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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1375447
審判番号 不服2019-353  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-11 
確定日 2021-07-02 
事件の表示 特願2013-527133「高度なイメージング特性を有する顕微鏡イメージング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月 1日国際公開,WO2012/027586,平成25年12月19日国内公表,特表2013-545116〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
1.国際段階での手続
平成23年(2011年)8月25日に,米国における出願(出願日:平成22年(2010年)8月27日,出願番号:61/377,591)を基礎出願(以下「本件基礎出願」という。)とし,発明の名称を「高度なイメージング特性を有する顕微鏡イメージング装置」とする発明につき,「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約」に基づき,本件基礎出願に基づくパリ条約による優先権主張を伴って,米国特許商標庁を受理官庁として,外国語で国際出願(以下「本件国際出願」という。)され,同年9月29日に,米国特許商標庁に対し,条約規則4.18及び20.6(a)に基づき,本件国際出願において欠落していた明細書部分(Appendix A及びAppendix B。以下,併せて「本件欠落部分」と総称する。)を,「引用により補充」することを求める書面が提出され,米国特許商標庁は,同年11月2日付けで,本件欠落部分が本件基礎出願に含まれているとして,本件欠落部分について,「引用による補充」を認める旨の通知をした。

2.日本国特許庁における手続(指定国段階における手続)
(1)国際出願日の認定に係る手続
平成25年2月27日,特許法184条の5第1項所定の国内書面が提出され,同年4月30日付けで,同条の4第1項所定の明細書,請求の範囲,図面及び要約の日本語による翻訳文が提出され,平成25年9月17日付けで,特許法施行規則(平成24年経済産業省令第65号による改正前のもの。以下同じ。)38条の2の2第1項に基づく通知書が通知された。
請求人は,上記通知書の指定期間内に,意見書や請求書を提出しなかった。
よって,特許庁長官は,本願が,「引用による補充」部分が含まれているものであるから,本願の国際出願日を,引用による補充の行われた2011年9月29日と認定した。
なお,上記通知書の指定期間外の平成28年1月7日付けで,特許法施行規則38条の2の2第4項に基づく請求書(条約規則82の3.1による請求書と同一である。(以下「本件請求書」という。))及び上申書が提出されたが,特許法18条の2第1項に基づき本件請求書に係る手続は却下された。
そうすると,本件基礎出願の出願日は平成22年(2010年)8月27日であるが,本願の国際出願日は,本件基礎出願の出願日から12月を経過しているから,本件基礎出願に基づくパリ条約4条Cに規定される優先権の主張は認められない。

(2)実体審査に係る手続
本願は,平成26年8月25日付けで手続補正書及び上申書が提出され,平成27年6月26日付けで拒絶理由が通知され,平成28年1月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成30年8月31日付けで拒絶査定(原査定)がなされ,平成31年1月11日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ,同年2月25日付けで審判請求書の手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は,上記平成26年8月25日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。(以下「本願発明」という。)
「【請求項1】
光センサのアレイを含むイメージ捕捉手段と,
約1mW未満の励起光を,少なくとも0.5mm^(2)である視野内の対象物体に向けるように,そして,前記励起光によって引き起こされた落射蛍光エミッションを,光センサの前記アレイに向けるように構成された,光学機器とを備え,前記光学機器と,光センサのアレイとは,前記視野のイメージについて,少なくとも2.5μmの解像度を提供するために,それぞれ,前記対象物体に十分に近い,
落射蛍光顕微鏡。」


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,
「1.(新規性)この出願の請求項1?49に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の請求項1?49に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物:Kunal K Ghosh, Laurie D Burns, Eric D Cocker, Axel Nimmerjahn, Yaniv Ziv, Abbas El Gamal & Mark J Schnitzer,Miniaturized integration of a fluorescence microscope,Nature Methods,Nature Publishing Group,2011年9月11日,VOL.8,NO.10,p.871-878」
というものである。


