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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1376151
審判番号 不服2020-15829  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-17 
確定日 2021-08-10 
事件の表示 特願2016-166961「車両用電池パック」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 8日出願公開、特開2018- 37157、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年8月29日の出願であって、令和2年6月15日付けで拒絶理由が通知され、令和2年8月5日に手続補正がなされたが、令和2年9月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和2年11月17日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年9月17日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。
1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項 1、2、4-5
・引用文献等 1-3
・請求項 3
・引用文献等 1-4
<引用文献等一覧>
1.特表2012-516527号公報
2.特開2002-373708号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2012-204129号公報(周知技術を示す文献)
4.米国特許出願公開第2010/0291419号明細書

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1に「前記流動性部材は、潜熱蓄熱材または顕熱蓄熱材のうち、固-液相変化するものであり、」という事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、上記事項は、出願当初明細書の段落【0043】に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないといえる。
また、その余の補正は、請求項2を削除するとともに、請求項3以降の請求項の項番を繰り上げ、引用する請求項の項番の記載を整理する補正であって、請求項の削除を目的とするものである。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-4に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、令和2年11月17日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
熱伝導性を有する筐体と、
前記筐体の内部空間において鉛直方向と直交する幅方向に配列される複数個の電池と、
前記鉛直方向から見た場合に、前記幅方向に間隔をあけて複数配置され、それぞれが前記幅方向と直交する奥行き方向に沿って形成され、少なくとも前記幅方向に隣り合う前記電池の外側面に接触する熱伝導部材と、
熱伝導性および蓄熱性を有し、前記複数個の電池と鉛直方向に対向する前記筐体の内部底面に貯留する流動性部材とを備え、
前記流動性部材は、潜熱蓄熱材または顕熱蓄熱材のうち、固-液相変化するものであり、
前記流動性部材は、前記筐体が傾斜していない状態で、前記複数個の電池に対して鉛直方向に前記内部空間を介して対向し、
前記熱伝導部材は、各前記電池の外側面と接触する接触部から前記鉛直方向に向かって延設された延設部が前記電池の鉛直方向下にある前記流動性部材に浸かることを特徴とする車両用電池パック。
【請求項2】
前記筐体は、前記内部底面から鉛直方向に立設される少なくとも1つの間仕切り壁を有し、
前記間仕切り壁は、鉛直方向から見た場合に、隣り合う前記延設部の間に配置されることを特徴とする請求項1に記載の車両用電池パック。
【請求項3】
前記熱伝導部材は、前記延設部が前記筐体の内部底面と接触することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用電池パック。
【請求項4】
前記熱伝導部材は、各前記電池の外側面と接触する接触部から前記鉛直方向に向かって延設された延設部が前記筐体の内部底面と接触することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の車両用電池パック。」

第5 引用発明、引用文献等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、例えば電気で駆動される自動車で使用される、電池に関するものである。」

「【0004】
本発明の課題は、前述の種類の電池を改善することである。」

「【0025】
図1は静止位置にある本発明の電池1を示し、この場合、電池は静止位置にあり不動である。電池1は電池収納ケース3を備え、電池収納ケースは冷却液4で充填されている。電池収納ケース3の底面6は静止位置では下方に配置されている。冷却液4も静止位置では同じく不動である。冷却液4が電池収納ケース3から漏出しないように、電池収納ケース3は外側方向に対して気密および液密に密閉されている。電池収納ケース3内には5個の電池セル2が相互に距離を保って配置されている。電池セル2は外被5を備え、これは外被5内に配置されているセル空間を外側方向に対して気密および液密に密閉する。セル空間内には少なくとも1つの、ここでは詳細に説明しない、電気セルが配置されている。この電気セルは、例えば複数の電極および2つの電極の間に少なくとも1つの電解質を持つ。この電気セルは本発明の場合は再充電可能な二次電池として形成されている。」



