• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H05B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
管理番号 1376719
異議申立番号 異議2020-700793  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-14 
確定日 2021-06-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6689434号発明「感光性樹脂組成物,有機EL素子隔壁,及び有機EL素子」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6689434号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 特許第6689434号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6689434号の請求項1?請求項10に係る特許(以下,それぞれ「本件特許1」から「本件特許10」といい,総称して「本件特許」という。)についての出願は,令和元年5月27日(先の出願に基づく優先権主張 平成31年2月6日)を出願日とし,令和2年4月9日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について,令和2年4月28日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である令和2年10月14日に,特許業務法人朝比奈特許事務所(以下「特許異議申立人」という。)から,全請求項に対して特許異議の申立てがされた(異議2020-700793号,以下「本件事件」という。)。
本件事件についての,その後の手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
令和3年1月22日付け:取消理由通知書
令和3年3月 5日付け:訂正請求書
令和3年3月 5日付け:意見書(特許権者)
令和3年4月20日付け:意見書(特許異議申立人)

第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨
令和3年3月5日付け訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は,特許第6689434号の特許請求の範囲を,本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?請求項10について訂正することを求める,というものである。

2 訂正の内容
(1) 訂正事項
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は,次のとおりである(以下「訂正事項」という。)。なお,下線は訂正箇所を示す。
訂正事項:
特許請求の範囲の請求項1に,「分子量が270?4000であり,フェノール性水酸基当量が80?155である,フェノール性水酸基を有する化合物(B)」と記載されているのを,「分子量が270?1500であり,フェノール性水酸基当量が80?155である,フェノール性水酸基を有する化合物(B)」に訂正する。請求項1の記載を引用して記載された請求項2?請求項10についても,同様に訂正する。

(2) 一群の請求項について
本件訂正請求は,一群の請求項である請求項1?請求項10に対してされたものである。

3 訂正の適否
(1) 訂正の目的
訂正事項による訂正は,請求項1に記載された「フェノール性水酸基を有する化合物(B)」の「分子量」の上限値を,「4000」から「1500」に変更することによって、その分子量の範囲を狭めるものである。そして,この点は,請求項1の記載を引用して記載された請求項2?請求項10についてみても,同じである。
そうしてみると,訂正事項による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的とするものに該当する。

(2) 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であること
訂正事項による訂正は,願書に添付した明細書の【0179】【表2-1】に記載された「SN395-CL」(1,6-ナフタレンジオールとビス(メトキシメチル)ベンゼンを縮合させて得られる,重量平均分子量1500,フェノール性水酸基当量123の樹脂と考えられる。)に基づくものである。また,本件特許の明細書の【0119】には「フェノール性水酸基を有する化合物(B)」の「分子量(重量平均分子量)」の好ましい範囲が記載され,続いて【0120】には「フェノール性水酸基を有する化合物(B)」の好ましい種類が列挙されている。そうしてみると,上記「1500」という分子量が特定の樹脂(SN395-CL)についてのものであるとしても,これを請求項1に記載された「フェノール性水酸基を有する化合物(B)」の選択肢の範囲に敷衍して考えることができる。
したがって,訂正事項による訂正は,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるから,訂正事項による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。

(3) 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正に該当しないこと
訂正事項による訂正は,請求項1に記載された「フェノール性水酸基を有する化合物(B)」の「分子量」の範囲を狭くする訂正である。
そうしてみると,訂正事項による訂正によって,訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとはならない。
したがって,訂正事項による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正に該当しない。

4 まとめ
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって,結論に記載のとおり,特許第6689434号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり,本件訂正請求は認められることとなった。
そうしてみると,本件特許の請求項1?請求項10に係る発明(以下,請求項の番号とともに「本件特許発明1」などといい,総称して「本件特許発明」という。)は,特許請求の範囲の請求項1?請求項10に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
バインダー樹脂(A),
分子量が270?1500であり,フェノール性水酸基当量が80?155である,フェノール性水酸基を有する化合物(B),
感放射線化合物(C),及び
黒色染料及び黒色顔料からなる群より選択される着色剤(D)
を含み,
前記バインダー樹脂(A)が,
(a)式(1)
【化1】

(式(1)において,R^(1),R^(2)及びR^(3)は,それぞれ独立して水素原子,炭素原子数1?5のアルキル基,式(2)
【化2】

(式(2)において,R^(6),R^(7),R^(8),R^(9)及びR^(10)は,それぞれ独立して水素原子,炭素原子数1?5のアルキル基,炭素原子数5?10のシクロアルキル基又は炭素原子数6?12のアリール基であり,式(2)の*は,芳香環を構成する炭素原子との結合部を表す。)で表されるアルケニル基,炭素原子数1?2のアルコキシ基又は水酸基であり,かつR^(1),R^(2)及びR^(3)の少なくとも1つは式(2)で表されるアルケニル基であり,Qは式-CR^(4)R^(5)-で表されるアルキレン基,炭素原子数5?10のシクロアルキレン基,芳香環を有する2価の有機基,脂環式縮合環を有する2価の有機基又はこれらを組み合わせた2価基であり,R^(4)及びR^(5)は,それぞれ独立して水素原子,炭素原子数1?5のアルキル基,炭素原子数2?6のアルケニル基,炭素原子数5?10のシクロアルキル基又は炭素原子数6?12のアリール基である。)
の構造単位を有するポリアルケニルフェノール樹脂,
(b)式(3)
【化3】

