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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H02N
管理番号 1375886
異議申立番号 異議2021-700182  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-18 
確定日 2021-07-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6753629号発明「圧電モータ及び注入機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6753629号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6753629号の請求項1?10に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2019年(令和元年)8月2日(優先権主張平成30年8月10日)を国際出願日として出願され、令和2年8月24日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月9日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和3年2月18日に特許異議申立人高橋真哉(以下、「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件特許発明
特許第6753629号の請求項1?10に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータと、
前記摺動材と当接する基体部分と、皿バネ部分とを有するロータと、
前記ロータと共に回転するシャフトとを備え、
前記ロータには、前記皿バネ部分と前記シャフトとの間に環状溝が形成されており、
前記環状溝の底に対応する部分は、前記皿バネ部分の薄肉部よりも厚い、圧電モータ。
【請求項2】
前記ロータは、前記基体部分と前記皿バネ部分とを有する環状部材と、前記環状部材が固定される固定部とを有し、
前記環状部材の前記皿バネ部分は、前記シャフトに固定された前記固定部に固定されており、
前記固定部は、前記皿バネ部分よりも前記シャフトに近い位置において、前記シャフトに固定されている、請求項1に記載の圧電モータ。
【請求項3】
前記固定部の剛性は、前記環状部材の剛性よりも低い、請求項2に記載の圧電モータ。
【請求項4】
前記固定部は、前記シャフトの回転軸を中心とする前記環状溝を有している、請求項2又は3に記載の圧電モータ。
【請求項5】
前記固定部は、金属からなる、請求項2から4のいずれか一項に記載の圧電モータ。
【請求項6】
前記固定部を前記シャフトに固定するときのねじ止め方向は、前記皿バネ部分を前記固定部に固定するときのねじ止め方向と同一方向である、請求項2から5のいずれか一項に記載の圧電モータ。
【請求項7】
前記摺動材は、強化繊維を含む架橋フッ素樹脂からなる、請求項2から6のいずれか一項に記載の圧電モータ。
【請求項8】
前記ステータは、前記弾性体とは別の弾性体と、前記圧電素子とは別の圧電素子と、前記摺動材とは別の摺動材とをさらに有しており、
前記ロータは、前記基体部分とは別の基体部分と、前記皿バネ部分とは別の皿バネ部分とを含む別の環状部材をさらに有しており、
前記皿バネ部分は、前記固定部の一方側に固定されており、
前記別の皿バネ部分は、前記固定部の他方側に固定されている、請求項2から7のいずれか一項に記載の圧電モータ。
【請求項9】
前記ステータは、前記弾性体とは別の弾性体と、前記圧電素子とは別の圧電素子と、前記摺動材とは別の摺動材とをさらに有しており、
前記ロータは、前記基体部分とは別の基体部分と、前記皿バネ部分とは別の皿バネ部分とを含む別の環状部材をさらに有しており、
前記ロータは、前記固定部とは別の固定部をさらに有しており、
前記別の皿バネ部分は、前記別の固定部に固定されている、請求項2から7のいずれか一項に記載の圧電モータ。
【請求項10】
薬液を注入するための注入機器であって、
請求項1から9のいずれか一項に記載の圧電モータと、
前記圧電モータによって駆動される駆動機構と、
前記圧電モータを制御する制御装置とを備える、注入機器。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人が主張する特許異議の申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 本件特許発明1は、本件特許についての優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証(以下、「甲1」という。甲第2号証?甲第4号証についても、同様に「甲2」?「甲4」という。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基いて、又は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 本件特許発明2、4、5は、甲1に記載された発明に基いて、甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基いて、又は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明2、4、5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 本件特許発明3、6は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基いて、又は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明3、6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
4 本件特許発明7は、甲1に記載された発明、甲2に記載された発明及び甲3に記載されているような周知技術に基いて、又は、甲2に記載された発明、甲1に記載された発明及び甲3に記載されているような周知技術に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
5 本件特許発明8、9は、甲1に記載された発明、甲2に記載された発明及び甲4に記載された発明に基いて、又は、甲2に記載された発明、甲1に記載された発明及び甲4に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明8、9に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
6 本件特許発明10は、甲1に記載された発明及び甲4に記載された発明に基いて、又は、甲2に記載された発明、甲1に記載された発明及び甲4に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲1:登録実用新案第3037951号公報(特許異議申立書及びこれと共に提出された証拠説明書には「実用新案登録第3037951号公報」と記載されているが、「登録実用新案第3037951号公報」の誤記と認める。)
甲2:特開平7-298652号公報
甲3:特開2003-119293号公報
甲4:特許第4907738号公報

