• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  E02F
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02F
審判 一部申し立て 2項進歩性  E02F
管理番号 1376717
異議申立番号 異議2020-700003  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-08 
確定日 2021-06-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6553255号発明「作業機械用周辺監視システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6553255号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6553255号の請求項1、4、8、9、11、12に係る特許を維持する。 特許第6553255号の請求項2、3、7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6553255号の請求項1ないし12に係る特許(以下「本件特許」ということがある。)についての出願は、2016年(平成28年)11月25日(優先権主張 2015年(平成27年)11月30日)を国際出願日として出願した特願2017-553822号の一部を平成30年6月28日に新たな特許出願としたものであって、令和1年7月12日に特許権の設定登録がされ、同年7月31日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである。

令和2年 1月 8日 特許異議申立人青山裕樹(以下「申立人」 という。)による請求項1ないし4、7な いし9、11、12に係る発明の特許に対 する特許異議の申立て
同年 6月 4日付け 取消理由通知
同年 8月 7日 意見書及び訂正請求書の提出
同年 9月25日付け 訂正拒絶理由通知
同年12月10日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和3年 2月15日 意見書及び訂正請求書の提出
同年 3月31日 申立人による意見書の提出

なお、令和3年2月15日に訂正の請求がなされたので、令和2年8月7日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和3年2月15日提出の訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし12について訂正することを求めるものであり、その内容は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態、又は、警報が出力されていない状態を含み、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態、又は、警報が出力されている状態を含み、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含む、
作業機械用周辺監視システム。」と記載されているのを、
「作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態であり、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態であり、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含み、
前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、ゲートロックレバーによって前記操作装置が無効となっていること、又は、操作装置から操作者の手足が離されていることを含む、
作業機械用周辺監視システム。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項8?12も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、操作装置が所定時間以上にわたって中立位置になっていること、ゲートロックレバーが下ろされていること、又は、操作装置から操作者の手足が離されていることを含む、
請求項1乃至3の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。」と記載されているのを、
「作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態であり、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態であり、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含み、
前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、操作装置が所定時間以上にわたって中立位置になっていることという前記操作装置に関する条件を含み、前記操作装置が中立位置になっている時間が前記所定時間未満であれば、前記操作装置に関する条件は満たされない、
作業機械用周辺監視システム。」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項8?12も同様に訂正する)

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に
「前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、所定の解除操作が行われたことを含む、請求項1乃至4の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。」と記載されているのを、
「作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態であり、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態であり、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含み、
前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、所定の解除操作が行われたことを含む、
作業機械用周辺監視システム。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6及び8?12も同様に訂正する)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に
「前記制御部は、前記作業機械の周辺に存在する前記監視対象が検知されて前記作業機械の状態が前記第2状態となっているときに、前記監視対象の画像が含まれた撮像画像をディスプレイに表示させ、或いは、検知方向に対応する方向から音声で報知する、
請求項1乃至7の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。」と記載されているのを、
「前記制御部は、前記作業機械の周辺に存在する前記監視対象が検知されて前記作業機械の状態が前記第2状態となっているときに、前記監視対象の画像が含まれた撮像画像をディスプレイに表示させ、或いは、検知方向に対応する方向から音声で報知する、
請求項1、4、5、又は6の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項6及び9?12も同様に訂正する)。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に
「前記制御部は、前記作業機械の状態が前記第2状態となっているときに、前記第2状態となっていることを伝える情報を報知し、或いは、前記第2状態を解除する方法を報知する、
請求項1乃至8の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。」と記載されているのを、
「前記制御部は、前記作業機械の状態が前記第2状態となっているときに、前記第2状態となっていることを伝える情報を報知し、或いは、前記第2状態を解除する方法を報知する、
請求項1、4、5、6、又は8の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10?12も同様に訂正する)。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に
「前記制御部は、前記第2状態が解除されたときに、前記第2状態が解除されたことを報知する、
請求項1乃至9の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。」と記載されているのを、
「前記制御部は、前記第2状態が解除されたときに、前記第2状態が解除されたことを報知する、
請求項1、4、5、6、8、又は9の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。」に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項11、12も同様に訂正する)。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11に
「前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で、前記所定の条件が満たされた場合、前記第1状態に戻すまでの待ち時間が存在することを報知し、或いは、所定時間の経過の後に、前記第1状態に戻す、
請求項1乃至10の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。」と記載されているのを、
「前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で、前記所定の条件が満たされた場合、前記第1状態に戻すまでの待ち時間が存在することを報知し、或いは、所定時間の経過の後に、前記第1状態に戻す、
請求項1、4、5、6、8、9、又は10の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。」に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項11、12も同様に訂正する)。

(11)一群の請求項について
訂正前の請求項3ないし12は、訂正前の請求項1又は2を引用しており、請求項1又は2に係る訂正に連動して訂正がされるものであるから、請求項1ないし12は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」に該当する。
したがって、訂正事項1ないし10に係る訂正は、一群の請求項〔1-12〕について請求されたものである。

なお、訂正後の請求項1、4、5に係る訂正については、特許権者は、当該訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることを求めている。
「別の訂正単位とする求め」は、引用元の請求項に係る訂正が訂正要件を満たすか否かに関わらず、引用形式請求項に係る訂正を認めるように求めるものと解されるところ、「別の訂正単位とする求め」が認められる前提として、引用元の請求項に係る訂正が訂正要件を満たすか否かに関わらず、引用形式請求項に係る訂正が適法である場合にはこれが認められるような場合でなければならないことは当然である。
しかるに、上記(1)、(4)、(5)に示したとおり、訂正事項1は、請求項1と請求項1の記載を引用する請求項8ないし12を訂正するものであり、訂正事項4は、請求項4及び請求項4の記載を引用する請求項8ないし12を訂正するものであり、訂正事項5は、請求項5及び請求項5の記載を引用する請求項6及び請求項8ないし12を訂正するものであり、引用元の請求項1に係る訂正事項1の訂正が適法でない場合には請求項8ないし12の訂正も認められず、そうすると、それぞれを別の訂正単位とすることを求める請求項4及び5に係る訂正事項4及び5に係る訂正も請求項8ないし12を訂正しようとするものである以上認められることはない。
したがって、訂正後の請求項1、4、5に係る訂正は一体として扱われるべきであり、別の訂正単位とすることはできない。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に択一的に記載されていたうちの「警報が出力されていない状態」及び「警報が出力されている状態」を削除するものであり、また、「前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、ゲートロックレバーによって前記操作装置が無効となっていること、又は、操作装置から操作者の手足が離されていることを含む、」との記載を加えることにより、訂正前の請求項1に係る発明における「前記作業機械が動き出さない状態が確保されていること」の内容を具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

新規事項の追加について
訂正事項1に係る訂正が、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるか検討する。
訂正事項1に係る訂正のうち、「前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、ゲートロックレバーによって前記操作装置が無効となっていること・・を含む」との記載を加える訂正について、本件明細書の段落【0079】には、「状態切換部351は、ショベルの状態を第2状態とした後で所定の解除条件が満たされたと解除条件判定部352が判定した場合にショベルの状態を第1状態に戻す。すなわち、ショベルの動きを制限し或いは停止させた後で所定の解除条件が満たされたと解除条件判定部352が判定した場合にその制限又は停止を解除する。・・・所定の解除条件は、例えば、「ショベルが動き出さない状態が確保されていること」( 以下、「第2解除条件」とする。)を追加的に含む。」と記載されており、段落【0081】には、「第2解除条件は、例えば、・・・『ゲートロックレバーが下ろされていること( 操作装置が無効となっていること)』・・・等を含む。」と記載されていることから、「ゲートロックレバーが下ろされていること」が「操作装置」を「無効」状態とならしめることを意味しているといえる。そうすると、「ショベルが動き出さない状態が確保されていること」として「ゲートロックレバー」によって「操作装置」を「無効」となっていることが記載されているといえる。
また、訂正事項1に係る訂正のうち、「前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、・・・又は、操作装置から操作者の手足が離されていることを含む、」との記載を加える訂正について、本件明細書の段落【0081】には、「第2解除条件は、例えば、・・・『全ての操作装置から操作者の手足が離されていること』・・・等を含む。」と記載されており、「ショベルが動き出さない状態が確保されていること」として、「操作装置から操作者の手足が離されていること」が記載されているといえる。
以上から、訂正事項1における請求項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
なお、訂正後の請求項1における「前記操作装置」の「前記」は、訂正後の請求項1の当該記載以前に「操作装置」との記載がないことから、「操作装置」の誤記であることは明らかである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2に係る訂正は、単に請求項2を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3に係る訂正は、単に請求項3を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正のうち、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、訂正前にあった請求項1の記載を書き下すことで請求項1との引用関係を解消し独立形式請求項へ改める訂正は、他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項4に係る訂正のうち、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1乃至3の何れかを引用する記載であったものを、請求項2及び3を引用しないものとする、すなわち引用する請求項の数を削減する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4に係る訂正のうち、訂正前の請求項4が引用する請求項1において択一的に記載されていたうちの「警報が出力されていない状態」及び「警報が出力されている状態」を削除する訂正、及び、訂正前の請求項4に択一的に記載されていたうちの「ゲートロックレバーが下ろされていること」及び「操作装置から操作者の手足が離されていること」を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4に係る訂正のうち、「という前記操作装置に関する条件を含み、前記操作装置が中立位置になっている時間が前記所定時間未満であれば、前記操作装置に関する条件は満たされない、」との記載を加える訂正は、訂正前の請求項4に係る発明における「前記作業機械が動き出さない状態が確保されていること」について、「前記操作装置が中立位置になっている時間が前記所定時間未満であれば、前記操作装置に関する条件は満たされない」ことを具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項4に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

