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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1375497 |
審判番号 | 不服2020-8420 |
総通号数 | 260 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-08-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-17 |
確定日 | 2021-06-24 |
事件の表示 | 特願2016-562509「有機発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月22日国際公開、WO2015/159090、平成29年 6月 1日国内公表、特表2017-514303〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2016-562509号(以下「本件出願」という。)は、2015年(平成27年)4月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年4月16日(以下「本件優先日」という。) 英国、2015年2月17日 英国)を国際出願日とする出願である。 そして、本件出願の手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。 令和 元年 5月14日付け:拒絶理由通知書 令和 元年11月20日 :手続補正書 令和 元年11月20日 :意見書 令和 2年 2月 7日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年 6月17日 :審判請求書 令和 2年 7月29日 :手続補正書(方式) 2 本願発明 本件出願の請求項1に係る発明は、令和元年11月20日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの、次のものである(以下、「本願発明」という。)。 「 陽極と;陰極と;前記陽極と前記陰極との間の発光層と;前記陰極と前記発光層との間の電子輸送材料を含む電子輸送層とを含む有機発光素子であって、前記陰極が導電材料の層および前記電子輸送層と前記導電材料の層との間のアルカリ金属化合物の層を含み、前記電子輸送材料がイオン性極性基を含む少なくとも1種の置換基で置換されているアリーレン反復単位を含む共役ポリマーである有機発光素子。」 3 原査定の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件優先日の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献3:特開2012-216811号公報 第2 当合議体の判断 1 引用文献の記載及び引用発明 (1)引用文献3の記載 原査定の拒絶の理由において引用文献3として引用された特開2012-216811号公報(以下、「引用文献3」という。)は、本件優先日の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある(当合議体注:下線は当合議体が付した。)。 ア 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は電子デバイス、及び、該電子デバイスに好適に用いられる高分子化合物に関する。 【背景技術】 【0002】 電界発光素子の特性を向上させるため、電界発光素子の発光層と電極との間に様々な層を挿入する検討がなされている。例えば、発光層と電極との間に、カチオンとヘテロ原子2個とを有する置換基を含む非共役高分子化合物からなる層を有する電界発光素子が知られている(特許文献1)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特表2003-530676号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかし、上記電界発光素子の輝度は未だ十分ではなかった。 【0005】 本発明の目的は、高輝度で発光する電界発光素子として有用な電子デバイス、及び該電子デバイスに用いられる高分子化合物を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者らは、以下の電子デバイス、高分子化合物等によって上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。 【0007】 本発明は、以下の〔1〕?〔12〕を提供する。 〔1〕式(1)で表される基及び式(2)で表される基を含む構造単位を有する高分子化合物を含む層を電荷注入層及び/又は電荷輸送層として備え、 前記高分子化合物中の全てのM^(1)に対する前記高分子化合物中のM^(1)がH^(+)である割合が、0%より大きく50%以下である、 電子デバイス。 -(Q^(1))_(n1)-Y^(1)(M^(1))_(a1)(Z^(1))_(b1) (1) (式中、 Q^(1)は、2価の有機基である。 Y^(1)は、-CO_(2)^(-)、-SO_(3)^(-)、-SO_(2)^(-)、-PO_(3)^(2-)又は-B(R^(α))_(3)^(-)である。 M^(1)は、H^(+)又は金属カチオンであるか、置換基を有していてもよいアンモニウムカチオンである。 Z^(1)は、F^(-)、Cl^(-)、Br^(-)、I^(-)、OH^(-)、B(R^(a))_(4)^(-)、R^(a)SO_(3)^(-)、R^(a)COO^(-)、ClO^(-)、ClO_(2)^(-)、ClO_(3)^(-)、ClO_(4)^(-)、SCN^(-)、CN^(-)、NO_(3)^(-)、SO_(4)^(2-)、HSO_(4)^(-)、PO_(4)^(3-)、HPO_(4)^(2-)、H_(2)PO_(4)^(-)、BF_(4)^(-)又はPF_(6)^(-)である。 n1は、0以上の整数である。a1は、1以上の整数である。b1は、0以上の整数である。但し、a1及びb1は、式(1)で表される基の電荷が0となるように選択される。 …中略… 【発明の効果】 【0011】 本発明の電子デバイスは、高輝度で発光する電界発光素子となり得る。」 イ 「【発明を実施するための形態】 【0012】 以下、本発明を詳細に説明する。 【0013】 <高分子化合物> 以下、本発明の高分子化合物の構造単位、特性、具体例、製造方法、M^(1)がH^(+)である割合及び該高分子化合物を含む層、を順次説明する。 …中略… 【0315】 <電界発光素子> 本発明の電界発光素子について以下説明する。本発明の電界発光素子は、上述の高分子化合物を含む層を有する電界発光素子である。 【0316】 本発明の電界発光素子は、例えば、陰極、陽極、前記陰極と前記陽極との間に位置する発光層、及び前記発光層と前記陰極又は前記陽極との間に位置し、本発明で用いられる高分子化合物を含む層を有する。本発明の電界発光素子は、任意の構成要素として基板を有することができ、かかる基板の面上に、前記陰極、陽極、発光層、本発明で用いられる高分子化合物を含む層、及び任意の構成要素を設けた構成とすることができる。 …中略… 【0326】 〔2.電界発光素子の層構成〕 電界発光素子は、一般に、陰極、陽極、及び、陰極と陽極との間に位置する発光層を有する。更に構成要素を備えていてもよい。 【0327】 例えば、陽極と発光層との間には正孔注入層及び正孔輸送層のうちの1層以上を有することができる。正孔注入層が存在する場合は、発光層と正孔注入層との間に、正孔輸送層を有することができる。 【0328】 一方、陰極と発光層との間には、電子注入層及び層のうちの1層以上を有することができる。電子注入層が存在する場合は、発光層と電子注入層との間に電子輸送層を有することができる。 【0329】 本発明の高分子化合物を含む層は、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層等の層として用いることができる。前記高分子化合物を含む層を正孔注入層及び正孔輸送層から選ばれる1層又は2層として用いる場合、第1の電極は陽極であり、第2の電極は陰極である。前記高分子化合物を含む層を電子注入層及び電子輸送層から選ばれる1層又は2層として用いる場合、第1の電極は陰極であり、第2の電極は陽極である。 【0330】 陽極は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層等の層に正孔を供給する電極である。陰極は、電子注入層、電子輸送層、発光層等の層に電子を供給する電極である。 【0331】 発光層とは、電界を印加した際に、陽極側に隣接する層より正孔を受け取り陰極側に隣接する層より電子を受け取る機能、受け取った電荷(電子と正孔)を電界の力で移動させる機能、及び、電子と正孔の再結合の場を提供し再結合を発光につなげる機能を有する層をいう。 【0332】 電子注入層とは、陰極に隣接する層であり、陰極から電子を受け取る機能を有する層であり、必要に応じて、電子を輸送する機能、陽極から注入された正孔を障壁する機能及び発光層へ電子を供給する機能のいずれかを有する層をいう。電子輸送層とは、主に電子を輸送する機能を有する層であり、必要に応じて、陰極から電子を受け取る機能、陽極から注入された正孔を障壁する機能及び発光層へ電子を供給する機能のいずれかを有する層をいう。 【0333】 正孔注入層とは、陽極に隣接する層であり、陽極から正孔を受け取る機能を有する層であり、必要に応じて、正孔を輸送する機能、発光層へ正孔を供給する機能及び陰極から注入された電子を障壁する機能のいずれかを有する層をいう。正孔輸送層とは、主に正孔を輸送する機能を有する層であり、必要に応じて、陽極から正孔を受け取る機能、発光層へ正孔を供給する機能及び陰極から注入された電子を障壁する機能のいずれかを有する層をいう。 【0334】 なお、電子輸送層と正孔輸送層を総称して電荷輸送層と呼ぶことがある。