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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  C22C
管理番号 1376738
異議申立番号 異議2020-700206  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-24 
確定日 2021-07-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6582159号発明「絶縁基板及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6582159号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6582159号の請求項1?6に係る特許を維持する。 特許第6582159号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第6582159号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成31年 2月18日(優先権主張 平成30年 3月29日)を国際出願日とする出願であって、令和 1年 9月 6日にその特許権の設定登録がされ、同年 9月25日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?7(全請求項)に係る特許について、令和 2年 3月24日に特許異議申立人である中川賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議申立て後の手続きの経緯は次のとおりである。
令和 2年 6月29日付け 取消理由通知
同年 8月27日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年12月 4日付け 訂正拒絶理由通知
令和 3年 1月 8日 意見書(特許権者)
同年 3月30日 意見書(申立人)

第2 訂正の適否
1 本件訂正請求の趣旨、及び訂正の内容について
令和 2年 8月27日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、訂正箇所には当審が下線を付した。

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の明細書の【0010】に記載された「[7][1]乃至[6]のいずれかに記載の絶縁基板の製造方法であって、前記第1の銅板材の材料である第1の被圧延材及び前記第2の銅板材の材料である第2の被圧延材に対し、昇温速度が10℃/秒?50℃/秒、到達温度が250℃?600℃、保持時間が10秒?3600秒、冷却速度が10℃/秒?50℃/秒の条件で焼鈍処理を施す焼鈍工程と、前記焼鈍工程後に、前記第1の被圧延材と、前記第2の被圧延材との総加工率が10?65%の冷間圧延を行う冷間圧延工程と、前記冷間圧延工程後に、前記セラミック基板の一方の面に前記第1の被圧延材を、前記セラミック基板の他方の面に前記第2の被圧延材を、ろう材を介してそれぞれ接合し、前記第1の銅板材と前記第2の銅板材とがそれぞれ接合された絶縁基板を形成する接合工程と、を含み、前記接合工程は、昇温速度が10℃/秒?100℃/秒、到達温度が400℃?600℃、保持時間が10秒?300秒の条件で熱処理を施す第1加熱処理と、昇温速度が10℃/秒?100℃/秒、到達温度が750℃?850℃、保持時間が100秒?7200秒の条件で熱処理を施す第2加熱処理と、で構成される、絶縁基板の製造方法。」を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の明細書の【0033】に記載された「接合工程[工程C]は、昇温速度が10℃/秒?100℃/秒、到達温度が400℃?600℃、保持時間が10秒?300秒の条件で熱処理を施す第1加熱処理と、昇温速度が10℃/秒?100℃/秒、到達温度が750℃?850℃、保持時間が100秒?7200秒の条件で熱処理を施す第2加熱処理と、で構成されている。」を、「接合工程[工程C]は、昇温速度が10℃/分?100℃/分、到達温度が400℃?600℃、保持時間が10秒?300秒の条件で熱処理を施す第1加熱処理と、昇温速度が10℃/分?100℃/分、到達温度が750℃?850℃、保持時間が100秒?7200秒の条件で熱処理を施す第2加熱処理と、で構成されている。」に訂正する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の明細書の【0047】に記載された「サンプルである各絶縁基板から剥離させた各銅板材の圧延集合組織の方位密度解析には、EBSD法を用いた。」を「サンプルである各絶縁基板から各銅板材の圧延集合組織の方位密度解析には、EBSD法を用いた。」に訂正する。

(5)訂正事項5
本件訂正前の明細書の【0048】に記載された「サンプルである各絶縁基板から剥離させた各銅板材の平均結晶粒径は、圧延面におけるEBSD測定にて、結晶粒を200個以上含む測定試料面を測定した。」を「サンプルである各絶縁基板から各銅板材の平均結晶粒径は、圧延面におけるEBSD測定にて、結晶粒を200個以上含む測定試料面を測定した。」に訂正する。

(6)訂正事項6
本件訂正前の明細書の【0055】の【表2】に「接合工程」の「第1加熱処理」及び「第2加熱処理」における各「昇温速度」の単位として記載された「℃/秒」を、「℃/分」に訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項7を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項7を削除するものであるから、本件特許についての願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2に係る訂正は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正にすぎないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
a 訂正事項3に係る訂正は、訂正前の【0033】に記載された「接合工程[工程C]」における「昇温速度が10℃/秒?100℃/秒」を「昇温速度が10℃/分?100℃/分」に訂正するものであるところ、当審は、令和 2年12月 4日付け訂正拒絶理由通知において、「訂正前の【0033】に記載された「上記『昇温速度』としての『10℃/秒?100℃/秒』が本件特許についての出願時の技術常識を大きく上回る昇温速度であるとはいえ、本件訂正後の『昇温速度が10℃/分?100℃/分』が、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句であるとはいえず、また、訂正前の『昇温速度が10℃/秒?100℃/秒』との記載が当然に訂正後の『昇温速度が10℃/分?100℃/分』との記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるともいえないことから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる『誤記又は誤訳の訂正』を目的とするものに該当するとはいえない。」と説示した。

b これに対して、特許権者は令和 3年 1月 8日提出の意見書第6?8頁の「5.(3)指摘1について」において、以下の乙第5号証?乙第9号証を提示し、「セラミック基板をろう付けする場合の昇温速度の単位が、『℃/秒』ではなく『℃/分』の明らかな誤記であったことは、本件特許についての出願時の技術常識であ」り、「セラミック基板をろう付けする場合の昇温速度『10℃/秒?100℃/秒』が技術常識を外れた急速な加熱であったことについても、技術常識である」ことから、「『昇温温度』としての『10℃/秒?100℃/秒』は『10℃/分?100℃/分』の明らかな誤記であったことは本件特許についての出願時の技術常識から明白である。それ故、・・・(略)・・・本件特許についての出願時の技術常識を考慮すれば、訂正前の『昇速度(当審注:「昇温速度」を誤記したものと認められる。)が10℃/秒?100℃/秒』の記載は、本来、訂正後の『昇速度(当審注:同上)が10℃/分?100℃/分』を表示するものであったと客観的に認められるものであるといえる。したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる『誤記又は誤訳の訂正』を目的とするものに該当する。」と主張している。

(a)乙第5号証(特開2013-237100号公報)(以下において、下線は、当審が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。)
「【請求項1】

セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一面にろう材層を介し接合された銅を主体とした回路板と、前記回路板の表面に被着されたNiめっき層を有するセラミックス回路基板の製造方法であって、ろう材を介しセラミックス基板の一面に回路原板を配置する配置工程と、セラミックス基板の一面に回路原板を加熱し接合する接合工程と、接合工程で形成されてなる回路板を化学研磨する化学研磨工程と、化学研磨工程の後に回路板の表面にNiめっき層を被着するめっき工程と、を含み、前記回路原板は、調質記号1/2H?H相当の銅または銅合金からなる銅板であり、前記接合工程は、その温度プロファイルにおいて、第1の温度域と、前記第1の温度域の後に配置された、ろう材が溶融する温度で加熱する第2の温度域とを有し、前記第1の温度域の温度が400?750℃であることを特徴するセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項2】

前記第1の温度域までの昇温速度が、2.0?20.0℃/分である請求項1に記載のセラミックス回路基板の製造方法。」

「【0018】

上記第1の温度域までの昇温速度が、2.0?20.0℃/分であることが望ましい。昇温速度が2.0℃/分未満の場合および20.0℃/分を超える場合には、結晶成長方向が回路板の表面の垂直方向に対して±30°以内の結晶子から構成され、化学研磨のためにその粒界が侵食された第1再結晶相の表面状態が反映された、表面粗さの粗いNiめっき層の粒状相の面積が多く、その結果、溶融半田の濡れ広がり性がやや低下する。」

(b)乙第6号証(特開2017-135374号公報)
「【請求項6】
セラミックスからなるセラミックス部材とCu又はCu合金からなるCu部材との接合体の製造方法であって、
Cu-P系ろう材とTi材とを介して前記セラミックス部材と前記Cu部材とを積層する積層工程と、前記Cu-P系ろう材の溶融開始温度以上の温度で加熱して液相を生じさせる加熱処理工程と、を備え、
前記積層工程においては、前記セラミックス部材と前記Cu部材の間に介在されるPとTiの原子比〔Ti/P〕が、0.1以上0.8以下の範囲内となるように、前記Cu-P系ろう材及び前記Ti材を配置し、
前記加熱処理工程においては、昇温速度を5℃/min以上30℃/min以下の範囲内とすることを特徴とする接合体の製造方法。」

(c)乙第7号証(特開平10-145039号公報)
「【請求項3】 金属成分のうち、Ag成分とCu成分を主成分、活性金属成分を副成分としてそれぞれ含み、しかもAg成分:Cu成分の重量比が80?95:20?5であるろう材を、銅板とセラミックス基板との間に介在させてから真空度1×10^(-5)?1×10^(-6)Torrの高真空中で加熱開始し、温度700℃以上からの昇温速度を10℃/分にして800?840℃まで高め、その温度で保持した後冷却することを特徴とする回路基板の製造方法。」

「【0025】銅板とセラミックス基板の接合温度は、温度が高すぎると、銅回路中へのAgの拡散が進み銅回路の残留応力として残りやすくなり、また温度が低すぎると、銅板とセラミックス基板が充分に接合しなくなるため、800?840℃とする。更には、接合温度までの昇温速度を可能な限り速くすることが好ましく、特に700℃からの昇温速度を10℃/分以上とする。接合時の雰囲気は、真空度1×10^(-5)?1×10^(-6)Torrの高真空中である。真空度1×10^(-5)未満では接合が不十分となり、また真空度1×10^(-6)Torrをこえる高真空中では却ってろう材の活性が高まり過ぎ、いずれの場合も耐ヒートサイクル性は向上しない。」

(d)乙第8号証(恩澤忠男、”特集 ろう付Q&A”、溶接技術、産報出版株式会社、平成17年6月1日、第53巻、第6号、p.16-17、p.100-103、p.114-117、p.154)
「 レーザブレイジングの一般的な特徴としては,
(1)溶融溶接とろう付の中間的な接合プロセス(ブレイズ溶接)
(2)母材に対するぬれ性やエロージョンを高度に制御可能
(3)局部加熱,急熱/急冷による母材の材質劣化や変形抑制可能
(4)インプロセスモニタリングやリアルタイム制御可能
(5)ろう付品質の安定化や高信頼化の達成
などが挙げられる。」(p.115左欄第4?12行、なお、丸付き数字を括弧付き数字で表記した。)

