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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1375578
審判番号 不服2020-16239  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-25 
確定日 2021-07-20 
事件の表示 特願2018-140345「絶縁電線」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 1月30日出願公開、特開2020- 17429、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成30年7月26日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 元年10月24日付け :拒絶理由通知書
令和 元年12月17日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 4月23日付け :最後の拒絶理由知書
令和 2年 6月24日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 8月24日付け :令和2年6月24日の手続補正につい
ての補正の却下の決定、拒絶査定(原
査定)
令和 2年11月25日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年8月24日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1-7に係る発明は、以下の引用文献1-5に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2017-91627号公報
2.特開2012-39061号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
3.特開2011-132264号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
4.特開2018-20932号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
5.特開2016-126903号公報

第3 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、令和2年11月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
線状の金属導体と、この金属導体の外周面側に積層される絶縁層と、この絶縁層の外周面側かつ最外側に積層され、加熱により膨張する熱融着層とを備える絶縁電線であって、
上記熱融着層が、合成樹脂を主成分とするマトリックスと、
上記マトリックス中に分散する板状又は鱗片状の放熱性フィラーと、
上記マトリックス中に分散する発泡剤と
を有し、
上記放熱性フィラーの上記合成樹脂に対する含有量が10体積%以上60体積%以下であり、
上記放熱性フィラーが、平均粒子径が10μm以上30μm以下であり、かつ平均厚さが0.1μm以上5μm以下であり、
上記発泡剤が有機発泡剤であり、
上記発泡剤の上記合成樹脂100質量部に対する含有量が3質量部以上30質量部以下であり、
上記加熱により膨張する熱融着層の膨張率が1.3倍以上3倍以下であり、
加熱後の上記熱融着層の空隙率が10%以上80%以下である絶縁電線。
【請求項2】
上記放熱性フィラーの平均粒子径を平均厚さで割ったアスペクト比が10以上200以下である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
上記金属導体と上記絶縁層との間、及びこの絶縁層と上記熱融着層との間にプライマリー処理層をさらに有する請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
上記放熱性フィラーの25℃における熱伝導率が20W/m・K以上である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
巻線として用いられる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の絶縁電線。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(平成29年5月25日出願公開)には、図面とともに次の事項が記載されている。(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。以下同じ。)
「【請求項1】
線状の導体と、この導体の外周側に積層される絶縁層とを備える絶縁電線であって、
上記絶縁層が、合成樹脂を主成分とするマトリックスと、このマトリックス中に分散する複数のフィラー及び複数の気孔とを有し、
上記絶縁層の貯蔵弾性率が3.0GPa以上である絶縁電線。
【請求項2】
上記絶縁層が上記導体の直上に位置する請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
上記フィラーが、シリカ、炭酸カルシウム又はクレーである請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
上記絶縁層のマトリックスに対するフィラーの含有量が5体積%以上50体積%以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
上記絶縁層の空隙率が5%以上80%以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
上記フィラーの平均粒子径が0.01μm以上30μm以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の絶縁電線。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の絶縁電線は、低誘電率化が促進される一方、気孔が形成されることにより絶縁被膜の弾性率が低くなり易い。そのため、上記従来の絶縁電線によると、例えばコイルを形成する場合、被膜が加工治具と接触して応力を受けると被膜が変形して局所的に膜厚が薄くなり、その結果絶縁性能が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、低誘電率化を促進すると共に、絶縁性の低下を抑制可能な絶縁電線を提供することを目的とする。」

