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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 D01F 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 D01F |
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管理番号 | 1376750 |
異議申立番号 | 異議2021-700246 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-03-08 |
確定日 | 2021-07-30 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6753231号発明「液晶ポリエステルマルチフィラメント」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6753231号の請求項1ないし3、7ないし11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6753231号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成28年9月7日にした出願であって、令和2年8月24日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月9日に特許掲載公報が発行された。その後、令和3年3月8日に特許異議申立人筒井雅人(以下、「申立人」という。)により、請求項1?3に係る特許及び7?11に係る特許に対する特許異議の申立てがなされた。 第2 本件特許に係る発明 本件特許の請求項1?3、7?11に記載された発明(以下「本件発明1」等という。)は、特許請求の範囲の請求項1?3、7?11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 引掛強度および結節強度がそれぞれ7.0?12.0cN/dtexであることを特徴とする液晶ポリエステルマルチフィラメント。 【請求項2】 強度が15.0cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。 【請求項3】 強度が22.5cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。 ・・・ 【請求項7】 請求項1?5のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントからなる高次加工製品。 【請求項8】 請求項1?5のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントからなるロープまたはスリング。 【請求項9】 請求項1?5のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントからなるネット。 【請求項10】 請求項1?5のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントからなるテンションメンバー。 【請求項11】 請求項1?5のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントを含む繊維強化樹脂組成物。」 第3 申立理由の概要 申立人は、主たる証拠として以下の甲第1号証及び従たる証拠として以下の甲第2?3号証並びに参照資料1?3を提出し、請求項1、2、7、8、10及び11に係る特許は特許法第29条第1項第3号に規定に違反してなされたものであり、請求項1?3に係る特許及び請求項7?11に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、請求項1?3に係る特許及び請求項7?11に係る特許は取り消すべきものである旨を主張している。 甲第1号証:植田啓三,「全芳香族ポリエステル繊維 ベクトラン」,SEN-I GAKKAISHI(繊維と工業),1987年,Vol.43,No.4,19?22ページ 甲第2号証:頼光周平,「ポリアリレート繊維(その特性と用途)」,SEN’I GAKKAISHI(繊維と工業),2010年,Vol.66,No.3,6?10ページ 甲第3号証:特開2013-133576号公報 参考資料1:特開2017-166110号公報 参考資料2:JIS L 1013 参考資料3:近田淳雄(他3名),「単繊維の引掛強度に及ぼす単純引張破断伸度の影響」,繊維機械学会誌,1974年,Vol.27,No.8,70?78ページ 以下、甲第1号証?甲第3号証は、それぞれ「甲1」?「甲3」という。 第4 甲1?甲3に記載された事項 1.甲1に記載された事項 甲1には次の記載がある。 「・・・セラニーズ社はその10年におよぶ広汎な液晶ポリマーの研究の結果,前述の成型用ベクトラポリマーと同系統の,つまりHNA-HBA系の溶融液晶ポリエステルから遂に以下述べる様な画期的な高強力,高モジュラス織維ベクトラン^(12,13))の開発に成功したのである。」(20ページ左欄下から3行?右欄3行) 「べクトランの基本的性質を表1および表2に,耐薬品性を表3に,夫々アラミド繊維との対比において示した(数値はすべてクラレによる測定値)。」(21ページ右欄8?10行) 「 」(21ページ右欄) 以上の記載を総合すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「引張強度(g/d)が23.1、引掛強度(g/d)が21.5、結節強度(g/d)が7.9である1500d/300fの溶融液晶ポリエステルからなるベクトラン(登録商標)。」 2.甲2に記載された事項 甲2には次の記載がある。 「「ベクトラン」の一般物性を表1に示す。」(6ページ右欄下から6行) 「 」(7ページ) 以上の記載から、甲2には「引張切断強度(標準状態)(cN/dtex)が24.2であるベクトラン(登録商標)のヤーン」が記載されている。 3.甲3に記載された事項 甲3には次の記載がある。 「【請求項1】 繊維全体の重量を100重量%としたときに金属石鹸を0.01?1重量%含む液晶ポリエステルで構成されることを特徴とする液晶ポリエステルマルチフィラメント。」 