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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1376715
異議申立番号 異議2020-700805  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-16 
確定日 2021-06-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6690537号発明「プライマー組成物、及びこれを用いてなるポリエステル系水性液、プライマー層、プライマー層付き基材フィルム、積層フィルム、プリズムシート、並びにポリエステル系樹脂の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6690537号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6690537号の請求項1-10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6690537号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2016年6月23日(優先権主張 平成27年6月26日 (JP)日本国)を国際出願日とするものであって、令和2年4月13日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1?10に係る特許に対し、同年10月16日に特許異議申立人水野智之(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年1月6日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年3月9日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行った。特許権者から訂正請求があったこと及び意見書が提出されたことを、同年同月22日付けで特許異議申立人に通知し、それに対して、特許異議申立人は、何ら応答しなかった。

第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正
本件訂正は、以下の訂正事項1からなる。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「酸価が25?100mgKOH/gである」と記載されているのを、「酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下である」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?10も同様に訂正する)。

2 一群の請求項について
訂正前の請求項1?10について、請求項2?10は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、請求項2?10は訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?10に対応する訂正後の請求項1?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では、「ポリエステル系樹脂」について「酸価が25?100mgKOH/gである」ことを特定している。
これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、「酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下である」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明におけるポリエステル系樹脂の酸価を更に限定するものである。すなわち、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
同様に、訂正後の請求項2?10は、訂正後の請求項1に記載された「酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下である」との記載を引用することにより、訂正後の請求項2?10に係る発明におけるポリエステル系樹脂の酸価を更に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、ポリエステル系樹脂の「酸価が25?100mgKOH/gである」という発明特定事項を概念的により下位の「酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下である」にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2?10の記載についても実質的に訂正するものであるが、上記アの理由から明らかなように、訂正後の請求項1の記載は、訂正前の請求項1との関係で特許請求の範囲を実質的に拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2?10の記載について何ら訂正するものではなく、訂正後の請求項2?10に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、訂正前の請求項2?10との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないため、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、令和3年1月6日付け起案の取消理由通知書における4(1)イの『甲1にはポリエステル系樹脂の酸価が5?30であることが記載されており(摘記1a参照)、ここで、酸価の単位が「mgKOH/g」であることは明らかである。そうすると、甲1発明1においてポリエステル系樹脂の酸価を25?30mgKOH/gとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。』との指摘に鑑み、本件の請求項1に係る発明から、上記のとおり、甲1発明1と重複すると認定された「酸価25?30mgKOH/g」である態様を除くための訂正であり、本件の請求項1に係る発明を特定するための事項であるポリエステル系樹脂の酸化の数値範囲から、甲1発明1と重複すると認定された範囲を除外するものであって、訂正前の明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせせるものではない。よって、当該訂正事項1は、何ら新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。

(2)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許第6690537号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1?10に係る発明は、令和3年3月9日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明10」、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。