電子注入層と正孔注入層を総称して電荷注入層と呼ぶことがある。 【0335】 即ち、本発明の電界発光素子は下記の層構成(a)を有することができ、又は、層構成(a)から、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層及び電子注入層のいずれか1層以上を省略した層構成を有することもできる。層構成(a)において、本発明の高分子化合物を含む層は、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層及び電子輸送層からなる群から選ばれる1つ以上の層として用いることができる。 【0336】 (a)陽極-正孔注入層-(正孔輸送層)-発光層-(電子輸送層)-電子注入層-陰極 【0337】 符号「-」は各層が隣接して積層されていることを示す。「(正孔輸送層)」は、正孔輸送層を1層以上含む層構成を示す。「(電子輸送層)」は、電子輸送層を1層以上含む層構成を示す。以下の層構成の説明においても同様である。 …中略… 【0343】 本発明の電界発光素子の好ましい層構成としては、下記の層構成(d)?(n)が挙げられる。下記層構成において、本発明の高分子化合物を含む層は、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層及び電子輸送層からなる群から選ばれる1つ以上の層として用いることができる。 【0344】 (d)陽極-正孔注入層-発光層-陰極 (e)陽極-発光層-電子注入層-陰極 (f)陽極-正孔注入層-発光層-電子注入層-陰極 (g)陽極-正孔注入層-正孔輸送層-発光層-陰極 (k)陽極-正孔注入層-正孔輸送層-発光層-電子注入層-陰極 (l)陽極-発光層-電子輸送層-電子注入層-陰極 (m)陽極-正孔注入層-発光層-電子輸送層-電子注入層-陰極 (n)陽極-正孔注入層-正孔輸送層-発光層-電子輸送層-電子注入層-陰極 …中略… 【0347】 〔3.電界発光素子を構成する各層〕 次に、本発明の電界発光素子を構成する各層の材料及び形成方法について、より詳説する。 …中略… 【0399】 〔3.8.陰極〕 陰極は、1種又は2種以上の材料からなる単層構造であってもよいし、同一組成の複数層からなる又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。 【0400】 陰極が単層構造である場合、陰極を構成する材料としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、クロム、スズ、鉛、ニッケル、チタン等の低抵抗金属、これらの低抵抗金属から選ばれる一種以上を含む合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化モリブデン等の導電性金属酸化物、及び、これらの導電性金属酸化物と金属との混合物が挙げられる。 【0401】 陰極が多層構造である場合、第1陰極層とカバー陰極層の2層構造、又は第1陰極層、第2陰極層及びカバー陰極層の3層構造であることが好ましい。ここで、第1陰極層は、陰極の中で最も発光層側にある層をいい、カバー陰極層は、2層構造の場合は第1陰極層を覆う層をいい、3層構造の場合は第1陰極層と第2陰極層を覆う層をいう。電子供給能の観点からは、第1陰極層を構成する材料の仕事関数が3.5eV以下であることが好ましい。第1陰極層を構成する材料としては、仕事関数が3.5eV以下の金属、該金属の酸化物、該金属のフッ化物、該金属の炭酸塩、又は該金属の複合酸化物が、好適に用いられる。カバー陰極層の材料としては、抵抗率が低く、水分への耐腐食性が高い材料(例えば、金属、金属酸化物)が好適に用いられる。 【0402】 第1陰極層を構成する材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属、前記金属を1種類以上含む合金、前記金属の酸化物、前記金属のハロゲン化物、前記金属の炭酸塩、前記金属の複合酸化物、及びこれらの混合物からなる群より選択される1つ以上の材料が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属の複合酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、モリブデン酸カリウム、チタン酸カリウム、タングステン酸カリウム及びモリブデン酸セシウムが挙げられる。アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の炭酸塩及びアルカリ土類金属の複合酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸化バリウム、モリブデン酸バリウム、タングステン酸バリウムが挙げられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属を1種類以上含む合金の例としては、Li-Al合金、Mg-Ag合金、Al-Ba合金、Mg-Ba合金、Ba-Ag合金及びCa-Bi-Pb-Sn合金が挙げられる。