新規事項の追加について
訂正事項4に係る訂正のうち、「前記操作装置に関する条件」における「前記操作装置が中立位置になっている時間が前記所定時間未満であれば、前記操作装置に関する条件は満たされない、」ことを追加する訂正について、本件明細書の段落【0079】には、「状態切換部351は、ショベルの状態を第2状態とした後で所定の解除条件が満たされたと解除条件判定部352が判定した場合にショベルの状態を第1状態に戻す。すなわち、ショベルの動きを制限し或いは停止させた後で所定の解除条件が満たされたと解除条件判定部352が判定した場合にその制限又は停止を解除する。所定の解除条件は、例えば、・・・所定の解除条件は、例えば、「ショベルが動き出さない状態が確保されていること」( 以下、「第2解除条件」とする。)を追加的に含む。」と記載されており、段落【0081】には、「第2解除条件は、例えば、『全ての操作装置が所定時間以上にわたって中立位置になっていること』・・・等を含む。『全ての操作装置が中立位置になっていること』は、例えば、各操作装置からの指令の有無、各操作装置の操作量を検出するセンサの出力値等に基づいて解除条件判定部352が検知する。『所定時間以上にわたって』という条件は瞬間的に中立位置になっただけで第2解除条件が満たされてしまうのを防止する効果がある。」と記載されていることから、「操作装置」が「瞬間的に中立位置になっただけ」の場合は、「ショベルが動き出さない状態が確保されていること」が満たされないこと、すなわち、「瞬間的」といえる時間は、所定時間未満に該当し、このような所定時間未満の場合については、「ショベルが動き出さない状態が確保されていること」が満たされないことを示しているといえる。
よって、訂正事項4に係る訂正のうち上記訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

また、訂正事項4に係る訂正のうち、訂正前にあった請求項1の記載を書き下すことで請求項1との引用関係を解消し独立形式請求項へ改める訂正、引用する請求項の数を削減する訂正、並びに、訂正前の請求項4が引用する請求項1及び訂正前の請求項4において択一的に記載されていた事項を削除する訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。

申立人は、請求項4に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲を超えるものであることが明白である旨主張するが(意見書第1頁下から1行?第2頁第5行)、上記のとおりであるから、申立人の主張を採用することはできない。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5に係る訂正のうち、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1乃至4の何れかを引用する記載であったものを、訂正前にあった請求項1の記載を書き下すことで請求項1との引用関係を解消し独立形式請求項へ改める訂正は、他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項5のうち、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1乃至4の何れかを引用する記載であったものを、請求項2、3及び4を引用しないものとする、すなわち引用する請求項の数を削減する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5に係る訂正のうち、訂正前の請求項5が引用する請求項1において択一的に記載されていたうちの「警報が出力されていない状態」及び「警報が出力されている状態」を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項5に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

新規事項の追加について
訂正事項5に係る訂正は、訂正前にあった請求項1の記載を書き下すことで請求項1との引用関係を解消し独立形式請求項へ改める訂正、引用する請求項の数を削減する訂正、及び、訂正前の請求項5が引用する請求項1において択一的に記載されていた事項を削除する訂正であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。

(6)訂正事項6について
訂正事項6に係る訂正は、請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項6に係る訂正は、単に請求項7を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。

(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的について
訂正事項7に係る訂正は、訂正前の請求項8が訂正前の請求項1乃至7の何れかを引用する記載であったものを、請求項1、4、5、又は6の何れかの記載を引用する記載にする訂正であって、引用する請求項の数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項7に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

新規事項の追加について
訂正事項7に係る訂正は、引用する請求項の数を削減する訂正であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。

(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的について
訂正事項8に係る訂正は、訂正前の請求項9が訂正前の請求項1乃至8の何れかを引用する記載であったものを、請求項1、4、5、6、又は8の何れかの記載を引用する記載にする訂正であって、引用する請求項の数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項8に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

新規事項の追加について
訂正事項8に係る訂正は、引用する請求項の数を削減する訂正であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。

(9)訂正事項9について
ア 訂正の目的について
訂正事項9に係る訂正は、訂正前の請求項10が訂正前の請求項1乃至9の何れかを引用する記載であったものを、請求項1、4、5、6、8、又は9の何れかの記載を引用する記載にする訂正であって、引用する請求項の数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項9に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。

新規事項の追加について
訂正事項9に係る訂正は、引用する請求項の数を削減する訂正であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。

(10)訂正事項10について
ア 訂正の目的について
訂正事項10に係る訂正は、訂正前の請求項11が訂正前の請求項1乃至10の何れかを引用する記載であったものを、請求項1、4、5、6、8、9、又は10の何れかの記載を引用する記載にする訂正であって、引用する請求項の数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項10に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。

新規事項の追加について
訂正事項10に係る訂正は、引用する請求項の数を削減する訂正であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。

3 請求項5、6及び10に係る発明の独立特許要件について
上記2の(5)及び(9)のとおり、訂正事項5に係る請求項5の訂正及び訂正事項9に係る請求項10の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件訂正後の請求項6に係る訂正は、本件訂正後の請求項5を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、請求項5、6及び10については特許異議の申立てがされていないから、本件訂正後の請求項5、6及び10に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなくてはならない(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第7項)。
そこで、本件訂正後の請求項5、6及び10に係る発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討するに、訂正後の請求項5、6及び10の記載によれば、後記第4で示す令和2年12月10日付け取消理由(決定の予告)において指摘した明確性要件違反及びサポート要件違反があるものとは認められないし、同取消理由(決定の予告)で引用した甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明ないし技術的事項から新規性がないとも進歩性が欠如しているとも認められない。
その他、本件訂正後の請求項5、6及び10に係る発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないとする証拠はない。
そうすると,本件訂正後の請求項5、6及び10に係る発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであると認められる。

4 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
前記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件訂正請求により訂正された請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明12」といい、これらを合わせて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態であり、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態であり、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含み、
前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、ゲートロックレバーによって前記操作装置が無効となっていること、又は、操作装置から操作者の手足が離されていることを含む、
作業機械用周辺監視システム。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態であり、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態であり、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含み、
前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、操作装置が所定時間以上にわたって中立位置になっていることという前記操作装置に関する条件を含み、前記操作装置が中立位置になっている時間が前記所定時間未満であれば、前記操作装置に関する条件は満たされない、
作業機械用周辺監視システム。
【請求項5】
作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態であり、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態であり、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含み、
前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、所定の解除操作が行われたことを含む、
作業機械用周辺監視システム。
【請求項6】
前記所定の解除操作は、急に動き出さないことの確認を促す表示が行われている状態での解除操作、又は、急に動き出さない状態が確保された状態での解除操作、を含む、
請求項5に記載の作業機械用周辺監視システム。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記制御部は、前記作業機械の周辺に存在する前記監視対象が検知されて前記作業機械の状態が前記第2状態となっているときに、前記監視対象の画像が含まれた撮像画像をディスプレイに表示させ、或いは、検知方向に対応する方向から音声で報知する、
請求項1、4、5、又は6の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。
【請求項9】
前記制御部は、前記作業機械の状態が前記第2状態となっているときに、前記第2状態となっていることを伝える情報を報知し、或いは、前記第2状態を解除する方法を報知する、
請求項1、4、5、6、又は8の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記第2状態が解除されたときに、前記第2状態が解除されたことを報知する、
請求項1、4、5、6、8、又は9の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。
【請求項11】
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で、前記所定の条件が満たされた場合、前記第1状態に戻すまでの待ち時間が存在することを報知し、或いは、所定時間の経過の後に、前記第1状態に戻す、
請求項1、4、5、6、8、9、又は10の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。
【請求項12】
前記第1状態に戻すまでの待ち時間が存在することの報知は、前記待ち時間のカウントダウンをディスプレイに表示させ、或いは、前記待ち時間中に警報を出力している場合には前記待ち時間の経過と共に該警報の音量を徐々に小さくすることによる、
請求項11に記載の作業機械用周辺監視システム。」