「【請求項1】
多価カルボン酸成分(A)とポリオール成分(B)とを含む共重合成分を共重合してなるポリエステル系樹脂であって、前記ポリオール成分(B)全体に対するエチレングリコールを除く直鎖構造のポリオール(b1)の含有割合が70モル%以上であり、酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下であるポリエステル系樹脂を含有するプライマー組成物。
【請求項2】
前記ポリオール成分(B)として、分岐構造を有する脂肪族ポリオールを含有する、請求項1記載のプライマー組成物。
【請求項3】
前記多価カルボン酸成分(A)として、カルボン酸無水物構造を2つ以上有するカルボン酸無水物(a1)を含有する、請求項1または2記載のプライマー組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項記載のプライマー組成物が、水性溶媒に溶解又は分散されてなるポリエステル系水性液。
【請求項5】
請求項4記載のポリエステル系水性液が架橋剤(C)を更に含有し、該架橋剤(C)によりポリエステル系樹脂が架橋されてなるプライマー層。
【請求項6】
基材フィルム上に請求項5記載のプライマー層を有するプライマー層付き基材フィルム。
【請求項7】
前記基材フィルムがポリエステルフィルムである、請求項6記載のプライマー層付き基材フィルム。
【請求項8】
請求項6または7記載のプライマー層付き基材フィルムのプライマー層上に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が硬化してなるハードコート層を有する積層フィルム。
【請求項9】
請求項6または7記載のプライマー層付き基材フィルムのプライマー層上に、無溶剤系活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が硬化してなるプリズム層を有するプリズムシート。
【請求項10】
請求項1記載のポリエステル系樹脂の製造方法であって、カルボン酸無水物構造を2つ以上有するカルボン酸無水物(a1)を除く多価カルボン酸成分(A)とポリオール成分(B)からなる水酸基含有プレポリマーを、カルボン酸無水物構造を2つ以上有するカルボン酸無水物(a1)で鎖延長させてなるものであるポリエステル系樹脂の製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
本件訂正前の請求項1?10に係る特許に対して、当審が令和3年1月6日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1(進歩性) 本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件特許優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証?甲第4号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開昭58-217546号公報
甲第2号証:特開2014-139264号公報
甲第3号証:特開2011-1457号公報
甲第4号証:国際公開2013/140965号

第5 前記第4における進歩性についての判断
1 甲号証の記載について
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)
1a「2.特許請求の範囲
全ジカルボン酸成分中の少なくとも90モル%が芳香族ジカルボン酸であり、かつ、全グリコール成分中の20?80モル%がジエチレングリコールであるポリエステル共重合体の水性分散液において、
(1) エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物を全ジカルボン酸成分中に3?7.5モル%含有していること、
(2) 該エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物を除いた上記芳香族ジカルボン酸として、テレフタル酸およびイソフタル酸を用い、かつ、これらテレフタル酸/イソフタル酸のモル比が4/6?8/2であること、および
(3) 当該ポリエステル共重合体のそれぞれ固有粘度が0.2?0.4で、酸価が5?30であって、かつ、当該ポリエステル共重合体がアンモニアまたは有機アミンにより中和されていること
を特徴とする、とくにポリエステル・フィルム用プライマー・コート剤として有用なる水性ポリエステル分散液。」