第4 文献の記載
1 甲1
(1)甲1の記載
特許異議申立人が提出した甲1には以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下、同様である。)。
ア 「【請求項1】 弾性体3に、複数の圧電素子4を固定配置した固定子1と、この固定子1の弾性体表面に加圧接触させた回転子2とからなる超音波モータにおいて、バネ5は円板状であって、外周部5Aの板厚が平行な厚さで、内周部5Bの板厚が円周に向かって増加している形状をしている超音波モータの回転子加圧バネ。

【請求項4】 バネ5は、同心円状に複数のミゾが形成された請求項1及び2の超音波モータの回転子加圧バネ。」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】
この考案は、超音波モータの改良に関するものである。」

ウ 「【0004】
【課題を解決するための手段】
いま、その解決手段を図面を追いながら説明すれば、(イ)回転子2と一体で請求項記載のバネ5を形成させ、バネ5の中央部にボス6を設ける。(ロ)ボス6に、軸11を圧入するか、軸にローレット加工を施して圧入する。
回転子2、バネ5、ボス6が同一材質であれば、切削加工またはプレス加工で製作することが出来、異種材質であれば、それぞれの部材は溶接、接着、圧接、圧入等の方法で製作することが出来る。」

エ 「【0005】
【作用】
本案は、以上のような構造であるから、固定子1に回転子2を加圧するときは、軸受9を介してボス6を加圧するとバネ5は弾力により…変形する。」

オ 「【0006】
…第5図に示すごとく、バネ5は、同心円状に複数のミゾを形成することにより、大きなたわみ量を得ている。」

カ 前記イ?ウ及び図1(下図)からみて、超音波モータは、回転子2、バネ5及びボスを有する回転部分を有していること、及び、当該回転部分は軸11と共に回転することが理解できる。また、前記アも考慮すると、図1に示された超音波モータにおいて、固定子1は、弾性体3と、前記弾性体3に固定配置した圧電体4とを有しているといえ、前記回転部分は、固定子1に加圧される回転子2と、バネ5とを有するといえ、軸11は、前記回転部分と共に回転するといえる。

キ 前記ア、カ及び図1(下図)からみて、前記回転部分には、バネ5と軸11との間にボス6が設けられていると理解できる。

ク 前記ア及びオからみて、図5(下図)には、図1に示された超音波モータのバネ5に代えて、複数の同心円状のミゾが形成されたバネ5を用いることが示されているといえる。





(2)引用発明1
前記ア?クに示した事項及び図面の図示内容を総合すると、甲1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「 弾性体3と、前記弾性体3に固定配置した圧電体4とを有している固定子1と、
前記固定子1に加圧される回転子2と、バネ5とを有する回転部分と、 前記回転部分と共に回転する軸11とを備え、
前記回転部分には、前記バネ5と前記軸11との間にボス6を設けるとともに、前記バネ5に複数の同心円状のミゾが形成された超音波モータ。」

