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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21B
管理番号 1375301
審判番号 不服2020-2761  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-28 
確定日 2021-06-14 
事件の表示 特願2019-159198号「荷電粒子ビーム核融合」拒絶査定不服審判事件〔令和3年3月11日出願公開、特開2021-38961号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)9月1日の出願であって、以降の手続は次のとおりである。
令和元年10月 1日付け:拒絶理由通知書
令和元年11月14日 :意見書、手続補正書の提出
令和元年12月 9日付け:拒絶査定
令和2年 2月28日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和2年 9月30日付け:令和2年2月28日提出の手続補正書による
補正の却下の決定、拒絶理由通知書(以下、
同書で通知した拒絶理由を「当審拒絶理由」
という。)
令和2年11月23日 :意見書(2通)、手続補正書(2通)の提出
ここで、令和2年11月23日提出の意見書(2通)は、受付番号がそれぞれ「52002399773」及び「52002399781」であるところ、両者の内容は「●理由3(実施可能要件)の4.(頁13/15)」の項における参考図(2ケ所)が相違していることを除いて同じであって、特に断らない限り、これらを区別せずに扱う。
また、同日提出の手続補正書(2通)は、受付番号がそれぞれ「52002399774」及び「52002399780」であるところ、後者の受付番号のものが、前者の受付番号のものよりも後に提出されたものであるので、以下、後者の受付番号の手続補正書による手続補正を「本件補正」という。なお、両手続補正書の内容は、表5?7についての補正箇所以外は、特許請求の範囲の補正を含めて同じである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「荷電粒子ビーム発生器(42)、電子ビーム発生器(43)、収束磁界発生コイル(51s、51t)、旋回部に配置する旋回磁界発生コイル(51p)、及び、
非磁性の絶縁材料であるエンジニアリングセラミクスなどの強靭な材料で製作した真空容器(55)を備え、
内部が真空(00)の直線部を有する円環状の周回輸送路を構成し、
前記収束磁界発生コイル(51s、51t)が作る収束磁界(B_(0)、Bt)の閉じた荷電粒子の周回輸送路を形成し、
正電荷量と負電荷量とが等しくなるように、
前記荷電粒子ビーム発生器(42)が発射する荷電粒子導入ビーム(40i)、及び、 前記電子ビーム発生器(43)が発射する電子導入ビーム(40e)を、
互いに逆方向に周回するように前記の荷電粒子の周回輸送路に導入し、
空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビーム(40)を生成し、
残留する空間電荷による発散力(F_(E))を上回る、
ビーム電流が作る円形磁界(B_(φ))の磁気ピンチ効果による収束力(F_(B))を得る構成としたことを特徴とする、
細く長い形状の核融合反応領域(52f)を形成する、高い密度の前記燃料荷電粒子ビーム(40)を用いた荷電粒子ビーム核融合炉(50)」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は、概要、次の内容を含むものである。なお、本件補正の前後で請求項1の記載に差異はない。
1 実施可能要件違反
本願の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らしても、「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビームを生成」することや、それを生成できたとしても維持することが困難であり、請求項1に係る発明を実施するに際しては、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等を行う必要があると認められるから、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 サポート要件違反
本願の請求項1に係る発明が解決しようとする課題は、「荷電粒子ビーム衝突型核融合における一つの結論は、核融合反応領域の理想的な形状は、細く長い形状であることである。」(【0013】)ところ「強い空間電荷効果を伴うため、必要な密度(ρ)の燃料荷電粒子ビームを発生することが出来なかった。」(【0013】)ことであると認められるが、上記1のとおり、本願の発明の詳細な説明及び技術常識に照らしても、上記課題を解決できるとはいえないから、本願の請求項1に係る発明は、本願の発明の詳細な説明及び技術常識に基づいて、当業者が発明の課題が解決できると認識できる範囲のものとはいえず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願の明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)の記載
1 本願の発明の詳細な説明の記載には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、地上で入手可能な核融合燃料を用いた荷電粒子ビームを自己収束させて衝突させ、非中性子反応のD-^(3)He、p-^(6)Li反応、中性子を伴うD-D反応、D-T反応等を発生させる核融合炉に関するものである。」
「【0013】
<核融合反応領域の形状>
荷電粒子ビーム衝突型核融合における一つの結論は、核融合反応領域の理想的な形状は、細く長い形状であることである。(特許文献1?3)
しかし、強い空間電荷効果を伴うため、必要な密度(ρ)の燃料荷電粒子ビームを発生することが出来なかった。
現在開発が進められている核融合方式では、何れも空間電荷効果を避けるため、核融合燃料粒子である荷電粒子(z)と電子(e)とが混在する熱プラズマを用いている。
熱プラズマを使う方法では、熱運動による方向性のない粒子衝突となるため、細く長い形状の核融合反応領域にすることが出来ない。」
「【0016】
高い核融合反応率(η_(f))を得るには、粒子加速器(42a)を用いて燃料荷電粒子ビーム(40)の運動に方向性を持たせ、十分に細く長い核融合反応領域(52f)を形成することが必須との結論を得ている。(特許文献1?3)
<荷電粒子の輸送>
荷電粒子の輸送技術では、1[T]前後の収束磁界(B_(0)、B_(t))を用いて、1[kA]程度の電子ビーム(40e)を、空間電荷効果を受けながらも、数十ミリメートルまで収束し、数十メートル以上を輸送できている。(非特許文献8)
電子ビーム(40e)を燃料荷電粒子ビーム(40)に置き換えて、荷電粒子の輸送路を核融合反応領域(52f)として利用することが考えられる。
しかし、燃料荷電粒子ビーム(40)の密度(ρ)が不足しており、十分ではない。
【0017】
高い燃料粒子の密度(ρ)を得るために、電子レンズ(42L)を用いて収束させることが有効であるが、短い距離であればともかく、長い距離に渡って高い密度(ρ)を保つことは難しい。
長い距離に渡って高い密度(ρ)を保つには、燃料荷電粒子ビーム(40)の空間電荷を中和し、円形磁界(B_(φ))のローレンツ力による、ビームの自己収縮作用を利用する方法が望ましい。
<空間電荷効果の中和>
燃料荷電粒子ビーム(40)に電子ビーム(40e)を混入することで、空間電荷を効果的に中和することができる。
図1に示すように、燃料荷電粒子(z)の進行方向と逆方向に、空間電荷を中和する粒子数の電子ビーム(40e)を打ち込むことを考える。
燃料荷電粒子ビーム(40)を発散させる電界(Er)は中和され、電子ビーム(40e)を含む燃料荷電粒子ビーム(40)が作る電流(i_(L)、i_(H)、ie)の流れる方向は同一であり、電流(I_(Σ))の方向に対して右回りに発生する円形磁界(B_(φ))を倍増させて、強い磁気ピンチ効果を得ることができる。
【0018】
F_(E)-F_(B)=q(Er-VB_(φ))[N]:負:収束力優勢
Er=(N_(L)+N_(H)-Ne)×q/(2πε_(0)r):電界強度
B_(φ)=I_(Σ)μ_(0)/(2πr)[T]:円形磁界強度
I_(Σ)=i_(L)+i_(H)+ie[A]:総合ビーム電流
i=N×V×q[A]:低速粒子、高速粒子、電子の各電流
V=√(2qK/m)[m/s]:低速粒子、高速粒子、電子の各速度
K[eV]:粒子の運動エネルギー
N_(L)[N/m]:低速荷電粒子線密度
N_(H)[N/m]:高速荷電粒子線密度
Ne[N/m]:電子線密度(荷電粒子の総電荷線密度にほぼ等しい。)
m[kg]:低速粒子、高速粒子、電子の各質量
q=1.602×10^(-19)[C]電荷素量
ε_(0)=8.854×10^(-12)[F/m]真空誘電率
μ_(0)=4π×10^(-7)[H/m]真空透磁率
【0019】
<荷電粒子ビームの収縮>
空間電荷を10,000分の1程度にまで中和できれば、電流の流れに対して右回りに発生する円形磁界(B_(φ))による収束力(F_(B))が、残留する空間電荷の電界(Er)による発散力(F_(E))を上回ることが期待できる。
収束発散比(Fr=(F_(E)-F_(B))/F_(B))を指標として使用する。
燃料荷電粒子ビーム(40)内の粒子のらせん運動などのエミッション(k)が無ければ、ビームの半径(r_(φ))は限りなく収縮する。
プラズマに電流(I)を流して収縮させるだけのZピンチ方式と比較し、粒子加速器(42a)から発射する燃料荷電粒子ビーム(40)の高い直進性を利用して、高密度の細く長い核融合反応領域(52f)を形成することが可能である。
【0020】
<核融合反応領域の長さ>
収束磁界(B_(0)、B_(t))を用いた荷電粒子輸送路において、逆方向に電子ビーム(40e)を打ち込むことで、燃料荷電粒子ビーム(40)の密度(ρ)を各段に高めることができるが、それでも平均自由行程(λ)が数キロメートルから千数百キロメートルの長さになると見積もられる。
有限の長さの核融合反応領域(52f)では、実用的な核融合反応率(η_(f))に達しないことは、明らかである。
このため、燃料荷電粒子ビーム(40)に周回軌道を与え、核融合反応領域(52f)を無限長にすることが有効であると結論できる。
【0021】
<円形軌道>
燃料荷電粒子ビーム(40)の核種や速度が異なると、旋回磁界(B_(ψ))中の旋回半径(r_(ψ))が異なる。
図2(a)に示すような円形の周回軌道の場合、円軌道上で燃料荷電粒子ビーム(40)を衝突させるには、旋回半径(r_(ψ))が等しくなる速度である場合に限られる。
表1に示すように、衝突させるには、燃料荷電粒子ビーム(40)の粒子の質量(m)、電荷(q・z)、速度差(VH-VL)を与えて同一方向に旋回させ、旋回磁界(B_(ψ))中の旋回半径(r_(ψ))が同一となる場合である。
【0022】

