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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F21S |
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管理番号 | 1376399 |
審判番号 | 不服2020-14693 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-10-21 |
確定日 | 2021-07-29 |
事件の表示 | 特願2014-246325号「互いに接触する金属製部品と樹脂製部品を備えた物品」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月20日出願公開、特開2016-110802号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年12月4日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年 8月29日付け:拒絶理由通知書 平成30年11月28日 :期間延長請求書(2ヶ月) 平成31年 1月31日 :意見書、手続補正書の提出 令和 1年 6月 7日付け:拒絶理由通知書(最後) 令和 1年 7月10日 :意見書の提出 令和 1年12月25日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 2月17日 :意見書の提出 令和 2年 7月16日付け:拒絶査定 令和 2年10月21日 :審判請求書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1?15に係る発明は、平成31年1月31日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 互いに長手方向に沿って接触する長尺の金属製部品と長尺の樹脂製部品とを少なくとも備え、加熱と冷却に繰り返し曝されるため、前記金属製部品及び樹脂製部品の間の膨張率の差により相互にずれを生じることのある物品であって、前記金属製部品及び樹脂製部品の少なくとも一方は、他方の部品と接触する部分の少なくとも表面の一部が、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)及びポリカーボネート系樹脂(B)を含み、UL94規格V-2を満たし、かつ結晶性を有する熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されている物品。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、令和1年12月25日付け拒絶理由通知書に示された、 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 引用文献1:特開2006-222042号公報 引用文献2:特開2014-141670号公報 第4 引用文献の記載等 1 引用文献1 (1)引用文献1の記載事項(下線は当審が付与。以下同様。) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、セード、及びこれを含む照明器具に関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来のセード9は、図3に示すように、反射板90と、一体化した1つの樹脂成形部品であるパネル91と、一対の金具92,92とを備え、放電灯及び点灯装置とともに照明器具を構成している。反射板90は、金属材料により形成され、放電灯の光を反射させている。パネル91は、例えば明るい照明、デザイン等のユーザの要望により、透明、白色(例えば乳白色)等の樹脂成形によるものが多い。照明器具として、例えば、アクリルにより形成されるパネル91を用いてキラメキ感を演出する店舗用ベースライトが商品化されている。 【0003】 上記従来のセード9は、材料が異なる反射板90とパネル91とを接して取付ねじ93により固定しているので、反射板90とパネル91との間に温度変化による膨張収縮に差が生じ、その結果、異音が発生してしまうという問題があった。上記異音の発生を回避するために、パネル91の取付穴95・・・の形状を大きくしている。しかし、上記取付穴95・・・の形状を大きくした場合、反射板90とパネル91とを組み立てた後の位置のバラツキ、特に長手方向(図3では左上から右下方向)の位置のバラツキが大きくなってしまうという問題があった。」 また、以下の図面が示されている。 【図3】 (2)引用文献1からの認定事項 引用文献1には、上記(1)の段落【0001】の記載から、照明器具のセード9について記載されているところ、上記(1)の記載事項から、次の事項が認定できる。 ア 段落【0002】の「従来のセード9は、図3に示すように、反射板90と、一体化した1つの樹脂成形部品であるパネル91と、一対の金具92,92とを備え、放電灯及び点灯装置とともに照明器具を構成している。反射板90は、金属材料により形成され」との記載から、セード9は、金属材料により形成された反射板90と、一体化した1つの樹脂成形部品であるパネル91と、一対の金具92,92とを備えること。 イ 段落【0003】の「上記従来のセード9は、材料が異なる反射板90とパネル91とを接して取付ねじ93により固定している」との記載、及び【図3】から、反射板90とパネル91は長尺であり、互いに長手方向に沿って接していることが理解できる。 