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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16L
管理番号 1375874
異議申立番号 異議2021-700297  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-22 
確定日 2021-07-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6758635号発明「ガス漏洩補修工法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6758635号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6758635号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、令和元年10月25日に出願され、令和2年 9月 4日にその特許権の設定登録がされ、令和2年 9月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年 3月22日に特許異議申立人である鈴木憲治(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし6の特許に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
フランジ継手のガス漏洩を抑止するガス漏洩補修工法において、
前記フランジ継手の隙間のうち、ガスが漏洩していない非漏洩部にシールシートの貼着と流動性のあるシール材の塗布との少なくとも一方を行った後、ガスが漏洩している漏洩箇所に前記シールシートの貼着と前記シール材の塗布との少なくとも一方を行うことで、前記漏洩箇所から漏洩する前記ガスのガス圧によってガス道を形成し、前記ガス道を封止すること、
を特徴とするガス漏洩補修工法。
【請求項2】
請求項1に記載するガス漏洩補修工法において、
前記フランジ継手の隙間の中から前記漏洩箇所を特定する特定工程と、
前記特定工程にて前記漏洩箇所に特定されなかった隙間を前記非漏洩部として前記シールシートの貼着と前記シール材の塗布との少なくとも一方を行うシール工程と、
前記シール工程の後,前記特定工程にて特定された前記漏洩箇所に前記シール材を塗布し、前記ガス圧によって前記シール材の塗布部分に前記ガス道を形成し、前記漏洩箇所に連通する排出経路を形成する排出経路形成工程と、
前記排出経路を封止する封止工程と、
を実行すること、
を特徴とするガス漏洩補修工法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するガス漏洩補修工法において、
前記ガス道に連通する状態で前記フランジ継手にホースを固定し、
前記ホースに蓋をすることにより前記ガス道を封止すること、
を特徴とするガス漏洩補修工法。
【請求項4】
請求項3に記載するガス漏洩補修工法において、
前記ホースは、前記シール材を用いて、固定されていること、
を特徴とするガス漏洩補修工法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載するガス漏洩補修工法において、
前記フランジ継手は、第1フランジと第2フランジとをパッキンを介して突き合わせ、複数のボルトと複数のナットを用いて前記第1フランジと前記第2フランジを結合する継手であり、
前記複数のボルトの座部と、前記複数のナットの座部と、前記ボルトと前記ナットとを締結するネジ部には、前記シール材を塗布し、
前記第1フランジと前記第2フランジとを突き合わせる突き合わせ部には、前記フランジ継手の外周面に前記シールシートを巻き付けて貼着すること、
を特徴とするガス漏洩補修工法。
【請求項6】
請求項5に記載するガス漏洩補修工法において、
前記シールシートは、紫外線により硬化するシートであり、前記シール材を介して前記フランジ継手の前記外周面に貼着されること、
を特徴とするガス漏洩補修工法。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第6号証(以下「甲1」ないし「甲6」という。)を提出し、本件発明1は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、及び、甲3に記載された事項に基いて、本件発明2ないし本件発明4は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、甲3に記載された事項、及び、甲4に記載された事項に基いて、本件発明5は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、甲3に記載された事項、甲4に記載された事項、及び、甲5に記載された事項に基いて、本件発明6は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、甲3に記載された事項、甲4に記載された事項、甲5に記載された事項、及び、甲6に記載された事項に基いて、それぞれ、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1ないし本件発明6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨を主張している。

(証拠方法)
甲1:特開2018-66392号公報
甲2:特開2018-44665号公報
甲3:特開平10-38184号公報
甲4:特開2013-32802号公報
甲5:特開平9-269090号公報
甲6:特開2014-214795号公報

第4 甲各号証の記載
1 甲1について
(1)甲1の記載
本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)。


「【0001】
この発明は、2本の管部材の接合部におけるガス漏れ箇所を補修するガス漏れ補修方法およびガス漏れ補修具に関する。」


「【0006】
上述した特許文献1に記載された従来の技術は、漏油箇所の封止を目的としており、高い圧力で漏れ出すガスを止めることができないという問題があった。具体的に、ガスが高い圧力で漏れ出すため、ガス漏れ箇所の付近に適切にパイプを取り付けることが難しく、パイプからガスを逃がすことが難しい。パイプ以外からもガスが漏れ出していると、上述したシーリング処理をおこなう従来の技術と同様に、第1のシーリング材とガス入機器との間や、第1のシーリング材あるいは第2のシーリング材の一部からガスが漏れ出てしまう。
【0007】
また、上述した特許文献1に記載された従来の技術は、ガス漏れ箇所が複数ある場合、すべてのガス漏れ箇所にパイプを適切に取り付けることは難しく、すべてのガス漏れ箇所を封止することが難しいという問題があった。
【0008】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、2本の管部材の接合部におけるガス漏れ箇所を確実に補修し、ガス漏れを再発させない信頼性の高い補修方法を提供することができるガス漏れ補修方法およびガス漏れ補修具を提供することを目的とする。」


