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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H
管理番号 1375428
審判番号 不服2020-13991  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-06 
確定日 2021-07-06 
事件の表示 特願2017-237808「マルチプレクサ,高周波フロントエンド回路及び通信装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月27日出願公開,特開2019-106622,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯

本願は,平成29年12月12日の出願であって,令和2年3月6日付けで拒絶理由が通知され,令和2年6月17日に手続補正がされ,令和2年7月14日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年10月6日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(令和2年7月14日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1-7
・引用文献等 1-3

<引用文献等一覧>
1.米国特許出願公開第2017/0353174号明細書
2.特開2000-196409号公報(周知技術を示す文献)
3.国際公開第2017/159409号(周知技術を示す文献)


第3 本願発明

本願の請求項1-6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は,令和2年10月6日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
共通端子,第1端子及び第2端子と,
前記共通端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上に配置され,複数の弾性波共振子を有する第1フィルタと,
前記共通端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上に配置され,通過帯域の周波数が前記第1フィルタより高い第2フィルタと,を備え,
前記複数の弾性波共振子は,
前記第1経路上に配置された2以上の直列共振子と,
前記第1経路上のノードとグランドとを結ぶ経路上に配置された1以上の並列共振子と,を含み,
前記2以上の直列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1直列共振子は,前記並列共振子を間に介さずに前記共通端子に接続され,
前記複数の弾性波共振子は,圧電性を有する基板と,前記基板上に形成された一対の櫛歯状電極からなるIDT電極と,前記IDT電極を覆うように前記基板上に設けられた誘電体層と,を有し,
前記第1直列共振子,及び,前記1以上の並列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1並列共振子の前記誘電体層は,残りの前記複数の弾性波共振子の前記誘電体層よりも,厚みが薄く,
前記第1フィルタにより発生する高次モードスプリアスの周波数は,前記第2フィルタの周波数通過帯域に含まれる,
マルチプレクサ。
【請求項2】
共通端子,第1端子及び第2端子と,
前記共通端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上に配置され,複数の弾性波共振子を有する第1フィルタと,
前記共通端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上に配置され,通過帯域の周波数が前記第1フィルタより高い第2フィルタと,を備え,
前記複数の弾性波共振子は,
前記第1経路上に配置された1以上の直列共振子と,
前記第1経路上のノードとグランドとを結ぶ経路上に配置された2以上の並列共振子と,を含み,
前記2以上の並列共振子は,前記1以上の直列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1直列共振子から見て前記共通端子側に位置する第1並列共振子と,前記第1端子側に位置する並列共振子を含み,
前記複数の弾性波共振子は,圧電性を有する基板と,前記基板上に形成された一対の櫛歯状電極からなるIDT電極と,前記IDT電極を覆うように前記基板上に設けられた誘電体層と,を有し,
前記第1並列共振子及び前記第1直列共振子の前記誘電体層は,残りの前記複数の弾性波共振子の前記誘電体層よりも,厚みが薄く,
前記第1フィルタにより発生する高次モードスプリアスの周波数は,前記第2フィルタの周波数通過帯域に含まれる,
マルチプレクサ。
【請求項3】
前記誘電体層は,前記誘電体層の表面が前記基板の主面に対し平行となるように設けられている,
請求項1または2に記載のマルチプレクサ。
【請求項4】
前記基板は,ニオブ酸リチウム基板である,
請求項1?3のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載のマルチプレクサと,
前記マルチプレクサに接続された増幅回路と,を備える,
高周波フロントエンド回路。
【請求項6】
アンテナ素子で送受信される高周波信号を処理するRF信号処理回路と,
前記アンテナ素子と前記RF信号処理回路との間で前記高周波信号を伝達する請求項5に記載の高周波フロントエンド回路と,を備える,
通信装置。」


第4 引用文献,引用発明等

1.引用文献1について

原査定の理由に引用された米国特許出願公開第2017/0353174号明細書(以下,「引用文献1」という。当審訳としてファミリ文献の特開2017-220929号を参考にする。下線は当審が付与。)には,

