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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1375418
審判番号 不服2020-10097  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-20 
確定日 2021-07-06 
事件の表示 特願2016-541871「転倒検出システム、方法及びコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月19日国際公開、WO2015/036245、平成28年 9月23日国内公表、特表2016-529081、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」と記す。)は、2014年8月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年9月11日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成30年7月27日付けで拒絶理由が通知され、これに対し同年9月20日に意見書及び手続補正書が提出され、平成31年2月18日付けで拒絶理由が通知され、これに対し同年4月23日に意見書が提出され、令和元年9月3日付けで拒絶理由が通知され、これに対し同年11月27日に意見書が提出され、令和2年3月18日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対し同年7月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、当審より令和2年12月14日付けで拒絶理由が通知され、これに対し令和3年3月12日に意見書が提出され、同年3月30日付けで拒絶理由が通知され、これに対し同年4月30日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年3月18日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の下記の請求項に係る発明は、下記の引用文献1ないし6に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1、12-14
・引用文献1及び2

・請求項2-11
・引用文献1ないし6

引用文献等一覧
1.特表2010-539617号公報
2.特開2010-277444号公報
3.特開2011-161208号公報(周知技術を示す文献)
4.特表2012-502341号公報(周知技術を示す文献)
5.特表2012-532652号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2006-228024号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由(令和3年3月30日付け拒絶理由)の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