(式(3)において,R^(11)は水素原子又は炭素原子数1?5のアルキル基であり,aは1?4の整数,bは1?4の整数であり,a+bは2?5の範囲内であり,R^(12)は水素原子,メチル基,エチル基及びプロピル基からなる群より選択される少なくとも1種である。)
で表される構造単位を有するヒドロキシポリスチレン樹脂誘導体,
(c)エポキシ基及びフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂,及び
(d)アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ水溶液可溶性共重合体
からなる群より選択される少なくとも1種であり,
前記フェノール性水酸基を有する化合物(B)が,フェノールノボラック樹脂,ナフタレンジオール型フェノール樹脂,サリチルアルデヒド型フェノール樹脂,トリフェニルメタン型フェノール樹脂,及びビフェニルアラルキル型フェノール樹脂から選択される少なくとも1つであり,但し,前記フェノール性水酸基を有する化合物(B)がオリゴマー又はポリマーである場合,前記分子量は重量平均分子量を意味する,有機EL素子隔壁用感光性樹脂組成物。

【請求項2】
前記バインダー樹脂(A),前記フェノール性水酸基を有する化合物(B),前記感放射線化合物(C)及び前記着色剤(D)の合計100質量部を基準として,0.1質量部?20質量部の前記フェノール性水酸基を有する化合物(B)を含む,請求項1に記載の感光性樹脂組成物。

【請求項3】
前記感放射線化合物(C)が,キノンジアジド化合物,スルホニウム塩,ホスホニウム塩,ジアゾニウム塩,及びヨードニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の光酸発生剤である,請求項1又は2のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。

【請求項4】
前記バインダー樹脂(A)がアルカリ可溶性官能基を有する,請求項1?3のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。

【請求項5】
前記バインダー樹脂(A),前記フェノール性水酸基を有する化合物(B),前記感放射線化合物(C)及び前記着色剤(D)の合計100質量部を基準として,1質量部?70質量部の前記着色剤(D)を含む,請求項1?4のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。

【請求項6】
前記バインダー樹脂(A),前記フェノール性水酸基を有する化合物(B),前記感放射線化合物(C)及び前記着色剤(D)の合計100質量部を基準として,5質量部?50質量部の前記感放射線化合物(C)としての光酸発生剤を含む,請求項1?5のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。

【請求項7】
前記感光性樹脂組成物の硬化被膜の光学濃度(OD値)が膜厚1μmあたり0.5以上である,請求項1?6のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。

【請求項8】
前記バインダー樹脂(A)が,
(c)エポキシ基及びフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂,及び
(d)アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ水溶液可溶性共重合体
からなる群より選択される少なくとも1種を含有する,請求項1?7のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。

【請求項9】
請求項1?8のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物を含む有機EL素子隔壁。

【請求項10】
請求項1?8のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物を含む有機EL素子。」

第4 当合議体が通知した取消しの理由
令和3年1月22日付け取消理由通知書において当合議体が通知した取消しの理由は,以下のとおりである。
理由1:(新規性進歩性)本件特許の請求項1?請求項10に係る発明は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。また,本件特許の請求項1?請求項10に係る発明は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び周知技術に基づいて,先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,請求項1?請求項10に係る特許は,特許法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。
甲1:国際公開第2018/186494号

第5 当合議体の判断
1 甲1の記載及び甲1発明
(1) 甲1の記載
甲1(国際公開第2018/186494号)は,先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は,感光性樹脂組成物に関する。特に,高感度の黒色ポジ型感光性樹脂組成物,それを用いた有機EL表示素子の隔壁又は絶縁膜に関する。
…省略…
発明が解決しようとする課題
[0007] しかしながら,特許文献1に記載される感放射線性樹脂組成物では,硬化膜の遮光性を十分高めるために,着色剤を相当量使用する必要がある。
…省略…
[0008] 特許文献2に記載される感放射線性樹脂組成物では,遮光性については全光線透過率のみ記載しているだけであり,色相については記載されていない。
…省略…
[0010] 本発明は,上記のような事情に基づいてなされたものであり,その目的は,黒色の感光性樹脂組成物でありながら,例えば通常使用している露光条件下でも使用可能な高感度の感光性樹脂組成物を提供することである。」