「【0010】
[本発明の実施形態の説明]
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る絶縁電線は、線状の導体と、この導体の外周側に積層される絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記絶縁層が、合成樹脂を主成分とするマトリックスと、このマトリックス中に分散する複数のフィラー及び複数の気孔とを有し、上記絶縁層の貯蔵弾性率が3.0GPa以上である。
【0011】
当該絶縁電線は、絶縁層が気孔を含むことにより、絶縁層の低誘電率化を実現でき、コロナ放電開始電圧が高まる。また、当該絶縁電線は、絶縁層を構成するマトリックス中に複数の気孔が分散されているので、この複数の気孔と共にマトリックス中に含まれる複数のフィラーが上記複数の気孔に起因して絶縁層内に均一分散され易い。そのため、当該絶縁電線は、絶縁層の貯蔵弾性率を高めることができ、特に貯蔵弾性率が3.0GPa以上であることで、絶縁層の厚さが局所的に薄くなるのを抑制して絶縁性の低下を抑制することができる。
【0012】
上記絶縁層が上記導体の直上に位置するとよい。このように上記絶縁層が上記導体の直上に位置することで、絶縁性の低下抑制効果を促進できる。
【0013】
上記フィラーが、シリカ、炭酸カルシウム又はクレーであるとよい。このように、上記フィラーがシリカ、炭酸カルシウム又はクレーであることによって、絶縁層の低誘電率化を促進することができる。
【0014】
上記絶縁層のマトリックスに対するフィラーの含有量としては、5体積%以上50体積%以下が好ましい。このように、上記絶縁層のマトリックスに対するフィラーの含有量が上記範囲内であることによって、フィラーが気孔内に突出することを抑止でき、絶縁層の誘電率を維持しつつ、貯蔵弾性率を向上できる。なお、上記マトリックスの体積には気孔の体積は含まれない。
【0015】
上記絶縁層の空隙率としては、5%以上80%以下が好ましい。このように、上記絶縁層の空隙率が上記範囲内であることによって、貯蔵弾性率を維持しつつ、より確実に絶縁層の低誘電率化を実現できる。
【0016】
上記フィラーの平均粒子径としては、0.01μm以上30μm以下が好ましい。このように、上記フィラーの平均粒子径が上記範囲内であることによって、絶縁層の貯蔵弾性率を維持しつつ、フィラーが気孔内に突出するのを抑制して低誘電率化を促進することができる。
【0017】
上記絶縁層の合成樹脂が、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリエステルイミドであるとよい。このように、上記絶縁層の合成樹脂をポリイミド、ポリアミドイミド又はポリエステルイミドとすることで、無機フィラーとの密着性が高まるため、絶縁層の強度を確保し易い。
【0018】
従って当該絶縁電線を用いた巻線は、高電圧で使用されるモータ等の適用電圧が高い電気機器に適用できる。
【0019】
ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば50質量%以上含有される成分である。「貯蔵弾性率」とは、JIS-K7244:1998に準拠した値をいう。また、絶縁層の「空隙率」とは、絶縁層の体積に対する絶縁層内の気体の容積の百分率であり、絶縁層のマトリックス、フィラー等の固体分の質量と密度とから算出される実体積をV0、絶縁層の空隙を含むみかけの体積をV1とするとき、(V1-V0)/V1×100で算出される量である。「平均粒子径」とは、分散液中の体積粒度分布の中心径D50で表されるものを意味し、粒子径分布測定装置(例えば、日機装株式会社のマイクロトラック粒度分布測定装置「MT3300EX2」)で測定することができる。」

「【0031】
(フィラー)
複数のフィラー4は、マトリックス3中に分散する。フィラー4としては、シリカ、炭酸カルシウム、クレーなどの無機充填剤、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ホウ素、炭化タングステン等の金属炭化物、酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素などの金属酸化物、スピネル、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)等を挙げることができる。この中でも、補強効果に優れ、誘電率も低いシリカ、炭酸カルシウム及びクレーが好ましい。
【0032】
フィラー4は、絶縁層2の貯蔵弾性率の向上効果を有すると共に、放熱効果を有することが好ましい。フィラー4の25℃における熱伝導率の下限としては、5W/m・Kが好ましく、7W/m・Kがより好ましく、10W/m・Kがさらに好ましい。フィラー4の25℃における熱伝導率が上記下限未満である場合、絶縁層2の放熱効率の向上効果が十分に得られないおそれがある。一方、フィラー4の25℃における熱伝導率の上限としては、特に制限されないが、実用的には1500W/m・K程度である。
【0033】
フィラー4の比誘電率の上限としては、10が好ましく、5がより好ましく、4がさらに好ましい。フィラー4の比誘電率が上記上限を超える場合、絶縁層2の低誘電率化が十分に促進されないおそれがある。一方、フィラー4の比誘電率の下限としては、特に制限されないが、実用的には1.5程度である。なお、「比誘電率」とは、フィラーの誘電率と真空の誘電率との比をいう。
【0034】
フィラー4の平均粒子径の下限としては、0.01μmが好ましく、0.1μmがよりましく、0.2μmがさらに好ましい。また、フィラー4の平均粒子径の上限としては、30μmが好ましく、25μmがより好ましく、10μmがさらに好ましく、5μmが特に好ましい。フィラー4の平均粒子径が上記下限未満である場合、フィラー4による絶縁層2の貯蔵弾性率の向上効果が不十分となるおそれがある。一方、フィラー4の平均粒子径が上記上限を超える場合、フィラー4が気孔5内に突出し易くなるため、気孔5による絶縁層2の低誘電率化が不十分となるおそれがある。なお、フィラー4の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば粒状、球状、鱗片状、針状等が挙げられる。
【0035】
絶縁層2のマトリックス3に対するフィラー4の含有量の下限としては、5体積%が好しく、7体積%がより好ましく、10体積%がさらに好ましい。一方、上記フィラー4の含有量の上限としては、50体積%が好ましく、45体積%がより好ましく、40体積%がさらに好ましい。上記フィラー4の含有量が上記下限未満である場合、絶縁層2の貯蔵弾性率の向上効果が低くなるおそれがある。一方、上記フィラー4の含有量が上記上限を超える場合、フィラー4が気孔5内に突出し易くなるため、気孔5による絶縁層2の低誘電率化が不十分となるおそれがある。」