理由1:(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の請求項1ないし14の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願請求項1ないし14に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明14」という。)は、令和3年4月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし14は以下のとおりである。((下線は、請求人が付与したものであり、補正箇所を表している。)
「【請求項1】
ユーザによる転倒を検出する際に使用するための転倒検出システムであって、当該転倒検出システムは:
前記ユーザ及び/又は前記ユーザが置かれている環境に関するコンテキスト情報を決定し、
前記決定されたコンテキスト情報が、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあることを示す場合に、ユーザによる転倒を検出するのに使用される転倒検出アルゴリズムの感度を一時的に上昇させることであって、前記感度の一時的な上昇は、前記決定されたコンテキスト情報により前記転倒リスクが増加した状態が示される間に起こり、
前記ユーザ及び/又は前記ユーザが置かれている環境に関する更なるコンテキスト情報を決定し、
前記更なるコンテキスト情報が、前記ユーザはもはや転倒リスクが増加した状態にないことを示す場合、前記転倒検出アルゴリズムの感度をリセットするか又は低下させる、
ように構成される、処理ユニット
を備え、
前記転倒検出アルゴリズムの感度の上昇、及びリセット又は低下は、前記転倒検出アルゴリズムの閾値を変更することにより行われる、
転倒検出システム。
【請求項2】
前記コンテキスト情報は、前記ユーザが転倒リスク評価テスト又は平衡感覚トレーニングを実行しているかどうかの指示を備え;前記処理ユニットは、前記コンテキスト情報が、前記ユーザが転倒リスク評価テスト又は平衡感覚トレーニングを実行していることを示す場合に、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあると決定するように構成される、
請求項1に記載の転倒検出システム。
【請求項3】
前記コンテキスト情報は、前記ユーザが歩いているかどうかの指示を備え、前記処理ユニットは、前記コンテキスト情報が、前記ユーザが歩いていることを示す場合に、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあると決定するように構成される、
請求項1又は2に記載の転倒検出システム。
【請求項4】
前記コンテキスト情報は、前記ユーザについての異常な動きパターンが検出されたかどうかの指示を備え、前記処理ユニットは、前記コンテキスト情報が前記異常な動きパターンを示す場合に、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあると決定するように構成される、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の転倒検出システム。
【請求項5】
前記コンテキスト情報は、前記ユーザの現在の位置の指示を備え、前記処理ユニットは、前記ユーザの現在の位置が、前記ユーザが転倒するリスクの高い既知の位置である場合に、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあると決定するように構成される、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の転倒検出システム。
【請求項6】
前記ユーザが置かれている環境に関する前記コンテキスト情報は、前記ユーザの位置における環境光の指示、地面がどの程度平らであるか若しくは平らでないかの指示、現在の天気若しくは気温の指示及び/又は環境雑音レベルの指示を備え、前記処理ユニットは、前記環境光が閾値未満である場合、前記地面が平らでない場合、前記天気が湿っているか気温が閾値未満である場合、かつ/又は前記環境雑音レベルが閾値超である場合に、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあると決定するように構成される、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の転倒検出システム。
【請求項7】
前記コンテキスト情報は、現在の時間の指示を備え、前記処理ユニットは、前記現在の時間が1つ以上の指定された期間内である場合に、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあると決定するように構成される、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の転倒検出システム。
【請求項8】
前記1つ以上の指定された期間は、夜間、並びに/あるいは薬の定期的投与の直前及び/又は後の期間を備える、
請求項7に記載の転倒検出システム。
【請求項9】
前記コンテキスト情報は、前記ユーザが歩行補助を使用しているかどうかの指示、前記ユーザが眼鏡を装着しているかどうかの指示及び/又は前記ユーザが履いている靴のタイプの指示を備え、前記処理ユニットは、前記ユーザが必要な歩行補助を使用していない場合、前記ユーザが眼鏡を装着していない場合及び/又は前記ユーザが通常の又は正しい靴を履いていない場合に、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあると決定するように構成される、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の転倒検出システム。
【請求項10】
前記コンテキスト情報は、前記ユーザの現在の活動レベルの指示を備え、前記処理ユニットは、前記現在の活動レベルが閾値活動レベルよりも高い場合に、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあると決定するように構成される、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の転倒検出システム。
【請求項11】
前記処理ユニットは、前記コンテキスト情報が、前記ユーザは転倒リスクが低下した状態である又は転倒リスクが低下した状態であり得ることを示すかどうかを判断し、前記決定されたコンテキスト情報により前記転倒リスクの低下した状態が示される間、前記転倒検出アルゴリズムの感度を低下させるように構成される、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の転倒検出システム。
【請求項12】
ユーザによる転倒を検出するよう転倒検出システムを作動させる方法であって、当該方法は:
前記ユーザ及び/又は前記ユーザが置かれている環境に関するコンテキスト情報を決定するステップと;
前記決定されたコンテキスト情報が、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあることを示す場合に、前記決定されたコンテキスト情報により前記転倒リスクの増加した状態が示される間、ユーザによる転倒を検出するのに使用される転倒検出アルゴリズムの感度を一時的に上昇させるステップと;
前記ユーザ及び/又は前記ユーザが置かれている環境に関する更なるコンテキスト情報を決定するステップと;
前記更なるコンテキスト情報が、前記ユーザはもはや転倒リスクが増加した状態にないことを示す場合、前記転倒検出アルゴリズムの感度をリセットするか低下させるステップと;
を備え、
前記転倒検出アルゴリズムの感度の上昇、及びリセット又は低下は、前記転倒検出アルゴリズムの閾値を変更することにより行われる、
方法。
【請求項13】
前記転倒検出システムを、最初に、前記ユーザについての通常の転倒リスクに対応する通常の感度に設定された前記転倒検出アルゴリズムを用いて動作させるステップ;
を更に備え、
前記コンテキスト情報が、前記ユーザは、前記ユーザについての前記通常の転倒リスクに対して転倒リスクが増加した状態にある又は転倒リスクが増加した状態にあり得ることを示すとき、前記転倒検出アルゴリズムの感度を前記通常の感度より上に上げる、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
コンピュータ又は処理ユニットによって実行されると、該コンピュータ又は処理ユニットに請求項12又は13に記載の方法を実行させる、コンピュータプログラム。」

