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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1375373
審判番号 不服2020-3739  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-18 
確定日 2021-06-16 
事件の表示 特願2014-142024「導電パターン形成方法、半導体装置、及び電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 1日出願公開、特開2016- 18948〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月10日の出願であって、平成29年6月26日に手続補正がされ、平成30年6月25日付けで拒絶理由通知がされ、同年8月30日に手続補正がされるとともに意見書が提出され、平成31年3月18日付けで最後の拒絶理由通知がされ、令和1年9月26日に手続補正がされるとともに意見書が提出されたところ、令和1年11月13日付けで、令和1年9月26日に提出された手続補正書による補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がされた。これに対して、令和2年3月18日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 令和2年3月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年3月18日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?5を補正して、補正後の特許請求の範囲の請求項1-5とするものであり、補正後の特許請求の範囲の請求項1-5と補正前の特許請求の範囲の請求項1-5の記載は各々次のとおりである。

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1-5の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
第1のゲート電極と前記第1のゲート電極に隣接して設けられた第2のゲート電極とを有する導電パターンの形成方法であって、
前記導電パターンを、
基材上に第1の導電膜を形成する工程と、
前記第1の導電膜上にアルミニウム・ネオジム合金膜を形成する工程と、
前記アルミニウム・ネオジム合金膜上に、前記アルミニウム・ネオジム合金膜の厚さの1/4倍以上の厚さを有する第2の導電膜を形成する工程と、
前記第1の導電膜と前記アルミニウム・ネオジム合金膜と前記第2の導電膜とをドライエッチングを用いてパターニングする工程と、
によって形成するとともに、
前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極との間の間隔は10μm以下である
導電パターンの形成方法。」
「【請求項2】
前記第1の導電膜および前記第2の導電膜は、チタンまたは窒化チタンからなる、請求項1に記載の導電パターンの形成方法。」
「【請求項3】
第1のゲート電極と前記第1のゲート電極に隣接して設けられた第2のゲート電極とを有する導電パターンが形成された半導体装置であって、
前記導電パターンは、
基材上に形成された第1の導電膜と、
前記第1の導電膜上に形成されたアルミニウム・ネオジム合金膜と、
前記アルミニウム・ネオジム合金膜上に形成され、前記アルミニウム・ネオジム合金膜の厚さの1/4倍以上の厚さを有する第2の導電膜と、を備え、
前記第1の導電膜と前記アルミニウム・ネオジム合金膜と前記第2の導電膜とは、ドライエッチングを用いてパターニングされているとともに、
前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極との間の間隔は、10μm以下であることを特徴とする半導体装置。」
「【請求項4】
前記導電パターンは、ゲート配線とソース配線とのうちの少なくとも一方を構成する、
請求項3に記載の半導体装置。」
「【請求項5】
請求項3または4に記載の半導体装置を備えることを特徴とする電子機器。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年8月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-5の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
基材上に第1の導電膜を形成する工程と、
前記第1の導電膜上にアルミニウム・ネオジム合金膜を形成する工程と、
前記アルミニウム・ネオジム合金膜上に、前記アルミニウム・ネオジム合金膜の厚さの1/4倍以上の厚さを有する第2の導電膜を形成する工程と、
前記第1の導電膜と前記アルミニウム・ネオジム合金膜と前記第2の導電膜とをドライエッチングを用いてパターニングする工程と、
を有することを特徴とする導電パターン形成方法。」
「【請求項2】
前記第1の導電膜および前記第2の導電膜は、チタンまたは窒化チタンからなる、請求項1に記載の導電パターン形成方法。」
「【請求項3】
請求項1または2に記載の導電パターン形成方法を用いて形成された導電パターンを備えることを特徴とする半導体装置。」
「【請求項4】
前記導電パターンは、ゲート配線とソース配線とのうちの少なくとも一方を構成する、
請求項3に記載の半導体装置。」
「【請求項5】
請求項3または4に記載の半導体装置を備えることを特徴とする電子機器。」

2 本件補正についての検討
(1)補正事項の整理
[補正事項1]
補正前の請求項1に記載の「基材上に」、「導電パターン形成方法」を、それぞれ、「第1のゲート電極と前記第1のゲート電極に隣接して設けられた第2のゲート電極とを有する導電パターンの形成方法であって、前記導電パターンを、基材上に」、「導電パターンの形成方法」とすること。

[補正事項2]
補正前の請求項1に記載の「を有することを特徴とする」を、「によって形成するとともに、前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極との間の間隔は10μm以下である」とすること。

[補正事項3]
補正前の請求項2に記載の「導電パターン形成方法」を、「導電パターンの形成方法」とすること。

[補正事項4]
補正前の請求項3に記載の「請求項1または2に記載の導電パターン形成方法を用いて形成された導電パターンを備える」を、「第1のゲート電極と前記第1のゲート電極に隣接して設けられた第2のゲート電極とを有する導電パターンが形成された半導体装置であって、前記導電パターンは、基材上に形成された第1の導電膜と、前記第1の導電膜上に形成されたアルミニウム・ネオジム合金膜と、前記アルミニウム・ネオジム合金膜上に形成され、前記アルミニウム・ネオジム合金膜の厚さの1/4倍以上の厚さを有する第2の導電膜と、を備え、前記第1の導電膜と前記アルミニウム・ネオジム合金膜と前記第2の導電膜とは、ドライエッチングを用いてパターニングされているとともに、前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極との間の間隔は、10μm以下である」とすること。

(2)補正の目的についての検討
以下、補正事項1-4について検討する。

ア 補正事項1、2について
補正事項1、2について、まとめて検討する。

(ア)まず、補正事項1、2が、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる、「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものであるかについて検討する。

a 「発明を特定するために必要な事項を限定するもの」であるかについて
補正前の請求項1には、「第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項」(以下、「発明特定事項」という。)として、「導電パターン」を「形成」するための各工程である「第1の導電膜を形成する工程」、「アルミニウム・ネオジム合金膜を形成する工程」、「第2の導電膜を形成する工程」、及び、、「パターニングする工程」が記載されているものの、「導電パターン」それ自体の形態・構造、すなわち、導電パターンの用途、個数、複数の導電パターンの相互の位置関係、及び導電パターン間の間隔等について発明を特定する事項の記載は見当たらない。
そして、補正事項1によって追加された「第1のゲート電極と前記第1のゲート電極に隣接して設けられた第2のゲート電極とを有する導電パターンの形成方法であって、前記導電パターンを、」及び「前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極との間隔は10μm以下である」とする限定は、本件補正前の特許請求の範囲に記載された発明の前記各発明特定事項を概念的に下位に限定するものとはいえないから、補正事項1及び2は発明特定事項を限定するものであるとはいえない。

b したがって、補正事項1、2は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる、「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当しない。

(イ)また、補正前の請求項1の記載は、明確であるから、補正事項1、2は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる、「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものにも該当しない。
更に、補正事項1、2は、特許法第17条の2第5項第1号、第3号に掲げる、「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」、または「誤記の訂正」を目的とするものにも該当しない。