「【0041】
(絶縁層形成用組成物調製工程)
絶縁層形成用組成物調製工程では、絶縁層2のマトリックス3を構成する樹脂組成物を溶剤で希釈したものに、フィラー4を混合して絶縁層用ワニスを調製する。また、必要に応じて気孔5の形成に必要な材料を上記絶縁層用ワニスに混合する。ここでは、中空フィラーにより気孔5を形成する場合を用いて説明する。この場合、中空フィラーを上記絶縁層用ワニスに混合する。」

「【0046】
(絶縁層形成工程)
絶縁層形成工程では、上記絶縁層形成用組成物調製工程で調製した絶縁層用ワニスを導体1の外周面に塗布した後、焼付けることで導体1の外周面に絶縁層2を形成する。焼付温度は、使用する樹脂の種類に応じて適宜設定されるが、例えば200℃以上500℃以下である。
【0047】
上記絶縁層形成工程において、導体1の外周面に形成される絶縁層2が所定の厚さとなるまで、上記絶縁層用ワニスの塗布及び焼付けを繰り返すことにより当該絶縁電線が得られる。
【0048】
従って当該絶縁電線を用いた巻線は、高電圧で使用されるモータ等の適用電圧が高い電気機器に適用できる。
【0049】
[利点]
当該絶縁電線は、絶縁層2が気孔5を含むことにより、絶縁層2の低誘電率化を実現でき、コロナ放電開始電圧が高まる。また、当該絶縁電線は、絶縁層2を構成するマトリックス3中に複数の気孔5が分散されているので、この複数の気孔5と共にマトリックス3中に含まれる複数のフィラー4が上記複数の気孔5に起因して絶縁層2内に均一分散され易い。そのため、当該絶縁電線は、絶縁層2の貯蔵弾性率を高めることができ、特に貯蔵弾性率が3.0GPa以上であることで、絶縁層2の厚さが局所的に薄くなるのを抑制し絶縁性の低下を抑制することができる。
【0050】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0051】
上記実施形態では、中空フィラーを用いて気孔を形成する製造方法について説明したが、気孔を形成する製造方法はこれに限定されない。例えば上記絶縁層用ワニスに熱分解性樹脂粒子を混合し、焼付時の加熱で熱分解性樹脂粒子を熱分解させることにより気孔を生成できる。・・・中略・・・、加熱によって分解することで、加熱前に占めていた領域で少なくとも1部が消失する樹脂粒子をいう。
【0052】
また、例えば上記絶縁層用ワニスに発泡剤を混合し、焼付時の加熱で発泡剤を発泡させることでも気孔を生成できる。上記発泡剤としては、加熱することにより分解してガスを発生する化学発泡剤や、内部発泡剤からなる芯材(内包物)とこの芯材を包む外殻とを有し芯材の膨張によって外殻が膨張する発泡性マイクロカプセル等を挙げることができる。
【0053】
また、当該絶縁電線において、導体と絶縁層との間にプライマー処理層等のさらなる層が設けられてもよい。
【0054】
(プライマー処理層)
プライマー処理層は、層間の密着性を高めるために設けられる層であり、例えば公知の樹脂組成物により形成することができる。
・・・中略・・・
【0059】
また、例えば当該絶縁電線において、絶縁層の外周面側にさらに絶縁性を有する保護層を積層してもよい。保護層を形成する樹脂組成物としては、上述した絶縁層の樹脂組成物の主成分として挙げた樹脂と同種のものを用いることができる。保護層は、気孔を含んでいてもよいし、気孔を含んでいなくてもよい。保護層が気孔を含む場合、保護層も絶縁層の誘電率の低下に寄与できる。ただし、この場合、保護層の気孔率は絶縁層の気孔率よりも小さい方がより好ましい。一方、保護層が気孔を含まない場合、絶縁性に優れるので当該絶縁電線の絶縁性がさらに向上する。また、保護層は、気孔を含む複数の層で形成されていてもよく、それらの複数の層の気孔率が互いに異なるものとしてもよい。また、当該絶縁電線の放熱効果を高めるため上記保護層はフィラーを含有してもよい。」