2 甲2
(1)甲2の記載
特許異議申立人が提出した甲2には以下の事項が記載されている。

ア 「【0002】
【従来の技術】図5?図7を参照して本発明者により提案されている先行技術の振動波モータについて説明する。…
【0004】図5(a)において、1は振動波モータの動力発生源となる振動体で、該振動体1は図5(b)に示される形状を有し、中央のボス部1cにおいてねじ4によりモータ端板3に締結固定されている。該振動体1はステンレス鋼で構成され…る。また、該振動体1の他方の端面には該歯状突部1aの配置されている環状部分に対応して環状の圧電素子2が接着固定されて…いる。
【0005】…回転軸6の両軸受間の位置には焼きばめ等で該回転軸6に嵌着されたフランジ6aが設けられ、該フランジ6aには図5(b)に示すような移動体支持体としての中間部材8がねじ7で固着されていて該中間部材8は回転軸6とともに回転するようになっている。…」
イ 「【0026】〈実施例1〉図1に本発明を適用して構成された振動波モータの縦断面図を示す。この振動波モータにおいては移動体支持体に取付けられている移動体を除いては前述した先行技術の振動波モータの構造と同じであるから以下には簡単に各部の構成を説明する。…
【0028】中間部材8の外周のフランジ部8aにはゴム製弾性シート材9を介して環状の摺動体支持体20が固着されて…いる。」
ウ 「【0045】〈実施例2〉図3及び図4に示す本発明の第二実施例は、前記振動体側に摺動体を取付け、移動体側の構成要素を少なくしたものである。
【0046】図3は図4に示す移動体と振動体とを有する本発明の第二実施例の振動波モータの縦断面図であり、該モータの移動体と振動体とを除いた構成は図1の振動波モータと同じであるから、図3において図1と同じ符号で表示した構成要素の説明を省略する。
【0047】図3に示す振動波モータは図4(a)に示した移動体32と振動体1とを有している。移動体32は図2の実施例の移動体の如き摺動体を有しておらず、図2の摺動体支持体に相当する部分のみで構成されている。該移動体32は図2の摺動体支持体と同じくアルミ合金製であり、中間部材8のフランジ8aに接着固定される環状の固定部32aと、振動体1の歯状突部1aに摺動接触する円筒状の摺動部32bと、該固定部32aと該摺動部32bとを連結する可撓性の連結部32cと、を有して…いる。該連結部32cの振動体対向面側には深さ一定の周方向溝32eが形成され、また、該連結部32cの反対側の面には半径方向外向きに深さが大きくなる三角形断面状の周方向溝32dが形成され、従って該連結部32cの軸線方向の肉厚は半径方向外側に向かって減少しており、該連結部32cは軸線方向に弾性的にたわみ得るばねとして機能している。…
【0048】本実施例の振動波モータでは、振動体1の歯状突部1aの表面に前記実施例の摺動体30と同じ複合樹脂の摺動体34が形成されている。…」

エ 前記ア?ウ及び図3?4(下図)からみて、振動波モータは、ステンレス鋼で構成される振動体1と、前記振動体1に接着固定された圧電素子2及び前記振動体1に形成された摺動体34とを有している固定部分を有していることが理解できる。

オ 前記ウ及び図3?4(下図)からみて、振動波モータは、摺動体34と摺動接触する摺動部32bと、前記摺動部32bを連結する可撓性の連結部32cとを有する回転部分を有していること、及び、当該回転部分は回転軸6と共に回転することが理解できる。

カ 前記イ、ウ、オ及び図3?4(下図)からみて、前記回転部分には、連結部32cと回転軸6との間に、ゴム製弾性シート材9及び中間部材8が設けられていることが理解できる。









(2)引用発明2
前記ア?カに示した事項及び図面の図示内容を総合すると、甲2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「 ステンレス鋼で構成される振動体1と、前記振動体1に接着固定された圧電素子2及び前記振動体1に形成された摺動体34とを有している固定部分と、
前記摺動体34と摺動接触する摺動部32bと、前記摺動部32bを連結する可撓性の連結部32cとを有する回転部分と、
前記回転部分と共に回転する回転軸6とを備え、
前記回転部分には、前記連結部32cと前記回転軸6との間に、ゴム製弾性シート材9及び中間部材8が設けられている、振動波モータ。」

第5 当審の判断
1 本件特許発明1について
(1)引用発明1を主引用発明とした場合
ア 対比
本件特許発明1と引用発明1を、その有する機能に照らして対比すると、引用発明1の「弾性体3に固定配置した圧電体4」、「固定子1」、「回転子2」、「バネ5」、「回転部分」、「軸11」及び「超音波モータ」は、それぞれ本件特許発明1の「弾性体に貼り付けられた圧電素子」、「ステータ」、「基体部分」、「皿バネ部分」、「ロータ」、「シャフト」及び「圧電モータ」に相当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、以下の点で一致し、
[一致点1]
弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子とを有しているステータと、
基体部分と、皿バネ部分とを有するロータと、
前記ロータと共に回転するシャフトとを備える、圧電モータ。