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
訂正前の請求項1?4、7?9,11,12に係る特許に対して、令和2年12月10日付け取消理由(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
(1)(明確性要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。
具体的には、請求項3、4及び7の記載及びこれらを引用する請求項4、7?9、11、12の記載が不明確である。
(2)(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。
具体的には、請求項1に係る発明(選択肢後者の発明)、請求項2に係る発明(選択肢後者の発明)は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、また、請求項1に係る発明(選択肢後者の発明)及び請求項2に係る発明(選択肢後者の発明)を引用して記載する請求項3、4、7?9、11、12に係る発明に係る発明も発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
(3)(新規性)
請求項1?3、7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1?3、7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(4)(進歩性)
請求項1?4、7?9、11に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?4、7?9、11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

<証拠>
甲第1号証:特開平5-93431号公報
甲第2号証:特開2012-21394号公報
甲第3号証:特開2014-116346号公報
甲第4号証:特開2014-181509号公報
甲第5号証:特開2014-47607号公報
甲第6号証:特開2012-97751号公報

2 甲号証の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載(下線は、当審が付した。以下同様。)
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、車両系建設機械の稼働中において、その作動範囲内に障害物の存在を、その機械に搭載した検出手段により感知したとき、自動的に作動停止手段を作動させ、かつ、上記障害物が存在しなくなったときの作動停止手段の自動解除時の安全装置に関するものである。」
(イ)「【0004】以上のような構成で、始動スイッチ26をONにすると電源29の電流は、始動スイッチ26、リレー27の常閉接点28aを介してソレノイド25に通電される。ソレノイド25に通電すると図示していない燃料コントロールリンケージを介し、燃料ガバナをフリーにして燃料噴射ポンプから燃料がエンジンに流れる状態になる。このような状態で図3に示す作業員21がブルドーザ23の近傍にいると、作業員21が携帯する発信器22の発信する信号を受信器24が受信し、受信器24の信号はコントローラ30に入力され増幅されて、リレー27のリレーコイル28bに通電され、その結果、常閉接点28aはOFFとなり、ソレノイド25には電流は流れず、燃料噴射ポンプから燃料が流れずエンジンは停止するようになっている。上記の例に示す従来の技術においては、受信器24が障害物の存在を検知して信号を発すると、コントローラ30はエンジンを停止させる役目を果たすので、ブルドーザ23は、その操作レバー20の操作の有無に関係なく走行および作業装置の作動を共に停止させてしまう。」
(ウ)「【0009】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決のため、本発明は次のような手段を講じた。すなわち、車両系建設機械から探査信号を発信し、所定の範囲内にある障害物からの反射波を感知する検出器、または、上記のごとき障害物からの信号を検出する検出器により当該障害物を検知して障害物信号を出力する障害物検出手段と、機械操縦用の1または複数の操作レバーが、中立位置にあるときに中立信号を出力する中立検出手段と、前記障害物信号が引続き入力されると制御信号を出力するが、該障害物信号の入力が消滅し、かつ、上記中立信号が入力していると制御信号の出力を停止するコントローラと、該コントローラからの制御信号により前記1または複数の操作レバー操作行為を無効とするが、該制御信号が消滅すると、操作レバーの無効行為を、自動的に解除する作動停止手段と、を設ける。
【0010】車両系建設機械を運転しているとき、その作動範囲内、または立入禁止範囲内に障害物が存在すると、障害物信号がコントローラに入力され、該コントローラからは作動停止手段へ制御信号が入力されるので、すべての操作レバーの操作は無効となり、機械の、移動・作業行為などを含む作動は停止する。この時、各操作レバーの総てを中立に復帰させておき、前記作動または立入禁止範囲内から障害物が取り除かれると、コントローラからの制御信号は、作動停止手 段に入力しなくなるので、作動停止は自動的に解除され、操作レバーにより自由に操縦可能となる。なお、障害物が取り除かれても、総ての操作レバーが、その時に中立位置にあって、中立信号がコントローラに入力されない限り、上記制御信号は消滅しない。」
(エ)「【0011】
【実施例】以下、この発明の実施例を図に基づいて説明する。図1はこの発明を全油圧式車両系建設機械に適用してときの1例を示すブロック図である。そうして、油圧系統の切換制御をリモートコントロール弁からのパイロット油圧で行う方式のものについて述べる。図において、6、7、8、9は、それぞれ、走行用、作業装置作動用油圧アクチュエータに圧油を分配する油圧切換弁(いずれも図示省略)の切換操作をするリモートコントロール弁であり、それらの操作レバーを操作することにより、それぞれのパイロット管路14、14、14、・・・にパイロット圧を発生させる。15、15、15、・・・は、上記リモートコントロール弁6、7、8、9で発生し、それぞれ2つのパイロット管路14に供給されるパイロット圧油のうち高い側の有効パイロット圧を選択的に取り出し、パイロット管路で、中立検出手段1に導くシャトル弁である。
【0012】この中立検出手段は各パイロット管路からのパイロット圧油の有無を検出し、総ての管路にパイロット圧が発生していないときは、中立信号をコントローラへ入力する作用をなすもので、例えば、各シャトル弁15からのパイロット管路の端末に設けた圧力スイッチと電源とを直列に接続した従来技術のものであってもよい。10,11,12,13は機体の外周にあり、障害物が存在する可能性のある方向に向けて設けた検出器であり、障害物を検知してそれに対応する信号を出力するもので、単数の場合、複数の場合など、その機械の形態、作動条件、作業環境に応じて増減され、それぞれの信号は障害物検出手段2へ導かれる。該障害物検出手段2は、1または複数の上記検出器のうちの1つからでも障害物を検知した信号が入力されると、コントローラ3に向けて障害物信号を出力する。
【0013】4および5は作動停止手段であり、制御信号が入力されている間だけ、機械の作動を停止せしめるが、その入力が消滅すると自動的に、元の状態に復帰するような機能で、例えば、制御信号が作動停止手段4に入力されると、走行用油圧アクチュエータへの管路を閉路し、その作動を停止せしめるが、信号が消滅すると復帰したり、あるいは、作動停止手段5に入力されると、作業装置の作動の全部または1部、もしくは1方向のみを停止せしめ、信号が消滅すると自動復帰したり、上記各作動用の操作レバーの操作を無効にしたりするもので、機械の種類、作業内容に応じた作動停止手段の様々な実施態様がある。
【0014】さらに、コントローラ3は前述したように、中立検出手段1からの中立信号と、障害物検出手段2からの障害物信号と、がその都度導かれるようになっているが、このコントローラ3の機能は、図2のフローチャートにも示すとおり、障害物信号が入力しているかぎり、作動停止手段4、5は制御信号を出力 し、しかも、中立検出手段1からの中立信号が入力されない限り、たとえ、障害物信号の入力が消滅しても、該制御信号を引き続き出力する機能を有している。
【0015】以上の構成と機能の説明においても明らかなように、この発明の実施例における検出器が障害物を検知すると、作動停止手段が作動して機械の作動は中止されるが操作レバーなど、操作系の総てが中立位置に設定されないかぎり、作動停止手段の機能は自動復帰しないから、前述の、発明が解決しようとする課題において述べた第1の条件、第2の条件、第3の条件における問題点の総てを満たすものであり、障害物信号が出力されず、かつ、操作系のレバー類が中立であるときに限り機械運転の再開が可能となるようにしてある。上述の実施例においては、中立検出手段1としてパイロット油圧の有無を検出する方法としたが、勿論、この他に、機械的または電気的手段により中立操作位置であることを検出すればよく、また、作動停止手段4、5として、操作用のパイロット油圧を無効にする方法以外にも、動力伝達媒体である主回路圧油を開閉したり、機械伝達系の動力断接機構を作動させたりすることも、当然含まれるものであることは当然である。」
(オ)図面
a 図1



