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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B60B
管理番号 1375864
異議申立番号 異議2019-700735  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-12 
確定日 2021-04-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6501857号発明「車両用ホイールおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6501857号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2-4〕について訂正することを認める。 特許第6501857号の請求項1?5に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6501857号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成29年12月11日に出願され、平成31年3月29日にその特許権の設定登録が され、同年4月17日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1?5に係る特許について、令和1年9月12日に特許異議申立人太刀掛祐一(以下「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、令和2年1月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年3月19日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年4月6日付けで訂正請求があった旨が通知され(特許法第120条の5第5項)、これに対して、同年4月28日に特許異議申立人から指定期間1ヶ月延長の上申書が提出され、同年5月26日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年9月8日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何ら応答がなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年3月19日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許第6501857号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2-4ついて訂正することを請求するものであり、その内容は以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に
「前記研磨面に描かれた模様は、一定のピッチで同じパターンが繰り返される模様である」とあるのを、「前記研磨面に描かれた模様は、一定のピッチで同じパターンが繰り返されると共に他の前記研磨面との間で連続性が途切れた模様である」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3?4も同様に訂正する。)。

本件訂正は、一群の請求項〔2-4〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項2に「前記研磨面に描かれた模様は、一定のピッチで同じパターンが繰り返される模様である」とあるのを、他の前記研磨面との関係において、「前記研磨面に描かれた模様は、一定のピッチで同じパターンが繰り返されると共に他の前記研磨面との間で連続性が途切れた模様である」として、模様を具体的に特定して限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり(上記ア)、かつ、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 新規事項の有無
(ア)
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」ともいう。さらに、特許請求の範囲又は図面を併せて「本件明細書等」ともいう。)には、以下のとおり記載されている(下線は、当審が付した。以下同様である。)
「【0009】
ここで、ある複数の面に多数の研磨筋目により模様を描く場合、各面同士の模様のずれが違和感を生むという問題がある。すなわち、ある面の模様を仮想的に延長した場合に隣の面と模様が重複しないことで、隣り合う面と面との間で模様の連続性が途切れ、その結果として模様がずれた印象を与えてしまうのである。この問題に対して、各面同士の模様の連続性が保たれるように研磨加工することが考えられる。しかし、このような研磨加工は工数および手間がかかる。
これに対して、本発明では、各研磨面が互いに周方向に離間しているので、各研磨面同士の模様がずれていても違和感が少ない。また、研磨加工の際に模様のずれのことを考慮する必要がなくなり、製造が容易になる。
・・・
【0029】
ここで、ある複数の面に多数の研磨筋目により模様を描く場合、各面同士の模様のずれが違和感を生むという問題がある。すなわち、ある面の模様を仮想的に延長した場合に隣の面と模様が重複しないことで、隣り合う面と面との間で模様の連続性が途切れ、その結果として模様がずれた印象を与えてしまうのである。この問題に対して、各面同士の模様の連続性が保たれるように研磨加工することが考えられる。しかし、このような研磨加工は工数および手間がかかる。
これに対して、第1実施形態では、各研磨面34が互いに周方向に離間しているので、各研磨面34同士の模様がずれていても違和感が少ない。また、研磨加工の際に模様のずれのことを考慮する必要がなくなり、製造が容易になる。
【0030】
また、第1実施形態では、研磨面34に描かれた模様は、一定のピッチで同じパターンPが繰り返される模様である。このような模様が複数の面に描かれる場合、各面同士の模様のずれが違和感を生みやすい。しかし、各研磨面34が互いに周方向に離間している第1実施形態によれば、各研磨面34同士の模様のずれによる違和感が少なくなる。
・・・
【0035】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態では、図6に示すように、研磨面45に描かれた模様は、一定のピッチで同じパターンが繰り返される模様であって、第1実施形態と同種の模様である。周方向で最も近い2つの研磨面45の間には溝46が設けられている。これら2つの研磨面45は、互いに周方向に上記パターンの1ピッチ離間している。一方の研磨面45の模様は、仮想的に延長した場合に他方の研磨面45の模様と重複しない。つまり、2つの研磨面45の間で模様の連続性が途切れている。それでも、各研磨面45が互いに周方向に離間しているので違和感が少ない。」
(イ)
上記(ア)の記載などから、「各研磨面が互いに周方向に離間している」ことを前提として(段落【0009】を参照。請求項1も参照。)、「研磨面に描かれた模様は、一定のピッチで同じパターンが繰り返される模様」である(段落【0029】、【0030】及び【0035】、実施例1、3についての記載などを参照。請求項2も参照。)と共に、ある面の模様を仮想的に延長した場合に隣の面と模様が重複しないことで、「隣り合う面と面との間で模様の連続性が途切れ」た模様(段落【0009】、【0029】、【0030】及び【0035】)となっていることが明らかである。
訂正事項1による訂正は、上記の記載を根拠とするものであり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