「【0027】
その液体水準が破線の充填水準線7で示されている冷却液4は、電池収納ケース3を部分的にしか充填していないことが認められる。この充填水準線7は、電池1の、静止状態での冷却液表面の位置を表している。充填水準線7の上方には、その中に冷却液が配置されておらず、気体量19が存在可能な領域が形成されている。
【0028】
電流コレクタ8はそれぞれ1つの電流コレクタ部分10を備え、その電流コレクタ部分は電池セル2の外被5から伸延している。この電流コレクタ部分10は完全に冷却液4中に浸没しており、その結果、冷却液4は電流コレクタ部分10を完全に取り囲む。
【0029】
さらに、電池セル2は、電池セル2の外被5も部分的に冷却液で取り囲まれるように冷却液4中に浸されている。言い換えれば冷却液の水準は、電池セル2の外被5も部分的に冷却液で取り囲まれるような高さにある。この場合電池セル2の外被5は70%が冷却液で取り囲まれている。このパーセント値は、電池セル2の外被5の全表面の大きさに対して、電池セル2の、冷却液で取り囲まれている外被5の表面の率である。
【0030】
電池収納ケース3が冷却液で部分的にしか充填されていないことから、例えば自動車が走行することで生じる電池1の移動の際には、冷却液4は自由にあちこちへと揺れ、これにより冷却液4の混合がよくなる。これによって電池セル2から電池収納ケース3へ、または他の冷却機構、例えば冷却剤導管22への熱の伝搬が促される。
【0031】
電池1から独立して、接続導管17を介して電池収納ケース3と接続された冷却装置12が設けられている。・・・(以下、省略)・・・」

「【0033】
電池収納ケース3内の冷却液4が暖かくなるか熱くなると、冷却液4の一部が蒸発し気体量19の一部を形成する。次いで、気化した液体部分は、電池収納ケース3の出口開口部16を通り接続導管17内を冷却装置12の入口開口部13へと搬送され、そこで冷却装置12内の凝縮器へと到達する。気化した冷却液4は凝縮器内で凝縮され、続いて凝縮かつ冷却された冷却液として冷却装置12の出口開口部14、別の接続導管17および電池収納ケース3の入口開口部15を介して電池収納ケース3内に戻される。冷却液の一部分が蒸発することで付加的な冷却効果が生じ、これによりアセンブリの冷却過程が全体として改善される。
【0034】
電池収納ケース3の底面6の近くに冷却剤導管22の形で熱交換装置が配置され、これは冷却液の冷却に付加的に寄与する。」

「【0035】
図2は、構成と機能において図1の電池1に基本的に対応する、代替の実施形態の電池1'を示す。以下では図1の電池に対する違いのみを説明する。
【0036】
電池1'は図1の電池1よりも少ない冷却液4を備えている。ここでは電流コレクタ8の電流コレクタ部分10のみが冷却液4で取り囲まれている。充填水準線7'が外被5よりも低いところに配置されているため、外被5は冷却液4では取り囲まれていない。外被5から伸延する電流コレクタ部分10の表面は、電池セル2の全表面に対して約5%でしかないことから、電池セル2'はその約5%が冷却液で取り囲まれていることになる。」



「【0037】
図3は、構成と機能において図1の電池1に基本的に対応する、代替の実施形態の電池1"を示す。以下では図1の電池に対する違いのみを説明する。
【0038】
電池1"は複数の電池セル2"を備え、ここでは各々の電池セル2"が熱伝導プレート9を備えている。熱伝導プレートは部分的に外被5内に配置されている。熱伝導プレート部分11が外被5から伸延している。この熱伝導プレート部分11は外被5の下側に配置されていて、完全に冷却液4で取り囲まれる。熱伝導プレート部分11はその下端が90°曲がっている。電流コレクタ8"は電流コレクタ部分10"を備え、この部分は外被5から伸延している。この電流コレクタ部分10"は外被5の上側で外被5から伸延している。この場合、電流コレクタ部分10"は冷却液4に取り囲まれていない。充填水準線7は、図2の電池内よりは高いところにあり、ないしは図1の電池よりは低いところにある。電池セル2はほぼ50%が冷却液4で取り囲まれていて、この場合電池セルの表面の算出には、外被5の表面と、電流コレクタ部分10"の表面と、熱伝導プレート部分11の表面とが考慮に入れられる。」



