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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
管理番号 1376657
審判番号 不服2019-7443  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-05 
確定日 2021-08-03 
事件の表示 特願2017-519757「モバイル端末アンテナのための制御方法およびモバイル端末」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月 7日国際公開、WO2016/000460、平成29年10月 5日国内公表、特表2017-529808〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)3月2日(優先権主張外国庁受理 2014年6月30日 中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成29年 2月 6日 手続補正書
平成30年 3月30日付け 拒絶理由通知書
8月29日 意見書・手続補正書
平成31年 1月28日付け 拒絶査定
令和 元年 6月 5日 審判請求書・手続補正書
令和 2年 3月19日付け 拒絶理由通知書
6月23日 意見書・手続補正書
9月10日付け 拒絶理由通知書
12月28日 意見書・手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年12月28日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲に記載される以下のとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
モバイル端末アンテナのための制御方法であって、
モバイル端末によって、サービス信号および前記モバイル端末の放射内のユーザのユーザ特徴を取得するステップと、
前記モバイル端末によって、サービスのために通信可能とする必要があるアンテナの数を判定するステップであって、前記通信可能とする必要があるアンテナの数は、受信したサービス信号による、ステップと、
前記モバイル端末によって、前記サービスのために通信可能とする必要があるアンテナの前記数となるように前記モバイル端末の通信可能アンテナの数を制御して、不要なアンテナを無効化するステップと、
前記モバイル端末によって、通信可能のままとするべきアンテナの数を判定するステップであって、前記通信可能のままとするべきアンテナの数は、前記ユーザ特徴による、ステップと、
前記モバイル端末によって、前記通信可能のままとするべきアンテナの数となるように前記モバイル端末の通信可能アンテナの数を制御するステップと、
を含む、モバイル端末アンテナのための制御方法。」

第3 当審拒絶理由通知書の概要
令和2年9月10日付け拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由通知書」という。)で通知された拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

1.この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
本願の請求項1?8に係る発明はいずれも「サービス信号」及び「ユーザ特徴」によりアンテナの数を制御する発明である。「サービス信号」は「開始コマンド」の一態様であり、「ユーザ特徴」は「関連情報」としての「環境情報」の一態様である「モバイル端末の放射内のユーザ」を利用する場合に用いられるものであるから、本願の請求項1?8に係るはいずれも「開始コマンド」と「関連情報」との双方に基づいてアンテナを制御する発明である。
そして、「開始コマンド」と「関連情報」との双方に基づいてアンテナを制御する実施形態は、モバイル端末の実施形態4だけであるが、該実施形態においても、「アンテナの数」をどのように制御するかについては、その実施ができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
そして、発明の詳細な説明のその余においても、本願の請求項1?8に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分な記載は存在しない。

2.この出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断
1 本願の発明の詳細な説明の記載事項について
(1)本願の発明の詳細な説明は、【0001】に技術分野、【0002】及び【0003】に背景技術、【0004】?【0033】に課題解決手段、【0034】に図面の簡単な説明、【0035】に「本発明の保護範囲」について記載した後、以下の(A)?(M)の実施形態の記載が続く。
(A)「一実施形態による、アプリケーションシナリオの概略」(【0036】)
(B)「制御方法の実施形態1」(【0037】?【0045】)
(C)「制御方法の実施形態2」(【0046】?【0063】)
(D)「制御方法の実施形態3」(【0064】?【0081】)
(E)「上記実施形態」及び「図5または図6に示す実施形態」の概要(【0082】)
(F)「制御方法の実施形態4」(【0083】?【0098】)
(G)「制御方法の実施形態5」(【0099】?【0114】)
(H)「制御方法の実施形態6」(【0115】?【0121】)
(I)「制御方法の実施形態7」(【0122】?【0154】)
(J)「モバイル端末の実施形態1」(【0155】、【0156】)
(K)「モバイル端末の実施形態2」(【0157】?【0164】)
(L)「モバイル端末の実施形態3」(【0165】?【0172】)
(M)「モバイル端末の実施形態4」(【0173】?【0185】)