イ 「[0023] 以下に本発明について詳細に説明する。
[0024](A)バインダー樹脂
本発明の感光性樹脂組成物において使用する,バインダー樹脂(A)としては,特に限定されないが,アルカリ可溶性官能基を有し,アルカリ可溶性であることが好ましい。
…省略…
[0025] アルカリ可溶性の樹脂としては,下記のアルカリ可溶性基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(a1),エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(a2)(「成分(a2)」ともいう),その他のアルカリ可溶性樹脂(a3)(「成分(a3)」ともいう)を使用することができる。
…省略…
[0026](a1)アルカリ可溶性基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体
本発明のバインダー樹脂(A)としては,アルカリ可溶性基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(a1)を含むことが好ましい。該共重合体(a1)のアルカリ可溶性基としては,カルボキシル基,アルコール性水酸基,フェノール性水酸基,スルホ基,リン酸基,酸無水物基等を挙げることができる。
…省略…
[0032] アルカリ可溶性基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(a1)の重量平均分子量(Mw)は,5,000?80,000であり,6,000?70,000であることが好ましく,7,000?60,000であることがより好ましい。
…省略…
[0036](a2)エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂
本発明のバインダー樹脂(A)として,エポキシ基とフェノール性水酸基とを有するアルカリ可溶性樹脂も挙げられる。該アルカリ可溶性樹脂は,例えば,1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(以下,「エポキシ化合物」と表記することがある。)のエポキシ基と,ヒドロキシ安息香酸類のカルボキシル基を反応させることで得ることができる。
…省略…
[0051] 前記のエポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(a2)の数平均分子量は,500?8000の範囲が好ましく,1000?6000の範囲であることがより好ましく,1500?4000の範囲であることがさらに好ましい。分子量が500以上であれば,アルカリ水溶液への溶解性が適切なため感光性材料の樹脂として良好であり,分子量が8000以下であれば,塗布性及び現像性が良好である。
[0052](a3)その他のアルカリ可溶性樹脂
その他のアルカリ可溶性樹脂(a3)としては,例えば,フェノールノボラック樹脂,クレゾールノボラック樹脂,トリフェニルメタン型フェノール樹脂,フェノールアラルキル樹脂,ビフェニルアラルキルフェノール樹脂,フェノール-ジシクロペンタジエン共重合体樹脂等の公知のフェノール樹脂が挙げられる。これらの水酸基をアルケニルエーテル化し,さらにアルケニルエーテル基をクライゼン転位することにより得られるポリアルケニルフェノール樹脂をバインダー樹脂(A)として用いてもよい。
…省略…
[0060] フェノール性水酸基を有する芳香族ビニル化合物は,p-ヒドロキシスチレン及びm-ヒドロキシスチレンが好ましく用いられる。
[0061] 本発明の感光性樹脂組成物のバインダー樹脂(A)として,前記ヒドロキシポリスチレン樹脂誘導体を用いる場合,好ましい数平均分子量は,1000?20000の範囲であって,3000?10000の範囲であることがより好ましい。分子量が1000以上の場合は,アルカリ溶解性が適度であるため感光性材料の樹脂として適しており,分子量が20000以下の場合は塗布性及び現像性が良好である。
…省略…
[0064](B)フェノール性水酸基を3つ以上有するフェノール化合物(3価以上のフェノール化合物)のキノンジアジド付加体
本発明の感光性樹脂組成物は,感放射線化合物として,3価以上のフェノール化合物のキノンジアジド付加体を含有する。
…省略…
[0075](C)黒色着色剤
本発明の黒色着色剤としては,例えば,ソルベントブラック27?47のカラーインデックス(C.I.)で規定される黒色染料(c1)を使用することができる。黒色染料は,好ましくは,ソルベントブラック27,29又は34のC.I.で規定されるものである。
…省略…
[0077] 本発明の黒色着色剤として,黒色顔料(c2)を使用することもできる。
…省略…
[0082](任意成分)
本発明の感光性樹脂組成物は,任意成分として,分散剤,その他の着色剤,熱硬化剤,界面活性剤,溶媒等を添加することができる。なお,任意成分は(A)?(C)のいずれにも当てはまらないものと定義する。
[0083](D)分散剤
チタンブラック等の顔料を分散させるために,分散剤を使用することも可能である。
…省略…
[0085](E)その他の着色剤
本発明の感光性樹脂組成物は,さらに任意成分として,その他の着色剤を含有することができる。
…省略…
[0088](F)熱硬化剤
本発明の感光性樹脂組成物に熱硬化剤を含有することが,加熱により組成物を硬化させることができるため好ましい。
…省略…
[0090](G)界面活性剤
本発明の感光性樹脂組成物は,さらに任意成分として,例えば塗布性を向上させるため,あるいは塗膜の現像性を向上させるために,界面活性剤を含有することができる。
…省略…
[0092](H)溶媒
本発明の感光性樹脂組成物は,溶媒に溶解されて溶液状態で用いられることが,基材への塗布性の面で好ましい。
…省略…
[0094][感光性樹脂組成物の調製方法]
本発明の感光性樹脂組成物は,前記のバインダー樹脂(A),キノンジアジド化合物(B),黒色着色剤(C),及び必要に応じてその他の成分を前記の溶媒に溶解又は分散して混合することにより調製することができる。
…省略…
[0095][顔料分散液の製造方法]
顔料を混合する際は,前記のバインダー樹脂(A)及びキノンジアジド化合物(B)と混合する前に顔料を溶媒に分散させておくことが好ましい。顔料分散液は,顔料,溶媒,及び必要に応じて分散剤を混合することで製造できる。
…省略…
[0100][パターン形成・硬化方法]
本発明の感光性樹脂組成物を,例えば,ポジ型の放射線リソグラフィー用に使用する場合,まず,溶媒に溶かした本発明の感光性樹脂組成物を基板表面に塗布し,加熱等の手段により溶媒を除去して,塗膜を形成することができる。
…省略…
[0101] 溶媒に溶かした本発明の感光性樹脂組成物を基板表面に塗布した後,通常,加熱(プリベーク)により溶媒を乾燥して塗膜とする。
…省略…
[0102] 次にプリベークされた塗膜に所定パターンのマスクを介して放射線(例えば,可視光線,紫外線,遠紫外線等)等を照射(露光工程)した後,現像液により現像し,不要な部分を除去して所定パターン状塗膜を形成する(現像工程)。
…省略…
[0103] 現像液としては,例えば…省略…テトラメチルアンモニウムヒドロキシド…省略…等のアルカリ類の水溶液を用いることができる。…省略…現像後,流水洗浄を30?90秒間行い,不要な部分を除去し,圧縮空気や圧縮窒素で風乾させることによって,パターンが形成される。その後このパターンを,ホットプレート,オーブン等の加熱装置により,所定温度例えば120?350℃で,20?200分間加熱処理をすることによって塗膜を得ることができるが,温度を段階的に上げてもよい(加熱処理工程)。
[0104] 本発明は,(1)前記の感光性樹脂組成物を溶媒に溶かし,これを基材に塗布する塗布工程,(2)塗布された感光性樹脂組成物中の溶媒を除去する乾燥工程,(3)放射線をフォトマスク越しに照射する露光工程,(4)アルカリ現像によりパターン形成する現像工程,及び(5)100?350℃の温度で加熱する加熱処理工程を含む放射線リソグラフィー構造物の製造方法を採用することができる。この方法は,例えば,有機EL素子の隔壁及び絶縁膜の形成に用いることができる。
[0105] 本発明は,前記感光性樹脂組成物の硬化物からなる有機EL素子の隔壁を得ることができる。
[0106] 本発明は,前記感光性樹脂組成物の硬化物からなる有機EL素子の絶縁膜を得ることができる。
[0107] 本発明は,前記感光性樹脂組成物の硬化物を含む有機EL素子を得ることができる。」

