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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1376511
審判番号 不服2019-17606  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-26 
確定日 2021-08-17 
事件の表示 特願2018- 57327「グリッド偏光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月14日出願公開、特開2018- 92202、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2018-57327号(以下「本件出願」という。)は、平成27年7月3日に出願された特願2015-134821号の一部を平成30年3月24日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成31年 2月25日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月26日 :意見書
平成31年 4月26日 :手続補正書
令和 元年 9月27日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年12月26日 :審判請求書
令和 元年12月26日 :手続補正書
令和 2年 9月25日付け:拒絶理由通知書
令和 2年11月30日 :意見書
令和 2年11月30日 :手続補正書
令和 3年 2月18日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 4月23日 :意見書
令和 3年 4月23日 :手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は、令和3年4月23日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項6に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
透明基板と、透明基板上に形成された縞状のグリッドとを備えた265nmより短い波長の紫外域の光の偏光用のグリッド偏光素子であって、
グリッドを形成する各線状部は、透明基板に近い側の第一の層と、透明基板から遠い側の第二の層とが積層されたものであり、
第一の層は、貴金属で形成されており、
第二の層は、酸化チタンで形成されており、
第一の層の貴金属は、塩素系エッチャントに酸素又は窒素を添加した際のエッチング速度の低下が第二の層の材料よりも小さい材料であり、
第二の層の高さは、第一の層と第二の層との全体の高さの50%以上(100%を除く)であることを特徴とするグリッド偏光素子。

【請求項2】
前記第一の層は、透明基板上にスパッタリングにより作成された層であることを特徴とする請求項1記載のグリッド偏光素子。

【請求項3】
前記第一の層は、前記スパッタリングにより作成された貴金属の膜をエッチングすることで前記縞状とされた層であり、前記第二の層は、このエッチングの際にマスクとして使用された層であってエッチング後も残留した層であることを特徴とする請求項2記載のグリッド偏光素子。

【請求項4】
前記第二の層は、原子層堆積法により作成された層であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のグリッド偏光素子。

【請求項5】
前記第一の層の材料は、イリジウムであることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のグリッド偏光素子。

【請求項6】
前記第一の層の材料は、金又はロジウムであることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のグリッド偏光素子。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、(進歩性)本件出願の請求項1?請求項7に係る発明(平成31年4月26日にした手続補正後のもの)は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
(引用例等一覧)
引用例1:特開2015-64426号公報
引用例2:特表2010-501085号公報
引用例3:特開平9-266200号公報
引用例4:特開2013-143390号公報
引用例5:特表2015-500508号公報
引用例6:特開2010-145854号公報
(当合議体注:引用例1は主引用例であり、引用例2?引用例4は副引用例である。引用例5及び引用例6は、周知技術を示す文献である。)

4 当合議体の拒絶の理由
(1) 令和2年9月25日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、
理由1(進歩性)本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
理由2(サポート要件)本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるということができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、
理由3(明確性)本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるということができないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものである。
(引用例等一覧)
引用例A:特開2015-64426号公報(原査定の拒絶の理由において引用された引用例1)
引用例B:特表2010-501085号公報(同引用例2)
引用例C:特開2015-121693号公報
引用例D:米国特許出願公開第2015/0185386号明細書
引用例E:特表2015-500508号公報(同引用例5)
引用例F:国際公開第2013/146816号
引用例G:Chee Won Chung 他、"High-Density Plasma Etching of Iridium Thin Film in a Cl_(2)/O_(2)/Ar Plasma"、Journal of The Electrochemical Society、2003、150(5)、p.G297-G299
引用例H:特開2013-143390号公報(同引用例4)
(当合議体注:引用例Aは主引用例である。引用例Bは副引用例である。引用例C?引用例Hは、副引用例であるか、周知技術あるいは技術常識を示す文献である。)

(2) 令和3年2月18日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由は、理由4(サポート要件)本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるということができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。