第4 刊行物の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された本願の国際出願日前に頒布された上記刊行物には,図面とともに,次の記載がある。(なお,下線は当審で付した。また,括弧内の訳文は,当審が作成した。以下同じ。)
1.「Here we introduce a miniature(1.9 g) integrated fluorescence microscope made from mass-producible parts,including a semiconductor light source and sensor. This device enables high-speed cellular imaging across ?0.5 mm^(2) areas in active mice.」(871頁左欄6?10行)
(ここで我々は,半導体光源及びセンサなど大量生産可能な部品で作られた小型(1.9 g)で集積化された蛍光顕微鏡を紹介する。この装置は,活動しているマウスにおける0.5 mm^(2)までの領域にわたる細胞の高速撮像が可能である。)
2.「Optical design
The microscope's design exploits recent advances in optoelectronics that have yielded inexpensive but high-quality parts, including tiny but bright light-emitting diodes (LEDs) and complementary metal-oxide semiconductor (CMOS)image sensors with fine pixel sizes and high sensitivity. This allowed us to incorporate alloptical parts in a ?2.4 cm^(3) housing (Fig. 1a and Online Methods).
A blue LED resides on a custom 6 mm × 6 mm printed circuit board (PCB). A drum lens collects the LED’s emissions, which then pass through a 4 mm × 4 mm excitation filter, deflect off a dichroic mirror and enter the imaging pathway (Fig. 1b).A gradient refractive index (GRIN) objective lens focuses illumination onto thesample. Fluorescence from the sample returns through the objective, the dichroic, an emission filter and an achromatic doublet lens that focuses the image onto a CMOS sensor (640 ×480 pixels; 60% quantum efficiency at 530 nm) mounted on a custom 8.4 mm × 8.4mm PCB (Fig. 1b). The housing, made of polyetheretherketone, permits focusing to sub-micrometer accuracy by adjusting the camera position. Nine electricallines (seven connecting to the sensor and twoto the LED) carry power, control signals and image data (Fig. 1c). An intermediary PCB between microscope and computer coordinates data acquisition and allows full-frame imaging at 36 Hz or 100 Hz over 300 × 300 pixel subregions (Fig. 1c). The maximum field of view is 600 μm ×800 μm; the optical magnification is ?5.0×;and the lateral resolution is ?2.5 μm (Table1). This resolution represents the Nyquist limit set by the camera's 5.6 μm pixel pitch, not the optical limit of thelens design. As CMOS sensors improve,the optical pathway will support ?1.5 μm resolution (Table 1). Compared to our fiber-bundle microscope for use in behaving mice the integrated microscope has major advantages (Table 1).」(872頁左欄10行?右欄末行)
(光学設計
顕微鏡の設計は,オプトエレクトロニクスにおける最近の発展を活用し,小型ではあるが,明るい発光ダイオード(LED)及び高精細画素サイズで高感度の相補型金属酸化膜半導体(CMOS)画像センサを含む,安価であるが高品質の部品を生み出した^(15)。これにより我々はすべての光学部品を,約2.4cm^(3)のハウジングに納めることができる(図1a及びオンラインメソッドを参照のこと)。
青色LEDはカスタム品の6 mm×6 mmのプリント基板上(PCB)に配置されている。ドラムレンズはLEDの発光を集光し,これは次に4 mm×4 mmの励起フィルターを通り,ダイクロイックミラーで偏向し,イメージングの経路に入る(図1b)。勾配屈折率(GRIN)対物レンズは試料上に焦点を結んで光を照射する。試料からの蛍光は対物レンズ,ダイクロイックミラー,発光フィルター,及びカスタム品の8.4 mm×8.4 mm PCB上に実装されたCMOSセンサ(640×480画素;530 nmにおける60%の量子効率)に画像を結像させるアクロマティックダブレットレンズを通って戻る(図1b)。ポリエーテルエーテルケトンでできたハウジングは,カメラの位置を調整することで,サブミクロンレベルの精度で合焦することができる。9本の信号線(7本はセンサに接続し,2本はLEDに接続している)は電源を供給し,信号および画像データを制御する(図1c)。顕微鏡とコンピータの間にあるPCBは,データ取得を統合し,36Hzまたは100Hzで,300×300画素のサブ領域に渡ってフルフレームの画像の取得を可能にする(図1c)。最大視野は600 μm×800μmであり,光学倍率は約5.0倍であり,そして,側面方向の分解能は約2.5 μmである(表1)。この分解能は,カメラの5.6 μm画素ピッチによって決まるナイキスト限界を示しており,レンズ設計の光学限界ではない。CMOSセンサの性能が向上するにつれて,光学光路も約1.5 μmの分解能を達成できる(表1)。)
3.「