b 図2



イ 甲第1号証に記載された発明
上記ア(ア)?(オ)より、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「車両系建設機械から探査信号を発信し、所定の範囲内にある障害物からの反射波を感知する検出器、または、障害物からの信号を検出する検出器により当該障害物を検知して障害物信号を出力する障害物検出手段と、機械操縦用の1または複数の操作レバーが、中立位置にあるときに中立信号を出力する中立検出手段と、前記障害物信号が引続き入力されると制御信号を出力するが、該障害物信号の入力が消滅し、かつ、上記中立信号が入力していると制御信号の出力を停止するコントローラと、該コントローラからの制御信号により前記1または複数の操作レバー操作行為を無効とするが、該制御信号が消滅すると、操作レバーの無効行為を、自動的に解除する作動停止手段4,5と、を設けた建設機械の安全装置であって、
検出器10,11,12,13は、機体の外周にあり、障害物が存在する可能性のある方向に向けて設けられ、
作動停止手段4,5は、制御信号が入力されている間だけ、機械の作動を停止せしめるが、その入力が消滅すると自動的に、元の状態に復帰するような機能で、例えば、制御信号が作動停止手段4に入力されると、走行用油圧アクチュエータへの管路を閉路し、その作動を停止せしめるが、信号が消滅すると復帰したり、あるいは、制御信号が作動停止手段5に入力されると、作業装置の作動の全部または1部、もしくは1方向のみを停止せしめ、信号が消滅すると自動復帰したり、上記各作動用の操作レバーの操作を無効にしたりする、
建設機械の安全装置。」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンによって駆動される油圧ポンプと、油圧ポンプから吐出される圧油によって駆動される油圧アクチュエータと、エンジンの出力系に連係された発電電動機と、エンジンによって発電電動機が発電動作した場合の電力を蓄積する一方、発電電動機が電動動作する場合に電力を供給する蓄電手段とを備え、操作レバーの操作により油圧アクチュエータを動作させるようにした作業機械に関するものである。」
(イ)「【0011】
本発明によれば、操作レバーの操作に関わらず油圧アクチュエータを動作停止状態に保持する油圧制御操作手段が遮断操作されていることを条件にエンジンの再始動許可を行うようにしている。また、エンジン始動操作手段から始動指令が出力された場合に油圧制御操作手段が遮断操作されていれば、オペレータが乗降車時等に操作レバーに触れてしまった場合であってもエンジンが再始動されることになる。これにより、油圧アクチュエータが駆動されることなくエンジン再始動を容易にし、燃料消費量や排出する二酸化炭素量を低下させることが可能となる。」
(ウ)「【0032】
PPC圧ロックスイッチ78は、図1に示したパイロット油圧遮断バルブ52を断続操作するための制御信号を出力するもので、運転席に設けたPPCロックレバー(油圧制御操作手段)79を介してオペレータが操作できるように構成してある。具体的には、PPCロックレバー79を退避移動させ、運転席に対してオペレータが出入りできる状態(以下、PPCロックレバー79の「退避位置」という)となった場合にパイロット油圧遮断バルブ52を遮断状態とする一方、 PPCロックレバー79を進出移動させ、運転席に対してオペレータの出入りができない状態(以下、PPCロックレバー79の「進出位置」という)となった場合にパイロット油圧遮断バルブ52を開放状態とするように設定してある。PPC圧ロックスイッチ78からの出力信号は、後述のメインコントローラ100に与えられることになる。」
(エ)「【0035】
また、メインコントローラ100には、アイドリング停止制御手段110、エンジン再始動制御手段120が設けてある。アイドリング停止制御手段110は、エンジン40が運転されている状態において所定の停止条件が充足した場合にエンジン40のアイドリング運転を停止させるものである。エンジン再始動制御手段120は、アイドリング停止制御手段110によってエンジン40が停止された状態において所定の再始動条件が充足した場合にエンジン40の再始動許可を行うものである。」
(オ)「【0051】
再始動処理部121は、アイドリング停止制御手段110によってエンジン40のアイドリング運転が停止されている状態においてエンジン再始動スイッチ77がON操作された場合、PPCロックレバー79が退避位置に配置されていることを条件に、スタータ43及びエンジンコントローラ45に対してエンジン40の再始動許可を出力するものである。またこの再始動処理部121は、エンジン40が再始動した場合、まず第1の回転数(例えば、約1000rpm)を上限として運転し、その後、PPCロックレバー79を進出位置に移動させることによってパイロット油圧遮断バルブ52が開放状態に移行した場合にエンジン40を第2の回転数(例えば、約2000rpm)まで上昇させる処理を行うものである。」

(3)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、バックホー等の作業機のエンジン制御装置に関する。」
(イ)「【0005】
本発明は上記問題点に鑑み、キースイッチの操作によりエンジンを始動するときに、作動部が無用に作動しないようにしたものである。また、燃料の無駄な消費を省くと共に、無用なエンジン騒音を発生しないようにしたものである。」
(ウ)「【0016】
この右ロックレバー79Rは、上方操作することにより、切換スイッチ83Rを作動してアンロード弁をオフに切換作動し、ブーム・バケット用操作レバー76によるブーム65及びバケット67の操作を不能とし、旋回・アーム用操作レバー80による旋回モータ7及びアーム66の操作を不能とする。 また、右側の操縦台72Rには、ブームシリンダ4及びバケットシリンダ5用の制御弁Cを制御するパイロット操作弁19Rが取付支持され、このパイロット操作弁19Rを操作するように、前記ブーム・バケット用操作レバー76が設けられている。
【0017】
左側の操縦台72Lには、旋回台56を旋回中心S廻りに旋回させる旋回モータ(作動部)7及びアーム66を操作する旋回・アーム用操作レバー80と、左ロックレバー79Lとが備えられている。この左ロックレバー79Lは、上方操作することにより、切換スイッチ83Lを作動してアンロード弁をオフに切換作動し、左側の操縦台72Lを上側へ回動すると共に、旋回・アーム用操作レバー80による旋回モータ7及びアーム66の操作を不能とし、ブーム・バケット用操作レバー76によるブーム65及びバケット67の操作を不能とする。
【0018】
前記左右ロックレバー79L、79Rは、切換スイッチ83L、83R等と共に、バックホー1の動作を停止状態にするときに操作するレバーロック機構26を構成している。なお、左ロックレバー79Lを下方操作すると、左側の操縦台72Lが下降する。左ロックレバー79Lと右ロックレバー79Rとを共に下方操作すると、ブーム・バケット用操作レバー76によるブーム65及びバケット67の操作が可能になると共に、旋回・アーム用操作レバー80による旋回モータ7及びアーム66の操作が可能になる。
【0019】
旋回モータ7及びアームシリンダ6用の制御弁Cを制御するパイロット操作弁19Lは、左側の操縦台72Lに取付支持され、このパイロット操作弁19Lを操作するように、前記旋回・アーム用操作レバー80が設けられている。前記アンロード弁は、パイロット油圧操作系に接続されており、左右ロックレバー79L、79Rによって切換スイッチ83L、83Rがオフになることにより、パイロット油圧操作系をアンロードし、旋回台56の旋回モータ7、掘削装置(作業装置)57の油圧シリンダ等への圧油の供給を停止するようになっている。
【0020】
従って、レバーロック機構26は、オン状態とオフ状態とに切り替え可能であって、左右ロックレバー79L、79Rが共に下方操作されると、レバーロック機構26はオン状態になり、複数の操作レバー76,80(ブーム・バケット用操作レバー76、旋回・アーム用操作レバー80)の操作により、複数の作動部65,66,67,7(ブーム65、アーム66、バケット67及び旋回モータ7)が総て作動可能になって、作業ができる状態になる。左右ロックレバー79L、79Rのいずれか一方又は両方が上方操作されると、レバーロック機構26はオフ状態になり、複数の操作レバー76,80(ブーム・バケット用操作レバー76、旋回・アーム用操作レバー80)を操作しても、作動部65,66,67,7(ブーム65、アーム66、バケット67及び旋回モータ7)が作動不能になって、作業ができなくなる。」
(エ)「【0028】
また、エンジン制御部101は、キースイッチ95をスタート位置にセットして、エンジン13を始動する際に、左右ロックレバー79L、79Rが共に下方操作された状態(レバーロック機構26がオン状態)であれば、スタータリレー回路97のリレーコイル97bに励磁電流(信号)を出力しなくなるようにして、エンジン13を始動不能にし、左右ロックレバー79L、79Rのいずれか一方又は両方が上方操作された状態(レバーロック機構26がオフ状態)であれば、スタータリレー回路97のリレーコイル97bに励磁電流(信号)を出力して、エンジン13を始動するようにしている。即ち、エンジン制御部101は、キースイッチ95から始動信号S1を入力したとき、レバーロック機構26がオフ状態のときのみに、スタータリレー回路97のリレーコイル97bを励磁して、リレースイッチ97aをオンする。」