「【0021】
(ガス抜き栓およびガス抜き栓用止め栓)
図2は、ガス抜き栓およびガス抜き栓用止め栓を示す説明図である。図2において、ガス抜き栓210は、固定部211と、管状部212と、を備えている。ガス抜き栓210は、たとえば、硬質ゴムなどの所定の弾性を有する材料を用いて形成されている。ガス抜き栓210において、固定部211および管状部212は、一体に成型することができる。
【0022】
固定部211は、長方形の板状部材211aと、当該固定部211を板厚方向に貫通する孔(図示を省略する)と、複数のスパイク部材211bと、を備えている。板状部材211aは、長手方向に沿って湾曲した形状をなす。複数のスパイク部材211bは、それぞれ、先端が尖った形状をなす。複数のスパイク部材211bは、湾曲した板状部材211aの内側となる一面であって、当該一面における長辺に沿って突出するように設けられている。
【0023】
固定部211の形状は、ガス漏れ対処作業において用いるガス導通帯110の形状に応じて選択できるよう、複数種類設けてもよい。図2(a)においては、図1(a)に示したように断面が円形のガス導通帯110に用いるガス抜き栓210を示している。図2(b)においては、図1(b)に示したように断面が三角形のガス導通体110、あるいは、図1(c)に示したように断面が部分的に突出したリブ(突起)110aを備えた形状のガス導通体110に用いるガス抜き栓210を示している。
【0024】
管状部212は、パイプ形状をなし、固定部211の他面(スパイク部材211bとは反対側)に設けられている。管状部212は、一端が固定部211が備える孔に連通され、他端が開放されたガス放出口212aとされている。管状部212は、固定部211の中央に設けられていることが好ましい。管状部212は、内周面に凹凸を備えている(図11を参照)。凹凸は、ネジ山によって実現してもよい。」


「【0033】
(ガス漏れ対処作業の対象箇所)
図4、図5および図6は、ガス漏れ対処作業の対象箇所を示す説明図である。図4、図5および図6に示すように、本技術にかかるガス漏れ対処方法によるガス漏れ対処作業は、端部にフランジ継ぎ手401が設けられた2本の管部材402を接続した接続部を作業対象箇所とする。2本の管部材402は、フランジ継ぎ手401どうしを突き当てた状態でボルト602およびナット603によって連結されている。」


「【0036】
(ガス漏れ対処作業の作業手順)
図7?図14は、この発明にかかる実施の形態のガス漏れ対処方法によるガス漏れ対処作業の作業手順を示す説明図である。この発明にかかる実施の形態のガス漏れ補修方法によるガス漏れ対処作業に際しては、まず、作業対象とする接続部にガス導通帯110を取り付ける。ガス導通帯110は、Oリング601よりも外周側に取り付けられる。
【0037】
図7においては、作業対象とする接続部における2本の管部材402を、軸心方向に平行な面で切断した断面を示している。図8においては、ガス導通帯110を取り付けた状態の接続部の外観を示している。
【0038】
ガス導通帯110の取り付けに際しては、具体的には、作業対象とする接続部におけるフランジ継ぎ手401の外周に沿って、2本の管部材402のフランジ継ぎ手401の間に、ガス導通帯110を詰め込み、両端をガス導通帯止めバンド301で止める(図3を参照)。この実施の形態においては、ガス導通帯止めバンド301によって、この発明にかかるガス導通帯止め具を実現することができる。ガス導通帯110は、ガス漏れ箇所においてガス導通帯110が途切れないように、ガス漏れ箇所をガス導通帯110によって覆うようにして詰め込む。
【0039】
つぎに、ガス漏れ箇所に、ガス抜き栓210を固定する(図9、図10および図11を参照)。図9においては、ガス抜き栓210を固定した状態の接続部の外観を示している。図10においては、図9のA-A断面を示している。図11は、ガス導通帯110に固定した状態のガス抜き栓210を示している。
【0040】
ガス抜き栓210は、ガス導通帯110を介してガス漏れ箇所に重なる位置に固定する。ガス抜き栓210は、ガス導通帯110にスパイク部材211bを突き刺すことによって固定する。ガス抜き栓210は、ガス導通帯110に押し付けて、ガス導通帯110に密着させて固定する。ガス漏れ箇所が複数ある場合、ガス漏れ量に応じてガス抜き栓210を増やして固定する。
【0041】
ガス抜き栓210は、スパイク部材211bを突き刺すことによって固定した後、さらに粘着テープなどを用いてテーピング処理を施すことによって固定してもよい。テーピング処理は、ガス抜き栓210の位置を固定できればよい。テーピング処理は、たとえば、ガス導通体110ごとガス抜き栓210を粘着テープで巻くことによっておこなうことができる。
【0042】
つぎに、第1のシーリング材1201を用いた第1のシーリング処理をおこなう。第1のシーリング処理は、ガス抜き栓210のガス放出口212aを除いて、ガス導通帯110、ガス導通帯止めバンド301、ガス抜き栓210を、フランジ継ぎ手401とともに第1のシーリング材1201でシーリングすることによっておこなう(図12を参照)。第1のシーリング処理においては、公知の各種のシーリング材を第1のシーリング材1201として用いることができる。
【0043】
ガス漏れ箇所からは、第1のシーリング材1201が硬化するまでの間、ガスが漏れているが、このガスは、ガス導通帯110の孔を介してガス抜き栓210のガス放出口212aから外部に放出される。これにより、漏れているガスの圧力が第1のシーリング材1201にかかり、第1のシーリング材1201と管部材402との間に隙間が生じたり、第1のシーリング材1201の一部に孔が生じたりすることを防止できる。
【0044】
つぎに、第1のシーリング材1201が硬化した後、パイプにガス抜き栓用止め栓220を挿入し、ガス放出口212aを封止する(図13を参照)。そして、ガスが漏れていないことを確認する。ガスが漏れていないことの確認は、たとえば、第1のシーリング材1201によるシーリング箇所に、界面活性剤を含むガス漏れチェック剤を塗布する(あるいは吹き付ける)ことによっておこなうことができる。ガス漏れが生じている場合、漏れたガスによってガス漏れチェック剤が発泡するため、発泡の有無によって容易かつ確実にガス漏れの有無を確認することができる。
【0045】
その後、第2のシーリング材1401を用いて第2のシーリング処理をおこなう。第2のシーリング処理は、第1のシーリング材1201およびガス抜き栓用止め栓220を、第2のシーリング材1401によってシーリングすることによっておこなう(図14を参照)。第2のシーリング処理においては、公知の各種のシーリング材を第2のシーリング材1401として用いることができる。第2のシーリング材1401は、第1のシーリング材1201とおなじシーリング材であってもよく、異なるシーリング材であってもよい。ガス漏れ対処作業は、第2のシーリング材1401が硬化することにより完了する。」


