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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1375732
審判番号 不服2020-12282  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-02 
確定日 2021-07-27 
事件の表示 特願2015-146416「偏光板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年3月7日出願公開,特開2016-31533,請求項の数(8)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2015-146416号(以下「本件出願」という。)は,平成27年7月24日(先の出願に基づく優先権主張 平成26年7月25日)を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成31年 4月15日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 6月18日付け:意見書
令和 元年 6月18日付け:手続補正書
令和 元年10月30日付け:拒絶理由通知書
令和 元年12月25日付け:意見書
令和 元年12月25日付け:手続補正書
令和 2年 5月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 9月 2日付け:審判請求書
令和 2年 9月 2日付け:手続補正書
令和 3年 5月 6日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 5月20日付け:意見書
令和 3年 5月20日付け:手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項8に係る発明は,令和3年5月20日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項8に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素又は二色性染料が吸着配向している偏光フィルムの少なくとも片面に,紫外線硬化型接着剤により,熱可塑性樹脂から形成される保護フィルムを貼合して偏光板を製造する方法であって,
前記保護フィルムを,温度30?50℃,相対湿度70?90%の雰囲気下の大気中で水と接触させる工程(a),
前記工程(a)を経た保護フィルムに易接着処理を行う工程,
前記易接着処理工程を経た保護フィルム及び偏光フィルムから選ばれる少なくとも一つのフィルム上に,紫外線硬化型接着剤からなる接着剤層を形成する工程(b),
前記接着剤層を介して保護フィルム及び偏光フィルムを積層させて積層フィルムを得る工程(c),及び
前記積層フィルムに紫外線を照射して接着剤層を硬化させる工程(d)
を備えることを特徴とする偏光板の製造方法。

【請求項2】
前記保護フィルムを水と接触させる工程(a)の前に,前記保護フィルムを加熱する工程(a-1)を含む請求項1に記載の偏光板の製造方法。

【請求項3】
前記紫外線硬化型接着剤は,接着剤層を形成する前に加熱される請求項1又は2に記載の偏光板の製造方法。

【請求項4】
前記紫外線硬化型接着剤は,エポキシ系接着剤である請求項1?3のいずれかに記載の偏光板の製造方法。

【請求項5】
前記エポキシ系接着剤は,分子内に芳香環を含まないエポキシ樹脂を含む請求項4に記載の偏光板の製造方法。

【請求項6】
前記エポキシ系接着剤は,前記エポキシ樹脂に加えて光カチオン重合開始剤を含む請求項4に記載の偏光板の製造方法。

【請求項7】
前記熱可塑性樹脂は,アクリル系樹脂である請求項1?6のいずれかに記載の偏光板の製造方法。

【請求項8】
前記工程(a)の後における前記保護フィルムの含水率が,0.4?5重量%である請求項7記載の偏光板の製造方法。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,[A]本件出願の請求項1,請求項8及び請求項9に係る発明は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,[B]本件出願の請求項1?請求項9に係る発明は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献3:特開2013-117738号公報
引用文献4:特開2010-151750号公報
引用文献5:特開2013-37104号公報
引用文献6:特開2011-75927号公報
引用文献7:特開2008-122790号公報
なお,理由[A]の主引用例は引用文献4であり,理由[B]の主引用例は引用文献3又は引用文献4である。また,引用文献5?引用文献7は,周知技術を示す文献である。

4 当合議体が通知した拒絶の理由
当合議体が通知した拒絶の理由は,概略,本件出願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるということができないから,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない,というものである。

