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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1375512
審判番号 不服2020-11236  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-13 
確定日 2021-07-13 
事件の表示 特願2017-532930「多層フィルムコンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月23日国際公開、WO2016/099955、平成30年 3月22日国内公表、特表2018-508118、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年12月4日(パリ条約による優先権主張 2014年12月18日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和1年9月30日付け拒絶理由通知に対して、令和2年1月7日に手続補正がなされたが、令和2年4月8日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対し、令和2年8月13日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において令和3年2月3日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和3年5月7日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明13」という。)は、令和3年5月7日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配設されかつ延伸されている複合積層体と、を備え、
前記複合積層体は、
前記第1電極および前記第2電極と平行に配設された1つ以上の熱可塑性導電層と、
前記1つ以上の熱可塑性導電層に隣接して前記第1電極および前記第2電極と平行に配設された1つ以上の熱可塑性絶縁層と、を含み、
前記1つ以上の熱可塑性導電層は総厚さT_(C)を有し、前記1つ以上の熱可塑性絶縁層は総厚さT_(I)を有し、T_(C)/T_(I)は3を超え、
前記複合積層体は、2つ以上の熱可塑性導電層を含み、少なくとも1つの熱可塑性絶縁層が、各熱可塑性導電層を分離する、コンデンサ。
【請求項2】
前記1つ以上の熱可塑性絶縁層のうちの少なくとも1つは、複数の絶縁サブレイヤを含む、請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項3】
前記複数の絶縁サブレイヤは、第1の絶縁性熱可塑性ポリマーと、前記第1の絶縁性熱可塑性ポリマーとは異なる第2の絶縁性熱可塑性ポリマーとが交互になった積層体を含む、請求項2に記載のコンデンサ。
【請求項4】
前記1つ以上の熱可塑性導電層の各々は、60Hzの周波数で、10^(-6)S/mを超える平面外導電率を有する、請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項5】
前記1つ以上の熱可塑性導電層の少なくとも1つは、浸透閾値よりも高い濃度で複数の導電性粒子と配合された熱可塑性ポリマーを含む、請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項6】
前記複合積層体は、60Hzの周波数で18を超える実数部を有する実効誘電関数を有する、請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項7】
前記複合積層体は、60Hzを超える周波数の共振を持つ実効誘電関数を有する、請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項8】
前記複合積層体が、1Hzと10MHzとの間に、実効損失正接が0.001未満となる周波数を有する、請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項9】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配設されかつ延伸されている複合積層体と、を備え、
前記複合積層体は、
前記第1電極および前記第2電極と平行に配設された2つ以上の熱可塑性導電層と、
前記第1電極および前記第2電極と平行に配設されかつ前記2つ以上の熱可塑性導電層が散在している2つ以上の熱可塑性絶縁層と、
前記2つ以上の熱可塑性導電層のうちの少なくとも1つは、浸透閾値よりも高い濃度で複数の導電性粒子と配合された熱可塑性ポリマーを含み、
前記2つ以上の熱可塑性導電層は総厚さT_(C)を有し、前記2つ以上の熱可塑性絶縁層は総厚さT_(I)を有し、T_(C)/T_(I)は3を超える、
コンデンサ。
【請求項10】
前記2つ以上の熱可塑性絶縁層のうちの少なくとも1つは、複数の絶縁サブレイヤを含む、請求項9に記載のコンデンサ。
【請求項11】
前記複合積層体は、60Hzの周波数で20を超える実数部を持つ実効誘電関数を有する、請求項9に記載のコンデンサ。
【請求項12】
コンデンサの製造方法であって、
少なくとも1つの熱可塑性絶縁材料を提供するステップと、
少なくとも1つの熱可塑性導電材料を提供するステップと、
前記少なくとも1つの熱可塑性絶縁材料と前記少なくとも1つの熱可塑性導電材料とを共押出して複合積層体を形成するステップと、
前記複合積層体を延伸するステップと、
前記複合積層体の第1側に第1の電極を貼り付けるステップと、
前記複合積層体の前記第1側と反対側の前記複合積層体の第2側に第2の電極を貼り付けるステップと、を備え、
前記複合積層体は、
前記第1電極および前記第2電極と平行に配設されかつ総厚さT_(C)を有する1つ以上の導電層と、
前記第1電極および前記第2電極と平行に配設されかつ総厚さT_(I)を有する1つ以上の絶縁層と、を含み、
T_(C)/T_(I)は3を超え、
前記複合積層体は、2つ以上の熱可塑性導電層を含み、少なくとも1つの熱可塑性絶縁層が、各熱可塑性導電層を分離する、製造方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの熱可塑性導電材料は、浸透閾値より高い濃度で複数の導電性粒子と配合された熱可塑性ポリマーを含む、請求項12に記載の製造方法。」