第2 当合議体の判断
1 引用例の記載及び引用発明
(1) 引用例Aの記載
原査定の拒絶の理由及び当審拒絶理由において引用された引用例A(特開2015-64426号公報)は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、透明基板上に設けられた複数の線状部からなる縞状の格子とを備えたグリッド偏光素子であって、
縞状の格子は、偏光作用を為す透明基板側の第一の層と、第一の層の上側に位置する第二の層とより成るものであり、
第二の層は、透光性の材料で形成され、第一の層より高さが低いものであることを特徴とするグリッド偏光素子。
【請求項2】
前記第二の層は、前記第一の層をエッチングによって形成する際のエッチャントに対する耐性が第一の層に比べて高い材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載のグリッド偏光素子。
【請求項3】
前記第二の層の材料は、使用波長における消衰係数が実質的にゼロであることを特徴とする請求項1又は2記載のグリッド偏光素子。
【請求項4】
前記第二の層は、高さが10nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のグリッド偏光素子。
【請求項5】
前記使用波長は、200nm以上400nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のグリッド偏光素子。
【請求項6】
前記第一の層は、シリコンで形成されていることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のグリッド偏光素子。
【請求項7】
前記第二の層は、酸化チタン、酸化シリコン、酸化タンタル、酸化ニオブ、アルミナ、酸化ハフニウム、イットリア、ジルコニア、インジウム酸スズ、酸化セリウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、フッ化マグネシウムの何れか一種以上の材料より成ることを特徴とする請求項1又は2に記載のグリッド偏光素子。
【請求項8】
透明基板と、透明基板上に設けられた縞状の格子とを備えたグリッド偏光素子を製造するグリッド偏光素子製造方法であって、
透明基板上に第一の薄膜を作成する第一の成膜工程と、
第一の薄膜の上に第二の薄膜を作成する第二の成膜工程と、
第二の薄膜をエッチングして第二の薄膜を縞状の第二の層とする第一のエッチング工程と、
縞状とされた第二の層をマスクにして第一の薄膜をエッチングして第一の層とする第二のエッチング工程とを有しており、
第一の成膜工程は、偏光作用をもたせる材料で第一の薄膜を作成する工程であり、
第二の成膜工程は、透光性の材料で第二の薄膜を作成する工程であり、
製造されたグリッド偏光素子において第二の層の高さが第一の層より低い構造とすることを特徴とするグリッド偏光素子製造方法。
・・・略・・・
【請求項15】
透明基板と、透明基板上に設けられた縞状の格子とを備えたグリッド偏光素子を製造するグリッド偏光素子製造方法であって、
透明基板上に第一の薄膜を作成する第一の成膜工程と、
犠牲層用の第三の薄膜を第一の薄膜の上に作成する第三の成膜工程と、
第三の薄膜をフォトリソグラフィにより縞状として犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
犠牲層の側面を含む領域に第二の薄膜を作成する第二の成膜工程と、
犠牲層の側面に形成された部分が残留した状態で第二の薄膜をエッチングする第一のエッチング工程と、
犠牲層を除去して、縞状の第二の層を形成する犠牲層除去工程と、
縞状とされた第二の層をマスクにして第一の薄膜をエッチングして第一の層を形成する第二のエッチング工程と
を有しており、
第一の成膜工程は、偏光作用をもたせる材料で第一の薄膜を作成する工程であり、
第二の成膜工程は、透光性の材料で第二の薄膜を作成する工程であり、
製造されたグリッド偏光素子において第二の層の高さが第一の層より低い構造とすることを特徴とするグリッド偏光素子製造方法。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本願の発明は、偏光された状態の光(偏光光)を得る偏光素子に関するものであり、特に透明基板上にグリッド(格子)を形成した構造のグリッド偏光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光光を得る偏光素子は、偏光サングラスのような身近な製品を始めとして偏光フィルタや偏光フィルム等の光学素子として各種のものが知られており、液晶ディスプレイ等のディスプレイデバイスでも使用されている。偏光素子には、偏光光を取り出す方式から幾つかのものに分類されるが、その一つにワイヤーグリッド偏光素子がある。
・・・略・・・
【0005】
このような偏光素子の性能を示す基本的な指標は、消光比ERと透過率TRである。消光比ERは、偏光素子を透過した偏光光の強度のうち、s偏光光の強度(Is)に対するp偏光光の強度(Ip)の比である(Ip/Is)。また、透過率TRは、通常、入射するs偏光光とp偏光光の全エネルギーに対する出射p偏光光のエネルギーの比である(TR=Ip/(Is+Ip))。理想的な偏光素子は、消光比ER=∞、透過率TR=50%ということになる。
・・・略・・・
【0006】
図5は、従来のグリッド偏光素子の製造方法の概略図である。グリッド偏光素子は、透明基板1上にフォトリソグラフィによって格子2を形成することで製造される。具体的には、図5(1)に示すように、まず透明基板1上に格子用薄膜40を作成する。そして、図5(2)に示すように、格子用薄膜40の上にフォトレジスト50を塗布する(図5(2))。次に、形成するパターンを有するマスクを介してフォトレジスト50を露光し、現像を行ってフォトレジストのパターン5を得る(図5(3))。
【0007】
次に、レジストパターン5の側からエッチャントを供給し、レジストパターン5で覆われていない箇所の格子用薄膜40をエッチングする。エッチングは、格子用薄膜40の厚さ方向に電界を印加しながら行う異方性エッチングであり、格子用薄膜40が縞状にパターン化される(図5(4))。その後、図5(5)に示すように、レジストパターン5を除去すると、格子2が得られ、グリッド偏光素子が完成する。格子2は、一定の方向に延びる線状部3を間隔をおいて平行に多数配置した構造であるので、ラインアンドスペースとしばしば呼ばれる。
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
偏光素子のある種の用途では、可視域の短波長側の光や紫外域の光といった短い波長域の光を偏光させ、ある程度広い照射領域に照射することが必要になってきている。
・・・略・・・
【0011】
しかしながら、発明者の研究によると、ある程度の大きさのグリッド偏光素子を製造してある程度の大きさの領域に偏光光を照射しようとすると、照射領域の周辺部において消光比ERが低下する問題があることが判明した。
・・・略・・・
【0012】
図6は、グリッド偏光素子の製造におけるエッチング工程を模式的に示した正面断面概略図である。
エッチング工程では、反応性ガスのプラズマを形成し、透明基板1の厚さ方向に電界を設定する。プラズマ中のイオン(エッチャント)は電界によりプラズマから引き出されて格子用薄膜に入射し、格子用薄膜と反応して格子用薄膜をエッチングする。
