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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01M
管理番号 1375723
審判番号 不服2020-9796  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-13 
確定日 2021-07-09 
事件の表示 特願2016-78465「エンジン装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日出願公開、特開2017-187006〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年4月8日の出願であって、令和元年8月30日付け(発送日:同年9月4日)で拒絶理由が通知され、令和元年11月1日に意見書が提出されたが令和2年3月31日付け(発送日:同年4月15日)で拒絶査定がされ、これに対して令和2年7月13日に拒絶査定不服審判が請求され、令和2年11月30日付け(発送日:同年12月2日)に当審において拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和3年1月29日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、令和3年1月29日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
潤滑油を冷却水との間で熱交換するオイルクーラと潤滑油を浄化するオイルフィルタを備えたエンジン装置において、
前記オイルクーラ及び前記オイルフィルタを支持するとともにシリンダブロックに取り付けられるブラケット部材を備え、
前記シリンダブロックの前記ブラケット部材の取付部に冷却水出口、冷却水戻り口、潤滑油出口及び潤滑油戻り口が設けられ、
前記ブラケット部材を介して前記オイルクーラに冷却水及び潤滑油が流通されるとともに前記オイルフィルタに潤滑油が流通されるエンジン装置。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

(進歩性)本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

<引用文献等一覧>
1.特開2015-86787号公報
2.実願昭55-108013号(実開昭57-31514号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
3.特開2005-48725号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献、引用発明
当審拒絶理由において引用された特開2015-86787号公報(以下「引用文献1」という。)には、「内燃機関」に関し図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。以下同様。

1 「【0022】
図1?図3に示すように、実施形態に係る内燃機関1は、シリンダがV字状に配置された6気筒の水冷式、ドライサンプ型のエンジンである。内燃機関1は、シリンダ列方向(クランク軸線)が前後と一致するように、縦置きに車体に搭載される。内燃機関1は、シリンダブロック3と、シリンダブロック3の上部に接合された左右一対のシリンダヘッド4と、各シリンダヘッド4の上部に接合されたヘッドカバー5とを有する内燃機関本体6を有する。
【0023】
シリンダブロック3は、上部に設けられたアッパブロック8と、アッパブロック8の下部に接合されたロアブロック9とを有している。アッパブロック8及びロアブロック9は、鋳造品であり、例えば砂型によって成形されてよい。アッパブロック8は、上部に配置された左右一対のバンク部11と、バンク部11の下部に配置されたクランクケース上部12とを有する。左のバンク部11はその上端が左方に傾倒するように配置され、右のバンク部11はその上端が右方に傾倒するように配置されている。各バンク部11は、前後に延在し、それぞれ3つのシリンダボア14が形成されている(図4参照)。左のバンク部11の各シリンダボア14は互いに平行に左方に傾倒して配置され、右のバンク部11の各シリンダボア14は互いに平行に右方に傾倒して配置されている。左のバンク部11のシリンダボア14の軸線と右のバンク部11のシリンダボア14の軸線とは、前後から見て所定の角度を有して上に開いたV形を呈する。左のバンク部11の下端右縁と右のバンク部11の下端左縁とは、互いに連続し、左のバンク部11及び右のバンク部11はクランク室の上壁部を構成している。」

2 「【0029】
図5及び図6に示すように、アッパブロック8及びシリンダヘッド4の内部には、不凍液等の冷却液が流れる冷却液路20が形成されている。冷却液路20は、各バンク部11においてシリンダボア14を側方から囲むように環状に形成されたウォータジャケット21を有している。また、冷却液路20は、アッパブロック8の右の側壁部12A内に形成された第1液路(上流側液路)22と、第2液路(下流側液路)23とを有する。第1及び第2液路22、23は、互いに連続せず、後述する第1及び第2オイルクーラー34、35を介して互いに接続される。」

3 「【0031】
第1液路主通路部22Aの後端部は、液路を介してウォータジャケット21に連通している。第2液路23の前端部は、液路を介してアッパブロック8の前端壁に接合されたウォータポンプ28に連通している。ウォータポンプ28は、液路を介してウォータジャケット21に接続され、冷却液路20は循環路を形成している。また、冷却液路20は、ラジエータ(不図示)に繋がる液路を並列に有し、冷却液がラジエータにおいて冷却されるようになっている。本実施形態では、ウォータジャケット21を通過した冷却液は、第1液路22、第1及び第2オイルクーラー34、35、第2液路23、ウォータポンプ28を順に通過する。」