(2)「開始コマンド」に基づく実施形態について
前記(B)?(G)(制御方法の実施形態1?5)と(J)、(K)(モバイル端末の実施形態1、2)は、「開始コマンド」に従ってアンテナの数を「サービスのために通信可能とする必要があるアンテナの数」(【0041】、【0043】、【0048】、【0050】、【0066】?【0069】、【0090】、【0092】、【0106】、【0108】、【0155】)ないし「サービスのために通信可能とすべきアンテナの数」(【0045】、【0063】、【0081】、【0098】、【0114】、【0156】、【0164】)となるように制御する形態である。前記(B)?(G)(制御方法の実施形態1?5)では、「開始コマンド」として、「着信通知メッセージ」若しくは「ビデオストリーム信号」のような「サービス信号」(【0046】、【0049】、【0052】)、又は、ユーザが入力した「操作指示」(【0064】、【0065】、【0090】、【0106】、【0107】)が想定されている。
前記(K)は、「開始コマンド」としての「操作指示」が「サービスを開始せよとの指示ではない」と判定された場合にアンテナの数を「サービス信号を受信する前の数」(【0158】、【0161】)とする、又は、「サービスを終了するための情報を受信」すると「開始コマンドを受信する前の数」(【0163】)に復帰させることに焦点を当てたものである。

(3)「関連情報」に基づく実施形態について
前記(H)、(I)及び(L)(制御方法の実施形態6及び7並びにモバイル端末の実施形態3)は、「関連情報」に従ってアンテナの数を「通信可能のままとするべきアンテナの数」となるように制御する形態(【0121】、【0154】、【0171】)であって、「関連情報」としては、「環境情報」、「関連パラメータ」又は「作業モード」が想定されている(【0117】、【0129】、【0165】)。
これらの実施形態のうち、前記(I)及び(L)は、「環境情報」が「モバイル端末の放射内のユーザ」である場合、「ユーザ特徴」が「予め設定した生体情報」を満たすか否かにより、アンテナの数が制御される(【0137】、【0167】)ものであり、前記(I)は、具体的な「ユーザ特徴」として大人、お年寄り、妊娠中の女性、子供などの生物学的特徴が挙げられ(【0132】、【0135】、【0136】)、具体的な「予め設定した生体情報」として高齢者、子供、および妊娠中の女性(【0138】)が挙げられ、「ユーザ特徴」がお年寄りである場合にいくつかのアンテナを無効化する(【0138】)ものである。

(4)「開始コマンド」及び「関連情報」に基づく実施形態について
前記(M)(モバイル端末の実施形態4)は、モバイル端末の実施形態4の動作の記載として、「本実施形態では、モバイル端末は、受信したサービスの開始コマンドに従って、サービスのために通信可能とすべきアンテナの数を判定し、モバイル端末上の通信可能アンテナの数を柔軟に変更し、それによって、モバイル端末上の通信可能アンテナの数がサービスを実行するための要件を満たすことができない事態を防ぎ、不要なエネルギー損失を引き起こしモバイル端末の性能に影響を及ぼし、加えて、モバイル端末は、取得した関連情報に従って、通信可能のままとすべきアンテナの数をさらに判定し、モバイル端末上の通信可能アンテナの数を柔軟に変更してよく、それによって、モバイル端末上の通信可能アンテナの数が、周囲に悪影響を与えたり、モバイル端末の電気などのエネルギーを過度に早く消費してモバイル端末の性能に影響を及ぼしたりするのをさらに防ぐことができる。」(【0183】)との記載があるように、「開始コマンド」に加えて「関連情報」に従って通信可能のままとすべきアンテナの数を制御する形態が記載されているものの、モバイル端末のハードウェア構成に焦点を当てたもの(【0173】?【0182】、【0184】)である。
つまり、前記(M)(モバイル端末の実施形態4)は、プロセッサ82及びメモリ83を含むモバイル端末800であり(【0174】)、メモリ83はアプリケーションプログラム4022を含み、アプリケーションプログラム4022は、様々なアプリケーションプログラムを含み、これらは、様々なアプリケーション機能、例えば、サービス識別プログラムと、ユーザ特徴識別プログラムとを実現するために使用される(【0176】)ものである。