第1陰極層を構成する材料として例示した材料と電子注入層を構成する材料として例示した材料との組成物も、第1陰極層を構成する材料として使用できる。第2陰極層を構成する材料としては、第1陰極層の材料と同様の材料が例示される。 【0403】 カバー陰極層を構成する材料の例としては、金、銀、銅、アルミニウム、クロム、スズ、鉛、ニッケル、チタン等の低抵抗金属、これらの低抵抗金属を1種類以上含む合金、金属ナノ粒子、金属ナノワイヤー、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化モリブデン等の導電性金属酸化物、これらの導電性金属酸化物と金属との混合物、導電性金属酸化物のナノ粒子、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ等の導電性炭素が挙げられる。 【0404】 陰極が多層構造である場合の構成例としては、Mg/Al、Ca/Al、Ba/Al、NaF/Al、KF/Al、RbF/Al、CsF/Al、Na_(2)CO_(3)/Al、K_(2)CO_(3)/Al、Cs_(2)CO_(3)/Al等の、第1陰極層とカバー陰極層の2層構造、及び、LiF/Ca/Al、NaF/Ca/Al、KF/Ca/Al、RbF/Ca/Al、CsF/Ca/Al、Ba/Al/Ag、KF/Al/Ag、KF/Ca/Ag、K_(2)CO_(3)/Ca/Ag等の、第1陰極層、第2陰極層及びカバー陰極層の3層構造が挙げられる。ここで、符号「/」は各層が隣接していることを示す。なお、第2陰極層を構成する材料が第1陰極層を構成する材料に対して還元作用を有することが好ましい。ここで、材料間の還元作用の有無及び程度は、例えば、化合物間の結合解離エネルギー(ΔrH°)から見積もることができる。即ち、第2陰極層を構成する材料による、第1陰極層を構成する材料に対する還元反応において、結合解離エネルギーが正である組み合わせの場合、第2陰極層を構成する材料が第1陰極層を構成する材料に対して還元作用を有すると言える。結合解離エネルギーは、例えば「電気化学便覧第5版」(丸善、2000年発行)、「熱力学データベースMALT」(科学技術社、1992年発行)で参照できる。」 ウ 「【0455】 [実施例1] 高分子化合物Aのセシウム塩(共役高分子化合物1)の合成 製造例3で合成した高分子化合物A(200mg)を100mLフラスコに入れ、該フラスコ内の気体を窒素ガスで置換した。THF(20mL)及びエタノール(20mL)を添加し、混合物を55℃に昇温した。そこに、水酸化セシウム・1水和物(120mg)水(2mL)に溶解させた水溶液を添加し、55℃で6時間撹拌した。その後、混合物を室温まで冷却した後、反応溶媒を減圧留去した。生じた固体を水で洗浄し、減圧乾燥させることで薄黄色の固体(150mg)を得た。得られた高分子化合物Aのセシウム塩を「共役高分子化合物1」と呼ぶ。共役高分子化合物1は、式(B)で表される構造単位からなる。 【0456】 【化108】 ![]() 【0457】 NMRスペクトルにより、共役高分子化合物1においては、高分子化合物A内のエチルエステル部位のエチル基由来のシグナルが完全に消失し、カルボキシル基由来のシグナルが生じていることを確認した。^(1)H NMRの積分値から見積もられた共役高分子化合物1が有するH^(+)の割合は、カルボキシル基のセシウム塩とカルボキシル基との合計に対して、26%であった。共役高分子化合物1のHOMOの軌道エネルギーは-5.5eV、LUMOの軌道エネルギーは-2.7eVであった。 …中略… 【0460】 [実施例2] 電界発光素子1の作製 ガラス基板表面に成膜パターニングされたITO陽極(厚さ:45nm)上に、正孔注入材料溶液を塗布し、スピンコート法によって厚さが60nmになるように正孔注入層を成膜した。正孔注入層が成膜されたガラス基板を窒素雰囲気下、200℃で10分加熱して正孔注入層を不溶化させ、基板を室温まで自然冷却させ、正孔注入層が形成された基板を得た。 【0461】 ここで正孔注入材料溶液には、Plextronics社から入手した、ポリチオフェン・スルホン酸系の正孔注入材料であるAQ-1200を用いた。 【0462】 次に、正孔輸送性高分子材料とキシレンとを混合し、0.7重量%の正孔輸送性高分子材料を含む正孔輸送層形成用組成物を得た。 【0463】 ここで、正孔輸送性高分子材料は、以下の方法で合成した。 フラスコ内の気体を不活性ガス雰囲気下とした後、2,7-ジブロモ-9,9-ジ(オクチル)フルオレン(1.4g)、2,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9,9-ジ(オクチル)フルオレン(6.4g)、N,N-ビス(4-ブロモフェニル)-N’,N'-ビス(4-ブチルフェニル)-1,4-フェニレンジアミン(4.1g)、ビス(4-ブロモフェニル)ベンゾシクロブテンアミン(0.6g)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(1.7g)、酢酸パラジウム(4.5mg)、トリ(2-メトキシフェニル)ホスフィン(0.03g)、及び、トルエン(100mL)を混合し、混合物を、100℃で2時間加熱攪拌した。