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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H04R
審判 全部申し立て 2項進歩性  H04R
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H04R
管理番号 1375902
異議申立番号 異議2020-700646  
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-08-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-28 
確定日 2021-07-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6656110号発明「防水通音カバー、防水通音カバー部材および音響装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6656110号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6656110号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成28年7月27日の出願であって、令和2年2月6日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年3月4日に特許掲載公報が発行された。その特許に対し、令和2年8月28日に特許異議申立人 松村 朋子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされ、令和2年11月25日付けで取消理由が通知され、令和3年1月29日付けで特許権者により意見書が提出された。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、これらを併せて「本件特許発明」という場合がある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
音響装置に用いられる防水通音カバーであって、
該防水通音カバーは、
周波数3kHzから8kHzまでの範囲の最大音圧レベルと最小音圧レベルの差(以下、最大音圧レベルと最小音圧レベルの差を「音圧レベル差」という)が13.0dB以下を満たす周波数特性曲線を有し、かつ周波数1kHzにおける挿入損失が14.0dB未満であり、更に、
下記の(1)および(2)を満たす多孔質膜を有することを特徴とする音響装置用の防水通音カバー。
(1)JIS L1092の耐水度試験B法(高水圧法)に基づいて測定される耐水圧が20kPa以上、55kPa以下であると共に、JIS L1096のA法(フラジール形法)に基づいて測定される通気量が3.0cc/cm^(2)・sec以上である。
(2)ASTM D412に基づいて測定される引張強度が5.5N以上である。
ここで、前記多孔質膜は、
複数の結節と該結節間に形成される複数のフィブリルを有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を有し、かつ
前記結節の長さ/直径で表されるアスペクト比が25以上である防水通音カバー。
【請求項2】
膜厚が10μm以上300μm以下の範囲内である請求項1に記載の防水通音カバー。
【請求項3】
前記周波数特性曲線では、周波数1kHzの音圧レベルよりも周波数8kHzの音圧レベルの方が小さい請求項1または2に記載の防水通音カバー。
【請求項4】
前記周波数特性曲線では、周波数3kHzから5kHzまでの範囲の音圧レベル差が4.0dB以下であり、かつ周波数5kHzから8kHzまでの範囲の音圧レベル差が9.0dB以下である請求項1?3のいずれかに記載の防水通音カバー。
【請求項5】
前記多孔質膜は、単層の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜である請求項1?4のいずれかに記載の防水通音カバー。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の防水通音カバーと、該防水通音カバーの少なくとも片面に形成された支持層とを有することを特徴とする防水通音カバー部材。
【請求項7】
音波の発信および/または受信を行う音響装置であって、
音波が通過するための開口部を有する筐体と;
前記筐体の内部に配置された音波電気変換装置と;
前記筐体の開口部を覆う請求項6に記載の防水通音カバー部材と;を有することを特徴とする音響装置。

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 申立理由1(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 証拠方法
甲第1号証:米国特許第5814405号明細書
甲第1号証の翻訳文:特表平11-515036号公報
甲第2号証:特開2015-111816号公報
甲第3号証:特開2015-142282号公報
甲第4号証:特開2015-111820号公報

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
特許異議申立書に記載した上記申立理由1(実施可能要件)に基づいて、当審により特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が請求項1?7に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2 当審の判断
(1)実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし5は、「防水通音カバー」、本件特許発明6は、「防水通音カバー部材」、本件特許発明7は、「音響装置」という物の発明である。
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物の生産、使用等ができる程度の記載があることを要する。

(2)実施可能要件の判断
ア 請求項1に係る発明
請求項1に係る発明は、「多孔質膜を有することを特徴とする音響装置用の防水通音カバー」であり、該「多孔質膜」は、「(1)JIS L1092の耐水度試験B法(高水圧法)に基づいて測定される耐水圧が20kPa以上、55kPa以下であると共に、JIS L1096のA法(フラジール形法)に基づいて測定される通気量が3.0cc/cm^(2)・sec以上である」、「(2)ASTM D412に基づいて測定される引張強度が5.5N以上である」、「複数の結節と該結節間に形成される複数のフィブリルを有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を有し、かつ前記結節の長さ/直径で表されるアスペクト比が25以上である」との条件を満たすものである。

イ 発明の詳細な説明
このような条件を満たす多孔質膜に関して、発明の詳細な説明には、以下のように記載されている。
「【0051】
多孔質膜として、表1に示す種々の単層の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を準備した。」
「【0068】
【表1】


「【0060】
また前記結節の長さ/直径で表されるアスペクト比は、次の通り測定した。走査型電子顕微鏡において、倍率は、1視野内に両端を観察できる結節が少なくとも1本示されるようにした。そして、上記結節の長さとその結節の幅(直径)を測定しアスペクト比を求めた。任意の5視野で該アスペクト比を求め、その値を平均して結節のアスペクト比とした。該方法で確認したところ、後記の表1におけるNo.1?4は、前記結節の長さ/直径で表されるアスペクト比が25以上であったが、No.5?9は、上記アスペクト比が25を下回った。」

上記表1のNo.2?No.4の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、請求項1に係る発明の上記した条件を満たすものである。これらNo.2?No.4の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の製造について、発明の詳細な説明には、以下のように記載されている。
「【0052】
表1に示す種々の単層の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜のうち、No.1?4は、米国特許第5,814,405号公報の教示内容に従って、多孔質の延伸膨脹ポリテトラフルオロエチレン(多孔質ePTFE)膜を調製した。」
上記米国特許第5,814,405号公報には、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の製造方法が複数記載され、そのうち、第8欄第48行から第9欄第11行、第9欄第64行から第10欄第14行には、Example 1、Example 5として以下のように記載されている。なお、訳文は、パテントファミリーである特表平11-515036号公報の訳文を用いた。