【0023】
表1の上の2段に示すように、相対衝突エネルギー(Kc)を60[keV]になる速度で衝突させて、D-T反応を発生するには、デューテリウム(D)を900[keV]で、トリチウム(T)を600[keV]で、旋回磁界(B_(ψ))の磁束密度が0.02[T]のとき、旋回半径(r_(ψ))を9.69[m]前後にすることができる。
表1の下の段に示すように、電子ビーム(40e)の旋回半径(r_(ψ))は1.7[mm]前後と小さいが、燃料荷電粒子ビーム(40)の強い電界による通り道が形成されるので、その経路を逆方向に辿ることができる。」
「【0025】
<直線部を有する軌道>
図3(a)に示すように、周回軌道の一部を直線状にすることによって、燃料荷電粒子ビーム(40)の種類や速度(V)に因らず、直線状の同一の軌道に導くことができ、かつ、周回させることで核融合反応領域(52f)を実質的に無限の長さにすることができる。
図の長方形の箇所は、ソレノイドコイル(51s)による収束磁界(B_(0))を設けた核融合反応領域(52f)であることを現している。
扇形の箇所は、トロイダルコイル(51t)による収束磁界(Bt)とポロイダルコイル(51p)による旋回磁界(B_(ψ))があることを現している。
【0026】
図3(a)の様に核融合反応領域(52f)を2つ設けたもの(1つという構成も可能。)、(b)の様に直線部を交差させたり、(c)の様に、核融合反応領域(52f)を3つ設けて三角形に、あるいは図には示していないが多角形の軌道にすることも可能であり、これらは同一の構成であると理解できる。
また、図3(d)のように、2つの周回輸送路を使用することで、上の周回輸送路で低速ビーム(40L)を、下の周回輸送路で高速ビーム(40H)を周回させ、2つの周回輸送路が重なった中央の直線部を核融合反応領域(52f)とし、対向衝突させて核融合を発生させることができる。
こ の「対向衝突軌道」は、燃料荷電粒子ビーム(40)の加速に要するエネルギーが少ないが、円形磁界(B_(φ))を弱め合い、高速ビーム(40H)または低速ビーム(40L)の一方は、収束力(F_(B))が働かないため、散乱しやすい欠点があり、大量の粒子を衝突させるのに向かない。
図3(e)のように、核融合反応領域(52f)の同じ方向からビームを打ち込み、後方から衝突する構成することで、高速ビーム(40H)の散乱を防止するとともに、低速ビーム(40L)及び高速ビーム(40H)をそれぞれ適切に旋回輸送することができる。
さらに加えて、図に鎖線で示した長円形の部分に低速ビーム(40L_(2))の周回輸送路を追加し、上部の高速ビーム(40H)の周回輸送路と重なった部分に核融合反応領域(52f)を設け、高速ビーム(40H)を共有する形で、2つ以上の核融合反応領域(52f)を持つ多重長円軌道とすることもできる。」
「【0030】
図4(a)及び(b)に示すとおり、ソレノイドコイル(51s)が配置され、図4(a)の右から左に向かう収束磁界(B_(0))を形成し、右側から燃料荷電粒子ビーム(40)が、左側から電子ビーム(40e)を定常的に打ち込み、直線部の収束磁界(B_(0))の磁力線上に平行に燃料荷電粒子ビーム(40)を形成する。
図4(c)は、ソレノイドコイル(51s)が発生する収束磁界(B_(0))のみを描いたものである。
<対消滅・核融合生成粒子>
核融合反応領域(52f)内で核融合を生じて、高速ビーム(40H)と低速ビーム(40L)の粒子が対消滅し、新たに0.8?15[MeV]の大きなエネルギーの核融合生成粒子(48c、48n)が対生成され、図4(b)に示すように、互いに逆方向に飛翔する。
ソレノイドコイル(51s)が作り出す収束磁界(B_(0))は、核融合生成荷電粒子(48c)が真空容器(55)の内壁面に衝突する前に旋回させることができる磁界強度が必要である。」
「【0035】
<旋回輸送路>
旋回輸送路(53)は、図6(a)に示すように、燃料荷電粒子ビーム(40)を収束して輸送する収束磁界(Bt)を発生するのに必要なトロイダルコイル(51t)と、燃料荷電粒子ビーム(40)を旋回させるのに必要な旋回磁界(B_(ψ))を発生するポロイダルコイル(51p)を備えている。
旋回中は核融合を生じない構成とするため、非磁性の絶縁材料であるエンジニアリングセラミクスなどの強靭な材料で製作した真空容器(55)の外側に収束用のトロイダルコイル(51t)を、内側に旋回用のポロイダルコイル(51p)を配置し、ポロイダルコイル(51p)は、外周側の旋回磁界(B_(ψ))が強くなるようにコサイン巻きを施している。」
「【0042】
<電子の軌道>
電子ビーム(40e)は、燃料荷電粒子ビーム(40)の強いプラスの電荷に引き付けられ、燃料荷電粒子ビーム(40)の流れの中を逆方向に伝うように流れる。
旋回磁界(B_(ψ))の強度が大きすぎると、燃料荷電粒子ビーム(40)の内周側に電子ビーム(40e)が偏って、失われる原因になる。
旋回磁界(B_(ψ))の強度を2段階にして旋回領域(53P、53p)を作り出し、旋回半径(r_(ψ))の異なる粒子を輸送するとともに、旋回磁界発生用のポロイダルコイル(51p)をコサイン巻きにすることで旋回輸送路(53p)の内周側に磁界が存在しない領域、あるいは磁界が逆方向になるようにして、電子ビーム(40e)の流出を防ぐ。
【0043】
<電子の散乱>
図6(c)に示すように、燃料荷電粒子ビーム(40)の空間電荷の中和状態を維持するために、核融合反応領域(52f)の偏向領域(52d#1)において燃料荷電粒子ビーム(40)が十分に収束できるよう、電子ビーム発生器(43)により電子ビーム(40e)の補充を行う。
水素の原子核(p)と電子(e)の間に働く力がクーロン力だけであり、水素のイオン化エネルギーである13.6[eV]以上の速度で衝突した場合は、完全弾性衝突を生じる。」
「【0046】
<周回粒子の加速>
周回する燃料荷電粒子ビーム(40)の線密度は、一様であり、バンチ化されていない。
周回によって徐々に運動エネルギー(K)を失うが、粒子加速器(42a)のように加速電極を用いるなどして、加速することができない。
周回する燃料荷電粒子ビーム(40H、40L)の速度より、若干早い速度で荷電粒子導入ビーム(40i)を、打ち込むことで、ほぼ同じ速度で周回する粒子に対して加速を与えることができる。」
「【0098】
50 荷電粒子ビーム輸送型核融合炉
50B トリチウム増殖型核融合炉(増殖炉、中性子型)
50C トリチウム消滅連携型核融合炉(連携炉、中性子型)
50F 非中性子型核融合炉(簡易炉、連携炉)
50X 荷電粒子ビーム核変換炉(中性子型)
51 コイル
51m 閉じ込めコイル(閉じ込め磁界発生コイル、Bm)
51p ポロイダルコイル(旋回磁界発生コイル、B_(ψ))
51s ソレノイドコイル(直線部 収束磁界発生コイル、B_(0))
51t トロイダルコイル(旋回輸送路 収束磁界発生コイル、Bt)
52 領域
52c 生成粒子閉込領域
52d 偏向領域(分離/混合)
52dc 偏向補正領域
52f 核融合反応領域
52r 反射点
53 旋回輸送路
53d 偏向磁界
53P 旋回領域(強磁界)
53p 旋回領域(弱磁界)
54 偏向器(偏向コイル、偏向板)
54d 偏向器(分離器/混合器)
54dc 偏向補正器
55 真空容器 55t 旋回部 55d 接続部 58 反応器 59 外壁」