エ 独立特許要件
本件においては、訂正前の全ての請求項1?5について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項2?4に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2-4〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正請求により訂正された請求項1?5に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」ともいう。)は、令和2年3月19日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
筒状のリム部と、前記リム部の内側に設けられているディスク部とを備える軽合金製の車両用ホイールであって、
前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部は、平坦な複数の研磨面を有しており、
各前記研磨面には、前記車両用ホイールの回転方向と交差する多数の研磨筋目により同種の幾何学模様が描かれており、
各前記研磨面は互いに周方向に離間している車両用ホイール。
【請求項2】
前記研磨面に描かれた模様は、一定のピッチで同じパターンが繰り返されると共に他の前記研磨面との間で連続性が途切れた模様である請求項1に記載の車両用ホイール。
【請求項3】
各前記研磨面は、前記パターンの1ピッチ以上、互いに周方向に離間している請求項2に記載の車両用ホイール。
【請求項4】
前記パターンの繰り返し方向と前記車両用ホイールの径方向とのなす角度は、各前記研磨面で同じである請求項2または3に記載の車両用ホイール。
【請求項5】
筒状のリム部と、前記リム部の内側に設けられているディスク部とを備える軽合金製の車両用ホイールの製造方法であって、
前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部に、互いに周方向に離間している複数の平坦な面を切削加工により形成する切削工程と、
前記車両用ホイールの回転方向と交差する多数の研磨筋目を研磨加工により前記平坦な面に形成し、各前記平坦な面に同種の幾何学模様を描く研磨工程と、
を含む車両用ホイールの製造方法。」

第4 取消理由(決定の予告)の概要
令和2年9月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の要旨は、次のとおりである。
[理由]
本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物1ないし4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
よって、その請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

[刊行物等一覧]
1:CARTOP MOOK Audi×af imp.3,
(株)交通タイムズ社,2013年12月30日発行,p.101
2:特開2015-33919号公報
3:登録実用新案第3011902号公報
4:特開平10-309636号公報
上記1?4の刊行物等(以下それぞれ「引用文献1?4」という。)は、特許異議申立人が提出した甲第1?4号証である。

第5 取消理由(決定の予告)についての判断
1 引用文献に記載された事項及び発明
(1)引用文献1について
(1-1)引用文献1に記載された事項
引用文献1の101ページには、写真が掲載されているとともに、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下同様である。)。
(1a)
「国産鍛造ゆえに可能な緻密で高度な表面処理
ホイールの世界は日進月歩。新たな製法や造型が生み出される一方で、表面処理の方法もまた、ありとあらゆる仕様が世に送り出されている。
GATE‘Sがプロデュースする国産鍛造ホイールブランド、ヴァルケンは、その独自性の高いデザインと個性的な表面処理でスタイルアップシーンをリードしている。
例えば、同ブランドの名を冠した『ヴァルケン・ブラッシュド』は、直径30 φのリーフブラッシュドがディスク全面に渡って施されるというもの。ひとつひとつ職人の手によって磨かれ、この文様が描き出される。」(101ページ右上欄)
(1b)
「新作となる『ブラッシュ・アノダイズド・マット・ブラック』は、バレル研磨後にブラッシング研磨を行い、さらにヘアライン加工を施した上でアノダイズド加工をするという、手間の掛かった処理。4つの工程を経て、ようやく仕上がるわけだ。
色についても独自のこだわりがある。『ヴァルケン・ブラック』では、単なる塗装ではなく、アルマイト着色と呼ばれる手法で色づけがなされている。表面を平滑に整える鍛造だからこそ活きる表面加工なのだ。
その他、多彩なディスクやリムのバリエーションを用意して、輸入車に絶対的な個性を与えるべく待ち受けている。他とは違う足もとを生み出すヴァルケン、見逃す手はない!」(101ページ右中欄)
(1c)
「DMT FORGED ← ヴァルケン・ブラッシュド×ダイヤカットリムの組み合わせ。円形のブラッシュド模様が独特の風合い醸し出す。ホールの側面をサンディング処理することで、深みのある表情を実現した。」(101ページ右下欄)
(1d)
異議申立人が提出した101ページは、以下のとおりである。

(1-2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の101ページについて、以下のことがいえる。

特許異議申立人は、引用文献1の101ページの下側に示される、「DTM FORGED」という製品を写した写真(以下「写真」という。)に、「D」「S」「C」及び「R」の文字と引き出し線を付しているから(上記(1d)参照)、当審は、必要に応じてこれらの文字等を使用する。
このDが示すディスクを、以下「ディスクD」という。同様に、「スポークS」、「リムR」という。

写真は、車両用のホイールの写真であることが明らかであり(摘記(1b)の「輸入車」という記載も参照)、当該写真によると、リムRが筒状であること、及び、ディスクDがリムRの内側に設けられ、スポークSを有していることが、明らかである。
このことを踏まえると、写真から、筒状のリムRと、筒状のリムRの内側に設けられ、スポークSを有している、ディスクDとを備える車両用ホイールが、看取できる。

写真のディスクDに刻まれた各種の文字や模様、及び、摘記(1c)の「独特の風合いを醸し出す」及び「深見のある表情」という記載を参照すると、写真が、車両外側の意匠面を撮影したものであることが、明らかである。
そして、写真から、意匠面は、筒状のリムRの車両外側の面及びディスクDの車両外側の面から構成されていることが、看取できる。