1b「なお、本発明の分散液を得るに当って用いられるポリエステル共重合体の調製用諸原料は、原則として、二官能性の単量体であるのが好まれるが、該共重合体の水に対する溶解性、接着性および非ブロッキング性などの諸物性を低下させない程度の範囲内に限って、三官能以上の多官能性化合物の該共重合体中への導入は何ら妨げるものではない。
かかる多官能性化合物として代表的なものにはトリメリット酸、ピロメリット酸もしくはシクロヘキサントリカルボン酸などのポリカルボン酸またはそれらの酸無水物あるいはエステル誘導体がカルボン酸成分として、他方、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンまたはペンタエリスリトールなどのポリオールがアルコール成分として、それぞれ該当する。」(第4ページ右上欄第9行?左下欄第6行)
1c「酸価が5未満である場合には、当該カルボン酸基の水溶化への寄与が小さくなるために、勢い、前記エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物の使用ムが多くなる結果、得られるポリエステル共重合体の耐水性および非ブロッキング性を低下させることになるし、逆に、30を越える場合には該共重合体の分子量を十分に高めることができなく、したがって物性上、好ましい結果とはならない。
ここで、酸価は当該ポリエステル共重合体を調製するに当って用いられるそれぞれの酸成分とアルコール成分との仕込割合を調節することにより、あるいはこれら両成分間の反応の後期に、該共重合体の末端水酸基に対して無水フタル酸または無水トリメリット酸などの酸無水物を付加させることにより調整せしめることができる。」(第5ページ右上欄第7行?左下欄第4行)
1d「かくして得られる本発明の水性ポリエステル分散液は、有機溶剤を一切使用しない処から、作業環境を悪化させるといった問題も見事に解決され、基材たる各種ポリエステル・フィルム上に従来公知の任意の方法により塗布され、乾燥されて表面ブロッキング性の極めて少ない、耐水性に優れた皮膜(プライマ一層)を形成するし、しかもポリエステル系基材とこのプライマ一層上に積層される各種基材との両基材に対する接着性に優れるという特長を有しており、絶縁材料として、写真フィルムなどの感光性フィルム、磁気テープ、メタル蒸着フィルムまたは包装材用ポリエステル・フィルムへのプライマー・コート剤などとして非常に効果的に使用することができる。」(第5ページ右下欄第4?15行)
1e「実施例1
テレフタル酸ジメチル 679部、イソフタル酸ジメチル 223部、5-ソジウム・スルホイソフタル酸ジメチル 104部、エチレングリコール 496部、ジエチレングリコール 212部、酢酸亜鉛 0.3部および三酸化アンチモン 0.5部を混合し、窒素気流下で170?200℃に加熱して、生成するメタノールを留去させつつエステル交換反応を行なったのち、温度を徐々に250℃まで上昇させ、次いで系内を20mmHgの減圧にして過剰のグリコール成分を留去した。
冷却後に、固化したポリエステル共重合体を粉砕した。該共重合体の固有粘度は0.28であり、酸価は10であった。
次いで、該共重合体の粉末200部を95℃の熱水800部中に入れ、アンモニア水で中和させながら溶解せしめて乳白色のエマルジョンを得た。
しかるのち、この水性ポリエステル分散液をプライマーとしてPETフィルム上にコーティングして乾燥させた処、透明で表面ブロッキングの全くない塗膜が得られた。
さらに、このプライマー層の上に磁性塗料を塗布し、80℃に加熱乾燥せしめて磁気テープを作成した。
次いで、この塗布面にセロファン製テープを貼り剥離試験を行なった処、磁性層およびプライマー層のいずれもがPETフィルムから剥離されなく、本発明分散液は優れた接着力を有しているものであることが知れた。
さらに、磁性塗料の代わりにゼラチンの水浴液を塗布した場合においても、セロファン製テープによる剥離は全く認められなく、同様に、本発明分散液はゼラチンに対しても優れた接着性を有しているものであることが知れた。
実施例2?5および比較例1?6
第1表に示される如く、5-ソジウム・スルホイソフタル酸ジメチルの使用量を増減し、併せてジエチレングリコールの使用量をも増減させて分子量(固有粘度)を変化させ、さらに中和用塩基の種類をも替えるなどして、実施例1と同様の操作を繰り返して各種の水性ポリエステル分散液を得た。
得られた各種の分散液についても、実施例1と同様にして種々の物性試験を行なったが、それらの結果はまとめて同表に示す。

