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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1376736
異議申立番号 異議2020-700752  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-01 
確定日 2021-07-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6676461号発明「粘着テープ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6676461号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 特許第6676461号の請求項1?7及び10に係る特許を維持する。 特許第6676461号の請求項8?9に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6676461号(以下「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成28年5月6日に特願2016-93097号として特許出願され、令和2年3月16日に特許権の設定登録がされ、同年4月8日に特許掲載公報が発行され、その請求項1?10に係る発明の特許に対し、令和2年10月1日に株式会社レクレアル(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、その後の手続の経緯は次のとおりである。
令和3年 1月20日付け 取消理由通知
同年 3月22日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 3月31日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 5月 6日 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和3年3月22日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は「特許第6676461号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1?4からなるものである(訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「ポリ塩化ビニル系基材と、
前記ポリ塩化ビニル系基材の少なくとも一面に形成されるゴム系粘着剤層とを備え、
前記ポリ塩化ビニル系基材及び前記ゴム系粘着剤層は、可塑剤として下記一般式(1)で表されるベンゼンジカルボン酸エステルを含有し、
前記ゴム系粘着剤層は、アルキルフェノール類からなる凝集改質剤を含有する粘着テープ。
【化1】

(式中、ベンゼン核の2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))がオルト位の場合、R^(1)及びR^(2)は炭素数が9以上でありかつ少なくとも1つの第三級炭素原子を含む分岐アルキル基からなり、ベンゼン核の2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))がメタ位又はパラ位の場合、炭素数が8以上でありかつ少なくとも1つの第三級炭素原子を含む分岐アルキル基からなる。なお、2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))は、同一又は互いに異なってもよい。)」との記載を、
「ポリ塩化ビニル系基材と、
前記ポリ塩化ビニル系基材の少なくとも一面に形成されるゴム系粘着剤層とを備え、
前記ポリ塩化ビニル系基材及び前記ゴム系粘着剤層は、可塑剤として下記一般式(1)で表されるベンゼンジカルボン酸エステルを含有し、
該一般式(1)のR^(1)及びR^(2)が、それぞれ、2-エチルヘキシル基またはイソノニル基であり、
該ポリ塩化ビニル系基材中の該可塑剤の含有量が、該ポリ塩化ビニル系基材中の樹脂成分100質量部に対して10質量部以上であり、
該ゴム系粘着剤層中の該可塑剤の含有量が、該ゴム系粘着剤層中のゴム成分100質量部に対して10質量部以上であり、
前記ゴム系粘着剤層は、アルキルフェノール類からなる凝集改質剤を含有し、
該凝集改質剤が、テルペンフェノールおよびロジン変性フェノールから選ばれる少なくとも1種である、
粘着テープ。
【化1】

(式中、ベンゼン核の2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))がオルト位の場合、R^(1)及びR^(2)は炭素数が9以上でありかつ少なくとも1つの第三級炭素原子を含む分岐アルキル基からなり、ベンゼン核の2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))がメタ位又はパラ位の場合、炭素数が8以上でありかつ少なくとも1つの第三級炭素原子を含む分岐アルキル基からなる。なお、2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))は、同一又は互いに異なってもよい。)」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項10の「金属板加工用である請求項1?9の何れか一項に記載の粘着テープ。」との記載を、
訂正後の請求項10の「金属板加工用である請求項1?7の何れか一項に記載の粘着テープ。」との記載に訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の「粘着テープ」について、本件特許明細書の段落0036の「ベンゼンジカルボン酸エステルの分岐アルキル基(R^(1),R^(2))が、2-エチルヘキシル基、イソノニル基」との記載等に基づき、一般式(1)のR^(1)及びR^(2)について、それぞれ、2-エチルヘキシル基またはイソノニル基である点を特定し、同段落0039の「PVC系基材における可塑剤の配合量は…樹脂成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上」との記載等に基づき、ポリ塩化ビニル系基材中の該可塑剤の含有量が、該ポリ塩化ビニル系基材中の樹脂成分100質量部に対して10質量部以上である点を特定し、同段落0079の「可塑剤の配合量の下限値は…ゴム成分100質量部に対して…より好ましくは10質量部以上」との記載等に基づき、ゴム系粘着剤層中の該可塑剤の含有量が、該ゴム系粘着剤層中のゴム成分100質量部に対して10質量部以上である点を特定し、「凝集改質剤」として実施例に用いられた「テルペンフェノール樹脂」(同段落0128)、「ロジン変性フェノール」(同段落0154)等に基づいて、「凝集改質剤」を「テルペンフェノールおよびロジン変性フェノールから選ばれる少なくとも1種」である点を特定するものである。
したがって、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2?4について
訂正事項2は、訂正前の請求項8を削除するものであり、訂正事項3は、訂正前の請求項9を削除するものであり、訂正事項4は、訂正事項2及び3に伴い、訂正前の請求項10が引用する請求項1?9のうち、削除された請求項8?9を引用しない請求項とするものである。
したがって、訂正事項2?4は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであって、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)一群の請求項、及び明細書の訂正と関連する請求項について
訂正事項1?4に係る訂正前の請求項1?10について、その請求項2?10は請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1?10に対応する訂正後の請求項1?10は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。

3.まとめ
以上総括するに、訂正事項1?4による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は容認し得るものであるから、本件訂正による訂正後の請求項1?7及び10に係る発明(項番号に応じて、以下「本1発明」などともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?7及び10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ポリ塩化ビニル系基材と、
前記ポリ塩化ビニル系基材の少なくとも一面に形成されるゴム系粘着剤層とを備え、
前記ポリ塩化ビニル系基材及び前記ゴム系粘着剤層は、可塑剤として下記一般式(1)で表されるベンゼンジカルボン酸エステルを含有し、
該一般式(1)のR^(1)及びR^(2)が、それぞれ、2-エチルヘキシル基またはイソノニル基であり、
該ポリ塩化ビニル系基材中の該可塑剤の含有量が、該ポリ塩化ビニル系基材中の樹脂成分100質量部に対して10質量部以上であり、
該ゴム系粘着剤層中の該可塑剤の含有量が、該ゴム系粘着剤層中のゴム成分100質量部に対して10質量部以上であり、
前記ゴム系粘着剤層は、アルキルフェノール類からなる凝集改質剤を含有し、
該凝集改質剤が、テルペンフェノールおよびロジン変性フェノールから選ばれる少なくとも1種である、
粘着テープ。
【化1】