(e)乙第9号証(永塚公彬他3名、”Ag-Cu-Ti活性ろう材を用いたレーザブレージングによるサイアロンと超硬合金の異材接合性に及ぼすTi添加量の影響”、溶接学会論文集、2013年、第31巻、第1号、p.16-22)
「一方で,レーザブレージングにおいては,部材の局所加熱を行うのみで,ろう付は加熱および冷却が数分程度の短時間で終了することから,こうした問題を低減できることが期待される.」(p.16右欄下から6?3行)



」(p.18左欄)

c そこで、上記bの主張を踏まえて、改めて検討する。
(a)上記b(a)?(e)に摘記した乙第5号証?乙第9号証の記載内容を総合すると、セラミックス基板と銅板とをろう付けする際の昇温速度としては、数℃/分?100℃/分程度の範囲とすることが、本件特許についての優先権主張の日当時の技術常識であったと認められる。

(b)そうすると、訂正前の【0033】に記載された「接合工程[工程C]」における「昇温速度が10℃/秒?100℃/秒」は、上記(a)の昇温速度の上限である「100℃/分」からしても、6倍?60倍の速度であるから、上記昇温速度としては、上記技術常識を大きく上回るものであるところ、本件明細書等には、当該昇温速度を実現するための具体的な加熱機構等が一切記載されていないことも考慮すると、「昇温速度が10℃/秒?100℃/秒」との記載には何らかの誤記があったと言わざるを得ない。

(c)そこで、さらに、上記「昇温速度が10℃/秒?100℃/秒」を本件訂正後の「昇温速度が10℃/分?100℃/分」と訂正することについて検討するに、昇温速度の単位としては、「℃/秒」、「℃/分」、「℃/時」、更には「℃/10分」のようなものも理論的には想定し得るものの、例えば、数十℃/時のような極めて緩やかな昇温速度に制御しつつ、ろう付けを行うことは現実には困難であり、また、格別な理由もなく「℃/10分」のような通常使われない単位を使用することも考えにくいことから、上記(a)の技術常識も考慮すれば、本件訂正後の「昇温速度が10℃/分?100℃/分」は、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句であるといえ、しかも、訂正前の「昇温速度が10℃/秒?100℃/秒」との記載が当然に訂正後の「昇温速度が10℃/分?100℃/分」との記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるともいえる。

(d)したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項3に係る訂正は、上記(ア)c(d)のとおり、誤記の訂正を目的とするものであって、請求項に記載された事項の解釈に実質的な影響を与えるものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(ウ)新規事項追加の有無について
上記(ア)c(c)で検討したとおり、本件訂正後の「昇温速度が10℃/分?100℃/分」は、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句であるといえ、しかも、訂正前の「昇温速度が10℃/秒?100℃/秒」との記載が当然に訂正後の「昇温速度が10℃/分?100℃/分」との記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるともいえる。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
a 訂正事項4に係る訂正は、訂正前の明細書の【0047】に記載された「サンプルである各絶縁基板から剥離させた各銅板材の圧延集合組織の方位密度解析には、EBSD法を用いた。」を「サンプルである各絶縁基板から各銅板材の圧延集合組織の方位密度解析には、EBSD法を用いた。」に訂正するものであるところ、当審は、令和 2年12月 4日付け訂正拒絶理由通知において、「訂正前の請求項1の記載から『第1及び第2の銅板材』は、絶縁基板を構成するセラミック基板と接合された状態において、所定の方位密度の圧延集合組織を有するものと解することができたとしても、そのことから直ちに、訂正前の【0047】に記載された上記『剥離させた』との記載が誤記であったとはいえない。したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる『誤記又は誤訳の訂正』を目的とするものに該当するとはいえない。」と説示した。

b これに対して、特許権者は令和 3年 1月 8日提出の意見書第9?11頁の「5.(4)指摘2、3について」において、以下の乙第10号証?乙第16号証を提示し、「訂正前の【0047】、【0048】に記載された『サンプルである各絶縁基板から銅板材を剥離させ』たとの記載が明らかな誤記であったことは本件特許についての出願時の技術常識から明白である。したがって、訂正事項4及び訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる『誤記又は誤訳の訂正』を目的とするものに該当する。」と主張している。

(a)乙第10号証(特開2015-203148号公報)
「【0058】
<試料の作製>
まず、実施例1?27及び比較例1?7の各試料となる銅合金材を作製した。」

「【0063】
そして、ロウ材上に、作製した銅合金材を配置した後、真空雰囲気中(真空引きしたN_(2)ガス雰囲気中)にて、銅合金材を配置したセラミック基板を500℃の条件下で1時間以上加熱し、銅合金材とセラミック基板とを貼り合わせてセラミック配線基板をそれぞれ作製した。これを実施例1の試料とした。」

「【0067】
((100)面の配向性の評価)
実施例1?27及び比較例1?7の各試料が備える銅合金材について、銅合金材の表面(銅合金材のセラミック基板と対向する側とは反対側の面)の(100)面の配向性について評価を行った。具体的には、SEM/EBSD法により、銅合金材の表面に存在する各結晶面の結晶方位をそれぞれ測定し、結晶方位マップを作製した。このとき、(100)面の結晶方位からの傾きが10°以内である結晶方位を有する結晶面は、(100)面とみなした。そして、作製した結晶方位マップから、銅合金材の表面の面積に対する表面に存在する(100)面の合計面積の割合を算出することで、銅合金材の(100)面の配向性を評価した。その結果を下記の表1に示す。」

(b)乙第11号証(特開2017-75382号公報)
「【0063】
<試料の作製>
まず、各試料(試料1?13)となるセラミック基板と無酸素銅板とを有するセラミック配線基板(無酸素銅板付きセラミック配線基板)を作製した。」

「【0069】
そして、ロウ材上に、作製した無酸素銅板を配置した後、真空中にて、無酸素銅板を配置したセラミック基板(無酸素銅板とセラミック基板とロウ材との積層体)を850℃の条件下で5分加熱し、ロウ材を介して無酸素銅板とセラミック基板とを貼り合わせて(接合して)セラミック配線基板を作製した。このセラミック配線基板を試料1とした。」

「【0073】
((211)面の配向性の評価)
試料1?13の各試料が備える無酸素銅板について、無酸素銅板の表面(セラミック配線基板においてセラミック基板と対向する側とは反対側の無酸素銅板の面)の(211)面の配向性について評価を行った。具体的には、SEM/EBSD法により、無酸素銅板の表面に存在する各結晶面の結晶方位をそれぞれ測定し、結晶方位マップを作製した。EBSDの測定装置及び解析ソフトは株式会社TSLソリューションズ製のものを用いた。このとき、(211)面の結晶方位からの傾きが15°以内である結晶方位を有する結晶面は、(211)面とみなした。そして、作製した結晶方位マップから、無酸素銅板の表面の面積Aに対する、無酸素銅板の表面に存在する(211)面の合計面積Bの割合((B/A)×100)を算出した。無酸素銅板の表面における(211)面の面積の割合を無酸素銅板の(211)面の配向性として下記の表1に示す。」

(c)乙第12号証(鈴木清一、”EBSP法の基礎原理と活用法(II)”、顕微鏡、2004年、第39巻、第3号、p.180-184)
「3. LSIにおけるCu配線の解析例
・・・
ここでは,Cu配線の結晶粒に注目した解析例を紹介する.Cu配線はSi基板上に形成した絶縁膜にトレンチを形成し,そこにCuメッキによりCuを充填し,余分な部分は研磨により削り落とすというダマシンプロセスにより作成される.図8にはCuメッキを施した状態の表面を観察した方位マップと双晶境界を削除して作成した結晶粒マップを示す.この組織の平均結晶粒径は3,7μmとなっている.」

(d)乙第13号証(特開2016-115821号公報)
「【0078】
冷間加工後の板厚0.2mmのそれぞれの銅板は、外形寸法が40mm×10mmになるように切断した後、銅板A?銅板Eを大気中200℃で1時間熱処理して表面を酸化させた後、同じ種類の2枚の銅板でジルコニア入りアルミナセラミックス板を挟んで、接合熱処理を行った。この接合熱処理は、窒素ガスと乾燥空気の流量を制御できる電気炉で行った。始め酸素分圧を200ppmに調整した窒素ガスを通気させながら1070℃まで昇温し、1時間保定した後、0.5℃/分で1020℃まで降温し、その後炉冷却した。途中、1050℃で乾燥空気を遮断し、100%窒素中で熱処理した。作製した接合体は、酸によるエッチング処理によって、図6のような銅張セラミックス回路基板試料とした。
【0079】
このように銅板A?銅板Eまでの5種類の銅板を接合した銅張セラミックス回路基板は、それぞれ30枚づつ作製し、それぞれのグループ毎に銅板組織、初期接合性、回路形成性、接合信頼性の評価を行った。
銅板の組織の評価は、作製した銅張セラミックス回路基板のそれぞれのグループの中から無作為に4枚づつ取り出して、EBSDを使用して方位解析を行った。銅板板厚方向に板厚の約1/2である約0.1mmまで粗研磨を施した後、コロイダルシリカを使用して鏡面研磨をおこなった。その後、FE-SEMを使用して800μm×1600μmの領域をステップ幅4μmの間隔で結晶方位測定をした。・・・」

(e)乙第14号証(国際公開第2015/033727号)
「[0068](実施例1)
非磁性の金属板としてSUS316L(厚さ100μm)を用い、高圧延金属層として、圧下率96%?99%で圧延され、色差計(日本電色工業株式会社NR-3000)で測定した圧延後の光沢度が42.8である銅箔(厚さ18μm)を用いた。SUS316Lと銅箔を表面活性化接合装置を用いて常温で表面活性化接合し、SUS316Lと銅箔の積層材を形成させた。
・・・
[0070] 積層材の銅箔側表面を研磨により表面粗度Raを20nm以下とした後、積層材に温度250℃にて5分均熱保持の後、850℃にて5分均熱保持の条件にて連続熱処理炉にて熱処理を施して銅箔を2軸結晶配向させた。熱処理後の銅箔表面において後述するEBSDを用いて解析を行ったところ、結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合は4.9%であった。」

「[0076](1)結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合得られた基板をEBSD(日本電子株式会社SEM-840及び株式会社TSLソリューションズ DigiView)及び結晶方位解析ソフト(EDAX社OIM Data Collection及びOIM Analysis)を用いて解析し、1mm^(2)あたりの結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合を求めた。具体的には、「Crystal Orientation」にてOrientationを(001)[100]に設定し、その方向からの傾きの範囲を指定して、それぞれの範囲での面積率を算出した。」