4 「【0036】
図5及び図6に示すように、内燃機関1は、オイル(潤滑油)を内燃機関1の各部に供給すると共に、回収して再循環させるオイル循環装置30を有する。図1?図6に示すように、オイル循環装置30は、ドライサンプ型の循環装置であり、スカベンジポンプ31と、オイルタンク32と、オイルポンプ33と、第1及び第2オイルクーラー34、35と、オイルフィルタ36とを有する。」

5 「【0039】
図3及び図4に示すように、アッパブロック8の右の側壁部12Aの外面であって、タンク下部32Aよりも前側の部分には、前側から順にシリンダ列方向に沿って第1オイルクーラー34と第2オイルクーラー35とが接合されている。本実施形態では、第1及び第2オイルクーラー34、35は、同一の構成を有する。オイルクーラーは、略直方体の外形を有し、外面の1つである略四角形の接合面において、右の側壁部12Aの外面にボルト締結等によって接合される。オイルクーラーの内部には、オイルが流れるクーラー油路(不図示)と、不凍液等の冷却液が流れるクーラー液路(不図示)とが互いに隣接して形成されている。クーラー油路及びクーラー液路を形成する部材は、熱交換可能な(熱伝導率が高い)材料から形成され、クーラー油路を通過するオイルとクーラー液路を通過する冷却液との間で熱交換が行われる。」

6 「【0043】
図3、図5及び図6に示すように、オイル循環装置30は、ロアブロック9の内側底部とスカベンジポンプ31とを連通する第1油路(不図示)と、スカベンジポンプ31とオイルタンク32とを連通する第2油路48と、オイルタンク32とオイルポンプ33とを連通する第3油路49と、オイルポンプ33と第1及び第2オイルクーラー34、35とを連通する第4油路(上流側油路)51と、第1及び第2オイルクーラー34、35とオイルフィルタ36とを連通する第5油路(下流側油路)52と、オイルフィルタ36とアッパブロック8に形成されたメインギャラリ53とを接続する第6油路54とを有する。メインギャラリ53は、アッパブロック8の左右のバンク部11間を前後に延びる油路である。メインギャラリ53には、クランクシャフトの軸受部にオイルを供給する油路や、ピストンを冷却するためのオイルジェットにオイルを供給する油路や、シリンダヘッド4にオイルを供給する油路等が連通している。シリンダヘッド4に供給されたオイルは、動弁機構の潤滑や、可変バルブタイミング装置(VTCやVTEC等)の作動油として使用される。シリンダヘッド4の各部に供給されたオイルはシリンダブロック3に形成されたオイル戻り通路を介してロアブロック9の内側底部に戻され、シリンダブロック3の各部に供給されたオイルは、アッパブロック8やロアブロック9の内壁を伝い、ロアブロック9の内側底部に戻される。
【0044】
第1油路は、ロアブロック9に形成されている。第2及び第3油路48、49は、管部材によって形成されている。第4油路51は、上流側部分がロアブロック9に形成され、下流側部分がアッパブロック8に形成されている。第5油路52及びメインギャラリ53は、アッパブロック8に形成されている。」