以下の点で相違する。
[相違点1-1]
本件特許発明1は、ステータに「摺動材」を有すると共に、ロータが有する「基体部分は当該摺動材に当接する」のに対して、引用発明1は、固定子1(ステータ)に摺動材を有しているか明らかではなく、さらに、回転部分(ロータ)が有する回転子2(基体部分)が固定子1(ステータ)の摺動材に当接しているか明らかではない点。
[相違点1-2]
本件特許発明1においては、「前記ロータには、前記皿バネ部分と前記シャフトとの間に環状溝が形成されており、前記環状溝の底に対応する部分は、前記皿バネ部分の薄肉部よりも厚い」のに対し、引用発明1においては、回転部分(ロータ)には、バネ5(皿バネ部分)に複数の同心円状のミゾが形成されているものの、バネ5(皿バネ部分)と軸11(シャフト)との間に環状溝が形成されていない点。

イ 判断
(ア) 相違点が実質的な相違点であるかについて
事案に鑑みて、相違点1-2から検討する。
引用発明1において、バネ5に複数の同心円状のミゾが形成されているところ、当該バネ5は、外周側の同心円状のミゾが形成された外周部と、内周側の同心円状のミゾが形成された内周部とを有するものとも理解できる。しかし、引用発明1のバネ5は、複数の同心円状のミゾが一体に機能して、大きなたわみ量を得るもの(前記第4 1(1)オ参照)であるから、バネ5の内外周部はあわせて本件特許発明1における「皿バネ部分」と同様の機能を奏するものである。したがって、当該バネ5の内外周部が本件特許発明1における「皿バネ部分」を構成するものであるから、引用発明1において、バネ5の内周側の同心円状のミゾのみを取り出して、本件特許発明1の「前記皿バネ部分と前記シャフトとの間」の「環状溝」に相当するものとはいえない。また、仮に、内周側の同心円状のミゾが、本件特許発明1における「環状溝」に相当するとみても、甲1には、当該内周側の同心円状のミゾにおける底の厚さと当該外周側の同心円状のミゾにおける底の厚さとの関係は特定されていない。
したがって、相違点1-2は実質的な相違点であるといえる。

(イ) 相違点についての判断
引き続き、事案に鑑みて、相違点1-2から検討する。
引用発明1において、バネ5と軸11との間にボス6を設けているものの、当該ボス6に環状溝を形成させることを示唆するような記載は甲1に見あたらず、ボス6に環状溝を形成することは設計事項であるとはいえない。
また、仮に、引用発明1において、バネ5の内周側の同心円状のミゾが、本件特許発明1における「環状溝」に相当するとした上で、さらに、甲1の【0006】に「バネ5は、外周点P1から中間点P2までの外周部5Aは平行な板厚とし、中間点P2から内周点P3(ボスの外周)に向かって板厚が増加する形状とする」といった実施例も記載されていることから、当該実施例のバネ5に、複数の同心円状のミゾを形成することができたとしても、その場合において、内周側の同心円状のミゾにおける底に対応する部分の板厚を外周側の同心円状のミゾにおける底に対応する部分の板厚よりも厚くする構成になるかは明らかではないし、そのように構成する積極的な動機付けも見あたらない。
以上のように、引用発明1における回転部分において、バネ5と軸11との間に環状溝を形成すること、さらには、当該環状溝の底に対応する部分を、バネ5の薄肉部よりも厚くすることは、当業者といえども容易に想到し得たものとはいえない。

(ウ) まとめ
つまり、上記(ア)のとおり、本件特許発明1の相違点1-2は実質的な相違点であるところ、上記(イ)のとおり、当業者といえども、引用発明1に基いて、本件特許発明1の相違点1-2に係る発明特定事項を容易に想到できるものではない。

