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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1375883
異議申立番号 異議2021-700056  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-18 
確定日 2021-06-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6752341号発明「麹飲食物・麹調味料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6752341号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6752341号についての出願は、平成26年10月29日を出願日(以下、「原出願日」という。)とする特願2014-220841号の一部を特許法第44条第1項の規定により令和1年8月21日に新たな特許出願とした特願2019-151603号であって、令和2年8月20日にその発明について特許権の設定登録がなされ、令和2年9月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年1月18日に特許異議申立人アクシス国際特許業務法人(以下、「申立人」という)により特許異議の申立てがなされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
仕込み原料に含まれる穀物の糖化工程において、液体麹である穀物麹又は当該穀物麹とその他の原料との混合物にアミラーゼを添加し10?20時間維持したのち、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する段階を含む麹飲食物・麹調味料の製造方法。
【請求項2】
仕込み原料に含まれる穀物の糖化工程において、固体麹である穀物麹又は当該穀物麹とその他の原料との混合物にアミラーゼを添加してから0時間?24時間経過した時、あるいは、仕込み原料混合物中のブドウ糖濃度が30%に達した時、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する段階を含む麹飲食物・麹調味料の製造方法。
【請求項3】
仕込み原料に含まれる穀物麹の量が、仕込み原料の全重量に対して、0%を超え15%以下である請求項1又は請求項2に記載の麹飲食物・麹調味料の製造方法。
【請求項4】
仕込み原料に含まれる穀物の糖化工程において、乳酸菌を添加する段階を含む請求項1乃至請求項3のいずれか一項に麹飲食物・麹調味料の製造方法。」
(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明4」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)

第3 申立理由の概要
申立人は、異議申立書において、証拠として次の甲第1号証?甲第6号証を提出し、次の申立ての理由を主張している。

甲第1号証:特開平4-370085号公報
甲第2号証:特開平7-155134号公報
甲第3号証:特開2007-97496号公報
甲第4号証:特開平11-196830号公報
甲第5号証:日本食品科学工学会誌, 2001年,Vol.48, No.2, p.150-156
甲第6号証:特開2013-208091号公報


理由1-A:本件特許発明2は、甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明、又は、甲第1?2号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

理由1-B:本件特許発明1は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明、又は、甲第1?3号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

理由1-C:本件特許発明3は、甲第1?5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

理由1-D:本件特許発明4は、甲第1?6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

理由1-E:本件特許発明2は、甲第1?2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

理由1-F:本件特許発明1は、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

理由1-G:本件特許発明3は、甲第1?4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

理由1-H:本件特許発明4は、甲第1?4号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

理由2:本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合しない。

第4 甲号証及びその記載

甲第1号証:特開平4-370085号公報

記載(1a)
「【請求項1】 果糖を含有していることを特徴とする酒精含有調味料
【請求項2】 請求項1に記載の酒精含有調味料を製造する方法において、果糖源としてイソメラーゼ及び/又は果糖を含む溶液を用いることを特徴とする酒精含有調味料の製造方法。」(請求項1?2)

記載(1b)
「【課題を解決するための手段】本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は酒精含有調味料に関する発明であって、果糖を含有していることを特徴とする。そして、本発明の第2の発明は酒精含有調味料の製造方法に関する発明であって、第1の発明の酒精含有調味料を製造する方法において、果糖源としてイソメラーゼ及び/又は果糖を含む溶液を用いることを特徴とする。」(段落0004)

記載(1c)
「以上述べたように、本発明の果糖を含有する酒精含有調味料は、甘味度が増強されるのみならず、甘味の幅も広がり、甘味調味料としてもさわやかな甘味を有し、品質の上からも優れている。」(段落0024)

記載(1d)
「本発明におけるイソメラーゼは、植物、動物及び微生物起源にこだわらない。また、イソメラーゼは、酵素剤(粉体、液体)、更には、固定化したイソメラーゼであってもよい。このイソメラーゼの使用は、(1)単独及び(2)他の酵素剤及び/又はこうじとの併用であってもよい。
また、固定化したイソメラーゼを用いて、バッチ反応又は連続反応させてもよい。ここでいう果糖を含む溶液とは、異性化糖液や糖液をイソメラーゼ処理した溶液、糖質原料を糖化、異性化した溶液、果糖を含む糖液(ハチミツ、果汁を含む)等であればよい。また、これらはその中に原料由来の固形物を含んでいてもよい。
酒精含有調味料は、例えば、単なる原料の配合によっても製造できるが、原料処理した原料、こうじ及びアルコールを混入し、もろみとなし、熟成中、(1)糖化又は(2)糖化・発酵する。熟成もろみは、固液分離した後に、液部と固体部(粕)に分離される。
ここでいう酒精含有調味料は、みりん、赤酒、発酵調味料、みりん風味調味料、料理酒等を含む。
イソメラーゼは、(1)熟成中に添加及び/又は(2)固定分離した後、液部に添加してグルコースを果糖へ異性化することができる。また、果糖を含む溶液も(1)熟成中に添加及び/又は(2)固液分離した後、液部へ添加することができる。このようにして、果糖を含有した液部は、ろ過精製して果糖を含む酒精含有調味料とする。」(段落0006?0009)

