02-18 |
出願番号 | 特願2017-207167(P2017-207167) |
審決分類 |
P
1
113・
855-
YAA
(H04M)
P 1 113・ 85- YAA (H04M) P 1 113・ 841- YAA (H04M) P 1 113・ 55- YAA (H04M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山田 倍司 |
特許庁審判長 |
吉田 隆之 |
特許庁審判官 |
丸山 高政 谷岡 佳彦 |
登録日 | 2018-01-26 |
登録番号 | 特許第6280283号(P6280283) |
発明の名称 | 移動通信端末機の活性化時に,特定動作が行われるようにするための方法,システム及び移動通信端末機 |
代理人 | 塩越 希 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 後藤 未来 |
代理人 | 岩瀬 康弘 |
代理人 | 家入 健 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 山下 淳 |
復代理人 | 小松 侑太 |
代理人 | 高橋 佳大 |
代理人 | 伊佐次 啓二 |
代理人 | 後藤 未来 |
代理人 | 塩越 希 |
復代理人 | 小松 侑太 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 家入 健 |
代理人 | 鈴木 秀彦 |
代理人 | 河西 智之 |
代理人 | 坂井 健吾 |
代理人 | 大谷 令子 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 岩瀬 康弘 |