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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1375893
異議申立番号 異議2021-700222  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-01 
確定日 2021-07-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6750019号発明「熱伝導シート及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6750019号の請求項1ないし7,10、12、13、16、に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6750019号の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、平成29年8月8日(優先権主張平成28年8月8日 日本国、平成29年3月2日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年8月14日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月2日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年3月1日に特許異議申立人安藤宏は請求項1ないし7、10、12、13、16に係る特許に対する特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6750019号の請求項1ないし16の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明16」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
熱伝導性板状フィラーを含有する熱伝導性樹脂層を含む樹脂層を複数積層した構造を有し、その積層面に対する垂直面をシート面とした熱伝導シートであって、前記樹脂層が、常温で液状の樹脂を含み、前記熱伝導性板状フィラーの長軸が、前記シート面に対して60°以上の角度で配向しており、23℃におけるアスカーC硬度が50以下である熱伝導シート。
【請求項2】
前記熱伝導性樹脂層の幅が、前記熱伝導性板状フィラーの厚みの1?2000倍である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記熱伝導性板状フィラーの含有量が、前記熱伝導性樹脂層を構成する樹脂100質量部に対し、50?700質量部である請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
厚み方向の熱伝導率が8W/m・K以上である、請求項1?3の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項5】
30%圧縮強度が、1500kPa以下である、請求項1?4の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項6】
前記樹脂層の全てが熱伝導性樹脂層である、請求項1?5の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項7】
前記樹脂層として、前記熱伝導性樹脂層と熱伝導性板状フィラーを含有しない非熱伝導性樹脂層を含む、請求項1?5の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項8】
前記非熱伝導性樹脂層が、内部に複数の気泡を含有する発泡樹脂層である、請求項7に記載の熱伝導シート。
【請求項9】
前記熱伝導性樹脂層が、内部に熱伝導性板状フィラーと複数の気泡を含有する熱伝導性発泡樹脂層である、請求項1?8の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項10】
前記樹脂層が、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン系樹脂、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーン樹脂、ジエン系ゴム、及び水素化ジエン系ゴムからなる群から選択された少なくとも一種を用いた樹脂層である、請求項1?9の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項11】
前記樹脂層を構成する樹脂が、常温で液状の樹脂のみからなる、請求項1?10の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項12】
前記熱伝導性板状フィラーが、窒化ホウ素、薄片化黒鉛の少なくとも何れかである請求項1?11の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項13】
請求項1?12の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法であって、前記熱伝導性樹脂層の製造方法が、樹脂と熱伝導性板状フィラーを混練して熱伝導性樹脂組成物を作製する混練工程と、前記熱伝導性樹脂組成物を積層してn層構造の積層体を作製する積層工程を含み、前記積層工程後の積層体の厚み(Dμm)、前記熱伝導性板状フィラーの厚み(dμm)が、下記式を満足する熱伝導シートの製造方法。
0.0005≦d/(D/n)≦1
【請求項14】
混練工程で作製した熱伝導性樹脂組成物をxi分割して積層し、xi層構造の積層体を作製後、熱プレスを行って、厚み(Dμm)とし、その後、更に、分割と積層と前記厚みへの熱プレスを繰り替えして、前記n層構造の積層体を作製する、請求項13に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項15】
多層形成ブロックを備える押出機を用い、前記多層形成ブロックを調製して、共押出し成形により、前記n層構造で、かつ、前記厚さDμmの積層体を得る、請求項13に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項16】
前記積層工程の後に、積層方向に対して平行にスライスする工程を含む、請求項13?15の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第7号証を提出し、本件発明1、3、4、6、10、12は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証と甲第3号証と甲7号証に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2、13、16は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証と甲第3号証と甲第4号証と甲第7号証に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証と甲第3号証と甲第5号証と甲第7号証に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証と甲第3号証と甲第6号証と甲第7号証に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件の請求項1ないし7、10、12、13、16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである旨主張している。
[証拠]
甲第1号証:国際公開第2008/053843号
甲第2号証:特開2007-56067号公報
甲第3号証:特開2011-162642号公報
甲第4号証:国際公開第2013/099089号
甲第5号証:特開2015-92534号公報
甲第6号証:特開2009-55021号公報
甲第7号証:国際公開第2017/145954号