「【0053】
この発明にかかる実施の形態のガス漏れ補修方法によれば、ガス導通帯110およびガス抜き栓210によって漏れ出したガスのガス抜きの経路を設け、第1のシーリング材1201が硬化するまでの間、ガス漏れ箇所から漏れ出しているガスを、ガス導通帯110を介してガス放出口212aから放出することができる。これにより、第1のシーリング材1201によるシーリングを妨げることなく、第1のシーリング材1201を硬化させることができる。
【0054】
また、この発明にかかる実施の形態のガス漏れ補修方法によれば、ガス抜きの経路を設けることにより、ガス漏れ箇所から漏れ出すガスの圧力を抑え、かつ、漏れ出したガスをガス導通帯110によってガス放出口212aに誘導してガス放出口212aから放出させることにより、漏れ出したガスの圧力を第1のシーリング材1201にかけることなく第1のシーリング材1201を硬化させることができる。」


「【0056】
この発明にかかる実施の形態のガス漏れ補修方法によれば、ガス導通帯110を介して第1のシーリング材1201によるシーリングをおこない、つぎに第2のシーリング材1401によるシーリングをおこなうことにより、ガス漏れ箇所から漏れ出すガスの圧力を段階的に抑えながら、漏れ出すガスの圧力を各シーリング材にかけることなく接合部をシーリングすることができる。これにより、接合部におけるガス漏れ箇所を確実に補修し、接合部からのガス漏れを確実に止めることができ、ガス漏れの再発を防止することができる。
【0057】
このようにこの発明にかかる実施の形態のガス漏れ補修方法によれば、2本の管部材402の接合部におけるガス漏れ箇所を確実に補修し、ガス漏れを再発させない信頼性の高い補修方法を提供することができる。」




」(図2)




」(図4)




」(図5)




」(図6)




」(図7)




」(図8)




」(図9)




」(図10)




」(図11)




」(図12)




」(図13)




」(図14)

(2)甲1に記載された技術的事項
上記(1)の各記載から、甲1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

ア 段落【0001】、【0033】、図4ないし図6から、ガス漏れ補修方法の作業対象箇所が、端部にフランジ継ぎ手401が設けられた2本の管部材402を接続した接続部である点。

イ 段落【0036】、【0038】、図7、図8から、まず、作業対象とする接続部におけるフランジ継ぎ手401の外周に沿って、2本の管部材402のフランジ継ぎ手401の間に、ガス導通帯110を、ガス導通帯止めバンド301によって、ガス漏れ箇所においてガス導通帯110が途切れず、ガス漏れ箇所をガス導通帯110によって覆うように、取り付ける点。

ウ 段落【0021】、【0024】、【0039】、【0040】、図2、図9ないし図11から、ガス導通帯110の取り付けのつぎに、端部が開放されたガス放出口212aとされているパイプ状の管状部212を備えるガス抜き栓210を、ガス導通帯110を介してガス漏れ箇所に重なる位置に固定する点。

エ 段落【0042】、図12から、ガス抜き栓210の固定のつぎに、ガス抜き栓210のガス放出口212aを除いて、ガス導通帯110、ガス導通帯止めバンド301、ガス抜き栓210を、フランジ継ぎ手401とともに第1のシーリング材1201でシーリングする点。

オ 段落【0043】から、第1のシーリング材1201が硬化するまでの間、ガス漏れ箇所から漏れるガスは、ガス導通帯110の孔を介してガス抜き栓210のガス放出口212aから外部に放出される点。