記載(1e)
「実施例3
蒸もち米628g、米こうじ93g及び42%V/Vアルコール溶液279g及び実施例2で用いた固定化イソメラーゼ20gをナイロン網袋に入れ、混合して、もろみとした。対照には固定化イソメラーゼを除いたもろみを用いた。これらのもろみを30℃で40日間熟成後、固液分離を行った。固定化イソメラーゼを作用させた酒精含有調味液と対照との液収率及び一般的な分析値は同様であった。表3には、イソメラーゼ処理後の果糖生成量の比較を示した。」(段落0018)

記載(1f)
「実施例4蒸もち米628g、米こうじ93g及び42%V/Vアルコール溶液279gを混合し、α-アミラーゼ剤100mg〔スピターゼCP-20、ナガセ生化学工業(株)製〕及びプロテアーゼ剤300mg〔デナプシンXP-271、ナガセ生化学工業(株)製〕を補足し、この混合したもろみを30℃で40日間熟成後、果糖を40%含む14%V/Vアルコール500ml又はブドウ糖を40%含む14%V/Vアルコール500mlをそれぞれ添加し固液分離した。得られた液部の分析値を表4に示す。」(段落0021)

甲第2号証:特開平7-155134号公報

記載(2a)
「本発明は、従来は概ね醸造廃棄物として扱われてきた清酒醸造粕を原料とした調味液の新規な製造方法に関する。
【従来の技術】従来、清酒醸造粕をはじめとする醸造粕、特に清酒醸造粕は成分として繊維を含めた糖質が多く、蛋白質、脂質及び醸造酵母以外のビタミン、ミネラルをも多く含んだ高栄養物である。現在、清酒粕はわずかながら粕取り焼酎、合成清酒、粕酢、漬物用等の用途に用いられている。
しかしながら、上記の用途に清酒粕が用いられる量は、清酒の醸造に際して生じる清酒粕全体量に比べればごく僅かな量であり、殆どが未利用のまま海洋投棄等による廃棄処理が行われてきた。かかる廃棄処理に際して、清酒粕は腐敗が早いが故に、臭気を生じる等の公害問題を惹起し勝ちである。そのため、今後は無制限に清酒粕を廃棄することが事実上不可能になりつつある。また、加熱による褐変化や、焦げ臭の発生を起こし易く、商品価値の低下と精製操作に困難な面を伴っていた。
そこで、当該醸造粕の有効な利用法が各種検討されるに至っている。例えば、清酒粕を調味液原料として利用する方法が検討されており、現在一部で実用に供されている。当該調味液の製造方法としては自己消化法が用いられている。すなわち、例えば清酒粕に水を加えて40?60℃で1?2週間程度放置した後ろ過し、得られる上澄みに食塩等を加え、味を整える当該調味液の製造方法が採用されている。
また、上記の自己消化法に加えて、塩酸分解等の化学処理を付加して施すことによる処理時間を短縮させる試みがなされている。さらに最近は、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、デアミナーゼ、グルカナーゼ等の分解酵素類を用いた短時間処理(特開平4-427359号公報) やグルコースイソメラーゼ処理を採り入れることによる調味液の甘味を改質する試み(特開平4-370085号公報) がなされている。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、自己消化法は処理が高温かつ長期にわたるため、着色や風味劣化等の商品価値の低下を引き起こし易い欠点がある。また、酸やアルカリを用いると更に着色や風味の劣化による商品価値の低下を招く傾向が更に高くなり、活性炭等の後処理を施すことが必須となっていた。また、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、デアミナーゼ、グルカナーゼ等を用いる方法に於いては、自己消化法に比べ処理時間が短縮されることにより着色・焦げ臭に対しては改善が見られるが、調製される調味液の味の濃厚さ、特に甘味の点において、強さ及び質感共に不十分であった。さらに、前記のグルコースイソメラーゼ処理を用いた方法は、酒粕中の遊離グルコースの処理のみに止まるので、甘味の改質に関して量的に不十分である。
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題に着目し鋭意検討を重ねた。その結果、清酒酵母菌体中に多く存在するトレハロースを、酵素的にグルコース単位にまで加水分解することにより、所望の調味液中のグルコース含量を大幅に増加せしめ、さらにグルコース転移酵素であるグルコースイソメラーゼをこれに作用せしめてグルコースをフルクトースに変換することにより、味が濃厚であり、強くかつまろやかな甘味有する調味液を調製することに成功し、本発明を完成させるに至った。」(段落0001?0007)