ウ 「実施例
[0108] 以下,実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが,本発明はこの実施例に限定されない。
[0109](1)バインダー樹脂の合成
[製造例1]アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(成分a1-1)の製造
4-ヒドロキシフェニルメタクリレート(昭和電工株式会社製「PQMA」)76.8g,N-シクロヘキシルマレイミド(株式会社日本触媒製)28.8g,重合開始剤としてV-601(和光純薬工業株式会社製)1.80g,RAFT剤としてS-ドデシル-S’-(α,α’-ジメチル-α”-酢酸)トリチオカルボナート(シグマアルドリッチ製「723010」)1.92gを,1-メトキシ-2-プロピルアセテート(株式会社ダイセル製)180gに完全に溶解させた。得られた溶液を,500mLの3つ口型フラスコ中,窒素ガス雰囲気下で85℃に加熱した1-メトキシ-2-プロピルアセテート(株式会社ダイセル製)180gに2時間かけて滴下し,その後85℃で3時間反応させた。室温まで冷却した反応溶液を1200gのトルエン中に滴下し,重合体を沈殿させた。沈殿した重合体をろ過により回収し,80℃で15時間真空乾燥し薄黄色の粉体を104.4g回収した。これをγ-ブチロラクトンに溶解し,固形分20質量%の樹脂液を得た(樹脂液a1-1)。得られた反応物の数平均分子量は12400,重量平均分子量は21100であった。
[0110][製造例2]アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(成分a1-2)の製造
4-ヒドロキシフェニルメタクリレート(昭和電工株式会社製「PQMA」)102.4g,N-シクロヘキシルマレイミド(株式会社日本触媒製)38.4g,重合開始剤としてV-601(和光純薬工業株式会社製)3.54g,RAFT剤としてS-ドデシル-S’-(α,α’-ジメチル-α”-酢酸)トリチオカルボナート(シグマアルドリッチ製「723010」)7.58gを,1-メトキシ-2-プロピルアセテート(株式会社ダイセル製)240gに完全に溶解させた。得られた溶液を,500mLの3つ口型フラスコ中,窒素ガス雰囲気下で85℃に加熱した1-メトキシ-2-プロピルアセテート(株式会社ダイセル製)240gに2時間かけて滴下し,その後85℃で3時間反応させた。室温まで冷却した反応溶液を1800gのトルエン中に滴下し,重合体を沈殿させた。沈殿した重合体をろ過により回収し,80℃で15時間真空乾燥し薄黄色の粉体を129.7g回収した。これをγ-ブチロラクトンに溶解し,固形分20質量%の樹脂液を得た(樹脂液a1-2)。得られた反応物の数平均分子量は7500,重量平均分子量は11300であった。
[0111][製造例3]アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(成分a1-3)の製造
4-ヒドロキシフェニルメタクリレート(昭和電工株式会社製「PQMA」)33.0g,N-シクロヘキシルマレイミド(株式会社日本触媒製)9.29g,重合開始剤としてV-601(和光純薬工業株式会社製)4.31gを,1-メトキシ-2-プロピルアセテート(株式会社ダイセル製)108gに完全に溶解させた。得られた溶液を,500mLの3つ口型フラスコ中,窒素ガス雰囲気下で85℃に加熱した1-メトキシ-2-プロピルアセテート(株式会社ダイセル製)72.0gに2時間かけて滴下し,その後85℃で5時間反応させた。室温まで冷却した反応溶液を960gのトルエン中に滴下し,重合体を沈殿させた。沈殿した重合体をろ過により回収し,90℃で9時間真空乾燥し白色の粉体を37.8g回収した。これをγ-ブチロラクトンに溶解し,固形分20質量%の樹脂液を得た(樹脂液a1-3)。得られた反応物の数平均分子量は7400,重量平均分子量は14100であった。
[0112][製造例4]エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(成分a2-1)の製造
300mLの3つ口型フラスコに溶剤としてγ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)60g,1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物としてEPICLON(登録商標)N-695(DIC株式会社製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂,エポキシ当量210)を42g仕込み,窒素ガス雰囲気下,60℃で溶解させた。そこへヒドロキシ安息香酸類として3,5-ジヒドロキシ安息香酸(和光純薬工業株式会社製)を15.5g(0.10mol,エポキシ1当量に対して0.5当量),反応触媒としてトリフェニルホスフィン(北興化学工業株式会社製)を0.2g(0.76mmol)追加し,110℃で12時間反応させた。反応溶液を室温に戻し,γ-ブチロラクトンで固形分20質量%に希釈し,溶液をろ過して260g回収した(樹脂液a2-1)。得られた反応物の数平均分子量は2400,重量平均分子量は5600であった。
[0113][製造例5]エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(成分a2-2)の製造
3,5-ジヒドロキシ安息香酸(和光純薬工業株式会社製)を21.7g(0.14mol,エポキシ1当量に対して0.7当量)使用し,110℃で24時間反応させた以外は製造例4と同様の方法で樹脂液a2-2を得た。得られた反応物の数平均分子量は3200,重量平均分子量は9000であった。
[0114][製造例6]エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(成分a2-3)の製造
1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物としてEPICLON(登録商標)N-770(DIC株式会社製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂,エポキシ当量188)を37.6g,3,5-ジヒドロキシ安息香酸(ハイケム株式会社製)を20.1g(0.13mol,エポキシ1当量に対して0.65当量)使用し,110℃で24時間反応させた以外は製造例4と同様の方法で樹脂液a2-3を得た。得られた反応物の数平均分子量は2400,重量平均分子量は8300であった。
…省略…
[0116](2)原料
(A)バインダー樹脂
(A)バインダー樹脂として,製造例1?6により合成した樹脂液a1-1?a1-3,a2-1?a2-3,及びノボラックフェノール樹脂BRG-558(アイカSDKフェノール株式会社製)をγ-ブチロラクトンで固形分20質量%に調整した樹脂液x1を使用した。
[0117] (A)バインダー樹脂以外の材料を表1に示す。使用する(B)キノンジアジド付加体において,3価以上のフェノール化合物のフェノール性水酸基と置換したナフトキノンジアジドスルホンスルホネート基(DNQ)の割合を表2に示す。ここで,表1及び表2において,フェノール化合物のフェノール性水酸基の内の1つがDNQで置換されたものを「B1」,2つがDNQで置換されたものを「B2」,3つがDNQで置換されたものを「B3」,無置換のものを「B0」と表記する。
[0118]
[表1]