写真のスポークSについて、以下のことがいえる。
(ア)
スポークSは複数設けられており、各スポークSの形状は、スポーク単体の全体の形状が把握できる「DTM FORGED」という文字が刻まれているスポークの形状を見ると、Y字状であることが明らかである。
(イ)
また、周方向に隣り合うY字状のスポークSの間には、楕円状の空間が形成されていることが、明らかである。
(ウ)
上記(ア)及び(イ)を踏まえると、写真から、楕円状の空間が周方向に介在することにより周方向に間隔を隔てた複数のY字状のスポークSが看取できる。
(エ)
各スポークSは、車両外側の面を備え、各スポークSの車両外側の面には、模様が形成されていることが明らかであり、この模様は、写真右上に位置している101ページ右下欄(摘記(1c))の「DTM FORGED」を説明する「円形のブラッシュド模様」という記載を参照すると、円形のブラッシュド模様であると認められる。
(オ)
上記(ア)、(エ)及びイを踏まえると、ディスクDが有する各Y字状のスポークS(上記イ及び(ア))は、複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面(上記(エ))を備えるものと認められる。

(ア)
上記ア?エの構成を備える車両用ホイールが車両用ホイールの製造方法により製造されることは自明であるところ、上記エ(オ)の、ディスクDが有する各Y字状のスポークSが備える、複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面に着目すると、以下のことがいえる。
(イ)
ディスクDが有する各Y字状のスポークSが備える、複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面は、写真を参照すると、上記ウの、筒状のリムRの車両外側の面及びディスクDの車両外側の面から構成される意匠面の一部であることが明らかである。
(ウ)
上記エ(ウ)のとおり、複数のY字状のスポークSは、楕円状の空間が周方向に介在することにより周方向に間隔を隔てるから、ディスクDが有する各Y字状のスポークSが備える、複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面も、周方向に間隔を隔てるものとして特定できる。
(エ)
ディスクDが有する各Y字状のスポークSが備える、複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面が、研磨加工により形成されることは、技術常識であるから、上記(ア)の車両用ホイールの製造方法は、ディスクDが有する各Y字状のスポークSが備える、複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面を、研磨加工する研磨工程を含む、ことが明らかである。

上記ア?エ、摘記(1a)?(1c)及び写真(摘記(1d))から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「筒状のリムRと、筒状のリムRの内側に設けられ、楕円状の空間が周方向に介在することにより周方向に間隔を隔てた複数のY字状のスポークSを有しているディスクDとを備える車両用ホイールであって、
意匠面は、筒状のリムRの車両外側の面及びディスクDの車両外側の面から構成され、
ディスクDが有する各Y字状のスポークSは、複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面を備える、
車両用ホイール。」

また、上記ア?オ、摘記(1a)?(1c)及び写真(摘記(1d))から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明A」という。)も記載されていると認められる。

[引用発明A]
「筒状のリムRと、筒状のリムRの内側に設けられ、楕円状の空間が周方向に介在することにより周方向に間隔を隔てた複数のY字状のスポークSを有しているディスクDとを備える車両用ホイールの製造方法であって、
筒状のリムRの車両外側の面及びディスクDの車両外側の面から構成される意匠面の一部である、周方向に間隔を隔てる、ディスクDが有する各Y字状のスポークSが備える、複数の円形のブラッシュド模様が形成された車両外側の面を、研磨加工する研磨工程を含む、
車両用ホイールの製造方法。」

(2)引用文献2について
引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(2a)
「【0012】
<第1実施形態>
図1,2に示すように、本実施形態における車両用ホイール1は、車両への装着状態における車内側に配置されるリム3と、リム3の車外側に接合されたディスク5とを備えている。ディスク5は、リム3と別体に構成されている。」
(2b)
「【0015】
図3に示すように、ディスク5の周縁部19は、車外側に配置されて径方向に沿って延在する車外側壁部(第1壁部)31と、車外側壁部31の径方向外側端から車内側に向けて突出した突起部33と、車外側壁部31の径方向内側端から車内側に向けて延在する径方向内側壁部(第2壁部)35と、が一体に形成されてなる。車外側壁部31の表面31aは、車外側に面して平坦に形成された意匠面を構成している。この表面31aは、ディスク5の表面に沿って流れる空気流を、表面31a上において表面31aに平行な流れに整流することができる程度に平坦であればよい。従って、「平坦」には、エッチングやレーザー刻印等により表面31aに模様を付するための浅い凹凸等や装飾目的の浅い凹凸等を形成した場合も含まれる。なお、本実施形態では、車外側壁部31の表面31aは、中心軸Cに略垂直な平面を構成しており、スポーク部17の径方向外側端部における車外側の表面17aと略面一になっている。
・・・
【0032】
機械加工工程S14では、接合工程S13により組み立てたホイール1の表面に切削加工を施して、ホイール1を所定の寸法、形状に整える。具体的には、切削工具の刃先を、ホイール1の表面に突き当てつつ周方向に相対移動させて、ホイール1の表面を切削する。そして、ホイール1の径方向外側面を切削する際は、少なくとも重ね合わせ部LJに対応する領域を、摩擦攪拌接合により生じた接合痕ごと切削する。これによりホイール1の表面から接合痕を除去し、平滑な面を形成する。なお、機械加工工程S14では、上記切削加工の他に、穴あけ加工を施したり、表面に模様を付するための凹凸等を形成したり、バリ取り、面取り、表面研磨等を施したりしてもよい。」
(2c)
「【0055】
上記実施形態では、マグネシウム合金またはアルミニウム合金の鋳造材、鍛造材からなるリム3およびディスク5を例示した・・・」