上記記載事項、特に下線部によれば、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「線状の導体と、この導体の外周側に積層される絶縁層とを備える絶縁電線であって、
上記絶縁層が、合成樹脂を主成分とするマトリックスと、このマトリックス中に分散する複数のフィラー及び複数の気孔とを有し、
上記フィラーの形状としては、例えば、鱗片状が挙げられ、平均粒子径が0.01μm以上30μm以下であり、
上記絶縁層のマトリックスに対するフィラーの含有量が5体積%以上50体積%以下であり、
上記絶縁層の空隙率が5%以上80%以下であり、
上記絶縁層の外周面側にさらに絶縁性を有する保護層を積層してもよく、保護層を形成する樹脂組成物としては、上述した絶縁層の樹脂組成物の主成分として挙げた樹脂と同種のものを用いることができ、保護層は、気孔を含んでいてもよく、また、当該絶縁電線の放熱効果を高めるため上記保護層はフィラーを含有してもよい、
絶縁電線。」

2 引用文献5について
原査定の拒絶理由に引用された引用文献5(平成28年7月11日出願公開)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報に開示される絶縁電線は、発泡樹脂層により可撓性が低下して電線の捲線加工が容易ではなくなるおそれや、捲線加工の際に発泡樹脂層中の気泡が潰れて予定される絶縁性が得られないおそれがある。
【0006】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、誘電率が低い絶縁電線を提供することを課題とする。」

「【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る絶縁電線は、線状の導体と、この導体の外周面側に被覆される絶縁層と、この絶縁層の外周面側に積層され、加熱により膨張する熱膨張層とを備える絶縁電線であって、上記熱膨張層が合成樹脂を主成分とするマトリックス及びこのマトリックス中に分散する発泡剤を有し、上記発泡剤の発泡開始温度での上記マトリックスの弾性率が1kPa以上1×10^(4)kPa以下である。
【0011】
当該絶縁電線は、発泡剤の発泡開始温度でのマトリックスの弾性率が上記範囲内であることによって、発泡剤が発生したガスがマトリックスから抜け出て膨張率が不十分となることや、マトリックスが流動しすぎて導体間の距離が近くなることを防止できる。これにより、当該絶縁電線は、導体の周囲に一定以上の厚さを有する誘電率が小さい層を確実に形成することができる。
【0012】
上記熱膨張層における発泡剤の含有率としては、1質量%以上15質量%以下が好ましい。このように、上記熱膨張層に含まれる発泡剤の量が上記範囲内であることによって、熱膨張層が強度を有する共に、融着性に優れるものとなる。
【0013】
上記マトリックスが熱反応性硬化剤をさらに含有するとよい。このように、マトリックスが熱反応性硬化剤を含有することによって、発泡剤の発泡開始までにマトリックスの弾性率を上記範囲まで確実に増大させられる。
【0014】
上記熱膨張層の加熱後の平均厚さ膨張率としては、1.1倍以上5倍以下が好ましい。このように、熱膨張層の加熱後の平均厚さ膨張率が上記範囲内であることによって、熱膨張層の確実な低誘電率化を担保できると共に、導体間の距離を小さくして形成されるコイル等の体積効率を向上できる。
【0015】
本発明の一態様に係る絶縁電線は、捲線加工及び加熱により巻線束を形成することができる。
【0016】
当該絶縁電線は、導体間の絶縁性が高い巻線束を形成することが可能となる」