この際、図6に示すように、透明基板1はステージ7上に載置されており、ステージ7上で移動しないよう透明基板1の周縁は押さえリング71でステージ7上に押さえつけられている。押さえリング71は、透明基板1の輪郭の形状に沿った周状であり、耐エッチング性の材料(即ち、エッチャントによってはエッチングされない材料)で形成される。
【0013】
エッチングの際、エッチャントは格子用薄膜との反応によって消費される。この場合、透明基板1上の周辺部では、押さえリング71があるため、エッチャントの消費量は中央部に比べて少ない。このため、エッチャントは、中央部に比べて周辺部において多く存在する空間分布となる。
透明基板1の周辺部上においてエッチャントが過剰に存在すると、周辺部において過剰にエッチングがされることになる。即ち、中央部において、正常にエッチングが終了するまでエッチングを行うと、周辺部ではエッチングが過剰になり、フォトレジストまでエッチングされてしまうことになる。これにより、形成された線状部までエッチングされてしまう。この結果、図5(5)に示すように、透明基板1の周辺部1pにおいては、各線状部3の高さが周辺部1pにおいて中央部1cより低くなる構造となってしまう。
【0014】
発明者の研究によると、グリッド偏光素子において消光比は線状部の高さに依存しており、線状部の高さが低くなると、消光比が低下する。研究において確認された照射領域の周辺部での消光比の低下は、このようなグリッド偏光素子の製造工程における問題に起因していることが判明した。
本願の発明は、このような発明者による新規な知見に基づいて為されたものであり、周辺部において消光比が低下しない優れたグリッド偏光素子を提供することを解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、透明基板と、透明基板上に設けられた複数の線状部からなる縞状の格子とを備えたグリッド偏光素子であって、
縞状の格子は、偏光作用を為す透明基板側の第一の層と、第一の層の上側に位置する第二の層とより成るものであり、
第二の層は、透光性の材料で形成され、第一の層より高さが低いものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記第二の層は、前記第一の層をエッチングによって形成する際のエッチャントに対する耐性が第一の層に比べて高い材料で形成されているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記請求項1又は2の構成において、前記第二の層の材料は、使用波長における消衰係数が実質的にゼロであるという構成を有する。
・・・略・・・
また、上記課題を解決するため、請求項5記載の発明は、前記請求項1乃至4いずれかの構成において、前記使用波長は、200nm以上400nm以下であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項6記載の発明は、前記請求項1乃至5いずれかの構成において、前記第一の層は、シリコンで形成されているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項7記載の発明は、前記請求項1又は2の構成において、前記第二の層は、酸化チタン、酸化シリコン、酸化タンタル、酸化ニオブ、アルミナ、酸化ハフニウム、イットリア、ジルコニア、インジウム酸スズ、酸化セリウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、フッ化マグネシウムの何れか一種以上の材料より成るという構成を有する。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0017】
以下に説明する通り、本願の請求項1、8又は15記載の発明によれば、格子が、偏光作用を有する主たる層としての第一の層と、透光性を有し、第一の層よも(当合議体注」:「第一の層よも」は、「第一の層よりも」)の誤記であることは明らかである。)高さの低いキャップ層としての第二の層とから成るので、第一の層の高さが不均一になることはなく、偏光作用の均一性が向上する。
また、請求項2又は9記載の発明によれば、上記効果に加え、第二の層が耐エッチング性を有するので、第二の層用の薄膜を厚く作成する必要がなく、この点で好適となる。
また、請求項3又は10記載の発明によれば、上記効果に加え、第二の層の消衰係数が実質的にゼロであるので、第二の層の高さが不均一になったとしてもそれによって偏光作用の均一性が低下することはない。
また、請求項5又は12記載の発明によれば、上記効果に加え、使用波長が200?400nmであるので、光配向処理のようにこの波長域の偏光光の照射が必要な場合、好適に使用され得る。
また、請求項6又は13記載の発明によれば、上記効果に加え、第一の層がシリコンで形成されるので、微細加工が容易であるという効果が得られる。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本願発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
図1は、本願発明の実施形態のグリッド偏光素子の断面概略図である。図1に示すグリッド偏光素子は、透明基板1と、透明基板1上に設けられた縞状の格子2とより成る。格子2は、一定の方向に延びる多数の線状部21が間隔をおいて形成された構造を有する。図1において、各線状部3の幅(格子幅)がwで示され、格子間隔がtで示されている。また、各線状部3の高さをhで示す。
格子2を構成する各線状部3は、上下に二つの層で形成されており、格子2は、全体として下側の第一の層31と、第一の層31の上の第二の層32とから構成されている。これら層31,32も、全体としては格子状である。全体として格子状を成す第一の層31は、偏光作用を為す層である。第二の層32は、製造の際に第一の層31を保護するキャップ層として設けられている。
【0020】
この実施形態では、第一の層31はシリコンで形成されている。偏光作用を持たせる第一の層31の材料としてシリコンを採用することは、従来のワイヤーグリッド偏光素子とは異なる思想に基づいている。
・・・略・・・
【0021】
一方、実施形態のグリッド偏光素子は、偏光させる光の波長を吸収する材料を含んで構成される各線状部3を、偏光させる光の波長と同程度以下の格子間隔tで配列させた縞状の格子2を有するものであって、吸収型グリッド偏光素子とも呼べるものである。
・・・略・・・
【0022】
第一の層31の材料としては、ある程度消衰係数が大きい方が好ましいと言える。第一の層31の材料は、減衰係数が0.8程度又はそれ以上であることが好ましい。その理由について以下に説明する。
吸収型ワイヤーグリッド偏光素子の原理は、透明基板上の各線状部3と平行な電界成分をもつ光がワイヤー中を伝播しながら、各線状部3を構成する材料に吸収されことによる。・・・略・・・したがって、消衰係数の小さい材料で第一の層31を形成した場合、消光比を高くするには、第一の層31を高くして伝搬距離を長くする必要があることが解る。その一方、格子幅wは、格子間隔tとともに波長によって最適な幅が決まってくる。つまり、消衰係数の小さい材料で第一の層31を形成してしまうと、格子2のアスペクト比(格子幅wに対する線状部3の高さhの比)を高くしなければならないことになる。アスペクト比(h/w:図1)の高い格子2は一般的に製造が難しく、また機械的強度も弱くなってくる。したがって、ある程度高い消衰係数を有する材料で第一の層31を形成することが好ましい。詳細な説明は省略するが、発明者の研究によると、0.8程度の消衰係数を有する材料で第一の層31を形成すると、消光比が20を超える高性能のグリッド偏光素子が得られる。したがって、第一の層31の材料は、減衰係数が0.8程度又はそれ以上であることが好ましい。