(3)引用文献3について
引用文献3には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(3a)
「 【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、模様パターンのある金属板に関する。」
(3b)
「 【0004】
【考案が解決しようとする課題】
本考案は、従来の研磨パターン金属板に対して、美観性の高められた研磨パターン金属板を提供することを目的とする。また、研磨処理のみによって容易に作成できる研磨パターン金属板を提供することを目的とする。」
(3c)
「 【0011】
本考案の研磨パターン金属板の材質としては、ステンレススチ-ル板、銅板、真鍮板、アルミニウム板、チタン板を用いることができるが、これらに限定されるものではない。以上の金属板の表面に、多数の平行線切削溝を形成して、その形成された部分は、乱反射面となるものである。
【0012】
更に、本考案の研磨パターン金属板では、以上のような研磨跡を組合わせたパターンを、その表面に形成されて、金属板は、例えば、建築の内装、外装に用いられる。そのためには、平面金属板ばかりでなく、円筒形板、角部材の表面、棒状部材の表面には、本考案に従って、研磨パターンを形成することができ、それらの研磨パターンを有する種々の部材を、内装或いは外装部材として、用いることができる。本考案による研磨パターン金属板には、更に、着色、発色処理、塗装、メッキ処理を行ない、違う美観を呈するようにできる。
【0013】
更に、本考案の研磨パターン金属板での、研磨パターンの作成は、ロボット等の機械を用いて、所定の移動軌跡パターンで、研磨材を動かして、自動的に行なうことができる。」
(3d)
「 【0015】
【実施例】
図1は、本考案の研磨パターン金属板(1)の構造の全体を示す斜視図である。即ち、図示のように、金属板(1)の表面に、ほぼ縦方向に研磨した跡のパターン(2)と、ほぼ横方向に研磨した跡(3)とを図示のように、チェック模様に配置する。
【0016】
即ち、プレーン研磨材加工で、金属板(1)の表面に.プレーン研磨材の平行移動で描くことができる所定の研磨パターン(2)(3)が描かれている金属板である。従って、形成できる研磨パターンには、平行線削り溝の集合でしかないというパターンとしての制限がある。上記のような模様、パターンとして、ある一定の特性がある。
【0017】
更に、以上のようにして研磨パターンを形成した金属板(1)を、図2に示すように、円筒形(5)にすることができる。或いは、最初から円筒形の金属平面、パイプ状、棒状、角状の金属平面に研磨パターンを形成したものも提供できる。
【0018】
以上の図1では、縦、横の平行線削線による格子模様であるが、更に、縦、横の平行線削線の角度を変えて、重ねて、模様を作成していくと、幾重にも重畳した模様を作ることができ、金属板表面にこのような重畳した縦、横の平行線削線パターンにより、金属表面上に研磨模様の一部が浮き出たように見える効果が出る。従って、金属板表面に、従来見られなかった絵画性の美観のある模様、立体感を持つ模様を呈するようにできる。
【0019】
また、図3には、金属板(1)表面に研磨材(6)によるローラー(7)で研磨する様子を示す。ローラー(7)の上に研磨材(6)を載置したものを、金属板(1)の上に押し付けながら、図示のように、下向きに平行移動していくと、平行線削溝よりなるパターン(2)が形成されていく。
【0020】
このローラー(7)の研磨しながらの平行移動パターンを、ロボットで、所定パターンに従って、行なうと、一定の模様、パターンが、金属板表面全面にわたり、容易に形成することができる。また、最初に鏡面加工した上にアンティクヘアーをほどこし、鏡面を部分的に残したパターンとすることもできる。
【0021】
【考案の効果】
以上説明したように、本考案の研磨パターン金属板により、前記のような効果が得られた。それらをまとめると、次のような顕著な技術的効果となる。即ち、第1に、簡単な方法で、趣のある美観性の模様、パターンが表面に形成された研磨パターン金属板を提供する。第2に、即ち、研磨跡により表面に模様、パターンを形成した研磨パターン金属板を提供した。第3に、縦方向筋と横方向筋の研磨跡を市松模様にしたパターン、或いは円状研磨跡の一部を利用したパターン等を形成して、研磨模様、パターンを付けた金属板を提供する。」

(4)引用文献4について
引用文献4には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(4a)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、軽合金鋳造ホイールの製造方法に関し、特にメッキ処理を施す軽合金鋳造ホイールの表面処理方法に関する。」
(4b)
「【0006】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の望ましい実施例に係る軽合金鋳造ホイールの製造方法を図1?図4を参照して説明する。図1は第1実施例に係る軽合金鋳造ホイールの製造工程図を示している。・・・」
(4c)
「【0008】次に、(4)の工程である第2ショットブラスト工程である。この、第2ショットブラスト工程は図4(ロ)に示すように、第1ショットブラスト工程において、鋳物表面付近のピンホール3を確実に潰すことができたとしても、どうしても大きな粒径のショット材を使用することから表面の凹凸が大きくなってしまい、その後の工程である、意匠面2等のバフ研磨工程で時間がかかってしまい効率的でないため、鋳物表面を平滑にするために行われる。次の工程は、(5)の意匠面切削工程である。この工程では、図2に示すような自動車にホイールを装着した場合、表側から見える部分2(通常この部分を意匠面という。)を中心にNC旋盤等により切削加工を行う。
【0009】次に、(6)の工程において、この意匠面を主として、後にメッキ 処理を行う部分のバフ研磨を行い、メッキ処理が品質よく行われように下地処理を行う。そして、(7)のメッキ処理工程によってメッキを施した軽合金鋳造ホイールの製造を完了させる。図2は、本発明の第2実施例に係わる軽合金鋳造ホイールの製造ホイールの工程図を示している。第2実施例が第1実施例と違うところは第1、第2ショットブラスト工程を鋳造工程後、熱処理工程前においたことである、こうすることによって、熱処理前という鋳物表面がやわらかい状態でショットブラストをおこなうため、ピンホールをより確実につぶすことができる。」

