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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02C
管理番号 1375352
審判番号 不服2020-12112  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-28 
確定日 2021-07-06 
事件の表示 特願2017-566451「眼用回折多焦点レンズおよび眼用回折多焦点レンズの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月17日国際公開、WO2017/138099、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2017-566451号(以下「本件出願」という。)は、2016年(平成28年)2月9日を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成31年 1月25日付け:拒絶理由通知書
平成31年 3月19日提出:意見書
平成31年 3月19日提出:手続補正書
令和 元年 8月30日付け:拒絶理由通知書
令和 元年12月27日提出:意見書
令和 元年12月27日提出:手続補正書
令和 2年 5月27日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 8月28日提出:審判請求書
令和 2年 8月28日提出:手続補正書
令和 3年 3月11日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 4月 8日提出:意見書
令和 3年 4月 8日提出:手続補正書


第2 本件発明
本件出願の請求項1?11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明11」という。)は、令和3年4月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるところ、本件発明1及び本件発明11は、以下のとおりのものである。

1 本件発明1
「 ブレーズ状の複数のゾーンが同心円状に設定されて中央の第1ゾーンを除く各ゾーンがフレネル間隔を有する位相プロファイルの回折構造によって、光軸方向に少なくとも3つの焦点を生成する眼用の回折多焦点レンズにおいて、
前記第1ゾーンを除く前記複数のゾーンのうちで少なくとも一つの該ゾーンが、前記位相プロファイルにおける傾斜方向を他のゾーンと反対にされた調節ゾーンとされていると共に、該調節ゾーンの径方向の両側が該調節ゾーンではない該第1ゾーン以外の該ゾーンとされており、且つ、
前記位相プロファイルが、径方向において3つの前記ゾーンからなるゾーン群の周期的な繰り返し構造とされて、該ゾーン群において中央に位置するゾーンが前記調節ゾーンとされていると共に、
光軸方向における透過光の光強度分布において前記3つの焦点を外れた位置でピークを与える光強度レベルが、該調節ゾーンを有しないものに比して小さく抑えられていることを特徴とする眼用回折多焦点レンズ。」

2 本件発明11
「 同心円状の複数のゾーンからなる回折構造によって光軸方向に少なくとも3つの焦点を生成可能とされた眼用の回折多焦点レンズを製造するに際して、
ブレーズ状の複数のゾーンが同心円状に設定されて中央の第1ゾーンを除く各ゾーンがフレネル間隔を有する回折構造によって、光軸方向に少なくとも3つの焦点を生成する位相プロファイルを設定すると共に、該位相プロファイルにおける該複数のゾーンのうちで少なくとも一つの該ゾーンの傾斜方向を他のゾーンと反対にした調節ゾーンを設定し、且つ、該調節ゾーンの径方向の両側を該調節ゾーンではない該第1ゾーン以外の該ゾーンとすると共に、前記位相プロファイルを、径方向において3つの前記ゾーンからなるゾーン群の周期的な繰り返し構造として、該ゾーン群において中央に位置するゾーンを前記調節ゾーンとすることにより、光軸方向における透過光の光強度分布において前記3つの焦点を外れた位置でピークを与える光強度レベルを抑えることを特徴とする眼用回折多焦点レンズの製造方法。」

なお、本件発明2?10は、本件発明1の「眼用回折多焦点レンズ」に対してさらに他の発明特定事項を付加したものである。


第3 引用文献の記載事項、及び引用発明
1 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、引用文献2(国際公開第2014/091528号)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

