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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09D 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09D |
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管理番号 | 1375879 |
異議申立番号 | 異議2021-700093 |
総通号数 | 260 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-08-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-27 |
確定日 | 2021-07-01 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6731707号発明「ラミネート用印刷インキ組成物及び易引き裂き性積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6731707号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許に係る出願は、平成27年7月16日に特許出願され、令和元年6月5日付で拒絶理由が通知され、同年7月11日に意見書の提出と共に手続補正がされ、同年12月9日付で拒絶理由が通知され、令和2年2月5日に意見書の提出と共に手続補正がされ、同年7月9日にその特許権(請求項の数6)の設定登録がされ、同月29日に特許掲載公報が発行され、令和3年1月27日に特許異議申立人 神谷 高伸(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明について 1 本件発明の認定 本件発明は、設定登録された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次のとおりの発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」?「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)である。当審が分説のための記号A?Fを付した。 「【請求項1】 A 顔料、バインダー樹脂、硬化剤として多官能イソシアネート化合物、有機溶剤を含有するラミネート用印刷インキ組成物であって、 B 該バインダー樹脂が、該多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しうる反応基を有するポリウレタン樹脂であり、 C 該ポリウレタン樹脂と該硬化剤の固形分含有比率が、ポリウレタン樹脂:硬化剤=1:0.35?0.9であることを特徴とするラミネート用印刷インキ組成物 D (但し、スチレン無水マレイン酸樹脂を含有する場合を除き、さらにポリウレタン樹脂の原料のポリオール成分が、エチレングリコールとネオペンチルグリコールの(モル比=1/1)とアジピン酸とを反応させて得たポリエステルジオールである場合を除く。 E また硬化剤がイソシアネート基とアルコキシシリル基を有するものである場合、及び F ブロックイソシアネートである場合を除く)。 【請求項2】 前記ポリウレタン樹脂が、(1)末端に第1級アミノ基及び第2級アミノ基及び第3級アミノ基のうちの1種以上を有し、且つ水酸基を有するポリウレタン樹脂及び/又は(2)末端に第1級アミノ基及び第2級アミノ基及び第3級アミノ基のうちの1種以上を有するポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1記載のラミネート用印刷インキ組成物。 【請求項3】 前記多官能イソシアネート化合物が、3官能以上のイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のラミネート用印刷インキ組成物。 【請求項4】 前記有機溶剤は、エステル系有機溶剤、及び、アルコール系有機溶剤の混合溶剤であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のラミネート用印刷インキ組成物。 【請求項5】 基材フィルムに、請求項1?4のいずれかに記載のラミネート用印刷インキからなる印刷層、水酸基を有する接着剤層、シーラントフィルムが順に積層されてなる易引き裂き性積層体。 【請求項6】 前記基材フィルムに、請求項1?4のいずれかに記載のラミネート用印刷インキを印刷後、水酸基を有する接着剤を塗布し、シーラントフィルムを積層して得られることを特徴とする請求項5に記載の易引き裂き性積層体。」 2 本件明細書の記載 本件明細書には、次の記載がある。 (1)「【背景技術】 【0002】 食品、菓子、生活雑貨、ペットフード等には意匠性、経済性、内容物保護性、輸送性などの機能から、各種プラスチックフィルムを使用した包装材料が使用されている。また、多くの包装材料が消費者へアピールする意匠性、メッセージ性の付与を意図してグラビア印刷やフレキソ印刷が施されている。 そして用途の包装材料を得るために、包装材料の基材フィルムの表面に印刷される表刷り印刷、あるいは包装材料の基材フィルムの印刷面に必要に応じて接着剤やアンカー剤を塗布し、フィルムにラミネート加工を施す裏刷り印刷が行われる。 裏刷り印刷では、ポリエステル、ナイロン、アルミニウム箔等の各種フィルム上に色インキ、白インキを順次印刷後、該白インキの印刷層上に、接着剤を用いたドライラミネート加工や、アンカーコート剤を用いたエクストルージョンラミネート加工等によりヒートシールを目的にポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム等が積層されている・・・。 【0003】 その後、積層体は、お菓子、スープ、味噌汁等の食品の積層袋として利用される。これらの積層袋は、内容物を取り出すために、人間の手によって開封される。ここで、引き裂き性が悪いと開封時に過度に力を入れる必要があり、さらに意図しない方向に切れてしまい、結果的に内容物がこぼれるといった問題が生じるので、良好な引き裂き性が求められる。 