(f)乙第15号証(国際公開第2016/068046号)
「[0073] 以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.超電導線材用基板
(実施例1)
非磁性の金属板としてSUS316L(厚さ100μm)を用い、金属層として、圧下率98.6%で圧延され、色差計(日本電色工業株式会社NR-3000)で測定した圧延後の光沢度が42.8である銅箔(厚さ18μm)を用いた。SUS316Lと銅箔を表面活性化接合装置を用いて常温で表面活性化接合し、SUS316Lと銅箔の積層体を形成させた。
・・・
[0075] 積層体の銅箔側表面をSiCによるバフ研磨及びAl_(2)O_(3)によるバフ研磨により表面粗度Raを25nm以下とした後、積層体を、表面粗度Ra<0.01μmの鏡面ロールを用いて、加圧力600MPaにて3回圧延して、積層体の銅箔側表面の表面粗度Raを15nm以下とした。その後、積層体に、温度300℃にて5分均熱保持の後、875℃にて5分均熱保持の条件にて連続熱処理炉にて熱処理を施して銅箔を2軸結晶配向させた。熱処理後の銅箔表面において後述するEBSDを用いて解析を行ったところ、結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合は5.2%であった。」

「(1)結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合
得られた基板をEBSD(日本電子株式会社SEM-840及び株式会社TSLソリューションズ DigiView)及び結晶方位解析ソフト(EDAX社OIM Data Collection及びOIM Analysis)を用いて解析し、1mm^(2)あたりの結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合を求めた。具体的には、「Crystal Orientation」にてOrientationを(001)[100]に設定し、その方向からの傾きの範囲を指定して、それぞれの範囲での面積率を算出した。」

(g)乙第16号証(特開2016-64542号公報)
「【0016】
本発明の金属積層フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも片側に銅層を形成してなる金属積層フィルムであって、EBSD法に基づく銅層表面の結晶粒径Aと銅層断面の結晶粒径Bとの比であるB/Aが2.0以上であることが好ましい。ここで言うEBSD(Electron Backscatter Diffraction)法とは電子線後方散乱回折法のことである。以下、各要件について説明する。」

「【0027】
(測定方法)
(1)結晶粒径
EBSD(Electron Backscatter Diffraction)法により測定した詳細を下記する。
(i)使用装置:日本電子社製 熱電界放射型走査電子顕微鏡(TFE-SEM)JSM-6500F
TSL社製OIM方位解析装置
DigiViewIVスロースキャンCCDカメラ
OIM Date Collection ver.5.3x
OIM Analysis ver.5.3x
(ii)分析条件:加速電圧15.0kV
照射電流1.0mA
照射傾斜70deg
測定倍率・領域・間隔断面 30000×1×9μm・25nm/step
表面 10000×8×24μm・50nm/step
試料調整:試料を5mm×10mm程度切り出し、試料台に固定して測定した。銅層表面の結晶粒径Aの測定においては、銅層の表面を測定した。銅層断面の結晶粒径Bの測定においては、銅層を厚み方向に切断し、切断した断面を測定した。
結晶粒径分布チャート:結晶粒マップで識別された個々の結晶粒について、その円相当径(同一面積の円の直径)を算出した。結晶粒径の平均値は数式1に示すNumber法で算出した。」

c そこで、上記bの主張を踏まえて、改めて検討する。
(a)上記b(a)?(g)に摘記した乙第10号証?乙第16号証の記載内容を総合すると、セラミック基板上に接合された銅板材のように異種材料からなる板材同士が接合されたサンプルの結晶方位状態や結晶粒径をEBSD法によって測定する際には、引張強度などの機械的特性の測定とは異なり、測定対象となる板材を他方の板材から剥離することなく、接合されたままの状態で測定することが、本件特許についての優先権主張の日当時の技術常識であったと認められる。

(b)そうすると、訂正前の明細書の【0047】に記載されたとおりに「サンプルである各絶縁基板から剥離させた各銅板材」について、「EBSD法を用い」て「圧延集合組織の方位密度解析」することは、上記(a)の技術常識に沿ったものではなく、絶縁基板から銅板材を剥離する操作によって、銅板材自体の結晶組織が影響を受けてしまう可能性があることも考慮すれば、圧延集合組織の方位密度を解析」するために通常採用される操作とはいえない。

(c)むしろ、上記(a)の技術常識を考慮すれば、本件訂正後の「サンプルである各絶縁基板から各銅板材の圧延集合組織の方位密度解析には、EBSD法を用いた。」のように「各銅板材」が「各絶縁基板」から「剥離させた」ものであるとの特定を削除したからといって、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句であるといえ、訂正前後の記載が同一の意味を表示するものであることが客観的に認められるともいえる。

(d)したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項4に係る訂正は、上記(ア)c(d)のとおり、誤記の訂正を目的とするものであって、請求項に記載された事項の解釈に実質的な影響を与えるものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(ウ)新規事項追加の有無について
上記(ア)c(c)で検討したとおり、本件訂正後の「サンプルである各絶縁基板から各銅板材の圧延集合組織の方位密度解析には、EBSD法を用いた。」は、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句であるといえ、訂正前後の記載が同一の意味を表示するものであることが客観的に認められるともいえる。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項4に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

オ 訂正事項5について
(ア)訂正の目的について
a 訂正事項5に係る訂正は、訂正前の明細書の【0048】に記載された「サンプルである各絶縁基板から剥離させた各銅板材の平均結晶粒径は、圧延面におけるEBSD測定にて、結晶粒を200個以上含む測定試料面を測定した。」を「サンプルである各絶縁基板から各銅板材の平均結晶粒径は、圧延面におけるEBSD測定にて、結晶粒を200個以上含む測定試料面を測定した。」に訂正するものであるが、上記エ(ア)c(a)で検討したとおり、セラミック基板上に接合された銅板材のように異種材料からなる板材同士が接合されたサンプルの結晶方位状態や結晶粒径をEBSD法によって測定する際には、引張強度などの機械的特性の測定とは異なり、測定対象となる板材を他方の板材から剥離することなく、接合されたままの状態で測定することが、本件特許についての優先権主張の日当時の技術常識であったと認められることから、本件訂正後の「サンプルである各絶縁基板から各銅板材の平均結晶粒径は、圧延面におけるEBSD測定にて、結晶粒を200個以上含む測定試料面を測定した。」のように「各銅板材」が「各絶縁基板」から「剥離させた」ものであるとの特定を削除したからといって、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句であるといえ、訂正前後の記載が同一の意味を表示するものであることが客観的に認められるともいえる。

b したがって、訂正事項5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項5に係る訂正は、上記(ア)bのとおり、誤記の訂正を目的とするものであって、請求項に記載された事項の解釈に実質的に影響を与えるものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(ウ)新規事項追加の有無について
上記(ア)aで検討したとおり、本件訂正後の「サンプルである各絶縁基板から各銅板材の平均結晶粒径は、圧延面におけるEBSD測定にて、結晶粒を200個以上含む測定試料面を測定した。」は、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句であるといえ、訂正前後の記載が同一の意味を表示するものであることが客観的に認められるともいえる。
したがって、訂正事項5に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項5に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

カ 訂正事項6について
(ア)訂正の目的について
a 訂正事項6に係る訂正は、訂正前の明細書の【0055】の【表2】に「接合工程」の「第1加熱処理」及び「第2加熱処理」における各「昇温速度」の単位として記載された「℃/秒」を、「℃/分」に訂正するものであるが、上記ウ(ア)c(a)で検討したとおり、セラミックス基板と銅板とをろう付けする際の昇温速度としては、数℃/分?100℃/分程度の範囲とすることが、本件特許についての優先権主張の日当時の技術常識であったと認められる。

b そうすると、上記ウ(ア)c(b)で検討したのと同様に、訂正前の【0055】の【表2】に「接合工程」の「第1加熱処理」及び「第2加熱処理」における各「昇温速度」の単位として記載された「℃/秒」には、何らかの誤記があったと言わざるを得ない。

c そして、昇温速度の単位としては、「℃/秒」、「℃/分」、「℃/時」、更には「℃/10分」のようなものも理論的には想定し得るものの、例えば、数十℃/時のような極めて緩やかな昇温速度に制御しつつ、ろう付けを行うことは現実には困難であり、また、格別な理由もなく「℃/10分」のような通常使われない単位を使用することも考えにくいことから、上記aの技術常識も考慮すれば、本件訂正後の「昇温速度」の単位としての「℃/分」は、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句であるといえ、訂正前後の記載が同一の意味を表示するものであることが客観的に認められるともいえる。

d したがって、訂正事項6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項6に係る訂正は、上記(ア)dのとおり、誤記の訂正を目的とするものであって、請求項に記載された事項の解釈に影響を与えるものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(ウ)新規事項追加の有無について
上記(ア)cで検討したとおり、本件訂正後の「昇温速度」の単位としての「℃/分」は、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句であるといえ、訂正前後の記載が同一の意味を表示するものであることが客観的に認められるともいえる。
したがって、訂正事項6に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項6に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(2)一群の請求項及び明細書の訂正に関係する請求項について
ア 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?7について、訂正前の請求項2?7はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1?7は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1?7〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。

イ 明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項2?6は、訂正前の請求項1、7に対応する明細書の記載を訂正するものであり、訂正前の請求項2?6は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているから、訂正事項2?6と関係する請求項は、訂正前の請求項1?7である。
そうすると、本件訂正請求は、訂正事項2?6と関係する請求項の全てを請求の対象としているものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1?6について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
セラミック基板と、該セラミック基板の一方の面に形成された第1の銅板材と、該セラミック基板の他方の面に形成された第2の銅板材とが、接合された絶縁基板であって、
前記第1及び第2の銅板材が、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量が0.1?2.0ppm、銅の含有量が99.96mass%以上である組成を有し、かつ、前記第1及び第2の銅板材の表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満であり、φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満である圧延集合組織を有し、かつ、
前記第1及び第2の銅板材の平均結晶粒径が50μm以上400μm以下であることを特徴とする絶縁基板。
【請求項2】
前記第1及び第2の銅板材の平均結晶粒径が100μmより大きく400μm以下である、請求項1に記載の絶縁基板。
【請求項3】
前記セラミック基板が、窒化アルミニウム、窒化珪素、アルミナ、およびアルミナとジルコニアの化合物の少なくとも1種を主成分とするセラミック材料を用いて形成されている、請求項1または2に記載の絶縁基板。
【請求項4】
前記第1及び第2の銅板材の引張強度が、210MPa以上250MPa以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の絶縁基板。
【請求項5】
前記第1及び第2の銅板材の伸びが、25%以上50%未満である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の絶縁基板。
【請求項6】
前記第1及び第2の銅板材の導電率が95%IACS以上である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の絶縁基板。
【請求項7】
(削除)」