(1)「技術分野
[0001] 本発明は、人眼に用いられて人眼光学系への矯正作用等を発揮するコンタクトレンズおよび眼内レンズなどの眼用レンズに係り、特に新規な構造の回折構造を備えた多焦点眼用レンズとその製造方法に関する。
背景技術
・・・省略・・・
[0005] 一般に回折型多焦点レンズは、フレネル間隔というある規則に従いレンズ中心から周辺に向うにつれて回折ゾーンの間隔が徐々に狭くなった回折構造を有するものであり、かかる構造から生成する0次回折光と1次回折光を利用して多焦点とするものである。通常は、0次回折光を遠方視用の焦点とし、+1次回折光を近方視用の焦点とする。かかる回折光の分配によって遠近用の焦点を有するバイフォーカルレンズとすることができる。かかる遠近用の焦点を生成し得る回折多焦点レンズの例として、米国特許5144483(特許文献1)が挙げられる。
・・・省略・・・
[0007] ところが、このような回折型多焦点レンズでは、特に眼内レンズとしての適用例が増えるに伴って、未だ解決すべき問題点の存在が明らかとなってきている。それは見え方に関するもので、回折型多焦点眼内レンズが埋殖された患者においては物を見る時、靄がかかったような、あるいは霧の中で物を見ているような愁訴があると言われている。この症状は、なんとなくぼんやりと物が見えることからブラードビジョン(blurred vision)などと称されている。見え方の程度によってはワクシービジョン(waxy vision)、あるいはワセリンビジョン(vaseline vision)という呼び方で言い表わされることもあり、油脂が薄く付着したガラス越しに物を見ているように見えることもある。
・・・省略・・・
[0010] このように一般的な回折型多焦点眼用レンズでは、コントラスト差のある環境下で物を見た場合に、全体的にコントラストが低下し、光の滲みが生じて結果として霞がかかったような見え方、即ちブラードビジョンの問題を引き起こすことを、図93からも理解することができる。多焦点レンズにおいては複数の焦点位置に光を配分するので、各焦点位置のハイライト部の輝度が低下するのは避けられない。しかし、人の生理的な不満は主にハイライト部の輝度の低下よりもシャドー部への光の滲みによってもたらされるものであるため、光の滲みを抑制することがブラードビジョンの改善につながると考えられる。光の滲みは多焦点レンズ、特に同時視型と呼ばれる多焦点レンズの結像特性を反映した現象の一つで、その成因に関して以下のように説明される。
[0011] たとえば遠近の2焦点を有する回折型多焦点レンズでは、遠方からやってくる光は遠方視用焦点位置で光の振幅が最大限強め合って結像するとともに、近方視用焦点位置でも振幅が強め合うように設計されている。遠方からの光は遠方視用焦点の像面中心に主ピークを形成するが、近方視用焦点位置で強め合った光は、その後拡散して遠方視用焦点の像面位置に到達することとなる(図94(a))。一見すると遠方視用焦点の像面では図94(b)に示すようにかかる遠方視用焦点を形成する主ピークしか存在しないように見えるが、拡大すると図94(c)のように主ピークの周りに小ピーク群が存在していることが分かる。これは、前記したように近方結像用の光の成分が一種の迷光となって遠方視用焦点像面に紛れ込むこととなり、形成されたものである。このように小ピーク群(以下、サイドバンドと称することとする)の強度は主ピークの強度と比較すると極めて小さなものであるが、広がりのある光源ではこれらピークが積算されることになるので強度は増幅される。また前記したように明暗のコントラスト差のある環境下においては、僅かな光の滲みでも知覚されやすくなる。したがって微弱なサイドバンドでも無視しえない状況が発生しうるのである。
・・・省略・・・
[0015] この膨らみは点像広がり関数のサイドバンドの強度や分布の状態によって異なるが、総じてサイドバンドの強度が大きければ膨らみは大きくなる。また、サイドバンドの出現位置が主ピークに近ければ膨らみはエッジ部の近傍で発生することとなる。その結果、物を見た時に物体近傍で靄のようなグレアが認められることになる。また、サイドバンドが主ピークから離れれば、エッジの強度分布はなだらかな棚状の分布を示す傾向にある。もしこのような分布で棚部の強度が大きければ、靄が広がって見えたりする。実際にかかる膨らみのあるエッジ強度分布を示すレンズをコンタクトレンズとして装用した場合、あるいは眼内レンズとして眼の中に挿入した場合、光軸に対してレンズの偏位が生じるとかかるエッジの強度分布はゴーストと呼ばれる二重像となって我々に知覚されることもある。よってかかるエッジの強度分布と実際の見え方の相関はレンズ特性とそれが置かれた状態に依存するため、一律に述べることはできないが、エッジのシャドー部にかけての強度が小さければ小さいほどかかる二重像などの見え方の弊害も低減できるのである。つまり、ブラードビジョンを改善するにはエッジ部の強度分布においてシャドー部領域の強度を低減させることであり、その結果としてブラードビジョンのみならず他のゴーストと称される弊害なども改善できる可能性があるのである。
・・・省略・・・
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0025] 本発明は、上述の如き多焦点眼用レンズにおいて大きな問題であるブラードビジョンの改善を目的とするものであり、ブラードビジョンの発生機構の解明を為し得たことに基づいて、その結果得られた知見をもとに新規な解決策を見出したものである。そして、このようにして得られた新規な技術思想に基づいて、ブラードビジョンが改善された回折型多焦点眼用レンズを実現すべく、本発明は、回折型多焦点眼用レンズの新規な製造方法と、新規な構造の回折型多焦点眼用レンズとを、それぞれ提供することを解決課題とする。
課題を解決するための手段
[0026] 以下、本発明の説明に先立ち、本発明で用いられる語句などについて以下のように定義する。
・・・省略・・・
[0031] 位相関数は、数1の指数部またはcos関数内の位相の変化を表す関数である。本発明では位相関数の変数は主にレンズの中心から半径方向の位置rとし、r地点におけるレンズの位相φを表すものとして用いられ、具体的には図97に示すようなr-φ座標系で表わすこととする。また、位相変調構造が設けられた全域の位相の分布を同座標系で表したものを位相プロファイル(Profile)と呼ぶ。なお、φ=0のr軸を基準線とし、φ=0の地点では入射した光はその位相を変化させることなく射出されることを意味する。そして、この基準線に対してφが正の値を取るとき、光はその位相分だけ進行が遅れ、φが負の値を取るとき、光はその位相分だけ進行が進むことを意味する。実際の眼用レンズにおいては回折構造が付与されていない屈折面がこの基準線(面)に相当する。
・・省略・・・
[0034] 0次焦点は、0次回折光の焦点位置をいう。以下、+1次回折光の焦点位置に対しては+1次焦点、・・・という。
[0035] 0次焦点像面は、0次回折光の焦点位置における像面のことをいう。
[0036] ゾーンは、回折構造における最小の単位としてここでは用いる。例えば一つのブレーズが形成された領域を一つのゾーンと呼ぶ。
[0037] ブレーズは、位相関数の一形態で、主に屋根状の形で位相が変化しているものを指す。本発明では、図98(a)に示すような一つのゾーンにおいて屋根の山と谷の間が直線で変化するものをブレーズの基本とするが、山と谷の間を放物線状の曲線で変化するようにつながったもの(図98(b))や凹凸形状(方形波状)等も本発明ではブレーズの概念の中に含まれる。また、山と谷の間が正弦波の関数の一部で変化するようにつながれたもの(図98(c))、さらにはある関数において極値を含まない区間で変化するようにつながれたものもブレーズの概念の中に含まれる。本発明では特に断りがない限り図98(a)に示すように第n番目のゾーンのブレーズにおいて、ゾーンの外径r_(n)の位置の位相φ_(n)と内径r_(n-1)の位置の位相φ_(n-1)の絶対値が基準面(線)に対して等しくなるように、つまり|φ_(n)|=|φ_(n-1)|となるように設定することを基本とする。なお、ブレーズの位相関数φ(r)は、数2のように表される。
[0038][数2]

[0039] 位相ずれ量は、ある位相関数φ(r)をr-φ座標系の基準線(面)に対してφ軸方向にτずらす場合、このτのことを位相ずれ量と定義する。τずらすことによって新たに得られる位相関数φ’(r)との関係は数3の通りである。位相ずれ量の単位はラジアンである。
[0040] [数3]