7 「【0057】
次に、上記の実施形態の一部変形例について説明する。図7及び図8に示すように、この一部変形例では、第1及び第2オイルクーラー34、35とアッパブロック8との間に、プレート70が介装される。そして、第1及び第2オイルクーラー34、35は、プレート70を介してオイル及び冷却液の供給及び排出が行われる。以下の説明では、上記の実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0058】
一部変形実施形態では、上記実施形態においてアッパブロック8の右の側壁部12Aに形成された第4及び第5油路主通路部51A、52A、第1?第4油接続通路部51B、51C、52B、52C、第1及び第2液路主通路部22A、23A、第1?第4液接続通路部22B、22C、23B、23Cが省略され、第1及び第2プレート油路71、72、第1及び第2プレート液路73、74としてプレート70内に形成される。アッパブロック8の右の側壁部12Aには、第4油路51の下流端、第5油路52の上流端、第1液路22の下流端、第2液路23の上流端が開口している。
【0059】
プレート70は、扁平な直方体状に形成され、ブロック接合面70A及びクーラー接合面70Bの互いに相反する主面を有している。プレート70は、ブロック接合面70Aにおいてアッパブロック8の右の側壁部12Aの外面に当接し、ボルト等によって右の側壁部12Aに締結される。プレート70のクーラー接合面70Bには、第1及び第2オイルクーラー34、35がボルト等によって締結される。プレート70内には、第1及び第2プレート油路71、72、第1及び第2プレート液路73、74が形成されている。
【0060】
第1プレート油路71は、シリンダ列方向に沿って直線状に延びる第1プレート油路主通路部71Aと、第1プレート油路主通路部71Aからクーラー接合面70Bに延びて開口する第1油接続通路部71B及び第2油接続通路部71Cと、第1プレート油路主通路部71Aからブロック接合面70Aに延びて開口する第5油接続通路部71Dとを有している。
【0061】
第2プレート油路72は、シリンダ列方向に沿って直線状に延びる第2プレート油路主通路部72Aと、第2プレート油路主通路部72Aからクーラー接合面70Bに延び開口する第3油接続通路部72B及び第4油接続通路部72Cと、第2プレート油路主通路部72Aからブロック接合面70Aに延びて開口する第6油接続通路部72Dとを有している。第2プレート油路主通路部72Aは、第1プレート油路主通路部71Aよりも上方に配置され、かつ後方にずれて配置されている。前後方向(シリンダ列方向)において、前側から順に第1油接続通路部71B、第3油接続通路部72B、第2油接続通路部71C、第4油接続通路部72Cの順で配置される。
【0062】
第1プレート液路73は、シリンダ列方向に沿って直線状に延びる第1プレート液路主通路部73Aと、第1プレート液路主通路部73Aからクーラー接合面70Bに延び開口する第1液接続通路部73B及び第2液接続通路部73Cと、第1プレート液路主通路部73Aからブロック接合面70Aに延びて開口する第5液接続通路部73Dとを有している。
【0063】
第2プレート液路74は、シリンダ列方向に沿って直線状に延びる第2プレート液路主通路部74Aと、第2プレート液路主通路部74Aからクーラー接合面70Bに延び開口する第3液接続通路部74B及び第4液接続通路部74Cと、第2プレート液路主通路部74Aからブロック接合面70Aに延びて開口する第6液接続通路部74Dとを有している。第2プレート液路主通路部74Aは、第1プレート液路主通路部73Aよりも上方に配置され、かつ前方にずれて配置されている。前後方向(シリンダ列方向)において、前側から順に第3液接続通路部23B、第1液接続通路部22B、第4液接続通路部23C、第2液接続通路部22Cの順で配置される。
【0064】
第1オイルクーラー34の油入口孔41Aは第1油接続通路部71Bに接続され、油出口孔41Bは第3油接続通路部72Bに接続され、液入口孔42Aは第1液接続通路部73Bに接続され、油出口孔41B(審決注:「液出口孔42B」の誤記と認められる。)は第3液接続通路部74Bに接続される。同様に、第2オイルクーラー35の油入口孔41Aは第2油接続通路部71Cに接続され、油出口孔41Bは第4油接続通路部72Cに接続され、液入口孔42Aは第2液接続通路部73Cに接続され、油出口孔41B(審決注:「液出口孔42B」の誤記と認められる。)は第4液接続通路部74Cに接続される。第5油接続通路部71Dは右の側壁部12Aに開口した第4油路51に接続され、第6油接続通路部72Dは右の側壁部12Aに開口した第5油路52に接続される。第5液接続通路部73Dは右の側壁部12Aに開口した第1液路22に接続され、第6液接続通路部74Dは右の側壁部12Aに開口した第2液路23に接続される。
【0065】
第1及び第2プレート油路71、72と、第1及び第2プレート液路73、74との各通路は、プレート70を穿孔することによって形成されている。例えば各主通路部71A、72A、73A、74Aは、プレート70の側面から穿孔によって通路を形成した後、開口端をプラグ76で塞ぐことによって形成するとよい。他の実施形態では、鋳造によってプレート70を成形し、プレート70の成形と同時に各通路を形成してもよい。
【0066】
第1プレート液路主通路部73Aの前端部は、第1プレート油路主通路部71Aの後端部の上部に沿って前方に延びている。また、第1液接続通路部73Bの開口端は、第1プレート油路主通路部71Aの前部に沿って下方に延出している。このように、第1プレート液路73と第1プレート油路71とは、互いに近接して配置され、各通路を流れるオイルと冷却液との間で熱交換が可能になっている。
【0067】
第2プレート液路主通路部74Aの後端部は、第2プレート油路主通路部72Aの前端部の上部に沿って後方に延びている。また、第4液接続通路部23Cの開口端は、第2プレート油路主通路部72Aの前部に沿って下方に延出している。第3油接続通路部72Bの開口端は、第2プレート液路主通路部74Aの前部に沿って上方に延出している。このように、第2プレート液路74と第2プレート油路72とは、互いに近接して配置され、各通路を流れるオイルと冷却液との間で熱交換が可能になっている。」