(2)引用文献1に記載された技術事項について
よって、引用文献1には、次の技術事項が記載されている。
ア 段落【0001】より、引用文献1は、「電気で駆動される自動車で使用される電池」に関するものである。

イ 段落【0025】より「電池1は電池収納ケース3を備え、電池収納ケースは冷却液4で充填され」、「電池収納ケース3の底面6は静止位置では下方に配置され」、「電池収納ケース3内には5個の電池セル2が相互に距離を保って配置され」、「電池セル2は外被5を備え」るものである。

ウ 段落【0027】、【0029】より、「冷却液4は、電池収納ケース3を部分的にしか充填していない」で、「電池セル2は、電池セル2の外被5」が「部分的に冷却液で取り囲まれるように冷却液4中に浸され」、「冷却液の水準は、電池セル2の外被5も部分的に冷却液で取り囲まれるような高さにある」。

エ 段落【0038】より、図3の代替の実施形態の電池1"について、「各々の電池セル2"が熱伝導プレート9を備え」、「熱伝導プレートは部分的に外被5内に配置され」、「熱伝導プレート部分11が外被5から伸延し」、「この熱伝導プレート部分11は外被5の下側に配置されていて、完全に冷却液4で取り囲まれ」、「電池セル2はほぼ50%が冷却液4で取り囲まれてい」る。

オ 段落【0031】、【0033】より、「電池1から独立して」、「冷却装置12が設けられ」、「電池収納ケース3内の冷却液4が暖かくなるか熱くなると、冷却液4の一部が蒸発し気体量19の一部を形成」し、「次いで、気化した液体部分は」、「冷却装置12」「へと搬送され、そこで冷却装置12内の凝縮器へと到達」し、「気化した冷却液4は凝縮器内で凝縮され、続いて凝縮かつ冷却された冷却液として」「電池収納ケース3内に戻される」。

(3)引用文献1に記載された発明について
引用文献1の段落【0037】には、「図3は、構成と機能において図1の電池1に基本的に対応する、代替の実施形態の電池1"を示す。以下では図1の電池に対する違いのみを説明する。」と記載されているから、図1の電池1に対応についての上記「ア」ないし「ウ」、及び「オ」の技術事項を図3の代替の実施形態の電池1"について読み替えると、引用文献1には、図3に示された「代替の実施形態」として、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「電気で駆動される自動車で使用される電池1"であって、
電池1"は電池収納ケース3を備え、電池収納ケースは冷却液4で充填され、電池収納ケース3の底面6は静止位置では下方に配置され、電池収納ケース3内には5個の電池セル2"が相互に距離を保って配置され、電池セル2"は外被5を備え、
冷却液4は、電池収納ケース3を部分的にしか充填しておらず、電池セル2は、電池セル2の外被5が部分的に冷却液で取り囲まれるように冷却液4中に浸され、冷却液の水準は、電池セル2"の外被5も部分的に冷却液で取り囲まれるような高さにあり、
各々の電池セル2"が熱伝導プレート9を備え、熱伝導プレートは部分的に外被5内に配置され、熱伝導プレート部分11が外被5から伸延し、この熱伝導プレート部分11は外被5の下側に配置されていて、完全に冷却液4で取り囲まれ、電池セル2"はほぼ50%が冷却液4で取り囲まれ、
電池1"から独立して、冷却装置12が設けられ、電池収納ケース3内の冷却液4が暖かくなるか熱くなると、冷却液4の一部が蒸発し気体量19の一部を形成し、次いで、気化した液体部分は、冷却装置12へと搬送され、そこで冷却装置12内の凝縮器へと到達し、気化した冷却液4は凝縮器内で凝縮され、続いて凝縮かつ冷却された冷却液として電池収納ケース3内に戻される、
電池1"。」