次いで、フェニルボロン酸(0.06g)を添加し、得られた混合物を10時間撹拌した。放冷後、水層を除去し、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム水溶液を添加し攪拌した後、水層を除去し、有機層を水、3重量%酢酸水で洗浄した。有機層をメタノールに注いで固体を沈殿させた後、濾取した固体を再度トルエンに溶解させ、シリカゲル及びアルミナのカラムに通液した。固体を含む溶出トルエン溶液を回収し、回収した前記トルエン溶液をメタノールに注いで固体を沈殿させた。沈殿した固体を濾取後50℃で真空乾燥し、正孔輸送性高分子材料を得た。正孔輸送性高分子材料のポリスチレン換算の重量平均分子量は3.0×10^(5)であった。 【0464】 上記で得た正孔注入層が形成された基板の正孔注入層の上に、正孔輸送層形成用組成物をスピンコート法により塗布し、厚さ20nmの塗膜を得た。この塗膜を設けた基板を窒素雰囲気下、180℃で60分間加熱し、塗膜を不溶化させた後、室温まで自然冷却させ、正孔輸送層が形成された基板を得た。 【0465】 次に、発光高分子材料とキシレンとを混合し、1.4重量%の発光高分子材料を含む発光層形成用組成物を得た。 【0466】 ここで、発光高分子材料は、以下の方法で合成した。 フラスコ内の気体を不活性ガス雰囲気下とした後、2,7-ジブロモ-9,9-ジ(オクチル)フルオレン(9.0g)、N,N’-ビス(4-ブロモフェニル)-N,N’-ビス(4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェニル)1,4-フェニレンジアミン(1.3g)、2,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9,9-ジ(4-ヘキシルフェニル)フルオレン(13.4g)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(43.0g)、酢酸パラジウム(8mg)、トリ(2-メトキシフェニル)ホスフィン(0.05g)、及び、トルエン(200mL)を混合し、混合物を、90℃で8時間加熱攪拌した。次いで、フェニルボロン酸(0.22g)を添加し、得られた混合物を14時間撹拌した。放冷後、水層を除去し、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム水溶液を添加し撹拌した後、水層を除去し、有機層を水、3重量%酢酸水で洗浄した。有機層をメタノールに注いで固体を沈殿させた後、濾取した固体を再度トルエンに溶解させ、シリカゲル及びアルミナのカラムに通液した。固体を含む溶出トルエン溶液を回収し、回収した前記トルエン溶液をメタノールに注いで固体を沈殿させた。沈殿した固体を50℃で真空乾燥し、発光高分子材料(12.5g)を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによれば、得られた発光高分子材料のポリスチレン換算の重量平均分子量は3.1×10^(5)であった。 【0467】 上記で得た正孔輸送層が形成された基板の正孔輸送層の上に、発光層形成用組成物をスピンコート法により塗布し、厚さ80nmの塗膜を得た。この塗膜を設けた基板を窒素雰囲気下、130℃で10分間加熱し、溶媒を蒸発させた後、室温まで自然冷却させ、発光層が形成された基板を得た。 【0468】 メタノールと共役高分子化合物1とを混合し、0.2重量%の共役高分子化合物1を含む溶液を得た。上記で得た発光層が形成された基板の発光層の上に、前記溶液をスピンコート法により塗布し、厚さ10nmの塗膜を得た。この塗膜を設けた基板を窒素雰囲気下、130℃で10分間加熱し、溶媒を蒸発させた後、室温まで自然冷却させ、共役高分子化合物1を含む層が形成された基板を得た。 【0469】 上記で得た共役高分子化合物1を含む層が形成された基板を真空装置内に挿入し、真空蒸着法によって該層の上にAlを80nm成膜し、陰極を形成させて、積層構造体1を製造した。 【0470】 上記で得た積層構造体1を真空装置より取り出し、窒素雰囲気下で、封止ガラスと2液混合型エポキシ樹脂にて封止し、電界発光素子1を得た。 …中略… 【0472】 [測定] 上記で得られた電界発光素子1及びAに10Vの順方向電圧を印加し、発光輝度と発光効率を測定した。結果を表1に示す。 【0473】 【表1】 ![]() 【0474】 表1から明らかなように、本発明の電界発光素子1は、本発明の高分子化合物を含む層を備えていない電界発光素子Aに比べ、発光輝度及び発光効率が優れる。」 (2)引用発明 引用文献3の【0460】?【0470】には、実施例2の「電界発光素子」が記載されている。