「[0038] FIG.3 is a block diagram schematically illustrating an exemplary configuration of a filter device according to certain embodiments. The filter device200 includes a first filter210 and a second filter220. The first filter210 is connected between a common contact201, which can be connected to an antenna, and a first signal contact202 to allow an input signal to pass through. The second filter220 is connected between the common contact201 and the second signal contact203. The filter device200 may be an antenna diplexer or antenna duplexer, for example.
[0039] The first filter210 includes a plurality of surface acoustic wave (SAW) resonators. Only one SAW resonator212 of the plurality of resonators (referred to as a front-end resonator hereinafter) is connected to the common contact201. The remaining resonators (not shown) forming a SAW filter214 are connected between the front-end resonator212 and the first signal contact202 within the first filter210.
[0040] In one example, the front-end resonator212 and the SAW filter214 included in the first filter210 may form a ladder-type filter, which includes a plurality of series resonators (including the front-end resonator212) connected in series with one another between the common contact201 and the first signal contact202, and one or more parallel resonators connected between these series resonators and a ground contact (not shown). However, the configuration of the SAW filter214 is not limited to a ladder-type arrangement, and in other embodiments the SAW filter214 may be a double mode SAW (DMS) filter, for example.
[0041] According to certain examples the second filter220 has a passband different from that of the first filter210. In one embodiment, the center frequency of the second filter220 may be within a band of approximately 1.2 to 1.4 times greater than the center frequency of the passband of the first filter210. The center frequency of the second filter220 may be in a band of approximately 1.25 to 1.3 times greater than the center frequency of the passband of the first filter210.
[0042] FIG.4A is a simplified cross-sectional view showing the structure of an example of the first filter210. In this example, the first filter210 includes a piezoelectric substrate310 having a flat main surface. The piezoelectric substrate310 is formed by a piezoelectric body such as lithium niobate or lithium tantalate, for example. Each of the SAW resonators forming the SAW filter214 and the front-end SAW resonator212 includes an interdigital transducer (IDT) electrode formed of a pair of interdigitated comb-shaped electrodes. Accordingly, FIG.4A schematically shows IDT electrodes320 representing the SAW filter214 and the front-end resonator212. The IDT electrodes320 are formed on the main surface of the piezoelectric substrate310.
[0043] As shown in FIG.4A, the main surface of the piezoelectric substrate310 as well as the IDT electrodes320 are covered with a dielectric film330. In one example the dielectric film330 is made of silicon dioxide (SiO_(2)). In one embodiment, the dielectric film has a first thicknessT_(1) in a first region corresponding to the SAW filter214, and a second thicknessT_(2) in a second region340 corresponding to the front-end resonator212. The second thicknessT_(2) is configured to be less than the first thicknessT_(1). As described further below, configuring the film thicknessT_(2) of the dielectric film330 in the region340 corresponding to the front-end resonator212 to be relatively smaller can prevent the occurrence of a Lamb wave, such that spurious emissions may be reduced in the passband of the second filter220.」
(当審訳:
[0038]
図3は,所定の実施形態に係る分波器の典型的な構成を模式的に例示するブロック図である。分波器200は第1フィルタ210及び第2フィルタ220を含む。第1フィルタ210は,アンテナに接続可能な共通接点201と,第1信号接点202との間に接続され,入力信号を通過させる。第2フィルタ220は,共通接点201及び第2信号接点203間に接続される。分波器200は,例えば,アンテナダイプレクサ又はアンテナデュプレクサとしてよい。
[0039]
第1フィルタ210は複数の弾性表面波(SAW)共振器を含む。複数の共振器のうちただ一つのSAW共振器212(以下,フロントエンド共振器と称する)が,共通接点201に接続される。残りの共振器(図示せず)は,SAWフィルタ214を形成し,第1フィルタ210においてフロントエンド共振器212及び第1信号接点202間に接続される。
[0040]
一例において,第1フィルタ210に含まれるフロントエンド共振器212及びSAWフィルタ214は,共通接点201及び第1信号接点202間に互いに直列接続された(フロントエンド共振器212を含む)複数の直列共振器と,当該直列共振器及びグランド接点(図示せず)間に接続された一以上の並列共振器とを含むラダー型フィルタを形成してよい。しかしながら,SAWフィルタ214の構成はラダー型配列に限られず,他実施形態においてSAWフィルタ214は,例えば二重モード型SAW(DMS)フィルタとしてよい。
[0041]
所定の例によれば,第2フィルタ220は,第1フィルタ210とは異なる通過帯域を有する。一つの実施形態において,第2フィルタ220の中心周波数は,第1フィルタ210の通過帯域の中心周波数のほぼ1.2から1.4倍の一帯域内に存在してよい。第2フィルタ220の中心周波数は,第1フィルタ210の通過帯域の中心周波数のほぼ1.25から1.3倍の一帯域に存在してよい。
[0042]
図4Aは,第1フィルタ210の一例の構造を示す単純化された断面図である。この例において,第1フィルタ210は,平坦な主表面を有する圧電基板310を含む。圧電基板310は,例えばニオブ酸リチウム又はタンタル酸リチウムのような圧電体から形成される。SAWフィルタ214及びフロントエンドSAW共振器212を形成する各SAW共振器は,一対の入り組んだ櫛形電極からなるインターディジタルトランスデューサ(IDT)電極を含む。したがって,図4Aは,SAWフィルタ214及びフロントエンド共振器212を表すIDT電極320を模式的に示す。IDT電極320は,圧電基板310の主表面上に形成される。
[0043]
図4Aに示されるように,圧電基板310の主表面はIDT電極320とともに,誘電膜330によって覆われる。一例において,誘電膜330は二酸化ケイ素(SiO_(2))からなる。一つの実施形態において,誘電膜は,SAWフィルタ214に対応する第1領域に第1厚さT_(1)を,フロントエンド共振器212に対応する第2領域340に第2厚さT_(2)を有する。第2厚さT_(2)は,第1厚さT_(1)よりも小さくなるように構成される。以下にさらに述べるが,フロントエンド共振器212に対応する領域340における誘電膜330の膜厚T_(2)が相対的に小さく構成されることにより,ラム波の発生が防止され得るので,第2フィルタ220の通過帯域におけるスプリアスが低減される。)

Fig.3

Fig.4A


「[0046] FIG.5 is a graph illustrating signal reflectivity at the common contact201 of the first filter210, as indicated by a solid line, as a function of normalized frequency. Thus, the signal reflectivity is shown on the vertical axis of the graph, and the horizontal axis of the graph represents the normalized frequency f/f0 relative to a center frequency f0 in a passband232 of the first filter210. A spurious emission234 appears in a frequency band236 that extends over a range approximately 1.2 to 1.4 times greater than the center frequency f0 in the passband232 of the first filter210. The spurious emission234 is originated from a Lamb wave occurring in the silicon dioxide dielectric film330 of the first filter210.」
(当審訳:
[0046]
図5は,第1フィルタ210の共通接点201における信号反射率を,実線で表示されるように,規格化された周波数の関数として例示するグラフである。すなわち,信号反射率がグラフの縦軸に示され,グラフの横軸は,第1フィルタ210の通過帯域232における中心周波数f0に対する,規格化された周波数f/f0を表す。第1フィルタ210の通過帯域232における中心周波数f0のほぼ1.2から1.4倍の範囲にわたって延びる周波数帯域236に,スプリアス234が現れる。スプリアス234は,第1フィルタ210の二酸化ケイ素誘電膜330のラム波に由来する。)