カ 段落【0044】、図13から、第1のシーリング材1201を用いたシーリング処理のつぎに、第1のシーリング材1201が硬化した後、管状部212にガス抜き栓用止め栓220を挿入し、ガス放出口212aを封止する点。

キ 段落【0045】、図14から、ガス抜き栓用止め栓220によるガス放出口212aの封止の後、第1のシーリング材1201およびガス抜き栓用止め栓220を、第2のシーリング材1401によってシーリングする点。

ク 段落【0056】、【0057】から、ガス漏れ補修方法によれば、接続部におけるガス漏れ箇所を確実に補修し、接続部からのガス漏れを確実に止めることができ、ガス漏れの再発を防止することができる点。

(3)甲1に記載された発明
上記(1)及び(2)から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「端部にフランジ継ぎ手401が設けられた2本の管部材402を接続した接続部を作業対象箇所とするガス漏れ補修方法において、
まず、作業対象とする接続部におけるフランジ継ぎ手401の外周に沿って、2本の管部材402のフランジ継ぎ手401の間に、ガス導通帯110を、ガス導通帯止めバンド301によって、ガス漏れ箇所においてガス導通帯110が途切れず、ガス漏れ箇所をガス導通帯110によって覆うように、取り付け、
つぎに、端部が開放されたガス放出口212aとされているパイプ状の管状部212を備えるガス抜き栓210を、ガス導通帯110を介してガス漏れ箇所に重なる位置に固定し、
つぎに、ガス抜き栓210のガス放出口212aを除いて、ガス導通帯110、ガス導通帯止めバンド301、ガス抜き栓210を、フランジ継ぎ手401とともに第1のシーリング材1201でシーリングし、
第1のシーリング材1201が硬化するまでの間、ガス漏れ箇所から漏れるガスは、ガス導通帯110の孔を介してガス抜き栓210のガス放出口212aから外部に放出されるようにし、
つぎに、第1のシーリング材1201が硬化した後、管状部212にガス抜き栓用止め栓220を挿入し、ガス放出口212aを封止し、
その後、第1のシーリング材1201およびガス抜き栓用止め栓220を、第2のシーリング材1401によってシーリングする、ガス漏れ補修方法であって、
接続部におけるガス漏れ箇所を確実に補修し、接続部からのガス漏れを確実に止めることができ、ガス漏れの再発を防止することができる、
ガス漏れ補修方法。」

2 甲2について
(1)甲2の記載
本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲2には、以下の記載がある。


「【0001】
本発明は、ガス絶縁機器の経年劣化によるフランジ部パッキンのシール性能低下や溶接部のひび割れ等による絶縁ガスのリークを補修するためのガス絶縁機器のガスリーク補修工法に関する。」


「【0030】
本発明に係るガス絶縁機器のガスリーク補修工法は、図2、図5(a)、および図5(b)、図7(a)、図9(a)に示すように、ガス絶縁機器(ガス絶縁開閉装置:GIS)のフランジ部2によって接続されている配管1の全周にわたる溶接部分2b(配管1同士の溶接部分2b)において発生したリーク箇所R(図5(b)、図6(a)、図7(b)、図8(b)、図9(b)参照)に、硬化剤とエポキシ樹脂との二材混合型の強力なエポキシ系接着材をコーキング材11として採用し、最終閉塞にシールワッシャ14を併用したボルト13およびフランジナット12を用いた新たな工法である。
【0031】
すなわち、コーキング材11として使用されるエポキシ系接着材は、本実施形態においては、硬化剤とエポキシ樹脂との二材構成としてなる「クイックスチール」(米国製、国内代理店:ジャパンゼネラル貿易株式会社の商品名)を使用する。「クイックスチール」は、耐熱性(260℃)、耐水性、耐酸性を有し、その構造は、硬化剤を中心にしてその周囲にエポキシ樹脂が被覆されて成る。この「クイックスチール」を手指で練りこんで硬化剤とエポキシ樹脂とを混合させると、約5分程度で硬化が開始し、硬化後約1時間で鉄と同等の強度を有するものとなる。
【0032】
フランジナット12は、この一端に形成されているフランジ部12aがリーク箇所Rに当接してナット穴12b(雌ネジ)がリークパスとなるように配置され、前記エポキシ系接着材によるコーキング材11をリーク箇所R周囲の所定範囲にわたって被覆して、フランジナット12を接着している。」


