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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A42B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A42B
管理番号 1376477
審判番号 不服2019-8343  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-24 
確定日 2021-07-26 
事件の表示 特願2017-559868「ヘルメット」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月8日国際公開、WO2017/148958、平成30年8月23日国内公表、特表2018-523760〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)2月28日(パリ条約による優先権主張 2016年(平成28年)3月1日 英国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 6月13日付け:拒絶理由通知
平成30年 9月10日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年10月26日付け:拒絶理由通知
平成31年 1月30日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 2月22日付け:拒絶査定
令和 元年 6月24日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提出
令和 元年12月23日付け:拒絶理由通知
令和 2年 5月 1日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 7月31日付け:拒絶理由通知
令和 3年 1月13日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?13に係る発明は、令和3年1月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13にそれぞれに記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
相互に摺動するように構成された2つの層を備えるヘルメットにおいて、
前記2つの層のうちの一方又は両方の層の表面が、前記2つの層の間の摺動性を向上させる摺動促進部を備え、
前記摺動促進部が、有機高分子、ポリシロキサン及び界面活性剤を備える、ヘルメット。
【請求項2】
前記ポリシロキサンがポリジメチルシロキサン(PDMS)である、請求項1に記載されたヘルメット。
【請求項3】
前記ポリシロキサンの数平均分子量が少なくとも50,000且つ2,000,000以下である、請求項1または請求項2に記載されたヘルメット。
【請求項4】
前記界面活性剤が、式R’‐[O‐Q‐]_(m)OHの脂肪アルコールアルコキシレートであり、ここで、mは1?20、Qは1?10個の炭素原子を含む二価ヒドロカルビル部分、R’は6?22個の炭素原子を含むヒドロカルビル基である、請求項3に記載されたヘルメット。
【請求項5】
前記摺動促進部が、前記摺動促進部の構造内での前記ポリシロキサンの移動を促進する薬剤を更に含み、
前記薬剤が粒子形態の不活性無機生成物である、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載されたヘルメット。
【請求項6】
相互に摺動するように構成された前記2つの層の一方がヘルメットのアウターシェルである、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載されたヘルメット。
【請求項7】
相互に摺動するように構成された前記2つの層が、それぞれヘルメットのアウターシェル内に位置している、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載されたヘルメット。
【請求項8】
前記2つの層のうちの少なくとも1つが、発泡材料から作られている、請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載されたヘルメット。
【請求項9】
前記摺動促進部が塗布される前記表面又は複数の表面が固体表面である、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載されたヘルメット。
【請求項10】
ヘルメットの第1の層の表面上に摺動促進部を塗布又は形成するステップと、
2つの層が相互に、該2つの層の間で摺動するように構成されるように、前記第1の層を前記ヘルメットの他の層に対して配置するステップとを含む、ヘルメットを製造する方法において、
前記摺動促進部が、
有機高分子、ポリシロキサン及び界面活性剤
を含む、方法。
【請求項11】
前記ヘルメットが請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載されたヘルメットである、請求項10に記載された方法。
【請求項12】
前記方法が、
(a)前記有機高分子と、前記ポリシロキサンと、前記界面活性剤と、少なくとも1つの溶剤とを含む組成物を前記表面に塗布するステップ、及び、
(b)塗布された前記組成物を乾燥させるステップ
を含む、請求項10に記載された方法。
【請求項13】
前記摺動促進部が、スクリーン印刷することによる塗布される、請求項10から請求項12までのいずれか一項に記載された方法。」

第3 拒絶の理由
令和2年7月31日付けで当審が通知した拒絶理由のうち、理由1及び4の概要は、以下のとおりである。

1.(サポート要件)本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.(進歩性)この出願の請求項1?9に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明及び引用文献2?3に例示される周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特表2003-518203号公報
引用文献2:特表2009-520082号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2000-63640号公報(周知技術を示す文献)

