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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B62D
管理番号 1375517
審判番号 不服2019-15174  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-12 
確定日 2021-06-22 
事件の表示 特願2018-216966「運転支援システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 6月 4日出願公開、特開2020- 82879〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年11月20日に出願された特願2018-216966号であり、その手続きの経緯は、概略、以下のとおりである。
平成30年12月25日付け:拒絶理由通知
平成31年 3月14日 :意見書及び手続補正書
令和 元年 5月10日付け:拒絶理由通知
令和 元年 7月 4日 :意見書及び手続補正書
令和 元年 8月15日付け:拒絶査定(原査定)
令和 元年11月12日 :審判請求及び手続補正書
令和 2年10月26日付け:拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)
令和 3年 1月14日 :意見書及び手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和3年1月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「車両(1)の操舵輪(2)、(3)直近の車体低位置に固定するCMOS又はCCDタイプの3Dレーザセンサ(4)、(5)内の光源部(A)から多面回転鏡へレーザ光(6)を照射し、該多面回転鏡から反射したレーザ光(6)該スポットは線状となり前記車両(1)の走行方向と並行する車線境界線上の回帰反射性路面標示(8)、(9)、(10)越えまでの走査で、回帰反射性路面標示(8)、(9)、(10)上の交差部に強い回帰反射スポットが形成され、前記スポットの位置は車両(1)の走行により車線境界線に沿って移動され、CMOS又はCCDタイプの3Dレーザセンサ(4)、(5)に回帰するレーザ光(6)の入射角から同位置を操舵輪(2)、(3)下端外側から両車線境界線までの最短距離に三角測距法によりCPU(11)おいて、常に左右一括して演算し車線中央に沿った操舵を制御することを特徴とする区画線認識制御装置(14)を搭載する、運転支援システム。」

第3 拒絶の理由
令和2年10月26日付けの当審拒絶理由通知において、当審が通知した拒絶理由のうちの理由1(進歩性)は、次のとおりである。

本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載されたような周知の事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開2016-20125号公報
2.特開平3-277988号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平7-332966号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
当審拒絶理由通知で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、引用文献1には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。以下、同様。)。

ア.「【0016】手動運転による道路の視認性を高める為、回帰性反射機能を有し車線境界線を構成している路面標示8を背景のアスファルト等の路面10とのコントラスト比や変位率を大きくして距離を安定計測するために、CMOSレーザセンサ9を自車両2の前部両側下端部に左右対称となる様に固定し、両脇の路面10を同調して内側から外に向かって走査し、路面標示8までの読取距離が左右均しくなる様にハンドル11を操作するモーター12の回転方向を自動運転制御部18によって制御し自車両2の中心、即ち旋回半径が、車線中央13に沿って旋回し自動運転を可能にする。」

イ.「【0020】本発明の自動運転機構は、路面標示8で区画されたインフラ協調型の自動運転メカニズムで、制限速度以下であれば昼夜間・天候・起伏・カーブ等の環境に左右されず、車線内の先行車3や周辺車両14との車々間通信で、車線区分を始め速度や路面の摩擦係数に応じた適正な車間距離6を保持し、車両前部の両側に左右対称に固定したCMOSレーザセンサ9から600±400mm離れた白線等の路面標示8を検知、両側の車線境界線までの距離を計測しながら、車線中央13に沿って自動運転できるという特徴がある。」

ウ.「【0022】自車両2の前部両側に左右対称となる様に固定したCMOSレーザセンサ9で600±400mm離れた白線等の路面標示8を検知し、距離を計測するという目的を、最小の部品点数で外観を損なわずに実現した。」

エ.「【0024】CMOSレーザセンサ9は、自車両2の前部両側下端部から白線等の左右路面標示8を検知し距離を計測するため、常に路面10を走査しておりデータ5は自動運転制御部18でアクセルやブレーキの制御だけでなくハンドル11と連動するモーター12に信号を出力して自車両2が車線中央13沿って自動運転される様になる。」

オ.記載事項ア.?エ.並びに図1及び図3の図示内容によると、CMOSレーザセンサ9は、自車両2の前輪直近の車体の低位置に左右対称となるように固定されているといえる。また、図1の図示内容によると、前輪はハンドル11と接続されており、前輪は操舵輪であるといえる。すると、CMOSレーザセンサ9は、自車両2の操舵輪直近の車体低位置に左右対称となるように固定されているといえる。