」(872頁下部)
(

)
4.「

」(873頁上部)
(図2|自由に行動するマウスの小脳の微小循環力学。(a)フルオレセインデキストラン染料の静脈注射後の自由に行動するマウスの小脳皮質における微細血管。画像は10秒の動画の標準偏差で(300 × 300 画素; 試料面での440 μW 照射電力),血管をハイライトする計算。(b) aに示す血管の30秒平均した赤血球の流速の図。スケールバー,50 μm(a, b)。(c, d) 赤血球の流速(c)および血管直径の変化(d),aにおいてマークされた4つの血管について,おりの中のマウスの動きの青,赤,白の影をつけた期間が,回し車で走っている時,休息中,あるいはマウスがほとんど動かないことのそれぞれ示す。同じマウスからの3つの異なる記録と試料の視野を示す。 )

上記1乃至4から,上記刊行物には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ドラムレンズはLEDの発光を集光し,次に4 mm×4 mmの励起フィルターを通り,ダイクロイックミラーで偏向し,イメージングの経路に入り,勾配屈折率(GRIN)対物レンズは試料上に焦点を結んで照射電力440 μWの光を照射し,試料からの蛍光は対物レンズ,ダイクロイックミラー,発光フィルター,及びカスタム品の8.4 mm×8.4 mm PCB上に実装されたCMOSセンサ(640×480画素;530 nmにおける60%の量子効率)に画像を結像させるアクロマティックダブレットレンズを通って戻り,
最大視野は600 μm×800 μmであり,光学倍率は約5.0倍であり,そして,側面方向の分解能は約2.5 μmであり,CMOSセンサの性能が向上するにつれて,光学光路も約1.5 μmの分解能を達成できる,蛍光顕微鏡。」


第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると,
1.後者の「『画像』が『結像』する『CMOSセンサ(640×480画素;530 nmにおける60%の量子効率)』」,「試料」,「試料からの蛍光」及び「蛍光顕微鏡」は,前者の「光センサのアレイを含むイメージ捕捉手段」,「対象物体」,「励起光によって引き起こされた落射蛍光エミッション」及び「落射蛍光顕微鏡」に相当する。
2.後者の「LEDの発光」は,「試料上に焦点を結んで照射電力440 μWの光を照射」するものであるから,前者の「約1mW未満の励起光」に相当する。
3.後者の「試料からの蛍光」は「対物レンズ,ダイクロイックミラー,発光フィルター,及びカスタム品の8.4 mm×8.4 mm PCB上に実装されたCMOSセンサ(640×480画素;530 nmにおける60%の量子効率)」に画像を結像させるから,後者の「対物レンズ,ダイクロイックミラー,発光フィルター」は,前者の「光センサのアレイに向けるように構成された,光学機器」に相当する。
4.後者の「蛍光顕微鏡」の分解能は「約1.5 μm」であるから,前者の「落射蛍光顕微鏡」と後者の「蛍光顕微鏡」とは,「約1.5μmの解像度」を提供する点で共通する。
5.本願発明の「光学機器と,光センサのアレイ」は「対象物体に十分に近い」とは,本願明細書を参酌しても,どの程度近接した距離を指すのか定かでないが,後者の「蛍光顕微鏡」は,前者の「落射蛍光顕微鏡」に比べて,出力の弱い励起光で以って,高い解像度を発揮していることからすると,後者の「対物レンズ,ダイクロイックミラー,発光フィルター」と「CMOSセンサ」とは,「対象物体に十分に近い」といえる。
6.後者の最大視野「600 μm×800 μm」は「0.48mm^(2)」であって,有効数字2桁では「0.5mm^(2)」となるから,後者の「最大視野600 μm×800 μm」は,前者の「0.5mm^(2)である視野」に相当する。

そうすると,本願発明と引用発明とを対比した場合の相違点は,実質的にないこととなる。

したがって,本願発明の発明特定事項は,すべて引用発明が備えているから,本願発明と,引用発明とに差異はない。

したがって,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

請求人は,本願の国際基準日が上記刊行物による本願発明の公表日よりも後になるという事実を知っていたならば,本願発明を公表しなかったであろうから,上記刊行物による本願発明の公表は,「意に反して」の場合に該当し,本願は,特許法第30条第1項に基づく新規性喪失の例外適用がなされるべきである,旨主張する。
しかし,請求人は,新規性喪失の例外適用の申請を行わなかったのであるから,その前提において,失当であるといわざるを得ない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,上記刊行物に記載されたものであるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。


よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-01-31 
結審通知日 2020-02-04 
審決日 2020-02-17 
出願番号 特願2013-527133(P2013-527133)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 113- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越河 勉  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤本 義仁
清水 康司
発明の名称 高度なイメージング特性を有する顕微鏡イメージング装置  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  

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