第4 甲号証の記載
1 甲第1号証(国際公開第2008/053843号)
(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「[0001] 本発明は、熱伝導シート、その製造方法及び熱伝導シートを用いた放熱装置に関する。
(中略)
[0006] 熱伝導シートには前述のように放熱装置を組み立てる際の作業性が簡便であるという利点がある。この利点をさらに生かす使い方として、凹凸や曲面などの特殊な形状に対する追従性、応力緩和などの機能を持たせるニーズが生じてきている。例えば、ディスプレイパネルのような大面積からの放熱においては、熱伝導シートに発熱体と放熱体の表面のゆがみや凹凸などの形状に対する追従性、熱膨張率の違いによって起こる熱応力緩和などの機能も要求され、ある程度厚い膜でも伝熱できる高い熱伝導性の他、高い柔軟性が要求されるようになってきた。しかし、このような柔軟性と熱伝導性を高いレベルで両立できる熱伝導シートは未だ得られていなかった。
(中略)
[0008] また、成形体中の黒鉛粉末の結晶構造におけるc軸が、熱伝導方向に対して直交方向に配向されている熱伝導性成形体は、高い熱伝導性を得られる可能性はあるものの、より高いレベルでの熱伝導性と柔軟性との両立に関する配慮が必ずしも充分ではなく、その製造方法は、黒鉛が表面に確実に露出しにくいため、高い熱伝導性を得る上で確実性に欠け、さらに生産性、コスト面、エネルギー効率等に関する配慮が充分ではなかった。
発明の開示
[0009] 本発明の目的は、高い熱伝導性と高い柔軟性を併せ持つ熱伝導シートを提供することである。また、本発明の別の目的は、高い熱伝導性と高い柔軟性を併せ持つ熱伝導シートを生産性、コスト面及びエネルギー効率の点で有利に、かつ確実に得られる製造方法を提供することである。さらに本発明の別の目的は、高い放熱能力を持つ放熱装置を提供することである。また、本発明の別の目的は、熱拡散性、熱放散性に優れたヒートスプレッダ、ヒートシンク、放熱性きょう体、放熱性電子基板又は電気基板、放熱用配管又は加温用配管、放熱性発光体、半導体装置、電子機器、もしくは発光装置を提供することである。
(中略)
[0038] 本発明の熱伝導シートは、鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を含んでなる。
(中略)
[0042] 本発明で用いられる黒鉛粒子(A)としては、例えば、鱗片黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、酸処理黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、炭素繊維フレーク等の鱗片状、楕球状又は棒状の黒鉛粒子を用いることができる。
[0043] 特に、有機高分子化合物(B)と混合した際に鱗片状の黒鉛粒子になり易いものが好ましい。具体的には鱗片黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末の鱗片状黒鉛粒子が配向させ易ぐ粒子間接触も保ち易ぐ高い熱伝導性を得易いためより好ましい。
(中略)
[0045] 黒鉛粒子(A)の含有量は特に制限されないが、組成物全体積の10体積%?50体積%であることが好ましく30体積%?45体積%であることがより好ましい。前記黒鉛粒子(A)の含有量が10体積%未満である場合は、熱伝導性が低下する傾向があり、50体積%を超える場合は、充分な柔軟性や密着性が得難くなる傾向がある。なお、本明細書における黒鉛粒子(A)の含有量(体積%)は次式により求めた値である。
(中略)
[0047] 本発明で用いられる有機高分子化合物(B)としては、例えば、アクリル酸プチル、アクリル酸2-エチルへキシル等を主要な原料成分としたポリ(メタ)アクリル酸エステ系高分子化合物(所謂アクリルゴム)、ポリジメチルシロキサン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂シリコーン樹脂)、ポリイソプレン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂イソプレンゴム、天然ゴム)、クロロプレンを主要な原料成分とした高分子化合物(所謂クロロプレンゴム)、ポリブタジエン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂ブタジエンゴム)等、一般に「ゴム」と総称される柔軟な有機高分子化合物が挙げられる。これらの中でも、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、特にアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルへキシルのいずれか又は両方を共重合成分として含み、その共重合組成中の50質量%以上であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が、高い柔軟性を得易く、化学的安定性、加工性に優れ、粘着性をコントロールし易く、かつ比較的廉価であるため好ましい。また、柔軟性を損なわない範囲で架橋構造を含ませると長期間の密着保持性と膜強度の点で好ましい。例えば、-OH基を有するポリマに複数のイソシアネート基を持つ化合物を反応させることで架橋構造を含ませることができる。
[0048] 有機高分子化合物(B)の含有量は特に制限されないが、組成物全体積に対して好ましくは10体積%?70体積%、より好ましくは20体積%?50体積%である。
(中略)
[0054] 本発明の熱伝導シートは、前記黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が熱伝導シートの厚み方向に配向しており、この配向がないと、充分な熱伝導性が得られない。また、前記黒鉛粒子(A)が鱗片状であり、かつその面方向が熱伝導シートの厚み方向及び表裏平面における1方向に配向していると表裏平面において熱伝導率と熱膨張特性に異方性を持つので、シートの側方向への遮熱性/放熱性のコントロールや熱膨張を考慮した余裕空間の設計がしゃすい特徴を付与できるため、好ましい。
(中略)
[0057] 本発明において「熱伝導シートの厚み方向に配向」とは、まず熱伝導シートを正八角形に切った各辺の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、いずれか1辺の断面に関し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から黒鉛粒子の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度(90度以上の場合は補角を採用する)を測定し、その平均値が60度?90度の範囲になる状態をいう。また、「表裏平面における1方向に配向」とは、熱伝導シートの表面又は表面に平行な断面をSEMを用いて観察し、長軸方向がおおむね1方向に整列しており、任意の50個の黒鉛粒子について長軸方向の向きのばらつき角度(90度以上の場合は補角を採用する)を測定し、その平均値が30度以内の範囲になる状態をいう。
(中略)
[0059] また、本発明の熱伝導シートは、70℃におけるアスカーC硬度が60以下、好ましくは40以下である。前記70℃におけるアスカーC硬度が60を超える場合は、発熱体である半導体パッケージやディスプレイ等の電子基材に充分に密着できないため、熱をうまく伝達できなくなったり、熱応力の緩和が不充分になったりする傾向がある。
(中略)
[0061] なお、本発明において「70℃におけるァスカーC硬度」とは、厚み5mm以上の熱伝導シートを、ホットプレート上で表面温度計で測定される温度が70℃になるように加熱し、アスカー硬度計C型で測定した値である。
(中略)
[0068] 本発明の熱伝導シートの製造方法は、一次シートを作製する工程、前記一次シートを積層又は捲回して成形体を得る工程、前記成形体をスライスする工程とを含む。
[0069] 本発明の熱伝導シートの製造方法は、まず、鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を、前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製する。
[0070] 前記黒鉛粒子(A)と有機高分子化合物(B)とを含有する組成物は、両者を混合することにより得られるが、混合方法は特に制限されない。例えば、前記有機高分子化合物(B)を溶剤に溶かしておいて、そこに前記黒鉛粒子(A)及び他の成分を加え、攪拌した後に乾燥する方法又はロール混練、ニーダーによる混合、ブラベンダによる混合、押出機による混合等を用いることができる。
[0071] 次いで前記組成物を、前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製する。
[0072] 前記組成物を成形する際の厚みは、前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍以下、好ましくは2倍?0.2倍とする。前記厚みが前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍を超える場合は、黒鉛粒子(A)の配向が不充分になり、結果として、最終的に得られる熱伝導シートの熱伝導性が悪くなる傾向がある。
(中略)
[0074] 前記黒鉛粒子(A)がシートの主たる面に関してほぼ平行な方向に配向した状態とは、前記黒鉛粒子(A)がシートの主たる面に関して寝ているように配向した状態をいう。シート面内での黒鉛粒子(A)の向きは、前記組成物を成形する際に、組成物の流れる方向を調整することによってコントロールされる。つまり、組成物を圧延ロールに通す方向、組成物を押出す方向、組成物を塗工する方向、組成物をプレスする方向を調整することで、黒鉛粒子(A)の向きがコントロールされる。前記黒鉛粒子(A)は、基本的に異方性を有する粒子であるため、組成物を圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工することにより、通常、黒鉛粒子(A)の向きは揃って配置される。
(中略)
[0076] 次いで、前記一次シートを積層又は、捲回して成形体を得る。一次シートを積層する方法は特に限定されず、例えば、複数枚の一次シートを積層する方法、一次シートを折り畳む方法などが挙げられる。積層する際は、シート面内での黒鉛粒子(A)の向きを揃えて積層する。積層する際の一次シートの形状は、特に限定されず、例えば矩形状の一次シートを積層した場合は角柱状の成形体が得られ、円形状の一次シ一トを積層した場合は円柱状の成形体が得られる。
(中略)
[0078] 一次シートを積層する際の圧力や捲回する際の引っ張り力は、この後の工程の一次シート面から出る法線に対し0度?30度の角度でスライスする都合上、スライス面がつぶれて所要面積を下回らない程度に弱くかつシート間がうまく接着する程度に強くなるよう調整される。通常はこの調整で積層面又は捲回面間の接着力を充分に得られるが、不足する場合は溶剤又は接着剤等を薄く一次シートに塗布した上で積層又は捲回を行ってもよい。また、積層又は捲回は適宜加熱下に行ってもよい。
[0079] 次いで、前記成形体を一次シート面から出る法線に対し0度?30度の角度で、好ましくは0度?15度の角度でスライスして所定の厚さを持った熱伝導シートを得る。前記スライスする角度が30度を越える場合は熱伝導率が低下する傾向がある。前記成形体が積層体である場合は、一次シートの積層方向とは垂直もしくはほぼ垂直となるようにスライスすればよい。また、前記成形体が捲回体である場合は捲回の軸に対して垂直もしくはほぼ垂直となるようにスライスすればよい。また、円形状の一次シートを積層した円柱状の成形体の場合は、上記角度の範囲内でかつら剥きのようにスライスしてもよい。
(中略)
[0084] 熱伝導シートの厚さは、用途等により適宜設定されるが、好ましくは0.05?3mm、より好ましくは0.1?1mmである。前記熱伝導シートの厚さが0.05mm未満である場合はシートとしての取り扱いが難しくなる傾向にあり、3mmを超える場合は放熱効果が低くなる傾向にある。前記成形体のスライス幅が熱伝導シートの厚さとなり、スライス面が熱伝導シートにおける発熱体や放熱体との当接面となる。」