第2 当合議体の判断
1 引用文献4を主引用例とした場合について
(1) 引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2010-151750号公報)は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,フィルムの評価方法に関するものである。さらに詳しくは,偏光板の貼合装置において,該偏光板に含有されるフィルムが破断するか否かを推定することができるフィルムの評価方法に関するものである。
…省略…
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
…省略…
【0009】
本発明は,上記従来の問題点に鑑みなされたものであって,その目的は,偏光板の貼合装置において,該偏光板に含有されるフィルムが破断するか否かを推定することができるフィルムの評価方法を提供することにある。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0010】
…省略…
【0012】
そこで,本発明者は,上記課題に鑑み鋭意検討した結果,上記再現試験と同等であり,かつ簡易的である試験を用いたフィルムの評価方法を独自に見出し,本発明を完成させるに至った。
…省略…
【発明の効果】
【0019】
…省略…
【0020】
それゆえ,本発明のフィルムの評価方法は,偏光板の貼合装置において,該偏光板に含有されるフィルムが破断するか否かを推定することができるという効果を奏する。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
…省略…
【0022】
(I)本発明におけるフィルムの評価方法に用いられる物質等
<フィルム>
本発明で評価されるフィルムは特に限定されず,例えば,PET(polyethylene terephthalate)フィルム(ポリエチレンテレフタレートを含有するフィルム),TAC(triacetyl cellulose)フィルム(トリアセチルセルロースを含有するフィルム)等が挙げられる。
…省略…
【0028】
<偏光板>
本発明における偏光板は,本発明に用いられる偏光板の貼合装置によって製造されるものである。具体的には,本発明における偏光板は,本発明に用いられる偏光板の貼合装置に上記フィルム(本発明で評価されるフィルム)を搬送し,複数の上記フィルム等を貼り合わせることによって製造されるものである。なお,偏光板の貼合装置での処理については後述する。
【0029】
本発明における偏光板は,特に限定されないが,偏光子フィルムと偏光子保護フィルムとが積層された構成を有することが好ましい。
【0030】
上記偏光子フィルムとは,特定の振動方向を有する直線偏光のみを透過する機能を有するフィルムであり,例えばPVA(polyvinyl alcohol)フィルム等を延伸し,ヨウ素や二色性染料等で染色したフィルムが一般的に使用される。
【0031】
上記偏光子保護フィルムとは,偏光子フィルムを保持して偏光板全体に実用的な強度を付与する等の機能を担うものであり,例えばTACフィルム等が一般的に使用される。なお,この偏光子保護フィルムのことを支持体または支持体フィルムと称することもある。
【0032】
上記偏光子フィルムと上記偏光子保護フィルムとは,接着剤層を介して貼合され,該偏光子保護フィルムは該偏光子保護フィルムの片面または両面に積層された形態で使用される。
…省略…
【0034】
図1は,本発明に用いられる偏光板の貼合装置10の装置構成を説明する概略図である。図1において,偏光板の貼合装置10は,主として,偏光子保護フィルム1を洗浄するための水洗層2,水洗層2から搬送された偏光子保護フィルム1の水分を取り除くためのスポンジロール3と,偏光子保護フィルム1にコロナ放電処理を行い偏光子保護フィルム1の表面の接着性を改質するためのコロナ装置4と,偏光子保護フィルム1,11の片面に接着剤を塗布するための接着剤塗工装置5と,偏光子保護フィルム1,11と偏光子フィルム21とを重ね合わせるためのニップロール(フィルム貼合部)6と,偏光子保護フィルム1,11と偏光子フィルム21とが貼合された積層体22を密着させるためのロール7と,ロール7の外周面と相対する位置に設置された活性エネルギー線照射装置8と,ガイドロール41?49と,偏光板取り出し部30とを備えている(なお,図1において,偏光子保護フィルム11への接着剤塗工装置5等は図示していない)。
…省略…
【0039】
接着剤塗工装置5では,ロール状に巻回された状態から連続的に繰り出される偏光子保護フィルム1,11の片面に塗布される。そして,前記偏光子保護フィルム1,11と同様にして連続に繰り出された偏光子フィルム21の両面にそれぞれ偏光子保護フィルム1,11がニップロール6によって接着剤を介して重ね合わされ積層体22が形成される。この積層体22をロール7の外周面に密着させながら搬送する過程で,活性エネルギー線照射装置8からロール7の外周面に向かって活性エネルギー線を照射し,接着剤を重合硬化させる。
…省略…
【0042】
ロール7は,外周面が鏡面仕上げされた凸曲面を構成しており,その表面に積層体22を密着させながら搬送し,その過程で活性エネルギー線照射装置8により接着剤を重合硬化させる。
…省略…
【0043】
活性エネルギー線の照射により重合硬化を行う場合,用いる光源は特に限定されないが,波長400nm以下に発光分布を有する,例えば,低圧水銀灯,中圧水銀灯,高圧水銀灯,超高圧水銀灯,ケミカルランプ,ブラックライトランプ,マイクロウェーブ励起水銀灯,メタルハライドランプなどを用いることができる。
…省略…
【0046】
このようにして,偏光板取り出し部30から,偏光板(製品)を取り出す。
…省略…
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のフィルムの評価方法は,偏光板を製造する際に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明におけるフィルムの評価方法に用いられる偏光板の貼合装置の一実施形態を示す概略図である。
…省略…
【符号の説明】
【0075】
1 偏光子保護フィルム(フィルム投入部)
2 水洗層
3 スポンジロール
4 コロナ装置
5 接着剤塗工装置
6 ニップロール(フィルム貼合部)
7 ロール
8 活性エネルギー線照射装置
10 偏光板の貼合装置
11 偏光子保護フィルム(フィルム投入部)
21 偏光子フィルム(フィルム投入部)
30 偏光板取り出し部
41?49 ガイドロール」

