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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1376665
異議申立番号 異議2017-701223  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-22 
確定日 2020-04-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6154074号発明「多結晶質シリコン断片及び多結晶質シリコンロッドの粉砕方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6154074号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。 特許第6154074号の請求項1?4、8、11に係る特許を取り消す。 特許第6154074号の請求項5?7、9、10に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6154074号の請求項1?11に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)8月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年8月21日(DE)ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成29年6月9日にその特許権の設定登録がされ、平成29年6月28日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その特許について、平成29年12月22日付けで特許異議申立人星正美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年2月14日付けで取消理由が通知され、平成30年5月21日付けで特許権者による意見書及び訂正請求書の提出がされ、平成30年7月5日付けで特許異議申立人による意見書の提出がされ、平成30年8月8日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成30年9月27日付けで特許権者による意見書の提出及び訂正請求書の手続補正がされ、平成30年10月22日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成31年1月17日付けで特許権者による意見書の提出がされたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
平成30年9月27日付けで手続補正された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正事項11及び20は、上記手続補正により削除された。また、下線部が訂正箇所である。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における「少なくとも一個の粉砕工具」との記載を、「少なくとも二個の粉砕工具」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1における「%」との記載を、「重量%」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1における「メジアン粒径が0.8μm以上である」との記載を、「メジアン粒径が1.3μm以上である」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1における「前記工具表面の炭化タングステン含有量が・・・(中略)・・・μm以上であるか、あるいは前記工具表面の炭化タングステン含有量が・・・(中略)・・・μm以下であり、」との記載を、「前記少なくとも二個の粉砕工具が、前記工具表面の炭化タングステン含有量が・・・(中略)・・・μm以上である第1の粉砕工具と、前記工具表面の炭化タングステン含有量が・・・(中略)・・・μm以下である第2の粉砕工具とを含んでなり、」と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1における「前記少なくとも2つの粉砕工程のうち少なくとも1つの粉砕工程が、前記炭化タングステン粒子の粒径が0.8μm以上である前記粉砕工具による粉砕工程であるか、あるいは前記炭化タングステン粒子の粒径が0.5μm以下である前記粉砕工具による粉砕工程である、」との記載を、「前記少なくとも2つの粉砕工程が、前記第1の粉砕工具による粉砕工程と、前記第2の粉砕工具による粉砕工程とを含んでなる、」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2における「粒径」との記載を、「前記メジアン粒径」と訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項2における「前記少なくとも2つの粉砕工程のうち少なくとも1つの粉砕工程が、前記炭化タングステン粒子の粒径が1.3μm以上である前記粉砕工具による粉砕工程か、あるいは」との記載を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項2における「前記炭化タングステン粒子の粒径が0.2μm以下である前記粉砕工具による粉砕工程により行われる、」との記載を、「前記第2の粉砕工具の炭化タングステン粒子の前記メジアン粒径が0.2μm以下である、」と訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項3における「前記少なくとも一個の粉砕工具が、手動式ハンマー、ハンマーミル又は機械式衝撃工具であり、前記炭化タングステン粒子の前記粒径が0.8μm以上である、」との記載を、「前記第1の粉砕工具が、手動式ハンマー、ハンマーミル又は機械式衝撃工具である、」と訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項4における「前記少なくとも一個の粉砕工具が、ジョークラッシャ、ロールクラッシャ又はボールミルであり、前記炭化タングステン粒子の前記粒径が0.5μm以下である、」との記載を、「前記第2の粉砕工具が、ジョークラッシャ、ロールクラッシャ又はボールミルである、」と訂正する。

(11)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(12)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(13)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(14)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項8における「%」との記載を、「重量%」と訂正する。

(15)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項8における「前記少なくとも2つの粉砕工程のうち少なくとも1つの粉砕工程が、前記炭化タングステン含有量が90%未満の前記粉砕工具により行われ、かつ前記少なくとも2つの粉砕工程のうち少なくとも1つの粉砕工程が、前記炭化タングステン含有量が90%超の前記粉砕工具により行われる、」との記載を、「前記第1の粉砕工具の炭化タングステン含有量が90重量%未満であり、かつ前記第2の粉砕工具の炭化タングステン含有量が90重量%超である、」と訂正する。

