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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1376650 |
審判番号 | 不服2020-3068 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-03-05 |
確定日 | 2021-08-04 |
事件の表示 | 特願2017-171734「光学撮像レンズ及びそのプラスチック材料、画像取込装置並びに電子装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月 5日出願公開、特開2018- 55092〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2017-171734号(以下「本件出願」という。)は、平成29年9月7日(パリ条約の例による優先権主張 平成28年9月7日 台湾、平成29年8月16日(以下、この日を「本件優先日」という。) 台湾)を出願日とする特許出願である。 そして、本件出願の手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成30年11月26日付け:拒絶理由通知書 令和 元年 5月 1日 :手続補正書 令和 元年 5月 1日 :意見書 令和 元年10月30日付け:拒絶査定 令和 2年 3月 5日 :審判請求書 令和 2年 3月 5日 :手続補正書 令和 2年 9月16日付け:拒絶理由通知書 令和 3年 1月 4日 :手続補正書 令和 3年 1月 4日 :意見書 2 本願発明 本件出願の請求項1?請求項26に係る発明は、令和3年1月4日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項26に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のものである。 「【請求項1】 物体側から像側へ、 プラスチック材料で製造され、屈折力を有し、その物体側表面及び像側表面の少なくとも1つの表面が非球面である少なくとも7つの光学レンズを含み、物体側に近接した前記少なくとも7つの光学レンズ中、第1の光学レンズ、第2の光学レンズ、第3の光学レンズのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの短波長吸収成分を含み、前記短波長吸収成分は前記プラスチック材料に均一に混合され、 前記短波長吸収成分を含む各前記光学レンズは、 波長350nm?400nmにおける平均透過率をT3540とし、 波長400nm?450nmにおける平均透過率をT4045とし、 波長580nm?700nmにおける平均透過率をT5870とし、 前記短波長吸収成分を含む前記光学レンズの最大厚さをTKmaxとし、 前記短波長吸収成分を含む前記光学レンズの最小厚さをTKminとし、 前記短波長吸収成分を含む前記光学レンズの最大有効径の最大値をΦmaxとし、 前記短波長吸収成分を含む前記光学レンズの中心厚さの合計をsumCTaとすると、 T3540≦40%、 T4045<90%、 60%≦T5870、 1.0<TKmax/TKmin、及び、 2.00≦Φmax/sumCTa≦10.00という条件を満たす光学撮像レンズ。」 3 当合議体の拒絶の理由 令和2年9月16日付け拒絶理由通知書によって当合議体が通知した拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?26に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 引用文献1:特開平6-331889号公報 第2 当合議体の判断 1 引用文献1及び引用発明 (1)引用文献1の記載 引用文献1には、以下の記載がある。なお、【0041】に記載のレンズデータは、体裁を整えるため字間を調整した。 ア 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、プラスチックレンズを含む撮影光学系に関するものであり、更に詳しくはレンズシャッターカメラ用光学系として好適なプラスチックレンズを含む撮影光学系に関するものである。 