第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する参考資料1?3を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(実施可能要件)
本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が本件特許の請求項1?7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(明確性要件)
本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、本件特許の請求項1?7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
参考資料1:特許第6123410号公報
参考資料2:特開平6-48852号公報
参考資料3:特開2003-55058号公報

第5 令和 2年 6月29日付け取消理由通知において通知した取消理由の概要
当審が、上記第4の各申立理由のうち、申立理由1の一部を採用し、また、職権により追加して、令和 2年 6月29日付け取消理由通知において通知した取消理由は、以下のとおりである。

1 取消理由1(実施可能要件;申立理由1の一部を採用。職権により発見した理由を追加。)
(1)取消理由1-1
本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1?7に係る発明の「第1及び第2の銅板材」の「方位密度」について明確に説明されたものとはいえず、当業者が本件特許の請求項1?7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)取消理由1-2
本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項7に係る発明の「第1加熱処理」及び「第2加熱処理」の昇温速度について、当業者が本件発明の「絶縁基板」を生産できるように記載されたものとはいえず、同様に、本件特許の請求項1?6に係る発明の「絶縁基板」について、当業者がその物を作れるように記載されたものともいえない。
したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許の請求項1?7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

第6 当審の判断
1 取消理由1について
(1)取消理由1-1について
ア 上記第3のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、絶縁基板を構成する第1及び第2の銅板材について、「表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満であり、φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満である圧延集合組織を有」することが特定されている。

イ そして、本件明細書等には、第1及び第2の銅板材の表面の圧延集合組織における方位密度の測定方法について、以下の記載がある。

(ア)「【0020】
[圧延集合組織]
本発明の絶縁基板に用いられる銅板材は、該銅板材の表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数(ODF:crystal orientation distribution function)をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満であり、かつ、φ1=20°? 40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上1 5.0未満である圧延集合組織を有する。オイラー角(φ1、Φ、φ2)は、圧延方向をRD方向、RD方向に対して直交する方向(板幅方向)をTD方向、圧延面(RD面)に対して垂直な方向をND方向としたとき、RD方向を軸とした方位回転がΦ、ND方向を軸とした方位回転がφ1、TD方向を軸とした方位回転がφ2として表される。方位密度は、集合組織における結晶方位の存在比率及び分散状態を定量的に解析する際に用いられるパラメータであり、EBSD及びX線回折を行い、(100)、(110)、(112)等の3種類以上の正極点図の測定データに基づいて、級数展開法による結晶方位分布解析法により算出される。EBSDによる集合組織解析から得られるφ2を所定の角度で固定した結晶方位分布図において、RD面内での方位密度の分布が示される。第1の銅板材が有する圧延集合組織と第2の銅板材が有する圧延集合組織は、同じであってもよく、異なっていてもよいが、製造効率の観点から、これらは同じであることが好ましい。
【0021】
EBSD法とは、Electron BackScatter Diffractionの略であり、走査電子顕微鏡(SEM)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子を利用した結晶方位解析技術である。EBSDによる解析の際、測定面積およびスキャンステップは、試料の結晶粒の大きさに応じて決定すればよい。測定後の結晶粒の解析には、例えば、TSL社製の解析ソフトOIM Analysis(商品名)を用いることができる。EBSDによる結晶粒の解析において得られる情報は、電子線が試料に侵入する数10nmの深さまでの情報を含んでいる。厚さ方向の測定箇所は、試料表面から板厚の1/8倍?1/2倍の位置付近とすることが好ましい。
【0022】
図1は、本発明の絶縁基板に用いられる銅板材の表面の圧延集合組織をEBSDにより測定し、ODFで解析した結果の一例を示す結晶方位分布図である。図1(A)はφ2=20°の結晶方位分布図であり、図1(B)は、φ2=35°の結晶方位分布図である。結晶方位分布図では、結晶方位分布がランダムな状態を方位密度が1であるとし、それに対して何倍の集積となっているかが等高線で表されている。図1において、白い部分は方位密度が高く、黒い部分は方位密度が低いことを示し、それ以外の部分は白に近いほど方位密度が高いことを示す。本発明では、図1(A)において、点線で囲われた領域(φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°)の方位密度の平均値が15未満であり、図1(B)において、点線で囲われた領域(φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°)の方位密度の平均値が15未満である圧延集合組織を有している。図1(A)では、前者の方位密度の平均値が8であり、図1(B)では、後者の方位密度の平均値が4である結晶方位分布図を示している。
【0023】
本発明では、絶縁基板に用いられる銅板材は、EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数において、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満であり、かつ、φ1=20°?40°、Φ=5 5°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満である圧延集合組織を有する。このように、方位密度を適切に制御することにより、上記銅板材は、高温(例えば、700℃以上)での熱処理において結晶粒の成長が抑制され、耐熱特性に優れる効果を発揮する。φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が15.0以上では、結晶方位制御が十分ではないため、高温(例えば、700℃ 以上)での熱処理における結晶粒の成長が抑制できず、耐熱特性に劣ってしまう。そのため、絶縁基板にかかる熱膨張による負荷に対する抵抗力が増大し、絶縁基板の変形、セラミック基板と銅板材との剥離等が生じてしまう場合がある。また、φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が15.0以上の場合も同様、結晶方位制御が十分ではないため、耐熱特性に劣ってしまう。そのため、絶縁基板にかかる熱膨張による負荷に対する抵抗力が増大し、絶縁基板の変形、セラミック基板と銅板材との剥離等が生じてしまう場合がある。尚、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値、φ1=20 °?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値のそれぞれの下限値である0.1は、EBSDによる集合組織解析において解析できる方位密度の最小値として規定している。」

(イ)「【0030】
[絶縁基板の製造方法]
本発明の絶縁基板の製造方法では、焼鈍工程[工程A]、冷間圧延工程[工程B]、接合工程[工程C]を含む。これらの工程における処理が、この順序にて行われることで、第1の銅板材とセラミック基板と第2の銅板材とが接合された本発明の絶縁基板を得ることができる。
【0031】
まず、焼鈍工程[工程A]では、上記の成分組成を有する銅素材から製造した被圧延材、すなわち、第1の銅板材の材料である第1の被圧延材及び第2の銅板材の材料である第2の被圧延材に対し、昇温速度が10℃/秒?50℃/秒、到達温度が250℃?600℃、保持時間が10秒?3600秒、冷却速度が10℃/秒?50℃/秒の条件で焼鈍処理を施す。
・・・
【0032】
冷間圧延工程[工程B]では、焼鈍工程([工程A])後に、第1の銅板材の材料である第1の被圧延材と、第2の銅板材の材料である第2の被圧延材との総加工率が10?65%の冷間圧延を行う。
・・・
【0033】
接合工程[工程C]では、冷間圧延工程([工程B])後に、セラミック基板の一方の面に第1 の銅板材の材料である第1の被圧延材を、セラミック基板の他方の面に第2の銅板材の材料である第2の被圧延材を、例えばAg-Cu-Ti系等のろう材を介してそれぞれ接合し、第1の銅板材と第2の銅板材とがそれぞれ接合された絶縁基板を形成する。接合工程[工程C]は、昇温速度が10℃/分?100℃/分、到達温度が400℃?600℃、保持時間が10秒?300秒の条件で熱処理を施す第1加熱処理と、昇温速度が10℃/分?100℃/分、到達温度が750℃?850℃、保持時間が100秒?7200秒の条件で熱処理を施す第2加熱処理と、で構成されている。接合工程[工程C]において、接合条件が上記規定の範囲外では、得られる銅板材の平均結晶粒径の粗大化または過剰な微細化、結晶方位の不十分な制御を招き、その結果、絶縁基板の耐熱特性が劣る傾向にある。例えば、第1加熱処理および第2加熱処理の昇温速度が速すぎる場合、結晶方位を十分に制御できず、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が著しく高くなる傾向にある。一方、第1加熱処理の到達温度が低すぎる場合、圧延集合組織は規定の範囲内であっても、冷間圧延による歪みが緩和されない。そのため、第2加熱処理において再結晶が歪みによって促進され、結晶粒が粗大化するおそれがある。また、第2加熱処理の到達温度が高すぎる場合、結晶粒成長を抑制しきれず結晶粒が粗大化するおそれがある。一方、第2加熱処理の到達温度が低すぎる場合、銅板材とセラミック基板との界面が活性せず、これらを良好に接合することが困難となる。」

(ウ)「【0046】
<測定方法及び評価方法>
[銅板材の定量分析]
作製した各銅板材の定量分析には、GDMS法を用いた。各実施例および各比較例ではV.G.Scientific社製VG-9000を用いて解析を行った。各銅板材に含まれるAl、B e、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrの含有量(ppm)並びにCuの含有量(mass%)を表1に示す。なお、各銅板材には、不可避的不純物が含まれている場合がある。表1 における空欄部は、該当する金属成分が0ppmであったことを意味する。また、GDMS法による測定値が0.1ppm未満であった場合、金属成分の含有量は0ppmとした。
【0047】
<銅板材の方位密度>
サンプルである各絶縁基板から各銅板材の圧延集合組織の方位密度解析には、EB SD法を用いた。各実施例および各比較例のEBSD測定では、結晶粒を200個以上含む測定試料面を測定した。測定試料面の測定面積およびスキャンステップは、供試材の結晶粒の大きさに応じて決定した。測定後の結晶粒の解析には、TSL社製の解析ソフトOIM Analysis(商品名)を用いた。EBSD法による結晶粒の解析において得られる情報は、電子線が供試材に侵入する数10nmの深さまでの情報を含んでいる。また、板厚方向の測定箇所は、供試材表面から板厚tの1/8倍?1/2倍の位置付近とした。」

(エ)「【表2】



(オ)「【表3】



ウ 上記イ(ア)のとおり、本件明細書等には、絶縁基板を構成する第1及び第2の銅板材の方位密度は、「集合組織における結晶方位の存在比率及び分散状態を定量的に解析する際に用いられるパラメータであり、EBSD及びX線回折を行い、(100)、(110)、(112)等の3種類以上の正極点図の測定データに基づいて、級数展開法による結晶方位分布解析法により算出される」ものと記載されているところ、その具体的な測定対象については、上記イ(ウ)のとおり、段落【0047】に「サンプルである各絶縁基板から各銅板材」に対して、EBSD法を用いて圧延集合組織の方位密度解析を実施することが記載されている。