[0119]
[表2]

[0120](3)ポジ型感光性樹脂組成物の調製及び評価
[実施例1]
樹脂液a2-2を20g(固形分4g),樹脂液a1-1を5.0g(固形分1.0g),樹脂液a1-2を9.0g(固形分1.8g)及び樹脂液x1を1.0g(固形分0.2g)混合,溶解し,キノンジアジド化合物としてTS-100Gを15g,黒色着色剤としてVALIFAST(登録商標) BLACK 3804を4.3g,及び界面活性剤としてサーフロン(登録商標)S-386を0.022g加え,さらに混合を行った。溶解を目視で確認した後,孔径0.22μmのメンブレンフィルターで濾過し,固形分濃度12質量%のポジ型感光性樹脂組成物を調製した。
…省略…
[0126][表3-1]

[表3-2]

[0127] 表3に示された結果から,調製された感光性樹脂組成物を用いた実施例1?8においては,アルカリ現像性,パターン形成性及びOD値の全ての点がバランスよく優れていることが分かった。
…省略…
産業上の利用可能性
[0128] 本発明の黒色感光性樹脂組成物は高感度であるため,例えば,ポジ型の放射線リソグラフィーに好適に利用することができる。本発明の黒色感光性樹脂組成物から形成された隔壁及び絶縁膜を備えた有機EL素子は,良好なコントラストを示す表示装置の電子部品として好適に使用される。」