・・・省略・・・
[0045] 位相定数は、ブレーズ形状の位相関数において数6で定義される定数hのことをいう。
[0046][数6]

[0047] レリーフは、位相プロファイルで定められる位相に相当する光路長を反映して具体的にレンズの実形状に変換して得られるレンズの表面に形成される微小な凸凹構造の総称である。
・・・省略・・・
[0051] 強度分布は、レンズ通過後の光の強度をある領域に亘ってプロットしたもので、前記振幅関数の共役絶対値として表わされる。ここでは大別して「光軸上の強度分布」と「像面の強度分布」が用いられる。前者はレンズの位置を基点とし、像側光軸上の光の強度分布をプロットしたもので、光軸上のどの位置に焦点を形成するか、また強度の割合などを調べる際に用いる。一方、像面強度分布はある像面における光の強度分布を示し、本発明では像面の中心から動径偏角がゼロ方向の位置ρにおける強度をプロットしたもので表わすこととする。人の眼においては網膜上で知覚されるのは像面強度分布の情報である。
・・・省略・・・
[0061] フレネル間隔は、回折レンズのゾーン構成においてある規則に従って定められるゾーン間隔の一つの形態のことをいう。ここでは、第n番目のゾーンの外径をr_(n)とすると数12で定められる間隔を有するものをいう。
[0062][数12]

[0063] 一般的には数12で定められる間隔にすることによって1次回折光の焦点に相当する付加屈折力Padd(0次光を遠用、1次光を近用とした時、近用焦点位置をどこに設定するかの目安となるもの)を設定することができる。なお、フレネル間隔を定める数12における第1番目のゾーン外径(半径)は通常は数13で定められるが、任意の値を用いて設定してもよい。本発明にて使用されるフレネル間隔型の回折レンズは、屈折原理を利用したフレネルレンズとは異なるものであり、上記式に従った間隔を有した回折原理を利用したレンズのことをいう。
・・・省略・・・
[0065] 続いて、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
[0066] すなわち、回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第1の態様は、同心円状に複数形成された回折ゾーンが設けられた光学部を備えており、該光学部によって少なくとも二つの焦点が与えられる回折型多焦点眼用レンズにおいて、前記焦点のうちの一つの焦点である第一の焦点における像面上で、該第一の焦点におけるサイドバンド領域の振幅分布を減少せしめてブラードビジョンを抑制する回折光を与えるキャンセル用領域を、前記光学部における明所視の瞳孔径に対応する領域内に設けた回折型多焦点眼用レンズを、特徴とする。
[0067] 本態様に従う構造とされた回折型多焦点眼用レンズでは、第一の焦点における像面上で、該第一の焦点を形成する光以外の光による振幅分布を減少せしめる回折ゾーンであるキャンセルゾーンが、レンズにおいて、明所視状態の瞳孔を透過する光線の通過領域内のキャンセル用領域に形成されることとなる。それ故、サイドバンドの大きな原因と考えられる、該第一の焦点を形成する光以外の光による像面上での振幅分布が抑えられ、その結果、かかる第一の焦点における像の見え方の質が向上することとなる。
[0068] なお、本態様においてキャンセルゾーンの回折光によって振幅分布を減少せしめる対象光は、前記第一の焦点を形成する光以外の全ての光とされる必要はない。例えば、該第一の焦点以外の単一又は複数の焦点を形成する回折光を対象光としても良いし、該第一の焦点における像面上で単一又は複数の領域に位置する振幅分布を与える回折光を対象としても良い。
・・・省略・・・
[0073] 回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第4の態様は、第1?3の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記キャンセル用領域が、前記複数の回折ゾーンのうちで最内周の該回折ゾーンを除く領域に設けられているものである。
[0074] 最内周の回折ゾーンは多焦点形成の起点となり、多焦点形成の機能を重点的に担うゾーンであるため、これ以外の領域にキャンセルゾーンを設けることによって多焦点形成能を確実に発現させると同時にブラードビジョンの抑制が可能となるのである。
・・・省略・・・
[0081] 回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第7の態様は、第1?6の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折ゾーンにおける回折構造の位相関数がブレーズ形状の関数からなり、且つ、前記第一の焦点における像面上で、i番目の回折ゾーンとj番目の回折ゾーンのそれぞれを通過した光の振幅が互いに強め合う関係にある場合において、c番目の回折ゾーンの位置が、各該回折ゾーンを通過した光が互いに振幅を弱め合う条件としての下記数14を実質的に満足するように設定されているものである。
[数14]