の記載があり,図3によれば,フロントエンド共振器212は,共通接点201及び第1信号接点202間に直列接続されているから,

「分波器200は第1フィルタ210及び第2フィルタ220を含み,第1フィルタ210は,アンテナに接続可能な共通接点201と,第1信号接点202との間に接続され,入力信号を通過させ,第2フィルタ220は,共通接点201及び第2信号接点203間に接続され,
第2フィルタ220の中心周波数は,第1フィルタ210の通過帯域の中心周波数のほぼ1.2から1.4倍の一帯域内に存在し,
第1フィルタ210は複数の弾性表面波(SAW)共振器を含み,複数の共振器のうちただ一つのSAW共振器212(以下,フロントエンド共振器と称する)が,共通接点201に接続され,残りの共振器は,SAWフィルタ214を形成し,第1フィルタ210においてフロントエンド共振器212及び第1信号接点202間に接続され,
第1フィルタ210に含まれるフロントエンド共振器212及びSAWフィルタ214は,共通接点201及び第1信号接点202間に互いに直列接続された複数の直列共振器と,当該直列共振器及びグランド接点間に接続された一以上の並列共振器とを含むラダー型フィルタを形成し,フロントエンド共振器212は,共通接点201及び第1信号接点202間に直列接続され,
第1フィルタ210は,平坦な主表面を有する圧電基板310を含み,SAWフィルタ214及びフロントエンドSAW共振器212を形成する各SAW共振器は,一対の入り組んだ櫛形電極からなるインターディジタルトランスデューサ(IDT)電極を含み,IDT電極320は,圧電基板310の主表面上に形成され,圧電基板310の主表面はIDT電極320とともに,誘電膜330によって覆われ,
誘電膜は,SAWフィルタ214に対応する第1領域に第1厚さT_(1)を,フロントエンド共振器212に対応する第2領域340に第2厚さT_(2)を有し,第2厚さT_(2)は,第1厚さT_(1)よりも小さくなるように構成され,
フロントエンド共振器212に対応する領域340における誘電膜330の膜厚T_(2)が相対的に小さく構成されることにより,ラム波の発生が防止され得るので,第2フィルタ220の通過帯域におけるスプリアスが低減され,
第1フィルタ210の通過帯域232における中心周波数f0のほぼ1.2から1.4倍の範囲にわたって延びる周波数帯域236に,スプリアス234が現れ,スプリアス234は,第1フィルタ210の二酸化ケイ素誘電膜330のラム波に由来する,
分波器。」(以下,「引用発明」という。)

の発明が記載されている。

2.引用文献2について

原査定の理由に引用された特開2000-196409号公報(以下,「引用文献2」という。下線は当審が付与。)には,

「【0014】本発明では,各弾性表面波共振子どうしの保護膜1を分離し,2箇所以上の領域で膜厚を異なるようにしてもよいし,保護膜1の種類を2種類以上に異ならせる構成としてもよい。」

「【0018】このようにして,Δfの大きな共振子と小さな共振子を混在させ,ラダー型弾性表面波フィルタを構成すれば,図5に示すように肩特性が急峻で,通過帯域内の平坦な周波数特性を実現できる。これは,基板方位や電極膜厚を変えることでは,事実上不可能な効果である。」

「【0037】図1に示すように,共振子2が5個の2.5段T型フィルタの場合,直列共振子の平均規格化保護膜膜厚を0.020〔λ〕となるよう,1段目を0.025〔λ〕,2段目を0.020〔λ〕,3段目を0.015〔λ〕とした。各段ごとに膜厚を変えているのは最適化した結果である。また,並列共振子は平均が0.015〔λ〕となるよう,1段目を0.02〔λ〕,2段目を0.01〔λ〕とした。これも各段ごとに膜厚を変えているのは最適化した結果である。
【0038】また,図12に示すように,共振子が5個の2.5段π型フィルタの場合,直列共振子の平均規格化保護膜膜厚を0.015〔λ〕となるよう,1段目を0.020〔λ〕,2段目を0.020〔λ〕とした。各段ごとに膜厚を変えているのは最適化した結果である。また,並列共振子は平均が0.020〔λ〕となるよう,1段目を0.025〔λ〕,2段目を0.020〔λ〕,3段目を0.015〔λ〕とした。これも各段ごとに膜厚を変えているのは最適化した結果である。
【0039】また,図13に示すように,共振子が6個(偶数)の3段型フィルタの場合,直列共振子の平均規格化保護膜膜厚を0.017〔λ〕となるよう,1段目を0.020〔λ〕,2段目を0.015〔λ〕,3段目を0.020〔λ〕とした。各段ごとに膜厚を変えているのは最適化した結果である。また,並列共振子は平均が0.020〔λ〕となるよう,1段目を0.025〔λ〕,2段目を0.020〔λ〕,3段目を0.015〔λ〕とした。これも各段ごとに膜厚を変えているのは最適化した結果である。」