カ.記載事項ア.、イ.及びエ.並びに図1及び図3の図示内容によると、CMOSレーザセンサ9により、路面10を内側から外側に向かって常に走査して、回帰性反射機能を有し車線境界線を構成した路面標示8を検知して両側の車線境界線までの距離を計測し、路面標示8までの読取距離が左右均しくなる様にハンドル11を操作するモーター12の回転方向を自動運転制御部18によって制御し、自車両2の中心を車線中央13に沿って旋回させているといえる。

(2)引用発明
前記引用文献1の記載事項ア.?カ.及び図面の図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「自車両2の操舵輪直近の車体低位置に左右対称となるように固定されたCMOSレーザセンサ9により、路面10を内側から外側に向かって常に走査して、回帰性反射機能を有し車線境界線を構成した路面標示8を検知して両側の車線境界線までの距離を計測し、路面標示8までの読取距離が左右均しくなる様にハンドル11を操作するモーター12の回転方向を自動運転制御部18によって制御し、自車両2の中心を車線中央13に沿って旋回させる自動運転機構。」

2.引用文献2の記載
当審拒絶理由通知で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、引用文献2には、図面とともに、次の記載がある。

(1)「すなわち、21は追尾式距離計、22a,22bは光を発射し、その反射光を検出することによって距離を計測する方式の距離計で、光の往復の時間を計測する方式でもよく、三角測量による方式でも良い。この1対の距離計22a,22bは図示しない自車両の側方に設けられ、自車両の側方から近距離用として自車両の側方の先方を監視して、割り込み車両23が近距離領域内に入るのを監視するようにしている。」(明細書第2ページ右下欄第12行-第20行)

(2)「この測距方法としては、或る特定の変調された短かいパルス光を発射し、往復の時間を測る方法と、第3図に示すように、発光器41から発射した障害物9aの表面のスポット像42をレンズ系43で受光素子44上に結像させ、その結像位置から三角測量法によって距離を求める方法とがある。
この場合も、光軸から結像位置までの距離をa、レンズの焦点距離をf、基線長をLとすれば、距離Rは次の(2)式((1)式と同じ)で求められる。
R=f・L/a ・・・(2)
このような距離計22a,22bは1台設置しても良いし、複数台設置しても良い。」(明細書第3ページ左下欄第12行-右下欄第4行)

3.引用文献3の記載
当審拒絶理由通知で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、引用文献3には、図面とともに、次の記載がある。

(1)「【0009】・・次の実施例につき図4を用い説明する。図1,図2で示した実施例と同様に、カメラ5内にあるイメージセンサ13を使って前方の画像を取り込み、距離を計測すべき目標車両2を抽出する。その後目標車両2へ向けて送光部3からレーザ光を照射する。送光部3内の送光器10から送り出されるレーザ光は、送信光学系11を通って送光される。送り出された光は目標車両2で反射され、その反射光は受信光学系12を通ってイメージセンサ13に結像される。このときイメージセンサ13では受信光学系12の光学中心から結像部までの距離xを計測し信号処理部9へ出力する。信号処理部9では目標車両2までの距離Rを、送信光学系11の光学中心と受信光学系12の光学中心との距離である基線長Bと光学系の焦点距離fとイメージセンサでの測定値xとから、三角測量の原理で次式を用いて目標車両2までの距離Rを算出する。」

(2)「【0010】
【数1】 R=B・f/x ・・・(数1)
R:目標までの距離
B:送信系と受信系の基線長
f:光学系焦点距離 」

(3)「【0011】例えばイメージセンサ13にCCDカメラを用いた場合、CCDカメラ受光部の画素間隔は通常十数マイクロメートルであり、基線長Bを20cm,焦点距離を5cmとすると、距離Rは50m前方において約3mの分解能で計測可能となる。」