(2) 甲第1号証の上記記載から次のことがいえる。

ア 上記段落[0001]によれば、甲第1号証には、熱伝導シートが記載されている。そして、上記段落[0069]、[0076]、[0079]によれば、熱伝導シートは、鱗片状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を、圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製し、次いで、複数枚の前記一次シートを積層して成形体を得て、成形体を一次シート面から出る法線に対し0度の角度でスライスすることにより得られるものである。
よって、甲第1号証には、鱗片状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を、圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製し、次いで、複数枚の前記一次シートを積層して成形体を得て、成形体を一次シート面から出る法線に対し0度の角度でスライスすることにより得られる熱伝導シートが記載されているといえる。

イ 上記段落[0042]によれば、黒鉛粒子(A)として、薄片化黒鉛粉末の鱗片状黒鉛粒子が用いられ、また、段落[0047]によれば、有機高分子化合物(B)として、アクリルゴム、シリコーン樹脂、又はブタジエンゴムが用いられる。

ウ 上記段落[0054]によれば、熱伝導シートは、黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向が熱伝導シートの厚み方向に配向しており、段落[0057]によれば、「熱伝導シートの厚み方向に配向」とは、黒鉛粒子の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度の平均値が60度?90度の範囲になる状態である。
そして、鱗片状黒鉛粒子の面方向とは、鱗片状黒鉛粒子の最大径の方向、即ち鱗片状黒鉛粒子の長軸方向であることは技術常識である。
よって、甲第1号証に記載の熱伝導シートは、黒鉛粒子(A)の鱗片の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度の平均値が60度?90度の範囲になる状態で配向されているといえる。

エ 上記段落[0059]によれば、熱伝導シートは、70℃におけるアスカーC硬度が40以下である。

オ 上記段落[0084]によれば、熱伝導シートのスライス面は発熱体や放熱体との当接面となる。

(3) 上記アないしオによれば、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「鱗片状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を、圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製し、次いで、複数枚の前記一次シートを積層して成形体を得て、成形体を一次シート面から出る法線に対し0度の角度でスライスすることにより得られる熱伝導シートであって、
黒鉛粒子(A)として、薄片化黒鉛粉末の鱗片状黒鉛粒子が用いられ、また、有機高分子化合物(B)として、アクリルゴム、シリコーン樹脂、又はブタジエンゴムが用いられ、
黒鉛粒子(A)の鱗片の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度の平均値が60度?90度の範囲になる状態で配向されており、
70℃におけるアスカーC硬度が40以下であり、
スライス面は発熱体や放熱体との当接面となる、
熱伝導シート。」

2 甲第2号証(特開2007-56067号公報)
(1)甲第2号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【0001】
本発明は、主に電気・電子部品で使用される電気絶縁性難燃性熱伝導材およびそれをシート状に成形した熱伝導シートに関する。
(中略)
【0024】
本発明の電気絶縁性難燃性伝導材は、液状アクリルゴムを含むことが必須である。液状アクリルゴムは、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むモノマーを重合してなるものが主成分であり、高分子樹脂材料、その中でも特にアクリルゴムとの相溶性が良好なため高温暴露時にブリードアウトが発生することなく、柔軟性を向上させることができる。」