(2) 甲1発明
甲1の[0120]には,実施例1の「ポジ型感光性樹脂組成物」が記載されている。
ここで,[0120]に記載の「樹脂液a2-2」とは,[0113]に記載の「エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(重量平均分子量は9000)」の「固形分20質量%」([0112])の「樹脂液」のことである(当合議体注:事案に鑑みて,製造工程等の詳細は省略する。以下同様。)。また,[0120]に記載の「樹脂液a1-1」とは,[0109]に記載の「アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(重量平均分子量は21100)」の「固形分20質量%の樹脂液」のことであり,[0120]に記載の「樹脂液a1-2」とは,[0110]に記載の「アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(重量平均分子量は11300)」の「固形分20質量%の樹脂液」のことである。さらに,[0120]に記載の「樹脂液x1」とは,[0116]に記載のものであるところ,これは要するに,[0109]?[0114]の記載からみて,3種類の「アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(重量平均分子量は21100,11300及び14100)」及び3種類の「エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(重量平均分子量は5600,9000及び8300)」並びに「ノボラックフェノール樹脂BRG-558」の「固形分20質量%」の「樹脂液」のことである。
加えて,[0118][表1]の記載からみて,[0120]に記載の「TS-100G」は,「α,α,α-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼンの1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸エステル」の「固形分20質量%」の「溶液」のことであり,「VALIFAST(登録商標) BLACK 3804」は,「ソルベントブラック34のC.I.で規定される黒色染料」のことである。
そして,甲1の[0128]の「本発明の黒色感光性樹脂組成物から形成された隔壁及び絶縁膜を備えた有機EL素子は,良好なコントラストを示す表示装置の電子部品として好適に使用される。」という記載からみて,実施例1の「ポジ型感光性樹脂組成物」は,有機EL素子の隔壁及び絶縁膜を形成するのに適したものである。
以上勘案すると,甲1には,次の「ポジ型感光性樹脂組成物」の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。
「 樹脂液a2-2を20g(固形分4g),樹脂液a1-1を5.0g(固形分1.0g),樹脂液a1-2を9.0g(固形分1.8g)及び樹脂液x1を1.0g(固形分0.2g)混合,溶解し,キノンジアジド化合物としてTS-100Gを15g,黒色着色剤としてVALIFAST(登録商標) BLACK 3804を4.3g,及び界面活性剤としてサーフロン(登録商標)S-386を0.022g加え,さらに混合を行い,孔径0.22μmのメンブレンフィルターで濾過して調製した,固形分12質量%のポジ型感光性樹脂組成物であって,
ここで,
樹脂液a2-2は,エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(重量平均分子量は9000)の固形分20質量%の樹脂液であり,
樹脂液a1-1は,アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(重量平均分子量は21100)の固形分20質量%の樹脂液であり,
樹脂液a1-2は,アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(重量平均分子量は11300)の固形分20質量%の樹脂液であり,
樹脂液x1は,3種類のアルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(重量平均分子量は21100,11300及び14100)及び3種類のエポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(重量平均分子量は5600,9000及び8300)並びにノボラックフェノール樹脂BRG-558の固形分20質量%の樹脂液であり,
TS-100Gは,α,α,α-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼンの1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸エステルの固形分20質量%の溶液であり,
VALIFAST(登録商標) BLACK 3804は,ソルベントブラック34のC.I.で規定される黒色染料であり,
有機EL素子の隔壁及び絶縁膜を形成するのに適した,
ポジ型感光性樹脂組成物。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると,以下のとおりである。
ア バインダー樹脂(A)
甲1発明の「ポジ型感光性樹脂組成物」は,「樹脂液a2-2を20g(固形分4g),樹脂液a1-1を5.0g(固形分1.0g),樹脂液a1-2を9.0g(固形分1.8g)及び樹脂液x1を1.0g(固形分0.2g)」を含む。また,「樹脂液a2-2は,エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(重量平均分子量は9000)の固形分20質量%の樹脂液であり」,「樹脂液a1-1は,アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(重量平均分子量は21100)の固形分20質量%の樹脂液であり」,「樹脂液a1-2は,アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(重量平均分子量は11300)の固形分20質量%の樹脂液であり」,「樹脂液x1は,3種類のアルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体(重量平均分子量は21100,11300及び14100)及び3種類のエポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂(重量平均分子量は5600,9000及び8300)並びにノボラックフェノール樹脂BRG-558の固形分20質量%の樹脂液であ」る。
ここで,上記各樹脂液に含まれる樹脂が,バインダー樹脂として機能することは,技術的にみて明らかである(甲1の[0116]及び[0126][表3-1]においても,これら樹脂液を「(A)バインダー樹脂」に分類している。)。また,甲1発明の「エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂」及び「アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体」は,いずれもその文言が意味するとおりの重合体である。
そうしてみると,甲1発明の「エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂」,「アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体」及び「ノボラックフェノール樹脂BRG-558」は,いずれも本件特許発明1の「バインダー樹脂(A)」に相当する。また,甲1発明の「エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂」及び「アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ可溶性共重合体」は,それぞれ本件特許発明1の「(c)エポキシ基及びフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂」及び「(d)アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ水溶液可溶性共重合体」に相当する。そして,甲1発明の「ポジ型感光性樹脂組成物」は,本件特許発明1の「有機EL素子隔壁用感光性樹脂組成物」における,「前記バインダー樹脂(A)が」,「(a)式(1)」,「(b)式(3)」,「(c)エポキシ基及びフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂,及び」「(d)アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ水溶液可溶性共重合体」「からなる群より選択される少なくとも1種であり」という要件を満たす。

イ 感放射線化合物(C)
甲1発明の「ポジ型感光性樹脂組成物」は,「キノンジアジド化合物としてTS-100G」,すなわち「α,α,α-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼンの1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸エステル」を含む。
ここで,上記化合物のうち、「1,2-ナフトキノンジアジド」の部分が、紫外光の露光によりインデンケテン(1-カルボニル-1H-インデン)となることは技術常識である(甲1の[0066]及び[0067][化15]にも記載されている。)。
そうしてみると,甲1発明の「TS-100G」は,本件特許発明1の「感放射線化合物(C)」に相当する。

ウ 着色剤(D)
甲1発明の「ポジ型感光性樹脂組成物」は,「黒色着色剤としてVALIFAST(登録商標) BLACK 3804」,すなわち「ソルベントブラック34のC.I.で規定される黒色染料」を含む。
そうしてみると,甲1発明の「VALIFAST(登録商標) BLACK 3804」は,本件特許発明1の「着色剤(D)」に相当するとともに,「黒色染料及び黒色顔料からなる群より選択される」という要件を満たす。

エ 感光性樹脂組成物
甲1発明の「ポジ型感光性樹脂組成物」は,「有機EL素子の隔壁及び絶縁膜を形成するのに適した」ものである。
そうしてみると,甲1発明の「ポジ型感光性樹脂組成物」は,本件特許発明1の「有機EL素子隔壁用」とされる,「感光性樹脂組成物」に相当する。加えて,前記ア?ウの対比結果を踏まえると,甲1発明の「ポジ型感光性樹脂組成物」と本件特許発明1の「感光性樹脂組成物」は,「バインダー樹脂(A)」,「感放射線化合物(C),及び」「着色剤(D)」「を含」む点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1発明は,次の構成で一致する。
「 バインダー樹脂(A),
感放射線化合物(C),及び
黒色染料及び黒色顔料からなる群より選択される着色剤(D)
を含み,
前記バインダー樹脂(A)が,
(a)式(1)
【化1】

(式(1)において,R^(1),R^(2)及びR^(3)は,それぞれ独立して水素原子,炭素原子数1?5のアルキル基,式(2)
【化2】

(式(2)において,R^(6),R^(7),R^(8),R^(9)及びR^(10)は,それぞれ独立して水素原子,炭素原子数1?5のアルキル基,炭素原子数5?10のシクロアルキル基又は炭素原子数6?12のアリール基であり,式(2)の*は,芳香環を構成する炭素原子との結合部を表す。)で表されるアルケニル基,炭素原子数1?2のアルコキシ基又は水酸基であり,かつR^(1),R^(2)及びR^(3)の少なくとも1つは式(2)で表されるアルケニル基であり,Qは式-CR^(4)R^(5)-で表されるアルキレン基,炭素原子数5?10のシクロアルキレン基,芳香環を有する2価の有機基,脂環式縮合環を有する2価の有機基又はこれらを組み合わせた2価基であり,R^(4)及びR^(5)は,それぞれ独立して水素原子,炭素原子数1?5のアルキル基,炭素原子数2?6のアルケニル基,炭素原子数5?10のシクロアルキル基又は炭素原子数6?12のアリール基である。)
の構造単位を有するポリアルケニルフェノール樹脂,
(b)式(3)
【化3】