[0082] 本態様によれば、ブラードビジョンの原因であるサイドバンドの振幅に最も寄与する、あるいはそれに準ずる振幅を特定し、かかる振幅を構成するゾーンの組合せを抽出し、数14を含む一連の関係式にてその振幅を低減するキャンセルゾーンを、c番目の回折ゾーンとして所望の位置に配することができる。これにより、サイドバンドが低減し、さらにはコンボリューションした際のエッジの強度分布が減少した回折構造を得ることができるのである。
[0083] 回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第8の態様は、前記回折ゾーンにおける回折構造の少なくとも一部が、フレネル間隔の周期構造を有しているものである。
[0084] 本態様によれば、フレネル間隔の周期構造を一部または全体に利用することにより、既知のフレネル間隔による光学特性を活用することができる。なお、フレネル間隔の周期構造は、回折ゾーンの少なくとも一部に設けられていれば良く、例えば等間隔の回折ゾーンなどの非フレネル間隔の周期構造と組み合わせて、フレネル間隔の周期構造を採用することが可能である。
・・・省略・・・
[0089] 回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第11の態様は、第1?10の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記回折ゾーンにおける回折構造において、前記キャンセル用領域の回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾きが、該キャンセル用領域以外の領域の回折ゾーンのブレーズ形状の傾きと反対の符号を有しているものである。
[0090] 本態様によれば、キャンセル用領域の回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾きが、該キャンセル用領域以外の領域の回折ゾーンのブレーズ形状の傾きと反対の符号を有している。これにより、キャンセル用領域の回折ゾーンで発生する振幅の正負が逆になる領域がでてくる。この領域をブラードビジョンの原因であるサイドバンドの出現位置に持ってくることにより、サイドバンドの振幅を低減、あるいは打ち消すことが可能となる。
[0091] 回折型多焦点眼用レンズに関する本発明の第12の態様は、第1?11の何れかの態様に係る回折型多焦点眼用レンズであって、前記キャンセル用領域の回折ゾーンが、該回折ゾーンにおける位置設定と、該回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の位相設定と、該回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾き設定との、少なくとも一つを異ならせて設定されているものである。
[0092] 本態様によれば、キャンセル用領域の回折ゾーンと該キャンセル用領域以外の回折ゾーンとが、該回折ゾーンの位置設定と、該回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の位相設定と、該回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾き設定との、少なくとも一つを異ならせて設定されている。これにより、ブラードビジョンの原因であるサイドバンドをより低減できる条件を見出すことが可能となる。なお、2つあるいは3つすべてを再調整して、ブラードビジョンの原因であるサイドバンドをより低減できる条件を見出すようにしてもよい。なお、キャンセル用領域の各回折ゾーン間でのブレーズの相対的な位置や位相や傾きの調節設定は、回折ゾーンのブレーズ形状を所定の関数をもって表すこととし、かかる関数において、ブレーズの位置と位相と傾きに各関係する特定の定数を変更することによって効率的に行うことが可能である。
・・・省略・・・
[0095] また、上述の如き本発明に従う構造とされた回折型多焦点眼用レンズの製造に好適に採用され得る、回折型多焦点眼用レンズの製造方法に関する本発明の第1の態様は、同心円状に複数形成された回折ゾーンが設けられた光学部を備えており、該光学部によって少なくとも二つの焦点が与えられると共に、かかる焦点のうちの一つの焦点である第一の焦点におけるブラードビジョンが抑制された回折型多焦点眼用レンズを製造するに際して、以下(i)?(iv)の工程を採用する回折型多焦点眼用レンズの製造方法を、特徴とする。
(i)少なくとも二つの焦点が与えられる前記光学部における複数の前記回折ゾーンを設定する基本形状設定工程。
(ii)該基本形状設定工程で設定した複数の該回折ゾーンによって前記第一の焦点における像面上で与えられる光の振幅分布を求める振幅情報取得工程。
(iii)該振幅情報取得工程で求めた該光の振幅分布において低減対象とするサイドバンドを決定する低減対象決定工程。
(iv)該低減対象決定工程で決定した該サイドバンドを相殺的に減少せしめる光の振幅分布を前記第一の焦点における像面上で与えるキャンセル用領域を、複数の前記回折ゾーンと共に前記光学部における明所視状態の瞳孔径に対応する領域内に形成するキャンセル用領域形成工程。
[0096] 本態様の製造方法に従えば、一つの焦点における像面上でのブラードビジョンの大きな原因と考えられるサイドバンドの振幅分布を抑えるキャンセルゾーンを、明所視状態の瞳孔を透過する光線の通過領域内に形成することで、ブラードビジョンが抑えられて良好な見え方の質を与える回折型多焦点眼用レンズが、実現可能となる。
[0097] なお、本態様において、前記基本形状設定工程における回折ゾーンの設定は、回折型多焦点眼用レンズに要求される複数の焦点を与える回折構造の基本的な位相プロファイルを決定することによって行われ得る。また、低減対象決定工程における低減対象とするサイドバンドの決定は、ブラードビジョンへの影響が大きいサイドバンドが優先的に選択されることとなり、一般に、ピークエッジに近く且つ大きい回折次数が一次又は二次のサイドバンドが選択される。
・・・省略・・・
[0109] 回折型多焦点眼用レンズの製造方法に関する本発明の第7の態様は、前記第3の態様に従って回折型多焦点眼用レンズを製造するに際し、前記キャンセル用領域の回折ゾーンにおけるブレーズ形状の関数の傾きの符号を、該キャンセル用領域以外の領域の回折ゾーンのブレーズ形状の傾きと反対の符号に設定することにより、前記サイドバンドに対応する振幅を弱め合うように設定する回折型多焦点眼用レンズの製造方法である。
[0110] 本態様に従えば、i番目の回折ゾーンに対するc番目の回折ゾーンの位相定数を変量することでブレーズの傾きを調節し、前記キャンセルゾーンとしてのc番目の回折ゾーンを効率的に設計することができる。」