【0024】
具体的には、この実施形態では、第一の層31は、スパッタリングのような成膜技術で作成された膜で形成されており、アモルファスシリコンとなっている。
実施形態のグリッド偏光素子では、使用波長として200?400nmが想定されている。アモルファスシリコン200?400nmの波長域で2.6?3.3の消衰係数を有するため、第一の層31の材料として好適に選定されている。
シリコンが選定されている別の理由は、微細加工が容易な点である。シリコンは代表的な半導体材料であり、各種半導体デバイスの製造技術として各種の微細加工技術が確立されている。これら技術が転用できる点も、第一の層31の材料としてシリコンが好適な理由である。
【0025】
次に、第二の層32について説明する。第二の層32は、第一の層31の寸法形状の均一性を維持するためのキャップ層として設けられる。前述したように、グリッド偏光素子の製造においては、エッチングの際のエッチャント分布の不均一性により、形成される各線状部3の高さが不均一になり易い。この点を考慮し、この実施形態では、格子2を第一第二の二つの層31,32を積層した構造とし、第一の層31を主たる層(偏光作用を為す層)としている。
【0026】
第二の層32は、第一の層31を形成する際の異方性エッチングにおいて、形成されつつある第一の層31の上面をキャップし、第一の層31の上面がエッチャントに晒されないようにする。したがって、第二の層32は、異方性エッチングが完了して第一の層31が完全に形成された時点で、第一の層31の上に残留していることになる。主たる偏光作用を為す層は第一の層31であるので、第一の層31の形成後に第二の層32を除去することも考えられるが、第二の層32のみ除去することは難しい。したがって、第二の層32をそのまま残留させた構造としている。
【0027】
このような第二の層32の材料を選定する際には、幾つかの点を考慮する必要がある。一つは、使用波長の光の透過性である。実施形態のグリッド偏光素子は、上述したように吸収型のモデルで動作する偏光素子である。吸収型で動作するには、光が第一の層31に達し、第一の層31中を伝搬する必要がある。仮に、第二の層32が完全な遮光性の材料で形成されていると、第一の層31には光が到達しないことになり、第一の層31が偏光作用を為すことができなくなる。
・・・略・・・
【0028】
第二の層32が光透過性の材料であることを前提にした場合、次に検討すべきは、第二の層32においてどの程度の吸収があるかということになる。第二の層32の特性の好ましい例としては、使用波長において、第二の層32の消衰係数が実質的ゼロであることである。消衰係数が実質的にゼロであれば、第二の層32における吸収が実質的にないことになり、光は減衰せずに第一の層31に達する。したがって、第二の層32は、製造プロセスにおいて第一の層31をキャップする機能を発揮しつつ、製造後において第一の層31の偏光作用を阻害することはない。「実質的にゼロ」とは、例えば消衰係数が1未満の場合であり、より好ましくは0.1未満の場合である。
【0029】
第二の層32の材料の消衰係数が実質的にゼロではなく、ある程度の吸収がある場合について検討すると、この場合は、第二の層32においても吸収型の偏光作用が生じ得ることを考慮する必要がある。第二の層32が偏光作用を有する場合に問題となるのは、第二の層32が、従来技術の欄で述べたように高さが不均一となることである。第二の層32が偏光作用を有し、その高さが不均一になると、第一の層31及び第二の層32から成る格子2が為す偏光作用が、全体として不均一になることになり、前述したような問題が生じ得る。
【0030】
実施形態のグリッド偏光素子は、この点を考慮し、第二の層32の高さを第一の層31より低くしている。例えば、第二の層32の材料の消衰係数が実質的にゼロではない場合であって、第一の層31の高さは50?300nm程度の範囲である場合は、第二の層32の高さは、10?100nm程度の範囲で適宜選定され、好ましくは10?40nm、より好ましくは20?30nmである。
【0031】
仮に第二の層32が偏光作用を有し、第二の層32の高さが不均一になったとしても、元々の高さが第一の層31より低いので、偏光素子全体として偏光作用の面内分布が問題となるほど不均一になることはない。尚、「面内」とは、透明基板1の板面の領域内という意味であり、偏光素子において偏光作用の面内分布が不均一になると、照射面の照射領域内で偏光光の照射が不均一となる。
【0032】
尚、第二の層32が使用波長の光をよく吸収する材料で形成され、全体として格子状である第二の層32において高い偏光作用が生じることも一応は仮定し得るが、第一の層31が主たる偏光作用を有する層であって、使用波長との関係で十分に光を吸収する材料が選定される。第二の層32は、第一の層31とは異なる材料で形成されるのであるから、第一の層31よりも高い偏光作用を有することは、通常は想定しにくい。したがって、第二の層32を第一の層31より低く形成しておけば、偏光作用の面内分布不均一化は防止できる。
【0033】
また、第二の層32は、第一の層31を形成する際のエッチングにおける第一の層31のキャップ用であるから、第二の層32の材料は、第一の層31を形成する際のエッチャントに対して耐性があることが好ましい。・・・略・・・「高い耐性」とは、第一の層31の保護であるので、第一の層31に比べて高いということであり、第一の層31をエッチングする際に使用されるエッチャントについて、エッチング速度が第一の層31より低いということである。
【0034】
尚、第二の層32がエッチャントに対して低い耐性を有する場合であっても、第一の層31の形成が完了した時点で残留していれば第一の層31を保護する目的は達し得る。したがって、第一の層31を形成する際のエッチャントに対して第二の層32の材料の耐性が低い場合には、それを見越して第二の層32用の薄膜を厚く形成しておけば良い。例えば、第一の層31を形成する際のエッチャントに対して第二の層32が第一の層31の半分しか耐性がない場合(エッチング速度が第一の層31の材料の倍である場合)、第二の層32用の薄膜を第一の層31用の薄膜の厚さの倍を少し超える程度の厚さで形成しておけば、第一の層31の形成が完了した時点でも第二の層32は残留することになる。
【0035】
具体的な材料の例を示すと、第一の層31が前述したようにシリコンで形成される場合、第二の層32は、例えば酸化シリコンで形成され得る。酸化シリコンがスパッタリングのような成膜技術により作成される膜である場合、図示は省略するが、200?400nmにおける消衰係数はゼロであり、シリコン(アモルファス)の消衰係数2.6?3.3に比べると十分に小さく、実質的にゼロとし得る。
【0036】
また、シリコンは、例えばCF_(4)のようなフッ化炭素系ガスや塩素系のガスのプラズマでエッチングできるが、この場合、周知のように、例えば塩素ガスのプラズマを形成してエッチングすると、酸化シリコンに対してシリコンを選択的にエッチングすることが可能になる。即ち、酸化シリコンは、シリコンをエッチングする際のエッチャントに対してシリコンよりエッチング速度が十分に低い。
【0037】
第二の層32の材料の他の例を示すと、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、アルミナ、酸化ハフニウム、イットリア、ジルコニア、インジウム酸スズ、酸化セリウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、フッ化マグネシウム等が第二の層32の材料として選定し得る。」