「【0116】 本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、一般産業用資材、土木・建築資材、スポーツ用途、防護衣、ゴム補強資材、電気材料(特に、テンションメンバーとして)、音響材料、一般衣料等の分野で広く用いられ、有効な用途としては、ロープ、ネット、魚網、コンピューターリボン、プリント基板用基布、抄紙用のカンバス、スクリーン紗、フィルター、エアーバッグ、飛行船、ドーム用等の基布、ライダースーツ、釣糸、各種ライン(ヨット、パラグライダー、気球、凧糸)、ブラインドコード、網戸用支持コード、自動車や航空機内各種コード、電気製品やロボットの力伝達コード等が挙げられ、特に有効な用途として工業資材用織物等に用いるモノフィラメントが挙げられ、中でも高強度、高弾性率、太繊度化の要求が強いロープ、魚網、スリングにおいて寄与するところが大きい。」 以上の記載から、甲3には「繊維全体の重量を100重量%としたときに金属石鹸を0.01?1重量%含む液晶ポリエステルで構成されることを特徴とする液晶ポリエステルマルチフィラメントは、有効な用途としては、ロープ、ネット、魚網、コンピューターリボン、プリント基板用基布、抄紙用のカンバス、スクリーン紗、フィルター、エアーバッグ、飛行船、ドーム用等の基布、ライダースーツ、釣糸、各種ライン(ヨット、パラグライダー、気球、凧糸)、ブラインドコード、網戸用支持コード、自動車や航空機内各種コード、電気製品やロボットの力伝達コード等が挙げられ、特に有効な用途として工業資材用織物等に用いるモノフィラメントが挙げられ、中でも高強度、高弾性率、太繊度化の要求が強いロープ、魚網、スリングにおいて寄与するところが大きい」ことが記載されている。 第5 当審の判断 1.本件発明1について (1)本件発明1と甲1発明との対比 糸の技術分野において、記号「f」は一緒になっているフィラメント数を表し、「f」が2以上であればマルチフィラメントであるから、甲1発明の「1500d/300fの溶融液晶ポリエステルからなるベクトラン(登録商標)」は、本件発明1の「液晶ポリエステルマルチフィラメント」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。 [一致点] 「液晶ポリエステルマルチフィラメント」 [相違点] 本件発明1は「引掛強度および結節強度がそれぞれ7.0?12.0cN/dtexである」であるのに対し、甲1発明は「引掛強度(g/d)が21.5、結節強度(g/d)が7.9である」である点。 (2)相違点についての判断 1gfは約0.98cNであり、1dは(10/9)dtexであるから、甲1発明の「引掛強度(g/d)が21.5」は「引掛強度が約18.96cN/dtex」、「結節強度(g/d)が7.9」は「結節強度が約6.96cN/dtex」である。 まず、引掛強度について検討する。 本件発明1の引掛強度は「引掛強力は破断時の応力とし、引掛強力を糸条2本の総繊度で除した値を引掛強度とした」(本件特許の【0096】)ものである。 一方で、「単繊維あるいは糸の結節強度および1本当りに換算した引掛強度は一般に単純引張強度に比較すると低下する」(参考文献3の71ページ左欄2?4行)ことが技術常識であるところ、甲1発明の引張強度と引掛強度は、当該技術常識と整合しているから、甲1発明の引掛強度は「糸1本当たりに換算した引掛強度」である。 そうすると、甲1発明の引掛強度を、本件発明1の引掛強度に対応させると、約9.48cN/dtex(=(約18.96/2)cN/dtex)となるから、本件発明1の引掛強度7.0?12.0cN/dtexの範囲内にある。 次に、結節強度について検討すると、甲1発明の結節強度約6.96cN/dtexは、本件発明1の結節強度7.0?12.0cN/dtexの範囲内にない。 したがって、前記相違点は、実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1発明ではない。 よって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。 そして、本件発明1は、1つの完成された「液晶ポリエステルマルチフィラメント」であるから、結節強度のみを選んで変更できるものではない。 また、甲1発明の結節強度のみを7.0?12.0cN/dtexの範囲内にできることは、甲2及び甲3のいずれにも記載されていない。 そうすると、甲1発明において、相違点に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 申立人は「本件特許発明(請求項1)における「7.0?12.0cN/dtex」は、「7.9?13.6g/d」となる。したがって、甲1に記載されたベクトランが本件特許発明(請求項1)の結節強度を満たすことは明らかである。」(特許異議申立書7ページ3?6行)と主張するが、甲1発明の結節強度の単位の換算については、前述のとおりであるから、かかる主張には理由がない。 したがって、本件発明1は、甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 2.本件発明2、本件発明3及び本件発明7?11について 本件発明2、本件発明3及び本件発明7?11は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに技術的事項を追加したものである。 よって、上記1.に示した理由と同様の理由により、本件発明2、本件発明7?8及び本件発明10?11に係る特許は、甲1発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。 また、本件発明2?3及び本件発明7?11は、甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許及び請求項7?11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?3に係る特許及び請求項7?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-07-20 |
出願番号 | 特願2016-174606(P2016-174606) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(D01F)
P 1 652・ 113- Y (D01F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大▲わき▼ 弘子 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
村山 達也 石井 孝明 |
登録日 | 2020-08-24 |
登録番号 | 特許第6753231号(P6753231) |
権利者 | 東レ株式会社 |
発明の名称 | 液晶ポリエステルマルチフィラメント |