(エ) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲1の図5から「ロータには、バネの外周部と軸との間の内周部に環状のミゾが形成されており、環状のミゾの底に対応する部分は、バネの外周部の薄肉部よりも厚い」点が看取できるとして、甲1には「前記ロータには、前記バネの外周部と前記軸との間の前記内周部に環状のミゾが形成されており、前記環状のミゾの底に対応する部分は、前記バネの外周部の薄肉部よりも厚い」との事項を含む点が甲1発明として記載されていると認定した上で、甲1発明における「バネの外周部」、「軸」及び「環状のミゾ」は、それぞれ本件特許発明1における「皿バネ部分」、「シャフト」及び「環状溝」に相当するから、「本件特許発明1と甲1発明との間に相違点はない。また、仮に相違があったとしても、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」と主張している(特許異議申立書12ページ下から2行目?14ページ10行、26ページ9?19行)。
しかしながら、上記(ア)でも示したように、甲1の図5に示されたバネ5は、複数の同心円状のミゾが一体に機能して、大きなたわみ量を得るものであるから、「前記バネの外周部」に加えて「前記内周部」に形成された「ミゾ」をも含めて、本件特許発明1における「皿バネ部分」と同様の機能を奏するものであって、本件特許発明1における「皿バネ部分」に相当するものである。そして、このように対比すると、本件特許発明1における「前記ロータには、前記皿バネ部分と前記シャフトとの間に環状溝が形成されて」いるとの事項を、甲1に記載された発明が有していないことは明らかである。
さらに、特許異議申立人は、甲1の図5から「ロータには、バネの外周部と軸との間の内周部に環状のミゾが形成されており、環状のミゾの底に対応する部分は、バネの外周部の薄肉部よりも厚い」点が看取できるとしているが、「一般に、特許出願の願書に添付される図面は、明細書を補完し、特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図であるから、当該発明の技術内容を理解するために必要な程度の正確さを備えていれば足り、当該図面に表示された寸法については、必ずしも厳密な正確さが要求されるものではない。」(知財高判平成25年10月30日 平成25年(行ケ)10015号)ことに鑑みると、甲1の図5をみても、環状のミゾの底に対応する部分は、バネの外周部の薄肉部よりも厚いことが明らかであるとはいえないから、「前記環状のミゾの底に対応する部分は、前記バネの外周部の薄肉部よりも厚い」との事項も、甲1に記載されているとはいえない。
したがって、本件特許発明1は甲1に記載された発明ではない。
また、上記(イ)でも示したように、甲1に記載された発明に基いて、本件特許発明1のように「前記ロータには、前記皿バネ部分と前記シャフトとの間に環状溝が形成されて」「前記環状溝の底に対応する部分は、前記皿バネ部分の薄肉部よりも厚い」ように構成することは、当業者といえども容易に想到できるものではない。
したがって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。

ウ まとめ
前記イに示したように、相違点1-2は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1に記載された発明であるとはいえず、また、本件特許発明1の相違点1-2に係る発明特定事項は、当業者といえども、引用発明1に基いて、容易に想到できるものではないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が、引用発明1に基いて、容易に発明をすることができたものではない。

(2)引用発明2を主引用発明とした場合
ア 対比
本件特許発明1と引用発明2を、その有する機能に照らして対比すると、引用発明2の「ステンレス鋼で構成される振動体1」、「前記振動体1に接着固定された圧電素子2及び前記振動体1に形成された摺動体34」、「固定部分」、「摺動接触」、「摺動部32b」、「摺動部32bを連結する可撓性の連結部32c」、「回転部分」、「回転軸6」及び「振動波モータ」は、それぞれ本件特許発明1の「弾性体」、「弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材」、「ステータ」、「当接」、「基体部分」、「皿バネ部分」、「ロータ」、「シャフト」及び「圧電モータ」に相当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明2とは、以下の点で一致し、
[一致点2]
弾性体と、前記弾性体に貼り付けられた圧電素子及び摺動材とを有しているステータと、
前記摺動材と当接する基体部分と、皿バネ部分とを有するロータと、
前記ロータと共に回転するシャフトとを備える、圧電モータ。

以下の点で相違する。
[相違点2]
本件特許発明1においては、「前記ロータには、前記皿バネ部分と前記シャフトとの間に環状溝が形成されており、前記環状溝の底に対応する部分は、前記皿バネ部分の薄肉部よりも厚い」のに対し、引用発明2においては、回転部分(ロータ)には、可撓性の連結部32c(皿バネ部分)と、回転軸6(シャフト)と、の間に環状溝が形成されていない点。