(4)甲第4号証
ア 甲第4号証の記載
(ア)「【0001】
本発明は、作業機械の周囲における人の存否を判定する機能を備える作業機械用周辺監視装置に関する。」
(イ)「【0191】
次に、図20及び図21を参照しながら、警報制御手段13が人存否判定手段12の判定結果に基づいて警報出力部7を制御する処理(以下、「第1警報制御処理」とする。)について説明する。なお、図20は、第1警報制御処理の流れを示すフローチャートであり、図21は、第1警報制御処理中に表示される出力画像の推移の一例を示す。なお、警報制御手段13は、所定周期で繰り返しこの第1警報制御処理を実行する。
【0192】
最初に、人存否判定手段12は、ショベル60の周囲に人が存在するか否かを判定する(ステップS11)。このとき、画像生成手段11は、例えば、図21の出力画像D21に示すような路面高さ基準の周辺監視用仮想視点画像を生成して表示する。
【0193】
ショベル60の周囲に人が存在すると判定した場合(ステップS11のYES)、人存否判定手段12は、検出信号を警報制御手段13に対して出力する。検出信号を受けた警報制御手段13は、警報を開始させるための警報開始信号を警報出力部7に対して出力し、警報出力部7から警報を出力させる(ステップS12)。
【0194】
本実施例では、警報出力部7は、警報音を出力する。そして、画像生成手段11は、例えば、図21の出力画像D22に示すように、路面高さ基準の周辺監視用仮想視点画像を頭高さ基準の周辺監視用仮想視点画像に切り換えて表示する。具体的には、人存否判定手段12は、後方監視空間ZBに作業者P1が存在すると判定した場合に警報制御手段13に対して検出信号を通知する。そして、警報制御手段13は、左側方警報出力部7L、後方警報出力部7B、及び右側方警報出力部7Rに対して警報開始信号を出力し、3つ全ての警報出力部から警報音を出力させる。また、画像生成手段11は、頭高さ基準の周辺監視用仮想視点画像上に警報停止ボタンG1を重畳表示する。警報停止ボタンG1は、入力部3としてのタッチパネルとの協働によって構成されるソフトウェアボタンである。操作者は、警報停止ボタンG1を押下することによって警報音を停止させることができる。なお、警報停止ボタンG1は、表示部5の近傍に設置されるハードウェアボタンであってもよい。この場合、画像生成手段11は、警報停止ボタンG1としてのハードウェアボタンを押下することによって警報を停止させることができる旨を表すテキストメッセージを周辺監視用仮想視点画像に重畳表示してもよい。また、画像生成手段11は、ショベル60の周囲に人が存在すると判定された場合であっても、図21の出力画像D23に示すように、路面高さ基準の周辺監視用仮想視点画像をそのまま用いながら警報停止ボタンG1を重畳表示してもよい。」
(ウ)「【0205】
本実施例では、警報出力部7は、警報音を出力する。具体的には、人存否判定手段12は、左側方監視空間ZLに人(ここでは作業者P10?P12である。)が存在すると判定した場合に警報制御手段13に対して左側方検出信号を通知する。そして、警報制御手段13は、左側方警報出力部7L、後方警報出力部7B、及び右側方警報出力部7Rに対して警報開始信号を出力し、3つ全ての警報出力部から警報音を出力させる。この場合、制御部1は、表示部5が起動していない場合には表示部5を起動させる。そして、画像生成手段11は、図21の出力画像D22に示すように、路面高さ基準の周辺監視用仮想視点画像を頭高さ基準の周辺監視用仮想視点画像に切り換えて警報停止ボタンG1を重畳表示する。また、画像生成手段11は、図21の出力画像D23に示すように、路面高さ基準の周辺監視用仮想視点画像上に警報停止ボタンG1を重畳表示してもよい。この場合、警報制御手段13は、警報停止ボタンG1が押下されるまで、ショベル60による作業を禁止してもよい。具体的には、警報制御手段13は、ゲートロック弁を閉状態にし、コントロールバルブと操作レバー等との間の作動油の流れを遮断して操作レバー等を無効にしてもよい。」

イ 甲第4号証に記載された技術
上記ア(ア)?(ウ)より、甲第4号証には、以下の技術が記載されていると認められる。
(甲第4号証に記載された技術)
「作業機械の周囲における人の存否を判定する機能を備える作業機械用周辺監視装置において、
(ア)人存否判定手段12が左側方監視空間ZLに人が存在すると判定した場合に、警報制御手段13に対して左側方検出信号を通知し、警報制御手段13は、左側方警報出力部7L、後方警報出力部7B、及び右側方警報出力部7Rに対して警報開始信号を出力し、3つ全ての警報出力部から警報音を出力させること、さらには、ゲートロック弁を閉状態にし、コントロールバルブと操作レバー等との間の作動油の流れを遮断して操作レバー等を無効にすること。
(イ)左側方監視空間ZLに人が存在すると判定した場合に、制御部1は、表示部5が起動していない場合には表示部5を起動させ、画像生成手段11は、路面高さ基準の周辺監視用仮想視点画像を頭高さ基準の周辺監視用仮想視点画像に切り換えて警報停止ボタンG1を重畳表示すること。」

