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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1375460
審判番号 不服2020-9534  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-07 
確定日 2021-07-14 
事件の表示 特願2018-559516「放射線障害防御剤」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月 5日国際公開、WO2018/124067、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年12月26日(優先権主張 平成28年12月27日、平成29年11月30日 (JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。

令和1年 6月10日受付 :手続補正書
令和1年12月18日付け :拒絶理由通知
令和2年 3月 9日受付 :意見書及び手続補正書
令和2年 3月31日付け :拒絶査定
令和2年 7月 7日受付 :審判請求書及び手続補正書

第2 原査定の概要
原査定(令和2年3月31日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
本願請求項1?4に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献1?3及び5に記載された事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願請求項1?4に係る発明は、引用文献4に記載された発明及び引用文献2?5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.Med. Sci. Monit., 2012, Vol.18, No.3, pp.BR89-94
2.国際公開第2008/013163号(周知技術を示す文献)
3.国際公開第2014/024984号(周知技術を示す文献)
4.Oxid. Med. Cell. Longev. 2016 Sep, Vol.2016, Article ID 1947819, pp.1-15
5.Stem Cells, 2001, Vol.19, pp.522-533(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、令和2年7月7日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
放射線被曝を受けた又は放射線療法を受けたもしくは受けるヒト患者の放射線障害を治療又は軽減するための水素ガスを有効成分として含む放射線障害防御剤であって、
前記放射線障害が、末梢血中の血小板、又は、末梢血中の血小板及び白血球の減少であり、
前記ヒト患者によって吸入により投与され、
前記水素ガスの濃度が、0.5体積%以上18.5体積%以下、又は4体積%以上10体積%以下であることを特徴とする、放射線障害防御剤。
【請求項2】
前記ヒト患者が、癌患者である、請求項1に記載の放射線障害防御剤。
【請求項3】
前記ヒト患者の放射線療法に伴う炎症及び/又は免疫機能低下を改善する、請求項1または2に記載の放射線障害防御剤。
【請求項4】
水素ガス供給装置により供給される、請求項1?3のいずれか1項に記載の放射線障害防御剤。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(英文については、当審合議体による訳文にて示す。)。

(摘記1a)
「背景:最近の研究は、水素分子(2水素、H_(2))が酸化ストレスを減少させることにより有効で安全な放射線防護剤としての可能性を有することを示している。この研究の目的は、H_(2)が放射線誘発性損傷から精子形成及び造血を保護することができるかどうかを調べることであった。
材料/方法:H_(2)は、当研究室で作製した装置を用いて生理食塩水に溶解した。照射センターの^(60)Co-ガンマ線を照射に使用した。精子頭部数及び組織学的分析を用いて精子形成を評価した。内因性造血脾臓コロニー形成(endoCFUs)、骨髄有核細胞(BMNC)および末梢血(PB)白血球を用いて造血を評価した。
結果:この研究は、電離放射線(IR)の前にH_(2)でマウスを処置することが、精子頭部数を増加させ、IRから精上皮を保護し得ることを実証する。この研究はまた、H_(2)が、endoCFUs、BMNC及びPB白血球の数を有意に増加させ得ることを実証する。
結論:この研究は、水素リッチ生理食塩水が、照射されたマウスにおいて精子形成及び造血を部分的に保護しうることを示唆する。」(p.BR89「Summary」)

(摘記1b)
「水素リッチ生理食塩水の製造
当研究室で作製した水素リッチ水生成装置を使用して、H_(2)を高圧下(0.4MPa)で6時間、過飽和レベルまで生理食塩水に溶解した。・・・水素リッチ生理食塩水を毎週新たに調製し、0.6mmol/Lを超える濃度を維持した。・・・」(p.BR90左欄「Hydrogen-rich saline production」)

(摘記1c)
「照射
照射センター(・・・)の^(60)Co-ガンマ線を照射に使用した。・・・」(p.BR90左欄「Irradiation」)