(2)上記記載によれば、甲第2号証には、次の技術(以下、「甲第2号証に記載された技術」という。)が記載されているといえる。

「電気絶縁性難燃性熱伝導材をシート状に成形した熱伝導シートにおいて、電気絶縁性難燃性伝導材は、液状アクリルゴムを含むことにより柔軟性を向上させること。」

3 甲第3号証(特開2011-162642号公報)
(1)甲第3号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【0067】
(実施例1)
黒鉛粒子(A)として鱗片状の膨張黒鉛粒子(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF-L、質量平均径:450μm)555g、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(B’)としてアクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(共重合質量比82/10/3/5、ナガセケムテックス製、重量平均分子量:53万、Tg:-39℃)145g、硬化剤(b)としてネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス製、EX-211)9.7g、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C)として、ARUFONUP-1170(東亞合成製、液状、重量平均分子量:8000、Tg:-57℃)103g、難燃剤としてビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(りん酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:CR-741)218gをポリエチレン袋中で予備混合して組成物を得た。
【0068】
この組成物を温度80℃に設定したロール混練機(関西ロール(株)製、LABOLATRYMILL(8×20Tロール))を用いて混練し、混練シートを得た。
この混練シートの一部を直径1cmの球状に丸め、小型プレスで0.5mm厚のシート状にした。これを20枚に切り分けたものを積層して再度同様にプレスした。この操作を更にもう1回繰り返して得たシートの表面をX線回折により分析した。2θ=77°付近に黒鉛の(110)面に対応するピークが確認できず、用いた膨張黒鉛粉末(HGF-L)が「結晶中の6員環面が鱗片の面方向に配向している」ことを確認できた。
【0069】
得られた混練シートを2?3mm角程度の大きさに刻んでペレット状にした。これを、(株)東洋精機製作所製、ラボプラストミルMODEL20C200を用い、100℃で幅60mm厚み1mmのシート状に押し出し一次シートを得た。
上記で得られた混練シート及び一次シートにおいて、成分(B’)と硬化剤(b)が硬化していないことを確認するため、予め、混練シート及び一次シートの一部分(0.2g程度)を切り取り、その10?50倍量の酢酸n-ブチルの入ったサンプル瓶に投入、振り混ぜて樹脂が溶解することを目視確認する方法により、成分(B’)と硬化剤(b)が未反応であることを確認した。
【0070】
弾性率の変化が15%以下となるような加熱条件を決定するために、上記一次シートを少量サンプリングし、プレスして0.5mm厚のサンプルシートにし、これを1cm×5cmに打ち抜き、サンプルシートを温度・時間(1時間間隔)を振って硬化させた。その結果、170℃で6時間加熱した硬化サンプルシートと5時間加熱した硬化サンプルシートの、温度25±1℃の環境に1時間静置した後の弾性率の差は3%の変化であった。よって、170℃、6時間を加熱(硬化)条件とした。
【0071】
この一次シートを4cm×20cmの大きさにカッターで切り出し、40枚積層し、手で軽く押さえてシート間を接着させ、さらに3kgの重石を載せた上170℃の熱風乾燥機で6時間処理してシート間を良く接着させ、かつ組成物中でポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(B’)と硬化剤(b)とを反応させてポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の架橋硬化物(B)に変成させ、厚さ4cmの成形体を得た。
次いで、この成形体をドライアイスで-20℃に冷却した後、4cm×20cmの積層断面を超仕上げカンナ盤((株)丸仲鐵工所製商品名:スーパーメカ(スリット部からの刀部の突出長さ:0.19mm))を用いてスライスし(一次シート面から出る法線に対し0度の角度でスライス)、縦4cm×横20cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(I)を得た。
【0072】
熱伝導シート(I)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定しその平均値を求めたところ90度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0073】
熱伝導シート(I)を2cm角に打ち抜いたものを高さ5mm以上になるまで積層した上、25℃においてアスカー硬度計C型で測定したところ、アスカーC硬度は60と柔軟なゴムシートであることが確認できた。
【0074】
この熱伝導シート(I)の熱伝導率を測定したところ、70W/mKと良好な値を示した。また、熱伝導シート(I)のトランジスタと銅ヒートシンクに対する密着性も良好であった。
【0075】
この熱伝導シート(I)のタック力を測定したところ、25gfと仮固定に充分な値を示した。
この熱伝導シート(I)の引張強度を測定したところ、0.32MPaとハンドリングに充分な値を示した。
【0076】
次に、この熱伝導シート(I)の耐熱性を確認するため、熱風乾燥機を用いて170℃で3h熱処理した。熱処理後のタック力を測定したところ、22gfと充分にタック力を保持していた。また、熱処理前後の引張弾性率の変化は5%と少なく耐熱性が高いことが確認できた。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C)として、ARUFON UP-1080(東亞合成(株)製、液状、重量平均分子量:6000、Tg:-61℃)103gを用いた以外は、実施例1と同様に操作し、熱伝導シート(II)を得た。
【0078】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(II)の性状を求めた。熱伝導シート(II)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ88度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。アスカーC硬度は62と柔軟なゴムシートであることが確認できた。
(中略)
【0096】
【表1】

【0097】
(比較例1)
実施例1においてポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C)を配合しないこととし、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(B’)の量を242g、硬化剤(b)の量を16.2gとした以外は同様にして熱伝導シート(V)を得た。
なお、弾性率の変化が15%以下となるような加熱条件を決定するために実施例1と同様にサンプルシートを作製して硬化させ、加熱条件を170℃、6時間に決定している(弾性率変化が2%となる条件)。
【0098】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(V)の性状を求めた。熱伝導シート(V)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ89度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。アスカーC硬度は65と柔軟なゴムシートであることが確認できた。
【0099】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(V)の熱伝導率を測定したところ、66W/mKと良好な値を示した。また、熱伝導シート(V)のトランジスタと銅ヒートシンクに対する密着性も良好であった。
【0100】
この熱伝導シート(V)のタック力を測定したところ、10gfと仮固定に不充分な値であった。
この熱伝導シート(V)の引張強度を測定したところ、0.35MPaとハンドリングに充分な値を示した。
【0101】
この熱伝導シート(V)の熱処理後のタック力を測定したところ、6gfと一層不充分になった。なお、熱処理前後の引張弾性率の変化は6%と少なく耐熱性は高いことが確認できた。結果を表2に示す。
(中略)
【0138】
【表2】



(2)上記記載によれば、甲第3号証には、実施例1として次の技術(以下、「甲第3号証に記載された技術」という。)が記載されているといえる。

「黒鉛粒子(A)として鱗片状の膨張黒鉛粒子(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF-L、質量平均径:450μm)555g、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(B’)としてアクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(共重合質量比82/10/3/5、ナガセケムテックス製、重量平均分子量:53万、Tg:-39℃)145g、硬化剤(b)としてネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス製、EX-211)9.7g、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C)として、ARUFONUP-1170(東亞合成製、液状、重量平均分子量:8000、Tg:-57℃)103g、難燃剤としてビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(りん酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:CR-741)218gをポリエチレン袋中で予備混合した組成物を含む一次シートを得て、この一次シートを40枚積層し、接着させ、組成物中でポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(B’)と硬化剤(b)とを反応させてポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物の架橋硬化物(B)に変成させ、厚さ4cmの成形体を得た後、スライスし(一次シート面から出る法線に対し0度の角度でスライス)、縦4cm×横20cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(I)を得ること。」