(5)本願発明の課題及び課題解決手段について
本願発明の課題は明記されてはいないものの、発明の詳細な説明に「アンテナが多くなると、端末と通信ネットワークエレメントとの間の通信の計算の複雑さもまた増大し、ひいては、より高い電力消費につながる。」(【0002】)、及び、「例えば、セッションサービスを正常に実行するためには、2本のアンテナのみを通信可能とするだけでよい。この場合、モバイル端末上の4本のアンテナを通信可能とすると、モバイル端末の電力消費が過度に高くなる。特に、電力供給をバッテリに頼る電子デバイスであるモバイル端末の場合、不要なアンテナを通信可能とすることで、バッテリの電気が無駄に使われ、ユーザの使用に影響する。」(【0003】)との背景技術を示した上で、課題を解決するための手段として「本発明の実施形態は、モバイル端末アンテナのための制御方法およびモバイル端末を提供するものであり、これらは、モバイル端末の無効化したアンテナの数や通信可能としたアンテナの数を適切に制御するために使われる」(【0004】)、「本発明の実施形態において提供されるモバイル端末アンテナを制御するための方法およびモバイル端末によって、サービスの開始コマンドまたは関連情報を受信すると、モバイル端末が通信可能とすべきアンテナの数が判定され、モバイル端末上の通信可能アンテナの数が柔軟に変更され、それによって、モバイル端末上の通信可能アンテナの数がサービスを実行するための要件を満たすことができない事態を防ぎ、不要なエネルギー損失を引き起こす、モバイル端末上の通信可能アンテナの数が過度となる事態も防ぎ、さらにモバイル端末上の通信可能アンテナの数が、周囲に悪影響を与えたり、モバイル端末の電気を過度に早く消費してモバイル端末の性能に影響を及ぼしたりするのをさらに防ぐことができる。」(【0033】、下線は強調のため当審で付した。)と記載していることに鑑みれば、本願発明及びその実施形態が解決すべき課題は、モバイル端末上の通信可能アンテナの数がサービスを実行する(セッションサービスを正常に実行する)ための要件を満たすことができない事態を防ぐことと、及び、モバイル端末上の通信可能アンテナの数が過度となる(不要なエネルギー損失を引き起こす)事態を防ぐこととを両立させることにあると認められる。

2 本願発明の実施可能性について
(1)本願発明のアンテナ数の制御について
本願発明は、開始コマンドの一形態である「サービス信号」により「サービスのために通信可能とする必要があるアンテナの数」を判定し、その数になるように「不要なアンテナを無効化」することを含む。
前記1(5)に示される本願発明の課題に鑑みれば、前記「サービスのために通信可能とする必要があるアンテナの数」は、「セッションサービスを正常に実行する」ことができ、かつ、「不要なエネルギー損失を引き起こす」事態を防ぐことができるものであるから、これ以上減らすこともできないし(減らすと正常なサービスが実行できない)、増やすこともできない(増やすと不要なエネルギー損失を引き起こす)。
そうすると、本願発明において「サービス信号」により決定された「サービスのために通信可能とする必要があるアンテナの数」は、本願発明の課題に鑑みればこれ以上増減する余地のないものであるから、これを「関連情報」に基づいて「通信可能のままとするべきアンテナの数」となるように制御する余地はない。すなわち、本願発明において「関連情報」に基づいた制御を実施する余地はない。