の記載があるから,

「各弾性表面波共振子どうしの保護膜1を分離し,2箇所以上の領域で膜厚を異なるようにし,
Δfの大きな共振子と小さな共振子を混在させ,ラダー型弾性表面波フィルタを構成すれば,通過帯域内の平坦な周波数特性を実現でき,
共振子2が5個の2.5段T型フィルタの場合,直列共振子の1段目を0.025〔λ〕,2段目を0.020〔λ〕,3段目を0.015〔λ〕とし,並列共振子は平均が0.015〔λ〕となるよう,1段目を0.02〔λ〕,2段目を0.01〔λ〕とし,
共振子が5個の2.5段π型フィルタの場合,直列共振子の1段目を0.020〔λ〕,2段目を0.020〔λ〕とし,並列共振子は1段目を0.025〔λ〕,2段目を0.020〔λ〕,3段目を0.015〔λ〕とし,
共振子が6個(偶数)の3段型フィルタの場合,直列共振子の1段目を0.020〔λ〕,2段目を0.015〔λ〕,3段目を0.020〔λ〕とし,並列共振子は1段目を0.025〔λ〕,2段目を0.020〔λ〕,3段目を0.015〔λ〕とする,
ラダー型弾性表面波フィルタ。」(以下,「周知技術」という。)

は周知である。

3.引用文献3について

原査定の理由に引用された国際公開第2017/159409号(以下,「引用文献3」という。下線は当審が付与。)には,

「[0006] 本発明の目的は,高い方の周波数帯域を通過帯域とする帯域通過型フィルタへのセザワ波の応答による悪影響を効果的に抑制することができる,複合フィルタ装置を提供することにある。」

「[0026] 図1は,本発明の第1の実施形態に係る複合フィルタ装置の回路図である。本実施形態の複合フィルタ装置1は,キャリアアグリゲーションシステムに用いられるものである。
[0027] 図1に示すように,複合フィルタ装置1は,第1?第4の帯域通過型フィルタ2?5を有する。図1では,第3,第4の帯域通過型フィルタ4,5をブロックで略図的に示す。第1?第4の帯域通過型フィルタ2?5は,複数のキャリア,すなわち通信方式に対応するために設けられている。
[0028] 複合フィルタ装置1は,第1の帯域通過型フィルタとしての第1の帯域通過型フィルタ2と,第2の帯域通過型フィルタとしての第2の帯域通過型フィルタ3とを有する。複合フィルタ装置1は,アンテナ端子11を有する。アンテナ端子11に,アンテナ共通端子14が接続されている。アンテナ共通端子14と基準電位との間にインピーダンス整合用インダクタLが接続されている。
[0029] 第1?第4の帯域通過型フィルタ2?5のうち,第1の帯域通過型フィルタ2は,あるBandの受信フィルタを構成しており,第2の帯域通過型フィルタ3は,第1の帯域通過型フィルタ2とは異なるBandの受信フィルタを構成している。第1の帯域通過型フィルタ2としての受信フィルタの通過帯域よりも,第2の帯域通過型フィルタ3である受信フィルタの通過帯域が高くされている。第3,第4の帯域通過型フィルタ4,5は,第1の帯域通過型フィルタ2と第2の帯域通過型フィルタ3のどちらとも異なるBandの受信フィルタである。
[0030] アンテナ共通端子14と受信端子12との間に第1の帯域通過型フィルタ2が接続されている。アンテナ共通端子14と受信端子13との間に第2の帯域通過型フィルタ3が接続されている。」

「[0033] 本実施形態の特徴は,直列腕共振子S11?S16及び並列腕共振子P11?P13が,以下に述べる特定の弾性波共振子からなることにあり,それによってセザワ波の影響が効果的に抑制されている。これを,より詳細に説明する。」

「[0044] 上記実施形態では,第1の帯域通過型フィルタ2において,複数の直列腕共振子S11?S16及び並列腕共振子P11?P13が,セザワ波の音速が4643.2m/秒よりも速い弾性波共振子からなる。よって,第1の帯域通過型フィルタ2において,セザワ波の応答の影響を効果的に抑制し得ることがわかる。このように,直列腕共振子S11?S16及び並列腕共振子P11?P13の全てが,セザワ波の音速が4643.2m/秒よりも高い弾性波共振子からなることが望ましい。もっとも,直列腕共振子S11?S16及び並列腕共振子P11?P13のうちの少なくとも1個が,上記セザワ波の音速が4643.2m/秒よりも高い弾性波共振子により構成されておれば,本発明に従って,セザワ波の影響を効果的に抑制することは可能である。」

「[0046] 他方,アンテナ共通端子14及びアンテナ端子11に最も近い直列腕共振子S16が,上記のように,セザワ波の音速が4643.2m/秒以上であることが望ましい。これは,複合フィルタ装置1においては,アンテナ共通端子14及びアンテナ端子11に,第1の帯域通過型フィルタ2と,第2の帯域通過型フィルタ3とが共通接続されている。従って,束ねたときの相手帯域への影響が最も大きいアンテナ共通端子14やアンテナ端子11に最も近い直列腕共振子S16において,セザワ波の音速が4643.2m/秒以上であることが効果的である。それによって,第2の帯域通過型フィルタ3への影響や,第2の帯域通過型フィルタ3から第1の帯域通過型フィルタ2への影響を効果的に抑制することができる。」

「[0051] ところで,上記セザワ波の音速Vsは,弾性波共振子や縦結合共振子型弾性波フィルタにおけるIDT電極の電極指ピッチで定まる波長λと,セザワ波の周波数Fsによって,Vs=λ×Fsとして決定することができる。ここで,電極指ピッチで定まる波長λは,IDT電極の電極指ピッチが当該IDT電極の全体にわたり一定でない場合には,最も大きな電極指ピッチにおける波長をλとすればよい。」