「Example 1
A high molecular weight PTFE homopolymer, in dispersion form was obtained from E. I. DuPont de Nemours Co., Inc. and combined with the dispersion form of CDO090 (a modified PTFE produced by ICI) in amounts such that the resins were combined in a 50/50 ratio based on solids. The modified polymer was made mostly of recurring units of tetrafluoroethylene with a very small amount of units of fluorinated comonomers. A total of 30 pounds of polymer was prepared at a solids concentration of 15%. The mixture was coagulated by agitation using a motor driven impeller. After coagulation, the blended resin was separated from the bulk water by filtration and dried in an air oven to remove any remaining water. This resin (about 30 pounds) was compounded with 23.37% aliphatic hydrocarbon (boiling range 170℃.-210℃.) by weight. A cylindrical pellet was formed and extruded through a rectangular orifice die to form a tape approximately 6 inches wide and 0.028 inch thick. This tape was calendered between rolls to give a final thickness of 0.0105 inch. The extruded, calendered tape was thermally dried to remove lubricant and then expanded in the longitudinal direction 9:1 at 300℃. This expanded tape was amorphously locked by contacting 365℃. heated rolls. The amorphously locked tape was stretched in the transverse direction to a ratio of 9.1:1 in an air heated chamber at 375℃. running at a line speed of 32.8 ft/min. Upon visual inspection, the finished membrane was continuous, had no breaks or holes, and was extremely uniform. Membrane bulk properties are given in Table 1. The SEM of FIGS. 1a and 1 b depict the final product, shown at different magnifications (50×and 500×).」
(訳:
例1
分散系の形態の高分子量のPTFEホモポリマーをデュポン社より入手し、樹脂が固形分を基準に50/50の比で混ぜ合わせられる量で、CD090(ICI社製の改質PTFE)の分散系と混合した。改質ポリマーは殆どがテトラフルオロエチレンの繰り返し単位からなり、非常に少量のフッ化コモノマーを含んだ。合計で30ポンドのポリマーを、15%の固形分濃度で調製した。モーター駆動インペラーを用い、攪拌によってこの混合物を凝固させた。凝固の後、配合された樹脂を濾過によって多量の水から分離し、空気オーブン中で乾燥させ、残りの水を除去した。この樹脂(約30ポンド)に重量で23.7%の脂肪族炭化水素(沸点170℃?210℃)を配合した。円筒状ペレットを作成し、長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅約6インチ×厚さ0.028インチのテープを作成した。このテープをロールの間で圧延し、0.0105インチの最終的な厚さを得た。この押出・圧延したテープを加熱によって乾燥させ、潤滑剤を除去し、次いで300℃において長手方向に9:1で延伸膨張させた。この延伸膨張したテープを、365℃に加熱されたロールに接触させることにより、アモルファス固定した。このアモルファス固定したテープを、32.8フィート/分の線速度で走行させ、375℃の空気加熱チャンバー中で9.1:1の比で横方向に伸長させた。目視検査によると、仕上げられた膜は連続であり、破れや穴はなく、非常に均一であった。膜の全体的な特性を表1に示す。図laと1bの走査型電子顕微鏡写真は、異なる倍率(50倍と500倍)で示された最終的な生産品である。)

「Example 5
A high molecular weight PTFE homopolymer (SSG=2.158g/cc) was compounded with 21.7% aliphatic hydrocarbon and formed into a cylindrical pellet. The pellet was extruded through a rectangular orifice die to form a tape 6 inches wide and 0.027 inch thick. The tape was calendered between rolls to give a final thickness of 0.006 inch. The tape was thermally dried to remove lubricant and then was expanded in the longitudinal direction at 300℃. and a line speed of 10 ft/min to a total ratio of 5.06:1. the expanded tape was amorphously locked by contacting heated rolls at 370℃. The amorphously locked tape was stretched in the transverse direction to a ratio of 6.56:1 in a 375°heated chamber at a line speed of 32.8 ft/min. The resulting membrane was extremely uniform, very strong and free of holes or breaks. Membrane physical properties are listed in Table 1. The SEM of the product is shown in FIG. 5.」
(訳:
例5
高分子量のPTFEホモポリマー(SSG=2.158g/cc)に21.7%の脂肪族炭化水素を配合し、円筒状ペレットを作成した。このペレットを長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅6インチ×厚さ0.027インチの連続テープを得た。このテープをロールの間で圧延し、0.006インチの最終的な厚さを得た。このテープを加熱によって乾燥させ、潤滑剤を除去し、5.06:1の合計比にして300 ℃と10フィート/分の線速度で長手方向に延伸膨張させた。この延伸膨張したテープを、370 ℃の加熱ロールに接触させることにより、アモルファス固定した。このアモルファス固定したテープを32.8フィート/分の線速度で、375 ℃の加熱チャンバー中で6.56:1の比で横方向に伸長させた。得られた膜は非常に均一で高強度であり、穴や破れが存在しなかった。この膜の物理的特性を表1に示す。この生産品の走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。)




(訳:

)

ウ No.2の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜について
No.2の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、通気量(JIS L1096のA法(フラジール形法)に基づいて測定される)が7.4cc/cm^(2)・secであるから、例えば、上記例5の膜(表1によれば、7.5立方フィート/分/平方フィート(単位換算すると、3.8cc/cm^(2)・sec))を選択し、上記例5の記載に基づいて、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を製造することができる。PTFEホモポリマー(SSG=2.158g/cc)としては、市販のもの、例えば、上記例5に記載のものと実質的に同等のChemours社製T65A(SSG=2.1g/cc)を採用できる。
通気量は、上記例5に記載のものでは、7.5立方フィート/分/平方フィート(単位換算すると、3.8cc/cm^(2)・sec)であるが、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の通気量は、製造時の延伸倍率を変化させて開口率を変化させることで調整可能であるのは技術常識であるから、上記例5の記載に基づいて、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を製造するときの延伸倍率を変化させることで、通気量が7.4cc/cm^(2)・secであるNo.2の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を製造することは、当業者が過度の試行錯誤を要せずに可能である。
耐水圧(JIS L1092の耐水度試験B法(高水圧法)に基づいて測定される)は、上記例5の記載に基づいて製造される膜については記載されていないが、本件明細書の段落0025の「上記耐水圧と通気量は、後述する図1の●で示す通り反比例の関係にある。」との記載より、上述したように通気量を所望の値にするように製造時の延伸倍率を変化させることで、図1のように所望の耐水圧が得られるようにすることが可能であると考えられるから、耐水圧が51.3kPaであるNo.2の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を製造することは、当業者が過度の試行錯誤を要せずに可能である。
引張強度は、上記米国特許第5,814,405号公報に、「Matrix tensile strength can also be increased by increasing stretch ratio. By balancing the first and second stretch steps, a balance in strength in the x and y direction can be obtained.」(第4欄第56-59頁)(当審訳:延伸比を上げることによって、母材引張強度も上昇する。第1と第2の伸張行程をバランスさせることにより、X方向とY方向の強度バランスが得られる。)と記載されているように、延伸比により調整可能であるから、引張強度が10.7NであるNo.2の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を製造することは、当業者が過度の試行錯誤を要せずに可能である。

アスペクト比は、上記例5の記載に基づいて製造される膜では、表1によれば、およそのアスペクト比が200であるから、請求項1に係る発明で特定されるアスペクト比が25以上の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を製造することは、当業者が過度の試行錯誤を要せずに可能である。

なお、特許権者が令和3年1月29日に提出した意見書によれば、例えば、高分子量のPTFEホモポリマーである市販のChemours社製T65A(SSG=2.1g/cc)に21.3%の脂肪族炭化水素を配合し、円筒状ペレットを作成し、このペレットを長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅6インチ×厚さ0.067インチの連続テープを得、このテープをロールの間で圧延し、0.0079 インチの最終的な厚さを得、このテープを加熱によって乾燥させ、潤滑剤を除去し、6:1の合計比にして300 ℃と10フィート/分の線速度で長手方向に延伸膨張させ、この延伸膨張したテープを、360 ℃の加熱ロールに接触させることにより、アモルファス固定し、このアモルファス固定したテープを32.8フィート/分の線速度で、365 ℃の加熱チャンバー中で8:1の比で横方向に伸長させ、上記表1のNo.2の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を製造することができる。