(16)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項8における「請求項1?7のいずれか一項」との記載を、「請求項1?4のいずれか一項」と訂正する。

(17)訂正事項18
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(18)訂正事項19
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(19)訂正事項21
特許請求の範囲の請求項11における「500℃」との記載を、「800℃」と訂正する。

(20)訂正事項22
特許請求の範囲の請求項11における「請求項1?10のいずれか一項」との記載を、「請求項1?4及び8のいずれか一項」と訂正する。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1、4及び5について
訂正事項1、4及び5は、訂正前の請求項1に記載された「少なくとも一個の粉砕工具」を「少なくとも二個の粉砕工具」に減縮すると共に、この少なくとも二個の粉砕工具と少なくとも2つの粉砕工程との対応関係を明瞭にするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0036】及び【0037】には、「本方法は、少なくとも2粉砕工程を含んでなり、そこで使用される少なくとも2個の粉砕工具が、WC粒径0.5μm未満、WC粒径0.5?0.8μm、WC粒径0.8μmを超える、からなる群から選択された、異なったWC粒径を有する。」及び「本方法が、炭化タングステン粒子の粒径0.8μm以上の少なくとも一個の粉砕工具による少なくとも一つの粉砕工程、及び炭化タングステン粒子の粒径0.5μm以下の粉砕工具による粉砕工程を含んでなる場合に、特に好ましい。」と記載されているし、また、「第1の粉砕工具」及び「第2の粉砕工具」とする訂正は、異なる粉砕工具を区別するための単なる明示であって、新たな技術的事項を導入するものではないから、訂正事項1、4及び5は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2及び15について
訂正事項2及び15は、訂正前の請求項1及び8に記載された「%」で示される炭化タングステン含有量の単位の基準が明確でなかったところ、重量基準である「重量%」に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、乙第1号証(米国特許出願公開第2006/0088970号明細書)の段落0019には、硬質金属表面の炭化タングステン含有量が「重量%」で記載され、乙第2号証(米国特許出願公開第2003/0159647号明細書)の段落0033及び段落0193には、WC/Co焼結体のWCやCo含有量の単位「%」が重量基準であることが記載され、さらに、乙第3号証(COMPLETE PROGRAMME WEAR PARTS 2015, CERATIZIT GROUP)の第17?20頁には、炭化物中のCo含有量の単位が「重量%」あるいは「%」で記載されていることからみて、硬質金属表面の炭化タングステン含有量の単位を「重量%」で表示することや、「重量%」を省略して「%」で表示することは、当該技術分野の技術常識といえる。
そうしてみると、訂正事項2及び15は、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、訂正事項2及び15は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載されたメジアン粒径を「0.8μm以上」から「1.3μm以上」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0033】には、「より粗い粒子は、好ましくは1.3μm以上の粒径を有すると共に、炭化タングステン含有量が95%未満、好ましくは90%未満、より好ましくは65?80%である。」と記載されているから、訂正事項3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項2に記載された「粒径」と、請求項1に記載された「メジアン粒径」との対応関係を明瞭にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0026】及び【0041】?【0043】には、粒径が「メジアン粒径」であることが記載されているから、訂正事項6は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項2に択一的に記載された特定事項の一方を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項8?10について
訂正事項8?10は、訂正前の請求項2?4に記載された「粉砕工具」について、訂正事項4及び5によって訂正された請求項1に記載の「第1の粉砕工具」及び「第2の粉砕工具」との対応関係を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項12?14、18、19について
訂正事項12?14、18、19は、訂正前の請求項5?7、9、10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項16について
訂正事項16は、訂正前の請求項8において、訂正事項4及び5によって訂正された請求項1に記載の「前記少なくとも2つの粉砕工程が、前記第1の粉砕工具による粉砕工程と、前記第2の粉砕工具による粉砕工程とを含んでなる」との特定事項と重複した記載を整理するものであり、また、訂正前の請求項8に記載された「粉砕工具」について、訂正後の請求項1に記載の「第1の粉砕工具」及び「第2の粉砕工具」との対応関係を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)訂正事項17及び22について
訂正事項17及び22は、請求項の削除に伴い、訂正前の請求項8及び11における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(10)訂正事項21について
訂正事項21は、訂正前の請求項11に記載された、少なくとも2つの粉砕工程間に行われるチャンクの熱処理の温度について、「500℃超」から「800℃超」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の段落【0063】及び【0064】には、手動式破壊、大型ジョークラッシャでの破壊、小型のジョークラッシャでの二つの粉砕工程、及び、ジョークラッシャでの最後の破壊工程により、チャンクに粉砕する方法(例3b)の「第二の破壊工程の後に、800°/1hの予備熱処理」を行うことが記載されているから、訂正事項21は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(11)一群の請求項について
訂正前の請求項2?11が、訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正による特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1?11について請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正を認める。