【0002】 【従来の技術】正・負の2群から成るズームレンズは、レンズシャッターカメラ用ズームレンズとしてよく用いられている。このズームレンズには、低コスト化や軽量化が要求される。これらの要求を満足させるためには、La,Ba等を含まない、いわゆる古典ガラス(BK,K,F等)やプラスチック(PMMA(polymethyl methacrylate),ポリオレフィン,ポリカーボネート等)から成るレンズを多用するといった対策が必要になる。特に、プラスチックはガラスと比較して安価であるため、低コスト化を図るためにはプラスチックレンズ多用のレンズ系を導入することが必須といえる。しかし、従来のプラスチックレンズには、レンズ成形時の高温,撮影時に受ける紫外線照射等により変色するといった問題や、温度・湿度等の環境変化に起因する膨張・収縮により性能劣化が著しいといった問題がある。 …中略… 【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかし、上記従来例ではいずれも紫外線によるプラスチックレンズの変色については対策がなされていない。従って、プラスチックレンズをレンズ系に多く用いると、コストを抑えることはできても、撮影時等において紫外線照射を受けることによりプラスチックレンズにいわゆる黄変が発生してしまう。その結果、演色性の変化や透過率の低下といった光学性能の劣化が生じるといった問題がある。 【0006】本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、プラスチックレンズを含んでいても、紫外線によって光学性能が劣化しない撮影光学系を提供することを目的とするものである。」 イ 「【0007】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため本発明に係る撮影光学系は、プラスチックレンズを含む撮影光学系において、前記プラスチックレンズの被写体側又はプラスチックレンズ中に、被写体側から照射される紫外線を反射又は吸収する手段を設けたことを特徴としている。 【0008】このように構成すれば、紫外線を反射又は吸収する手段が、被写体側から照射される紫外線を、プラスチックレンズの被写体側又はプラスチックレンズ中で反射又は吸収するので、プラスチックレンズは紫外線の照射を受けた場合でもその影響を受けず、一定の品質が保たれる。特に、シャッターより前のレンズの少なくとも1枚がプラスチックで構成されたレンズ系では、プラスチックレンズは、撮影時等において被写体からの光と共に紫外線の照射を受けることになるが、上記紫外線を反射又は吸収する手段がプラスチックレンズを紫外線から守るので、プラスチックレンズの変色が生じることはない。この紫外線を反射又は吸収する手段としては、例えばUVカットフィルターや紫外線吸収剤等を挙げることができる。 …中略… 【0012】ところで、一般にプラスチックレンズの材料としては、ポリカーボネート系樹脂とPMMAとが用いられている。これは、高屈折率・高分散材料であるポリカーボネート系樹脂と、低屈折率・低分散材料であるPMMAとのレンズの組合せによって、色収差等をとることができるからである。 【0013】本発明においては、PMMAと同様に低屈折率・低分散材料であるポリオレフィン系樹脂から成るプラスチックレンズを、PMMAから成るレンズの代わりに用いることができる。PMMAは、湿度変化によって形状,屈折率が変化し、バック変動を生じてしまうといった欠点があるが、ポリオレフィン系樹脂は、吸湿による材料特性の変化が殆どないため、湿度によるバック変動が生じにくいといった優れた特徴がある。 【0014】反面、ポリオレフィン系樹脂には、ポリカーボネート系樹脂やPMMAよりも紫外線による影響を受けやすいといった問題があるが、この問題は上記UVカットフィルターを光学系の最も被写体側に入れることによって解消することができる。また、UVカットフィルターのような平板を1枚入れることで、レンズ表面に傷がつくのを防ぐことができ、温度変化による影響をも防ぐことができる。従って、光学系(ここではフィルターを除く光学系)の1面目からプラスチック材料を用いることは可能である。 【0015】また、シャッターはフィルム露光中にしか開かないので、フィルム露光中以外はシャッターとフィルム面との間にあるレンズには光が当たらないことになる。