2 図面
上記1で言及される図1ないし図6は次のものである。


第5 判断
1 実施可能要件について
(1)本願発明の技術的特徴について
本願明細書等の記載によれば、本願発明の技術的特徴は、概ね、次のとおりであると認められる。
ア 本願発明は、地上で入手可能な核融合燃料を用いた荷電粒子ビームを自己収束させて衝突させ、非中性子反応のD-^(3)He、p-^(6)Li反応、中性子を伴うD-D反応、D-T反応等を発生させる核融合炉に関するものである。(【0001】)

イ 荷電粒子ビーム衝突型核融合において、核融合反応領域の理想的な形状は、細く長い形状であるが、強い空間電荷効果を伴うため、核融合反応に必要な密度(ρ)の燃料荷電粒子ビームを発生することが出来なかった。(【0013】【0016】)

ウ そこで、本願発明は、長い距離に渡って高い密度(ρ)を保つようにしたものである。そのためには、燃料荷電粒子ビーム(40)の空間電荷を中和し、円形磁界(B_(φ))のローレンツ力による、ビームの自己収縮作用を利用する方法が望ましい。
空間電荷効果の中和は、燃料荷電粒子ビーム(40)に電子ビーム(40e)を混入することで効果的に行うことができる。ここで、燃料荷電粒子ビームを高速ビームと低速ビームとからなるものとして、高速ビームを後方から低速ビームに衝突させる構成にすると、両ビームを対向衝突させる場合のような一方のビームに収束力が働かないために散乱しやすい欠点があることを防止でき、適切に旋回輸送することができる。このような燃料荷電粒子(z)の進行方向とは逆方向に、空間電荷を中和する粒子数の電子ビーム(40e)を打ち込むと、燃料荷電粒子ビーム(40)を発散させる電界(Er)は中和され、低速粒子の電流(i_(L))、高速粒子の電流(i_(H))、電子による電流(i_(e))の流れる方向が同一であり、これらを総合したビーム電流の方向に対して右回りに発生する円形磁界(B_(φ))を倍増させて、強い磁気ピンチ効果を得ることができる。(【0017】【0018】【0026】)
空間電荷を10,000分の1程度にまで中和できれば、電流の流れに対して右回りに発生する円形磁界(B_(φ))による収束力(F_(B))が、残留する空間電荷の電界(Er)による発散力(F_(E))を上回ることが期待できる。粒子加速器(42a)から発射する燃料荷電粒子ビーム(40)の高い直進性を利用して、高密度の細く長い核融合反応領域(52f)を形成することが可能である。(【0019】)