4 甲第4号証(国際公開第2013/099089号)
(1)甲第4号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「[0014] 本発明の異方性熱伝導組成物は、鱗片状黒鉛粒子と、これを分散させる樹脂成分とを含む。このような組成物にせん断力や圧力を印加すると、鱗片状黒鉛粒子のベーサル面は一方向に配向する性質を有する。そして、鱗片状黒鉛粒子が配向することにより、組成物は当該一方向において、より大きな熱伝導性を示すようになる。組成物をシートの形状に成形すれば、鱗片状黒鉛粒子のベーサル面はシートの面方向に配向し、シートの面方向において優れた熱伝導性を発現する。このようなシートは、発熱を伴う電子部品を搭載した実装基板等において、高温部と低温部とを接続する熱伝導経路を形成する放熱シートとして好適である。
[0015] ここで、鱗片状黒鉛粒子のベーサル面での最大径をa、ベーサル面に直交する厚みをcとした場合、鱗片状黒鉛粒子の厚さcに対する最大径a(以下、長径a)の比:a/cは、平均値で30以上である。長径a、は1μm以上、30μm以下であることが好ましい。また、最大径aと直交するベーサル面での最大径(以下、短径)をbとした場合、短径bに対する長径aの比:a/bは、1以上、20以下であることが好ましい。鱗片状黒鉛粒子がこのような特有の形状を有する場合、鱗片状黒鉛粒子が一方向に配向したときには粒子同士が接触する確率が高くなり、かつ接触箇所における粒子同士の接触面積も大きくなると考えられる。従って、熱伝導経路を効率よく形成できると考えられる。また、鱗片状黒鉛粒子が上記のような形状を有することで、組成物をシートの形状に成形しやすくなる。
(中略)
[0026](鱗片状黒鉛粒子の形状)
鱗片状黒鉛粒子は、例えば図1のような形状を有し、上述のように、a/c比が30以上であるという条件を満たす必要がある。
a/c比が30未満では、黒鉛粒子間の接触箇所が減少し、異方性熱伝導特性を向上させる効果が小さくなる。鱗片状黒鉛粒子同士の接触箇所の数をより増大させるとともに、当該接触箇所における粒子同士の接触面積をより大きくする観点から、a/c比は80以上がより好ましい。一方、樹脂成分中での形状保持の観点から、a/c比は200以下が好ましく、150以下がより好ましい。
(中略)
[0071]

[0072]



図1




(2)上記記載によれば、甲第4号証には、次の技術(以下、「甲第4号証に記載された技術」という。)が記載されているといえる。

「鱗片状黒鉛粒子と、これを分散させる樹脂成分とを含む異方性熱伝導組成物のシートにおいて、鱗片状黒鉛粒子のベーサル面での最大径をa、ベーサル面に直交する厚みをcとした場合、鱗片状黒鉛粒子の厚さcに対する最大径a(以下、長径a)の比:a/cを30以上150以下とすること。」

5 甲第5号証(特開2015-092534号公報)
(1)甲第5号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【0008】
以下、本発明について実施形態を用いてより詳細に説明する。
[シリコーン熱伝導性シート]
本発明のシリコーン熱伝導性シートは、熱伝導性充填材が混合されたシリコーン硬化物から形成されたものであって、厚さ方向に貫通した複数の孔が設けられるものである。
本発明のシリコーン硬化物は、通常、シリコーン成分と、熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性シリコーン組成物の硬化物である。
以下、本発明のシリコーン熱伝導性シートについてより詳細に説明する。
(中略)
【0027】
<圧縮強度>
シリコーン熱伝導性シートの25%圧縮強度は、例えば200kPa以下であればよいが、150kPa以下であることが好ましく、120kPa以下であることがより好ましい。
また、シリコーン熱伝導性シートの50%圧縮強度は、例えば400kPa以下であればよいが、350kPaであることが好ましく、300kPa以下であることがさらに好ましい。
シリコーン熱伝導性シートは、25%圧縮強度が150kPa以下となるとともに、50%圧縮強度が350kPa以下となることで、その柔軟性に優れ、かつ圧縮率が大きくなっても面圧縮に対する反力が小さくなり、放熱シートとして小型の電子機器において好適に使用されるようになる。また、落下した場合には、電子部品等に付与される衝撃を吸収することも可能になる。また、圧縮強度の下限値は、特に限定されないが、シリコーン熱伝導性シートの25%圧縮強度は、好ましくは10kPa以上、より好ましくは40kPa以上である。また、シリコーン熱伝導性シートの50%圧縮強度は、好ましくは100kPa以上、より好ましくは180kPa以上である。」

(2)上記記載によれば、甲第5号証には、次の技術(以下、「甲第5号証に記載された技術」という。)が記載されているといえる。

「熱伝導性充填材が混合されたシリコーン硬化物から形成され、厚さ方向に貫通した複数の孔が設けられるシリコーン熱伝導性シートにおいて、25%圧縮強度を150kPa以下とするとともに、50%圧縮強度を350kPa以下とすること。」

6 甲第6号証(特開2009-55021号公報)
(1)甲第6号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【0020】
すなわち、本発明の熱伝導シートは、異方性黒鉛粒子を含む黒鉛層を有する熱伝導シートであって、前記黒鉛層は、前記熱伝導シートの面に対して一方向に二層以上で積層されており、前記各々の黒鉛層間は樹脂層で結合され、前記樹脂層全体の空隙の割合が30体積%以下であり、前記異方性黒鉛粒子は前記黒鉛層の面方向に対して配向しており、且つ前記黒鉛層は前記熱伝導シートの厚み方向に配向していることを特徴としている。これにより、面方向の伝導率に対し、厚み方向の伝導率が高い熱伝導シートを得ることができる。
(中略)
【0069】
(実施例1)
一次シートとして、プレス機でプレスした後の厚さが0.9mm及びかさ密度が0.18g/cm^(3)の膨張黒鉛シート(日立化成工業株式会社製、商品名:カーボフィット(登録商標))の片面に、ジヒドロベンゾオキサジン環を含む粉末の付加反応型熱硬化性樹脂(日立化成工業株式会社製、商品名:HR1060)を静電塗装機で6g/m^(2)付着させ、90℃のトンネル炉を通過させて当該樹脂を溶融させ、膨張黒鉛シートの表面を熱硬化性樹脂でコーティングした。
【0070】
次いで、ロール機を用いて熱硬化性樹脂でコーティングした膨張黒鉛シートを圧縮し、厚さが0.12mmの寸法に仕上げ、かさ密度を1.4g/cm^(3)の二次シートを得た。
【0071】
この二次シートを300枚重ねて、面圧5MPa、温度200℃、20分の条件で熱圧着して、厚さ35mmの積層体を作製した。得られた積層体よりバンドソーを用いて50×50mmのブロックを切り出し、さらにメタルソーを用いて、膨張黒鉛シートが得られるシートの厚み方向に対して0°で配向するように(積層された面に対して90°の角度で)切断した。得られた熱伝導シートの厚さは0.50mmであった。なお、得られたシートの樹脂層の樹脂含有量は、5体積%であった。
(中略)
【0080】
(実施例3)
樹脂層として、厚さが0.05mmのアクリル系両面粘着テープ(日立化成ポリマー株式会社製、商品名:ハイボン)を、プレス機でプレスした後の、厚さが0.12mm及びかさ密度が1.4g/cm^(3)の一次シートである膨張黒鉛シート(日立化成工業株式会社製、商品名:カーボフィット(登録商標))に貼り付け二次シートを得た。この二次シートを、手で加圧して300枚積層した。得られた積層体をドライアイスで-20°に冷却した後に、実施例1と同様に切断した熱伝導シートを作製し、同様の測定を行った。得られたシートの樹脂層の樹脂含有量は、40体積%であった。結果を表1に示す。
(中略)
【0082】
(実施例5)
実施例1で作製した熱伝導シートの片面の一部(シート面積の20%)にアクリル粘着剤を張り合わせ、アクリル粘着剤の厚み0.015mmのシートを得、実施例1と同様の評価を行った。なお、得られたシートの樹脂層の樹脂含有量は、6.5体積%であった。」