(ウ)請求人の主張について
a 審判請求人は、審判請求書の【請求の理由】において、以下のように主張している。
「2.拒絶査定の理由の要点
(a)原査定の拒絶理由は、本願発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてなく(拒絶理由1)、また、その出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2002-341367号公報)及び引用文献2(特開2004-193264号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(拒絶理由2)、というものであります。

(b)拒絶理由1は、具体的には、本願請求項1及び3において「第1のゲート電極を有する半導体装置」との事項と「前記第1のゲート電極に隣接して設けられた第2のゲート電極」との事項との関係が不明確であるから、「第1のゲート電極を有する半導体装置」が「前記第1のゲート電極に隣接して設けられた第2のゲート電極」を有するか否かについて特定することができないとともに、「第1のゲート電極」と「導電パターン」との関係や「第1のゲート電極」と請求項1に記載の各工程、及び「第1のゲート電極」と請求項3に記載の「アルミニウム・ネオジム合金膜」及び「第2の導電膜」との関係について規定がないから、本願請求項1?5の発明は明確ではない、というものです。
また、拒絶理由2は、具体的には、先の拒絶理由で引用した引用文献1には「信号線12」を「フォトリソグラフィーとエッチングにより」形成することが記載され、・・・に、特段の困難性はないから、本願の請求項1?5に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、 というものです。」

「3.手続補正について
・・・
したがって、今回の補正は、特許法第17条の2第5項第4号の「明瞭でない記載の釈明」に相当するものと確信します。」

「4.拒絶理由1(明確性)
・・・
今回の補正により、請求項1及び3において、
・・・
が明確になりました。
したがって、今回の手続補正により、審査官がご指摘の記載不備は解消されたものと確信します。」

b しかしながら、審判請求人の前記主張は採用することはできない。その理由は以下のとおりである。すなわち、原査定の理由は、令和1年11月13日付けの補正却下の決定によって、令和1年9月26日付け手続補正書でした補正が却下されたことから、本願発明は、平成30年8月30日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されることを前提として、「平成31年3月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-3によって、拒絶をすべきものです。」としたものであり、その「平成31年3月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-3」の概要は、以下のとおりである。

「1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の請求項3-5の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項3に係る発明は、「半導体装置」(物の発明)であるが、請求項3には、・・・、その物の製造方法が記載されているものと認める。
・・・
したがって、請求項3-5に係る発明は明確でない。

2.(新規性)この出願の請求項1-5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1(特開2002-341367号公報)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3.(進歩性)この出願の請求項1-5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1(特開2002-341367号公報)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

したがって、原査定の理由は、請求人の主張する上記「2.(a)、(b)」及び「4.」に記載の「拒絶理由1」、「拒絶理由2」とは異なるものであり、請求人の当該主張は、その前提において誤っており、根拠がなく、採用することはできない。

c そして、上記「3.」の主張について、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1-5の記載は、上記「1(2)」に記載のとおりのものであるところ、原査定の理由1で指摘された明確性要件(物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合の明確性要件)は、補正前の請求項3-5についてのものであって、補正前の請求項1の記載は、明りょうであり、拒絶の理由は通知されていない。
したがって、補正前の請求項1に係る本件補正の補正事項1、2は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものには該当しない。
よって、請求人の主張する上記「3.」は根拠がないものであり、採用することはできない。

(エ)補正事項1、2についてのまとめ
したがって、補正事項1、2は、特許法第17条の2第5項第1号ないし第4号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないから、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていない。

イ 補正事項4について
補正事項4も、以上アと同様の理由により、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていない。

ウ 補正の目的についてのまとめ
以上のとおり、補正事項1、2及び4を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていないものである。

(3)独立特許要件についての検討
ア はじめに
上記(2)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていないが、仮に、補正事項1、2、4の目的が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、すなわち、本件補正の目的が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合について、念のため、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正発明がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについても、以下で検討する。

イ 本件補正発明
本願の本件補正による補正後の請求項1-5に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1-5に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1及び3に係る発明(以下、それぞれ「本件補正発明1」及び「本件補正発明3」という。))は、請求項1及び3に記載されている事項により特定される、上記「1(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載」に【請求項1】、【請求項3】として記載したとおりのものであって、再掲すると次のとおりである。

「【請求項1】
第1のゲート電極と前記第1のゲート電極に隣接して設けられた第2のゲート電極とを有する導電パターンの形成方法であって、
前記導電パターンを、
基材上に第1の導電膜を形成する工程と、
前記第1の導電膜上にアルミニウム・ネオジム合金膜を形成する工程と、
前記アルミニウム・ネオジム合金膜上に、前記アルミニウム・ネオジム合金膜の厚さの1/4倍以上の厚さを有する第2の導電膜を形成する工程と、
前記第1の導電膜と前記アルミニウム・ネオジム合金膜と前記第2の導電膜とをドライエッチングを用いてパターニングする工程と、
によって形成するとともに、
前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極との間の間隔は10μm以下である
導電パターンの形成方法。」
「【請求項3】
第1のゲート電極と前記第1のゲート電極に隣接して設けられた第2のゲート電極とを有する導電パターンが形成された半導体装置であって、
前記導電パターンは、
基材上に形成された第1の導電膜と、
前記第1の導電膜上に形成されたアルミニウム・ネオジム合金膜と、
前記アルミニウム・ネオジム合金膜上に形成され、前記アルミニウム・ネオジム合金膜の厚さの1/4倍以上の厚さを有する第2の導電膜と、を備え、
前記第1の導電膜と前記アルミニウム・ネオジム合金膜と前記第2の導電膜とは、ドライエッチングを用いてパターニングされているとともに、
前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極との間の間隔は、10μm以下であることを特徴とする半導体装置。」

明確性について
本件補正発明3は、「半導体装置」という、「物」の発明であるが、請求項3には、「ドライエッチングを用いてパターニングされている」という、その物の製造方法が記載されている。
ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最二小判平成27年6月5日 平成24年(受)1204号、同2658号)。
しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、出願人から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。
したがって、本件補正による補正後の請求項3に係る発明は明確でない。
よって、本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないため、当該補正後の請求項3に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

エ 引用文献の記載事項と引用発明
(ア)引用文献1
a 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2002-341367号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示装置及びその製造方法に関するものであり、更に詳細には、配線のパターニングが容易でヒロックの発生のないアクティブマトリックス基板を容易に製造することのできる液晶表示装置及びその製造方法に関するものである。」