(5)甲第5号証
ア 甲第5号証の記載
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械と作業員との接触事故を防止するための、作業機械の安全装置に関する。」
(イ)「【0012】
<1>全体構成
本発明の作業機械の安全装置は、作業機械Aに取り付ける作業機械側ユニット1と、作業員側に取り付ける作業員側ユニット2と、を少なくとも備える。
これらのユニットが信号を送受信することによって、作業機械Aへの作業員の接近を検知する。
以下、各ユニットの詳細な構成について説明する。
【0013】
<2>作業機械側ユニット
作業機械側ユニット1は、作業機械Aに取り付けて、作業機械Aの周囲に監視エリアXを構築すると共に、作業機械Aの駆動を制御するための装置である。
作業機械側ユニット1は、赤外線発信手段11、電波受信手段12及び制御手段13を少なくとも含んでなる。
以下、各手段について説明する。
【0014】
<2.1>赤外線発信手段
赤外線発信手段11は、所定出力の赤外線信号111を発信することにより、作業機械ユニット1の周囲に監視エリアXを構築する為の手段である。
赤外線発信手段11は、公知の装置を用いればよく、監視エリアXの大きさや、赤外線の指向性などの諸元に応じて、配置数、配置場所、出力などを適宜設定すればよい。
【0015】
<2.2>電波受信手段
電波受信手段12は、前記作業員側ユニット2から発信する電波信号221を受信するための手段である。 電波受信手段12は、公知の装置を用いればよく、詳細な説明を省略する。
【0016】
<2.3>制御手段
制御手段13は、作業機械Aの駆動を制御するための手段である。
より詳しくは、作業機械Aに存するアームやバケット、クローラなどの駆動部に対して、油圧供給の停止・再開機能や、作業機械Aのエンジン自体の停止・起動機能などを備えていればよい。
作業機械の駆動制御タイミングは、任意に変更可能としておくことが望ましい。特に、作業機械Aの駆動再開時期は、作業員の離脱後ただちとせずに、所定の期間経過後に行うことが、安全上望ましい。
制御手段13の具体的な実施方法は、公知の方法を用いればよい。
【0017】
<2.4>
その他 作業機械側ユニット1には、その他の手段として、作業機械Aを運転するオペレータに対し、視覚的又は聴覚的に報知するブザーやライトなどの警告手段14を設けておいてもよい。
これらの警告手段14は、前記制御手段13と連動し、例えば油圧供給の停止期間と同期させても良いし、電波信号221の受信期間と同期するように構成しても良い。」
(ウ)「【0019】
<3>作業員側ユニット
作業員側ユニット2は、作業員B又は作業員Bが身につける着用品(安全ベスト、ヘルメットなど)に取り付けて、作業員Bが作業機械Aの監視エリアXに侵入したか否かを、作業機械側ユニット1に通知するための装置である。
作業員側ユニット2は、赤外線受信手段21及び電波発信手段22と、を少なくとも含んでなる。
以下、各手段について説明する。
【0020】
<3.1>赤外線受信手段
赤外線受信手段21は、前記赤外線発信手段11からの赤外線信号111を受信するための手段である。
この赤外線信号111は所定の出力によるため、監視エリアXに作業員が侵入している状態であるときのみ、赤外線受信手段21が赤外線信号111を受信することができる。
赤外線受信手段21は、公知の装置を用いればよく、当該公知の装置の諸元に応じて、配置数、配置場所を適宜設定すればよい。
【0021】
<3.2>電波発信手段
電波発信手段22は、作業機械側ユニット1へと電波信号を発信する手段である。
電波発信手段22は、前記赤外線受信手段21が、赤外線信号111を受信している間、電波信号221を発信し続ける。
つまり、電波発信手段22は、作業員Bが作業機械Aの監視エリアX内に滞在し続ける間、電波信号221を発信し続けることとなる。
電波発信手段22は、公知の装置を用いればよく、当該公知の装置の諸元に応じて、配置数、配置場所を適宜設定すればよい。」
(エ)「【0024】
<4>動作手順
次に、図4を参照しながら本発明の作業機械の安全装置の動作手順について説明する。
【0025】
(1)侵入時
作業員Bが、作業機械Aの監視エリアXに侵入すると、作業員側ユニット2が、作業機械側ユニット1から発信した赤外線信号111を受信する。
この赤外線信号111を受信している間、作業員側ユニット2に設けた警告手段23が、作業員Bに対して、視聴覚的に警告を開始することができる。
次に、作業員側ユニット2は、前記赤外線信号111を受信している間、電波信号221を発信し続ける。
作業機械側ユニット1は、前記電波信号221を受信しつづける間、制御手段13でもって、作業機械Aの作動を停止し続ける。
【0026】
(2)離脱時
作業員Bが、監視エリアXから離脱すると、作業員側ユニット2は赤外線信号111を受信しなくなるため、電波信号221の発信も行わない。
このとき、作業機械側ユニット1の制御手段13は、電波信号221が途絶えてから所定期間カウントし、所定期間経過後、作業機械Aを作動可能な状態へと復帰する。この所定期間は、五秒程度としておけばよい。
なお、所定期間のカウント中に、作業員Bの監視エリアXへの再侵入があった場合には、侵入時の動作が優先されることは言うまでもない。
【0027】
以上の動作手順により、作業員Bの侵入時には、直ちに作業機械Aを停止しつつ、作業員Bの離脱時には時間差を設けて作業機械Aを復帰させることができる。
【0028】
(3)各警告手段の動作
作業機械側ユニット1及び作業員側ユニット2にそれぞれ設けた警告手段14,23の動作態様について説明する。
【0029】
[作業員側]
まず、作業員側ユニット2の警告手段23は、赤外線受信手段21による赤外線信号11の受信の有無と警告動作の有無を連動する形が望ましい。
すなわち、作業員側ユニット2の警告手段23は、作業員Bが監視エリアXに侵入している時のみ作動する形が望ましい。
【0030】
[作業機械側]
一方、作業機械側ユニット1の警告手段14は、電波信号221が途絶えた時点で警告動作を停止しても良いし、前記した所定期間経過後まで警告動作を継続しておいてもよい。
例えば、電波信号221が途絶えた時点で警告動作を停止する場合には、作業員Bが監視エリアXに侵入している時のみ作動する形となる。すなわち、作業機械Aのオペレータは、警告が停止してから所定の間、動作できない期間を認識した上で、作業機械Aの復帰に備えればよい。
また、前記した所定期間経過後まで警告動作を継続する場合には、警告されている状態は作業機械Aの動作ができない期間であることを認識した上で、作業機械Aの復帰に備えればよい。
これらの設定は、任意に変更可能としておき、現場や作業員に応じて適宜設定変更すればよい。」

イ 甲第5号証に記載された技術
上記ア(ア)?(エ)より、甲第5号証には、以下の技術が記載されていると認められる。
(甲第5号証に記載された技術)
(ア)「作業機械Aの監視エリアXへの作業員Bの侵入時には、直ちに作業機械Aを停止しつつ、作業員Bの離脱時には時間差を設けて作業機械Aを復帰させることができること。」
(イ)「作業機械側ユニット1の、視覚的又は聴覚的に報知するブザーやライトなどの警告手段14は、作業員Bが、監視エリアXから離脱して電波信号221が途絶えた時点において、所定期間経過後まで警告動作を継続すること。」

(6)甲第6号証
ア 甲第6号証の記載
(ア)「【0001】
本発明は、エンジンによって駆動される油圧ポンプと、油圧ポンプから吐出される圧油によって駆動される油圧アクチュエータと、エンジンの出力系に連係された発電電動機と、エンジンによって発電電動機が発電動作した場合の電力を蓄積する一方、発電電動機が電動動作する場合に電力を供給する蓄電手段とを備え、操作レバーの操作により油圧アクチュエータを動作させるようにした作業機械に関するものである。」
(イ)「【0035】
アイドリング停止制御手段110は、エンジン回転数制御部111、アイドリング停止処理部112、機械動作禁止部113、カウントダウン表示処理部114、報知処理部115を有している。」
(ウ)「【0045】
カウントダウン表示処理部114は、アイドリング停止処理部112によるアイドリング運転停止までの時間が所定の時間(T3秒)以下となった場合にモニタ75に対してカウントダウン表示を行うための表示データを出力するものである。例えばカウントダウン表示処理部114は、アイドリング運転停止までの時間が10秒となった場合にモニタ75に対して表示データを出力し、「アイドリング運転停止まで10秒」、「アイドリング運転停止まで9秒」…というようにアイドリング運転が停止されるまでの間カウントダウン表示を行う。上述した延長スイッチ76によってアイドリング運転停止までの時間が10秒以上となった場合には、一旦カウントダウン表示を停止し、再び10秒となった時点でカウントダウン表示を再開する処理を行う。」

イ 甲第6号証に記載された技術
上記ア(ア)?(ウ)より、甲第6号証には、以下の技術が記載されていると認められる。
(甲第6号証に記載された技術)
(ア)「アイドリング停止処理部112及びカウントダウン表示処理部114を有するアイドリング停止制御手段110において、カウントダウン表示処理部114が、アイドリング停止処理部112によるアイドリング運転停止までの時間が所定の時間(T3秒)以下となった場合にモニタ75に対してカウントダウン表示を行うための表示データを出力すること。」

3 当審の判断
(1)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
請求項3及び7について指摘した記載の不備について、訂正事項3及び6に係る訂正において、当該請求項が削除されたので、請求項3及び7に係る不備は存在しなくなった。
また、請求項4について指摘した記載の不備は、訂正前の「前記作業機械が動き出さない状態が確保されていること」との記載について、同請求項が引用する請求項1ないし3のうち請求項2には「作業機械が動き出さない状態」に係る記載がないことから、本件発明4の構成が明確でないというものであるが、訂正事項4に係る訂正のとおり、訂正前に引用していた請求項2を引用しないものとすることにより解消された。
そして、請求項3及び7の不備が存在しなくなり、本件訂正後の請求項4の記載は不備が解消されているので、請求項4を直接的又は間接的に引用して記載する訂正前の請求項8、9、11及び12の記載についての不備も解消又は存在しなくなった。
したがって、本件訂正後の請求項4、8、9、11及び12の記載は明確である。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
請求項1について、訂正事項1において、請求項1に択一的に記載されていた「警報が出力されていない状態」及び「警報が出力されている状態」を削除する訂正がされたことにより、訂正前の請求項1に係る発明から、本件発明の課題を解決するための、作業機械の動作の停止をする状態がその状態を解除した状態となること、もしくは、作業機械の動作制限をした状態がその状態を解除した状態となること、を具備していない発明が削除されたので、本件訂正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
請求項2及び3について、訂正事項2及び3において削除する訂正がされたので、サポート要件違反の対象がなくなった。
また、請求項4について、サポート要件を満たしていない請求項1又は2を引用していたところ、訂正事項4において、上記のとおり本件発明の課題を解決するための事項を具備しない発明が削除されてサポート要件を満たすこととなった請求項1の記載のみを含むように訂正されたので、本件訂正後の請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
そして、訂正後の請求項1及び請求項4に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であることから、これらの請求項を直接的又は間接的に引用して記載する請求項8、9、11及び12に係る発明も、発明の詳細な説明に記載された発明である。
したがって、本件訂正後の請求項1、4、8、9、11及び12に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である。