「【0025】
<熱膨張層>
熱膨張層3は、合成樹脂を主成分とするマトリックス4と、このマトリックス4中に分散する発泡剤5とを有する。
【0026】
熱膨張層3は、加熱されることにより、マトリックス4中の発泡剤5が発泡して全体的に膨張する。
【0027】
熱膨張層3の加熱前の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、熱膨張層3の加熱前の平均厚さの上限としては、300μmが好ましく、200μmがより好ましい。熱膨張層3の加熱前の平均厚さが上記下限に満たない場合、十分な絶縁性が得られないおそれがある。逆に、熱膨張層3の加熱前の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。
【0028】
熱膨張層3の加熱後の平均厚さ膨張率の下限としては、1.1倍が好ましく、2倍がより好ましい。一方、熱膨張層3の加熱後の平均厚さ膨張率の上限としては、5倍が好ましく、4倍がより好ましい。熱膨張層3の加熱後の平均厚さ膨張率が上記下限に満たない場合、当該絶縁電線の加熱による熱膨張層3の低誘電率化が不十分となるおそれがある。逆に、熱膨張層3の加熱後の平均厚さ膨張率が上記上限を超える場合、熱膨張層3の密度が不十分となることにより却って当該絶縁電線の強度が不十分となるおそれがある。熱膨張層3の膨張率は発泡剤5の種類及び量、並びに発泡剤5の発泡開始温度でのマトリックス4の弾性率を選択することにより制御できる。
【0029】
加熱による発泡剤5の発泡によって熱膨張層3に形成される空孔の平均径の下限としては、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましい。一方、上記熱膨張層3に形成される空孔の平均径の上限としては、300μmが好ましく、200μmがより好ましい。上記熱膨張層3に形成される空孔の平均径が上記下限に満たない場合、十分な膨張率が得られないおそれがある。逆に、上記熱膨張層3に形成される空孔の平均径が上記上限を超える場合、熱膨張層3が不必要に厚くなるおそれや、熱膨張層3の膨張が不均一になるおそれがある。
【0030】
熱膨張層3の加熱後の空隙率の下限としては、10%が好ましく、50%がより好ましい。一方、熱膨張層3の加熱後の空隙率の上限としては、80%が好ましく、70%がより好ましい。熱膨張層3の加熱後の空隙率が上記下限に満たない場合、隣接する熱膨張層3間の当接圧力が不足して融着が不十分となるおそれや、熱膨張層3の低誘電率化が不十分となるおそれがある。逆に、熱膨張層3の加熱後の空隙率が上記上限を超える場合、膨張した後の熱膨張層3の強度が不十分となるおそれがある。」
「【0045】
(発泡剤)
発泡剤5としては、化学発泡剤又は熱膨張性マイクロカプセルを用いることができる。
【0046】
発泡剤5の熱膨張層3における含有率の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。一方、発泡剤5の熱膨張層3における含有率の上限としては、15質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。発泡剤5の熱膨張層3における含有率が上記下限に満たない場合、熱膨張層3の膨張率が小さく、当該絶縁電線同士の固着が不十分となるおそれがある。逆に、発泡剤5の熱膨張層3における含有率が上記上限を超える場合、相対的にマトリックス4が少なくなることにより、熱膨張層3の強度及び融着性が不十分となるおそれがある。
【0047】
〈化学発泡剤〉
発泡剤5として用いられる化学発泡剤は、加熱することにより分解して、例えば窒素ガス、炭酸ガス、一酸化炭素、アンモニアガス等を発生するものであり、有機発泡剤又は無機発泡剤が使用できる。」

3 引用文献2について
原査定の拒絶理由に引用された引用文献2(平成24年2月23日出願公開)には、次の事項が記載されている。

「【0010】
本発明の熱伝導性シートは、窒化ホウ素粒子を含有している。
【0011】
具体的には、熱伝導性シートは、窒化ホウ素(BN)粒子を必須成分として含有し、さに、例えば、樹脂成分を含有している。
【0012】
窒化ホウ素粒子は、板状(あるいは鱗片状)に形成されており、熱伝導性シートにおいて所定方向(後述)に配向された形態で分散されている。
【0013】
窒化ホウ素粒子は、長手方向長さ(板の厚み方向に対する直交方向における最大長さ)の平均が、例えば、1?100μm、好ましくは、3?90μmである。また、窒化ホウ素粒子の長手方向長さの平均は、5μm以上、好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、20μm以上、とりわけ好ましくは、30μm以上、最も好ましくは、40μm以上であり、通常、例えば、100μm以下、好ましくは、90μm以下である。
【0014】
また、窒化ホウ素粒子の厚み(板の厚み方向長さ、つまり、粒子の短手方向長さ)の平均は、例えば、0.01?20μm、好ましくは、0.1?15μmである。
【0015】
また、窒化ホウ素粒子のアスペクト比(長手方向長さ/厚み)は、例えば、2?10000、好ましくは、10?5000である。
【0016】
そして、窒化ホウ素粒子の光散乱法によって測定される平均粒子径は、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、20μm以上、とりわけ好ましくは、30μm以上、最も好ましくは、40μm以上であり、通常、100μm以下である。」

4 引用文献3について
原査定の拒絶理由に引用された引用文献3(平成23年7月7日出願公開)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0017】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、比較的少量のテトラポット形状の充填材及び平板形状充填材の添加によって、高い熱伝導性を付与し、射出成形性も良好なことが特徴である。」