(式(3)において,R^(11)は水素原子又は炭素原子数1?5のアルキル基であり,aは1?4の整数,bは1?4の整数であり,a+bは2?5の範囲内であり,R^(12)は水素原子,メチル基,エチル基及びプロピル基からなる群より選択される少なくとも1種である。)
で表される構造単位を有するヒドロキシポリスチレン樹脂誘導体,
(c)エポキシ基及びフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂,及び
(d)アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ水溶液可溶性共重合体
からなる群より選択される少なくとも1種である,
有機EL素子隔壁用感光性樹脂組成物。」

イ 相違点
「有機EL素子隔壁用感光性樹脂組成物」が,本件特許発明1は,「分子量が270?1500であり,フェノール性水酸基当量が80?155である,フェノール性水酸基を有する化合物(B)」を含み,かつ「前記フェノール性水酸基を有する化合物(B)」が,「フェノールノボラック樹脂,ナフタレンジオール型フェノール樹脂,サリチルアルデヒド型フェノール樹脂,トリフェニルメタン型フェノール樹脂,及びビフェニルアラルキル型フェノール樹脂から選択される少なくとも1つであり,但し,前記フェノール性水酸基を有する化合物(B)がオリゴマー又はポリマーである場合,前記分子量は重量平均分子量を意味する」という要件を満たすものであるのに対して,甲1発明は,この要件を満たす「フェノール性水酸基を有する化合物(B)」を含むとはいえない点。

(3) 判断
まず,本件特許発明1と甲1発明は,前記(2)イで述べた相違点において相違するから,本件特許発明1は,甲1に記載された発明ということができない。
次に,進歩性について検討する。
甲1発明の「ポジ型感光性樹脂組成物」は,「樹脂液x1」を含み,「樹脂液x1」には,「ノボラックフェノール樹脂BRG-558(アイカSDKフェノール株式会社製)」が含まれる。
ここで,本件特許発明1の「フェノール性水酸基を有する化合物(B)」に関して,本件特許の明細書の【0179】【表2-1】には,次の記載がある。

また,型番(化合物名又は名称)からみて,甲1発明の「ノボラックフェノール樹脂BRG-558(アイカSDKフェノール株式会社製)」は,この表の下から2番目の構造の化合物であると考えられる。
そうしてみると,甲1発明の「ノボラックフェノール樹脂BRG-558(アイカSDKフェノール株式会社製)」は,本件特許発明1の「フェノールノボラック樹脂」に該当する「フェノール性水酸基を有する化合物(B)」ということになる。
しかしながら,甲1発明の「ノボラックフェノール樹脂BRG-558(アイカSDKフェノール株式会社製)」の重量平均分子量は,本件特許の上記表2の記載によると「3000」とされており,本件特許発明の「フェノール性水酸基を有する化合物(B)」における「分子量が270?1500であり」という要件を満たさない。
また,当業者は,本件特許の明細書に記載された知見を参考にして発明をすることができない(公知でない。)。したがって,本件特許の明細書に,甲1発明の「ノボラックフェノール樹脂BRG-558(アイカSDKフェノール株式会社製)」の重量平均分子量が3000であることが記載されているからといって,これを手がかりにして本件特許発明1の「分子量が270?1500であり」という構成に到るとはいえない。
さらにすすんで検討するに,甲1には,甲1発明の「ポジ型感光性樹脂組成物」において,なぜ「ノボラックフェノール樹脂BRG-558(アイカSDKフェノール株式会社製)」が用いられているのかを説明する記載がない。また,甲1には,甲1発明の「ノボラックフェノール樹脂BRG-558(アイカSDKフェノール株式会社製)」がどのような構造の樹脂であるかや,分子量及びフェノール性水酸基当量の値についても記載がない。
このような甲1の記載を考慮すると,たとえ甲1発明に「ノボラックフェノール樹脂BRG-558(アイカSDKフェノール株式会社製)」が含まれているとしても,当業者がこれに着目し,何らかの創意工夫を行うとはいえず,まして,これを本件特許発明1の「分子量が270?1500であり」という要件を満たすものに変更するともいえない。
したがって,本件特許発明1は,たとえ当業者といえども,甲1に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものであるということができない。

(4) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は,甲6(特開2001-64507号公報)等を挙げて,本件特許発明1等は,当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。
しかしながら,前記(3)で述べたとおりである。

3 本件特許発明2?本件特許発明10について
本件特許発明2?本件特許発明8は,本件特許発明1の「感光性樹脂組成物」に対して,さらに他の発明特定事項を付加してなる「感光性樹脂組成物」の発明である。また,本件特許発明9は,本件特許発明1?本件特許発明8のいずれかの感光性樹脂組成物の硬化物を含む有機EL素子隔壁の発明であり,本件特許発明10は,本件特許発明1?本件特許発明8のいずれかの感光性樹脂組成物の硬化物を含む有機EL素子の発明である。
そうしてみると,前記2(3)で述べたのと同様の理由により,本件特許発明2?本件特許発明10も,甲1に記載された発明ということができず,また,たとえ当業者といえども,甲1に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものであるということができない。