エ 「【実施例1】
【0055】
次に、上記実施形態に属する実施例について説明する。
実施例のグリッド偏光素子製造方法では、合成石英より成る透明基板上に、第一の薄膜としてシリコン膜がマグネトロンスパッタ装置により100nmの厚さで作成される。
・・・略・・・
【0056】
・・・略・・・
次に、ターゲット材料を酸化シリコンとして、上述と同条件で13分間の高周波印加が行われ、第一の薄膜(シリコン膜)上に第二の薄膜として酸化シリコン膜を50nmの厚さで作成される。
【0057】
次に、酸化シリコン膜の表面にフォトレジストがスピンコーターにより塗布される。
・・・略・・・
次に、上記フォトレジストに対し100℃でソフトベークが行われた後、KrFステッパーにより縞状パターン(ラインアンドスペース)の露光が行われる。ラインの幅とスペースの幅は、例えば1:1であり、各150nmとされる
この露光後、・・・略・・・現像処理が行われる。
【0058】
上記露光・現像後、ICP(誘導結合プラズマ)ドライエッチング装置によりドライエッチング処理が行われる。
・・・略・・・
その後、レジストパターンをマスクにして、第二の薄膜である酸化シリコン膜をエッチングする第一のエッチング工程が行われる。
・・・略・・・
【0059】
次に、第二のエッチング工程として、上記第一のエッチング工程により形成された各第二の層をマスクとして、第一の薄膜であるシリコン膜がエッチングされる。・・・略・・・その後、レジストパターンをレジスト除去用溶媒により除去することで、実施例のグリッド偏光素子が得られる。
【0060】
次に、上述した実施形態の方法により製造されるグリッド偏光素子における偏光作用均一性向上の効果についてシミュレーションした結果について説明する。
図4は、実施形態の方法により製造されるグリッド偏光素子の偏光作用分布について参考例のグリッド偏光素子と比較した模式図である。図4に示すシミュレーションでは、格子2を構成する各線状部3がシリコンのみから成る場合を参考例とし、第一の層31としてのシリコンの層と第二の層32としての酸化シリコンの層から成る場合を実施例として比較した。
・・・略・・・
【0061】
図4(1)に示す参考例では、シリコンより成る薄膜をエッチングして各線状部3を形成する。したがって、前述したように、エッチャントの不均一な分布により、各線状部3の高さは不均一となる。・・・略・・・前述したように、周辺部ではエッチャントの量が多いので、h_(p)<h_(c)となる。
【0062】
一方、実施例では、第一の層31としてのシリコン層の上に第二の層32としての酸化シリコン層が存在しているが、同一の偏光作用を為すことを前提に、第一の層31の高さを、参考例における設計値h_(c)と同じとする。参考例において、中央部の線状部3は膜減りがないと仮定でき、高さが設計値h_(c)であるとすることができるから、実施例のグリッド偏光素子では、各第一の層31の高さh_(c1)、h_(p1)が、h_(c)に等しいと仮定できる。この場合、実施例のグリッド偏光素子における第二の層32について、中央部の高さをh_(c2)、h_(p2)とすると、同様にエッチャントの不均一性から、h_(p2)<h_(c2)となる。
【0063】
前述したように、同様にエッチャントは不均一に分布しており、エッチング完了後の各線状部3の高さ分布の不均一性は同様である。
また、使用波長は365nmであることを前提とした。シリコンの光学定数は、n=4.03,k=3.04とし、酸化シリコンの光学定数は、n=1.56、k=0とした。参考例において、シリコンより成る各線状部3の高さは、h_(c)=100nm、h_(p)=(70)nmとした。また実施例については、h_(c1)=hp1=100nm、h_(c2)=40nm、h_(p2)=10nmとした。格子幅wは、いずれの場合も25nmとし、格子間隔tはいずれの場合も150nmとした。
・・・略・・・
【0066】
一方、実施例では、図4(2-2)に示すように、中央部の消光比ERは45、透過率TRは42.9%であり、図4(2-1)に示すように周辺部の消光比ERは45、透過率TRは43.2%である。即ち、消光比ERは、中央部と周辺部とで同様であり、均一となっている。これは、第一の層31の高さが中央部と周辺部とで同一であるためであって、第二の層32では実質的に吸収がないため、この部分で偏光作用が生じないからである。もしくは、第二の層32での吸収が少なく、また高さが低いため、消光比ERの差として現れないものと推測される。尚、透過率TRが周辺部において若干高いのは同様の理由で、第二の層の高さが低いために吸収が少ないことによるものと推測される。
【0067】
このように、実施例のグリッド偏光素子によれば、偏光作用を有する主たる層としての第一の層31の高さが一定であるため、偏光作用の面内均一性が向上することがシミュレーションによって確認された。
・・・略・・・
【符号の説明】
【0068】
1 透明基板
2 格子
3 線状部
31 第一の層
32 第二の層
41 第一の薄膜
42 第二の薄膜
5 レジストパターン
6 犠牲層」