(摘記1d)
「・・・実験のために、マウスを、照射の5分前に生理食塩水又は水素リッチ生理食塩水(5ml/kg)で腹腔内(IP)処置した。マウスを、麻酔したマウスを固定するように設計されたホルダー中で、腹部がビームに提示されるように照射した。」(p.BR90左欄?右欄「Mice and treatment」)

(摘記1e)
「骨髄有核細胞
放射線は、両方の照射群において骨髄有核細胞(BMNC)の数を明らかに減少させ、造血抑制を誘導し、照射後6日目に有核細胞の回復が始まった。非H_(2)群と比較して、H_(2)前処置は、BMNC数の増加によって造血回復を明らかに加速した(図5)。4Gy照射後30日目に、H_(2)群における有核細胞の数は、非H_(2)群における6.6×10^(6)/大腿骨と比較して、9.2×10^(6)/大腿骨に戻った。」(p.BR91右欄「Bone marrow nucleated cells」)

(摘記1f)


図5 4Gy照射後の異なる日の骨髄有核細胞の数(×10^(6)/大腿骨)。データを平均±SEM(n=3)、^(*)p<0.05として表した。」(p.BR93「図5」及び「図5」の説明)

(摘記1g)
「白血球数
白血球数は急速に減少し、照射後9日目から徐々に増加した。照射後の全期間において、H_(2)群における白血球の回復は、非H_(2)群よりも有意に速かった(図6)。2Gy照射後30日目に、H_(2)群における白血球数は、非H_(2)群における3.05×10^(9)/Lと比較して、4.65×10^(9)/Lに戻った。4Gy照射後30日目にH_(2)群における白血球数は、非H_(2)群における2.39×10^(9)/Lと比較して、3.40×10^(9)/Lに戻った。」(p.BR91右欄?BR92左欄「Leukocyte counts」)

(摘記1h)


図6 異なる群における照射後の異なる日の白血球数(×10^(9)/L)。データを平均±SEM(n=3)として表し、^(*)p<0.05、群2Gyと比較;^(#)p<0.05、群4Gyと比較。」(p.BR93「図6」及び「図6」の説明)

(摘記1i)
「ヒトが比較的低濃度でH_(2)を摂取することは生理学的に安全である[28]。H_(2)を生理食塩水に溶解することは、可燃性又は爆発の危険性がなく、適用が容易である。」(p.BR92右欄下から4行?最終行)

(摘記1j)
「結論
結論として、我々は水素リッチ生理食塩水が照射マウスにおいて精子形成および造血を部分的に保護し得ることを示した(H_(2)による保護効果は、非H_(2)群と統計的に異なることが示されているが、保護効果の範囲は限定されるようである)。我々の研究は、放射線防護剤としてのH_(2)の可能な使用のためのいくつかの定量的基礎を提供し得るが、正確な機構を決定するためにさらなる研究が必要である。」(p.BR93右欄「CONCLUSIONS」)

(2)上記摘記(1a)?(1h)の記載からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「^(60)Co-ガンマ線照射を受けたマウスの、^(60)Co-ガンマ線照射により減少する骨髄有核細胞(BMNC)数を増加させて造血を回復させ、^(60)Co-ガンマ線照射により減少する白血球数を増加させるための、前記マウスに腹腔内投与され、0.6mmol/Lを超える水素濃度である、水素リッチ生理食塩水。」

2.引用文献4について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、次の事項が記載されている(英文については、当審合議体による訳文にて示す。)。

(摘記4a)
「マウスにおける行動能力、造血系、生殖系、及び脾臓リンパ球に対する低線量長期放射線誘発損傷に対する水素の保護効果」(p.1標題)