(4)引用文献1の図2に示された技術について
また、引用文献1には、段落【0027】、【0035】、【0036】及び図2より、図2に示された代替の実施形態として、次の技術(以下、「引用文献1の図2に示された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「電池1'は、電池収納ケース3内に少ない冷却液4を備え、冷却液表面の位置を表している充填水準線7'が電池セル2'の外被5よりも低いところに配置されているため、外被5は冷却液4では取り囲まれていない」ものとする技術。

2 引用文献2について
(1)引用文献2に記載された事項について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は素電池を冷却できるようにした電池パックに関するものである。」

「【0007】
【発明の実施の形態】本発明電池パックの第一の実施形態を図1から図7を用いて説明する。
【0008】図において、電池パック1は、電池ケース2a、2b、複数個の素電池3、扁平ヒートパイプ4、放熱フィン5から構成される。」

「【0011】図1、図2において、扁平ヒートパイプ4は俵積みされた3列の素電池3群の間に波板状に挟持され各素電池3の表面に接触するように取付けられており、この部分が扁平ヒートパイプ4の受熱部となる。扁平ヒートパイプ4の両端は放熱部であり、電池ケース2bの外表面に取付けられた冷却フィン5に熱的に結合されている。」



(2)引用文献2に記載された技術について
以上より、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「電池ケース2a、2b、複数個の素電池3、扁平ヒートパイプ4、放熱フィン5から構成され(段落【0008】より。)、
扁平ヒートパイプ4は俵積みされた3列の素電池3群の間に波板状に挟持され各素電池3の表面に接触するように取付けられており、この部分が扁平ヒートパイプ4の受熱部となり、扁平ヒートパイプ4の両端は放熱部であり、電池ケース2bの外表面に取付けられた冷却フィン5に熱的に結合されている(段落【0011】より。)、
電池パック1(段落【0008】より。)」とする技術。

3 引用文献3について
(1)引用文献3に記載された事項について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに、次の技術が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、多数個の単電池で構成される組電池に関し、なかでも組電池の放熱構造に関して改良を加えたものである。」

「【0010】
本発明に係る組電池は、一群の単電池1と、隣接する単電池1の間に配置されるスペーサ2と、温度調整器3と、単電池1およびスペーサ2の配置列を挟持する挟持板4を備えている。温度調整器3は、熱交換部15と、熱交換部15に熱交換流体を供給する流体供給源16とで構成する。そして、スペーサ2は、単電池1に密着する第1伝導部11と、熱交換部15に密着する第2伝導部12とを備えた金属製の伝熱板8と、伝熱板8の外面を覆う伝熱層9とで構成する。使用環境に応じて単電池1の熱をスペーサ2を介して熱交換部15へ伝導し、あるいは熱交換部15の熱をスペーサ2を介して単電池1に伝導することを特徴とする。」

「【0034】
図8および図9は筒形単電池からなる単電池1で構成した組電池の別実施例を示す。そこでは、単電池1の直線列1Aとスペーサ2とを交互に密着する状態で配置し、その上下を一対の挟持板4で挟持固定する点が先の組電池と異なる。上下に重ねた単電池1の直線列1Aの左右には、先の組電池と同様の熱交換部15が配置されて、ボルト29およびナット30で一対の挟持板4に締結してある。」



「【0036】
上記のように構成したスペーサ2は、図8に示すように、第2伝導部12が上向きになる状態と、下向きになる状態とに交互に配置されて、上下のスペーサ2で単電池1の上下周面を挟持している。また、上下に隣接する単電池1の直線列1Aは、伝熱面41の凹み中心の隣接間隔の半ピッチ分だけずれた状態で配置されて、左右方向の単電池1の数が1個だけ多い直線列1Aと、左右方向の単電池1の数が1個だけ少ない直線列1Aとで構成してある。」