エ No.3の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜について
上記ウのNo.2と同様に、No.3の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜についても、当業者が過度の試行錯誤を要せずに製造することが可能である。
なお、特許権者が令和3年1月29日に提出した意見書によれば、例えば、上記例1の記載に基づいて、分散系の形態の高分子量のPTFEホモポリマーをデュポン社より入手し、樹脂が固形分を基準に50/50の比で混ぜ合わせられる量で、CD145E(AGC社製)の分散系と混合し、改質ポリマーは殆どがテトラフルオロエチレンの繰り返し単位からなり、非常に少量のフッ化コモノマーを含み、合計で30ポンドのポリマーを、15%の固形分濃度で調製し、モーター駆動インペラーを用い、攪拌によってこの混合物を凝固させ、凝固の後、配合された樹脂を濾過によって多量の水から分離し、空気オーブン中で乾燥させ、残りの水を除去し、この樹脂(約30ポンド)に重量で19.4%の脂肪族炭化水素(沸点170℃?210℃)を配合し、円筒状ペレットを作成し、長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅約6インチ×厚さ0.028インチのテープを作成し、このテープをロールの間で圧延し、0.26mm(0.01インチ)の最終的な厚さを得、この押出・圧延したテープを加熱によって乾燥させ、潤滑剤を除去し、次いで300℃において長手方向に13:1で延伸膨張させ、この延伸膨張したテープを、365℃に加熱されたロールに接触させることにより、アモルファス固定し、このアモルファス固定したテープを、32.8フィート/分の線速度で走行させ、365℃の空気加熱チャンバー中で5:1の比で横方向に伸長させ、上記表1のNo.3の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を製造することができる。

オ No.4の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜について
上記ウのNo.2と同様に、No.4の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜についても、当業者が過度の試行錯誤を要せずに製造することが可能である。
なお、特許権者が令和3年1月29日に提出した意見書によれば、例えば、上記例1の記載に基づいて、分散系の形態の高分子量のPTFEホモポリマーをデュポン社より入手し、樹脂が固形分を基準に50/50の比で混ぜ合わせられる量で、CD145E(AGC社製)の分散系と混合し、改質ポリマーは殆どがテトラフルオロエチレンの繰り返し単位からなり、非常に少量のフッ化コモノマーを含み、合計で30ポンドのポリマーを、15%の固形分濃度で調製し、モーター駆動インペラーを用い、攪拌によってこの混合物を凝固させ、凝固の後、配合された樹脂を濾過によって多量の水から分離し、空気オーブン中で乾燥させ、残りの水を除去し、この樹脂(約30ポンド)に重量で19.4%の脂肪族炭化水素(沸点170℃?210℃)を配合し、円筒状ペレットを作成し、長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅約6インチ×厚さ0.028インチのテープを作成し、このテープをロールの間で圧延し、0.26mm(0.01インチ)の最終的な厚さを得、この押出・圧延したテープを加熱によって乾燥させ、潤滑剤を除去し、次いで300℃において長手方向に13:1で延伸膨張させ、この延伸膨張したテープを、365℃に加熱されたロールに接触させることにより、アモルファス固定し、このアモルファス固定したテープを、32.8フィート/分の線速度で走行させ、365℃の空気加熱チャンバー中で10:1の比で横方向に伸長させ、上記表1のNo.4の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を製造することができる。

カ 請求項2?7に係る発明
請求項2?5に係る発明の防水通音カバーは、請求項1に係る発明の防水通音カバーに、それぞれ、「膜厚が10μm以上300μm以下の範囲内である」、「前記周波数特性曲線では、周波数1kHzの音圧レベルよりも周波数8kHzの音圧レベルの方が小さい」、「前記周波数特性曲線では、周波数3kHzから5kHzまでの範囲の音圧レベル差が4.0dB以下であり、かつ周波数5kHzから8kHzまでの範囲の音圧レベル差が9.0dB以下である」、「前記多孔質膜は、単層の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜である」との限定を付加するものであるところ、上記表1のNo.2?No.4の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、何れも、これらの限定した条件を満たすものである。上記ウ?オで述べたように、発明の詳細な説明の記載に基づいて、上記表1のNo.2?No.4の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を製造することができ、それを用いて請求項2?5に係る発明の防水通音カバーを生産し使用することは可能であり、過度の試行錯誤を要するとはいえない。また、請求項1?5に係る発明の防水通音カバーを用いて請求項6に係る発明の防水カバー部材、請求項7に係る発明の音響装置を生産し使用することが可能であるのは明らかである。

キ まとめ
以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、No.2?No.4の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜は、当業者が過度の試行錯誤を要せずに製造することが可能であり、発明の詳細な説明の記載には、該多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を用いて、音響装置に用いられる防水通音カバーを生産し、使用等をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が請求項1?7に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

第5 取消理由通知において採用しなかった申立ての理由について
1 申立理由2(サポート要件)について
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下のように記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、優れた防水性と共に、従来品よりもより高い音響特性、特には広い周波数領域にわたり周波数による音圧レベルの違いが十分に抑えられた防水通音カバーと、この防水通音カバーを用いた防水通音カバー部材および音響装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決できた音響装置用の防水通音カバーは、周波数3kHzから8kHzまでの範囲の最大音圧レベルと最小音圧レベルの差(以下、最大音圧レベルと最小音圧レベルの差を「音圧レベル差」という)が13.0dB以下を満たす周波数特性曲線を有し、かつ周波数1kHzにおける挿入損失が14.0dB未満であり、更に、下記の(1)および(2)を満たす多孔質膜を有するところに特徴がある。
(1)JIS L1092の耐水度試験B法(高水圧法)に基づいて測定される耐水圧が20kPa以上であると共に、JIS L1096のA法(フラジール形法)に基づいて測定される通気量が3.0cc/cm2・sec以上である。
(2)ASTM D412に基づいて測定される引張強度が5.5N以上である。
【0012】
前記多孔質膜は、複数の結節と該結節間に形成される複数のフィブリルを有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を有し、かつ前記結節の長さ/直径で表されるアスペクト比が25以上であることが好ましい。
【0013】
前記防水通音カバーは、膜厚が10μm以上300μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0014】
前記多孔質膜の耐水圧は55kPa以下であることが好ましい。
【0015】
前記周波数特性曲線では、周波数1kHzの音圧レベルよりも周波数8kHzの音圧レベルの方が小さいことが好ましい。
【0016】
また前記周波数特性曲線では、周波数3kHzから5kHzまでの範囲の音圧レベル差が4.0dB以下であり、かつ周波数5kHzから8kHzまでの範囲の音圧レベル差が9.0dB以下であることが好ましい。
【0017】
前記多孔質膜は、単層の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜であることが好ましい。
【0018】
本発明には、前記防水通音カバーと、該防水通音カバーの少なくとも片面に形成された支持層とを有する点に特徴がある防水通音カバー部材も含まれる。
【0019】
また本発明には、上記防水通音カバー部材を有する音響装置も含まれる。前記音響装置は、音波の発信および/または受信を行うものであって、音波が通過するための開口部を有する筐体と;前記筐体の内部に配置された音波電気変換装置と;前記筐体の開口部を覆う前記防水通音カバー部材と;を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
音響装置に用いられる本発明の防水通音カバーは、高い耐水圧および高い通気量を示すと共に、一定以上の強度を示す多孔質膜を含んでいるため、優れた防水性と共に、従来よりもより優れた音響特性、特には、広い周波数領域にわたり周波数による音圧レベルの違いが十分に抑えられているといった特性を示す。本発明によれば、上記防水通音カバーと、該防水通音カバーを用いた防水通音カバー部材および音響特性の優れた音響装置とを提供できる。」