ウ 段落【0003】の「上記従来のセード9は、材料が異なる反射板90とパネル91とを接して取付ねじ93により固定しているので、反射板90とパネル91との間に温度変化による膨張収縮に差が生じ、その結果、異音が発生してしまうという問題があった。」との記載から、セード9は、材料が異なる反射板90とパネル91とを接して固定しているので、反射板90とパネル91との間に温度変化による膨張収縮に差が生じること。 (3)引用文献1に記載された発明 上記(1)及び(2)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載さていると認められる。 「金属材料により形成された反射板90と、一体化した1つの樹脂成形部品であるパネル91と、一対の金具92,92とを備える照明器具のセード9であって、 反射板90とパネル91は長尺であり、互いに長手方向に沿って接しており、 材料が異なる反射板90とパネル91とを接して固定しているので、反射板90とパネル91との間に温度変化による膨張収縮に差が生じる照明器具のセード9。」 2 引用文献2 (1)引用文献2の記載事項 「【請求項1】 ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)5?75質量%、ポリカーボネート樹脂(B)15?90質量%、及び、難燃剤(C)3?25質量%を含む樹脂組成物(X)(ただし、上記成分(A)、(B)及び(C)の合計は100質量%)であって、さらに、前記樹脂組成物(X)100質量部に対して、フッ素樹脂(D)0.05?3質量部を含み、前記成分(A)のゴム成分が融点(Tm)0℃以上のエチレン・α-オレフィン系ゴムを含んでなることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。」 「【請求項6】 難燃性がUL94規格によるHBグレード及び/又はV-2グレードに適合する、請求項1乃至5の何れか一項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。」 「【請求項9】 少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品であって、前記部品の少なくとも1つが請求項8に記載の成形品からなることを特徴とする物品。 【請求項10】 電気若しくは電子機器、光学機器又は照明機器である、請求項9に記載の物品。」 「【0001】 本発明は、ゴム成分としてエチレン・α-オレフィン系ゴムを用いたゴム強化芳香族ビニル系樹脂とポリカーボネート樹脂とのアロイに難燃剤を配合した難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、軋み音の発生が低減された成形品を提供するものに関し、さらには、少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品であって、前記部品の少なくとも1つを上記本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品とすることにより、当該部品同士が接触して擦れ合うことにより発生する軋み音が大幅に低減されたものに関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 かかる実情に鑑み、本発明は、ゴム成分としてエチレン・α-オレフィン系ゴムを用いたゴム強化芳香族ビニル系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイに難燃剤を配合した熱可塑性樹脂組成物であって、成形品に上記のような軋み音が生じるのを低減したものを提供することを目的とする。」 「【0026】 ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のゴム成分を構成する上記ゴム質重合体(a)は、融点(Tm)0℃以上のエチレン・α-オレフィン系ゴム(a1)を含むものであれば特に制限はない。更に、このゴム質重合体(a)は、架橋重合体であってもよいし、非架橋重合体であってもよい。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。 【0027】 本発明に用いられるエチレン・α-オレフィン系ゴム(a1)は、Tm(融点)が0℃以上であればよく、例えば、エチレン・α-オレフィン共重合体が挙げられる。ここで、Tmは、DSC(示差走査熱量計)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度を読みとった値であり、詳細は、JISK7121-1987に記載されている。上記Tmは、好ましくは0?90℃、より好ましくは10?80℃、特に好ましくは20?80℃であり、Tmが0℃未満では、本発明の効果が十分に得られない。尚、DSCの測定において、吸熱変化のピークを明瞭に示さないものは、実質的にゴム質重合体に結晶性がないものであり、Tmを持たないものと判断し、上記Tmが0℃以上のゴム質重合体には含まれないものとする。よって、Tmが存在しないものも軋み音の低減効果に劣る。 【0028】 ゴム質重合体に融点(Tm)があることは、該ゴム質重合体(a)が結晶性部分を有することを意味している。ゴム質重合体(a)中に結晶性部分が存在すると、上記したように、スリップスティック現象の発生を抑制する為、軋み音の発生が抑制されるものと考えられる。」 「【0092】 上述のような接触部を複合的に備えた物品として、図8に示されるような物品が挙げられる。図8の物品において、部品10は底面が全て開口した直方体からなる升状の部品であり、部品20は部品10と同様の形状を備えるとともに上面の中央部に矩形の開口が形成された成形品である。