オ 「【図1】

(当合議体注:便宜上、図1の向きを90度回転した。)」

カ 「【図4】



キ 「【図5】



ク 「【図6】



(2) 引用発明
上記(1)アの引用文献Aの特許請求の範囲の【請求項1】、【請求項3】及び【請求項5】の記載からみて、請求項1及び請求項3の記載を引用して記載された請求項5には、次の「グリッド偏光素子」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「 透明基板と、透明基板上に設けられた複数の線状部からなる縞状の格子とを備えたグリッド偏光素子であって、
縞状の格子は、偏光作用を為す透明基板側の第一の層と、第一の層の上側に位置する第二の層とより成るものであり、
第二の層は、透光性の材料で形成され、第一の層より高さが低い、グリッド偏光素子であって、
前記第二の層の材料は、使用波長における消衰係数が実質的にゼロであり、前記使用波長は、200nm以上400nm以下である、
グリッド偏光素子。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明を対比すると、次のとおりである。
ア 引用発明の「グリッド偏光素子」は、「透明基板と、透明基板上に設けられた複数の線状部からなる縞状の格子とを備え」ている。
ここで、「格子」は、「グリッド」とも言われ(当合議体注:「格子」に対応する英語は、「grid」である。)、本願発明1ないし引用発明の技術分野においては、同じものを指す用語として、どちらも一般的に用いられている。
そうすると、引用発明の「透明基板」及び「格子」は、それぞれ本願発明1の「透明基板」及び「グリッド」に相当する。また、引用発明と、本願発明1は、「透明基板と、透明基板上に形成された縞状のグリッドとを備え」たものである点で共通する。

イ 引用発明の「縞状の格子」は、「複数の線状部からな」る。また、引用発明の「縞状の格子」は、「偏光作用を為す透明基板側の第一の層と、第一の層の上側に位置する第二の層とより成る」。
上記の構成から理解される形状からみて、引用発明の「縞状の格子」は、「複数の線条部」から形成され、また、「透明基板側の第一の層」と「第一の層の上側に位置する第二の層」とが積層されてなるものと理解できる。
そうしてみると、引用発明の「線状部」は、本願発明1の「線状部」に相当する。また、引用発明の「第一の層」及び「第二の層」は、それぞれ本願発明1の、「透明基板に近い側の」とされる、「第一の層」、及び、「透明基板から遠い側の」とされる、「第二の層」に相当する。さらに、上記アの対比結果を勘案すると、引用発明は、本願発明1の「グリッド偏光素子」の、「グリッドを形成する各線状部は、透明基板に近い側の第一の層と、透明基板から遠い側の第二の層とが積層されたものであり」との要件を満たす。

ウ 引用発明の「グリッド偏光素子」の「使用波長は、200nm以上400nm以下である」。
上記の使用波長からみて、引用発明の「グリッド偏光素子」は、紫外域の光の偏光用のものということができる
してみると、前記アとイより、引用発明の「グリッド偏光素子」は、本願発明1の、「紫外域の光の偏光用の」とされる、「グリッド偏光素子」に相当する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は、次の構成で一致する。
「 透明基板と、透明基板上に形成された縞状のグリッドとを備えた紫外域の光の偏光用のグリッド偏光素子であって、
グリッドを形成する各線状部は、透明基板に近い側の第一の層と、透明基板から遠い側の第二の層とが積層されたものである、
グリッド偏光素子。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
「紫外域の光」が、本願発明1は、「265nmより短い波長」であるのに対して、引用発明は、「200nm以上400nm以下であ」る点。