第3 特許異議申立について

1 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1?4、8、11に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?4、8、11に記載された次の事項により特定されるものである。

【請求項1】
炭化タングステンを含んでなる表面を有する少なくとも二個の粉砕工具により、多結晶質シリコンロッドをチャンクに粉砕する方法であって、前記少なくとも二個の粉砕工具が、前記工具表面の炭化タングステン含有量が95重量%以下であり、かつ炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径が1.3μm以上である第1の粉砕工具と、前記工具表面の炭化タングステン含有量が80重量%以上であり、かつ前記炭化タングステン粒子の前記メジアン粒径が0.5μm以下である第2の粉砕工具とを含んでなり、前記方法が少なくとも2つの粉砕工程を含んでなり、前記少なくとも2つの粉砕工程が、前記第1の粉砕工具による粉砕工程と、前記第2の粉砕工具による粉砕工程とを含んでなる、方法。
【請求項2】
前記第2の粉砕工具の炭化タングステン粒子の前記メジアン粒径が0.2μm以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の粉砕工具が、手動式ハンマー、ハンマーミル又は機械式衝撃工具である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の粉砕工具が、ジョークラッシャ、ロールクラッシャ又はボールミルである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記第1の粉砕工具の炭化タングステン含有量が90重量%未満であり、かつ前記第2の粉砕工具の炭化タングステン含有量が90重量%超である、請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】
前記少なくとも2つの粉砕工程間に、800℃超の温度における前記チャンクの熱処理に続いて、より低温の媒体中での急冷を行う、請求項1?4及び8のいずれか一項に記載の方法。

2 取消理由(決定の予告)の概要
請求項1?4、8、11に係る特許に対して、平成30年10月22日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は次のとおりである。

(1)取消理由1(特許法第36条第6項第2号)
ア 取消理由1-1
請求項1には、粉砕工具の炭化タングステン粒子のメジアン粒径を「質量により秤量したメジアン粒径」と定義している。そして、請求項1の記載ぶりから明らかなように、前記「質量により秤量したメジアン粒径」は、粉砕工具表面の炭化タングステン粒子の「質量により秤量したメジアン粒径」を示していると認められるところ、発明の詳細な説明には、粉砕工具表面の炭化タングステン粒子の質量に基づく粒径分布の測定方法は具体的に記載されていない。
また、平成30年5月21日付けの意見書で特許権者が主張する測定方法では、粉砕工具表面の炭化タングステン粒子の質量に基づく粒径分布を直接測定できない。また、当該測定方法により、原料段階での炭化タングステン粒子の質量に基づく粒径分布を測定できたとしても、甲第3号証(特開平9-125185号公報)の表1に記載されているように、焼結後の炭化タングステン粒子の粒径は、原料段階の炭化タングステン粒子の粒径から大きく変化するから、原料段階での炭化タングステン粒子の粒径から、炭化タングステン焼結体である粉砕工具表面の炭化タングステン粒子の粒径を直接的に導き出すことはできない。
そうしてみると、特許権者が主張する粒径分布の測定方法やメジアン粒径の算出方法が技術常識としても、粉砕工具表面の炭化タングステン粒子の質量に基づく粒径分布の測定方法は依然として明らかでないから、請求項1に記載された「工具表面」の「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」は、どのような測定方法に基づく数値であるのか明らかでない。
よって、請求項1に係る発明及びこれを引用する請求項2?4、8及び11に係る発明は明確でないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