(式中、ベンゼン核の2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))がオルト位の場合、R^(1)及びR^(2)は炭素数が9以上でありかつ少なくとも1つの第三級炭素原子を含む分岐アルキル基からなり、ベンゼン核の2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))がメタ位又はパラ位の場合、炭素数が8以上でありかつ少なくとも1つの第三級炭素原子を含む分岐アルキル基からなる。なお、2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))は、同一又は互いに異なってもよい。)
【請求項2】
前記アルキルフェノール類の酸価が、11?150である請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項3】
前記ベンゼンジカルボン酸エステルは、粘着テープ中に、10質量%以上50質量%以下含まれている請求項1又は2に記載の粘着テープ。
【請求項4】
粘着テープ中に含まれる前記ベンゼンジカルボン酸エステルに対するアルキルフェノール類の割合(質量比)が、0.0005以上0.1以下である請求項1?3の何れか一項に記載の粘着テープ。
【請求項5】前記ゴム系粘着剤層の厚みtbに対する前記ポリ塩化系ビニル基材の厚みtaの割合(ta/tb)が5以上15以下である請求項1?4の何れか一項に記載の粘着テープ。
【請求項6】
前記ポリ塩化系ビニル基材の厚みtaが、90μm以上110μm以下である請求項1?5の何れか一項に記載の粘着テープ。
【請求項7】
前記ポリ塩化系ビニル基材のJIS-K-7127に従って測定される最大伸びが100%以上である請求項1?6の何れか一項に記載の粘着テープ。
【請求項8】 (削除)
【請求項9】 (削除)
【請求項10】
金属板加工用である請求項1?7の何れか一項に記載の粘着テープ。」

第4 取消理由通知の概要
令和3年1月20日付けの取消理由通知で通知された訂正前の請求項1?10に係る発明に対する取消理由の概要は、次の理由1及び2のとおりである。

〔理由1〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
1.可塑剤について
本件特許の請求項1に記載された「可塑剤として一般式(1)で表されるベンゼンジカルボン酸を含有し」という発明特定事項の広範な範囲について、本件特許明細書の試験結果及び作用機序の記載によっては、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、実施例1?12の試験結果で裏付けられた「DOTP」以外の可塑剤にまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
2.凝集改質剤について
本件特許の請求項1に記載された「アルキルフェノール類からなる凝集改質剤を含有する」という発明特定事項の広範な範囲について、本件特許明細書の試験結果及び作用機序の記載によっては、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、実施例1?12の試験結果で裏付けられた「テルペンフェノール」及び「ロジン変性フェノール」以外の凝集改質剤にまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。

〔理由2〕本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:国際公開第2009/139347号
甲第2号証:特開2016-029161号公報
甲第3号証:国際公開第2014/142192号
甲第4号証:特開2014-201672号公報
甲第5号証:特開2015-20405号公報
甲第6号証:特開2014-233929号公報
甲第7号証:特開昭56-155756号公報
甲第8号証:特開平11-209720号公報
甲第9号証:特開2015-187245号公報
参考文献A:特開2015-187188号公報

第5 当審の判断
1.理由1(サポート要件)について
(1)本件特許発明の解決しようとする課題について
本件特許明細書の段落0007を含む発明の詳細な説明の全ての記載からみて、本件特許の請求項1?7及び10に係る発明の解決しようとする課題は「被着体表面の汚染が抑制された粘着テープの提供」にあるものと認められる。

(2)可塑剤について
本件特許明細書の段落0199には、「各実施例の粘着テープでは、ゴム系粘着剤層中に、凝集改質剤(アルキルフェノール類)が配合されていると、可塑剤の凝集や、ゴム系粘着剤層の特性の不均質化等が抑制され、その結果、上記のように、被着体(SUS板)表面の汚染が抑制されると推測される。」と記載され、同0200には、「各実施例の凝集改質剤は、疎水性であるアルキル基と、親水性であるフェノール水酸基とを併せ持った構造を備えている。そのため、アルキル基がゴム系粘着剤に対して適度な親和性を示すと共に、フェノール水酸基がDOTP等の可塑剤に対して適度な親和性を示すことで、凝集改質剤は、ゴム系粘着剤層中で、DOTP等の可塑剤が凝集することを抑制できるものと推測される。」と記載されている。これらの記載からみて、本1発明において、被着体表面の汚染を抑制することができる作用機序は、「ゴム系粘着剤層」中にゴム系粘着剤と可塑剤の両者に対して適度な親和性を示す「凝集改質剤(アルキルフェノール類)が配合」されることによって、可塑剤の凝集が抑制されて、被着体表面の汚染が抑制されるものであることが認識できる。
そして、本1発明では、可塑剤として「一般式(1)のR^(1)及びR^(2)が、それぞれ、2-エチルヘキシル基またはイソノニル基」であるベンゼンジカルボン酸エステルを含有するものに限定されているところ、汚染防止性があるものであることが確認された「実施例1?12の具体例」において、可塑剤として使用された「DOTP」は、本1発明の一般式(1)のR^(1)及びR^(2)が、パラ位の「2-エチルヘキシル基」という「炭素数が8の第三級炭素原子を含む分岐アルキル基」である場合のものに相当し、また、本1発明の可塑剤はその構造からみて、「DOTP」に構造が類似していて、「凝集改質剤(アルキルフェノール類)」に対して親和性を有するものであるといえることから、上記作用機序に照らし、「可塑剤」の種類が「DOTP」に特定されていなくても、本1発明の「可塑剤」は凝集が抑制され、被着体表面の汚染が抑制され、上記課題を解決するものであることが認識できる。