第3 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第1号違反について
(1)当審では、請求項1及び9には「複合積層体」が延伸させたものであることが特定されていないため、請求項1ないし12に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない、との拒絶の理由を通知した。これに対し、令和3年5月7日付けの手続補正において、「かつ延伸されている複合積層体」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

(2)当審では、請求項9には、熱可塑性導電層は総厚さTCを有し、熱可塑性絶縁層は総厚さTIを有し、TC/TIは3を超えることが特定されていないため、請求項9、11及び12に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない、との拒絶の理由を通知した。これに対し、令和3年5月7日付けの手続補正において、「前記2つ以上の熱可塑性導電層は総厚さT_(C)を有し、前記2つ以上の熱可塑性絶縁層は総厚さT_(I)を有し、T_(C)/T_(I)は3を超える」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

2 特許法第36条第6項第2号違反について
当審では、請求項1及び9には「複合積層体」が延伸させたものであることが特定されていないため、請求項1ないし12に係る発明は明確でない、との拒絶の理由を通知した。これに対し、令和3年5月7日付けの手続補正において、「かつ延伸されている複合積層体」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第4 原査定の拒絶の理由について
1 原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。
理由1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由5.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

●理由1(特許法第36条第4項第1号)及び理由2(同条第6項第1号)について

・請求項 8
請求項8には「前記複合積層体が、1Hzと10MHzとの間の周波数で、0.001未満の実効損失正接を有する」と記載されている。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明に記載された「複合積層体」は、1Hzと10MHzとの間の周波数で、0.01未満の実効損失正接を有し、及び/又は、1000Hzと1MHzとの間の周波数で、0.001未満の実効損失正接を有するに過ぎず、「1Hzと10MHzとの間の周波数で、0.001未満の実効損失正接を有する」ものではない。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が請求項8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
また、請求項8に係る発明は、実質的に、発明の詳細な説明に記載したものでない。

●理由5(特許法第29条第2項)について

・請求項 1-14
・引用文献等 1、2

<引用文献等一覧>
1.特開昭58-23114号公報
2.米国特許出願公開第2011/0165405号明細書

2 原査定の拒絶の理由についての判断
(1)理由1(特許法第36条第4項第1号)及び理由2(同条第6項第1号)について
令和2年8月13日の手続補正により請求項8は「前記複合積層体が、1Hzと10MHzとの間に、実効損失正接が0.001未満となる周波数を有する」と補正され、令和3年5月7日の手続補正においても請求項8は同じ補正がされた結果、この拒絶理由は解消した。

(2)理由5(特許法第29条第2項)について
ア 引用文献、引用発明等
(ア)引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開昭58-23114号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。
a 「第1図は本発明の第1の実施例を示すものであって、複合フィルム(1)は、基体フィルム層(2)と、その両面に積層された誘電体層(3)(3)’とからなっている。基体フィルム層(2)は熱可塑性樹脂(4)の中に金属粉末又はカーボンブラック等の導電性微粒子(5)がほぼ均一に分散されて構成されている。また、誘電体層(3)(3)’は、電気絶縁性の良い熱可塑性樹脂で夫々構成されている。なお、誘電体層(3)又は(3)’は基体フィルム層(2)の片面のみに設けられても良く、また、両面に設ける場合でも、これら両面の樹脂の種類、膜厚などを互いに異ならせて良い。」(2頁右上欄3-13行)

b 「本例のような複合フィルム(1)は、例えば導電性微粒子(5)を含有する熱可塑性樹脂(4)と、誘電体膜を形成する熱可塑性樹脂(3)及び/又は(3)’とを別々の押出機より押出し、これを複合ダイス内で共押出しした後、一軸若しくは二軸方向に延伸することにより容易に製造することができる。」(2頁右上欄14-19行)

c 「一般には誘電体層(3)(3)’の厚みは基体層(2)の厚みの2倍以下が好ましく、更に好ましくは同等以下、より一層好ましくは1/2?1/50である。」(3頁右下欄9-11行)

d 「本例のような複合フィルム(1)は、その片面又は両面に、例えば蒸着、スパッタリングなどにより薄膜電極を付して、積層コンデンサ、重ね巻きコンデンサ等のフィルムコンデンサや容量型スイッチの誘電体材料として使用される。」(3頁右下欄15-19行)