第5 当審拒絶理由についての判断
当審拒絶理由の理由1は、補正前の請求項1に係る発明における「ユーザによる転倒を検出するのに使用される転倒検出アルゴリムの感度を一時的に上昇させる」と「転倒検出アルゴリズムの感度をリセットするか又は低下させる」という発明特定事項の「アルゴリズムの感度」の「上昇」、「リセット」及び「下降」とは、どのようなことを指すのか明確でないことにより、補正前の請求項1に係る発明が不明であり、補正前の請求項1及び請求項1を引用する請求項2ないし11と、上記と同様の発明特定事項を備える補正前の請求項12及び請求項12を引用する請求項13ないし14が明確でないというものである。 上記令和3年4月30日提出の手続補正書により、補正後の請求項1及び12に「前記転倒検出アルゴリズムの感度の上昇、及びリセット又は低下は、前記転倒検出アルゴリズムの閾値を変更することにより行われる」という限定がなされた。これにより、「アルゴリズムの感度」の「上昇」、「リセット」及び「下降」が「転倒検出アルゴリズムの閾値を変更することにより行われる」ものであることが明確となった。
これにより、補正後の請求項1に係る発明である本願発明1と、補正後の請求項12に係る発明である本願発明12は明確となり、本願発明1を引用する本願発明2ないし11と、本願発明12を引用する本願発明13ないし14も明確となった。
したがって、本願発明1ないし14に対する当審拒絶理由通知の理由1は解消された。

第6 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同じ。)
(1)「【0001】
本発明は、広く人の異常状態、特に転倒を検出するための方法及び装置に関する。」

(2)「【0022】
図2には、本発明の良好な理解のために実施例が示される。動き検出サブシステム、例えば1つ又は複数の加速度計及び1つ又は複数の傾斜センサは、次のモードで動作可能である。
・休憩モード:加速度計及び傾斜センサは、オフとされ動作しない。
・睡眠モード:1つの加速度計だけが、低いサンプリングレート(例えば5Hz)で動いており、動き検出サブシステムのプロセッサも低速度で動いている。
・うたた寝モード:加速度計及び傾斜センサは、高いサンプリングレート(例えば20Hz)で動いている。
・通常モード:加速度計及び傾斜センサは、通常のサンプリングレート(例えば50Hz)で動いており、動き検出サブシステムのプロセッサは、省電力速度(例えば最高速度の半分)で動作している。
・活性モード:加速度計及び傾斜センサは、最高サンプリングレート(例えば100Hz)で動いており、動き検出サブシステムのプロセッサも、転倒を迅速に検出するために最高速度で動作している。
【0023】
この実施例では、ECG(心電図)信号を例に挙げている。通常のケースにおいて、ECGセンサは、この図の下に示されAとして示されるような患者のECG信号を検出するようフルモードで動作する。異常性がないとき、加速度計は、図の左の部分に示されBとして示される20Hzのサンプリングレートでうたた寝モードで動作する。図の中ほどに示されCとして示されるように、ECG信号の異常性が検出されるとき、加速度計は、図の右の部分に示されDとして示されるように、100Hzのサンプリングレートで活性モードに切り換わる。この実施例から、通常のケースで監視システムの電力消費をかなり低下させることができることが容易に理解される。異常が起きたとき、この監視システムは、その検出精度を犠牲にすることなくより正確な監視モードに素早く切り換わることができる。
【0024】
他のケースにおいて、人が睡眠中であるとき、その人の生理学的信号は、あまり動きを示さず、これは転倒のリスクが低いことを意味する。そして、動き検出サブシステムは、低精度モードに切り換わることができる。人が動いて(例えば歩いて又は走って)いるとき、これは転倒のリスクが大きいことを意味し、動き検出サブシステムを高精度モードに切り換えることができる。
【0025】
生理学的信号の他に、環境ファクタも、転倒発生の可能性を示すために用いることができる。対応の形態において、1つ又は複数の環境センサは、当該環境を連続的又は不連続的に監視するために用いることができる。例えば、光センサは、当該環境が暗すぎるかどうかを検出するために用いることができる。暗すぎる場合、動き検出サブシステムは、より精細な動作モードに切り換わることができる。温度センサも、同様の役割を担うことができる。他の実施例において、当該環境センサの動作モードは、生理学的信号を監視する出力に応じて設定することができる。例えば、患者が寝ていることを検出した場合、光センサを、休憩モードで動作するよう設定することができ、患者が非常に速く歩行し又は走っていることを検出した場合、光センサを、休憩モード又はうたた寝モードで動作するよう設定することもできる。何故なら、人は、暗い環境ではなく明るい状況で速く歩き又は走るのが普通だからである。」