「【0022】
平板形状無機充填材料とは、平均粒子径が1μm以上50μm以下及び平均厚さが0.1μm以上50μm以下、アスペクト比が1より大きく500以下であり、好ましくは平均粒子径が3μm以上20μm以下及び平均厚さが0.1μm以上20μm以下、アスペクト比が1より大きく200以下であり、20℃において熱伝導率が10W/m・K以上のものを指すが、特に六方晶窒化ホウ素と酸化アルミで効果が高い。図1に窒化ホウ素の走査電子顕微鏡写真を示す。ここで、平板形状無機充填材料の平均粒子径とは、平面内の長軸方向の粒子径とし、厚みとは最も小さい軸方向長さとする。」

5 引用文献4について
原査定の拒絶理由に引用された引用文献4(平成30年2月8日出願公開)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来技術の課題に鑑み、充填特性が良好となる形状を有し、その結果として窒化ホウ素一次粒子凝集体を高密度で充填することが可能で、また二次加工時に想定される外力を受けても破壊されないような高い粒子強度を有する六方晶窒化ホウ素一次粒子凝集体を提供することである。またそれによりパワーデバイスなどの発熱性電子部品が実装されるプリント配線板の電気絶縁層や、熱を放熱部材に伝達する熱インターフェース材に用いられる、前記六方晶窒化ホウ素一次粒子凝集体を含む樹脂組成物、並びに前記樹脂組成物を用いた熱インターフェース材の提供を目的とする。
【0014】
本発明者らは、樹脂組成物中に高充填することが可能で、高密度に凝集している高強度の六方晶窒化ホウ素一次粒子凝集体について鋭意検討し、一次粒子凝集体が満たすべき要件を鋭意検討することにより本発明に到った。」

「【0030】
<平均粒子径>
本発明の六方晶窒化ホウ素一次粒子凝集体の平均粒子径は、JIS Z8825に準拠し、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定において、累積粒度分布の累積値50%の粒径で、20?100μmであることが好ましい。20μmより小さいと、窒化ホウ素粒子と樹脂界面の総数の増加にともなう接触熱抵抗の増加により熱伝導率が低下する。100μmより大きいと、窒化ホウ素粒子の粒子強度が低下する傾向にあるため、樹脂への混練時に受ける剪断応力により、六方晶窒化ホウ素一次粒子凝集体の一部が一次粒子に近い形状の粒子にまで破壊され、その破壊された粒子が同一方向に配向するため、熱伝導性が低下する傾向がある。また、厚みの厚い樹脂に配合する時には、平均粒子径の大きさによる影響は少ないが、放熱シートのようなシート状に成形する場合では、シート厚みが制限され、100μmまでの大きさが好適である。
【0031】
本発明の平均粒子径は、市販の粒度分布測定装置を用いることができる。測定に際しては、溶媒には水、分散剤としてはヘキサメタリン酸を用いた。なお、平均粒子径の測定時においては、六方晶窒化ホウ素一次粒子凝集体が解砕され、実際の凝集体の粒子径が変化することを避けるために、スラリーが良好に分散していることは確認したが、敢えて超音波処理による分散処理は実施しなかった。水の屈折率には1.33を用い、窒化ホウ素粉末の屈折率については1.80を用いた。
【0032】
<長径と厚みのアスペクト比>
本発明でいう一次粒子の長径と厚みのアスペクト比は、六方晶窒化ホウ素一次粒子凝集体を構成する一次粒子の断面写真画像を実測して算出した値である。即ち、樹脂に包埋されて精密にカットされた六方晶窒化ホウ素一次粒子凝集体の断面の粒子像を走査型電子顕微鏡にてSEM像を撮影し、短冊状に写る鱗片状一次粒子を、画像解析装置に取り込みソフトウエアで解析することにより算出した値である。なお、樹脂に包埋された六方晶窒化ホウ素一次粒子凝集体は、任意の断面でカットされるため、アスペクト比は、任意に選んだ粒子の測定値から求めた平均値ではなく、短冊状に見える粒子を100個を観察した上で、長径が長い方から10位以内に入る粒子を10個選定し、前記10個の粒子の長径と厚みの長さを測り、アスペクト比=長径/厚みとする計算式より各10個の粒子のアスペクト比を算出し、それらの平均値をアスペクト比とした。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「線状の導体」は、本願発明1の「線状の金属導体」に相当する。