(相違点2)
本願発明1は、「第一の層は、貴金属で形成されており」、「第二の層は、酸化チタンで形成されており」、「第一の層の貴金属は、塩素系エッチャントに酸素又は窒素を添加した際のエッチング速度の低下が第二の層の材料よりも小さい材料であ」るのに対して、引用発明は、「第一の層」は「偏光作用を為す」ものであり、「第二の層は、透光性の材料で形成され」、「前記第二の層の材料は、使用波長における消衰係数が実質的にゼロであ」る点。

(相違点3)
本願発明1は、「第二の層の高さは、第一の層と第二の層との全体の高さの50%以上(100%を除く)である」のに対して、引用発明は、「第二の層は」、「第一の層より高さが低い」点。

(3) 判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
ア 引用発明の「グリッド偏光素子」は、「透明基板と、透明基板上に設けられた」「縞状の格子とを備えたグリッド偏光素子であって」、「縞状の格子は」、「透明基板側の第一の層と、第一の層の上側に位置する第二の層とより成」り、「第二の層」が、「第一の層より高さが低」いものである。
また、引用発明の「第一の層」は、「偏光作用を為す」ものであり、「第二の層の材料」は、「透光性の材料で形成され」、「200nm以上400nm以下である」「使用波長における消衰係数が実質的にゼロであ」る。

イ 引用例Aには、【発明が解決しようとする課題】として、[A]「発明者の研究によると、ある程度の大きさのグリッド偏光素子を製造してある程度の大きさの領域に偏光光を照射しようとすると、照射領域の周辺部において消光比ERが低下する問題があることが判明した。」(【0011】)、[B]「エッチングの際、エッチャントは格子用薄膜との反応によって消費される。この場合、透明基板1上の周辺部では、押さえリング71があるため、エッチャントの消費量は中央部に比べて少ない。このため、エッチャントは、中央部に比べて周辺部において多く存在する空間分布となる。透明基板1の周辺部上においてエッチャントが過剰に存在すると、周辺部において過剰にエッチングがされることになる。・・・略・・・透明基板1の周辺部1pにおいては、各線状部3の高さが周辺部1pにおいて中央部1cより低くなる構造となってしまう。」(【0013】)、[C]「グリッド偏光素子において消光比は線状部の高さに依存しており、線状部の高さが低くなると、消光比が低下する。研究において確認された照射領域の周辺部での消光比の低下は、このようなグリッド偏光素子の製造工程における問題に起因していることが判明した。」及び[D]「本願の発明は、このような発明者による新規な知見に基づいて為されたものであり、周辺部において消光比が低下しない優れたグリッド偏光素子を提供することを解決課題とするものである。」(【0014】)との記載がある。
また、引用例Aには、【課題を解決するための手段】として、[E]「上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、透明基板と、透明基板上に設けられた複数の線状部からなる縞状の格子とを備えたグリッド偏光素子であって、縞状の格子は、偏光作用を為す透明基板側の第一の層と、第一の層の上側に位置する第二の層とより成るものであり、第二の層は、透光性の材料で形成され、第一の層より高さが低いものであるという構成を有する。」(【0015】)ことが記載され、【発明の効果】として、[F]「本願の請求項1、8又は15記載の発明によれば、格子が、偏光作用を有する主たる層としての第一の層と、透光性を有し、第一の層よりも高さの低いキャップ層としての第二の層とから成るので、第一の層の高さが不均一になることはなく、偏光作用の均一性が向上する。」(【0017】)ことが記載されている。
してみると、引用発明(グリッド偏光素子)は、偏光作用を為す透明基板側の第一の層の上側に位置する第二の層を、透光性の材料で形成するとともに、第一の層より高さが低いものとし、第一の層より高さが低い第二の層をキャップ層として機能させるとともに、第一の層の高さを不均一とすることなく、偏光作用の均一性を向上させるとの技術思想に基づくものと理解される。そして、引用発明の「グリッド偏光素子」は、「縞状の格子は、偏光作用を為す透明基板側の第一の層と、第一の層の上側に位置する第二の層とより成るものであり」及び「第二の層は、透光性の材料で形成され、第一の層より高さが低い」との構成を、必須の構成として具備すると理解できる(当合議体注:引用文献Aの特許請求の範囲の請求項8及び請求項15の「グリッド偏光素子製造方法」の記載からも理解できることである。)。