(2)「[0141] 引き続き、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
[0142] 先ず、図3に、本発明における回折型多焦点眼用レンズに係る、第一の実施形態としてのコンタクトレンズである眼用レンズ10の光学部12の裏面図をモデル的に示すと共に、図4に、同眼用レンズ10の光学部12の断面図をモデル的に示す。
[0143] 眼用レンズ10は、中央の大きな領域が光学部12とされており、光学部12の外周側には公知の周辺部とエッジ部が形成されている。また、光学部12は、全体として略球冠形状の凸面を有する光学部前面14と、全体として略球冠形状の凹面を有する光学部後面16をもって形成されている。そして、眼用レンズ10の光学部12は、レンズを近視矯正用とする場合は全体として、中心部が僅かに薄肉とされた略お椀形状とされており、遠視矯正用とする場合は中心部が僅かに膨らんだ略お椀形状とされ、幾何中心軸としてのレンズ中心軸18を回転中心軸とする回転体形状とされている。このような眼用レンズ10は、眼球の角膜上に直接装着される。従って、眼用レンズ10の光学部12の径は直径で、概ね4?10mmで形成されていることが望ましい。
[0144] 眼用レンズ10の光学部12は、その光学部前面14および光学部後面16が屈折面とされている。そして、これら光学部前面14および光学部後面16による屈折光(0次回折光)に対して第一の焦点が設定されており、本実施形態では、遠方視用焦点が設定されている。
[0145] なお、眼用レンズ10の形成材料としては、光透過性等の光学特性を備えた各種の重合性モノマーからなる従来公知の樹脂材料やゲル状の合成高分子化合物 (ハイドロゲル)等が好適に採用され、具体的には、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリヒドロキシエチルメタアクリレート(Poly-HEMA)等が例示される。
[0146] そして、特に本実施形態における光学部後面16には、回折構造20が形成されている。回折構造20は、レンズ中心軸18を中心として同心円状に複数形成され、レンズ周方向に連続して円環状で延びる、径方向の起伏形状であるレリーフ21を含んで構成されている。そして、本実施形態では、この回折構造20による回折+1次光により、遠方視用焦点よりも小さな焦点距離を有する焦点(近方視用焦点)が設定されている。なお、個々の回折構造20は前述のように、ゾーン(回折ゾーン)もしくは輪帯と呼ばれており、光の位相を変調させうるための位相関数で特徴づけられている。
[0147] 図5(a)に、光学部後面16におけるレリーフ21の径方向の拡大断面図を示す。なお、図5においては、理解を容易とするために、レリーフ21の大きさを誇張して示している。図5(a)に示すように、レリーフ21の形状は、眼用レンズ10のもともとの光学部後面16の形状を反映して、右上がりの階段状の形状を呈している。眼用レンズ光学部の前面及び後面が単一の屈折力を有するように設定されている場合は、光学部後面16は、前記定義にて説明したr-φ座標(図97)における基準線と解して相違ない。また、図5(a)において、レリーフ21を境として下方の領域はコンタクトレンズの基材からなっており、上方の領域は外部の媒体となっている。理解を容易にするため、今後は眼用レンズ10のもともとの光学部後面16の形状を除いた状態で、即ち、図5(b)に示すように、光学部後面16を径方向で直線的なx座標軸としてレリーフ21の形状の検討を進めることにする。
[0148] 図5(b)に示すように、レリーフ21は、レンズ中心軸18を中心として同心円状に延びると共に、眼用レンズ10の外方(図4乃至5中、上方)に向けて突出する稜線22と、眼用レンズ10の内方(図4乃至5中、下方)に向けて突出する谷線24を有する起伏形状とされている。
[0149] なお、以下の説明において、格子ピッチとは、稜線22と谷線24の間の径方向幅寸法をいう。また、ゾーンとは、稜線22と谷線24の間をいい、各ゾーンには、中央のゾーンを1として、ゾーン方向外方に向けて2,3, …のゾーン番号が割り振られる。また、ゾーン半径とは、各ゾーンの外周半径、換言すれば、各ゾーンにおいて同心円の中心(本実施形態においては、レンズ中心軸18)に対して外側に位置する稜線22又は谷線24の同心円の中心からの半径をいう。従って、格子ピッチは各ゾーンの径方向幅寸法であり、所定ゾーンの格子ピッチは、該ゾーンのゾーン半径と、該ゾーンよりもゾーン番号が1つ小さいゾーンのゾーン半径との差となる。ここではコンタクトレンズの具体例とともにレリーフ構造からなる回折構造20について説明したが、以降の説明に際してはレリーフ設計の基となる位相関数または位相プロファイルにて回折構造20を説明することとする。よって今後、特に断りがない限り回折構造20としての位相プロファイルを図97に示すr-φ座標系で表すこととする。
・・・省略・・・
[0157] 以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。以下に、本発明において好適に採用され得るその他の態様を幾つか示すが、本発明が以下の態様に限定されることを示すものではないことが理解されるべきである。なお、以下の説明において、前述の実施形態と実質的に同様の部材および部位については、前述の実施形態と同様の符号を付することによって、詳細な説明を省略する。
・・・省略・・・
[0250] 図70(a)に比較例14の位相プロファイル80を、図70(b)に本発明の第十四の実施形態としての位相プロファイル82を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル82の詳細を表28に、比較例14の位相プロファイル80の詳細を表29に、示す。
[0251][表28]

[0252][表29]

[0253] 比較例14は、中央の第1ゾーンから第2ゾーンまでが付加屈折力Paddが2(Diopter)となるようなフレネル間隔から構成され、その周辺の第3ゾーンから第5ゾーンまでがΔr=0.3mmの等間隔で構成された回折多焦点眼用レンズの位相プロファイルである。なお、表29及び図70(a)に示すように第4ゾーンの位相定数はh=0とし、ここのみ屈折領域としたものである。かかるプロファイルの光軸上の強度分布を図71(a)に示す。等間隔領域の存在によって遠近のみならず中間領域にも焦点生成用のピークが形成されている。なお、第4ゾーンが屈折領域となっているため、相対的に遠方の強度割合が増している。かかるプロファイルは遠方視を重視した多焦点眼用レンズとして有用なものである。かかるプロファイルの点像広がり関数を図72(破線)に示す。この場合、等間隔領域が存在することによってρ=0.26mm付近に急峻なピークが存在する。この広がり関数に基づくエッジ強度は図73(破線)の通りで、膨らみのある強度分布となる。よってかかるプロファイルにおいても光の滲みが発生する可能性がある。
[0254] 本実施形態は、比較例14における第4のゾーンの位相定数(h)を-0.2としたブレーズ構造を導入したものである。本実施形態のプロファイルを図70(b)に示す。位相定数(h)が-0.2で設定されたブレーズは図に示すようにその他のゾーンのブレーズと反対の傾きを有するものとなる。すなわち、本実施形態では、第4ゾーンがキャンセル用領域として設定されており、キャンセル用領域の回折ゾーンが、回折ゾーンにおけるブレーズ形状の傾きの符号をキャンセル用領域以外の回折ゾーンに対して異ならせて設定されている。このプロファイルの光軸上の強度分布、点像広がり関数を図71(b)、図72(実線)にそれぞれ示した。光軸上の強度分布は、比較例14とほとんど変わらず、かかる反対向きのブレーズを導入しても各焦点への光の配分挙動にはほとんど影響がないことが分かる。一方、点像広がり関数は、ρ=0.26mmのピークが強度にして3割程度減少していることが分かる。また、エッジ強度分布(図73実線)においては比較例で膨らみのあった部分の強度が減少しており、よって光の滲みが抑制されることが分かる。
[0255] かかるブレーズの傾き、つまり位相定数(h)を変量することによる効果は以下のように説明できる。ブレーズの傾き、つまり位相定数(h)を変えると、この変化はcos関数の位相に変化は与えないが、Sinc関数の位相に変化を与える。この関係を図74に示す。ここでは本実施形態の第4ゾーンのみを取り上げ、h=0.5の場合(図74(a))、h=-0.5の場合(図74(b))で比較したものである。位相定数を変えるとSinc関数全体が像面のρ軸方向にシフトし、その結果、Sinc関数の位相が変化することが分かる。そして、ある地点では変量前ではSincの極が正であった領域が変量後では極が負になることがある。一方、位相定数(h)を変量してもcos関数の位相には変化がないので、Sinc関数の極が正負反対になった領域では、かかる極の反転によって振幅関数全体の振幅の正負が逆になる領域がでてくる。この領域がたとえば光の滲みのような有害なサイドバンドの出現位置に相当していれば、かかる方法によってもサイドバンドの振幅を低減、あるいは打ち消すことが可能となる。位相定数(h)の変量範囲は、目的とするサイドバンドの位置や強度を勘案して定めればよく、特に限定する必要はない。
[0256] 図75(a)に、比較例15の位相プロファイル84を、図75(b)に本発明の第十五の実施形態としての位相プロファイル86を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル86の詳細を表30に、比較例15の位相プロファイル84の詳細を表31に、示す。
[0257][表30]