エ この点について、特許権者は、令和 2年 8月27日提出の意見書の「5 意見の内容(4)指摘1について」において、「訂正後の明細書の段落【0047】の記載からは、銅板材の方位密度は絶縁基板と銅板材とが接合されている状態でEBSD法により測定したことが読み取れる。・・・訂正後の明細書の段落【0047】に記載されている測定方法により得られた方位密度と、本件特許の請求項1に記載されている方位密度は、それぞれ絶縁基板を構成するセラミック基板と接合された状態における方位密度であるため、これらは同一視できるものであるといえる。・・・EBSD測定は試料表面の数10nm程度の情報を解析するため、例えば、本件特許のようにセラミック基板の一方の面に第1の被圧延材、他方の面に第2の銅板材を接合した場合であっても、表面は被測定部(銅板材)が露出しているため、銅板材とセラミック基板とが接合された状態でEBSD測定を行ったとしても、測定結果に影響を及ぼさない。」と主張しているところ、この主張は、上記ウのとおりの、本件明細書等の記載とも整合しており、首肯できるものである。

オ そうすると、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、及び請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2?6の「第1及び第2の銅板材」の「方位密度」について明確に説明されたものといえる。

カ したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、この点で、当業者が本件発明1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

(2)取消理由1-2について
ア 上記第3のとおり、本件訂正によって訂正前の請求項7は削除されたから、取消理由1-2のうち、本件訂正前の請求項7に係る部分は解消したといえる。

イ 次に、本件発明1?6に関して、さらに検討する。
(ア)上記(1)イ(イ)のとおり、本件明細書等の段落【0033】には、接合工程の「第1加熱処理」及び「第2加熱処理」の昇温速度として、それぞれ「10℃/分?100℃/分」、「10℃/分?100℃/分」とすることが記載されているとともに、上記(1)イ(エ)のとおり、【表2】には、実施例1?11の「第1加熱処理」の昇温速度が15℃/分?100℃/分であること、同じく実施例1?11の「第2加熱処理」の昇温速度が15℃/分?50℃/分であることが記載されている。

(イ)ここで、セラミック基板と銅板材とをろう材を用いて接合するときの昇温温度については、参考資料1?3に以下の記載がある。

a 参考資料1(特許第6123410号公報)の記載
(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一面にろう材ペーストを塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で塗布されたろう材ペースト、当該ろう材ペーストに接触するように配置された金属基板およびセラミックス基板を加熱し、その後冷却し、形成されたろう材層を介してセラミックス基板に金属基板を接合する接合工程と、を有し、
前記ろう材ペーストは、金属ろう材粉末、有機バインダーおよび有機溶剤を含み、前記有機バインダーは、大気中で加熱速度を10℃/分とした熱重量分析を行った場合に、初期重量を100%としたとき重量が10%となる温度が前記金属ろう材粉末の融点に対し400?500℃低く、90%から10%までの重量減少率が0.6?4.5%/℃であるセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項2 】
・・・
【請求項3 】
・・・
【請求項4 】
前記接合工程における温度プロファイルは、前記有機バインダーの熱分解温度で温度を一定期間保持する第1の温度保持域と、当該第1の温度保持域の後に前記金属ろう材粉末が溶融する温度で一定期間保持する第2の温度保持域を有し、前記第1の温度保持域に至るまでの加熱速度が30℃/分以下である請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。」

(b)「【0029】
本実施形態に係る回路基板の正断面図を図4(d)に示す。回路基板1は、セラミックス基板11と、セラミックス基板11の上面(一面)に形成された二のろう材層15・15と、平面方向において二のろう材層15・15の間に介在するよう形成された間隙Dと、間隙Dを挟むようにセラミックス基板11の一面側に二のろう材層15・15を介し各々接合された2枚の金属板13・13とを有している。
・・・」

(c)「【0032】
また、上記回路基板1を構成する金属基板である回路板13および放熱板14についても、その材質は特に限定されず、金属ろう材粉末で接合でき且つ融点が金属ろう材粉末よりも高ければ特に制約はない。例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銀、銀合金、ニッケル、ニッケル合金、ニッケルメッキを施したモリブデン、ニッケルメッキを施したタングステン、ニッケルメッキを施した鉄合金等を用いることが可能である。この中でも銅または銅を含む合金を金属基板として用いることが、電気的抵抗及び延伸性、高熱伝導性( 低熱抵抗性) 、マイグレーションが少ない等の点から最も好ましい。・・・以下の実施例では、金属基板である回路板13および放熱板14として、いずれも厚みが0.5mmである無酸素銅基板C1020H材(JIS規格H3100)を使用した。」

(d)「【0044】
ここで、本実施形態の接合工程における温度プロファイルPは、図1に示すように、上記第1 の温度保持域P1に至る昇温域P0が設けられており、その加熱速度は30℃/分以下に設定されている。このように第1の温度保持域P1に至るまでの加熱速度を30℃/分以下に設定することにより、ろう材ペースト、当該ろう材ペーストに接触するように配置された金属基板およびセラミックス基板からなる被接合体1a(図4(c)参照)を充分に予熱し、第1の温度保持域P1に至る間に被接合体1aの温度を均一化することができる。これにより、より効果的にろう材ペースト中の有機バインダーを除去することができる。なお、接合工程を真空雰囲気下で行う場合には、被接合体の加熱は専ら加熱炉からの輻射熱で行われ、雰囲気に存在する気体の対流による被接合体1aの温度の均一化の効果が期待できないため、予熱効果を得るためには加熱温度を10℃/分以下と抑制することが好ましい。・・・」

(e)「【表2】



b 参考資料2(特開平6-48852号公報)の記載
(a)「【0038】次に、図1に示すように、窒化アルミニウム基板1と2枚の銅板2、3とを、それぞれの間に上記活性金属ろう材4を介在させて積層した。この後、上記積層物に対して、1×10^(-4)Torr以下の真空中にて、600℃×30分+850℃×10分(昇温速度:10℃/分、降温:炉冷)の温度プロファイルで熱処理を施し、銅板2、3と窒化アルミニウム基板1とをそれぞれ接合して、目的とするセラミックス-金属接合体5を得た。」

c 参考資料3(特開2003-55058号公報)の記載
(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒化アルミニウム又は窒化珪素を主体とするセラミック体と銅板とを、金属成分として、銀50?89%、銅1?30%、ビスマス0.05?0.7%、チタン、ジルコニウム及びハフニウムから選ばれた少なくとも1種の活性金属10?30%を含んでなるろう材を介して積層し、それを1.0MPa以上の圧力で加圧しながら、酸素濃度100?1000ppmの窒素雰囲気下、昇温速度及び降温速度を5.5℃/分以上にして接合することを特徴とするセラミック体と銅板の接合方法。」

(b)「【表1】



(ウ)上記(イ)a?cの各記載からすると、セラミック基板と銅板材とをろう材を用いて接合するときは、加熱処理の昇温速度を5?30℃/分程度に設定することが本件出願時の技術常識といえる。

(エ)そうすると、本件明細書等に記載された「第1加熱処理」、及び「第2加熱処理」の昇温速度である「10℃/分?100℃/分」、「15℃/分?100℃/分」、及び「15℃/分?50℃/分」は、本件出願時の技術常識といえる昇温速度の範囲内のものである。

(オ)したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、この点で、本件発明1?6の「絶縁基板」について、当業者がその物を作れるように記載されたものといえる。

(カ)よって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、この点で、当業者が本件発明1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、同発明に係る特許が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

2 取消理由としなかった異議申立理由について
(1)申立理由2(明確性要件)
ア 「剥離」について
(ア)申立人は、本件訂正前の明細書の段落【0047】に「<銅板材の方位密度> サンプルである各絶縁基板から剥離させた各銅板材の圧延集合組織の方位密度解析には、EBSD法を用いた。」と記載されているところ、銅の性状に影響を与えずセラミック基板から「剥離」させて上記方位密度を測定したのかが不明であるから、接合後の性状で限定された本件特許の請求項1に記載の銅板材の性状を正確に知ることができず、特許請求の範囲の記載が明確でない旨主張している(特許異議申立書第4頁下から6行?第5頁下から7行)。

(イ)しかしながら、上記第3のとおり、本件発明1は、「セラミック基板と、該セラミック基板の一方の面に形成された第1の銅板材と、該セラミック基板の他方の面に形成された第2の銅板材とが、接合された絶縁基板」において、「前記第1及び第2の銅板材が、・・・前記第1及び第2の銅板材の表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満であり、φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満である圧延集合組織を有」すると特定していることから、本件明細書等の段落【0047】の記載を参照するまでもなく、銅板材が絶縁基板に接合された状態で所定の方位密度である圧延集合組織を有するものであることは、明らかである。

(ウ)したがって、本件発明1及び請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2?6は、この点で明確である。

イ 接合工程([工程C])における加熱処理について
(ア)申立人は、本件訂正前の請求項7の記載では、接合工程中の第1加熱処理と第2加熱処理について前後関係が明示されておらず、接合工程([工程C])における加熱工程をどのように行うのか不明確であるから、訂正前の請求項7の記載は特許法第36条第6項第2号の要件に適合しない旨主張している(特許異議申立書第5頁下から6行?第6頁第8行)。

(イ)しかしながら、本件訂正によって訂正前の請求項7は削除されたから、上記(ア)の主張は既に採用し得ないものとなったし、そもそも、接合工程中の第1加熱処理と第2加熱処理について前後関係が明示されていなければ、順不同の処理であると解すればよいことは、明らかであるから、この点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の要件に適合しないということはない。

ウ 比較例11の昇温速度、及び実施例1の加熱処理の昇温速度について
(ア)申立人は、本件訂正前の明細書の【表2】における「比較例11」の「第1加熱処理」の「昇温速度」である「2000℃/秒」、同じく「比較例11」の「第2加熱処理」の「昇温速度」である「2400℃/秒」、「実施例1」の「第1加熱処理」の「昇温速度」である「50℃/秒」、及び同じく「実施例1」の「第2加熱処理」の「昇温速度」である「50℃/秒」が技術常識からかけ離れているものであるから、技術的に可能であるのかどうか不明であり、訂正前の請求項7の記載は特許法第36条第6項第2号の要件に適合しない旨主張している(特許異議申立書第6頁第9行?第7頁下から9行)。

(イ)しかしながら、本件訂正によって訂正前の請求項7は削除され、また、明細書の【表2】における「第1加熱処理」の「昇温速度」、及び「第2加熱処理」の「昇温速度」の単位は、「℃/分」となったし、そもそも、訂正前の請求項7に係る発明の「接合工程」における「第1加熱処理」及び「第2加熱処理」の「昇温速度」が「10℃/秒?100℃/秒」と特定されていたからといって、発明を不明確とするものではないから、上記(ア)の主張は、いずれも採用し得ない。

(ウ)したがって、この点で、本件特許の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の要件に適合しないということはない。