特に、インキが印刷されている箇所は、インキ層と接着剤層との結合力が無字部より劣るため引き裂き性も劣る傾向がある。 引き裂き性を向上させるための手段として、ラミネート接着剤層を硬くすることで引き裂き性が向上することが知られている・・・が、インキ部とインキが印刷されていない無字部が混在する場合、接着剤層をインキ部で引き裂ける硬さにすると無字部が硬くなりすぎ、逆に無字部に合わせるとインキ部で引き裂き性が劣る問題が生じる。」 (2)「【0004】 これを解決するために、インキ層に、インキ層と接着剤層の同じ官能基と反応しうる官能基を2つ以上有する硬化剤を含有させる技術であり、かつ該インキ層は分子内に官能基として水酸基2つ以上のみを有する化合物(a1)と、その水酸基と反応する硬化剤からなる組成物から形成された層であることが提案されている(例えば、特許文献3参照)。そして、実施例では、インキ層に含まれるポリウレタン樹脂に対する多官能イソシアネート硬化剤の固形分含有比率がポリウレタン樹脂:多官能イソシアネート硬化剤=1:0.25と非常に低いため、引き裂き性は少し向上するが、引き裂き時に抵抗を感じる等のいまだ十分ではない問題を有している。 また、このような化合物を用いたインキ層はその発色性が十分良好ではない。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 ・・・ 【特許文献3】特開2012-125978号公報(当審注:甲第1号証と同じ)」 (3)「【0016】 <硬化剤> 硬化剤としては、多官能ポリイソシアネート化合物が利用できる。具体的には、ビウレット、イソシアヌレート、アダクト、2官能型の多官能イソシアネート化合物、イソホロンジイソシアネートが利用でき、24A-100、22A-75、TPA-100、TSA-100、TSS-100、TAE-100、TKA-100、P301-75E、E402-808、E405-70B、AE700-100、D101、D201、A201H(旭化成社製)、マイテックY260A(三菱化学社製)、コロネート CORONATE HX、コロネート CORONATE HL、コロネート CORONATE L(日本ポリウレタン社製)、デスモデュール N75MPA/X(バイエル社製)等が例示できる。なかでも、イソホロンジイソシアネート又はそのアダクトが好ましい。さらに、3官能以上のイソシアネート化合物も使用できる。 この硬化剤の使用量は、引き裂き性の点からポリウレタン樹脂と硬化剤の含有量の質量比率が、ポリウレタン樹脂:硬化剤=1:0.35?0.9の範囲となるように使用するが、ポリウレタン樹脂:硬化剤=1:0.4?0.8が好ましく、さらに好ましくはポリウレタン樹脂:硬化剤=1:0.48?0.75である。」 (4)「【0027】 (ポリウレタン樹脂ワニスの製造) ポリウレタン樹脂ワニスA製造例(末端1級アミノ基、末端水酸基有り) 撹拌機、冷却管及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、平均分子量2000の3-メチル-1,5-ペンチレンアジペートジオール100質量部、平均分子量2000のポリプロピレングリコール100質量部、及びイソホロンジイソシアネート44.4質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100?105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチル521質量部、イソプロピルアルコール92質量部を加えた後、イソホロンジアミン15.6質量部を加えて鎖伸長させ、更にモノエタノールアミン0.31質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミン1.68質量部、ジエチレントリアミン0.17質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスA(固形分30質量%、粘度250mPa・s/25℃)を得た。 【0028】 ポリウレタン樹脂ワニスB製造例(末端1級アミノ基、分子内及び末端水酸基有り) 撹拌機、冷却管及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、平均分子量2000の3-メチル-1,5-ペンチレンアジペートジオール100質量部、平均分子量2000のポリプロピレングリコール100質量部、及びイソホロンジイソシアネート35.5質量部(0.16モル)、N-(2-ヒドロキシエチル)プロピレンジアミン4.7質量部(0.04モル)を仕込み、窒素ガスを導入しながら100?105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチル521質量部、イソプロピルアルコール92質量部 を加えた後、イソホロンジアミン15.6質量部を加えて鎖伸長させ、更にモノエタノールアミン0.31質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミン1.68質量部、ジエチレントリアミン0.17質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスB(固形分30質量%、粘度250mPa・s/25℃)を得た。 【0029】 ポリウレタン樹脂ワニスC製造例(末端1級アミノ基、末端水酸基有り) 撹拌機、冷却管及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、平均分子量2000の3-メチル-1,5-ペンチレンアジペートジオール100質量部、平均分子量2000のポリプロピレングリコール100質量部、及びイソホロンジイソシアネート44.4質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100?105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチル523質量部、イソプロピルアルコール92質量部を加えた後、イソホロンジアミン13.6質量部を加えて鎖伸長させ、更にモノエタノールアミン0.49質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミン4.76質量部、ジエチレントリアミン0.41質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスC(固形分30質量%、粘度200mPa・s/25℃)を得た。 