エ 逆方向に電子ビーム(40e)を打ち込むことで、燃料荷電粒子ビーム(40)の密度(ρ)を各段に高めることができるが、有限の長さの核融合反応領域(52f)では、実用的な核融合反応率(η_(f))に達しないため、燃料荷電粒子ビーム(40)に周回軌道を与え、核融合反応領域(52f)を無限長にすることが有効である。そして、周回軌道の一部を直線状にした周回輸送路とすることによって、燃料荷電粒子ビーム(40)の種類や速度(V)に因らず、直線状の同一の軌道に導くことができ、かつ、周回させることで核融合反応領域(52f)を実質的に無限の長さにすることができる。(【0020】【0025】)
周回輸送路のうち直線部はソレノイドコイル(51s)を、旋回輸送路はトロイダルコイル(51t)及びポロイダルコイル(51p)を備えている。ソレノイドコイル(51s)が作り出す収束磁界(B_(0))は、核融合生成荷電粒子(48c)が真空容器(55)の内壁面に衝突する前に旋回させることができる磁界強度が必要である。トロイダルコイル(51t)は、燃料荷電粒子ビーム(40)を収束して輸送する収束磁界(Bt)を発生するのに必要なものであり、ポロイダルコイル(51p)は、燃料荷電粒子ビーム(40)を旋回させるのに必要な旋回磁界(B_(ψ))を発生するものである。(【0030】【0035】【0098】)

(2)「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビームを生成」できるとする物理的原理について
ア 上記(1)ウのとおり、本願発明は、燃料荷電粒子ビーム(40)の空間電荷を中和することにより、長い距離に渡って高い密度(ρ)を保つような燃料荷電粒子ビームを得るものであるが、そのための特定事項として、「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビーム(40)を生成」することを備えている(以下「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビーム」を「本件中和ビーム」ということがある。)。

イ そして、上記第4で認定した本願明細書等の記載によれば、本願明細書等には、本件中和ビームを生成することに関して、
(i)燃料荷電粒子ビームと電子ビームが、進行方向を互いに逆方向にするように打ち込まれること(【0017】【0030】)、
(ii)燃料荷電粒子ビームは、周回によって徐々に運動エネルギーを失うが、加速電極を用いるなどして加速することができないので、周回する燃料荷電粒子ビームの速度より若干速い速度で荷電粒子導入ビームを打ち込むことにより、ほぼ同じ速度で周回する粒子に対して加速を与えることができること(【0046】)、
(iii)電子ビームの補充は、電子ビーム発生器(43)により行われること(【0043】)、
(iv)旋回磁界(B_(ψ))中の旋回半径(r_(ψ))は、燃料荷電粒子の核種や速度により異なり、電子は、その旋回半径が燃料荷電粒子と比べて小さいが、「燃料荷電粒子ビーム(40)の強い電界による通り道が形成される」ないし「燃料荷電粒子ビーム(40)の強いプラスの電荷に引き付けられ」ることにより、燃料荷電粒子の経路を逆方向に辿ること(【0021】【0023】【0042】)、
(v)旋回磁界(B_(ψ))の強度が大きすぎると、燃料荷電粒子ビーム(40)の内周側に電子ビーム(40e)が偏って、失われる原因になるので、旋回磁界発生用のポロイダルコイル(51p)をコサイン巻きにすることで旋回輸送路(53p)の内周側に磁界が存在しない領域、あるいは磁界が逆方向になるようにして、電子ビーム(40e)の流出を防ぐこと(【0042】)、
が記載されていると認められる。

ウ しかしながら、以下のとおり、本願明細書等の記載及び技術常識に基づいて、当業者が、「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビームを生成」できるとする物理的原理を理解することができるとはいえない。

エ 第一に、上記イ(特に(iv))によれば、本件中和ビームを生成するためには、電子を、燃料荷電粒子の移動方向と逆方向に移動させるとともに、燃料荷電粒子の軌道と相当程度に同一軌道上に移動させること(以下、電子の移動のうち、燃料荷電粒子の移動方向と逆方向の移動を「逆方向移動」、燃料荷電粒子の軌道と相当程度の同一軌道上の移動を「同一軌道上移動」、両者を兼ね備えた移動を「逆方向同一軌道上移動」と、それぞれいうことがある。)が必要であるといえる。そして、この逆方向同一軌道上移動は、実用的な核融合反応率(η_(f))に達するべく核融合反応領域(52f)を無限長にする(上記(1)エ)ために、本願発明の「円環状の周回輸送路」(上記(1)エのとおり、「直線部」及び「旋回輸送路」を含むものであり、以下、それぞれ、単に「直線部」及び「旋回輸送路」という。)に沿って実現することが必要である。
しかしながら、これらのことは、物理的原理からみて、以下のとおり困難といわざるを得ない。
(ア)電子は、打ち込まれたものである(上記イ(i))から、当初は、直線運動をしており、また、徐々に運動エネルギーを失う(上記イ(ii))といえる。
そのような中で、電子を円環状の周回輸送路に逆方向同一軌道上移動させるためには、何らかの適切な力が作用する必要があることが明らかである。

(イ)そこで、まず、電界に基づく力について検討する。
a 電界に基づく力は、燃料荷電粒子ビームに含まれる電荷に由来するものであるが、これに基づく力が、単純なものとはいい難いのであり、例えば、図5(c)でいうと、電子ビームを打ち込む地点よりも、燃料荷電粒子の移動方向でみて下流側にある燃料荷電粒子による影響も考えられるし、いずれにせよ、多数の燃料荷電粒子と電子との相互作用が関与する多体問題となる。このように、燃料荷電粒子ビームの電荷が発する電界に基づく力は、極めて多数の燃料荷電粒子等からの総合的な影響を反映した複雑なものとなる。
また、電子の質量が燃料荷電粒子のそれよりも相当小さく、また、燃料荷電粒子が核融合反応に必要な程度に高い密度で存在する(上記(1)イ及びウ)とともに、そのような燃料荷電粒子中で電子を相当程度の距離にわたって移動させることを要すると解されることからすると、電子は、逆方向同一軌道上移動をするというよりも、むしろ、燃料荷電粒子の進行方向の側に徐々に移動方向を変えていくように移動する(すなわち、逆方向移動をしない。)とも考えられる。

b ところで、本願明細書等には、旋回輸送路における電子の運動について、上記イ(iv)のとおり、電子は、その旋回半径が燃料荷電粒子と比べて小さいが、「燃料荷電粒子ビーム(40)の強い電界による通り道が形成される」ないし「燃料荷電粒子ビーム(40)の強いプラスの電荷に引き付けられ」ることにより、逆方向同一軌道上移動をする旨記載されている。
(a)しかしながら、まず、「燃料荷電粒子ビーム(40)の強い電界」ないし「燃料荷電粒子ビーム(40)の強いプラスの電荷」が存在する位置では、燃料荷電粒子ビームが空間電界効果により発散してしまう可能性があるから、そのようなことを想定すること自体に無理があるといえる。
加えて、燃料荷電粒子ビームの電界に基づきそのような通り道が形成されるといった物理的事実の存在を裏付ける証拠もない。