[0258][表31]

[0259] 比較例15は、中央の第1ゾーンから第3ゾーンまでが付加屈折力Paddが2(Diopter)となるようなフレネル間隔から構成され、その周辺の第4ゾーンから第6ゾーンまでがΔr=0.3mmの等間隔で構成された回折多焦点眼用レンズの位相プロファイルである。なお、表31及び図75(a)に示すように第5ゾーンの位相定数(h)は0とし、ここのみ屈折領域としたものである。かかるプロファイルの光軸上の強度分布を図76(a)に示す。等間隔領域の存在によって遠近のみならず中間領域にも焦点生成用のピークが形成されている。よってこのプロファイルを有する回折レンズは多焦点眼用レンズとして有用なものであることが分かる。かかるプロファイルの点像広がり関数を図77(破線)に示す。この場合、等間隔領域が存在することによってρ=0.26mm付近に急峻なピークが存在する。この広がり関数に基づくエッジ強度は図78(破線)の通りで、膨らみのある強度分布となる。よってかかるプロファイルにおいても光の滲みが発生する可能性がある。
[0260] 本実施形態は、比較例15における第5のゾーンにおいて位相定数h=-0.2としたブレーズ構造を導入したものである。本実施形態のプロファイルを図75(b)に示す。位相定数がh=-0.2で設定されたブレーズは本実施形態と同様にその他のゾーンのブレーズと反対の傾きを有するものとなる。このプロファイルの光軸上の強度分布、点像広がり関数を図76(b)、図77(実線)にそれぞれ示した。光軸上の強度分布は、比較例15とほとんど変わらず、かかる反対向きのブレーズを導入しても各焦点への光の配分にほとんど影響がないことが分かる。一方、点像広がり関数は、ρ=0.26mmのピークが強度にして2?3割程度減少していることが分かる。また、エッジ強度分布(図78実線)においては比較例で膨らみのあった部分の強度が減少しており、よって光の滲みが抑制されていることが分かる。
・・・省略・・・
[0268] 図87に、本発明の第十八の実施形態としての位相プロファイル92と、第十五の実施形態の位相プロファイル86を示す。なお、本実施形態の位相プロファイル92の詳細を表34に、第十五の実施形態の位相プロファイル30の詳細を表30に、示す。
[0269][表34]

[0270] 比較例18は第十五の実施形態のことで、第十五の実施形態において、方法の組合せによってさらに光の滲みが抑制されることを示すために、ここでは比較例として用いた。本実施形態は、第十五の実施形態で示されたブレーズの傾きを変える方法に加えて第4ゾーンに位相ずれ量、τ=-0.15πを導入したものである。図87に示すように導入した位相ずれ量に対応してブレーズの位置がφ方向にシフトしたプロファイルとなっている。かかるプロファイルの光軸上の強度分布を比較例18(図88(a))と対比させて図88(b)に示す。位相ずれ量を導入しても光軸上の強度分布にほとんど変化はなく、かかる操作によって各焦点への光の配分に影響がないことが分かる。点像広がり関数を図89(実線)に示す。比較例18と対比するとサイドバンド強度の大幅な低減はないものの全体のピークが均等に減少していることが分かる。エッジ強度分布(図90実線)は、ρ=0.84?0.9mmの領域の強度がさらに低減されたものとなっている。よってかかる方法の組合せによって光の滲みがより抑制されることが分かる。」