(2)上記記載によれば、甲第6号証には、次の技術(以下、「甲第6号証に記載された技術」という。)が記載されているといえる。

「熱伝導シートは、異方性黒鉛粒子を含む黒鉛層を有する熱伝導シートであって、前記黒鉛層は、前記熱伝導シートの面に対して一方向に二層以上で積層されており、前記各々の黒鉛層間は樹脂層で結合され、樹脂層として、付加反応型熱硬化性樹脂、アクリル系両面粘着テープ又はアクリル粘着剤を用いること。」

7 甲第7号証(国際公開第2017/145954号)
(1)本件特許の優先日後に国際公開された甲第7号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「[0102](実施例1)
<組成物の調製>
繊維状炭素材料としての繊維状の炭素ナノ構造体Aの易分散性集合体を0.1質量部と、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-50」、平均粒子径:250μm)を85質量部と、樹脂としての常温固体の熱可塑性フッ素ゴム(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG?704BP」)40質量部および常温液体の熱可塑性フッ素ゴム(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG?101」)45質量部と、可塑剤としてのセバシン酸エステル(大八化学工業株式会社製、商品名「DOS」)5質量部と、溶媒としての酢酸エチル100部の存在下においてホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM-5LVT型」)を用いて5分攪拌混合した。得られた混合物を30分真空脱泡し、脱泡と同時に酢酸エチルの除去を行って、繊維状の炭素ナノ構造体A(SGCNT)と、膨張化黒鉛とを含む組成物を得た。そして、得られた組成物を解砕機に投入し、10秒間解砕した。
[0103]<プレ熱伝導シートの作製>
次いで、解砕した組成物5gを、サンドブラスト処理を施した厚さ50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形し、厚さ0.5mmのプレ熱伝導シートを得た。
<積層体の作製>
得られたプレ熱伝導シートを6cm×6cm×500μmに裁断し厚み方向に120枚両面テープで積層し、厚さ約6cmの積層体を得た。
[0104]<熱伝導シートの作製>
その後、プレ熱伝導シートの積層体の積層断面を、0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」を用いて、積層方向に対して0度の角度でスライス(換言すれば、積層されたプレ熱伝導シートの主面の法線方向にスライス)し、縦6cm×横6cm×厚さ500μmの熱伝導シートを得た。木工用スライサーのナイフは、2枚の片刃が、切刃の反対側同士で接触し、表刃の刃先の最先端が裏刃の刃先の最先端よりも0.5mm高くスリット部からの突出長さ0.11mmに配置され、表刃の刃角21°である2枚刃のものを用いた。
得られた熱伝導シートについて、上記評価方法に従って、アスカーC硬度、熱抵抗値、ならびにタックを測定した。結果を表1に示す。
[0105](実施例2)
スライスの厚みを250μmとした以外は実施例1と同様にして熱伝導シートを製造し、測定を行った。結果を表1に示す。
[0106](実施例3)
粒子状炭素材料の量を130質量部に変更した以外は実施例1と同様にして熱伝導シートを製造し、測定を行った。結果を表1に示す。
[0107](実施例4)
粒子状炭素材料の量を60質量部に変更した以外は実施例1と同様にして熱伝導シートを製造し、測定を行った。結果を表1に示す。
[0108](実施例5)
繊維状炭素材料としての炭素ナノ構造体Aの易分散性集合体を加えなかった以外は実施例1と同様にして熱伝導シートを製造し、測定を行った。結果を表1に示す。
[0109](実施例6)
常温固体の熱可塑性フッ素ゴム(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG?704BP」)の量を60質量部に変更し、常温液体の熱可塑性フッ素ゴム(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG?101」)の量を25質量部に変更した以外は実施例1と同様にして熱伝導シートを製造し、測定を行った。結果を表1に示す。
[0110](実施例7)
常温固体の熱可塑性フッ素ゴム(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG?704BP」)の量を20質量部に変更し、常温液体の熱可塑性フッ素ゴム(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG?101」)の量を65質量部に変更した以外は実施例1と同様にして熱伝導シートを製造し、測定を行った。結果を表1に示す。」
[0111](比較例1)
粒子状炭素材料の量を130質量部に変更し、樹脂として常温固体の熱可塑性フッ素ゴム(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG?912」)80質量部および常温液体の熱可塑性アクリル樹脂(広野化学工業株式会社製、商品名「ユーロック」)10質量部を使用し、可塑剤としてリン酸エステル(大八化学工業株式会社製、商品名「TCP」)10質量部を用いた以外は実施例1と同様にして熱伝導シートを製造し、測定を行った。結果を表1に示す。」

表1




(2)甲第7号証の表1から次のことがいえる。
表1によれば、実施例1の25℃でのアスカーC硬度は75、70℃でのアスカーC硬度は63であり、その差は12である。また、実施例2の25℃でのアスカーC硬度は75、70℃でのアスカーC硬度は63であり、その差は12である。また、実施例3の25℃でのアスカーC硬度は77、70℃でのアスカーC硬度は65であり、その差は12である。実施例4の25℃でのアスカーC硬度は71、70℃でのアスカーC硬度は61であり、その差は10である。また、実施例6の25℃でのアスカーC硬度は76、70℃でのアスカーC硬度は64であり、その差は12である。また、実施例7の25℃でのアスカーC硬度は70、70℃でのアスカーC硬度は59であり、その差は11である。
してみると、実施例1ないし4、6、7の熱伝導シートにおいて、25℃でのアスカーC硬度と70℃でのアスカーC硬度の差は10ないし12程度である。

(3)上記記載によれば、甲第7号証には、実施例1ないし4、6、7として次の技術(以下、「甲第7号証に記載された技術」という。)が記載されているといえる。
「繊維状炭素材料としての炭素ナノ構造体Aと、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛と、樹脂としての常温固体の熱可塑性フッ素ゴムおよび常温液体の熱可塑性フッ素ゴムと、可塑剤としてのセバシン酸エステルとを含む組成物を圧延成形しプレ熱伝導シートを得て、得られたプレ熱伝導シートを裁断し厚み方向に積層し積層体を得て、スライサーを用いて、積層方向に対して0度の角度でスライスして得られた熱伝導シートにおいて、25℃でのアスカーC硬度と70℃でのアスカーC硬度の差が10ないし12程度であること。」