(摘記4b)
「水素分子(H_(2))は、急性放射線照射によって引き起こされる損傷の改善において重要な役割を果たすことが以前に報告されている。この研究において、我々は、低線量の長期放射線(LDLTR)によって誘導される変化に対するH_(2)の効果を調査した。水素処理群又は放射線のみの群の全てのマウスは、それぞれ、0.1Gy、0.5Gy、1Gy、及び2Gyの全身ガンマ線照射を受けた。・・・そして、処置群と放射線のみの群との間の有意差が観察され、H_(2)がLDLTRによって誘導される損傷を減少させうることを示し、LDLTRに対するマウスにおける複数の系におけるH_(2)の保護効力を示唆した。」(p.1要旨)

(摘記4c)
「多くの種類の腫瘍の治療の基本的な部分として、分割照射は癌患者の管理に広く用いられている[1]。さらに、原子力技術がますます開発され、利用されるにつれて、患者、職業労働者、宇宙飛行士、さらには公衆に対する放射線曝露(特に低線量照射)の悪影響が次第に注目されてきた[2,3]。その結果、研究者及び公衆の両方が、低線量の長期放射線(LDLTR)の生物学的効果により関心を持つようになった。」(p.1左欄「1.Introduction」の第1段落)

(摘記4d)
「2.1 動物。 ・・・実験を開始する前に、マウスを新たな環境に1週間順応させた。その後、全80匹のマウスを無作為に4つの照射群(0.1Gy、0.5Gy、1Gy、及び2Gy)及び1つの擬似照射群(対照として)に分け、それぞれをさらに2つの群(水素処理群及び非水素群、n=8)に分けた。・・・」(p.2左欄「2.1 Animals.」)

(摘記4e)
「2.2 全身照射。 全身電離放射線照射のために^(60)Co照射器を使用した。放射線の持続期間が長く、被験体に対してより重篤な影響を与える可能性があり、放射線送達速度が非常に低く、その多様性の影響が軽微であったという事実を考慮して、麻酔をかけていないマウスを、十分に換気されたプラスチックボックスに入れ、^(60)Coガンマ線を、1回48分、週2回、8週間同期して照射した。・・・」(p.2左欄「2.2 Total-Body Irradiation.」)

(摘記4f)
「2.3 水素リッチ水の調製及び投与。 順応期間の後、実験マウスに、通常の二重蒸留水(ビヒクル群)又は、水素を持続的に生成するために水素リッチ水発生装置(・・・)を二重蒸留水中に加えることによって作製した水素リッチ水(水素処理群)を自由に摂取させた。マウスをこの方法で屠殺するまで飼育した。H_(2)濃度を許容可能なレベル(少なくとも0.1mM)に維持するために、装置の取扱説明書に従って発生装置を少なくとも週1回洗浄し、針型H_(2)センサー(・・・)を使用してH_(2)濃度を確認した。」(p.2右欄「2.3 Hydrogen-Rich Water Preparation and Administration.」)

(摘記4g)
「3.3 H_(2)はLDLTR損傷造血組織及び細胞に有益であった。 全身照射後の骨髄の病理学的検査(1Gy及び2Gy線量レベルで)は、水素投与が骨髄細胞の放射線誘発性減少を効果的に改善したことを示したが(図4)、0.1Gy又は0.5Gy線量では、識別可能な変化は検出されなかった。この効果は、骨髄細胞における照射によって増強された染色体異常の減少傾向と一致した。さらに、染色体放射線障害の低減に対するH_(2)の有益な効果は、0.1Gyという低い線量レベルで現れた(図5、表1)。」(p.4 右欄「3.3 H_(2) Benefitted the LDLTR-Damaged Hematopoietic Tissues and Cells.」)

(摘記4h)


図4: H&E染色した代表的な骨髄切片。非照射群は、水素によって処理された(b)又はされていない(a)にかかわらず、活発な造血を示した。放射線量が増加するにつれて((d)1Gy、(f)2Gy)、造血は、有核細胞の細胞充実性の減少および空胞の数の増加によって示されるように減弱した。しかし、水素((c)1Gy、水素;(e)2Gy、水素)の場合、造血細胞密度はビヒクル群とほぼ同じ高さになった。写真を400倍の倍率で無作為に撮影した。スケールバー=50μm。」(p.8「図4」及び「図4」の説明)