第5 対比
以下、本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「自車両2」は、本願発明の「車両(1)」に相当し、引用発明の「CMOSレーザセンサ9」は、本願発明の「CMOSタイプの3Dレーザセンサ(4)、(5)」に相当する。すると、引用発明の「自車両2の操舵輪直近の車体低位置に左右対称となるように固定されたCMOSレーザセンサ9」という事項は、本願発明の「車両(1)の操舵輪(2)、(3)直近の車体低位置に固定するCMOSタイプの3Dレーザセンサ(4)、(5)」に相当する。
引用発明の「回帰性反射機能を有し車線境界線を構成した路面標示8」は、自車両2が車線中央13に沿って走行することで、車線境界線は自車両2の走行方向と並行するといえるから、本願発明の「前記車両(1)の走行方向と並行する車線境界線上の回帰反射性路面標示(8)、(9)、(10)」に相当する。
引用発明の「CMOSレーザセンサ9により、路面10を内側から外側に向かって常に走査して、回帰性反射機能を有し車線境界線を構成した路面標示8を検知して両側の車線境界線までの距離を計測し、路面標示8までの読取距離が左右均しくなる様にハンドル11を操作するモーター12の回転方向を自動運転制御部18によって制御し、自車両2の中心を車線中央13に沿って旋回させる」という事項において、路面10を走査する「CMOSレーザセンサ9」は、路面10上の車線境界線に対して内側から外側に向かって走査するように、レーザ光を照射していることは明らかであり、その指向性を考慮すると、「CMOSレーザセンサ9」により照射されるレーザ光によって路面10上に形成されるスポットは線状であるといえる。また、引用発明の「CMOSレーザセンサ9」は、「路面10を内側から外側に向かって常に走査して」路面標示8を検知しており、そのレーザ光の走査範囲は路面標示8を含むものとなるから、引用発明の「CMOSレーザセンサ9」は、回帰性反射機能を有する路面標示8上の交差部に回帰反射スポットを形成するものといえる。そして、引用発明の「CMOSレーザセンサ9」は自車両2に固定されるものであるから、「CMOSレーザセンサ9」のレーザ光によって形成されるスポットの位置は、自車両2の走行とともに車線境界線に沿って移動するものである。さらに、引用発明の「CMOSレーザセンサ9」は「左右対称となるよう固定され」ているから、CMOSレーザセンサ9による、両側の車線境界線までの距離の計測は、左右の距離を計測しているといえる。加えて、引用発明の「自動運転制御部18」は、車線境界線を構成する路面標示8との距離が左右で均しく、自車両2の中心が車線中央13に沿うようにハンドル11を制御しているといえる。すると、引用発明の「CMOSレーザセンサ9により、路面10を内側から外側に向かって常に走査して、回帰性反射機能を有し車線境界線を構成した路面標示8を検知して両側の車線境界線までの距離を計測し、路面標示8までの読取距離が左右均しくなる様にハンドル11を操作するモーター12の回転方向を自動運転制御部18によって制御し、自車両2の中心を車線中央13に沿って旋回させる」いう事項と、本願発明の「CMOS又はCCDタイプの3Dレーザセンサ(4)、(5)内の光源部(A)から多面回転鏡へレーザ光(6)を照射し、該多面回転鏡から反射したレーザ光(6)該スポットは線状となり前記車両(1)の走行方向と並行する車線境界線上の回帰反射性路面標示(8)、(9)、(10)越えまでの走査で、回帰反射性路面標示(8)、(9)、(10)上の交差部に強い回帰反射スポットが形成され、前記スポットの位置は車両(1)の走行により車線境界線に沿って移動され、CMOS又はCCDタイプの3Dレーザセンサ(4)、(5)に回帰するレーザ光(6)の入射角から同位置を操舵輪(2)、(3)下端外側から両車線境界線までの最短距離に三角測距法によりCPU(11)おいて、常に左右一括して演算し車線中央に沿った操舵を制御する」という事項は、「CMOSタイプの3Dレーザセンサからレーザ光を照射し、レーザ光によるスポットは線状となり、車両の走行方向と並行する車線境界線上の回帰反射性路面標示を含む範囲の走査で、回帰反射性路面標示上の交差部に回帰反射スポットが形成され、前記スポットの位置は車両の走行により車線境界線に沿って移動され、CMOSタイプの3Dレーザセンサにより、両車線境界線までの左右の距離を計測し、車線中央に沿った操舵を制御する」点において共通する。
引用発明の「自動運転機構」は、CMOSレーザセンサ9により路面10を走査して、両側の車線境界線までの距離を計測し、読取距離に応じてハンドル11の操作を制御するものであって、車線境界線を認識してハンドル11を制御することで、自車両2の運転を支援しているといえるから、本願発明の「区画線認識制御装置(14)を搭載する、運転支援システム」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「車両の操舵輪直近の車体低位置に固定するCMOSタイプの3Dレーザセンサからレーザ光を照射し、レーザ光によるスポットは線状となり、車両の走行方向と並行する車線境界線上の回帰反射性路面標示を含む範囲の走査で、回帰反射性路面標示上の交差部に回帰反射スポットが形成され、前記スポットの位置は車両の走行により車線境界線に沿って移動され、CMOSタイプの3Dレーザセンサにより、両車線境界線までの左右の距離を計測し、車線中央に沿った操舵を制御する区画線認識制御装置を搭載する、運転支援システム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
レーザ光の走査について、本願発明は、「3Dレーザセンサ(4)、(5)内の光源部(A)から多面回転鏡へレーザ光(6)を照射し、該多面回転鏡から反射し」て走査するのに対し、引用発明は、CMOSレーザセンサ9により路面10を走査するものの、どのような機構で走査するのか不明な点。