(b)仮に、電子に対して「燃料荷電粒子ビーム(40)の強い電界による通り道が形成され」たり、電子が「燃料荷電粒子ビーム(40)の強いプラスの電荷に引き付けられ」たりすることが物理的事実であるならば、かえって、電子は、逆方向同一軌道上移動をしないと考えられる。
すなわち、まず、電子が「燃料荷電粒子ビーム(40)の強いプラスの電荷に引き付けられ」た結果、電子は、逆方向移動するというよりは、むしろ、燃料荷電粒子の進行方向の側に移動してしまうと考えられる。
さらに、電子が「燃料荷電粒子ビーム(40)の強いプラスの電荷に引き付けられ」た結果、その電子を取り込んだ燃料荷電粒子ビームは、中和された状態に近づくことになるから、「強いプラスの電荷」ないし「強い電界」が実質的に存在し続けられず、そうすると、本願明細書等に記載された上記作用によっては、電子の逆方向同一軌道上移動が困難になると考えられる。

c そして、本願明細書等の他の記載をみても、電界に基づく力が、電子の逆方向同一軌道上移動を可能にするものであるとはいえない。また、仮に、燃料荷電粒子ビームに含まれる電荷に由来する影響が相殺してしまうとしても、電界に基づく力が電子の逆方向同一軌道上移動を可能にするものではないことに変わりない。
よって、電界に基づく力は、電子の逆方向同一軌道上移動を可能にするものとはいえず、このことは、直線部及び旋回輸送路のいずれにおいても成り立つ。

(ウ)次に、磁界に基づく力について検討する。
a 上記(1)エのとおり、直線部はソレノイドコイル(51s)を、旋回輸送路はトロイダルコイル(51t)及びポロイダルコイル(51p)を、それぞれ備えているが、このようなコイルによる磁界に基づく力が、それにより電子の逆方向移動を可能にするものではないことは、明らかである。

b さらに、磁界に基づく力は、電子の同一軌道上移動を旋回輸送路について可能にするものともいえない。
すなわち、旋回輸送路には、トロイダルコイル(51t)及びポロイダルコイル(51p)が備わっているところ、まず、旋回磁界(B_(ψ))を発生するポロイダルコイル(51p)による作用は、燃料荷電粒子のみならず、電子にも及ぶ。そして、上記イ(iv)のとおり、電子の質量は燃料荷電粒子の質量より非常に小さいため、当該旋回磁界による電子の旋回半径は、燃料荷電粒子のそれよりも非常に小さくなるといえる。そうすると、当該旋回磁界に基づく力によって、電子が、旋回輸送路を同一軌道上移動するとはいえない。
また、収束磁界(Bt)を発生するためのトロイダルコイル(51t)による作用は、燃料荷電粒子ビームを収束して輸送する作用であるから、この作用があるからといって、電子が、旋回輸送路を同一軌道上移動するとはいえない。

c ところで、本願明細書等には、旋回輸送路における電子の運動について、上記イ(v)のとおり、旋回磁界(B_(ψ))の強度が大きすぎると、燃料荷電粒子ビーム(40)の内周側に電子ビーム(40e)が偏って、失われる原因になるので、旋回磁界発生用のポロイダルコイル(51p)をコサイン巻きにすることで旋回輸送路(53p)の内周側に磁界が存在しない領域、あるいは磁界が逆方向になるようにして、電子ビーム(40e)の流出を防ぐことが記載されている。
しかしながら、記載が具体性を欠いている上、磁界が存在しない領域や磁界が逆方向になる領域を設けるだけで、直ちに、電子が、旋回輸送路を逆方向同一軌道上移動するとはいえない。

d そして、本願明細書等の他の記載をみても、磁界に基づく力が、電子の逆方向同一軌道上移動を可能にするものとはいえない。
よって、磁界に基づく力は、電子の逆方向同一軌道上移動を可能にするものとはいえず、このことは、直線部及び旋回輸送路のいずれにおいても成り立つ。

(エ)以上によれば、電子を、円環状の周回輸送路を逆方向同一軌道上移動させるための適切な力が存在しているとはいえず、本願明細書の他の記載及び技術常識を踏まえても、そのような力が存在するとはいえない。
よって、当業者が、本願明細書等の記載及び技術常識に基づいて、電子を、円環状の周回輸送路に逆方向同一軌道上移動させることができるとする物理的原理を理解できるとはいえないから、結局、「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビームを生成」することができるとする物理的原理を理解できるとはいえない。

オ 第二に、上記イ(i)のとおり、本願明細書等の記載によれば、燃料荷電粒子ビームと電子ビームが、進行方向を互いに逆方向にするように打ち込まれることが必要であるところ、そのようにして打ち込まれる時点の(つまり、燃料荷電粒子に電子が混入される前の)燃料荷電粒子ビームは、当然、空間電荷を中和していないものである。
しかしながら、空間電荷を中和していない燃料荷電粒子ビームは、上記(1)イ及びウによれば、その密度が、空間電荷効果により発散してしまう程度に高いものであると解されるから、そのようなビームを実現できるとはいえない。そして、本願明細書等には、それをどのようにして実現すればよいのか記載されておらず、そのような技術常識が存在するとの証拠もない。
よって、当業者は、本願明細書等の記載及び技術常識に基づいて、空間電荷を中和していない燃料荷電粒子ビームを実現できるとする物理的原理を理解できるとはいえないから、結局、「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビームを生成」することができるとする物理的原理を理解できるとはいえない。

カ 以上に対し、請求人は、以下のとおり主張するが、いずれも失当である。
(ア)請求人は、電子が円環状の周回輸送路を逆方向同一軌道上移動するメカニズムに関して、概ね、(i)燃料荷電粒子ビームの内部は、電子が金属中の自由電子のように移動し易い環境を与えており、金属中を流れる電流が容易に大気中に出てこないのと同様に、簡単には中和状態から逸脱しないこと、(ii)電子の逆方向の移動は、電子を逆方向に打ち込むことにより実現されていること、(iii)電子が、多数の燃料荷電粒子よりあらゆる方向から相互作用を受けるのであるから、それらの力は相殺して無くなるし、両粒子は極めて高速ですれ違うので、個別の相互作用を及ぼす時間は極小であり、相互作用は平均化すること、(iv)電子が燃料荷電粒子と衝突あるいは近傍を通過して個別に強い影響を受ける場合は、散乱断面積の検討により考える必要がないと結論づけられていること、(v)本件中和ビームであっても内部に電界の傾斜や斑が存在すること、(vi)電子の質量が小さいから、強いプラスの電荷に引きつけられ、燃料荷電粒子ビームの軌道に柔軟に寄り添って運動することができること、(vii)電子が力を受けてビームの分極を生じると、静電引力を生じて燃料荷電粒子にも伝わり、電子の旋回運動が抑制されること(電子は、燃料荷電粒子からの静電引力があるので、燃料荷電粒子ビームの外には出ないこと)、(viii)強い円形磁界により、旋回磁界を排除していること、を主張する。
a しかしながら、まず、(i)については、そのような物理的事実が存在するとはいえない。
すなわち、金属中の自由電子は、金属の結晶の格子構造による周期的ポテンシャルにより形成されるバンド構造のエネルギー準位内のポテンシャルエネルギーを有しており、ポテンシャルエネルギーと運動エネルギーとを足したトータルのエネルギーはマイナスである(トータルのエネルギーがマイナスであるため、電子は金属内にとどまりながら、エネルギー準位がバンド構造をとっているため、比較的自由な状態をとり得る。)。これに対して、本願発明の電子ビームは、真空中(自由空間)に存在するのであるから、トータルのエネルギーはプラス(ポテンシャルエネルギーはゼロ)であり、請求人が主張するところの「燃料荷電粒子ビーム(40)中の燃料荷電粒子(z)は、正電荷の集合であるから、良導体である金属原子中の自由電子と同じく、燃料荷電粒子ビーム(40)中の電子(e)が移動し良い環境を形成」することはあり得ない。
請求人は、本件中和ビーム中の燃料荷電粒子と電子とを分離しようとすれば、正と負の電荷間の強い引力が発生し、状況によっては落雷に相当するような電荷の移動が発生する旨も主張するが、そのような物理的事実があるとはいえない。このことは、請求人が本件中和ビームと同様であると主張するところの「良導体である金属原子中の自由電子」ですら、さほど困難なく、外に飛び出すことが広く知られている(金属中の電子が外に飛び出すのに必要な最小限のエネルギーが仕事関数と呼ばれ、金属中の電子が外に飛び出す現象としては、例えば「光電効果」がある。)ことからみても明らかであるし、また、さらに、燃料荷電粒子間及び電子間に働く反発力なども考慮した定量的な根拠があるわけでもないことも指摘できる。