「[0058] また,図11に示す第4の実施形態のように,第1の帯域通過型フィルタ2は,フィルタ部2Aと,フィルタ部2Aのアンテナ共通端子側に接続されている弾性波共振子42とを有していてもよい。ここでは,フィルタ部2Aは,直列腕共振子S41,S42及び並列腕共振子P41,P42を有するラダー型フィルタである。このフィルタ部2Aが,第1の通過帯域を構成している。弾性波共振子42は,第1の通過帯域を構成するものではない共振子である。フィルタ部2A及び弾性波共振子42は,第1?第3の実施形態と同様に,LiNbO_(3)基板と,LiNbO_(3)基板上に設けられたIDT電極と,IDT電極を覆う酸化ケイ素を主成分とする誘電体膜とを備える。このような積層構造を有する弾性波共振子により,直列腕共振子S41,S42及び並列腕共振子P41,P42が構成されている。弾性波共振子42も同様の積層構造を有する。もっとも,フィルタ部2Aは,他の構造を有するものであってもよい。
[0059] 他方,弾性波共振子42は,LiNbO_(3)基板,IDT電極及び酸化ケイ素を主成分とする誘電体膜の積層構造を有するだけでなく,レイリー波を利用しており,セザワ波の音速が4643.2m/秒以上とされている。従って,第4の実施形態においても,弾性波共振子42が設けられているため,第1?第3の実施形態と同様に,セザワ波の応答による悪影響を抑制することができる。」

[図11]

の記載があるから,

「高い方の周波数帯域を通過帯域とする帯域通過型フィルタへのセザワ波の応答による悪影響を効果的に抑制することができる,複合フィルタ装置であって,
複合フィルタ装置1は,第1の帯域通過型フィルタとしての第1の帯域通過型フィルタ2と,第2の帯域通過型フィルタとしての第2の帯域通過型フィルタ3とを有し,
第1の帯域通過型フィルタ2は,あるBandの受信フィルタを構成しており,第2の帯域通過型フィルタ3は,第1の帯域通過型フィルタ2とは異なるBandの受信フィルタを構成しており,第1の帯域通過型フィルタ2としての受信フィルタの通過帯域よりも,第2の帯域通過型フィルタ3である受信フィルタの通過帯域が高くされ,
アンテナ共通端子14と受信端子12との間に第1の帯域通過型フィルタ2が接続されている。アンテナ共通端子14と受信端子13との間に第2の帯域通過型フィルタ3が接続され,
第1の帯域通過型フィルタ2において,直列腕共振子S11?S16及び並列腕共振子P11?P13の全てが,セザワ波の音速が4643.2m/秒よりも高い弾性波共振子からなることが望ましく,直列腕共振子S11?S16及び並列腕共振子P11?P13のうちの少なくとも1個が,上記セザワ波の音速が4643.2m/秒よりも高い弾性波共振子により構成されておれば,セザワ波の影響を効果的に抑制することは可能であり,
アンテナ共通端子14及びアンテナ端子11に最も近い直列腕共振子S16が,上記のように,セザワ波の音速が4643.2m/秒以上であることが望ましく,
上記セザワ波の音速Vsは,弾性波共振子や縦結合共振子型弾性波フィルタにおけるIDT電極の電極指ピッチで定まる波長λと,セザワ波の周波数Fsによって,Vs=λ×Fsとして決定することができ,
あるいは,
第1の帯域通過型フィルタ2は,フィルタ部2Aと,フィルタ部2Aのアンテナ共通端子側に接続されている弾性波共振子42とを有していてもよく,フィルタ部2Aは,直列腕共振子S41,S42及び並列腕共振子P41,P42を有するラダー型フィルタであって,第1の通過帯域を構成し,弾性波共振子42は,第1の通過帯域を構成するものではない共振子であり,
弾性波共振子42は,セザワ波の音速が4643.2m/秒以上とされている,
複合フィルタ装置。」(以下,「周知技術」という。)

は周知である。


第5 対比

1.本願発明1に対して

本願発明1と引用発明を対比する。

引用発明の「共通接点201」,「第1信号接点」,「第2信号接点」及び「共振器」は,それぞれ本願発明1の「共通端子」,「第1端子」,「第2端子」及び「共振子」に相当する。

引用発明の「分波器」は,周波数帯域毎に分波しているから「マルチプレクサ」であるといえる。

引用発明の「第1フィルタ210」は,「共通接点201と,第1信号接点202との間に接続され」ていて,「複数の弾性表面波(SAW)共振器を含」んでいるから,「前記共通端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上に配置され,複数の弾性表面波共振子を有する第1フィルタ」であるといえる。

引用発明により「第2フィルタ220の通過帯域におけるスプリアスが低減される」から,引用発明の「第2フィルタ220」は,「通過帯域」を有するフィルタであり,「共通接点201及び第2信号接点203間に接続され」ている。
さらに,「第2フィルタ220の中心周波数は,第1フィルタ210の通過帯域の中心周波数のほぼ1.2から1.4倍の一帯域内に存在し」ているから,「第2フィルタ220」は,「通過帯域が前記第1フィルタよりも高い」といえる。
したがって,引用発明の「第2フィルタ220」は,「前記共通端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上に配置され,通過帯域の周波数が前記第1フィルタよりも高い第2フィルタ」であるといえる。

引用発明は,「第1フィルタ210に含まれるフロントエンド共振器212及びSAWフィルタ214は,共通接点201及び第1信号接点202間に互いに直列接続された複数の直列共振器と,当該直列共振器及びグランド接点間に接続された一以上の並列共振器とを含むラダー型フィルタを形成し」ているから,「前記複数の弾性波共振子は,前記第1経路上に配置された2以上の直列共振子と前記第1経路上のノードとグランドとを結ぶ経路上に配置された1以上の並列共振子,とを含」んでいるといえる。