エ 小括
よって、本件発明1及び請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2?6は、明確であるから、同発明に係る特許が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正によって特許異議の申立てがされた請求項7は削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項7は存在しないものとなったから、請求項7に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
絶縁基板及びその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基板、特にパワーデバイス用の絶縁基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パワーデバイスは高電圧・大電流を使用するため、半導体素子が発する熱による材料特性の劣化が課題となっている。そこで、近年、絶縁性及び放熱性に優れたセラミック基板を銅板に接合した絶縁基板を用いることによって、絶縁・放熱対策が行われてきている。
【0003】
セラミック基板と銅板との接合には、主に、銀系ろう材等を介して接合する接合方法、ろう材を介さずに銅の共晶反応を利用して接合する接合方法等が用いられている。セラミック基板には窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ケイ素等が用いられているが、これらの熱膨張係数は銅板を構成する銅板材の熱膨張係数と異なる。そのため、半導体素子の発熱の際に、熱膨張係数の差によって絶縁基板全体に大きなひずみが生じる傾向がある。また、セラミック基板と銅板材とでは、銅板材の方が高い熱膨張係数を有するため、熱処理を行うと、セラミック基板には引張応力が加わり、銅板には圧縮応力が加わる。これにより、絶縁基板全体に高いひずみが加わり、絶縁基板が熱膨張により変形して寸法変化が生じるだけでなく、セラミック基板と銅板との剥離等が生じやすくなる。そのため、加熱してもできる限り変形しにくい絶縁基板が求められている。
【0004】
また、銅板に用いられる高純度の銅は、接合時の700℃以上の高温では結晶粒が著しく成長し、組織の均質化が困難になり、加えて、伸びや引張強度も低下する。そのため、ボンディング性が低下し、また、ひずみが生じた際に粒界破壊の起点になるといった問題がある。そこで、絶縁基板を構成する高純度の銅を用いた銅板の引張強度、伸びを向上させるとともに結晶粒を適切に微細化することで、熱膨張による変形に伴う負荷に対する抵抗力を増大し、粒界破壊の防止、さらにはボンディング性の向上が期待されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、放熱基板に用いられる純銅板として、純度99.90mass%以上の純銅からなり、X線回析強度の比率を特定した純銅板が開示されている。純銅板を構成する無酸素銅において、100μm以下の結晶粒径、X線回折強度の比率を規定することで、純銅板のエッチング性を向上させている。
【0006】
また、特許文献2には、放熱用電子部品及び大電流用電子部品等に好適な銅合金板として、引張強さが350MPa以上であり、所定位置の結晶方位の集積度を制御した銅合金板が開示されている。所定位置の結晶方位の集積度を制御することで、銅合金板の繰返し曲げ加工性等を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-189817号公報
【特許文献2】特許第5475914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている純銅板は、エッチングによって表面に凹凸が生じにくいため他の部材との密着性が優れているが、高温下での他の部材との接合に関しては全く検討されていない。また、特許文献2に開示されている銅合金板は、耐熱性に関して検討されているが、200℃で30分間の熱処理による耐熱性しか考慮されていない。さらに、特許文献2に開示されている銅合金板は、引張強さが350MPa以上であり、絶縁基板に用いる銅板材として適切な150?330MPaの範囲に対応していない。また、特許文献1、2のいずれにおいても、銅板を絶縁基板に接合した後の不具合については何ら言及されていない。それ故、半導体素子が発熱した際、銅板材とセラミック基板との熱膨張係数の差によって生じる、絶縁基板の変形、セラミック基板と銅板との剥離の問題、これらを700℃以上の高温で接合する際に生じる、結晶粒の成長による組織の不均質化、ボンディング性の低下の問題に対しては、依然として解決されていない。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、耐熱特性に優れ、さらには、結晶粒が良好に微細化された銅板材を備えた絶縁基板及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]セラミック基板と、該セラミック基板の一方の面に形成された第1の銅板材と、該セラミック基板の他方の面に形成された第2の銅板材とが、接合された絶縁基板であって、
前記第1及び第2の銅板材が、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量が0.1?2.0ppm、銅の含有量が99.96mass%以上である組成を有し、かつ、前記第1及び第2の銅板材の表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満であり、φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が1.0以上15.0未満である圧延集合組織を有し、かつ、
前記第1及び第2の銅板材の平均結晶粒径が50μm以上400μm以下である、絶縁基板。
[2]前記第1及び第2の銅板材の平均結晶粒径が100μmより大きく400μm以下である、[1]に記載の絶縁基板。
[3]前記セラミック基板が、窒化アルミニウム、窒化珪素、アルミナ、およびアルミナとジルコニアの化合物からなる群から選択される少なくとも1種を主成分とするセラミック材料を用いて形成されている、[1]または[2]に記載の絶縁基板。
[4]前記第1及び第2の銅板材の引張強度が、210MPa以上250MPa以下である、[1]乃至[3]のいずれかに記載の絶縁基板。
[5]前記第1及び第2の銅板材の伸びが25%以上50%未満である[1]乃至[4]のいずれかに記載の絶縁基板。
[6]前記第1及び第2の銅板材の導電率が95%IACS以上である、[1]乃至[5]のいずれかに記載の絶縁基板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セラミック基板と、該セラミック基板の一方の面に形成された第1の銅板材と、該セラミック基板の他方の面に形成された第2の銅板材とが、接合された絶縁基板において、前記第1及び第2の銅板材が、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量が0.1?2.0ppm、銅の含有量が99.96mass%以上である組成を有し、かつ、前記第1及び第2の銅板材の表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満であり、φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が1.0以上15.0未満である圧延集合組織を有し、かつ、前記第1及び第2の銅板材の平均結晶粒径が50μm以上400μm以下であることにより、耐熱特性に優れた絶縁基板を得ることができる。
【0012】
また、本発明によれば、第1及び第2の銅板材が優れた耐熱特性を示すため、絶縁基板全体の負荷応力が低減し、熱膨張による負荷に対する抵抗力が増大する。これにより、第1及び第2の銅板材とセラミック基板との熱膨張係数の差によって生じる、絶縁基板の変形、さらにはセラミック基板と第1及び第2の銅板材との剥離、すなわちボンディング性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の絶縁基板に用いられる銅板材の表面の圧延集合組織をEBSDにより測定し、ODFで解析した結果の一例を示す結晶方位分布図である。図1(A)はφ2=20°の結晶方位分布図であり、図1(B)は、φ2=35°の結晶方位分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の絶縁基板の詳細及び実施形態例について説明する。なお、以下において、「?」を用いて表される数値範囲は、「?」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
<絶縁基板>
本発明の絶縁基板は、セラミック基板と、該セラミック基板の一方の面に形成された第1の銅板材と、該セラミック基板の他方の面に形成された第2の銅板材とが、接合されている。すなわち、絶縁基板は、第1の銅板材と第2の銅板材との間にセラミック基板が配置され、第1の銅板材と、セラミック基板と、第2の銅板材と、がこの順でそれぞれ圧延接合された積層構造を有している。第1の銅板材とセラミック基板、セラミック基板と第2の銅板材は、相互に接合された層構造であればよい。第1の銅板材とセラミック基板、セラミック基板と第2の銅板材は、例えば、ろう材、接着剤、はんだ等で接合されていてもよく、特にろう材を介して接合されていることが好ましい。また、絶縁基板の厚みは、使用状況に応じて適宜選択可能であり、例えば、0.3mm?10.0mmであることが好ましく、0.8mm?5.0mmであることがより好ましい。なお、特に言及されない限り、便宜上、第1及の銅板材及び第2の銅板材を、以下において単に「銅板材」とも呼ぶことがある。
【0016】
[セラミック基板]
本発明の絶縁基板に用いられるセラミック基板は、高い絶縁性を備えるセラミック材料から形成されていれば、特に限定されるものではない。このようなセラミック基板は、例えば、窒化アルミニウム、窒化珪素、アルミナおよびアルミナとジルコニアの化合物の少なくとも1種を主成分とするセラミック材料を用いて形成されていることが好ましい。セラミック基板の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、0.05mm?2.0mmであることが好ましく、0.2mm?1.0mmであることがより好ましい。
【0017】
[銅板材]
一般に、銅材料とは、(加工前であって所定の組成を有する)銅素材が所定の形状(例えば、板、条、箔、棒、線など)に加工された材料を意味する。その中で、「板材」とは、特定の厚みを有し、形状的に安定しており、かつ面方向に広がりを有する材料を指し、広義には条材を含む意味である。本発明における「銅板材」は、所定の組成を有する銅から形成された当該「板材」を意味する。
【0018】
[銅板材の成分組成]
本発明の絶縁基板に用いられる銅板材は、銅の含有量が99.96mass%以上であり、好ましくは99.99mass%以上である。銅の含有量が99.96mass%未満であると、熱伝導率が低下し、所望する放熱性が得られない。また、上記銅板材は、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量が0.1ppm?2.0ppmである。これらの金属成分の合計含有量の下限値は、特に限定されないが、不可避的不純物を考慮し、0.1ppmとしている。一方、これらの金属成分の合計含有量が2.0ppmを超えると、所望の方位密度が得られない。そのため、絶縁基板にかかる熱膨張による負荷に対する抵抗力の増大効果が得られず、絶縁基板の変形、セラミック基板と銅板材との剥離等が生じてしまう場合がある。また、上記銅板材には、銅、並びに、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分以外に、残部として不可避的不純物が含まれていてもよい。不可避的不純物は、製造工程上、不可避的に含まれうる含有レベルの不純物を意味する。第1の銅板材の成分組成と第2の銅板材の成分組成は、同じであってもよく、異なっていてもよいが、製造効率の観点から、これらは同じであることが好ましい。
【0019】