2 対比・判断
2-1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「筒状のリムR」、「筒状のリムRの内側に設けられ、楕円状の空間が周方向に介在することにより周方向に間隔を隔てた複数のY字状のスポークSを有しているディスクD」及び「車両用ホイール」は、それぞれ、本件発明1の「筒状のリム部」、「前記リム部の内側に設けられているディスク部」及び「車両用ホイール」に相当する。
引用発明の「筒状のリムRと、筒状のリムRの内側に設けられ、楕円状の空間が周方向に介在することにより周方向に間隔を隔てた複数のY字状のスポークSを有しているディスクDとを備える車両用ホイール」と、本件発明1の「筒状のリム部と、前記リム部の内側に設けられているディスク部とを備える軽合金製の車両用ホイール」とは、「筒状のリム部と、前記リム部の内側に設けられているディスク部とを備える車両用ホイール」において共通している。

上記アを踏まえると、引用発明の「筒状のリムRの車両外側の面及びディスクDの車両外側の面から構成され」る「意匠面」は、本件発明1の「前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面」に相当する。

引用発明の「円形のブラッシュド模様」は、摘記(1b)の「ブラッシング研磨」という記載を参照すると、研磨加工によってできる円形の模様といえる。
そうすると、引用発明の「ディスクDが有する各Y字状のスポークS」が「備える」、「複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面」は、研磨面といえるし、また、上記イを踏まえると、意匠面の一部といえる。

上記ア?ウを踏まえると、引用発明の「意匠面は、筒状のリムRの車両外側の面及びディスクDの車両外側の面から構成され、ディスクDが有する各Y字状のスポークSは、複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面を備える」構成と、本件発明1の「前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部は、平坦な複数の研磨面を有して」いる構成とは、「前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部は、研磨面を有して」いる構成において共通している。

引用発明の「複数のY字状のスポークS」は、「楕円状の空間が周方向に介在することにより周方向に間隔を隔て」るから、引用発明の「ディスクDが有する各Y字状のスポークS」が「備える」、「複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面」(本件発明1の「研磨面」に相当。上記エを参照。)も、周方向に間隔を隔てるといえる。
そうすると、引用発明の「楕円状の空間が周方向に介在することにより周方向に間隔を隔てた複数のY字状のスポークSを有しているディスクD」の構成及び「ディスクDが有する各Y字状のスポークSは、複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面を備える」構成と、本件発明1の「各前記研磨面は互いに周方向に離間している」構成とは、「前記研磨面は互いに周方向に離間している」構成において共通している。

以上から、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「筒状のリム部と、前記リム部の内側に設けられているディスク部とを備える車両用ホイールであって、
前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部は、研磨面を有しており、
前記研磨面は互いに周方向に離間している車両用ホイール。」
<相違点1-1>
「車両用ホイール」が、本件発明1は、「軽合金製の」車両用ホイールであるのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。
<相違点1-2>
「研磨面」が、本件発明1は、「平坦な複数の」研磨面であり、「各前記研磨面には、前記車用ホイールの回転方向と交差する多数の研磨筋目により同種の幾何学模様が描かれており」、前記「各」研磨面は互いに周方向に離間しているのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(2)判断
相違点について、以下検討する。
ア 相違点1-1について
(ア)
引用文献1の写真から認識できる光沢や見栄えから、当業者であれば、引用発明の車両用ホイールが、アルミなどの軽合金製であると理解することもできる。
したがって、相違点1-1は、相違点とはいえない。
(イ)
仮に、相違点1-1が実質的な相違点であったとしても、リムとディスクとを備えている車両用ホイールを軽合金製とすることは、周知技術(例えば、引用文献2の「マグネシウム合金またはアルミニウム合金の鋳造材、鍛造材からなるリム3およびディスク5」(摘記(2c))、引用文献4の「軽合金鋳造ホイール」(摘記(4a))を参照)であって、この周知技術に鑑みることで、引用発明において、車両用ホイールを軽合金製とすることで、上記相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