この点に関して、令和3年5月6日付けの意見書の第3?9頁において、特許異議申立人は、甲第10?13号証を提示して「本件特許出願時の技術常識を踏まえても、…エステル基(…)の置換位置がDOTPと同じくパラ位となっているテレフタル酸エステルの範囲に限られる。」と主張する。
しかしながら、甲第10?13号証の記載によっては、可塑剤のベンゼン核における2つのエステル基の位置が、オルト位(フタル酸エステル系可塑剤)、メタ位(イソフタル酸エステル系可塑剤)、パラ位(テレフタル酸エステル系可塑剤)に分類されることが把握されるにとどまり、可塑剤の「適度な親和性」が、オルト位、メタ位、パラ位の置換位置によって大きく変化するとまでは認識することができないので、上記意見書の主張は採用できない。

なお、令和3年5月6日付けの意見書の第10?11頁において、特許異議申立人は、訂正後の請求項1に追加された「該ゴム系粘着剤層中の該可塑剤の含有量が、該ゴム系粘着剤層中のゴム成分100質量部に対して10質量部以上であり」という事項に関して、本件特許明細書の実施例において課題が解決されることが実証されているものは、可塑剤の含有量が20質量部、40質量部のみであるから、それ以外の含有量についても同様に課題が解決されるとは認識できない旨を主張する。
しかしながら、上述したように、上記作用機序に照らせば、可塑剤の含有量によって可塑剤の凝集の抑制が左右されるものではなく、「20質量部」と「40質量部」以外の含有量にまで拡張ないし一般化できないとすることに合理性はなく、上記意見書の主張は採用できない。

(3)凝集改質剤について
本件特許明細書の段落0193の表1には、ゴム系粘着剤層に用いる凝集改質剤として「テルペンフェノール」を使用した実施例1?9及び11?12と「ロジン変性フェノール」を使用した実施例10の具体例が記載され、これらの汚染防止性の試験結果が「○」であることが示されている。
そして、訂正後の本1発明は、凝集改質剤が「テルペンフェノールおよびロジン変性フェノールから選ばれる少なくとも1種」に限定されている。
してみると、「凝集改質剤」についての取消理由は解消した。

この点に関して、令和3年5月6日付けの意見書の第11?14頁において、特許異議申立人は、甲第14?15号証を提示して「テルペンモノマーとフェノール類の仕込み比率が変われば、アルキル部位とフェノール部位の比率も当然に変わり、ゴム系粘着剤や可塑剤との親和性に影響を及ぼすと当業者は理解する。…あらゆるテルペンフェノールで課題を解決できるとは当業者は認識しないから、本件の特許請求の範囲の記載は、依然としてサポート要件を満たさないものである。」と主張する。
しかしながら、甲第14?15号証に「仕込み比率」の異なる「テルペンフェノール」の存在が記載されているものの、これらの「テルペンフェノール」は「粘着付与樹脂」又は「粘着付与剤」としてのものであって、本1発明の「凝集改質剤」としての「テルペンフェノール」又は「ロジン変性フェノール」とは、技術的に無関係である。
そして、本1発明の「テルペンフェノール」等は「凝集改質剤」としてのものであるから、本件特許明細書の段落0200の「凝集改質剤は、ゴム系粘着剤層中で、DOTP等の可塑剤が凝集することを抑制できる」との記載にある「作用機序」によって、本1発明の課題を解決できると認識できるといえるので、上記意見書の主張は採用できない。

(4)サポート要件のまとめ
以上総括するに、本件特許の請求項1及びその従属項に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは明らかなので、本件特許の請求項1及びその従属項の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合する。

2.理由2(進歩性)について
(1)引用刊行物の記載事項
ア.甲第1号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「[請求項1]塩化ビニル系樹脂組成物からなる基材と、基材の少なくとも片面に形成された粘着剤層とから構成されている粘着フィルムであって、粘着剤層が、
(i)天然ゴム及び/又はスチレン-ブタジエンゴムからなる粘着ベース剤、(ii)天然ゴム及び/又はスチレン-ブタジエンゴムにアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合させたグラフト重合物、および
(iii)軟化剤
を含み、
(A)軟化剤が、粘着剤層を構成する粘着剤に対して0.3?4質量%配合され、
(B)グラフト重合物が、天然ゴム及び/又はスチレン-ブタジエンゴムからなる粘着ベース剤100質量部に対して10?50質量部配合され、
(C)グラフト重合物のムーニー粘度が、JIS K 6300に準拠したムーニー粘度60?90Ms1+4(100℃)である、粘着フィルム。」

摘記1b:段落0006
「[0006]本発明は、基材から粘着剤への軟化剤の移行が少なく、粘着力、巻き戻し力及び保持力に優れて被着体への糊残りが少ない粘着フィルムを提供することを目的とする。」