(摘記4i)
「3.4 H_(2)は末梢白血球及びリンパ球数のLDLTR損傷を改善した。 擬似照射群と比較して、2Gy照射群のマウスは、末梢血中に明らかに少ないWBC及びリンパ球を含有することが見出され、これはH_(2)処置によって大きく改善された(図6(a)及び6(b))。しかしながら、1Gy以下の線量に関しては、両方の種類の細胞数は、擬似照射マウスよりもさらに多いようであり、H_(2)の保護効果は見られなかった。」(p.4右欄「3.4 H_(2) Improved the LDLTR-Induced Injuries of the Peripheral White Blood Cell and Lymphocyte Count.」)

(摘記4j)


図6:擬似及び2Gy照射マウス、H_(2)処置または非処置の、末梢WBC数、リンパ球数、および好中球数の結果。(a)WBC数の比較。(b)異なる群におけるリンパ球数の表示。2Gyガンマ線照射による細胞数と比較して、H_(2)群は、WBC(t=-2.948、p=0.012)及びリンパ球(t=-2.342、p=0.037)の両方について顕著な増強効果を有した。独立サンプルのt-検定(両側検定)をここで使用した。アスタリスクは、曲線連結群間に有意差(p<0.05)が存在したことを示す。値を平均±SD(n=8)として表した。」(p.10「図6」及び「図6」の説明)

(摘記4k)
「したがって、H_(2)を成熟した臨床応用医薬に発展させることが急務となっており、この驚くべき分子についての高度な機構的研究とかなり大規模な臨床研究が求められている。」(p.12右欄最終行?p.13左欄4行)

(2)上記摘記(4a)、(4b)、(4d)?(4j)の記載からみて、引用文献4には次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

「^(60)Coガンマ線照射を受けたマウスの、前記^(60)Coガンマ線照射により減少する骨髄細胞数、白血球数、リンパ球数及び好中球数を改善するための、前記マウスに摂取され、0.1mMを超える水素濃度である、水素リッチ水。」

3.引用文献2、3及び5について
(1)原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用された引用文献2、3及び5には、それぞれ、次の事項が記載されている(引用文献5の英文については、当審合議体による訳文にて示す。)。

(摘記2a)
「[0002] 近年、活性酸素の人体に対する悪影響が医学の進歩とともに明らかになりつつある。活性酸素には様々な種類があるが、その一部を体内に取り込んだ水素と反応させることにより、活性酸素の人体への悪影響を低減させる方法が考えられてきた。
・・・
[0003] 従来、人間の体内に水素を取り込むには、人工的に液体中の水素濃度を高めた水素を含む液体を経口で摂取する方法がある。しかし、液体に溶解する水素の濃度に限界があるため、この方法では水素を多量に摂取できないという問題があった。
なお、特定の種類の気体を室内に充満させることについては、例えば、酸素などで前例がある(文献1乃至3。)。しかし、水素によってこれを行うことについては従前知られておらず、かつ、水素は他の気体と比較して爆発限界が4.0%から74.2%と非常に広い範囲で存在するので、室内の構造や換気システムにおいて一定の配慮を払う必要がある。
・・・
[0004] 本願発明は、このような問題に着目してなされたものであって、水素の爆発下限界濃度を超えない安全な雰囲気内において室内における空気中の水素濃度を上げることにより、水素を含む液体を経口で摂取する方法に比べ、より多量の水素を体内に取り込むことを目的とする。」(引用文献2の段落[0002]?[0004])

(摘記2b)
「[1] 室内に水素を供給する水素供給手段と、供給された水素を室内の空気と攪拌する空気攪拌手段とを備えたことを特徴とする水素供給システム。」(引用文献2の請求の範囲の請求項1)