「【0041】
本発明の組電池は、電気自動車の電源として使用することができ、その場合には、複数の組電池を電池ケースに組込んで、1個の電源ユニットとすればよい。」

(2)引用文献3に記載された技術について
よって、引用文献3には、図8および図9に示された実施例として、次の技術(以下、「引用文献3に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「筒形単電池からなる単電池1で構成した組電池であって(段落【0034】より。)、
単電池1の直線列1Aとスペーサ2とを交互に密着する状態で配置し、その上下を一対の挟持板4で挟持固定し(段落【0034】より。)、
スペーサ2は、単電池1に密着する第1伝導部11と、熱交換部15に密着する第2伝導部12とを備えた金属製の伝熱板8と、伝熱板8の外面を覆う伝熱層9とで構成し、使用環境に応じて単電池1の熱をスペーサ2を介して熱交換部15へ伝導し、あるいは熱交換部15の熱をスペーサ2を介して単電池1に伝導し(段落【0010】より。)、
電気自動車の電源として使用することができる(段落【0041】より。)、
組電池(段落【0034】より。)」とする技術。

4 引用文献4について
(1)引用文献4に記載された事項について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
ア 「[0002] The present invention relates to the field of battery packs for an electric vehicle.」(当審訳:本発明は、電気自動車用のバッテリパックの分野に関する。)

イ 「[0019] FIGS. 1A and 1B illustrate a top view and side/cross-sectional view of a battery module according to some embodiments. The battery module 100 of FIGS. 1A and 1B comprise a heat exchanger having an outer shell 102 and one or more separators 104, one or more battery cells 106 and coolant 110.・・・(省略)・・・」(当審訳:図1A及び図1Bは、本実施形態に係るバッテリモジュールの上面図および側方断面図を示している。図1A及び図1Bの電池モジュール100は、外側シェル102及び1つ以上のセパレータ104、1つ以上のバッテリーセル106及び冷却液110を有する熱交換器を含む。)



ウ 「The heat exchanger defines a first volume 108A between the inner surface of the shell 102 and the outer surface of the separators 104, and a second volume 108B within the separators 104.」(段落[0020]の第5-8行)(当審訳:熱交換器における、シェル102の内面とセパレータ104の外面との間を第1空間108a、セパレータ104内を第2空間108bと定義する。)

エ 「In some embodiments, the separators 104 are shaped such that when one or more battery cells 106 are positioned within the second volume 108B within the separators 104, all or most of the outer surface of the battery cells is in physical contact with the inner surface of the separators 104.」(段落[0021]の第10-15行)(当審訳:いくつかの実施形態では、セパレータ104は、1つ以上の電池セル106がセパレータ104内の第2空間108b内に配置される場合、バッテリーセルの外側表面の大部分がセパレータ104の内面と物理的に接触されるように形成される。)

オ 「[0024] FIG. 1C illustrates side/cross-sectional view of an alternative embodiment of a battery module 100. The battery module 100 is substantially similar to the battery module 100 shown in FIGS. 1A and 1B except for the differences described herein. Specifically, within the embodiment shown in FIG. 1C , the coolant 110 is able to be an evaporative liquid that only partially fills the first volume 108A and the heat exchanger 101 comprises one or more coolant retaining elements 118, and one or more coolant retention scoops 119. The coolant retention scoops 119 are coupled to the separators 104.・・・(省略)・・・」(当審訳:図1Cは、電池モジュール100の代替実施形態の側方断面図を示している。電池モジュール100は、以下で説明される相違を除いて、実質的に図1Aと1Bに示す電池モジュール100と同様である。具体的には、図1Cに示される実施形態において、冷却液110は、第1空間108aを部分的にのみ充填する蒸発性液体とすることができ、熱交換器101は、1つ以上の冷却液保持要素118、及び1つ以上の冷却液保持凹部119を備えている。保持凹部119は、セパレータ104に結合されている。また、図に示すように冷却液保持凹部119が略矩形であることが留意されるべきである。)