第4 当審の判断
1 理由1(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)について
本願の発明の詳細な説明の記載によれば、本願は「斜めの衝撃に対する防護の向上を提供すること」(【0010】)を、発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)としている。
本願の発明の詳細な説明には、「摺動促進部4も取付手段とエネルギー吸収層との間の摺動を促すだろう。これによって、脳に回転エネルギーとして伝達されうるエネルギーを制御的に消散させることができる。」(【0044】)、「添加剤にはラッカーを用いて試験した。具体的には、組成物を担体に固定して動的摩擦係数を測定することで、組成物を摺動促進部として使用することへの適性を試験した。低摩擦が有益である。」(【0159】)、「摩擦測定は、ヘルメットに用いられているEPSの最大環境収容力よりも僅かに低い圧力で行われた。380mm^(2)の9kgの荷重が用いられ、これにより232KPaの圧力が生じた。測定時の摺動速度は秒速5cmである。動的摩擦係数はISO15359を参照して測定したものを報告する。また、上記と同じ手順を用い、且つ、摺動が開始した時点の力を読み取ることによって静的摩擦係数も測定した。」(【0162】)と記載されている。
当該記載、特に「具体的には、組成物を担体に固定して動的摩擦係数を測定することで、組成物を摺動促進部として使用することへの適性を試験した。低摩擦が有益である。」(【0159】)との記載から、上記課題は、「動的摩擦係数」を低減することで解決されると認められる。
令和3年1月13日提出の手続補正書 により補正された明細書の【0164】【表1】に記載された実施例について、【表1】の一番上の段に記載された実施例(ラッカー「なし」、添加剤「なし」、処理及びメモ「未処理のポリカーボネートシート」)から、【表1】の一番下の段に記載された実施例(ラッカー「G」、添加剤「5%H(DC52)」、処理及びメモ「印刷インク第2種光沢/熱老化あり」)までの16の実施例について、以下、上から順に実施例No.1?16とする。
請求項1に係る発明に対応した実施例のうち実施例No.14の動的摩擦は0.24であり、摺動促進部が設けられていない実施例No.1の動的摩擦も0.24であって、実施例No.1と実施例No.14との動的摩擦に差異はない。
発明の詳細な説明には、発明の詳細な説明の【0165】に実施例No.10(E、5%H(DC52)、摺動摩擦係数0.07)について角加速度測定を行い「図6は摺動促進部の有利な効果を示す。」と記載されているが、図6の実験結果を参酌しても、実施例No.14が実施例No.1と比較して、斜めの衝撃に対する防護の向上に有益である、すなわち上記課題を解決できることとまで当業者が理解することはできないものである。
してみると、上記課題を解決することできると当業者が認識することができない実施例No.14を含む請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

なお、出願人は、令和3年1月13日提出の意見書において、「本発明の課題解決には「動的摩擦」だけでなく「静摩擦係数」も有用である」と主張している。
以下、仮に「動的摩擦係数」に加えて「静的摩擦係数」を考慮したとして検討する。
請求項1に係る発明に対応した実施例のうち実施例No.14の静的摩擦は0.24であり、摺動促進部が設けられていない実施例No.1の静的摩擦は0.28であって、実施例No.1と実施例No.14との動的摩擦には上記のとおり差異はなく、静的摩擦についてもその差は0.04だけである。
そして、発明の詳細な説明には「低摩擦が有益である」(【0059】)と記載されているものの、それを裏付ける実験結果は、なんら示されていないことから、上で述べたように、実施例No.14が実施例No.1と比較して、斜めの衝撃に対する防護の向上に有益である、すなわち上記課題を解決できることとまで当業者が理解することはできないものである。
してみると、「動的摩擦係数」に加えて「静的摩擦係数」を考慮したとしても、上記課題を解決することできると当業者が認識することができない実施例No.14を含む請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものである。

2 理由4(特許法第29条第2項:進歩性)について
(1)引用発明
ア 引用文献1
引用文献1には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 防護ヘルメットであって、
外部シェル(2)とその内側に配置された内部シェル(3)との間に、前記防護ヘルメットに対する斜め方向の衝撃の場合に、前記内部シェルに対する前記外部シェルの変位を可能にするスライド層(4)を有すると共に、前記外部シェルと前記内部シェルを相互連結する連結部材(5)をその縁部に有し、
前記外部シェル(2)が硬質タイプであり、かつ前記ヘルメットの半径方向で前記内部シェル(3)よりも硬質であること、
前記内部シェル(3)が、装着者の頭部に接触するためのものであること、
前記連結部材(5)が、前記外部シェル(2)と前記内部シェル(3)間の形状嵌め合いからなること、および
このような形状嵌め合いが、前記ヘルメットの前記硬質の外部シェルに対する斜め方向の衝撃の場合に、前記外部シェルと前記内部シェル間の移動を拮抗させ、このようにして前記外部シェルと前記内部シェルの間の変位時に衝撃エネルギーを吸収するように設計されていることを特徴とする防護ヘルメット。」
(イ)「【0005】
(発明の説明)
効果的な防護ヘルメットは、特許請求項1の特徴記載部分による特徴を有する一実施形態によって得られる。
【0006】
回転エネルギーを同時吸収する間に、このヘルメットの外部シェルをその内部シェルに対して移動させることができるので、装着者に作用する損傷力を軽減し、したがって損傷の危険性を軽減することができる。