「【0038】次に、本発明の液晶表示装置の第1の実施形態の構成について説明する。図2は、本発明の第1の実施形態の液晶表示装置に使用するTFT基板の1画素部及び走査線端子部、信号線端子部の平面図であり、図3は図2のA-A線、B-B線及びC-C線に沿って切って図示した断面図であり、本発明の液晶表示装置において用いられるTFT基板の製造工程を図示したものである。なお、第1の実施形態は5枚のマスクを用いて製造される逆スタガチャネルエッチ型TFT基板を有する液晶表示装置の例である。図2及び図3(e)に示したTFT基板は、透明絶縁性基板31上にゲート電極21と、ゲート電極21に接続する走査線11と、前段の走査線を共有する蓄積容量電極25と、遮光層26と、走査線端子14の下層金属膜32とが形成されており、ゲート電極21上にはゲート絶縁膜33が設けられ、ゲート絶縁膜33上にゲート電極21と対向して半導体層22が設けられ、半導体層22上にソース電極23及びドレイン電極24が分離されて形成されている。また、ソース電極23と、ドレイン電極24と、ゲート絶縁膜33上に設けられたドレイン電極24に接続する信号線12と、信号線端子15の下層金属膜34との上にはパッシベーション膜35が設けられており、パッシベーション膜35の一部に画素部コンタクトホール36と端子部コンタクトホール37が設けられている。このコンタクトホール36、37を介して、ソース電極23に接続する画素電極27と端子部の下層金属膜32、34に接続する接続電極38が設けられている。ここで、蓄積容量電極25と画素電極27との間で保持容量が形成されている。
【0039】また、図3(e)に示すように、本発明の液晶表示装置に用いられるTFT基板においては、ゲート電極21、走査線11(図示せず)が下層からAl-Nd合金層211と高融点金属層212との積層構造からなっている。また、ソース電極23及びドレイン電極24、信号線12は、下層から高融点金属層231とAl-Nd合金層232と高融点金属層233との積層構造からなっている。
・・・
【0042】次に、本発明の液晶表示装置の第2の実施形態の構成について説明する。図4は、本発明の第2の実施形態の液晶表示装置に使用するTFT基板の1画素部及び走査線端子部、信号線端子部の平面図であり、図5は図4のA-A線、B-B線及びC-C線に沿って切って図示した断面図であり、本発明の液晶表示装置において用いられるTFT基板の製造工程を図示したものである。なお、第2の実施形態は4枚のマスクを用いて製造される逆スタガチャネルエッチ型TFT基板を有する液晶表示装置の例である。
【0043】図4及び図5(d)に示したTFT基板は、透明絶縁性基板31上にゲート電極21と、ゲート電極21に接続する走査線11と、前段の走査線を共有する蓄積容量電極25と、遮光層26と、走査線端子14の下層金属膜32とが形成されており、ゲート電極21上にはゲート絶縁膜33が設けられており、ゲート絶縁膜33上にゲート電極21と対向して半導体層22が設けられ、半導体層22上にソース電極23及びドレイン電極24が分離されて形成されている。第1の実施形態と異なるのは、ソース電極23及びドレイン電極24が半導体層22上に形成され、それぞれの端面が一致していることである。また、ソース電極23と、ドレイン電極24と、ゲート絶縁膜33上に設けられたドレイン電極24に接続する信号線12と、信号線端子部の金属膜34の上にはパッシベーション膜35が設けられており、パッシベーション膜35の一部に画素部コンタクトホール36と端子部コンタクトホール37が設けられている。このコンタクトホール36、37を介して、ソース電極23に接続する画素電極27と端子部の下層金属膜32、34に接続する接続電極38が設けられている。ここで、蓄積容量電極25と画素電極27との間で保持容量が形成されている。
【0044】また、図5(d)に示すように、本発明の液晶表示装置に用いられるTFT基板においては、ゲート電極21、走査線11(図示せず)が下層からAl-Nd合金層211と高融点金属層212との積層構造からなっている。また、ソース電極23及びドレイン電極24、信号線12は、下層から高融点金属層231とAl-Nd合金層232と高融点金属層233との積層構造からなっている。第2の実施形態の構成について、他の点は第1の実施形態において説明したのと同様である。」