エ 図1


(2) 引用発明4
ア 偏光板の貼合装置
引用文献4の【0034】,【0075】及び【図1】の記載からみて,引用文献4には,次の「偏光板の貼合装置」が記載されている。
「 偏光子保護フィルムを投入するフィルム投入部と,
偏光子保護フィルムを洗浄するための水洗層と,
水洗層から搬送された偏光子保護フィルムの水分を取り除くためのスポンジロールと,
偏光子保護フィルムにコロナ放電処理を行い偏光子保護フィルムの表面の接着性を改質するためのコロナ装置と,
偏光子保護フィルムの片面に接着剤を塗布するための接着剤塗工装置と,
偏光子保護フィルムと偏光子フィルムとを重ね合わせるためのニップロールと,
偏光子保護フィルムと偏光子フィルムとが貼合された積層体を密着させるためのロールと,
ロールの外周面と相対する位置に設置された活性エネルギー線照射装置と,
偏光板取り出し部とを備える,
偏光板の貼合装置。」

イ 引用発明4
各部,各装置,部材の機能に着目すると,前記アで述べた「偏光板の貼合装置」からは,次の「偏光板の貼合方法」の発明(以下「引用発明4」という。)を導き出すことができる。なお,対比の便宜上,各工程に符号を付した。また,「活性エネルギー線照射装置」及び「偏光板取り出し部」については,それぞれ【0042】及び【0046】の記載を考慮した。
「 フィルム投入部によって,偏光子保護フィルムを投入する工程(1)と,
水洗層によって,偏光子保護フィルムを洗浄する工程(2)と,
スポンジロールによって,水洗層から搬送された偏光子保護フィルムの水分を取り除く工程(3)と,
コロナ装置によって,偏光子保護フィルムにコロナ放電処理を行い偏光子保護フィルムの表面の接着性を改質する工程(4)と,
接着剤塗工装置によって,偏光子保護フィルムの片面に接着剤を塗布する工程(5)と,
ニップロールによって,偏光子保護フィルムと偏光子フィルムとを重ね合わせる工程(6)と,
ロールによって,偏光子保護フィルムと偏光子フィルムとが貼合された積層体を密着させる工程(7)と,
ロールの外周面と相対する位置に設置された活性エネルギー線照射装置によって,接着剤を重合硬化させる工程(8)と,
偏光板取り出し部によって,偏光板を取り出す工程(9)を有する,
偏光板の貼合方法。」