(3) 図70「



(4) 図71「



(5) 図75「



(6) 図76「



(7)図87「



(8)図88「



2 引用発明
引用文献2の[0253]、[0254]、[表28]及び図70(b)によれば、第十四の実施形態としての位相プロファイル82は、比較例14と同様に、ブレーズ状の第1ゾーン?第5ゾーンを有し、中央の第1ゾーンから第2ゾーンまでがフレネル間隔から構成され、その周辺の第3ゾーンから第5ゾーンまでが等間隔で構成され、等間隔領域の存在によって、光軸上の強度分布として、遠近のみならず中間領域にも焦点生成用のピークが形成されていることが記載されている。
また、引用文献2の[0253]、[0254]、図71(b)によれば、第十四の実施形態の光軸上の強度分布は、遠方領域、近方領域、中間領域に焦点生成用のピークが形成されていることが記載されている。
くわえて、引用文献2の[0157]には、「本発明の一実施形態について詳述してきたが、」「以下の説明において、前述の実施形態と実質的に同様の部材及び部位については、前述の実施形態と同様の符号を付することによって、詳細な説明を省略する。」と記載されており、引用文献2の[0142]には、第一の実施形態が、回折型多焦点眼用レンズであること、[0143]には、眼用レンズは、中央の大きな領域が光学部とされており光学部を有し、光学部には光学部後面が形成されること、[0146]には、光学部後面には、回折構造が形成され、回折構造は、レンズ中心軸を中心として同心円状に複数形成され、レンズ周方向に連続して円環状で延びる、径方向の起伏形状であるレリーフを含んで構成され、この回折構造による回折+1次光により、遠方視用焦点よりも小さな焦点距離を有する焦点(近方視用焦点)が設定され、個々の回折構造は、ゾーンもしくは輪帯と呼ばれており、光の位相を変調させうるための位相関数で特徴付けられていること、[0149]には、「以降の説明に際してはレリーフ設計の基となる位相関数または位相プロファイルにて回折構造20を説明することとする。よって今後、特に断りがない限り回折構造20としての位相プロファイルを図97に示すr-φ座標系で表すこととする」ことが記載されている一方、第十四の実施形態について具体的に記載されている[0250]?[0255]には、光学部の構成について言及がない。そうしてみると、引用文献2の第十四の実施形態も第一の実施形態と同様の上記の光学部の構成を有しているものといえる。
上記1(1)?(2)及び上記2の記載に基づけば、引用文献2の[0250]?[0255]、図70(b)及び図71(b)には、回折型多焦点眼用レンズとして、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 中央の大きな領域が光学部を有し、光学部には光学部後面が形成され、光学部後面には、回折構造が形成され、回折構造は、レンズ中心軸を中心として同心円状に複数形成され、レンズ周方向に連続して円環状で延びる、径方向の起伏形状であるレリーフを含んで構成され、この回折構造による回折+1次光により、遠方視用焦点よりも小さな焦点距離を有する焦点(近方視用焦点)が設定され、個々の回折構造は、ゾーンもしくは輪帯と呼ばれており、光の位相を変調させうるための位相関数で特徴付けられており、
ゾーンは、回折構造における最小の単位として用いられ、ブレーズは、位相関数の一形態で、主に屋根状の形で位相が変化しているものを指すものであり、
位相変調構造が設けられた全域の位相の分布をr-φ座標系で表したものを位相プロファイル(Profile)と呼び、
位相プロファイルにて回折構造を説明することとすると、ブレーズ状の第1ゾーン?第5ゾーンを有している位相プロファイルを有し、中央の第1ゾーンから第2ゾーンまでがフレネル間隔から構成され、その周辺の第3ゾーンから第5ゾーンまでが等間隔で構成され、等間隔領域の存在によって、光軸上の強度分布として、遠近のみならず中間領域にも焦点生成用のピークが形成され、
第4ゾーンがキャンセル用領域として設定されており、キャンセル用領域の回折ゾーンが、回折ゾーンにおけるブレーズ形状の傾きの符号をキャンセル用領域以外の回折ゾーンに対して異ならせて設定されており、
キャンセル用領域は、光学部によって与えられる少なくとも二つの焦点のうちの一つの焦点である第一の焦点における像面上で、該第一の焦点におけるサイドバンド領域の振幅分布を減少せしめてブラードビジョンを抑制する回折光を与えるものであり、
光軸上の強度分布は、遠方領域、近方領域、中間領域に焦点生成用のピークが形成されている、回折型多焦点眼用レンズ。」


第4 対比・判断
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

ア ブレーズ、ゾーン、位相プロファイル、回折構造
引用発明の「位相プロファイル」は、「位相変調構造が設けられた全域の位相の分布をr-φ座標系で表したもの」であり、その定義からして、本件発明1の「位相プロファイル」に相当する。
また、引用発明の「回折構造」は、その文言が意味するとおり、本件発明1の「回折構造」に相当する。
さらに、引用発明の「ブレーズ」は、「位相関数の一形態で、主に屋根状の形で位相が変化しているものを指す」。また、引用発明の「ゾーン」は、「回折構造における最小の単位として用いられ」るものである。その定義からみて、引用発明の「ブレーズ」及び「ゾーン」は、それぞれ本件発明1の「ブレーズ」及び「ゾーン」に相当する。
また、引用発明の「位相プロファイル」は、「ブレーズ状の第1ゾーン?第5ゾーンを有している」ものである。さらに、引用発明において、「回折構造は、レンズ中心軸を中心として同心円状に複数形成され、レンズ周方向に連続して円環状で延びる、径方向の起伏形状であるレリーフを含んで構成され」るものである。それらの構造からみて、引用発明の「位相プロファイル」は、ブレーズ状の複数の第1ゾーン?第5ゾーンを同心円状に設定されているものといえる。そうしてみると、引用発明の「回折構造」と、本件発明1の「回折構造」とは、「ブレーズ状の複数のゾーンが同心円状に設定されて」いる「位相プロファイルの回折構造」である点で共通する。

イ 焦点を生成、眼用の回折多焦点レンズ
引用発明は、「回折構造による回折+1次光により、遠方視用焦点よりも小さな焦点距離を有する焦点(近方視用焦点)が設定され」るものであり、「位相プロファイル」が「第3ゾーンから第5ゾーンまでが等間隔で構成され、等間隔領域の存在によって、光軸上の強度分布として、遠近のみならず中間領域にも焦点生成用のピークが形成され」るものである。また、引用発明は、「光軸上の強度分布」が、「遠方領域、近方領域、中間領域に焦点生成用のピークが形成されている」ものである。以上の構成からみて、引用発明は、「回折構造」によって、光軸方向に、近方領域と中間領域に2つの焦点が生成されるものといえる。
また、引用発明の「回折型多焦点眼用レンズ」は、その文言からみて、本件発明1の「眼用の回折多焦点レンズ」に相当する。
以上の構成及び上記アの構成からみて、引用発明の「回折型多焦点眼用レンズ」と、本件発明1の「眼用の回折多焦点レンズ」とは、「ブレーズ状の複数のゾーンが同心円状に設定されて」いる「位相プロファイルの回折構造によって、光軸方向に」「焦点を生成する」という点で共通する。