そして、図8に示すように、部品20は部品10の中に嵌合させることができ、部品20の外周面と部品10の内周面は互いに接触し、両者は振動等の外力を受けると僅かに変形して接触及び非接触を繰り返す。図7に良く示されるように、部品20は対向する外側面に突起30を備え、図8に示されるように、部品10は対向する2つの側面に部品20の突起30を収容する穴を備えている。そして、部品10を部品20に嵌合させた時、該穴に突起30がスナップフィットすることにより両部品の嵌合が容易に外れないようにしている。部品10及び部品20の少なくとも1つを本発明の熱可塑性樹脂で成形することにより、例えば、外力が図8(C)の矢印の方向にかけられた場合でも、軋み音の発生を防止することができる。なお、外力の方向は、図8(C)の方向に限定されるものではなく、他の方向から外力が加えられた場合でも、部品10及び部品20の少なくとも1つを本発明の熱可塑性樹脂で成形した場合には、軋み音の発生は防止される。なお、図8の突起30の断面形状及び部品10の穴の形状を変更して、両部品をプレスフィットする構成に変更することもできる。」 「【0098】 本発明の物品において、本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形された成形品からなる部品以外の部品を構成する素材は特に制限はなく、例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、有機質材料、無機質材料、金属材料等が挙げられる。」 (2)引用文献2からの認定事項 上記(1)の記載事項から、「難燃性熱可塑性樹脂組成物」に関し、次の事項が認定できる。 ア 段落【0001】の「少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品であって、前記部品の少なくとも1つを上記本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品とすることにより、当該部品同士が接触して擦れ合うことにより発生する軋み音が大幅に低減されたものに関する。」との記載、段落【0098】の「本発明の物品において、本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形された成形品からなる部品以外の部品を構成する素材は特に制限はなく、例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、有機質材料、無機質材料、金属材料等が挙げられる。」との記載、及び上記「本発明の熱可塑性樹脂組成物」が請求項1の「難燃性熱可塑性樹脂組成物」であること、並びに【請求項10】の「電気若しくは電子機器、光学機器又は照明機器である、請求項9に記載の物品。」との記載によれば、「物品」として「照明機器」が挙げられていることから、2個の互いに接触する部品を含む照明機器であって、当該部品同士が接触して擦れ合うことにより発生する軋み音が大幅に低減するために、2個の部品の1つを難燃性熱可塑性樹脂組成物からなる成形品とし、該難燃性熱可塑性樹脂組成物で成形された成形品からなる部品以外の部品を構成する素材を金属材料とすること。 イ 【請求項1】の「ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)5?75質量%、ポリカーボネート樹脂(B)15?90質量%、及び、難燃剤(C)3?25質量%を含む樹脂組成物(X)(ただし、上記成分(A)、(B)及び(C)の合計は100質量%)であって、さらに、前記樹脂組成物(X)100質量部に対して、フッ素樹脂(D)0.05?3質量部を含み、前記成分(A)のゴム成分が融点(Tm)0℃以上のエチレン・α-オレフィン系ゴムを含んでなることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。」との記載から、難燃性熱可塑性樹脂組成物が、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)、及び、難燃剤(C)含む樹脂組成物(X)であって、さらに、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のゴム成分が融点(Tm)0℃以上のエチレン・α-オレフィン系ゴムを含んでなること。また、段落【0026】の「ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のゴム成分を構成する上記ゴム質重合体(a)は、融点(Tm)0℃以上のエチレン・α-オレフィン系ゴム(a1)を含む」との記載、段落【0028】の「ゴム質重合体に融点(Tm)があることは、該ゴム質重合体(a)が結晶性部分を有することを意味している。ゴム質重合体(a)中に結晶性部分が存在すると、上記したように、スリップスティック現象の発生を抑制する為、軋み音の発生が抑制されるものと考えられる。」との記載から、融点(Tm)0℃以上のエチレン・α-オレフィン系ゴムが結晶性部分を有すること。 ウ 【請求項6】の「難燃性がUL94規格によるHBグレード及び/又はV-2グレードに適合する、請求項1乃至5の何れか一項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。」との記載から、難燃性熱可塑性樹脂組成物の難燃性が、UL94規格によるV-2グレードに適合すること。 (3)引用文献2に記載された事項 上記(1)及び(2)から、次の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載さていると認められる。 