従って、黄変しやすいポリオレフィン系樹脂から成るレンズを、シャッターとフィルム面との間にあるレンズ{後述する実施例1?5では第2群Gr2(図1,図3,図5,図7,図9)が相当する}として用いれば、このレンズに対する紫外線による影響を無視することができ、紫外線対策も不要となる。 【0016】次に、UVカットフィルターを入れる代わりに、プラスチック材料に紫外線吸収剤や酸化防止剤を混入することにより、紫外線による黄変を防ぐ構成について説明する。例えば、後述する実施例1(図1)においては、1枚目のポリカーボネート系樹脂のみに、又は1枚目のポリカーボネート系樹脂と2枚目のポリオレフィン系樹脂との両方に、紫外線吸収剤や酸化防止剤を混入させれば、UVカットフィルターを用いなくても紫外線による影響を防止することができる。 【0017】前記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系,ベンゾトリアゾール系,サリチル酸フェニル系を用いることができる。一例として、紫外線吸収剤であるベンゾフェノン系の2,4-ジハイドロキシベンゾフェノンの構造式を次の化1に示す。また、ポリオレフィン系樹脂に混入する酸化防止剤としては、ラジカル連鎖禁止剤,過酸化物分解剤等を挙げることができる。 【0018】 【化1】 【0019】酸化防止剤の混入は、レンズ成形時にプラスチック材料が酸素と結合して起こる黄変を防ぐのに効果があり、特に成形時に黄変しやすいポリオレフィン系樹脂に対して効果がある。紫外線吸収剤の混入は、レンズ成形後のプラスチック材料が紫外線によって黄変するのを防ぐのに効果がある。 【0020】図12は、プラスチック材料に紫外線吸収剤を混入したものに、図11と同じ条件下で紫外線照射を行ったときの透過率曲線を表している。実線が紫外線照射前の透過率の変化を表しており、点線が紫外線照射(220時間照射)後の透過率の変化を表している。同図から紫外線照射後も透過率の初期値がほぼ維持されていることがわかる。このように紫外線吸収材をプラスチック材料に混入することによって、紫外線による透過率の低下を防止することができる。 【0021】シャッターより被写体側にプラスチックレンズを配置すると、前述したようにプラスチックレンズは撮影時等に受ける紫外線照射によって変色してしまうが、以上のように本発明をレンズシャッターカメラの撮影光学系として用いて、最も被写体側にUVカットフィルターを入れたり、プラスチックレンズに紫外線吸収剤,酸化防止剤等を混入すれば、プラスチックレンズを多用しても、プラスチックレンズの黄変による演色性の低下,透過性の低下等の光学性能の劣化を極小に抑えることができるのである。 【0022】次に、本発明に適したズームレンズ、即ちレンズシャッターカメラ用ズームレンズとして一般的な2群(正・負)構成のズームレンズについて説明する。このズームレンズは、後述する実施例1?実施例5(図1,図3,図5,図7,図9)で具体化されているように、物体側から順に、正のパワーを有する第1群Gr1と,負のパワーを有する第2群Gr2とから成り、第1群Gr1と第2群Gr2との間隔を変化させることによってズーミングを行うものである。第1群Gr1は少なくとも1枚の負レンズG_(FN)と1枚の正レンズG_(FP)とから構成されており、第2群Gr2は物体側より順に2枚の負レンズG_(RN1),G_(RN2)から構成されている。 …中略… 【0033】負レンズG_(FN)を両面非球面にするのが好ましい。この場合、少なくとも1面は、周辺にいくにつれて負のパワーが強くなる非球面とする必要がある。これにより、球面収差,コマ収差が良好に補正される。また、実施例1?4のように、周辺にいくにつれて正のパワーが強くなる非球面を負レンズG_(RN1)に設けるのが好ましい。これにより、非点収差,歪曲収差をバランスよく補正することができる。 …中略… 【0037】以上のように構成することによって、プラスチックレンズを含んでいても、紫外線によって光学性能が劣化しない撮影光学系を得ることができる。尚、ズームレンズについて説明したが、撮影光学系が単焦点光学系の場合でも応用できることはいうまでもない。」 ウ 「【0038】 【実施例】以下、本発明を実施したズームレンズの実施例を示す。但し、各実施例において、ri(i=1,2,3,...)