[相違点2]
レーザ光の走査範囲について、本願発明は、「回帰反射性路面標示(8)、(9)、(10)越えまで」であるのに対し、引用発明は、「路面10を内側から外側に向かって常に走査して」いるものの、「路面標示8」超えまでか不明な点。

[相違点3]
回帰反射性路面標示上の交差部に形成される回帰反射スポットについて、本願発明では、「強い」回帰反射スポットであるのに対し、引用発明では、「CMOSレーザセンサ9」が、回帰性反射機能を有する路面標示8上の交差部に回帰反射スポットを形成するものの、この回帰反射スポットが強い回帰反射スポットであるのか明らかでない点。

[相違点4]
車線境界線までの距離を計測する手段について、本願発明は、「3Dレーザセンサ(4)、(5)に回帰するレーザ光(6)の入射角から同位置を操舵輪(2)、(3)下端外側から両車線境界線までの最短距離に三角測距法によりCPU(11)おいて、常に左右一括して演算」するのに対し、引用発明は、CMOSレーザセンサ9により、路面10を走査して車線境界線までの左右の距離を計測するものの、どこからの距離を、どのように計測しているのかが明確でない点。

第6 判断
1.相違点について
以下、前記相違点について判断する。
[相違点1]について
引用発明の「CMOSレーザセンサ9」は、どのような機構でレーザ光を走査するのか明らかでないが、レーザ光を走査する光走査器として回転平面鏡や回転多面鏡があることは、特開平1-143911号(明細書第4ページ右下欄第12行-明細書第5ページ左上欄第9行を参照。)で示されるように、本願の出願前から周知の事項である。すると、引用発明において、前記周知の事項にならい、光走査器として回転多面鏡を採用して、光源からのレーザ光を回転多面鏡で反射させることによってレーザ光を走査することは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、引用発明に、前記周知の事項を適用し、本願発明の相違点1に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点2]について
まず、本願発明の「回帰反射性路面標示(8)、(9)、(10)」とは、この出願の明細書の段落【0025】の「球形ガラスビーズを施した回帰反射性路面標示の車線境界線」との記載を考慮すると、図1、10、11に示されるような車線境界線そのものを意味するものと解される。
そして、引用発明は、「CMOSレーザセンサ9」により「路面10」を内側から外側に向かって常に走査して、「車線境界線までの距離を計測」するものであるところ、引用文献1の図3には、「CMOSレーザセンサ9」から照射される2つのレーザ光が「路面標示8」を挟むように点線で示されており、レーザ光の走査範囲を点線で示された2つのレーザ光の間としていること、つまり車線境界線越えまでの範囲に設定していることが示唆されているといえる。そうすると、引用発明は、自動運転を実施するに際して、外部環境である車線境界線を正確に検出するために、レーザ光の走査範囲を車線境界線越えまでの範囲に設定しているものと認められるから、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
また仮に、相違点2が実質的な相違点であるとしても、引用発明において、自車両に対する車線境界線の位置を検出することは必要であるから、引用発明において、固定設置された「CMOSレーザセンサ9」のレーザ光の走査範囲を車線境界線越えまでの範囲に設定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点3]について
本願発明の回帰反射スポットが「強い」とは、その比較の対象や基準が明らかでなく、どの程度の強さであるのか不明である。そして、引用発明においても、「CMOSレーザセンサ9」が、回帰性反射機能を有する路面標示8上の交差部に回帰反射スポットを形成するものであり、この回帰反射スポットは、一定以上の「強い」回帰反射スポットといえるから、相違点3は、実質的な相違点であるとはいえない。
また仮に、本願発明の回帰反射スポットが「強い」とは、回帰反射性路面標示(8)、(9)、(10)上の交差部の回帰反射スポットが、回帰反射性路面標示(8)、(9)、(10)以外の箇所より、「強い」ことを意味しているとしても、引用発明の「回帰性反射機能を有し車線境界線を構成した路面標示8」は、光の入射方向へ向けて光を反射するという回帰性反射機能を有するものであるから、当該路面標示8上の交差部に形成される回帰反射スポットは他の箇所に比べて、当然、強くなるものといえる。また、引用文献1の段落【0016】には、「回帰性反射機能を有し車線境界線を構成している路面標示8を背景のアスファルト等の路面10とのコントラスト比や変位率を大きくして距離を安定計測するために、CMOSレーザセンサ9を自車両2の前部両側下端部に左右対称となる様に固定」すると記載されており、これによれば、CMOSレーザセンサ9からレーザ光を路面10に照射した場合に、少なくとも、路面標示8上には(回帰性反射機能のない)背景のアスファルトに比べて、強いスポットが形成されるものといえる。そうすると、相違点3は実質的な相違点とはいえない。
仮に、相違点3が実質的な相違点であるとしても、路面標示8上の交差部に形成される回帰反射スポットが弱い場合には、自車両2の自動運転を行うために必須となる車線境界線の検出が正確にできなくなるから、引用発明において、CMOSレーザセンサ9が照射するレーザ光の強度を上げて、路面標示8上の交差部に形成される回帰反射スポットを強くすることは、当業者が適宜なし得たことである。