ウ 一方、引用発明の「透光性の材料で形成され」、「200nm以上400nm以下である」「使用波長における消衰係数が実質的にゼロであ」る「第二の層」に関し、引用例Aの【0028】には、「第二の層32が光透過性の材料であることを前提にした場合、次に検討すべきは、第二の層32においてどの程度の吸収があるかということになる。第二の層32の特性の好ましい例としては、使用波長において、第二の層32の消衰係数が実質的ゼロであることである。消衰係数が実質的にゼロであれば、第二の層32における吸収が実質的にないことになり、光は減衰せずに第一の層31に達する。したがって、第二の層32は、製造プロセスにおいて第一の層31をキャップする機能を発揮しつつ、製造後において第一の層31の偏光作用を阻害することはない。「実質的にゼロ」とは、例えば消衰係数が1未満の場合であり、より好ましくは0.1未満の場合である。」との記載がある。
また、引用例Aの【0029】には、「第二の層32の材料の消衰係数が実質的にゼロではなく、ある程度の吸収がある場合」に関し、「この場合は、第二の層32においても吸収型の偏光作用が生じ得ることを考慮する必要がある。第二の層32が偏光作用を有する場合に問題となるのは、第二の層32が、従来技術の欄で述べたように高さが不均一となることである。第二の層32が偏光作用を有し、その高さが不均一になると、第一の層31及び第二の層32から成る格子2が為す偏光作用が、全体として不均一になることになり、前述したような問題が生じ得る。」との記載があり、【0030】には、「実施形態のグリッド偏光素子は、この点を考慮し、第二の層32の高さを第一の層31より低くしている。」との記載がある。
ここで、引用例Aの【0028】の記載のみに基づけば、「消衰係数が実質的にゼロであれば、第二の層32における吸収が実質的にないことになり、光は減衰せずに第一の層31に達する」とのことであるから、第二の層が第一の層よりも高いものであってもよい、あるいは、第二の層の高さが不均一なものであってもよいと理解するかもしれない。しかしながら、【0022】に記載の「ある程度消衰係数が大きい方が好ましい」「第一の層31の材料」の「減衰係数が0.8程度又はそれ以上である」との記載、【0028】の「「実質的にゼロ」とは、例えば消衰係数が1未満の場合であり、より好ましくは0.1未満の場合である」との記載から把握される第一の層の材料の消衰係数及び第二の層の材料の消衰係数を前提とすれば、第二の層の「消衰係数が実質的にゼロであ」る場合であっても、【0029】に記載の「第二の層32の材料の消衰係数が実質的にゼロではなく、ある程度の吸収がある場合」と同様に、「その高さが不均一になると、第一の層31及び第二の層32から成る格子2が為す偏光作用が、全体として不均一になること」がないよう、「第二の層32の高さを第一の層31より低く」(【0030】)することが好ましいと当業者は理解する。
実際に、引用例Aの【0035】欄に記載の、「第一の層31」を「シリコンで形成」し、「第二の層32」を、「シリコン(アモルファス)の消衰係数2.6?3.3に比べると十分に小さく、実質的にゼロとし得る」「酸化シリコン」で形成した「グリッド偏光素子」を具体化した実施例1(【0055】?【0059】)について、「格子2を構成する各線状部3がシリコンのみから成る場合を参考例とし」たシミュレーション(【0060】?【0067】、図4)を行う際においても、「シリコンの光学定数」を「n=4.03,k=3.04とし」、「酸化シリコンの光学定数」を「n=1.56、k=0とし」、「h_(c1)=h_(p1)=100nm、h_(c2)=40nm、h_(p2)=10nmとし」(図4(2-1)及び図4(2-2)参照)、すなわち、第二の層の高さ(h_(c2),h_(p2))を第一の層の高さ(h_(c1),h_(p1))よりも低く設定し、「実施例のグリッド偏光素子によれば、偏光作用を有する主たる層としての第一の層31の高さが一定であるため、偏光作用の面内均一性が向上すること」を確認している(【0067】)。
加えて、シミュレーション結果から「透過率TRが周辺部において若干高いのは同様の理由で、第二の層の高さが低いために吸収が少ないことによるものと推測される。」(【0066】)とのことであるから、グリッド偏光素子の透過率TR(【0005】)の観点からも、第一の層より高さが低い第二の層が好ましいと当業者は理解する。

エ 以上のとおりであるから、引用例Aには、引用発明の「グリッド偏光素子」において、第二の層の高さを、第一の層の高さ以上とする動機付けが示されていない。
そして、当審拒絶理由において引用された引用例B?引用例Hのいずれにも、キャップ層(ハードマスク)として機能する第二の層の高さを、第一の層の高さよりも高くすることについて記載も示唆もなく、また、当業者にとって自明の事項でもない。
してみると、引用発明において、相違点3に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

オ したがって、相違点1及び相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用例Aに記載された発明及び引用例B?引用例Hに記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

(4) 請求項2?請求項6について
請求項2?請求項6に係る発明は、本願発明1の「グリッド偏光素子」に対して、さらに他の発明特定事項を付加してなる「グリッド偏光素子」の発明である。
そうしてみると、請求項2?請求項6に係る発明も、本願発明1と同じ理由により、引用例Aに記載された発明及び引用例B?引用例Hに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

第3 拒絶の理由について
1 原査定の拒絶の理由
原査定に拒絶の理由において引用された引用例1(主引用例)は、前記「第2」において検討した引用例Aと同じである。
そうすると、前記「第2」で述べたとおりであるから、本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。そして、この点は、原査定の拒絶の理由で引用された引用例2?引用例6を考慮しても変わらない。
したがって、原査定を維持することはできない。

2 当合議体の拒絶の理由について
(1) 当合議体の拒絶の理由1(進歩性)について
前記「第2」で述べたとおりであるから、当合議体が通知した拒絶の理由1(進歩性)は解消した。

(2) 当合議体の拒絶の理由2(サポート要件)、理由3(明確性)及び理由4(サポート要件)について
当合議体が通知した拒絶の理由2(サポート要件)、理由3(明確性)及び理由4(サポート要件)は、令和2年11月30日にした手続補正及び令和3年4月23日にした手続補正により全て解消した。

第4 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
したがって、原査定の拒絶の理由によっては本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-07-30 
出願番号 特願2018-57327(P2018-57327)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 早川 貴之
河原 正
発明の名称 グリッド偏光素子  
代理人 保立 浩一  
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