摘記1c:段落0014?0015及び0021
「[0014]…基材には、基材を柔軟化させるために軟化剤を配合することができる。基材に用いることができる軟化剤の種類は特に限定されず、公知の軟化剤を採用することができる。一例としては、粘着剤ハンドブック(日本粘着工業会、第3版、P-69)記載のDOP(フタル酸ジオクチル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DINA(アジピン酸ジイソノニル)、DBP(フタル酸ジブチル)、TOTM(トリメリット酸トリ2-エチルヘキシル)、DIDP(フタル酸ジイソデシル)等の二塩基酸エステル;液状ポリイソブチレン、液状イソプレン、液状ブテン等の液状ゴム;芳香族系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系オイル、ひまし油、トール油などの一般的な軟化剤が使用できる。…
[0015]基材の厚みは、特に制限されず、好ましくは10?500μm、より好ましくは12?200μm、さらに好ましくは15?100μmである。…
[0021]…粘着剤層に配合できる軟化剤としては、基材に使用できるものと同様に上記公知の軟化剤を採用することができる。
粘着剤層における軟化剤の含有率は、粘着剤に対して、0.3?4質量%、好ましくは1?3質量%である。軟化剤の含有率が0.3質量%未満であると、塩化ビニル系樹脂組成物からなる基材からの軟化剤の移行が抑制できなくて粘着剤の凝集力が低下したり、貼合せ経時時間とともに粘着力が大きくなり粘着フィルムを剥がした際に糊残りが発生する場合がある。一方、該軟化剤の含有率が4質量%を超えると、経時時間に関係なく初期の粘着剤の凝集力不足が生じ、粘着フィルムを剥がした際に糊残りが発生する場合がある。軟化剤が粘着剤中に上記特定量で存在していることにより、基材から粘着剤への軟化剤の移行が、化学平衡の原理で抑制できる。」

摘記1d:段落0025及び0028
「[0025]かかるアルキル(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート(以下、「MMA」と略称する。)…等が挙げられ、これらは1種又は2種以上併用して用いられる。…
[0028]粘着付与剤に用いる粘着付与樹脂としては、軟化点、各成分との相溶性などを考慮して選択することができる。例えば、テルペン樹脂、ロジン樹脂、水添ロジン樹脂、クロマン・インデン樹脂、スチレン系樹脂、脂肪族系及び脂環族系等の石油樹脂、テルペン-フェノール樹脂、キシレン樹脂、その他の脂肪族炭化水素樹脂又は芳香族炭化水素樹脂等を挙げることができる。」

摘記1e:段落0043
「[0043](実施例1)
(i)重合度1100の塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ社製 TH-1000)100質量部、軟化剤としてDINP(DIC社製)25質量部、粘着付与剤としてのC5C9系石油樹脂(エッソ化学社製、軟化点94℃)10質量部、改質剤としてのMBS(日本合成ゴム社製)2質量部、安定剤としてのCa-Zn系安定剤(水澤化学社製)2質量部、St酸(日本油脂社製)0.2質量部、MMA(鐘淵化学社製)2質量部をヘンシェルミキサーで混合し、カレンダー成形(ロール温度は145?180℃)によって厚さ120μmのシートを形成した。該シートを規定の長さ(20m)で巻き取ったものを120℃の条件で8時間アニールをして基材を得た。
(ii)天然ゴム100質量部(ムーニー粘度=45)、天然ゴム70質量%にMMA30質量%をグラフト重合したグラフト重合物(ASIATIC社製 MEGAPOLY30)20質量部(ムーニー粘度=80)、DINP(DIC社製)2質量%を配合した混合物に、粘着付与樹脂としてのテルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製YSレジンPX-1000)100質量部、老化防止剤としての4エチル6-tert-ブチルフェノール(川口化学工業社製アンテージW-500)2質量部を30質量%ベースになるようにトルエンに溶解してから配合し、これにより粘着剤を得た。
(iii)リバースロールコーターにて基材の片面に粘着剤を塗布し、乾燥工程を経て、乾燥後の厚さが20μmの粘着剤層を形成し、幅25mmのテープ状に切断して、粘着フィルムを得た。」

イ.甲第2号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記2a:段落0050及び0096
「【0050】上記粘着剤は、必要に応じて、任意の適切な添加剤を含み得る。該添加剤としては、例えば、…粘着付与剤(例えば、ロジン系粘着付与剤、テルペン系粘着付与剤、炭化水素系粘着付与剤等)…が挙げられる。…
【0096】[実施例1]…粘着付与剤としてテルペンフェノール系樹脂(住友ベークライト社製、商品名「スミライトレジンPR12603」)5部」

ウ.甲第3号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記3a:段落0045及び
「[0045]…粘着付与樹脂の具体例としては、…テルペン系粘着付与樹脂(例えば、テルペン系樹脂、テルペンフェノール樹脂、スチレン変性テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、水素添加テルペン系樹脂)…が挙げられる。…
[0094][実施例1]…粘着付与剤としてテルペンフェノール系樹脂(住友ベークライト社製、商品名「スミライトレジンPR12603」)5部」

エ.甲第4号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記4a:段落0033
「【0033】基材は、JIS-K-7127(1999年)に従って測定される最大伸びが、好ましくは100%以上であり、より好ましくは200%?1000%である。このような最大伸びを示す基材を使用することにより、本発明の効果がより一層発現し易くなり得る。また、このような最大伸びを示す基材を使用することにより、本発明の粘着テープに適度な伸び性を付与することができ、例えば、被着体への追従性が向上し得る。」

オ.甲第5号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記5a:段落0031
「【0031】…プラスチックフィルムは、そのJIS-K-7127(1999)に従って測定される最大伸びが、好ましくは100%以上であり、より好ましくは100%?1000%である。このようなプラスチックフィルムを採用することにより、本発明の積層フィルムおよび本発明の粘着テープは、延伸等の変形に対する追随性がより良好なものとなり得る。」

カ.甲第6号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記6a:請求項1、6及び10
「【請求項1】ポリ塩化ビニルを主成分とするフィルムの少なくとも一方の表面に、長鎖アルキル系離型剤とエチレン-酢酸ビニル共重合体の混合物を主成分として含む離型剤層を設けた、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム。…
【請求項6】請求項1から5までのいずれかに記載のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの離型剤層が設けられていない側の表面上に粘着剤層が設けられた、ポリ塩化ビニル系粘着テープ。…
【請求項10】金属板加工に用いられる、請求項6から9までのいずれかに記載のポリ塩化ビニル系粘着テープ。」