「2個の互いに接触する部品を含む照明機器であって、当該部品同士が接触して擦れ合うことにより発生する軋み音が大幅に低減するために、2個の部品の1つを難燃性熱可塑性樹脂組成物からなる成形品とし、該難燃性熱可塑性樹脂組成物で成形された成形品からなる部品以外の部品を構成する素材を金属材料とするものにおいて、 難燃性熱可塑性樹脂組成物が、 ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)、及び、難燃剤(C)含む樹脂組成物(X)であって、さらに、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のゴム成分が融点(Tm)0℃以上の結晶性部分を有するエチレン・α-オレフィン系ゴムを含むものであり、 難燃性がUL94規格によるV-2グレードに適合していること。」 第5 対比 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 1 後者の「金属材料により形成された反射板90」は、前者の「金属製部品」に相当し、後者の「一体化した1つの樹脂成形部品であるパネル91」は、前者の「樹脂製部品」に相当する。そして、後者の「金属材料により形成された反射板90と、一体化した1つの樹脂成形部品であるパネル91と、一対の金具92,92とを備える」構成は、後者の「反射板90とパネル91は長尺であり、互いに長手方向に沿って接して」いるとの事項から、前者の「互いに長手方向に沿って接触する長尺の金属製部品と長尺の樹脂製部品とを少なくとも備え」る構成に相当する。 2 後者の「照明器具のセード9」は、前者の「物品」に相当する。また、後者の「照明器具のセード9」は、段落【0002】の記載によれば「放電灯及び点灯装置とともに照明器具を構成」することが想定されるものであって、該放電灯及び点灯装置は、作動中に熱を発生することは技術常識であるところ、放電灯及び点灯装置の作動、非作動(電源のオン・オフ)により、「照明器具のセード9」が加熱と冷却に繰り返し曝されることは明らかであるから、後者の「材料が異なる反射板90とパネル91とを接して固定しているので、反射板90とパネル91との間に温度変化による膨張収縮に差が生じる照明器具のセード9」は、前者の「加熱と冷却に繰り返し曝されるため、前記金属製部品及び樹脂製部品の間の膨張率の差により相互にずれを生じることのある物品」に相当する。 したがって、本願発明と引用発明は、以下の構成において一致する。 「互いに長手方向に沿って接触する長尺の金属製部品と長尺の樹脂製部品とを少なくとも備え、加熱と冷却に繰り返し曝されるため、前記金属製部品及び樹脂製部品の間の膨張率の差により相互にずれを生じることのある物品。」 本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。 [相違点] 本願発明は、「前記金属製部品及び樹脂製部品の少なくとも一方は、他方の部品と接触する部分の少なくとも表面の一部が、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)及びポリカーボネート系樹脂(B)を含み、UL94規格V-2を満たし、かつ結晶性を有する熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されている」のに対し、 引用発明は、「反射板90」と「パネル91」が接する部分の少なくとも表面の一部が、かかる「熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されている」ことが特定されていない点。 第6 判断 上記相違点について検討する。 1 本願発明の「接触する部分の少なくとも表面の一部」について 本願発明の「前記金属製部品及び樹脂製部品の少なくとも一方は、他方の部品と接触する部分の少なくとも表面の一部」との特定事項における「接触する部分の少なくとも表面の一部」は、請求項2の「前記樹脂製部品は、その全体又は前記金属製部品と接触する部分の一部又は全部が、前記熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されている、請求項1に記載の物品。」との事項を参照すると、「接触する部分の一部又は全部」であることを含むものである。 2 引用文献2に記載された事項の「難燃性熱可塑性樹脂組成物」が「ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)」を含む「樹脂組成物(X)であって、さらに、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のゴム成分が融点(Tm)0℃以上の結晶性部分を有するエチレン・α-オレフィン系ゴムを含むものであ」ることについて 引用文献2の段落【0026】の「ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のゴム成分を構成する上記ゴム質重合体(a)は、融点(Tm)0℃以上のエチレン・α-オレフィン系ゴム(a1)を含むものであれば特に制限はない。」との記載、及び段落【0028】の「ゴム質重合体に融点(Tm)があることは、該ゴム質重合体(a)が結晶性部分を有することを意味している。ゴム質重合体(a)中に結晶性部分が存在すると、上記したように、スリップスティック現象の発生を抑制する為、軋み音の発生が抑制されるものと考えられる。」との記載を参照すると、「難燃性熱可塑性樹脂組成物」が「結晶性部分を有するエチレン・α-オレフィン系ゴムを含む」ことにより、軋み音の発生が抑制される効果を生じさせるものであって、「難燃性熱可塑性樹脂組成物」が結晶性を有するものといえる。 