(摘記3a)
「[0005] ところで、心筋梗塞、脳梗塞等の各種手術で血液の循環が停止した状態から再灌流する際に、体内にヒドロキシラジカルが発生して、細胞や臓器に障害(虚血再灌流障害)を起こすことがある。水素は上述のようにヒドロキシラジカルを無力化する効果を有するため、ヒドロキシラジカルに起因する障害発症を抑える医薬品として幅広い治療において効果が期待されている。
[0006] 特許文献2には、水素を酸素との混合ガスとして患者に投与する水素投与装置が開示されている。この水素投与装置は、水素ガス及び酸素ガスの供給源と、これらの混合ガスを患者へ投与する混合ガス供給管内を流れる水素ガス濃度を測定する水素濃度計を備えている。この水素投与装置は、水素ガス濃度の測定結果が、例えば0.1?4.0vol%の範囲内にないときは、警報音を鳴らしたり、混合ガスの供給を停止したりする構成を有する。又、水素ガス濃度が設定した範囲内となるよう各ガスの供給源の開閉バルブの開度を制御し、水素ガス濃度が設定した範囲内に収まるよう、自動的に調整するフィードバック制御を行う構成も開示されている。」(引用文献3の段落[0005]?[0006])

(摘記3b)
「[請求項1]患者の治療に使用する水素混合ガス供給装置であって、
水素の供給源である水素供給手段から供給された水素ガスと酸素の供給源である酸素供給手段から供給された酸素ガスとを混合し、前記水素ガス及び酸素ガスを含む混合ガスを生成する混合手段と、
前記混合ガス中の水素ガス濃度を測定する水素ガス濃度測定手段と、
前記混合ガス中の酸素ガス濃度を測定する酸素ガス濃度測定手段と、
前記測定手段により測定した水素ガス濃度、及び酸素ガス濃度に基づき、前記混合ガス中の水素ガス濃度及び酸素ガス濃度をそれぞれ任意の値に制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする水素混合ガス供給装置。」(引用文献3の請求の範囲の請求項1)

(摘記5a)


図1. 600cGy x線照射アカゲザルにおける末梢血(A)好中球(ANC)、(B)血小板(PLT)、(C)赤血球(RBC)、および(D)リンパ球(ALC)に対するレリジスチム投与の効果。動物は、材料および方法に記載されるように、1日おきで200μg/kg(n=8)または1日1回で50μg/kg/日 (n=7)のレリジスチム、あるいは対照タンパク質(n=9)としての自己血清(AS)(0.1%)を皮下投与された。」(引用文献5のp.526「図1」及び「図1」の説明)

第5 対比・判断
1.引用発明1並びに引用文献1?3及び5に記載された事項に基づく進歩性について

(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「^(60)Co-ガンマ線照射を受けた」、「^(60)Co-ガンマ線照射により減少する骨髄有核細胞(BMNC)数を増加させて造血を回復させ、^(60)Co-ガンマ線照射により減少する白血球数を増加させる」は、本願発明1における「放射線被曝を受けた」、「放射線障害を治療又は軽減する」に相当する。また、引用発明1の「水素リッチ生理食塩水」は、「^(60)Co-ガンマ線照射により減少する骨髄有核細胞(BMNC)数を増加させて造血を回復させ、^(60)Co-ガンマ線照射により減少する白血球数を増加させる」作用を有するものであるから、本願発明1の「放射線障害防御剤」に相当する。
そして、引用発明1の「^(60)Co-ガンマ線照射を受けたマウス」と本願発明1の「放射線被曝を受けた又は放射線療法を受けたもしくは受けるヒト患者」とは、放射線被曝を受けた対象である点において共通している。

そうすると、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
放射線被曝を受けた対象の放射線障害を治療又は軽減するための放射線障害防御剤。

<相違点1>
放射線被曝を受けた対象が、本願発明1は「放射線被曝を受けた又は放射線療法を受けたもしくは受けるヒト患者」であるのに対し、引用発明1は「^(60)Co-ガンマ線照射を受けたマウス」である点。