キ.甲第7号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記7a:第1頁左下欄第18行?右上欄第7行
「従来よりアルミニウム板、ステンレス板、鋼板およびこれらの塗装板などの金属板の加工時に金型による部分的な擦傷の発生を防止するために表面保護用の粘着フィルムを用いることは知られている。
この表面保護用粘着フィルム(以下表面保護フィルムと称す)は、ポリエチレン、ポリプロピレン、軟質塩化ビニルなどのプラスチックスフィルム上に、天然ゴム、合成ゴム、アクリル系共重合体などの粘着剤を塗布したものである。」

ク.甲第8号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記8a:請求項1
「【請求項1】ポリ塩化ビニルと金属安定剤とを含有するポリ塩化ビニル系組成物からなる基材の少なくとも片面に、フェノール系化合物を含有する感圧接着剤からなる感圧接着剤層が形成されてなるポリ塩化ビニル系粘着テープまたは粘着シートであって、上記ポリ塩化ビニル系組成物にβ-ジケトン化合物を含有させたことを特徴とするポリ塩化ビニル系粘着テープまたは粘着シート。」

摘記8b:段落0004及び0016?0017
「【0004】本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、感圧接着剤層の変色や、被着体の汚染を防止することができるPVC系粘着テープまたは粘着シートの提供をその目的とする。…
【0016】上記PVC系組成物には、…さらに可塑剤…を含有させることも可能である。…
【0017】上記可塑剤としては特に限定はなく、一般にPVCの可塑剤として用いられるフタル酸エステル、アジピン酸ポリエステル、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、エポキシ化ダイズ油、エポキシ化アマニ油、塩素化パラフィン等があげられる。」

摘記8c:段落0022、0026及び0028
「【0022】本発明のPVC系粘着テープまたは粘着シートは、例えばつぎのようにして作製することができる。すなわち、まず、前記PVC、金属安定剤、β-ジケトン化合物、その他添加剤等を混合してPVC系組成物を調製する。また、天然ゴム、テンペルフェノール系粘着付与剤、フェノール系老化防止剤等を混合して感圧接着剤を調製する。ついで、上記PVC系組成物をロール上で混練りして所定厚みのPVC系基材を作製した後、上記PVC系基材の片面あるいは両面に上記感圧接着剤を塗布して感圧接着剤層を形成する。そして、これをテープ状に巻き取るか、あるいは従来公知のカレンダー加工等によりシート状に加工して、目的とするPVC系粘着テープまたは粘着シートを作製することができる。なお、上記PVC系基材の形状としては、特に限定はなく、例えばフィルム形状、シート形状等があげられる。
・・・
【0026】【実施例1?8】下記の表1および表2に示す各成分を同表に示す割合で配合して、PVC系組成物および感圧接着剤を調製した。ついで、上記PVC系組成物をロール上で混練りして、厚み0.1mmのフィルム基材を作製した。そして、上記フィルム基材の両面に上記感圧接着剤を塗布して、乾燥後の厚みが0.02mmの感圧接着剤層を形成した。このようにして目的とする粘着テープを作製した。…
【0028】【表1】



ケ.甲第9号証の刊行物には、次の記載がある。
摘記9a:請求項1
「【請求項1】
テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)を10?40重量%含むポリ塩化ビニル系基材の片面に粘着剤層を有する粘着テープ。」

摘記9b:段落0022及び0024
「【0022】上記PVC系基材には、可塑剤として、テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOTP、ジオクチルテレフタレート)を含む。DOTPは、REACHの規制の対象となっていない化合物である。…
【0024】また、DOTPはポリ塩化ビニルとの相性が良く、DOTPが基材表面にブリードアウトしにくい。特に、DOPに比べ、基材表面にブリードアウトしにくい。そのため、DOTPを含むPVC基材は、粘着剤層や被着体や製造装置の汚染が少ない。」

摘記9c:段落0086
「【0086】上記粘着剤層を形成する上記粘着剤(例えば、アクリル系粘着剤)には、可塑剤が含まれていてもよい。上記可塑剤としては、REACHの規制対象とならない可塑剤が好ましく、…中でも、テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)が好ましい。」

コ.参考文献Aには、次の記載がある。
摘記A1:段落0041
「【0041】なお、(C)粘着付与剤は、粘着剤の凝集力を高め粘着性を増強する目的で配合される熱可塑性樹脂(例えば、ロジン系、テルペン系、石油樹脂系など)をいう。」

(2)刊行物に記載された発明
ア.甲1発明
摘記1aの「塩化ビニル系樹脂組成物からなる基材と、基材の少なくとも片面に形成された粘着剤層とから構成されている粘着フィルムであって、粘着剤層が、(i)天然ゴム及び/又はスチレン-ブタジエンゴムからなる粘着ベース剤、(ii)天然ゴム…にアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合させたグラフト重合物、および(iii)軟化剤を含み」との記載、
摘記1cの「軟化剤…DINP(フタル酸ジイソノニル)」との記載、
摘記1dの「アルキル(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート(以下、「MMA」と略称する。)」との記載、及び
摘記1eの「実施例1」についての記載からみて、甲第1号証の刊行物には、
「(i)重合度1100の塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ社製 TH-1000)100質量部、軟化剤としてDINP(DIC社製)25質量部、粘着付与剤としてのC5C9系石油樹脂(エッソ化学社製、軟化点94℃)10質量部、改質剤としてのMBS(日本合成ゴム社製)2質量部、安定剤としてのCa-Zn系安定剤(水澤化学社製)2質量部、St酸(日本油脂社製)0.2質量部、MMA(鐘淵化学社製)2質量部をヘンシェルミキサーで混合し、カレンダー成形(ロール温度は145?180℃)によって厚さ120μmのシートを形成し、
該シートを規定の長さ(20m)で巻き取ったものを120℃の条件で8時間アニールをして基材を得て、
(ii)天然ゴム100質量部(ムーニー粘度=45)、天然ゴム70質量%にMMA30質量%をグラフト重合したグラフト重合物(ASIATIC社製 MEGAPOLY30)20質量部(ムーニー粘度=80)、DINP(DIC社製)2質量%を配合した混合物に、粘着付与樹脂としてのテルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製YSレジンPX-1000)100質量部、老化防止剤としての4エチル6-tert-ブチルフェノール(川口化学工業社製アンテージW-500)2質量部を30質量%ベースになるようにトルエンに溶解してから配合し、これにより粘着剤を得て、
(iii)リバースロールコーターにて基材の片面に粘着剤を塗布し、乾燥工程を経て、乾燥後の厚さが20μmの粘着剤層を形成し、幅25mmのテープ状に切断して得られた、粘着フィルム」についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