引用発明では第1フィルタ210に含まれる「ただ一つのSAW共振器212が,共通接点201に接続」され,「フロントエンド共振器212は,共通接点201及び第1信号接点202間に直列接続され」ているから,「SAW共振器212」は,「前記2以上の直列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1直列共振子」であって,「前記並列共振子を間に介さずに前記共通端子に接続され」ているといえる。

引用発明の第1フィルタ210は,「平坦な主表面を有する圧電基板310を含み,SAWフィルタ214及びフロントエンドSAW共振器212を形成する各SAW共振器は,一対の入り組んだ櫛形電極からなるインターディジタルトランスデューサ(IDT)電極を含み,IDT電極320は,圧電基板310の主表面上に形成され,圧電基板310の主表面はIDT電極320とともに,誘電膜330によって覆われ」ており,「櫛形電極」は「櫛歯状電極」であるから,「前記複数の弾性波共振子は,圧電性を有する基板と,前記基板上に形成された一対の櫛歯状電極からなるIDT電極と,前記IDT電極を覆うように前記基板上に設けられた誘電体層と,を有し」ているといえる。

引用発明は,「誘電膜は,SAWフィルタ214に対応する第1領域に第1厚さT_(1)を,フロントエンド共振器212に対応する第2領域340に第2厚さT_(2)を有し,第2厚さT_(2)は,第1厚さT_(1)よりも小さくなるように構成され」ている。
したがって,本願発明1と引用発明とは,「所定の共振子の前記誘電体層は,残りの前記複数の弾性波共振子の前記誘電体層よりも,厚みが薄」い点で共通する。

引用発明は,「第2フィルタ220の通過帯域におけるスプリアスが低減され」るのであって,スプリアスは「第1フィルタ210の通過帯域232における中心周波数f0のほぼ1.2から1.4倍の範囲にわたって延びる周波数帯域236に」現れるから,引用発明の「スプリアス」は「第1フィルタ210により発生する高次モードスプリアス」であって「第2フィルタの通過帯域」に現れるといえる。
したがって,引用発明は,「前記第1フィルタにより発生する高次モードスプリアスの周波数は,前記第2フィルタの周波数通過帯域に含まれる」といえる。

したがって,本願発明1と引用発明とは,

「共通端子,第1端子及び第2端子と,
前記共通端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上に配置され,複数の弾性波共振子を有する第1フィルタと,
前記共通端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上に配置され,通過帯域の周波数が前記第1フィルタより高い第2フィルタと,を備え,
前記複数の弾性波共振子は,
前記第1経路上に配置された2以上の直列共振子と,
前記第1経路上のノードとグランドとを結ぶ経路上に配置された1以上の並列共振子と,を含み,
前記2以上の直列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1直列共振子は,前記並列共振子を間に介さずに前記共通端子に接続され,
前記複数の弾性波共振子は,圧電性を有する基板と,前記基板上に形成された一対の櫛歯状電極からなるIDT電極と,前記IDT電極を覆うように前記基板上に設けられた誘電体層と,を有し,
所定の共振子の前記誘電体層は,残りの前記複数の弾性波共振子の前記誘電体層よりも,厚みが薄く,
前記第1フィルタにより発生する高次モードスプリアスの周波数は,前記第2フィルタの周波数通過帯域に含まれる,
マルチプレクサ。」

で一致し,以下の点で相違する。

相違点
前記誘電体層の厚みが薄い所定の共振子が,本願発明1は「前記第1直列共振子,及び,前記1以上の並列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1並列共振子」であるのに対し,引用発明は「フロントエンド共振器212」である点。

相違点について検討する。

引用発明は,「共通接点201に接続され」ている「ただ一つのSAW共振器」が,「フロントエンド共振器」であって,「残りの共振器」は「SAWフィルタ」であり,「フロントエンド共振器」に対応する誘電膜の膜厚が「SAWフィルタ」に対応する膜厚よりも小さくなるように構成している。
つまり,誘電膜の膜厚を薄くするのは「共通接点に接続されているただ一つのSAW共振器」であって,その他の共振器は「SAWフィルタ」を構成しているから,「前記第1直列共振子,及び,前記1以上の並列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1並列共振子」の2つの共振子について,その他の共振子の誘電膜のよりも膜厚を薄くすることには阻害要因があるといえる。
さらに,周知技術を参照しても,誘電膜の膜厚については何も記載されていない。

そして,本願発明1(下線は当審が付与。)は,発明の詳細な説明【0037】に
「図4に示すように,共通端子Port1に最も近い直列共振子S1に抵抗を挿入した場合のリターンロスの増分は最大で0.7dBであり,2番目に近い並列共振子P1に抵抗を挿入した場合のリターンロスの増分は最大で0.38dBである。一方,3番目に近い直列共振子S2に抵抗を挿入した場合のリターンロスの増分は最大で0.05dBであり,また,4番目以降の各共振子P2?P4,S3?S5に抵抗を挿入した場合のリターンロスの増分は約0dBであり,リターンロスはほとんど増加しないとみなすことができる。このように,第1フィルタ11におけるリターンロスの増加は,共通端子Port1の近くに位置する共振子,より具体的には共通端子Port1側初段の直列共振子及び並列共振子で高次モードスプリアスが発生した場合ほど大きい。したがって,第2フィルタ21の挿入損失を低減するためには,共通端子Port1側初段の直列共振子及び並列共振子に対して高次モードスプリアスを抑制する対策を施すことが効果的である。」
と記載され,発明の詳細な説明の【0071】に
「図9は,共振子110の周波数温度特性の一例を示す図である。図9では,誘電体層326が薄いほど,周波数温度特性が悪くなることが示されている。例えば高次モードスプリアスを小さくするため,第1フィルタ11の全ての共振子110の誘電体層326を薄くすることも考えられるが,その場合は図9に示すように,周波数温度特性が悪化する。それに対し,本実施の形態では,全ての共振子110の誘電体層326を薄くするのでなく,全ての共振子110のうち第2フィルタ21に大きな影響を与える直列共振子111sの誘電体層326を薄くしている。これにより,第1フィルタ11の高次モードスプリアスを抑制することができ,第2フィルタ21の通過帯域における挿入損失を低減することができる。」
と記載されるように,リターンロスは共通端子Port1側初段の直列共振子及び並列共振子で高次モードスプリアスが発生した場合ほど大きい,ということと,誘電体層が薄いほど周波数温度特性が悪くなるという状況,の2つを考慮して,全ての共振子110の誘電体層326を薄くするのでなく,全ての共振子110のうち第2フィルタ21に大きな影響を与える「前記第1直列共振子,及び,前記1以上の並列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1並列共振子」に限定して誘電体層を薄くしているものである。
つまり,誘電体層の厚みを薄くする所定の共振子として「前記第1直列共振子,及び,前記1以上の並列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1並列共振子」とすることは,高次モードスプリアス発生を抑制しながら,周波数温度特性を悪化させないという効果を有するものである。