「【0048】次に、本発明の液晶表示装置の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。まず、本発明の第1の実施形態の液晶表示装置に用いられるTFT基板の製造方法は、(1)透明絶縁性基板上にゲート電極及び走査線を形成する工程、(2)ゲート絶縁膜、半導体層を形成する工程、(3)ソース、ドレイン電極及び信号線を形成する工程、(4)パッシベーション膜、コンタクトホールを形成する工程、(5)画素電極を形成する工程を有し、前記ゲート電極及び走査線をAl-Nd合金層と高融点金属層との積層構造に形成し、前記ソース、ドレイン電極及び信号線を高融点金属層とAl-Nd合金層と高融点金属層との3層構造に形成することを特徴とする。
【0049】本発明の液晶表示装置において用いられるTFT基板の製造方法の第1の実施例は、図3に示すように、まず、厚さ0.7mmの無アルカリガラスからなる透明絶縁性基板31上に、スパッタにより厚さ約200nmのAl-Nd合金層211と厚さ約100nmの高融点金属層212を成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、ゲート電極21、走査線(図示せず)、蓄積容量電極(図示せず)、遮光層(図示せず)、走査線端子部の下層金属膜32を形成する(図3(a))。ここで、高融点金属は、Cr、Ti、Ta、Nbの何れか及びこれらの何れかの合金からなる群と、Mo、W、TiNの何れか及びこれらの何れかの合金からなる群から選択される。前者の群から選択する場合は、Al-Nd合金のNd含有量は0.01?1質量%に調整し、後者の群から選択する場合は、Al-Nd合金のNd含有量は0.5?1質量%に調整する。エッチングの方法については後述する。
【0050】次に、プラズマCVDにより厚さ約400nmのシリコン窒化膜からなるゲート絶縁膜33と厚さ約200nmのアモルファスシリコン(a-Si)層221と厚さ約30nmのリンをドープしたN型アモルファスシリコン(n+a-Si)層222とを順次成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、半導体層22を形成する(図3(b))。
【0051】次に、スパッタにより厚さ約50nmの高融点金属層231と厚さ200nmのAl-Nd合金層232と厚さ約100nmの高融点金属層233を順次成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、ソース電極23、ドレイン電極24、信号線12、信号線端子部の下層金属膜34を形成する(図3(c))。ここで、高融点金属とAl-Nd合金のNd含有量については、前述した通りである。次に、ソース電極23とドレイン電極24との間のn+a-Si層222をエッチングして除去する。・・・走査線と信号線のエッチング方法については後述する。
【0052】次に、プラズマCVDにより厚さ約200nmのシリコン窒化膜からなるパッシベーション膜35を成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、画素部コンタクトホール36及び端子部コンタクトホール37を開口する(図3(d))。
【0053】次に、スパッタにより厚さ約50nmのITOまたはインジウム亜鉛酸化膜(IZO)からなる透明導電膜を成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、画素電極27及び端子部の接続電極38を形成する(図3(e))。・・・最後に、約270℃の温度でアニールし、TFT基板を完成する。
【0054】以下、走査線と信号線のエッチング方法について詳細に説明する。先ず、高融点金属としてCr又はCrを主体とする合金を用いた場合について説明する。図9及び図10は、高融点金属としてCr又はCrを主体とする合金を用いた場合のエッチング処理の工程を示す図であり、図9は走査線を、図10は信号線を形成する工程を示す図である。
【0055】まず、走査線の形成方法について図9を参照して説明する。・・・最後に、フォトレジスト93を剥離除去し、走査線94(11)を形成した(図9(d))。
【0056】次に、信号線の形成方法について図10を参照して説明する。・・・
【0057】次に、高融点金属としてMo又はMoを主体とする合金を用いた場合について説明する。図11及び図12は、高融点金属としてMo又はMoを主体とする合金を用いた場合のエッチング処理の工程を示す図であり、図11は走査線を、図12は信号線を形成する工程を示す図である。
【0058】まず、走査線の形成方法について図11を参照して説明する。・・・最後に、フォトレジスト93を剥離除去し、走査線94(11)を形成した(図11(c))。
【0059】次に、信号線の形成方法について図12を参照して説明する。・・・最後に、フォトレジスト104を剥離除去し、信号線105(12)を形成した(図12(c))。
・・・
【0062】次に、高融点金属としてTi、TiN、Ta、Nb、Wの何れか又はこれらの何れかを主体とする合金を用いた場合について説明する。図14及び図15は、高融点金属としてTi、TiN、Ta、Nb、Wの何れか又はこれらの何れかを主体とする合金を用いた場合のエッチング処理の工程を示す図であり、図14は走査線を、図15は信号線を形成する工程を示す図である。
【0063】まず、走査線の形成方法について図14を参照して説明する。透明絶縁性基板31上に積層されたAl-Nd合金層91及び高融点金属層(Ti層又はTiN層、Ta層、Nb層、W層)92上に、フォトレジスト93を塗布し、露光、現像を行い、フォトレジスト93を所定のパターンにパターニングし(図14(a))、このフォトレジスト93をマスクとしてTi層(又はTiN層、Ta層、Nb層、W層)92及びAl-Nd合金層91をドライエッチングする(図14(b))。・・・最後に、フォトレジスト93を剥離除去し、走査線94(11)を形成した(図14(c))。
【0064】次に、信号線の形成方法について図15を参照して説明する。ゲート絶縁膜33上に積層された高融点金属層(Ti層又はTiN層、Ta層、Nb層、W層)101、Al-Nd合金層102及び高融点金属層(Ti層又はTiN層、Ta層、Nb層、W層)103上に、フォトレジスト104を塗布し、露光、現像を行い、フォトレジスト104を所定のパターンにパターニングし(図15(a))、このフォトレジスト104をマスクとしてTi層(又はTiN層、Ta層、Nb層、W層)103、Al-Nd合金層102及びTi層(又はTiN層、Ta層、Nb層、W層)101をドライエッチングする(図15(b))。ここで、Al-Nd合金のNd含有量は、高融点金属がTi、Ta、Nbの場合、0.01%?1質量%であり、TiN、Wの場合、0.5?1質量%である。また、高融点金属がTi(合金)、TiN(合金)の場合、エッチングガスとしては、Cl_(2)とBCl_(3)を用い、例えば、前述した条件で、1ステップでRIEを行う。また、高融点金属がTa(合金)、Nb(合金)、W(合金)の場合、高融点金属層103、101のエッチングガスとしては、Cl_(2)とO_(2)又はCF_(4)とO_(2)を用い、また、Al-Nd合金層102のエッチングガスとしては、Cl_(2)とBCl_(3)を用い、例えば、前述した条件で、3ステップでRIEを行う。尚、高融点金属がCr(合金)又はMo(合金)の場合は、前述したウェットエッチングを含むエッチング方法以外に、ここで示したようなドライエッチングも可能である。この場合、Cr(合金)、Mo(合金)のエッチングガスはCl_(2)とO_(2)を用い、RIEを行えばよい。最後に、フォトレジスト104を剥離除去し、信号線105(12)を形成した(図15(c))。以上のようにエッチングを行うことにより、配線電極形状を順テーパーないしは階段形状に制御することができる。
【0065】次に、上記TFT基板10の上に、印刷により厚さ約50nmの配向膜39を形成し、約220℃の温度で焼成し、配向処理を行う。一方、透明絶縁性基板41上に、TFT基板10上の各画素領域に対応してカラーフィルタ42と、TFT部を含む画素領域の周辺部にブラックマトリクス43とが形成され、その上にITO等の透明導電膜からなる共通電極44が形成された対向基板40の上に、印刷により厚さ50nmの配向膜39を形成し、約220℃の温度で焼成し、配向処理を行う。これらのTFT基板10と対向基板40とを、エポキシ系樹脂接着剤からなるシール45及びプラスチック粒子等からなる面内スペーサー(図示せず)を介して、各々の膜面が対向するようにして所定間隔に重ね合わせる。その後、TFT基板10と対向基板40との間に液晶46を注入し、液晶46を注入したシール45の空間部(図示せず)をUV硬化型アクリレート系樹脂からなる封孔材(図示せず)で密閉する。最後に、TFT基板10と対向基板40の膜面とは反対側の面に、それぞれ偏向板47を貼って、液晶表示パネルを完成する。(図3(f))
【0066】この後、図示してないが、走査線端子14と信号線端子15上に駆動回路に接続するテープキャリアパッケージ(TCP)を圧接し、液晶表示装置を完成する。
【0067】前述の実施例では、5枚のマスクを用いてTFT基板を製造する場合について説明したが、本発明の液晶表示装置の製造方法は、4枚のマスクを用いてTFT基板を製造する場合にも適用可能である。本発明の第2の実施形態の液晶表示装置に用いられるTFT基板の製造方法は、(1)透明絶縁性基板上にゲート電極及び走査線を形成する工程、(2)ゲート絶縁膜、ソース、ドレイン電極及び信号線、半導体層を形成する工程、(3)パッシベーション膜、コンタクトホールを形成する工程、(4)画素電極を形成する工程を有し、前記ゲート電極及び走査線をAl-Nd合金層と高融点金属層との積層構造に形成し、前記ソース、ドレイン電極及び信号線を高融点金属層とAl-Nd合金層と高融点金属層との3層構造に形成することを特徴とする。」

「【0068】本発明の液晶表示装置において用いられるTFT基板の製造方法の第2の実施例は、図5に示すように、まず、厚さ0.7mmの無アルカリガラスからなる透明絶縁性基板31上に、スパッタにより厚さ約200nmのAl-Nd合金層211と厚さ約100nmの高融点金属層212を成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、ゲート電極21、走査線(図示せず)、蓄積容量電極(図示せず)、遮光層(図示せず)、走査線端子部の下層金属膜32を形成する(図5(a))。ここで、高融点金属の種類とAl-Nd合金のNd含有量については、第1の実施例と全く同様である。エッチングの方法についても前述した通りである。
【0069】次に、プラズマCVDにより厚さ約400nmのシリコン窒化膜からなるゲート絶縁膜33と厚さ約200nmのアモルファスシリコン(a-Si)層221と厚さ約30nmのリンをドープしたN型アモルファスシリコン(n^(+)a-Si)層222とを順次成膜し、さらに、スパッタにより厚さ約50nmの高融点金属層231と厚さ200nmのAl-Nd合金層232と厚さ約100nmの高融点金属層233を順次成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、ソース電極23、ドレイン電極24、信号線12、信号線端子部の下層金属膜34と半導体層22を形成する(図5(b))。ここで、高融点金属とAl-Nd合金のNd含有量については、前述した通りである。」