第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「鱗片状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を、圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シート」において、「黒鉛粒子(A)として、薄片化黒鉛粉末の鱗片状黒鉛粒子が用いられ、また、有機高分子化合物(B)として、アクリルゴム、シリコーン樹脂、又はブタジエンゴムが用いられ」る。そして、甲1発明では、「一次シート」が「積層」されて「成形体」が得られることから、甲1発明の「一次シート」は、「成形体」を得るための、「薄片化黒鉛粉末の鱗片状黒鉛粒子」を含有する「アクリルゴム、シリコーン樹脂、又はブタジエンゴム」からなる1つの層といえる。
ここで、本件発明1を引用する本件発明12に「前記熱伝導性板状フィラーが、窒化ホウ素、薄片化黒鉛の少なくとも何れかである」と記載されていることから、本件発明1の「熱伝導性板状フィラー」は薄片化黒鉛を含む。また、本件特許明細書の段落【0016】に「実施形態1では、全ての樹脂層2が、熱伝導性板状フィラー6を含有する熱伝導性樹脂層7である。熱伝導性樹脂層7は、樹脂8中に熱伝導性板状フィラー6を分散させた構造を有する樹脂層2である。」と記載され、同段落【0017】に「樹脂8としては、特に限定されず、・・(中略)・・様々な樹脂を用いることができる。好ましくは、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン系樹脂、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーン樹脂、ジエン系ゴム、及び水素化ジエン系ゴムからなる群から選択された少なくとも一種が用いられる。」と記載されていることから、本件発明1の「熱伝導性樹脂層」はアクリルゴム、シリコーン樹脂、又はジエン系ゴムを含む。
してみると、本件発明1の「熱伝導性板状フィラーを含有する熱伝導性樹脂層を含む樹脂層」は、「薄片化黒鉛を含有するアクリルゴム、シリコーン樹脂、又はジエン系ゴムを含む樹脂層」を含むから、甲1発明の「薄片化黒鉛粉末の鱗片状黒鉛粒子」を含有する「アクリルゴム、シリコーン樹脂、又はブタジエンゴム」からなる1つの層である「一次シート」は、本件発明1の「熱伝導性板状フィラーを含有する熱伝導性樹脂層を含む樹脂層」に相当する。
さらに、甲1発明の「成形体」は「複数枚の前記一次シートを積層して」得られ、甲1発明の「熱伝導シート」は「成形体」をスライスすることにより得られるものであるから、甲1発明の「熱伝導シート」は、「一次シート」を「複数枚」「積層」した構造を有しているといえる。
そして、甲1発明の「発熱体や放熱体との当接面」は、「成形体」を「一次シート面から出る法線に対し0度の角度でスライス」することにより得られた「スライス面」であることから、「成形体」の積層面に対して垂直な面であることは明らかである。
したがって、引用発明の「薄片化黒鉛粉末の鱗片状黒鉛粒子」を含有する「アクリルゴム、シリコーン樹脂、又はブタジエンゴム」からなる1つの層である「一次シート」を「複数枚」「積層」した構造を有し、その積層面に対して垂直な面が「発熱体や放熱体との当接面」である「熱伝導シート」は、本件発明1の「熱伝導性板状フィラーを含有する熱伝導性樹脂層を含む樹脂層を複数積層した構造を有し、その積層面に対する垂直面をシート面とした熱伝導シート」に相当する。

(イ)本件発明1は、「樹脂層が、室温で液状の樹脂を含」むのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点で相違する。

(ウ)甲1発明の「黒鉛粒子(A)の鱗片の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度の平均値が60度?90度の範囲になる状態で配向されて」いることは、本件発明1の「熱伝導性板状フィラーの長軸が、前記シート面に対して60°以上の角度で配向」することに相当する。

(エ)甲1発明の「70℃におけるアスカーC硬度が40以下であ」ことと本件発明1とは、「アスカーC硬度が所定の値以下である」点で共通する。
ただし、アスカーC硬度に関し、本件発明1は「23℃」におけるアスカーC硬度が「50」以下であるのに対し、甲1発明は「70℃」におけるアスカーC硬度が「40」以下である点で相違する。

上記(ア)ないし(エ)より、本件発明1と甲1発明との一致点および相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「熱伝導性板状フィラーを含有する熱伝導性樹脂層を含む樹脂層を複数積層した構造を有し、その積層面に対する垂直面をシート面とした熱伝導シートであって、前記熱伝導性板状フィラーの長軸が、前記シート面に対して60°以上の角度で配向しており、アスカーC硬度が所定の値以下である熱伝導シート。」

(相違点1)
樹脂層に関し、本件発明1は「常温で液状の樹脂を含」むのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点。
(相違点2)
アスカーC硬度に関し、本件発明1は「23℃」におけるアスカーC硬度が「50」以下であるのに対し、甲1発明は「70℃」におけるアスカーC硬度が「40」以下である点。

(2)相違点についての判断
ア(相違点1)について
甲1号証の段落[0006]、[0008]、[0009]によれば、甲1発明は、より高い柔軟性とより高い熱伝導性を両立できる熱伝導シートが未だ得られていないという課題を解決するためになされたものであって、甲1発明の「有機高分子化合物(B)」として、「アクリルゴム、シリコーン樹脂、又はブタジエンゴム」が用いられる。そして、甲第2号証には「電気絶縁性難燃性熱伝導材をシート状に成形した熱伝導シートにおいて、電気絶縁性難燃性伝導材は、液状アクリルゴムを含むことにより柔軟性を向上させること」(甲第2号証に記載された技術、「第4 2 (2)」を参照)が記載されていることから、甲1発明において柔軟性を高めるために甲第2号証に記載された技術を採用し、甲1発明の「有機高分子化合物」に「液状アクリルゴム」を含ませることは当業者が容易になし得ることである。