【0030】 ポリウレタン樹脂ワニスD製造例(末端に1級アミノ基有、水酸基なし) 撹拌機、冷却管及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、平均分子量2000の3-メチル-1,5-ペンチレンアジペートジオール100質量部、平均分子量2000のポリプロピレングリコール100質量部、及びイソホロンジイソシアネート44.4質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100?105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチル521質量部、イソプロピルアルコール92質量部を加えた後、イソホロンジアミン15.6質量部を加えて鎖伸長させ、その後、イソホロンジアミン2.54質量部、ジエチレントリアミン0.17質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスD(固形分30質量%、粘度250mPa・s/25℃)を得た。 【0031】 ポリウレタン樹脂ワニスE製造例(末端に1級アミノ基なし、両末端に水酸基(つまり水酸基を2つ)有り) 撹拌機、冷却管及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに平均分子量2000の3-メチル-1,5-ペンチレンアジペートジオール100質量部、平均分子量2000のポリプロピレングリコール100質量部、及びイソホロンジイソシアネート44.4質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100?105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチル521質量部、イソプロピルアルコール92質量部を加えた後、イソホロンジアミン15.6質量部を加えて鎖伸長させ、更にモノエタノールアミン1.01質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスE(固形分30質量%、粘度230mPa・s/25℃)を得た。 【0032】 (ラミネート用印刷インキ組成物の製造) 顔料(酸化チタン)35質量部とポリウレタン樹脂ワニスA?E30質量部、混合溶剤10質量部を、ペイントコンデショナーを用いて混練し、更に表1の配合にしたがって残余の混合溶剤A又はBを添加混合した各混合物の100質量部に、印刷時に表1の配合に従って、硬化剤(マイテックNY260A、三菱化学社製、マイテックは三菱化学社の登録商標)及び混合溶剤で希釈し、粘度を離合社製ザーンカップ#3で15秒に調整した、実施例1?7、比較例1?3のラミネート用印刷用インキ組成物を調製した。 【0033】 <性能評価> 実施例1?5、比較例1?3のラミネート用印刷インキ用組成物については、彫刻版(ヘリオ175線)、実施例6?7のラミネート用印刷インキ組成物については彫刻版(ヘリオ200線)を備えたグラビア印刷機(東谷製作所製)にて、ONY#15(東洋紡績株式会社製、N-1102、厚さ15μm、以後基材フィルムと記載)の処理面に印刷速度100m/分で印刷を行った。 【0034】 (ドライラミネート) 上記実施例1?7、比較例1?3の各印刷物に、水酸基を有するポリエステル系接着剤及びイソシアネート基を含有するイソシアネート系接着剤を含有する接着剤(三井化学社製、A-515/A-50酢酸エチル溶液)を塗布し、ドライラミネート機にてシーラントフィルムであるLLDPE#50(東洋紡社製、L-4104)を積層し、積層体を得た。 【0035】 (押出ラミネート) 上記実施例1?7、比較例1?3の各印刷物に、接着剤(A-3210/A-3070(三井化学社製))を塗布し押出ラミネート機にて溶融ポリエチレンを積層して積層体を得た。」 (5)「【0038】 【表1】 ![]() 【0039】 硬化剤:イソホロンジイソシアネート(IPDIアダクト)(三菱化学社製、マイテックNY260A) 混合溶剤:酢酸エチル/酢酸プロピル/イソプロピルアルコール=50/25/25(質量比)」 第3 特許異議申立の概要 1 証拠の一覧 申立人は以下の証拠を提示した。以下、甲第1号証を甲1などという。 甲1:特開2012-125978号公報 甲2:岩崎忠晴、「最近のポリウレタン樹脂の応用技術動向(1)」、色材協会誌、社団法人色材協会編、No.67、Vol.6(1994)、370?378頁 甲3:特開2014-133840号公報 甲4:特開2006-257264号公報 2 進歩性についての申立人の主張 本件発明1?6は、甲1、2、4に記載された発明に基いて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができた発明であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3 記載要件違背についての申立人の主張 申立人の主張は概ね次のとおりと解される。 (1)接着剤層の欠如 引き裂き性を向上するという課題を解決するためには、印刷インキ層及び印刷インキと隣接する接着剤層の剥離強度を大きくすることが必要なのだから、接着剤層が存在すること、及び、接着剤が塗布された段階で本件発明のポリウレタン樹脂に未反応の反応基が残っていることを要するところ、これらの点を特定しない本件発明1?4は課題を解決しない部分を含んでいることになるから、特許法第36条第6項第1号に規定の要件を満たさない。 (2)ポリウレタン樹脂及び硬化剤について 本件発明において用いられる硬化剤におけるイソシアネート基は反応性が高い場合を含む(甲2)から、接着剤層を積層する時点においてイソシアネート基及びポリウレタン樹脂における反応基が残存しているといえず、硬化剤による硬化が起こらないと考えられるから、本件発明は課題を解決できない部分を含んでおり、特許法第36条第6項第1号に規定の要件を満たさない。 (3)重量比について 本件発明におけるインキ組成物は、ポリウレタン樹脂と硬化剤との重量比を規定するが、ポリウレタン樹脂は、分子量、反応基の数、伸びやすさが種類によって異なり(甲2、甲4)、硬化剤についても、分子量、反応基の数が種類によって異なる(甲2)。そうすると、種類によってポリウレタン樹脂と硬化剤との反応性及び硬化後の硬さがそれらの組み合わせにより大きく異なるから、前記重量比によって特定しても、最適比とはならないから、その効果は一定でない。したがって、本件発明は課題を解決できない部分を含んでおり、特許法第36条第6項第1号に規定の要件を満たさない。 (4)数値限定の下限について 本件特許の実施例及び比較例においては、ポリウレタン樹脂と硬化剤の固形分比率が、それぞれ、1:0.56?0.78及び1:0.33と計算されるが、本件発明における下限値0.35は、実施例の範囲と離れすぎている。したがって、本件発明のうち、それらの固形分比率が1:0.35?1:0.56の間の発明は課題を解決できない部分を含んでおり、特許法第36条第6項第1号に規定の要件を満たさない。 (5)実施例及び比較例の不備 本件特許明細書に記載された次の実施例及び比較例が本件発明の効果を実証するものではないから、本件発明は課題を解決できない部分を含んでおり、特許法第36条第6項第1号に規定の要件を満たさない。 ア 実施例5と比較例2 イ 実施例1、2と比較例1 ウ 比較例3 第4 各証拠の記載事項 1 甲1の記載事項 甲1には、次の記載がある。 (1)「【請求項1】 基材フイルム、インキ層、接着層およびシーラントフイルムの順に積層する易引き裂き性構成物の製造方法において、 インキ層が、官能基Aを有する化合物(a1)を含有し、 接着層が、官能基Aを有する化合物(a2)を含有し、 かつ インキ層が、官能基Aと反応しうる官能基Bを2つ以上有する添加剤(b)を含有し、 さらに、 官能基Aを有する化合物(a1)と官能基Aを有する化合物(a2)とが、 添加剤(b)を架橋剤として、反応し得る、 ことを特徴とする易引き裂き性構成物の製造方法。」 (2)「【技術分野】 【0001】 本発明は、印刷インキにより描画された積層体に関するものであり、さらに詳しくは各種プラスチックフィルムに印刷インキを印刷後、接着剤を介して、シーラントフィルムでサンドイッチされたラミネート構成物の製造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 ラミネート構成物は包装容器分野に多く用いられるが、包装容器の場合、内容物を取り出すため容器を開封する必要がある。一般市場において、開封は人間の手によって行われることが多く、その際に鋏等の器具を用いずに容器を引き裂いて開封出切ることは、利便性の面で大きなメリットとなる。ここで包装容器の引き裂き性が悪いと開封時に力が要る・思わぬ方向に切れてしまい内容物がこぼれるといった問題を生じるため、包装容器分野のラミネート積層物では、良好な引き裂き性が求められる。 【0003】 引き裂き性を付与する従来技術として、例えばフィルム端面を切れ込みを入れる等の工夫をし引き裂けるきっかけを作る方法があるが、このような方法では、引き裂き始めの改善にはなるものの、フィルム面そのものが引き裂きにくいと、途中でひっかかる・直線的に引き裂けないという事態を生じる。 【0004】 また、包装容器は内容物の表示ならび意匠性のために印刷インキにより描画されている場合が多いが、一般にインキ上は接着層とインキ層との結合力が無地部より劣るため引き裂き性が劣る。フィルム面の引き裂き性を向上するための手段として特開2008-274061に示されるようにラミネート接着層を硬くすることで引き裂き性が向上することが知られているが、インキ部、無地部が混在する場合、接着層をインキ上で引き裂ける硬さにすると非画線部が硬くなりすぎ物性バランスがとれず、無地部に合わせるとインキ上で引き裂き性が劣ることになる。 【0005】 フィルム全面でのスムースな引き裂き性を付与するのためには、インキ部の引き裂き性を向上し無地部の引き裂き性と近づけることが必要になる。」 (3)「【0007】 本発明は、ラミネート構成物におけるインキ上の引き裂き性向上させ、それによりフィルム全面が均一に引き裂ける易引き裂き性の構成物を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 インキ上での引き裂き性の低下はインキ層と接着層の界面剥離あるいはインキ層の凝集破壊により、柔らかいシーラントフィルムが硬い基材から分離し延びてしまうことによる。そこで、インキ層と接着層を強固に結びつけ一体化することで、引き裂き時に加わる物理力に抗し界面剥離を抑制することで、インキ上での引き裂き性が向上させることができる。」 (4)「【0015】 本発明ではインキ層と接着層に官能基Aを有する化合物を含有し、官能基Aと反応しうる官能基Bを2つ以上有する添加剤(b)が必要である。 ・・・ 【0017】 また、官能基Aが水酸基であり、添加剤(b)が多官能イソシアネート化合物でもよい。」 (5)「【0019】 例えば従来技術として、バインダー樹脂末端に1級もしくは2級のアミノ基を有するインキ層と、水酸基を含む接着層の組み合わせで、インキ層および/または接着層に多価イソシアネート化合物を添加しても、イソシアネート基の対アミノ基の反応速度と対水酸基の反応速度が大きく違うため、まずアミノ基が優先して多価イソシアネート化合物と反応しインキ層の内部架橋を生じ、残った多価イソシアネート化合物は大部分が接着層内で水酸基と反応することになり、インキ層と接着層を結合させるという目的は果たせない。 【0020】 そこでわれわれは、官能基Bと反応しうる共通の官能基Aをインキ層と接着層の両層に配置し官能基Bに対する反応速度を同じにすることで、界面での添加剤(b)によるインキ層中の化合物(a1)と接着層中の化合物(a2)の結合形成を促進した。」 (6)「【0031】 ポリウレタン・ウレア樹脂は従来公知の方法・・・により得ることができる。具体的には、ポリオール、ジオールなどの水酸基含有化合物とイソシアネート化合物をイソシアネート過剰で反応させイソシアネート末端プレポリマーを作り、更にアミン化合物と概プレポリマーをアミン過剰で反応させることにより得ることが出来る。」 (7)「【0050】 添加剤(b)をインキ層に加えることで経時安定性が低下する場合、添加剤(b)は印刷の直前に添加する。本発明によってインキ層と接着層との結合が十分に強固になれば、インキ層は強固なほど引き裂き性は向上するので、インキ層内での結合向上のため、多官能イソシアネート化合物をインキ硬化剤として加えることが望ましい」 (8)「【0056】 [合成例1] 攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、数平均分子量2000の3-メチル-1、5-ペンタンジオ-ルとアジピン酸との縮重合物、即ちポリ(3-メチル-1、5-ペンチルアジペ-ト)ジオ-ル(以下、PMPAという)22.79部、イソホロンジイソシアネート5.32部を仕込み、窒素気流下に120℃で6時間反応させた後、80℃に降温し、2-ジエチルアミノエタノール0.13部、酢酸エチル7.03部を加えさらに3時間反応させた後、酢酸エチル16.08部を加え冷却し、末端イソシアネートプレポリマーの溶液51.35部を得た。次いでイソホロンジアミン1.25部、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール0.5部、2-アミノエタノール0.01部、酢酸エチル25.9部、イソプロピルアルコール21部を混合したものへ、得られた末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液51.35部を室温で徐々に添加し、次に50℃で1時間反応させ、固形分30%、重量平均分子量40000のポリウレタン樹脂溶液(PU01)を得た。」 (9)「【0060】 [製造例1] 酸化チタン30部、ポリウレタン樹脂溶液(PU01)8.3部、酢酸エチル/イソプロピルアルコール混合溶剤(重量比75/25)11.7部を撹拌混合しサンドミルで練肉した後、ポリウレタン樹脂溶液(PU01)33.3部、酢酸n-プロピル/イソプロピルアルコール混合溶剤(重量比75/25)16.7部を攪拌混合し白色インキ(W01)を得た。」 (10)「【0066】 [実施例1] 製造例1で得られた白色インキ(W01)について、酢酸n-プロピル/イソプロピルアルコール混合溶剤(重量比75/25)50部を希釈溶剤として添加混合し、イソシアネート硬化剤(ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体)3部を加え希釈印刷インキとし、版深35μmグラビア版を備えたグラビア印刷機により、コロナ処理ナイロンフィルム(NY)に各印刷インキを印刷して60℃で乾燥し、印刷物を得た。 【0067】 得られた印刷物について、通常の工程でPEシーラントフィルムに対し官能基Aとして水酸基を有するポリエステル系接着剤(東洋モートン株式会社製TM-550)/イソシアネート硬化剤(東洋モートン株式会社製CATRT-37)でドライラミネート(DL)、および同じく官能基Aとして水酸基を有するポリエステル系接着剤(東洋モートン株式会社製EL-510)/イソシアネート硬化剤(東洋モートン株式会社製CATRT-80)でエクストルージョンラミネート(EL)を行い、40℃で60時間エージングしたのち、得られたラミネート物の引き裂き評価を行った。」 (11)「【0073】 実施した評価の組み合わせと評価結果を表1に示す。 【0074】 【表1】 ![]() 」 2 甲2の記載事項 甲2には次の記載がある。 (1)21頁左欄下4行?22頁下2行(当審注:頁数は下方の頁で示す、以下同様) 「2.1.1 ポリイソシアネートの反応 ポリウレタン塗料用硬化剤として用いられるイソシアネートモノマーを表-2に示すが,これらのイソシアネートはアルコール,アミン,水,カルボン酸などの活性水素をもつ化合物[HX]と反応する。 ![]() 一般にHXの求核性が大きいほど反応性は高く,イソシアネート化合物の置換基Rが電子吸引性のものほどイソシアネート基の反応性は高い。イソシアネート化合物の代表的な反応を図-2に示す。 アルコールとイソシアネートの反応では,一級アルコール>二級アルコール>三級アルコール>フェノールの順に反応性は小さくなり,ウレタン結合を生成する。 アミンとイソシアネートの反応では,アミンはアルコールより反応性が高く,ウレア化合物を生成する。」 (2)23頁右欄17?19行 「2.1.4 各種イソシアネートの特性差 各種イソシアネートモノマーのアルコールに対する反応性の比較データを図-3に示す・・・」 (3)24頁上方 「Fig.3 Relative reaction rates of various isocyanates (当審訳:各種のイソシアネート化合物の相対反応速度) ![]() 」 3 甲3の記載事項 甲3には次の記載がある。 (1)「【請求項1】 高分子ポリオール(A)と、ポリイソシアネート(B)とを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、ポリアミン(C)と反応させてなるポリウレタン樹脂(D)、 及び非芳香族系有機溶媒を含む印刷インキ用ワニスであって、 ポリアミン(C)が、 2級アミン官能基を分子内に少なくとも一つ以上含み、かつ1分子内の1級アミノ基の数と2級アミノ基の数との合計が3以上である多官能アミン(C1)を含有することを特徴とする印刷インキ用ワニス。」 (2)「【0019】 本発明の特徴は鎖延長剤として、2級アミノ基を分子内に少なくとも一つ以上含み、尚且つ1分子内の1級アミノ基と2級アミノ基との合計が3以上である多官能アミン(C1)を用いることにより、有機溶媒中での均一重合系でのポリウレタン均一樹脂溶液を得ることを可能としている。イソシアネートとアミンの求核付加反応において、1級アミノ基と2級アミノ基の求核性の差を利用して、局所的に反応せずにゲル化が起きていない均一な溶液樹脂を得ることを可能とした。また、ウレタン樹脂の一次構造が分岐構造となり嵩高くなることで、見かけの分子量に対して実際の分子量が小さくなり溶液状態において安定に溶解したままの状態をとることができる。また、一般的にプレポリマーのイソシアネート残基に対してアミノ基を過剰量入れて鎖延長するので、ほとんどの2級アミノ基はイソシアネートと反応しているものの、反応性の観点から、アミン過剰量分だけ高分子主鎖中に2級アミノ基を一部有するポリマーが出来上がる。