【0008】
現在では防護用ヘルメットにとって通例になっている特徴を有する内部シェルを防護ヘルメットに用いることによって、半径方向の衝撃および斜め方向の衝撃を良好に吸収する防護ヘルメットが得られ、よって装着者を良好に防護することができる。」
(ウ)「【0011】
(好ましい実施形態の説明)
図1に概略的に示す本発明による防護ヘルメット1は、外部シェル2およびその内部に配置した装着者の頭部に接触するための内部シェル3から構成される。外部シェル2と内部シェル3の間にスライド層4が配置されており、この層によって外部シェル2および内部シェル3間の移動が可能になる。ヘルメットの縁部に、1つまたは複数の連結部材5が配置されており、それが外部シェル2と内部シェル3を相互連結し、エネルギーを吸収することによってそれらの間の相互変位を打ち消す。
【0012】
外部シェル2は、比較的薄くかつ様々なタイプの衝撃に耐えるように強靭であり、有利なことに、例えば繊維強化プラスチックから作製することができる。内部シェル3は、かなり厚く、頭部に対する衝撃を鈍化または吸収できるはずである。有利なことに、それは、例えば、発泡ポリウレタンまたはポリスチレンから作製することができる。その構造は、以下に示すが、例えば様々な材料からなる幾つかの層を有し、様々に異なり得る。様々な幾つかの材料および実施形態、例えば、オイル、テフロン(登録商標)、マイクロスフェア、空気、ゴム等をスライド層4として用いることができる。有利なことに、このような層はおおよそ0.1?5mmの厚みを有するが、選択する材料および所望の性能によっては他の厚みも使用可能である。連結部材5としては、例えば、プラスチックまたは金属の変形可能な細片を利用でき、それらを外部シェルおよび内部シェルの中に適切に繋止する。」
(エ)「【0027】
上で用いたスライド層という用語は、2つの部分の間に位置し、滑動または別の方法によってこれらの部分間の相互変位を円滑にする層をいう。このスライド層の構造は、材料および設計に関して、広い範囲内で異なり得る。スライド層の数およびそれらの配置も同様に異なり得る。」

イ 引用文献1に記載された発明
上記アの摘記事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「外部シェル2と内部シェル3の間にスライド層4が配置されており、スライド層4は、滑動または別の方法によってこれらの部分間の相互変位を円滑にする層であり、オイル、テフロン(登録商標)、マイクロスフィア、空気、ゴム等である、ヘルメット1。」

ウ 引用文献2
引用文献2には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ウェザーストリップ等のゴム又はポリマー基材の塗料として塗布した場合に物体との接触時の基材の騒音(異音、ノイズ)量を低減し、また物体との初期静摩擦係数を長期にわたって維持する、有機溶剤を実質的に含まない水性組成物に関する。」
(イ)「【0005】
ゴム又はポリマーの塗料としての水性分散組成物は、約50重量%から約85重量%の量で少なくとも一種のポリシロキサン自体と、上記ポリシロキサンの全てと上記ポリウレタンポリマーの全ての全重量に対して約15重量%から約50重量%の量で脂肪族ジイソシアナートから誘導された少なくとも一種の熱硬化性ポリウレタンを含むポリマーブレンドを含む。高い耐熱性高分子量ポリオレフィンポリマーのような様々なフィラーが、少なくとも一種のポリシロキサン及び少なくとも一種の熱硬化性ポリウレタンのようなポリマー固形物の全重量に対して、約5から約35重量部の量で導入される。様々なポリアミド、シリカ、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーンゴム粉末及びセラミックスフィアのような他のフィラーは一般にドライノイズ値を減少させるがウェットノイズ値は一般には減少させない。得られる分散塗料は実質的に有機溶剤を含有せず、EPDMウェザーストリップのようなポリマー又はゴム基材への塗布時に約38dBA未満まで車両の内部ノイズレベルを低下させる。塗料はまた、典型的な塗布ウェザーストリップと異なり経時的に増大しない低摩擦表面をもたらす。
【0006】
本発明の物理的水性分散塗料組成物は、好ましくは式:

(上式中、R^(1)及びR^(2)は独立して、メチル基と共に1から約4の炭素原子を有するアルキルである)を有する少なくとも一の繰り返し単位を有する水性分散体の形態の、少なくとも一種のポリシロキサンを含んでいる。従って、(ポリジメチルシロキサン)が好ましいポリシロキサンである。一又は複数種のポリシロキサンが耐摩耗性を付与し、塗料が基材に塗布され硬化したときに摩擦係数値を減じる。適切な数平均分子量は一般に約100000から約500000、望ましくは約200000から約400000の範囲である。かかるポリシロキサンは当該分野でまた文献から知られ、市販されており、一般に約20重量%から約50重量%、望ましくは約25重量%から約40重量%の固形含量を有している。」
(ウ)「【0024】
レオロジー添加剤にはまた数多くの湿潤剤が含まれ、フッ素化アニオン性界面活性剤が一般的に望ましい。水性分散塗料組成物の特定の製剤に応じて、量は、一又は複数種のポリシロキサン自体と一又は複数種のポリウレタン自体の全100重量部に対して、約0.05から約0.5重量部のように大きく変化しうる。…」

エ 引用文献3
引用文献3には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、非つや消し(non-flatting)スリップ増大(slip-enhancing)コーティング添加剤、この添加剤を含有する粉末コーティング組成物、およびこの粉末コーティング組成物を用いて基板をコーティングする方法に関する。
【0002】
【従来の技術】スリップとは、互いに接触している2個の物体間の相対運動である。物体が表面に沿って移動するなら、この運動とは反対の方向に作用する抵抗が存在する。この抵抗力はまた、摩擦力と呼ばれ、これは、接触している2個の表面の凹凸から生じる摩擦である。
【0003】コーティング系(粉末コーティングを含めて)は、固体物体に接触したとき、損傷を受けやすい。例えば、塗料フィルムは、まだ硬化していないとき、乾燥中に容易に損傷を受け得る。エナメルを焼く場合、そのフィルムがまだ完全には冷却していないとき、損傷が起こり得る。さらに、引っかき傷(これは、表面上の不連続である)は、空気中の不純物および腐食性試薬の付着を引き起こし、最終的に、腐食の問題を生じ得る。粉末コーティング系は、当業者に周知である。多くの粉末コーティングに付随した一般的な問題点は、それらが、損傷または引っかき傷を受けやすいことにある。
【0004】スリップ添加剤は、このような損傷に対して、ある程度の保護を与える。例えば、自動車のコーティング用途では、スリップ添加剤は、新たに塗布した完全に硬化していないエナメルを保護し、また、缶のコーティングでは、充填および配達中において、そのコーティングを保護する。
【0005】スリップおよび損傷(または引っかき傷)抵抗性の概念は、同じ添加剤が両方の機能を果たす(スリップを与え引っかき傷抵抗性を与える)ことができるという点で、非常に密接に相関している。さらに、両者の基礎になる原理は、同じである。添加剤を含有する塗料フィルムに接触している硬い物体は、この添加剤の表面潤滑性のために、歪み得る。これにより、見掛けのフィルム硬度または引っかき傷抵抗性が高くなる。
【0006】スリップ添加剤は、一般に、いくつかの要件を満たさなければならない。この添加剤は、この乾燥工程中に、このフィルム表面に移動すべきであり、このコーティングに接着するだけでなくその流動性およびレベリング性に好ましい影響を与えるフィルムを形成する。さらに、このフィルムは、潤滑特質(これは、非常に薄い層において、負荷を支持する能力として示される)を有しなければならない。
【0007】約30年間にわたって、損傷およびスリップ添加剤として、シリコーン化学に基づいた化合物が使用されている。シリコーンベースのスリップ添加剤の例には、ポリジメチルシロキサン、ポリオキシアルキレンシロキサン(ポリシロキサン/ポリエーテル)共重合体、およびポリオキシアルキレン-メチルアルキルシロキサン共重合体が包含される。」