は物体側から数えてi番目の面の曲率半径、di(i=1,2,3,...)は物体側から数えてi番目の軸上面間隔を示し、Ni(i=1,2,3,...),νi(i=1,2,3,...)は物体側から数えてi番目のレンズのd線に対する屈折率,アッベ数を示す。また、fは全系の焦点距離、FNOは開放Fナンバーを示す。 【0039】尚、各実施例中、曲率半径に*印を付した面は非球面で構成された面であることを示し、非球面の面形状を表わす次の数1の式で定義するものとする。但し、式中、 X :光軸方向の基準面からの偏移量 r :近軸曲率半径 h :光軸と垂直な方向の高さ Ai:i次の非球面係数 ε:2次曲面パラメータ である。 【0040】 【数1】 【0041】<実施例1> f=38.0?47.8?60.0 FNO=4.4?5.6?7.0 [曲率半径] [軸上面間隔] [屈折率] [アッベ数] r1* 32.156 d1 3.400 N1 1.58340 ν1 30.23(ポリカーボネート系) r2* 11.345 d2 1.420 r3 22.877 d3 5.550 N2 1.52510 ν2 56.38(ポリオレフィン系) r4 -12.028 d4 1.000 r5 ∞(絞り) d5 11.392?7.102?3.688 r6* ∞ d6 2.750 N3 1.52510 ν3 56.38(ポリオレフィン系) r7 145.850 d7 7.250 r8 -9.727 d8 2.500 N4 1.52510 ν4 56.38(ポリオレフィン系) r9 -23.453 【0042】[非球面係数] r1 :ε=0.10000×10 A4=-0.38294×10^(-3) A6=-0.51809×10^(-7) A8=0.23184×10^(-8) A10=0.25235×10^(-10) r2 :ε=0.10000×10 A4=-0.37362×10^(-3) A6=0.12697×10^(-5) A8=0.98113×10^(-8) A10=0.41149×10^(-11) r6 :ε=0.10000×10 A4=0.60112×10^(-4) A6=-0.20624×10^(-6) A8=0.90545×10^(-8) A10=-0.44973×10^(-10) …中略… 【0051】図1,図3,図5,図7及び図9は、それぞれ実施例1?5に対応するレンズ構成図であり、広角端(W)でのレンズ配置を示している。各図中の矢印m1及びm2は、それぞれ第1群Gr1及び第2群Gr2の広角端(W)から望遠端(T)にかけての移動を模式的に示している。尚、絞りSは、シャッターと兼用になっている。 【0052】実施例1は、物体側より順に、像側に凹の負メニスカスレンズ,両凸の正レンズ及び絞りSから成る第1群Gr1,像側に凹の平凹レンズ及び物体側に凹の負メニスカスレンズから成る第2群Gr2より構成されている。尚、第1群Gr1中の負レンズの両面と,第2群Gr2中の平凹レンズの物体側の面は非球面である。また、実施例5は、実施例1の物体側に平板から成るUVカットフィルターFLを設けて成るものであり、UVカットフィルターFLを付加したほかは実施例1と同一の構成となっている。 【0053】実施例2,3は、物体側より順に、像側に凹の負メニスカスレンズ,両凸の正レンズ及び絞りSから成る第1群Gr1,両凹の負レンズ及び物体側に凹の負メニスカスレンズから成る第2群Gr2より構成されている。尚、第1群Gr1中の負レンズの両面と,第2群Gr2中の両凹レンズの物体側の面は非球面である。 【0054】実施例4は、物体側より順に、物体側に凸の正メニスカスレンズ,両凹の負レンズ,両凸の正レンズ及び絞りSから成る第1群Gr1,2枚の物体側に凹の負メニスカスレンズから成る第2群Gr2より構成されている。尚、第1群Gr1中の負レンズの像側の面と,両凸レンズの物体側の面,第2群Gr2中の物体側の凹レンズの物体側の面は非球面である。 【0055】図2,図4,図6,図8及び図10は、それぞれ実施例1?5に対応する収差図であり、レンズに対する紫外線吸収剤の混入を行っていないものについて示している。各図中、(W)は広角端(短焦点端),(M)は標準(中間焦点距離状態),(T)は望遠端(長焦点端)での収差を示している。また、実線(d),一点鎖線(g)及び二点鎖線(c)は、それぞれd線,g線及びc線に対する収差を表わし、破線(SC)は正弦条件を表わしている。