(イ)引用発明の「この導体の外周側に積層される絶縁層」は、本願発明1の「この金属導体の外周面側に積層される絶縁層」に相当するといえる。

(ウ)引用発明の「保護層」は、「上記絶縁層の外周面側に」「積層」され、保護層を形成する樹脂組成物としては、上述した絶縁層の樹脂組成物の主成分として挙げた樹脂と同種のものを用いることができ、気孔を含んでいてもよく、当該絶縁電線の放熱効果を高めるためフィラーを含有してもよいことから、この「保護層」と、本願発明1の「絶縁層の外周面側かつ最外側に積層され、加熱により膨張する」、「合成樹脂を主成分とするマトリックスと、上記マトリックス中に分散する板状又は鱗片状の放熱性フィラーと、上記マトリックス中に分散する発泡剤とを有」する「熱融着層」とは、「絶縁層の外周面側かつ最外側に積層され」、「合成樹脂を主成分とするマトリックスと、上記マトリックス中に分散する放熱性フィラー」を有する「層」である点では共通するといえる。

(エ)引用発明の「絶縁電線」は、後述する相違点を除き、本願発明1の「絶縁電線」に一致するといえる。

イ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「線状の金属導体と、この金属導体の外周面側に積層される絶縁層と、この絶縁層の外周面側かつ最外側に積層される層とを備える絶縁電線であって、
上記層が、
合成樹脂を主成分とするマトリックスと、
上記マトリックス中に分散する放熱性フィラーを有する絶縁電線。」

(相違点)
絶縁層の外周面側に積層される層に関し、本願発明1では、当該層は、「合成樹脂を主成分とする」「マトリックス中に分散する板状又は鱗片状の放熱性フィラー」と、「上記マトリックス中に分散する発泡剤とを有」する「加熱により膨張する熱融着層」であって、「上記放熱性フィラーの上記合成樹脂に対する含有量が10体積%以上60体積%以下であり、上記放熱性フィラーが、平均粒子径が10μm以上30μm以下であり、かつ平均厚さが0.1μm以上5μm以下であり」、「上記発泡剤が有機発泡剤であり、上記発泡剤の上記合成樹脂100質量部に対する含有量が3質量部以上30質量部以下であり、上記加熱により膨張する熱融着層の膨張率が1.3倍以上3倍以下であり、加熱後の上記熱融着層の空隙率が10%以上80%以下である」旨特定するのに対し、引用発明では、当該層は、絶縁層の樹脂組成物の主成分として挙げた樹脂と同種の樹脂を主成分とする「保護層」であって、「気孔」を含んでいてもよく、当該絶縁電線の放熱効果を高めるための「フィラー」を含有してよいものの、「発泡剤」を有するものではなく、「加熱により膨張する熱融着層」ではなく、さらに上記のような特定はなされていない点。

(2)相違点についての判断
引用文献1には、「絶縁層2のマトリックス3を構成する樹脂組成物を溶剤で希釈したものに、フィラー4を混合して絶縁層用ワニスを調製する。」(【0041】)、「絶縁層形成工程では、上記絶縁層形成用組成物調製工程で調製した絶縁層用ワニスを導体1の外周面に塗布した後、焼付けることで導体1の外周面に絶縁層2を形成する。」(【0046】)、「上記絶縁層形成工程において、導体1の外周面に形成される絶縁層2が所定の厚さとなるまで、上記絶縁層用ワニスの塗布及び焼付けを繰り返すことにより当該絶縁電線が得られる。」(【0047】)、「また、例えば上記絶縁層用ワニスに発泡剤を混合し、焼付時の加熱で発泡剤を発泡させることでも気孔を生成できる。上記発泡剤としては、加熱することにより分解してガスを発生する化学発泡剤や、内部発泡剤からなる芯材(内包物)とこの芯材を包む外殻とを有し芯材の膨張によって外殻が膨張する発泡性マイクロカプセル等を挙げることができる。」(【0052】)ことが記載されており、マトリックスにフィラーと発泡剤を混合した絶縁層用ワニスを導体の外周面に塗布し、焼き付けることで絶縁層を形成し、焼付時の加熱で発泡剤を発泡させることで絶縁層に気孔を生成できることが示されているが、この絶縁層の形成方法で「保護層」を形成することまでは示唆されていない。
また、たとえ、上記絶縁層形成方法で「保護層」を形成するようにしたとしても、「保護層」が「加熱により膨張する熱融着層」といえないことは明らかであり、さらに、保護層における「上記発泡剤が有機発泡剤であり、上記発泡剤の上記合成樹脂100質量部に対する含有量が3質量部以上30質量部以下であり、上記加熱により膨張する熱融着層の膨張率が1.3倍以上3倍以下」とする動機付けもない。