以上の記載によれば、本件の請求項1ないし7に記載された事項により特定される発明により、明細書の段落【0010】に記載された課題が解決できることが理解できる。

なお、申立人は、上記課題を解決するための膜として、発明の詳細な説明には、No.2?No.4の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜が記載されているのみであり、これらの膜の特性および該膜を有する防水通音カバーの特性である、
「該防水通音カバーは、
周波数3kHzから8kHzまでの範囲の最大音圧レベルと最小音圧レベルの差(以下、最大音圧レベルと最小音圧レベルの差を「音圧レベル差」という)が2.1dB以上4.1dB以下を満たす周波数特性曲線を有し、かつ周波数lkHzにおける挿入損失が2.9dB以上6.4dB以下であり、更に
下記の(1)および(2)を満たす多孔質膜を有することを特徴とする音響装置用の防水通音カバー。
(1)JIS L1092の耐水度試験B法(高水圧法)に基づいて測定される耐水圧が33.7kPa以上、51.3kPa以下であると共に、JIS L1096のA法(フラジール形法)に基づいて測定される通気量が7.4cc/cm^(2)・sec以上16.2cc/cm^(2)・sec以下である。
(2)ASTM D412に基づいて測定される引張強度が7.6N以上14.8N以下である。」
を満たすもののみが上記課題を解決でき、それ以外の範囲の特性を有するものは課題を解決できない旨主張している。
しかしながら、本件明細書の段落0068の表1によれば、「周波数3kHzから8kHzまでの範囲の最大音圧レベルと最小音圧レベルの差(以下、最大音圧レベルと最小音圧レベルの差を「音圧レベル差」という)が13dB以下を満たす周波数特性曲線を有し、かつ周波数lkHzにおける挿入損失が14dB未満」との音響特性を満たす膜は、No.2?No.4の膜のみで、No.1、No.5?No.9の膜は、上記音響特性を満たさず、前者の膜と後者の膜との耐水圧、通気量、引張強度を表1で比較すると、両者の境界として、請求項1の「耐水圧が20kPa以上、55kPa以下」、「通気量が3.0cc/cm2・sec以上」、「引張強度が5.5N以上」との膜の特性は、妥当なものであると考えられる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の上記記載によれば、本件の請求項1ないし7に記載された事項により特定される発明により、上記課題が解決できることは理解でき、上記課題が解決できることが明らかに技術常識に反するとか、課題が解決できないことを示す実験証拠がある等の特段の事情もないから、本件の請求項1ないし7に記載された事項により特定される発明が課題を解決することができないと断定することはできない。
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものである。

2 申立理由3(進歩性)について
(1)甲第1号証(米国特許第5814405号明細書)
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。なお、訳文には、パテントファミリーである特表平11-515036号公報の訳文を用いた。

「EXAMPLES
Example 1
A high molecular weight PTFE homopolymer, in dispersion form was obtained from E. I. DuPont de Nemours Co., Inc. and combined with the dispersion form of CDO090 (a modified PTFE produced by ICI) in amounts such that the resins were combined in a 50/50 ratio based on solids. The modified polymer was made mostly of recurring units of tetrafluoroethylene with a very small amount of units of fluorinated comonomers. A total of 30 pounds of polymer was prepared at a solids concentration of 15%. The mixture was coagulated by agitation using a motor driven impeller. After coagulation, the blended resin was separated from the bulk water by filtration and dried in an air oven to remove any remaining water. This resin (about 30 pounds) was compounded with 23.37% aliphatic hydrocarbon (boiling range 170℃-210℃.) by weight. A cylindrical pellet was formed and extruded through a rectangular orifice die to form a tape approximately 6 inches wide and 0.028 inch thick. This tape was calendered between rolls to give a final thickness of 0.0105 inch. The extruded, calendered tape was thermally dried to remove lubricant and then expanded in the longitudinal direction 9:1 at 300℃. This expanded tape was amorphously locked by contacting 365℃. heated rolls. The amorphously locked tape was stretched in the transverse direction to a ratio of 9.1:1 in an air heated chamber at 375℃. running at a line speed of 32.8 ft/min. Upon visual inspection, the finished membrane was continuous, had no breaks or holes, and was extremely uniform. Membrane bulk properties are given in Table 1. The SEM of FIGS. 1a and 1 b depict the final product, shown at different magnifications (50×and 500×).
Example 2
An extruded calendered down tape prepared as in Example 1 was expanded in the longitudinal direction a total of 5.06:1 at 300℃. This tape was amorphously locked by contacting heated rolls at a temperature of 365℃. The tape was then stretched in the transverse direction a total of 4.15:1 in an air heated chamber at 375℃. running at a line speed of 32.8 ft/min. The resulting membrane was continuous with no breaks or holes and was extremely uniform. Membrane physical properties are given in Table 1. The SEM of FIG. 2 depicts the product.
Example 3
The blended resin formulation used in Example 1 was compounded with 23.37% aliphatic hydrocarbon and formed into a cylindrical pellet. The pellet was extruded through a rectangular orifice die to give a continuous tape 12' wide and 0.030 inch thick. This tape was calendered between rollers to give a final thickness of 0.006 inch. The tape was thermally dried to remove the aliphatic hydrocarbon and then was expanded in the longitudinal direction in a heated chamber at 300℃. to a ratio of 8:1. The expanded tape was amorphously locked by heating in 360℃. air. The amorphously locked tape was further stretched in the longitudinal direction in a heated chamber at 360℃. to an a additional ratio of 4:1. The tape was then stretched in a 375℃. heated chamber in the transverse direction at a line speed of 32.8 ft. per minute to a ratio of 5.6:1. The resulting membrane was uniform, free of holes or breaks and was visually translucent. Membrane physical properties are listed in Table 1. The SEM of FIG. 3 depicts the product.
Example 4
The blended resin used in Example 1 was compounded with 23.37% aliphatic hydrocarbon and formed into a cylindrical pellet. The pellet was extruded through a rectangular orifice die to give a continuous tape 6 inches wide and 0.027 inch thick. The extruded tape was calendered between rollers to give a final thickness of 0.006 inch. The tape was thermally dried to remove the aliphatic hydrocarbon and then was expanded in the longitudinal direction a ratio of 6.25:1 at 300℃. The expanded tape was amorphously locked by contacting heated rolls at 370℃. The locked tape was stretched an additional ratio of 4:1 in the longitudinal direction at 375℃. at a line speed of 20 ft/min. The tape was then stretched in the transverse direction to a ratio of 6.58:1 at 375℃. and at a line speed of 32.8 ft/min. The resulting membrane was continuous and uniform. Membrane properties are given in Table 1. The SEM of FIG. 4 depicts the product.
Example 5
A high molecular weight PTFE homopolymer (SSG=2.158g/cc) was compounded with 21.7% aliphatic hydrocarbon and formed into a cylindrical pellet. The pellet was extruded through a rectangular orifice die to form a tape 6 inches wide and 0.027 inch thick. The tape was calendered between rolls to give a final thickness of 0.006 inch. The tape was thermally dried to remove lubricant and then was expanded in the longitudinal direction at 300℃. and a line speed of 10 ft/min to a total ratio of 5.06:1. the expanded tape was amorphously locked by contacting heated rolls at 370℃. The amorphously locked tape was stretched in the transverse direction to a ratio of 6.56:1 in a 375°. heated chamber at a line speed of 32.8 ft/min. The resulting membrane was extremely uniform, very strong and free of holes or breaks. Membrane physical properties are listed in Table 1. The SEM of the product is shown in FIG. 5.