上記引用文献1の記載事項を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「転倒を検出するための方法及び装置において、
動き検出サブシステム、例えば1つ又は複数の加速度計及び1つ又は複数の傾斜センサは、次のモードで動作可能であり、
・休憩モード:加速度計及び傾斜センサは、オフとされ動作しない。
・睡眠モード:1つの加速度計だけが、低いサンプリングレート(例えば5Hz)で動いており、動き検出サブシステムのプロセッサも低速度で動いている。
・うたた寝モード:加速度計及び傾斜センサは、高いサンプリングレート(例えば20Hz)で動いている。
・通常モード:加速度計及び傾斜センサは、通常のサンプリングレート(例えば50Hz)で動いており、動き検出サブシステムのプロセッサは、省電力速度(例えば最高速度の半分)で動作している。
・活性モード:加速度計及び傾斜センサは、最高サンプリングレート(例えば100Hz)で動いており、動き検出サブシステムのプロセッサも、転倒を迅速に検出するために最高速度で動作している。
人が睡眠中であるとき、その人の生理学的信号は、あまり動きを示さず、これは転倒のリスクが低いことを意味し、そして、動き検出サブシステムは、低精度モードに切り換わることができ、
人が動いて(例えば歩いて又は走って)いるとき、これは転倒のリスクが大きいことを意味し、動き検出サブシステムを高精度モードに切り換えることができ、
生理学的信号の他に、環境ファクタも、転倒発生の可能性を示すために用いることができ、1つ又は複数の環境センサは、当該環境を連続的又は不連続的に監視するために用いることができ、光センサは、当該環境が暗すぎるかどうかを検出するために用いることができる。暗すぎる場合、動き検出サブシステムは、より精細な動作モードに切り換わることができ、温度センサも、同様の役割を担うことができる、
方法及び装置。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の技術事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、監視システム、監視装置、及び監視方法に関し、特に作業者が携帯する端末の位置情報を監視して作業者の異常を検知する監視システム、監視装置、及び監視方法に関する。」

(2)「【0032】
作業者端末20において、位置情報検出部21は、位置検出装置208を用いて作業者端末20の現在位置の位置情報(例えば、緯度及び経度)を検出すると、当該位置情報を位置情報変換部23に入力する(S103)。続いて、位置情報変換部23は、入力された位置情報を変換し、変換結果の位置情報を位置情報送信部24に入力する(S104)。
【0033】
図6は、位置情報の変換処理の一例を説明するための図である。同図において圃場Fは、8つのエリア(ブロック)に分割されている。垂直方向の境界線に対して付されたx1?x3と、水平方向の境界線に対して付されたy1?y5は、それぞれ、経度又は緯度を示す。点Pは、位置情報検出部21によって検出された位置情報に係る位置である。位置情報変換部23は、点Pの位置情報(緯度及び経度)を、RAM202に記録されている最大リスクレベルに応じてエリア単位又は複数のエリアを含むエリア単位の位置情報に変換する。当該変換において、位置情報変換部23は、位置情報変換テーブル25を利用する。
【0034】
図7は、位置情報変換テーブルの構成例を示す図である。同図の位置情報変換テーブル25において、列方向は、図6の最小単位のエリアごとに位置情報の範囲によって分類されている。行方向は、最大リスクレベルによって分類されている。すなわち、位置情報変換テーブル25には、位置情報の範囲ごと及びリスクレベルごとに変換後の位置情報(エリア情報)が登録されている。例えば、点Pについては、最大リスクレベルが2、1、0に応じて、エリアA、エリアAB、エリアADに変換される。エリアABは、エリアA及びBを含む領域である。エリアADは、エリアA、B、C、Dを含む領域である。以上より明らかなように、リスクレベルが低い程、変換後の位置情報の精度は低下する。リスクレベルが低い場合に位置情報の精度を低下させることで、作業者のプライバシーを保護することが可能となる。」