イ 取消理由1-2
請求項1には、炭化タングステン含有量に関して、「工具表面の炭化タングステン含有量が95重量%以下」あるいは「工具表面の炭化タングステン含有量が80重量%以上」と記載されているところ、発明の詳細な説明には、工具表面の炭化タングステン含有量の測定方法について具体的に記載されていないため、請求項1に記載された「工具表面の炭化タングステン含有量」が、どのような測定方法に基づく数値であるのか明らかでない。
よって、請求項1に係る発明及びこれを引用する請求項2?4、8及び11に係る発明は明確でないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

(2)取消理由2(特許法第36条第6項第1号)
ア 取消理由2-1
請求項1に係る発明は、「多結晶質シリコンロッドをチャンクに粉砕する方法」において、「工具表面の炭化タングステン含有量が95重量%以下であり、かつ炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径が1.3μm以上である第1の粉砕工具」と、「工具表面の炭化タングステン含有量が80重量%以上であり、かつ前記炭化タングステン粒子の前記メジアン粒径が0.5μm以下である第2の粉砕工具」を用いることを発明特定事項として含む発明である。
これに対して、発明の詳細な説明の段落【0061】?【0066】には、多結晶質シリコンロッドをチャンクに粉砕する具体例が実施例として記載されているところ、当該実施例において示される粉砕工具表面の炭化タングステン粒子のメジアン粒径は、本来、実施例の粉砕工具毎に一つの数値になるべきであるにもかかわらず、実際に記載された粉砕工具の粒径は、「粗い粒子(2.5?6.0μm)」や「超微粒子(0.2?0.5μm)」のように数値範囲で示される値になっているため、当該数値範囲で示される粒径が、請求項1に記載された「工具表面」の「質量により秤量したメジアン粒径」に当たるかどうか明らかでない。
したがって、当業者が、発明の詳細な説明の段落【0061】?【0066】に記載された多結晶質シリコンロッドをチャンクに粉砕する方法を、請求項1に係る発明の実施例であると認識することはできない。
よって、請求項1に係る発明及びこれを引用する請求項2?4、8及び11に係る発明は、実質的に発明の詳細な説明に記載された発明であるといえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

3 当審の判断
(1)取消理由1(特許法第36条第6項第2号)について
ア 取消理由1-1について
(ア)特許権者は、平成31年1月17日付けの意見書の「(1)各取消理由に対する意見」の「(1-1)取消理由1(明確性要件)について」の「ア 取消理由1-1」において、乙第4号証(Carbide is a matter of confidence, CERATIZIT GROUP)、及び、乙第3号証(COMPLETE PROGRAMME WEAR PARTS 2015, CERATIZIT GROUP)の記載に基づき、『乙第4号証の12頁の焼結工程の図(下記翻訳図参照)では、「完成した炭化物大粒径および中粒径、並びに選択的粒成長」(焼結された炭化物粒子の粒径が、選択的な粒成長により達成できること)が記載されています。