イ 相違点1-2について
(ア)
引用文献1の写真から認識できる光沢や見栄え(ディスクDの中央部が湾曲して窪んでいることは明らかである。)から、当業者であれば、引用発明の「ディスクDが有する各Y字状のスポーク」が「備える」、「複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面」は、ディスクDの中央部が湾曲して窪んでいることにより分断されており、平坦な複数の研磨面であり、各前記研磨面(平坦な複数の面)は互いに周方向に離間していると理解することもできるし、また、当該「複数の円形のブラッシュド模様」は、車両用ホイールの回転方向と交差する多数の研磨筋目を形成した幾何学模様であると理解することもできる。
そして、当該「車両外側の面」は、「複数の円形のブラッシュド模様が形成され」ているから、車両用ホイールの回転方向と交差する多数の研磨筋目により同種の幾何学模様が描かれているものと理解することもできる。
したがって、相違点1-2は、実質的な相違点とはいえない。
(イ)
仮に、相違点2-1が実質的な相違点であったとしても、意匠面の改良であったり美観を高めたりする旨で課題が共通すること(摘記(1c)、(2b)及び(3b)を参照)に鑑み、引用文献2(摘記(2b))の「ディスク5の」「車外側壁部31の表面31aは、車外側に面して平坦に形成された意匠面を構成し」、「車外側壁部31の表面31aは」、「スポーク部17の径方向外側端部における車外側の表面17aと略面一になっている」技術、及び、引用文献3(摘記(3c)及び(3d)の段落【0015】、【0021】)の「研磨パターン金属板の材質として」「アルミニウム板」「を用い」、「金属板の表面に、ほぼ縦方向に研磨した跡のパターンと、ほぼ横方向に研磨した跡とを」「チェック模様に配置する」ないし「縦方向筋と横方向筋の研磨跡を市松模様にしたパターン」「を形成して、研磨模様、パターンを付けた金属板を提供する」技術を、引用発明に適用することで、
引用発明の「意匠面」となっている、ディスクDの中央部が湾曲して窪んでいることが明らかである「ディスクDが有する各Y字状のスポークS」が「備える」、「複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面」を、平坦な複数の研磨面として、各平坦な複数の面は互いに周方向に離間しているように構成し、当該各面の「複数の円形のブラッシュド模様」を、縦方向筋と横方向筋の研磨跡からなるチェック模様や市松模様にすることで、車両用ホイールの回転方向と交差する多数の研磨筋目により同種の幾何学模様が描かれているように構成して、上記相違点1-2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

2-2 本件発明2について
(1)対比
本件発明2と引用発明とを対比する。
上記2-1(1)を踏まえると、本件発明2と引用発明は、上記一致点で一致し、上記相違点1-1及び相違点1-2で相違し、さらに、次の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明2は、「前記研磨面に描かれた模様は、一定のピッチで同じパターンが繰り返されると共に他の前記研磨面との間で連続性が途切れた模様である」のに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(2)判断
相違点について、以下検討する。
ア 相違点1-1及び1-2について
上記相違点1-1及び相違点1-2については、上記2-1(2)のとおりである。

イ 相違点2-1について
上記相違点2-1について検討する。
(ア)
引用文献3には、「研磨パターン金属板の材質として」「アルミニウム板」「を用い」(摘記(3a)の段落【0011】)、「金属板の表面に、ほぼ縦方向に研磨した跡のパターンと、ほぼ横方向に研磨した跡とを」「チェック模様に配置する」(同【0015】)ないし「縦方向筋と横方向筋の研磨跡を市松模様にしたパターン」「を形成して、研磨模様、パターンを付けた金属板を提供する」(同【0021】)技術が記載されている。
「チェック模様」の「チェック」は、「洋服などの市松いちまつ模様。格子縞こうしじま。『?のスカート』[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」を意味し、
「市松模様」は、「紺と白とを交互に置いた碁盤縞を並べた文様[株式会社岩波書店広辞苑第六版]」を意味するから、「チェック模様」や「市松模様」は、一定のピッチで同じパターンが繰り返される模様であるといえる。
このことから、上記の技術は、縦方向筋と横方向筋の研磨跡により、一定のピッチで同じパターンが繰り返される模様を、アルミニウム板である金属板の表面に描く技術(以下「引用文献3に記載された技術事項1」という。)であるといえる。
そして、引用文献3の「円筒形板、角部材の表面、棒状部材の表面には、・・・研磨パターンを形成することができ」(摘記(3c)の段落【0012】)、「研磨パターンの作成は、・・・所定の移動軌跡パターンで、研磨材を動かして、・・・行なうことができる」(摘記(3c)の段落【0013】)という記載を参照すると、上記の技術は、種々の形状の面に、各面毎(「角部材の表面」などを参照)に適用できるといえる。
そうすると、引用文献3には、縦方向筋と横方向筋の研磨跡により、一定のピッチで同じパターンが繰り返される模様を、アルミニウム板である金属板の表面の複数の表面毎に、それぞれ別々描く技術(以下「引用文献3に記載された技術事項2」という。)も記載されているといえる。
(イ)
一方、上記2-1(2)イで述べたとおり、引用発明の「ディスクDが有する各Y字状のスポーク」が「備える」、「複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面」は、平坦な複数の研磨面であり、各平坦な複数の研磨面は互いに周方向に離間している(また、そのようにすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。)こと、及び、摘記(1a)に記載されるように、「磨かれ、この文様が描き出される」ことから、引用発明において、平坦な複数の面のそれぞれに「複数の円形のブラッシュド模様が形成され」ることにより、平坦な複数の研磨面が一つずつ形成されて各研磨面同士の模様がずれ、平坦な複数の研磨面同士の間で、連続性が途切れた模様となることは、想定の範囲内の事項といえる。
(ウ)
そして、上記2-1(2)イ(イ)で述べたとおり、引用発明と引用文献3に記載された各技術事項とは課題が共通するから、引用発明に引用文献3に記載された技術事項2を適用して、引用発明の、互いに周方向に離間している平坦な複数の面である、「ディスクDが有する各Y字状のスポーク」が「備える」「車両外側の面」に、一定のピッチで同じパターンが繰り返される模様を、それぞれ別々に形成することで、引用発明の上記の平坦な複数の面に「形成された」「複数の円形のブラッシュド模様」を、一定のピッチで同じパターンが繰り返されると共に他の前記研磨面との間で連続性が途切れた模様とし、上記相違点2-1に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易になし得たといえる。
(エ)
また、本件発明2は、「各研磨面同士の模様がずれ」ることを特定していないところ、引用発明の「ディスクDが有する各Y字状のスポークS」が「備える」、「複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面」は、各平坦な複数の研磨面が互いに周方向に離間している構成となっているから(上記2-1(2)イ参照)、各研磨面同士の模様がずれなくても、この離間により模様は連続せず、模様は研磨面同士の間で連続性が途切れた態様となっており、上記の引用文献3に記載された技術事項2の適用について検討するまでもなく、令和2年1月16日付け取消理由と同様に、引用発明に引用文献3に記載された技術事項1を適用することでも、上記相違点2-1に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易になし得たといえる。