イ 判断
(ア) 相違点2について
引用発明2の回転部分において、可撓性の連結部32cと回転軸6との間に、ゴム製弾性シート材9及び中間部材8を有しているものの、ゴム製弾性シート材9及び中間部材8をも可撓性の連結部32cと同様にばねとして機能させることは記載も示唆もされていないから、ゴム製弾性シート材9及び中間部材8に連結部32cのような環状溝を形成することは容易に想到し得るものではない。また、引用発明1において、バネ5に複数の同心円状のミゾが形成されているところ、この点を引用発明2に組み合わせることができたとしても、引用発明1におけるバネ5とばねとして同一の機能を有するものである引用発明2の可撓性の連結部32cに、引用発明1における複数の同心円状のミゾを形成することが想到できるにとどまる。そして、甲2には、ゴム製弾性シート材9及び中間部材8をも可撓性の連結部32cと同様にばねとして機能させることは記載も示唆もされていないから、引用発明2のゴム製弾性シート材9及び中間部材8に、引用発明1の複数の同心円状のミゾを形成する点を採用することは想到し得るものではない。
仮に、引用発明2のゴム製弾性シート材9又は中間部材8に、引用発明1の複数の同心円状のミゾを形成する点を採用することができた場合、当該複数の同心円状のミゾが、本件特許発明1における「環状溝」に相当するといえるが、当該同心円状のミゾにおける底に対応する部分の板厚を可撓性の連結部32cの板厚よりも厚くする構成になるかは明らかではないし、しかも、そのように構成する積極的な動機付けも見あたらない。
したがって、引用発明2の回転部分において、可撓性の連結部32cと回転軸6との間に、環状溝を形成すること、さらには、当該環状溝の底に対応する部分を可撓性の連結部32cの薄肉部よりも厚くすることは、引用発明1をふまえても、当業者といえども容易に想到できるものではない。
そうすると、当業者といえども、引用発明2、及び、甲1に記載された事項に基いて、本件特許発明1の相違点2に係る発明特定事項を容易に想到できるものではない。

(イ) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲2には「ロータは、…連結部と…、ゴム製弾性シート材及び中間部材とを有し、…前記中間部材は、前記連結部よりも前記回転軸に近い位置において…前記回転軸に固定されて」いるとの事項を含む点が甲2発明として記載されていると認定した上で、「ゴム製弾性シート材は、移動体の振動を抑制する機能を有することは明らかである。甲2発明のゴム製弾性シート材と中間部材とは、同様に振動を抑制する機能を有する甲1発明のバネの内周部に相当する」から、「甲2発明に甲1発明を適用して、甲2発明のゴム製弾性シート材に代えて又はゴム製弾性シート材に加えて、甲2発明の中間部材に振動を抑制するように甲1発明のように環状のミゾを設けて、甲2発明のロータの連結部と回転軸との間に環状のミゾが形成されていることとすることは、当業者が容易になし得たことである。」と主張している(特許異議申立書18ページ下から12行目?19ページ8行、36ページ4?17行)。
しかしながら、上記(ア)でも示したとおり、甲1に記載された環状のミゾと同様にばねとして機能するのは、当該機能からみて、引用発明2における連結部32cであってゴム製弾性シート材9や中間部材8ではないから、引用発明2に甲1に記載された発明を適用できたとしても、引用発明2の連結部32cに甲1に記載された環状のミゾを形成することを想到できるにとどまり、引用発明2のゴム製弾性シート9や中間部材8に甲1に記載された環状のミゾを形成することは想到し得ないものである。
したがって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。

ウ まとめ
前記イに示したように、本件特許発明1の相違点2に係る発明特定事項は、当業者といえども、引用発明2、及び、甲1に記載された事項に基いて、容易に想到できるものではないから、本件特許発明1は、当業者が、引用発明2、及び、甲1に記載された事項に基いて、容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明1に対するまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、引用発明1に基いて、又は、引用発明2及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件特許発明2?10について
本件特許発明2?10は、本件特許発明1に更なる限定を加えた発明であるから、引用発明1、引用発明2及び甲1に記載された事項に加え、甲3に記載されたような周知の事項及び甲4に記載された事項を考慮したとしても、本件特許発明2?10は、前記1で検討した本件特許発明1と同じ理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に請求項1?10に係る特許を取り消す理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-06-25 
出願番号 特願2020-527130(P2020-527130)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H02N)
P 1 651・ 121- Y (H02N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 服部 俊樹  
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 関口 哲生
鶴江 陽介
登録日 2020-08-24 
登録番号 特許第6753629号(P6753629)
権利者 株式会社Piezo Sonic
発明の名称 圧電モータ及び注入機器  
代理人 山本 晃司  
代理人 内田 浩輔  
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