イ.甲8発明
摘記8aの「ポリ塩化ビニル系組成物からなる基材の少なくとも片面に、…感圧接着剤からなる感圧接着剤層が形成されてなるポリ塩化ビニル系粘着テープまたは粘着シート」との記載、
摘記8bの「本発明は、…被着体の汚染を防止することができるPVC系粘着テープまたは粘着シートの提供をその目的とする。…可塑剤としては…フタル酸エステル」との記載、及び
摘記8cの表1の「(部)…実施例1…PVC系組成物…PVC(重合度1000) 100…ジオクチルフタレート 50…感圧接着剤…天然ゴム 100…テルペンフェノール系粘着付与剤 50」との記載からみて、甲第8号証の刊行物には、
「PVC(重合度1000)100部と、可塑剤としてジオクチルフタレート50部と、三塩基性硫酸鉛2部と、ステアリン酸1部と、β-ジケトン化合物0.01部と、酸化チタン5部とを含むポリ塩化ビニル系組成物(PVC系組成物)からなる基材の少なくとも片面に、天然ゴム、テンペルフェノール系粘着付与剤、フェノール系老化防止剤等を混合して得られた感圧接着剤からなる感圧接着剤層が形成されてなる、被着体の汚染を防止することができるポリ塩化ビニル系粘着テープまたは粘着シート。」についての発明(以下「甲8発明」という。)が記載されているといえる。

(3)甲第1号証の刊行物を主引用例とした場合の検討
ア.対比
甲1発明と本1発明とを対比する。
甲1発明の「基材」は、塩化ビニル樹脂を含有するから本1発明の「ポリ塩化ビニル系基材」に相当する。
甲1発明の「粘着剤層」は天然ゴムを粘着ベース剤とするものであるから(摘記1a:請求項1)、本1発明の「前記ポリ塩化ビニル系基材の少なくとも一面に形成されるゴム系粘着剤層」に相当する。
甲1発明の「基材」の「軟化剤としてDINP」及び「粘着剤層」の「DINP」は、「DINP(フタル酸ジイソノニル)」の化学構造が、本1発明の一般式(1)において「式中、ベンゼン核の2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))がオルト位の場合、R^(1)及びR^(2)は炭素数が9でありかつ少なくとも1つの第三級炭素原子を含む分岐アルキル基」からなり「2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))」が「同一」である場合の「ベンゼンジカルボン酸エステル」に該当することから、本1発明の「前記ポリ塩化ビニル系基材及び前記ゴム系粘着剤層は、可塑剤として下記一般式(1)で表されるベンゼンジカルボン酸エステルを含有し」及び「該一般式(1)のR^(1)及びR^(2)が、それぞれ、2-エチルヘキシル基またはイソノニル基であり」に相当する。
また、甲1発明の「基材」の「DINP」の含有量は、「該ポリ塩化ビニル系基材中の該可塑剤の含有量が、該ポリ塩化ビニル系基材中の樹脂成分100質量部に対して10質量部以上」に含まれる。
甲1発明の「テープ状の粘着フィルム」は、本1発明の「粘着テープ」に相当する。

してみると、本1発明と甲1発明は「ポリ塩化ビニル系基材と、
前記ポリ塩化ビニル系基材の少なくとも一面に形成されるゴム系粘着剤層とを備え、
前記ポリ塩化ビニル系基材及び前記ゴム系粘着剤層は、可塑剤として下記一般式(1)で表されるベンゼンジカルボン酸エステルを含有し、
該一般式(1)のR^(1)及びR^(2)が、それぞれ、2-エチルヘキシル基またはイソノニル基であり、
該ポリ塩化ビニル系基材中の該可塑剤の含有量が、該ポリ塩化ビニル系基材中の樹脂成分100質量部に対して10質量部以上である、
粘着テープ。

(式中、ベンゼン核の2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))がオルト位の場合、R^(1)及びR^(2)は炭素数が9以上でありかつ少なくとも1つの第三級炭素原子を含む分岐アルキル基からなり、ベンゼン核の2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))がメタ位又はパラ位の場合、炭素数が8以上でありかつ少なくとも1つの第三級炭素原子を含む分岐アルキル基からなる。なお、2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))は、同一又は互いに異なってもよい。)」という点において一致し、次の(α)及び(β)の2つの点において相違する。

(α)ゴム系粘着剤層中の該可塑剤の含有量が、本1発明は「ゴム系粘着剤層中のゴム成分100質量部に対して10質量部以上であ」るのに対して、甲1発明はそのようなものではない点

(β)本1発明は「ゴム系粘着剤層は、アルキルフェノール類からなる凝集改質剤を含有し、該凝集改質剤が、テルペンフェノールおよびロジン変性フェノールから選ばれる少なくとも1種である」のに対して、甲1発明は「粘着剤層」は凝集改質剤を含まない点