なお、引用文献5には、「線状の導体と、この導体の外周面側に被覆される絶縁層と、この絶縁層の外周面側に積層され、加熱により膨張する熱膨張層とを備える絶縁電線であって、上記熱膨張層が合成樹脂を主成分とするマトリックス及びこのマトリックス中に分散する発泡剤を有」する「絶縁電線」が記載され、「発泡剤5として用いられる化学発泡剤は、・・・、有機発泡剤又は無機発泡剤が使用できる。」(【0047】)「熱膨張層3は、加熱されることにより、マトリックス4中の発泡剤5が発泡して全体的に膨張する。」(【0047】)、「熱膨張層3の加熱後の平均厚さ膨張率の下限としては、1.1倍が好ましく、2倍がより好ましい。一方、熱膨張層3の加熱後の平均厚さ膨張率の上限としては、5倍が好ましく、4倍がより好ましい。」(【0028】)、「熱膨張層3の加熱後の空隙率の下限としては、10%が好ましく、50%がより好ましい。一方、熱膨張層3の加熱後の空隙率の上限としては、80%が好ましく、70%がより好ましい。」(【0030】)ことが示されているものの、引用文献5に記載された「熱膨張層」は、「上記熱膨張層の加熱後の平均厚さ膨張率としては、1.1倍以上5倍以下が好ましい。このように、熱膨張層の加熱後の平均厚さ膨張率が上記範囲内であることによって、熱膨張層の確実な低誘電率化を担保」(【0014】)するものであるから、引用発明の「保護層」を、引用文献5に記載された「加熱により膨張する熱膨張層」に代える動機付けはない。
また、引用文献5には、「放熱性フィラー」について何ら言及されておらず、仮に、引用文献5に記載の「加熱により膨張する熱膨張層」を引用発明の「保護層」に適用できたとしても、本願発明1に係る上記相違点の構成となるものではない。

そして、上記相違点に係る本願発明1の構成は、引用文献2-4にも記載されておらず、示唆されてもいない。
加えて、上記相違点に係る本願発明1の構成は、本願の出願前に当該技術分野における周知技術であったともいえない。

そうすると、引用発明において、保護層を「合成樹脂を主成分とする」「マトリックス中に分散する板状又は鱗片状の放熱性フィラー」と、「上記マトリックス中に分散する発泡剤とを有」する「加熱により膨張する熱融着層」とし、「上記放熱性フィラーの上記合成樹脂に対する含有量が10体積%以上60体積%以下であり、上記放熱性フィラーが、平均粒子径が10μm以上30μm以下であり、かつ平均厚さが0.1μm以上5μm以下であり」、「上記発泡剤が有機発泡剤であり、上記発泡剤の上記合成樹脂100質量部に対する含有量が3質量部以上30質量部以下であり、上記加熱により膨張する熱融着層の膨張率が1.3倍以上3倍以下であり、加熱後の上記熱融着層の空隙率が10%以上80%以下である」とすること、すなわち、本願発明1の相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2-5について
本願発明2-5も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1-5に係る「熱融着層」が有する「上記マトリックス中に分散する発泡剤」について、
「上記発泡剤が有機発泡剤であり、
上記発泡剤の上記合成樹脂100質量部に対する含有量が3質量部以上30質量部以下であり、
上記加熱により膨張する熱融着層の膨張率が1.3倍以上3倍以下であり、
加熱後の上記熱融着層の空隙率が10%以上80%以下である」
との限定が加えられた。
そして、上記第5の1(2)で検討したように、引用発明の「保護層」は、「加熱により膨張する熱融着層」とはいえないことから、この「保護層」に、本願発明1-5に係る上記「発泡剤」を分散するようにすることが、引用文献2-5に記載された技術的事項から、容易に発明できたものであるとはいえない。
なお、引用文献5には、「発泡剤5」を用いた「加熱により膨張する熱膨張層」について記載されているものの、引用文献5に記載された上記「熱膨張層」は、発泡により低誘電率を担保するものであり、熱融着をおこなうものであるとはいえないことから、引用発明の「保護層」を、引用文献5に記載された上記「熱膨張層」に代え、本願発明1-5に係る「熱融着層」と同様の構成とすることに、動機付けがあるとはいえない。
そうすると、本願発明1-5は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-5に基づいて、容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-30 
出願番号 特願2018-140345(P2018-140345)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 北嶋 賢二中嶋 久雄  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 小田 浩
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 絶縁電線  
代理人 天野 一規  
代理人 天野 一規  
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