図1-5は、以下のとおりのものである。


図15は、「高融点金属としてTi、TiN、Ta、Nb、Wの何れか又はこれらの何れかを主体とする合金を用いた場合のエッチング処理の工程を示す図であり、信号線を形成する工程を示す図」で、以下のとおりのものである。


b 引用発明
上記aから、引用文献1には、第1の実施形態の液晶表示装置に用いられるTFT基板の製造方法である第1の実施例についての段落【0062】、【0064】の記載を勘案すると、第2の実施形態の液晶表示装置に使用するTFT基板の製造方法である第2実施例について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「液晶表示装置に用いられるアクティブマトリックス基板の製造方法であって、
透明絶縁性基板31上に、厚さ約200nmのAl-Nd合金層211と厚さ約100nmの高融点金属層212を成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、ゲート電極21、走査線、蓄積容量電極、遮光層、走査線端子部の下層金属膜32を形成し、
次に、ゲート絶縁膜33とアモルファスシリコン(a-Si)層221とN型アモルファスシリコン(n+a-Si)層222とを順次成膜し、さらに、高融点金属層231と厚さ200nmのAl-Nd合金層232と厚さ約100nmの高融点金属層233を順次成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより、ソース電極23、ドレイン電極24、信号線12、信号線端子部の下層金属膜34と半導体層22を形成し、
高融点金属としてTiを用いた場合の信号線の形成方法は、
ゲート絶縁膜33上に積層された高融点金属層(Ti層)、Al-Nd合金層及び高融点金属層(Ti層)上に、フォトレジストを塗布し、露光、現像を行い、フォトレジストを所定のパターンにパターニングし、このフォトレジストをマスクとしてTi層、Al-Nd合金層及びTi層をドライエッチングし、最後に、フォトレジストを剥離除去し、信号線12を形成する、
アクティブマトリックス基板の製造方法。」

(イ)引用文献2
a 本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2004-193264号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フラットパネルディスプレイやイメージセンサ、磁気記録装置、情報処理装置など高い空間的均質性を要する大規模集積回路に用いられる結晶性薄膜及びその製造方法、該結晶性薄膜を用いる素子、該素子を用いる回路、該素子もしくは該回路を含む装置に関する。」

「【0044】本発明の素子の典型的な例の一つとして、MOS型薄膜トランジスタ(TFT)を半導体材料からなる結晶性薄膜に設けた例を図9及び図10に示す。図中、11はゲート絶縁膜、12はゲート電極、13はソース電極、14はドレイン電極、100は基体である。
【0045】図9に示す素子は、図6に示した工程によって基体100上に孤立して設けた単一の結晶粒6を用いるMOS型TFTである。結晶粒6の表面には、ゲート絶縁膜11を介したゲート電極12、ソース電極13、及びドレイン電極14が設けてあり、各電極下の結晶粒6の領域には伝導型の制御によりそれぞれチャネル領域、ソース領域、及びドレイン領域が形成されている。・・・
・・・
【0047】次に、上記に例示したような本発明の素子を用いて構成した、本発明の回路の一例を図11に示す。図中、15は第一のTFTのゲート配線電極、16は第二のTFTのゲート電極、17は絶縁層である。本回路は図9に示したような、領域1を中心として成長した単一の結晶粒6からなる同一基体100上の二つのMOS型TFTをその一部として含んでいる。ゲート電極12により制御される第一のTFTのドレイン電極14は配線を介して第二のTFTのゲート電極16に接続され、それら電極や配線は絶縁層17によって互いに絶縁されている。即ちゲート電極16により制御される第二のTFTは、第一のTFTのドレイン電圧によって制御される。このような回路では、第一及び第二のTFTの素子特性が精密に制御されていることが肝要であり、活性領域に結晶粒界を含まない素子からなる本回路はその条件を満たすことができる。」

「【0093】
[実施例9]
本発明第九の実施例として、図7および図9に示した構造を有するMOS型TFTの例を記す。
【0094】
はじめに、実施例8に記した工程により、表面にシリコン窒化膜及び酸化膜を積層したガラス基板上に、4μm角の単一シリコン結晶粒を設けた。次に、通常のシリコン薄膜トランジスタの低温形成工程に従って、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜とゲート電極膜を堆積し、単一結晶粒中央部の幅1μmの領域を除いてゲート電極膜層を除去した。次に残されたゲート電極膜をマスクとするセルフアライン方式で、それ以外の領域にボロンをドープし、ゲート領域、ソース領域及びドレイン領域を形成した。これにより、ゲート領域は全域単一結晶粒の内部に含まれることとなった。その後、絶縁膜からなるパッシベーション層を堆積し、各領域上のパッシベーション層に開口部を設けた。最後に、アルミ配線層を堆積し、これをパターニングすることによってゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を形成し、MOS型TFTを得た。」

「【0107】
[実施例12]
本発明第十二の実施例として、図11に示した構造を有するTFT集積回路の例を記す。
【0108】
はじめに実施例9に記したMOS型TFTを、同一基板の同一平面上に2素子形成し、各電極を次のように接続した。即ち、両素子は中心間距離を6μmとして隣接させ、第一のTFTのドレイン電極は第二のTFTのゲート電極と接続した。また、第二のTFTのゲート電極はコンデンサ素子を介して自らのソース電極に接続した。これにより、TFT2素子及びコンデンサ素子からなる集積回路が構成された。本回路では、第二のTFTのソースに供給された電源電流がそのドレインから出力される量がコンデンサ素子の蓄積容量で制御され、一方、コンデンサ素子の蓄積容量及び蓄積のスイッチングは第一のTFTのゲート電圧によって制御される。本回路は、例えばアクティブマトリクス型表示装置において各画素のスイッチングと電流量制御を担う要素回路などに用いることができる。」

図11は、以下のとおりのものである。
図11から、第一のTFTのゲート電極と第二のTFTのゲート電極とが隣接していることが見てとれる。



b 上記記載から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。

「アクティブマトリクス型表示装置において用いることができる、同一基板の同一平面上にMOS型TFTを2素子形成したTFT集積回路であって、
第1のTFTのゲート電極と第2のTFTのゲート電極とが隣接しており、
両素子は中心間距離を6μmとして隣接させたTFT集積回路。」

(ウ)周知例1
a 本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2010-108963号公報(以下「周知例1」という。)には、次の記載がある。