第6 取消理由通知書において採用しなかった取消しの理由について
特許異議申立人は,甲3(特開2009-3442号公報)の実施例3(【0184】?【0204】【表1】)の感光性組成物(以下「甲3発明」という。)を引用発明とした,進歩性の取消しの理由を主張している。
しかしながら,甲3発明には,「黒色染料及び黒色顔料からなる群より選択される着色剤(D)」が含まれない。また,甲3の【0007】には,次のとおり記載されている。
「 本発明は,上記従来の実情に鑑みてなされたものであって,リブやスペーサー,オーバーコートと言った,カラー液晶表示装置において電極間に位置する,つまり液晶に隣接している部材を,液晶の電圧保持率等の電気特性に悪影響を与えず,焼き付き等に起因する表示ムラや残像と言った問題を改善すると共に,程よいメルトフローによって好ましい形状に形成することができる感光性樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明はまた,この感光性樹脂組成物を用いて形成された部材を有するカラーフィルター及び画像表示装置を提供するものである。」
そうしてみると,たとえ当業者といえども,甲3発明の「感光性組成物」を「黒色染料及び黒色顔料からなる群より選択される着色剤(D)」を含んでなる「有機EL素子隔壁用感光性樹脂組成物」に変更するとはいえない。
したがって,本件特許発明1は,甲3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
本件特許発明2?本件特許発明10についても,同様である。

第7 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては,請求項1?請求10に係る特許を取り消すことはできない。
よって,結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂(A)、
分子量が270?1500であり、フェノール性水酸基当量が80?155である、フェノール性水酸基を有する化合物(B)、
感放射線化合物(C)、及び
黒色染料及び黒色顔料からなる群より選択される着色剤(D)
を含み、
前記バインダー樹脂(A)が、
(a)式(1)
【化1】

(式(1)において、R^(1)、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、式(2)
【化2】

(式(2)において、R^(6)、R^(7)、R^(8)、R^(9)及びR^(10)は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、炭素原子数5?10のシクロアルキル基又は炭素原子数6?12のアリール基であり、式(2)の*は、芳香環を構成する炭素原子との結合部を表す。)で表されるアルケニル基、炭素原子数1?2のアルコキシ基又は水酸基であり、かつR^(1)、R^(2)及びR^(3)の少なくとも1つは式(2)で表されるアルケニル基であり、Qは式-CR^(4)R^(5)-で表されるアルキレン基、炭素原子数5?10のシクロアルキレン基、芳香環を有する2価の有機基、脂環式縮合環を有する2価の有機基又はこれらを組み合わせた2価基であり、R^(4)及びR^(5)は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、炭素原子数2?6のアルケニル基、炭素原子数5?10のシクロアルキル基又は炭素原子数6?12のアリール基である。)
の構造単位を有するポリアルケニルフェノール樹脂、
(b)式(3)
【化3】

(式(3)において、R^(11)は水素原子又は炭素原子数1?5のアルキル基であり、aは1?4の整数、bは1?4の整数であり、a+bは2?5の範囲内であり、R^(12)は水素原子、メチル基、エチル基及びプロピル基からなる群より選択される少なくとも1種である。)
で表される構造単位を有するヒドロキシポリスチレン樹脂誘導体、
(c)エポキシ基及びフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂、及び
(d)アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ水溶液可溶性共重合体
からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記フェノール性水酸基を有する化合物(B)が、フェノールノボラック樹脂、ナフタレンジオール型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、及びビフェニルアラルキル型フェノール樹脂から選択される少なくとも1つであり、但し、前記フェノール性水酸基を有する化合物(B)がオリゴマー又はポリマーである場合、前記分子量は重量平均分子量を意味する、有機EL素子隔壁用感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂(A)、前記フェノール性水酸基を有する化合物(B)、前記感放射線化合物(C)及び前記着色剤(D)の合計100質量部を基準として、0.1質量部?20質量部の前記フェノール性水酸基を有する化合物(B)を含む、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記感放射線化合物(C)が、キノンジアジド化合物、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、及びヨードニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の光酸発生剤である、請求項1又は2のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記バインダー樹脂(A)がアルカリ可溶性官能基を有する、請求項1?3のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記バインダー樹脂(A)、前記フェノール性水酸基を有する化合物(B)、前記感放射線化合物(C)及び前記着色剤(D)の合計100質量部を基準として、1質量部?70質量部の前記着色剤(D)を含む、請求項1?4のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記バインダー樹脂(A)、前記フェノール性水酸基を有する化合物(B)、前記感放射線化合物(C)及び前記着色剤(D)の合計100質量部を基準として、5質量部?50質量部の前記感放射線化合物(C)としての光酸発生剤を含む、請求項1?5のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
前記感光性樹脂組成物の硬化被膜の光学濃度(OD値)が膜厚1μmあたり0.5以上である、請求項1?6のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項8】
前記バインダー樹脂(A)が、
(c)エポキシ基及びフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂、及び
(d)アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ水溶液可溶性共重合体
からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1?7のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1?8のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物を含む有機EL素子隔壁。
【請求項10】
請求項1?8のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物を含む有機EL素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-11 
出願番号 特願2019-98601(P2019-98601)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H05B)
P 1 651・ 121- YAA (H05B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高橋 純平  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
登録日 2020-04-09 
登録番号 特許第6689434号(P6689434)
権利者 昭和電工株式会社
発明の名称 感光性樹脂組成物、有機EL素子隔壁、及び有機EL素子  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 河原 肇  
代理人 高橋 正俊  
代理人 河原 肇  
代理人 胡田 尚則  
代理人 胡田 尚則  
代理人 高橋 正俊  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