第1表からも明らかなように、本発明品の物性は悉く優れているが、これに対し、比較例1ではエステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物の量が多すぎるために、耐水性および非ブロッキング性が悪くなっており、逆に、このアルカリ金属塩化合物の量が少ない比較例2の場合には、熱水に溶解され得なく、安定な水分散液が得られなかったし、また比較例3においてはポリエステルの分子量(固有粘度)が低すぎるために、耐水性が著しく低下していると同時にブロッキングも起こっているし、これとは逆に、分子量の高いポリエステルを用いた比較例4の場合には、PETフィルムへの均一なる塗布性が悪く、接着性も全般に亘って悪くなっている。さらに、グリコール成分としてジエチレングリコールを全く含まない比較例5では、得られれたポリエステルが可撓性に乏しくて衝撃的剥離に対しての抵抗力がないのに対して、逆に、比較例6では全グリコール成分がジエチレングリコールのみの使用であるために、ブロッキング現象もかなりのものである上に、耐水性も悪くなっていることが知れた。」(第7ページ左上欄第1行?第8ページ右下欄第3行)

(2)甲第2号証(以下、「甲2」という。)
2a「【0039】
本発明のポリエステル樹脂水分散体を接着剤として使用することができる。この際、カルボキシル基と反応する硬化剤を加えると、より接着力の高い接着剤を得ることができる。前記硬化剤としては、メラミン系、ベンゾグアナミン系等のアミノ樹脂、多価イソシアネート化合物、多価オキサゾリン化合物、多価エポキシ化合物、フェノール樹脂などの各種の硬化剤を使用することができる。特に、多価エポキシ化合物、多価オキサゾリン化合物はカルボキシル基との反応性が高く、低温での硬化が可能となり、また高い接着力を得ることができ、好ましい。また多価金属塩も硬化剤として使用することができる。」

(3)甲第3号証(以下、「甲3」という。)
3a「【0069】
前述の光学用易接着性ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、前記の電子線または紫外線硬化型アクリル樹脂またはシロキサン系熱硬化性樹脂を塗布する。塗布液は特に希釈する必要はないが、塗布液の粘度、濡れ性、塗膜厚等の必要に応じて有機溶剤により希釈しても特に問題はない。塗布層は、前述のフィルムに前記塗布液を塗布後、必要に応じて乾燥させた後、塗布液の硬化条件に合わせて、電子線または紫外線照射及び加熱することにより塗布層を硬化させることにより、ハードコート層を形成する。」

(4)甲第4号証(以下、「甲4」という。)
(4a)「[0059] (プリズムシートの製造方法)
複層フィルム12のうち易接着層16側のフィルム面に、プリズム部材用の活性エネルギー線硬化樹脂からなる塗工液を塗工する。次に、プリズムシート用の金型を塗工面に押し当てた後、フィルムベース15側から紫外線を照射して、活性エネルギー線硬化樹脂を硬化させる。これにより、複層フィルム12とプリズム部材11とを備えたプリズムシート10が得られる。」

2 甲1に記載された発明
甲1の実施例5には、「テレフタル酸50モル%、イソフタル酸43モル%、5-ソジウム・スルホイソフタル酸ジメチル5モル%、無水トリメリット酸2モル%、ジエチレングリコール70モル%、エチレングリコール20モル%、ネオペンチルグリコール10モル%を共重合してなり、酸価が20であるポリエステル樹脂を含有する、水性分散液であるプライマー組成物」の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されているといえる(摘記1e参照)。

3 当審の判断
(1)本件特許発明1
ア 本件特許発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明1の「テレフタル酸50モル%、イソフタル酸43モル%」は本件特許発明1の「多価カルボン酸成分(A)・・・を含む共重合成分」に相当する。
甲1発明1の「ジエチレングリコール70モル%、エチレングリコール20モル%」は、本件特許発明1の「ポリオール成分(B)・・・を含む共重合成分・・・ポリオール成分(B)全体に対するエチレングリコールを除く直鎖構造のポリオール(b1)の含有割合が70モル%以上であり」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明1は、「多価カルボン酸成分(A)とポリオール成分(B)とを含む共重合成分を共重合してなるポリエステル系樹脂であって、前記ポリオール成分(B)全体に対するエチレングリコールを除く直鎖構造のポリオール(b1)の含有割合が70モル%以上であるポリエステル系樹脂を含有するプライマー組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
ポリエステル系樹脂の酸価が、本件特許発明1は30mgKOH/gを超え100mgKOH/gであるのに対し、甲1発明1は20である点。

イ 相違点についての検討
<相違点1>について
甲1にはポリエステル系樹脂の酸価が5?30であることが記載されているものの(摘記1a参照)、ポリエステル樹脂の酸価を30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下にすることについては記載も示唆もない。また、甲1には、「酸価が・・・30を超える場合には該共重合体の分子量を十分に高めることができなく、したがつて物性上、好ましい結果にはならない。」(摘記1c)と記載されており、相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することに阻害事由がある。
また、甲2?甲4にもポリエステル樹脂の酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下であることについては記載も示唆もない。
そうすると、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