「【0028】
(電気光学装置100の詳細な構成)
図2を参照して、本発明の実施の形態1に係る電気光学装置100およびそれに用いた素子基板の構成を説明する。図2は、本発明の実施の形態1に係る電気光学装置100に用いた素子基板10の画像表示領域10aの電気的な構成を示す等価回路図である。
【0029】
図2に示すように、電気光学装置100の画像表示領域10aには複数の画素100aがマトリクス状に形成されている。複数の画素100aの各々には、画素電極7a、および画素電極7aを制御するための電界効果型トランジスタ30(画素トランジスタ)が形成されており、データ信号(画像信号)を線順次で供給するデータ線5aが電界効果型トランジスタ30のソースに電気的に接続されている。電界効果型トランジスタ30のゲートには走査線3aが電気的に接続されており、所定のタイミングで、走査線3aに走査信号を線順次で印加する。・・・
【0031】
(各画素の詳細な構成)
図3(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態1に係る電気光学装置100の画素1つ分の断面図、および素子基板10において相隣接する画素の平面図であり、・・・
【0034】
図3(a)に示す素子基板10の基体は、石英基板や耐熱性のガラス基板などの透光性基板10bからなり、対向基板20の基体は、石英基板や耐熱性のガラス基板などの透光性基板20bからなる。本形態では、透光性基板10b、20bのいずれについてもガラス基板が用いられている。素子基板10には、透光性基板10bの表面にシリコン酸化膜などからなる下地保護膜(図示せず)が形成されているとともに、その表面側において、各画素電極7aに対応する位置にトップゲート構造の電界効果型トランジスタ30が形成されている。本形態において、電界効果型トランジスタ30はNチャネル型(第1導電型)である。
【0035】
図3(a)、(b)に示すように、電界効果型トランジスタ30において、能動層を構成する半導体層1aは、走査線3aに対して2箇所で交差するように屈曲した平面形状を備えており、電界効果型トランジスタ30は、走査線3aの2箇所をゲート電極として利用したツインゲート構造を備えている。」

「【0041】
(駆動回路の構成)
図4(a)、(b)は各々、本発明を適用した電気光学装置100に用いた素子基板10に形成した相補型電界効果型トランジスタの平面図、およびそのB-B′線に相当する位置で素子基板を切断したときの断面図である。なお、図4(b)には、図4(a)のC-C′線に相当する位置で素子基板を切断したときの断面も示してある。
【0042】
図1(a)において、本形態の電気光学装置100では、素子基板10の周辺領域を利用してデータ線駆動回路101および走査線駆動回路104などの内部回路が形成されている。このようなデータ線駆動回路101および走査線駆動回路104は、図4(a)、(b)に示すように、Pチャネル型(第2導電型)の電界効果型トランジスタ80とNチャネル型(第1導電型)の電界効果型トランジスタ90とを備えた相補回路などを有しており、このような相補回路の構成を簡単に説明する。
【0043】
図4(a)、(b)において、駆動回路のトランジスタは、Pチャネル型の電界効果型トランジスタ80とNチャネル型の電界効果型トランジスタ90とからなる相補型電界効果型トランジスタとして構成されている。このような電界効果型トランジスタ80、90は、画素スイッチング用の電界効果型トランジスタ30の製造工程の一部を利用して形成されたものであり、電界効果型トランジスタ80、90を構成する半導体層1v、1wは、電界効果型トランジスタ30を構成する半導体層1aと同じくポリシリコン膜である。
【0044】
Nチャネル型の電界効果型トランジスタ90は、チャネル領域1nの両側にN型のソース領域(高濃度ソース領域1sおよび低濃度ソース領域1q)、およびドレイン領域(高濃度ドレイン領域1rおよび低濃度ドレイン領域1p)を備えており、これらの領域は、電界効果型トランジスタ30のソース領域およびドレイン領域と同時形成された領域である。Pチャネル型の電界効果型トランジスタ80は、チャネル領域1iの両側にP型のソース領域(高濃度ソース領域1lおよび低濃度ソース領域1j)、およびドレイン領域(高濃度ドレイン領域1mおよび低濃度ドレイン領域1k)を備えている。半導体層1v、1wの表面側にはゲート絶縁層2が形成され、ゲート絶縁層2の上層に共通のゲート配線3eが形成されている。かかるゲート配線3eは、図3を参照して説明した走査線3aと同時形成された配線である。」

「【0049】
(素子基板10の製造方法)
図5?図7は、本発明の実施の形態1に係る電気光学装置に用いた素子基板の製造方法を示す工程断面図である。なお、図5?図7には、図3および図4に示すA1-A1′断面、B-B′断面、およびC-C′断面に相当する位置を示してある。
【0050】
本形態の電気光学装置100の製造工程のうち、素子基板10の製造工程では、ガラス基板からなる透光性基板10bの表面にシリコン酸化膜からなる下地保護膜(図示せず)を形成した後、まず、図5(a)に示す半導体層形成工程では、ポリシリコン膜からなる半導体層1a、1v、1wを島状に形成する。それには、基板温度が150?450℃の温度条件下で、透光性基板10bの全面に、非晶質シリコン膜からなる半導体層をプラズマCVD法により、例えば、40?50nmの厚さに形成した後、レーザアニール法などにより、シリコン膜を多結晶化させた後、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングし、半導体層1a、1v、1wを形成する。
・・・
【0052】
次に、図5(b)?図5(d)に示すゲート電極形成工程を行なう。このゲート電極形成工程では、まず、図5(b)に示すアルミニウム合金膜形成工程において、スパッタ法や真空蒸着法などにより、透光性基板10bの表面全体に、高融点金属を含有するアルミニウム合金膜3を形成する。本形態では、高融点金属としてネオジウムを含有するアルミニウム合金膜3を形成する。本形態におけるネオジウムの含有量は、2atm%未満である。次に、図5(c)に示すエッチングマスク形成工程において、フォトリソグラフィ技術を用いてレジストマスク90を形成する。次に、図5(d)に示すパターニング工程では、レジストマスク90を形成した状態でアルミニウム合金膜3に対してエッチングを行なう。本形態では、塩素系のエッチングガスを用いてドライエッチングを行なう。その結果、図5(d)に示すように、走査線3aおよびゲート配線3eが形成される。次に、剥離液を用いてレジストマスク90を除去する。」

図4は、以下のとおりのものである。
図4から、電界効果トランジスタ80のゲート電極と電界効果トランジスタ90のゲート電極は、隣接して設けられた2箇所のゲート配線3eを利用することが見てとれる。



b 上記記載から、周知例1には、次の技術が記載されていると認められる。

「電気光学装置100に用いた素子基板10の製造方法において、
素子基板10の画像表示領域10aに形成された電界効果型トランジスタ30のゲート電極形成工程で、高融点金属としてネオジウムを含有するアルミニウム合金膜3を形成し、アルミニウム合金膜3に対してドライエッチングを行なって、走査線3aおよび隣接して設けられたゲート配線3eを形成し、
各画素における、電界効果型トランジスタ30は、走査線3aの2箇所をゲート電極として利用し、
素子基板10の周辺領域を利用して形成された駆動回路のトランジスタは、電界効果型トランジスタ80と電界効果型トランジスタ90とから構成されており、
電界効果型トランジスタ80、90は、電界効果型トランジスタ30の製造工程の一部を利用して形成されたものであり、
隣接して設けられた2箇所のゲート配線3eを、電界効果トランジスタ80と電界効果トランジスタ90のゲート電極として利用すること。」