(3)特許法第29条第1項第3号(新規性)及び特許法第29条第2項(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「車両系建設機械」及び「コントローラ」は、本件発明1の「作業機械」及び「制御部」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明は、「機体の外周にあ」る「検出器10,11,12,13」により、「所定の範囲内にある障害物」を検出する「車両系建設機械」の「安全装置」である。このような車両系建設機械の安全装置は、本件発明1の「作業機械用周辺監視システム」に相当する。

b 甲1発明の「検出器」は「機体の外周にあり、障害物が存在する可能性のある方向に向けて」設けられるものであるから、「周辺の所定の範囲に存在する監視対象を検知」できることは明らかである。そうすると、甲1発明の「所定範囲内にある障害物」からの「反射波を感知する検出器」あるいは「信号を検出する検出器」は、本件発明1の「周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部」に相当する。

c 甲1発明は、「コントローラからの制御信号により前記1または複数の操作レバー操作行為を無効とする」ことから、甲1発明が車両系作業機械の操作が無効な状態をとり得ることは明らかである。
また、甲1発明は、「操作レバーの無効行為を」「解除する」ことから、甲1発明が車両系建設機械の操作が有効な状態をとり得ることは明らかである。
したがって、甲1発明は、車両系建設機械の操作が有効な状態と、操作が無効な状態という2つの状態をとることができるといえる。よって、甲1発明は、本件発明1の「作業機械の状態」として「第1の状態」と「第2の状態」を有しているといえる。
さらに操作の状態についてみると、甲1発明の車両系建設機械の操作が有効な状態であることと、操作が無効な状態であることは、本件発明1の「前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態であ」ることに相当し、また、甲1発明の車両系建設機械の操作が無効な状態であることは、本件発明1の「前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態であ」ることに相当する。

d 甲1発明の障害物信号は、検出器により障害物を検知して障害物検出手段から出力されるものである。また、甲1発明のコントローラは、検知器が障害物を検知して障害物検出手段から出力される障害物信号が入力されると、制御信号を出力し、当該制御信号が、作動停止手段4,5に入力されることにより、1または複数の操作レバー操作行為を無効とする。そして、検知器が障害物を検知しなくなってコントローラへの障害物信号の入力が消滅し、かつ中立検出手段からの中立信号が入力され、制御信号の出力を停止すると、操作レバーの無効行為を、自動的に解除することになるものである。
したがって、甲1発明のコントローラは、障害物検出手段から障害物信号が出力されていることで、1または複数の操作レバー操作行為を無効とし、そして、当該障害物信号の入力が消滅しかつ中立信号が入力されることで、操作レバーの無効行為を解除することとしている。
以上のことから、甲1発明は、本件発明1の「前記検知部の検知結果に基づき 、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、」の構成を有しているといえる。

e 甲1発明のコントローラは、制御信号の出力がされた後は、「該障害物信号の入力が消滅し、かつ、上記中立信号が入力していると制御信号の出力を停止」するものである。車両系建設機械の状態と関連づけると、甲1発明のコントローラは、障害物信号が入力することにより制御信号の出力がされ、当該制御信号により作動停止手段が1または複数の操作レバー操作行為を無効とする。その後、該障害物信号の入力が消滅していること、かつ、上記中立信号が入力していることを条件として制御信号の出力が停止され、操作レバーの無効行為を、自動的に解除した状態に戻しているものである。
したがって、甲1発明は、本件発明1の「前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、」の構成を有しているといえる。

f 甲1発明において、操作行為が無効とされた状態(第2状態)から、操作レバーの無効行為を解除した状態(第1状態)に戻す条件である「コントローラ」への「該障害物信号の入力が消滅」していることは、本件発明1の「前記所定範囲での前記監視対象の非検知」に相当し、また、甲1発明の「機械操縦用の1または複数の操作レバーが、中立位置にあるときに」「中立検出手段」から出力される「中立信号」について、「コントローラ」に「上記中立信号が入力している」ことは、本件発明1の「前記作業機械が動き出さない状態が確保されていること」に相当する。
そして、甲1発明の「コントローラ」への「該障害物信号の入力が消滅」していること及び「コントローラ」へ「上記中立信号が入力している」ことは、本件発明1の「前記所定の条件」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態を含み、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態を含み、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含む、
作業機械用周辺監視システム。」

<相違点1>
「前記所定の条件」のうちの「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」が、本件発明1では、「ゲートロックレバーによって操作装置が無効となっていること、又は、操作装置から操作者の手足が離されていること」であるのに対して、甲1発明では、「コントローラ」へ「上記中立信号が入力している」ことである点。

上記相違点1は、実質的な相違点であるので、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。
a 相違点1において、「前記所定の条件」のうちの「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」が「ゲートロックレバーによって操作装置が無効となっていること」(以下「相違点1-1」という。)の場合
作業機械が動き出さない状態を確保するために、ゲートロックレバーを用いることは、周知慣用技術(甲第2号証、甲第3号証等参照)である。
しかしながら、甲第1号証の段落【0008】には、従来技術の問題点として「作動停止状態が保持され、これを解除するとき」は、「操作は複雑多岐となる」ことから、「解除後の安全な作業の再開ができる条件を自動的に得ること」を解決すべき課題としている点が記載されている。
そうすると、甲1発明において、解除後の安全な作業の再開ができる条件を自動的に得るための「所定の条件」として採用している「コントローラ」への「該障害物信号の入力が消滅」していること及び「コントローラ」へ「上記中立信号が入力している」ことは、甲1発明において欠くことができないものであって、作動停止状態を解除するに際して、自動的に再開できない構造に置き換えることは想定していないといえる。
しかるに、甲1発明に上記ゲートロックレバーに係る周知慣用技術を適用すると、作業停止状態を解除する場合に、ゲートロックレバーを操作して作業機械が動き出す状態となるようにしなければならないので、自動的には再開できない構造となってしまう。また、仮に甲1発明において、「所定の条件」として「ゲートロックレバーによって操作装置が無効となっていること」を追加的に採用するとすると、コントローラにおける制御が、障害物信号の入力と中立信号の入力に加えて、ゲートロックレバーの状態をも考慮した複雑な制御フローとなってしまう。したがって、甲1発明に上記周知慣用技術を適用することには阻害要因があるといえる。
以上のとおりであるから、甲1発明に、周知慣用技術を適用することにより、上記相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

b 相違点1において、「前記所定の条件」のうちの「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」が「操作装置から操作者の手足が離されていること」(以下「相違点1-2」という。)の場合
作業機械において、「第2状態に切り換えた後」で「第1状態に戻」す「所定条件」のうち「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」として、「操作装置から操作者の手足が離されていること」とした技術は、甲1発明において記載も示唆もされておらず、また自明なことではない。またこのような技術が公知又は周知であったと認めるに足りる証拠はないから、甲1発明において、上記相違点1-2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(エ)申立人の主張について
申立人は、「操作装置から操作者の手足が離されていること」に関して、「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」が「操作装置から操作者の手足が離されていること」を含む点は、当業者には常識であって、改めて特許文献に記載する必要がないほどの周知慣用技術であり、本件発明1は、「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」の内容について、単に周知慣用技術をもって特定したにすぎないから、依然として甲1発明であるか、あるいは、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。(意見書第4頁第18行?第5頁第21行)
しかしながら、甲1発明は、「第2状態」に切り換えた後で「第1状態」に戻す場合に、制御部が満たすべき「所定の条件」として、「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」が「操作装置から操作者の手足が離されていること」とはしていないことから、本件発明1とは異なるものであり、上記のような「所定条件」としての「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」を「操作装置から操作者の手足が離されていること」とすることが周知慣用技術であると認めるに足りる証拠もないから、本件発明1が、周知慣用技術をもって特定したにすぎないということはできない。