ウ 本件特許発明1の効果について
本件特許明細書の表1及び表2によると、ポリエステル系樹脂の酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下であるのものが密着性が良好である等の効果を奏すると認められるから、本件特許発明1が当業者の予測し得ない顕著な効果を発現しているとは認められる。

エ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許発明1のポリエステル系樹脂の酸価と甲1発明1のポリエステル系樹脂の酸価とが数値範囲において一応相違しているとされた場合でも、甲1発明1の記載に基づいてポリエステル系樹脂の酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下であるという発明特定事項を採用する程度のことは単なる設計変更であり当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないし、本件特許発明1のポリエステル系樹脂の酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下であるという発明特定事項を採用することによって、本件特許発明1が格別顕著又は予想外の効果を発揮するものでもなく、よって、本件特許発明1は、甲1発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。
しかし、上記イのとおり、本件特許発明1の酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下であるポリエステル系樹脂という発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものであるということはできないし、上記ウのとおり、本件特許発明1のポリエステル系樹脂の酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下であるという発明特定事項を採用することによって、本件特許発明1が当業者の予測し得ない顕著な効果を発現していると認められるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

オ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1発明1及び甲2?4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2) 本件特許発明2?10について
本件特許発明2?10は、「酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下であるポリエステル系樹脂」という点を発明特定事項に備えているところ、上記本件特許発明1と甲1発明1との相違点と実質的に同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明2?10についても、甲1発明1及び甲2?4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
特許異議申立人の主張は以下のとおりである。
(1)特許法第29条第1項第3号
本件特許発明1は甲1(比較例2)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明である。

(2)特許法第36条第6項第1号
ア 出願時の技術常識に照らしても、請求項1?10に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない
本件特許発明1の構成Cは、「酸価が25?100mgKOH/gであるポリエステル系樹脂を含有する」ことを規定している。しかし、本件特許公報の実施例1?4において、評価された酸価は僅かに「47?55mgKOH/g」の範囲に過ぎず、構成Cの「25?100mgKOH/g」のうちの極めて狭い範囲でしかない。本件特許公報の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の構成Cと比べて、極めて狭い範囲の酸価の具体例が記載されているのみである。
ポリエステル系樹脂の酸価は、ポリエステル系樹脂の水分散性やコーティング層との密着性、プライマー層との耐水性等に影響を与えることは出願時の技術常識であるところ、かかる技術常識に照らせば、本件特許発明1の構成Cの範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2?10についても同様である。
イ 請求項1、2、4?10において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである
本件特許公報の【0032】には、次の記載がある。
「多価カルボン酸成分(A)におけるカルボン酸無水物(a1)の含有割合は、多価カルボン酸成分(A)全体に対して、2?30モル%であることが好ましく、特には3?25モル%、更には4?20モル%、殊には5?15モル%であることが好ましい。かかる含有割合が低すぎると、生成されたポリエステル系樹脂を水性溶媒に分散させる際の水分散化が困難となったり、架橋剤との架橋点が不足し密着性、耐水性が低下する傾向がある。高すぎると製造工程中にゲル化したり、親水性が高くなるため耐水性が低下したり、架橋剤配合時に架橋密度が高くなりすぎるためコーティング層との密着性が低下する傾向がある。」
これは、(カルボン酸無水物構造を2つ以上有する)カルボン酸無水物(a1)の含有割合が2?30モル%が好ましいことを説明するものであるが、この含有割合が低すぎたり高すぎたりすると、本件特許発明の課題が解決できないことを意味している。
本件特許発明1、2、4?10においては、このカルボン酸無水物(a1)の含有割合が規定されていないため、カルボン酸無水物(a1)を含んでいないものも包含される。
しかし、上述のように、カルボン酸無水物(a1)を含まない場合には、生成されたポリエステル系樹脂を水性溶媒に分散させる際の水分散化が困難となったり、架橋剤との架橋点が不足し密着性、耐水性が低下することになり、課題が解決できなくなることは明らかである。また、本件特許公報の実施例では、カルボン酸無水物(a1)としてピロメリット酸無水物(PMAn)が含まれているもののみが評価され、カルボン酸無水物(a1)を含まない場合に課題が解決できるかどうかは不明である。
従って、本件特許発明1、2、4?10は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段(少なくとも、多価カルボン酸成分(A)を含むこと)が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。