(3) 対比
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明4を対比すると,以下のとおりである。
ア 偏光板を製造する方法
引用発明4の「偏光板の貼合方法」は,「接着剤塗工装置によって,偏光子保護フィルムの片面に接着剤を塗布する工程(5)と」,「ニップロールによって,偏光子保護フィルムと偏光子フィルムとを重ね合わせる工程(6)と」,「ロールによって,偏光子保護フィルムと偏光子フィルムとが貼合された積層体を密着させる工程(7)と」,「ロールの外周面と相対する位置に設置された活性エネルギー線照射装置によって,接着剤を重合硬化させる工程(8)と」を有する。
上記の工程からみて,引用発明4の「偏光板の貼合方法」は,「偏光子フィルム」の少なくとも片面に,「接着剤」により,「偏光子保護フィルム」を貼合して「偏光板」を製造する方法である。また,技術常識を考慮すると,引用発明4の「偏光子フィルム」は,ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素が吸着配向しているものであり,同様に,「偏光子保護フィルム」は,熱可塑性樹脂から形成されたものである(当合議体注:引用文献4の【0030】及び【0031】の記載からも理解できる事項である。)。そして,引用発明4でいう「活性エネルギー線」とは,紫外線のことである(当合議体注:引用文献4の【0043】の記載からも理解できる事項である。)。
そうしてみると,引用発明4の「偏光子フィルム」,「接着剤」,「偏光子保護フィルム」及び「偏光板の貼合方法」は,それぞれ本願発明1の「偏光フィルム」,「紫外線硬化型接着剤」,「保護フィルム」及び「偏光板を製造する方法」に相当する。また,引用発明4の「偏光板の貼合方法」は,本願発明1の「偏光板を製造する方法」における,「ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素又は二色性染料が吸着配向している偏光フィルムの少なくとも片面に,紫外線硬化型接着剤により,熱可塑性樹脂から形成される保護フィルムを貼合して」という構成を満足する。

イ 工程(a)
引用発明4の「偏光板の貼合方法」は,「水洗層によって,偏光子保護フィルムを洗浄する工程(2)」を有する。
上記工程は,「偏光子保護フィルム」と「水洗層」の水とが,「洗浄」に伴い接触する工程と解釈可能である。
そうしてみると,引用発明4の「工程(2)」と本願発明1の「工程(a)」は,「前記保護フィルムを」,「水と接触させる」工程である点で一致する。

ウ 易接着処理を行う工程
引用発明4の「偏光板の貼合方法」は,「コロナ装置によって,偏光子保護フィルムにコロナ放電処理を行い偏光子保護フィルムの表面の接着性を改質する工程(4)」を有する。
ここで,引用発明4の「偏光子保護フィルムの表面の接着性を改質する」という処理は,「コロナ放電処理」によるものであるから,易接着処理である。また,引用発明4の「工程(4)」は,前記イで述べた「工程(2)」の後の処理である。
そうしてみると,引用発明4の「工程(4)」は,本願発明1の「易接着処理を行う工程」に相当する。また,引用発明4の「工程(4)」は,本願発明1の「易接着処理を行う工程」における,「前記工程(a)を経た保護フィルムに易接着処理を行う」という構成を満足する。

エ 工程(b)
引用発明4の「偏光板の貼合方法」は,「接着剤塗工装置によって,偏光子保護フィルムの片面に接着剤を塗布する工程(5)」を有する。
ここで,上記工程は,前記ウで述べた「工程(4)」の後に行われる,また,上記の工程からみて,「工程(5)」は,「偏光子保護フィルムの片面に接着剤」の層を形成する工程である。そして,前記アで述べたとおり,引用発明4の「接着剤」は,紫外線硬化型である。
そうしてみると,引用発明4の「工程(5)」は,本願発明1の「工程(b)」に相当する。また,引用発明4の「工程(5)」は,本願発明1の「工程(b)」における,「前記易接着処理工程を経た保護フィルム及び偏光フィルムから選ばれる少なくとも一つのフィルム上に,紫外線硬化型接着剤からなる接着剤層を形成する」という構成を満足する。

オ 工程(c)
引用発明4の「偏光板の貼合方法」は,「ニップロールによって,偏光子保護フィルムと偏光子フィルムとを重ね合わせる工程(6)と」,「ロールによって,偏光子保護フィルムと偏光子フィルムとが貼合された積層体を密着させる工程(7)」を有する。
ここで,これら工程は,前記エで述べた「工程(5)」の後に行われる。また,「工程(5)」の「偏光子保護フィルムの片面」が「偏光子フィルム」に相対する面であり,そこに「接着剤」の層があることは自明である。そして,「工程(7)」の内容から,上記「工程(6)」により「偏光子保護フィルムと偏光子フィルムとが貼合された積層体」が得られていることが判る。
そうしてみると,引用発明4の「工程(6)」及び「積層体」は,本願発明1の「工程(c)」及び「積層フィルム」に相当する。また,引用発明4の「工程(6)」は,本願発明1の「工程(c)」における,「前記接着剤層を介して保護フィルム及び偏光フィルムを積層させて積層フィルムを得る」という構成を満足する。