即ち、焼結の条件などにより、焼結後の炭化タングステン粒子の粒径を制御できる旨が記載されています。してみると、原料段階(圧縮および焼結前の粉末状態)で測定した炭化タングステン粒子の粒径から、炭化タングステン焼結体である粉砕工具表面の炭化タングステン粒子の粒径を直接的に導き出すことは可能です。その証拠に、焼結工具の製造業者のカタログである平成30年9月27日付の意見書に添付した乙第3号証(以下、単に「乙第3号証」といいます)の16頁の右側最終段落では、「The classification of carbides according to grain size corresponds to the recommendations of the Powder Metallurgy Association」(粒子径による炭化物の分類は、粉末多金工業会の提案に対応する)ことが記載されており、乙第3号証の16頁の左下表では、焼結後の粒子の平均粒径を「nano」、「ultrafine」、「submicron」、「fine」、「medium」、「coarse」、「extra-coarse」に分類して載せています。
また、上記の通り、焼結後の炭化タングステン粒子の粒径は、粉末状態で測定した粒径から導き出せることが可能です。そのため、炭化タングステン粒子の粒径は、当業者に公知の様々な方法によって測定することができます。ここで、炭化タングステン粒子は、全ての粒子の密度が非常に近似していると仮定できるため、仮に、レーザー回折法などの体積基準の粒径分布によりメジアン粒径を測定したとしても、沈降法などによって測定された質量により秤量したメジアン粒径と同一であると仮定できます。加えて、他の測定方法として、乙第3号証の20頁の4枚の写真(Ultrafine grades, Submicron grain, Fine/medium grain, Coarse grain)に示されるように、製粉パターン(grinding pattens)の分析により、粒径を測定することも可能です。』(2頁17行?4頁4行)と主張した上で、『従って、「工具表面」の「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」は、焼結前の粉末状態の粒子を当業者に公知の様々な方法で測定することが可能であり、焼結前の粉末状態の炭化タングステン粒子の粒径から焼結後の炭化タングステン粒子の粒径を直接的に導き出することが可能であり、炭化タングステン粒子の粒径は、固形物の表面上と固形物中とで同一であることから、どのような測定方法に基づく数値であるかは明らかです。』(4頁第13?18行)と主張している。なお、当該主張における「粉末多金工業会」、「製粉パターン(grinding pattens)」は、それぞれ、「粉末冶金工業会」及び「研削面(grinding patterns)」の誤記と認められる。
そこで、当該主張を検討する。
乙第4号証の12頁には、焼結プロセスの模式図が記載され、乙第3号証の16頁の左下表には、炭化タングステン粒子径の分類が記載され、また、乙第3号証の20頁には、炭化物焼結体の研削面の写真が記載されているが、これら記載は、原料段階での炭化物粒子の粒径や粒径分布から、焼結体表面の炭化物粒子の粒径や粒径分布を直接決定できることを示したものではない。そして、乙第3号証及び乙第4号証のいずれにも、焼結体表面の炭化物粒子の粒径や粒径分布を、原料段階での炭化物粒子の粒径や粒径分布から直接決定できることについて記載も示唆もされていない。
したがって、乙第3号証及び乙第4号証の記載から、焼結体表面の炭化物粒子の粒径や粒径分布を、原料段階での炭化物粒子の粒径や粒径分布から直接決定できることが技術常識であると認められない。
また、特許権者が主張する「焼結条件などにより、焼結後の炭化タングステン粒子の粒径を制御できる」ことは、言い換えると、同じ粒径の炭化タングステン粒子を原料に用いても、焼結条件などが異なれば、焼結後の炭化タングステン粒子の粒径は同じものにならないということであるから、特許権者が主張する「焼結条件などにより、焼結後の炭化タングステン粒子の粒径を制御できる」ことは、炭化タングステン焼結体の炭化タングステン粒子の粒径や粒径分布を、原料段階の炭化タングステン粒子の粒径や粒径分布で直接決定できないことを意味する。
すなわち、特許異議申立人が提出した甲第3号証(特開平9-125185号公報)の表1に記載されているように、焼結体の炭化タングステン粒子の粒径や粒度分布は、原料段階の炭化タングステン粒子の粒径や粒度分布から大きく変化するため、原料段階の炭化タングステン粒子の粒径や粒径分布が、炭化タングステン焼結体の炭化タングステン粒子の粒径や粒径分布を示しているとはいえない。
そうしてみると、原料段階(圧縮および焼結前の粉末状態)の炭化タングステン粒子の粒径や質量に基づく粒径分布の測定方法が周知であるとしても、請求項1に記載された「工具表面」の「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の測定方法は依然として明らかでない。