更に、破線(DM)及び実線(DS)は、それぞれメリディオナル面及びサジタル面での非点収差を表わしている。 【0056】 【発明の効果】以上説明したように本発明に係る撮影光学系によれば、プラスチックレンズの被写体側又はプラスチックレンズ中に、被写体側から照射される紫外線を反射又は吸収する手段(例えば、UVカットフィルターや紫外線吸収剤)を設けた構成となっているので、プラスチックレンズを含んでいても、紫外線によって光学性能(演色性,透過性等)が劣化せず、低コストで軽量の撮影光学系を実現することができる。 【0057】また、本発明をレンズシャッターカメラ用光学系に適用した場合には、シャッターより前のレンズの少なくとも1枚がプラスチックレンズで構成されていても、そのプラスチックレンズは紫外線による影響を受けることはない。また、シャッターよりも後ろにプラスチックレンズを配置すれば、そのプラスチックレンズは露光時以外は光の照射を受けることがないので、紫外線による影響は殆ど無視することができる。」 エ「【図1】 」 オ 「【図12】 」 (2)引用発明 ア 引用文献1の【0007】には、「プラスチックレンズを含む撮影光学系において」、(A)「前記プラスチックレンズの被写体側」又は(B)「プラスチックレンズ中」に、「被写体側から照射される紫外線を反射又は吸収する手段を設けた」、「撮影光学系」が記載されている。 イ 上記アの(B)の態様に関して、引用文献1の【0016】及び【0019】には、「プラスチック材料に紫外線吸収剤や酸化防止剤を混入すること」及び「酸化防止剤の混入は、レンズ成形時にプラスチック材料が酸素と結合して起こる黄変を防ぐのに効果があり…紫外線吸収剤の混入は、レンズ成形後のプラスチック材料が紫外線によって黄変するのを防ぐのに効果がある」ことが記載されている。ここで、【0012】?【0015】の記載から、上記「プラスチック材料」は、「プラスチックレンズのプラスチック材料」である。 ウ 上記ア及びイから、引用文献1には、次の「撮影光学系」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「 プラスチックレンズ中に、被写体側から照射される紫外線を吸収する手段を設けた、プラスチックレンズを含む撮影光学系であって、 プラスチックレンズのプラスチック材料に紫外線吸収剤を混入することにより、レンズ成形後のプラスチック材料が紫外線によって黄変するのを防いだ、 撮影光学系。」 (3)対比 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 ア 光学レンズ 引用発明の「プラスチックレンズ」は、「プラスチック材料に紫外線吸収剤を混入することにより、レンズ成形後のプラスチック材料が紫外線によって黄変するのを防」ぐものである。 ここで、本件出願の明細書の【0003】の記載からみて、本願発明でいう「短波長」とは、「紫外線又は高エネルギー青色光」のことである。また、引用発明において、「紫外線吸収剤」が「プラスチック材料」に均一に混合されていること、及び引用発明の「レンズ」が光学的な「屈折力」を有することは、自明である。 そうしてみると、引用発明の「プラスチック材料」及び「紫外線吸収剤」は、本願発明の「プラスチック材料」及び「短波長吸収成分」に相当する。また、引用発明の「プラスチックレンズ」は、本願発明の「光学レンズ」における「プラスチック材料で製造され、屈折力を有し」、「少なくとも1つの短波長吸収成分を含み、前記短波長吸収成分は前記プラスチック材料に均一に混合され」という要件を満たす。 イ 光学撮像レンズ 引用発明の「撮影光学系」は、「プラスチックレンズを含む」。 そうしてみると、引用発明の「撮影光学系」は、本願発明の「光学撮像レンズ」に相当する。また、引用発明の「撮影光学系」と、本願発明の「光学撮像レンズ」は、「光学レンズを含」む点で共通する。 (4)一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。 「 プラスチック材料で製造され、屈折力を有する、光学レンズを含み、光学レンズは、少なくとも1つの短波長吸収成分を含み、前記短波長吸収成分は前記プラスチック材料に均一に混合された、光学撮像レンズ。」 