[相違点4]について
運転支援システムにおいて、レーザ光を照射し目標物で反射した反射光をセンサの受光部のレンズを通して受光素子上に投影させて、目標物までの距離を三角測距法によりCPUにおいて常に演算することは、引用文献2(前記「第4 2.」の記載事項(1)、(2)及び第3図を参照。)や、引用文献3(前記「第4 3.」の記載事項(1)-(3)及び図4を参照。)に記載されているように、本願の出願前から周知の事項である。ここで、引用文献2及び引用文献3には、レンズの焦点距離と受光素子上の結像位置とを用いて目標物までの距離を演算することが記載されているが、レンズの焦点距離と受光素子上の結像位置との関係は、レーザ光の入射角に依存するものであるから、前記した周知の事項は、レーザ光の入射角から目標物までの距離を演算しているといえる。
このように、三角測距法が周知の距離計測法であり、加えて、引用文献1の段落【0024】の「CMOSレーザセンサ9は、自車両2の前部両側下端部から白線等の左右路面標示8を検知し距離を計測するため、常に路面10を走査して」いるとの記載や、引用文献1の図3で示される自車両2の正面視において、CMOSレーザセンサ9の位置、路面10上に形成されるスポットの位置、及び操舵輪下端外側の位置をそれぞれ頂点とする直角三角形が形成されることを考慮すると、引用発明において、両車線境界線までの左右の距離を計測するに際して、レーザ光を照射しレーザ光と路面標示8との交差部に形成された回帰反射スポットをCMOSレーザセンサ9の受光部のレンズを通して受光素子上に投影させて、レーザ光の入射角から、自車両2の操舵輪下端外側から両車線境界線までの最短距離を三角測距法によりCPUにおいて常に左右一括して演算することは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、引用発明に、前記周知の事項を適用し、本願発明の相違点4に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものである。