(3)「【0070】
図16は、異常検知判断テーブルの構成例を示す図である。同図において、異常検知判断テーブル19には、最大リスクレベルごとに異常検知間隔が記録されている。異常検知間隔は、同一の作業者端末20(同一の作業者)の位置が変化しない時間がどの程度継続したら異常と判断するかを示す情報である。同図の例では、最大リスクレベルが低い程、異常検知間隔は長く設定されている。例えば、レベル0に対する異常検知間隔は120分であり、レベル3に対する異常検知間隔は5分とされている。これは、最大リスクレベルが低い程、位置情報の精度が低いことに起因する。すなわち、位置情報の精度が低い程、作業者の実際の移動に対する位置情報の感度は鈍くなる。そうすると、最大リスクレベルが0の作業者については、例えば、実際にはエリアAD内において移動しているにも拘わらず、位置情報に基づくと移動していないと判定されうる。したがって、仮に、最大リスクレベルの違いを考慮せずに一律の間隔を基準として位置情報の変化の有無を判定すると、最大リスクレベルが低い作業者については頻繁に異常の発生が検知されてしまう。そこで、本実施の形態では、斯かる不都合を解消すべく、位置情報の精度の低下に応じて、異常検知間隔を長くしているのである。すなわち、位置情報の尺度と異常検知間隔の尺度とを整合させることにより、作業者の移動という事象の発生を適切に把握可能としているのである。これによって、最大リスクレベルが高い作業者については、位置情報の精度を高くし、かつ位置変化の有無を判定する時間間隔を短くすることにより、早期に異常を検出することができる。最大リスクレベルが低い作業者については、位置情報監視の精度を低くし、かつ位置変化の有無を判定する時間間隔を長くすることにより、プライバシーを守りつつ頻繁に異常の発生が検知されることを防いでいる。なお、レベル0に対する異常検知間隔は0又は空(指定されていない状態)であってもよい。この場合、異常検知部14は、ステップS506以降の処理は実行しない。したがって、異常の検知は行われない。」

上記引用文献2の記載事項を総合勘案すると、引用文献2には、次の技術(以下「引用文献2技術」という。)が開示されていると認められる。
「作業者の異常を検知する監視システムにおいて、リスクレベルが高い場合には、位置の単位を狭くし測定時間間隔を短くして位置情報監視の精度を高くし、リスクレベルが低い場合には、位置の単位を広くし測定時間間隔を長くして位置情報監視の精度を低くする技術。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3(以下「周知例3」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
「【0009】
踏み台昇降運動の補助具として歩行器の使用を考えた場合、歩行器は床面上を歩くときの転倒防止の専用補助具であり、踏み台の上に乗った高い位置では転倒の
リスクがあるため、歩行器との組み合わせの場合にも欠点がある。
【0010】
また、踏み台昇降運動は足を床に降ろす瞬間が膝にかかる負担が一番大きく膝を痛めやすいが、従来の踏み台昇降運動用健康器具は、その対策を具備していない。さらに、踏み台昇降運動は足を床に降ろす瞬間の騒音が一番大きく運動をしていない周囲の人にとっては迷惑な騒音であるが、その対策を具備していない。
【0011】
一般的な用途の踏み台で握り棒や手すりを具備したものを踏み台昇降運動に使用する場合については、昇る瞬間にバランスを崩した場合に踏み台ごと転倒するリスクがある。
【0012】
スクワット運動や片足立ち訓練に使用できそうな一般的な机やイスも不安定な把持となり転倒のリスクがある。スクワット運動時に転倒防止のための補助としたい壁は簡単には用意できないなどの問題がある。」

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4(以下「周知例4」という。)には、以下の技術事項が記載されている。