2-3 本件発明3について
(1)対比
本件発明3と引用発明とを対比する。
上記2-1(1)及び上記2-2(1)を踏まえると、本件発明3と引用発明は、上記一致点で一致し、上記相違点1-1及び相違点1-2並びに上記相違点2-1で相違し、さらに、次の点で相違する。
<相違点3-1>
本件発明3は、「各前記研磨面は、前記パターンの1ピッチ以上、互いに周方向に離間している」のに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(2)判断
相違点について、以下検討する。
ア 相違点1-1、1-2及び2-1について
上記相違点1-1及び相違点1-2については、上記2-1(2)のとおりである。
上記相違点2-1については、上記2-2(2)イのとおりである。

イ 相違点3-1について
上記相違点3-1について検討する。
上記2-2(2)イと同様であり、引用発明に、引用文献3に記載された技術事項1ないし2を適用した際に、引用発明の「ディスクDが有する各Y字状のスポークS」の模様に対して充分に大きい間隔(写真参照)をみれば、各前記研磨面は、前記パターンの1ピッチ以上、互いに周方向に離間している構成、すなわち、上記相違点3-1に係る本件発明3の構成が、得られるといえる。

2-4 本件発明4について
(1)対比
本件発明4と引用発明とを対比する。
上記2-1(1)、上記2-2(1)及び上記2-3(1)を踏まえると、本件発明4と引用発明は、上記一致点で一致し、上記相違点1-1及び相違点1-2並びに上記相違点2-1ないし上記相違点3-1で相違し、さらに、次の点で相違する。
<相違点4-1>
本件発明4は、「前記パターンの繰り返し方向と前記車両用ホイールの径方向とのなす角度は、各前記研磨面で同じである」のに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

(2)判断
相違点について、以下検討する。
ア 相違点1-1、1-2、2-1ないし3-1について
上記相違点1-1及び相違点1-2については、上記2-1(2)のとおりである。
上記相違点2-1ないし上記相違点3-1については、上記2-2(2)イないし上記2-3(2)イのとおりである。

イ 相違点4-1について
上記相違点4-1について検討する。
上記2-2(2)イと同様であり、引用発明に、引用文献3に記載された技術事項1ないし2を適用して、引用発明の「複数の円形のブラッシュド模様」を、一定のピッチで同じパターンが繰り返される模様として構成するから、引用発明の「ディスクDが有する各Y字状のスポーク」が「備える」、「複数の円形のブラッシュド模様が形成された、車両外側の面」の模様は、同様の市松模様となり、パターンの繰り返し方向と車両用ホイールの径方向とのなす角度は、各前記研磨面で同じである構成、すなわち、上記相違点4-1に係る本件発明4の構成が、得られるといえる。
また、仮に、そこまではいえないとしても、上記2-2(2)イの際に、各面の模様の径方向に対する角度を同じにし、上記相違点4-1に係る本件発明4の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

2-5 本件発明5について
(1)対比
本件発明5と引用発明Aとを対比する。

上記2-1(1)アを踏まえると、引用発明Aの「筒状のリムRと、筒状のリムRの内側に設けられ、楕円状の空間が周方向に介在することにより周方向に間隔を隔てた複数のY字状のスポークSを有しているディスクDとを備える車両用ホイールの製造方法」と、本件発明5の「筒状のリム部と、前記リム部の内側に設けられているディスク部とを備える軽合金製の車両用ホイールの製造方法」とは、「筒状のリム部と、前記リム部の内側に設けられているディスク部とを備える車両用ホイールの製造方法」において共通している。

引用発明Aの「筒状のリムRの車両外側の面及びディスクDの車両外側の面から構成される意匠面の一部である、周方向に間隔を隔てる、ディスクDが有する各Y字状のスポークSが備える、複数の円形のブラッシュド模様が形成された車両外側の面」と、本件発明5の「前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部に」おける「互いに周方向に離間している複数の平坦な面」とは、「前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部」の「互いに周方向に離間している面」において共通している。

上記イと、本件発明5の「前記平坦な面」が、「前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部」の「互いに周方向に離間している複数の平坦な面」であることを踏まえると、引用発明Aの「筒状のリムRの車両外側の面及びディスクDの車両外側の面から構成される意匠面の一部である、周方向に間隔を隔てる、ディスクDが有する各Y字状のスポークSが備える、複数の円形のブラッシュド模様が形成された車両外側の面を、研磨加工する研磨工程」と、本件発明5の「前記車両用ホイールの回転方向と交差する多数の研磨筋目を研磨加工により前記平坦な面に形成し、各前記平坦な面に同種の幾何学模様を描く研磨工程」とは、「前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部」の「互いに周方向に離間している面」(「前記平坦な面」にかかる「面」)を「研磨加工」する「研磨工程」において共有している。