また、申立人は、「ゲートロックレバーによって前記操作装置が無効となっていること」に関して、本件発明1の「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」が「ゲートロックレバーによって前記操作装置が無効となっていること」を含む点は、甲1発明との対比において相違点にならないし、仮に、特許権者が述べるように、甲1発明に上記周知慣用技術を適用することには阻害要因があるとしても、証拠の他の組み合わせ(甲第5号証及び甲第2号証)によって、本件発明1の進歩性が否定される旨主張する。
すなわち、本件発明1と甲第5号証に記載された発明との相違点を、「制御部が作業機械の状態を第2状態に切り換えた後で第1状態に戻すための所定の条件に関して、訂正特許発明1においては、作業機械が動き出さない状態が確保されていることを含み、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、ゲートロックレバーによって前記操作装置が無効となっていることを含むのに対し、甲5発明においては、このような構成を含むのか否か不明である点。」(以下「相違点A」という。)とし、また、甲第2号証に記載された技術として、エンジン40の再始動を許可するための条件として油圧アクチュエータ21が駆動されない状態が確保されていること(PCCロックレバー79が退避位置に配置されていること)を示し、甲第5号証に記載された発明に甲第2号証に記載された技術を適用して、上記相違点Aに係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものである旨主張する。(意見書第5頁下から7行?第8頁下から2行)
しかしながら、そもそも甲第5号証には、作業員が監視エリアに侵入しているか否か以外の条件を追加することについて何ら記載も示唆もされておらず、甲第5号証に記載された発明において、「所定の条件」の一つとして「ゲートロックレバーによって操作装置が無効となっていること」を追加的に採用する動機付けがあるとまでは認められない。
以上のとおりであるから、甲第5号証に記載された発明に、甲第2号証に記載された事項を適用することにより、上記相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

したがって、申立人の主張を採用することはできない。

イ 本件発明4について
(ア)対比
本件発明4と甲1発明とを対比すると、本件発明4が本件発明1と共通する構成については、上記ア(ア)a?fの点と同様である。

そうすると、本件発明4と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態を含み、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態を含み、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含む、
作業機械用周辺監視システム。」

<相違点2>
「前記所定の条件」のうち「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」が、本件発明4では、「操作装置が所定時間以上にわたって中立位置になっていることという前記操作装置に関する条件を含み、前記操作装置が中立位置になっている時間が前記所定時間未満であれば、前記操作装置に関する条件は満たされない」ことであるのに対して、甲1発明では、操作装置が中立位置になっていることであるものの、本件発明4のような中立位置になっている時間に関する特定がなされていない点。

上記相違点2に係る本件発明4の構成における「所定時間以上にわたって」という点は、本件明細書の段落【0081】に記載の「瞬間的に中立位置になっただけで第2解除条件が満たされてしまうのを防止する効果」を奏する構成である。

上記相違点2は、実質的な相違点であるので、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(イ)判断
上記相違点2について検討する。
甲第1号証には、「機械操縦用の1または複数の操作レバーが、中立位置にあるときに中立信号を出力する中立検出手段」(【0009】)との記載があるものの、「中立位置になっていることにつき所定時間以上」という、操作レバーが中立位置にある時間の下限を規定する点は何ら記載も示唆もされていない。
また、甲第2号証ないし甲第6号証をみても、相違点2に係る本件発明4の構成は、記載も示唆もされていない。
そして、本件発明4は、上記の点により、上記した「瞬間的に中立位置になっただけで第2解除条件が満たされてしまうのを防止する効果」(【0081】)を奏するといえ、さらに、瞬間的に操作レバーが中立状態を経由する操作がなされた場合は「所定の条件」のうちの「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」の条件の成立を防止することも推認できる。
そうすると、相違点2に係る本件発明4の構成は、単なる設計事項と認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件発明4は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 本件発明5
(ア)対比
本件発明5と甲1発明とを対比すると、本件発明5が本件発明1と共通する構成については、上記ア(ア)a?fの点と同様である。

そうすると、本件発明5と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態を含み、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態を含み、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含む、
作業機械用周辺監視システム。」

<相違点3>
「前記所定の条件」のうち「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」が、本件発明5では、「所定の解除操作が行われたこと」であるのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点。

上記相違点3は、実質的な相違点であるので、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(イ)判断
上記相違点3について検討する。
甲第1号証には、「前記所定の条件」のうち「作業機械が動き出さない状態が確保されていること」について、「所定の解除操作が行われたこと」とする点は記載も示唆もされていない。
また、甲第2号証ないし甲第6号証をみても、相違点3に係る本件発明5の構成は、記載も示唆もされていない。

したがって、本件発明5は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

エ 本件発明6、8?12
本件発明6、8?12は、本件発明1、本件発明4又は本件発明5の構成をすべて含み、さらに限定を加えたものであるから、上記アないしウで説示したのと同じ理由により、甲第1号証に記載された発明ではなく、また甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由を全て含む取消理由によっては、本件発明1、4、8、9、11及び12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、4、8、9、11及び12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件発明2、3及び7に係る特許は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議申立てについて、請求項2、3及び7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態であり、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態であり、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含み、
前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、ゲートロックレバーによって前記操作装置が無効となっていること、又は、操作装置から操作者の手足が離されていることを含む、
作業機械用周辺監視システム。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態であり、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態であり、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含み、
前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、操作装置が所定時間以上にわたって中立位置になっていることという前記操作装置に関する条件を含み、前記操作装置が中立位置になっている時間が前記所定時間未満であれば、前記操作装置に関する条件は満たされない、
作業機械用周辺監視システム。
【請求項5】
作業機械の周辺の所定範囲に存在する監視対象を検知する検知部と、
前記検知部の検知結果に基づき、前記作業機械の状態を、第1状態又は第2状態に切り換える制御部と、を備え、
前記第1状態は、前記作業機械の操作が有効な状態であり、
前記第2状態は、前記作業機械の操作が無効な状態であり、
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で所定の条件が満たされた場合に前記作業機械の状態を前記第1状態に戻し、
前記所定の条件は、前記所定範囲での前記監視対象の非検知と、前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることと、を含み、
前記作業機械が動き出さない状態が確保されていることは、所定の解除操作が行われたことを含む、
作業機械用周辺監視システム。
【請求項6】
前記所定の解除操作は、急に動き出さないことの確認を促す表示が行われている状態での解除操作、又は、急に動き出さない状態が確保された状態での解除操作、を含む、
請求項5に記載の作業機械用周辺監視システム。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記制御部は、前記作業機械の周辺に存在する前記監視対象が検知されて前記作業機械の状態が前記第2状態となっているときに、前記監視対象の画像が含まれた撮像画像をディスプレイに表示させ、或いは、検知方向に対応する方向から音声で報知する、
請求項1、4、5、又は6の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。
【請求項9】
前記制御部は、前記作業機械の状態が前記第2状態となっているときに、前記第2状態となっていることを伝える情報を報知し、或いは、前記第2状態を解除する方法を報知する、
請求項1、4、5、6、又は8の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記第2状態が解除されたときに、前記第2状態が解除されたことを報知する、
請求項1、4、5、6、8、又は9の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。
【請求項11】
前記制御部は、前記作業機械の状態を前記第2状態に切り換えた後で、前記所定の条件が満たされた場合、前記第1状態に戻すまでの待ち時間が存在することを報知し、或いは、所定時間の経過の後に、前記第1状態に戻す、
請求項1、4、5、6、8、9、又は10の何れかに記載の作業機械用周辺監視システム。
【請求項12】
前記第1状態に戻すまでの待ち時間が存在することの報知は、前記待ち時間のカウントダウンをディスプレイに表示させ、或いは、前記待ち時間中に警報を出力している場合には前記待ち時間の経過と共に該警報の音量を徐々に小さくすることによる、
請求項11に記載の作業機械用周辺監視システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-11 
出願番号 特願2018-122781(P2018-122781)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (E02F)
P 1 652・ 113- YAA (E02F)
P 1 652・ 537- YAA (E02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 秦野 孝一郎  
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 西田 秀彦
住田 秀弘
登録日 2019-07-12 
登録番号 特許第6553255号(P6553255)
権利者 住友重機械工業株式会社
発明の名称 作業機械用周辺監視システム  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