「【0036】
次の図1に示す接着工程Bにおいては、フランジナット12のナット穴12bがリークパスとなってフランジ部12aが前記リーク箇所Rに当接し固定されるよう、「クイックスチール」と称するエポキシ系接着材によるコーキング材11をリーク箇所Rの、例えば周囲直径5cm以上の範囲にわたって接着する。
【0037】
この場合、図3(a)に示すように、コーキング材11である「クイックスチール」を手指で練りこんで硬化剤とエポキシ樹脂とを混合させ、図4(b)に示すように、所定の太さとなるようロープ状に引き伸ばしておく。
【0038】
そして、図4(c)に示すように、フランジナット12のフランジ部12a周囲にコーキング材11を巻き込み、この状態で図4(d)に示すように、フランジ部12aをリーク箇所Rに当接し、コーキング材11をリーク箇所Rの、例えば周囲直径5cm以上の範囲にわたって手指で押圧しながら引き伸ばし接着する。このとき、コーキング材11は、フランジナット12のナット穴12bを塞がない程度に、上端面すれすれまで覆う状態となるようにする。
【0039】
そして、コーキング材11のエポキシ系接着材を完全硬化させるため、例えば1昼夜静置する。これによって、図5(a)および図5(b)に示すように、フランジナット12のナット穴12bがリークパスとなって、リーク箇所Rにフランジナット12が、硬化したコーキング材11によって強固に接着固定される。
【0040】
また、図6(a)に示すように、コーキング材11が完全に硬化するまでの間は、フランジナット12のナット穴12bがリークパスとなっていることから、配管1内のガス圧はナット穴12bを通って外部に放出され、これによってコーキング材11と配管1(リーク箇所R)との間がガス圧で剥離して、隙間を生じさせてしまう事態の発生を防止している。
【0041】
因みに、図6(b)は、リーク箇所Rにコーキング材11のみを接着した場合であり、コーキング材11が硬化する前にリーク箇所Rからのガス圧によってコーキング材11が膨張し剥離した状態を示す。
【0042】
コーキング材11の硬化後の図1に示すボルト締結工程Cにおいては、図7(a)および図7(b)に示すように、シールワッシャ14を介して、フランジナット12のナット穴12bにボルト13をトルク締結し、ナット穴12bを封鎖する。
【0043】
この場合、図8(a)および図8(b)に示すように、ボルト13の頭部13aに被冠されるジョイント部15aが回転軸15bの一端に設けられ、回転軸15bの他端に直角配置となってハンドル15cが設けられて成る、ラチェット式の六角トルクレンチ15を使用する。
【0044】
ジョイント部15aは、内側が六角状の凹溝となった円筒型に形成されており、ジョイント部15aをボルト13の頭部13aに被冠してハンドル15cを往復回動させることで、ボルト13はフランジナット12のナット穴12bにねじ込まれる(図9(a)および図9(b)参照)。」




」(図2)




」(図4)




」(図5)




」(図6)




」(図7)




」(図9)

(2)甲2に記載された技術的事項
上記(1)から、甲2には、以下の技術的事項(以下「甲2事項」という。)が記載されていると認められる。

「ガス絶縁機器のフランジ部2によって接続されている配管1の全周にわたる、配管1同士の溶接部分2bで発生したリーク箇所Rのガスリーク補修工法において(段落【0001】、【0030】、図2)、
フランジナット12が、その一端に形成されているフランジ部12aがリーク箇所Rに当接し、そのナット穴12bがリークパスとなるように配置され(段落【0032】、【0036】、【0038】、図4(d))、
その後、エポキシ系接着材によるコーキング材11をリーク箇所R周囲の所定範囲にわたって被覆して、リーク箇所Rにフランジナット12を強固に接着固定し(段落【0032】、【0036】、【0038】、【0039】、図4、図5)、
コーキング材11が完全に硬化するまでの間は、配管1内のガス圧はナット穴12bを通って外部に放出されるようにし(段落【0040】、図6(a))、
コーキング材11の硬化後、フランジナット12のナット穴12bにボルト13をトルク締結し、ナット穴12bを封鎖する(段落【0042】、図7、図9)点。」

3 甲3について
(1)甲3の記載
本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲3には、以下の記載がある。


「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、流体配管の漏洩箇所の補修方法及び補修用治具、特に上水道、下水道等の配水管の漏洩箇所の補修方法及び補修用治具に関する。」