2.本願発明の作用効果について
本願発明の作用効果については、引用発明及び前記周知の事項から当業者が予測できる範囲のものである。

3.請求人の主張について
(1)請求人は、令和3年1月14日に提出した意見書において、「引用発明1に記載の発明では、測点が回帰反射スポットで有るが故に敢えてレーザ光で左右同調して内側から外に向かって走査し車線境界線(対象物)から回帰した回帰反射スポットを三角測距法により毎走査時に計測する構成である」のに対し、「本願発明では、車線境界線越えまでセンサ(4)、(5)内の光源部(A)から多面回転鏡へレーザ光(6)を照射し、該多面回転鏡の高速回転によってレーザ光(6)スポットは、パルスし繋がって線状となり太陽光や外乱反射光とも識別され走査線上を車線境界線(対象物)に沿って移動させる強い回帰反射スポットを車線境界線(対象物)の位置として路面から際立たせCMOS又はCCDタイプの3Dレーザセンサ(4)、(5)に回帰するレーザ光(6)の入射角から同位置を操舵輪(2)、(3)下端外側から両車線境界線までの最短距離に三角測距法によりCPU(11)おいて、常に、一括して演算し車線中央に沿った操舵を制御する構成である」点で、両者は相違する旨を主張している。
しかし、請求人が主張する前記[相違点1]-[相違点4]に係る本願発明の構成は、前記「第6 1.」で検討したように、引用発明及び周知の事項から当業者が容易に想到し得たものである。

(2)また、請求人は、同意見書において、「引用発明1に記載の発明では、車線境界線(対象物)までの距離は、センサの発光部から車線境界線、更に受光部を結ぶ直角三角形で求められ受光する素子(フォトダイオード)の位置も桁が異なる構成で毎走査時に導かれるものである」のに対し、「本願発明では、車線境界線(対象物)までの距離は、操舵輪(2)、(3)下端外側から両車線境界線、更にセンサの受光部を結ぶ直角三角形で求められ線状の走査線に対応した1行の受光素子(フォトダイオード)で受光し電荷に変換することで順次操舵輪下端外側から車線境界線(対象物)までの距離として計測する構成で常に導かれるものである」点で、両者は相違する旨を主張している。
しかし、本願の請求項1には、CMOS又はCCDタイプの3Dレーザセンサ(4)、(5)に回帰するレーザ光(6)が「線状の走査線に対応した1行の受光素子(フォトダイオード)で受光」されることが特定されておらず、請求人の前記主張は本願の請求項1の記載に基くものではない。
仮に、請求項1に記載された事項であったとしても、前記「第5 対比」で検討したように、引用発明も、CMOSレーザセンサ9により照射されるレーザ光によって路面10上に形成されるスポットは線状であるから、引用発明において、CMOSレーザセンサ9に回帰するレーザ光を「線状の走査線に対応した1行の受光素子(フォトダイオード)で受光」するように構成することは、当業者にとって容易に想到し得たことである。

(3)さらに、請求人は、同意見書において、「引用発明1に記載の構成では、車両が停止状態では操舵輪下端外側からレーザ光スポットまでの距離の計測値は、計測のタイミングが異なっても測定する位置に変更がなければ測定値に変化はないが、走行時は車体に近い側が早く、遠い側が遅いタイミングで車線境界線を検知するため、左右で操舵輪下端外側からレーザ光スポットまでの距離を計測するタイミングが異なり計測値にも差異を生じ常に左右の操舵輪下端外側から最短車線境界線までの距離を計測し比較して操舵を制御することができず、更に走査周期の間隔に変更が無くても車両の走行速度によって計測の距離間隔に粗・密を生じ走行速度に即応し車両を車線中央へと操舵を制御できない構成である」のに対し、「本願発明では、CMOS又はCCDタイプの3Dレーザセンサ(4)、(5)に回帰するレーザ光(6)の入射角から同位置を操舵輪(2)、(3)下端外側から両車線境界線までの最短距離に三角測距法によりCPU(11)おいて、常に左右一括して演算し車線中央に沿った操舵を制御する構成である」点で、両者は相違する旨を主張している。
しかし、前記「第6 1.」で検討したように、引用発明は、両車線境界線までの左右の距離を計測するものであるから、CPUにおいて常に一括して左右の距離を演算することは、当業者にとって容易に想到し得たことであるといえる。
また、本願発明の「CPU(11)おいて、常に左右一括して演算」するという発明特定事項によって、本願発明のCPUが左側の車線境界線までの距離と右側の車線境界線までの距離とを同じタイミングで演算するものであると解することはできない(なお、左右の車線境界線までの距離を同じタイミングで演算するという事項は、本願の請求項1において規定されておらず、本願の発明の詳細な説明にも記載されていない。)。したがって、請求人の前記主張は採用することはできない。

第7 むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び前記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、この出願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-03-03 
結審通知日 2021-03-23 
審決日 2021-04-06 
出願番号 特願2018-216966(P2018-216966)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武内 俊之  
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 神山 貴行
長馬 望
発明の名称 運転支援システム  

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