(イ)次に、特許権者は、平成31年1月17日付けの意見書の「(1)各取消理由に対する意見」の「(1-2)取消理由2(サポート要件)について」において、「粒径分布の分析、材料の粒径の測定は、製粉パターンに基づいて測定することができ、例えば面積単位(μm^(2))で規定することができます。一方で、ASTM粒径(ASTM:米国材料試験協会)は、製粉パターンの評価(ASTM E112またはDIN EN ISO 643)および分類を、切片法および/または面積計量法に従って実施することによって、大抵は得られます。」(5頁24?28行)(当審注:「製粉パターン」は「研削面」の誤記と認められる。)と主張していることから、当該評価方法によって、請求項1に記載された「工具表面」の「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の測定方法が明確になるかについて検討する。
上記主張の研削面の評価方法である「ASTM E112」又は「DIN EN ISO 643」は、顕微鏡写真に基づく評価方法であるところ、顕微鏡写真に基づく評価方法では、焼結体表面に露出している粒子毎の粒径は測定できるが、当該粒子毎の質量は直接測定できないし、また、当該粒子の深さ方向の形状も測定できないため、当該粒子毎の断面積のみから当該粒子の体積や質量を算出することもできないから、顕微鏡写真に基づく評価方法では、質量に基づく粒径分布を得ることができない。
また、顕微鏡写真に基づく評価方法による粒子毎の断面積から、特定の換算方法によって粒子毎の質量を算出した上で、質量に基づく粒径分布を算出することができたとしても、本件特許明細書には、当該換算方法は記載されていないし、このような換算方法が技術常識であるともいえない。
そうしてみると、「ASTM E112」又は「DIN EN ISO 643」のような顕微鏡写真に基づく評価方法が周知であるとしても、請求項1に記載された「工具表面」の「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の測定方法が明らかであるといえない。

(ウ)以上のとおり、請求項1に記載された「工具表面」の「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の測定方法が明らかでないから、当該「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が、どのような測定方法に基づく数値であるのか明らかでない。
よって、請求項1に係る発明及びこれを引用する請求項2?4、8及び11に係る発明は明確でないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

イ 取消理由1-2
取消理由1-2について検討すると、炭化タングステン焼結体である粉砕工具中に炭化タングステン粒子は均一に分布しているため、粉砕工具表面の炭化タングステン含有量と、粉砕工具中の炭化タングステン含有量は同一であるといえるし、また、炭化タングステン含有量は、焼結により影響を受けないため、焼結前の炭化タングステン含有量と、焼結後の炭化タングステン含有量は同一であるといえるから、請求項1に記載された「工具表面の炭化タングステン含有量」は、周知の方法により測定された原料段階の炭化タングステン含有量から導き出した数値であると認識できる。
よって、取消理由1-2は解消した。