b (ii)?(iv)については、まず、(ii)について、電子を逆方向に打ち込むだけでは、上記エ(ア)のとおり、いずれは運動エネルギーを失ってしまうし、上記エ(イ)aのとおり、電子は、燃料荷電粒子によって影響を受けることにより、むしろ、逆方向移動をしなくなってしまうとも考えられる。
これに対する反論が(iii)及び(iv)であると解されるところ、(iv)をみると、本願明細書等の【0044】では、電子の散乱断面積として散乱角が90°以上の散乱による数値と、その10000倍と見積もる範囲の検討を行っているが、クーロン相互作用による散乱断面積は本来発散してしまうものであるし、また、燃料荷電粒子が核融合反応に必要な程度に高い密度で存在する(上記(1)イ及びウ)とともにそのような燃料荷電粒子中で電子を相当程度の距離にわたって移動させることを要すると解されることからみても、この検討結果が上記エの説示を左右するとまではいえない。
次に、(iii)をみると、電子が、あらゆる方向から相互作用を受けるといっても、その力の大きさには差があるから、電子に加わる力が相殺されるとはいえないし、極めて高速ですれ違うといっても、上記のとおり、燃料荷電粒子が多数存在する一方で散乱断面積を必ずしも小さいとは評価できないことからすると、個別の相互作用が極小であるとしても、これらを積み重ねた全体としての挙動が小さいとはいえない。
仮に、(iii)及び(iv)が正しいとすると、上記エ(イ)cで説示したとおり、燃料荷電粒子ビームの各燃料荷電粒子は、電界に基づく力によっては、電子を逆方向移動させるのに適切な力を作用させることはできないことになるし、また、上記したとおり、電子は徐々に運動エネルギーを失うことになり、その結果、燃料荷電粒子との相互作用が増加して、むしろ、逆方向移動をしなくなってしまうとも考えられる。

c (v)については、本件中和ビームの内部の電界の傾斜や斑によって、電子が逆方向移動するとの主張であると解されるが、本願明細書等には記載されていないし、また、これらの傾斜や斑による定量的な効果も不明である。

d (vi)及び(vii)については、本願明細書等に記載されていないことにすぎないし、それを措くとしても、その定量的な影響が不明であるから、請求人が主張するとおりの現象が生じるのかは不明である。
また、上記(1)エによれば、燃料荷電粒子が旋回磁界により画定される旋回半径により旋回するといえることからみると、燃料荷電粒子は、旋回輸送路において、旋回半径方向には、旋回磁界に由来するローレンツ力以外の力を受けない(すなわち、他の電子等からの相互作用を受けないか、受けても相殺されている。)ことを前提としていると考えられ、そうであるならば、電子も、他の燃料荷電粒子等からの相互作用を受けないか、受けても相殺されていると考えられる。このようにして、旋回輸送路では、旋回磁界に由来するローレンツ力にもっぱら基づいて、燃料荷電粒子が外側を、電子が内側をそれぞれ旋回することになるが、このとき、仮に、質量の小さい電子が、当該内側の旋回運動を抑制させるような静電引力を燃料荷電粒子から受けるのであれば、逆に、燃料荷電粒子も、電子からの静電引力を受けることになり、しかも、当該静電引力は旋回半径方向の成分をもつのであって、燃料荷電粒子ビームに働く旋回力(向心力)は当該静電引力を含めて燃料荷電粒子の質量に依存しない力であるから、質量が大きい燃料荷電粒子であっても、その旋回半径を変動させてしまうと考えられる。
さらに、請求人は、電子は、燃料荷電粒子からの静電引力があるので、燃料荷電粒子ビームの外には出ない旨主張するが、上記aでも説示したとおり、そのような物理的事実があるとはいえないし、電子が燃料荷電粒子ビームの外に出ないといえるかはともかく、上記同様に、旋回輸送路において、燃料荷電粒子は電子からの静電引力の影響を受けることになるから、燃料荷電粒子の旋回半径が変動してしまうと考えられる。

e (viii)については、旋回磁界と円形磁界の大きさの関係は、本願発明に特定されていないから、本願発明に基づかない主張である。また、それを措き、旋回磁界よりも円形磁界が大きいとしても、円形磁界に基づく力は、電子に対して軸対称的に作用するから、各電子につきその力を時間平均でみると0になるとも考えられ、よって、旋回磁界による影響を排除できるとはいえない。
さらにいえば、請求人の主張は、もはや、燃料荷電粒子ビームの旋回半径が何で決まるのかを不明にするものである。すなわち、上記(1)エによれば、燃料荷電粒子ビームの旋回半径は、旋回磁界によって画定されるものであり、実際、本願明細書等の表2及び表7の「旋回半径」の値は旋回磁界の値に基づいて計算されていると解される。しかしながら、請求人が電子の挙動に対して旋回磁界についてする主張は、そのまま、燃料荷電粒子の挙動に対しても当てはまると考えられることから、当該主張によれば、かえって、燃料荷電粒子ビームの旋回半径が何によって画定されるのかが不明になる。その意味において、請求人の主張は、本願明細書等の記載に基づかないものである。
この点、請求人は、旋回磁界は、旋回の外側で円形磁界を強め、同じく内側で円形磁界を弱めて、ビーム内側に向けての力に差異を生じるので、これが旋回力の原因になる旨主張する。請求人が主張する力の具体的内容は判然とせず、依拠する物理的原理も不明であるが、仮に、旋回半径が旋回磁界によって定まるという主張であるならば、円形磁界の大きさの程度によらず、、上記エ(ウ)bで説示したとおり、燃料荷電粒子と電子とは異なる旋回半径で旋回することになるし、また、仮に、旋回半径が、旋回磁界のみならず円形磁界によっても定まるという主張であるならば、円形磁界により生じる力が時間的に一定とはいえないことから、燃料荷電粒子ビームが、一定の旋回半径で旋回できないという帰結を生じてしまう。