(3)特許法第36条第6項第2号
本件特許発明10は、「請求項1記載のポリエステル系樹脂の製造方法であって」とあるように、ポリエステル系樹脂の製造方法を規定するものである。しかし、請求項1はプライマー組成物に関する発明であり、ポリエステル樹脂に関する発明ではないため、引用の仕方に不整合があり不明確である。
仮に、本件特許発明10は、請求項1記載のプライマー組成物に含まれるポリエステル系樹脂の製造方法であると解釈したとしても、本件特許発明10で規定する「カルボン酸無水物構造を2つ以上有するカルボン酸無水物(a1)で鎖延長させ」た構造が、本件特許発明1のポリエステル系樹脂の構造として特定されていないため、ポリエステル樹脂の構造とその製造方法の工程に不整合ないし乖離があり不明確である。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1) 特許法第29条第1項第3号
ア 甲1号証の記載について
第5 1(1)のとおりである。

イ 甲1に記載された発明
甲1の比較例2には、「テレフタル酸50モル%、イソフタル酸44モル%、5-ソジウム・スルホイソフタル酸ジメチル2モル%、無水トリメリット酸4モル%、ジエチレングリコール80モル%、エチレングリコール20モル%を共重合してなり、酸価が28であるポリエステル樹脂を含有する組成物」の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されているといえる(摘記1e参照)。

ウ 本件特許発明1と甲1発明2を対比する。
甲1発明2の「テレフタル酸50モル%、イソフタル酸44モル%」は本件特許発明1の「多価カルボン酸成分(A)・・・を含む共重合成分」に相当する。
甲1発明2の「ジエチレングリコール80モル%、エチレングリコール20モル%」は、本件特許発明1の「ポリオール成分(B)・・・を含む共重合成分・・・ポリオール成分(B)全体に対するエチレングリコールを除く直鎖構造のポリオール(b1)の含有割合が70モル%以上であり」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明2は、「多価カルボン酸成分(A)とポリオール成分(B)とを含む共重合成分を共重合してなるポリエステル系樹脂であって、前記ポリオール成分(B)全体に対するエチレングリコールを除く直鎖構造のポリオール(b1)の含有割合が70モル%以上であるポリエステル系樹脂を含有する組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2>
ポリエステル系樹脂の酸価が、本件特許発明1は30mgKOH/gを超え100mgKOH/gであるのに対し、甲1発明2は28である点。

<相違点3>
本件特許発明1はプライマー組成物であるのに対し、甲1発明2はそのような特定がない点。

エ 相違点についての検討
<相違点2>について
ポリエステル系樹脂の酸価が、本件特許発明1は30mgKOH/gを超え100mgKOH/gであるのに対し、甲1発明2は28である以上、<相違点2>は実質的な相違点である。

<相違点3>について
甲2発明2は、物性試験の評価ができないものであり、安定な水分散液でないことが、記載されている(摘記1e参照)。
そうすると、甲2発明2はプライマー組成物とはいえず、<相違点3>は実質的な相違点である。

オ まとめ
本件特許発明1と甲1発明2には相違点2及び相違点3があり、相違点2及び相違点3は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲1に記載された発明とすることはできない。