そのようなポリマーは顔料表面に高分子主鎖の2級アミノ基が吸着することで、顔料の表面に主鎖が線状に存在し、分岐鎖が溶液中に飛び出た構造をとり側鎖が立体障害効果を示すので顔料分散体として安定になりやすくなると考えられる。よって、上記の方法で得た印刷インキ用ポリウレタン樹脂組成物はノントルエン・ノンMEKにおいても従来困難であった良好な耐版詰まり性を実現することができた。さらには、分岐構造をとっているので、固相の状態では高分子鎖同士が強く相互作用しあい、固相の状態からは膨潤状態を取りにくくすることで網点再現性を大幅に良化できた。」 4 甲4の記載事項 甲4には次の記載がある。 (1)「【請求項1】 基材表面に白色粉末と結合剤とからなる白色被膜を形成するインキにおいて、該結合剤が、破断伸度300%?1,000%、破断強度8Mpa?30Mpa、100%応力が1Mpa?8Mpaおよび300%応力が2Mpa?15Mpaである樹脂成分を主成分とすることを特徴とする白インキ。」 (2)「【0009】 従って、本発明の目的は、プラスチックフィルムなどの基材表面に白色被膜を形成するインキにおいて、該インキの結合剤に、上記基材に引き裂き性を付与する特定の樹脂成分を使用することにより、該インキを使用して印刷した上記のプラスチックフィルム基材に優れた易引き裂き性(易手切れ性)を付与し、とくに製袋した包装材料に使用した場合に該包装材料の開封が容易となる印刷物が得られる白インキを提供することである。」 (3)「【0027】 前記の樹脂成分は、単独でも、あるいは数種を混合しても使用することができるが、さらに、白色被膜が施された基材の引き裂き性を向上させるために、該樹脂成分に硬化剤を添加することができる。上記の硬化剤としては、イソシアネート基を複数有する前記の脂肪族、脂環族または芳香族のポリイソシアネート化合物や、これら以外のポリイソシアネート化合物、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリフェニールメタントリイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、o-トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3,5-トリイソシアネートメチルベンゼン、リジンエステルトリイソシアネートなど、およびこれらのイソシアネート化合物から誘導される二量体や三量体などの多量体、イソシアネート化合物と3,3,3-トリメチロールプロパンなどのポリオール化合物との反応によって得られるポリイソシアネートなどが挙げられる。 【0028】 上記硬化剤の好ましい例としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体、3,3,3-トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、3,3,3-トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物が挙げられる。上記の硬化剤としては、三井武田ケミカル(株)からタケネートD-110Nの商品名で入手して本発明で使用することができる。 【0029】 上記の硬化剤を使用する場合は、その使用量は、前記の樹脂成分に対して0.8?10質量%配合するのが好ましい。上記の硬化剤の配合割合が多過ぎると、得られる白色被膜が脆くなる。」 (4)「【0038】 [実施例1](白インキP1の調製) 下記の成分を均一に混練分散して、白インキP1を調製した。 ・ポリウレタン系樹脂(破断伸度660%、 破断強度26Mpa、100%応力6.1Mpa、 300%応力10.6Mpa[荒川化学工業(株)製 、ユリアーノ2466]) 40.0部 ・硝化綿 2.0部 ・イソプロピルアルコール 5.0部 ・メチルエチルケトン 10.0部 ・酢酸エチル 4.0部 ・酸化チタン 39.0部 ・・・ 【0040】 [実施例3](白インキP3の調製) 下記の成分を均一に混練分散して、白インキP3を調製した。 ・ポリウレタン系樹脂(破断伸度660%、 破断強度26Mpa、100%応力6.1Mpa、 300%応力10.6Mpa[荒川化学工業(株)製 、ユリアーノ2466]) 40.0部 ・硝化綿 2.0部 ・硬化剤(三井武田ケミカル(株)製、 タケネートD-110N) 4.0部 ・イソプロピルアルコール 5.0部 ・メチルエチルケトン 6.0部 ・酢酸エチル 4.0部 ・酸化チタン 39.0部」 (5)「【0041】 [比較例1](白インキQ1) 実施例1の白インキP1の調製において、ポリウレタン系樹脂を破断伸度1,124%、破断強度3.3Mpa、100%応力1.2Mpa、300%応力2.5Mpa(荒川化学工業(株)製、ポリウレタン2565)であるポリウレタン系樹脂に置き換える以外は白インキP1の調製と同様にして白インキQ1を調製した。 【0042】 [比較例2](白インキQ2) 実施例1の白インキP1の調製において、ポリウレタン系樹脂を破断伸度1,080%、破断強度2.7Mpa、100%応力1.1Mpa、300%応力1.8Mpa(荒川化学工業(株)製、ポリウレタン2002)であるポリウレタン系樹脂に置き換える以外は白インキP1の調製と同様にして白インキQ2を調製した。」 第5 当審の判断 1 記載要件について 前記第3、3(1)?(5)に整理した申立人の主張について検討する。 (1)前記第3、3(1)の主張(接着剤層)に対して 本件発明1?4は、顔料、バインダー樹脂、硬化剤、有機溶媒を含有する「ラミネート用印刷インキ組成物」に係る発明である。そして、ラミネート用である以上、必ずインキ層の上にシーラントフィルムが積層(接着)されるから、本件発明は、接着剤層が存在することを前提とする発明であると認められる。また、申立人は、本件発明1?4におけるポリウレタン樹脂に未反応の反応基が残っているか疑わしいと主張するだけであって、具体的にそのような態様を包含していることを立証していない。したがって、申立人の主張は理由がない。 (2)前記第3、3(2)の主張(ポリウレタン樹脂及び硬化剤)に対して 前記第2、2(4)に摘記した本件明細書の段落【0032】に記載されたマイテックNY260Aは、同(5)に摘記した本件特許明細書【0039】の記載から、イソホロンジイソシアネート(IPDIアダクト)であると認められる。