ここで、【0468】に記載の「共役高分子化合物1」とは、【0455】及び【0456】に記載のものである。 そうしてみると、引用文献3には、次の「電界発光素子」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「 ガラス基板表面に成膜パターニングされたITO陽極上に、正孔注入層が形成され、 正孔注入層の上に、正孔輸送層が形成され、 正孔輸送層の上に、発光高分子材料を含む発光層が形成され、 発光層の上に、以下の式(B)で表される構造単位からなる共役高分子化合物1を含む層が形成され、 共役高分子化合物1を含む層の上にアルミニウムの陰極が形成された積層構造体を、封止ガラスと2液混合型エポキシ樹脂にて封止して得た、電界発光素子。 式(B): ![]() 」(当合議体注:元素記号で記載された「Al」を、元素名の「アルミニウム」とした。) 2 対比 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。 (1)陽極、陰極及び発光層 引用発明の「電界発光素子」は、前記1(2)に記載の工程により得た物であるから、「ITO陽極」-「正孔注入層」-「正孔輸送層」-「発光層」-「共役高分子化合物1を含む層」-「陰極」という層構成のものである。 ここで、引用発明の「ITO陽極」、「発光層」及び「陰極」は、上記層構成からみて、その文言が意味するとおりの機能の層である。 そうしてみると、引用発明の「ITO陽極」、「発光層」及び「陰極」は、それぞれ、本願発明の「陽極」、「発光層」及び「陰極」に相当する。また、引用発明の「発光層」は、本願発明の「発光層」における、「前記陽極と前記陰極との間の」との要件を満たす。 (2)有機発光素子 引用発明の「発光層」は、「発光高分子材料を含む」。 そうすると、引用発明における「電界発光素子」は、本願発明の「有機発光素子」に相当するものである。 (3)電子輸送層 前記(1)で述べたとおり、引用発明の「電界発光素子」は、「ITO陽極」-「正孔注入層」-「正孔輸送層」-「発光層」-「共役高分子化合物1を含む層」-「陰極」という層構成のものである。また、「共役高分子化合物1」は、「以下の式(B)で表される構造単位からなる」。 ここで、「共役高分子化合物1」の構造単位及び上記層構成からみて、引用発明の「共役高分子化合物1」は、電子を輸送する材料であり、引用発明の「共役高分子化合物1を含む層」は、電子を輸送する層である。また、上記層構成からみて、引用発明の「共役高分子化合物1を含む層」は、「陰極」と「発光層」との間のものである。加えて、引用発明の「共役高分子化合物1」の「フルオレン-2,7-イル」の繰り返し部分は、アリーレンを反復単位として含む共役ポリマーということができ、また、「フルオレン」の9位は、「COO^(-)Cs^(+)」をイオン性極性基として含む2つのフェニル基(セシオ 2-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}ベンゾアート-5-イル)で置換されている。 そうしてみると、引用発明の「共役高分子化合物1」及び「共役高分子化合物1を含む層」は、それぞれ本願発明の「電子輸送材料」及び「電子輸送層」に相当する。また、引用発明の「共役高分子化合物1を含む層」は、本願発明の「電子輸送層」における、「前記陰極と前記発光層との間の電子輸送材料を含む」との要件を満たす。加えて、引用発明の「共役高分子化合物1」は、本願発明の「電子輸送材料」における、「イオン性極性基を含む少なくとも1種の置換基で置換されているアリーレン反復単位を含む共役ポリマーである」との要件を満たす。 (4)有機発光素子 以上(1)?(3)の対比結果を踏まえると、引用発明の「電界発光素子」は、本願発明の「有機発光素子」における、「陽極と;陰極と;」「発光層と;」「電子輸送層とを含む」という要件を満たす。 3 一致点及び相違点 (1)一致点 本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。 「 陽極と;陰極と;前記陽極と前記陰極との間の発光層と;前記陰極と前記発光層との間の電子輸送材料を含む電子輸送層とを含む有機発光素子であって、前記電子輸送材料がイオン性極性基を含む少なくとも1種の置換基で置換されているアリーレン反復単位を含む共役ポリマーである有機発光素子。」 (2)相違点 本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。 (相違点) 「陰極」が、本願発明は、「導電材料の層および前記電子輸送層と前記導電材料の層との間のアルカリ金属化合物の層を含み」との構成を有するのに対し、引用発明は、「アルミニウム」である点。 4 判断 上記相違点について検討する。 (1)引用文献3の【0399】には、「陰極は」、「単層構造であってもよいし」、「複数層からなる多層構造であってもよい」ことが記載されている。また、【0401】には、「陰極が多層構造である場合、第1陰極層とカバー陰極層の2層構造」「であることが好ましい」こと、「第1陰極層は、陰極の中で最も発光層側にある層をいい、カバー陰極層は、2層構造の場合は第1陰極層を覆う層をい」うことが記載されている。