銅板材の上記金属成分の定量分析には、GDMS法を用いることができる。GDMS法とは、Glow Discharge Mass Spectrometryの略であり、固体試料を陰極としグロー放電を用いて試料表面をスパッタし、放出された中性粒子をプラズマ内のArや電子と衝突させることによってイオン化させ、質量分析器でイオン数を計測することで、金属に含まれる極微量元素の割合を解析する技術である。
【0020】
[圧延集合組織]
本発明の絶縁基板に用いられる銅板材は、該銅板材の表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数(ODF:crystal orientation distribution function)をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満であり、かつ、φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満である圧延集合組織を有する。オイラー角(φ1、Φ、φ2)は、圧延方向をRD方向、RD方向に対して直交する方向(板幅方向)をTD方向、圧延面(RD面)に対して垂直な方向をND方向としたとき、RD方向を軸とした方位回転がΦ、ND方向を軸とした方位回転がφ1、TD方向を軸とした方位回転がφ2として表される。方位密度は、集合組織における結晶方位の存在比率及び分散状態を定量的に解析する際に用いられるパラメータであり、EBSD及びX線回折を行い、(100)、(110)、(112)等の3種類以上の正極点図の測定データに基づいて、級数展開法による結晶方位分布解析法により算出される。EBSDによる集合組織解析から得られるφ2を所定の角度で固定した結晶方位分布図において、RD面内での方位密度の分布が示される。第1の銅板材が有する圧延集合組織と第2の銅板材が有する圧延集合組織は、同じであってもよく、異なっていてもよいが、製造効率の観点から、これらは同じであることが好ましい。
【0021】
EBSD法とは、Electron BackScatter Diffractionの略であり、走査電子顕微鏡(SEM)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子を利用した結晶方位解析技術である。EBSDによる解析の際、測定面積およびスキャンステップは、試料の結晶粒の大きさに応じて決定すればよい。測定後の結晶粒の解析には、例えば、TSL社製の解析ソフトOIM Analysis(商品名)を用いることができる。EBSDによる結晶粒の解析において得られる情報は、電子線が試料に侵入する数10nmの深さまでの情報を含んでいる。厚さ方向の測定箇所は、試料表面から板厚の1/8倍?1/2倍の位置付近とすることが好ましい。
【0022】
図1は、本発明の絶縁基板に用いられる銅板材の表面の圧延集合組織をEBSDにより測定し、ODFで解析した結果の一例を示す結晶方位分布図である。図1(A)はφ2=20°の結晶方位分布図であり、図1(B)は、φ2=35°の結晶方位分布図である。結晶方位分布図では、結晶方位分布がランダムな状態を方位密度が1であるとし、それに対して何倍の集積となっているかが等高線で表されている。図1において、白い部分は方位密度が高く、黒い部分は方位密度が低いことを示し、それ以外の部分は白に近いほど方位密度が高いことを示す。本発明では、図1(A)において、点線で囲われた領域(φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°)の方位密度の平均値が15未満であり、図1(B)において、点線で囲われた領域(φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°)の方位密度の平均値が15未満である圧延集合組織を有している。図1(A)では、前者の方位密度の平均値が8であり、図1(B)では、後者の方位密度の平均値が4である結晶方位分布図を示している。
【0023】
本発明では、絶縁基板に用いられる銅板材は、EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数において、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満であり、かつ、φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満である圧延集合組織を有する。このように、方位密度を適切に制御することにより、上記銅板材は、高温(例えば、700℃以上)での熱処理において結晶粒の成長が抑制され、耐熱特性に優れる効果を発揮する。φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が15.0以上では、結晶方位制御が十分ではないため、高温(例えば、700℃以上)での熱処理における結晶粒の成長が抑制できず、耐熱特性に劣ってしまう。そのため、絶縁基板にかかる熱膨張による負荷に対する抵抗力が増大し、絶縁基板の変形、セラミック基板と銅板材との剥離等が生じてしまう場合がある。また、φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が15.0以上の場合も同様、結晶方位制御が十分ではないため、耐熱特性に劣ってしまう。そのため、絶縁基板にかかる熱膨張による負荷に対する抵抗力が増大し、絶縁基板の変形、セラミック基板と銅板材との剥離等が生じてしまう場合がある。尚、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値、φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値のそれぞれの下限値である0.1は、EBSDによる集合組織解析において解析できる方位密度の最小値として規定している。
【0024】
[平均結晶粒径]
本発明の絶縁基板に用いられる銅板材の平均結晶粒径は50μm以上400μm以下であり、100μmより大きく400μm以下であることが好ましい。平均結晶粒径が50μm未満であると、十分な結晶方位制御ができず、耐熱特性に劣ってしまう。一方、平均結晶粒径が400μmを超えると、十分な引張強度と伸びが得られず、絶縁基板にかかる熱膨張による負荷に対する抵抗力が増大し、絶縁基板の変形、セラミック基板と銅板材との剥離等が生じてしまう場合がある。また、銅板材とセラミック基板との界面において、銅板材の結晶粒界が界面と接する箇所には欠陥(ボイド)が生じやすい。平均結晶粒径が100μm以下である場合、セラミック基板と接触する銅板材の結晶粒界が著しく増加し、接合強度が低下するおそれがある。そのため、平均結晶粒径は100nmより大きいことが好ましい。なお、平均結晶粒径は、銅板材のRD面におけるEBSD解析により測定することができ、例えば、測定範囲における全結晶粒の粒径の平均を平均結晶粒径として定義することができる。また、第1の銅板材が有する平均結晶粒径と第2の銅板材が有する平均結晶粒径は、同じであってもよく、異なっていてもよいが、製造効率の観点から、これらは同じであることが好ましい。
【0025】
[板厚]
第1の銅板材と第2の銅板材の厚さ(板厚)は、特に限定されるものでないが、0.05mm?7.0mmであることが好ましく、0.1mm?4.0mmであることがより好ましい。第1の銅板材の厚さと第2の銅板材の厚さは、同じであってもよく、異なっていてもよいが、接合熱処理、ヒートサイクル試験において、それぞれの銅板材の体積が大きく異なると、熱膨張量の違いによる板反りが起きることがある。そのため、絶縁基板の回路設計に応じて、板厚はそれぞれ適切に組み合わせることが望ましい。
【0026】
[特性]
(引張強度)
銅板材の引張強度は、210MPa以上250MPa以下であることが好ましい。引張強度が210MPa未満であると、近年要求される強度としては十分ではない。一方、引張強度が250MPaを超えると、伸び、加工性が低下する傾向にある。
【0027】
(伸び)
銅板材の伸びは、25%以上50%未満であることが好ましい。伸びが25%未満であると、絶縁基板にかかる熱膨張による負荷応力に対して、絶縁基板の変形、セラミック基板と銅板材との剥離等が生じてしまうおそれがある。一方、伸びが50%を超えると、強度が不十分となる傾向にある。
【0028】
銅板材の導電率は、95%IACS以上であることが好ましい。導電率が95%未満であると、熱伝導率が低下し、その結果、優れた放熱特性が得られない傾向にある。
【0029】
次に、本発明の絶縁基板の製造方法の一例を説明する。
【0030】
[絶縁基板の製造方法]
本発明の絶縁基板の製造方法では、焼鈍工程[工程A]、冷間圧延工程[工程B]、接合工程[工程C]を含む。これらの工程における処理が、この順序にて行われることで、第1の銅板材とセラミック基板と第2の銅板材とが接合された本発明の絶縁基板を得ることができる。
【0031】
まず、焼鈍工程[工程A]では、上記の成分組成を有する銅素材から製造した被圧延材、すなわち、第1の銅板材の材料である第1の被圧延材及び第2の銅板材の材料である第2の被圧延材に対し、昇温速度が10℃/秒?50℃/秒、到達温度が250℃?600℃、保持時間が10秒?3600秒、冷却速度が10℃/秒?50℃/秒の条件で焼鈍処理を施す。焼鈍工程[工程A]において、焼鈍条件が上記規定の範囲外では、得られる銅板材の平均結晶粒径の粗大化、結晶方位の不十分な制御を招き、その結果、絶縁基板の耐熱特性が劣る傾向にある。例えば、到達温度が高すぎる、または昇温速度が遅すぎる場合、結晶方位を十分に制御できず、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が著しく高くなる傾向にある。また、到達温度が低すぎる場合、焼鈍工程において歪みが緩和されないため、その後の冷間圧延と合わせて接合熱処理前の歪みも大きくなる。そのため、圧延集合組織は規定の範囲内であっても再結晶が促され、結晶粒が粗大化するおそれがある。
【0032】
冷間圧延工程[工程B]では、焼鈍工程([工程A])後に、第1の銅板材の材料である第1の被圧延材と、第2の銅板材の材料である第2の被圧延材との総加工率が10?65%の冷間圧延を行う。冷間圧延工程[工程B]において、冷間圧延条件が上記規定の範囲外では、得られる銅板材の平均結晶粒径の粗大化、結晶方位の不十分な制御を招き、絶縁基板の耐熱特性が劣る傾向にある。例えば、総加工率が著しく高い場合、結晶方位を十分に制御できず、φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が著しく高くなる傾向にある。一方、総加工率が低すぎる場合、結晶粒成長を抑制しきれず結晶粒が粗大化するおそれがある。
【0033】
接合工程[工程C]では、冷間圧延工程([工程B])後に、セラミック基板の一方の面に第1の銅板材の材料である第1の被圧延材を、セラミック基板の他方の面に第2の銅板材の材料である第2の被圧延材を、例えばAg-Cu-Ti系等のろう材を介してそれぞれ接合し、第1の銅板材と第2の銅板材とがそれぞれ接合された絶縁基板を形成する。接合工程[工程C]は、昇温速度が10℃/分?100℃/分、到達温度が400℃?600℃、保持時間が10秒?300秒の条件で熱処理を施す第1加熱処理と、昇温速度が10℃/分?100℃/分、到達温度が750℃?850℃、保持時間が100秒?7200秒の条件で熱処理を施す第2加熱処理と、で構成されている。接合工程[工程C]において、接合条件が上記規定の範囲外では、得られる銅板材の平均結晶粒径の粗大化または過剰な微細化、結晶方位の不十分な制御を招き、その結果、絶縁基板の耐熱特性が劣る傾向にある。例えば、第1加熱処理および第2加熱処理の昇温速度が速すぎる場合、結晶方位を十分に制御できず、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が著しく高くなる傾向にある。一方、第1加熱処理の到達温度が低すぎる場合、圧延集合組織は規定の範囲内であっても、冷間圧延による歪みが緩和されない。そのため、第2加熱処理において再結晶が歪みによって促進され、結晶粒が粗大化するおそれがある。また、第2加熱処理の到達温度が高すぎる場合、結晶粒成長を抑制しきれず結晶粒が粗大化するおそれがある。一方、第2加熱処理の到達温度が低すぎる場合、銅板材とセラミック基板との界面が活性せず、これらを良好に接合することが困難となる。
【0034】
[被圧延材の製造方法]
本発明の絶縁基板の製造方法において、焼鈍工程[工程A]で使用する第1の被圧延材及び第2の被圧延材は、上記の成分組成を有する銅素材から製造した被圧延材であれば、特に限定されるものではない。このような被圧延材は、例えば、以下の工程を経て製造することができる。以下に、本発明の絶縁基板の焼鈍工程[工程A]で使用できる被圧延材の製造方法の一例を説明する。