(1)「【0004】
自動転倒検出システムは、継続的にユーザの動きを測定するセンサと、転倒を検出するために、測定または処理した信号を所定の閾値と比較するプロセッサとを有する。特に、自動転倒検出システムは、一組の所定の閾値及び/または分類パターン(以下、パラメータセットと呼ぶ)を記憶している。システムを起動すると、センサから得られたデータが継続的に転送され、処理され、パラメータセットと比較されて、転倒イベントが発生したか判断される。」
(2)「【0007】
しかし、例えば、転倒が怖くて、または体が疲れているために歩いていて不安なユーザ、または複数のことを同時に行っている(例えば、物を運んだり、孫と話しながら歩いている)ユーザ、明かりが暗かったり、地面が濡れていたり(カーペットのよれ、電気配線、おもちゃ、ツール、その他の危険物によって)でこぼこしているところを通るユーザ、薬を服用していてバランス感覚や集中力が弱まっているユーザを、転倒防止システムで支援できる。これにより、転倒のリスクが低くしたり、あるいは少なくとも転倒のリスクが高い状況を避けたりでき、ユーザは安心できる。」

5.引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5(以下「周知例5」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
「【0006】
しかしながら、例えば転倒の恐れによって、筋肉の疲労によって、頻繁な並行作業(すなわち歩いているとき、孫に話しているときに物を運んでいるなど、又は、薄暗い照明、濡れた若しくはでこぼこな地面、例えば緩んだ絨毯、電線、玩具、工具、及び他の危険などがある場所での移動)によって生じる若しくは増強される、歩行中に不安定なユーザ、或いは、バランス若しくは集中に影響し得る薬物治療中のユーザは、実際の転倒リスクを軽減する、又は少なくとも特定時間において高い転倒リスクにあることをユーザに警告し、より安全を感じさせる転倒防止用装置によって支援されることができる。」

6.引用文献6について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献6(以下「周知例6」という。)には、以下の技術事項が記載されている。
「【0051】
また、患者の投薬時間等の治療情報を、患者識別情報とともに転倒管理サーバ3に蓄積し、例えば、ある患者に対する転倒予測において、投薬時間前であれば、閾値を下げて、少しの異常でも異常であると判定することにより、異常予測の精度を向上させることが可能となる。」

第7 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1を、引用発明1と対比する。
ア 引用発明1の「転倒を検出するための」「装置」は、本願発明1における「ユーザによる転倒を検出する際に使用するための転倒検出システム」に相当する。
イ 引用発明1の「その人の生理学的信号」及び「環境ファクタ」は、本願発明1における「ユーザ及び/又は前記ユーザが置かれている環境に関するコンテキスト情報」に相当する。
ウ 引用発明1において、「生理学的信号」や「環境ファクタ」は、測定して得られるものであるので、それらを測定していることは明らかである。したがって、引用発明1と本願発明1とは、「ユーザ及び/又は」「ユーザが置かれている環境に関するコンテキスト情報を決定」する点で共通する。
エ 引用発明1では、「生理学的信号」が「あまり動きを示さ」ない時を「人が睡眠中であるとき」とし、「転倒のリスクが低いことを意味」しているから「動き検出サブシステムは、低精度モードに切り換」わり、生理学的信号が動きを示す「人が動いて(例えば歩いて又は走って)いるとき」は「転倒のリスクが大きいことを意味し」ているから「動き検出サブシステムを高精度モードに切り換えることができ」ることから、本願発明1とは「前記決定されたコンテキスト情報が、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあることを示す場合に、前記決定されたコンテキスト情報により前記転倒リスクの増加した状態が示される間、ユーザによる転倒を検出するのに使用される転倒検出アルゴリズムの感度を」「上昇させるステップ」を備える点で共通する。
オ 引用発明1の「動き検出サブシステムのプロセッサ」は、本願発明1における「処理ユニット」に相当する。