<相違点2>
放射線障害防御剤が、本願発明1は「末梢血中の血小板、又は、末梢血中の血小板及び白血球の減少」を治療又は軽減するためのものであるのに対し、引用発明1は「^(60)Co-ガンマ線照射により減少する骨髄有核細胞(BMNC)数を増加させて造血を回復させ、^(60)Co-ガンマ線照射により減少する白血球数を増加させるため」のものである点。

<相違点3>
放射線障害防御剤について、本願発明1では、「水素ガスを有効成分として含」み、「前記ヒト患者によって吸入により投与され」、「前記水素ガスの濃度が、0.5体積%以上18.5体積%以下、又は4体積%以上10体積%以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明1では、「水素リッチ生理食塩水」であり、「前記マウスに腹腔内投与され」、「0.6mmol/Lを超える水素濃度である」ことが特定されている点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
引用発明1の放射線障害防御剤は水素を有効成分とするものであるところ、引用文献1における「この研究の目的は、H_(2)が放射線誘発性損傷から精子形成及び造血を保護することができるかどうかを調べることであった。」(摘記(1a))及び「我々の研究は、放射線保護剤としてのH_(2)の可能な使用のためのいくつかの定量的基礎を提供し得る」(摘記(1j))という記載から、引用発明1の有効成分である水素は、引用文献1の実験で用いられたマウスだけではなく、マウス以外の対象にも投与されるものであると解される。
そして、引用文献1には、「ヒトが比較的低濃度でH_(2)を摂取することは生理学的に安全である[28]。H_(2)を生理食塩水に溶解することは、可燃性又は爆発の危険性がなく、適用が容易である。」(摘記(1i))のように、ヒトが水素を摂取することについての記載がある。
そうすると、これらの記載を参酌した当業者は、引用発明1の有効成分である水素を、引用文献1の実験で用いられたマウスだけではなくヒトにも投与することを自然に想起しえたといえるので、引用発明1における対象を、「^(60)Co-ガンマ線照射を受けたマウス」に代えて「放射線被曝を受けた又は放射線療法を受けたもしくは受けるヒト患者」とすることに、格別の困難性は認められない。