カ 工程(d)
引用発明4の「偏光板の貼合方法」は,「ロールによって,偏光子保護フィルムと偏光子フィルムとが貼合された積層体を密着させる工程(7)と」,「ロールの外周面と相対する位置に設置された活性エネルギー線照射装置によって,接着剤を重合硬化させる工程(8)」を有する。
これら工程からみて,引用発明4の「工程(8)」は,「積層体」に「活性エネルギー線」を照射して「接着剤を重合硬化させる」ものである。
そうしてみると,引用発明4の「工程(8)」は,本願発明1の「工程(d)」に相当する。また,引用発明4の「工程(8)」は,本願発明1の「工程(d)」における,「前記積層フィルムに紫外線を照射して接着剤層を硬化させる」という構成を満足する。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明4は,次の構成で一致する。
「 ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素又は二色性染料が吸着配向している偏光フィルムの少なくとも片面に,紫外線硬化型接着剤により,熱可塑性樹脂から形成される保護フィルムを貼合して偏光板を製造する方法であって,
前記保護フィルムを,水と接触させる工程(a),
前記工程(a)を経た保護フィルムに易接着処理を行う工程,
前記易接着処理工程を経た保護フィルム及び偏光フィルムから選ばれる少なくとも一つのフィルム上に,紫外線硬化型接着剤からなる接着剤層を形成する工程(b),
前記接着剤層を介して保護フィルム及び偏光フィルムを積層させて積層フィルムを得る工程(c),及び
前記積層フィルムに紫外線を照射して接着剤層を硬化させる工程(d)
を備えることを特徴とする偏光板の製造方法。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明4は,次の点で相違する。
(相違点)
「工程(a)」が,本願発明1は,「温度30?50℃,相対湿度70?90%の雰囲気下の大気中で」水と接触させる工程であるのに対して,引用発明4は,「水洗層によって,偏光子保護フィルムを洗浄する」工程である点。

(5) 判断
引用発明4の「工程(2)」は,「水洗層によって,偏光子保護フィルムを洗浄する」ものである。そして,引用文献4には,この構成に関して【0034】にしか記載がない。このような引用文献4の記載内容を考慮すると,当業者が引用発明4の「水洗層によって,偏光子保護フィルムを洗浄する」工程に着目し,何らかの創意工夫を行うとはいいがたい。また,「偏光子保護フィルムを洗浄する」手段として「水洗層」を用いることは,当業者における周知慣用技術であるのに対して,「温度30?50℃,相対湿度70?90%の雰囲気下の大気中で水と接触させる」ことにより「偏光子保護フィルムを洗浄する」ことが一般的なものであるということはできない。この点は,原査定の拒絶の理由によって示された,引用文献3及び引用文献5?引用文献7に,「温度30?50℃,相対湿度70?90%の雰囲気下の大気中で水と接触させる工程」が,「偏光子保護フィルムを洗浄する」の代替手段として開示されていない点からみても,明らかである。
以上勘案すると,引用発明4の「水洗層によって,偏光子保護フィルムを洗浄する工程(2)」を,本願発明1の「温度30?50℃,相対湿度70?90%の雰囲気下の大気中で水と接触させる工程」とすることに,動機付けがあるといはいえない。
(当合議体注:洗浄手段として,シャワーによる洗浄がないわけではない。しかしながら,上記のとおり動機付けがないからには,引用発明4とシャワーによる洗浄とを結びつけて考えることはできないし,仮に,結びつけて考えるとしても,「温度30?50℃,相対湿度70?90%の雰囲気下」という構成に到るとまでは,いうことができない。)