Example 6
A high molecular weight PTFE homopolymer (SSG=2.158g/cc) was compounded with 21.7% aliphatic hydrocarbon and formed into a cylindrical pellet. The pellet was extruded through a rectangular orifice die to form a tape 6 inches wide and 0.027 inch thick. The tape was calendered between rolls to give a final thickness of 0.0105 inch. The tape was thermally dried to remove lubricant and then was expanded in the longitudinal direction at 300℃. and a line speed of 10 ft./min. to a total ratio of 9:1. The expanded tape was amorphously locked by contacting heated rolls at 370℃. The amorphously locked tape was stretched in the transverse direction a total ratio of 7:13:1 in a 375℃. heated chamber at a line speed of 32.8 ft./min. The resulting membrane was extremely uniform, very strong and free of holes or breaks.
Five sections of this membrane were taken along its length at roughly 15 ft. intervals. Each section was tested for air flow (Frazier Test), burst strength (Ball Burst Test) and mass per area in five locations equally spaced across the web. Measurements were taken at least two inches from the edges of the membrane to avoid edge effects. A total of twenty five measurements were taken for each property over a total length of membrane of approximately 100 ft. Averages and standard deviation (Std. Dev.) values were calculated. The percent coefficient of variability was then calculated for each property using the following equation.
Standard Deviation/Average×100=%Coefficient of Variability(%CV)
% coefficient of variability is used here as a measure of overall uniformity of the membrane with respect to the specific property measured. Average, standard deviation and % coefficient of variability for each of the three properties measured are listed below:


Example 7
A high molecular weight PTFE emulsion polymerisate (molecular weight>5×10^(6)) made in accordance with EP 170382 (12800g) was premixed with 820g PTFE micropowder MP 1200 made by radiation technique (available from E. I. DuPont de Nemours Co., Inc., of Wilmington, Del.) for 10 minutes. This resin blend was compounded with 4000 ml aliphatic hydrocarbon (boiling range 191℃.-212℃.). A cylindrical pellet was formed and extruded through a rectangular orifice die to form a tape approximately 160 mm wide and 660μm (0.026 inch) thick. This tape was calendared between rolls to give a final thickness of 100μm.The extruded, rolled down tape was thermally dried to remove lubricant and then expanded in the longitudinal direction 4:1 at 235℃. This expanded tape was amorphously locked by contacting 361℃. heated rolls. The tape was running at a line speed of 43 m/min. The amorphously locked tape was stretched in the transverse direction at a total ratio of 10.0:1 in a 355℃. heated chamber at a line speed of 20 m/min. Membrane bulk properties are given in Table 2. The SEM of FIG. 6 depicts the final product shown at magnifications of 2000×.
Example 8
A high molecular weight PTFE emulsion polymerisate (molecular weight>5×10^(6)) made in accordance with EP 170382 (6396g) was premixed with 408g PTFE micropowder TF 9202, made by polymerization and commercially available from Hoechst AG Gendorf 10 minutes. This resin blend was compounded with 2160 ml aliphatic hydrocarbon (boiling range 191℃.-212℃). A cylindrical pellet was formed and extruded through a rectangular orifice die to form a tape approximately 160 mm wide and 660μm (0.026 inch) thick. This tape was calendered between rolls to give a final thickness of 95μm. The extruded, rolled down tape was thermally dried to remove lubricant and then expanded in the longitudinal direction 3.98:1 at 230℃. This expanded tape was amorphously locked by contacting 361℃. heated rolls. The tape was running at a line speed of 43 m/min. The amorphously locked tape was stretched in the transverse direction at a total ratio of 10.0:1 in a 355℃. heated chamber at a line speed of 20 m/min. Membrane bulk properties are given in Table 2. The SEM of FIG. 7 depicts the final product, shown at magnifications of 2000×.
Example 9
A high molecular weight PTFE emulsion polymerisate (molecular weight>5×10^(6)) made in accordance with EP 170382 (6396g) was premixed with 408g PFA 532-5011 (available from E. I. DuPont de Nemours Co., Inc., of Wilmington, Del.) for 10 minutes. This resin blend was compounded with 2190 ml aliphatic hydrocarbon (boiling range 191℃.-212℃). A cylindrical pellet was formed and extruded through a rectangular orifice die to form a tape approximately 160 mm wide and 660μm (0.026 inch) thick. This tape was calendered between rolls to give a final thickness of 95μm. The extruded, calendered tape was thermally dried to remove lubricant and then expanded in the longitudinal direction 3.98:1 at 230℃. This expanded tape was amorphously locked by contacting 361℃. heated rolls. The tape was running at a line speed of 43 m/min. The amorphously locked tape was stretched in the transverse direction at a total ratio of 10.0:1 in a 355℃. heated chamber at a line speed of 20 m/min. Membrane bulk properties are given in Table 2. The SEM of FIG. 8 depicts the final product, shown at magnifications of 2000.


Example 10
4000 ml paraffin oil with a boiling point between 181℃. and 212℃. was introduced to a water-cooled mill. 12 g of lauric acid was then added quickly to this followed by 600 g of aluminum oxide added slowly (Al_(2)O_(3)) (Alpha UFX-MAR from the Chemag Co.). This dispersion was metered in a solids-liquid mixer (Patterson Kelly) into 11.4 kg of PTFE emulsion polymerizate present in it (molecular weight >5×10^(6) produced according to EP-A-0170382) over a period of 10 minutes and was then mixed for another 10 minutes. A molding in the form of a pellet was produced from this mixture under vacuum at 10-15 bar.
A film (tape) was then formed by paste extrusion. This film was then calendered by means of heated rolls to the desired thickness (see Table 3). The lubricant was removed thermally. For this purpose the film was passed over heated rolls (240℃.-250℃.) after the calendering step. The film was then stretched in the machine direction, and then in the transverse direction, at 240℃.(200%/s) and sintered at temperatures greater than 330℃. This film was then stretched perpendicular to the machine direction (transverse) at a temperature above the crystalline melt point. The draw ratio was 10:1.
Example 11
The same procedure for Example 10 was followed to produce a filled tape that contained titanium oxide (R-320 from Hombitan) instead of 600 g aluminum oxide. This film was then stretched two-fold perpendicularly to the machine (transverse) direction at a temperature above the crystalline melt point. The draw ratio was 10:1 and for Example 11.2.4 (see Table 3), the draw ratio was 5:1.