イ 相違点 本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。 (相違点1) 「光学撮像レンズ」が、本願発明は、「物体側から像側へ」、「プラスチック材料で製造され、屈折力を有し、その物体側表面及び像側表面の少なくとも1つの表面が非球面である少なくとも7つの光学レンズを含み」という要件を満たすのに対し、引用発明は、上記下線を付した要件を満たすものであると特定されたものではない点。 (相違点2) 「光学撮像レンズ」が、本願発明は、「物体側に近接した前記少なくとも7つの光学レンズ中、第1の光学レンズ、第2の光学レンズ、第3の光学レンズのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの短波長吸収成分を含み、前記短波長吸収成分は前記プラスチック材料に均一に混合され」るという要件を満たすのに対し、引用発明は、上記下線を付した要件を満たすものであると特定されたものではない点。 (相違点3) 「短波長吸収成分を含む」「前記光学レンズ」が、本願発明は、「波長350nm?400nmにおける平均透過率をT3540とし」、「波長400nm?450nmにおける平均透過率をT4045とし」、「波長580nm?700nmにおける平均透過率をT5870とし」たとき、「T3540≦40%」、「T4045<90%」及び「60%≦T5870」の条件を満たすのに対し、引用発明は、これが明らかではない点。 (相違点4) 「短波長吸収成分を含む前記光学レンズ」が、本願発明は、「最大厚さをTKmaxとし」、「最小厚さをTKminとし」たとき、「1.0<TKmax/TKmin」の条件を満たすのに対し、引用発明は、これが明らかではない点。 (相違点5) 「短波長吸収成分を含む前記光学レンズ」が、本願発明は、「最大有効径の最大値をΦmaxとし」、「中心厚さの合計をsumCTaと」したとき、「2.00≦Φmax/sumCTa≦10.00」という条件を満たすのに対し、引用発明は、これが明らかではない点。 (5)判断 相違点についての判断は以下のとおりである。 ア 相違点1について 「撮影光学系」において、「その物体側表面及び像側表面の少なくとも1つの表面が非球面である少なくとも7つの」光学レンズを用いて性能を高めることは、例えば、特開2014-102408号公報の【0001】?【0011】の記載並びに図1、3、5、7、9、11、13、15、17、19及び21等から理解されるように、本件優先日前の当業者における技術水準にすぎない。また、各光学レンズが「物体側から像側へ」設けられることは当然である。 そうしてみると、引用発明の「撮影光学系」において、相違点1に係る本願発明の構成を具備したものとすることは、本件優先日前の技術水準を前提とする当業者が容易に発明をすることができたことである。 イ 相違点2について 本願発明の「第1の光学レンズ」等の序数は、本件出願の明細書及び図面を参酌して、物体側から数えたレンズの位置を意味していると解釈して、相違点2について検討する。 引用発明の「プラスチックレンズのプラスチック材料に紫外線吸収剤を混入すること」に関して、引用文献1の【0016】には、「1枚目のポリカーボネート系樹脂のみに、又は1枚目のポリカーボネート系樹脂と2枚目のポリオレフィン系樹脂との両方に、紫外線吸収剤や酸化防止剤を混入させれば、UVカットフィルターを用いなくても紫外線による影響を防止することができる。」と記載されている。また、上記「1枚目」が、物体側から数えた枚数であることは、引用文献1の「本発明に係る撮影光学系は、プラスチックレンズを含む撮影光学系において、前記プラスチックレンズの被写体側又はプラスチックレンズ中に、被写体側から照射される紫外線を反射又は吸収する手段を設けたことを特徴としている。」(【0007】)という記載及び【0038】の「各実施例において、ri(i=1,2,3,...)は物体側から数えてi番目の面の曲率半径、di(i=1,2,3,...)は物体側から数えてi番目の軸上面間隔を示し、Ni(i=1,2,3,...),νi(i=1,2,3,...)は物体側から数えてi番目のレンズのd線に対する屈折率,アッベ数を示す。」という記載から明らかである。 そうしてみると、引用発明の「撮影光学系」において、相違点2に係る本願発明の構成を具備したものとすることは、当業者が容易になし得たことである。 