(6) 小括
本願発明1は,たとえ当業者といえども,引用文献4に記載された発明(並びに引用文献3及び引用文献5から引用文献7に記載された技術)に基づいて,容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(7) 請求項2?請求項8に係る発明について
請求項2?請求項8に係る発明は,本願発明1の「偏光板の製造方法」に対して,さらに他の構成を付加してなる「偏光板の製造方法」の発明である。
したがって,本願発明1の場合と同じ理由により,請求項2?請求項8に係る発明も,引用文献4に記載された発明(並びに引用文献3及び引用文献5から引用文献7に記載された技術)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2 引用文献3を主引用例とした場合
(1) 引用発明3
引用文献3の【0101】及び【0102】には,次の「偏光板の製造方法」の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。
「 熱可塑性樹脂からなる保護フィルムを加熱する工程(d-1)と,
加熱された保護フィルムの片面に,紫外線硬化型接着剤を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程(a)と,
接着剤層上に,偏光フィルムを積層して積層フィルムを得るフィルム積層工程(b)と,
積層フィルムに紫外線を照射する紫外線照射工程(c)とをこの順で含み,
保護フィルムを加熱する方法としては,ロール状保護フィルムから引き出された長尺の保護フィルムを順次,赤外線ヒータ等の輻射熱を発する装置を通過させる方法,長尺の保護フィルムに,送風機等を用いて加熱したガスを吹き付ける方法等を挙げることができ,
保護フィルムを加熱するタイミングは,保護フィルムの片面に接着剤層を形成する前である限り特に制限されず,コロナ処理などの易接着処理の前であってもよいし,後であってもよい,
偏光板の製造方法。」

(2) 相違点
本願発明1と引用発明3を対比すると,両者は,少なくとも次の点で相違する。
(相違点)
「偏光板の製造方法」が,本願発明1は,「前記保護フィルムを,温度30?50℃,相対湿度70?90%の雰囲気下の大気中で水と接触させる工程(a)」を具備するのに対して,引用発明3は,この工程を具備するものとは特定されていない点。

(3) 判断
引用発明3の「熱可塑性樹脂からなる保護フィルムを加熱する工程(d-1)」において,「保護フィルムを加熱する方法としては,ロール状保護フィルムから引き出された長尺の保護フィルムを順次,赤外線ヒータ等の輻射熱を発する装置を通過させる方法,長尺の保護フィルムに,送風機等を用いて加熱したガスを吹き付ける方法等を挙げることができ」るとしても,これを「前記保護フィルムを,温度30?50℃,相対湿度70?90%の雰囲気下の大気中で水と接触させる工程(a)」に行うことは,引用文献3に記載されておらず,示唆もされていない。
また,「赤外線ヒータ等の輻射熱を発する装置を通過させる方法」や「送風機等を用いて加熱したガスを吹き付ける方法」に替えて,「前記保護フィルムを,温度30?50℃,相対湿度70?90%の雰囲気下の大気中で水と接触させる工程(a)」を採用すると,「保護フィルム」表面に付着した水を取り除く工程を設ける必要が生じるから,当業者がこのような変更を行うことに動機付けがあるとはいえないし,工程数が増えるという観点からしてみれば,阻害要因があるともいえる。
なお,TACフィルムからなる「保護フィルム」と「偏光フィルム」を,ポリビニルアルコール等の水系の「接着剤」で貼り合わせるに際して,あらかじめTACフィルムを調湿しておくことは,周知慣用技術である。しかしながら,引用発明3の「接着剤」は,「紫外線硬化型接着剤」であるから,これを引用発明3と組み合わせる動機付けが存在しない。

(4) 小括
本願発明1は,たとえ当業者といえども,引用文献3に記載された発明(及び周知技術)に基づいて,容易に発明をすることができたものであるということはできない。請求項2?請求項8に係る発明についても同様である。

第3 拒絶の理由について
1 原査定の拒絶の理由について
前記「第2」で述べたとおりであるから,本件出願の請求項1?請求項8に係る発明と,引用発明4は同一であるということができない。また,本件出願の請求項1?請求項8に係る発明は,引用文献4に記載された発明(並びに引用文献3及び引用文献5から引用文献7に記載された技術)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということができず,さらに,引用文献3に記載された発明(及び周知技術)に基づいて,容易に発明をすることができたものであるということもできない。
したがって,原査定を維持することはできない。

2 当合議体が通知した拒絶の理由について
当合議体が通知した拒絶の理由は,令和3年5月20日にした手続補正により解消した。

第4 むすび
以上のとおり,原査定の拒絶の理由及び当合議体が通知した拒絶の理由によっては,本願を拒絶することができない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-07-09 
出願番号 特願2015-146416(P2015-146416)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 113- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 慎平清水 督史菅原 奈津子  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 河原 正
早川 貴之
発明の名称 偏光板の製造方法  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  

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