イ.判断
事案に鑑み、上記(β)の相違点について先に検討する。
本1発明の「凝集改質剤」は「テルペンフェノールおよびロジン変性フェノール」であるところ、甲第1号証の段落0028(摘記1d)には、粘着付与剤に用いる粘着付与樹脂としては「各成分との相溶性などを考慮」して、例えば「テルペン-フェノール樹脂」を選択して用いることが記載されており、甲第2号証の段落0096(摘記2a)及び甲第3号証の段落0094(摘記3a)には、粘着付与剤(又は粘着付与樹脂)とし「テルペンフェノール樹脂」を用いることが記載されている。
しかしながら、甲第1?3号証に記載の「テルペン-フェノール樹脂」は「粘着付与剤」であって、本1発明のように「凝集改質剤」として用いられたものではなく、参考文献Aの「粘着付与剤は、粘着剤の凝集力を高め粘着性を増強する」という記載を参酌したとしても、甲1発明において「テルペン樹脂」がゴム系粘着剤と可塑剤の両者に対して適度な親和性を示す凝集改質剤としての作用効果を奏するものであるかどうかは不明としかいうほかない。
そして、本1発明では、「ゴム系粘着剤層」中にゴム系粘着剤と可塑剤の両者に対して適度な親和性を示す「凝集改質剤(アルキルフェノール類)が配合」されることによって、可塑剤の凝集が抑制されて、被着体表面の汚染が抑制されるものであり、このような作用効果は、甲第1?3号証及び参考文献Aの記載からは、当業者が予測し得るものではない。
してみると、甲第1号証?甲第9号証及び参考文献Aに記載の技術事項の全てを精査しても、上記(β)の相違点に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。
そして、本1発明は、粘着付与剤としてではなく、凝集改質剤として「テルペンフェノールおよびロジン変性フェノールから選ばれる少なくとも1種」を用いることによって、格別の効果を奏するものといえる。
以上総括するに、本1発明と甲1発明は、上記(β)の相違点を有し、この相違点は、甲第1?9号証及び参考文献Aに記載の技術事項をどのように組み合わせても導きだし得るものではないから、上記(α)の相違点について検討するまでもなく、上記(β)の相違点に係る構成を想到し、その効果を予測することが、当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、本1発明は、甲第1?9号証及び参考文献Aの刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

(4)甲第8号証の刊行物を主引用例とした場合の検討
ア.対比
甲8発明と本1発明とを対比する。
甲8発明の「ポリ塩化ビニル系組成物からなる基材」は、本1発明の「ポリ塩化ビニル系基材」に相当する。
甲8発明の「基材の少なくとも片面に、天然ゴム…感圧接着剤からなる感圧接着剤層が形成されてなる」は、本1発明の「ポリ塩化ビニル系基材の少なくとも一面に形成されるゴム系粘着剤層とを備え」に相当する。
甲8発明の「PVC(重合度1000)100部に対して、可塑剤としてジオクチルフタレート50部…を含むポリ塩化ビニル系組成物からなる基材」は、本1発明の「ポリ塩化ビニル系基材中の該可塑剤の含有量が、ポリ塩化ビニル系基材中の樹脂成分100質量部に対して10質量部以上であり」に相当する。
甲8発明の「ポリ塩化ビニル系粘着テープまたは粘着シート」は、本1発明の「粘着テープ」に相当する。

してみると、本1発明と甲8発明は「ポリ塩化ビニル系基材と、
前記ポリ塩化ビニル系基材の少なくとも一面に形成されるゴム系粘着剤層とを備え、
前記ポリ塩化ビニル系基材は、可塑剤を含有し、
該ポリ塩化ビニル系基材中の該可塑剤の含有量が、該ポリ塩化ビニル系基材中の樹脂成分100質量部に対して10質量部以上である、
粘着テープ。」という点において一致し、次の(γ)?(ε)の3つの点において相違する。

(γ)ポリ塩化ビニル系基材の「可塑剤」について、本1発明の「ポリ塩化ビニル系基材」は「可塑剤として下記一般式(1)で表されるベンゼンジカルボン酸エステルを含有」し「該一般式(1)のR^(1)及びR^(2)が、それぞれ、2-エチルヘキシル基またはイソノニル基であ」るのに対して、甲8発明の「ポリ塩化ビニル系組成物からなる基材」は「可塑剤としてジオクチルフタレートを含む」点。


(δ)ゴム系粘着剤層の「可塑剤」について、本1発明の「ゴム系粘着剤層」は「可塑剤として下記一般式(1)で表されるベンゼンジカルボン酸エステルを含有」し「該一般式(1)のR^(1)及びR^(2)が、それぞれ、2-エチルヘキシル基またはイソノニル基であ」って「該ゴム系粘着剤層中の該可塑剤の含有量が、該ゴム系粘着剤層中のゴム成分100質量部に対して10質量部以上であ」るのに対して、甲8発明の「感圧接着剤」は「可塑剤」を含むことは規定されていない点。


(ε)本1発明では「ゴム系粘着剤層は、アルキルフェノール類からなる凝集改質剤を含有し、該凝集改質剤が、テルペンフェノールおよびロジン変性フェノールから選ばれる少なくとも1種である」のに対して、甲8発明の「感圧接着剤」は凝集改質剤を含有せず、「テルペンフェノール」として「テルペンフェノール系粘着付与剤を含む」点