ウ 相違点3について 引用発明は、「プラスチックレンズのプラスチック材料に紫外線吸収剤を混入することにより、レンズ成形後のプラスチック材料が紫外線によって黄変するのを防いだ」ものであるから、波長400nm以下の紫外線が十分吸収されるような吸収波長及び分量の紫外線吸収剤が選択されたものと考えられる(この点は、引用文献1の【0020】及び図12からも確認できる事項である。)。また、引用発明において、可視光領域に属する580nm?700nmの光の透過率を敢えて低下させる必要はない。 そうしてみると、相違点3は、実質的な相違点ではない。仮にそうでないとしても、引用発明の「プラスチックレンズ」を、相違点3に係る本願発明の条件を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たことである。 エ 相違点4について 相違点4に係る本願発明の条件は、平板レンズでない限り満たされると認められるところ、引用発明の「レンズ」において、敢えて平板レンズを用いることは予定されていない。 そうしてみると、相違点4は、実質的な相違点ではない。 オ 相違点5について 「撮影光学系」の技術分野において、レンズの最大有効径や厚さは、所望の明るさや要求される薄型化の程度に応じて、当業者が適宜設計する事項である(例えば、上記特開2014-102408号の実施例1(【0072】?【0075】)では、撮像レンズの1枚目の厚さ0.706mm(【0073】の【表1】)に対して、入射高2.93mm(図2)となっており、2.93×2÷0.706≒8.3と計算されるから、2.00≦Φmax/sumCTa≦10.00と推認される。)。そして、「2.00≦Φmax/sumCTa≦10.00」とした際に、格別の効果を奏するともいえない。 そうしてみると、引用発明において、相違点5に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜になし得た事項である。 (6)発明の効果について 本件出願の明細書には、発明の効果に関する明示的な記載がない。ただし、明細書の【0005】には、「関連業者は、効果的に短波長光線を除き、これによって撮影レンズの耐用度と撮像品質を向上させ、且つ撮影レンズのマイクロ化に寄与し、更にモバイル製品への搭載に寄与し、レンズコーティング技術の製造コストが高すぎることと技術難度が高すぎることによる欠点を避けることができるプラスチック光学レンズを依然として求めている。」と記載されているから、本願発明の効果は、この目標を達することと理解するのが自然である。 しかしながら、このような効果は、引用発明が奏する効果であるか、少なくとも、前記(5)ア?オで述べたとおり創意工夫する当業者が期待する範囲内の事項である。 (7)審判請求人の主張について 審判請求人は、令和3年1月4日の意見書の「3.2 引用発明との対比」において、「引用発明1と周知技術2は本願発明が備える事項を備えていません。また、引用文献1と周知技術2は本願発明が備える事項に関する何らの示唆を与えるものでもありません。周知技術1も、本願発明が備える事項に関する示唆を与えるものではありません。よって、当業者がこれらの引用文献及び周知技術を参照し、且つ組み合わせたとしても、補正後の本願請求項1、16、23-26に記載の発明に相当する構成に想到することは決して容易ではありません。」と主張する。 しかしながら、上記(5)で述べたとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、審判請求人の主張は採用できない。 (8)小括 本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2021-02-26 |
結審通知日 | 2021-03-02 |
審決日 | 2021-03-19 |
出願番号 | 特願2017-171734(P2017-171734) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤岡 善行 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 福村 拓 |
発明の名称 | 光学撮像レンズ及びそのプラスチック材料、画像取込装置並びに電子装置 |
代理人 | 服部 雅紀 |