そして、前記第4、2(3)に摘記した甲2のFig.3を参照すると、IPDIの反応速度定数よりも数倍から数百倍のジイソシアネート化合物が示されている。申立人は、IPDI以外の反応性の高いジイソシアネートを硬化剤として用いた場合に、硬化剤のジイソシアネート基がすべて消費されることを前提として前記第3、3(2)の主張を行っていると解されるが、その前提がなりたつことを認めるに足りる証拠はない。 したがって、申立人の主張は理由がない。 (3)前記第3、3(3)の主張(重量比)に対して ア 申立人が主張するように、ポリウレタン樹脂及び硬化剤の間の剥離強度を大きくするためには、それらの間にどれだけ反応により化学結合が生じるかが重要であって、モル比または当量比を特定すると、剥離強度は、最適化できるものであるといえるが、ポリウレタン樹脂と硬化剤との重量比を規定することによって、最適な比率を包含する比率が特定できるといえるから申立人の主張は採用できない。 イ また、申立人は、甲4を参照すれば、ポリウレタン樹脂の伸びやすさは種類によって異なるので、本件発明1のように、「ポリウレタン樹脂:硬化剤=1:0.35?0.9」の比率で硬化剤を含有させると、ポリウレタン樹脂の種類に関わらず常に本件発明の課題が解決するということはできないと主張するが、その主張には根拠がなく採用できない。 (4)前記第3、3(4)の主張(数値限定の下限)に対して ア ポリウレタン樹脂については、前記第2、2(4)に摘記した本件明細書の段落【0027】?【0031】の記載から、ポリウレタン樹脂ワニスA?Eはいずれも「固形分30質量%」である。また、硬化剤については、前記第2、2(4)に摘記した段落【0038】の表1の「硬化剤(固形分75.27%)」との記載により、固形分を75.27質量%として計算すると、申立人が主張するように、甲1の比較例1?3のいずれにおいても、ポリウレタン樹脂:硬化剤=1:0.33となる。 イ また、前記アと同じ仮定で計算すると、本件特許明細書に記載された実施例1、3、5、6においては、ポリウレタン樹脂:硬化剤=1:0.78となり、同実施例2、4、7においては、ポリウレタン樹脂:硬化剤=1:0.56となる。 ウ そうすると、本件発明1における下限値0.35は、本件特許明細書に記載された実施例2、4、7よりも、比較例1?3に近いということは、申立人の主張するとおりである。 エ しかしながら、本件発明1における下限値0.35が前記アの比較例1:0.33より大きいことから、比較例のものに比べて剥離強度が高いはずであることから、前記下限値において本件発明の課題が解決できないとまではいえない。 オ したがって、申立人の主張は採用できない。 (5)実施例について ア 実施例5と比較例2 申立人は、実施例5と比較例2は、同じポリウレタン樹脂Dを使用しており、前記第2、2(4)に摘記した本件特許明細書の段落【0030】に記載されたようにポリウレタン樹脂Dは、(末端に1級アミノ基有、水酸基なし)であるから、前記第4、1(4)に摘記した甲1の段落【0019】に硬化剤はアミノ基と優先して反応することでインキ層の内部架橋を生じるだけであり、接着剤層との反応基が残らないため、実施例5と比較例2は、いずれも易引き裂き性が×になるはずであるのに、前記第2、2(5)に摘記した本件特許明細書の表1における易引き裂き性の評価においては、実施例5が○となり、比較例2が×となっているのは疑わしく、実測されたものか疑義があると主張する。 しかしながら、実施例5と比較例2は硬化剤の添加量が異なっているため、実施例5においてイソシアネート基がインキ層の内部架橋に費やされるとは限らず、この場合、架橋剤のイソシアネート基が残存することになって、接着剤層の水酸基と結合することは可能であるから、実施例5の評価が不自然であるということはできない。申立人の主張は採用できない。 イ 実施例1、2と比較例1 申立人は、前記アと同様に、本件特許明細書の実施例1、2と比較例1との評価が実験によるものか疑わしいと主張するが、その主張自体何の根拠もなく採用できない。 ウ 比較例3 申立人は、本件特許明細書の比較例3は、前記第2、2(4)に摘記した本件特許明細書の段落【0031】に記載のポリウレタン樹脂ワニスE(末端に1級アミノ基なし、両末端に水酸基有り)を用いることにより、発色性が×となることは、前記第4、3に摘記した甲3の記載と整合するとしつつ、同じポリウレタン樹脂ワニスEを用いた実施例がないと主張する。 申立人の主張は、本件特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないことの主張となっておらず、採用できない。 (6)小括 以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないという申立人の主張は採用できるものでなく、本件特許が特許法第113条第4号に該当するということはできない。 2 進歩性について (1)甲1発明の認定 ア 前記第4、1(8)に摘記した甲1の段落【0056】におけるポリウレタン樹脂溶液(PU01)に含まれる樹脂は、末端イソシアネートプレポリマーに対して、アミン化合物として第1級アミノ基を2つ有するアミン化合物(イソホロンジアミン)と第1級アミノ基と水酸基を有するアミノ化合物(2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、2-アミノエタノール)を使用して合成しているので、末端に第1級アミノ基を有し、かつ水酸基を有するポリウレタン樹脂である。 イ また、前記ポリウレタン樹脂溶液(PU01)は、このポリウレタン樹脂を固形分30%で含む。 ウ 前記第4、1(10)に摘記した甲1の段落【0066】に記載の実施例1において使用されている希釈印刷インキは、白色インキ(W01)に、酢酸n-プロピル/イソプロピルアルコール混合溶剤と、イソシアネート硬化剤3部を加えたものである。 エ 前記第4、1(9)に摘記した甲1の段落【0060】に記載のように、白色インキ(W01)は、酸化チタンと、ポリウレタン樹脂溶液(PU01)を41.6部(8.3部+33.3部)を含むものである。 