カ 「[0025] The coolant retaining elements 118 and coolant retention scoops 119 are configured such that when a battery module 100 is on an angle, each of the separators 104 and corresponding battery cells 106 remain in substantial contact with the coolant 110. In particular, as shown in FIG. 1D , the coolant retaining elements 118 and/or coolant retention scoops 119 are able to be positioned such that as the battery module 100 is tilted, each portion of the coolant 110 adjacent to each coolant retaining element 118 is still able to build up on the nearest coolant retaining element 118 and/or coolant retention scoop 119, instead of flowing elsewhere or drying up. In some embodiments, the angle at which the battery module 100 is able to be tilted wherein the coolant retaining elements 118 and/or coolant retention scoops 119 are still able to keep the coolant 110 in contact with the separators 104 is between -30 and +30 degrees. In another embodiment, the angle is able to be any angle.」(当審訳:冷却液保持要素118と冷凍液保持凹部119は、電池モジュール100がある角度にあるとき、セパレータ104及び対応するバッテリーセル106のそれぞれが、冷却液110と実質的に接触したままであるように構成される。具体的には、図1Dに示すように、冷却液保持要素118及び/又は冷却液保持凹部119は、電池モジュール100の傾動に伴って、各冷却液保持要素118に隣接した冷却液110の各部分が、他の場所に流れるか又は乾燥する代わりに、依然として最も近い冷却液保持要素118および/または冷却液保持凹部119に蓄積されるように配置することができる。いくつかの実施形態において、冷却液保持要素118及び/又は冷却液保持凹部119が冷却液110をセパレータ104に接触した状態で維持することができる状態で電池モジュール100を傾斜することができる角度は、-30度及び+30度の間にある。別の実施例では、その角度は任意の角度である。)

(2)引用文献4に記載された技術について
よって、引用文献4には、次の技術(以下、「引用文献4に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「電池モジュール100は、外側シェル102及び1つ以上のセパレータ104、1つ以上のバッテリーセル106及び冷却液110を有する熱交換器を含み(「イ」より。)、
熱交換器における、シェル102の内面とセパレータ104の外面との間を第1空間108a、セパレータ104内を第2空間108bと定義し(「ウ」より。)、
セパレータ104は、1つ以上の電池セル106がセパレータ104内の第2空間108b内に配置される場合、バッテリーセルの外側表面の大部分がセパレータ104の内面と物理的に接触されるように形成され(「エ」より。)、
冷却液110は、第1空間108aを部分的にのみ充填する蒸発性液体とすることができ、熱交換器101は、1つ以上の冷却液保持要素118を備え(「オ」より。)、
冷却液保持要素118は、電池モジュール100がある角度にあるとき、セパレータ104及び対応するバッテリーセル106のそれぞれが、冷却液110と実質的に接触したままであるように構成される(「カ」より。)、
電気自動車用の電池モジュール100(「ア」、「イ」より。)」とする技術。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1における「電池収納ケース3」と、本願発明1における「熱伝導性を有する筐体」とは「筐体」の点で一致する。
しかしながら、「筐体」について、本願発明1では、「熱伝導性を有する」とされているのに対し、引用発明1では、そのような特定はなされていない点で相違する。