記載(2b)
「【請求項2】 前処理を施した清酒醸造粕にトレハラーゼを作用させ、次いで当該トレハラーゼ処理物の上澄みを分離して、当該上澄みにグルコースイソメラーゼを作用させ、当該グルコースイソメラーゼ処理物の上澄みを分離して、これを調味液原液として用いることを特徴とする調味液の製造方法。」(請求項2)

記載(2c)
「清酒醸造粕を上記酵素で処理する際しては、前処理として、自己消化処理、酸分解、酵素分解処理等の従来の処理方法のいずれを用いても当該前処理を行うことができる。ここで「自己消化処理の方法」は、前記「従来の技術」の記載に従う。また、酸分解の方法は、例えば、5?25%塩酸溶液を用いて60?150℃で3?96時間をかけて加水分解する方法を挙げることができる。」(段落0012)

記載(2d)
「なお、かかるグルコースイソメラーゼ処理は、バッチ法により行うことも可能であるが、例えば、スイターゼ(長瀬産業製)等の固定化イソメラーゼ製剤を用いることにより、カラム法により行うことも可能である。」(段落0020)

記載(2e)
「・・・〔実施例1〕清酒醸造粕100g(水分50.5%) を500ml振盪フラスコに添加し、水200mlを添加した後、プロテアーゼ製剤(プロテアーゼM:天野製薬製)、グルカナーゼ製剤(YL-15:天野製薬製)をそれぞれ100mg添加し、50℃にて24時間振盪しつつ反応させた。反応終了後、100℃にて5分間加熱し、酵素を失活させた。室温まで冷却後、アミラーゼ製剤(ビオザイムA)、ヌクレアーゼ製剤(ヌクレアーゼ「アマノ」)及びデアミナーゼ製剤(デアミザイム;以上、共に天野製薬製)をそれぞれ100mgずつ添加し、60℃にて24時間更に振盪を続けた。反応終了後100℃、5分間熱処理し、室温まで冷却後、実験例1にて得られたトレハラーゼを含む抽出液10mlをこれに添加し、40℃で12時間穏やかに撹拌した。反応終了後、遠心分離処理により不溶物を分離し、希褐色の清澄な上澄み190ml を得た。
本調味液は、濃厚な旨み、甘味及び清涼感を有していた。
〔実施例2〕上記実施例1と同様にして、ビオザイムA、ヌクレアーゼ「アマノ」及びデアミオザイム処理処理終了液185mlを得た。実験例にて得られたトレハラーゼを含む抽出液10mlをこれに添加し、40℃で12時間穏やかに撹拌した。反応終了後、遠心分離し、得られた上澄みを1規定NaOHにてpH9.0に調整した。これにスイターゼ10gを添加後、70℃にて1時間穏やかに撹拌した。ろ過によりスイターゼを除去、回収し、得られた上澄みを1規定HClにてpH7.0に調整することによって透明な調味液190mlを得た。」(段落0021?0022)

甲第3号証:特開2007-97496号公報

記載(3a)
「本発明は、従来の固体麹(固体米麹)を用いた甘酒と同程度の品質を持ち、官能的にも遜色のない甘酒を、液体麹を用いて効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。」(段落0007)

記載(3b)
「本発明においては、種々の原料や麹菌株を用いた麹菌培養物を組み合わせて製造した液体麹を使用することができる。
このようにして得られた液体麹は、本発明に係る甘酒の製造に用いられる。
甘酒の製造にあたり、固体麹の代わりに、当該液体麹を用いること以外は、既知の製造方法に従って甘酒を製造することができる。
甘酒の製造法の一例を示すと、まず原料として用いるでん粉質原料については、米が挙げられ、通常、精白米が用いられる。この米は、洗米、浸漬、蒸し工程を経て、次の仕込み工程に供される。
上記でん粉質原料を糖化・熟成するために、もろみ仕込み段階において、固体麹の代わりに前記した如き液体麹が、水、必要に応じて加える糖化酵素などと共に使用される。
前記した如き液体麹は、グルコアミラーゼ、耐酸性α-アミラーゼ等の酵素を同時にバランスよく含んでいるため、でん粉質を分解して糖分を、タンパク質を分解してアミノ酸を生成する。これらは、もろみ中で二次的に反応することによって、さらに複雑な多くの香味成分を醸成する。
糖化は、通常、55?65℃で5?24時間程度行われる。これによって、Brixが20前後のもろみが得られる。
糖化を行い、熟成した後のもろみは、必要に応じてろ過を行って残渣を除き、その後煮沸し殺菌を行って製品とされる。」(段落0028?0029)