上記記載事項及び図面(特に、図1、7及び8を参照。)の図示内容からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕
「オイルを冷却液との間で熱交換する第1及び第2オイルクーラ34、35とオイルを浄化するオイルフィルタ36を備えた内燃機関1において、
前記第1及び第2オイルクーラ34、35を支持するとともにシリンダブロック3のアッパブロック8に取り付けられるプレート70を備え、
前記シリンダブロック3のアッパブロック8の前記プレート70の取付部に第1液路22の下流端、第2液路23の上流端、第4油路51の下流端及び第5油路52の上流端が設けられ、
前記プレート70を介して前記第1及び第2オイルクーラ34、35に冷却液及びオイルが流通される内燃機関1。」

第5 対比及び判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「オイル」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「潤滑油」に相当し、以下同様に、「冷却液」は「冷却水」に、「第1及び第2オイルクーラ34、35」は「オイルクーラ」に、「オイルフィルタ36」は「オイルフィルタ」に、「内燃機関1」は「エンジン装置」に、「シリンダブロック3のアッパブロック8」は「シリンダブロック」に、「プレート70」は「ブラケット部材」に、「第1液路22の下流端」は「冷却水出口」に、「第2液路23の上流端」は「冷却水戻り口」に、「第4油路51の下流端」は「潤滑油出口」に、「第5油路52の上流端」は「潤滑油戻り口」に、それぞれ相当する。
そうすると、本願発明と引用発明には、次の一致点及び相違点がある。

〔一致点〕
「潤滑油を冷却水との間で熱交換するオイルクーラと潤滑油を浄化するオイルフィルタを備えたエンジン装置において、
前記オイルクーラを支持するとともにシリンダブロックに取り付けられるブラケット部材を備え、
前記シリンダブロックの前記ブラケット部材の取付部に冷却水出口、冷却水戻り口、潤滑油出口及び潤滑油戻り口が設けられ、
前記ブラケット部材を介して前記オイルクーラに冷却水及び潤滑油が流通されるエンジン装置。」

〔相違点〕
本願発明においては、「ブラケット部材」は「オイルクーラ」及び「オイルフィルタ」を支持するものであり、前記ブラケット部材を介して前記オイルクーラに冷却水及び潤滑油が流通されるとともに「前記オイルフィルタに潤滑油が流通」されるものであるのに対して、引用発明においては、「プレート70」は、「第1及び第2オイルクーラ34、35」を支持するものであり、前記プレート70を介して前記第1及び第2オイルクーラ34、35に冷却液及びオイルが流通されるものである点。