そして、上記「第1陰極層」及び「カバー陰極層」の材料として、引用文献3の【0402】及び【0403】には、それぞれ、「アルカリ金属」「のハロゲン化物」及び「金、銀、銅、アルミニウム、クロム、スズ、鉛、ニッケル、チタン等の低抵抗金属」が例示されている。 そうしてみると、引用発明の「アルミニウムの陰極」に替えて、発光層側から順に「アルカリ金属」「のハロゲン化物」の「第1陰極層」、及び「金、銀、銅、アルミニウム、クロム、スズ、鉛、ニッケル、チタン等の低抵抗金属」の「カバー陰極層」からなる「2層構造」を採用することは、引用文献3の記載が示唆する範囲内の事項である(当合議体注:有機発光素子において、陰極をどのような材料とするかは、発光層のエネルギー準位等を考慮して当業者が適宜設計すべき事項であるところ、上述の2層構造の組み合わせは、エネルギー注入効率に優れる陰極の構造としても、一般的なものである。)。 そして、このように変更してなる「カバー陰極層」及び「第1陰極層」は、それぞれ、本願発明の「導電材料の層」及び「前記電子輸送層と前記導電材料の層との間のアルカリ金属化合物の層」の要件を満たす。 以上勘案すると、引用発明の「陰極」を、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (2)本願発明の効果について ア 本件出願の明細書には、発明の効果に関する明示的な記載がない。ただし、明細書の【0008】には、「有機発光素子、特に高エネルギー励起状態放射体を含有する素子の効率を改善することが本発明の目的である。」と記載されているから、本願発明の効果は、この目的を達することと理解するのが自然である。 イ しかしながら、引用文献3の【0474】には、「表1から明らかなように、本発明の電界発光素子1は、本発明の高分子化合物を含む層を備えていない電界発光素子Aに比べ、発光輝度及び発光効率が優れる。」と記載されているから、上記アの効果は、引用発明が奏する効果である。 (3)請求人の主張について 請求人は、令和2年7月29日の審判請求書に係る手続補正書における「3.本願発明が特許されるべき理由(b)」において、以下の主張を行っている。 (主張1) 「引用文献3には、陰極の多層構造について種々の金属等の組み合わせが網羅的に記載されているに過ぎず、同文献には、アルカリ金属化合物と、本願請求項1で規定するイオン性極性基を含む電子輸送ポリマーとの特定の組み合わせは何ら開示されていない。」 (主張2) 「本願発明は格別顕著な効果を有するものであり、引用文献3から当業者が予測し得るものではない。」 (主張1について) 引用文献3の【0401】には、「電子供給能の観点からは、第1陰極層を構成する材料の仕事関数が3.5eV以下であることが好ましい」こと、及び「カバー陰極層の材料としては、抵抗率が低く、水分への耐腐食性が高い材料(例えば、金属、金属酸化物)が好適に用いられる」ことが記載されている。これに対して、引用発明の「陰極」は、「アルミニウムの陰極」であるから、【0401】でいう「第1陰極層」が不足したものと理解される。そして、「アルカリ金属のハロゲン化物」は、仕事関数が低く電子供給能に優れた陰極側の材料として通常のものであることを勘案すると、引用文献3には、引用発明の「共役高分子化合物1」と「アルカリ金属のハロゲン化物」の組み合わせは、開示されているに等しいものである。 (主張2について) 実験成績証明書を参酌しても、請求人主張する効果は、いずれも格別顕著なものとはいえず、当業者が予期し得る程度のものである。 第3 まとめ 本願発明は、引用文献3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2021-01-06 |
結審通知日 | 2021-01-12 |
審決日 | 2021-02-03 |
出願番号 | 特願2016-562509(P2016-562509) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三笠 雄司、井亀 諭 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 福村 拓 |
発明の名称 | 有機発光素子 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 市川 英彦 |
代理人 | 櫻田 芳恵 |
代理人 | 市川 英彦 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 小野 誠 |
代理人 | 坪倉 道明 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 安藤 健司 |
代理人 | 金山 賢教 |
代理人 | 安藤 健司 |
代理人 | 岩瀬 吉和 |
代理人 | 重森 一輝 |
代理人 | 櫻田 芳恵 |
代理人 | 城山 康文 |
代理人 | 金山 賢教 |