(イ)請求人は、本件中和ビームを生成する前に、空間電荷を中和していない燃料荷電粒子ビームを実現する物理的原理に関して、燃料荷電粒子ビームを一度に生成できる粒子加速器を作製することは困難であるから、通常運用に必要な規模の粒子加速器で構成し、電子を加えて中和しながら蓄積ビームを形成すると考えるのが合理的である旨主張する。
請求人は、始めは密度がさほど高くない本件中和ビームを得て、その後、徐々に、燃料荷電粒子の密度を増加させて、十分な密度の本件中和ビームを得るということを主張しているものと解されるが、本願明細書等にはそのような具体的な手法は記載されていないし、そのようにして本件中和ビームを生成することが技術常識であるとの証拠もない。
さらに、請求人は、高速粒子と電子を打ち込み、1秒後には、所要の粒子蓄積率に達するので、低速粒子の打ち込みを開始すればよい旨も主張するが、同様に、本願明細書等の記載及び技術常識に基づく主張ではない。

キ 小括
以上のとおり、当業者は、本願明細書等の記載及び技術常識に基づいても、「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビームを生成」できるとする物理的原理を理解できるとはいえない。

(3)「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビーム」を生成できた後に、それを維持できるとする物理的原理について
ア 本願発明は、「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビーム(40)を生成」するものであるところ、「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビーム」(本件中和ビーム)を生成する目的は「荷電粒子ビーム核融合炉」を実現することにあるから、本件中和ビームを生成した後、それを維持することが必要であることが明らかである。
ここで、当業者が本件中和ビームを生成する物理的原理を理解できるとはいえないことは、上記(2)で説示したとおりであるが、それを措くとしても、以下のとおり、当業者は本件中和ビームを維持する物理的原理を理解できるとはいえない。

イ まず、本件中和ビームのビーム断面における現象について検討する。
本願発明は、「ビーム電流が作る円形磁界(B_(φ))の磁気ピンチ効果による収束力(F_(B))を得る構成とした」ものであるから、本件中和ビームにおいて、燃料荷電粒子及び電子には、それぞれに対して、磁気ピンチ効果による収束効果が働くと解される。そして、電子の質量は燃料荷電粒子の質量と比べて相当小さいため、これらの磁気ピンチ効果は、電子の方が、燃料荷電粒子よりも、短時間で生じると解される。そうすると、ビーム断面でみて、電子が内側に分布しようとするとともに、燃料荷電粒子が外側(表面側)に分布しようとするという物理的作用が存在する(なお、請求人は、令和2年11月23日提出の意見書において、これを必然的に生じる旨主張している。)。
しかしながら、そのような物理的作用により、当該ビーム断面でみて、電子が内側に、燃料荷電粒子が外側に分布するという状況では、外側にある燃料荷電粒子は、その周辺に電子が存在していないから、発散すると考えられる。この点、内側にある電子による生じる電界の影響を考慮しても、その値は定量的に明らかではないから、この発散を抑制できるとまではいえない。
このようにして、本件中和ビームが維持されないというメカニズムが存在するが、それをどのようにして抑制するのかについて、本願明細書等には何も記載されていないし、技術常識からも明らかではない。
したがって、当業者は、本件中和ビームが維持される物理的原理を理解できるとはいえない。

ウ 次に、本件中和ビームのビームとしての形状について検討する。
本件中和ビームは、燃料荷電粒子ビームに電子ビームが混入されてなるものである(上記(1)ウ)から、本件中和ビームを構成する各電子も、ビームとしての形状を構成しつつ存在していると解される。他方で、各電子は多数の燃料荷電粒子からの相互作用を受けるため、当該各電子の進行方向は、徐々に、ビームとしての進行方向から外れていくという物理的作用が存在する。
しかしながら、そのような物理的作用により、各電子は、ビームとしての形状を維持できるとはいえなくなると考えられ、そうすると、それが混入されてなる本件中和ビームについても、空間電荷の中和の状態が維持できるとはいえないことになる。
このようにして、本件中和ビームが維持されないというメカニズムが存在するが、それをどのようにして抑制するのかについて、本願明細書等には何も記載されていないし、技術常識からも明らかではない。
したがって、当業者は、本件中和ビームが維持される物理的原理を理解できるとはいえない。

エ 以上に対し、請求人は、以下のとおり主張するが、いずれも失当である。
(ア)請求人は、本件中和ビームがビーム断面で維持されるメカニズムとして、(i)中和されているビーム内部では、空間電荷効果による発散効果が無効になるとともに、磁気ピンチ効果による圧縮力により収束状態が維持されること、(ii)ビームの圧縮により、ビーム表面に燃料荷電粒子が多く出現するが、ビーム内部の電子に対して燃料荷電粒子との間の静電引力が増加するとともに、ビーム周辺の電子がビーム表面に引き寄せられて電界を中和するので、発散力は抑制されること、(iii)電子過剰状態にするなどして、磁気ピンチ効果による収束効果を最大にして、燃料荷電粒子ビームを発散しないようにしていること、(iv)電子過剰にしているので、ビーム内部の負の電界が強くなり、外側の燃料荷電粒子の発散を抑制すること、(v)運動エネルギーの小さい電子は、円形磁界の影響を受けにくいが、ビーム表面に到達すれば長い時間に亘って電界を中和することが期待できること、を主張する。
a しかしながら、(i)については、上記イで説示したとおり、定量的に明らかではない。

b (ii)については、電子・燃料荷電粒子間に働く静電引力と燃料荷電粒子相互間に働く発散力との大小関係やその差の大きさが一律的に定まるとはいえないから、請求人の主張のとおりの現象が生じるとはいえない。
ところで、請求人は、ビーム表面に出現した燃料荷電粒子の発散の可能性について、本願明細書等の【0029】のように、ビーム周辺を電子過剰にしているから、当該発散が生じることはない旨、核融合を生じて燃料荷電粒子ビーム内の燃料荷電粒子が対消滅し燃料荷電粒子ビーム内での電子過剰を生じる場合でも表5等において発散しないことを確認している旨を主張する。しかしながら、ビーム周辺を電子過剰にしていることは、本願発明に特定されていない事項であるから、本願発明に基づかない主張にすぎない。また、それは措くとしても、同【0029】には、「燃料荷電粒子ビーム(40)と電子ビーム(40e)とが、互いに逆方向に進むので、電子ビーム(40e)を過剰にすることで、燃料荷電粒子ビーム(40)の収束状態をより良好に保つことが出来る。」と記載されているものの、ビーム周辺を電子過剰にしているとは記載されていないし、それがゆえに、ビーム表面の燃料荷電粒子が発散しないとも記載されていない。さらに、本願明細書等には、請求人が主張する表5等が、ビーム断面における燃料荷電粒子及び電子の分布状況をも考慮したものであるとも記載されていない。よって、これらの主張は、本願明細書等の記載にも基づかないものである。