甲第4号証:特開平11-196830号公報

記載(4a)
「一般に、甘酒は、米麹が潰れずに残ったものや、米飯や酒粕の不溶性成分などからなる固形分を含有している。米麹だけから作られた甘酒の場合には、米麹の不溶性固形分が沈殿して透明な上澄液が形成されるため、比較的さらりとして飲みやすい。しかし、米麹だけの甘酒を飲む地域は限られており、一般には米麹と米飯、米麹と酒粕、又は酒粕だけで作られた甘酒が普及している。」(段落0003)

記載(4b)
「本発明の甘酒の製造方法においては、まずこれらの原料に適当量の水を添加混合し、必要に応じて前述したような条件で糖化反応等を行わせることにより、甘酒液を調製する。水の添加量は特に限定されないが、水100重量部に対して、a)米麹、b)米麹と米飯との混合物、c)米麹と酒粕との混合物、d)酒粕、e)米麹と米飯と酒粕との混合物から選ばれた一種が5?50重量部となるようにすることが好ましい。」(段落0020)

甲第5号証:日本食品科学工学会誌, 2001年,Vol.48, No.2, p.150-156

記載(5a)
「トウモロコシ澱粉から異性化糖(果糖含有シロップ)の製造は、3つの酵素〔α-アミラーゼ,グルコアミラーゼ(E.C.3.2.1.3, 1,4-α-Glucan glucohydrolase)とグルコースイソメラーゼ〕を用いて行われている.これら酵素は作用pH域が異なるため、pH4.0?4.7にあるトウモロコシ澱粉を,α-アミラーゼで液化するときにはアルカリでpH6?6.5に調整され,グルコアミラーゼで糖化するときには酸でpH4.3?4.5に調整され,そして,グルコースイソメラーゼでグルコースをフルクトースに異性化するときには,アルカリでpH7?8に調整されている.」(150頁左欄14行?右欄1行)

記載(5b)
「現在までに知られているグルコースイソメラーゼの至適pHは7?8付近にあり、pH5付近では殆ど作用しない.」(155頁右欄7行?9行)

甲第6号証:特開2013-208091号公報

記載(6a)
「【請求項1】
プロテアーゼが不活性した甘酒に、ナイシンZを産生する乳酸菌を添加して培養および乳酸発酵させる第1の工程と、
第1の工程の後、プロテアーゼが活性の甘酒を添加して、ナイシンZを分解する第2の工程と、
第2の工程の後、プロテアーゼを不活性化させる第3の工程と、
第3の工程の後、ナイシンAを産生する乳酸菌を添加して培養および乳酸発酵させる第4の工程と
を含むことを特徴とする乳酸発酵甘酒の製造方法。」(請求項1)