「【0032】次に、この発明にかかる補修方法の別の実施形態について説明する。この実施形態は、例えば溶接箇所のように漏水箇所の凹凸が著しい場合や外面形状が複雑な場合に特に有用な方法であり、この実施形態は配水管の溶接箇所からの漏水に適用したものである。
【0033】まず、漏洩箇所における配水管の外表面を清浄化する。シンナー等の溶剤や洗浄剤等が好適に使用される。なお、外表面が錆びている場合には高い接着力を得る観点から、清浄化の前にサンドペーパーにて研磨しておくのが望ましい。
【0034】次に、図7に示すように、前記清浄化した配水管の外表面に接着剤(9)を、その外表面形状が平坦状になるように塗布して硬化させ、下地硬化層(9b)を形成させる。この時、下地硬化層(9b)の漏水箇所近傍部分は漏水の水圧により自然と流出孔(9a)が開き、該流出孔(9a)より漏水が漏れ出てくる。
【0035】次に、図8に示すように接着剤(9)を、ナット状の当接部材(21)の接合面(21a)に塗ったのち、円筒状の逃圧細管(8)を当接部材(21)の雌ねじ孔(22)に貫通状態に取り付け、該逃圧細管(8)の一端を漏洩箇所に臨ませて漏洩流体を該逃圧細管(8)の他端から漏出させながら、前記接合面(21a)を前記下地硬化層(9b)に圧着させて接着させる。この時、接着剤(9)は前記下地硬化層(9b)に塗っておき、当接部材(21)の接合面(21a)を前記下地硬化層(9b)に圧着させて接着するものとしても良いことはいうまでもない。上記接着剤(9)としては、マルチメタル-UW(マルチメタル社製)とUW硬化剤(マルチメタル社製)を混練りして得られる接着剤が好適に使用できる。
【0036】このように逃圧細管(8)の一端を漏洩箇所に臨ませておくことにより、当接部材を接合固定する際の接着位置の確認が容易になるという効果が得られる。更に、漏出流体は、逃圧細管(8)を通過したのち逃圧細管(8)先端より放出、即ち補修箇所より遠隔位置で放出されるものであるから、補修作業をする際に、漏出流体の影響を受けることなく円滑に作業を遂行することができるので、作業効率の向上に資することができる。
【0037】なお、必要に応じて、当接部材(21)の接合面(21a)と配管壁(7)または溶接部(13)との界面から漏水が生じないように、また接着固定のより一層の安定化を図るために、当接部材(21)の外周面(21b)を前記接着剤(9)にて配管壁(7)や溶接部(13)と接着させるようにしてもよい。
【0038】前記接着剤(9)の硬化後、逃圧細管(8)を外し、封止剤を短寸ボルト(23)のねじ部分に塗布したのち、該短寸ボルト(23)を雌ねじ孔(22)に螺合し、短寸ボルト(23)の六角孔(24)に六角レンチを挿入したのち回転させて、短寸ボルト(23)をねじ込んでいき、短寸ボルト(23)と当接部材(21)を封止剤を介して螺合一体化する。前記封止剤としては接着剤(9)が好適に使用できる。
【0039】漏出流体を封じ込めるに際し、六角レンチにより短寸ボルト(23)を雌ねじ孔(22)にねじ込んでいくものであるから、漏水の圧力に抗して短寸ボルト(23)と当接部材(21)を容易に一体化できるとともに、封止剤を介して螺合一体化するものであるから、隙間なく螺合され、流体を完全に封じ込めることができる。
【0040】なお、前記実施形態と同様に、衝撃から保護するために下記衝撃保護被覆を設けるものとすることが望ましい。すなわち、前記螺合一体化後、完全漏水阻止を確認した後、接着剤(11)にて、図10に示すように補修用治具全体を覆う態様で塗布し、硬化させる。前記接着剤(11)硬化後、周辺部全体を更に覆う形で弾性樹脂塗料(12)を塗布し、硬化させる。上記保護被覆を施すことにより、衝撃から補修箇所を十分に保護することができるとともに美観の向上に資することができる。上記接着剤(11)としては、マルチメタル-SS(マルチメタル社製)と硬化剤(マルチメタル社製)を混練りして得られる接着剤が好適に使用できる。
【0041】この発明にかかる流体配管の漏洩箇所の補修方法及び補修用治具は、上記実施形態における配水管の漏水箇所への適用に特に限定されるものではなく、その用法用途において、例えばスチーム配管、油送管などに適用される場合も包含されるものとする。」




」(図7)




」(図8)




」(図9)




」(図10)

(2)甲3に記載された技術的事項
上記(1)から、甲3には、以下の技術的事項(以下「甲3事項」という。)が記載されていると認められる。

「配水管、スチーム配管、油送管などの流体配管の漏洩箇所の補修方法において(段落【0001】、【0032】、【0041】)、
清浄化した流体配管の外表面に接着剤(9)を、その外表面形状が平坦状になるように塗布して硬化させ、下地硬化層(9b)を形成させ、下地硬化層(9b)の漏れた箇所の近傍部分は漏れた流体の圧力により自然と流出孔(9a)が開き、該流出孔(9a)より漏れた流体が漏れ出てくるようにし(段落【0034】、図7)、
次に、接着剤(9)を、ナット状の当接部材(21)の接合面(21a)に塗ったのち、円筒状の逃圧細管(8)を当接部材(21)の雌ねじ孔(22)に貫通状態に取り付け、逃圧細管(8)の一端を漏洩箇所に臨ませて漏洩流体を逃圧細管(8)の他端から漏出させながら、接合面(21a)を下地硬化層(9b)に圧着させて接着させ(段落【0035】、図8)、
接着剤(9)の硬化後、逃圧細管(8)を外し、短寸ボルト(23)を当接部材(21)の雌ねじ孔(22)に螺合し、短寸ボルト(23)と当接部材(21)を封止剤を介して螺合一体化し(段落【0038】、図9)、
螺合一体化後、接着剤(11)にて、補修用治具全体を覆う態様で塗布し、硬化させ、接着剤(11)硬化後、周辺部全体を更に覆う形で弾性樹脂塗料(12)を塗布し、硬化させる(段落【0040】、図10)点。」