c (iii)及び(iv)については、電子過剰にすることは、本願発明に特定されていない事項であるから、本願発明に基づかない主張にすぎない。また、それは措くとしても、上記bで摘記した同【0029】の記載は、両ビームが「互いに逆方向に進む」ことを要因として電子ビームの過剰を採用したことを意味しているにとどまるのであって、電子ビームの過剰の技術的意義が、磁気ピンチ効果による収束効果を最大にすることや、ビーム内部の負の電界が強くなることとは記載されていないから、これらの主張は、本願明細書等の記載にも基づかないものである。

d (v)については、本願明細書等に記載されていない事項であるから、本願明細書等の記載に基づかないものにすぎない。また、それを措くとしても、請求人が主張する現象が、物理的事実であることを示す証拠や必然的に生じる事象であることを示す証拠はないし、定量的な効果が不明であるから、請求人の主張のとおりの現象が生じるとはいえない。

(イ)請求人は、本件中和ビームがビームとしての形状を維持できるメカニズムとして、(i)電荷の中和による発散力の抑制のほかに、円形磁界の相加による収束力の増強があること、(ii)電子が、燃料荷電粒子の近傍を通過したことによってその進行方向を外れたとしても、強力な円形磁界によってビームの中心方向に偏向され、引き戻されること、(iii)燃料荷電粒子は、電子に比べて質量が大きい分、電子よりビームの外側に達して分極という形で表面化し、この燃料荷電粒子が、ビームの内側の電子を外側に引き出すことで中和領域を維持すること、(iv)より外側に達した燃料荷電粒子があっても、電子過剰にしているので、内側の燃料荷電粒子による電荷遮蔽による発散力の影響が緩和されて、ビームの収束性が維持されること、(v)速度を失った電子は、磁界の影響を受けにくいので、分極した燃料荷電粒子ビームの周辺に対流して、分極による電界を緩和すること、(vi)散乱した電子は、少なくともビームの周辺に分布し、円形磁界に巻き付いた形で併走すること、を主張する。
請求人は、要するに、本件中和ビームがビーム断面で維持される物理的原理を主張していると解されるが、これらについては、上記(ア)で説示したとおり、失当であるし、定量的に明らかなことでもない。
さらにいえば、このような物理的原理の有無にかかわらず、各電子が多数の燃料荷電粒子からの相互作用を受けること自体は否定されないから、上記ウで説示したところの、本件中和ビームが維持されなくなるメカニズムの存在も否定されない。そして、定性的な分析によっては、当該メカニズムと請求人が主張する物理的原理のうち、いずれが支配的なのか、また、支配的な場合があるとしても、それがどのような条件のもと成立するのかは不明である。よって、請求人の主張によっては、上記ウの説示が左右されることはない。

オ 小括
以上のとおり、当業者は、本願明細書等の記載及び技術常識に基づいても、「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビーム」を生成できた後に、それを維持できるとする物理的原理を理解できるとはいえない。

(4)実施可能要件についてのまとめ
ア 上記(2)及び(3)のとおり、本願明細書等の記載及び技術常識に基づいても、当業者は、「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビームを生成」できるとする物理的原理を理解できるとはいえないし、「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビーム」を生成できた後に、それを維持できるとする物理的原理も理解できるともいえない。
このように、本願明細書等の記載によっては、上記各物理的原理を理解できるとはいえないところ、それにもかかわらず、本願明細書等には、実施例その他の裏付けとなるべき記載が存在しない。この点、本願明細書等には、本件中和ビームに関する複数の計算例(表2、表5?表7等)が記載されているが、これらの数値は、いずれも、本件中和ビームを生成し、かつ、維持できたことを前提として計算されたものと解されるから、上記でいう実施例その他の裏付けとみることはできない。
そして、本件中和ビームは、燃料荷電粒子ビームと電子ビームの双方を含むものであるため、これら燃料荷電粒子及び電子同士の相互作用が存在する上に、多粒子系であることから、一般に、その挙動は複雑かつ予測困難であるといえるため、定量的な考察は困難であるといえる。
そうすると、本願発明を実施するに際しては、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等を行う必要があるといわざるを得ない。

イ これに対し、請求人は、以下のとおり主張するが、いずれも失当である。
(ア)請求人は、物理的現象として確認された範囲内の事象のみを扱っているとともに、また、本件中和ビームを生成したことを前提として説明を行うのは当然である旨主張する。
しかしながら、本件中和ビームの生成及び維持が、物理的現象として確認されたとの証拠はないし、それが技術常識であるとの証拠もない。

(イ)請求人は、燃料荷電粒子ビームと電子ビームの双方を含む粒子同士の相互作用は、本願明細書等の【0044】のとおり、投入する燃料粒子数のおよそ1兆分の1にすぎない旨主張するが、上記(2)カ(ア)bで説示したとおりであるし、上記(3)の説示を左右するものでもない。

(ウ)請求人は、本願発明は、多粒子系として解析できる限界を超えているので、集団としての特性としての解析を適用すべきであり、本件中和ビームの挙動を把握するために多粒子系を持ち出す必要はない旨主張するが、本願明細書等の記載によって、当業者が「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビームを生成」できるとする物理的原理を理解できるとはいえないし、「空間電荷を中和した燃料荷電粒子ビーム」を生成できた後に、それを維持できるとする物理的原理も理解できるともいえないことは、上記(2)及び(3)で説示したとおりである。

ウ 以上のとおりであるから、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 サポート要件について
(1)検討
ア 上記1(1)イによれば、本願発明が解決しようとする課題は、荷電粒子ビーム衝突型核融合において、核融合反応領域の理想的な形状は、細く長い形状であるが、強い空間電荷効果を伴うため、核融合反応に必要な密度(ρ)の燃料荷電粒子ビームを発生することが出来なかったことであると認められる。
そして、上記課題を解決するために、本願発明は、その解決手段として、請求項1に特定された事項を特定していると認められる。
しかしながら、上記1で認定判断したとおり、本願明細書等には、上記課題解決手段を実施することができる程度の記載がないことから、本願発明は、本願明細書等の記載及び技術常識に基づいて当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。

イ これに対し、請求人は、本願明細書等には、核融合を実現するための有用な発明及び多数の解決手段を開示している旨主張するが、本願明細書等の記載及び技術常識に基づいて当業者が本願発明の課題を解決できると認識できるとはいえないことは、上記したとおりである。

(2)サポート要件についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願の請求項1の記載は、本願の発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-03-30 
結審通知日 2021-04-02 
審決日 2021-04-23 
出願番号 特願2019-159198(P2019-159198)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G21B)
P 1 8・ 536- WZ (G21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中尾 太郎右▲高▼ 孝幸  
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 瀬川 勝久
松川 直樹
発明の名称 荷電粒子ビーム核融合  

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