上記記載より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている(括弧[]は、認定に用いた引用文献1の記載箇所を示す。)。
「複合フィルム(1)の両面に、薄膜電極を付したフィルムコンデンサであって[d]、
複合フィルム(1)は、基体フィルム層(2)と、その両面に積層された誘電体層(3)(3)’とからなっており[a]、
基体フィルム層(2)は熱可塑性樹脂(4)の中に導電性微粒子(5)がほぼ均一に分散されて構成され[a]、
誘電体層(3)(3)’は、電気絶縁性の良い熱可塑性樹脂で夫々構成され[a]、
複合フィルム(1)は延伸することにより製造されたものであり[b]、
誘電体層(3)(3)’の厚みは基体層(2)の厚みの1/2?1/50である[c]、
フィルムコンデンサ。」

(イ)引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(米国特許出願公開第2011/0165405号明細書)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「[0138] FIG. 19 provides a diagram of graded artificial dielectric 1900 having periodically varying characteristics, according to an embodiment of the invention. Graded artificial dielectric 1900 includes dielectric 1920 and nanostructures, such as nanostructure 1910. Dielectric 1920 has the same properties as dielectric 1720 and nanostructures 1910 have the same properties as nanostructures 1710.
[0139] In this embodiment, density of the nanostructures varies periodically from the left to right of graded artificial dielectric 1900. In particular, for illustration purposes graded artificial dielectric 1900 is divided into four regions from left to right. These regions are 1930, 1940, 1950 and 1960. Within regions 1930 and 1950, the density of the nanostructures is relatively low, while within regions 1940 and 1960, the density of the nanostructures is relatively high. This creates a periodically varying dielectric response. Note that the regions are artificial for the purpose of illustration, ideally the density will change gradually at the region interfaces to avoid or minimize discontinuous dielectric boundaries.」
(当審訳:[0138] 図19は、周期的に変化する特性を有する段階的人工誘電体1900を示す、本発明の実施の形態を提供する。人工誘電体1900は、誘電体1920、ナノ構造、ナノ構造1910を含む。誘電体1920は、誘電体1720と同じ特性を有しており、ナノ構造体1910は、ナノ構造1710と同じ特性を有する。
[0139] この実施形態では、人工誘電体1900の右から左へと周期的に変化するナノ構造体の密度である。具体的には、例示の目的のために段階的な人工誘電体1900は左から右に4領域に分割されている。これらの領域は、1930、1940、1950および1960である。領域1930及び1950内には、ナノ構造体の密度が比較的低く、領域1940および1960内のナノ構造体の密度が高くなる。これは、周期的に変化する誘電体応答を作成する。この領域は、例示の目的のためには人工的なもので、理想的には、密度は、領域境界は、不連続な誘電体境界を回避または最小化するように徐々に変化する。)

上記記載より、引用文献2には、次の技術が記載されている。
「誘電体とナノ構造を含み、ナノ構造の密度が周期的に変化する人工誘電体。」

イ 対比、判断
(ア)本願発明1について
a 対比
本願発明1と引用発明を対比する。
(a)引用発明の「フィルムコンデンサ」における「両面」の「薄膜電極」は、本願発明1の「第1電極」及び「第2電極」に相当する。
そうすると、引用発明の「両面に薄膜電極を付した」「延伸することにより製造された」「複合フィルム(1)」は、本願発明1の「前記第1電極と前記第2電極との間に配設されかつ延伸されている複合積層体」に相当する。

(b)引用発明の「複合フィルム(1)」は、「基体フィルム層(2)と、その両面に積層された誘電体層(3)(3)’とからなっており」、かつ、「薄膜電極」は「複合フィルム(1)」の「両面に」「付した」ものであるから、「基体フィルム層(2)」及び「誘電体層(3)(3)’」が、「薄膜電極」と平行であることは明らかである。
そうすると、引用発明の「熱可塑性樹脂(4)の中に導電性微粒子(5)がほぼ均一に分散されて構成され」た「基体フィルム層(2)」は、本願発明1の「前記第1電極および前記第2電極と平行に配設された1つ以上の熱可塑性導電層」に相当する。
同様に、引用発明の「基体フィルム層(2)」の「両面に積層され」「電気絶縁性の良い熱可塑性樹脂で夫々構成され」た「誘電体層(3)(3)’」は、本願発明1の「前記1つ以上の熱可塑性導電層に隣接して前記第1電極および前記第2電極と平行に配設された1つ以上の熱可塑性絶縁層」に相当する。