(エ)周知例2
a 本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2001-66634号公報(以下「周知例2」という。)には、次の記載がある。

「【0015】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1(a)?図1(d)は本発明の実施の形態の液晶表示装置のアクティブパネルの製造方法の工程を説明するためのパネル要部の断面図であり、図2(a)?図2(d)は図1(d)に続く工程を説明するための説明パネル要部の断面図である。まず、図1(a)のように、透明ガラス製の基板1上にアルゴンガスを使用したスパッタリング法により厚さ150?200nmのアルミニウム膜(Al膜)3とクロム(Cr)等の高融点金属からなる厚さ50?100nmの第1のバリアメタル2を順次堆積する。続いて図1(b)のように、ノボラック樹脂系のフォトレジストをマスク(表示していない)にAl膜3を燐酸+硝酸+酢酸の混酸水溶液を使用してエッチングし、ゲートパッド部のAl膜5およびゲート電極部のAl膜4を形成した後フォトレジストを剥離する。このエッチングでゲート配線部のAl膜(表示していない)も同時にパターニングされる。
【0016】次に図1(c)のように、全面にアルゴンガスを使用したスパッタリング法により厚さ約100?200nmのアルミニウム膜(Al膜)3とクロム(Cr)等の高融点金属の厚さ100?150nmの第2のバリアメタル2を堆積した後、ノボラック樹脂系のフォトレジスト7のパターンを形成する。
【0017】次に図1(d)のように、フォトレジスト7をマスクに第1のバリアメタル2と第2のバリアメタル6を硝酸第二セリウムアンモニウムと硝酸の混合水溶液でエッチングしてパターニングした後、フォトレジスト7を剥離し、第1のバリアメタル2,Al膜5,第2のバリアメタル6の多層膜からなる下部ゲートパッド8と第1のバリアメタル2,Al膜4,第2のバリアメタル6の多層膜からなるゲート電極9を形成する。このエッチングで同時に第1のバリアメタル2,Al膜,第2のバリアメタル6の多層膜からなゲート配線(表示していない)もパターニングされる。」

「【0023】上記の実施の形態では、配線の低抵抗材料にはAl膜を使用したが、AlにCu,Si,Mo,Ndを添加したものも使用でき、またバリアメタルにはCrの他に、TiやTaの高融点金属も使用できる。」

b 上記記載から、周知例2には、次の技術が記載されていると認められる。

「液晶表示装置のアクティブパネルの製造方法において、Tiからなる第1のバリアメタル2,Ndを添加したAl膜4,Tiからなる第2のバリアメタル6の多層膜からなるゲート電極9を形成すること。」

オ 引用発明との対比
本件補正発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明において、「信号線12」は、「高融点金属層231と厚さ200nmのAl-Nd合金層232と厚さ約100nmの高融点金属層233を順次成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより」形成したものであるところ、本件補正発明1の「導電パターン」に対応するから、引用発明の「信号線の形成」は、「導電パターンの形成方法」である点で本件補正発明1と共通する。
引用発明の「透明絶縁性基板31」、「高融点金属層231」、「厚さ200nmのAl-Nd合金層232」、「厚さ約100nmの高融点金属層233」は、それぞれ本件補正発明1の「基材」、「第1の導電膜」、「アルミニウム・ネオジム合金膜」、「第2の導電膜」に相当する。
そして、引用発明において、「高融点金属層233」の厚さは、「約100nm」であって、「Al-Nd合金層232」の厚さである「200nm」の「1/4倍以上」であるから、本件補正発明1と引用発明とは、「前記アルミニウム・ネオジム合金膜の厚さの1/4倍以上の厚さを有する第2の導電膜」を形成する点で一致する。

(イ)引用発明において、「高融点金属としてTiを用いた場合の信号線の形成方法」は、「ゲート絶縁膜33上に積層された高融点金属層(Ti層)、Al-Nd合金層及び高融点金属層(Ti層)上に、フォトレジストを塗布し、露光、現像を行い、フォトレジストを所定のパターンにパターニングし、このフォトレジストをマスクとしてTi層、Al-Nd合金層及びTi層をドライエッチングし、最後に、フォトレジストを剥離除去し、信号線12を形成する」から、「Ti層とAl-Nd合金層とTi層とをドライエッチングを用いてパターニングする工程」によって、信号線12を形成するものである。
したがって、本件補正発明1と引用発明とは、「前記導電パターンを」、「前記第1の導電膜と前記アルミニウム・ネオジム合金膜と前記第2の導電膜とをドライエッチングを用いてパターニングする工程」「によって形成する」点で一致する。

(ウ)以上のことから、本件補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「導電パターンの形成方法であって、
前記導電パターンを、
基材上に第1の導電膜を形成する工程と、
前記第1の導電膜上にアルミニウム・ネオジム合金膜を形成する工程と、
前記アルミニウム・ネオジム合金膜上に、前記アルミニウム・ネオジム合金膜の厚さの1/4倍以上の厚さを有する第2の導電膜を形成する工程と、
前記第1の導電膜と前記アルミニウム・ネオジム合金膜と前記第2の導電膜とをドライエッチングを用いてパターニングする工程と、
によって形成する、
導電パターンの形成方法。」

<相違点>
<相違点1>
形成する「導電パターン」が、本件補正発明1では、「第1のゲート電極と前記第1のゲート電極に隣接して設けられた第2のゲート電極とを有する導電パターン」であるのに対し、引用発明では、信号線12はそのようなものではない点(以下、「相違点1-1」という。)。
そのため、本件補正発明1は、「前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極との間の間隔は10μm以下である」のに対し、引用発明は、そのような特定はなされていない点(以下、「相違点1-2」という。)。

カ 判断
以下、上記相違点について検討する。

(ア)相違点1-1、1-2について
相違点1-1、1-2について、まとめて検討する
上記エ(イ)(ウ)のとおり、引用文献2及び周知例1から、第1のゲート電極と前記第1のゲート電極に隣接して設けられた第2のゲート電極を有する導電パターンは周知のものであることが理解できる。

また、上記エ(ウ)のとおり、周知例1には、電界効果トランジスタ30のゲート電極形成工程で、ネオジウムを含有するアルミニウム合金膜3を形成し、アルミニウム合金膜3に対してドライエッチングを行なって、ゲート電極を形成する旨が記載されている。
更に、アルミニウム合金からなる電極や配線層を、高融点金属からなるバリア金属層上に形成することは、引用発明におけるソース電極23、ドレイン電極24、信号線12などにみられ、また、上記エ(エ)のとおり、周知例2に記載のように、周知技術である。
更に、上記エ(イ)のとおり、引用文献2には、「アクティブマトリクス型表示装置において用いることができる、同一基板の同一平面上にMOS型TFTを2素子形成したTFT集積回路であって、両素子は中心間距離を6μmとして隣接させたTFT集積回路。」の技術が記載されているから、MOS型TFTのゲート電極の間隔を6μmとした構成が開示されているといえる。