(2)本願発明に対応する実施形態のアンテナの数の制御について
次いで、本願発明に対応する実施形態ついて検討する。
本願発明は、「サービス信号」と「ユーザ特徴」とにより通信可能アンテナ数を制御するものである。前記1(2)によれば「サービス信号」は「開始コマンド」の一形態であり、前記1(3)によれば「ユーザ特徴」は「関連情報」の一形態である「環境情報」の一形態であると認められる。そうすると、本願発明は「開始コマンド」及び「関連情報」の双方に基づいて通信可能アンテナ数を制御するものであると認められる。
「開始コマンド」及び「関連情報」の双方に基づいてアンテナ数を制御する実施形態は、前記1のとおり前記(M)(モバイル端末の実施形態4)のみである。そして、本願明細書には各実施形態を組み合わせることについての記載も示唆も存在しない。
そうすると、本願発明に対応する実施形態は、前記(M)であると認められる。
前記(M)はハードウェア構成に焦点を当てたものであり、「開始コマンド」と「関連情報」との双方に基づいて、いくつのアンテナを有効とし、いくつのアンテナを無効化するのかについての具体的な記述は存在しない。よって、「開始コマンド」に加えて「関連情報」をも考慮した場合に、「関連情報」に基づいてどのようにアンテナの数を制御すれば良いのかは、前記(M)の実施形態を参照しても不明である。

(3)発明の詳細な説明のその余の部分におけるアンテナの数の制御ついて
発明の詳細な説明のその余の部分を参照しても、「開始コマンド」に基づいて判定されたアンテナの数を、「関連情報」に基づいてさらに変更する具体的な制御は記載されていない。
加えて、仮に「開始コマンド」に基づくアンテナの数の制御と「関連情報」に基づくアンテナの数の制御との組み合わせが考慮されるとしても、例えば、「開始コマンド」の「着信通知メッセージ」により「モバイル端末がLTEネットワーク上」であればアンテナ本数を2本と判定され(【0042】)、他方、関連情報である「節電モード」に基づけばアンテナを本数1本と判定される(【0152】)ような、「LTEネットワーク上の節電モード」の場合など、「開始コマンド」に基づく判定と「関連情報」に基づく判定とがそれぞれ異なる数の「アンテナの数」を指定する場合があることが明らかであるが、このように「開始コマンド」と「関連情報」とが異なるアンテナの数を判定した場合に、実際に通信可能に制御されるアンテナの数をいくつとするのかは、何も記載されていない。

(4)請求人の主張について
請求人は、令和2年12月28日の意見書にて、「当業者であれば、「開始コマンド」と「関連情報」に基づいて、アンテナを制御することができるものと思量する。/従って、本願の発明の詳細な説明は、本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものと思量する。」(意見書2頁、「/」は改行を表す。)と主張する。
しかしながら、請求人は上記主張の具体的な根拠を何ら示していない。そうすると、前記(1)?(3)のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

なお、請求人は理由2(サポート要件)に関して「「ユーザ特徴」に基づいて判定されるアンテナの数は、「通信可能のままとするべきアンテナの数」であって、「通信可能とする必要があるアンテナの数」ではない。」(意見書2頁)とも主張する。
前記主張が実施可能要件についても当てはまる主張であるか否かは定かではないが、本願発明の課題(前記1(5))である「モバイル端末上の通信可能アンテナの数がサービスを実行する(セッションサービスを正常に実行する)ための要件を満たすことができない事態を防ぐことと、及び、モバイル端末上の通信可能アンテナの数が過度となる(不要なエネルギー損失を引き起こす)事態を防ぐこととを両立させること」によれば、「通信可能とする必要があるアンテナの数」と「通信可能のままとするべきアンテナの数」とは互いに独立に設定できるものとは認められず、請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上、(1)?(4)によれば、本願の発明の詳細な説明は、本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明は、本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしてない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-02-25 
結審通知日 2021-03-01 
審決日 2021-03-18 
出願番号 特願2017-519757(P2017-519757)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 龍一  
特許庁審判長 吉田 隆之
特許庁審判官 北岡 浩
丸山 高政
発明の名称 モバイル端末アンテナのための制御方法およびモバイル端末  
代理人 木内 敬二  
代理人 実広 信哉  

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