第5 進歩性について
1 甲第1号証を主引用例とした申立理由(理由1-A?理由1-D)について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、記載(1d)より、イソメラーゼの使用は、他の酵素剤及びこうじとの併用であってよいことが記載されており、酒精含有調味料を、原料処理した原料、こうじ及びアルコールを混入し、もろみとなし、熟成中糖化・発酵し、固液分離して得ることが記載されており、イソメラーゼは、熟成中に添加することができることが記載されている。
そして、記載(1d)に、イソメラーゼを添加すると、グルコースを果糖へ異性化することができることが記載されていることから、甲第1号証の「イソメラーゼ」は、「グルコースイソメラーゼ」に相当し、「こうじ」は、穀物にコウジカビなどの食品発酵に有効なカビを中心にした微生物を繁殖させたものを示す用語であるから、「穀物麹」に相当する。
さらに、調味料は、飲食物の一種であることから、こうじを用いて製造された酒精含有調味料は、「麹飲食物」、「麹調味料」に相当する。
してみると、甲第1号証には、
「仕込み原料に含まれる穀物の糖化工程において、穀物麹とその他の原料との混合物に、他の酵素剤及びグルコースイソメラーゼを添加する段階を含む麹飲食物・麹調味料の製造方法」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明を対比すると、「仕込み原料に含まれる糖化工程において、穀物麹とその他の原料との混合物に酵素剤及びグルコースイソメラーゼを添加する段階を含む麹飲食物・麹調味料の製造方法」である点で一致し、
前者は混合物にアミラーゼを添加してから0時間?24時間経過した時、あるいは、仕込み原料混合物中のブドウ糖濃度が30%に達した時、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する段階を含むのに対して、後者は他の酵素剤及びグルコースイソメラーゼを添加する段階を含むものの、アミラーゼを添加してから0時間?24時間経過した時、あるいは、仕込み原料混合物中のブドウ糖濃度が30%に達した時、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加することの記載がない点(以下、「相違点1」という。)、並びに、
前者は穀物麹が固体麹であるのに対して、後者は穀物麹が固体麹であるとの明示の記載がない点(以下、「相違点2」という。)で相違する。
相違点1について検討する。
甲第1号証では、「他の酵素剤」という表現を、グルコースイソメラーゼと併用する酵素剤に対してのみ用いており、「他の酵素剤」の具体例の記載はない。甲第1号証には、記載(1f)から、α-アミラーゼ剤を用いた実施例4の記載はあるが、実施例4は、グルコースイソメラーゼを用いた実施例ではないことから、実施例4のα-アミラーゼ剤は、「他の酵素剤」の例とはいえない。一方、穀物の糖化を行う酵素剤として、アミラーゼは汎用のものであるから(要すれば、醸造の事典,1988年,初版第1刷,p.44-47参照。)、甲第1号証において、「他の酵素剤」として、アミラーゼを用いることは、当業者が容易になし得たことである。
しかしながら、甲第1号証には、熟成中に、グルコースイソメラーゼを他の酵素剤及びこうじと併用した状態で添加することは記載されているものの、他の酵素剤を添加した後にグルコースイソメラーゼを添加するという特定の添加順序とする動機付けがなく、さらに、原出願日当時に、酵素を併用する際に、必ず各酵素の至適pHで反応する時間を設けるという技術常識も存在しないことから、特定の添加順序とした上で、イソメラーゼを添加する前にpHを上げることの動機付けもない。
甲第5号証には、記載(5a)より、トウモロコシ澱粉から3つの酵素〔α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースイソメラーゼ〕を用いて異性化糖を製造する際に、これらの酵素は作用pHが異なるため、α-アミラーゼで液化するとき、グルコアミラーゼで糖化すると、グルコースイソメラーゼでグルコースをフルクトースに異性化するときは、それぞれ異なるpHに調整されることが記載されているが、甲1発明が麹を用いた調味料の発明であるのに対して、甲第5号証は、異性化糖の製造方法であるから、甲1発明において、甲第5号証に記載された発明を組み合わせる理由がない。
甲第2号証には、記載(2d)及び記載(2e)より、清酒醸造粕に水を添加し、プロテアーゼ及びグルカナーゼを反応させ、酵素を失活させた後、アミラーゼ、ヌクレアーゼ及びデアミナーゼを添加し、60℃にて24時間反応させた後、100℃5分間熱処理し、室温まで冷却したものに、トレハラーゼを添加し、40℃で12時間撹拌し、反応終了後、遠心分離し、得られた上澄みを1規定NaOHでpH9.0に調整して、グルコースイソメラーゼであるスイターゼを添加後、70℃にて1時間撹拌し、ろ過によりスイターゼを除去、回収し、得られた上澄みをpH7.0に調整して調味液を得たことが記載されている。甲1発明と甲第2号証に記載された発明は、調味料の技術分野で共通する。しかし、甲1発明において、甲第2号証に記載された、アミラーゼを24時間反応させた後、トレハラーゼを12時間反応させ、その後pH9.0に調整してグルコースイソメラーゼを添加することを適用しても、甲第2号証では、アミラーゼを添加してから、アミラーゼの反応時間24時間に加えて、トレハラーゼの反応時間12時間が経過した後、つまり、少なくとも36時間経過した後、pH調整してグルコースイソメラーゼを添加していることから、本件特許発明2の「アミラーゼを添加してから0時間?24時間経過した時、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する」という発明特定事項を満たさない。甲第2号証には、ブドウ糖濃度についての記載もないことから、甲1発明において、甲第2号証に記載された発明を適用しても、本件特許発明2の「仕込み原料混合物中のブドウ糖濃度が30%に達した時、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する」という発明特定事項も満たさない。
また、甲1発明において、甲第2号証に記載された清酒醸造粕に対する複数の酵素処理の内、トレハラーゼ処理後に得られた上澄みに対してなされたpH調整及び固定化イソメラーゼ製剤添加のみを選んで適用する動機付けもない。
してみると、相違点2を検討するまでもなく、本件特許発明2は甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明、又は、甲第1?2号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、上記申立ての理由1-Aには理由がない。