第5 当審の判断
1 対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1発明の「端部にフランジ継ぎ手401が設けられた2本の管部材402を接続した接続部」は、本件発明1の「フランジ継手」に相当する。
また、甲1発明の「端部が開放されたガス放出口212aとされているパイプ状の管状部212」は、その端部のガス放出口212aからガス漏れ箇所から漏れるガスを外部に放出されることを踏まえると、本件発明1の「ガス道」に相当する。
また、甲1発明の「接続部におけるガス漏れ箇所を確実に補修し、接続部からのガス漏れを確実に止めることができ、ガス漏れの再発を防止する」ことは、本件発明1の「フランジ継手のガス漏洩を抑止する」ことに相当する。
また、甲1発明の「端部が開放されたガス放出口212aとされているパイプ状の管状部212を備えるガス抜き栓210を、ガス導通帯110を介してガス漏れ箇所に重なる位置に固定」することは、「ガス漏れ箇所から漏れるガスは、ガス導通帯110の孔を介してガス抜き栓210のガス放出口212aから外部に放出される」ことを踏まえると、本件発明1の「ガスが漏洩している漏洩箇所に前記シールシートの貼着と前記シール材の塗布との少なくとも一方を行うことで、前記漏洩箇所から漏洩する前記ガスのガス圧によってガス道を形成」することと、「ガス道を形成する」という限りにおいて一致する。
また、甲1発明の「ガス放出口212aを封止」することは、「ガス放出口212a」が「管状部212」の端部に設けられていることを踏まえると、本件発明1の「ガス道を封止する」ことに相当する。
そして、甲1発明の「ガス漏れ補修方法」は、本件発明1の「ガス漏洩補修工法」に相当する。

してみれば、両者は以下の点で一致する一方、以下の点で相違する。

<一致点>
「フランジ継手のガス漏洩を抑止するガス漏洩補修工法において、
ガス道を形成し、前記ガス道を封止する、
ガス漏洩補修工法。」

<相違点>
「ガス道を形成」することに関して、本件発明1は、「前記フランジ継手の隙間のうち、ガスが漏洩していない非漏洩部にシールシートの貼着と流動性のあるシール材の塗布との少なくとも一方を行った後、ガスが漏洩している漏洩箇所に前記シールシートの貼着と前記シール材の塗布との少なくとも一方を行うことで、前記漏洩箇所から漏洩する前記ガスのガス圧によってガス道を形成し」ているのに対して、甲1発明は、「端部が開放されたガス放出口212aとされているパイプ状の管状部212を備えるガス抜き栓210を、ガス導通帯110を介してガス漏れ箇所に重なる位置に固定し、つぎに、ガス抜き栓210のガス放出口212aを除いて、ガス導通帯110、ガス導通帯止めバンド301、ガス抜き栓210を、フランジ継ぎ手401とともに第1のシーリング材1201でシーリング」するものであって、フランジ継手の非漏洩部をシーリングする前に管状部212を備えるガス抜き栓210をガス漏れ箇所に重なる位置に固定するものであり、また、「管状部212」は「ガス抜き栓210」に設けられるものであって「ガスが漏洩している漏洩箇所に前記シールシートの貼着と前記シール材の塗布との少なくとも一方を行うことで、前記漏洩箇所から漏洩する前記ガスのガス圧によって」「形成」されるものでない点。

2 判断
上記相違点について検討する。
甲2には、上記認定のとおり、「ガス絶縁機器のフランジ部2によって接続されている配管1の全周にわたる、配管1同士の溶接部分2bで発生したリーク箇所Rのガスリーク補修工法」が記載されているが、フランジ継手の隙間のうち、ガスが漏洩していない非漏洩部にシーリングを行った後にガス道を形成するという点、及び、ガスが漏洩している漏洩箇所にシールシートの貼着とシール材の塗布との少なくとも一方を行うことで、漏洩箇所から漏洩するガスのガス圧によってガス道を形成する点はいずれも記載されていない。
また、甲3には、上記認定のとおり、「配水管、スチーム配管、油送管などの流体配管の漏洩箇所の補修方法において」、「清浄化した流体配管の外表面に接着剤(9)を、その外表面形状が平坦状になるように塗布して硬化させ、下地硬化層(9b)を形成させ、下地硬化層(9b)の漏れた箇所の近傍部分は漏れた流体の圧力により自然と流出孔(9a)が開き、該流出孔(9a)より漏れた流体が漏れ出てくるようにし」、「次に、接着剤(9)を、ナット状の当接部材(21)の接合面(21a)に塗ったのち、円筒状の逃圧細管(8)を当接部材(21)の雌ねじ孔(22)に貫通状態に取り付け、逃圧細管(8)の一端を漏洩箇所に臨ませて漏洩流体を逃圧細管(8)の他端から漏出させながら、接合面(21a)を下地硬化層(9b)に圧着させて接着させ」、「接着剤(9)の硬化後、逃圧細管(8)を外し、短寸ボルト(23)を当接部材(21)の雌ねじ孔(22)に螺合し、短寸ボルト(23)と当接部材(21)を封止剤を介して螺合一体化」した点、すなわち、流体配管の漏洩箇所の補修方法において、漏洩箇所から漏洩する流体の圧力によって流体の流路を形成し、流路を封止する点は記載されているものの、フランジ継手の隙間のうち、ガスが漏洩していない非漏洩部にシーリングを行った後にガス道を形成するという点は記載されていない。
したがって、相違点に係る本件発明1の特定事項、特に、「前記フランジ継手の隙間のうち、ガスが漏洩していない非漏洩部にシールシートの貼着と流動性のあるシール材の塗布との少なくとも一方を行った後」に「ガスが漏洩している漏洩箇所に前記シールシートの貼着と前記シール材の塗布との少なくとも一方を行うことで、前記漏洩箇所から漏洩する前記ガスのガス圧によってガス道を形成」することは、甲1に記載されていないし、甲2及び甲3にも記載も示唆もされておらず、甲1発明に甲2事項、甲3事項を適用しても、依然として上記相違点に係る本件発明1の構成とはならないから、本件発明1は甲1発明、甲2事項及び甲3事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