イ 引用発明1における「下方」は、通常、重力の方向を意味するから、本願発明1における「鉛直方向」に相当する。
次に、引用発明1において「電池収納ケース3内に」「5個の電池セル2"が相互に距離を保って配置される」方向は、図3のとおり、「電池収納ケース3の底面6」の方向(下方、つまり鉛直方向)とは直交する方向であることは明らかであるから、該方向を「幅方向」と定義すれば、本願発明1における「鉛直方向と直交する幅方向」に相当する。
さらに、引用発明1の「電池収納ケース3内」を「鉛直」な方向から見た場合に、上記「幅方向」と直交する方向が、本願発明1における「奥行き方向」に相当する。

ウ 以上の「方向」の対比を踏まえると、引用発明1における「5個の電池セル2"」は、「電池収納ケース3内」において、「電池収納ケース3の底面6」の方向(鉛直方向)とは直交する方向(幅方向)に「相互に距離を保って配置され」ているから、本願発明1における「前記筐体の内部空間において鉛直方向と直交する幅方向に配列される複数個の電池」に相当するといえる。

エ 引用発明1では、「電池収納ケース3内には5個の電池セル2"が相互に距離を保って配置され、電池セル2"は外被5を備え」、「各々の電池セル2"が熱伝導プレート9を備え、熱伝導プレートは部分的に外被5内に配置され、熱伝導プレート部分11が外被5から伸延し、この熱伝導プレート部分11は外被5の下側に配置されていて、完全に冷却液4で取り囲まれ」ている。
すると、上記イで述べた「方向」の対比を踏まえれば、引用発明1の「電池1"」を「鉛直」な方向から見た場合、引用発明1における「熱伝導プレート部分11」は、「幅方向」に「相互に距離を保って配置され」た「電池セル2"」の「外被5内に配置され」ているから、(該幅方向と直交する)「奥行き方向」に延びた「プレート」の形態を有していることは明らかである。
よって、引用発明1における「熱伝導プレート部分11」と、本願発明1の「熱伝導部材」とは、「前記鉛直方向から見た場合に、前記幅方向に間隔をあけて複数配置され、それぞれが前記幅方向と直交する奥行き方向に沿って形成され、少なくとも前記幅方向に隣り合う前記電池に配された熱伝導部材」の点で一致する。
しかしながら、「熱伝導部材」について、本願発明1では「電池の外側面に接触する」のに対し、引用発明1では「電池セル2"」の「外被5内に配置され」ている点で相違する。

オ 引用発明1における「冷却液4」が「底面6」上に貯留するのは明らかである。そして「電池収納ケース3内の冷却液4が暖かくなるか熱くなると、冷却液4の一部が蒸発し気体量19の一部を形成」するから、引用発明1における「冷却液4」と、本願発明1の「流動性部材」とは、「熱伝導性を有し」、「前記筐体の内部底面に貯留する流動性部材」であって、「前記流動性部材は、相変化するもの」である点で一致する。
しかしなから、「流動性部材」について、
(ア)引用発明1では、「電池セル2は、電池セル2の外被5が部分的に冷却液で取り囲まれるように冷却液4中に浸され」、「冷却液の水準は、電池セル2"の外被5も部分的に冷却液で取り囲まれるような高さにあ」り、「この熱伝導プレート部分11は外被5の下側に配置されていて、完全に冷却液4で取り囲まれ、電池セル2"はほぼ50%が冷却液4で取り囲まれ」ているから、「冷却液4」は「電池セル2"」と鉛直方向に内部空間を介して対向するように貯留するものではない。
よって、本願発明1では「前記筐体が傾斜していない状態で、前記複数個の電池と鉛直方向に前記内部空間を介して対向する」ように貯留するものであるのに対し、引用発明1では、そのようなものではない点で相違する。

(イ)本願発明1では、「蓄熱性」を有し「潜熱蓄熱材または顕熱蓄熱材のうち、固-液相変化するものであ」るのに対し、引用発明1では、「冷却液4」とされていることから、蓄熱性は必要な特性とされておらず、また、その「相変化」は、「蒸発」、つまり「液-気相変化」であって、「固-液相変化する」ものではない点で相違する。