(3)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、「仕込み原料に含まれる糖化工程において、穀物麹とその他の原料との混合物に酵素剤及びグルコースイソメラーゼを添加する段階を含む麹飲食物・麹調味料」である点で一致し、
前者は混合物にアミラーゼを添加し10時間?20時間維持したのち、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する段階を含むのに対して、後者は他の酵素剤及びグルコースイソメラーゼを添加する段階を含むものの、アミラーゼを添加してから10時間?20時間維持したのち、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加することの記載がない点(以下、「相違点3」という。)、並びに、
前者は穀物麹が液体麹であるのに対して、後者は穀物麹が固体麹であるとの明示の記載がない点(以下、「相違点4」という。)で相違する。
相違点3について検討する。
甲第1号証では、「他の酵素剤」という表現を、グルコースイソメラーゼと併用する酵素剤に対してのみ用いており、「他の酵素剤」の具体例の記載はない。甲第1号証には、記載(1f)から、α-アミラーゼ剤を用いた実施例4の記載はあるが、実施例4は、グルコースイソメラーゼを用いた実施例ではないことから、実施例4のα-アミラーゼ剤は、「他の酵素剤」の例とはいえない。一方、穀物の糖化を行う酵素剤として、アミラーゼは汎用のものであるから、甲第1号証において、「他の酵素剤」として、アミラーゼを用いることは、当業者が容易になし得たことである。
しかしながら、甲第1号証には、熟成中に、グルコースイソメラーゼを他の酵素剤及びこうじと併用した状態で添加することは記載されているものの、他の酵素剤を添加した後にグルコースイソメラーゼを添加するという特定の添加順序とする動機付けがなく、さらに、原出願日当時に、酵素を併用する際に、必ず各酵素の至適pHで反応する時間を設けるという技術常識も存在しないことから、特定の添加順序とした上で、イソメラーゼを添加する前にpHを上げることの動機付けもない。
甲第5号証には、記載(5a)より、トウモロコシ澱粉から3つの酵素〔α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースイソメラーゼ〕を用いて異性化糖を製造する際に、これらの酵素は作用pHが異なるため、α-アミラーゼで液化するとき、グルコアミラーゼで糖化すると、グルコースイソメラーゼでグルコースをフルクトースに異性化するときは、それぞれ異なるpHに調整されることが記載されているが、甲1発明が麹を用いた調味料の発明であるのに対して、甲第5号証は、異性化糖の製造方法であるから、甲1発明において、甲第5号証に記載された発明を組み合わせる理由がない。
甲第2号証には、記載(2d)及び記載(2e)より、清酒醸造粕に水を添加し、プロテアーゼ及びグルカナーゼを反応させ、酵素を失活させた後、アミラーゼ、ヌクレアーゼ及びデアミナーゼを添加し、60℃にて24時間反応させた後、100℃5分間熱処理し、室温まで冷却したものに、トレハラーゼを添加し、40℃で12時間撹拌し、反応終了後、遠心分離し、得られた上澄みを1規定NaOHでpH9.0に調整して、グルコースイソメラーゼであるスイターゼを添加後、70℃にて1時間撹拌し、ろ過によりスイターゼを除去、回収し、得られた上澄みをpH7.0に調整して調味液を得たことが記載されている。甲1発明と甲第2号証に記載された発明は、調味料の技術分野で共通する。しかし、甲1発明において、甲第2号証に記載された、アミラーゼを24時間反応させた後、トレハラーゼを12時間反応させ、その後pH9.0に調整してグルコースイソメラーゼを添加することを適用しても、甲第2号証では、アミラーゼを添加してから、アミラーゼの反応時間24時間に加えて、トレハラーゼの反応時間12時間が経過した後、つまり、少なくとも36時間経過した後、pH調整してグルコースイソメラーゼを添加していることから、本件特許発明1の「アミラーゼを添加し10時間?20時間維持したのち、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する」という要件を満たさない。
また、甲1発明において、甲第2号証に記載された清酒醸造粕に対する複数の酵素処理の内、トレハラーゼ処理後に得られた上澄みに対してなされたpH調整及び固定化イソメラーゼ製剤添加のみを選んで適用する動機付けもない。
そして、甲第3号証には、麹に含まれる酵素以外に、複数の酵素を併用することの記載はない。
してみると、相違点4を検討するまでもなく、本件特許発明1は甲第1号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明、又は、甲第1?3号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、上記申立ての理由1-Bには理由がない。

(4)本件特許発明3?4について
本件特許発明3?4は、本件特許発明1又は本件特許発明2の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに限定するものであるから、本件特許発明1、本件特許発明2と同様に、甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明、甲第1?2号証及び甲第5号証に記載された発明、又は、甲第1?3号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲第4、6号証には、穀物麹を含む混合物に、アミラーゼを添加したのちに、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加することの記載も示唆もないことから、本件特許発明3?4は、甲第1?6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、上記申立ての理由1-C及び1-Dには理由がない。