事案に鑑み、次に相違点3について検討する。
(イ)相違点3について
引用文献1には、「H_(2)を生理食塩水に溶解することは、可燃性又は爆発の危険性がなく、適用が容易である」こと(摘記(1i))、すなわち水素を生理食塩水に溶解させた「水素リッチ生理食塩水」の形態で投与することの利点を説明する記載がある。
しかし、引用文献1には、水素を「水素リッチ生理食塩水」の形態ではない他の形態でヒトに投与することについて、記載又は示唆されているとはいえない。
ここで、引用文献2及び3の記載によれば、水素を気体(摘記(2a)及び(2b))又は水素ガス(摘記(3a)及び(3b))の形態でヒトに投与すること及びその手段自体は本願優先日当時の周知技術である。
そして、引用文献2には、活性酸素の人体への悪影響を低減させるために水素ガスをヒトに投与することが記載されており(摘記(2a))、また引用文献3には、ヒドロキシラジカルに起因する障害発症を抑えるために水素ガスをヒトに投与することが記載されている(摘記(3a))。
しかし、引用文献2及び3には、「放射線被曝を受けた又は放射線療法を受けたもしくは受けるヒト患者」に水素ガスを投与することについて、記載又は示唆されているとはいえない。
また、引用文献5には、電離放射線照射による骨髄抑制の症状として血小板減少が含まれることが記載されているが(摘記(5a))、「放射線被曝を受けた又は放射線療法を受けたもしくは受けるヒト患者」に水素ガスを投与することについての技術的知見を与える記載はない。
このように、引用文献2、3及び5に記載された事項を参酌しても、「放射線被曝を受けた又は放射線療法を受けたもしくは受けるヒト患者」に水素ガスを投与することが、本願優先日当時の周知技術であるとはいえない。
加えて、本願優先日前に公知となった参考文献A(Ichihara, M. et al., Medical Gas Research, 2015, 5:12, p.1-21)には、2007年以降、様々な疾患モデルとヒトの疾患に対する水素分子の治療効果が調査されていること(p.1「Abstract」1?2行)、そして水素投与の様々な経路(水素リッチ生理食塩水、水素水、水素ガス等)の中で、最良の投与経路は依然としてわかっておらず、これは投与方法による効果の違いを取り上げた報告が少ないことも一因であること(p.2右欄下から4行?p.3左欄1行及びFig.1C)が記載されている。
そして、本願優先日前に公知となった参考資料2(当審注;請求人から令和3年3月9日受付の意見書に添付して提出された、Ito, M.et al., Medical Gas Research, 2012, 2:15, p.1-7であり、前記参考文献Aにおいてリファレンス[11]として引用されている文献である。)には、パーキンソン病ラットモデルに対する水素水の随意投与では顕著な効果が得られ、2%水素ガスの間欠投与では変動はあるけれども明白な治療効果が得られたが、2%水素ガスの連続投与ではわずかな効果しか得られなかったこと(p.5右欄1?6行)が記載されているにとどまり、水素水投与と水素ガス投与とが同等の治療効果を奏するものであることが記載されているとはいえない。また、参考資料2には、パーキンソン病のヒト患者に水素水又は水素ガスを投与した結果は記載されておらず、不明である。
このように、従前より様々な疾患モデルやヒトの疾患に対する水素の治療効果が調査されているにもかかわらず、投与方法による効果の違いを取り上げた報告は少なく、本願優先日当時、ヒトの疾患を治療するために水素を投与する場合、最善の投与経路は依然としてわかっていなかったのであるから、ある疾患のヒトに水素リッチ生理食塩水を投与して有効な治療効果が得られた場合に、同じ疾患のヒトに水素ガスを投与した場合でも同等に有効な治療効果が得られることが期待できるという本願優先日当時の技術常識があったとはいえない。
以上のように、本願優先日当時の技術常識を参酌しても、引用発明1並びに引用文献1?3及び5に記載された事項から、引用発明1における水素を「水素ガス」の形態でヒトに投与した場合でも、「水素リッチ生理食塩水」の形態でヒトに投与した場合と同様の効果が得られることを、当業者が期待するとはいえない。
そうすると、当業者が、引用発明1において、水素を「水素リッチ生理食塩水」の形態に代えて「水素ガス」の形態にしてヒトに投与する動機付けがあるとはいえないのであるから、引用発明1の放射線障害防御剤である「水素リッチ生理食塩水」を、「水素ガスを有効成分として含」み、「前記ヒト患者によって吸入により投与され」、「前記水素ガスの濃度が、0.5体積%以上18.5体積%以下、又は4体積%以上10体積%以下である」放射線障害防御剤にすることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

したがって、相違点2について検討するまでもなく、引用発明1並びに引用文献1?3及び5に記載された事項に基づいて、引用発明1が本願発明1の発明特定事項を備えるようにすることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

(2)本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、前記(1)と同じ理由により、引用発明1並びに引用文献1?3及び5に記載された事項に基づいて、引用発明1が本願発明2?4の発明特定事項を備えるようにすることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

2.引用発明4及び引用文献2?5に記載された事項に基づく進歩性について

(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明4とを対比すると、引用発明4における「^(60)Coガンマ線照射を受けた」、「^(60) Coガンマ線照射により減少する骨髄細胞数、白血球数、リンパ球数及び好中球数を改善する」は、本願発明1における「放射線被曝を受けた」、「放射線障害を治療又は軽減する」に相当する。また、引用発明4の「水素リッチ水」は、「^(60) Coガンマ線照射により減少する骨髄細胞数、白血球数、リンパ球数及び好中球数を改善する」作用を有するものであるから、本願発明1の「放射線障害防御剤」に相当する。
そして、引用発明4の「^(60)Coガンマ線照射を受けたマウス」と本願発明1の「放射線被曝を受けた又は放射線療法を受けたもしくは受けるヒト患者」とは、放射線被曝を受けた対象である点において共通している。