また、甲1発明では、「端部が開放されたガス放出口212aとされているパイプ状の管状部212を備えるガス抜き栓210を、ガス導通帯110を介してガス漏れ箇所に重なる位置に固定し」た後に、「ガス抜き栓210のガス放出口212aを除いて、ガス導通帯110、ガス導通帯止めバンド301、ガス抜き栓210を、フランジ継ぎ手401とともに第1のシーリング材1201でシーリング」するようにしたことで、「第1のシーリング材1201によるシーリングを妨げることなく、第1のシーリング材1201を硬化させることができる」(段落【0053】)、「漏れ出したガスの圧力を第1のシーリング材1201にかけることなく第1のシーリング材1201を硬化させることができる」(段落【0054】)との効果が得られている。
そのため、甲1発明において、ガス抜き栓210をガス漏れ箇所に重なる位置に固定する工程と第1のシーリング材1201でシーリングする工程の順序を入れ替えて、第1のシーリング材1201でシーリングした後にガス抜き栓210をガス漏れ箇所に重なる位置に固定するようにした場合、第1のシーリング材1201によるシーリングを妨げないようにする、漏れ出したガスの圧力を第1のシーリング材1201にかけないようにするという、ガス抜き栓210をガス漏れ箇所に重なる位置に固定することの技術的意義が失われることとなる。
したがって、甲1発明において、ガス抜き栓210をガス漏れ箇所に重なる位置に固定する工程と第1のシーリング材1201でシーリングする工程の順序を入れ替えて、第1のシーリング材1201でシーリングした後にガス抜き栓210をガス漏れ箇所に重なる位置に固定するようにすることは阻害事由にあたる。
また、甲1発明は、「ガスが高い圧力で漏れ出すため、ガス漏れ箇所の付近に適切にパイプを取り付けることが難し」い(段落【0006】)、「ガス漏れ箇所が複数ある場合、すべてのガス漏れ箇所にパイプを適切に取り付けることは難し」い(段落【0007】)という従来技術の問題点を解決することを課題としてなされたものであることを踏まえると、甲1発明ではガス道としてパイプ状の管状部212を用いることが前提となっていると認められるから、ガス道としてあえてパイプ状のもの以外の他の手法をとろうとする動機付けはないし、甲1発明が、「作業対象とする接続部におけるフランジ継ぎ手401の外周に沿って、2本の管部材402のフランジ継ぎ手401の間に、ガス導通帯110を、ガス導通帯止めバンド301によって、ガス漏れ箇所においてガス導通帯110が途切れず、ガス漏れ箇所をガス導通帯110によって覆うように、取り付け」るものを対象としていることから、そのようなものにおいて、ガス圧によりガス道ができるとするところもない。
そのため、甲1発明において、「パイプ状の管状部212を備えるガス抜き栓210を、ガス導通帯110を介してガス漏れ箇所に重なる位置に固定」することに代えて、甲2事項や甲3事項を適用することは、阻害事由にあたる。

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明、甲2事項、及び、甲3事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、本件発明2ないし4はいずれも、本件発明1を引用し、本件発明1のすべての事項を含んだものであるところ、甲4の記載内容をもってしても上記相違点の判断を左右するものではないから、本件発明2ないし4は、甲1発明、甲2事項、甲3事項、及び、甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明5は、本件発明1を引用し、本件発明1のすべての事項を含んだものであるところ、甲4及び甲5の記載内容をもってしても上記相違点の判断を左右するものではないから、本件発明5は、甲1発明、甲2事項、甲3事項、甲4に記載された事項、及び、甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明6は、本件発明1を引用し、本件発明1のすべての事項を含んだものであるところ、甲4ないし甲6の記載内容をもってしても上記相違点の判断を左右するものではないから、本件発明6は、甲1発明、甲2事項、甲3事項、甲4に記載された事項、甲5に記載された事項、及び、甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-06-24 
出願番号 特願2019-194361(P2019-194361)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F16L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柳本 幸雄  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 平城 俊雅
後藤 健志
登録日 2020-09-04 
登録番号 特許第6758635号(P6758635)
権利者 東邦瓦斯株式会社 株式会社INOUE
発明の名称 ガス漏洩補修工法  
代理人 特許業務法人コスモス国際特許商標事務所  
代理人 特許業務法人コスモス国際特許商標事務所  

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