2 甲第2号証を主引用例とした申立理由(理由1-E?理由1-H)について
(1)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、記載(2d)及び記載(2e)より、清酒醸造粕に水を添加し、プロテアーゼ及びグルカナーゼを反応させ、酵素を失活させた後、アミラーゼ、ヌクレアーゼ及びデアミナーゼを添加し、60℃にて24時間反応させた後、100℃5分間熱処理し、室温まで冷却したものに、トレハラーゼを添加し、40℃で12時間撹拌し、反応終了後、遠心分離し、得られた上澄みを1規定NaOHでpH9.0に調整して、グルコースイソメラーゼであるスイターゼを添加後、70℃にて1時間撹拌し、ろ過によりスイターゼを除去、回収し、得られた上澄みをpH7.0に調整して調味液を得たことが記載されている。
清酒醸造粕には穀物由来の澱粉が含まれており、アミラーゼは澱粉をより小さい糖に分解する酵素であることから、甲第2号証に記載のアミラーゼを用いた工程は、「穀物の糖化工程」に相当する。また、清酒醸造粕は、麹を用いた清酒醸造により得られたものであり、調味液は、飲食物の一種であり、調味料の一種でもあるから、甲第2号証に記載の調味液は、「麹飲食物・麹調味料」に相当する。
してみると、甲第2号証には、
「原料に含まれる穀物の糖化工程において、清酒醸造粕の酵素処理物に、アミラーゼを添加して24時間反応させ、次いでトレハラーゼを12時間反応させ、遠心分離して得られた上澄みを、pH9.0に調整して、グルコースイソメラーゼを添加する段階を含む麹飲食物・麹調味料の製造方法」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2と甲2発明を対比すると、「仕込み原料に含まれる穀物の糖化工程において、穀物原料を含む混合物に、アミラーゼを添加したのち、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する段階を含む麹飲食物・麹調味料の製造方法」である点で一致し、
前者は混合物に固体麹を含むのに対して、後者は混合物に清酒醸造粕の酵素処理物を含む点(以下、「相違点5」という。)、並びに、
前者はアミラーゼを添加してから0時間?24時間経過したとき、あるいは、仕込み原料混合物中のブドウ糖濃度が30%に達したとき、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加するのに対して、後者は、アミラーゼを添加して24時間反応させた後、トレハラーゼを12時間反応させてから、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する点(以下、「相違点6」という。)で相違する。
相違点5について検討する。
甲2発明は、記載(2a)から、醸造廃棄物として扱われてきた清酒醸造粕を、廃棄せずに原料として利用した調味液を提供することを解決しようとする課題とするものであるから、甲第4号証に、記載(4a)より、米麹と米飯、酒粕が、いずれも甘酒の原料として用いられていることが記載されており、米麹と米飯、酒粕がいずれも甘酒の原料であることは技術常識であっても、甲2発明において、清酒醸造粕に代えて、米麹等の他のものを用いる動機付けはない。
してみると、相違点6を検討するまでもなく、本件特許発明2は甲第1号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明、又は、甲第1?3号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、上記申立ての理由1-Eには理由がない。

(3)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明を対比すると、「仕込み原料に含まれる穀物の糖化工程において、穀物原料を含む混合物に、アミラーゼを添加したのち、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する段階を含む飲食物・調味料の製造方法」である点で一致し、
前者は混合物に液体麹を含むのに対して、後者は混合物に清酒醸造粕の酵素処理物を含む点(以下、「相違点7」という。)、並びに、
前者はアミラーゼを添加し10時間?20時間維持したのち、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加するのに対して、後者は、アミラーゼを添加して24時間反応させた後、トレハラーゼを12時間反応させてから、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する点(以下、「相違点8」という。)で相違する。
相違点7について検討する。
甲2発明は、記載(2a)から、醸造廃棄物として扱われてきた清酒醸造粕を、廃棄せずに原料として利用した調味液を提供することを解決しようとする課題とするものであるから、甲第4号証に、記載(4a)より、米麹と米飯、酒粕が、いずれも甘酒の原料として用いられていることが記載されており、米麹と米飯、酒粕がいずれも甘酒の原料であることは技術常識であっても、甲2発明において、清酒醸造粕に代えて、米麹等の他のものを用いる動機付けはない。
そして、甲第3号証には、記載(3a)及び記載(3b)から、甘酒の製造において、固体麹に代えて、液体麹を用いることは記載されているが、清酒醸造粕に代えて液体麹を用いることは、記載も示唆もされていない。
してみると、相違点8を検討するまでもなく、本件特許発明2は甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、上記申立ての理由1-Fには理由がない。

(4)本件特許発明3?4について
本件特許発明3?4は、本件特許発明1又は本件特許発明2の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに限定するものであるから、本件特許発明1、本件特許発明2と同様に、甲第1?2号証に記載された発明、又は、甲第1?3号証記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲第4、6号証には、調味液の製造方法において、清酒醸造粕に代えて液体麹を用いることは記載も示唆もされていないことから、本件特許発明3?4は、甲第1?4、6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、上記申立ての理由1-G及び1-Hには理由がない。

第5 サポート要件欠如(理由2)について

1 本件特許発明の解決しようとする課題
本件特許発明は、特許請求の範囲、明細書の全体の記載事項(特に、段落0007)及び出願時の技術常識からみて、「カロリーが低く、摂取後の血糖の急激な上昇を抑える麹飲食物・麹調味料の製造方法」の提供を解決しようとする課題とするものであると認められる。