FIGS. 9A and 9B show ePTFE membranes of the invention at different magnification (200×and 3500×), but with a nanoparticle filler, namely 5% Al_(2)O_(3), produced according to Example 10.
The same is true for the structure of the ePTFE membrane depicted in FIGS. 10A and 10B in which the nanoparticle filler consists of 5% TiO_(2).」
(訳:
例1
分散系の形態の高分子量のPTFEホモポリマーをデュポン社より入手し、樹脂が固形分を基準に50/50の比で混ぜ合わせられる量で、CD090(ICI社製の改質PTFE)の分散系と混合した。改質ポリマーは殆どがテトラフルオロエチレンの繰り返し単位からなり、非常に少量のフッ化コモノマーを含んだ。合計で30ポンドのポリマーを、15%の固形分濃度で調製した。モーター駆動インペラーを用い、攪拌によってこの混合物を凝固させた。凝固の後、配合された樹脂を濾過によって多量の水から分離し、空気オーブン中で乾燥させ、残りの水を除去した。この樹脂(約30ポンド)に重量で23.7%の脂肪族炭化水素(沸点170℃?210℃)を配合した。円筒状ペレットを作成し、長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅約6インチ×厚さ0.028インチのテープを作成した。このテープをロールの間で圧延し、0.0105インチの最終的な厚さを得た。この押出・圧延したテープを加熱によって乾燥させ、潤滑剤を除去し、次いで300℃において長手方向に9:1で延伸膨張させた。この延伸膨張したテープを、365℃に加熱されたロールに接触させることにより、アモルファス固定した。このアモルファス固定したテープを、32.8フィート/分の線速度で走行させ、375℃の空気加熱チャンバー中で9.1:1の比で横方向に伸長させた。目視検査によると、仕上げられた膜は連続であり、破れや穴はなく、非常に均一であった。膜の全体的な特性を表1に示す。図1aと1bの走査型電子顕微鏡写真は、異なる倍率(50倍と500倍)で示された最終的な生産品である。
例2
例1と同様にして調製した押出・圧延したテープを、300℃において合計で5.06:1にして長手方向に延伸膨張させた。この延伸膨張したテープを、365℃に加熱されたロールに接触させることにより、アモルファス固定した。このテープを、32.8フィート/分の線速度で走行させ、375℃の空気加熱チャンバー中で合計で4.15:1にして横方向に伸長させた。目視検査によると、仕上げられた膜は連続であり、破れや穴はなく、非常に均一であった。膜の物理的特性を表1に示す。図2の走査型電子顕微鏡写真はこの生産品を示す。
例3
例1で用いた配合した樹脂処方物に23.37%の脂肪族炭化水素を配合し、円筒状ペレットを作成した。このペレットを長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅12インチ×厚さ0.030 インチの連続テープを得た。このテープをロールの間で圧延し、0.006インチの最終的な厚さを得た。このテープを加熱によって乾燥させ、脂肪族炭化水素を除去し、次いで300℃の加熱チャンバー中で長手方向に8:1の比で延伸膨張させた。この延伸膨張したテープを、360℃の空気中で加熱することにより、アモルファス固定した。このアモルファス固定したテープを、360℃の空気加熱チャンバー中で4:1の付加的な比で長手方向にさらに伸長させた。このテープを、32.8フィート/分の線速度で、375℃の空気加熱チャンバー中で5.6:1の比でにして横方向に伸長させた。得られた膜は均一であり、破れや穴はなく、見た目に透明であった。膜の物理的特性を表1に列挙した。図3の走査型電子顕微鏡写真はこの生産品を示す。
例4
例1で用いた配合した樹脂処方物に23.37%の脂肪族炭化水素を配合し、円筒状ペレットを作成した。このペレットを長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅6インチ×厚さ0.027インチの連続テープを得た。このテープをロールの間で圧延し、0.006インチの最終的な厚さを得た。このテープを加熱によって乾燥させ、脂肪族炭化水素を除去し、次いで300℃において6.25:1の比で長手方向に延伸膨張させた。この延伸膨張したテープを、370℃の加熱ロールに接触させることにより、アモルファス固定した。この固定したテープを、20フィート/分の線速度で、375℃において長手方向に4:1の比でさらに伸長させた。次いでこのテープを32.8フィート/分の線速度で、375℃において6.58:1の比でにして横方向に伸長させた。得られた膜は連続で均一であった。膜の特性を表1に示す。図4の走査型電子顕微鏡写真はこの生産品を示す。
例5
高分子量のPTFEホモポリマー(SSG=2.158g/cc)に21.7%の脂肪族炭化水素を配合し、円筒状ペレットを作成した。このペレットを長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅6インチ×厚さ0.027インチの連続テープを得た。このテープをロールの間で圧延し、0.006 インチの最終的な厚さを得た。このテープを加熱によって乾燥させ、潤滑剤を除去し、5.06:1の合計比にして300℃と10フィート/分の線速度で長手方向に延伸膨張させた。この延伸膨張したテープを、370℃の加熱ロールに接触させることにより、アモルファス固定した。このアモルファス固定したテープを32.8フィート/分の線速度で、375℃の加熱チャンバー中で6.56:1の比で横方向に伸長させた。得られた膜は非常に均一で高強度であり、穴や破れが存在しなかった。この膜の物理的特性を表1に示す。この生産品の走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。



例6
高分子量のPTFEホモポリマー(SSG=2.158g/cc)に21.7%の脂肪族炭化水素を配合し、円筒状ペレットを作成した。このペレットを長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅6インチ×厚さ0.027インチの連続テープを得た。このテープをロールの間で圧延し、0.0105インチの最終的な厚さを得た。このテープを加熱によって乾燥させ、潤滑剤を除去し、9:1の合計比にして300℃と10フィート/分の線速度で長手方向に延伸膨張させた。この延伸膨張したテープを、370℃の加熱ロールに接触させることにより、アモルファス固定した。このアモルファス固定したテープを32.8フィート/分の線速度で、375℃の加熱チャンバー中で7.13:1の合計比にして横方向に伸長させた。得られた膜は非常に均一で高強度であり、穴や破れが存在しなかった。
この膜の長手にそって約15フィートの間隔で5つのセクションを採取した。各セクションを、ウェブの端から端までの均等な間隔の5か所の位置で、空気流量(フレイジャー試験)、破裂強度(ボール破裂強度)、面積あたりの重量について試験した。エッジの影響を避けるため、膜のエッジから少なくとも2インチの位置で測定を行った。約100フィートの膜の全長にわたり、各特性について合計で25回の測定値を求めた。平均と標準偏差を計算した。次いで下記の式を用い、各特性について変動率(%)を計算した。
標準偏差/平均×100=変動率(%)
変動率(%)は、本願では、測定される特性に関する膜の全体的な均一性の尺度として用いられる。測定した3つの特性のそれぞれについての平均、標準偏差、及び変動率を下記に表示する。