イ.判断
事案に鑑み、上記(ε)の相違点について先に検討する。
甲8発明の「テルペンフェノール系粘着付与剤」は、本1発明のように「凝集改質剤」として用いられたものではなく、参考文献Aの「粘着付与剤は、粘着剤の凝集力を高め粘着性を増強する」という記載を参酌したとしても、甲8発明において「テルペンフェノール系粘着付与剤」がゴム系粘着剤と可塑剤の両者に対して適度な親和性を示す凝集改質剤としての作用効果を奏するものであるかどうかは不明としかいうほかない。
そして、本1発明では、「ゴム系粘着剤層」中にゴム系粘着剤と可塑剤の両者に対して適度な親和性を示す「凝集改質剤(アルキルフェノール類)が配合」されることによって、可塑剤の凝集が抑制されて、被着体表面の汚染が抑制されるものであり、このような作用効果は、甲第8号証及び参考文献Aの記載からは、当業者が予測し得るものではない。
また、他の証拠に記載の技術事項の全てを精査しても、上記(ε)の相違点に係る構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。
そして、本1発明は、粘着付与剤としてではなく、凝集改質剤として「テルペンフェノールおよびロジン変性フェノールから選ばれる少なくとも1種」を用いることによって、格別の効果を奏するものといえる。
以上総括するに、本1発明と甲8発明は、上記(ε)の相違点を有し、この相違点は、甲第1?9号証及び参考文献Aに記載の技術事項をどのように組み合わせても導きだし得るものではないから、上記(γ)及び(δ)の相違点について検討するまでもなく、上記(ε)の相違点に係る構成を想到し、その効果を予測することが、当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、本1発明は、甲第1?9号証及び参考文献Aの刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

(5)本件特許の請求項2?7及び10に係る発明について
本2?7発明及び本10発明は、本1発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものである。
してみると、本1発明の進歩性が甲第1?9号証及び参考文献Aによって否定できない以上、本2?7発明及び本10発明が、甲第1?9号証及び参考文献Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するとはいえない。

(6)特許異議申立人の主張について
令和3年5月6日付けの意見書の第1頁において、特許異議申立人は「本件意見書における主張を考慮しても、少なくとも理由1(サポート要件)は依然として解消していない。」と主張するものであり、理由2(進歩性)については特段の主張がされていない。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(サポート要件)
特許異議申立人が主張する申立理由1は「本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲は、可塑剤についてはあくまでDOTP、凝集改質剤についてはあくまでテルペンフェノール又はロジン変性フェノールであり、それぞれ、『一般式(1)で表されるベンゼンジカルボン酸エステル』、『アルキルフェノール類』にまで拡張ないし一般化できない。」ものであり「本件特許発明1ないし10は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。」とするものである(特許異議申立書の第25頁及び第52頁)。
そして、申立理由1(サポート要件)は、上記第4〔理由1〕に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

(2)申立理由2(進歩性)
特許異議申立人が主張する申立理由2は、甲第1号証を主引例とした場合(同第26?31頁)及び甲第8号証を主引例とした場合(同第41?45頁)を指摘した上で「本件特許発明1ないし10は、甲第1号証ないし甲第9号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、その特許は、同法第113条第2号に該当するため、取り消されるべきである。」とするものである(同第53頁)。
そして、申立理由2(進歩性)は、上記第4〔理由2〕に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。

第6 まとめ
以上総括するに、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本1?本7及び本10発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本1?本7及び本10発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項8及び9は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項8及び9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル系基材と、
前記ポリ塩化ビニル系基材の少なくとも一面に形成されるゴム系粘着剤層とを備え、
前記ポリ塩化ビニル系基材及び前記ゴム系粘着剤層は、可塑剤として下記一般式(1)で表されるベンゼンジカルボン酸エステルを含有し、
該一般式(1)のR^(1)及びR^(2)が、それぞれ、2-エチルヘキシル基またはイソノニル基であり、
該ポリ塩化ビニル系基材中の該可塑剤の含有量が、該ポリ塩化ビニル系基材中の樹脂成分100質量部に対して10質量部以上であり、
該ゴム系粘着剤層中の該可塑剤の含有量が、該ゴム系粘着剤層中のゴム成分100質量部に対して10質量部以上であり、
前記ゴム系粘着剤層は、アルキルフェノール類からなる凝集改質剤を含有し、
該凝集改質剤が、テルペンフェノールおよびロジン変性フェノールから選ばれる少なくとも1種である、
粘着テープ。
【化1】

(式中、ベンゼン核の2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))がオルト位の場合、R^(1)及びR^(2)は炭素数が9以上でありかつ少なくとも1つの第三級炭素原子を含む分岐アルキル基からなり、ベンゼン核の2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))がメタ位又はパラ位の場合、炭素数が8以上でありかつ少なくとも1つの第三級炭素原子を含む分岐アルキル基からなる。なお、2つの置換基(-CO_(2)R^(1)、-CO_(2)R^(2))は、同一又は互いに異なってもよい。)
【請求項2】
前記アルキルフェノール類の酸価が、11?150である請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項3】
前記ベンゼンジカルボン酸エステルは、粘着テープ中に、10質量%以上50質量%以下含まれている請求項1又は2に記載の粘着テープ。
【請求項4】
粘着テープ中に含まれる前記ベンゼンジカルボン酸エステルに対するアルキルフェノール類の割合(質量比)が、0.0005以上0.1以下である請求項1?3の何れか一項に記載の粘着テープ。
【請求項5】
前記ゴム系粘着剤層の厚みtbに対する前記ポリ塩化系ビニル基材の厚みtaの割合(ta/tb)が5以上15以下である請求項1?4の何れか一項に記載の粘着テープ。
【請求項6】
前記ポリ塩化系ビニル基材の厚みtaが、90μm以上110μm以下である請求項1?5の何れか一項に記載の粘着テープ。
【請求項7】
前記ポリ塩化系ビニル基材のJIS-K-7127に従って測定される最大伸びが100%以上である請求項1?6の何れか一項に記載の粘着テープ。
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】
金属板加工用である請求項1?7の何れか一項に記載の粘着テープ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-23 
出願番号 特願2016-93097(P2016-93097)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 小出 輝
木村 敏康
登録日 2020-03-16 
登録番号 特許第6676461号(P6676461)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 粘着テープ  
代理人 松浦 孝  
代理人 籾井 孝文  
代理人 籾井 孝文  

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