(c)上記(b)を踏まえると、引用発明の「複合フィルム(1)は、基体フィルム層(2)と、その両面に積層された誘電体層(3)(3)’とからなって」いることは、本願発明1の「前記複合積層体は、」「熱可塑性導電層と、」「熱可塑性絶縁層と、を含」むことに相当する。
但し、複合積層体について、本願発明1は「2つ以上の熱可塑性導電層を含み、少なくとも1つの熱可塑性絶縁層が、各熱可塑性導電層を分離する」のに対して、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。

(d)引用発明は「誘電体層(3)(3)’の厚みは基体層(2)の厚みの1/2?1/50」であり、基体層(2)の厚みは誘電体層(3)(3)’の厚みより厚いことから、本願発明1とは「前記1つ以上の熱可塑性導電層は総厚さT_(C)を有し、前記1つ以上の熱可塑性絶縁層は総厚さTIを有し、T_(C)はT_(I)より厚い」点で共通する。
但し、T_(C)/T_(I)について、本願発明1は「3を超え」るのに対して、引用発明は2?50である点で相違する。

(e)引用発明の「複合フィルム(1)の両面に、薄膜電極を付したフィルムコンデンサ」は、本願発明1の「第1電極と、第2電極と、」「複合積層体と、を備え」ている、「コンデンサ」に相当する。

すると、本願発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配設されかつ延伸されている複合積層体と、を備え、
前記複合積層体は、
前記第1電極および前記第2電極と平行に配設された1つ以上の熱可塑性導電層と、
前記1つ以上の熱可塑性導電層に隣接して前記第1電極および前記第2電極と平行に配設された1つ以上の熱可塑性絶縁層と、を含み、
前記1つ以上の熱可塑性導電層は総厚さT_(C)を有し、前記1つ以上の熱可塑性絶縁層は総厚さT_(I)を有し、T_(C)はT_(I)より厚い、
コンデンサ。」

(相違点1)
T_(C)/T_(I)について、本願発明1は「3を超え」るのに対して、引用発明は2?50である点。
(相違点2)
複合積層体について、本願発明1は「2つ以上の熱可塑性導電層を含み、少なくとも1つの熱可塑性絶縁層が、各熱可塑性導電層を分離する」のに対して、引用発明は、そのような特定がない点。

b 判断
事案に鑑み、まず、上記相違点2について検討する。
引用文献2には、誘電体とナノ構造を含み、ナノ構造の密度が周期的に変化する人工誘電体が記載されている(上記「ア (イ)」)。
しかしながら、引用文献2記載の人工誘電体は、熱可塑性絶縁層が、各熱可塑性導電層を分離する構造ではなく、また、他にそのような構造は記載されていない。
また、コンデンサにおいて、熱可塑性絶縁層と2つ以上の熱可塑性導電層を含み、少なくとも1つの熱可塑性絶縁層が、各熱可塑性導電層を分離する複合積層体を用いることが周知技術であったともいえない。
そうすると、引用発明において、「基体フィルム層(2)と、その両面に積層された誘電体層(3)(3)’とからなって」いる「複合フィルム(1)」に換えて、2つ以上の熱可塑性導電層を含み、少なくとも1つの熱可塑性絶縁層が、各熱可塑性導電層を分離する複合積層体を用いて上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

よって、本願発明1は、上記相違点1について検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(イ)本願発明2ないし8について
本願発明2ないし8も、本願発明1の「2つ以上の熱可塑性導電層を含み、少なくとも1つの熱可塑性絶縁層が、各熱可塑性導電層を分離する」「複合積層体」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(ウ)本願発明9ないし11について
本願発明9ないし11は、本願発明1の「2つ以上の熱可塑性導電層を含み、少なくとも1つの熱可塑性絶縁層が、各熱可塑性導電層を分離する」「複合積層体」に対応する「前記2つ以上の熱可塑性導電層が散在している2つ以上の熱可塑性絶縁層」を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(エ)本願発明12について
本願発明12は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の「2つ以上の熱可塑性導電層を含み、少なくとも1つの熱可塑性絶縁層が、各熱可塑性導電層を分離する」「複合積層体」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(オ)本願発明13について
本願発明13は、本願発明12を引用する方法の発明であり、本願発明1の「2つ以上の熱可塑性導電層を含み、少なくとも1つの熱可塑性絶縁層が、各熱可塑性導電層を分離する」「複合積層体」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)まとめ
したがって、本願発明1ないし13は、原査定の拒絶の理由1、2及び5によって、拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-06-22 
出願番号 特願2017-532930(P2017-532930)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01G)
P 1 8・ 121- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木下 直哉  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 畑中 博幸
須原 宏光
発明の名称 多層フィルムコンデンサ  
代理人 佃 誠玄  
代理人 浅村 敬一  
代理人 野村 和歌子  
代理人 赤澤 太朗  

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