例7
欧州特許出願第170382号に従って作成した高分子量(分子量>5×10^(6))のPTFEエマルジョン重合体(12800g)に、10分間にわたって、照射技術によって得られた820gのPTFEミクロパウダーMP1200(デラウェア州のウィルミントンにあるデュポン社より入手)を予備混合した。この樹脂配合物に4000mlの脂肪族炭化水素(沸点191?212℃)を配合した。円筒状ペレットを作成し、長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅約160mm×厚さ660μm(0.026インチ)のテープを作成した。このテープをロールの間で圧延し、100μmの最終的な厚さを得た。この押出されてロール処理されたテープを加熱によって乾燥させ、潤滑剤を除去し、4:1で長手方向に235℃で延伸膨張させた。この延伸膨張したテープを、361℃の加熱ロールに接触させることにより、アモルファス固定した。このテープは43m/分の線速度で走行させた。このアモルファス固定したテープを20m/分の線速度で、355℃の加熱チャンバー中で10.0:1の合計比にして横方向に伸長させた。この膜の全体的な特性を表2に示す。図6の走査型電子顕微鏡写真は2000倍の倍率で示されたこの最終的な生産品である。
例8
欧州特許出願第170382号に従って作成した高分子量(分子量>5×10^(6))のPTFEエマルジョン重合体(6396g)に、10分間にわたって、重合により作成されたHoechst AG Gendorfから市販の408gのPTFEミクロパウダーTF9202を予備混合した。この樹脂配合物に2160mlの脂肪族炭化水素(沸点191?212℃)を配合した。円筒状ペレットを作成し、長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅約160mm ×厚さ660μm(0.026インチ)のテープを作成した。このテープをロールの間で圧延し、95μm の最終的な厚さを得た。この押出されてロール処理されたテープを加熱によって乾燥させ、潤滑剤を除去し、3.98:1で長手方向に230℃で延伸膨張させた。この延伸膨張したテープを、361℃の加熱ロールに接触させることにより、アモルファス固定した。このテープ
は43m/分の線速度で走行させた。このアモルファス固定したテープを20m/分の線速度で、355℃の加熱チャンバー中で10.0:1の合計比にして横方向に伸長させた。この膜の全体的な特性を表2に示す。図7の走査型電子顕微鏡写真は2000倍の倍率で示されたこの最終的な生産品である。
例9
欧州特許出願第170382号に従って作成した高分子量(分子量>5×106)のPTFEエマルジョン重合体(6396g)に、10分間にわたって、408gのPFA532-5011(デラウェア州のウィルミントンにあるデュポン社より入手)を予備混合した。この樹脂配合物に2190mlの脂肪族炭化水素(沸点191?212℃)を配合した。円筒状ペレットを作成し、長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅約l60mm×厚さ660μm(0.026インチ)のテープを作成した。このテープをロールの間で圧延し、95μm の最終的な厚さを得た。この押出されてロール処理されたテープを加熱によって乾燥させ、潤滑剤を除去し、3.98:1で長手方向に230℃で延伸膨張させた。この延伸膨張したテープを、361℃の加熱ロールに接触させることにより、アモルファス固定した。このテープは43m/分の線速度で走行させた。このアモルファス固定したテープを20m/分の線速度で、355℃の加熱チャンバー中で10.0:1の合計比にして横方向に伸長させた。この膜の全体的な特性を表2に示す。図8の走査型電子顕微鏡写真は2000倍の倍率で示されたこの最終的な生産品である。


例10
181℃?212℃の沸点を有する4000mlのパラフィンオイルを水冷ミルの中に入れた。次いでこれに12gのラウリン酸を素早く添加し、次に600gの酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))(Chemag社から入手のαUFK-MAR)をゆっくり添加した。11.4kgのPTFEエマルジョン重合体(欧州特許出願第170382号に従って作成し、分子量>5×106)が中に存在する固液ミキサー(Patterson Kelly)に、この分散系を計量して10分間にわたって入れ、次いでさらに10分間にわたって混合した。10?15バールの減圧下でこの混合物からペレット成形体を作成した。
ペレット押出によってフィルム(テープ)を作成した。次いでこのフィルムを加熱ロールにより所望の厚さまで圧延した(表3参照)。加熱によって潤滑剤を除去した。この目的のため、圧延工程の後、フィルムを加熱ロール(240℃?250℃)の上に通した。次いでこのフィルムを240 ℃において縦方向に、次いで横方向に伸長させ(200%/s)、330℃を超える温度で焼成した。次いでこのフィルムを、結晶融点を上回る温度で縦方向に垂直に(横方向)に伸長した。伸長比は10:1とした。
例11
例10に同様な方法を踏襲し、600gの酸化アルミニウムの代わりに酸化チタン(Hombitan から入手のR-320)を含むフィラー入りテープを作成した。次いでこのフィルムを、結晶融点を上回る温度で、縦方向に垂直に(横方向)2回伸長させた。伸長比は10:1であり、例11.2.4については伸長比は5:1であった(表3参照)。


図9Aと9Bは、例10によって得られた異なる倍率(200倍と3500倍)での本発明のePTFE 膜を示し、ナノ粒子フィラー、即ち、5%のAl_(2)O_(3)を含む。
同様に図10A と10B にePTFE 膜の構造が示されており、ここではナノ粒子フィラーは5%のTiO_(2)からなる。)

以上の記載のうち、特に例5に関する記載(下線部)、及び、表1の例5についての値から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(甲1発明)
「高分子量のPTFEホモポリマー(SSG=2.158g/cc)に21.7%の脂肪族炭化水素を配合し、円筒状ペレットを作成し、このペレットを長方形のオリフィスダイを通して押出し、幅6インチ×厚さ0.027インチの連続テープを得、このテープをロールの間で圧延し、0.006 インチの最終的な厚さを得、このテープを加熱によって乾燥させ、潤滑剤を除去し、5.06:1の合計比にして300 ℃と10フィート/分の線速度で長手方向に延伸膨張させ、この延伸膨張したテープを、370 ℃の加熱ロールに接触させることにより、アモルファス固定し、このアモルファス固定したテープを32.8フィート/分の線速度で、375 ℃の加熱チャンバー中で6.56:1の比で横方向に伸長させて得られた膜であって、フレイジャー空気流量が7.5(水柱0.5インチの圧力差における立方フィート/分/平方フィート)、ボール破裂値が8.93(ポンド)、およそのアスペクト比が200である膜。」


(2)甲第2号証(特開2015-111816号公報)
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
内部空間と、前記内部空間と外部空間とを連通する開口部とを備えた筐体と、
前記開口部を塞ぐように配置された防水通気膜と、
前記内部空間に配置された電気音響変換部品と、を備えた防水通気構造であって、
前記筐体の内面と前記防水通気膜の表面の周縁部とを直接接合する第1両面粘着テープと、
前記防水通気膜の前記表面の反対側の表面の周縁部と前記電気音響変換部品とを直接接合する第2両面粘着テープと、をさらに備え、
JIS L1092高水圧法により測定した前記防水通気膜の耐水圧が50kPa以上であり、
前記第1両面粘着テープの基材が発泡体である、防水通気構造。」

「【請求項4】
前記防水通気膜が延伸ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を備えた、請求項1?3のいずれか1項に記載の防水通気構造。
【請求項5】
防水通気膜と、
前記防水通気膜の表面の周縁部に接合された第1両面粘着テープと、
前記防水通気膜の前記表面の反対側の表面の周縁部に接合された第2両面粘着テープと、を備えた防水通気部材であって、
JIS L1092高水圧法により測定した前記防水通気膜の耐水圧が50kPa以上であり、
前記第1両面粘着テープの基材が発泡体である、
防水通気部材。」