上記相違点について検討する。
シリンダブロックに取り付けられとともにオイルクーラを支持するブラケット部材に、オイルフィルタを支持するとともに、該ブラケット部材を介して該オイルフィルタに潤滑油を流通させることは、本願の出願前に周知の技術である(以下「周知技術」という。例えば、実願昭55-108013号(実開昭57-31514号)のマイクロフィルム(当審拒絶理由で引用された引用文献2)の明細書2ページ11ないし16行及び第7図、特開2005-48725号公報(当審拒絶理由で引用された引用文献3)の段落【0016】及び【0017】並びに図3及び4を参照。)。
そして、引用発明と周知技術とは、シリンダブロックに取り付けられとともにオイルクーラを支持するブラケット部材を備えるという点で共通するから、引用発明に周知技術を適用して、「プレート70」に、「第1及び第2オイルクーラ34、35」に加えて「オイルフィルタ36」を支持し、「オイルフィルタ36にオイルが流通」されるようにして、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
そして、全体としてみても、本願発明が奏する作用効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものではない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 請求人の主張について
請求人は令和3年1月29日の意見書において、次のように主張している。
「本願特徴のブラケット内部に潤滑油経路と冷却水経路とを有する構成によって、ブラケット内部において潤滑油の熱を冷却水およびブラケットが奪うとともに、ブラケット表面から放熱されてさらに熱交換が促進されるため、『オイルクーラ内部の熱交換だけでなく、ブラケットにおいても熱交換が行われる』という特段な効果を奏します。このような効果は当初明細書の段落[0009]落[0010]に記載されています。
引用文献1には、オイルフィルタ36は、離れた場所に配置されたオイルクーラ34・35との間に潤滑油を流通させるために第5油路52をアッパブロック8(シリンダブロック3の上部)の内部に設けることを前提とした構成であり、加えてオイルフィルタの油路下流のメインギャラリー53がアッパブロックの中央部に設けられているためにオイルフィルタをその近傍であるアッパブロックの中央上部に配置している構成が開示されています(段落[0043]及び図1、5、7を参照)。すなわち、引用文献1には、本願発明のようにオイルフィルタとオイルクーラとの間の潤滑油経路をブラケットに設ける必要性がなく、本願発明が有する課題を想到し得ないため、本願発明を構成する「オイルクーラ及びオイルフィルタを支持するとともにシリンダブロックに取り付けられるブラケット部材を備え、前記シリンダブロックの前記ブラケット部材の取付部に冷却水出口、冷却水戻り口、潤滑油出口及び潤滑油戻り口が設けられ、前記ブラケット部材を介して前記オイルクーラに冷却水及び潤滑油が流通されるとともに前記オイルフィルタに潤滑油が流通される」というブラケット内部に潤滑油経路と冷却水経路とを有する構成については記載も示唆もありません。
したがって、引用文献1には、本願請求項1に係る発明は記載されていません。
また、引用文献1?4のいずれにおいても、『オイルクーラ及びオイルフィルタを支持するとともにシリンダブロックに取り付けられるブラケット部材を備え、前記シリンダブロックの前記ブラケット部材の取付部に冷却水出口、冷却水戻り口、潤滑油出口及び潤滑油戻り口が設けられ、前記ブラケット部材を介して前記オイルクーラに冷却水及び潤滑油が流通されるとともに前記オイルフィルタに潤滑油が流通される』構成につては、なんらの開示も示唆もございません。
従いまして、引用文献1?4を組み合わせたとしても、『オイルクーラ及びオイルフィルタを支持するとともにシリンダブロックに取り付けられるブラケット部材を備え、前記シリンダブロックの前記ブラケット部材の取付部に冷却水出口、冷却水戻り口、潤滑油出口及び潤滑油戻り口が設けられ、前記ブラケット部材を介して前記オイルクーラに冷却水及び潤滑油が流通されるとともに前記オイルフィルタに潤滑油が流通される』という本願発明の特徴を開示も示唆もされるものではなく、また、本願発明の特徴のブラケット内部に潤滑油経路と冷却水経路とを有する構成によって、ブラケット内部において潤滑油の熱を冷却水およびブラケットが奪うとともに、ブラケット表面から放熱されてさらに熱交換が促進されるため、『オイルクーラ内部の熱交換だけでなく、ブラケットにおいても熱交換が行われる』という特段の効果をも得られるものではないと思料いたします。」
しかしながら、「オイルクーラ内部の熱交換だけでなく、ブラケットにおいても熱交換が行われる」という効果について、請求人は当初明細書の段落【0009】及び【0010】に記載されていると述べているが、当該箇所にも、当初明細書の他の箇所にもそのような記載はないから、当該効果は、本願明細書の記載に基づくものではない。
また、当該効果については、引用文献1の段落【0066】及び【0067】に記載されている。
そして、引用文献1においては、オイルフィルタ36をアッパブロックの中央上部に配置しているものの、引用文献1の記載全体を見ても、オイルフィルタ36をアッパブロックの中央上部に配置しなければならないという特段の事情は見いだせない。
そうすると、上記第5 の相違点についての検討において述べたように、シリンダブロックに取り付けられとともにオイルクーラを支持するブラケット部材に、オイルフィルタを支持するとともに、該ブラケット部材を介して該オイルフィルタに潤滑油を流通させるという引用文献2及び3に例示される上記周知技術を踏まえれば、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすること、すなわち、ブラケット部材にオイルクーラ及びオイルフィルタを支持するとともに、前記ブラケット部材を介して前記オイルクーラに冷却水及び潤滑油が流通されるとともに前記オイルフィルタに潤滑油が流通されるように構成することは、当業者が容易に想到できたことである。
したがって、請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-04-28 
結審通知日 2021-05-06 
審決日 2021-05-20 
出願番号 特願2016-78465(P2016-78465)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (F01M)
P 1 8・ 121- WZ (F01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西中村 健一  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 高島 壮基
鈴木 充
発明の名称 エンジン装置  
代理人 渡辺 隆一  

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