(2)取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について
ア 取消理由2-1について
特許権者は、平成31年1月17日付けの意見書の「(1)各取消理由に対する意見」の「(1-2)取消理由2(サポート要件)について」において、乙第3号証(COMPLETE PROGRAMME WEAR PARTS 2015, CERATIZIT GROUP)及び乙第5号証(米国特許出願公開第2009/0120848号明細書)の記載に基づき、『粒径分布の分析、材料の粒径の測定は、製粉パターンに基づいて測定することができ、例えば面積単位(μm^(2))で規定することができます。一方で、ASTM粒径(ASTM:米国材料試験協会)は、製粉パターンの評価(ASTM E112またはDIN EN ISO 643)および分類を、切片法および/または面積計量法に従って実施することによって、大抵は得られます。実施例に示された範囲は、この方法で測定されたガウス分布の下限および上限を表す散乱値であり、質量により秤量したメジアン粒径は、これらの粒径に非常に近似します。また、「粗い粒子(2.5?6.0μm)」や「超微粒子(0.2?0.5μm)」などの粒径は、粉末冶金工業会によって提案された粒径の分類であり、この分類では、各数値が平均粒径を表すにも関わらず、数値範囲で示された値となっています(乙第3号証の16頁の左下表参照)。
さらに、質量基準の分布は、特にバルク材料産業(例えば、建築材料産業における石または砂利の分布)で一般的なものであり、例えば、RETSCH粒子測定装置(例えば、Camsizer)は、粒径測定値を体積または質量分布として出力できます。これについて、例えば、乙第5号証の図2および図3では、縦軸に「Weight componets (%)」と記載され、質量により秤量したガウス粒子分布が示されています。
従って、本願実施例で用いられている粉砕工具が、本件訂正発明1の第1の粉砕工具と第2の粉砕工具に当たることは明らかであり、当業者は、発明の詳細な説明の段落[0061]?[0066]に記載された多結晶質シリコンロッドをチャンクに粉砕する方法が、本件訂正発明1の実施例であると認識できます。』(5頁24行?6頁16行)(当審注:「製粉パターン」は「研削面」の誤記と認められる。)と主張している。
そこで、当該主張を検討する。
まず、当該主張を踏まえると、発明の詳細な説明の段落【0061】?【0066】に記載された「粗い粒子(2.5?6.0μm)」や「超微粒子(0.2?0.5μm)」などは、「ASTM E112」又は「DIN EN ISO 643」のような顕微鏡写真に基づく評価方法により得られた、焼結体研削面の炭化タングステン粒子の粒径分布としての数値範囲として把握されるものであるといえる。
しかしながら、上記(1)ア(イ)で検討したとおり、焼結体研削面に対しての顕微鏡写真に基づく評価方法では、質量に基づく粒径分布を直接得ることはできないし、また、当該評価方法による粒径分布を質量に基づく粒径分布に換算する方法は、本件特許明細書に記載されていないし、技術常識であるともいえないから、発明の詳細な説明の段落【0061】?【0066】に記載された「粗い粒子(2.5?6.0μm)」や「超微粒子(0.2?0.5μm)」などが、焼結体研削面の炭化タングステン粒子の質量に基づく粒径分布としての数値範囲を示していると認識できない。
また、乙第5号証に、粉砕した多結晶シリコンの質量基準の粒径分布が記載されていることを根拠にした、特許権者の質量基準の粒径分布が一般的であるとの主張は、乙第5号証の上記記載が、粉粒体に対する質量基準の粒径分布を説明しているにすぎないため、当該主張を考慮しても、発明の詳細な説明の段落【0061】?【0066】に記載された「粗い粒子(2.5?6.0μm)」や「超微粒子(0.2?0.5μm)」などが、焼結体研削面の炭化タングステン粒子の質量に基づく粒径分布範囲を示していると認識できない。
そうしてみると、発明の詳細な説明の段落【0061】?【0066】に記載された多結晶シリコンロッドをチャンクに粉砕する方法は、請求項1に係る発明の実施例であると当業者が認識することはできない。
よって、請求項1に係る発明及びこれを引用する請求項2?4、8及び11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本件請求項1?4、8及び11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるものである。
また、訂正により請求項5?7、9及び10は削除されたため、本件請求項5?7、9及び10に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステンを含んでなる表面を有する少なくとも二個の粉砕工具により、多結晶質シリコンロッドをチャンクに粉砕する方法であって、前記少なくとも二個の粉砕工具が、前記工具表面の炭化タングステン含有量が95重量%以下であり、かつ炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径が1.3μm以上である第1の粉砕工具と、前記工具表面の炭化タングステン含有量が80重量%以上であり、かつ前記炭化タングステン粒子の前記メジアン粒径が0.5μm以下である第2の粉砕工具とを含んでなり、前記方法が少なくとも2つの粉砕工程を含んでなり、前記少なくとも2つの粉砕工程が、前記第1の粉砕工具による粉砕工程と、前記第2の粉砕工具による粉砕工程とを含んでなる、方法。
【請求項2】
前記第2の粉砕工具の炭化タングステン粒子の前記メジアン粒径が0.2μm以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の粉砕工具が、手動式ハンマー、ハンマーミル又は機械式衝撃工具である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の粉砕工具が、ジョークラッシャ、ロールクラッシャ又はボールミルである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記第1の粉砕工具の炭化タングステン含有量が90重量%未満であり、かつ前記第2の粉砕工具の炭化タングステン含有量が90重量%超である、請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】
前記少なくとも2つの粉砕工程間に、800℃超の温度における前記チャンクの熱処理に続いて、より低温の媒体中での急冷を行う、請求項1?4及び8のいずれか一項に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-02-21 
出願番号 特願2016-535401(P2016-535401)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (C01B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 粟野 正明森坂 英昭村岡 一磨  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 宮澤 尚之
後藤 政博
登録日 2017-06-09 
登録番号 特許第6154074号(P6154074)
権利者 ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
発明の名称 多結晶質シリコン断片及び多結晶質シリコンロッドの粉砕方法  
代理人 中村 行孝  
代理人 小島 一真  
代理人 柏 延之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 浅野 真理  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 小島 一真  
代理人 浅野 真理  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 永井 浩之  
代理人 柏 延之  
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