そうすると、本願発明1と引用発明4との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
放射線被曝を受けた対象の放射線障害を治療又は軽減するための放射線障害防御剤。

<相違点1’>
放射線被曝を受けた対象が、本願発明1は「放射線被曝を受けた又は放射線療法を受けたもしくは受けるヒト患者」であるのに対し、引用発明4は「^(60)Coガンマ線照射を受けたマウス」である点。

<相違点2’>
放射線障害防御剤が、本願発明1は「末梢血中の血小板、又は、末梢血中の血小板及び白血球の減少」を治療又は軽減するためのものであるのに対し、引用発明4は「^(60)Coガンマ線照射により減少する骨髄細胞数、白血球数、リンパ球数及び好中球数を改善する」ためのものである点。

<相違点3’>
放射線障害防御剤について、本願発明1では、「水素ガスを有効成分として含」み、「前記ヒト患者によって吸入により投与され」、「前記水素ガスの濃度が、0.5体積%以上18.5体積%以下、又は4体積%以上10体積%以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明4では、「水素リッチ水」であり、「前記マウスに摂取され」、「0.1mMを超える水素濃度である」ことが特定されている点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1’について
引用文献4の記載(摘記(4c)、(4k))から、上記1(1)イ(ア)において説示した理由と同様の理由により、引用発明4における対象を、「^(60)Coガンマ線照射を受けたマウス」に代えて「放射線被曝を受けた又は放射線療法を受けたもしくは受けるヒト患者」とすることに格別の困難性は認められない。

次に、相違点3’について検討する。
(イ)相違点3’について
上記1(1)イ(イ)において説示した理由と同様の理由により、引用発明4において、水素を「水素リッチ水」の形態に代えて「水素ガス」の形態にしてヒトに投与する動機付けがあるとはいえないのであるから、引用発明4の放射線障害防御剤である「水素リッチ水」を、「水素ガスを有効成分として含」み、「前記ヒト患者によって吸入により投与され」、「前記水素ガスの濃度が、0.5体積%以上18.5体積%以下、又は4体積%以上10体積%以下である」放射線障害防御剤にすることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

したがって、相違点2’について検討するまでもなく、引用発明4及び引用文献2?5に記載された事項に基づいて、引用発明4が本願発明1の発明特定事項を備えるようにすることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

(2)本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、前記2(1)と同じ理由により、引用発明4及び引用文献2?5に記載された事項に基づいて、引用発明4が本願発明2?4の発明特定事項を備えるようにすることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。

3.効果について
本願発明1?4の効果について、本願明細書の実施例([0042]?[0057])には、放射線療法を受けた癌患者において、水素ガスを吸入した群(水素群)では、水素ガスを吸入しなかった群(対照群)と比較して、放射線照射により影響を受けやすい測定項目である末梢血中の白血球数(WBC)及び血小板数(PLT)が顕著に増加したという効果が示されたことが記載されている(特に[図3]及び[図7]を参照のこと。)。
そして、このような本願発明1?4の効果は、引用発明1並びに引用文献1?3及び5に記載された事項から、あるいは引用発明4及び引用文献2?5に記載された事項から、当業者が予測しえた効果であるとはいえない。

4.小括
以上のとおり、本願発明1?4は、引用発明1並びに引用文献1?3及び5に記載された事項に基づいて、あるいは引用発明4及び引用文献2?5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-29 
出願番号 特願2018-559516(P2018-559516)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊藤 清子中村 浩  
特許庁審判長 前田 佳与子
特許庁審判官 穴吹 智子
鳥居 福代
発明の名称 放射線障害防御剤  
代理人 松尾 淳一  
代理人 宮脇 薫  
代理人 寺地 拓己  
代理人 宮脇 薫  
代理人 松尾 淳一  
代理人 宮前 徹  
代理人 宮前 徹  
代理人 寺地 拓己  
代理人 山本 修  
代理人 山本 修  
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