また、このことは、本願発明の「結晶性を有する熱可塑性樹脂組成物(X)」に関し、本願明細書の段落【0027】に「本発明においては、エチレン・α-オレフィン系ゴムとして、融点(Tm)が0?120℃のものを使用することが好ましい。エチレン・α-オレフィン系ゴムのTm(融点)は、より好ましくは10?90℃、さらにより好ましくは20?80℃である。エチレン・α-オレフィン系ゴムが融点(Tm)を有するということは、該ゴムが結晶性を有することを意味する。したがって、かかる融点(Tm)を備えるエチレン・α-オレフィン系ゴムを使用することで、上記熱可塑性樹脂組成物(X)に0?120℃の範囲で融点を発現させ、金属製部品と樹脂製部品との接触部分に耐衝撃性だけでなく、軋み音等の異音抑制効果をさらに優れたものとすることができる。」と記載されているように、結晶性を有するエチレン・α-オレフィン系ゴムを使用することで「結晶性を有する熱可塑性樹脂組成物(X)」とすることが一態様として記載されていることと合致する。 3 引用発明と引用文献2に記載された事項とは、照明装置という技術分野で共通し、また、引用文献1の段落【0003】の「上記従来のセード9は、材料が異なる反射板90とパネル91とを接して取付ねじ93により固定しているので、反射板90とパネル91との間に温度変化による膨張収縮に差が生じ、その結果、異音が発生してしまうという問題があった。」との記載を参照すると、引用発明は、反射板90とパネル91との間に温度変化による膨張収縮に差が生じることで異音が発生してしまうということを問題提起しているから、引用文献2に記載された事項の「部品同士が接触して擦れ合うことにより発生する軋み音が大幅に低減する」との課題においても共通している。 そうすると、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用する動機付けは十分存在するとものいえる。 そして、引用発明において、反射板90とパネル91との間に温度変化による膨張収縮に差が生じ、その結果、異音が発生してしまうとい問題を解決するための具体的手段として、引用文献2に記載された事項を適用し、引用発明の金属材料により形成された反射板90と接する樹脂成形部品の一部又は全部を、引用文献2に記載された事項の「ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B)、及び、難燃剤(C)含む樹脂組成物(X)であって、さらに、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のゴム成分が融点(Tm)0℃以上の結晶性部分を有するエチレン・α-オレフィン系ゴムを含んでなり、難燃性がUL94規格によるV-2グレードに適合」する「難燃性熱可塑性樹脂組成物」にすることは当業者であれば適宜なし得ることである。 引用発明に引用文献2に記載された事項を適用した上記構成は、上記1及び2をも踏まえると、上記相違点に係る本願発明の構成となるものである。 4 本願発明の作用効果も、引用発明及び引用文献2に記載された事項から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。 5 請求人の主張について (1)請求人は、審判請求書において、 「3-3-1-3.引用文献1に引用文献2を組み合わせる阻害要因について 上記3-2-1項で述べたとおり、引用文献1は、異音の防止目的で金属製部品と樹脂製部品との間に小型(つまり長尺ではない)部品(金具6,6)を介して両者の接触面積を減らすことを提案するものである。 したがって、仮に、引用文献2を引用文献1に組み合わせたとしても、上記小型(つまり長尺ではない)部品(金具6,6)の使用を排するものではないから、長尺の金属製部品と長尺の樹脂製部品とが『互いに長手方向に沿って接触する』ことを前提とする本願発明の構成に到達することはない」と主張する。 (2)検討 引用発明の認定は、「第4 1」で述べたように、引用文献1の段落【0001】に記載された技術分野、及び段落【0002】、段落【0003】に記載された背景技術に基づき認定したものであって、請求人が述べているような、金属製部品と樹脂製部品との間に小型(つまり長尺ではない)部品(金具6,6)を介して両者の接触面積を減らすことを特定しているものではない。 引用発明は、「材料が異なる反射板90とパネル91とを接して固定しているので、反射板90とパネル91との間に温度変化による膨張収縮に差が生じる照明器具のセード9」と特定するものであり、問題提起をするに留まるものであるから、上記3で述べたとおり技術分野及び課題が共通する引用文献2に記載された事項を適用にあたって阻害要因が存在するものではない。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者がが容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-05-18 |
結審通知日 | 2021-05-25 |
審決日 | 2021-06-08 |
出願番号 | 特願2014-246325(P2014-246325) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F21S)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 河村 勝也 |
特許庁審判長 |
氏原 康宏 |
特許庁審判官 |
島田 信一 藤井 昇 |
発明の名称 | 互いに接触する金属製部品と樹脂製部品を備えた物品 |
代理人 | 井出 正威 |