そして、引用発明において、「ゲート電極21、走査線」などは、「Al-Nd合金層232」を成膜して形成される「信号線12」と同様に、「Al-Nd合金層211」を成膜して形成されるものであるところ、周知例1に記載の技術は、引用発明と同様に、「ゲート電極形成工程」で、「ネオジウムを含有するアルミニウム合金膜3」を用いており、また、引用発明と周知例2に記載の上記周知技術における「電極や配線」は、「アルミニウム合金」からなり、引用発明の「ゲート電極21」、「信号線12」と材料が共通し、更に、引用文献2に記載の技術は、「液晶表示装置に用いられるアクティブマトリックス基板の製造方法」に係る発明である点で本件補正発明1と技術分野が共通する。

したがって、引用発明において、引用文献1の上記記載、周知例1に記載の技術、引用発明と周知例2に記載の上記周知技術、及び引用文献2に記載された技術に基づき、ゲート電極21、走査線などを形成する際に、ゲート電極21の間隔を10μm以下とするとともに、Al-Nd合金層211をバリア金属層上に形成し、エッチングにドライエッチングを用いるものとすることで、本件補正発明1の相違点1-1、1-2に係る発明のように、「第1のゲート電極と前記第1のゲート電極に隣接して設けられた第2のゲート電極とを有する導電パターン」の形成方法であって、「前記第1のゲート電極と前記第2のゲート電極との間の間隔は10μm以下である」導電パターンの形成方法とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、相違点1-1、1-2を総合的に勘案しても、本件補正発明1の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術並びに引用文献2及び上記周知例に記載された周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

キ よって、本件補正発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術並びに引用文献2及び上記周知例に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(4)本件補正についてのむすび
上記(2)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第5項の規定に違反するものであり、また、仮に、本件補正の目的が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合について、念のため検討しても、本件補正発明1、3は、特許法第36条第6項第2号及び第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明の進歩性について
1 本願発明
令和2年3月18日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成30年8月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2[理由]1(2)」に記載のとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

「【請求項1】
基材上に第1の導電膜を形成する工程と、
前記第1の導電膜上にアルミニウム・ネオジム合金膜を形成する工程と、
前記アルミニウム・ネオジム合金膜上に、前記アルミニウム・ネオジム合金膜の厚さの1/4倍以上の厚さを有する第2の導電膜を形成する工程と、
前記第1の導電膜と前記アルミニウム・ネオジム合金膜と前記第2の導電膜とをドライエッチングを用いてパターニングする工程と、
を有することを特徴とする導電パターン形成方法。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定(令和1年11月13日付け拒絶査定)の拒絶の理由は、1.この出願の請求項3-5に係る発明は明確でなく、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、2.この出願の請求項1-5に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、3.この出願の請求項1-5に係る発明は、特開2002-341367号公報(以下、「引用文献1」という。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献の記載事項と引用発明
(ア)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、前記第2の[理由]2(3)エ(ア)に記載したとおりである。

4 対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「透明絶縁性基板31」、「高融点金属層231」、「厚さ200nmのAl-Nd合金層232」、「厚さ約100nmの高融点金属層233」は、それぞれ本願発明の「基材」、「第1の導電膜」、「アルミニウム・ネオジム合金膜」、「第2の導電膜」に相当する。
そして、引用発明において、「高融点金属層233」の厚さは、「約100nm」であって、「Al-Nd合金層232」の厚さである「200nm」の「1/4倍以上」であるから、本願発明と引用発明とは、「前記アルミニウム・ネオジム合金膜の厚さの1/4倍以上の厚さを有する第2の導電膜」を形成する点で一致する。

イ 引用発明において、「高融点金属としてTiを用いた場合の信号線の形成方法」は、「ゲート絶縁膜33上に積層された高融点金属層(Ti層)、Al-Nd合金層及び高融点金属層(Ti層)上に、フォトレジストを塗布し、露光、現像を行い、フォトレジストを所定のパターンにパターニングし、このフォトレジストをマスクとしてTi層、Al-Nd合金層及びTi層をドライエッチングし、最後に、フォトレジストを剥離除去し、信号線12を形成する」から、「Ti層とAl-Nd合金層とTi層とをドライエッチングを用いてパターニングする工程」によって、信号線12を形成するものである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記第1の導電膜と前記アルミニウム・ネオジム合金膜と前記第2の導電膜とをドライエッチングを用いてパターニングする工程」を有する点で一致する。

ウ 引用発明の「信号線12」は、「高融点金属層231と厚さ200nmのAl-Nd合金層232と厚さ約100nmの高融点金属層233を順次成膜し、フォトリソグラフィーとエッチングにより」形成したものであるところ、「信号線の形成」は、「導電パターン形成」に対応するといえるから、本願発明と引用発明とは、「導電パターン形成方法」である点で共通する。

エ そうすると、本願発明と引用発明とは
「基材上に第1の導電膜を形成する工程と、
前記第1の導電膜上にアルミニウム・ネオジム合金膜を形成する工程と、
前記アルミニウム・ネオジム合金膜上に、前記アルミニウム・ネオジム合金膜の厚さの1/4倍以上の厚さを有する第2の導電膜を形成する工程と、
前記第1の導電膜と前記アルミニウム・ネオジム合金膜と前記第2の導電膜とをドライエッチングを用いてパターニングする工程と、
を有する導電パターン形成方法。」
である点で一致し、相違する点はない。

したがって、本願発明の構成はすべて引用文献1に示されており、本願発明は引用発明と同一ということとなる。

また、仮に、引用発明の「エッチング」が、ドライエッチングによるものと直ちに認めることができないとしても、前記第第2(3)ウ(ア)に摘記の引用文献1の段落【0064】の記載から、前記「エッチング」をドライエッチングによるものとすることは、当業者が容易になし得たことであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、あるいは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 記載不備(明確性要件違反)について
請求項3に係る発明は、「半導体装置」(物の発明)に係る発明であるところ、当該請求項3には、「請求項1または2に記載の導電パターン形成方法を用いて形成された導電パターンを備える」と、「半導体装置」が備える「導電パターン」の製造方法が記載されており、その物の製造方法が記載されているものと認められる。
ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最二小判平成27年6月5日 平成24年(受)1204号、同2658号)。
しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、請求人から主張・立証がされていないため、不可能・非実際的事情が存在することを認める理由は見いだせない。
したがって、本願の請求項3-5に係る発明は明確でない。
よって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-01-06 
結審通知日 2021-01-12 
審決日 2021-01-27 
出願番号 特願2014-142024(P2014-142024)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 綿引 隆早川 朋一  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 小川 将之
恩田 春香
発明の名称 導電パターン形成方法、半導体装置、及び電子機器  
代理人 中島 淳  

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