イ(相違点2)について
(ア)甲第7号証には、「繊維状炭素材料としての炭素ナノ構造体Aと、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛と、樹脂としての常温固体の熱可塑性フッ素ゴムおよび常温液体の熱可塑性フッ素ゴムと、可塑剤としてのセバシン酸エステルとを含む組成物を圧延成形しプレ熱伝導シートを得て、得られたプレ熱伝導シートを裁断し厚み方向に積層し積層体を得て、スライサーを用いて、積層方向に対して0度の角度でスライスして得られた熱伝導シートにおいて、25℃でのアスカーC硬度と70℃でのアスカーC硬度の差が10ないし12程度であること」(甲第7号証に記載された技術、「第4 7(2)」を参照)が記載されている。
しかし、甲第7号証(平成29年8月31日国際公開)は、本願優先日(平成28年8月8日、平成29年3月2日)前に公開されたものではないことから、甲第7号証は、相違点に係る構成の容易想到性の判断のための証拠として適格性を欠くものである。
さらに、甲第7号証に記載された技術は、「炭素ナノ構造体A、膨張化黒鉛、熱可塑性フッ素ゴム、常温液体の熱可塑性フッ素ゴム、セバシン酸エステルを含む組成物」を前提とした熱伝導シートにおいて、70℃と25℃におけるアスカーC硬度の差が10ないし12程度であることを示したものであって、いかなる組成の熱伝導シートにおいても70℃と25℃におけるアスカーC硬度の差が10ないし12程度となることを示すものではなく、甲第7号証に記載された技術の組成物とは異なる組成物からなる熱伝導シートにおいても同様な差が生じるといえる理由は見当たらない。

(イ)また、甲第1号証(段落[0059]、[0061]を参照)には、「アスカーC硬度」に関し、「70℃におけるアスカーC硬度が60を超える場合は、発熱体である半導体パッケージやディスプレイ等の電子基材に充分に密着できないため、熱をうまく伝達できなくなったり、熱応力の緩和が不充分になったりする傾向がある。」、「『70℃におけるアスカーC硬度』とは、厚み5mm以上の熱伝導シートを、ホットプレート上で表面温度計で測定される温度が70℃になるように加熱し、アスカー硬度計C型で測定した値である。」と記載され、発熱体からの熱伝導を考慮して常温ではない「70℃」でのアスカーC硬度を規定しているところ、甲1発明の熱伝導シートの柔軟性の指標として「23℃」でのアスカーC硬度を採用する理由は見当たらない。
さらに、熱伝導シートにおいて、23℃でのアスカーC硬度の上限値を「50」に設定することは、甲第2号証ないし甲第3号証のいずれにも記載されておらず、また、この点技術常識であるとする証拠も見当たらないことから、23℃でのアスカーC硬度の上限値を「50」とする動機付けは存在せず、当業者といえども、23℃でのアスカーC硬度の上限値を「50」を導き出すことはできない。
なお、甲第4号証ないし甲第6号証にも、熱伝導シートにおいて、23℃でのアスカーC硬度の上限値を「50」に設定することは記載されていない。

(ウ)そして、上記「(相違点1)について」で述べたように、甲1発明の「有機高分子化合物」に「液状アクリルゴム」を含ませることは当業者が容易になし得たことであるが、熱伝導シートに単に「液状アクリルゴム」を含ませたとしても、常温におけるアスカーC硬度が50以下となることが必ずしもいえないことは、甲第3号証(段落【0073】、【0078】を参照)に実施例1、実施例2として記載された液状のポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C)を含む熱伝導シートの25℃におけるアスカーC硬度が、それぞれ60、62であることからも明らかである。
そして、甲1発明の「有機高分子化合物」に「液状アクリルゴム」を含ませたとしても、熱伝導シートを構成する組成物内の「液状アクリルゴム」の含有量に対して、70℃におけるアスカーC硬度がどの程度小さくなるかは明らかでなく、まして、甲1発明において70℃と23℃におけるアスカーC硬度の関係性は不明であるから、甲1発明に単に「液状アクリルゴム」を含ませたものにおいて、23℃におけるアスカーC硬度が「50」以下となるとはいえない。

(エ)相違点2に関し、特許異議申立人は異議申立書(13頁21行ないし29行を参照)にて、「甲第7号証の実施例に示されているように、熱伝導シート70℃におけるアスカーC硬度と、熱伝導シートの25℃におけるアスカーC硬度との差は10程度である。従って、70℃におけるアスカーC硬度が好ましくは40以下である甲第1号証には熱伝導シートは、25℃におけるアスカーC硬度は50以下である蓋然性が高い。また、仮に甲第1号証に記載の熱伝導シートの25℃におけるアスカーC硬度が50以下ではないとしても、熱伝導シートに高い柔軟性が求められていることは周知の課題であるので、当業者であれば熱伝導シートを柔軟なものとして例えば25℃におけるアスカーC硬度を50以下にすることに容易に想到し得る。」と主張する。
しかし、上記(ア)で述べたように、甲第7号証は、相違点に係る構成の容易想到性の判断のための証拠として適格性を欠くものである。また、甲第7号証に記載された技術は、熱伝導シート全般にわたり70℃と25℃におけるアスカーC硬度の差が10ないし12程度となることを示すものではない。
さらに、上記(イ)で述べたように、甲1発明において、熱伝導シートの柔軟性の指標としてあえて「23℃」でのアスカーC硬度を採用する理由は見当たらず、また、当業者といえども、23℃でのアスカーC硬度の上限値を「50」を導き出すことはできない。
よって、上記異議申立人の主張は採用できない。

(オ)よって、相違点2に係る構成は、当業者が、甲1発明、甲第2号証に記載された技術、甲第3号証に記載された技術及び甲第7号証に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得こととはいえない。

(3)まとめ
以上から、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術、甲第3号証に記載された技術及び甲第7号証に記載された技術に基いて当業者が容易になし得たものではない。

2 本件発明2ないし本件発明7、本件発明10、本件発明12、本件発明13、本件発明16について
請求項2ないし7、請求項10、請求項12、請求項13、請求項16は、請求項1に従属する請求項であり、本件発明2ないし本件発明7、本件発明10、本件発明12、本件発明13、本件発明16は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものである。
そして、甲第4号証ないし甲第6号証にも、熱伝導シートにおいて、23℃でのアスカーC硬度の上限値を「50」に設定することは記載されていないから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし本件発明7、本件発明10、本件発明12、本件発明13、本件発明16は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
本件の請求項1ないし7、請求項10、請求項12、請求項13、請求項16に係る特許は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証ないし甲第7号証に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということはできない。
よって、特許異議申立ての理由および証拠によっては、請求項1ないし7、請求項10、請求項12、請求項13、請求項16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし7、請求項10、請求項12、請求項13、請求項16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2021-06-29 
出願番号 特願2018-533515(P2018-533515)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 豊島 洋介  
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 畑中 博幸
井上 信一
登録日 2020-08-14 
登録番号 特許第6750019号(P6750019)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 熱伝導シート及びその製造方法  
代理人 田口 昌浩  
代理人 虎山 滋郎  
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