以上から、本件発明5と引用発明Aとの一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点5>
「筒状のリム部と、前記リム部の内側に設けられているディスク部とを備える車両用ホイールの製造方法であって、
前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部の互いに周方向に離間している面を研磨加工する研磨工程、
を含む車両用ホイールの製造方法。」
<相違点5-1>
「車両用ホイール」が、本件発明5は、「軽合金製の」車両用ホイールであるのに対して、引用発明Aは、そのように特定されていない点。
<相違点5-2>
本件発明5は、「前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部に、互いに周方向に離間している複数の平坦な面を切削加工により形成する切削工程」を含むのに対して、引用発明Aは、そのように特定されていない点。
<相違点5-3>
「互いに周方向に離間している面を研磨加工する研磨工程」が、本件発明5は、「前記車両用ホイールの回転方向と交差する多数の研磨筋目を研磨加工により前記平坦な面(「前記平坦な面」は、「互いに周方向に離間している複数の平坦な面」である。)に形成し、各前記平坦な面に同種の幾何学模様を描く研磨工程」であるのに対して、引用発明Aは、そのように特定されていない点。

(2)判断
相違点について、以下検討する。
ア 相違点5-1及び5-3について
上記相違点5-1は上記相違点1-1と同じであるから、上記2-1(2)アのとおりである。
また、上記相違点5-3は実質的に上記相違点1-2(「研磨面」が、本件発明1は、「平坦な複数の」研磨面であり、「各前記研磨面には、前記車用ホイールの回転方向と交差する多数の研磨筋目により同種の幾何学模様が描かれており」、前記「各」研磨面は互いに周方向に離間しているのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。)と同様であるから、上記2-1(2)イと同様であり、引用発明Aの「互いに周方向に離間している面を研磨加工する研磨工程」は、実質的に、「前記車両用ホイールの回転方向と交差する多数の研磨筋目を研磨加工により」「前記平坦な面」(互いに周方向に離間している複数の平坦な面)「に形成し、各前記平坦な面に同種の幾何学模様を描く研磨工程」であるといえるし、また、そうすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

イ 相違点5-2について
上記相違点5-2について検討する。
(ア)
鋳造された車両用ホールに研磨を行う場合には、切削工程の後に研磨工程を行うことが技術常識である(引用文献4の摘記(4a)?(4c)等参照。)。
したがって、この技術常識に鑑みると、意匠面の一部の互いに周方向に離間している面を研磨加工する、引用発明A(上記一致点5参照)は、当該研磨加工を行う部分に、研磨加工を行う前に、切削加工を行っているということもでき、「前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部に、互いに周方向に離間している複数の平坦な面を切削加工により形成する切削工程」、すなわち、上記相違点5-2に係る本件発明5の構成を含むといえるから、相違点5-2は、実質的な相違点とはいえない。
(イ)
仮に、相違点5-2が、実質的な相違点であったとしても、上記技術常識に鑑みることで、引用発明Aにおいて、研磨工程の前に切削工程を行うことで、上記相違点5-2に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

3 小括
上記2のとおりであるから、本件発明1?4は、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された技術事項に基いて、本件発明5は、引用発明A及び引用文献2ないし4に記載された技術事項に基いて、いずれも、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のリム部と、前記リム部の内側に設けられているディスク部とを備える軽合金製の車両用ホイールであって、
前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部は、平坦な複数の研磨面を有しており、
各前記研磨面には、前記車両用ホイールの回転方向と交差する多数の研磨筋目により同種の幾何学模様が描かれており、
各前記研磨面は互いに周方向に離間している車両用ホイール。
【請求項2】
前記研磨面に描かれた模様は、一定のピッチで同じパターンが繰り返されると共に他の前記研磨面との間で連続性が途切れた模様である請求項1に記載の車両用ホイール。
【請求項3】
各前記研磨面は、前記パターンの1ピッチ以上、互いに周方向に離間している請求項2に記載の車両用ホイール。
【請求項4】
前記パターンの繰り返し方向と前記車両用ホイールの径方向とのなす角度は、各前記研磨面で同じである請求項2または3に記載の車両用ホイール。
【請求項5】
筒状のリム部と、前記リム部の内側に設けられているディスク部とを備える軽合金製の車両用ホイールの製造方法であって、
前記リム部の車両外側の面および前記ディスク部の車両外側の面から構成されている意匠面の一部に、互いに周方向に離間している複数の平坦な面を切削加工により形成する切削工程と、
前記車両用ホイールの回転方向と交差する多数の研磨筋目を研磨加工により前記平坦な面に形成し、各前記平坦な面に同種の幾何学模様を描く研磨工程と、
を含む車両用ホイールの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-03-18 
出願番号 特願2017-236924(P2017-236924)
審決分類 P 1 651・ 113- ZAA (B60B)
P 1 651・ 121- ZAA (B60B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 高島 壮基  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 出口 昌哉
島田 信一
登録日 2019-03-29 
登録番号 特許第6501857号(P6501857)
権利者 中央精機株式会社
発明の名称 車両用ホイールおよびその製造方法  
代理人 服部 雅紀  
代理人 服部 雅紀  

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