「【0002】
携帯電話、スマートフォン、ノートパソコン等の携帯用電子機器の筐体には、筐体内外の通気を確保するために開口部が設けられている。開口部は、筐体内外の温度差に伴って発生する圧力差を解消し、さらに、マイクロフォン、スピーカー等の電気音響変換部品が配置された筐体の内部と外部との間の通音性を確保する。筐体の内部への水の侵入を防ぐため、開口部に防水通気膜が配置されることが増えてきている。防水通気膜は、典型的には、延伸されて多孔化されたPTFE膜(延伸PTFE多孔質膜)である。
【0003】
開口部への取り付けが容易になるように、防水通気膜と固定用部材とが予め一体化された防水通気部材も知られている。固定用部材としては、例えば防水通気膜の周縁部に貼り付けられた両面粘着テープが用いられる(例えば特許文献1;特許文献1では両面接着テープと表記)。特許文献1には、延伸PTFE多孔質膜を挟み込むように接合された一対の両面粘着テープと、一方の両面粘着テープに接合された音響ガスケットとを備えたアセンブリが開示されている。音響ガスケットの材料としてはシリコーンフォーム等の発泡体が用いられる。」

(3)甲第3号証(特開2015-142282号公報)
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
防水通音膜と、
前記防水通音膜の少なくとも一方側の面に接着された支持層と、を備え、
前記支持層は、ポリオレフィン系樹脂発泡体を備え、
前記支持層の損失弾性率は1.0×10^(7)Pa以下であり、前記支持層の損失係数は1.0×10^(-1)以上である、防水通音部材。」

「【請求項4】
前記防水通音膜は、ポリテトラフルオロエチレン延伸多孔質膜である、請求項1?3のいずれか1項に記載の防水通音部材。」

「【0002】
携帯電話、コードレス電話、ビデオカメラ等の電子機器では、音響装置が筐体に収容されている。これらの筐体は、音の通過を許容するための開口を有する。水が筐体内に入り込むことを防ぐために、この開口に音の通過を許容しつつ水の通過を阻止する防水通音膜を取り付けることが行われている。特許文献1では、防水通音膜としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜が挙げられている。」

(4)甲第4号証(特開2015-111820号公報)
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
音の通過を許容しつつ水の浸入を防止するための防水通音膜であって、
ポリテトラフルオロエチレン膜を有する通音領域を備え、
前記ポリテトラフルオロエチレン膜は、ASTM F316-86に準拠して測定した平均孔径が0.02μm以上0.1μm以下であり、気孔率が5%以上25%以下である、防水通音膜。」

「【請求項6】
前記通音領域を囲む周縁領域をさらに備え、前記周縁領域において、前記ポリテトラフルオロエチレン膜に固定された補強部材と、前記ポリテトラフルオロエチレン膜から見て前記補強部材とは反対側で前記ポリテトラフルオロエチレン膜に固定された粘着層とをさらに含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の防水通音膜。」

「【0002】
携帯電話、ノートパソコン、電子手帳、デジタルカメラまたはゲーム機器等の電子機器は、音声機能を備えている。音声機能を備えた電子機器の筐体の内部には、スピーカー、ブザー等の発音部、またはマイクロフォン等の受音部等が配置されている。典型的な筐体には、音を発音部または受音部に導く開口が設けられている。
【0003】
電子機器の筐体の内部に水滴等の異物が進入することを防止する目的で、防水通音膜で筐体の開口を塞ぐことが行われている。防水通音膜としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜が知られている(特許文献1?3参照)。防水通音膜として用いられるポリテトラフルオロエチレン多孔質膜は、ポリテトラフルオロエチレンファインパウダーと液状潤滑剤とを含む成形体を延伸して多孔化することにより製造されている。」

(5)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の膜は、「高分子量のPTFEホモポリマー」を原料として、延伸膨張、アモルファス固定、伸長などをして得られた膜であるから、「複数の結節と該結節間に形成される複数のフィブリルを有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜」といえるものである。また、この膜は、「フレイジャー空気流量が7.5(水柱0.5インチの圧力差における立方フィート/分/平方フィート)」であるから、単位を変換すれば、「JIS L1096のA法(フラジール形法)に基づいて測定される通気量が3.0cc/cm^(2)・sec以上である」といえる。また、この膜は、「およそのアスペクト比が200」であるから、「結節の長さ/直径で表されるアスペクト比が25以上である」といえる。

したがって、両者の間には、以下の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
下記の(1)を満たす多孔質膜。
(1)JIS L1096のA法(フラジール形法)に基づいて測定される通気量が3.0cc/cm^(2)・sec以上である。
ここで、前記多孔質膜は、
複数の結節と該結節間に形成される複数のフィブリルを有する多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を有し、かつ
前記結節の長さ/直径で表されるアスペクト比が25以上である。

(相違点)
本件特許発明は、「音響装置に用いられる防水通音カバーであって、該防水通音カバーは、周波数3kHzから8kHzまでの範囲の最大音圧レベルと最小音圧レベルの差(以下、最大音圧レベルと最小音圧レベルの差を「音圧レベル差」という)が13.0dB以下を満たす周波数特性曲線を有し、かつ周波数1kHzにおける挿入損失が14.0dB未満であり、更に、下記の(1)および(2)を満たす多孔質膜を有することを特徴とする音響装置用の防水通音カバー。
(1)JIS L1092の耐水度試験B法(高水圧法)に基づいて測定される耐水圧が20kPa以上、55kPa以下であると共に、JIS L1096のA法(フラジール形法)に基づいて測定される通気量が3.0cc/cm^(2)・sec以上である。
(2)ASTM D412に基づいて測定される引張強度が5.5N以上である。」であるのに対し、甲1発明は、「多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜」であるが、その「耐水圧」や「引張強度」は特定されておらず、「多孔質膜を有することを特徴とする音響装置用の防水通音カバー」ではない点。

(6)判断
上記相違点について検討する。
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を音響装置用の防水通音カバーとして使用することは、甲第2号証?甲第4号証に記載されているように周知の技術であるから、甲1発明の膜を音響装置用の防水通音カバーとして使用しようとすること自体は当業者が普通に考えられることである。
しかしながら、甲1発明の膜は、その「耐水圧」や「引張強度」は特定されておらず、たとえ該膜を音響装置用の防水通音カバーとして使用したとしても、該防水通音カバーの音の周波数特性や挿入損失がどのような値になるかは予測できない。
よって、音響装置に用いられる防水通音カバーであって、該防水通音カバーの周波数特性や挿入損失が具体的に数値で規定された請求項1に係る発明が、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、甲第1号証には、例5以外にも例1?4、6?11として膜が記載されているが、いずれの膜も、「耐水圧」「通気量」「引張強度」が請求項1に係る発明のようには特定されていないから、上述した甲1発明と同様のことがいえる。
請求項1を引用して記載された請求項2ないし7に係る発明についても同様である。
したがって、“本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、当業者が、特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は取り消すべきものである”ということはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-06-28 
出願番号 特願2016-147521(P2016-147521)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H04R)
P 1 651・ 537- Y (H04R)
P 1 651・ 536- Y (H04R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 堀 洋介  
特許庁審判長 五十嵐 努
特許庁審判官 渡辺 努
千葉 輝久
登録日 2020-02-06 
登録番号 特許第6656110号(P6656110)
権利者 日本ゴア合同会社
発明の名称 防水通音カバー、防水通音カバー部材および音響装置  
代理人 堂垣 泰雄  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 胡田 尚則  
代理人 出野 知  

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