ウ 調節ゾーン
引用発明の「第4ゾーン」は、位相プロファイルの第1?第5ゾーンのうちの1つのゾーンである。そうしてみると、引用発明の「第4ゾーン」は、第1ゾーンを除く第2ゾーン?第5ゾーンのうちの一つのゾーンであるといえる。
また、引用発明の「第4ゾーン」は、「キャンセル用領域として設定されて」いるものであり、「キャンセル用領域は、光学部によって与えられる少なくとも二つの焦点のうちの一つの焦点である第一の焦点における像面上で、該第一の焦点におけるサイドバンド領域の振幅分布を減少せしめてブラードビジョンを抑制する回折光を与えるものであ」る。上記構成からみて、引用発明の「第4ゾーン」は、第一の焦点における像面上で、該第一の焦点におけるサイドバンド領域の振幅分布を減少せしめてブラードビジョンを抑制する回折光を与えるように調節するゾーンであるといえる。そうしてみると、引用発明の「第4ゾーン」は、本件発明1の「調節ゾーン」に相当する。
また、引用発明の「第4ゾーン」は、回折ゾーンにおけるブレーズ形状の傾きの符号をキャンセル用領域以外の回折ゾーンに対して異ならせて設定されて」いるものである。上記の構成及び上記アの構成からみて、引用発明の「第4ゾーン」は、位相プロファイルにおける傾斜方向を他のゾーンと反対にされているものといえる。
さらに、上記構成からみて、引用発明の「第4ゾーン」の径方向の両側であるゾーンは、「第3ゾーン」及び「第5ゾーン」であり、第1ゾーン以外のゾーンであるといえる。
以上の構成からみて、引用発明の「第4ゾーン」は、本件発明1の「調節ゾーン」における、「第1ゾーンを除く複数のゾーンのうちで少なくとも一つの該ゾーンが、位相プロファイルにおける傾斜方向を他のゾーンと反対にされた調節ゾーンとされていると共に、該調節ゾーンの径方向の両側が該調節ゾーンではない該第1ゾーン以外の該ゾーンとされて」いるという要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明とは、
「 ブレーズ状の複数のゾーンが同心円状に設定された位相プロファイルの回折構造によって、光軸方向に焦点を生成する眼用の回折多焦点レンズにおいて、
前記第1ゾーンを除く前記複数のゾーンのうちで少なくとも一つの該ゾーンが、前記位相プロファイルにおける傾斜方向を他のゾーンと反対にされた調節ゾーンとされていると共に、該調節ゾーンの径方向の両側が該調節ゾーンではない該第1ゾーン以外の該ゾーンとされていることを特徴とする眼用回折多焦点レンズ。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「位相プロファイル」が、本件発明1は、「中央の第1ゾーンを除く各ゾーンがフレネル間隔を有す」るのに対して、引用発明は、第2ゾーンがフレネル間隔から構成され、第3ゾーンから第5ゾーンまでが等間隔で構成されている点。

(相違点2)
「回折構造によって、光軸方向に」「生成する」「焦点」が、本件発明1は、「3つの焦点」であるのに対して、引用発明は、2つの焦点である点。

(相違点3)
「位相プロファイル」が、本件発明1は、「径方向において3つのゾーンからなるゾーン群の周期的な繰り返し構造とされて、該ゾーン群において中央に位置するゾーンが」「位相プロファイルにおける傾斜方向を他のゾーンと反対にされた」「調節ゾーンとされている」のに対して、引用発明は、そのようなプロファイルではない点。

(相違点4)
「眼用回折多焦点レンズ」が、本願発明1では、「光軸方向における透過光の光強度分布において3つの焦点を外れた位置でピークを与える光強度レベルが、」「位相プロファイルにおける傾斜方向を他のゾーンと反対にされた」「調節ゾーンを有しないものに比して小さく抑えられている」のに対して、引用発明では、そのように構成されていない点。

(3)判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
引用文献2には、径方向において3つのゾーンからなるゾーン群の周期的な繰り返し構造とされて、該ゾーン群において中央に位置するゾーンを、位相プロファイルにおける傾斜方向を他のゾーンと反対にされた調節ゾーンとすることは、記載も示唆もない。仮に示唆されていたとしても、引用発明にそのような構成を採用することの動機付けがない。
以上によれば、相違点3に係る本件発明1の構成は、本願出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に想到し得たものとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本件発明2?11について
本件発明2?10は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?10も、本件発明1と同じ理由により、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明11は、本件発明1の上記相違点3の構成を具備する製造方法の発明であるから、本件発明11も、本件発明1と同じ理由により、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


第5 原査定について
1 原査定の拒絶の概要
原査定の概要は、請求項1?13に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された国際公開第2014/091528号に記載された発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。というものである。

2 原査定についての判断
上記第4で述べたように、本件発明1?11は、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第6 当合議体が通知した拒絶の理由について
令和3年4月8日に提出された手続補正書により補正されたので、当合議体が通知した拒絶の理由は解消された。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-06-21 
出願番号 特願2017-566451(P2017-566451)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G02C)
P 1 8・ 121- WY (G02C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 井亀 諭
関根 洋之
発明の名称 眼用回折多焦点レンズおよび眼用回折多焦点レンズの製造方法  
代理人 中根 美枝  
代理人 笠井 美孝  
代理人 特許業務法人笠井中根国際特許事務所  
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