【0035】
本発明の絶縁基板を構成するセラミック基板に接合される前の銅板材、すなわち、第1の銅板材となる第1の被圧延材及び第2の銅板材となる第2の被圧延材(以下、第1の被圧延材と第2の被圧延材を、単に「被圧延材」とも呼ぶ。)の製造方法としては、例えば、溶解・鋳造工程[工程1]、均質化熱処理工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、冷却工程[工程4]、面削工程[工程5]、第1冷間圧延工程[工程6]、第1焼鈍工程[工程7]、第2冷間圧延工程[工程8]、第2焼鈍工程[工程9]、仕上げ圧延工程[工程10]、最終焼鈍工程[工程11]、表面酸化膜除去工程[工程12]から構成される処理が順次行われる。
【0036】
まず、溶解・鋳造工程[工程1]では、銅素材を溶解し、鋳造することによって鋳塊を得る。銅素材は、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量が0.1?2.0ppm、銅の含有量が99.96mass%以上である組成を有する。均質化熱処理工程[工程2]では、得られた鋳塊に対して、保持温度700?1000℃、保持時間10分?20時間の均質化熱処理を行う。熱間圧延工程[工程3]では、総加工率が10?90%となるように熱間圧延を行う。冷却工程[工程4]では、10℃/秒以上の冷却速度で急冷を行う。面削工程[工程5]では、冷却された材料の両面をそれぞれ約1.0mmずつ面削する。これにより、得られた板材表面の酸化膜が除去される。
【0037】
第1冷間圧延工程[工程6]では、総加工率が75%以上となるよう冷間圧延を複数回行う。
【0038】
第1焼鈍工程[工程7]では、昇温速度が1?100℃/秒、到達温度が100?500℃、保持時間が1?900秒、かつ、冷却速度が1?50℃/秒である条件で熱処理を施す。
【0039】
第2冷間圧延工程[工程8]では、総加工率が60?95%となるように冷間圧延を行う。
【0040】
第2焼鈍工程[工程9]では、昇温速度が10?100℃/秒、到達温度が200?550℃、保持時間が10?3600秒、かつ、冷却速度が10?100℃/秒である条件で熱処理を施す。
【0041】
仕上げ圧延工程[工程10]では、総加工率が10?60%となるように冷間圧延を行う。最終焼鈍工程[工程11]では、到達温度が125?400℃である条件で熱処理を施す。表面酸化膜除去工程[工程12]では、得られた板材表面の酸化膜除去と表面洗浄を目的として、酸洗及び研磨を行う。なお、上記圧延工程における加工率R(%)は下記式で定義される。こうして、銅板材の原料となる被圧延材を製造することができる。
【0042】
R=(t_(0)-t)/t_(0)×100
式中、t_(0)は圧延前の板厚であり、tは圧延後の板厚である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1?11及び比較例1?17)
先ず、表1に示されるような所定の成分組成を有する、厚さ1.0mmの被圧延材(供試材)を2つ作製し、それぞれを第1の被圧延材及び第2の被圧延材とした。また、セラミック材料として窒化珪素を用いて形成された厚さ0.5mmのセラミック基板を使用した。
【0045】
次いで、銅板材となる上記で作製した各被圧延材に対し、表2に示す条件で焼鈍処理を施した[工程A]。焼鈍処理後、得られた各被圧延材に対し、表2に示す総加工率(すなわち、第1の被圧延材及び第2の被圧延材全体としての加工率)にて冷間圧延を行った[工程B]。冷間圧延後、得られた各被圧延材について、セラミック基板の一方の面に第1の銅板材に相当する第1の被圧延材を、セラミック基板の他方の面に第2の銅板材に相当する第2の被圧延材を、Ag-Cu-Ti系のろう材を介してそれぞれ接合し、第1の銅板材と第2の銅板材とがそれぞれ接合された絶縁基板を作製した[工程C]。[工程C]では、表2に示す第1加熱処理及び第2の加熱処理の条件で加熱処理を施した。以上の工程を経て、サンプルとなる絶縁基板を作製した。
【0046】
<測定方法及び評価方法>
[銅板材の定量分析]
作製した各銅板材の定量分析には、GDMS法を用いた。各実施例および各比較例ではV.G.Scientific社製 VG-9000を用いて解析を行った。各銅板材に含まれるAl、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrの含有量(ppm)並びにCuの含有量(mass%)を表1に示す。なお、各銅板材には、不可避的不純物が含まれている場合がある。表1における空欄部は、該当する金属成分が0ppmであったことを意味する。また、GDMS法による測定値が0.1ppm未満であった場合、金属成分の含有量は0ppmとした。
【0047】
<銅板材の方位密度>
サンプルである各絶縁基板から各銅板材の圧延集合組織の方位密度解析には、EBSD法を用いた。各実施例および各比較例のEBSD測定では、結晶粒を200個以上含む測定試料面を測定した。測定試料面の測定面積およびスキャンステップは、供試材の結晶粒の大きさに応じて決定した。測定後の結晶粒の解析には、TSL社製の解析ソフトOIM Analysis(商品名)を用いた。EBSD法による結晶粒の解析において得られる情報は、電子線が供試材に侵入する数10nmの深さまでの情報を含んでいる。また、板厚方向の測定箇所は、供試材表面から板厚tの1/8倍?1/2倍の位置付近とした。
【0048】
[銅板材の平均結晶粒径]
サンプルである各絶縁基板から各銅板材の平均結晶粒径は、圧延面におけるEBSD測定にて、結晶粒を200個以上含む測定試料面を測定した。測定結果の解析において、測定範囲中の全結晶粒から、平均結晶粒径を算出した。結晶粒径の解析には、TSL社製の解析ソフトOIM Analysis(商品名)を用いた。EBSDによる結晶粒の解析において得られる情報は、電子線が供試材に侵入する数10nmの深さまでの情報を含んでいる。また、板厚方向の測定箇所は、供試材表面から板厚tの1/8倍?1/2倍の位置付近とした。平均結晶粒径が50μm以上400μm以下の範囲にある場合、結晶粒が良好に微細化されていると評価した。
【0049】
[銅板材の導電率(EC)]
サンプルである各絶縁基板から剥離させた各銅板材の導電率は、シグマテスタ(渦電流を利用したIACS%測定)を用いて測定した。各銅板板材の導電率が95%IACS以上である場合を「良好」、95%IACS未満の場合を「不良」と評価した。
【0050】
[銅板材の引張強度]
サンプルである各絶縁基板から銅板材を剥離させ、切り出した試験片をJIS Z2241に準じて測定し、その平均値を示した。銅板材の引張強度が210MPa以上である場合を「良好」、210MPa未満の場合を「不良」と評価した。
【0051】
[銅板材の伸び]
引張強度を測定する際にJIS Z2241に準じて測定し、その平均値を示した。銅板材の伸びが25%以上である場合を「良好」、25%未満の場合を「不良」と評価した。
【0052】
[絶縁基板の耐熱特性]
各絶縁基板のサンプルを、-40℃?250℃(1サイクル -40℃:30分保持/250℃:30分保持)の条件で1200サイクル処理するヒートサイクル試験を実施した。ヒートサイクル試験後、セラミック基板にクラックが発生したか否かを目視で観察した。クラックが発生していない場合を「○」、クラックが発生している場合を「×」と評価した。
【0053】
表3に、銅板材の方位密度、平均結晶粒径、導電率、引張強度、伸び及び絶縁基板の耐熱特性の結果を示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
表1?表3に示すように、実施例1?11では、絶縁基板の製造条件、絶縁基板を構成する銅板材の成分組成、方位密度および平均結晶粒径が、いずれも適正範囲内であるため、耐熱特性に優れた絶縁基板が得られた。特に、実施例1?5、7?11では、絶縁基板が備える銅板材の導電率、引張強度及び伸びが、いずれも良好であった。尚、表2中には示していないが、実施例5では、平均結晶粒径が100μmよりも小さいため、他の実施例よりも接合強度が低下する傾向が観察された。
【0058】
一方で、比較例1?17では、絶縁基板の製造条件、絶縁基板を構成する銅板材の成分組成の一方または両方が適正範囲外であるため、方位密度、平均結晶粒径の両方または一方が適正範囲外となり、さらには、絶縁基板のヒートサイクル試験で、いずれもクラックの発生が観察された。
【0059】
このように、成分組成、方位密度および平均結晶粒径が厳密に制御された銅板材を用いて形成された本発明の絶縁基板は、優れた耐熱特性を示すため、絶縁基板全体の負荷応力が低減し、熱膨張による負荷に対する抵抗力が増大する。これにより、銅板材とセラミック基板との熱膨張係数の差によって生じる絶縁基板の変形が抑制され、さらにはセラミック基板と銅板材との剥離、すなわちボンディング性の低下を抑制することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基板と、該セラミック基板の一方の面に形成された第1の銅板材と、該セラミック基板の他方の面に形成された第2の銅板材とが、接合された絶縁基板であって、
前記第1及び第2の銅板材が、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量が0.1?2.0ppm、銅の含有量が99.96mass%以上である組成を有し、かつ、前記第1及び第2の銅板材の表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ1=75°?90°、Φ=20°?40°、φ2=35°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満であり、φ1=20°?40°、Φ=55°?75°、φ2=20°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上15.0未満である圧延集合組織を有し、かつ、
前記第1及び第2の銅板材の平均結晶粒径が50μm以上400μm以下であることを特徴とする絶縁基板。
【請求項2】
前記第1及び第2の銅板材の平均結晶粒径が100μmより大きく400μm以下である、請求項1に記載の絶縁基板。
【請求項3】
前記セラミック基板が、窒化アルミニウム、窒化珪素、アルミナ、およびアルミナとジルコニアの化合物の少なくとも1種を主成分とするセラミック材料を用いて形成されている、請求項1または2に記載の絶縁基板。
【請求項4】
前記第1及び第2の銅板材の引張強度が、210MPa以上250MPa以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の絶縁基板。
【請求項5】
前記第1及び第2の銅板材の伸びが、25%以上50%未満である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の絶縁基板。
【請求項6】
前記第1及び第2の銅板材の導電率が95%IACS以上である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の絶縁基板。
【請求項7】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-23 
出願番号 特願2019-531350(P2019-531350)
審決分類 P 1 651・ 852- YAA (C22C)
P 1 651・ 536- YAA (C22C)
P 1 651・ 537- YAA (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 粟野 正明
村川 雄一
登録日 2019-09-06 
登録番号 特許第6582159号(P6582159)
権利者 古河電気工業株式会社
発明の名称 絶縁基板及びその製造方法  
代理人 遠藤 太介  
代理人 遠藤 太介  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 住吉 秀一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 住吉 秀一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 前川 純一  
代理人 上島 類  
代理人 上島 類  
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