(2)特許法第36条第6項第1号
ア 本件特許発明1では、ポリエステル系樹脂の酸価について、「30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下である」と規定している。
そして、確かに、本件特許公報の実施例1?4において、評価された酸価は「47?55mgKOH/g」の範囲であり、ポリエステル系樹脂の酸価は、ポリエステル系樹脂の水分散性やコーティング層との密着性、プライマー層との耐水性等に影響を与えることは出願時の技術常識であるかもしれないが、どの程度影響を与えるかは不明であるし、本件特許発明1にはその課題を解決することができないといえるほどその影響が大きい態様が含まれていることを立証できる証拠が示されているわけでもないから、評価された酸価は「47?55mgKOH/g」の範囲を越えて、酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下である範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化することはできないとまではいえない。
本件特許発明2?10も同様である。
イ 本件特許発明1では、ポリエステル系樹脂について、「多価カルボン酸成分(A)・・・を含む共重合成分を共重合してなる」と規定している。
そして、本件特許公報の実施例1?4において、ピロメリット酸無水物を含むものが、記載されており、それが、本件特許発明の課題を解決できることが、記載されている。
そうすると、「多価カルボン酸成分(A)・・・を含む共重合成分を共重合してなる」との規定は、発明の課題を解決するための手段(少なくとも、多価カルボン酸成分(A)を含むこと)を十分反映しているといえるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるとはいえない。
本件特許発明2、4?10についても同様である。

(3) 特許法第36条第6項第2号について
本件特許発明10は、請求項1記載のプライマー組成物に含まれるポリエステル系樹脂の製造方法であることが、明確であり、本件特許発明10で規定する「カルボン酸無水物構造を2つ以上有するカルボン酸無水物(a1)で鎖延長させ」た構造が、本件特許発明1のポリエステル系樹脂の構造として特定されていないとしても、ポリエステル樹脂の構造とその製造方法の工程に不整合ないし乖離があるとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、令和3年1月6日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸成分(A)とポリオール成分(B)とを含む共重合成分を共重合してなるポリエステル系樹脂であって、前記ポリオール成分(B)全体に対するエチレングリコールを除く直鎖構造のポリオール(b1)の含有割合が70モル%以上であり、酸価が30mgKOH/gを超え100mgKOH/g以下であるポリエステル系樹脂を含有するプライマー組成物。
【請求項2】
前記ポリオール成分(B)として、分岐構造を有する脂肪族ポリオールを含有する、請求項1記載のプライマー組成物。
【請求項3】
前記多価カルボン酸成分(A)として、カルボン酸無水物構造を2つ以上有するカルボン酸無水物(a1)を含有する、請求項1または2記載のプライマー組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項記載のプライマー組成物が、水性溶媒に溶解又は分散されてなるポリエステル系水性液。
【請求項5】
請求項4記載のポリエステル系水性液が架橋剤(C)を更に含有し、該架橋剤(C)によりポリエステル系樹脂が架橋されてなるプライマー層。
【請求項6】
基材フィルム上に請求項5記載のプライマー層を有するプライマー層付き基材フィルム。
【請求項7】
前記基材フィルムがポリエステルフィルムである、請求項6記載のプライマー層付き基材フィルム。
【請求項8】
請求項6または7記載のプライマー層付き基材フィルムのプライマー層上に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が硬化してなるハードコート層を有する積層フィルム。
【請求項9】
請求項6または7記載のプライマー層付き基材フィルムのプライマー層上に、無溶剤系活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が硬化してなるプリズム層を有するプリズムシート。
【請求項10】
請求項1記載のポリエステル系樹脂の製造方法であって、カルボン酸無水物構造を2つ以上有するカルボン酸無水物(a1)を除く多価カルボン酸成分(A)とポリオール成分(B)からなる水酸基含有プレポリマーを、カルボン酸無水物構造を2つ以上有するカルボン酸無水物(a1)で鎖延長させてなるものであるポリエステル系樹脂の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-16 
出願番号 特願2016-543212(P2016-543212)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
P 1 651・ 537- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 櫛引 智子菅野 芳男  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 瀬下 浩一
蔵野 雅昭
登録日 2020-04-13 
登録番号 特許第6690537号(P6690537)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 プライマー組成物、及びこれを用いてなるポリエステル系水性液、プライマー層、プライマー層付き基材フィルム、積層フィルム、プリズムシート、並びにポリエステル系樹脂の製造方法  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
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