すると、本願発明1と、引用発明1とは、次の点で一致する。
<一致点>
「ユーザによる転倒を検出する際に使用するための転倒検出システムであって、
当該転倒検出システムは:
前記ユーザ及び/又は前記ユーザが置かれている環境に関するコンテキスト情報を決定し、
前記決定されたコンテキスト情報が、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあることを示す場合に、ユーザによる転倒を検出するのに使用される転倒検出アルゴリムの感度を上昇させることであって、前記感度の上昇は、前記決定されたコンテキスト情報により前記転倒リスクが増加した状態が示される間に起こる、処理ユニット
を備える、転倒検出システム。」

一方で、両者は、次の各点で相違する。
<相違点1>
処理ユニットにおいて、本願発明1は「前記決定されたコンテキスト情報が、前記ユーザは現在、転倒リスクが増加した状態にあることを示す場合に、ユーザによる転倒を検出するのに使用される転倒検出アルゴリムの感度を一時的に上昇させることであって、前記感度の一時的な上昇は、前記決定されたコンテキスト情報により前記転倒リスクが増加した状態が示される間に起こり、前記ユーザ及び/又は前記ユーザが置かれている環境に関する更なるコンテキスト情報を決定し、前記更なるコンテキスト情報が、前記ユーザはもはや転倒リスクが増加した状態にないことを示す場合、前記転倒検出アルゴリズムの感度をリセットするか又は低下させる」のに対し、引用発明1では「人が睡眠中であるとき、その人の生理学的信号は、あまり動きを示さず、これは転倒のリスクが低いことを意味し、そして、動き検出サブシステムは、低精度モードに切り換わることができ、人が動いて(例えば歩いて又は走って)いるとき、これは転倒のリスクが大きいことを意味し、動き検出サブシステムを高精度モードに切り換えることができ、生理学的信号の他に、環境ファクタも、転倒発生の可能性を示すために用いることができ、1つ又は複数の環境センサは、当該環境を連続的又は不連続的に監視するために用いることができ、光センサは、当該環境が暗すぎるかどうかを検出するために用いることができる。暗すぎる場合、動き検出サブシステムは、より精細な動作モードに切り換わることができ、温度センサも、同様の役割を担うことができる」点。
<相違点2>
本願発明1では、「転倒検出アルゴリズムの感度の上昇、及びリセット又は低下は、前記転倒検出アルゴリズムの閾値を変更することにより行われる」のに対し、引用発明1では、モードの変更によりセンサのサンプリングレートを変更することにより行われる点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、前記相違点2について先に検討すると、前記相違点2に係る本願発明1の「転倒検出アルゴリズムの感度の上昇、及びリセット又は低下は、前記転倒検出アルゴリズムの閾値を変更することにより行われる」という構成は、上記引用文献1-6には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明1及び引用文献2ないし6に記載された技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし11について
本願発明2ないし11も、本願発明1の「転倒検出アルゴリズムの感度の上昇、及びリセット又は低下は、前記転倒検出アルゴリズムの閾値を変更することにより行われる」と同一の構成を備えるものであるから、上記「1.」で検討したとおり、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2ないし6に記載された技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3.本願発明12について
本願発明12は、本願発明1の転倒検出システムのカテゴリーを転倒検出システムを作動させる方法に変更したものであり、本願発明1の上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるから、上記「1.」で検討したとおり、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2ないし6に記載された技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

4.本願発明13ないし14について
本願発明13ないし14は、本願発明12を引用する発明であることから、上記「3.」で検討したとおり、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2ないし6に記載された技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第8 原査定についての判断
令和3年4月30日提出の手続補正書による手続補正により、補正後の請求項1ないし14は、「転倒検出アルゴリズムの感度の上昇、及びリセット又は低下は、前記転倒検出アルゴリズムの閾値を変更することにより行われる」という技術的事項を有するものとなった。当該技術的事項は、原査定における引用文献1ないし6には記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1ないし14は、当業者であっても、原査定における引用文献1ないし6に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-16 
出願番号 特願2016-541871(P2016-541871)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (A61B)
P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 北島 拓馬  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
伊藤 幸仙
発明の名称 転倒検出システム、方法及びコンピュータプログラム  
代理人 伊東 忠重  
代理人 宮崎 修  
代理人 伊東 忠彦  
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