したがって,本願発明1は,引用発明及び周知技術より容易に発明をすることができた,とはいえない。

2.本願発明2に対して

本願発明2と引用発明を対比する。

引用発明の「共通接点201」,「第1信号接点」,「第2信号接点」及び「共振器」は,それぞれ本願発明2の「共通端子」,「第1端子」,「第2端子」及び「共振子」に相当する。

引用発明の「分波器」は,周波数帯域毎に分波しているから「マルチプレクサ」であるといえる。

引用発明の「第1フィルタ210」は,「共通接点201と,第1信号接点202との間に接続され」ていて,「複数の弾性表面波(SAW)共振器を含」んでいるから,「前記共通端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上に配置され,複数の弾性表面波共振子を有する第1フィルタ」であるといえる。

引用発明により「第2フィルタ220の通過帯域におけるスプリアスが低減される」から,引用発明の「第2フィルタ220」は,「通過帯域」を有するフィルタであり,「共通接点201及び第2信号接点203間に接続され」ている。
さらに,「第2フィルタ220の中心周波数は,第1フィルタ210の通過帯域の中心周波数のほぼ1.2から1.4倍の一帯域内に存在し」ているから,「第2フィルタ220」は,「通過帯域が前記第1フィルタよりも高い」といえる。
したがって,引用発明の「第2フィルタ220」は,「前記共通端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上に配置され,通過帯域の周波数が前記第1フィルタよりも高い第2フィルタ」であるといえる。

引用発明は,「第1フィルタ210に含まれるフロントエンド共振器212及びSAWフィルタ214は,共通接点201及び第1信号接点202間に互いに直列接続された複数の直列共振器と,当該直列共振器及びグランド接点間に接続された一以上の並列共振器とを含むラダー型フィルタを形成し」ているから,「前記第1経路上に配置された1以上の直列共振子と,前記第1経路上のノードとグランドとを結ぶ経路上に配置された並列共振子と,を含」んでいるといえる。

引用発明では第1フィルタ210に含まれる「ただ一つのSAW共振器212が,共通接点201に接続」され,「フロントエンド共振器212は,共通接点201及び第1信号接点202間に直列接続され」ているから,共通端子には,直列共振子であるSAW共振器212だけが接続されており,「前記1以上の直列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1直列共振子からみて前記共通端子側に位置する第1並列共振子」は存在しない。

引用発明の第1フィルタ210は,「平坦な主表面を有する圧電基板310を含み,SAWフィルタ214及びフロントエンドSAW共振器212を形成する各SAW共振器は,一対の入り組んだ櫛形電極からなるインターディジタルトランスデューサ(IDT)電極を含み,IDT電極320は,圧電基板310の主表面上に形成され,圧電基板310の主表面はIDT電極320とともに,誘電膜330によって覆われ」ており,「櫛形電極」は「櫛歯状電極」であるから,「前記複数の弾性波共振子は,圧電性を有する基板と,前記基板上に形成された一対の櫛歯状電極からなるIDT電極と,前記IDT電極を覆うように前記基板上に設けられた誘電体層と,を有し」ているといえる。

引用発明は,「誘電膜は,SAWフィルタ214に対応する第1領域に第1厚さT_(1)を,フロントエンド共振器212に対応する第2領域340に第2厚さT_(2)を有し,第2厚さT_(2)は,第1厚さT_(1)よりも小さくなるように構成され」ている。
したがって,本願発明2と引用発明とは,「所定の共振子の前記誘電体層は,残りの前記複数の弾性波共振子の前記誘電体層よりも,厚みが薄」い点で共通する。

引用発明は,「第2フィルタ220の通過帯域におけるスプリアスが低減され」るのであって,スプリアスは「第1フィルタ210の通過帯域232における中心周波数f0のほぼ1.2から1.4倍の範囲にわたって延びる周波数帯域236に」現れるから,引用発明の「スプリアス」は「第1フィルタ210により発生する高次モードスプリアス」であって「第2フィルタの通過帯域」に現れるといえる。
したがって,引用発明は,「前記第1フィルタにより発生する高次モードスプリアスの周波数は,前記第2フィルタの周波数通過帯域に含まれる」といえる。