カ 引用発明1における「電池1"」は、「電池収納ケース3内に」「5個の電池セル2"が相互に距離を保って配置され」、「電気で駆動される自動車で使用される」から、本願発明1における「車両用電池パック」に相当する。

上記「ア」ないし「カ」より、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるものと認められる。
(一致点)
「筐体と、
前記筐体の内部空間において鉛直方向と直交する幅方向に配列される複数個の電池と、
前記鉛直方向から見た場合に、前記幅方向に間隔をあけて複数配置され、それぞれが前記幅方向と直交する奥行き方向に沿って形成され、少なくとも前記幅方向に隣り合う前記電池に配された熱伝導部材と、
熱伝導性を有し、前記複数個の電池と鉛直方向に対向する前記筐体の内部底面に貯留する流動性部材とを備える、
車両用電池パック。」

(相違点1)
「筐体」について、本願発明1では、「熱伝導性を有する」とされているのに対し、引用発明1では、そのような特定はなされていない点。

(相違点2)
「熱伝導部材」について、本願発明1では「電池の外側面に接触する」のに対し、引用発明1では「電池セル2"」の「外被5内に配置され」ている点。

(相違点3)
本願発明1では「前記筐体が傾斜していない状態で、前記複数個の電池と鉛直方向に前記内部空間を介して対向する」ように貯留するものであるのに対し、引用発明1では、そのようなものではない点。

(相違点4)
本願発明1では、「流動性部材」が「蓄熱性」を有し「潜熱蓄熱材または顕熱蓄熱材のうち、固-液相変化するものであ」るのに対し、引用発明1の「冷却液4」において蓄熱性は必要な特性とされておらず、また、その「相変化」は、「蒸発」つまり「液-気相変化」であって、「固-液相変化する」ものではない点。

(2)判断
ア 事案に鑑みて、先ず相違点4について検討する。

イ 相違点4に係る本願発明1の「『流動性部材』が『蓄熱性』を有し『潜熱蓄熱材または顕熱蓄熱材のうち、固-液相変化するものであ』る」という構成は、上記引用文献1の図2に示された技術にも、引用文献2ないし4に記載された技術にも示されていない。

ウ また、「『蓄熱性』を有し『潜熱蓄熱材または顕熱蓄熱材のうち、固-液相変化するものであ』る『流動性部材』」が周知のものであったとしても、引用発明1では、「気化した冷却液4」を「凝縮器内で凝縮」し「続いて凝縮かつ冷却された冷却液として電池収納ケース3内に戻」す「冷却装置12」を用いているのであるから、そのような、凝縮による液化を利用する「冷却装置12」の冷媒として、「『蓄熱性』を有し『潜熱蓄熱材または顕熱蓄熱材のうち、固-液相変化するものであ』る『流動性部材』」、つまり圧縮による液化を利用し得ない流動性部材を用いることは、当業者であっても容易に想到し得ないことである。

エ よって、相違点4は、当業者であっても、容易になし得たことであるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、本願発明1は、相違点1、相違点2、相違点3を検討するまでもなく、当業者であっても、引用文献1に記載された発明、引用文献1の図2に示された技術、引用文献2ないし4に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4は、本願発明1に所与の限定を付した発明であって、本願発明1の「『流動性部材』が『蓄熱性』を有し『潜熱蓄熱材または顕熱蓄熱材のうち、固-液相変化するものであ』る」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明、引用文献1の図2に示された技術、引用文献2ないし4に記載された技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1ないし4は「『流動性部材』が『蓄熱性』を有し『潜熱蓄熱材または顕熱蓄熱材のうち、固-液相変化するものであ』る」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定で引用された引用文献1ないし4に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶する理由を発見しない。
よって、結論のとおり、審決する。
 
審決日 2021-07-20 
出願番号 特願2016-166961(P2016-166961)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 慎太郎  
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 永井 啓司
清水 稔
発明の名称 車両用電池パック  
代理人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所  

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