2 判断
発明の詳細な説明の段落0008?0009に、「本発明者らは、鋭意検討するなかで、ブドウ糖と果糖との甘味度の違い(ブドウ糖:砂糖の0.6倍程度、果糖:砂糖の1.2?1.5倍程度)に着目し、麹飲食物・麹調味料の製造過程において逐次生成しているブドウ糖又は既に一定量生成しているブドウ糖を果糖で置き換えることによって、希釈してカロリー低減をはかりながらも従来品と同等の甘味を確保できるのではないかと考えた。そこで、上記目的を達成するためになされた本発明の1つの側面は、仕込み原料に含まれる穀物の糖化工程の間、又は、その後工程においてグルコースイソメラーゼを添加する段階を含む麹飲食物・麹調味料の製造方法である。本製法により、ブドウ糖を果糖で置き換えることで、常法により得られる麹飲食物・麹調味料と同程度の甘さを確保しつつ摂取後の血糖の急激な上昇を抑えることができる。」と記載されていることから、当業者は、穀物の糖化工程の間、又は、その後の工程において、グルコースイソメラーゼを添加して、ブドウ糖を果糖に置き換えることにより、「カロリーが低く、摂取後の血糖の急激な上昇を抑える麹飲食物・麹調味料の製造方法」とすることができることを認識できる。
本件特許発明は、穀物の糖化工程において、グルコースイソメラーゼを添加する段階を含む麹飲食物・麹調味料の製造方法の発明であることから、発明の詳細な説明の記載により又は技術常識に照らして当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
申立人は、異議申立書の16頁13行?17頁9行において、
「(8-1)本件特許発明1は、「液体麹である穀物麹又は当該穀物麹とその他の原料との混合物にアミラーゼを添加し10?20時間維持したのち、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する段階を含む」構成を有する。
ここで、本件明細書の【0033】には、液体麹を使用する糖化工程について、「アミラーゼ補助的に添加するタイミング又はこれらのタイミングとは適当な時間差を設けて、グルコースイソメラーゼが添加される。ここで、市販されている一般的なグルコースイソメラーゼを添加する場合は、添加に先立ち、米麹のpHをグルコースイソメラーゼの至適pH(7?8)まで上げておくことが好ましいが、至適pHが7未満のグルコースイソメラーゼを添加する場合は、pHを上げなくてもよい。」と記載されている。このように、本件明細書には、「至適pHが7?8のグルコースイソメラーゼを添加する場合には、pHを7?8まで上げてグルコースイソメラーゼを添加する」ことは記載されているが、pHを7未満まで、あるいは、8よりも高く上げることや、至適pHが7?8でないグルコースイソメラーゼを使用した場合にもpHを上げることは記載されていない。
よって、本件特許発明1は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、本件は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(8-2)本件特許発明2は、「固体麹である穀物麹又は当該穀物麹とその他の原料との混合物にアミラーゼを添加してから0時間?24時間経過した時、あるいは、仕込み原料混合物中のブドウ糖濃度が30%に達した時、pHを上げてグルコースイソメラーゼを添加する段階を含む」特定事項を有するが、上記(8-1)に記載した理由と同じく、本件明細書には、「至適pHが7?8のグルコースイソメラーゼを添加する場合には、pHを7?8まで上げてグルコースイソメラーゼを添加する」ことは記載されているが、pHを7未満まで、あるいは、8よりも高く上げることや、至適pHが7?8でないグルコースイソメラーゼを使用した場合にもpHを上げることは記載されていない。
よって、本件特許発明2は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、本件は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(8-3)本件特許発明1または2を引用する形式で記載されている本件特許発明3、4にも、本件特許発明1または2と同じ瑕疵が存在するから、本件特許発明3、4も、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、本件は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」
と主張している。
しかしながら、上記のとおり、本件特許発明は、発明の詳細な説明の記載により又は技術常識に照らして当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
また、甲第5号証には、記載5(b)より、「現在までに知られているグルコースイソメラーゼの至適pHは、7?8付近にあり、pH5付近ではほとんど作用しない」ことが記載されており、このような技術常識を参酌すれば、「pHを上げる」ことで、ブドウ糖を果糖へ異性化できることは理解できるから、特許請求の範囲は発明の詳細な説明の記載を超えるものではない。
したがって、申立人の上記主張には理由がなく、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、上記申立ての理由2には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-06-18 
出願番号 特願2019-151603(P2019-151603)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飯室 里美  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 冨永 みどり
吉岡 沙織
登録日 2020-08-20 
登録番号 特許第6752341号(P6752341)
権利者 イチビキ株式会社
発明の名称 麹飲食物・麹調味料の製造方法  
代理人 伴 昌樹  

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