したがって,本願発明2と引用発明とは,

「共通端子,第1端子及び第2端子と,
前記共通端子と前記第1端子とを結ぶ第1経路上に配置され,複数の弾性波共振子を有する第1フィルタと,
前記共通端子と前記第2端子とを結ぶ第2経路上に配置され,通過帯域の周波数が前記第1フィルタより高い第2フィルタと,を備え,
前記複数の弾性波共振子は,
前記第1経路上に配置された1以上の直列共振子と,
前記第1経路上のノードとグランドとを結ぶ経路上に配置された並列共振子と,を含み,
前記複数の弾性波共振子は,圧電性を有する基板と,前記基板上に形成された一対の櫛歯状電極からなるIDT電極と,前記IDT電極を覆うように前記基板上に設けられた誘電体層と,を有し,
所定の共振子の前記誘電体層は,残りの前記複数の弾性波共振子の前記誘電体層よりも,厚みが薄く,
前記第1フィルタにより発生する高次モードスプリアスの周波数は,前記第2フィルタの周波数通過帯域に含まれる,
マルチプレクサ。」

で一致し,下記の点で相違する。

相違点1
本願発明2は,「前記第1経路上のノードとグランドとを結ぶ経路上に配置された並列共振子」が「2以上」であるのに対し,引用発明は「1つ以上」である点。

相違点2
本願発明2は,「前記2以上の並列共振子は,前記1以上の直列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1直列共振子から見て前記共通端子側に位置する第1並列共振子と,前記第1端子側に位置する並列共振子を含」んでいるのに対し,引用発明は,「ただ1つの共振子」が共通Portに接続されている点。

相違点3
誘電体層の厚みが薄い所定の共振子が,本願発明2は,「前記第1並列共振子及び前記第1直列共振子」であるのに対し,引用発明は,「ただ一つのSAW共振器」である点。

事案に鑑み,相違点3について検討する。

引用発明は,「共通接点201に接続され」ている「ただ一つのSAW共振器」が,「フロントエンド共振器」であって,「残りの共振器」は「SAWフィルタ」であり,「フロントエンド共振器」に対応する誘電膜の膜厚が「SAWフィルタ」に対応する膜厚よりも小さくなるように構成している。
つまり,誘電膜の膜厚を薄くするのは「共通接点に接続されているただ一つのSAW共振器」であって,その他の共振器は「SAWフィルタ」を構成しているから,「前記第1並列共振子及び前記第1直列共振子」の2つの共振子について,その他の共振子よりも誘電膜の膜厚を薄くすることには阻害要因があるといえる。
さらに,周知技術を参照しても,誘電体層の膜厚については何も記載されていない。

そして,本願発明2(下線は当審が付与。)は,発明の詳細な説明【0037】に
「図4に示すように,共通端子Port1に最も近い直列共振子S1に抵抗を挿入した場合のリターンロスの増分は最大で0.7dBであり,2番目に近い並列共振子P1に抵抗を挿入した場合のリターンロスの増分は最大で0.38dBである。一方,3番目に近い直列共振子S2に抵抗を挿入した場合のリターンロスの増分は最大で0.05dBであり,また,4番目以降の各共振子P2?P4,S3?S5に抵抗を挿入した場合のリターンロスの増分は約0dBであり,リターンロスはほとんど増加しないとみなすことができる。このように,第1フィルタ11におけるリターンロスの増加は,共通端子Port1の近くに位置する共振子,より具体的には共通端子Port1側初段の直列共振子及び並列共振子で高次モードスプリアスが発生した場合ほど大きい。したがって,第2フィルタ21の挿入損失を低減するためには,共通端子Port1側初段の直列共振子及び並列共振子に対して高次モードスプリアスを抑制する対策を施すことが効果的である。」
と記載され,発明の詳細な説明の【0071】に
「図9は,共振子110の周波数温度特性の一例を示す図である。図9では,誘電体層326が薄いほど,周波数温度特性が悪くなることが示されている。例えば高次モードスプリアスを小さくするため,第1フィルタ11の全ての共振子110の誘電体層326を薄くすることも考えられるが,その場合は図9に示すように,周波数温度特性が悪化する。それに対し,本実施の形態では,全ての共振子110の誘電体層326を薄くするのでなく,全ての共振子110のうち第2フィルタ21に大きな影響を与える直列共振子111sの誘電体層326を薄くしている。これにより,第1フィルタ11の高次モードスプリアスを抑制することができ,第2フィルタ21の通過帯域における挿入損失を低減することができる。」
と記載されるように,リターンロスは共通端子Port1の近くに位置する共振子で高次モードスプリアスが発生した場合ほど大きい,ということと,誘電体層が薄いほど周波数温度特性が悪くなるという状況,の2つを考慮して,全ての共振子110の誘電体層326を薄くするのでなく,全ての共振子110のうち第2フィルタ21に大きな影響を与える「前記第1直列共振子,及び,前記1以上の並列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1並列共振子」に限定して誘電体層を薄くしているものである。
つまり,誘電体層の厚みを薄くする所定の共振子として「前記第1直列共振子,及び,前記1以上の並列共振子のうち前記共通端子に最も近い第1並列共振子」とすることは,高次モードスプリアス発生を抑制しながら,周波数温度特性を悪化させないという効果を有するものである。

したがって,その他の相違点について検討するまでもなく,本願発明2は,引用発明及び周知技術より容易に発明をすることができた,とはいえない。

3.本願発明3-6に対して,

本願発明1又は2を引用して記載しており,本願発明1又は2の構成を有するから,同様の理由により引用発明及び周知技術より容易に発明をすることができた,とはいえない。

4.小括

したがって,原査定の理由によって本願を拒絶することはできない。


第6 むすび

以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-17 
出願番号 特願2017-237808(P2017-237808)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H03H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石田 昌敏  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 吉田 隆之
衣鳩 文彦
発明の名称 マルチプレクサ、高周波フロントエンド回路及び通信装置  
代理人 傍島 正朗  
代理人 吉川 修一  
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