オ そうすると、甲1の実施例1において使用されている希釈印刷インキにおけるポリウレタン樹脂と硬化剤の含有比率は、(41.6×0.3):3=1:0.24と計算できる。 カ 甲1発明 以上から、甲1から次の発明(以下「甲1発明」という。)が把握できる。 「酸化チタン、ポリウレタン樹脂、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチルプロパンアダクト体、酢酸n-プロピル/イソプロピルアルコール混合溶剤を含有する希釈印刷インクであって、 ポリウレタン樹脂が、末端に第1級アミノ基を有し、且つ水酸基を有するポリウレタン樹脂であり、 該ポリウレタン樹脂と該硬化剤の固形分含有比率が、ポリウレタン樹脂:硬化剤=1:0.24である、ラミネート物を得るための希釈印刷インキ」 (2)本件発明1との対比 ア 甲1発明の「酸化チタン」、「ポリウレタン樹脂」、「硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチルプロパンアダクト体」、「酢酸n-プロピル/イソプロピルアルコール混合溶剤」は、それぞれ、本件発明1の「顔料」、「バインダー樹脂」、「硬化剤として多官能イソシアネート化合物」、「有機溶剤」にそれぞれ相当する。 イ 甲1発明のポリウレタン樹脂は、アミノ基と水酸基とを有するから、本件発明1の「該バインダー樹脂が、該多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しうる反応基を有するポリウレタン樹脂」に相当し、かつ、「ポリウレタン樹脂の原料のポリオール成分が、エチレングリコールとネオペンチルグリコールの(モル比=1/1)とアジピン酸とを反応させて得たポリエステルジオールである場合」に該当しない。 ウ 甲1発明の「ラミネート物を得るための希釈印刷インキ」は、本件発明1の「ラミネート用印刷インキ組成物」に相当する。 エ 甲1発明の硬化剤は、「硬化剤がイソシアネート基とアルコキシシリル基を有するものである場合」に該当せず、甲1発明は、「スチレン無水マレイン酸樹脂を含有する場合」に該当しない。 オ 一致点・相違点 以上から、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 (ア)一致点 「顔料、バインダー樹脂、硬化剤として多官能イソシアネート化合物、有機溶剤を含有するラミネート用印刷インキ組成物であって、該バインダー樹脂が、該多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しうる反応基を有するポリウレタン樹脂であり、 ラミネート用印刷インキ組成物(但し、スチレン無水マレイン酸樹脂を含有する場合を除き、さらにポリウレタン樹脂の原料のポリオール成分が、エチレングリコールとネオペンチルグリコールの(モル比=1/1)とアジピン酸とを反応させて得たポリエステルジオールである場合を除く。また硬化剤がイソシアネート基とアルコキシシリル基を有するものである場合、及びブロックイソシアネートである場合を除く)。」 (イ)相違点 ポリウレタン樹脂と硬化剤の固形分含有比率について、本件発明1においては、ポリウレタン樹脂:硬化剤=1:0.35?0.9であるのに対し、甲1発明においては、ポリウレタン樹脂:硬化剤=1:0.24である点。 (3)相違点についての検討 ア 前記第4、1に摘記した甲1には、硬化剤をどの程度含有させるかについての記載は、実施例以外に存在しない。そうすると、仮に、甲1に接した当業者が、甲1発明の易引き裂き性を向上させることを試みるとしても、甲1発明の硬化剤をどの程度増加させるかは示唆がなく、上記相違点に想到できるということができない。 また、硬化剤を増加したとしても、ポリウレタン樹脂に反応するアミノ基や水酸基が残存していなければ、易引き裂き性が向上しない。そうすると、上記相違点は、当業者が容易に想到しうるということはできない。 イ 申立人の主張に対して 令和元年7月11日付けで特許権者が提出した意見書において、前記第4、4(3)に摘記した甲4の段落【0029】に記載された硬化剤の使用量「0.8?10質量%」の記載により、前記相違点に想到する阻害要因である旨の特許権者の主張について、甲4の実施例におけるバインダー樹脂の硬さが特別であるためと主張する。 しかしながら、当審は、甲4の上記記載により、前記相違点が容易想到でないと判断したものではないから、申立人の主張は採用できない。 (4)本件発明2?6について 本件発明2?6は、本件発明1を包含し、更に特定を加えた発明であるから、前記本件発明1についての判断と同様に甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 (5)小括 以上のとおり、本件発明1?6は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができた発明といえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明でなく、特許法第113条第2号に該当するということはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1?6に係る特許を取り消すべきものといえない。 また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-06-23 |
出願番号 | 特願2015-142434(P2015-142434) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C09D)
P 1 651・ 537- Y (C09D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 宮地 慧、上條 のぶよ |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
門前 浩一 川端 修 |
登録日 | 2020-07-09 |
登録番号 | 特許第6731707号(P6731707) |
権利者 | サカタインクス株式会社 |
発明の名称 | ラミネート用印刷インキ組成物及び易引き裂き性積層体 |
代理人 | 山田 泰之 |
代理人 | 長谷部 善太郎 |