(2)本願発明と引用発明の対比・判断
ア 対比
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明とを対比すると、引用発明の「外部シェル」と「内部シェル」とは、滑動または別の方法によってこれらの部分間が相互変位するものであるから、本願発明1の「相互に摺動するように構成された2つの層」に相当する。
また、引用発明の「スライド層」は、外部シェルと内部シェルの間に配置されているものであって、これらの部分間の相互変位を円滑にしている層であるから、本願発明1の「前記2つの層のうちの一方又は両方の層の表面」に備えられ、「前記2つの層の間の摺動性を向上させる摺動促進部」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「相互に摺動するように構成された2つの層を備えるヘルメットにおいて、
前記2つの層のうちの一方又は両方の層の表面が、前記2つの層の間の摺動性を向上させる摺動促進部を備える、ヘルメット。」
の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>
「摺動促進部」について、本願発明1では、「有機高分子、ポリシロキサン及び界面活性剤を備える」のに対して、引用発明では、「オイル、テフロン(登録商標)、マイクロスフィア、空気、ゴム等である」点。

イ 当審の判断
上記相違点について検討する。
引用文献2に「本発明は、車両用ウェザーストリップ等のゴム又はポリマー基材の塗料として塗布した場合に物体との接触時の基材の騒音(異音、ノイズ)量を低減し、また物体との初期静摩擦係数を長期にわたって維持する、」(上記摘記事項(1)ウ(ア))と記載され、引用文献3に「本発明は、非つや消し(non-flatting)スリップ増大(slip-enhancing)コーティング添加剤、この添加剤を含有する粉末コーティング組成物、およびこの粉末コーティング組成物を用いて基板をコーティングする方法に関する。」及び「スリップとは、互いに接触している2個の物体間の相対運動である。物体が表面に沿って移動するなら、この運動とは反対の方向に作用する抵抗が存在する。この抵抗力はまた、摩擦力と呼ばれ、これは、接触している2個の表面の凹凸から生じる摩擦である。」(上記摘記事項(1)エ(ア))と記載されていることを踏まえると、2つの部分の間の摩擦を低減させるために、ポリシロキサンを添加物として用いた有機高分子を含む塗料によって、基材表面に被覆層を形成することは、本願の優先日前に周知技術であった(必要であれば、引用文献2の上記摘記事項(1)ウ(ア)、(イ)、引用文献3の上記摘記事項(1)エ(ア)を参照。以下「周知技術1」という。)。
また、塗料の分散性を向上させるために界面活性剤を含ませることも、本願の優先日前に周知技術であった(必要であれば、引用文献2の上記摘記事項(1)ウ(ウ)を参照。以下「周知技術2」という。)。
引用発明の「スライド層」は、「2つの部分の間に位置し、滑動または別の方法によってこれらの部分間の相互変位を円滑にする層」(上記摘記事項(1)ア(エ))であるから、引用発明には、「スライド層」として、「2つの部分の間に位置し、滑動または別の方法によってこれらの部分間の相互変位を円滑にする」ものを採用する動機付けがあるから、引用発明1において上記周知技術1を参考にして、スライド層が、有機高分子、ポリシロキサンを備えるようにすることは、当業者が容易にできたことである。
また、その際、塗料の分散性を向上させることでスライド層の均一性を高めるため、上記周知技術2を参考にして、スライド層が、界面活性剤を備えるようにすることに格別の困難性はない。

<本願発明1の効果について>
そして、本願発明1の奏する効果は、引用発明及び周知技術1、2から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

<請求人の主張について>
請求人は、令和3年1月13日提出の意見書において、「・・・当業者は、引用文献2および引用文献3の塗料を、引用文献1のヘルメットの斜めの衝撃に対する保護の改善を可能にする組成物に用いること、そして2層の間の摺動層として用いられることは容易には想到できるものではない。」(【意見の内容】(E)理由4(進歩性)について)と主張している。
当該主張については上述のとおり、引用文献2及び引用文献3に記載された周知技術1も2つの部分の間の摩擦を低減させるものである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明及び周知技術1、2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明である。

第5 まとめ
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-02-24 
結審通知日 2021-02-25 
審決日 2021-03-09 
出願番号 特願2017-559868(P2017-559868)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A42B)
P 1 8・ 121- WZ (A42B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 住永 知毅▲高▼橋 杏子▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 藤井 眞吾
石井 孝明
発明の名称 ヘルメット  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
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